JP3845140B2 - 構造物の免振装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ビル、一般戸建住宅などの建物、橋脚その他の構造物に用いられる免振装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
構造物の免振装置として、積層ゴムアイソレータなどが知られている。積層ゴムアイソレータは一対のプレートの間にゴム板と鋼板とをサンドイッチ状に交互に積層してなるものであり、地盤側基礎と免振される構造物との間に介在され、構造物の荷重を鉛直支持するとともに、水平方向に柔らかいばねとして作用し、地震入力エネルギを弾性歪みエネルギとして吸収するものである。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、従来のこの種のアイソレータにあっては、専ら構造物に対する水平方向の振動(いわゆる横揺れ)を対象としており、鉛直方向の振動(いわゆる縦揺れ)に対処するものではなかった。すなわち、比較的震源が浅い場所では縦揺れ成分が大きく地表面に作用し、その地震エネルギはきわめて大きいものとなる。例えば、最近国内において大被害をもたらした阪神大震災は、震度7以上の巨大な地震であったと結論づけられ、構造物の崩壊が随所に観察されているが、このような崩壊は横揺れのみならず縦揺れにも起因するものとの報告がなされている。これに対し、従来の水平方向の免振装置に加えて、鉛直方向のばね特性を有する免振装置を追加することも考えられるが、構造が複雑になって工期が増加するばかりか、コストが大幅に増加するという課題がある。
【0004】
また、従来の積層ゴムアイソレータは、積層された複数枚のゴム板が主に水平方向に変形することにより入力を減衰して地盤と構造物との相対変位を抑えるものであるが、一方向の変形により逆方向の反作用エネルギが蓄積される特性を有しているため、この反作用エネルギにより、いわゆる揺れ返しが生じるという課題がある。
【0005】
さらに、従来の積層ゴムアイソレータにあっては、ゴム板が構造物の荷重を支持する機能および水平方向のばね機能をも具備する必要があり、これら荷重支持機能、ばね機能だけでなく復元機能をも加味した設計をする必要があるため、設計が困難であった。
【0006】
本発明は、以上の問題を解決するものであり、簡単な構成でありながら、構造物に対する水平方向の振動エネルギのみならず鉛直方向の振動エネルギをも減衰することができ、また、変形による反作用エネルギが蓄積されずに揺れ返しが生じず、さらに、構造物の荷重による鉛直方向の慣性力を利用して構造物の現位置復帰作用を行わせることができる構造物の免振装置を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
以上の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る発明は、基礎地盤側に形成された凹所と、構造物の下部から突設されて該凹所に挿通される柱体と、該柱体を挟んで対向配置されるとともに、各々の上端部が前記凹所の開口縁部にボルト及び皿バネを介して揺動可能に連結され、下端部が前記柱体の下端部にボルト及び皿バネを介して揺動可能に連結され、かつ、前記柱体の軸線に対して斜めに配置される複数の吊り部材と、前記柱体を挟んで対向配置される吊り部材同士を連結して、両吊り部材の揺れの位相を強制的に同一にするとともに、一部に両吊り部材を強制的な連動から解除するリンク板が設けられる連結桿とを備えていることを特徴とする。
【0008】
ここで、吊り部材は、鋼材(鋼棒、フラットバー、中空パイプ、H鋼、アングル材、チャンネル材)、ワイヤ、スプリングなどのいずれであってもよく、これらを吊り部材の軸方向に任意に組み合わせたものであってもよい(例えば、鋼棒−ワイヤ−鋼棒)。
【0009】
この構成としたことにより、地震が発生すると、地盤→吊り部材の地盤側支点→吊り部材→吊り部材の柱体側支点→柱体→構造物の経路を経て地震振動が伝達される。この場合、水平方向振動成分の入力に対しては、吊り部材が上下端のボルトを支点としてその方向に揺動し、吊り部材の上下端の支点部に生じる摩擦力と吊り部材自体の減衰特性とにより、その方向の振動が減衰され、縦方向振動成分の入力に対しては、吊り部材がその方向に変位し、吊り部材の上下端の支点部に生じる摩擦力と吊り部材自体の減衰特性とにより、その方向の振動が減衰されることになる。
【0010】
また、各吊り部材は、柱体の軸線に対して斜めに配置されているので、水平方向の地震入力をFとし、吊り部材の水平線に対する角度をθとすると、水平方向に作用する力はFcosθであり、鉛直方向に作用する力はFsinθとなって、水平方向のみならず鉛直方向の地震入力を低減することができる。したがって、免振されるべき構造物の固有振動特性、構造物の水平方向および鉛直方向の耐力限界、想定される地震波の振動特性などに基づき、角度θを適宜設定することができる。
【0011】
さらに、連結桿によって柱体を挟んで対向配置される吊り部材同士を連結しているので、各吊り部材の揺れの位相を強制的に同一とすることができ、柱体を中立点に保持することができる。さらに、連結桿の一部には、各吊り部材を強制的な連動から解除するリンク板が設けられているので、きわめて強い揺れの場合にリンク板によって各吊り部材の強制的な連動を解除することにより全体の安全性を確保することができる。
【0012】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の構造物の免振装置であって、前記基礎地盤には複数の凹所が設けられ、各凹所内にそれぞれ前記柱体及び前記複数の吊り部材が設けられていることを特徴とする。
本発明による構造物の免振装置によれば、構造物全体を平面的にみて吊り部材の方向があらゆる方向を指向するように各凹所内に吊り部材を配置することにより、あらゆる方向の地震入力に対応することができる。
【0013】
請求項3に係る発明は、請求項1又は2に記載の構造物の免振装置であって、前記吊り部材は、ダンパ機能を備えていることを特徴とする。
ここで、「ダンパ機能を備えている」とは、吊り部材自体がスプリング、ゴムなどのばね特性を有する部材からなる場合のみならず、吊り部材自体あるいは吊り部材の中間部にエアダンパやオイルダンパなどのダンパを介設したものも含まれる。
【0014】
請求項4に係る発明は、請求項1又は2に記載の構造物の免振装置であって、前記吊り部材は、ワイヤ又は多関節リンクであることを特徴とする。
これらの部材は、圧縮力は伝達しないが、引張力は伝達する。したがって、地震入力に対して引張側となる吊り部材のみが地震波を伝達するので、構造物側に伝達される地震波を低減することができる。また、吊り部材をワイヤにて構成した場合、ワイヤの端部を所定張力で巻取り繰出するリトラクタを設けることもできる。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
図1〜図7には、本発明による免振装置の一実施例が示されていて、図1〜図3は本発明による免振装置の前提となる凹所と柱体と吊り部材との関係を示す説明図、図4〜図6は吊り部材の変形例を示す説明図、図7は本発明による免振装置の一実施例の全体を示す説明図である。
【0016】
すなわち、本発明による免振装置は、図1〜図3に示すような凹所1と柱体3と吊り部材5との関係を前提とし、この前提となる凹所1、柱体3、及び吊り部材5の構成に、後述する連結桿20と、柱体3の擦過現象を未然に防止する機構の構成を付加して構成したものである。
【0017】
図1〜図3に示すように、本発明による免振装置は、基礎地盤E側の適宜位置に形成された複数の凹所1と、地盤E上に配置される構造物である建物の基礎梁2の下部に突設されて凹所1内に挿通される柱体3と、柱体3の先端に一端を連結し、他端を凹所1の開口縁上部側に連結することにより、柱体3を凹所1内のほぼ中央部に浮遊状態に支持する4本の吊り部材5とを有している。なお、本発明による免振装置は、建物下部の1ヶ所のみでなく、構造物の規模に応じて複数箇所に配置され、建物下部を懸垂状態に吊り下げ支持する。
【0018】
前記凹所1は、実際には、ヒューム管などの中空円筒部材を基礎地盤E内に埋設して構成されるもので、その底部フランジ6をアンカーボルト7などを介して基礎コンクリート8に強固に結合している。また、その上部側は吊り部材5の配置位置に沿って斜めに拡開された溝9が形成され、この拡開溝9に前記各吊り部材5を挿通しているとともに、上部においては、吊り部材5の上端側をボルトBにより揺動可能に連結するための連結部10を設けている。なお、凹所1は、中空であれば角柱状あるいは多角柱状のもので構成することも可能である。
【0019】
柱体3は、その上端フランジ11を、ボルトBを介して基礎梁2に連結したもので、中空の円筒状鋼管によって構成されているが、H型鋼、中空ないし中実の円筒状または角柱状であっても良い。
【0020】
この柱体3の下部側において、その接線方向に各吊り部材5の先端側がボルトBを介して連結されている。図3はその要部構造を示すもので、ボルトBのボルト軸の周囲には多数の皿バネ12が積層配置され、この皿バネ12によって吊り部材5の先端接合部13を挟み込むことによって吊り部材5の軸方向に直交する変位を吸収する。なお、皿バネ12に代えてボールリンクなどの結合によっても同様の目的を達成できる。また、吊り部材5の連結形態は、必ずしも柱体3の接線方向でなくてもよく、柱体3の中心から放射状の連結形態であってもよい。
【0021】
各吊り部材5は、スプリングと、ガスまたはオイルなどの圧力流体の組合わせからなるピストンダンパ機構が採用され、その上部側をシリンダ部5aとし、下部側をシリンダ部5aに摺動可能に挿通されるピストンに一体化させたプランジャ5bとしている。通常の静止状態においては、プランジャ5bを上部側に位置させた状態で建物の構造重量を支持し、振動の入力があった場合には、水平方向振動成分の入力に対しては、ボルトBを支点に揺動するとともに、縦方向振動成分の入力に対しては、プランジャ5bが伸縮して振動の減衰効果をもたらすようにしている。
【0022】
図4〜図6は、吊り部材の各種変形例を示している。
まず、図4においては、吊り部材としてフラットバー5−1を用い、その下部側をく字型に曲げてある。この場合には、フラットバー5−1からの振動の伝達は直線的でなく、く字型の折曲部5−1aの部分で変位するため、さらに緩衝効果を得ることができる。吊り部材の形状は、図4に示すように、くの字の折曲部が柱体の中心線上に位置していたり、該中心線より内側または外側に位置しているものとすることができるし、くの字の折曲部が下側に位置するものであってもよく、この場合、構造物側支点Bを通る鉛直線より外側を通るものであってもよい。また、吊り部材は、円弧状であってもよいし、地盤側および構造物側の支点部B、Bを含む三角形、半円形などの平板状であってもよい。
【0023】
図5は、吊り部材として一対のパイプ5−2をねじ込みにより長さ調節可能に連結したものを用いているとともに、1ヶ所をヒンジピン5−2aにより連結されている。この場合においても、振動の伝達経路がヒンジピン5−2aで曲げられるため、緩衝効果を得ることができる。
【0024】
図6は、それぞれ、柱体3及び連結部10に一端を連結した一対のフラットバー5−1の中間位置にヒンジピン5−2aを介してワイヤ5−3を連結している。ワイヤ5−3は、張力方向にのみしか荷重を伝達せず、圧縮方向に対しては撓んで荷重の伝達がないため、前述した各種形状の吊り部材とは異なった特性となる。
【0025】
図7に示すように、本発明の一実施例による免振装置は、柱体3を挟んで対向する吊り部材5同士を連結桿20によって連結する構成を有している。振動の入力時において、その振動の方向が不規則に変化したり、ダンパ機構の働きにより、吊り部材5の長さが変化した場合には、各吊り部材5の振動の周期や位相が変化し、柱体3を中立点に保持できなくなる。なお、図1に示すものと同一箇所には同一符号を付し、その詳細な説明は省略する。
【0026】
連結桿20で各吊り部材5間を連結することによって、揺れの位相を強制的に同一とし、一方の吊り部材5が図中実線で示す位置から破線で示す位置に揺動変位すると、他方の吊り部材5も同相方向に揺動変位させ、これによって柱体3を中立点に保持することができる。
【0027】
なお、連結桿20の一部は、リンク板21によって接合されている。このリンク板21は、きわめて強い揺れであって振動の方向が異なる場合に、この部分から破壊して、あるいはこの部分をスライドさせることによって連結桿20による各吊り部材5を強制的な連動から解除し、全体の安全性を確保する。
【0028】
図7に示すように、本発明の一実施例による免振装置は、縦方向の揺れによって柱体3が凹所の内底面に着地したときの衝撃を吸収するとともに、着底後の柱体3の擦過現象を未然に防止する機構を有している。
【0029】
すなわち、図7において、柱体3の底部には複数のころがり支承22が配置され、凹所の内底面に配置された受けプレート23に対して所定の隙間dをあけて対向している。また、受けプレート23の下部には多数のバネ24が積層されている。従って、縦方向振動成分により、柱体3が受けプレート23に衝突した場合には、バネ24のクッション作用によってその衝撃が緩和される。また、着底状態での柱体3の動きと内底面の動きのずれによってごろがり支承22が転動することにより、擦過を防止することになる。
【0030】
上記のように構成した本実施例による免振装置にあっては、基礎地盤Eに対する振動の入力時、常時各吊り部材5は、上下のボルトBを基点に揺動するが、柱体3に対する支持点では、建物荷重により常時凹所1の中立点に保持しつつ、振動の減衰を行う。この結果、建物自体に伝わる振動エネルギーはきわめて小さなものとなる。
【0031】
また、柱体3を挟んで対向する吊り部材5同士を連結桿20によって連結しているので、各吊り部材5の揺れの位相を強制的に同一とすることができ、柱体3を中立点に保持することができる。この場合、連結桿20の一部にはリンク板21が設けられているので、きわめて強い揺れであって振動の方向が異なる場合に、リンク板21の部分から破壊し、又はリンク板21の部分をスライドさせることにより、各吊り部材5を強制的な連動から解除することができるので、全体の安全性を確保することができる。
【0032】
なお、前記の説明においては、ピストンダンパ機構を備えた4本の吊り部材5によって柱体3を支持したが、その吊り部材5の本数を変更することもできる。この場合、構造物全体を平面的にみて吊り部材5の吊設方向があらゆる方向を指向するように配置すれば、あらゆる方向の地震入力に対応することができる。
【0033】
なお、本発明は、上記実施例のものに限定されるものではなく、例えば、空所内壁と柱体との間に大地震時に膨出するエアバッグを設置したり、水、油などの流体を充填して粘性ダンパ作用をもたせることもできる。また、流体に代えて、細かい球(ビーズ)を多数充填することにより、地震エネルギを熱エネルギに変換することもできる。
【0034】
【発明の効果】
以上、説明したように、本発明の構造物の免振装置によれば、簡単な構成でありながら、水平方向のみならず鉛直方向の振動エネルギをも、吊り部材の上下端の各支点部に生じる摩擦力、吊り部材自体の減衰特性、柱体自体の振動伝達特性、及び構造物の自重による鉛直方向の慣性力による自己復帰作用により、減衰することができる。
【0035】
また、連結桿によって柱体を挟んで対向配置される吊り部材同士を連結しているので、各吊り部材の揺れの位相を強制的に同一とすることができ、柱体を中立点に保持することができる。さらに、連結桿の一部には、各吊り部材を強制的な連動から解除するリンク板が設けられているので、きわめて強い揺れの場合にリンク板によって各吊り部材の強制的な連動を解除することにより全体の安全性を確保することができる。
【0036】
また、反作用エネルギの蓄積に起因した構造物の揺れ返しが起こることがないし、吊り部材としてワイヤや鋼材などの引張に強い部材を使用することができ、設計が容易でコストダウンが図れるといった効果もある。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明による免振装置の前提となる凹所と柱体と吊り部材との関係を示す縦断面図である。
【図2】 図1の横断面図である。
【図3】 図1の柱体と吊り部材との接合部の詳細を示す部分拡大図である。
【図4】 吊り部材の変形例を示す縦断面図である。
【図5】 吊り部材の変形例を示す縦断面図である。
【図6】 吊り部材の変形例を示す縦断面図である。
【図7】 本発明による免振装置の一実施例の全体を示す縦断面図である。
【符号の説明】
E 基礎地盤
1 凹所
2 建物基礎梁
3 柱体
5 吊り部材
5a シリンダ部
5b プランジャ(ダンパ機能)
20 連結桿
21 リンク板
22 ころがり支承
24 バネ
Claims (4)
- 基礎地盤側に形成された凹所と、構造物の下部から突設されて該凹所に挿通される柱体と、該柱体を挟んで対向配置されるとともに、各々の上端部が前記凹所の開口縁部にボルト及び皿バネを介して揺動可能に連結され、下端部が前記柱体の下端部にボルト及び皿バネを介して揺動可能に連結され、かつ、前記柱体の軸線に対して斜めに配置される複数の吊り部材と、前記柱体を挟んで対向配置される吊り部材同士を連結して、両吊り部材の揺れの位相を強制的に同一にするとともに、一部に両吊り部材を強制的な連動から解除するリンク板が設けられる連結桿とを備えていることを特徴とする構造物の免振装置。
- 前記基礎地盤には複数の凹所が設けられ、各凹所内にそれぞれ前記柱体及び前記複数の吊り部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の構造物の免振装置。
- 前記吊り部材は、ダンパ機能を備えていることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の免振装置。
- 前記吊り部材は、ワイヤ又は多関節リンクであることを特徴とする請求項1又は2に記載の構造物の免振装置。
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