JP3852251B2 - 耐候性鋼材の錆安定化処理剤および錆安定化処理方法並びに錆安定化処理耐候性鋼材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、Cu,Ni,Cr,P,Mo 等の合金元素を添加してなる耐候性鋼材に適用されるものであって、耐候性鋼の安定錆を効率よく生成せしめると共に、安定錆形成過程での流れ錆等による外観不良を防止し、あるいは更に処理剤皮膜下に安定錆を形成する際の皮膜のフクレや剥離による外観悪化を極めて起こりにくくすることを目的とした耐候性鋼材の錆安定化処理剤および錆安定化処理方法並びに錆安定化処理耐候性鋼材に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
耐候性鋼はCu,Ni,Cr,P,Mo 等の元素が少量含有された低合金鋼であって、大気中に暴露すると腐食し発錆する過程で保護性の強い錆層(安定錆)が自然に形成される。そして前記錆層が形成された後はそれ以降の鋼材の腐食は減少し、最終的には腐食が殆ど進行しない特性を持つ鋼材となる。
【0003】
この様な耐候性鋼材は、形鋼、鋼板、鋼管等各種鋼材に適用され、橋梁や鉄塔等の構造物として幅広い用途があるが、次のような問題を有していた。
【0004】
即ち、耐候性鋼材を裸使用する場合、鋼材表面に保護性の強い安定した錆が形成されるまで5年以上の長期間を要し、その間、浮き錆や流れ錆を生じ、流出した錆汁により周囲環境を汚染し、外観を損なう問題があった。
【0005】
そこで、耐候性鋼の表面に錆安定化処理と称される表面処理を行い、上記の問題を解決する技術が開示されている。この錆安定化処理は、例えば、特開昭56−127774号公報では、カチオン型皮膜とアニオン型皮膜の2層皮膜が、特公昭56−33991号公報では、下層に安定錆成分を含有する樹脂層、上層に耐候性、耐腐食性に優れた樹脂層を設けた2層被覆が、および特許2666673号公報では、安定錆形成促進作用を有する有機樹脂により被覆された鋼材について開示されている。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、上記従来技術の内、特公昭56−33991号公報による方法では、安定錆形成過程の塗膜劣化過程での外観が悪く、塗膜のフクレや剥離が発生し易い欠点がある。更に飛来塩分に対する対応が不十分で、腐食性の厳しい環境での安定錆形成能力が劣る欠点がある。また2層以上の塗装が必要で、塗装作業性、塗装コストが上昇する欠点がある。
【0007】
また特許2666673号公報では、安定錆を早期に形成するため、処理後の外観不良が避けられず、流れ錆等による周辺環境の汚損も問題となる。また早期に形成した錆が真の安定錆として長期間機能するかどうか、不明確である。
【0008】
特開昭56−127774号公報記載の方法では、カチオン型皮膜で流れ錆を防止し、アニオン型皮膜で塩分に対する耐久性を増していることで、安定錆形成環境を整え、効率的な安定錆形成を意図したものであるが、2層以上の異なる塗膜を形成する必要があり、塗装作業性上問題がある。また安定錆形成能力とのバランス上、アニオン型皮膜の割合に制限があり、十分な耐飛来塩分性が発揮できない点も問題であった。
【0009】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものであって、飛来塩分等、腐食性アニオンの透過を防いで安定錆の形成を効率よく行わせ、かつ、流れ錆を効率よく防止することで、処理後の外観を著しく改善させ、あるいは更に、皮膜下に安定錆が形成される過程において、皮膜のフクレや剥離を起こしにくくすることで、処理後から安定錆に置き換わるまでの間の外観を著しく改善させた耐候性鋼材の錆安定化処理剤および錆安定化処理方法並びに錆安定化処理耐候性鋼材を提供することを目的とするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決する本発明の手段は以下の通りである。
(1)鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる、少なくとも1種以上の塩、およびマイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物を少なくとも含有し、前記樹脂組成物が少なくともフリーのアニオン性官能基を有し、かつ酸価10〜100の樹脂組成物であることを特徴とする耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0011】
(2)鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンが、少なくともリン酸イオンおよび/またはモリブデン酸イオンであることを特徴とする前記(1)に記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0012】
(3)処理剤固形分100重量部に対し、鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる少なくとも1種以上の塩が1〜10重量部含有されていることを特徴とする前記(1)または(2)に記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0013】
(4)樹脂組成物が、脂肪酸変性エポキシ樹脂と無水ポリカルボン酸の反応生成物を含有することを特徴とする前記(1)〜(3)のいずれかに記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0014】
(5)処理剤固形分100重量部に対し、樹脂組成物が、20〜50重量部含有されていることを特徴とする前記(1)〜(4)のいずれかに記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0015】
(6)処理剤固形分100重量部に対し、顔料が30〜70重量部含有されていることを特徴とする前記(1)〜(5)のいずれかに記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0016】
(7)顔料が少なくともタルク、ベンガラ、鉄黒から選択される1種以上の顔料であることを特徴とする前記(6)に記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
【0017】
(8)耐候性鋼材の表面に、前記(1)〜(7)のいずれかに記載の錆安定化処理剤を塗布し、乾燥することを特徴とする耐候性鋼材の錆安定化処理方法。
【0018】
(9)耐候性鋼材表面に前記(1)〜(7)のいずれかに記載の錆安定化処理剤の硬化皮膜が形成されたことを特徴とする錆安定化処理耐候性鋼材。
【0023】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0024】
(適用可能鋼材)
本発明の錆安定化処理剤が適用可能な鋼材は特に限定するものではない。普通鋼に対しても効果は認められるが、耐候性鋼のようなCu,Ni,Cr,P,Mo 等の合金元素を少量含む低合金鋼に対して特に有効である。また、処理面はブラスト処理等で表面のスケールや錆を落とした状態が好ましいが、必ずしもこの必要はない。
【0025】
(塩)
本発明において、処理剤中に含有される鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる塩とは、腐食反応で生成する鉄イオンと反応し、有る条件下において沈着皮膜を形成しうるアニオンと対カチオンからなる塩のことを指す。かかるアニオンの例としては、リン酸イオン、クロム酸イオン、ベリリウム酸イオン、ケイ酸イオン、チタン酸イオン、バナジン酸イオン、マンガン酸イオン、セレニウム酸イオン、ジルコニウム酸イオン、モリブデン酸イオン、タングステン酸イオン等が挙げられる。
【0026】
これらの中で、リン酸イオンおよび/またはモリブデン酸イオンをアニオンとした塩を含有することが錆安定化過程における流れ錆等による外観劣化を効率よく防ぐと共に、皮膜下に効率よく安定錆を生成しうるので好ましい。具体的な例としては、リン酸亜鉛、リン酸アルミニウム、リン酸アンモニウム、リン酸一水素カルシウム、リン酸カドミウム、リン酸カリウム、リン酸カルシウム、リン酸銀、リン酸クロム、リン酸コバルト、リン酸水銀、リン酸水素アンモニウムナトリウム、リン酸水素ウラニル、リン酸水素ストロンチウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸水素二カリウム、リン酸水素二銀、リン酸水素二ナトリウム、リン酸水素バリウム、リン酸水素マグネシウム、リン酸水素マンガン、リン酸セリウム、リン酸タリウム、リン酸鉄、リン酸銅、リン酸トリウム、リン酸ナトリウム、リン酸鉛、リン酸二水素亜鉛、リン酸二水素カドミウム、リン酸二水素アンモニウム、リン酸二水素カリウム、リン酸二水素カルシウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素バリウム、リン酸二水素マンガン、リン酸二水素リチウム、リン酸ニッケル、リン酸バリウム、リン酸ビスマス、リン酸マグネシウム、リン酸マグネシウムアンモニウム、リン酸マンガン、リン酸リチウム、リンタングステン酸ナトリウム、リンモリブデン酸ナトリウム、リンモリブデン酸アルミニウム、リンモリブデン酸アンモニウム、トリポリリン酸二水素アルミニウム、モリブデン酸ナトリウム、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸アンモニウム、モリブデン酸カリウム、モリブデン酸カルシウム、モリブデン酸鉛等が挙げられる。これら以外に、クロム酸塩、バナジン酸塩、タングステン酸塩等、他の鉄イオンを捕捉沈着しうる塩を添加することも出来る。
【0027】
またこれらは、処理剤中への分散を良好にするため平均粒子径10μm 以下の微粉末として添加するのが好ましい。一般に市販されている顔料を粉砕して添加してもよいし、前記範囲に含まれる成分を含有するものならそのまま添加しても差し支えない。また、添加量は処理剤固形分100重量部中1〜10重量部が好ましい。この範囲以下であると外観を良好に保つ効果が不足し、この範囲以上であると皮膜の強度が不足し、外観がかえって悪くなる。
【0028】
(マイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物)
本発明におけるマイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物とは、樹脂、顔料その他の作用により、処理剤中の固定電荷がマイナスである樹脂組成物のことを指し、具体的には処理剤中の樹脂成分の分子中に官能基としてカルボキシル基、スルホン基、リン酸基、フェノール性水酸基等を有する樹脂組成物である。これらの官能基を有し、処理剤の硬化皮膜を形成しうる樹脂で有れば、ベースの樹脂の種類は問わないが、例えばベースの樹脂としてはエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、フッ素樹脂、ブチラール樹脂、ビニル系樹脂、アルキッド樹脂、ポリスルホンフミン酸、タンニン酸、陽イオン交換樹脂等のうちの1種以上をそのまま、あるいは適宜変性したものを使用することで得られる。
【0029】
その中でも特に、カルボキシル基、スルホン基等のフリーのアニオン性官能基を有する酸価10〜100の樹脂を含有する処理剤が、耐飛来塩分性が良好で好ましい。酸価10未満であれば耐飛来塩分性が劣り、100超えでは安定錆形成性能が劣る。
【0030】
処理剤固形分100重量部に対し、フリーのアニオン性官能基を有する樹脂の含有量は、皮膜強度と皮膜の劣化過程の外観保持機能のバランスの観点から20〜50重量部が好ましい。またフリーのアニオン性官能基を有する樹脂の種類としては、脂肪酸変性エポキシ樹脂と無水カルボン酸の反応生成物がもっとも外観保持性能、安定錆形成機能に優れ、好ましく用いられる。
【0031】
(顔料)
本発明においては、前記成分以外に、処理剤固形分100重量部中に顔料を30〜70重量部の範囲で含有することが好ましい。ここでの顔料とは、一般の処理剤に含有されうる無機顔料および有機顔料を表す。
【0032】
本発明においては、鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる、少なくとも1種以上の塩、およびマイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物を少なくとも含有する処理剤固形分100重量部の中に、前記顔料の重量を30〜70重量部の範囲とすることで、処理剤皮膜下に安定錆が形成される過程で、安定錆が非常に効率よく生成されると共に、皮膜下に錆が形成される過程での、皮膜のフクレや皮膜がフィルム状に剥離するなどの外観異常が極めて起こりにくくなるという効果が見られることが、本発明者らの検討により見出された。
【0033】
この場合、顔料の種類より、顔料の重量部が極めて重要である。処理剤固形分100重量部中の顔料重量が30重量部未満の場合には、皮膜のフクレや皮膜のフィルム状剥離が起こりやすく、また皮膜下の錆の安定化も遅くなる。一方70重量部を上回ると、皮膜としての凝集強度が低下し、皮膜としての安定度が保てなくなる。
【0034】
前記顔料の種類としては、有機顔料と無機顔料があるが、本発明の目的からは無機顔料が好ましい。更に無機顔料としては、バライト、沈降性硫酸バリウム、白亜、沈降性炭酸カルシウム、胡粉、クレー、砥の粉、タルク、ケイソウ土、シリカ白、アルミナ白、石膏、サチン白、グロスホワイト、ベントナイト、ケイ酸カルシウム、沈降性炭酸マグネシウム、ケイ酸アルミニウム、鉛酸カルシウム、酸化チタン、亜鉛華、リトボン、硫化亜鉛、鉛白、酸化ジルコン、アンチモン白、酸化スズ、カーボンブラック、油煙、黒鉛、鉄黒、亜鉛末、亜酸化鉛、炭化ケイ素、ベンガラ、鉛丹、朱、カドミウム赤、カドミウム水銀赤、モリブデン赤、亜酸化銅、アンバー、黄鉛、ジンククロメート、カドミウム黄、合成オーカ、チタン黄、アンチモン黄、バリウム黄、ストロンチウム黄、クロム緑、酸化クロム緑、ビリジアン、亜鉛緑、コバルト緑、エメラルド緑、マンガン緑、紺青、群青、コバルト青、セルリアン青、マンガン青、マンガン紫、濃口コバルト紫、淡口コバルト紫、マルス紫、アルミ粉等が上げられる。
【0035】
これら顔料を適宜組み合わせ、所定の配合量とすれば、いずれの顔料でもよいが、特に処理剤皮膜の色が、概略安定錆と同様の濃褐色で有ることが好ましく、これらの観点から、特にタルク、ベンガラ、鉄黒を配合することが好ましい。
【0036】
(その他の成分)
本発明の処理剤には、上記以外に、ナフテン酸コバルト、ナフテン酸鉛等の硬化促進剤、増粘剤、その他の無機塩、溶剤、処理剤添加物等を含有することが出来る。
【0037】
(錆安定化処理鋼材、錆安定化処理方法)
本発明の錆安定化処理鋼材は、前記の錆安定化処理剤の硬化皮膜が鋼材表面に形成されたものであり、硬化皮膜の膜厚は10〜100μm の範囲が好ましい。これ以下であると本発明処理剤の性能が全般的に劣り、またこれ以上であっても効果は一定で高コストになるため好ましくない。
【0038】
また錆安定化処理に際しては、鋼材表面のスケールを動力工具、サンドブラスト、ショットブラスト等で除去した後に塗布し、乾燥して硬化皮膜を形成するのが好ましい。素地調整のレベルとしては、動力工具の場合にはSt2 以上、ブラスト処理の場合にはSIS Sa2 以上が好ましい。錆安定化処理剤の鋼材表面への塗布方法は、通常の塗料と同様、エアスプレー、エアレススプレー、刷毛塗り等の方法が適用できる。
【0039】
本発明の錆安定化処理法を鋼構造物に適用する場合、通常は鋼構造物のユニットを作成した後に、製品ブラストを行い、その状態で塗装(錆安定化処理)を行い、現地で組立後にタッチアップする方法で行うことが出来る。また、全て現地で塗装することも可能である。更に、既設の構造物に対しても、鋼材表面の素地調整を行うことにより本発明の錆安定化処理を行うことが出来る。
【0040】
【実施例】
以下、本発明の実施例を説明する。
【0041】
JIS G 3114に規定された耐候性鋼材(SMA 400) 試験片(150mm ×70mm×6mm )をブラスト処理した後に表1〜5に示した成分系の処理剤を所定の膜厚塗布した。なお、基体樹脂にカルボキシル基またはスルホン基の何れかのフリーのアニオン性官能基を有する樹脂を配合した場合、カルボキシル基の場合にはヒマシ油変性エポキシ樹脂とヘキサハイドロフタリックアシッドとの反応生成物を用い、酸価はエポキシ樹脂に対するヘキサハイドロフタリックアシッドの比率を種々変えることで調整した。またスルホン基の場合にはスルホン化ポリスチレン−ジビニルベンゼン共重合体とヒマシ油変性エポキシ樹脂を混合したものを用い、酸価は混合比を種々変えることで調整した。
【0042】
また、着色顔料としては、ベンガラと鉄黒を1:3の重量比率で混合した。尚、表1〜5に記載した以外の成分として、硬化促進剤としてナフテン酸コバルトを0.1重量部、ナフテン酸鉛を0.1重量部、その他処理剤としての物性を調整するための添加剤を適宜添加した。尚表1〜5中の重量部は硬化塗膜中の重量部である。
【0043】
(実施例1)
表1〜2に記載した処理剤を塗布した耐候性鋼材を下記の方法で評価し、耐候性鋼の錆安定化処理剤としての性能を評価した。
(1) 田園地帯暴露( 3年、南面30°暴露) による流れ錆有無、および安定錆形成の有無。
(2) 海岸地帯暴露( 3年、南面30°暴露) による流れ錆有無、および安定錆形成の有無。
(3) 促進試験(JIS K-5400 に規定された塩水噴霧試験、1ヶ月) による流れ錆有無
【0044】
流れ錆有無:塗膜表面の外観で評価した。
◎:全く見られない、○:殆ど見られない、
△:多少見られる、×:顕著に見られる
【0045】
安定錆形成:塗膜を剥がし、塗膜下の錆の状況を調べ、以下の評価をした。
◎:緻密で欠陥の少ない錆が連続的に形成されている
○:緻密な錆が連続的に形成されているが、僅かに欠陥がある
△:錆が形成されているものの、緻密さに欠け、欠陥も多い
×:層状の剥がれやすい錆が形成されている
評価結果を表1 〜2に併せて示す。
【0046】
【表1】
【0047】
【表2】
【0048】
(実施例2)
表3〜5に記載した処理剤を塗布した耐候性鋼材を評価し、耐候性鋼の錆安定化処理剤としての性能を評価した。評価は、田園地帯暴露、海岸地帯暴露、促進試験において、実施例1と同様の評価条件で、実施例1と同様の評価項目に加え、更に塗膜外観を評価した。
【0049】
塗膜外観:塗膜にフクレやフィルム状の塗膜剥離が発生しているかどうか調べた。
◎:フクレや剥離が全く見られない
○:フクレか剥離のいずれかが、わずかに見られるが、外観上良好
△:フクレと剥離が見られ、やや外観が悪い
×:フクレ、剥離が顕著に見られ、外観が極めて悪い
評価結果を表3〜5に併せて示す。
【0050】
【表3】
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
表1〜5から以下のことが分かる。
本発明の錆安定化処理を適用された発明例の鋼材は、田園環境、海岸環境いずれにおいても良好な外観保持機能と安定錆形成機能を有し、かつ厳しい環境を模した促進試験においても良好な流れ錆防止機能を有し、あるいは更にいずれの試験においても塗膜のフクレやフィルム状剥離が極めて少なく、良好な塗膜外観を保持する。
【0054】
特に、鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンをリン酸イオンおよび/またはモリブデン酸イオンから選択することで、一層優れた外観保持機能と安定錆形成機能の両立が図れる。
【0055】
また、鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる少なくとも一種以上の塩を処理剤固形分100重量部に対し1〜10重量部含有させることで、一層優れた外観保持機能と安定錆形成機能の両立が図れる。
【0056】
また、マイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物が、酸価10〜100とすることで、一層優れた外観保持機能と安定錆形成機能の両立が図れる。
【0057】
また、マイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物が、フリーのカルボキシル基を有することで、一層優れた外観保持機能と安定錆形成機能の両立が図れる。
【0058】
また、マイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物として脂肪酸変性エポキシ樹脂と無水カルボン酸の反応生成物とすることで、一層優れた外観保持機能と安定錆形成機能の両立が図れる。
【0059】
さらに、マイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物を処理剤固形分100重量部に対し、20〜50重量部含有させることで、一層優れた外観保持機能と安定錆形成機能の両立が図れる。
【0060】
また、処理剤固形分100重量部に対し、顔料を30〜70重量部含有させることで、塗膜下に安定錆が形成される過程において塗膜のフクレや剥離がより起こりにくくなり、処理後から安定錆に置き換わるまでの間における塗膜外観を更に改善できる。特に、顔料としてタルク、ベンガラ、鉄黒を適用することで一層良好な塗膜外観を保持できる。
【0061】
【発明の効果】
以上述べたように、本発明の錆安定化処理剤の硬化皮膜を形成した耐候性鋼材は、田園環境、海洋環境いずれにおいても流れ錆防止性能と効率的な安定錆形成性能を兼ね備えており、非常に厳しい促進試験においても十分な流れ錆防止性能、あるいは更に皮膜のフクレ、フィルム状剥離防止効果を有することが分かった。
【0062】
本発明の錆安定化処理剤を耐候性鋼材に適用することで、良好な外観を保持しつつ、鋼材のメンテナンスフリー化が図れ、従来の塗装の塗り替え等の費用が不要となり、その経済効果は計り知れない。
Claims (9)
- 鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる、少なくとも1種以上の塩、およびマイナスの固定電荷を持つ樹脂組成物を少なくとも含有し、前記樹脂組成物が少なくともフリーのアニオン性官能基を有し、かつ酸価10〜100の樹脂組成物であることを特徴とする耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンが、少なくともリン酸イオンおよび/またはモリブデン酸イオンであることを特徴とする請求項1に記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 処理剤固形分100重量部に対し、鉄イオンに対し捕捉沈着作用を有するアニオンと対カチオンからなる少なくとも1種以上の塩が1〜10重量部含有されていることを特徴とする請求項1または2に記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 樹脂組成物が、脂肪酸変性エポキシ樹脂と無水ポリカルボン酸の反応生成物を含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 処理剤固形分100重量部に対し、樹脂組成物が、20〜50重量部含有されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 処理剤固形分100重量部に対し、顔料が30〜70重量部含有されていることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 顔料が少なくともタルク、ベンガラ、鉄黒から選択される1種以上の顔料であることを特徴とする請求項6に記載の耐候性鋼材の錆安定化処理剤。
- 耐候性鋼材の表面に、請求項1〜7のいずれかに記載の錆安定化処理剤を塗布し、乾燥することを特徴とする耐候性鋼材の錆安定化処理方法。
- 耐候性鋼材表面に請求項1〜7のいずれかに記載の錆安定化処理剤の硬化皮膜が形成されたことを特徴とする錆安定化処理耐候性鋼材。
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