JP6223838B2 - 量子計算機及び量子計算方法 - Google Patents

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Description

本発明の実施形態は、共振器と物理系の結合を利用した量子計算機に関する。
近年、量子力学的な重ね合わせの状態を用いて演算を行う量子計算機が盛んに研究されている。量子計算機の1つとして、周波数領域で量子ビットを区別する周波数領域量子計算に基づく量子計算機が知られている。周波数領域量子計算においては、位置で量子ビットを区別しないため、操作するつもりのない量子ビットにも離調付きで操作光が作用し、それによって不要な相互作用が生じる。この不要な相互作用はゲートエラーの原因になり得る。量子ビットに用いる遷移の周波数差が非常に大きければこの不要な相互作用の影響は小さくなる。しかしながら、有限の周波数領域に分布する遷移を利用する場合には、より多くの量子ビットを実装するために、なるべく周波数差の小さい遷移を利用することになる。周波数差の小さい遷移を利用する場合においても、不要な相互作用の影響を抑制しながら量子ゲートを実行できる周波数領域量子計算に基づく量子計算機が求められている。
特開2001−209083号公報
本発明が解決しようとする課題は、量子ゲートを高効率で実行することができる量子計算機及び量子計算方法を提供することである。
一実施形態に係る量子計算機は、共振器の中に配置された複数の物理系X(i=1,2,…,N、Nは2以上の整数)、前記共振器の中に配置され、前記複数の物理系Xと異なる物理系Y(j=1,2,…,N、Nは1以上の整数)、及び光源部を備える。各物理系Xは、状態|0>、|1>、|2>、|e>を含む少なくとも4つの状態を有し、状態|e>のエネルギーは量子ビットに用いる状態|0>、|1>それぞれのエネルギー及びゲート操作の補助に用いる状態|2>のエネルギーよりも高く、|2>−|e>遷移は前記共振器の共振器モードに共鳴している。各物理系Yは、状態|2>′、|e>′を含む少なくとも2つのエネルギー状態を有し、状態|e>′のエネルギーは状態|2>′のエネルギーよりも高く、|2>′−|e>′遷移は前記共振器モードに共鳴している。光源部は、前記複数の物理系Xのうちの2つの物理系X(sはN以下の自然数)及び物理系X(tはsと異なるN以下の自然数)の状態を操作するために、|1>−|e>遷移に共鳴する第1のレーザ光と、|1>−|e>遷移に共鳴する第2のレーザ光と、前記複数の物理系Yに関して|2>′−|e>′遷移における状態|2>′にポピュレーションを集めるための第3のレーザ光と、を前記共振器に照射する。
周波数領域量子計算を説明する図。 周波数領域量子計算に用いる物理系における不要な相互作用を示す図。 実施形態に係る量子計算機を示す図。 実施形態に係る周波数領域量子計算に用いる物理系を示す図。 実施形態において利用するYSiO結晶中のPr3+イオンが有するエネルギー状態の一部を示す図。 実施形態に係る2つの物理系を操作する方法を示すフローチャート。 実施形態に係る、共振器を介したアディアバティックパッセージに用いるパルス波形を示す図。 他の実施形態に係る量子計算機を示す図。 さらに他の実施形態に係る量子計算機を示す図。
以下、図面を参照しながら種々の実施形態を説明する。以下の実施形態では、同一の構成要素に同一の参照符号を付して、重複する説明を適宜省略する。
まず、周波数領域量子計算とその量子ゲートに存在する「不要な相互作用」について説明する。また、その不要な相互作用の影響が特に強くなる条件である「共鳴条件」について説明する。さらに、その共鳴条件を制御し不要な相互作用の影響を受けない量子ゲートの操作方法及び構成を説明する。
[周波数領域量子計算の方法]
周波数領域量子計算では、共振器中に配置された複数の物理系であって、各物理系の1つの遷移が共通の共振器モード(固有モード)に共鳴しており且つそれ以外の遷移の周波数が物理系ごとに異なる複数の物理系それぞれを量子ビットとして利用する。物理系としては、例えば、イオンや原子などを利用することができる。周波数領域量子計算は、各物理系の遷移周波数に共鳴するレーザ光を照射することによりその物理系を選択的に操作することによって演算を行うものである。
物理系としてN個の四準位系X(i=1,2,3,…,N)を用いる場合について説明する。ここで、Nは2以上の整数である。各四準位系Xは4つのエネルギー状態を有する。これらの4つのエネルギー状態をエネルギーの低い順に|0>、|1>、|2>、|e>と表示する。各状態(各ケットベクトル)に付した添え字iは、その状態を有する四準位系Xを識別するためのものである。以下では、添え字iは省略することもある。状態|0>と|1>を量子ビットに用い、状態|2>をゲート操作の補助に用いる。励起状態である状態|e>は、状態|0>、|1>、|2>に比べてエネルギーが高い状態である。|2>−|e>遷移(状態|2>と状態|e>との間の遷移)は共通の共振器モードに共鳴する遷移である。|1>−|e>遷移の周波数は四準位系Xごとに異なる。
N=3の場合における周波数領域量子計算に使用される物理系を図1に示す。図1に示されるように、物理系X、X、Xは共通の共振器モードに結合している。具体的には、|2>−|e>遷移、|2>−|e>遷移、及び|2>−|e>遷移は、共通の共振器モードに共鳴している。すなわち、|2>−|e>遷移、|2>−|e>遷移、及び|2>−|e>遷移の周波数は、共通の共振器モードの共振周波数に等しい。|1>−|e>遷移、|1>−|e>遷移、及び|1>−|e>遷移の周波数は、互いに異なっている。
これらの四準位系Xのうちの2つの四準位系、例えば、四準位系X及びXの状態を操作する場合には、|1>−|e>遷移に共鳴する操作光L及び|1>−|e>遷移に共鳴する操作光Lを四準位系X全体に照射する。操作光L及びLの照射によって、理想的には四準位系X及びXの状態を選択的に操作することができる。量子ゲートに用いられる状態の操作方法としては、共振器を介したアディアバティックパッセージの方法が知られている。この方法では、例えば、四準位系X及びXの状態を初期状態|1>及び|2>から状態|2>及び|1>に操作する場合、操作光L及びLのラビ周波数Ω及びΩがτ>τの条件下で下記数式(1)に従うように操作光L及びLの強度を制御する。
Figure 0006223838
[不要な相互作用]
周波数領域量子計算においては、厳密には下記のような「不要な相互作用」が生じる。不要な相互作用は、位置で四準位系Xを区別しないために、操作するつもりのない四準位系Xにも離調付きで操作光が作用することで生じる。具体的には、操作光Lが四準位系X、X(j=3,4,…,N)に与える作用と操作光Lが四準位系X、X(j=3,4,…,N)に与える作用がある。N=3の場合における不要な相互作用を含む物理系を図2に示す。図2において、状態|1>と状態|e>とを結ぶ実線の両方向矢印が必要な相互作用を表し、破線の両方向矢印が不要な相互作用を表し、状態|2>と状態|e>とを結ぶ太い実線の両方向矢印が共振器モードを表している。
四準位系Xの|1>−|e>遷移間の周波数差が非常に大きければ不要な相互作用の影響は非常に小さくなる。しかしながら、一般的には、遷移の周波数は有限の周波数領域の中で分布しているため、多くの量子ビットを利用するためにはなるべく周波数差の小さい遷移を利用することになる。このため、周波数差が小さい場合でも量子ゲートを高効率で実行できることが望ましい。
[共鳴条件]
不要な相互作用の性質について詳しく説明する。図2に示される物理系のような不要な相互作用を含む周波数領域量子計算のための物理系を記述するハミルトニアンは下記数式(2)のように表される。
Figure 0006223838
ここで、σ(i) abは四準位系Xの状態|b>を状態|a>に遷移させる演算子であり、a及びaはそれぞれ共振器モードの消滅演算子及び生成演算子である。gは共振器モードと物理系との結合定数であり、γは遷移の緩和速度であり、κは共振器の減衰定数である。H.c.はエルミート共役である。
ハミルトニアンの各項について説明する。第1項は各イオンの各状態のエネルギー項と各イオンのエネルギー緩和項を含む。第2項は共振器モードのエネルギー項と共振器緩和項を含む。以下では、理想的な強結合系を仮定し、γ=κ=0の場合について説明する。第3項は、相互作用項であり、共振器モードと各四準位系Xの|2>−|e>遷移の相互作用、操作光Lと各四準位系Xの|1>−|e>遷移の相互作用、操作光Lと各四準位系Xの|1>−|e>遷移の相互作用を含む。
数式(2)のハミルトニアンの相互作用ハミルトニアンは、下記数式(3)に示されるHを用いることで、下記数式(4)のように表される。
Figure 0006223838
Figure 0006223838
Δは|e>−|1>遷移と|e>−|1>遷移との間の周波数差を表し、Δは|e>−|1>遷移と|e>−|1>遷移との間の周波数差を表す。
数式(4)の相互作用ハミルトニアンH′は、下記数式(5)のように必要な相互作用Hと不要な相互作用Vに分けられる。
Figure 0006223838
数式(5)を用いて、共振器を介したアディアバティックパッセージにおいて、不要な相互作用によって生じるエラー確率を摂動計算によって計算する。初期状態|ψ(0)>をHの固有状態の1つであるダークステート|ψ(0)>であるとする。アディアバティックパッセージのエラー確率は、時刻tで別の固有状態|ψ(t)>(n≠0)へ遷移する確率である。この操作を高効率で実行するためには、Ω1,2<<gとなるような操作光L及びLを用いるのが一般的である。そのような場合は、VはHより小さいので、下記数式(6)に示すように、Vについての摂動計算により時間発展を計算することができる。
Figure 0006223838
数式(6)中のEはHの固有状態|ψ>に対応する固有値である。EはΩ1,2によってのみ時間変化するのでΩ1,2<<gの場合、その変化量は絶対値に比べて十分小さい。従って、係数C (1)、C (2)の中の各指数関数の指数がゼロのとき、摂動計算が有効でなくなるほどエラー確率は増大する。V(t′)に振動項があることを考慮すると、1次の係数C (1)から共振器を介したアディアバティックパッセージのエラー確率が増大する条件として下記数式(7)に示す共鳴条件を得ることができる。
Figure 0006223838
同様に、2次の係数C (2)から下記数式(8)に示す共鳴条件を得る。
Figure 0006223838
2次の係数C (2)から得られた共鳴条件は1次の係数C (1)から得られた共鳴条件と比べると一般には寄与は小さい。しかしながら、複数の条件が同時に満たされる場合は、その寄与は大きくなる。数式(8)の共鳴条件において複数の条件を同時に満たすための条件として、下記数式(9)に示す条件が得られる。
Figure 0006223838
共鳴条件の解析解はHの固有値Eを求めることで得られる。Ω1,2<<gの場合を考えHのΩ1,2の項をゼロとすると、固有値Eは良く知られた真空ラビ分裂のアナロジーで求めることができる。状態|2>又は|e>にポピュレーションがある四準位系Xの数をN、状態|e>にポピュレーションがある四準位系Xの数をn、共振器モードの光子数をnと表記する。Hの固有値は全励起子数N(N=n+n)とnの最大値nmaxを指定することによって分類することができる。Hの固有値の一部を下記数式(10)に示す。
Figure 0006223838
数式(7)、数式(9)及び数式(10)によって不要な相互作用が増大する条件である共鳴条件を解析的に求めることができる。これは、共振器を介したアディアバティックパッセージを高効率で実行するために、つまり周波数領域量子計算において量子ゲートを高効率で実行するために、避けなければならない条件である。
[共鳴条件の制御]
数式(10)に示されるように、状態|2>又は|e>にポピュレーションがある四準位系Xの数NによってHの固有値が変化する。これは、共振器に結合する遷移に確率振幅が存在する四準位系Xの数によって共鳴条件を制御できることを意味する。このような制御を共振器に結合する遷移の追加による制御と呼ぶ。
例えば3量子ビットを利用する量子計算機において、共振器を介したアディアバティックパッセージを実行する場合には、四準位系X、X、Xの初期状態を|1>、|2>、|1>とすると、状態|2>、|1>、|1>になるように操作する。その操作の中でN=1の場合はN=2であり、N=2の場合はN=3である。従って、数式(10)からHの固有値は下記数式(11)に示すように得られる。数式(11)に示される固有値を用いて数式(7)及び数式(9)から共鳴条件が得られる。
Figure 0006223838
これに対して、例えば共振器に結合する遷移に遷移確率がある物理系をさらに3個追加した場合には、下記数式(12)に示すように、Hの固有値が得られる。
Figure 0006223838
この場合、|Δ|,|Δ|<gの領域に共鳴条件を避けられる領域が大幅に増える。従って、確率的に四準位系Xの周波数分布が与えられたときに、量子ゲートを高効率で実行できる確率が高くなる。さらに、より多くの量子ビットを利用することが可能になる。
このように共振器に結合する遷移の追加により共鳴条件を制御することによって、不要な相互作用を抑制することが可能となり、その結果、高効率な周波数領域量子計算を実行することができる。ここで示した例は一例であり、実際に与えられた物理系の周波数分布に対して、共鳴条件を避けられるように共振器に結合する遷移を追加する数を変えることで、より最適な条件へと制御することができる。
次に、図3から図9を参照しながら実施形態を説明する。
(第1の実施形態)
図3は、第1の実施形態に係る量子計算機300を概略的に示している。本実施形態では、四準位系Xとみなせる具体的な物理系として、YSiO結晶中にドープされたPr3+イオンを使用する。具体的には、量子計算機300は、図3に示されるように、Pr3+イオンをドープしたYSiO結晶(Pr:YSO)の側面に誘電体多層膜ミラーを配置し共振器に加工した試料315を備える。試料315は、クライオスタット316内に設置され、低温に(例えば4Kに)保たれる。
ここでは、図4に示される例のように、6つのPr3+イオンを周波数領域量子計算に用い、これらのPr3+イオンのうちの3つのPr3+イオンを量子ビットとして利用する場合を想定する。量子ビットとして利用する3つのPr3+イオンをイオンX、X、Xと表示し、残り3つのPr3+イオンをイオンY、Y、Yと表示する。イオンY、Y、Yは共鳴条件の制御のために使用される。
具体的には、イオンX、X、Xの各々は、エネルギーの低い順に状態|0>、|1>、|2>、|e>を有する。状態|0>、|1>は量子ビットに用い、状態|2>はゲート操作の補助に用いる。|2>−|e>遷移は共振器の共通の共振器モードに共鳴している。イオンY、Y、Yの各々は、エネルギーの低い順に状態|0>′、|1>′、|2>′、|e>′を有する。図4では、イオンY、Y、Yの状態|0>′、|1>′は省略されている。イオンY、Y、Yの|2>′−|e>′遷移は共振器の共通の共振器モードに共鳴している。ここで、イオンY、Y、Yに関連する状態にダッシュ符号を付しているが、これは、共鳴状態の制御のために使用される物理系の種類が量子ビットに利用される物理系の種類と異なっていてもよいことを表す。イオンY、Y、Yは、イオンX、X、Xと同じ種類のイオン(この例ではPr3+イオン)、他の種類のイオン、又はその組み合わせであってもよい。イオンY、Y、YがイオンX、X、Xと異なる種類のイオンである場合、イオンY、Y、Yは状態|0>′、|1>′を有していなくてもよい。
図5は、YSiO結晶中のPr3+イオンのエネルギー状態の一部を示している。図5には、基底状態の超微細構造状態のうちの3つ(|−1/2>、|−3/2>、|−5/2>)と励起状態の超微細構造状態のうちの3つ(|+1/2>、|+3/2>、|+5/2>)が示されている。励起状態と基底状態との間の遷移周波数に対応する波長は約606nmである。基底状態の超微細構造状態|−1/2>、|−3/2>、|−5/2>が図4に示される状態|0>、|1>、|2>にそれぞれ対応し、励起状態の超微細構造状態|+5/2>が図4に示される状態|e>に対応する。この場合、|0>−|e>遷移、|1>−|e>遷移、|2>−|e>遷移は、光学的に遷移可能であり、|0>−|1>遷移、|0>−|2>遷移、|1>−|2>遷移は、光学的に禁制な遷移である。
図3に示される量子計算機300では、アルゴンイオンレーザ301で励起したリング色素レーザ302を光源として使用する。リング色素レーザ302から発せられたレーザ光は、2つのビームスプリッタ303及び304によって3つのレーザ光に分割され、これら3つのレーザ光は、音響光学素子306、307及び308にそれぞれ導かれる。具体的には、ビームスプリッタ303は、リング色素レーザ302からのレーザ光を2つのレーザ光に分割し、これら2つのレーザ光の一方は音響光学素子306に入射し、他方はビームスプリッタ304に入射する。ビームスプリッタ304は、入射レーザ光を2つのレーザ光に分割し、これら2つのレーザ光の一方は音響光学素子307に入射し、他方はミラー305によって反射され音響光学素子308に入射する。
音響光学素子306、307及び308は、制御装置309によって生成された信号に従って、入射レーザ光を変調して変調レーザ光351、352及び353をそれぞれ生成する。変調レーザ光351は、ミラー310及び311並びにレンズ314によって試料315に導かれる。変調レーザ光352は、レンズ314によって試料315に導かれる。変調レーザ光353は、ミラー312及び313並びにレンズ314によって試料315に導かれる。本実施形態では、アルゴンイオンレーザ301、リング色素レーザ302、ビームスプリッタ303及び304、ミラー305、音響光学素子306〜308、ミラー310〜313、並びに、レンズ314によって光源部320が形成されている。
図3、図6及び図7を参照して、3つの量子ビットのうちのイオンX及びXの量子ビットを操作する方法を具体的に説明する。まず、光源部320は、イオンY、Y、Yに関して|2>−|e>遷移における状態|2>にポピュレーションを集めるための変調レーザ光353を試料315に照射する(図6のステップS601)。具体的には、音響光学素子308は、変調レーザ光353が|0>−|e>遷移又は|1>−|e>遷移に共鳴するように入射レーザ光を変調する。
続いて、光源部320は、変調レーザ光353を照射した状態で、イオンX及びXを操作するための変調レーザ光351及び352を試料315に同時に照射する(図6のステップS602)。ここで、同時に照射するとは、変調レーザ光351及び352の照射時間が少なくとも一部重なっていることを意味する。具体的には、音響光学素子306は、変調レーザ光351のラビ周波数Ωが数式(1)に従って変化するように入射レーザ光を変調し、音響光学素子307は、変調レーザ光352のラビ周波数Ωが数式(1)に従って変化するように入射レーザ光を変調する。イオンX及びXの状態を初期状態|1>|2>から状態|2>|1>に操作する場合、τ>τに設定される。イオンX及びXの状態を初期状態|1>|2>から状態|2>|1>に操作する場合におけるラビ周波数Ω及びΩの時間変化を図7に示す。図7において、横軸は時間を表し、縦軸はラビ周波数を表す。一点鎖線で示される波形がラビ周波数Ωを示し、実線で示される波形がラビ周波数Ωを示す。一例では、レーザ光351及び352のラビ周波数Ω及びΩのパラメータはΩ=1kHz、τ=64.1ms、τ=55.9ms、σ=20msに設定される。
このようにして変調レーザ光351、352及び353を試料315に照射することで、共鳴条件を避けながらイオンXの状態(例えば状態|1>)を変化させずに、イオンX及びXの状態を初期状態|1>|2>から状態|2>|1>に操作することができる。
以上のように、第1の実施形態に係る量子計算機では、量子ビットに利用する物理系と異なる、共通の共振器モードに結合する遷移を含む物理系を利用することによって、不要な相互作用を抑制しながら、飛躍的に高効率な量子ゲートを実行することができる。
(第2の実施形態)
第1の実施形態では、状態操作に用いるレーザ光を生成するために、1つの光源を使用している。第2の実施形態では、状態操作に用いるレーザ光ごとに光源を用意する。
図8は、第2の実施形態に係る量子計算機800を概略的に示している。量子計算機800は、図8に示されるように、半導体レーザ801、802及び803を備える。半導体レーザ801、802及び803から発生したレーザ光は、音響光学素子306、307及び308にそれぞれ向けられる。音響光学素子306、307及び308などの動作は第1の実施形態と同様であるので、その説明を省略する。本実施形態では、半導体レーザ801〜803、音響光学素子306〜308、ミラー310〜313、及びレンズ314によって光源部820が形成されている。
第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、高効率な量子ゲートを実行することができる。
(第3の実施形態)
図9は、第3の実施形態に係る量子計算機900を概略的に示している。図8に示される量子計算機900は、図3に示される第1の実施形態の量子計算機300と同様の構成を備える。第3の実施形態では、第1の実施形態と異なる部分及び動作について説明する。
本実施形態では、量子ビットとして利用されるイオンX、X、Xと共鳴条件の制御に利用されるイオンY、Y、Yとが異なる空間領域に位置する。例えば、イオンX、X、Xが試料315の上部に配置されたPr3+イオンから選択され、イオンY、Y、Yが試料315の下部に配置されたPr3+イオンから選択される。この場合、図9に示されるように、光源部920は、変調レーザ光351及び352を試料315の上部に照射し、変調レーザ光353を試料315の下部に照射する。
第3の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、高効率な量子ゲートを実行することができる。
(第4の実施形態)
第4の実施形態では、共通の共振器モードに結合するPr3+イオンの中から量子ビットに利用する複数のPr3+イオンを選択する方法例を説明する。なお、第4の実施形態に係る量子計算機は、第1の実施形態に係る量子計算機300(図3)と同様の構成を有し、同様の方法で量子ゲートを実行するものとし、重複する説明を省略する。
試料315の中に含まれ共通の共振器モードに結合する遷移を含むM個のPr3+イオンを、|1>−|e>遷移の周波数が小さい順に、イオン1、イオン2、…、イオンMと表示する。ここで、Mは2以上の整数である。さらに、|1>−|e>遷移と|1>−|e>遷移との間の周波数差をΔとし、|1>−|e>遷移と|1>−|e>遷移(jは3以上M以下の整数)との間の周波数差をΔとする。この場合において、Ω<Δ<Ng/N及びイオンΩ<Δ<Ng/Nを満たすイオンを量子ビットに利用する。さらに、共鳴状態の制御のために使用するイオンは、周波数差Δが大きい順に所定数だけ選択される。
共鳴状態の制御のために使用する物理系(この例ではPr3+イオン)の数Nは、1以上の任意の値であってもよいが、量子ビットの数Nを二乗した値以上にすることが望ましい。これは、数式(10)に示されるようにHの固有値がNの平方根に実質的に依存するためである。例えば、3つの量子ビットを利用する場合、共鳴状態の制御のための物理系として、共通の共振器モードに結合する遷移を含む9つのPr3+イオンを使用する。これら9つのPr3+イオン(イオンY〜Yと記載する)は、上述した方法のように周波数差Δが大きい順にイオン1〜Mから選択される。この場合、第1の実施形態においてイオンY、Y、Yに対して行った操作と同様の操作をイオンY〜Yに対して行う。具体的には、イオンY〜Yに関して状態|2>にポピュレーションが集まるように変調したレーザ光を試料315に照射する。
第4の実施形態によれば、第1の実施形態と同様に、高効率な量子ゲートを実行することができる。
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
300…量子計算機、301…アルゴンイオンレーザ、302…リング色素レーザ、303,304…ビームスプリッタ、305…ミラー、306〜308…音響光学素子、309…制御装置、310〜313…ミラー、314…レンズ、315…試料、316…クライオスタット、320…光源部、800…量子計算機、801〜803…半導体レーザ、820…光源部、900…量子計算機、920…光源部。

Claims (8)

  1. 共振器の中に配置された複数の物理系X(i=1,2,…,N、Nは2以上の整数)であって、各物理系Xは、状態|0>、|1>、|2>、|e>を含む少なくとも4つの状態を有し、状態|e>のエネルギーは量子ビットに用いる状態|0>、|1>それぞれのエネルギー及びゲート操作の補助に用いる状態|2>のエネルギーよりも高く、|2>−|e>遷移は前記共振器の共振器モードに共鳴している、複数の物理系Xと、
    前記共振器の中に配置され、前記複数の物理系Xと異なる物理系Y(j=1,2,…,N、Nは1以上の整数)であって、各物理系Yは、状態|2>′、|e>′を含む少なくとも2つのエネルギー状態を有し、状態|e>′のエネルギーは状態|2>′のエネルギーよりも高く、|2>′−|e>′遷移は前記共振器モードに共鳴している、物理系Yと、
    前記複数の物理系Xのうちの2つの物理系X(sはN以下の自然数)及び物理系X(tはsと異なるN以下の自然数)の状態を操作するために、|1>−|e>遷移に共鳴する第1のレーザ光と、|1>−|e>遷移に共鳴する第2のレーザ光と、前記物理系Yに関して|2>′−|e>′遷移における状態|2>′にポピュレーションを集めるための第3のレーザ光と、を前記共振器に照射する光源部と、
    を具備することを特徴とする量子計算機。
  2. 前記光源部は、レーザ光を発する光源と、前記レーザ光を第1の分割レーザ光、第2の分割レーザ光、第3の分割レーザ光に分割するための2つのビームスプリッタと、前記第1の分割レーザ光を変調することにより前記第1のレーザ光を生成する第1の光変調器と、前記第2の分割レーザ光を変調することにより前記第2のレーザ光を生成する第2の光変調器と、前記第3の分割レーザ光を変調することにより前記第3のレーザ光を生成する第3の光変調器と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の量子計算機。
  3. 前記光源部は、第1の光源と、前記第1の光源から発せられるレーザ光を変調することにより前記第1のレーザ光を生成する第1の光変調器と、第2の光源と、前記第2の光源から発せられるレーザ光を変調することにより前記第2のレーザ光を生成する第2の光変調器と、第3の光源と、前記第3の光源から発せられるレーザ光を変調することにより前記第3のレーザ光を生成する第3の光変調器と、を備えることを特徴とする請求項1に記載の量子計算機。
  4. 前記共振器は、前記複数の物理系Xを含む第1の空間領域と、前記物理系Yを含む、前記第1の空間領域と異なる第2の空間領域と、を備え、前記光源部は、前記第2の空間領域に前記第3のレーザ光を照射することを特徴とする請求項1に記載の量子計算機。
  5. 共振器の中に配置された複数の物理系X(i=1,2,…,N、Nは2以上の整数)であって、各物理系Xは、状態|0>、|1>、|2>、|e>を含む少なくとも4つの状態を有し、状態|e>のエネルギーは量子ビットに用いる状態|0>、|1>それぞれのエネルギー及びゲート操作の補助に用いる状態|2>のエネルギーよりも高く、|2>−|e>遷移は前記共振器の共振器モードに共鳴している、複数の物理系Xを用意し、
    前記共振器の中に配置され、前記複数の物理系Xと異なる物理系Y(j=1,2,…,N、Nは1以上の整数)であって、各物理系Yは、状態|2>′、|e>′を含む少なくとも2つのエネルギー状態を有し、状態|e>′のエネルギーは状態|2>′のエネルギーよりも高く、|2>′−|e>′遷移は前記共振器モードに共鳴している、複数の物理系Yを用意し、
    前記複数の物理系Xのうちの2つの物理系X(sはN以下の自然数)及び物理系X(tはsと異なるN以下の自然数)の状態を操作するために、|1>−|e>遷移に共鳴する第1のレーザ光と、|1>−|e>遷移に共鳴する第2のレーザ光と、前記複数の物理系Yに関して|2>′−|e>′遷移における状態|2>′にポピュレーションを集めるための第3のレーザ光と、を前記共振器に照射することを特徴とする量子計算方法。
  6. 前記第3の光ビームの照射によって前記複数の物理系Yに関して状態|2>′にポピュレーションを集めた後に、前記第1の光ビーム及び前記第2の光ビームを前記共振器に照射することを備えることを特徴とする請求項5に記載の量子計算方法。
  7. 前記複数の物理系Xを|1>−|e>遷移の周波数が小さい順にX、X、…、Xとし、|1>−|e>遷移と|1>−|e>遷移との間の周波数差をΔ、|1>−|e>遷移と|1>−|e>遷移との間の周波数差をΔとした場合に、前記複数の物理系XはΩ<Δ<Ng/N及びΩ<Δ<Ng/Nを満たし、ここで、gは前記共振器モードと各物理系Xとの結合定数であり、Ωは前記第1のレーザ光及び前記第2のレーザ光のラビ周波数の最大値を定めるパラメータであることを特徴とする請求項5に記載の量子計算方法。
  8. ≧Nを満たすことを特徴とする請求項5に記載の量子計算方法。
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