JP3845820B2 - 繊維製品の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、洗濯耐久性のあるスキンケア効果、及びスキンケア効果が期待される有効成分の汗による徐放効果が期待され、且つ風合いや吸湿性に優れた繊維製品の製造方法に関し、このものは、肌着やシャツ等の衣料分野に好適に利用できるものである。
【0002】
【従来の技術】
スキンケアの目的で化粧品等に用いられる有効成分を繊維製品に付与し応用する試みは古くから行われている。例えば、特開平9−296367号公報には皮下脂肪調整剤および/またはマイクロカプセル化された皮下脂肪調整剤をバインダーにより付着させた衣料が、又、特開平11−100310号公報には痩身化粧料を含浸させた部分痩身用不織布が、特許第303820号公報には機能性物質と加水分解蛋白質及び架橋剤を併用した加工剤を繊維に付与し、固着させた機能性繊維とその製造方法が開示されている。しかしながら、これらの公報には有効成分を着用時に繊維から着用者の皮膚に積極的に徐放させるという思想は開示されていない。本出願人は特開2002−61073号公報および特願2001−119078号にてアスコルビン酸誘導体および酢酸α−トコフェノールが着用時に繊維から着用者の皮膚に積極的に徐放されるという発明をなしている。これらの発明は、使用する化粧品等に用いられる有効成分の洗濯耐久性と皮膚への徐放性という相矛盾する機能の付与を行うために、アスコルビン酸誘導体および酢酸α−トコフェノールを界面活性剤を用いて水と有機溶剤中に乳化分散させた処理液で繊維製品を処理するというものである。上記のような従来の技術には、カフェインをタンニン酸と共に使用し、有効成分を皮膚へ徐放させることは開示されていなかった。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
特開2002−61073号公報および特願2001−119078号は、化粧品等に用いられる有効成分の疎水性やイオン性を利用した繊維製品への固定化方法及び徐放性を発現させるための工夫を開示している。しかしながら、これらの発明の方法に対してカフェインを応用しようとする場合には、その分子構造から推測される通り、カフェインは、イオン的にはプリン環の4つの窒素原子によるごく弱い塩基性を示すに過ぎず、溶媒に対する溶解性についても水および有機溶媒に共に溶解するものの、その溶解性は高くなく、皮脂にもほとんど溶解しないという特性が有り、このような溶解特性のために、従来の方法を用いても徐放性機能を具備した繊維製品は得られず、この問題解決には格段の工夫が必要となる。また、特許第3038202号公報に開示されているコラーゲンとカフェインのコンプレックスをイソシアネート系架橋剤で繊維に固定化する方法は、カフェインが強固に繊維に固定化されるためその徐放性効果はほとんどなく、又、その繊維への固定化量は非常に低いという問題があった。従って、本発明の目的は、カフェインの徐放性が発揮され、固定化量の増加を計る有効的な、且つ改善された繊維製品の製造方法を提供することにある。
【0004】
【課題を解決するための手段】
本発明者らはカフェインを繊維製品上に洗濯耐久性を持って固定化し、更に着用時に徐放させるために、カフェインとタンニン酸を併用し、これらのコンプレックス、即ち複合体が形成されることに着目し本発明に至った。タンニン酸及びカフェインは共にお茶に多く含まれる成分であり、この両者から安定的な複合体が生じることが知られている。これは、カフェインのプリン環とタンニン酸の芳香族分子との疎水相互作用や弱いイオン的相互作用によってもたらされている。この相互作用は塩濃度の上昇や温度上昇によって弱められることが知られているので、繊維製品に応用した場合には、着用者の汗に含まれる程度の塩分の濃度変化でも繊維製品から溶出され、また体温の上昇による溶出量の増加も期待できる。
【0005】
本発明は、繊維製品をタンニン酸及びカフェインで処理する繊維製品の製造方法である。本発明のカフェインを安定的に繊維製品上に固定化するための方法は、カフェインとタンニン酸との複合体を繊維製品上で形成させる必要があるため、繊維製品をタンニン酸水溶液で処理し、次いでカフェイン水溶液で処理する方法と、先ずカフェインとタンニン酸の混合水溶液中に複合体を形成させた後に、繊維製品を該複合体含有水溶液で処理する方法である。又、染色後タンニン酸でフィックス処理した繊維製品をタンニン酸処理した後カフェイン水溶液で処理する方法と、染色後タンニン酸でフィックス処理した繊維製品をカフェイン水溶液で処理する方法である。
【0006】
【発明の実施の形態】
本発明に用いられる繊維製品は特に限定されず、原繊としては通常衣類として使用される綿、羊毛、絹等の天然繊維、レーヨン、ポリノジック、アセテート等の再生繊維、ポリエステル、ナイロン、アクリル等の合成繊維で、これらの一種または二種以上を混繊したものであってもよい。形状についても原繊、紡績糸、編織布、更には繊維縫製品のいずれであってもよい。そして本発明の繊維製品が原繊、紡績糸、編織布である場合はこれらを用いて衣料用の繊維縫製品とする。又、染色後タンニン酸でフィックス処理した繊維製品も包含され、例えば、ナイロン製品を酸性染料で染色後タンニン酸でフィックス処理した繊維製品及び出願人が特開平10−121384号公報で開示したカチオン染料で染色後タンニン酸・吐酒石で処理した改質再生セルロース繊維を用いた繊維製品が挙げられ、ナイロンを用いたパンティストッキング等のレッグ関連の繊維製品にも好適に用いられる。
【0007】
タンニン酸を用いて繊維製品上にカフェインを固定化する方法は、タンニン酸水溶液で処理し、熱処理し、更にカフェイン水溶液で処理する方法と、予めタンニン酸とカフェインを混合した水溶液中にタンニン酸とカフェインの複合体を調製した後に、繊維製品を該複合体含有水溶液中で処理する方法があるが、何れを採用するかは使用する繊維素材の種類や繊維製品の形状によって処理の容易性から適宜選択される。
【0008】
タンニン酸の繊維製品への固定化はタンニン酸と特異的に結合可能なナイロン等の繊維製品の場合には、タンニン酸水溶液との接触による吸着で十分であり、その後カフェイン水溶液で処理することでカフェインの固定化ができる。予め処理するタンニン酸の使用量は繊維重量当たり0.5〜20重量%の範囲が好ましく、所望するカフェインの固定化量によって適宜使用量を決めることができる。この範囲外の0.5重量%より低い場合にはカフェインの使用量に関係なくカフェインの固定化量が少なく、20重量%より多い場合はタンニン酸の増加量に比べてカフェインの固定化量が増加しないので好ましくない。又、カフェインの使用量はタンニン酸に対して60〜120重量%の範囲が好ましいが、タンニン酸の100重量%のカフェインを使用することが好適である。
【0009】
セルロース繊維等のタンニン酸と特異的に結合できない繊維の場合は架橋剤や樹脂加工剤等の固定化剤でタンニン酸を繊維製品上に固定化させればよい。その後カフェイン水溶液の処理で繊維製品上にカフェインを固定化できる。
【0010】
タンニン酸とカフェインの水溶液中で複合体を調製し、該水溶液中で繊維製品を処理し、繊維製品上に複合体を固定化する方法は、一回の処理で繊維製品上に該複合体を固定化できる。タンニン酸とカフェインの複合体の調製方法は、カフェイン水溶液を攪拌しながら、その液中にタンニン酸水溶液を加えることにより容易に複合体を形成できる。この場合のカフェインのタンニン酸に対する混合割合は60〜120重量%の範囲が好ましいが、タンニン酸の100重量%、即ち同量のカフェインを使用することが好適である。この範囲内ではカフェインの割合が多い方が複合体の凝集率は高くなるが、この範囲を外れた60重量%以下では着色が発生し、又120重量%以上では凝集率が高くなるので好ましくない。また、複合体調製時のpHは7以下が好ましい。pH7以上では生じた凝集物の再分解が顕著となり好ましくない。該複合体を調製する時の濃度も複合体形成に影響を与え、この時の濃度は0.5〜20重量%の範囲が好ましい。この範囲を外れる0.5重量%以下では複合体の調製が困難となり、20重量%以上では凝集が激しく均一な複合体の調製が困難となるので好ましくない。
【0011】
本発明のタンニン酸とカフェインで繊維製品を処理する方法としては、通常用いられるパッド−ドライ法やバッチ法が応用できる。
バッド−ドライ法では先ずタンニン酸とカフェインの複合体を調製した後に好適な架橋剤、樹脂加工剤、バインダーから選ばれる固定化剤を添加してもよく、この複合体含有水溶液に繊維製品を0.5秒間以上浸漬し、絞り率60〜120%で絞った後、温度80〜200℃で1〜30分間乾燥処理すればよい。この時に使用する架橋剤、樹脂加工剤、バインダーから選ばれる固定化剤は加工しようとする繊維製品に応じて適宜選択すればよい。架橋剤としてはエポキシ系架橋剤が好適であり、イソシアネート系架橋剤はカフェインとの反応により徐放性が損なわれるため好ましくない。樹脂加工剤としては、N−メチロール系樹脂が好適であり、又、バインダーとしてはアクリル系、ウレタン系、エステル系のバインダーが好適である。
【0012】
バッチ法では、繊維製品を浴比1:10〜1:30で処理液に浸漬し、温度20〜90℃で5〜60分間処理すればよい。
繊維製品を処理する際にタンニン酸による変色が懸念される場合には処理液への吐酒石の添加、もしくはタンニン酸水溶液で処理した後に吐酒石水溶液による後処理を行ってもよい。
【0013】
又、染色後タンニン酸を用いてフィックス処理された繊維製品を用いる場合は、所望のカフェインの固定化量に応じてタンニン酸水溶液で処理した後カフェイン水溶液で処理するか、タンニン酸の残留付着量が十分の場合はカフェイン水溶液で処理することによりカフェインを固定化できる。染色後タンニン酸を用いてフィックス処理された繊維製品のタンニン酸の残留付着量が不明の場合には、予備試験として低濃度、中濃度及び高濃度の三水準でのカフェイン濃度既知の水溶液で処理し、カフェインの加工初期の固定化量と洗濯10回後の固定化量を測定する。この結果より該試料のフィックス処理に用いたタンニン酸が残留しているかを確認し、三水準共に所望のカフェインの固定化量に達していない時はタンニン酸水溶液で処理し、その後カフェイン水溶液で処理する方法が適用され、三水準の内いずれかが所望のカフェインの固定化量を満足していればカフェインを固定化するタンニン酸が残留しているとし、カフェイン水溶液で処理する方法が採用できる。
【0014】
このようにして処理した繊維製品は水洗した後に通常の最終仕上げを行うこともできる。
本発明の方法により得られた繊維製品は固定化したカフェイン量が10回洗濯しても50%以上残存し、優れた洗濯耐久性を示す。これは、カフェインがタンニン酸と強固に複合体を形成し、通常の洗濯ではこの複合体が壊れないためと推測される。
【0015】
本発明の方法により得られた繊維製品は、洗濯によるカフェインの溶出が押さえられると共に、汗のようなイオン性の液体にはカフェインが良く溶解するために、カフェインは人体の皮膚に徐放され、ひいては皮膚内部に取り込まれることによってスキンケア効果を発揮することが期待される。
【0016】
【実施例】
以下、本発明について、実施例により具体的に説明するが、本発明はこの範囲に限定されるものではない。なお、本実施例での測定方法と評価は、以下の方法に基づいて行った。
・カフェインの固定化量の測定方法
試料を人工汗(JIS L0848−5.1)の溶液に入れ、37℃で2時間振とうした後に、上澄み液をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定し、得られたカフェインのピーク面積から試料に付着したカフェイン量を計算した。
・洗濯耐久性の算出方法
加工初期の試料のカフェインの固定化量と、JIS L0217−1995「繊維製品の取扱いに関する表示用語及び表示方法」2.2(1)洗い方番号103に基づいて10回繰返し洗濯した後に乾燥して得た試料のカフェインの固定化量から、下式により洗濯耐久性を算出した。
【数1】
Figure 0003845820
・カフェインの徐放性の評価方法
人工汗(JIS L0848−5.1)水溶液に浸漬させた染色堅牢度試験用綿添付白布と試料を接触させ、硬質プラスチック板2枚の間に挟み人工汗液を絞った後、約12.5kPaの圧力をかけて30分間放置した後に、JIS L0217−1995、2.2.(1)洗い方番号103に基づいて試料を洗濯した。洗濯1回後、4回後、10回後の乾燥後の試料を上記のカフェインの固定化量の測定方法により測定し、その固定化量の数値の推移より徐放性の有無を評価した。
【0017】
〔実施例1〕
1.655texのポリウレタン弾性糸〔商品名:フジボウスパンデックス、富士紡績(株)製〕を芯として、1.11tex(5フィラメント)のナイロン〔商品名:ミラコスモ、東レ(株)製〕を被覆したS撚りシングルカバードヤーン(以下SCYと略称する)を製造した。同様に1.655texのポリウレタン弾性糸を芯として、1.11tex(5フィラメント)のナイロンを被覆したZ撚りSCYを製造し、パンティストッキング用原糸とした。
【0018】
針数400本のパンティストッキング編立機に上述のS撚りSCYと上述のZ撚りSCYを1本づつ交互に給糸して回転数500rpmでパンティストッキングを編立て、プリセット機にて温度80℃で10分間熱処理した後縫製し、パンティストッキング9足を得た。得られたパンティストッキングはナイロン62.2%、ポリウレタン弾性糸37.8%の混用率であった。
【0019】
次いで、パンティストッキング1足ずつを精練用浸透剤〔商品名:エスピトールBSconc、サン化学(株)製〕0.5g/lを含む処理液で浴比1:20、温度95℃でソーピングした。パンティストッキング1足の重量当たりタンニン酸〔商品名:試薬タンニン酸、関東化学(株)製〕を夫々0.1%owf、0.5%owf、1.0%owf、3.0%owf、5.0%owf、10.0%owf、20.0%owf、30.0%owfを含む水溶液8種を準備し、パンティストッキング1足ずつを処理液中で浴比1:20、温度80℃で20分間処理した。次いで表1に記載したカフェイン〔商品名:試薬カフェイン、関東化学(株)製〕を夫々0.1%owf、0.5%owf、1.0%owf、3.0%owf、5.0%owf、10.0%owf、20.0%owf、30.0%owfを含む水溶液の処理浴で、各パンティストッキングを浴比1:20、温度60℃で30分間処理した後水洗した。次いで、各パンティストッキングを仕上げ剤〔商品名:エバファノールN−20、日華化学(株)製〕4.0%owfを含む水溶液の処理浴で浴比1:20、温度40℃で15分間処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して、試料No.1〜No.8を得た。
又、比較のため、パンティストッキング1足をタンニン酸の水溶液で処理しないでカフェイン5.0%owf、仕上げ剤4.0%owfを含む水溶液で処理をして比較試料No.1を得た。
【0020】
これらの試料を用いてカフェインの固定化量を測定し、又、JIS L0217−1995「繊維製品の取り扱いに関する表示用語及び表示方法」2.2(1)洗い方番号103に基づいて10回繰返し洗濯した後に乾燥して得た試料のカフェインの固定化量を測定し、及び洗濯耐久性を算出した結果を表1に示した。又、徐放性の評価方法によって得た各試料のカフェインの固定化量を測定しその結果を表1に示した。
【0021】
【表1】
Figure 0003845820
【0022】
表1より、タンニン酸及びカフェイン水溶液の処理濃度が0.1%owfである試料No.1はカフェインの加工初期の固定化量も0.02mg/gと非常に少なく、洗濯耐久性も劣っていた。タンニン酸及びカフェイン水溶液の処理濃度が30.0%owfである試料No.8は、処理液濃度が20.0%owfである試料No.7と比べて初期固定化量は殆ど変わらず、処理濃度を増加させた効果が見られなかった。試料No.2〜No.7はタンニン酸及びカフェイン水溶液の処理濃度増加と共にカフェインの加工初期の固定化量が増加している。又、洗濯10回後のカフェインの固定化量もタンニン酸及びカフェイン水溶液の処理濃度増加と共に増加している。それらの洗濯耐久性は56.4%〜73.0%といずれの試料も高い洗濯耐久性を示し、カフェインの徐放性の評価方法に供した人工汗を含む綿添付白布と試料を接触処理した後に洗濯した試料は、洗濯耐久性に供した試料に比較してカフェイン固定化量の減少度が大きく、繰返し洗濯によって徐々に減少することから、カフェインが人工汗に対する徐放性を有することが明らかである。比較のため、タンニン酸及び吐酒石水溶液の処理をしないでカフェイン5.0%owf、仕上げ剤4.0%owfを含む水溶液のみで処理をした比較試料No.1は、加工初期の固定化量が0.324mg/gと試料No.6の固定化量の十分の一にすぎず、このことからタンニン酸がカフェインの固定化に深く関与していることが明らかである。
【0023】
〔実施例2〕
実施例1と同様にしてパンティストッキング8足を得、パンティストッキング1足ずつを実施例1と同一の精練用浸透剤0.5g/lを含む処理液で浴比1:20、温度95℃でソーピングした後、パンティストッキング1足ずつを繊維重量当たり実施例1に記載のタンニン酸とカフェインを夫々0.1%owf、0.5%owf、1.0%owf、3.0%owf、5.0owf、10.0%owf、20.0%owf、30.0%owfとなるように水溶液を調製した後、表2に示す様に該水溶液を攪拌しながら混合し、混合水溶液中で得られたタンニン酸とカフェインの複合体を含む水溶液中で浴比1:20、温度80℃で20分間処理した。次いで、実施例1に記載の仕上げ剤4.0%owfを含む水溶液の処理浴で各パンティストッキングを浴比1:20、温度40℃で15分間処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して、試料No.9〜No.16を得た。
【0024】
これらの試料を用いてカフェインの固定化量を測定し、10回繰返し洗濯した後に乾燥して得た試料のカフェインの固定化量を測定し、及び洗濯耐久性を算出した結果を表2に示した。又、徐放性の評価方法によって得た各試料のカフェインの固定化量を測定しその結果を表2に示した。尚、タンニン酸とカフェインの夫々の濃度が30.0%owfの水溶液を用いた試料No.16は、複合体の凝集が激しかったため十分にパンティストッキングの処理ができなかったので、カフェインの固定化量、徐放性の測定は行わなかった。
【0025】
【表2】
Figure 0003845820
【0026】
表2より、タンニン酸とカフェインの夫々の濃度が0.1%owfの水溶液を用いた試料No.9はカフェインの初期固定化量が0.01mg/gと非常に少なく、又、洗濯耐久性も劣っていた。試料No.10〜No.15は、タンニン酸水溶液とカフェイン水溶液の濃度の増加と共にカフェインの加工初期の固定化量も増加し、それらの洗濯耐久性も54.3%〜65.6%といずれの試料も高い洗濯耐久性を示した。又、カフェインの徐放性の評価方法に供した人工汗を含む綿添付白布と試料を接触処理した後に洗濯した試料は、洗濯耐久性に供した試料に比較してカフェインの固定化量の減少度が大きく、洗濯によって徐々に減少することから、カフェインは人工汗に対する徐放性を有することが明らかである。
【0027】
〔実施例3〕
実施例1と同一のタンニン酸とカフェインを用いて、タンニン酸水溶液を攪拌しながら、カフェイン水溶液を添加し、夫々の濃度が1.0重量%のタンニン酸とカフェインの複合体を含む水溶液を準備し、該水溶液中に固定化剤〔商品名:デコナールEX−810、ナガセケムテックス(株)製〕2.0重合%を添加・混合した後、通常の条件で毛焼・糊抜・精練・漂白処理した綿100%ブロード織物〔11.81tex×11.81tex/144(本/インチ)×76(本/インチ)〕を浸漬し、絞り率100%で絞った後に、温度120℃で10分間乾燥処理した。次いで、吐酒石〔商品名:試薬吐酒石、関東化学(株)製〕1.0重量%の水溶液に浸漬し、絞り率100%で絞った後に温度120℃で10分間乾燥処理し、更に150℃で5分間熱処理した後、十分に水洗し温度120℃で10分間乾燥して試料No.17を得た。
【0028】
得られた試料を用いてカフェインの固定化量を測定し、10回繰返し洗濯した後に乾燥して得た試料のカフェインの固定化量を測定すると共に洗濯耐久性を算出し、又、徐放性の評価方法によって得た各試料のカフェインの固定化量を測定しその結果を表3に示した。
【0029】
【表3】
Figure 0003845820
【0030】
表3より、綿100%ブロード織物についてもカフェインを固定化でき、また、徐放効果を発揮させ得ることも明らかである。尚、該織物は吐酒石水溶液で処理したためにタンニン酸による汚染はなかった。
【0031】
〔実施例4〕
実施例1と同様にして熱処理した後縫製したパンティストッキング4足を得た。パンティストッキング2足を酸性染料〔Kayanol Yellow N3R、Kayanol Red 3BL、Kayanol Navy Blue R、日本化薬(株)製〕0.8%owf、硫安3%owfを含む染色浴で浴比1:20、温度90℃で染色した後水洗した。次いで、実施例1と同一のタンニン酸0.5%owfを含む処理液で浴比1:20、温度80℃で20分間フィックス処理した後、実施例3と同一の吐酒石0.25%owfを含む処理液で浴比1:20、温度80℃で20分間処理した。次いで各パンティストッキングを実施例1と同一の仕上げ剤3.0%owfを含む水溶液の処理浴で浴比1:20、温度40℃で15分間処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して、酸性染料濃度0.8%owfで染色され、タンニン酸でフィックス処理された試料No.18〜No.19を得た。
【0032】
試料No.18を90℃の温水で15分間洗浄した後、実施例1と同一のカフェイン0.5%owfを含む処理液で同一の条件で処理した後、実施例1と同一の仕上げ剤2.0%owfを含む水溶液の処理浴で同一の条件で処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して、試料No.18´を得た。
【0033】
試料No.19を90℃の温水で15分間洗浄した後、前述したと同一の条件でタンニン酸0.5%owfを含む処理液で処理した後、吐酒石0.25%owfを含む処理液で同一の条件で処理し、次いでカフェイン1.0%owfを含む処理液で処理し、仕上げ剤2.0%owfを含む水溶液の処理浴で処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して試料No.19´を得た。
【0034】
同様に、残りのパンティストッキング2足を前述と同一の酸性染料2.3%owf、硫安3%owfを含む染色浴で同一の条件で染色した後、前述したと同一の条件でタンニン酸1.0%owfを含む処理液でフィックス処理した後、吐酒石0.5%owfを含む処理液で処理し、前述と同一の仕上げ剤3.0%owfを含む水溶液の処理浴で同一の条件で処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して、酸性染料濃度2.3%owfで染色され、タンニン酸でフイックス処理された試料No.20〜No.21を得た。
【0035】
試料No.20を90℃の温水で15分間洗浄した後、前述と同一の条件でカフェイン1.0%owfを含む処理液で処理し、実施例1と同一の仕上げ剤2.0%owfを含む水溶液の処理浴で処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して試料No.20´を得た。
【0036】
試料No.21を90℃の温水で15分間洗浄した後、前述と同一の条件でタンニン酸4.0%owfを含む処理液で処理した後、吐酒石2.0%owfを含む処理液で処理し、次いでカフェイン5.0%owfを含む処理液で処理した後、実施例1と同一の仕上げ剤2.0%owfを含む水溶液の処理浴で処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して試料No.21´を得た。
【0037】
これらの試料を用いてカフェインの固定化量を測定し、10回繰返し洗濯した後乾燥して得た試料のカフェインの固定化量を測定すると共に洗濯耐久性を算出し、結果を表4に示した。又、徐放性の評価方法によって得た各試料のカフェインの固定化量を測定し、その結果を表4に示した。
【0038】
【表4】
Figure 0003845820
【0039】
表4より、酸性染料を用いて染色したパンティストッキングをタンニン酸及び吐酒石でフィックス処理した試料No.18及び試料No.20をカフェイン水溶液の処理により得た試料No.18´及び試料No.20´のカフェインの固定化量は、実施例1に記載のタンニン酸と同濃度で処理した試料No.2及び試料No.3とほぼ同量のカフェインが固定化され、洗濯10回後の固定化量も、洗濯耐久性も、徐放性もほぼ同様の結果を示した。
【0040】
酸性染料を用いて染色したパンティストッキングをタンニン酸でフィックス処理した試料No.19及び試料No.21を再びタンニン酸水溶液で処理し、吐酒石水溶液で処理した後、カフェイン水溶液で処理して得た試料No.19´及び試料No21´のカフェインの固定化量は、実施例1に記載の試料No.3及び試料No.5と比較するとほぼ同量のカフェインが固定化され、洗濯10回後の固定化量も、洗濯耐久性も、徐放性もほぼ同様の結果を示し、フィックス剤として用いたタンニン酸と更に処理したタンニン酸の合計濃度がカフェインの固定化量に寄与しているのが明らかであり、フィックス剤としてのタンニン酸もカフェインの固定化に寄与している。
【0041】
〔実施例5〕
市販のベージュ色のパンティストッキング〔アツギ(株)製〕2足を準備し試料No.22とした。又、市販の黒色のパンティストッキング〔アツギ(株)製〕2足を準備し試料No.23とした。試料No.22と試料No.23の各1足を夫々3試料に裁断し、95℃の温水で15分間処理した後乾燥し、試料No.22−1、試料No.22−2、試料No.22−3及び試料No.23−1、試料No.23−2、試料No.23−3を得た。試料No.22−1と試料No.23−1を実施例1と同一のカフェイン水溶液0.5%owfを含む水溶液で夫々を浴比1:20、温度60℃で20分間処理し、次いで実施例1と同一の仕上げ剤2.0%owfを含む処理液で浴比1:20、温度40℃で15分間処理した後、遠心脱水し、80℃の温風で30分間乾燥して、試料No.22−1´と試料No.23−1´を得た。同様に試料22−2と試料No.23−2をカフェイン水溶液1.0%owfの水溶液で処理した後、仕上げ剤で処理し、遠心脱水し、乾燥して、試料No.22−2´と試料No23−2´を得た。又、同様に試料No.22−3と試料No.23−3をカフェイン水溶液3.0%owfの水溶液で処理した後、仕上げ剤で処理し、遠心脱水し、乾燥して、試料No.22−3´と試料No.23−3´を得た。
得られた6つの試料を用いてカフェインの初期固定化量と10回繰返し洗濯した後に乾燥して得た試料のカフェインの固定化量を測定し、その結果を表5に示した。
【0042】
【表5】
Figure 0003845820
【0043】
表5より試料No.22−1´〜No.22−3´のカフェインの初期固定化量は0.091〜0.097mg/gで、洗濯10回後の固定化量も0.067〜0.069mg/gと低く、このパンティストッキングは染色後のフィックス処理に用いられたタンニン酸の量が少ないことが確認できた。又、試料No.23−1´のカフェイン初期固定化量は0.095mg/gと低く、試料No23−2´〜No23−3´のカフェインの初期固定化量は0.205mg/g〜0.211mg/gと十分に高い値を示したことから、染色後のフィックス処理に用いられたタンニン酸が十分に残留しているのが確認された。
【0044】
上述の結果に基づき、カフェインの固定化量を0.2mg/gとするために、ベージュ色の残りのパンティストッキング1足は実施例1と同一のタンニン酸0.5%owfを含む処理液で同様の処理をした後、実施例1と同一のカフェイン1.0%owfを含む処理液で同様の処理を行ない、遠心脱水し、乾燥して試料No22´を得た。又、黒色の残りのパンティストッキング1足はタンニン酸水溶液で処理せずに、カフェイン1.0%owfを含む処理液で同様に処理し、遠心脱水し、乾燥して試料No.23´を得た。
【0045】
これらの試料を用いてカフェインの加工初期固定化量、洗濯10回後の固定化量を測定し、洗濯耐久性を算出し、また、徐放性の評価方法によって得られたカフェインの固定化量を測定し、それらの結果を表6に示した。
【0046】
【表6】
Figure 0003845820
【0047】
表6から明らかなように市販のパンィストッキングについても、所望のカフェインの固定化量を有する繊維製品が得られた。
【0048】
【発明の効果】
本発明は繊維製品上にタンニン酸を用いてカフェインを固定化する方法であり、この方法で得られた繊維製品は、衣料分野において通常の繊維製品が具備していないカフェインが固定化されており、洗濯耐久性に優れている効果があり、しかも風合いや吸湿性に優れた繊維製品である。更に、固定化されたカフェインは、汗等のイオン性液体によって人体の皮膚に徐放され、皮膚内部に取込まれてスキンケア効果を発揮することが期待できる。

Claims (4)

  1. 繊維製品をタンニン酸水溶液で処理し、次いでカフェイン水溶液で処理することを特徴とする繊維製品の製造方法。
  2. タンニン酸とカフェインを混合した水溶液中でタンニン酸とカフェインの複合体を調製し、繊維製品を該複合体含有水溶液で処理することを特徴とする繊維製品の製造方法。
  3. 染色後タンニン酸でフィックス処理された繊維製品をタンニン酸水溶液で処理し、次いでカフェイン水溶液で処理することを特徴とする繊維製品の製造方法。
  4. 染色後タンニン酸でフィックス処理された繊維製品をカフェイン水溶液で処理することを特徴とする繊維製品の製造方法。
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