JP3854059B2 - 量子情報処理方法および量子情報処理装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、固体素子を用いた量子情報処理、特に光で動作し、量子ビット(キュービット)の高い拡張性が得られる量子情報処理方法および量子情報処理装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
原子の基底状態と励起状態のような量子力学的な状態を"0"と"1"に対応させ、それらの量子状態|0>、|1>またはそれらの重ね合わせの状態α|0>+β|1>(α、βは複素数)で情報を表し、量子力学的な過程で情報処理を行う新しい情報処理方法が提案されている。この量子情報処理による計算機である量子コンピュータが、Bennioff(P. Benioff, Phys. Rev. Lett. 48, 1581 (1982))、Feynman(R. P. Feynman, Found. Phys. 16, 507 (1986))、Deutsch(Proc. Roy. Soc. London Ser. A 400, 96(1985))らにより提案、定式化され、現在盛んに研究されている。
【0003】
従来の計算機(古典計算機)では情報を担うビットは"0"か"1"のいずれかの値をとるが、量子計算におけるビットは量子状態|0>および|1>だけでなく、その重ね合わせの状態α|0>+β|1>をとる。このようなビットを量子ビットと呼ぶ。量子計算では、複数個(N個)の量子ビットを同時に扱い、全体にゲート動作と呼ばれるユニタリー変換を施すことで演算を行う。N個の量子ビットは2N個の数を同時に表していることになるため、2N個の並列計算が可能になる。したがって、ある問題に対して非常に速い計算が可能になる。
【0004】
このように、量子計算機は古典計算機を質的に凌駕する潜在能力があり、将来の情報処理技術、計算技術として期待されている。しかし、量子計算機の実現は非常に困難であると考えられていた。これは、量子状態の重ね合わせの状態を計算の間に保つこと、およびゲート動作による意図した状態変化以外の変化が起きないようにすることは現実的に困難なためである。また、量子計算には、量子力学的にコヒーレンシーを保ったまま、量子ビット間を結合することが必要であるが、これも困難であった。
【0005】
しかし、これまでに量子計算を実行可能な物理系がいくつか提案されており、最近ではデモンストレーション的な実験も行われている。
【0006】
一つの例は、CiracとZollerが理論的に提案した、イオントラップを利用する方法である(J. I. Cirac and P. Zoller, Phys. Rev. Lett. 74, 4091 (1995))。この方法では、個々のイオンを互いにμmオーダー以上離して極低温の電磁トラップ中に保持し、イオンの電子励起準位と集団振動の準位を利用する。集団振動の準位はすべてのイオンの重心運動が関わる振動励起状態であり、量子ビットである個々のイオンを結合する役割がある。トラップ中の単独のイオンは外界からの余計な相互作用を受けにくく、量子計算の大前提である重ね合わせの状態を長い時間保つことが可能である。ただし、極低温のイオントラップという大掛かりな装置を用いなくてはならず、素子の小型化が困難である。また、量子ビットをそのイオンの位置で区別し、空間的に絞ったレーザー光を特定のイオンを狙い撃ちするように照射する。このように特定のイオンに対して選択的にレーザーを作用させることで、個々の量子ビットを区別した演算操作を行うため、イオンを互いに少なくとも光の波長程度以上に離さなくてはならず、素子の集積度および量子ビットの拡張性に限界がある。
【0007】
もう一つの実験可能な物理系として、分子中の原子の核スピンを量子ビットとして利用した、NMR量子計算機の提案が知られている(N. A. Gershenfeld, I. Chuang, Science 275, 350 (1997))。この方法では、溶液内の分子に磁場を印加して核スピンのエネルギー準位をゼーマン分裂させる。そして、この分裂した準位に共鳴する高周波電磁場を作用させることにより、核スピンの量子状態すなわち量子ビットを操作して計算を実行する。ゼーマン分裂の大きさは原子の種類によって異なり、また同種の原子であっても分子のどこに位置するかによって異なる。このため、高周波電磁場の周波数に応じて、共鳴する核スピンを選択し、単独の量子ビットを操作することができる。このNMR量子計算機では、3ビットまでの計算のデモンストレーションが行われている。しかし、この方法では、それぞれの分子が1個の計算機として働くため、量子ビットを自由に増やせないという問題点があった。
【0008】
以上の2つの例は、量子ゲート動作や簡単な計算アルゴリズムの実行まで実験されている、現在最も進んだ研究例である。しかし、上述のように、実用的な量子計算のためには、量子ビットの拡張性に問題がある。また、これらの例では、トラップ中の単一イオンや、溶液中の分子の核スピンを量子ビットとして利用している。これに対して、取り扱いが容易で、小型化・集積化に有利な固体の量子ビットを用いて、量子計算を実行することが望まれている。
【0009】
固体素子を用いた量子計算を目指した研究として、ジョセフソン接合を利用した量子ビットの実験が知られている(Y. Nakamura, Yu. A. Pashkin, and J. S. Tsai, Nature 398, 786 (1999))。Nakamuraらは、超伝導状態にある微小電極を用いて、電子数が異なる2状態の重ね合わせの状態を作り出すことに成功している。しかし、この場合には、量子ビットの作製や複数の量子ビット間の結合のために、高度な微細加工を必要とする。また、多数の量子ビットをコヒーレントに結合するために有効な方法はわかっていない。
【0010】
さらに、金属原子または分子をフラーレン内部に保持し、フラーレンのπ電子の電子状態を利用した量子ビットを用いて量子計算を実行することが提案されている(福見他、特開平10-254569号公報)。この方法では、フラーレンの炭素数または金属原子もしくは分子の種類に応じて個々のフラーレンをπ電子励起するための光の周波数が異なることを利用して、照射光の波長によって量子ビットとなるフラーレンを選択し、演算操作を行う。この方法では、フラーレン間を有機架橋分子で結合することにより、量子ビット間結合を生じさせる。言い換えれば、NMR計算機における分子の代わりに、フラーレンを原子、有機架橋分子を原子間結合とする人工的な「分子」を利用する。しかし、この方法では、量子ビットの結合に高度な微細加工技術または合成技術を要するため、多数の量子ビットへの拡張は困難であると考えられる。また、許容遷移で結ばれたπ電子準位の励起状態と基底状態の2準位を量子ビットに利用するため、緩和によるデコヒーレンスが大きく、計算に必要な十分な時間にわたって重ね合わせの状態を保つのが困難と予想される。
【0011】
以上のように、トラップ中の単独イオンまたは溶液中の分子のような物理系では、長時間コヒーレンシーを保つことが可能で、簡単なゲート動作などが既に実現している。しかし、これらの物理系は、固体に比べて扱いが難しく、素子として小型化・集積化することが困難であり、量子ビットの拡張性も低い。一方、固体素子では、量子ビットの操作方法や量子ビットを構成する材料のために、デコヒーレンスが速く重ね合わせの状態を保つことが困難であった。また、固体素子では量子ビット間を実空間内で物質を用いて結合する必要があり、非常に高度な微細加工技術が要求され、多数の量子ビット間を結合するのが困難であった。
【0012】
これらの事情により、従来は、量子情報処理用の素子または装置、例えば量子計算機を実現することが困難であった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、困難な微細加工や化学合成、結晶成長プロセスによる配線を必要とせず、十分なデコヒーレンス時間で重ね合わせの状態を保つことができゲート動作中も意図した状態変化以外のデコヒーレンスが少なく、多数の量子ビットを用いた、コンパクトで実用的な量子情報処理方法、および量子情報処理装置を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る量子情報処理方法は、共振器中に配置された多数の物理系であって、各物理系は、3つのエネルギー準位を有し、3つの準位間の3つの遷移のうち2つの遷移が光学的に遷移可能であり、各物理系の量子ビットが残りの光学的に禁制な遷移を構成する2つの準位の状態またはこれらの重ね合わせの状態によって表され、前記光学的に遷移可能な2つの遷移の遷移周波数の一方が互いに異なる複数の物理系が含まれ、かつ前記複数の物理系は共通の共振器モードにより量子力学的に結合されている、多数の物理系を用意し、1つの物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する2種の光を照射して初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作し、他の物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する2種の光を照射して初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作し、前記2つの物理系に、共振器モードに共鳴する遷移以外の光学的に遷移可能な遷移に共鳴する周波数を有する2種の光を、一方の光を高強度から低強度へ変化させるとともに他方の光を低強度から高強度へ変化させながら、同時に照射することにより、前記2つの物理系の量子状態を入れ替えることを特徴とする。
【0015】
本発明の方法では、情報を表す量子ビットとして、光学的に禁制な2準位の重ね合わせの状態を利用するので、緩和に起因するデコヒーレンスを軽減することができる。また、量子ビットの操作に2種のレーザー光を利用し、上準位に励起することなく下2準位の重ね合わせの状態を変化させることが可能なアディアバティック・パッセージ(adiabatic passage)と呼ばれる手法を利用でき、ゲート動作中の上準位からの緩和に起因するデコヒーレンスの影響を抑えることができる。したがって、量子ビットの重ね合わせの状態の保持時間が長くなり、その間に多くの処理ステップ数の演算操作を実行することができる。さらに、共振器モードにより結合された複数の物理系から、光の周波数によって操作すべき量子ビットを選択するため、波長オーダーの空間内に多数の量子ビットを集積させることが可能である。
【0016】
本発明の方法では、多数の物理系として固体中に保持された原子、イオン、分子などを用いることができる。各々の物理系は、周囲の局所場(磁場または電場など)に応じて、光学的に遷移可能な2つの遷移の遷移周波数の一方が異なっている。例えば、多数の物理系として固体中に含まれるイオンを用い、イオンの核スピンに起因する超微細構造分裂によって生じる近接2準位を上記の2つのエネルギー準位として用いることができる。このような固体の物理系は素子化が容易である。
【0017】
本発明の方法では、多数の物理系を、遷移周波数が所定の範囲内に含まれる複数の物理系を1グループとする、複数グループの物理系に分け、各グループに含まれる複数の物理系をまとめて量子状態を変化させてもよい。この場合、複数の物理系で1量子ビットを表すため、大きな読み出し信号を得るとともに、誤りを軽減することが可能である。
【0018】
本発明の方法では、多数の物理系を共振器中に配置し、複数の物理系を共通の共振器モードによって量子力学的に結合する。この場合、固体中での物理系の位置に関係なく量子ビット間を結合することが可能である。したがって、困難な超微細加工技術を用いる必要がなく、配線を形成する必要もない。共振器は多数の物理系が保持されている固体の外部に設けてもよい。また、固体の対向する2つの表面を研磨することにより共振器を構成してもよい。さらに、固体の表面に形成された多層膜コーティングにより共振器を構成することがより好ましい。多層膜コーティングからなる共振器は微小であり、しかも量子ビットの結合効果を強めることができる。なお、本発明においては、球状または円板状の固体を用い、その曲面に多層膜コーティングを施して光を全反射させて固体内部に閉じ込めるようにしてもよい。
【0019】
本発明においては、物理系に、磁場または電場を印加するとともに光を照射し、2つの準位の縮退を解いて分裂させた準位の状態を利用するようにしてもよい。この場合、縮退を解いて分裂させたそれぞれの準位を利用して量子状態を保持することができるので、量子情報処理の自由度を高めることができる。
【0020】
本発明の量子情報処理方法においては、複数の物理系の量子状態の変化を組み合わせることにより計算を実行する。例えば、2量子ビットの制御NOT動作と1量子ビット動作を組み合わせることにより計算を実行できる。
【0021】
1量子ビット動作を行う場合、例えば量子状態を変化させようとする固体中の物理系の光学的に遷移可能な2つの遷移に共鳴する2種の光が選択される。また、1量子ビット動作を行う場合、光学的に遷移可能な2つの遷移のいずれとも非共鳴であり、かつ残りの1つの遷移と2光子共鳴する2種の光を選択することが好ましい。このように残りの1つの遷移と2光子共鳴する2種の光を選択すれば、ゲート動作させようとする物理系以外の物理系が共振器モードと共鳴する準位に存在したとしても、所望の量子ビット以外のそのような物理系、またはそのような物理系からなる量子ビットに影響を与えずに、ゲート動作を実行することができる。
【0022】
本発明においては、量子ビットとして利用しない物理系の影響を抑えるために、制御NOT動作を行う前に、光学的に遷移可能な遷移に共鳴する光を周波数を掃引して照射することにより物理系を特定の状態に変化させる前処理を行ってもよい。この場合、前処理のために照射する光の、周波数を掃引する範囲をΔνBw、|0>-|1>間遷移の中心遷移周波数をν01center、|0>-|1>間遷移の不均一幅をΔν01inhomoとして、ΔνBwをν01centerからΔν01inhomoの1/2を引いた値より小さく設定することが好ましい。
【0023】
また、計算の結果としての物理系の量子状態は、物理系に光を照射し、物理系からの発光を検出することにより読み出すことができる。この場合、光学的に遷移可能な2つの遷移のうち共振器モードと共鳴していない遷移に共鳴する光を、周波数を掃引しながら物理系に照射すれば、量子ビットとして利用しない物理系に影響されずに結果を読み出すことができる。なお、結果読み出しは、物理系に照射した光の透過光強度に基づいて行ってもよい。
【0024】
本発明に係る量子情報処理装置は、多数の物理系であって、各物理系は、3つのエネルギー準位を有し、3つの準位間の3つの遷移のうち2つの遷移が光学的に遷移可能であり、各物理系の量子ビットが残りの光学的に禁制な遷移を構成する2つの準位の状態またはこれらの重ね合わせの状態によって表され、前記光学的に遷移可能な2つの遷移の遷移周波数の一方が互いに異なる複数の物理系が含まれる、多数の物理系と、前記物理系の周囲に設けられ、前記物理系の光学的に遷移可能な2つの遷移のうち一方の遷移に共鳴する共振器モードを有する共振器と、前記物理系のうち 1 つの物理系の初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作するために、その物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する 2 種の光を照射し、前記物理系のうち他の物理系の初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作するために、その物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する 2 種の光を照射し、前記 2 つの物理系の量子状態を入れ替えるために、共振器モードに共鳴する遷移以外の光学的に遷移可能な遷移に共鳴する周波数を有する 2 種の光を、一方の光を高強度から低強度へ変化させるとともに他方の光を低強度から高強度へ変化させながら、同時に照射するように構成された光源および光学系とを有することを特徴とする。
【0025】
本発明の装置は、物理系に磁場を印加して準位の縮退を解くために電磁石を有していてもよい。本発明において、光学系は光源からの光を複数の光学経路に分岐し、各光学経路に光源からの光の周波数を制御する音響光学素子および光パルス列を生成する電気光学素子を設けることが好ましい。このような構成では、複数の光学経路を用い、所望の周波数を有する1つまたは2つ以上の光を物理系に照射することにより、データ入力、演算操作および結果読み出しが行われる。また光源および光学系は、周波数を掃引しながら光を照射するように構成されていることが好ましい。さらに、物理系への光照射による、物理系からの発光を検出する検出器を有することが好ましい。検出器による検出結果は電気信号などに変換して記録することができる。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の量子情報処理方法は以下のような特徴を有する。
(1)量子ビットとして3つのエネルギー準位を有する物理系を用い、光による量子ビットの操作に際して、この3準位系に2波長の光を作用させた場合に誘起されるポピュレーション・トラッピングを利用したアディアバティック・パッセージという手法を利用する。
【0027】
(2)量子ビットとして互いに準位間の遷移周波数が異なる複数の物理系を用い、操作しようとする量子ビットの遷移周波数に共鳴する周波数を有する光により所望の量子ビットを選択的に操作することで、個々の量子ビットを独立に操作することを可能にしている。
【0028】
(3)共振器内に複数の物理系を保持し、それぞれの量子ビットの1つの遷移を共通の共振器モードに結合させ、制御NOT動作などの2量子ビット以上が関与するゲート動作を実現する。
【0029】
また、本発明においては、ゲート動作前に適切な前処理を実施することにより、量子ビットとして利用しない物理系の信号がノイズとして検出されるのを防ぐことができる。
【0030】
以下、本発明をより詳細に説明する。本発明の方法では、遷移周波数が不均一に分布した固体中の物理系をそのまま量子ビットとして有効に利用できる。特に、核スピンのほとんどないY2SiO5結晶中のPr+3は、核スピンの位相緩和時間が長いため、常圧の液体ヘリウムで到達可能な4K程度で、光照射下で数十μsの間、核スピンによる超微細構造分裂で生じた2準位の重ね合わせの状態が保てることが分かっている(K. Ichimura, K. Yamamoto, and N. Gemma, Phys. Rev. A 58, 4116 (1998))。上記の重ね合わせの状態を保持できる時間は、固体では特異的に長い時間である。
【0031】
図1に示すように、本発明で用いる物理系は3つのエネルギー準位を有する。これらの3つのエネルギー準位をエネルギーの低い方から順に|0>、|1>、|e>と表す。ここで、|0>-|e>間の遷移および|1>-|e>間の遷移が光学的に遷移可能、|0>と|1>間の遷移が実質的に光学的に禁制であるとする。このような物理系を1つの量子ビットとし、下2準位のいずれか一方|0>もしくは|1>、またはこれらの重ね合わせの状態で情報を表す。この重ね合わせの状態は次式(1)で表される。
α|0>+β|1> (α、βは復素数) (1)
なお、|0>または|1>の量子状態は、重ね合わせの状態に含まれる特殊な形態と考えることもできる。
【0032】
このような重ね合わせの状態を生成するには、|0>-|e>間遷移の遷移周波数ν0e、|1>-|e>間遷移の遷移周波数ν1eにそれぞれ共鳴する、周波数νAの光Aと周波数νBの光Bを照射する。光と物理系との相互作用の大きさは、ラビ周波数と呼ばれる量νRabiで表される。ラビ周波数νRabiは、遷移双極子モーメントμと光の電場の大きさEに依存し、次式(2)で表される。
【0033】
νRabi=μE/h (hはプランク定数) (2)
光Aと光Bの照射により|0>と|1>とが重なり合い、次式(3)で表される重ね合わせの状態|PT>が生成される。
【0034】
式(3)中のνRabi,0eおよびνRabi,1eは、次式(4)および(5)で表される。
【0035】
νRabi,0e = μ0e・EA/h (4)
νRabi,1e = μ1e・EB/h (5)
ここで、μ0eは|0>-|e>間遷移の遷移双極子モーメント、EAは光Aの電場の大きさ、μ1eは|1>-|e>間遷移の遷移双極子モーメント、EBは光Bの電場の大きさである。
【0036】
式(3)の|PT>はポピュレーション・トラッピング(population trapping)状態、またはダーク・ステート(dark state)と呼ばれる。式(3)に示されるように、2状態が重ね合わされる割合は、ラビ周波数、すなわち光強度で制御できる。
【0037】
式(3)の|PT>は、次式(6)で表される、光Aおよび光Bと物理系との相互作用を表すハミルトニアンの固有状態である。
H = h・νRabi,0e・|e> <0| + h・νRabi,1e・|e> <1| + h.c. (6)
ここで、h.c.はエルミート共役である。
【0038】
この状態では、<0|または<1|から<e|への遷移に共鳴する光が存在するにもかかわらず、<e|への遷移が起こらない。
【0039】
いま、光Aと光Bの強度を変化させながら同時に照射してνRabi,0e<<νRabi,1eからνRabi,1e<< νRabi,0eへとアディアバティック(断熱的)に変化させることを考える。同時に照射するとは、光Aと光Bの照射時間が少なくとも一部重なっていることを意味する。また、「アディアバティック」とは、光Aと光Bの強度変化の間中、常に|PT>が固有状態にあるとみなせることを意味する。
【0040】
すなわち、時間に依存する“固有状態”|PT>(t)を、時間に依存するラビ周波数νRabi,0e(t)およびνRabi,1e(t)を用いて次式(7)で表すと、物理系は光Aおよび光Bの強度EAおよびEBが変化している間も上準位|e>に励起されることはない。
【0041】
図2にこのときの物理系の変化を示す。式(7)から分かるように、始め|PT>(t)=|0>にあった物理系は、変化後は|PT>(t)=|1>に移行する。しかも変化の間も上準位|e>への励起が起こらないため、|e>からの自然放出というランダムな過程によって物理系の状態変化の過程が乱されることがない。断熱条件を維持できる光強度の変化の速さは、光強度に依存する。すなわち、光強度を高くすれば、「アディアバティック」な状態変化を速くすることが可能である。このような方法により、物理系を乱すことなく1つの量子ビットの状態を変化させることができる。この操作により、1量子ビットのゲート動作を実行することができる。
【0042】
次に、複数の物理系を、互いに区別して、個別に1量子ビットとして操作する場合について考える。このような操作は、量子計算を実行するためには必須である。以下においては、複数の量子ビットおよびそれに対応する物理系を、下付きの添え字iを用いて区別する。例えば、結晶中の希土類イオンを量子情報処理または量子計算に利用する場合、結晶中のi番目のイオンの3つのエネルギー準位を|0>i、|1>i、|e>iと表す。また、i番目の物理系の|0>i-|e>i間、|1>i-|e>i間、および|0>i-|1>i間の遷移周波数をそれぞれν0e,i、ν1e,i、ν01,iとする。
【0043】
本発明では、互いに遷移周波数の異なる複数の物理系を用意し、i番目の物理系を選択して量子ゲート動作を実行する。例えば、結晶中の希土類イオンの場合には、イオンの遷移周波数が不均一幅と呼ばれる幅を持って分布していることを利用する。このような複数の物理系が混在する固体に、周波数νAおよびνBを有する2種の光Aおよび光Bを照射する。この場合、遷移周波数がν0e,i=νA、ν1e,i=νBである物理系が光の影響を受け、ポピュレーション・トラッピング状態になり、上記の量子ゲート動作が可能になる。実際には、横軸を遷移周波数ν0e、縦軸を遷移周波数ν1eとする遷移周波数空間内において、(νA、νB)近傍のある範囲内に入る物理系が光の影響を受け、有効に量子ゲート動作を行えるようになる。
【0044】
図3に、ν0e-ν1e平面において、イオンが分布する領域Rを破線で示し、その領域Rの内部で量子ゲート動作が可能になる物理系が存在する範囲を実線で示す。その範囲は、次式(8)で表される、点(νA、νB)を通る直線
ν1e = ν0e + νB - νA (8)
に沿った、楕円形の領域である。この領域は、幅dがおおよそ(νRabi,0e 2+νRab i,1e 2)1/2/21/2で、長さLがおおよそ|0>-|e>間遷移および|1>-|e>間遷移の均一幅である。
【0045】
この領域内に1つの物理系が含まれる場合、1つの物理系の量子状態によって1量子ビットが表される。また、この領域内に複数の物理系が含まれる場合、1グループの物理系全体の量子状態によって1量子ビットが表される。従って、ν0e-ν1e平面上に分布する多数の物理系を、図3に示される領域程度を単位としてグループ分けし、それぞれを量子ビットとして利用するようにすれば、照射する光の周波数によって操作すべき量子ビットを選択できる。
【0046】
これらの量子ビットを利用して、量子情報処理、特に量子計算を行うには、量子ビット同士を量子力学的に結合し、2つの量子ビット間のゲート動作を行う必要がある。本発明では、物理系を光の共振器の中に設置することで、量子ビット間の結合を実現している。以下にその機構を説明する。
【0047】
共振器中の物理系は、共振器モードと相互作用する。まず、1つの物理系と共振器モードとの相互作用を考える。物理系が光学的遷移許容(双極子遷移許容)の準位を有する場合、その遷移双極子モーメントとそれに共鳴する共振器モードとの相互作用ハミルトニアンは、次式(9)で表される。ここでは、共振器モードと相互作用する双極子遷移が<1|-<e|間遷移であることを想定している。
H = h/(2π)・g・c+|1> <e| + h/(2π)・g・c|e> <1| (9)
式(9)において、c+およびcはそれぞれ共振器モードの生成および消滅演算子である。また、gは次式(10)で表される、共振器モードと物理系との結合定数である。
g = -(2π)(μ・e・Ec)/h (10)
ここで、μは遷移双極子モーメントベクトル、eは共振器モードの偏光ベクトルである。Ecは着目している共振器モードの真空場の振幅であり、次式(11)で表される。
Ec = (h・νcavity/(2ε0・V))1/2 (11)
ここで、νcavityは共振器モードの周波数、ε0は真空の誘電率、Vは共振器の体積である。
【0048】
次に、図4を参照して、共振器中に2つの物理系が含まれる場合を考える。2つの物理系におけるそれぞれ2つの遷移のうち、それぞれ一方ずつν1e,1、ν1e,2が、共通の共振器モードνcavityと共鳴することを想定する。これらの物理系に対し、残りの遷移、すなわちν0e,1、ν0e,2にそれぞれ共鳴する光1、光2を照射する。
【0049】
この時のハミルトニアンは次式(12)で表される。
【0050】
【数1】
【0051】
ここで、|0>-|e>間遷移および|1>-|e>間遷移の双極子モーメントに関して、個々の物理系の間での違いを無視できるとすると、νRabi,iは次式(13)で表される。
νRabi,i = μ0e・Ei /h (13)
ここで、μ0eは|0>-|e>間遷移の遷移双極子モーメント、Eiは光iの電場の大きさである。
【0052】
この場合にも、単一の量子ビットに2種の光を作用させた場合と同様に、式(12)の固有状態として、上準位|e>iへ励起されない“ポピュレーション・トラッピング状態”が存在する。そのうちの2つの固有状態が次式(14)および(15)で表されることが知られている。
ここで、N1は規格化定数である。また、3番目のケット(| >)はフォトンの数が良い量子数である共振器モードの量子状態を表す。
【0053】
この“ポピュレーション・トラッピング状態”を利用して、2量子ビットゲート動作である制御NOT動作を行うことが可能である。制御NOT動作とは、たとえば制御ビットの状態が"0"ならば標的ビットはそのままで、制御ビットの状態が"1"ならば標的ビットを反転させる動作をいう。左側に制御ビット、右に標的ビットを並べて動作を表すと、制御NOT動作は次のように表される。
|0>|0> → |0>|0>
|0>|1> → |0>|1>
|1>|0> → |1>|1>
|1>|1> → |1>|0>
制御NOT動作の一つの方法として、Pellizzariらの方法(T. Pellizzari, S. A. Gardiner, J. I. Cirac, and P. Zoller, Phys. Rev. Lett. 75, 3788 (1995))を利用することができる。この方法は、イオントラップ中に並べた単一イオンの列を共振器モードに結合させ、空間的に絞ったレーザー光を照射して個々のイオンを識別して操作し、量子計算法を実行する。以下、この方法を適用してどのように制御NOT動作を行うか説明する。
【0054】
Pellizzariらの方法では、|0>、|1>および|e>として縮退した準位を用いる。以下の説明においても、|0>は|0>と|0'>、|1>は|1>と|1'>、|e>は|e>と|e'>が縮退した準位であると仮定する。実際の物理系においては、例えば結晶中の希土類イオンの超微細構造分裂で生じている準位のそれぞれが縮退していることを利用する。
【0055】
2つの量子ビットに照射する光の強度を制御して、単一量子ビットのアディアバティック・パッセージの場合と同様に、ラビ周波数の条件をνRabi,1<<νRabi,2からνRabi,2<<νRabi,1へ変化させることを考える。この場合、式(15)で表される“ポピュレーション・トラッピング状態”は、次式(16)および(17)のように変化する。この操作は物理系1と物理系2の状態を入れ替える作用がある。
上記の方法は、共振器の共通モードに結合した多数の物理系を考え、その中のk番目とl番目に注目し、ν0e,k、ν0e,lに共鳴するレーザー光を選択的に作用させ、νRabi,k<<νRabi,lからνRabi,l<<νRabi,kへ条件を変化させる場合にも適用できる。すなわち、k番目とl番目の物理系の間で、次式(18)および(19)で表される入れ替え操作が可能になる。
上記のようにk番目とl番目の量子ビット間で制御NOT動作を行うために、それぞれの量子ビットを担う物理系において、論理"0"と論理"1"を表現する量子状態を定義し直す。すなわち、新たに"0"と"1"を表す量子状態|0(new)>k、|1(new)>k、|0(new)>l、|1(new)>lをそれぞれ次式(20)〜(23)で定義する。
|0(new)>k = |0>k (20)
|1(new)>k = |1>k (21)
|0(new)>l = |1>l (22)
|1(new)>l = |1'>l (23)
その結果、ν0e,k、ν0e,lのレーザーを照射し、νRabi,k<<νRabi,lからνRabi,l<<νRabi,kへ条件を変化させると、|0(new)>k|0(new)>l、|0(new)>k|1(new)>l、|1(new)>k|0(new)>l、|1(new)>k|1(new)>lの4つの量子状態は、次式(24)〜(27)に示す変換を受ける。
|0(new)>k|0(new)>l = |0>k|1>l → |1>k|0>l (24)
|0(new)>k|1(new)>l = |0>k|1'>l → |1>k|0'>l (25)
|1(new)>k|0(new)>l = |1>k|1>l → |1>k|1>l (26)
|1(new)>k|1(new)>l = |1>k|1'>l → |1>k|1'>l (27)
次に、外場(磁場または電場)を印加しながら光を照射することにより、次式(28)および(29)のように、l番目の物理系の|1>lと|1'>lとを入れ替える。
|1>l → |1'>l (28)
|1'>l → |1>l (29)
最後に、2種の光の強度を制御して、最初と逆に、νRabi,l<<νRabi,kからνRabi,k<<νRabi,lへと変化させ、k番目とl番目の物理系の状態を入れ替える。
【0056】
これらの一連の操作は、次式(24')〜(27')のようにまとめられる。
以上のように、照射する2種の光の強度を制御することにより、k番目の量子ビットを制御ビット、l番目の量子ビットを標的ビットとする制御NOT動作が可能になる。
【0057】
上記の制御NOT動作と1量子ビットゲート動作を組み合わせることにより、計算を含む量子情報処理を行うことができるようになる。
【0058】
以上説明したように、本発明によれば、特別な配線や加工を必要とすることなく、レーザー波長を選択することにより量子ビットを選び、1量子ビットおよび2量子ビットのゲート動作を施すことで、量子情報処理を行うことができる。
【0059】
次に、本発明の量子情報処理をより良好に実行するための方法について説明する。
いま、|0>-|e>間遷移を共振器モードに共鳴させる場合について考える。この場合、νcavityを共通の共振器モードの周波数とすると、
ν0e,i = νcavity
となる物理系を量子ビットとして利用できる。図5に共振器モードに共鳴する物理系Qiを示す。
【0060】
そして、式(7)を満たし、量子ビットとして利用する物理系のうちk番目の量子ビットに1量子ビットゲート動作を行うことを考える。上述した方法では、νA=ν0e,q,kとνB=ν1e,q,kの周波数の光を照射することにより、αk|0>q,k+βk|1>q,kであった量子ビットを、αk'|0>q,k+βk'|1>q,kに変化させている。
【0061】
しかし、上記の方法では、k番目の量子ビットQkに1量子ビットゲート動作 one-qubit gate operation をさせようとして照射した光が、他の量子ビットQiにも共鳴して変化を誘起するおそれがある。この様子を図6に示す。νAがν0e,q,kと共鳴するということは、同時に他の量子ビットの|0>-|e>間遷移にも共鳴することを意味する。したがって、例えばl番目(l≠k)の量子ビットQlが|0>q,lである場合、この量子ビットも照射光の影響を受け、|1>q,lに変化する可能性がある。
【0062】
本発明においては、この問題を解決するために、これまで説明したのと別の周波数を持つ2種の光Aおよび光Bを照射する。この様子を図7に示す。これらの光Aおよび光Bの周波数νAおよびνBは、|0>-|e>間遷移の遷移周波数ν0e,q,kおよび|1>-|e>間遷移の遷移周波数ν1e,q,kには共鳴せず、これらの遷移周波数とはその遷移の均一幅Δνhomo以上離れており、|0>-|1>間遷移の遷移周波数ν01,q,kに2光子共鳴する。すなわち、これらの関係は以下のように表される。
【0063】
νA ≦ ν0e,q,k - Δνhomo、νA ≧ ν0e,q,k + Δνhomo
νB ≦ ν1e,q,k - Δνhomo、νB ≧ ν1e,q,k + Δνhomo
νA - νB = ν01,q,k
このような2つの光Aおよび光Bを照射することにより、1量子ビット動作の際に、所望の量子ビットQk以外の量子ビットQiに影響が及ぶのを抑えることができる。また、上記のように1光子では非共鳴で、2光子で共鳴する光照射によっても、アディアバティック・パッセージが可能であることが知られている(N. V. Vitanov and S. Stenholm, Optics. Comm., 135, 394(1997))。
【0064】
したがって、ν0e,q,iとνA、ν1e,q,iとνBとの間に離調がある場合でも、所望の量子ビットだけ1量子ビットゲート動作を実行することができる。たとえば、k番目の量子ビットに、Δν=νA-ν0e,i=νB-ν1e,iだけ離調した光Aおよび光Bを照射する場合を考える。この場合、離調があるにもかかわらず、2光子共鳴で結ばれた|0>q,k、|1>q,kの重ね合わせの状態(ポピュレーション・トラッピング状態)を実現できる。このとき、重ね合わせの状態の係数αおよびβを光Aおよび光Bの強度で制御することができる。さらに、光Aおよび光Bをパルス光として、その照射タイミングを調整し、強度比を時間的に変化させると、離調のない場合と同様に、アディアバティック・パッセージの手法で量子ビットを変化させることができる。
【0065】
本発明においては、所望のk番目の量子ビットとだけ2光子共鳴の関係にあり、均一幅以上の適切な離調を設定した光Aおよび光Bを照射する。この場合、光Aおよび光Bは、他の量子ビットと2光子共鳴せず、しかも他の量子ビットと1光子共鳴もしない。したがって、光Aおよび光Bによる他の量子ビットへの影響を無視できるくらいに減少させることができる。
【0066】
ただし、離調Δνをある値以上に増加させると、もはやアディアバティックな状態変化を起こすことができなくなる。この場合、光Aおよび光Bを照射した後には、1量子ビットゲート動作を実行できなくなる。アディアバティックとみなせる変化を生じさせる上限の離調Δνmaxは、2つのパルス光間の遅延を固定した場合、パルス光の強度とパルスの時間幅により、以下のように決定される(N. V. Vitanov and S. Stenholm, Optics. Comm., 135, 394(1997))。
【0067】
Δνmax = C1 × ΔT × ν0 2 (28)
ここで、C1はパルスの形状などで決まる定数、ΔTはパルス幅、ν0はパルス光強度である。パルス光強度ν0は以下のように定義される。いま、光Aおよび光Bのパルスをそれぞれ時間に依存したラビ周波数で以下のように表す。
【0068】
【数2】
【0069】
ここで、2τは2パルスの遅延時間、fはパルスの形を表す滑らかな関数である。fは以下のような値を取る。
【0070】
【数3】
【0071】
そして、パルス光強度ν0はνAcおよびνBcを用いて以下のように表される。
【0072】
【数4】
【0073】
したがって、パルスの時間幅ΔTを長くするか、またはパルス光強度ν0を強くすることによって、アディアバティックな変化の条件を満たすようにすれば、離調が大きくても1量子ビットゲート動作を実行することができる。
【0074】
量子計算においては、ゲート動作の時間が短いほど、系のコヒーレンシーが失われる前に多くのステップの演算を実行できるので都合がよい。離調のある場合でも、パルス光強度を増せば、短時間でのゲート動作が可能になる。
【0075】
ところが、ゲート動作時間を短くするために光強度を高くすると、1光子共鳴に対する離調を設けても、高強度の光による1光子共鳴の影響を無視できなくなる可能性がある。これに対して、離調、パルス幅およびパルス強度を適切に設定すれば、2光子共鳴による1量子ビットゲート動作だけを有効に行い、1光子共鳴を無視できる。このことを以下に説明する。
【0076】
光吸収を担う個々の原子の吸収スペクトル(誘導遷移係数の周波数分布)gL(ν)は、次式で表されるローレンツ型を示すことが知られている。
【0077】
【数5】
【0078】
ここで、C2は定数、νcはスペクトルの中心周波数、Δνhomoは1光子遷移の均一幅である。
【0079】
νAc=Bc=ν0のときに、離調Δν、強度ν0、パルス幅ΔTの光によって、原子が1光子遷移を起こす確率を考える。この確率は、離調が1光子遷移の均一幅より大きい場合には、次式(35)で表される。
【0080】
【数6】
【0081】
一方、2光子共鳴により、原子が例えば状態|0>から|1>へ移る確率を1のオーダーにするには、離調Δνに対して次式(36)の関係を満たすパルス幅ΔTとパルス光強度ν0が必要である。ここで、C5は定数である。
Δν = C5 × ΔT × ν0 2 (36)
したがって、2光子共鳴に対する1光子遷移の影響をなくすには、次式(35')に示すように、式(35)の右辺が1より非常に小さく、かつ式(37)を満たす、Δν、ΔTおよびν0を設定すればよい。
【0082】
【数7】
【0083】
すなわち、ある離調Δνを設定した場合、式(37)を満たすΔTおよびν0を設定すればよい。この条件は、ΔTを小さくしても、ν0を高くすることにより満足することができる。
【0084】
以上のように、本発明の方法により、操作したい量子ビットのみで1量子ビットゲート動作を実行することができ、しかも他の量子ビットへの1光子共鳴の影響を無視できる程度に抑えることができる。
【0085】
Pellizzariは、演算を行わない場合、量子情報を共振器モードと共鳴しない方の縮退した準位に蓄えておき、個々のゲート操作をする際に、共振器モードに共鳴する準位に量子情報を移し、そのゲート操作が終わると元に戻すという方法を提案している。この方法では、ゲート動作を量子ビットごとに順次行っていく場合には、ゲート動作を行っている量子ビット以外の量子ビットが影響を受けることはない。しかし、ある量子ビットの操作途中で他の量子ビットを操作したり、2つの量子ビットを同時に操作する並列的な操作ができない。本発明の方法では、そのような場合でも、上記のように所望の量子ビット以外の量子ビットへ操作の影響が及ぶことを防ぐことができる。
【0086】
次に、本発明の方法により、量子ビットとして利用しない物理系による影響を抑えることが可能であることを示す。
【0087】
本発明の方法は、特に|0>-|1>間遷移の中心遷移周波数が、|0>-|e>間および|1>-|e>間の許容遷移の不均一幅より小さい場合に有効である。図8に、このような場合の、遷移周波数平面における物理系の分布と照射光の周波数との関係を示す。ここでは、|0>-|e>間遷移が共振器モードと共鳴しているとする。そして、k番目およびl番目の量子ビットの|1>-|e>間遷移周波数ν1e,q,kおよびν1e,q,lに共鳴する2つの周波数の光を照射し、2量子ビットゲート動作を実行する場合を考える。このとき、図8において斜線を施した、均一幅の領域Aの物理系が入射光と共鳴するため、動作させようとする量子ビットに作用する光の強度制御を困難にする。また、演算の最後に、周波数ν1e,q,iの光をiの値を変えながら順次照射して、蛍光の有無により各量子ビットの状態を読み取る際にも、領域Aの物理系が励起された後に蛍光を発するため、量子ビット状態を正しく読み取ることを妨げる。
【0088】
本発明の方法においては、演算を始める前に、図8における領域Aの物理系の状態を変化させ、量子ビットゲート動作および演算後の読み取りへの影響を回避することができる。このことを、図9に示す遷移周波数平面上の物理系の分布と照射光周波数との関係を参照して説明する。図9においても、図8と同様に、|0>-|e>間遷移が共振器モードと共鳴しているとする。
【0089】
この方法では、演算を始める前に、|1>-|e>間遷移に共鳴する光を、ある周波数の範囲で照射する。図9に示したように、周波数νB(i)からνB(f)の範囲で掃引しながら光を照射すると、図9において斜線を施した領域Bの物理系の状態を|0>にすることができる。この領域Bに、図8に示した領域Aが含まれるようにする。その後、量子ビットとして利用する物理系のみを、1量子ビットゲート動作で所望の初期状態に変化させ、一連のゲート動作を施す。最後に、ν1e,q,iに共鳴する光を照射し、量子状態を読み取る。
【0090】
図9に示すように、領域B内の物理系の|1>-|e>間遷移に共鳴する光は、領域B'で示した領域の物理系の|0>-|e>間遷移にも共鳴する。したがって、周波数νB(i)からνB(f)の範囲で掃引しながら光を照射すると、領域B内にある物理系の状態は|0>に揃い、領域B'内にある物理系の状態は|1>に揃う。上述したように、2量子ビットゲート動作または結果読み出しのために、量子ビットの|1>-|e>間遷移に共鳴する光を照射する。しかし、領域B内にある物理系の状態は|0>に揃っているため、|1>-|e>間遷移に共鳴する光を吸収しない。また、領域B'内にある物理系も光を吸収しない。したがって、量子ビットとして利用しない物理系が、2量子ビットゲート動作または結果読み出しを妨げることはない。
【0091】
ただし、量子ビットとして利用しない物理系の影響を除くために上記の前処理を行う場合、演算前に掃引する光の周波数範囲に注意する必要がある。このことを図10を参照して説明する。
【0092】
光照射しながら掃引する周波数の範囲νB(i)からνB(f)が、|0>-|1>間の遷移周波数を超えると、図10の領域Cに存在する物理系が、最初|1>の状態に変化した後、|0>の状態に戻る。この結果、演算動作中に、所望の量子ビットを操作するために照射した光を吸収する可能性がある。
【0093】
このような領域Cが生じないようにするためには、周波数を掃引する幅ΔνBw=νB(i)-νB(f)が以下の条件を満たしていればよい。
【0094】
【数8】
【0095】
ここで、ν01centerは|0>-|1>間遷移の中心遷移角周波数、Δν01inhomoはエネルギー平面内において物理系が分布する帯状領域の|0>-|1>間遷移の不均一幅(ν0e軸方向の幅)である。
【0096】
このような関係を満たすように照射光の周波数を掃引すれば、演算中に量子ビットとして利用しない物理系が光を吸収することはなく、量子ビットのゲート動作や結果読み出しの妨げとならないようにすることができる。
【0097】
【実施例】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を説明する。
(実施例1)
図11を参照して、以下の実施例において用いた量子情報処理装置について説明する。クライオスタット10内部は冷凍機(図示せず)から供給される液体ヘリウムにより冷却される。クライオスタット10内には共振器13が配置され、この共振器13内に試料11が配置される。なお、共振器はクライオスタット10の外部に設けてもよい。また、後述するように、試料11の2つの面に多層膜コーティングを施して共振器を形成してもよい。試料11には、2つの電磁石(コイル)12から磁場が印加される。コイル12は、クライオスタット10外部のパルス高周波磁場の駆動装置15および静磁場印加用の電源16に接続されている。アルゴンイオンレーザー励起のリング色素レーザー20からの光は、光学部材により複数の光学経路に分岐される。それぞれの光学経路には音響光学効果素子21と電気光学効果素子22とが設けられている。各光学経路において、レーザー光は音響光学効果素子21によって所定の量子ビットの遷移周波数に共鳴するように波長が制御され、電気光学効果素子22によって光パルス列に変換される。上記のような複数の光学経路を用い、1つまたは2つ以上の光パルス列がクライオスタット10内の試料11に照射される。クライオスタット10の外部には、試料11からの発光または試料11に照射されたレーザー光の透過光を検出するための光検出器14が配置されている。
【0098】
この装置では、入力データ、ゲート動作のプログラム、または読み出し操作のプログラムに応じて発生される電気信号により電気光学効果素子22を制御する。必要に応じて、電気信号により静磁場印加用の電源16および駆動装置15を制御し、コイル12から試料に静磁場および振動磁場を印加する。この場合、試料11への磁場の印加に同期して、試料11に光パルス列が照射される。また、適切なタイミングで、光検出器14により試料11からの発光が検出される。
【0099】
図11の装置を用い、1量子ビット動作を実行する場合について説明する。試料としてPr3+イオンを0.05%分散させた2mm×2mm×2mmのY2SiO5結晶(Y2SiO5のY3+のうち0.05%をPr3+に置換したもの)を用意する。この例では、結晶中のPr3+において、核スピンに起因する超微細構造分裂によって生じる、最低のシュタルク準位3H4(1)に属する近接した下2準位|a>および|b>を利用する。この試料をクライオスタット中に保持し、温度を1.4Kに保った。リング色素レーザーからのレーザー光Aの周波数を、結晶中のPr3+の最低の3H4(1)準位と電子励起状態である1D2(1)準位との間の遷移に共鳴する605.98nm(16502.3cm-1)近辺のνAに合わせた。また、レーザー光Aを音響光学素子に通すことにより周波数νB=νA-17.3MHzのレーザー光Bを発生させるようにした。
【0100】
まず、レーザー光Aを50mW/cm2、レーザー光Bを5W/cm2の強度で試料に0.1秒以上照射し、その直後にレーザー光Aを単独で5mW/cm2の強度で1μs照射して、発光強度を測定した。次に、再びレーザー光Aを50mW/cm2、レーザー光Bを5W/cm2の強度で試料に0.1秒以上照射し、その直後に今度はレーザー光Bを単独で5mW/cm2の強度で1μs照射し、発光強度を測定した。その結果、発光強度の最初の測定値と2回目の測定値の比は約3:1であった。これは、レーザー光Aおよびレーザー光Bに同時に共鳴する領域のイオンの一部が、3H4(1)の下2準位|a>と|b>からなる重ね合わせの状態になっているためである。この重ね合わせの状態は、レーザー光Aおよびレーザー光Bによるラビ周波数νRabi,AおよびνRabi,Bを用いて下記のように表される。
【0101】
(νRabi,A 2 + νRabi,B 2)-1/2・νRabi,B・|a> -
(νRabi,A 2 + νRabi,B 2)-1/2・νRabi,A・|b>
また、重ね合わせの状態にないイオンの大部分は、重ね合わせに関係しない超微細構造準位に移っていると考えられる。
【0102】
(実施例2)
この例では、制御NOT動作について説明する。
試料11としてPr3+イオンを0.05%分散させた2mm×2mm×2mmのY2SiO5結晶を用意した。図11に示すように、この試料11をクライオスタット10中の共振器13内に保持し、温度を1.4Kに保った。まず、リング色素レーザー20の波長を、試料11中のPr3+の最低のシュタルク準位3H4(1)と電子励起状態である1D2(1)の間の遷移に共鳴する605.98nm(16502.3cm-1)近辺に合わせた。このレーザー光を試料11に照射し、光検出器14によって試料11から発光される蛍光励起スペクトルを測定した。比較のために、共振器を設けずに、上記と同じ波長のレーザー光を試料11に照射し、光検出器14によって試料11から発光される蛍光励起スペクトルを測定した。その結果、図12に示すように、スペクトル中に約100kHzの周波数領域にわたって、共振器がある場合には、共振器のない場合と比較して蛍光強度のへこみが観測された。これは、共振器モードと照射レーザー光により、吸収に関与するイオンの一部にポピュレーション・トラッピングが起こり、励起されるイオン数が減少したためであると考えられる。
【0103】
以下、k番目の量子ビットQkを制御ビット、l番目の量子ビットQlを標的ビットとして制御NOT動作を実行する場合について説明する。図13を参照して、以下の操作で利用する状態を説明する。k番目の量子ビットQkの超微細構造の下2準位を|a>kおよび|b>k、上準位を|e>kと呼ぶ。|b>kと|a>kとの周波数の差は17.3MHzである。試料に静磁場を印加することにより、上記下2準位の縮退を解いて分裂した状態をそれぞれ|a+>k、|a->k、|b+>k、|b->kと呼ぶ。|a+>kと|a->kとの周波数の差は5MHzである。後述するように、|a+>k=|0>k、|a->k=|1>kとする。同様に、l番目の量子ビットQlの超微細構造の下2準位を|a>lおよび|b>l、上準位を|e>lと呼ぶ。|e>lは|e>kよりも100kHzだけエネルギーが高い。k番目の量子ビットと同様に、下2準位の縮退を解いて分離した状態をそれぞれ|a+>l=|0>l、|a->l=|1>l、|b+>l、|b->lと呼ぶ。また、|b>k-|e>k間遷移および|b>l-|e>l間遷移は共通の共振器モードで結ばれている。
【0104】
(i)初期状態を|0>k|0>lに設定して制御NOT動作を行う場合を説明する。
以下のようにしてk番目の量子ビットQkに入力操作を行い、初期状態を設定する。周波数を波数16502.3cm-1付近のνkに固定したレーザー光kと、それより周波数が17.3MHzだけ低いレーザー光k'(νk'=νk-17.3MHz)を用い、レーザー光k'の強度(5W/cm2)がレーザー光kの強度(50mW/cm2)の100倍になるように設定して試料に照射し、状態を|a>kへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、さらにνk(1)=νk-2.5MHzとνk(2)=νk+2.5MHzの2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、状態を|a+>kへ移す。この状態を|0>kと呼ぶ。また、|a->kを|1>kと呼ぶ。その後、磁場の印加を停止する。
【0105】
以下のようにしてl番目の量子ビットQlに入力操作を行い、初期状態を設定する。νkより100kHzだけ高い周波数νl=νk+100kHzのレーザー光lと、νl'(νl'=νl-17.3MHz)のレーザー光l'を試料に照射して、状態を|a>lへ状態を移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、さらにνl(1)=νl-2.5MHzとνl(2)=νl+2.5MHzの2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、状態を|a+>lへ移す。この状態を|0>lと呼ぶ。また、|a->lを|1>lと呼ぶ。その後、磁場の印加を停止する。
【0106】
以上のようにして、初期状態|0>k|0>lを準備する。
(i-1)試料に静磁場を印加しながら、図14に示す3組の光を、強度を調整して試料に順次照射して3回のアディアバティック・パッセージを行う。この図に示すように、2種の光として、νk(3)とνk(4)の組、νl(3)とνl(4)の組、およびνl(5)とνl(6)の組を用いて、それぞれの操作を行う。これらの操作は、|a+>k=|0>kから|b->kへ状態を移し、|a->l=|1>lから|b+>lへ状態を移し、|a+>l=|0>lから|b->lへ状態を移すものである。すなわち、各量子ビットにおいて、共振器モードに共鳴しない準位から共振器モードに共鳴する準位へ状態を移す操作を行う。上記のように初期状態が|0>k|0>lである場合、量子ビットQkでは|a+>k=|0>kから|b->kへ状態が移り、量子ビットQlでは|a+>l=|0>lから|b->lへ状態が移るが、|a->l=|1>lから|b+>lへの状態の移動は起きない。
【0107】
(i-2)図13に示すレーザー光kおよびレーザー光lを試料に同時に照射してアディアバティック・パッセージを行い、量子ビットQkと量子ビットQlとの間で状態を入れ替える。レーザー光kの強度をIk、レーザー光lの強度をIlとする。図16に示すように、初期にIk<<Ilに設定し、約1μsでIl<<Ikとなるように変化させて、レーザー光lとレーザー光kを試料に照射する。この操作により、|a>k|b>l→|b>k|a>lという状態の変化を生じさせる。
【0108】
(i-3)静磁場と振動磁場を印加するとともに、図15に示すνl(7)およびνl(8)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射する。この操作により、量子ビットQlにおいて|a->lと|a+>lとの間で状態を入れ替える。
【0109】
(i-4)再びレーザー光lとレーザー光kを用い、(i-2)とは逆に、初期にIl<<Ikに設定し、約1μsでIk<<Ilとなるように変化させて試料に照射し、量子ビットQlと量子ビットQkとの状態を入れ替える。この操作により、|b>k|a>l→|a>k|b>lという状態の変化を生じさせる。
【0110】
(i-5)試料に静磁場を印加しながら、図14に示した3組の光を、強度を調整して試料に順次照射して3回のアディアバティック・パッセ-ジを行う。これらの操作は、|b->kから|a+>k=|0>kへ状態を移し、|b->lから|a+>l=|0>lへ状態を移し、|b+>lから|a->l=|1>lへ状態を移すものである。すなわち、(i-1)の操作とは逆に、各量子ビットにおいて、共振器モードに共鳴する準位から共振器モードに共鳴しない準位へ状態を戻す操作を行う。上記(i-4)の場合、量子ビットQkでは|b->kから|a+>k=|0>kへ状態が移り、量子ビットQlでは|b->lから|a+>l=|0>lへ状態が移るが、|b+>lから|a->l=|1>lへの状態の移動は起きない。
【0111】
(i-6)試料に静磁場を印加して縮退を5MHzだけ解き、νl-2.5MHzの光を照射して発光強度を測定し、l番目の量子ビットQlが静磁場により縮退の解けた準位のどちらに存在するかを調べると、|0>lの状態にあることがわかる。また、k番目の量子ビットQkの状態を調べると、初期状態と同じ|0>kの状態にあることがわかる。
【0112】
(ii)初期状態を|0>k|1>lに設定して制御NOT動作を行う場合を説明する。
周波数νkのレーザー光kと周波数νk'のレーザー光k'を、強度を調整して試料に照射し、量子ビットQkの状態を|a>kへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、νk(1)とνk(2)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQkの状態を|a+>k=|0>kへ移す。その後、磁場の印加を停止する。周波数νlのレーザー光lと周波数νl'のレーザー光l'を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQlの状態を|a>lへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、さらにνl(1)とνl(2)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQlの状態を|a->l=|1>lへ移す。その後、磁場の印加を停止する。こうして、初期状態|0>k|1>lを準備する。
【0113】
(ii-1)試料に静磁場を印加しながら、図14に示す3組の光を、強度を調整して試料に順次照射して3回のアディアバティック・パッセージを行う。上記のように初期状態が|0>k|1>lである場合、量子ビットQkでは|a+>k=|0>kから|b->kへ状態が移り、量子ビットQlでは|a->l=|1>lから|b+>lへ状態が移るが、|a+>l=|0>lから|b->lへの状態の移動は起きない。
【0114】
(ii-2)レーザー光kとレーザー光lを、図16に示すように強度を変化させながら試料に同時に照射してアディアバティック・パッセージを行い、量子ビットQkと量子ビットQlとの間で状態を入れ替える操作を行う。
【0115】
(ii-3)静磁場と振動磁場を印加するとともに、図15に示すνl(7)およびνl(8)のレーザー光を照射することにより、量子ビットQlにおいて|a->lと|a+>lとの間で状態を入れ替える操作を行う。
【0116】
(ii-4)再びレーザー光lとレーザー光kを用い、(ii-2)とは逆に、初期にIl<<Ikに設定し、約1μsでIk<<Ilとなるように変化させて試料に照射し、量子ビットQlと量子ビットQkとの状態を入れ替える操作を行う。
【0117】
(ii-5)試料に静磁場を印加しながら、図14に示した3組の光を、強度を調整して試料に順次照射して3回のアディアバティック・パッセ-ジを行う。上記(ii-4)の場合、量子ビットQkでは|b->kから|a+>k=|0>kへ状態が移り、量子ビットQlでは|b+>lから|a->l=|1>lへ状態が移るが、|b->lから|a+>l=|0>lへの状態の移動は起きない。
【0118】
(ii-6)試料に静磁場を印加して縮退を5MHzだけ解き、νl-2.5MHzの光を照射して発光強度を測定し、l番目の量子ビットQlが、静磁場により縮退の解けた準位のどちらに存在するかを調べる。その結果、|1>lの状態にあることがわかる。また、k番目の量子ビットQkの状態を調べると、初期状態と同じ|0>kの状態にあることがわかる。
【0119】
(iii)初期状態を|1>k|0>lに設定して制御NOT動作を行う場合を説明する。
周波数νkのレーザー光kと周波数νk'のレーザー光k'を、強度を調整して試料に照射し、量子ビットQkの状態を|a>kへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、νk(1)とνk(2)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQkの状態を|a->k=|1>kへ移す。その後、磁場の印加を停止する。周波数νlのレーザー光lと周波数νl'のレーザー光l'を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQlの状態を|a>lへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、さらにνl(1)とνl(2)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQlの状態を|a+>l=|0>lへ移す。その後、磁場の印加を停止する。こうして、初期状態|1>k|0>lを準備する。
【0120】
(iii-1)試料に磁場を印加しながら、試料に図14に示す3組の光を、強度を調整して順次照射して3回のアディアバティック・パッセージを行う。上記のように初期状態が|1>k|0>lである場合、量子ビットQkでは|a+>k=|0>kから|b->kへの状態の移動は起こらず、量子ビットQlでは|a+>l=|0>lから|b->lへ状態が移るが、|a->l=|1>lから|b+>lへの状態の移動は起きない。
【0121】
(iii-2)レーザー光kとレーザー光lを、図16に示すように強度を変化させながら同時に照射してアディアバティック・パッセージを行い、量子ビットQkと量子ビットQlとの間で状態を入れ替え、|a>k|b>l→|b>k|a>lという変化を起こす。
【0122】
(iii-3)静磁場と振動磁場を印加するとともに、図15に示すνl(7)およびνl(8)のレーザー光を照射することにより、量子ビットQlにおいて|a->lと|a+>lとの間で状態を入れ替える操作を行う。
【0123】
(iii-4)再びレーザー光lとレーザー光kを用い、(iii-2)とは逆に、初期にIl<<Ikに設定し、約1μsでIk<<Ilとなるように変化させて試料に照射し、量子ビットQlと量子ビットQkとの状態を入れ替え、|b>k|a>l→|a>k|b>lという変化を起こす。
【0124】
(iii-5)試料に静磁場を印加しながら、図14に示した3組の光を、強度を調整して試料に順次照射して3回のアディアバティック・パッセ-ジを行う。上記(iii-4)の場合、量子ビットQkでは|b->kから|a+>k=|0>kへの状態の移動は起こらず、量子ビットQlでは|b+>lから|a->l=|1>lへ状態が移るが、|b->lから|a+>l=|0>lへの状態の移動は起きない。
【0125】
(iii-6)試料に静磁場を印加して縮退を5MHzだけ解き、νl-2.5MHzの光を照射して発光強度を測定し、l番目の量子ビットQlが、静磁場により縮退の解けた準位のどちらに存在するかを調べる。その結果、|1>lの状態にあることがわかる。また、k番目の量子ビットQkの状態を調べると、初期状態と同じ|1>kの状態にあることがわかる。
【0126】
(iv)初期状態を|1>k|1>lに設定して制御NOT動作を行う場合を説明する。
周波数νkのレーザー光kと周波数νk'のレーザー光k'を、強度を調整して試料に照射し、量子ビットQkの状態を|a>kへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、νk(1)とνk(2)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQkの状態を|a->k=|1>kへ移す。その後、磁場の印加を停止する。周波数νlのレーザー光lと周波数νl'のレーザー光l'を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQlの状態を|a>lへ移す。試料に静磁場を印加し、超微細構造準位の各準位の縮退を解いて5MHzだけ分裂させ、さらにνl(1)とνl(2)の2つのレーザー光を、強度を調整して試料に照射することにより、量子ビットQlの状態を|a->l=|1>lへ移す。その後、磁場の印加を停止する。こうして、初期状態|1>k|1>lを準備する。
【0127】
(iv-1)試料に静磁場を印加しながら、試料に図14に示す3組の光を、強度を調整して順次照射して3回のアディアバティック・パッセージを行う。上記のように初期状態が|1>k|1>lである場合、量子ビットQkでは|a+>k=|0>kから|b->kへの状態の移動は起こらず、量子ビットQlでは|a->l=|1>lから|b+>lへ状態が移るが、|a+>l=|0>lから|b->lへの状態の移動は起きない。
【0128】
(iv-2)レーザー光kとレーザー光lを、図16に示すように強度を変化させながら同時に照射してアディアバティック・パッセージを行い、量子ビットQkと量子ビットQlとの間で状態を入れ替え、|a>k|b>l→|b>k|a>lという状態の変化を起こす。
【0129】
(iv-3)静磁場と振動磁場を印加するとともに、図15に示すνl(7)およびνl(8)のレーザー光を照射することにより、量子ビットQlにおいて|a->lと|a+>lとの間で状態を入れ替える操作を行う。
【0130】
(iv-4)再びレーザー光lとレーザー光kを用い、(iv-2)とは逆に、初期にIl<<Ikに設定し、約1μsでIk<<Ilとなるように変化させて試料に照射し、量子ビットQlと量子ビットQkとの状態を入れ替え、|b>k|a>l→|a>k|b>lという状態の変化を起こす。
【0131】
(iv-5)試料に静磁場を印加しながら、図14に示した3組の光を、強度を調整して試料に順次照射して3回のアディアバティック・パッセ-ジを行う。上記(iv-4)の場合、量子ビットQkでは|b->kから|a+>k=|0>kへの状態の移動は起こらず、量子ビットQlでは|b->lから|a+>l=|0>lへ状態が移るが、|b+>lから|a->l=|1>lへの状態の移動は起きない。
【0132】
(iv-6)試料に静磁場を印加して縮退を5MHzだけ解き、νl-2.5MHzの光を照射して発光強度を測定し、l番目の量子ビットQlが、静磁場により縮退の解けた準位のどちらに存在するかを調べる。その結果、|0>lの状態にあることがわかる。また、k番目の量子ビットQkの状態を調べると、初期状態と同じ|1>kの状態にあることがわかる。
【0133】
以上のようにして、初期状態が|0>k|0>lでは終状態が|0>k|0>l、初期状態が|0>k|1>lでは終状態が|0>k|1>l、初期状態が|1>k|0>lでは終状態が|1>k|1>l、初期状態が|1>k|1>lでは終状態が|1>k|0>lとなり、制御NOT動作を実現することができる。
【0134】
また、上記と同様な操作により、3個以上の多数の量子ビットを用いた量子計算を実行することもできる。
【0135】
(実施例3)
Pr3+を含むY2SiO5結晶を2mm×22mm×0.5mmの薄い板状に加工し、その両面に誘電体からなる多層膜コーティングを施して共振器を形成した。多層膜コーティングはνA(605.98nm近辺)を中心とした挟帯域で高反射率を実現するように形成されている。クライオスタットの外側の共振器13を取り除き、実施例2と同様にレーザー光を試料に照射し、試料から発光される蛍光励起スペクトルを測定した。その結果、スペクトル中に約100kHzの周波数領域にわたって、共振器のある場合には、共振器のない場合と比較して蛍光強度のへこみが観測された。この場合、蛍光強度の減少量は、実施例2のように別個の共振器を設けた場合の数十倍であった。これは共振器の体積が減少して、共振器モードとの結合定数が増大したためであると考えられる。この場合も、実施例2と同様の制御NOT動作を実行することができる。
【0136】
(実施例4)
試料としてPr3+イオンを0.02%分散させた2mm×2mm×2mmのY2SiO5結晶を用意した。この試料をクライオスタット内に保持し、温度を1.4Kに保った。このクライオスタットの外部に共振器を設けた。また、クライオスタット外部に、レーザー光の照射により試料から発光される蛍光を検出する検出器を設けた。
【0137】
本実施例では、以下のような遷移周波数を持つ5つの量子ビットを想定し、1番目の量子ビットと3番目の量子ビットについてゲート動作を実行する。
(ν0e,q,1 = ν0e,q,3 , ν1e,q,1 = ν1e,q,3 + 40kHz)
(ν0e,q,2 = ν0e,q,3 , ν1e,q,2 = ν1e,q,3 + 20kHz)
(ν0e,q,3 , ν1e,q,3)
(ν0e,q,4 = ν0e,q,3 , ν1e,q,4 = ν1e,q,3 - 20kHz)
(ν0e,q,5 = ν0e,q,3 , ν1e,q,5 = ν1e,q,3 - 40kHz)。
【0138】
リング色素レーザーのレーザー光Aの周波数を、試料中のPr3+の最低のシュタルク準位3H4(1)と電子励起状態である1D2(1)の間の遷移に共鳴する605.98nm(16502.3cm-1)近辺のν0e,q,3に合わせた。この周波数ν0e,q,3は、共振器モードと共鳴する。また、このレーザー光を音響光学素子に通すことにより、周波数ν1e,q,3=ν0e,q,3-17.3MHzのレーザー光Bを発生させるようにした。
【0139】
本実施例で用いられる光源には、前処理のために、所定の範囲で周波数を掃引しながらレーザー光Bを照射する機構が設けられている。周波数の掃引範囲は、本実施例において量子ビット|0>および|1>を表すPr3+イオンの超微細構造の下2準位の分裂の大きさ17.3MHzから、その2準位間の不均一幅70kHzの半分を引いた値(17.3MHz-70kHz/2)より大きくならないように設定されている。レーザー光Bを、周波数をν1e,q,3-1MHzからν1e,q,3+1MHzまで掃引しながら試料に照射して前処理を行った。
【0140】
次に、|0>-|e>間遷移および|1>-|e>間遷移のいずれにも1光子共鳴せず、|0>-|1>間遷移に2光子共鳴する2種の光を用いて以下のような操作を行った。図17に、ゲート動作が実行される量子ビット、他の量子ビット、照射光の周波数、共振器モードの関係を示す。この図では、上から順に上記の1番目から5番目までの量子ビットを示している。
【0141】
まず、レーザー光Aを周波数ν0e,q,1+100kHz、強度50mW/cm2、レーザー光Bを周波数ν1e,q,1+100kHz、強度5W/cm2に設定し、試料に0.1秒以上照射して、1番目の量子ビットの状態を|0>へ移した。次に、レーザー光Aを周波数ν0e,q,3+100kHz、強度5W/cm2、レーザー光Bを周波数ν1e,q,3+100kHz、強度50mW/cm2に設定して試料に0.1秒以上照射して、3番目の量子ビットの状態を|1>へ移した。
【0142】
その後、レーザー光Bを周波数ν1e,q,1に設定して試料に照射し、試料からの発光を観察した。また、レーザー光Bを周波数ν1e,q,3に設定して試料に照射し、試料からの発光を観察した。その結果、周波数ν1e,q,3の光を照射した場合の発光強度は、ν1e,q,1の光を照射した場合の発光強度の4倍であった。このことから、1番目の量子ビットが約90%の振幅確率で状態|0>にあり、3番目の量子ビットが約90%の振幅確率で状態|1>にあると予想される。
【0143】
他の量子ビットを操作した場合にも、上記と同様な結果が得られた。すなわち、光学的に遷移可能な遷移に1光子共鳴しない2種の光を用いて、2光子共鳴によってゲート操作を行うことにより、ゲート操作の対象としていない量子ビットへの照射光の影響を小さく抑えることができる。また、レーザー光Bによる前処理を行うことにより、前処理を行わない場合に比べて、高い精度で量子ビットを読み出すことができる。
【0144】
(実施例5)
実施例4と同様に、試料としてPr3+イオンを0.02%分散させた2mm×2mm×2mmのY2SiO5結晶を用意し、この試料をクライオスタット中に保持し、温度を1.4Kに保った。このクライオスタットの外部に共振器を設けた。また、クライオスタット外部に、レーザー光Bを照射したときの試料からの発光を検出する検出器を設けた。
【0145】
本実施例においても、ゲート動作を実行しようとする量子ビットとして、実施例4と同じ5つの量子ビットを考える(これらの量子ビットの遷移周波数は実施例4に記載している)。リング色素レーザーのレーザー光Aの周波数を結晶中のPr3+の最低のシュタルク準位3H4(1)と電子励起状態である1D2(1)の間の遷移に共鳴する605.98nm(16502.3cm-1)近辺のν0e,q,3に周波数を合わせた。また、このレーザー光を音響光学素子に通すことにより周波数ν1e,q,3=ν0e,q,3-17.3MHzのレーザー光Bを発生させるようにした。
【0146】
実施例4と同様に、光源には、初期化のために、周波数を掃引しながらレーザー光Bを照射する機構が設けられている。周波数の掃引範囲は、量子ビット|0>および|1>を表すPr3+イオンの超微細構造分裂17.3MHzから、その2準位間の不均一幅70kHzの半分を引いた値(17.3MHz-70kHz/2)より大きくならないように設定されている。レーザー光Bを、その周波数をν1e,q,3-1MHzからν1e,q,3+1MHzまで掃引しながら試料に照射して前処理を行った。
【0147】
次に、実施例2と同様の方法によりゲート操作を行った。実施例2におけるk番目の量子ビットに施したのと同様の操作を本実施例の1番目の量子ビットに、実施例2におけるl番目の量子ビットに施したのと同様の操作を本実施例の3番目の量子ビットに施した。
【0148】
その結果、1番目の量子ビットを|0>1に設定した場合、3番目の量子ビットを|0>3に設定すると最終的に3番目の量子ビットは|0>3になり、3番目の量子ビットを|1>3に設定すると最終的に3番目の量子ビットは|1>3になることがわかった。また、1番目の量子ビットを|1>1に設定した場合、3番目の量子ビットを|0>3に設定すると最終的に3番目の量子ビットは|1>3になり、3番目の量子ビットを|1>3に設定すると最終的に3番目の量子ビットは|0>3になることがわかった。
【0149】
また、いずれの場合でも、周波数ν1e,q,1のレーザー光B1に作用するイオン(1番目の量子ビット)の状態を調べたところ、初期状態と終状態とで変化は認められなかった。
【0150】
以上のように、初期状態が|0>1|0>3では終状態が|0>1|0>3、初期状態が|0>1|1>3では終状態が|0>1|1>3、初期状態が|1>1|0>3では終状態が|1>1|1>3、初期状態が|1>1|1>3では終状態が|1>1|0>3となり、制御NOT動作を実現することができた。
【0151】
また、本実施例では、光の波長を掃引する前処理を行っているため、量子ビットとして利用しない物理系が光を吸収することがないので、これらの物理系の影響を抑えることができる。したがって、前処理を行わない場合に比べ、動作の安定性が増し、比較的強度の低い光による動作が可能になる。
【0152】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明により以下の効果を実現することができる。
(1)量子ビットとして3つのエネルギー準位を有する物理系を用い、光による量子ビットの操作に際して、この3準位系に2波長の光を作用させた場合に誘起されるポピュレーション・トラッピングを利用したアディアバティック・パッセージという手法を利用できる。(2)量子ビットとして互いに準位間の遷移周波数が異なる複数の物理系を用い、操作しようとする量子ビットの遷移周波数に共鳴する周波数を有する光により所望の量子ビットを選択的に操作することで、個々の量子ビットを独立に操作することが可能となる。(3)共振器内に複数の物理系を保持し、それぞれの量子ビットの1つの遷移を共通の共振器モードに結合させ、制御NOT動作などの2量子ビット以上が関与するゲート動作を実現する。その結果、量子ビットの空間的位置に全く関係なく周波数領域で量子ビットを区別し定義することが可能で、配線や微細加工を必要とせず、かつ集積度、量子ビットの拡張性が高く、コヒーレンシーもよい実用的な量子計算を可能にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 3準位系に2種の光を照射した場合にポピュレーション・トラッピングが起こる様子を示す図。
【図2】 2種の光の照射によってアディアバティック・パッセージが起こる様子を説明する図。
【図3】遷移周波数平面において、2種の光と作用してポピュレーション・トラッピングを起こす物理系が存在する領域を示す図。
【図4】 2つの物理系と、これらの物理系に作用する共振器モードおよび共振器モード以外の2種のレーザー光を示す図。
【図5】遷移周波数平面において、共振器モードに共鳴する物理系を示す図。
【図6】遷移周波数平面において、所望の量子ビット以外で影響を受ける可能性のある量子ビットを示す図。
【図7】遷移周波数平面において、1光子共鳴せず、2光子共鳴する2種の光による操作を説明する図。
【図8】遷移周波数平面において、2種の光による操作時にノイズの原因となる物理系が分布する領域を示す図。
【図9】遷移周波数平面において、前処理操作を説明する図。
【図10】遷移周波数平面において、前処理操作時の周波数の適切な掃引範囲を示す図。
【図11】図11は、本発明の実施例において用いられた量子情報処理装置を示す図;
【図12】本発明の実施例2における共振器内のPr3+:Y2SiO5の蛍光励起スペクトルを示す図。
【図13】本発明の実施例2における制御NOT動作において使用する光を示す図。
【図14】本発明の実施例2における制御NOT動作において使用する光を示す図。
【図15】本発明の実施例2における制御NOT動作において使用する光を示す図。
【図16】本発明の実施例2におけるゲート動作に使用する2種の光の強度の時間変化を示す図。
【図17】遷移周波数平面において、本発明の実施例4における量子ビットの遷移周波数、照射光の周波数および共振器モードの関係を示す図。
【符号の説明】
10…クライオスタット
11…試料
12…コイル
13…共振器
14…光検出器
15…パルス高周波磁場の駆動装置
16…静磁場印加用の電源
20…リング色素レーザー
21…音響光学効果素子
22…電気光学効果素子
Claims (10)
- 共振器中に配置された多数の物理系であって、各物理系は、3つのエネルギー準位を有し、3つの準位間の3つの遷移のうち2つの遷移が光学的に遷移可能であり、各物理系の量子ビットが残りの光学的に禁制な遷移を構成する2つの準位の状態またはこれらの重ね合わせの状態によって表され、前記光学的に遷移可能な2つの遷移の遷移周波数の一方が互いに異なる複数の物理系が含まれ、かつ前記複数の物理系は共通の共振器モードにより量子力学的に結合されている、多数の物理系を用意し、
1つの物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する2種の光を照射して初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作し、
他の物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する2種の光を照射して初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作し、
前記2つの物理系に、共振器モードに共鳴する遷移以外の光学的に遷移可能な遷移に共鳴する周波数を有する2種の光を、一方の光を高強度から低強度へ変化させるとともに他方の光を低強度から高強度へ変化させながら、同時に照射することにより、前記2つの物理系の量子状態を入れ替える
ことを特徴とする量子情報処理方法。 - 前記物理系は固体中に含まれるイオンからなり、各々の物理系の3つのエネルギー準位のうち2つが、イオンの核スピンに起因する超微細構造分裂によって生じる近接2準位であることを特徴とする請求項1記載の量子情報処理方法。
- 前記共振器は、前記多数の物理系が保持されている固体の表面から構成されていることを特徴とする請求項1記載の量子情報処理方法。
- 各々の物理系の3つのエネルギー準位の状態をエネルギーの低い方から順に|0>、|1>および|e>とし、|0>-|e>間遷移および|1>-|e>間遷移が光学的に遷移可能であり、状態|0>もしくは状態|1>またはこれらの重ね合わせの状態によって量子ビットが表され、
各々の物理系の|0>-|e>間遷移が共通の共振器モードによって結合されている場合に、|1>-|e>間遷移に共鳴する周波数の光を、物理系の|1>-|e>間遷移周波数が分布する範囲内で、周波数を掃引して照射することにより、情報処理の前処理を行うか、または
各々の物理系の|1>-|e>間遷移が共通の共振器モードによって結合されている場合に、|0>-|e>間遷移に共鳴する周波数の光を、物理系の|0>-|e>間遷移周波数が分布する範囲内で、周波数を掃引して照射することにより、情報処理の前処理を行う
ことを特徴とする請求項1記載の量子情報処理方法。 - 前処理のために照射する光の、周波数を掃引する範囲をΔνBw、|0>-|1>間遷移の中心遷移周波数をν01center、|0>-|1>間遷移の不均一幅をΔν01inhomoとして、ΔνBwが、ν01centerからΔν01inhomoの1/2を引いた値より小さく設定されていることを特徴とする請求項6記載の量子情報処理方法。
- 前記物理系に、磁場または電場を印加するとともに光を照射し、前記2つの準位の縮退を解いて分裂させた準位の状態を利用することを特徴とする請求項1記載の量子情報処理方法。
- 量子状態を変化させようとする固体中の物理系の、光学的に遷移可能な2つの遷移のいずれとも非共鳴であり、かつ残りの1つの遷移に2光子共鳴する2種の光を照射して、前記1量子ビット動作を実行することを特徴とする請求項1記載の量子情報処理方法。
- 複数の物理系に、光学的に遷移可能な2つの遷移のうち共振器モードと共鳴しない1つの遷移に共鳴する光を、周波数を掃引しながら照射し、複数の物理系の発光を検出して、各物理系の量子状態を読み出すことを特徴とする請求項1記載の量子情報処理方法。
- 多数の物理系であって、各物理系は、3つのエネルギー準位を有し、3つの準位間の3つの遷移のうち2つの遷移が光学的に遷移可能であり、各物理系の量子ビットが残りの光学的に禁制な遷移を構成する2つの準位の状態またはこれらの重ね合わせの状態によって表され、前記光学的に遷移可能な2つの遷移の遷移周波数の一方が互いに異なる複数の物理系が含まれる、多数の物理系と、
前記物理系の周囲に設けられ、前記物理系の光学的に遷移可能な2つの遷移のうち一方の遷移に共鳴する共振器モードを有する共振器と、
前記物理系のうち 1 つの物理系の初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作するために、その物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する 2 種の光を照射し、前記物理系のうち他の物理系の初期状態を設定するかあるいは量子状態を操作するために、その物理系に選択的に、周波数の差がその物理系における光学的に禁制な遷移の遷移周波数に対応する 2 種の光を照射し、前記 2 つの物理系の量子状態を入れ替えるために、共振器モードに共鳴する遷移以外の光学的に遷移可能な遷移に共鳴する周波数を有する 2 種の光を、一方の光を高強度から低強度へ変化させるとともに他方の光を低強度から高強度へ変化させながら、同時に照射するように構成された光源および光学系とを有することを特徴とする量子情報処理装置。 - さらに、前記物理系への光照射による、前記物理系からの発光を検出する検出器を有することを特徴とする請求項9記載の量子情報処理装置。
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