JP3851253B2 - 回折格子及び光ピックアップ - Google Patents
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【発明の属する技術分野】
本発明は、CD(Compact Disk),DVD(Digital Video Disk,Digital Versatile Disk),Blu-Ray Disc等の使用波長が異なる複数規格の光記録媒体に情報の記録または再生を行う光情報処理装置に用いられる回折格子および光ピックアップに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の記録媒体に対して情報の記録または再生を行う情報処理装置において、その情報の記録再生方法の一つとして、光を用いて記録媒体に記録または再生する方法がある。このような光記録再生方法の代表的な例として、直径12cmの光記録媒体の片面にMPEG2形式による圧縮した画像情報を2時間以上を録画したいという要求から、DVD規格のディスク(光記録媒体)を用いるシステムが商品化されている。このDVD規格では、ディスクの記憶容量が片面で4.7GB,トラック密度が0.74μm/トラック,線密度が0.267μm/ビットである。以後、このDVD規格に基づくディスクを単に、DVDと呼ぶ。
【0003】
また、DVDのような光記録媒体に記録された情報の再生は、光ヘッドを用いて行われる。この光ヘッドにおいては、LD(半導体レーザー)から出射される光ビームが対物レンズにより光記録媒体のトラック上のピット列に集光される。さらに、光記録媒体で反射された光ビームは、集光レンズで光検出器に集光され、再生信号が得られる。この光検出器からの再生信号は再生信号処理系に入力され、データの復号が行われる。DVDの場合、光ヘッドにおけるLDの波長は650nm,対物レンズの開口数(NA)は0.6である。
【0004】
さらに、DVDにおける規格を高密度化した新しい規格として、Blu-Ray Discがある。これは、波長405nmの青紫色レーザーを用いて、CDやDVDと同じ直径12cmの相変化型光記録媒体の片面1層に最大27GBの映像データを、繰り返して記録・再生することができる次世代の大容量光記録媒体の規格である。
【0005】
Blu-Ray Discでは、短波長の青紫色レーザーを用いるとともに、ビーム光を集光する対物レンズの開口数(NA)を0.85とすることにより、ビームスポットを微小化している。また、レンズの高開口化に対応した光透過保護層厚0.1mmの光記録媒体構造を採用することで、光記録媒体の傾きによる収差を低減し、さらに読み取りエラーの低減や記録密度の向上を図っている。これにより、光記録媒体の記録トラックピッチをDVDの約半分の0.32μmに微細化し、光記録媒体片面に最大27GBの高密度記録を実現している。
【0006】
図9に光記録媒体(DVDメディア)の記録再生を行うピックアップの概略構成図を示す。光記録媒体(DVDメディア)の光ピックアップ1は通常偏光光学系が用いられる。すなわち、光源のLD2から対物レンズ6までの光路にPBS(偏光ビームスプリッタ)4を配置し,LD2の直線偏光の偏光面と同じ偏光面の光を透過させ、その先に設置してある1/4波長板5で円偏光となり、対物レンズ6で集光させられ、光記録媒体8の基板下の記録層に照射される。
【0007】
さらに、光記録媒体8の反射面からの反射光は入射光と逆回転の円偏光となり、1/4波長板5を透過すると、LD2の偏光面と垂直方向の偏光面をもつ直線偏光となり、PBS4で反射され、集光レンズ7を介してPD(光検出器)10に導かれる。波長板(1/4波長板)5により完璧な円偏光になっている場合は、PBS4の透過光、すなわちLD2の戻り光は“0”となり、メディア反射光はPD10によって完全に検出される。
【0008】
また、光情報処理装置である光ディスクドライブ装置に用いられる光ピックアップとして、光記録媒体からの反射光を回折格子により分岐し、光検出器で受光する光学系を備えたものが種々提案されており、回折格子として偏光性の回折格子を用いたものが知られている。例えば、特許文献1の光ヘッド装置およびその製造方法には、光源からの光束を回折格子を通して光記録媒体に照射することにより、情報の記録・再生を行う光ヘッド装置において、回折格子として、光学異方性ポリマーにより形成された光学異方性を有する回折格子を用いることが記載されている。
【0009】
一方、一台の光ディスクドライブ装置で、CDの記録および再生、DVDの記録および再生が行える、いわゆるスーパーコンボドライブが実用化されている。このCD/DVD兼用光ディスクドライブ装置に用いられる光ピックアップでは、CD用の790nm波長帯の半導体レーザーとDVD用の650nm波長帯の半導体レーザーとが分離した状態で配置されている。この光ピックアップでは、半導体レーザー(650nm波長帯および790nm波長帯)からの出射光は、波長合成プリズムにより同一光軸上で合成され、ビームスプリッタを透過した後に、コリメートレンズで平行光とされ、対物レンズに入射する。この対物レンズを透過し、光記録媒体の情報記録面に集光された光ビームが、その情報記録面で反射され、反射された光(以下、信号光という)は、元の往路と同じ光路を逆行していく。
【0010】
すなわち、この信号光は、再び、対物レンズによって平行光となり、コリメートレンズとビームスプリッタを介し、光検出器の受光面に集光する。そして、この光検出器で電気信号に変換される。
【0011】
また、2つの波長の光を発光する半導体レーザーとして、例えば、790nm波長帯の半導体レーザーと650nm波長帯の半導体レーザーとを1チップ内に形成したモノリシックな2波長用半導体レーザーや、各波長帯のレーザーチップを発光点間が100〜300μm程度の間隔となるように配置した複数チップからなる2波長用半導体レーザーも提案されている。これらの2波長用半導体レーザーを用いれば、前述したような2つの半導体レーザーが別ユニットで構成された従来の光ピックアップに比べ、部品点数が低減し、小型化および低コスト化が図れる。
【0012】
図10に、各波長帯のレーザーチップを近接配置した2波長用の半導体レーザーユニットの概略構成を示す。CD,DVD各波長帯のLD(半導体レーザー)2a,2bを発光点間が100〜300μm程度の間隔となるように配置し、PD(光検出器)10を同一パッケージ内に配置する。また、復路を通った信号光をPD10に導くためのCD,DVD用別に回折格子11a,11bをLD2a,2bの前に配置する。
【0013】
このようなCD,DVD用LD2a,2b、PD10、CD,DVD用回折格子11a,11bを一体構成として配置した場合、復路のCD用の光とDVD用の光のビーム径が重なるため、回折格子には、CD光に対してはDVD光が、DVD光に対してはCD光が透過するときに光を回折させない波長選択性をもたせる必要がある。
【0014】
また、各LD2a,2bに対して近接した位置に回折格子11a,11bを配置しなければならず、この近接位置からPD10に光を導くためには、回折角を15゜〜20゜と大きくしなければならない。また、回折角を大きくするためには回折格子の格子ピッチを狭くする必要があり、回折角からピッチは2μm前後にしなければならない。
【0015】
波長選択性を有する回折格子の場合、波長選択条件と波長を決めると、回折光側の波長の光の回折効率が一義的に決まり、回折効率を任意に設定することができないことから、この問題に対して、特許文献2の2波長用回折格子および光ヘッド装置では、広ピッチの回折格子に対して、格子の凸部の幅と周期の比が0.5で最大回折効率が得られることから、この比を0.5以外の値に設定し、回折効率を低下させることにより、回折効率の最大値以下の領域で任意に回折効率を設定することが記載されている。
【0016】
【特許文献1】
特開平9−50642号公報
【特許文献2】
特開2001−281432号公報
【0017】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、特許文献2に記載の方法は広ピッチの回折格子にのみしか適用されず、回折効率を最大値以上の値に設定することができない。また、狭ピッチ領域における回折効率は、理論的に30%前後に収束し、これより高い回折効率を得ることは難しい。
【0018】
広ピッチ格子の回折効率を高める技術として、格子形状をブレーズ化する方法があり、+方向と−方向の回折光の効率の比を変え、片側に寄せることにより回折効率を向上させることができる。この方法は広ピッチ格子に対しては効果があるが、狭ピッチ格子に対しては、溝の深さに対してピッチが小さいのでブレーズ形状を作成するのが難しく、高効率な回折格子を形成することは困難である。
【0019】
記録用DVDにおいては、現在主に偏光光学系が用いられており、復路回折効率が32%程度の偏光性回折格子が用いられている。今後さらに高速化すると、PD検出光量が不足し、高速記録ドライブを実現することが困難となる。偏光性回折格子の回折効率が現状の32%から上昇すると、PD検出光量が増加し、さらに高速記録可能なDVD記録ドライブが実現できる。
【0020】
また、Blu-Ray Discなどの光源波長が400nm帯を用いる光ディスクドライブ装置に用いる光ピックアップにおいては、さらに高効率な回折格子が必要となる。つまり、レンズなどの光学材料の透過率が波長660nm帯では95%以上であったが、波長400nm帯では90%に低下する。さらに球面収差、コマ収差等の各種収差を補正する素子が数多く入り、各光学部品を透過する際に生ずる光量低下が大きな問題となる。また、短波長化による量子効率の低下から光検出器の光電変換効率が低下し、PD検出光量が激減する問題がある。以上のような検出光量低下を考慮すると、光源波長が400nm帯を用いる光ディスクドライブ装置に用いる光ピックアップにおいては、回折効率が60%以上必要となり、狭ピッチ回折格子を用いて光ピックアップを構成することは困難であるという問題があった。
【0021】
本発明は、前記従来技術の問題を解決することに指向するものであり、格子ピッチを小さくした場合の回折格子において、回折効率を大きくすることが可能な回折格子を実現し、この回折格子を用いて従来技術の問題点を解決した光ピックアップを提供することを目的とする。
【0022】
【課題を解決するための手段】
この目的を達成するために、本発明に係る回折格子および光ピックアップにおける請求項1記載の回折格子は、断面形状が周期的な凹凸形状を有する回折格子において、回折格子の凸部間のピッチをΛ、凸部を形成する屈折率の大きい部材の幅をD、回折格子の凹部の深さをT、回折格子の平均屈折率をn、光源の波長をλ、回折格子の厚さ形状を定義するQ値をQ=2πλT/nΛ2とした場合、「Q>1」,「D/Λ≦0.4」の2式を満足することによって、凹凸形状を有する回折格子の凸部間のピッチΛと凸部の幅DとのD/Λが条件を満足する回折格子によって、0次回折光,±1次回折光において大きな回折効率を得ることができる。
【0023】
また、請求項2記載の回折格子は、請求項1記載の回折格子において、回折格子の凸部の幅Dと凸部間のピッチΛにおける、D/Λ≦0.4を満足するように明暗の幅の比を1:1から変更したマスクパターンを有するフォトマスクを用いて回折格子を作成したことによって、所望のD/Λの値となるように明暗の幅の比を変えたマスクパターンを有するフォトマスクを用いて回折格子を形成して、0次回折光,±1次回折光において大きな回折効率を得ることができる。
【0024】
また、請求項3〜5記載の回折格子は、請求項1,2記載の凹凸形状を有する回折格子において、凸部を複屈折媒質で形成し凹部を等方性媒質で充填したこと、また凸部の複屈折媒質に、有機延伸膜を用いたこと、または凸部の複屈折媒質に、液晶を用いたことによって、入射光の偏光面の角度により任意に回折効率を可変でき、往路で透過、復路で回折させることができる。
【0025】
また、請求項6記載の回折格子は、請求項1〜5記載の回折格子において、この回折格子が、光源の波長として、波長λ1および波長λ2を用いて、一方の波長λ1を透過させるとともに、他方の波長λ2を回折させることによって、回折格子を2波長の光源、光検出器等と集積して一体形成することができる。
【0026】
また、請求項7,8記載の光ピックアップは、請求項1〜6のいずれか1項記載の回折格子を用いる、光源からの出射光を取り込み、集光レンズにより光記録媒体上に集光して記録または再生を行う光ピックアップにおいて、光源と光記録媒体間の光路中に配置される回折格子と、光記録媒体からの反射光を回折格子により分岐して受光する光検出器とを備えたこと、さらに、光源と、光検出器と、回折格子が一体化されたことによって、高い検出効率を得ること、高速記録・再生することができ、光ピックアップの組み立て時間が短縮、光学系調整も簡単に行うことができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照して本発明における実施の形態を詳細に説明する。
【0028】
図1は本発明の実施の形態1における凹凸形状を有する回折格子の概略構成を示す部分断面図である。例えば、この回折格子には、SiO2等の透明な部材の表面にエッチング等により図1に示すような溝(凹部)を形成している。溝は矩形状であり、回折格子の凸部間(格子)のピッチΛ=8μm、溝深さT=1μmである。入射光側は空気であり、屈折率n1=1、透過光側はSiO2であり、屈折率n2=1.45である。入射光側から波長λ=0.66μmの単色光を入射し、透過側の0次回折光、±1次回折光を測定する。格子の屈折率の高い側すなわちSiO2側の幅をDとし、D/Λを考える。
【0029】
図2にピッチΛを一定にしたときのD/Λの変化に対する±1次回折光の回折効率を示す。図2に示す破線のピッチΛが8μmのときにD/Λは0.5より少し小さいところで最大の26.4%となり、D/Λが大きくなると回折効率は減少する。同様に、D/Λが小さくなっても回折効率は減少する。また、格子ピッチΛを1.5μmとすると、図2に示す実線のように、D/Λが0.5のとき、回折効率は20.9%であるが、最大とはならず、D/Λを小さくしていくと、すなわちSiO2の幅Dが小さくなると、回折効率は上昇する。D/Λが0.2近くで回折効率は46.0%となり、ピッチΛが8μmの最大回折効率26.4%を大幅に上回る。このように、D/Λを調整することにより、回折効率をD/Λが0.5のときより大きくすることができる。
【0030】
以上のことから、D/Λが小さい領域、特に0.4以下の領域で回折効率の最大値が現れるので、D/Λを0.4よりも小さくするとことによって±1次回折効率を高めることができる。
【0031】
このような断面形状が周期的な凹凸形状である回折格子において、凸部間のピッチをΛ,凹部の深さをT,回折格子の平均屈折率をn,光源の波長をλ,Q値をQ=2πλT/nΛ2とし、回折格子の凸部を形成する屈折率の大きい部材の屈折率をn2、回折格子の凹部を形成する屈折率の小さい部材の屈折率をn1、屈折率差をΔn=n2−n1としたときの、凸部間のピッチΛに対する屈折率の大きい部材(凸部)の幅Dとの比をD/Λとすると、±1次回折効率が最大値となるD/Λの値D/Λmaxは、種々の実験結果や計算から、(数1)のように表すことができる。
【0032】
【数1】
D/Λmax=1/2・exp(−3ΔnQ/2)
ここで、ピッチΛ=8μmのとき、(数1)から計算したD/Λmaxは0.48、また、ピッチΛ=1.5μmのときのD/Λmaxは0.18となり、図2の結果と一致する。したがって、回折格子のD/Λを(数1)を用いて計算したD/Λに近づけることによって、D/Λが0.5の従来の回折格子より大きい±1次回折効率をもつ回折格子を実現できる。
【0033】
薄い格子、厚い格子の目安として、回折格子のQ値が定義されている。いま、光源の波長をλ,回折格子の凹部の深さをT,回折格子の平均屈折率をn,格子(凸部間の)ピッチをΛとしたとき、回折格子のQ値は、(数2)で与えられる。
【0034】
【数2】
Q=2πλT/nΛ2
ここで、Q<1のとき薄い平面型格子、Q>10のとき厚い体積型格子、1<Q<10のとき平面型から体積型への中間領域の格子という目安がある。図2の例では、ピッチΛ=8μmのとき、Q=0.05となり、薄い平面型格子である。また、ピッチΛ=1.5μmのときはQ=1.5となり、中間領域の格子となる。ピッチΛ=8μmの薄い平面型格子の場合は、図2よりD/Λの調整による±1次回折効率の向上効果は現れないが、ピッチΛ=1.5μmの中間領域の格子では、D/Λの調整による±1次回折効率の向上効果は顕著である。
【0035】
このように中間領域から厚い体積型格子にかけての領域、すなわちQ>1の領域においてD/Λの調整による回折効率の向上効果は顕著である。したがって、Q>1の領域の回折格子において、D/Λを0.4以下に調節することにより±1次回折効率を大きくすることができる。
【0036】
次に、本発明の実施の形態2における回折格子について、その作成方法を、図3(a)〜(f)を参照しながら説明する。まず、図3(a)に示すように、透明性の基板の上にフォトレジスト層をスピンコートなどにより形成する。このフォトレジスト層に格子パターンを露光し現像を行うと、図3(b)の透明性基板の上に回折格子のパターンが形成される。ここで、露光するときの格子パターンのラインアンドスペース(明暗)の比を1:1からずらし、完成状態の回折格子のD/Λが所望の値となるように調整し形成する。ここが本実施の形態2における回折格子の大きな特徴である。
【0037】
以上のように形成したフォトレジストの格子パターンの上にアルミニウム,クロムなどの金属層を真空蒸着、スパッタリング法などにより形成し(図3(c)参照)、次にフォトレジストパターンをアセトン等の有機溶剤による溶出、あるいは酸素プラズマ中での分解による除去を行って、フォトレジストパターンとその上の金属層を取り除く。図3(d)に示すように、残った金属格子パターンが以後のドライエッチングのマスクとなる。
【0038】
次に、前述した透明性の基板上に金属格子パターンを形成したものをイオンビームエッチング、反応性イオンエッチング、あるいはプラズマエッチングなどのドライエッチング装置に入れ、金属パターンをマスクとしてエッチングする(図3(e)参照)。所望の深さまでエッチングした後、酸によって金属マスクを除去することにより、図3(f)に示す所望のD/Λの値をもった回折格子を形成することができる。
【0039】
本実施の形態3によれば、従来の回折格子の形成プロセスを殆ど変更することなく、格子パターンの明暗の幅の比を1:1から変えたマスクパターンをもつフォトマスクを用いて所望のD/Λの値の回折格子を形成でき、この回折格子により0次回折光,±1次回折光における大きな回折効率を得ることができる。
【0040】
図4は本発明の実施の形態3におけるCD/DVD共通光路としたLD,PDユニットの概略構成を示す図である。図4に示すCD用LD2aとDVD用LD2bの間隔を100μmから300μmに近接して設置する。CD用LD2aから出射された波長780nm帯の光は、広がり角θCDをもってDVD用回折格子(HOE)11bとCD用HOE11aを透過する。CD用HOE11a,DVD用HOE11bを透過した光はCL(コリメートレンズ)3,波長板(1/4波長板)5,OL(対物レンズ)6を透過し、光記録媒体8の情報記録面に照射される。
【0041】
光記録媒体8の情報記録面から反射した信号光は、再び、OL6,CL3を通り、CD用HOE11a,DVD用HOE11bを透過する。このとき、CD用HOE11aではCD光を回折し、DVD光は透過する。逆に、DVD用HOE11bではCD光が透過し、DVD光を回折する。この回折した光は、CD,DVD光共にPD(光検出器)10に入射し、光記録媒体8からの反射光の光量を検出する。
【0042】
このようなCD/DVD共通光学系において、CD光学系は無偏光光学系、DVDは偏光光学系とする。したがって、CD用HOE11aは無偏光回折格子であり、複路においてDVDの光に対する0次回折効率は95%以上が必要とされる。またCD光においても、CD書き込み系ピックアップの場合、0次回折効率は80%以上、1次回折効率は8%以上が必要とされる。
【0043】
これらの条件を元に、無偏光CD用HOEを設計した。材質はBK7で屈折率n2=1.51、屈折率差Δn=0.51、格子部平均屈折率n=1.26、形状はピッチΛ=2.4μm、D/Λ=0.23の矩形格子である。図5に前記形状の矩形格子の溝深さTに対するDVD光(波長λ=0.66μm)の0次回折効率,1次回折効率CD光(波長λ=0.78μm)の0次回折効率,1次回折効率を示す。波長選択CD用HOEの場合、DVD光は透過、CD光は一部回折させるため、溝深さは、図5でDVD0次回折光の2つめの最大値である1.5μm辺りを使用する。溝深さT=1.55μmとしたとき、DVD0次回折効率95%、CD0次回折効率81%、CD1次回折効率9.1%が得られた。
【0044】
一般に回折格子の設計では、簡便に、スカラー回折理論に基づく代数計算により回折効率を求める。スカラー回折理論では、波長λにおける0次回折効率η0と±1次回折効率η1は、それぞれ、(数3),(数4)となる。
【0045】
【数3】
η0=(2D/Λ−1)2Sin2θ+cos2θ
【0046】
【数4】
η1=4(Sin(πD/Λ)/π)2Sin2θ
ただし位相変化θは、(数5)である。
【0047】
【数5】
θ=π/λ・ΔnT
この式を用いて前記条件の回折格子の、溝深さTに対するDVD0次回折効率を求めると図6に示す曲線となる。ただし、この図6ではD/Λ=0.5で計算を行った。(数3)のスカラー計算では、図6のように溝深さTに対して回折効率は規則的なコサイン関数となり、溝深さT=1.3μmで2山目の最大値となる。
【0048】
しかし、実際の回折格子は図6の太線で示す曲線のようにはならず、図6中の破線で示す曲線となる。この曲線はRCWA(厳密結合波解析)法で計算した値であり、実測データとも一致する。この2山目の0次回折光の低下の要因は、スカラー計算では生じない偶数次回折光の発生であり、この偶数次の回折光により0次回折光の効率が低下している。この図6の破線で示す曲線の計算は、D/Λ=0.5で行ったが、D/Λを調整して、D/Λ=0.23とすると、図6の細線で示す曲線のように、このDVD0次回折光の2山目の回折効率が上昇する。溝深さT=1.45μmで最大値となり、D/Λ=0.5のときの回折効率に比べ、各段に大きくなり、スカラー計算に近い値となっている。このように、D/Λを0.4より小さい値に調整することにより、回折格子の回折効率を格段に上昇させることができる。
【0049】
次に、本発明の実施の形態4における回折格子について、その実施例1として作成方法を、図7(a)〜(g)を参照しながら説明する。本実施例1の回折格子は、偏光性回折格子であり、まず、光学ガラスなどの透明性の基板の上に複屈折媒質を形成する。この形成法は複屈折媒質の膜を基板に貼りつける、あるいは複屈折媒質をスピンコートなどで塗布する、あるいは真空蒸着,スパッタリングなどの物理的製膜法で形成する。さらに、複屈折媒質の上にフォトレジスト層をスピンコートなどにより形成する(図7(a))。
【0050】
フォトレジスト層に格子パターンを露光し現像を行った後、透明性基板の上に回折格子のパターンが形成される(図7(b))。ここで露光するときの格子パターンのラインアンドスペースの比を1:1からずらし、完成状態の回折格子のD/Λが所望の値となるように調整する。これは前述した実施の形態2と同様である。このように形成したフォトレジストの格子パターンの上にアルミニウム,クロムなどの金属層を真空蒸着,スパッタリング法などにより形成し(図7(c))、このフォトレジストパターンとその上の金属層をアセトン等の有機溶剤による溶出、あるいは酸素プラズマ中での分解による除去によって、フォトレジストパターンとその上の金属層を取り除く(図7(d))。残った金属格子パターンが以後のドライエッチングのマスクとなる。
【0051】
次に、透明基板上の複屈折媒質に金属格子パターンを形成したものをイオンビームエッチング、反応性イオンエッチング、あるいはプラズマエッチングなどのドライエッチング装置に入れ、金属パターンをマスクとして複屈折媒質をエッチングする(図7(e))。所望の深さまでエッチングした後、酸によって金属マスクを除去すると、凹凸形状の矩形格子が複屈折媒質に形成される(図7(f))。
【0052】
さらに、複屈折媒質の凹凸部を等方性の媒質で充填し、その上に透明基板を被せる(図7(g))。このとき、等方性媒質の屈折率は、複屈折媒質の常光線屈折率あるいは異常光線屈折率の何れかと等しいことが透過率、回折効率を高める上で望ましい。また、最上部の透明基板は必ずしも必要ではなく、等方性媒質の平坦性が確保することができればなくてもよい。
【0053】
本実施例1では、ドライエッチング用の金属マスクの作成方法として、いわゆるリフトオフ法を用いる作成方法を述べたが、この方法に限定されず、複屈折媒質上に直接金属層を形成し、この金属層上にフォトレジストを塗布して格子パターンを露光,現像して、フォトレジストによる格子パターンを形成し、この格子パターンをエッチングマスクとして金属層をエッチングする。その後にフォトレジストを除去して図7(e)に示す状態を形成することもできる。以上の方法によって、所望のD/Λの値をもった回折効率の高い偏光性回折格子を形成することができる。
なお、複屈折媒質は複屈折性を示す透明性物質なら何でもよく、有機膜、有機延伸膜が使用できる。有機延伸膜の材料としては、ポリエステル系、ポリイミド系、ポリエチレン系、ポリカーボネイト系、ポリビニルアルコール系、ポリメタクリル酸メチル系、ポリスチレン系、ポリサルフォン系、ポリエーテルサルフォン系、ポリエチレンテレフタレート系などの有機材料が使える。特にPET(ポリエチレンテレフタレート)、PC(ポリカーボネイト)の延伸膜は、延伸方向とその垂直方向の屈折率差Δnが0.1と大きく、本実施例1には最適である。
【0054】
また、本実施の形態4の実施例2における回折格子の形成方法として、複屈折媒質に代えて液晶を使うこともできる。以下に、本実施の形態4の実施例1として液晶の場合の形成方法を示す。まず、透明基板を配向処理し、その上に光硬化性液晶を均一に塗布し、配向方向に合わせ格子パターンを露光する。ここで、露光するときの格子パターンのラインアンドスペースの比を1:1からずらし、完成状態の回折格子のD/Λが所望の値となるように調整する。ここが本特許の大きな特徴である。硬化後未硬化部を除去すると、液晶の凹凸形状ができる。凹部を等方性物質で充填し、等方性物質表面に透明基板を接着することにより、偏光性回折格子を形成することができる。
【0055】
また、本実施の形態4の実施例3における回折格子の形成方法として、以下に示すような液晶偏光性回折格子の形成方法がある。配向処理した2枚の透明基板を、配向面を内側にして配向方向を合わせ向かい合わせて設置する。2枚の基板のギャップは、ギャップを一定に保つギャップ材により一定に保たれている。そのギャップに光硬化性液晶を注入し、格子パターンを露光し、液晶硬化部と未硬化部の回折格子を形成する。ここでも同様に、露光するときの格子パターンのラインアンドスペースの比を1:1からずらし、完成状態の回折格子のD/Λが所望の値となるように調整する。その後外部から液晶に電界を印加し、その電界を印加した状態で全面露光する。液晶未硬化部が電界配向状態で硬化し、液晶による偏光性回折格子を形成することができる。
【0056】
なお、偏光性回折格子の形成方法は前述した各実施例により説明した形成方法だけではなく、様々な方法がある。このように形成された偏光性回折格子は、液晶の方向とその垂直方向の屈折率差Δnが最大0.2にすることができ、本発明には最適である。
【0057】
以上のように作成した偏光性回折格子の動作について説明する。偏光性回折格子は、複屈折媒質に形成された回折格子の溝を等方性媒質で充填した構造をもっている。等方性媒質の屈折率は複屈折媒質の常光線屈折率、あるいは異常光線屈折率とほぼ同じであるように選定する。ここでは等方性媒質の屈折率は複屈折媒質の常光線屈折率と同じであるとする。
【0058】
このような回折格子に、直線偏光を入射した場合を考える。まず常光線屈折率に従う偏光面をもった光を入射すると、格子部の複屈折媒質の屈折率は常光線屈折率であり、等方性媒質の屈折率も常光線屈折率に等しいため、この偏光面をもった光に対しては格子を認識することができない。したがって、入射光はそのまま透過し、回折格子として機能しない。逆に、異常光線屈折率に従う偏光面をもった光を入射すると、格子部の複屈折媒質の屈折率は異常光線屈折率であり、等方性媒質の屈折率は常光線屈折率に等しいため、この偏光面をもった光は格子を認識し、光を回折する。このように、入射光の偏向方向によって回折効率を変えることができる。
【0059】
図4を参照しながら、本発明の実施の形態5の光ピックアップにおける、偏光性回折格子を用いたDVD用HOE11bを説明する。DVDは図9で説明したのと同じく、書き込み光学系の場合、記録パワーの制限から照明効率を上げなければならず、偏光光学系を採用している。DVD用LD2bから出射した光は、DVD用HOE11bに入射する。このとき、DVD用HOE11bは偏光性回折格子であるため、往路の光に対して、透過光が最大となるように偏光面が調節されている。すなわち、往路の光に対してはDVD用HOE11bは透明板として機能する。
【0060】
その後、波長板(1/4波長板)5を透過して光記録媒体8を反射した光は、再び波長板5を透過し、偏光面が90゜回転した直線偏光となってDVD用HOE11bに逆側から入射する。偏光面が90゜回転しているため、復路の光に対してはDVD用HOE11bは回折格子として機能し、光を回折し、PD10に信号光を導く。このときDVD光は、CD用HOE11aを往路復路共に透過するが、実施の形態3で示したように、CD用HOEはDVD光に対しては透過であるため、問題とはならない。
【0061】
図4は前述したように、CDとDVD共通光路におけるLD,PDユニットを示し、CD用LD2aとDVD用LD2bの間隔を100μmから300μmに近接して設置する。DVD用LD2bから出射された波長660nm帯の光は、広がり角θDVDをもってDVD用HOE11bとCD用HOE11aを透過する。CD/DVD用HOEを透過した光はCL(コリメートレンズ)3、波長板5、OL(対物レンズ)6を透過し、光記録媒体8の情報記録面に照射される。情報記録面から反射した信号光は再びOL6、CL3を通り、CD用HOE11a、DVD用HOE11bを透過する。このとき、CD用HOE11aではCD光を回折し、DVD光は透過する。逆に、DVD用HOE11bはCD光は透過し、DVD光を回折する。この回折した光は、CD,DVD光共にPD(光検出器)10に入射し、光記録媒体8からの反射光の光量を検出する。
【0062】
このようなCD/DVD共通光学系において、CD光は無偏光光学系、DVD光は偏光光学系とする。したがって、DVD用HOE11bは偏光性回折格子であり、復路においてCD光に対する0次回折効率は95%以上が必要とされる。また、DVD光においても、DVD書き込み系ピックアップの場合、1次回折効率は32%以上が必要とされる。
【0063】
これらの条件を元に、偏光性回折格子のDVD用HOEを設計した。材質は液晶で屈折率差Δn=0.2,形状はピッチΛ=2.0μm,D/Λ=0.26の矩形格子である。図8に前記形状の矩形格子の溝深さTに対するDVD光(波長λ=0.66μm)の1次回折効率、CD光(波長λ=0.78μm)の0次回折効率を示す。DVD用HOEの場合、CD光は透過、DVD光は回折させるため、溝深さTは、図8で5.8μm辺りを使用する。溝深さT=5.8μmとしたとき、DVD1次回折効率38%、CD0次回折効率96%が得られた。
【0064】
ここで、CD0次回折光の入射角度について、図4を用いて説明する。本実施の形態5ではDVD用HOE11bを光源側、CD用HOE11aをOL6側に配置した。このようにCD/DVD用HOE11a,11bを配置した場合、復路においてDVD用HOE11bをCD光が透過するときに、CD光は既にCD用HOE11aで回折されており、DVD用HOE11bにはCD用HOE11aの回折角が付いた入射角度で入射することとなる。CD用HOE11aのピッチΛは2.4μmであり、このピッチΛからCD用HOE11aのCD光回折角度は19゜である。DVD用HOE11bのCDの0次光回折効率は、このCD光の入射角度19゜を考慮しなければならない。先に算出したCDの0次光回折効率96%および図8のCDの0次光回折効率は、このCD入射角を考慮した値である。
【0065】
前述した各実施の形態のようなD/Λを0.4以下に調整した回折格子を光ピックアップに用いることにより、高い検出効率を得ることができ、高速記録・再生可能な光ピックアップを実現できる。
【0066】
また、本実施の形態3の図4に示すように複数波長の光源,光検出器,複数波長用の回折格子を一体化して構成することにより、光ピックアップの組み立てを行う際に、複数波長の光源,光検出器,複数波長用の回折格子が一体化されているので組み立て時間が短縮され、光学系調整も簡単に行うことができる。
【0067】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、凹凸形状を有する回折格子の凸部間のピッチΛと凸部の幅DのD/Λが各条件を満足する回折格子によって、また、所望のD/Λの値となるように明暗の幅の比を変えたマスクパターンを有するフォトマスクを用いて回折格子を形成して、0次回折光,±1次回折光において大きな回折効率を得ること、また、凸部を複屈折媒質で形成し凹部を等方性媒質で充填した偏光性回折格子により、入射光の偏光面の角度により任意に回折効率を可変でき、往路で透過、復路で回折させることができ、さらに、光源の波長λ1および波長λ2の2波長の一方を透過、他方を回折させることで2波長の光源、光検出器、複数波長用の回折格子を一体化できる。
【0068】
また、光ピックアップに前述した回折格子を用いることで、高い検出効率を得ることができ、また高速記録・再生することができ、光ピックアップの組み立て時間が短縮、光学系調整も簡単に行うことができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の実施の形態1における凹凸形状を有する回折格子の概略構成を示す部分断面図
【図2】ピッチΛを一定にしたときのD/Λの変化に対する±1次回折光の回折効率を示す図
【図3】本発明の実施の形態2における回折格子の作成方法を説明する図
【図4】本発明の実施の形態3におけるCD/DVD共通光路としたLD,PDユニットの概略構成を示す図
【図5】本実施の形態3における回折格子の溝深さTに対するDVD0次回折効率、CD0次回折効率、1次回折効率を示す図
【図6】本実施の形態3における回折格子の溝深さTに対するDVD0次回折効率を示す曲線を示す図
【図7】本発明の実施の形態4における偏光性回折格子の作成方法を説明する図
【図8】本実施の形態3における回折格子の溝深さTに対するDVD1次回折効率、CD0次回折効率を示す図
【図9】光記録媒体に記録再生を行うピックアップの概略を示す構成図
【図10】各波長帯のレーザーチップを近接配置した2波長用の半導体レーザーユニットの概略構成を示す図
【符号の説明】
1 光ピックアップ
2 LD(半導体レーザー)
2a CD用LD
2b DVD用LD
3 CL(コリメートレンズ)
4 PBS(偏光ビームスプリッタ)
5 波長板(1/4波長板)
6 OL(対物レンズ)
7 集光レンズ
8 光記録媒体
10 PD(光検出器)
11a CD用HOE(回折格子)
11b DVD用HOE(回折格子)
Claims (8)
- 断面形状が周期的な凹凸形状を有する回折格子において、前記回折格子の凸部間のピッチをΛ、前記凸部を形成する屈折率の大きい部材の幅をD、前記回折格子の凹部の深さをT、前記回折格子の平均屈折率をn、光源の波長をλ、前記回折格子の厚さ形状を定義するQ値をQ=2πλT/nΛ2とした場合、
Q>1
D/Λ≦0.4
の2式を満足することを特徴とする回折格子。 - 前記回折格子の凸部の幅Dと前記凸部間のピッチΛにおける、D/Λ≦0 . 4を満足するように明暗の幅の比を1:1から変更したマスクパターンを有するフォトマスクを用いて前記回折格子を作成したことを特徴とする請求項1項記載の回折格子。
- 前記凹凸形状を有する回折格子において、凸部を複屈折媒質で形成し凹部を等方性媒質で充填したことを特徴とする請求項1または2記載の回折格子。
- 前記凸部の複屈折媒質に、有機延伸膜を用いたことを特徴とする請求項3記載の回折格子。
- 前記凸部の複屈折媒質に、液晶を用いたことを特徴とする請求項3記載の回折格子。
- 前記光源の波長として、波長λ1および波長λ2を用いて、一方の波長λ1を透過させるとともに、他方の波長λ2を回折させることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項記載の回折格子。
- 請求項1〜6のいずれか1項記載の回折格子を用いる、光源からの出射光を取り込み、集光レンズにより光記録媒体上に集光して記録または再生を行う光ピックアップにおいて、
前記光源と前記光記録媒体間の光路中に配置される前記回折格子と、前記光記録媒体からの反射光を前記回折格子により分岐して受光する光検出器とを備えたことを特徴とする光ピックアップ。 - 前記光源と、前記光検出器と、前記回折格子が一体化されたことを特徴とする請求項7記載の光ピックアップ。
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