JP3836781B2 - 屋上緑化構造 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、屋上緑化を行うことを目的とした建築物の屋上構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来の屋上緑化構造は、屋上を防水処理したあとに薄層の植物生育基盤層を造成し、この植物生育基盤層に散水養生するため灌水装置を屋上に別途設置するのが一般的である。
【0003】
【本発明が解決しようとする課題】
前記した従来の薄層植物生育基盤を使用した屋上緑化構造にあっては以下の問題点がある。
<イ>導入する樹木に対して十分な水分を供給できるだけの植物生育基盤の量(厚さ)を確保できないために、散水養生を行っている。このため灌水装置を用いず保水性を担保する場合には植物生育基盤造成厚さを増すことが必要であり重量が嵩むため屋上緑化構造に採用するには設計時から考慮しなければならず、その分経費も必要になる等、導入に制限が多い。
<ロ>一方、灌水装置を用いて水分を確保し、植物生育基盤を薄くする屋上緑化構造にあっては、灌水装置を設けたり、水道水を引く必要があることや植物生育基盤を構成する人工土壌が高価であることから相当の維持管理費が必要となる。また、異常旱魃による断水などにより散水養生を行えないと植物が枯死してしまう。
<ハ>既設建築物の屋上を緑化する場合には防根シートなど防根・断根層により養生するものの必ずしも十分とは言えず、防水シートを突き破り経年劣化によって発生した防水層のクラックに植物の根系が伸長することによって防水層が痛み漏水の発生原因となる。
<ニ>屋上に造成した土壌では水分状態が変化するため、安定した断熱効果を期待することができない。
<ホ>導入植物がセダム類に限られ、緑化が本来実現すべき「植物の多様性」を実現することが困難である。
<ヘ>夏から冬にかけては、生育が落ち込み、単に生き長らえているのみの植物層となり、屋上緑化ではなく屋上砂漠化してしまっている。
【0004】
【本発明の目的】
本発明は上記したような従来の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、建築物の屋上において灌水装置を使用せずに無灌水化を実現できる屋上緑化構造を提供することにある。
【0005】
また、本発明は水性・湿原植物から乾燥地を好む植物まで多様な植物の導入が可能な環境推移帯(エコトーン)を創出することができる屋上緑化構造を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記のような目的を達成するために本発明は、建物の屋上において貯水プールを形成し、前記貯水プールの上方であって、該プールの一部を覆うように植物生育基盤を形成すると共に、植物生育基盤に遮蔽部を設け、前記遮蔽部を貯水プールに水没させて、遮蔽部により貯水プールを植物生育基盤に覆われた部分と、解放水面部分とに区画し、前記貯水プールの植物生育基盤に覆われた部分と解放水面部分には水深差があり、解放水面部分の水深が植物生育基盤に覆われた部分の水深よりも低く、前記植物生育基盤から前記貯水プールのうち植物生育基盤に覆われた部分に伸長した根系により植物に直接吸水させることを特徴とする屋上緑化構造を提供する。
また、本発明は、前記貯水プールのうち前記植物生育基盤に覆われた部位には水蒸気を多く含む層を形成したことを特徴とする前記記載の屋上緑化構造を提供する。
【0007】
【本発明の実施の形態1】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
【0008】
<イ>基本構成
図1に示すように、本発明の屋上緑化構造10は、貯水プール11と、当該貯水プール11の上方に形成した植物生育基盤12とから構成し、貯水プール11に貯水した雨水等を水中に伸張した根系より直接吸水させる屋上緑化構造10である。
【0009】
<ロ>貯水プール
貯水プール11は施工する建築物の屋上の全体又は一部について面状に水を貯留することにより形成する。貯水プール11は、その上方に位置する植物生育基盤12に最低限必要な水分を供給し得る深さに形成する。
貯水プール11は雨水を貯水すると共に、当該貯水した雨水を貯水プール11の上方に形成する植物生育基盤12及び植物根系に給水する役目を果たす。
【0010】
貯水プール11は、例えば図1に示すように、水平方向に面状に広げて形成する。これにより屋上設置における面積荷重を低減・分離させることができる。
【0011】
また、貯水プール11を図2に示すように、水深の深い部分を設ける場合には、荷重をかけることのできる屋上部の柱20や梁を下げた構造とし、スラブ面に浅い水深を形成するなどして、面積荷重を低減・分散させて建築物への荷重負担を最小限に抑えることができる。
【0012】
また、貯水プール11は防水層として機能するのみならず、建築物への根系の侵食を防止する防根層としても機能する。即ち、水中に伸張させた根系は、毛根の多いいわゆる水根状態となるため木化させた強靭な根系を形成しない。プール防水層はFRP性など硬質な素材で造成するためにそれのみで根系の侵入を抑制するが、水根を形成させることにより根系は防水層を破壊しにくいものとなる。
【0013】
<ハ>植物生育基盤
植物生育基盤12は、貯水プール11の上方の全体又は一部を覆うように位置する。
【0014】
図1に示すように貯水プール11の全体を覆う場合は、原則として、植物生育基盤12に浸透した水分が貯水プール11へ浸透することにより供給させる。
また、大量降雨の場合、植物生育基盤12表面を流下する余剰水を植物生育基盤12と貯水プール11の縁の隙間よりプールに流し込み貯水する。
【0015】
また、図2に示すように貯水プール11の一部を覆う場合には貯水プール11に解放水面111を設け、この解放水面111からも雨水を採水する。
【0016】
図1に示すように、植物生育基盤12の端面には、不織布あるいはビニールシートなどによりその端部は水面下に入るように囲い遮蔽部14を形成する。これにより水面と植物生育基盤12の間に直接空気・風が吹き込むのを防ぎ乾燥を抑制できる。
この結果、水面と植物生育基盤12の隙間には水蒸気を多く含む層17が形成され植物生育基盤12へ水分供給するとともに、根系が水中に伸張しやすい雰囲気を作り出すことが可能となる。
【0017】
また、植物生育基盤12の底面に金網等の剛性を有する有孔部材を敷設し、更に不織布などを敷設して土壌成分が水面に落ち込まないような構造とした場合には、植物の根系を植物生育基盤12の底面全面から伸張させることができる。
【0018】
このように、本発明にあっては十分な水分を供給できるため、植物生育基盤12は軽量人工土壌などで薄層に構成することができ、重量制限がある屋上緑化に非常に適した構造を提供できる。植物生育基盤12は嵩上げ材13等により高低をつける等して適宜緑化環境を整える。
【0019】
<ニ>支持部
支持部15は、貯水プール11と植物生育基盤12の中間に位置し、植物生育基盤12を支持する部材である。支持部15は、水面上に造成する植物生育基盤12を支持し得る強度を有する素材で形成する。
【0020】
支持部15を毛細管構造を有する部材で構成した場合には、貯水プール11に貯水した雨水等を支持部15の上方に位置する植物生育基盤12に供給する機能を付与することができる。支持部15の毛細管作用により、貯水プール11に貯水した雨水等が上昇し支持部15の上方に位置する植物生育基盤12まで供給される。
【0021】
支持部15を毛細管構造とする場合には、例えば中空繊維よりなる繊維マットを使用して形成するが、これに限定するものではなく軽石、パーライト等の多孔質礫状材のように植物生育基盤12から貯水プール11に至る毛管を構成できる資材であれば適宜選択して使用することができる。
【0022】
また、図2に示すように植物生育基盤12の解放水面111側の端部に丸太材16等を配置しておくと、植物生育基盤12や支持部15の損壊を防止できると共に景観的にも良好である。
【0023】
<ホ>屋上緑化構造
上記構成からなる屋上緑化構造10は、貯水プール11に貯水した雨水等を水中に伸張した根系より直接吸水させることができる。即ち、植物生育基盤12と貯水プール11との間に作出した水蒸気層17が植物20の水根21伸張の呼び水となり、水根21を貯水プール11まで伸張させる。そして、図3に示すよう植物生育基盤12に植物20の養分吸収根22が伸張し、植物の生育に好適な環境が建築物の屋上に構築される。
このため植物生育基盤12として一般に用いられる薄層基盤を採用した場合であっても別途散水養生するための灌水装置を設けることなく雨水利用により無灌水緑化を実現することができる。
【0024】
また、本発明における植物生育基盤12の下方部分は水分で満たされた貯水プール11で構成している。ここで植物生育基盤12から水中に伸張する根系は水根と称せられるひげ根を出すものであり、木化した強靭な支持根を発達させることはない。この点から根系の伸張による貯水プール11の破壊は回避される。
また、本発明は、解放水面111は僅かで、植物生育基盤の下に広い水面を持つため、建物に対する高い断熱性がある。
【0025】
【本発明の実施の形態2】
本実施の形態においては、貯水プール11は水位に応じて水面の広がりが変化する構造としたことを特徴とする屋上緑化構造を説明する。このように構成することにより水辺から陸に至るまでの推移帯であるエコトーンを創出することが可能となる。
上記特徴以外の貯水プール11、植物生育基盤12、及びに支持部15については前記発明の実施の形態1と同様であるためその説明を省略する。
【0026】
貯水プール11の底部に高低差を形成する。本例においては図4に示すように貯水プール11の底部に傾斜を設け高低差を形成する。
貯水プール11の底部の高低差は、底部を傾斜させて形成するものに限られるものではなく、図6に示すように貯水プール11の底部を階段状に構成することにより高低差を形成するなど、要は貯水プールの底部に高低差を形成し得る構造であればよい。
また、併せて貯水プール11底部の一部に前記傾斜部分よりも一段深く掘り下げた貯留部を形成すると好適である。
この結果、湿期においては図4に示すように植物生育基盤12の下方全体に水面が広がる。
【0027】
一方、乾期においては図5に示すように貯水プール11の傾斜した底部には、解放水面111と近接した部分までしか水面が広がらず植物生育基盤12に対しても解放水面111近辺までにしか十分な給水はされなくなる。
【0028】
したがって、本実施の形態に係る本発明の屋上緑化構造10によれば、貯水プール11の水位を調節して水面の広がりを変化させることにより、池の水面から植物生育基盤12の緑地帯までの透水性、遮水性を調節でき、エコトーン(環境推移帯)の形成が可能となる。すなわち、貯水プール11の底部の傾斜部分における水面の広がりにより、貯水プール11の上方に位置する植物生育基盤12の含水量に変化を生じさせることができる。
【0029】
このように本発明の屋上緑化構造10においては植物生育基盤12の含水量を植物生育基盤12の層厚ではなく貯水プール11の水量により調節することができるため、重量の嵩む植物生育基盤12層厚を厚くすることなくエコトーン(環境推移帯)の創出が可能であり多様な植物を導入できる緑豊かな屋上緑化を提供することができる。
この結果、本発明は、従来の屋上緑化技術では実現し得なかった、重量を過剰に増やさずに池などの貯水空間を実現して無潅水の屋上緑化構造を提供し、更に池から緑化地帯に至るエコトーン(環境移行帯)をも実現し提供するものである。
【0030】
【本発明の効果】
本発明は、以上説明したようになるから次の効果を得ることができる。
<イ>雨水のみによる無灌水緑化を実現できる。
<ロ>十分な水分を植物生育基盤に供給できるため、薄層の植物生育基盤を採用できる。
<ハ>貯水プールの底に高低差を設けることにより、水性・湿原植物から乾燥地を好む植物まで多様な植物の導入が可能である。
<ニ>重い加重を受ける部分(水深の深い箇所)と軽い加重を受ける部分(水深の浅い部分)を考慮して設計できるために、効率的に加重分散を図ることができ、建築コストを軽減できる。
<ホ>解放水面は僅かな範囲とし、植物生育基盤の下に広い水面を持つため、建物に対する高い断熱効果を発揮できる。
<ヘ>温度が一定であるため昼夜間温度の格差による建物の膨張収縮が抑えられ、建物の劣化を防ぐことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の屋上緑化構造の断面説明図。
【図2】実施の形態1に係る屋上緑化構造の断面説明図。
【図3】植物の根系の伸張状況の断面説明図。
【図4】実施の形態2に係る屋上緑化構造の湿期における断面説明図。
【図5】実施の形態2に係る屋上緑化構造の乾期における断面説明図。
【図6】実施の形態2に係る屋上緑化構造の断面説明図。
【符号の説明】
10・・・屋上緑化構造
11・・・貯水プール
111・・解放水面
12・・・植物生育基盤
13・・・嵩上げ材
14・・・遮蔽部
15・・・支持部
16・・・丸太材
Claims (2)
- 建物の屋上において貯水プールを形成し、
前記貯水プールの上方であって、該プールの一部を覆うように植物生育基盤を形成すると共に、
植物生育基盤に遮蔽部を設け、
前記遮蔽部を貯水プールに水没させて、遮蔽部により貯水プールを植物生育基盤に覆われた部分と、解放水面部分とに区画し、
前記貯水プールの植物生育基盤に覆われた部分と解放水面部分には水深差があり、解放水面部分の水深が植物生育基盤に覆われた部分の水深よりも低く、
前記植物生育基盤から前記貯水プールのうち植物生育基盤に覆われた部分に伸長した根系により植物に直接吸水させることを特徴とする、
屋上緑化構造。 - 前記貯水プールのうち前記植物生育基盤に覆われた部位には水蒸気を多く含む層を形成したことを特徴とする前記請求項1に記載の屋上緑化構造。
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