JP3850082B2 - アルミニウム合金製熱交換器 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、例えば自動車用熱交換器のヘッダープレートやドローンカップ型ヘッダープレートなどの如く、アルミニウム合金ブレージングシートを用いたろう付け構造体として、水やフレオンガス等の流体(熱交換媒体)の通路を構成するアルミニウム合金製熱交換器に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
アルミニウム合金からなる芯材の両面もしくは片面にアルミニウム合金ろう材をクラッドしてなるブレージングシートは、種々のろう付け構造体に使用されているが、近年は特に自動車用熱交換器に多用されるようになっている。この種の自動車用熱交換器としては、オイルクーラ、インタークーラ、ラジェータ、エアコンのエバポレータやコンデンサ等がある。
【0003】
ところで熱交換器に使用されるアルミニウム合金製ブレージングシートの芯材としては、一般にAl−Mn系合金、Al−Mn−Cu系合金、Al−Mn−Mg−Cu系合金などの主としてMnを含有するアルミニウム合金、具体的にはJIS 3003合金や3005合金などが使用されており、また高強度ブレージングシートの芯材としては、Al−Mg−Si系の6951合金などが使用されている。一方ろう材としては、一般にAl−Si系合金、Al−Si−Mg系合金、Al−Si−Mg−Bi系合金など、主としてSiを添加したアルミニウム合金が用いられている。なお従来のブレージングシートとしては、芯材の両面にろう材をクラッドした3層構造、あるいは芯材の片面にろう材をクラッドした2層構造、さらには芯材の一方の片面にろう材を、他方の片面に犠牲陽極材をクラッドした3層構造が一般的である。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
前述のような熱交換器の耐食性としては、外部側、すなわち大気に接触する側からの腐食(これを一般に外部腐食と称す)に対する耐食性(外部耐食性)と、内部側、すなわち水やフレオンガス等の熱交換媒体(通常は冷却媒体)に接触する側からの腐食(これを一般に内部腐食と称す)に対する耐食性(内部耐食性)とに大別される。そして各種の熱交換器のうちでも、特にエバポレータ、コンデンサ等においては、内部腐食よりも外部腐食の方が進行しやすく、そのため内部耐食性よりも外部耐食性を重視する必要があるとされている。
【0005】
熱交換器における外部耐食性を向上させる手段としては、熱交換媒体通路を構成するコア材の外面に亜鉛拡散層を形成しておき、その亜鉛拡散層による犠牲陽極効果によって外部腐食に対して防食することが考えられているが、この場合、熱交換器の組立てに真空ろう付けを適用すれば、蒸気圧の高い亜鉛が蒸発飛散してしまい、充分な犠牲陽極効果が得られなくなってしまう問題がある。
【0006】
また一方、熱交換器のフィン材として、熱交換媒体通路を構成するコア材よりも電位が卑なアルミニウム合金(例えばAl−Zn系合金、Al−Zn−Mg系合金、Al−Sn系合金、Al−In系合金など)を用い、フィン材による犠牲陽極効果によってコア材を防食することも従来から行なわれている。しかしながらフィン材による犠牲陽極効果は、フィン材接合部分近傍しか効果が及ばず、そのためフィン材接合部分から離れたドローンカップエバポレータのタンク部やラジェータのコアプレート部等は、フィン材による犠牲陽極効果が作用せず、孔食が発生してしまう等の問題がある。
【0007】
そこで外部耐食性を向上させるためには、熱交換器における熱交換媒体通路を構成するコア材自体の耐食性、特にコア材として一般に使用されているブレージングシート自体の耐食性を向上することが要求される。
【0008】
ところで従来からこの種の熱交換器用ブレージングシートの芯材に使用されている3003合金や6951合金は、比較的耐食性が良好とされてはいるが、自動車等に使用される熱交換器としては軽量化の要求が一層強まっており、そのため熱交換器用ブレージングシートとしても、現状よりもさらに薄肉でも早期に外部腐食が貫通しないような優れた外部耐食性が望まれている。
【0009】
また例えば東南アジアの如く、高温多湿でしかも酸性雨の降るような地域で使用される自動車向けの熱交換器用ブレージングシートの場合、特に外部腐食が激しいところから、従来のブレージングシートでは必ずしも満足できる状況にはなかったのが実情である。
【0010】
そこで、ろう付け後の耐食性、特に外部耐食性が従来のブレージングシートよりも著しく優れ、薄肉化を図った場合や腐食しやすい環境下においても外部腐食が早期に貫通しないような熱交換器用ブレージングシートの開発が強く望まれている。
【0011】
この発明は以上の事情を背景としてなされたもので、熱交換媒体通路としてアルミニウム合金ブレージングシートを用いてなる熱交換器として、ろう付け後の外部耐食性が著しく優れたものを提供することを目的とするものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
前述のような課題を解決するため、本願発明者等が鋭意実験・研究を重ねた結果、アルミニウム合金ブレージングシートの内部におけるCu濃度について、板厚方向に勾配を持たせ、かつそのCu濃度勾配を適切に定めると同時に板厚方向の最大Cu濃度位置を適切に定めることによってアルミニウム合金ブレージングシートを用いた熱交換器の外部耐食性を確実かつ充分に向上させ得ることを見出し、この発明をなすに至った。
【0013】
具体的には、請求項1の発明は、芯材の片面もしくは両面にろう材をクラッドしてなるアルミニウム合金ブレージングシートを用い、ろう付けにより組立ててなるアルミニウム合金製熱交換器において、ろう付け加熱後のブレージングシート内部のCu濃度分布がブレージングシートの厚み方向に変化するように構成されており、かつその厚み方向におけるCu濃度の最大の位置が、ろう付け加熱後のブレージングシートの板厚方向中央位置と熱交換器内側に対応する表面位置との間にあり、しかも熱交換器外側に対応するろう付け加熱後のブレージングシートの表面位置から内部の最大Cu濃度位置へ向けての平均Cu濃度勾配が1〜4wt%/mmの範囲内にあることを特徴とするものである。
【0014】
また請求項2の発明のアルミニウム合金製熱交換器は、請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器において、ろう付け加熱後におけるブレージングシート内部の最大Cu濃度が0.6〜1.5wt%の範囲内にある構成とされている。
【0015】
さらに請求項3の発明のアルミニウム合金製熱交換器は、請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器において、ろう付け加熱後におけるブレージングシート内部の最大Cu濃度位置が、熱交換器内側から見て板厚の3/5〜9/10の範囲内の位置にある構成とされている。
【0016】
そしてまた請求項4の発明のアルミニウム合金製熱交換器は、請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器において、前記ブレージングシートの芯材が、Cu濃度の異なる複数枚の単位アルミニウム合金板を積層した構成とされているものである。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1にこの発明の熱交換器に使用されるアルミニウム合金ブレージングシートの一例と、そのブレージングシート中におけるろう付け加熱後の板厚方向のCu濃度分布の一例を模式的に示す。
【0018】
図1に示されるブレージングシート1は、芯材の両面にろう材をクラッドした例を示すものであり、ろう付け加熱時にはろう材はかなりの量がろう付け接合部へ流れてしまうため、ろう付け加熱後の状態では芯材部分2の両側に残っているろう材層3,4はその厚みがろう付け加熱前よりも格段に薄くなっている。またこのようなろう付け加熱後の状態では、実際上はろう材層3,4と芯材部分とは融合一体化して、合金元素も相互に拡散した状態となっている。
【0019】
図1中においてP0 はブレージングシート1の板厚方向中央位置、P1 は熱交換器の外側(大気側)に対応する表面位置(以下これを“外側表面位置”と記す)、P2 は熱交換器の内側(熱交換媒体流通側)に対応する表面位置(以下これを“内側表面位置”と記す)を示す。ここで、ろう付け加熱後のブレージングシート中のCu濃度は、その厚み方向に変化している。すなわち、Cu濃度について板厚方向に勾配が与えられている。そしてろう付け加熱後のブレージングシート中において板厚方向に見てCu濃度が最大となる位置(以下これを“最大Cu濃度位置”と記す)Qは、板厚方向中央位置P0 と、内側表面位置P2 との間に位置している。またろう付け加熱後のブレージングシートの外側表面位置P1 から最大Cu濃度位置Qまでの平均Cu濃度勾配は、1〜4wt%/mmとされている。
【0020】
なおろう材層3,4内のCu濃度は、ろう付け加熱前の状態では一般には実質的に零の場合が多いが、ろう付け加熱時のろう材溶融によって芯材側からCuが拡散し、ろう材層3,4の部分でも若干のCu濃度を示しているのが通常である。
【0021】
前述のようにこの発明の熱交換器では、ろう付け加熱後のブレージングシート内部におけるCuが板厚方向に濃度勾配を有しており、Cuはアルミニウム合金中においてその濃度が高くなるほど電位的に貴となるから、ブレージングシート内部では板厚方向に電位差が生じる。そして電位的に卑な側が電位的に貴な側に対して犠牲陽極効果を示し、結果的に板厚方向に対し耐食性を示すことになる。そして特にこの発明の場合、熱交換器外側から見て板厚方向中央位置P0 より内側の位置までCu濃度勾配が正となっている(すなわち内側へ向けてCu濃度が高くなっている)ことから、その間では外部腐食に対して優れた耐食性を有することになる。
【0022】
ここで、ろう付け加熱後のブレージングシート内部における熱交換器外側から見た最大Cu濃度位置Qまでの平均Cu濃度勾配が1wt%/mm未満では、外部腐食に対する犠牲陽極効果が充分ではなく、外部耐食性が低くなって孔食が発生しやすくなる。一方その平均Cu濃度勾配を、4wt%/mmを越えて大きくすれば、犠牲陽極効果が強過ぎて犠牲腐食の腐食速度が速くなり、その結果外部耐食性が逆に低下してしまう。したがって平均Cu濃度勾配は1wt%/mm〜4wt%/mmの範囲内とする必要がある。
【0023】
またこの発明では、ろう付け加熱後のブレージングシート内部における最大Cu濃度の位置Qも重要である。すなわち、ブレージングシートとしては、芯材として電位を貴にする作用を有するCuを積極的に添加したアルミニウム合金(例えばAl−1%Mn−0.4%Cu)を用い、その両面にろう材をクラッドした3層クラッド材が既に開発されており、このブレージングシートの場合、ろう付け加熱時におけるろう材と芯材との界面付近でのCuの拡散によって両面側にCuの濃度勾配層が生じて、そのCu濃度勾配による犠牲陽極効果によって良好な耐食性が得られるとされているが、現実にはこの場合のCu濃度勾配層はその厚みがわずか100μm程度に過ぎず、一般的なブレージングシートの全厚み(0.3〜2mm程度)の極く一部を占めるに過ぎない。そしてこの場合は、薄いCu濃度勾配層を越えて腐食が進行すれば、その後は急速に孔食が進んでしまい、結果的にはわずかな耐食性向上効果しか得られなかったのである。これに対しこの発明の場合、最大Cu濃度位置Qがろう付け加熱後のブレージングシートの板厚中央位置P0 よりも内側にあり、このことは外側から内側へ向っての外部腐食に対して内部的に犠牲陽極効果を示すCu濃度勾配の正の層がブレージングシート板厚の半分以上を占めることを意味し、したがって外部腐食に対して著しく優れた耐食性を示すことができる。
【0024】
ここで、最大Cu濃度位置がブレージングシートの外側から内側へ向って板厚tの1/2以下(すなわち最大Cu濃度位置Qが板厚方向中央位置P0 よりも外側)である場合には、既に述べたところから明らかなように外部腐食に対して充分な耐食性を示すことができない。したがってこの発明ではろう付け加熱後における最大Cu濃度位置Qは、板厚方向中央位置P0 と内側表面位置P2 との間に位置させるものとした。
【0025】
なお、より確実に優れた外部耐食性を得るためには、最大Cu濃度位置Qを、熱交換器外側から見てろう付け加熱後のブレージングシートの板厚tに対し3/5に相当する位置よりも内側表面位置P2 に近い側に定めることが望ましい。ここで、外部耐食性のみを考慮した場合には、最大Cu濃度位置Qを内側表面位置P2 付近に位置させても良いが、内部耐食性をも考慮すれば、最大Cu濃度位置Qを内側表面位置P2 よりも若干板厚方向中央位置P0 に近い側の位置、具体的には熱交換器外側から見て板厚tに対し9/10に相当する位置よりも板厚方向中央位置P0 に近い側に定めることが望ましい。したがって最大Cu濃度位置の最も望ましい位置は、熱交換器内側から見て板厚tの3/5から9/10の範囲内の位置である。
【0026】
さらに、ろう付け加熱後のブレージングシート内部における最大Cu濃度は、0.6〜1.5wt%の範囲内とすることが望ましい。最大Cu濃度が0.6wt%未満ではろう付け加熱後のブレージングシートの板厚方向に充分なCu濃度勾配を持たせることが困難となり、結果的に充分な外部耐食性が得られないおそれがあり、一方最大Cu濃度が1.5wt%を越えれば、自己耐食性が低下し、また粒界腐食が激しくなって結果的に耐食性が低下してしまう。
【0027】
また前述のようにろう付け加熱後のブレージングシートの内部においてCu濃度勾配を持たせるためには、例えば芯材として、複数枚の単位アルミニウム合金板(単位芯材層)を積層した構造のものを用い、かつそれぞれの単位アルミニウム合金板のCu濃度を異ならしめた構成とすれば良い。その一例を図2に示す。図2は後述する実施例の表2における材料記号Aの例を示すものであり、この例は、両側のろう材層(第1層、第6層)3,4を含めてブレージングシート全体を合計6層の積層クラッド構造としたもの、すなわち芯材部分2を4層の単位芯材層(第2層〜第5層)2a,2b,2c,2dからなる積層構造としたものである。そしてこの例では、4層の単位芯材層(第2層〜第5層)2a,2b,2c,2dとしては、熱交換器外側から内側へ向けて順次Cu濃度が高い単位アルミニウム合金板が用いられている。
【0028】
ここで、この発明において使用するブレージングシートの芯材用合金(芯材部分を積層クラッド構造とした場合の各単位芯材層用の合金を含む)としては、例えば次の(1)〜(4)のようなアルミニウム合金を用いることができる。
(1) Cu1.5wt%以下を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金。
(2) Cu1.5wt%以下を含有し、かつMn0.06〜1.5wt%、Ti0.06〜0.30wt%、W0.03〜0.30wt%、Co0.03〜0.30wt%、およびMo0.03〜0.30wt%のうちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金。
(3) Cu1.5wt%以下を含有し、かつMn0.06〜1.5wt%、Mg0.06〜0.50wt%、Cr0.06〜0.30wt%、Zr0.06〜0.30wt%のちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金。
(4) Cu1.5wt%以下を含有し、かつMn0.06〜1.5wt%、Ti0.06〜0.30wt%、W0.03〜0.30wt%、Co0.03〜0.30wt%、およびMo0.03〜0.30wt%のうちの1種または2種以上を含有し、さらにMg0.06〜0.50wt%、Cr0.06〜0.30wt%、Zr0.06〜0.30wt%のちの1種または2種以上を含有し、残部がAlおよび不可避的不純物よりなるアルミニウム合金。
【0029】
これらの芯材用合金における合金元素添加理由を以下に述べる。
【0030】
Cu:
Cuはアルミニウム合金の電位を貴にして、ブレージングシート内部でのCu濃度勾配によってブレージングシートにその厚み方向に犠牲陽極効果を与えるために、芯材用合金の合金元素として重要な元素であり、またCuはろう付け後の強度を高めるためにも有効である。Cu量が1.5wt%を越えれば自己耐食性が低下し、また粒界腐食が激しくなって結果的に耐食性が低下してしまう。さらに電位的には、Cu添加量を1.5wtを越えて増量すれば、電位の値が飽和する傾向を示すから、ブレージングシート内部で充分な電位勾配を与え難くなる。したがってCu量は1.5wt%以下とすることが望ましい。なおここでCu量の下限は特に規定していないが、これは芯材を多層の積層クラッド構造とした場合、積層した状態で板厚方向にCu濃度勾配を与えるためには、単位芯材層としてCu濃度が零に近いものも必要とするからである。
【0031】
Mn:
Mnは強度を高める元素であって、ブレージングシートの芯材として必要な強度を得るために重要な元素であり、またMnは耐孔食性を向上させる元素である。Mn量が0.06wt%未満ではこれらの効果が充分に得られず、一方1.5wt%を越えて添加すれば、巨大な金属間化合物が形成されて、圧延性や成形加工性が低下するとともに耐食性が低下し、また粒界腐食感受性が高まる。したがってMn量は0.06〜1.5wt%の範囲内とすることが適当である。
【0032】
さらに以下のTi、W、Mo、Coは、耐食性をより一層向上させるために1種または2種以上が添加される。
【0033】
Ti:
Tiの添加は、電位を貴にするとともに、ピット状の腐食形態を層状に変化させることによって最大腐食深さを低下させて、耐食性を向上させるために有効である。Tiの添加量が0.06wt%未満ではこれらの効果が充分に発揮されず、一方Ti量が0.3wt%を越えればこれらの効果が飽和し、経済性を損なうだけである。またTi量が0.3wt%を越えればAl3 Tiの巨大金属間化合物が形成されるため、圧延性や成形加工性が低下する。したがってTiの添加量は0.06〜0.3wt%の範囲内が適当である。
【0034】
W:
Wの添加も、ピット状の腐食形態を層状に変化させることにより最大腐食深さを低下させて、耐食性を向上させるために効果がある。またWの添加は、芯材の電位を貴にしてろう材層との電位差を大きくし、ろう材層の犠牲陽極効果を強める。W量が0.03wt%未満ではこれらの効果が少なく、一方0.30wt%を越えて添加すれば、巨大金属間化合物を形成して成形性を低下させる。したがってWの添加量は0.03〜0.30wt%の範囲内とすることが適当である。
【0035】
Mo:
Moの添加もピット状の腐食形態を層状に変化させることにより最大腐食深さを低下させて、耐食性を向上させるに効果がある。またMoは、芯材の電位を貴にしてろう材層との電位差を大きくし、ろう材層の犠牲陽極効果を強めるためにも有効である。Mo量が0.03wt%未満ではこれらの効果が少なく、一方0.30wt%を越えてMoを添加すれば、巨大金属間化合物を形成して成形性を低下させる。したがってMoの添加量は0.03〜0.30wt%の範囲内とすることが適当である。
【0036】
Co:
Coの添加も、ピット状の腐食形態を層状に変化させることにより最大腐食深さを低下させて、耐食性を向上させるために有効である。またCoは、芯材の電位を貴にしてろう材層との電位差を大きくし、ろう材層の犠牲陽極効果を強めるためにも有効である。Co量が0.03wt%未満ではこれらの効果が少なく、一方0.30wt%を越えてCoを添加すれば、巨大金属間化合物を形成して成形性を低下させる。したがってCoの添加量は0.03〜0.30wt%の範囲内とすることが適当である。
【0037】
さらに芯材用合金としては、ろう付け後の強度向上のために必要に応じて以下のMg、Cr、Zrのうちの1種または2種以上が添加される。
【0038】
Mg:
Mgはろう付け後の強度を高めるために最も有効な元素であるが、Mg量が0.06wt%未満ではその効果は少なく、一方0.50wt%を越えて添加されれば芯材の電位を卑にして耐食性を低下させる。したがってMg量は0.06〜0.50wt%の範囲内とすることが望ましい。
【0039】
Cr、Zr:
Cr、Zrはいずれもろう付け加熱後の強度を高めるために有効な元素であるが、それぞれ0.06wt%未満ではその効果が少なく、一方それぞれ0.30wt%を越えて添加すれば、巨大な金属間化合物が形成されて加工性を低下させる。したがってCr、Zrはいずれも0.06〜0.30wt%の範囲内とすることが好ましい。
【0040】
そのほかアルミニウム合金においてはFe、Siが不可避的不純物として含有されるが、これらのFe、Siは芯材の耐食性を低下させるから、Feは0.7wt%以下、Siは0.6wt%以下とすることが好ましく、より適切には、Feは0.30wt%以下、Siは0.20wt%以下に規制することが望ましい。その理由は次の通りである。
【0041】
Fe:
Feはアルミニウム合金中においてAl−Fe系、Al−Fe−Mn系、Al−Fe−Mn−Si系等の金属間化合物を形成し、これらの金属間化合物がAlマトリックスに対してカソードとなり、耐食性を低下させる。特にFeが0.30wt%を越えて含有されれば耐食性の低下が激しくなるから、Fe量は0.30wt%以下に規制することが望ましい。
【0042】
Si:
Siもアルミニウム合金中においてAl−Fe−Si系やAl−Fe−Mn−Si系等の金属間化合物を形成し、これらの金属間化合物がAlマトリックスに対してカソードとなり、耐食性を低下させる。特にSiが0.20wt%を越えて含有されれば耐食性の低下が激しくなるから、Si量は0.20wt%以下に規制することが望ましい。
【0043】
一方、芯材の片面もしくは両面にクラッドされるろう材としては、一般のブレージングシートに用いられているものと同様な合金を用いれば良い。具体的には例えばJIS Z3263による4343合金、4045合金、4047合金などのAl−Si系合金、あるいは4004合金、4N04合金などのAl−Si−Mg系合金、または4104合金などのAl−Si−Mg−Bi系合金が用いられる。このほか、これらの合金にさらにBe、Sr、Sb等を添加したろう材も用いることができる。
【0044】
ここで、ブレージングシートにおけるろう材のクラッド率は特に限定せず、具体的なクラッド率はブレージングシートの板厚や熱交換器の種類、用途等によって適宜定めれば良いが、通常は片面当り5〜20%程度であれば良好なろう付け性を確保することができる。
【0045】
またブレージングシートの全厚みは特に限定しないが、通常は0.3〜2.0mm程度である。そしてこの程度の厚みであれば、特に支障なくこの発明で目的とする外部耐食性を充分に発揮させることができる。
【0046】
なおこの発明の熱交換器に用いられるブレージングシートの製造方法としては、通常のクラッド材の製造方法などに用いられている方法を適用すれば良く、特に限定されるものではない。
【0047】
具体的には、例えば各合金材料をそれぞれ鋳造して、必要に応じて均熱処理を施してから熱間圧延を行なって所定の板厚とするか、あるいは熱間圧延を行なわずに面削のみによって所定の厚みとし、その後各板を重ね合せて熱間圧延によりクラッド圧延を行ない、必要に応じて中間焼鈍を施してから冷間圧延を行なって最終板厚とすれば良く、また冷間圧延の中途で必要に応じて中間焼鈍を行なったり、また最終の冷間圧延後に必要に応じて最終焼鈍を施しても良い。ここで、鋳造方法としては一般的な半連続鋳造法を用いれば良い。また鋳造後には、芯材用合金については、溶融ろうによる耐エロージョン性を考慮して均熱処理を行なうことが望ましく、この場合の均熱温度としては450〜620℃が適当であるが、耐エロージョン性をより向上させるためには高い温度(560〜620℃)で均熱処理を施すことが望ましい。クラッド圧延は、前述のように熱間圧延を適用するのが通常であるが、Cu濃度勾配を与えるために芯材を多層構造とする場合は、積層数が多くなるから、その場合は2回以上のクラッド圧延を組合せても良いことはもちろんである。なおクラッド圧延時には接合性を良好にするため、事前にクラッド合せ面について酸洗もしくはアルカリ洗、溶剤脱脂などによって酸化皮膜の除去や脱脂を行ない、表面を清浄化しておくことが望ましい。
【0048】
なお熱交換器の組立のためのろう付け方法は特に限定されず、真空ろう付け、フラックスろう付け、不活性ガスろう付け等を任意に適用することができる。そしてこの発明で規定しているCu濃度分布は、ろう付け方法の如何によって変わるものではないから、いずれのろう付け方法でもこの発明で目的とする優れた外部耐食性を確実に得ることができる。
【0049】
【実施例】
表1に示される合金No.1〜No.17を、表2、表3の材料符号A〜Hに示すようにクラッドした全厚み0.6mmのブレージングシートを用い、それぞれエバポレータ用コアプレートをシュミレートしたミニコアプレートを製作した。その後、真空炉中にて5×10-5Torrの真空度で600℃×3分のろう付け加熱を行なった。なお表2、表3において、層構成は、最も熱交換器外側(大気側)に位置する層を第1層とし、以下熱交換器内側(熱交換媒体流通側)へ向けて順次第2層、第3層・・・と規定した。
【0050】
ろう付け加熱後の各ミニコアプレートに対し、ASTM G85に準拠してSWAAT腐食試験を行なった。なおこのSWAAT腐食試験では、表2、表3の層構成における熱交換器外側の面(第1層の表面)に腐食液がかかるようにして外部腐食試験を行ない、板厚方向に腐食が貫通するまでの腐食寿命を調べた。その結果を表4に示す。また、ろう付け加熱後の各ブレージングシート内部における板厚方向各位置でのCu濃度をEPMAにより測定し、外側表面から最大Cu濃度位置までの平均Cu濃度勾配、最大Cu濃度位置、および最大Cu濃度を求めたので、その結果も表4中に示す。なお最大Cu濃度位置は、外側表面から最大Cu濃度量を示す位置までの距離を板厚で除して表わした。
【0051】
【表1】
【0052】
【表2】
【0053】
【表3】
【0054】
【表4】
【0055】
表4において、材料符号Dのブレージングシートは、現在一般に広く用いられている従来材であり、また材料符号Eは芯材部分のCu濃度を高めて耐食性を高めた従来材(但し芯材を積層構造とせず、Cu濃度勾配および最大Cu濃度位置の条件がこの発明で規定する条件を満たしていないもの)であるが、これらに対して材料符号A,B,C,F,Hの本発明材は、いずれも腐食寿命が著しく長く、外部耐食性に優れていることが明らかである。なお材料符号Gは、芯材を積層構造とはしているが、最大Cu濃度位置の条件がこの発明で規定する条件を満たしておらず、そのため充分な外部耐食性が得られなかった。
【0056】
【発明の効果】
この発明のアルミニウム合金製熱交換器は、ろう付け加熱後のブレージングシート内部のCu濃度勾配と最大Cu濃度位置とを適切に定めることによって、外部耐食性を著しく向上させることができ、そのため外部(大気側)からの腐食による板厚方向への孔食の貫通を抑制して、腐食に対する寿命を従来よりも飛躍的に長くすることができ、特に過酷な腐食環境下でも充分な外部耐食性を示すことができる。また上述のように外部からの板厚方向の腐食に対する寿命が長いため、従来よりもブレージングシートを薄肉化して、熱交換器の軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】この発明のアルミニウム合金製熱交換器のろう付け加熱後のブレージングシートの一例の断面構造を模式的に示すとともに、その板厚方向のCu濃度分布を示す概略図である。
【図2】この発明のアルミニウム合金製熱交換器に使用されるブレージングシートの断面構造の一例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 ブレージングシート
2 芯材部分
3,4 ろう材層
P0 板厚方向中央位置
P1 外側表面位置
P2 内側表面位置
Q 最大Cu濃度位置
Claims (4)
- 芯材の片面もしくは両面にろう材をクラッドしてなるアルミニウム合金ブレージングシートを用い、ろう付けにより組立ててなるアルミニウム合金製熱交換器において、
ろう付け加熱後のブレージングシート内部のCu濃度分布がブレージングシートの厚み方向に変化するように構成されており、かつその厚み方向におけるCu濃度の最大の位置が、ろう付け加熱後のブレージングシートの板厚方向中央位置と熱交換器内側に対応する表面位置との間にあり、しかも熱交換器外側に対応するろう付け加熱後のブレージングシートの表面位置から内部の最大Cu濃度位置へ向けての平均Cu濃度勾配が1〜4wt%/mmの範囲内にあることを特徴とするアルミニウム合金製熱交換器。 - ろう付け加熱後におけるブレージングシート内部の最大Cu濃度が0.6〜1.5wt%の範囲内にある請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器。
- ろう付け加熱後におけるブレージングシート内部の最大Cu濃度位置が、熱交換器内側から見て板厚の3/5〜9/10の範囲内の位置にある、請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器。
- 前記ブレージングシートの芯材が、Cu濃度の異なる複数枚の単位アルミニウム合金板を積層して作られている、請求項1に記載のアルミニウム合金製熱交換器。
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-
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