JP3849828B2 - シャフトスクリュの高周波焼入れ方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本願の発明は、シャフトスクリュの高周波焼入れ方法に関し、特にシャフトスクリュのネジ面へのボールの接触角のバラツキを低減させて、ボールスクリュの作動騒音を低減させたシャフトスクリュの高周波焼入れ方法に関する。
【0002】
【従来技術、発明が解決しようとする課題】
ボールスクリュの作動音の低減には、ボールスクリュを構成する一要素であるシャフトスクリュのネジ面へのボールの接触角のバラツキが大きく影響することは、従来、知られておらず、むしろ、接触角の左右差に関心が向けられていた。
【0003】
シャフトを回転させつつ、その軸方向に移動させて、該シャフトの一部に形成されたシャフトスクリュに高周波焼入れを行なう、いわゆるシャフトスクリュの高周波移動焼入れにおいては、焼入れ水は、シャワー状に噴射しているため、ミクロ的に見れば、冷却のむらがある。このような冷却むらは、ネジ溝の寸法変化のバラツキとなり、ひいてはボールの接触角のバラツキとなる。しかしながら、シャフトスクリュの高周波移動焼入れにおいて、ボールの接触角の左右差およびバラツキの低減は、限界とされてきた。
【0004】
本願の発明は、シャフトスクリュの高周波焼入れ方法において、シャフトスクリュのネジ面へのボールの接触角のバラツキを低減させて、ボールスクリュの作動騒音を低減させることができるシャフトスクリュの高周波焼入れ方法を提供することを課題とする。
【0005】
【課題を解決するための手段および効果】
本願の発明は、前記のような課題を解決したシャフトスクリュの高周波焼入れ方法に係り、その請求項1に記載された発明は、シャフトを回転させつつ、その軸方向に移動させて、該シャフトの一部に形成されたシャフトスクリュに高周波焼入れを行なうシャフトスクリュの高周波焼入れ方法において、前記シャフトの回転方向は、前記シャフトの移動方向にネジが進む方向とされ、前記シャフトの回転数と、加熱部および冷却部を有する高周波焼入れ装置に対する前記シャフトの移動速度とが、下記の条件式を満たすように同期させられていることを特徴とするシャフトスクリュの高周波焼入れ方法である。
(シャフトの回転数)=(シャフトの移動速度)/(ネジのピッチ)
【0006】
請求項1に記載された発明は、前記のように構成されているので、シャフトは、シャフトスクリュのネジ溝があたかも静止しているかのように見えながら、回転しつつ、その軸方向に移動していく。このため、焼入れ水は、常にシャフトスクリュの一定の部位(ネジの山のみ、または、ネジの谷のみ)を冷却することになり、同一個所(山または谷)を見れば、バラツキの少ない冷却となるので、シャフトスクリュのネジ面へのボールの接触角の左右差は小さくならないが、バラツキは小さくなり、ボールスクリュの作動騒音を低減させることができる。
【0007】
【発明の実施の形態】
以下、図1ないし図5に図示される本願の請求項1に記載された発明の一実施形態について説明する。
図1は、本実施形態におけるシャフトスクリュの高周波焼入れ方法が実施される高周波焼入れ設備の全体の概略構成図であって、一部を切断して示す図、図2は、図1の高周波焼入れ装置部分の概略拡大縦断面図、図3は、ボールスクリュの組立状態の縦断面図、図4は、シャフトスクリュのネジ面へのボールの接触状態を示す図、図5は、焼入れ水の噴射経路を模式的に示す図である。
【0008】
図1において、本実施形態におけるシャフトスクリュの高周波焼入れ方法が実施される高周波焼入れ設備1は、縦コラム2にスライダ3が上下摺動自在に取り付けられ、該スライダ3には、上アーム4および下アーム5が一体に片持ち支持されており、該スライダ3は、制御装置6により制御されるモータ7によって、上下駆動されるようになっている。
【0009】
上アーム4および下アーム5の各先端部間には、長尺ワークをなすシャフト8が、上アーム4の先端部に下向きに固着された上主軸9と、下アーム5の先端部に固定された下主軸台10に上向きに回転自在に支持された下主軸11とを介して、下主軸11と一体に回転自在に支持されており、該下主軸11は、制御装置6により制御されるモータ12によって、ベルト13を介して回転駆動される。
【0010】
シャフト8には、その一端(図1において上端)から中途の所定長隔てられた部位にかけて、ネジ溝が形成されて、ネジ部8a とされており、該ネジ部8a により、シャフトスクリュが構成されている。そして、該シャフトスクリュ(ネジ部)8a に高周波焼入れを行なう装置14が、シャフト8を囲んで配置されている。したがって、シャフトスクリュ8a は、該高周波焼入れ装置14内を、回転しながら上下動することが可能である。
【0011】
シャフト8のシャフトスクリュ8a と反対側の端部(図1において下端)寄りには、図示されてはいないが、ラックが形成されており、本実施形態におけるシャフト8は、ラックアンドピニオン式電動パワーステアリング装置におけるステアリングシャフトとして使用されている。そして、シャフトスクリュ8a には、図3に図示されるように、ボール18が組み込まれたナットスクリュ17が螺合されて、ボールスクリュ19が組み立てられ、該ボールスクリュ19を介して操舵補助力が図示されない電動機よりシャフト8に伝達されるようになっている。
【0012】
図4には、シャフトスクリュ8a のネジ溝にボール18が接触した状態が図示されている。同図において、左右の円弧面へのボール18の接触点とボール18の中心とを結ぶ線と、ネジ溝の中心線O−Oとのなす角が接触角であり、この接触角は、左右の円弧面について、通常45°に設定されるが、この角度は、左右の円弧面間において製造誤差や熱処理の不均一等に起因する誤差(以下、接触角の左右差という。)があり、また、ネジ溝に沿い、熱処理の不均一に起因してバラツキが生ずる。このバラツキは、本実施形態において、後述する高周波焼入れ方法が適用されることにより低減されている。
【0013】
高周波焼入れ装置14は、次のように構成されている。
図2により良く図示されているように、高周波焼入れ装置14の上方部位には、加熱部が配置されている。該加熱部は、高周波コイル15からなり、該高周波コイル15は、中空状のコイルが二手に分かれて、3段にシャフトスクリュ8a を取り巻いて構成されている。そして、該高周波コイル15に高周波電流が通電されて、シャフトスクリュ8a が誘電加熱される。
【0014】
高周波コイル15の直下には、冷却部が配置されている。該冷却部は、シャフトスクリュ8a を囲む環状の冷却水ジャケット16を備えており、該冷却水ジャケット16の内周壁16a は、下方に拡径するテーパ状に形成されていて、冷却水を斜め下方のシャフトスクリュ8a に向けて噴射する多数の噴射孔16b を有している。
【0015】
したがって、加熱部において加熱されたシャフトスクリュ8a は、該冷却部に回転しながら移動し、ここにおいて、噴射孔16b より噴射される冷却水(焼入れ水)により急速に冷却されて、焼入れが行なわれる。
【0016】
ここで、シャフトスクリュ8a の高周波焼入れ装置14による焼入れは、シャフト8の中途のネジ部端側から開始される。
これを図1を参照しつつ説明すると、先ず、シャフトスクリュ8a の下端(シャフト8の中途のネジ部端)が高周波焼入れ装置14の高周波コイル15より上方に位置するように、モータ7によりスライダ3を駆動して、シャフト8をセットする。
【0017】
次いで、再びモータ7によりスライダ3を下方のA方向に駆動して、シャフト8を下方方向に所定の速度で移動させると同時に、モータ12により下主軸11を回転駆動して、シャフト8を所定の速度で回転させる。
【0018】
このシャフト8の下方方向への移動速度、回転速度および回転方向は、次のように設定されている。先ず、シャフト8の回転方向は、該シャフト8の移動方向にシャフトスクリュ8a のネジが進む方向とされている。次に、シャフト8の回転数N(回/秒)と、シャフト8の移動速度V(m/秒)とは、下記の条件式を満たすように同期させられている。
(シャフト8の回転数N)=(シャフト8の移動速度V)/(ネジのピッチp)
【0019】
そうすると、シャフトスクリュ8a は、その下端から高周波コイル15による加熱を受け始め、加熱部は徐々に上端方向に移動する。この間、シャフトスクリュ8a は回転しているので、高周波コイル15による加熱は、シャフトスクリュ8a の周方向に均一に行なわれる。
【0020】
高周波コイル15による加熱が終了したシャフトスクリュ8a の下端部および該下端部に続く上端方向の各加熱部は、次いで、高周波コイル15の直下に配置された環状の冷却水ジャケット16の内部を進行し、該冷却水ジャケット16の内周壁16a に形成された多数の噴射孔16b より噴射される冷却水により急速に冷却されて、焼入れが行なわれる。
【0021】
以上のようなシャフトスクリュ8a の高周波焼入れ装置14による焼入れ方法においては、シャフトスクリュ8a の下端に先ず最初に焼入れが行なわれる。したがって、この焼入れ開始部において、比較的大きな拡径変化が生じる。
【0022】
これに対して、焼入れが終了するシャフトスクリュ8a の上端の焼入れ部には、大きな拡径変化が生じない。したがって、この上端側からシャフトスクリュ8a をナットスクリュ17に螺合させて組み付けることができ、これにより、容易にボールスクリュ19を組み立てることができる。
【0023】
また、シャフト8の移動速度、回転速度および回転方向が前記のように設定されているので、シャフト8は、シャフトスクリュ8a のネジ溝があたかも静止しているかのように見えながら、回転しつつ、その軸方向下方に移動していく。このため、冷却水ジャケット16の内周壁16a に形成された多数の噴射孔16b より噴射される焼入れ水は、図5に図示されるように、常にシャフトスクリュ8a の一定の部位(ネジの山のみ、または、ネジの谷のみ)をそれぞれ冷却することになる。
【0024】
この結果、同一個所(山または谷)を見れば、バラツキの少ない冷却となり、シャフトスクリュ8a のネジ面へのボール18の接触角の左右差は小さくならないが、バラツキが小さくなり、ボールスクリュ19の作動騒音を低減させることができる。
【0025】
これに対して、上記の等式が成り立たず、シャフト8の移動速度Vに対し、シャフト8の回転数Nが大きいか、もしくは小さい場合には、焼入れ水のネジ面への噴射経路は、図6に図示されるように、ネジ山をシャフト8の移動方向に過るか、もしくはシャフト8の移動方向と反対方向に過ることになり、いずれの場合も、ネジ筋に一致した冷却とならないので、接触角のバラツキが大きくなる。
【0026】
また、シャフト8の回転方向を、シャフト8の移動方向と反対方向にネジが進む方向とすると、焼入れ水は、図7に図示されるように、ネジの山、谷をランダムに冷却するので、接触角のバラツキがさらに大きくなる。但し、接触角の左右差は小さくなる。
【0027】
シャフト8の回転方向がシャフト8の移動方向と反対方向にネジが進む方向とされた図7の場合の接触角のバラツキ分布が図9に図示されている。これを、シャフト8の回転方向がシャフト8の移動方向にネジが進む方向とされ、シャフト8の移動速度と回転速度とが前記の式を充たすように設定された本実施形態における高周波焼入れ方法が適用された図5の場合の接触角のバラツキ分布(図8参照)と比較すると、接触角の大きなバラツキの頻度が顕著に低減していることが認められる。
【0028】
本願の発明は、シャフトスクリュの高周波焼入れ方法とされたが、これに限定されず、作動騒音が特に問題とされるネジ伝動部のネジの高周波焼入れ方法として、広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】本願の請求項1に記載された発明の一実施形態におけるシャフトスクリュの高周波焼入れ方法が実施される高周波焼入れ設備の全体の概略構成図であって、一部を切断して示す図である。
【図2】図1の高周波焼入れ装置部分の概略拡大縦断面図である。
【図3】図1の実施形態において、ボールスクリュの組立状態の縦断面図である。
【図4】図1の実施形態において、シャフトスクリュのネジ面へのボールの接触状態を示す図である。
【図5】図1の実施形態において、焼入れ水の噴射経路を模式的に示す図である。
【図6】焼入れ水の噴射経路の比較例を示す図である。
【図7】焼入れ水の噴射経路の他の比較例を示す図である。
【図8】図1の実施形態において、接触角のバラツキ分布を示すグラフである。
【図9】図7の比較例において、接触角のバラツキ分布を示すグラフである。
【符号の説明】
1…高周波焼入れ設備、2…縦コラム、3…スライダ、4…上アーム、5…下アーム、6…制御装置、7…モータ、8…シャフト、8a …シャフトスクリュ(ネジ部)、9…上主軸、10…下主軸台、11…下主軸、12…モータ、13…ベルト、14…高周波焼入れ装置、15…高周波コイル、16…冷却水ジャケット、16a …内周壁、16b …噴射孔、17…ナットスクリュ、18…ボール、19…ボールスクリュ。

Claims (1)

  1. シャフトを回転させつつ、その軸方向に移動させて、該シャフトの一部に形成されたシャフトスクリュに高周波焼入れを行なうシャフトスクリュの高周波焼入れ方法において、
    前記シャフトの回転方向は、前記シャフトの移動方向にネジが進む方向とされ、
    前記シャフトの回転数と、加熱部および冷却部を有する高周波焼入れ装置に対する前記シャフトの移動速度とが、下記の条件式を満たすように同期させられていることを特徴とするシャフトスクリュの高周波焼入れ方法。
    (シャフトの回転数)=(シャフトの移動速度)/(ネジのピッチ)
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