JP3842412B2 - 積層セラミック電子部品の製造方法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、セラミックグリーン積層体中の誘電体層を熱転写印刷法によって形成する際に用いる熱転写性誘電体材料に関する。
【0002】
【従来の技術】
セラミックチップコンデンサ等の積層セラミック電子部品の製造は、通常、以下の手順で行われる。まず、剥離性のあるフィルム上にテープキャスティング法などの手段により誘電体層を形成してセラミックグリーンシートを得る。この上に内部電極や配線パターン等の導体パターンを形成する。この導体パターンは、導体ペーストをスクリーン印刷することにより形成するのが一般的である。次に、導体パターンが形成されたセラミックグリーンシートを積層し、得られた積層体を焼成する。
【0003】
このような一連の工程において、導体パターン形成に用いるスクリーン印刷法は工業的に確立された方法であるが、パターンの変更のたびに新たに版を作る必要があるので、任意のパターンに迅速に対応する必要がある場合には不向きである。また、スクリーン印刷工程で生じるパターンの滲みがパターンの高精度化や薄膜化を阻害するという問題点がある。これらの問題点を改善するため、熱転写印刷法が提案されている。
【0004】
例えば、特開昭57−193091号公報には、導電体粉または抵抗体粉、ワックス、有機バインダ等を含むペースト層を有する熱転写シートを作製し、これを熱転写印刷することにより回路パターンを形成する方法が記載されている。また、特公平5−1639号公報では、同様な熱転写印刷をサーマルヘッドで行うための方法および装置が提案されている。また、特開平1−129492号公報および特開平5−116465号公報にも熱転写印刷法に関する提案が記載されている。
【0005】
しかし、上記従来技術は、いずれも熱転写印刷によって電気回路パターンを形成する技術に関し、電気回路パターンを印刷すべき所定の基板を別に必要とする。したがって、これらの技術によってセラミック積層体を形成するには、予め支持体フィルム上に形成したセラミックグリーンシート基板上に熱転写印刷によって回路パターンを形成し、その後、セラミックグリーンシート基板(以後、グリーンシートと呼ぶ)を支持体フィルムから除去しながら、一枚ごとに位置合わせをしながら積層していく必要がある。このため、積層時にグリーンシートが支持体フィルムから容易に剥離して破損しないよう、グリーンシートと支持体フィルムの剥離強度を下げる必要があり、通常、支持体フィルム上に剥離層を設け、この上にグリーンシートを形成して剥離性を保持するのが一般である。一方、熱転写印刷を行う際には、熱転写性材料をグリーンシート面に密着して所定のパターンを熱転写した後で熱転写材料をグリーンシートから引き剥がす必要があり、この時点でグリーンシートが熱転写材料側に引きつけられ、破れて支持体フィルムから剥がれないようにしなければならない。このためには、グリーンシートの膜強度を高める必要がある。しかしながら、グリーンシートの膜厚が薄くなると、膜強度が低下し、熱転写時にグリーンシートの一部が破れ、支持体フィルムから剥がれる問題を生じていた。
【0006】
一方、グリーンシートが比較的厚い場合でも熱転写済みのグリーンシートを数百層にわたって損傷させずに支持体フィルムから剥離しながら積層する必要があり、生産効率の上でも問題があった。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、従来のように予め作成されたグリーンシート上に電極などのパターンを熱転写印刷するのではなく、グリーンシートの形成と電極パターンの形成を熱転写印刷によって交互に行い、効率よく積層セラミック部品等を製造することを可能とするための熱転写性誘電体材料を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
このような課題を解決するために、本発明は、誘電体層と、内部電極部および誘電体部を有する内部電極層と、が積層された積層体を備えてなる積層セラミック電子部品の製造方法であって、該方法は、誘電体粒子と熱可塑性樹脂を含む誘電体層を支持体フィルム上に形成してなる熱転写印刷用の熱転写性誘電体材料を複数準備する工程と、導電体粒子と熱可塑性樹脂を含む導電体層を支持体フィルム上に形成してなる熱転写印刷用の熱転写性導電体材料を複数準備する工程と、前記準備された熱転写性導電体材料を用いて所定パターンの内部電極部を熱転写印刷し、ついでこの所定パターンの内部電極部以外の部分を埋めるように前記熱転写性誘電体材料を用いて所定のパターンの誘電体部を熱転写印刷して、平坦な内部電極層を形成する内部電極層形成工程と、この平坦な内部電極層の全体をカバーするように、前記準備された熱転写性誘電体材料を熱転写して誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、前記内部電極層形成工程と前記誘電体層形成工程とを複数回繰り返して積層体を形成する積層体形成工程と、を有してなるように構成される。
【0009】
また、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法において、前記内部電極層形成工程は、前記準備された熱転写性誘電体材料を用いて所定パターンの誘電体部を熱転写印刷し、ついでこの所定パターンの誘電体部以外の部分を埋めるように前記熱転写性導電体材料を用いて所定のパターンの導電体部を熱転写印刷して、平坦な内部電極層を形成してなるように構成される。
【0010】
また、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法の好ましい態様として、前記熱転写印刷用の熱転写性誘電体材料は、支持体フィルム表面に下塗り層、および誘電体層をこの順で有し、前記下塗り層がワックスを含有してなるように構成される。
【0011】
また、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法の好ましい態様として、前記熱転写印刷用の熱転写性誘電体材料は、支持体フィルム表面に下塗り層、誘電体層、およびオーバーコート層とをこの順で有し、前記下塗り層がワックスを含有し、前記オーバーコート層が熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂およびワックスを含有してなるように構成される。
また、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法の好ましい態様として、前記オーバーコート層にはさらに誘電体粒子が含有されるように構成される。
また、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法の好ましい態様として、前記オーバーコート層に含有される誘電体粒子は、前記誘電体層に含有される誘電体粒子と同一径あるいは異なる径のものが用いられ、かつ、オーバーコート層中におけるワックスと熱可塑性樹脂との合計に対する誘電体粒子の体積比率は1以下であるように構成される。
また、本発明の積層セラミック電子部品の製造方法の好ましい態様として、前記熱転写印刷用の熱転写性導電体材料は、支持体フィルム表面に下塗り層、および導電体層をこの順で有し、前記下塗り層がワックスを含有してなるように構成される。
【0012】
【作用および効果】
本発明の熱転写性誘電体材料は、セラミックグリーン積層体を構成する誘電体部を図2に示すような熱転写印刷法によって形成するために使用される。一般に熱転写印刷法では、支持体フィルム2の表面側に誘電体層4を有する熱転写性誘電体材料を用い、その裏面側からサーマルヘッド7で所定の部分の加熱を行う。誘電体層4は加熱によって軟化し、加熱通りに抜けて下地となる積層体8上に転写される。図2は、積層体8を構成する誘電体層11上に誘電体部10が形成される状況を示したものであるが、この印刷の前に、誘電体層11が誘電体層4の熱転写によって形成され、また、内部電極部9が別の熱転写性導体材料の熱転写によって形成される。内部電極部9と誘電体部10の熱転写印刷はいずれを先に行ってもよく、これらの印刷で形成される内部電極層の上に誘電体層11が熱転写印刷されている。このように、支持基板12上に熱転写印刷によって、内部電極部9と誘電体部10で構成される内部電極層と誘電体層11の熱転写印刷を繰り返すことにより積層体8が形成される。
【0013】
誘電体部10と誘電体層11の形成に用いられる誘電体層4の組成はそれぞれ異なっていてもよい。誘電体部10によって、誘電体層11上に形成される内部電極部9の盛り上がりが解消され、これによって、内部電極部9と誘電体部10とで構成される内部電極層の積層面が平坦化され、均一な、盛り上がりのない積層体が得られる。
【0014】
一般に熱転写印刷の場合は、コンピュータ画面上のパターン情報に応じてサーマルヘッドを発熱させることができるので、本発明の熱転写性誘電体材料を使用すれば、画面上の任意の誘電体パターンを、熱転写プリンタを通じて任意の下地面上に精度よく形成することが可能になる。
【0015】
なお、熱転写性誘電体材料が下塗り層3を有していると、熱転写印刷の際に、下塗り層3のワックスの剥離作用により、誘電体層4の抜けが促進され、また、オーバーコート層5を有していると、オーバーコート層5の熱可塑性樹脂やワックスが溶融して下地層の接着を促進するので転写誘電体層の品質がより改善される。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の熱転写性誘電体材料は、主として誘電体粒子と熱可塑性樹脂を含む誘電体層を支持体フィルム上に形成したものである。この熱転写性誘電体材料の好ましい構成例を図1に示す。同図の熱転写性誘電体材料1は、支持体フィルム2表面に下塗り層3と誘電体層4とをこの順で有し、誘電体層4上にオーバーコート層5を有し、支持体フィルム2裏面にバックコート層6を有する。
【0017】
支持体フィルム2
支持体フィルムは、可撓性材料から構成する。可撓性材料としては樹脂が好ましい。樹脂としては、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリイミドなどが好ましく、要求される耐熱性などに応じて適宜選択すればよい。支持体フィルムの厚さは特に限定されず、必要とされる可撓性などに応じて適宜決定すればよいが、通常、1〜10μmであることが好ましい。
【0018】
下塗り層3
下塗り層は、ワックスを含有する。下塗り層は、サーマルヘッドによるパターン加熱によって誘電体層が下地層側に転写する際に、加熱部の誘電体層が支持体フィルム面に残ることなく完全に抜けて正確なパターンとして下地層上に転写するのを助ける。下塗り層が存在せず、誘電体層が支持体フィルム表面に接している構造である場合、熱転写時に加熱パターンの一部が支持体フィルム表面に残る場合がある。
【0019】
下塗り層は、熱転写印刷時に容易に溶融する必要があり、かつ、この溶融により誘電体層が支持体フィルムから容易に剥離できるような性質をもっている必要がある。このためには、ワックスとして、ミツロウ、ラノリン、カルナバワックス、キャンデリラワックス、モンタンワックス、セレシンワックス、米糠ワックスなどの動植物系ワックスや、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックスなどの石油系ワックスを用いることが好ましく、これらから、融点が好ましくは40〜120℃、より好ましくは60〜90℃のものを選択することが好ましい。ワックスは2種以上を混合して用いてもよい。
【0020】
なお、一般に、動植物系ワックスは、高級脂肪酸と高級一価または二価アルコールとからなる固形エステルであり、また、石油系ワックスは、一般式Cn2n+2で表され、炭素数が20〜60程度、分子量が300〜1000程度の炭化水素である。動植物系ワックスと石油系ワックスとは、構造的には異なるが性質の類似性からワックスと総称され、この呼称が広く使用されている。本発明では、動植物系と石油系との違いは問題にならず、ワックスとしての特定の性質をもつものであれば使用できる。本発明ではワックスを、明確な融点を有し、融点以上の温度での粘度(液体粘度)が極めて低く、120℃における液体の動粘度が10mm2/sec以下の有機物と定義する。
【0021】
下塗り層は、ワックスだけから構成されることが好ましいが、剥離性を損なわない範囲でワックス以外の物質が含まれていてもよい。例えば、支持体フィルムに対する接着性を向上させて、熱転写性誘電体材料の巻き取り時の耐久性などを向上させるために、必要に応じて熱可塑性樹脂などを混合してもよい。ただし、下塗り層中のワックスの含有量は、90重量%以上とすることが好ましい。
【0022】
下塗り層の厚さは、サーマルヘッドの加熱能力や支持体フィルムの耐熱性などに応じて適宜決定するが、通常、1.5μm以下とする。下塗り層が厚すぎると、熱転写印刷時ではなく取り扱いの際に誘電体層が支持体フィルムから剥離しやすくなるほか、熱転写印刷時にパターンの転写性やパターンの解像度が悪化する。転写性や解像度の悪化は、サーマルヘッドから誘電体層への熱の伝達が不十分となるなどの理由によると考えられる。また、下塗り層が厚すぎると、積層セラミック電子部品製造の際に脱脂が不十分になって、特性の低下やデラミネーションを招くおそれがある。一方、下塗り層が薄すぎると、剥離層としての機能がなくなるので、下塗り層を設ける場合はその厚さを0.1μm以上とすることが好ましい。
【0023】
誘電体層4
誘電体層は、誘電体粒子および熱可塑性樹脂を含有するか、これらに加え、ワックスを含有してもよい。
【0024】
熱可塑性樹脂としては、常温以上で溶融し、かつ1000℃以上で焼成したとき誘電体特性に悪影響をおよぼす残留部分がない樹脂を使用することができる。例えば、ポリエステル樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリアミド樹脂、ナイロン樹脂、セルロース樹脂、ブチラール樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体、エチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−グリシジルメタクリレート−アクリル酸メチル共重合体、ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル系樹脂、スチレン−アルキル(メタ)アクリレート共重合体、スチレン系樹脂等の少なくとも1種を用いればよい。
【0025】
熱可塑性樹脂の特徴は、軟化点以上の温度における粘度が、上記ワックスの融点以上での粘度よりも高いことにある。したがって、誘電体層に熱可塑性樹脂を用いると、転写パターンの滲みを抑制できるという効果がある。さらに、誘電体層11の上に、新たに内部電極部9や誘電体部10を形成する際、誘電体層11に対するサーマルヘッドの熱の影響を受けにくくする効果がある。これに対しワックスは、融液の粘度が低いので、誘電体層中のワックス量が多くなりすぎると転写パターンに滲みが発生し、パターンの高精細化の障害になる。また、誘電体層11の上に新たに内部電極部9や誘電体部10を形成する際、誘電体層11に対するサーマルヘッドの熱の影響が大きくなり、誘電体層11が部分的に再溶融して上層の熱転写層の形成を阻害する問題を生じやすい。さらに、固体ワックスは脆く柔軟性に欠け、支持体フィルムへの接着性も悪いので、誘電体層中のワックス量が多くなりすぎると、誘電体層に亀裂が発生し、誘電体層が支持体フィルムから脱落してしまうという問題が生じる。これらの問題に対処するためには、誘電体層中における熱可塑性樹脂とワックスとの合計に対するワックスの比率を65重量%以下、好ましくは50重量%以下にする必要があり、誘電体層にワックスを含有させないことも好ましい。
【0026】
誘電体微粒子は、少なくとも一般式ABO3で表されるペロブスカイト型酸化物を含むことが好ましく、例えば、BaTiO3をはじめ、BaTiO3−SrTiO3系、BaTiO3−PbTiO3系、BaTiO3−CaTiO3系、BaTiO3−YTiO3系などのチタン酸塩同士の固溶体、BaTiO3−BaSnO3系、BaTiO3−BaZrO3系、PbTiO3−PbZrO3系などのチタン酸塩と他の酸との固溶体があげられ、また、TiO2、PbNb26、LiNbO3、LiTaO3、(Sr,Ba)Nb26なども使用できる。誘電体粒子の粒径は、本発明が適用されるセラミック電子部品の種類などに応じて適宜決定すればよいが、通常、0.01〜10μmとする。誘電体粒子の粒度分布は特に限定されず、例えば、誘電体層中における充填率を向上させるために、粒度分布が2以上のピークをもつものを使用してもよい。
【0027】
誘電体層中において、熱可塑性樹脂とワックスとの合計に対する誘電体粒子の体積比率(誘電体粒子体積/(熱可塑性樹脂+ワックス)体積)は、オーバーコート層を設けない場合には0.5〜1であることが好ましい。誘電体粒子の比率が低すぎると、転写印刷後のパターン中においても誘電体粒子の比率が低くなるので、セラミックグリーン積層体の焼成過程で誘電体層が途切れて内部電極が短絡するなど電気特性が悪化しやすい。一方、誘電体粒子の比率が高すぎると、バインダ(熱可塑性樹脂+ワックス)量が相対的に少なくなるので、熱転写時の誘電体のパターンの切れの悪化、下地層に対する誘電体パターンの接着性の低下などの問題が生じやすい。ただし、オーバーコート層を設けることによりこれらの問題を改善でき、誘電体粒子の比率を1より高くすることができる。しかし、誘電体粒子の比率が5を超えると、オーバーコート層を設けてもこれらの問題を改善することが難しくなる。
【0028】
誘電体層の厚さは、0.3〜10μmであることが好ましい。誘電体層が薄すぎると、転写された誘電体層中の誘電体粒子の比率が低くなるので、セラミックグリーン積層体の焼成過程で誘電体層が途切れやすくなる。一方、誘電体層が厚すぎると、サーマルヘッドの熱が伝わりにくくなって転写性が悪化し、転写された誘電体パターンの品位が低くなってしまう。
【0029】
オーバーコート層5
上述したように、オーバーコート層は、転写パターンの切れや下地層表面に対する誘電体パターンの接着性の改善を図るために、必要に応じて設けられる。オーバーコート層は、熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂およびワックスを含有する。オーバーコート層は、転写後の誘電体パターン中の誘電体含有率を高くするために、誘電体粒子を含有していてもよい。オーバーコート層には、誘電体層と同様な誘電体粒子を用いればよいが、その粒径はオーバーコート層の厚さなどに応じて適宜決定すればよく、誘電体層の誘電体粒子と同等の径とする必要はない。
【0030】
誘電体粒子を含有する場合、オーバーコート層中におけるワックスと熱可塑性樹脂との合計に対する誘電体粒子の体積比率は、1以下であることが好ましい。誘電体粒子の含有量が多すぎると、オーバーコート層の固着機能、すなわち、誘電体層を下地層に固着する機能が低くなってしまう。
【0031】
熱可塑性樹脂に対するワックスの重量比率は、2以下であることが好ましい。ワックスの比率が高すぎると、オーバーコート層の熱感度が高くなりすぎて、下地層の汚れや剥がれの原因となる。
【0032】
オーバーコート層の厚さは、1.5μm以下であることが好ましい。オーバーコート層が厚すぎると、転写後の誘電体パターン(オーバーコート層構成成分が含まれる)中における誘電体粒子の含有量の減少につながることや、誘電体層の厚さによっては転写不良を招いてオーバーコート層本来の意味が失われてしまう。また、脱脂が不十分となるため、特性低下が生じたり、デラミネーションが生じたりする。なお、オーバーコート層として効果を十分に発揮させるためには、厚さを0.1μm以上とすることが好ましい。
【0033】
バックコート層6
熱転写印刷時に熱転写性誘電体材料の裏面をサーマルヘッドが摺動することになるため、サーマルヘッドの摺動抵抗を低減する目的で、バックコート層6を必要に応じて設ける。バックコート層構成材料は、潤滑性を付与できるものであればよく、例えば、シリコーンオイル、フッ素系オイル、その他の滑剤、あるいはこれらを含むシリコーン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、フェノール樹脂、ポリイミド、ニトロセルロース、ブチラール樹脂、アセタール樹脂などの少なくとも1種を用いればよい。
【0034】
バックコート層の厚さは、1μm以下であることが好ましい。バックコート層が厚すぎると、サーマルヘッドからの熱の伝達が不十分となって、パターンの転写が不完全になりやすい。なお、バックコート層としての効果を十分に発揮させるためには、厚さを0.1μm以上とすることが好ましい。
【0035】
製造方法
下塗り層は、塗布法により形成することが好ましい。具体的には、アルコールを含む水系のワックスエマルジョンを調製して塗布してもよく、トルエン、メチルエチルケトン、アセトン、アルコール等の有機溶媒中にワックスを直接分散して塗料を調製し、これを塗布してもよい。塗布には、バーコーター、ドクターブレード、グラビア、フレキソ、ノズル等によるソルベントコーティング法を用いることが好ましい。
【0036】
誘電体層は、下塗り層と同様の方法で形成することができる。塗布に用いる溶媒は、熱可塑性樹脂の溶解が可能な有機溶媒、例えばトルエン、メチルエチルケトン、アセトン、アルコールなどから適宜選択すればよい。
【0037】
誘電体層形成に用いる塗料中の不揮発分(誘電体粒子、熱可塑性樹脂およびワックス)の濃度は、重量比で60%以下とすることが好ましい。不揮発分の濃度が高すぎると、塗料粘度が高くなりすぎて均一な塗膜形成が困難となる。
【0038】
熱転写印刷
本発明の熱転写性誘電体材料を用いた熱転写印刷では、熱転写性誘電体材料の加熱温度を、用いるワックスの融点以上かつ用いる熱可塑性樹脂の軟化点あるいはガラス転移温度以上とする。
【0039】
熱転写印刷に用いる加熱手段は特に限定されず、ライン型やシリアル型等の各種サーマルヘッドのほか、例えば、レーザービームにより加熱するレーザーヘッドなども使用可能である。
【0040】
【実施例】
(実施例1)
支持体フィルム
パラフィンワックス粒子(融点75℃)を分散した水−アルコール系のワックスエマルジョン(固形分濃度10重量%)を調製した。これをシリコンを含むブチラール樹脂からなる厚さ0.5μmのバックコート層を有するポリエチレンテレフタレートフィルム(全厚4.5μm)表面に塗布し、乾燥させて、厚さ0.6μmの下塗り層を形成した。これを支持体フィルムとして、以下の各塗料を塗布、乾燥して各熱転写性材料を得た。
【0041】
熱転写性誘電体材料I
下記組成の塗料を調製し、これを前記支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ2.3μmの誘電体層を形成することによって熱転写性誘電体材料Iを得た。
【0042】
誘電体粒子(平均粒径0.35μmのチタン酸バリウム粒子)32重量%
熱可塑性樹脂(軟化点64℃のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂)1.6重量%
ワックス(軟化点73℃の加工ワックス)1.6重量%
熱転写性誘電体材料II
下記組成の塗料を調製し、これを前記支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ2.5μmの誘電体層を形成することによって熱転写性誘電体材料IIを得た。
【0043】
誘電体粒子(平均粒径0.35μmのチタン酸バリウム粒子)37重量%
熱可塑性樹脂(ガラス転移点58℃のブチラール樹脂)3重量%
有機溶媒(トルエン)60重量%
熱転写性導電体材料
下記組成の塗料を調製し、これを前記支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ2.2μmの導電体層を形成することによって熱転写性導電体材料を得た。
【0044】
Ni粒子(平均粒径0.2μm)35重量%
熱可塑性樹脂(軟化点64℃のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂)3重量%
ワックス(軟化点73℃の加工ワックス)2重量%
有機溶媒(トルエン)60重量%
次に、剥離性を付与したポリエチレンテレフタレート支持体フィルム上に平均粒径0.35μmのチタン酸バリウム粒子とブチラール樹脂からなる厚さ30μmの誘電体層を形成し、これを支持基板として、下記の通り熱転写印刷を行った。
【0045】
まず、支持基板を熱転写印刷機の所定の位置に設置し、熱転写性導電体材料を用いて所定パターンの内部電極部を熱転写印刷し、ついで、熱転写性誘電体材料Iを用いて内部電極以外の部分を埋める誘電体部を熱転写印刷して平坦な内部電極層を形成した。
【0046】
さらに、この上に内部電極層全体をカバーする誘電体層を熱転写性誘電体材料IIの熱転写印刷により形成した。
【0047】
引き続き、支持基板を固定したまま、第二の内部電極層、誘電体層を同様に交互に形成し、この作業を繰り返すことにより、有効誘電体層数が20層になる積層構造体を得た。
【0048】
これを、印刷機から取り出し、厚さ300μmの誘電体シート上に最後に形成した熱転写面を下になるよう載せて、プレスして支持体フィルムを除去した。さらに、この上に厚さ300μmの誘電体シートを載せてプレスした後、切断してグリーンチップ積層体とした。このグリーンチップを脱脂した後、還元性雰囲気において1260℃で焼成することによって、特性的に問題のない積層型のセラミックコンデンサが得られた。
【0049】
(実施例2)
実施例1と同様の支持体フィルムを用いて下記熱転写性材料を作成した。
【0050】
熱転写性誘電体材料I
実施例1と同様の塗料を用いて、これを支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ1.5μmの誘電体層を形成した。さらに、この上にパラフィンワックス(融点75℃)とエチレン−アクリル酸共重合樹脂(軟化点55℃)を等量含む水−アルコール系のエマルジョン塗料(固形分濃度9.5%)を塗布、乾燥して厚さ0.5μmのオーバーコート層を形成することによって熱転写性誘電体材料Iを得た。
【0051】
熱転写性誘電体材料II
実施例1と同様の塗料を用いて、これを支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ2μmの誘電体層を形成した。さらに、この上にパラフィンワックス(融点75℃)とエチレン−アクリル酸共重合樹脂(軟化点55℃)を等量含む水−アルコール系のエマルジョン塗料(固形分濃度9.5%)を塗布、乾燥して厚さ0.6μmのオーバーコート層を形成することによって熱転写性誘電体材料IIを得た。
【0052】
熱転写性導電体材料
実施例1と同様の塗料を用いて、これを支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ1.5μmの導電体層を形成した。さらに、この上にパラフィンワックス(融点75℃)とエチレン−アクリル酸共重合樹脂(軟化点55℃)を等量含む水−アルコール系のエマルジョン塗料(固形分濃度9.5%)を塗布、乾燥して厚さ0.5μmのオーバーコート層を形成することによって熱転写性導電体材料を得た。
【0053】
これらの熱転写性材料を用いて実施例1と同様の熱転写印刷を行うことによって、特性的に問題のない積層型のセラミックコンデンサを得ることができた。
【0054】
(実施例3)
実施例1と同様の支持体フィルムを用いて下記熱転写性材料を作成した。
【0055】
熱転写性誘電体材料I
実施例1と同様の塗料を用いて、これを支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ2.1μmの誘電体層を形成した。さらに、この上に下記組成のオーバーコート塗料を塗布、乾燥して厚さ0.6μmのオーバーコート層を形成することによって熱転写性誘電体材料Iを得た。
【0056】
誘電体粒子(平均粒径0.1μmのチタン酸バリウム粒子)10重量%
熱可塑性樹脂(軟化点64℃のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂)3.5重量%
ワックス(軟化点73℃の加工ワックス)1.5重量%
有機溶媒(トルエン)85重量%
熱転写性誘電体材料II
実施例1と同様の塗料を用いて、これを支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ2μmの誘電体層を形成した。さらに、この上に下記組成のオーバーコート塗料を塗布、乾燥して厚さ0.5μmのオーバーコート層を形成することによって熱転写性誘電体材料IIを得た。
【0057】
誘電体粒子(平均粒径0.1μmのチタン酸バリウム粒子)10重量%
熱可塑性樹脂(軟化点64℃のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂)3.5重量%
ワックス(軟化点73℃の加工ワックス)1.5重量%
有機溶媒(トルエン)85重量%
熱転写性導電体材料
実施例1と同様の塗料を用いて、これを支持体フィルム表面に塗布し、乾燥させて、厚さ1.5μmの導電体層を形成した。さらに、この上にこの上に下記組成のオーバーコート塗料を塗布、乾燥して厚さ0.5μmのオーバーコート層を形成することによって熱転写性導電体材料を得た。
【0058】
誘電体粒子(平均粒径0.1μmのチタン酸バリウム粒子)10重量%
熱可塑性樹脂(軟化点64℃のエチレン酢酸ビニル共重合樹脂)3.5重量%
ワックス(軟化点73℃の加工ワックス)1.5重量%
有機溶媒(トルエン)85重量%
これらの熱転写性材料を用いて実施例1と同様の熱転写印刷を行うことによって、特性的に問題のない積層型のセラミックコンデンサを得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱転写性誘電体材料の構成例を示す断面図である。
【図2】本発明の熱転写性誘電体材料を用いて熱転写印刷を行うときの様子を示す断面図である。
【図3】積層型セラミックコンデンサの構成例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 熱転写性誘電体材料
2 支持体フィルム
3 下塗り層
4 誘電体層
5 オーバーコート層
6 バックコート層
7 サーマルヘッド
8 積層体
9 内部電極部
10 誘電体部
11 誘電体層
12 支持基板
101 誘電体
102 内部電極
103 端部電極

Claims (7)

  1. 誘電体層と、内部電極部および誘電体部を有する内部電極層と、が積層された積層体を備えてなる積層セラミック電子部品の製造方法であって、
    該方法は、
    誘電体粒子と熱可塑性樹脂を含む誘電体層を支持体フィルム上に形成してなる熱転写印刷用の熱転写性誘電体材料を複数準備する工程と、
    導電体粒子と熱可塑性樹脂を含む導電体層を支持体フィルム上に形成してなる熱転写印刷用の熱転写性導電体材料を複数準備する工程と、
    前記準備された熱転写性導電体材料を用いて所定パターンの内部電極部を熱転写印刷し、ついでこの所定パターンの内部電極部以外の部分を埋めるように前記熱転写性誘電体材料を用いて所定のパターンの誘電体部を熱転写印刷して、平坦な内部電極層を形成する内部電極層形成工程と、
    この平坦な内部電極層の全体をカバーするように、前記準備された熱転写性誘電体材料を熱転写して誘電体層を形成する誘電体層形成工程と、
    前記内部電極層形成工程と前記誘電体層形成工程とを複数回繰り返して積層体を形成する積層体形成工程と、
    を有してなることを特徴とする積層セラミック電子部品の製造方法。
  2. 前記内部電極層形成工程は、前記準備された熱転写性誘電体材料を用いて所定パターンの誘電体部を熱転写印刷し、ついでこの所定パターンの誘電体部以外の部分を埋めるように前記熱転写性導電体材料を用いて所定のパターンの導電体部を熱転写印刷して、平坦な内部電極層を形成してなる請求項1に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
  3. 前記熱転写印刷用の熱転写性誘電体材料は、支持体フィルム表面に下塗り層、および誘電体層をこの順で有し、
    前記下塗り層がワックスを含有してなる請求項1または請求項2に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
  4. 前記熱転写印刷用の熱転写性誘電体材料は、支持体フィルム表面に下塗り層、誘電体層、およびオーバーコート層とをこの順で有し、
    前記下塗り層がワックスを含有し、
    前記オーバーコート層が熱可塑性樹脂または熱可塑性樹脂およびワックスを含有してなる請求項1ないし請求項3のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
  5. 前記オーバーコート層にはさらに誘電体粒子が含有されている請求項4に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
  6. 前記オーバーコート層に含有される誘電体粒子は、前記誘電体層に含有される誘電体粒子と同一径あるいは異なる径のものが用いられ、かつ、オーバーコート層中におけるワックスと熱可塑性樹脂との合計に対する誘電体粒子の体積比率は1以下である請求項5に記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
  7. 前記熱転写印刷用の熱転写性導電体材料は、支持体フィルム表面に下塗り層、および導電体層をこの順で有し、
    前記下塗り層がワックスを含有してなる請求項1ないし請求項6のいずれかに記載の積層セラミック電子部品の製造方法。
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