以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。なお、全図に渡り、しばしば、同様の部分は、同一符号をもって示されている。図12に本発明に関する実施形態を示す。
図1は、窒化物半導体発光素子の構造を示す概略断面図である。
図1に示す窒化物半導体発光素子10は、活性層15、並びに活性層15を両側で挟んでいる第1のn型クラッド層14およびp型クラッド層16からなる半導体積層構造を有する。この半導体積層構造は、バッファ層12およびn型コンタクト層13を介して、基板11上に設けられている。
活性層15は、インジウムとガリウムとを含む窒化物半導体を包含する。インジウムとガリウムを含む窒化物半導体は、InmAlnGa1−m−nN(ここで、0<m<1、0≦n<1)で示すことができる。最も好ましくは、活性層15は、式InmGa1−mN(ここで、0<m<1)で示される窒化物半導体を包含する。インジウムの比率、すなわち各式におけるmの値を変えることにより、紫外から赤色までの領域の発光光を得るようにバンドギャップを変えることができる。なお、以下の記載において、式InmGa1−mN(ここで、0<m<1)または同等の式をもって表される窒化物半導体を単にInGaNと表示することがある。
活性層15は、量子井戸構造のものである。活性層15を量子井戸構造にすることにより、LED素子であれ、LD素子であれ、歪量子井戸効果、エキシトン発光効果等により、高出力の発光素子が実現できる。
本発明において、量子井戸構造とは、活性層を構成する窒化物半導体(InGaN)の量子準位間発光を生じさせる構造をいい、単一量子井戸構造および多重量子井戸構造の双方を含む概念である。
単一量子井戸構造とは、井戸層が単一組成の窒化物半導体の一層からなる構造を指す。すなわち、単一量子井戸構造の活性層は、単一の井戸層だけで構成され、この活性層(すなわち、例えば、単一組成のInGaNからなる)を両側で挟持する2つのクラッド層が障壁層を構成することとなる。
また、多重量子井戸構造とは、井戸層と障壁層とを順次積層した多層膜構造を指す。多重量子井戸構造の最少積層構造は、1つの障壁層とこの障壁層の両側に設けられた(2つの)井戸層とからなる3層構造または1つの井戸層とその両側に設けられた(2つの)障壁層とからなる3層構造であり得る。多重量子井戸構造において、両側の2つ最外層は、それぞれ井戸層または障壁層により構成される。活性層の2つ最外層がそれぞれ井戸層によって構成される多重量子井戸構造の場合には、当該活性層を両側で挟持する2つのクラッド層が障壁層を構成する。この多重量子井戸構造の活性層において、井戸層および障壁層は、両者をインジウムとガリウムを含む窒化物半導体(好ましくはInGaN)で形成することができる(ただし、両者の組成は異なる)が、井戸層をインジウムとガリウムを含む窒化物半導体(好ましくは、InGaN)で形成し、障壁層を他の窒化物半導体で、例えばInNやGaNで形成することもできる。すなわち、この多重量子井戸構造の活性層も、インジウムとガリウムを含む窒化物半導体を包含する。
活性層15は、単一量子井戸構造の場合では井戸層を100オングストローム以下の厚さに形成し、多重量子井戸構造の場合では各井戸層を100オングストローム以下の厚さにかつ各障壁層を150オングストローム以下の厚さに形成することが好ましい。いずれの場合でも、井戸層は70オングストローム以下の厚さを有することがさらに好ましく、50オングストローム以下の厚さを有することが最も好ましい。活性層中の障壁層は、100オングストローム以下の厚さに形成することがさらに好ましい。多重量子井戸構造の活性層は、200オングストローム以上の厚さを有することが特に好ましく、通常、0.5μmまでの厚さを有し得る。
単一量子井戸構造、多重量子井戸構造いずれの活性層15においても、活性層はn型、p型いずれでもよいが、特にノンドープ(不純物無添加)とすることにより半値幅の狭いバンド間発光、励起子発光、あるいは量子井戸準位発光が得られるので、特に好ましい。
活性層15にドナー不純物および/またはアクセプター不純物をドープする場合、当該不純物をドープした活性層の結晶性がノンドープの活性層の結晶性と実質的に同じであれば、ドナー不純物をドープした活性層は、ノンドープの活性層よりもバンド間発光強度がさらに強くなり得、他方、アクセプター不純物をドープした活性層は、本来のバンド間発光のピーク波長よりも約0.5eV低エネルギー側にシフトした発光ピーク波長を示すが、半値幅は広くなる傾向にある。また、アクセプター不純物とドナー不純物の双方をドープすると、アクセプター不純物のみドープした活性層の発光強度をさらに増大させることができる。特にアクセプター不純物をドープした活性層を得ようとする場合、活性層の導電型はSi等のドナー不純物をもドープしてn型とすることが好ましい。
しかしながら、本発明においては、活性層はバンド間発光により強力に発光するのが理想であるので、活性層15には不純物をドープしないことが最も好ましい。また、ノンドープの活性層を有する発光素子は、不純物をドープした活性層を有する発光素子よりもVf(順方向電圧)を低くすることができる。
活性層15の第1の主面に接して設けられている第1のn型クラッド層14は、インジウムとガリウムとを含むn型の窒化物半導体で形成される。InとGaを含む窒化物半導体は、結晶が比較的柔らかいので、いわばバッファ層として作用し、以下にも述べるように、活性層15およびそれ自体に、あるいはその上に形成され得る他の窒化物半導体層にクラックを生じにくくさせてそれらの結晶性を悪化させず、もって発光素子の発光出力を向上させる。第1のn型クラッド層14は、n型InjGa1−jN(0<j<1)で形成することが望ましい。このInjGa1−jNにおいて、jの値は、0<j≦0.5の範囲内にあることが好ましい。一般にInGaNは、Inの比率を多くするに従い、結晶性が次第に悪くなる傾向にあり、n型クラッド層として当該発光素子に実用的に発光出力の高い発光を行わせるためには、j値が0.5以下であることが好ましいのである。j値は、さらに好ましくは0<j≦0.3、最も好ましくは0<j≦0.2の範囲内にある。
また、第1のn型クラッド層14のキャリア濃度は、1×1018/cm3〜1×1020/cm3の範囲内にあることが望ましい。n型クラッド層14中のキャリア濃度が1×1018/cm3よりも少ないと活性層15への電子注入効率が低下し、発光出力が低下する傾向にあり、他方n型クラッド層14中のキャリア濃度が1×1020/cm3よりも大きいと第1のn型クラッド層の結晶性が悪くなり、発光出力が低下する傾向にあるからである。
第1のn型クラッド層14は、その厚さに特に制限はないが、活性層15と第1のn型クラッド層14とは、合計で、300オングストローム以上の厚さを有することが望ましい。InとGaとを含む窒化物半導体層(活性層+第1のn型クラッド層)の総厚が300オングストロームよりも薄いと、活性層15および第1のn型クラッド層14に、さらには第1のn型クラッド層に接して設けられる別の窒化物半導体層に、格子定数不整、熱膨張率の差等によりそれらの界面に存在し得る歪応力によって、クラックが生じやすくなるからである。上にも述べたように、InとGaを含む窒化物半導体は、その結晶が比較的柔らかいので、この応力を緩和させるのに有益であるが、その総厚を300オングストローム以上の厚さに形成することにより、当該応力をより一層緩和させるようになる。この総厚は、1μm以下であることが好ましい。
活性層15の第2の主面に接して形成されているp型クラッド層16は、p型窒化物半導体で形成される。そのような窒化物半導体は、式InsAltGa1−s−tN(ここで、0≦s、0≦t、s+t≦1)で示すことができる。
基板11は、サファイア(C面、R面、A面を含む)、SiC(6H−SiC、4H−SiCを含む。)、Si、ZnO、GaAs、スピネル(MgAl2O4、特にその(111)面)、GaN、窒化物半導体と格子定数の近い酸化物単結晶等で形成することができるが、一般的には、サファイア、スピネル、GaNまたはSiCが使用される。
基板11上に形成されているバッファ層12は、基板11とその上に形成される窒化物半導体層との格子不整合を緩和するために通常形成されるものであり、例えばGaN、AlN、GaAlN等により数百オングストロームの厚さに形成される。なお、基板11がその上に形成される窒化物半導体と格子定数が近いSiCやZnOのような材料で形成されている場合、また基板11がその上に形成される窒化物半導体と格子整合している場合には、このバッファ層12は形成されないこともある。
バッファ層12上には、第1のn型クラッド層14にも接してn型コンタクト層13が形成されている。このn型コンタクト層13は、GaN、AlGaN等で形成することが好ましい。
基板11に所定の各半導体層を形成した後、エッチングにより露出されたn型コンタクト層の表面上には、負電極18が形成されている。
n型コンタクト層13は、GaNで形成すると、負電極18とのより一層好ましいオーミックコンタクトが達成され、発光素子の順方向電圧(Vf)をより一層低下させる。また、GaNはその結晶性が他の三元混晶、四元混晶の窒化物半導体に比べて優れているため、その上に成長させる第1のn型クラッド層14等の窒化物半導体層の結晶性を向上させることができるので、発光素子の発光出力を向上させる。
また、n型コンタクト層13のキャリア濃度は、負電極18との好ましいオーミック接触の達成およびその結果としてのVfの低下並びに発光出力の低下防止の観点から、5×1017/cm3〜5×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。
負電極18は、n型コンタクト層13との好ましいオーミックコンタクトの達成の観点から、チタン(Ti)と金(Au)とを含む金属材料、例えばそれらの積層構造または合金、またはTiとアルミニウム(Al)とを含む金属材料、例えばそれらの積層構造または合金で形成することが最も好ましい。この場合において、負電極18は、n型GaNコンタクト層13に直接接して設けられたチタン層とその上に形成されたアルミニウム層との2層構造として形成することが特に好ましい。
p型クラッド層16上には、p型コンタクト層17が形成され、その上には、正電極19が形成されている。p型コンタクト層17は、GaN、AlGaN等で形成することが好ましい。特にp型コンタクト層17をGaNで形成すると、正電極19とのより一層好ましいオーミックコンタクトが達成され、発光素子のVfを低下させることができる。
正電極19との好ましいオーミック接触の達成およびその結果としてのVfの低下並びに発光出力の低下防止の観点から、p型コンタクト層17のキャリア濃度は、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。
正電極19は、p型コンタクト層17との好ましいオーミックコンタクトの達成の観点から、ニッケル(Ni)と金(Au)とを含む金属材料、例えばそれらの積層構造または合金で形成することが最も好ましい。この場合において、正電極19は、p型GaNコンタクト層17に直接接して設けられたニッケル層とその上に形成された金層との2層構造として形成することが特に好ましい。
図2は、窒化物半導体発光素子の別の態様を示す。
図2に示す発光素子20は、第1のn型クラッド層14とn型コンタクト層13との間に、第2のn型クラッド層21を設けた以外は、図1に示す窒化物半導体素子と同様の構造を有する。
この発光素子20において、図1に示す発光素子構造に付加して設けられている第2のn型クラッド層21は、アルミニウムとガリウムを含むn型窒化物半導体で形成されている。このような第2のn型クラッド層21を設けることによって、第1のn型クラッド層14との間のバンドギャップ差を大きくすることができ、発光素子の発光効率を向上させることができる。
この第2のn型クラッド層21は、好ましくは、n型AlaGa1−aN(ここで、0<a<1)で形成される。この場合において、aの値は、0<a≦0.6の範囲内にあることが好ましい。AlGaNはその結晶が比較的硬く、0.6より大きいと、第1のn型クラッド層14の存在にもかかわらず、その層にクラックが比較的発生しやすくなり、発光出力を低下させる傾向にあるからである。a値は、0<a≦0.4の範囲内にあることが最も好ましい。なお、本明細書において、AlaGa1−aNまたは同等の式をもって表される窒化物半導体を単にAlGaNと表示することがある。
また、第2のn型クラッド層21のキャリア濃度は、5×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。そのキャリア濃度が5×1017/cm3よりも低いと、AlGaNの抵抗率が高くなるので、発光素子のVfが高くなり、発光効率が低下する傾向にあり、一方、そのキャリア濃度が1×1019/cm3よりも高いとAlGaNの結晶性が悪くなり発光効率が低下するからである。第2のn型クラッド層21は、通常、50オングストローム〜0.5μmの厚さをもって形成することができる。
基板11、バッファ層12、n型コンタクト層13、n型クラッド層14、活性層15、p型クラッド層16、p型コンタクト層17、負電極18および正電極19は、図1に関して説明した通りのものである。
図3は、窒化物半導体発光素子の他の構造を示す概略断面図である。
図3に示す窒化物半導体発光素子30は、活性層15、並びに活性層15を両側で挟んでいるn型クラッド層34および第1のp型クラッド層36からなる半導体積層構造を有する。この半導体積層構造は、図1に示す構造と同様、バッファ層12およびn型コンタクト層13を介して、基板11上に設けられている。
活性層15の第2の主面に接して設けられている第1のp型クラッド層36は、インジウムとガリウムとを含むp型の窒化物半導体で形成される。InとGaを含む窒化物半導体は、結晶が比較的柔らかいので、いわばバッファ層として作用し、以下にも述べるように活性層15およびそれ自体に、あるいはその上に形成され得る他の窒化物半導体層にクラックを生じにくくさせてそれらの結晶性を悪化させず、もって発光素子の発光出力を向上させる。第1のp型クラッド層36は、p型InkGa1−kN(0<k<1)で形成することが望ましい。このInkGa1−kNにおいて、kの値は、0<k≦0.5の範囲内にあることが好ましい。一般にInGaNは、Inの比率を多くするに従い、結晶性が次第に悪くなる傾向にあり、p型クラッド層として当該発光素子に実用的に発光出力の高い発光を行わせるためには、k値が0.5以下であることが好ましいのである。k値は、さらに好ましくは0<k≦0.3、最も好ましくは0<k≦0.2の範囲内にある。
また、第1のp型クラッド層36のキャリア濃度は、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。第1のp型クラッド層36中のキャリア濃度が1×1017/cm3よりも少ないと活性層15への電子注入効率が低下し、発光出力が低下する傾向にあり、他方p型クラッド層36中のキャリア濃度が1×1019/cm3よりも大きいと第1のp型クラッド層の結晶性が悪くなり、発光出力が低下する傾向にあるからである。第1のp型クラッド層36は、図1に示す構造におけるp型クラッド層16に関して述べた方法により好ましく得られる。
第1のp型クラッド層36は、その厚さに特に制限はないが、活性層15と第1のp型クラッド層36とは、合計で、300オングストローム以上の厚さを有することが望ましい。InとGaとを含む窒化物半導体層(活性層+第1のp型クラッド層)の総厚が300オングストロームよりも薄いと、活性層15および第1のp型クラッド層36に、さらには第1のp型クラッド層に接して設けられる別の窒化物半導体層に、格子定数不整、熱膨張率の差等によりそれらの界面に存在し得る歪応力によって、クラックが生じやすくなるからである。上にも述べたように、InとGaを含む窒化物半導体は、その結晶が比較的柔らかいので、この応力を緩和させるのに有益であるが、その総厚を300オングストローム以上の厚さに形成することにより、当該応力をより一層緩和させるようになる。この総厚は、1μm以下であることが好ましい。
活性層15の第1の主面に接して形成されているn型クラッド層34は、n型窒化物半導体で形成される。そのような窒化物半導体は、式InuAlvGa1−u−vN(ここで、0≦u、0≦v、u+v≦1)で示すことができる。
基板11、バッファ層12、n型コンタクト層13、活性層15、p型コンタクト層17、負電極18および正電極19は、図1に関して説明した通りのものである。
図4は、窒化物半導体発光素子の別の態様を示す。
図4に示す発光素子40は、第1のp型クラッド層36とp型コンタクト層17との間に、第2のp型クラッド層41を設けた以外は、図3に示す窒化物半導体素子と同様の構造を有する。
この発光素子40において、図3に示す発光素子構造に付加して設けられている第2のp型クラッド層41は、アルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体で形成されている。このような第2のp型クラッド層41を設けることによって、第1のp型クラッド層36との間のバンドギャップ差を大きくすることができ、発光素子の発光効率を向上させることができる。
この第2のp型クラッド層41は、好ましくは、p型AlbGa1−bN(ここで、0<b<1)で形成される。この場合において、bの値は、0<b≦0.6の範囲内にあることが好ましい。AlGaNはその結晶が比較的硬く、0.6より大きいと、第1のp型クラッド層36の存在にもかかわらず、その層にクラックが比較的発生しやすくなり、発光出力を低下させる傾向にあるからである。b値は、0<b≦0.4の範囲内にあることが最も好ましい。
また、第2のp型クラッド層41のキャリア濃度は、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。そのキャリア濃度が1×1017/cm3よりも低いと、活性層15への正孔の注入効率が低下し、発光効率が低下する傾向にあり、一方、そのキャリア濃度が1×1019/cm3よりも高いとAlGaNの結晶性が悪くなり発光効率が低下するからである。第2のp型クラッド層41は、通常、50オングストローム〜0.5μmの厚さをもって形成することができる。
基板11、バッファ層12、n型コンタクト層13、活性層15、p型コンタクト層17、負電極18および正電極19は、図1に関して説明した通りのものであり、n型クラッド層34および第1のp型クラッド層36は、図3に関して説明した通りのものである。
図5は、窒化物半導体発光素子の別の形態の構造を示す概略断面図である。
図5に示す窒化物半導体発光素子50は、活性層15、並びに活性層15をその両側で挟む第1のn型クラッド層54を含むn型半導体層501および第2のp型クラッド層41を含むp型半導体層502からなる半導体積層構造を有する。この半導体積層構造は、図1に示す構造と同様、バッファ層12およびn型コンタクト層13を介して、基板11上に設けられている。図5では、n型半導体層501は、第1のn型クラッド層54により構成されている。
この発光素子50は、図1に示す発光素子10におけるn型クラッド層構造と図4に示すp型クラッド層構造を組み合わせた半導体積層構造を有するものといえるが、この特別の場合においては、第1のn型クラッド層54は、図1に示す第1のn型クラッド層14を構成するインジウムとガリウムを含む窒化物半導体ばかりでなく、GaNによってもこれを形成でき、同様の効果を奏することがわかった。また、この場合には、第1のp型クラッド層56は、図1に示す発光素子10におけるp型クラッド層16と同様、いずれのp型窒化物半導体で形成してもよいこともわかった。このような半導体積層構造によっても、発光素子は同様の優れた特性を示す。
より詳しく説明すると、第1のn型クラッド層54は、アルミニウムを含まないn型窒化物半導体により形成される。この第1のn型クラッド層54は、n型Inw Ga1-w N(ここで、0≦w<1)で形成することが好ましい。すなわち、この第1のn型クラッド層54は、図1に示す発光素子10における第1のn型クラッド層14に関して説明したn型窒化物半導体で形成することもできるし、n型GaNで形成することができる。図1に示す発光素子10における第1のn型クラッド層14に関して説明した理由と同様の理由から、wの値は、0≦w≦0.5の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは0<w≦0.3、最も好ましくは0<w≦0.2の範囲内にある。第1のn型クラッド層54のキャリア濃度も、同様の理由から、1×1018/cm3〜1×1020/cm3の範囲内にあることが望ましい。第1のn型クラッド層54も、その厚さに特に制限はないが、同様の理由から、活性層15と第1のn型クラッド層54とは、合計で、300オングストローム以上の厚さを有することが望ましく、1μm以下の厚さを有し得る。
図5に示す発光素子50において、活性層の第2の主面に接して形成されている第1のp型クラッド層56は、いずれのp型窒化物半導体で形成してもよいが、アルミニウムを含まないp型窒化物半導体で形成することが好ましい。より具体的には、第1のp型クラッド層56は、p型InxGa1−xN(ここで、0≦x<1)で形成することが望ましい。図3の発光素子30における第1のp型クラッド層36に関して説明した理由と同様の理由から、x値は、0≦x≦0.5の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは0≦x≦0.3の範囲内、最も好ましくは0≦x≦0.2の範囲内にある。この第1のp型クラッド層56も同様にGaNにより形成してもいわばバッファ層として同様に作用する。また、この第1のp型クラッド層56のキャリア濃度も、同様の理由から、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。さらに、第1のクラッド層56の厚さに特に制限はないが、同様の理由から、活性層15との合計で、300オングストローム以上の厚さを有することが望ましく、1μm以下の厚さが好ましい。なお、この第1のp型クラッド層56は省略してもよいが、これを形成すれば、第1のp型クラッド層がバッファ層として作用するのでクラックが生じにくくなり、その発光素子は、より一層優れた特性を示すことは明らかであろう。
第2のp型クラッド層41は、図4に示す発光素子40における第2のクラッド層41について説明した通りのものである。
また、基板11、バッファ層12、n型コンタクト層13、p型コンタクト層17、負電極18および正電極19は、図1に示す発光素子10に関して説明した通りのものである。
図6は、半導体発光素子のさらに別の形態の構造を示す概略断面図である。この発光素子60は、n型コンタクト層13と第1のn型クラッド層54との間に、第2のn型クラッド層21が追加形成されている以外は、図5に示す発光素子50と同様の構造を有する。この第2のn型クラッド層21は、図2に示す発光素子20における第2のn型クラッド層21について説明した通りのものである。なお、第1のp型クラッド層56は、省略するよりも、これを設けた方が好ましいことも、図5に示す発光素子50の場合と同様である。
以上、窒化物半導体発光素子についていくつか説明したが、これら発光素子の構造は、LED素子にも、LD素子にも適用できることはいうまでもない。LDの構造は、例えば図7に斜視図として示す構造をとる。図7において、基板11上の半導体層71は、上記バッファ層12、n型コンタクト層13、第1のn型クラッド層および形成された場合の第2のn型層からなる半導体層である。活性層15上に形成されている半導体層72は、上記形成された場合の第1のクラッド層および第2のクラッド層並びにp型コンタクト17層からなる半導体層である。印加された電流は、活性層15において、正電極19に対応する領域15aに集中して流れる。
なお、LD素子の場合には、上記発光素子10ないし60のいずれかの第1のn型クラッド層とn型コンタクト層13との間、第2のn型クラッド層が形成されている場合には、その第2のn型クラッド層とn型コンタクト層13との間に、および/または上記発光素子10ないし60のいずれかの第1のp型クラッド層とp型コンタクト層17との間、第2のp型クラッド層が形成されている場合には、その第2のp型クラッド層とn型コンタクト層13との間に、互いに組成の異なる少なくとも2種類の窒化物半導体層を積層してなる多層膜を光反射膜として形成することもできる。
図6に示す発光素子構造に上記多層光反射膜を適用した例を図8に示す。図8に示す窒化物半導体発光素子80は、n型コンタクト層13と第2のn型クラッド層21との間に第1の多層光反射膜(n型)81を、また第2のp型クラッド層41とp型コンタクト層17との間に第2の多層光反射膜(p型)82を備える。
第1の多層膜81および第2の多層膜82は、いずれも、互いに組成の異なる窒化物半導体、すなわち互いに屈折率の異なる窒化物半導体を、各層を例えばλ/4n(ここで、λは活性層15からの発光光の波長、nは屈折率)で算出される厚さで交互に2層以上積層して形成されるものであり、活性層15からの発光光をそれら膜により反射できるように設計されている。正電極19を図7に示すような形状のストライプ電極として例えば幅10μm以下に形成し、レーザ発振を行わせると、活性層15の発光光を多層膜反射層により活性層15内に閉じこめることがより一層容易となり得るので、容易にレーザ発振できる。また、LEDモードにおいても、多層膜反射層により発光光の漏れが抑えられ、外部量子効率が向上する。
多層光反射膜81および82には、それぞれ、ドナー不純物およびアクセプター不純物がドープされて所定の導電型となっている。
なお、図8に示す構造においては、第1の多光反射層膜81は、n型コンタクト層13と第2のn型クラッド層21との間に形成されているが、その代りに、これをn型コンタクト層13内に形成することもできる。同様に、第2の多層光反射膜82をp型コンタクト層17内に形成してもよい。多層光反射膜は、コンタクト層内に形成しても、活性層16からの発光光を同様に閉じ込めることができる。また、第1の多層光反射膜81および第2の多層光反射膜82のいずれかを省略してもよい。
また、図8に示すように、サファイアのような絶縁性材料を基板11としてレーザ素子を作製する場合、レーザ素子の構造はフリップチップ方式となる。すなわち、基板11の同一面側に、より具体的には、基板11の窒化物半導体層形成側に正、負両電極19,18を形成する構造となる。この場合、図8に示すように、n型層側に形成する第1の多層光反射膜81は、負電極18が形成されているn型コンタクト層13の水平面よりもp層側すなわち上方に位置して形成することが好ましい。第1の多層光反射膜81をn型コンタクト層13の水平面よりも基板11側に形成すると、第2のn型クラッド層21とn型コンタクト層13との屈折率の差が小さいために、活性層15からの発光光が、活性層15よりも下側に位置するn型コンタクト層13中に広がってしまい、十分な光閉じこめができない場合があるからである。これは、サファイアのような絶縁性基板を使用した窒化物半導体レーザに特有の現象である。
さて、各多層光反射膜81,82を構成する2種類の窒化物半導体は、少なくとも一方がインジウムとガリウムとを含む窒化物半導体(例えばInqGa1−qN(ここで、0<q<1))またはGaNであることが好ましい。なぜなら単一層を積層して多層光反射膜とする場合、その単一層の一方をInGaNまたはGaNで形成することにより、そのInGaNまたはGaN層がバッファ層のような作用をして、もう一方の単一層にクラックが入るのを防止することができるからである。これは、InGaN層、GaN層の結晶がAlGaNに比べて柔らかいことによるものである。これに対し、多層光反射膜を例えば互いにAl組成の異なるAlGaN層により、例えば総膜厚0.5μm以上となるように多層形成すると、多層膜中にクラックが入り、素子作製が困難となる。
各多層光反射膜を構成する2種類の窒化物半導体層の最良の組み合わせは、一方を前記のようにIncGa1−cNまたはGaNで形成し、もう一方をアルミニウムおよび/またはガリウムを含む窒化物半導体(例えば、AlcGa1−cN(ここで、0≦c<1))で形成するものある。InqGa1−qNとAlcGa1−cNとは屈折率の差が大きいので、これらの材料で多層光反射膜を構成することにより、発光波長に応じて反射率の大きい多層光反射膜の設計が可能となる。また、InqGa1−qNがバッファ層として作用し得るため、AlcGa1−cN層にクラックが入ることなく10層以上積層することができる。なお、InN、GaN、およびAlNの屈折率は、それぞれ、2.9、2.5、および2.15である。これらの混晶の屈折率はベガードの法則に従うと仮定し、組成に比例するものとして求めることができる。
図9は、窒化物半導体発光素子のさらに他の形態の構造を示す概略断面図であって、LD素子としての構造を示す。
図9に示す窒化物半導体発光素子90は、活性層95、並びに活性層95を両側で挟んでいるn型窒化物半導体層94およびp型窒化物半導体層96からなる半導体積層構造を有する。この半導体積層構造は、バッファ層92およびn型コンタクト層93を介して、基板91上に設けられている。
活性層95は、図1に示す半導体発光素子10における活性層15と同様、インジウムとガリウムとを含む窒化物半導体を包含する量子井戸構造(単一量子井戸構造または多重量子井戸構造)のものであり、活性層15についての上記説明は、この活性層95にもそのまま適用される。
p型窒化物半導体層96は、活性層95の第2の主面に直接接して形成された第1のp型クラッド層96aおよびこの第1のp型クラッド層96a上に形成された第2のp型クラッド層96bを含む。
第1のp型クラッド層96aは、アルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体で形成されている。第1のp型クラッド層96aをアルミニウムとガリウムを含む窒化物半導体で形成すると、量子井戸構造故に不十分であり得る活性層95中の光閉じ込めがより完全なものとなり、このように第1のp型クラッド層95は活性層95中に光を閉じ込めるための良好な光ガイド層として作用することが見い出された。
第1のp型クラッド層96aは、p型AldGa1−dN(ここで、0<d<1)で形成することが最も好ましい。AlGaNは高キャリア濃度のp型のものが得られやすく、しかもInGaNを包含する活性層95に対し、バンドギャップ差および屈折率差を、他の窒化物半導体に比べて、大きくできるからである。その上、p型AlGaNは、他の窒化物半導体に比べて、成長時に分解しにくいという性質を有しており、例えば有機金属気相エピタキシャル成長法(MOVPE法)によりこれを成長させる際、下側の活性層95のInGaNの分解を抑制し、その結果として結晶性に優れた活性層95を提供し、もって発光素子の出力を向上させることとなる。
第1のp型クラッド層96aは、10オングストローム以上、1.0μm以下の厚さを有することが好ましい。その厚さが10オングストロームよりも薄いと、第1のp型クラッド層を設けた効果が得られず、他方その厚さが1.0μmよりも厚いと、第1のp型クラッド層自体にクラックが入りやすくなるため、素子作成が難しくなる傾向にある。第1のp型クラッド層96aは、10オングストローム以上0.5μm以下の厚さを有することがさらに好ましい。
第1のp型クラッド層96aは、LED素子の場合を含めて一般的には上記範囲内の厚さを有することが好ましいが、特にLD素子の場合には、100オングストローム以上(同様の理由から、1.0μm以下)の厚さを有することがさらに好ましい。その厚さが100オングストロームより薄いと、第1のp型クラッド層が光ガイド層として作用しにくくなるのである。この場合において、第1のp型クラッド層96aは、100オングストローム以上0.5μm以下の厚さを有することが最も好ましい。
第1のp型クラッド層96a上に設けられる第2のp型クラッド層96bは、第1のp型クラッド層96aよりもバンドギャップが大きく、アルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体で形成される。このようなp型窒化物半導体により第2のp型クラッド層96bを形成することにより、当該第2のクラッド層が光閉じ込め層として効果的に作用し、有効なLD素子等を提供できることがわかった。
第2のp型クラッド層96bも、第1のp型クラッド層96aの場合と同様に、高キャリア濃度のp型のものが得られやすいことから、三元混晶のp型AleGa1−eN(ここで、0<e<1)で形成することが最も好ましい。加えて、第2のp型クラッド層96bは、これをp型AlGaNで形成すると、第1のp型クラッド層とのバンドギャップの差および屈折率の差を大きすることができるので、光閉じ込め層としてより一層効果的に作用するようになる。なお、第2のp型クラッド層96bは、第1のp型クラッド層96aよりもバンドギャップが大きいので、例えば、前者を構成するAleGa1−eNにおけるfの値は、後者を構成するAldGa1−dNにおけるeの値よりも大きい値をとる。この場合でも、できれば、これら式におけるd値およびe値は、0を超え0.6までであることが望ましく、0を超え0.4までであることがさらに望ましい。
第2のp型クラッド層96bは、その厚さに特に制限はないが、500オングストロームないし1μm程度の厚さを有することが好ましい。第2のp型クラッド層をこのような厚さに形成することにより、それ自体におけるクラックの発生がより少なく、従って結晶性がより良好で、しかも高キャリア濃度のp型AlGaN層が得られるのである。
なお、第1のp型クラッド層96aおよび第2のp型クラッド層96bは、いずれも、1×1017〜1×1019/cm3という高キャリア濃度を有するものとして提供することができる。
また、第1のp型クラッド層96aと第2のp型クラッド96b層との間に、p型InGaNまたはp型GaNよりなる層を10オングストロームから1μmまでの厚さに形成してもよい。この層は、光ガイド層およびバッファ層として作用する。
活性層95の第1の主面に接して設けられているn型クラッド層94は、いずれものn型窒化物半導体で形成することができる。しかしながら、n型クラッド層94は、結晶性がより一層優れた層として形成され得ることから、GaN、AlGaN、InGaN等の二元混晶、三元混晶の窒化物半導体で形成することが好ましい。特にInGaNまたはGaNによりn型クラッド層94を形成することにより、その上により一層良好な活性層95を設けることができ、発光素子の出力が格段に向上する。
n型クラッド層94は、LD素子の場合には、100オングストローム以上、1μm以下の膜厚で形成することが望ましい。
基板91は、図1に示す発光素子10における基板11と同様のものであり、基板11についての上記説明がこの基板91についてもそのまま適用できる。
基板92上に形成されているバッファ層92も、図1に示す発光素子10におけるバッファ層12と同様のものであり、バッファ層12についての上記説明がこのバッファ層12についてもそのまま適用できる。特別の場合には、このバッファ層92を省略することができることも同様である。
バッファ層92上に設けられているn型コンタクト層93も、図1に示す発光素子10におけるn型コンタクト層13と同様のものであり、n型コンタクト層13についての上記説明がこのn型コンタクト層93についてもそのまま適用できる。
第2のp型クラッド層96b上に設けられているp型コンタクト層97も、図1に示す発光素子におけるp型コンタクト層17と同様のものであり、p型コンタクト層17についての上記説明がこのp型コンタクト層97についてもそのまま適用できる。
n型コンタクト層93の露出表面に形成されている負電極98も、図1に示す発光素子における負電極18と同様のものであり、負電極18についての上記説明がこの負電極98についてもそのまま適用できる。
p型コンタクト層97に接続して設けられている正電極99も、図1に示す発光素子における正電極19と同様のものであり、正電極19についての上記説明がこの正電極99についてもそのまま適用できる。ただし、図9に示すLD構造において、p型コンタクト層97上には、透孔100aを有し、二酸化ケイ素等の絶縁材料で形成された電流狭窄層100が設けられており、正電極99は、この電流狭窄層100の透孔100aを通してp型コンタクト層97と接している。
さて、本発明について、図9に関し、主としてLD素子について説明したが、LED素子の場合には、電流狭窄層100を設ける必要はない。また、LED素子の場合には、第2のp型クラッド層96bを省略することもできる。さらに、LED素子の場合には、n型クラッド層94の好ましい厚さは10オングストローム以上、1.0μm以下、さらに好ましくは30オングストロームないし1.0μmとなり、あるいはこのn型クラッド層94自体を省略することもできる。n型クラッド層94を省略した場合、n型コンタクト層93がクラッド層として作用し得る。LED素子の場合、図9に示す構造において、n型クラッド層94を省略し、かつ第2のp型クラッド層96bを省略し、当然電流狭窄層100をも省略し、n型コンタクト層をn型GaNで形成し、p型コンタクト層97をp型GaNで形成した構造、すなわち、インジウムとガリウムを含む窒化物半導体を包含する量子井戸構造の活性層を有し、その第1の主面上にn型GaN層が形成され、活性層の第2の主面上にアルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体層が形成され、このp型窒化物半導体上にp型GaN層が形成された構造を有するものが最も好ましいLED素子構造である。これは、本発明の1つの側面による窒化物半導体発光素子に相当する。
図10は、窒化物半導体発光素子の他の形態の構造を示す概略断面図であって、図9と同様、LD素子としての構造を示す。
図10に示す窒化物半導体発光素子200は、活性層95、並びに活性層95を両側で挟んでいるn型窒化物半導体層294およびp型窒化物半導体層296からなる半導体積層構造を有する。この半導体積層構造は、バッファ層92およびn型コンタクト層93を介して、基板91上に設けられている。
n型窒化物半導体層294は、活性層95の第1の主面に直接接して形成された第1のn型クラッド層294aおよびこの第1のn型クラッド層294a上に形成された第2のn型クラッド層294bを含む。
第1のn型クラッド層294aは、n型GaNまたはインジウムとガリウムを含むn型窒化物半導体で形成されている。第1のn型クラッド層294aをGaNまたはインジウムとガリウムを含む窒化物半導体で形成すると、量子井戸構造故に不十分であり得る活性層95中の光閉じ込めがより完全なものとなり、このように第1のn型クラッド層294aは、活性層95中に光を閉じ込めるための良好な光ガイド層として作用する(LD素子の場合)ばかりでなく、当該第1のn型クラッド層がいわばバッファ層として作用してその上に形成される活性層95にクラックの発生を少なくさせ、発光素子の発光出力を増大させることができることが見い出された。
第1のn型クラッド層294aは、InrGa1−rN(ここで、0<r<1)で形成することが最も好ましい。この場合において、rの値は、上記理由と同様の理由から、好ましくは0.5まで、より好ましくは0.3まで、さらに好ましくは0.2までの値をとる。また、そのキャリア濃度も、上記理由と同様の理由から、1×1018/cm3〜1×1020/cm3であることが好ましい。
第1のn型クラッド層294aは、10オングストローム以上の厚さを有することが好ましい。第1のn型クラッド層294aは、10オングストローム以上の厚さに形成することにより、活性層95と以後述べる第2のn型クラッド層294bとの間のバッファ層としてより一層効果的に作用する。すなわち、第1のn型クラッド層294aを構成するInGaNまたはGaNは、その結晶が比較的柔らかいので、第2のn型クラッド層294bと活性層23との間の格子定数不整合と熱膨張係数差によって生じる歪をより一層効果的に吸収することができ、バッファ層としてより一層有効に作用することとなる。その結果、活性層95が十分に薄いものであっても、この第1のn型クラッド層294aの存在により、活性層95、第2のn型クラッド層294b、ひいてはp型クラッド層296にクラックが入りにくくなり、それらの結晶性が良好なものとなるので、発光素子の発光出力をより一層増大させる。
第1のn型クラッド層294aは、LED素子の場合には、上記範囲内の厚さを有することが好ましいが、特にLD素子の場合には、100オングストローム以上厚さを有することが特に好ましい。その厚さが100オングストローム未満であると、光ガイド層として作用しにくくなるのである。
また、第1のn型クラッド層294aは、いずれの場合でも、1.0μm以下の厚さを有することが好ましい。その厚さが1.0μmよりも厚いと、その結晶の色が黒味を帯びるとともに、多数のピットが結晶中に生成する傾向にあり、そのため、高出力のLED、LD素子を得ることが困難となり得る。
第1のn型クラッド層294aに接して設けられている第2のn型クラッド層294bは、バンドギャップが第1のn型クラッド層294aよりも大きければいずれの窒化物半導体で形成してもよく、例えば、GaN、AlGaN等の二元混晶、三元混晶の窒化物半導体で形成することができる。このようなn型窒化物半導体により第2のn型クラッド層294bを形成することにより、当該第2のn型クラッド層294bが光閉じ込め層として効果的に作用し、有効なLD素子等を提供できることがわかった。
第2のn型クラッド層294bは、n型AlfGa1−fN(ここで、0<f<1)で形成することが最も好ましい。n型AlGaNは、InGaNを包含する活性層95に対し、バンドギャップ差および屈折率差を、他の窒化物半導体に比べて、大きくできるからである。この場合において、fの値は、上記理由と同様の理由から、0.6までの値をとることが好ましく、0.4までの値をとることがさらに好ましい。そのキャリア濃度も、上記理由と同様の理由から、5×1017/cm3〜1×1019/cm3であることが好ましい。また第2のn型クラッド層294bとn型コンタクト層93との間に、n型InGaNよりなる層を設けることにより、AlGaNよりなる第2のn型クラッド層を良好な結晶性をもってクラックの発生を少なくして成長させることができる。
第2のn型クラッド層294bは、その厚さに特に制限はないが、500オングストローム以上、1.0μm以下の厚さを有することが好ましい。第2のn型クラッド層294bをこの範囲内の厚さに形成することによって、クラックがない結晶性の優れた第2のn型クラッド層294bが得られるのである。
活性層95の第2の主面に接して設けられているp型半導体層(クラッド層)296は、いずれものp型窒化物半導体で形成することができる。しかしながら、p型クラッド層296は、結晶性がより一層優れた層として形成され得ることから、p型AlGaNで形成することが好ましい。p型AlGaNは、他の窒化物半導体に比べて、成長時に分解しにくいという性質を有しており、例えば有機金属気相エピタキシャル成長法(MOVPE法)によりこれを成長させる際、下側の活性層95のInGaNの分解を抑制し、その結果として結晶性に優れた活性層95を提供し、もって発光素子の出力を向上させることとなる。この場合において、アルミニウムの比率やキャリア濃度については、図9に示す発光素子90における第1のp型クラッド層96aおよび第2のp型クラッド層96bについて好ましいとした値をとることが同様に好ましい。
p型クラッド層296は、LD素子の場合には、100オングストローム以上、1μm以下の膜厚で形成することが望ましい。
活性層95、基板91、基板91上に形成されているバッファ層92、バッファ層92上に設けられているn型コンタクト層93、さらにはp型コンタクト層97、負電極98、正電極99および電流狭窄層100は、図9に示す発光素子に関して説明した通りのものである。
さて、本発明について、図10に関し、主としてLD素子について説明したが、LED素子の場合には、電流狭窄層100を設ける必要はない。また、LED素子の場合には、第2のn型クラッド層294bを省略することもできる。その場合、n型コンタクト層93が第2のn型クラッド層として作用する。
図11は、窒化物半導体発光素子のさらに別の形態の構造を示す概略断面図であって、図9および図10と同様、LD素子としての構造を示す。
図11に示す窒化物半導体発光素子300は、活性層95、並びに活性層95を両側で挟んでいるn型窒化物半導体層294およびp型窒化物半導体層96からなる半導体積層構造を有する。この半導体積層構造は、バッファ層92およびn型コンタクト層93を介して、基板91上に設けられている。
図11に示す発光素子300は、n型窒化物半導体層については図10に示す発光素子200におけるn型窒化物半導体層294(第1のn型クラッド層294aおよび第2のn型クラッド層294bからなる)を、p型窒化物半導体層については図9に示す発光素子90におけるp型窒化物半導体層96(第1のp型クラッド層96aおよび第2のp型クラッド層96bからなる)を適用したものであり、本発明の最も好ましい実施の形態の一つである。各半導体層その他の構成については、特にLED素子の場合に省略し得る窒化物半導体層および特にLED素子の場合の窒化物半導体層の厚さについての上記説明を含めて、図9および図10に関して説明したことがそのまま適用でき、他言を要しない。従って、図11に示す発光素子において、n型コンタクト層93をn型GaNで、第2のn型クラッド層294bをn型AlGaNで、第1のn型クラッド層294aをn型InGaNまたはn型GaNで、第1のp型クラッド層96aをp型AlGaNで、第2のp型クラッド層96bをp型AlGaNで、p型コンタクト層97をp型GaNでそれぞれ形成し、活性層95をノンドープとすることが最も好ましい。なお、図11に示すLD素子構造の場合には、いうまでもなく、第1のn型クラッド層294aが光ガイド層、第2のクラッド層294bが光閉じ込め層、第1のp型クラッド層96aが光ガイド層、第2のp型クラッド層96bが光閉じ込め層として作用することも明らかである。また第1のp型クラッド層96aと第2のp型クラッド層96bとの間に、p型InGaNまたはp型GaNよりなる層をバッファ層として形成してもよいし、n型コンタクト層93と第2のn型クラッド層294bとの間に、n型InGaNよりなる層をバッファ層として形成してもよい。
本発明の1つの側面によれば、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間にインジウムとガリウムとを含む窒化物半導体を包含する量子井戸構造の活性層を有し、p型窒化物半導体層は、活性層と接して形成されかつアルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体よりなる第1のp型クラッド層を含み、第1のp型クラッド層は、10オングストローム以上、1.0μm以下の厚さを有することを特徴とする窒化物半導体発光素子が提供される。
この側面による発光素子は、基本的には、図9に示す発光素子90の構造から第2のp型クラッド層96bを省略した特別の場合に該当する。この特別の場合には、さらに、図9に示す発光素子の構造からn型コンタクト層93およびn型クラッド層94のうちのいずれかを省略してもよく(n型クラッド層を94を省略した場合、n型コンタクト層93がn型クラッド層として作用する)、またp型コンタクト層97をも省略してもよい。
さらにまた、この特別の場合には、図9に示す発光素子90における第2のp型クラッド層96bに相当する第2のp型クラッド層をp型GaNまたはインジウムとガリウムとを含むp型窒化物半導体(好ましくは、InGaN)で形成することができ、これについては、図1に示す発光素子10におけるn型クラッド層14についての説明が適用できる。さらにまた、図9に示す発光素子90におけるn型クラッド層94に相当するn型クラッド層(第1のn型半導体層)に接して、すなわち第1のn型クラッド層94とn型コンタクト層93との間に、n型GaNまたはアルミニウムとガリウムとを含む第2のn型窒化物半導体(好ましくは、AlGaN)を設けることも好ましい。この場合については、n型GaN層を含めて、図2に示す発光素子20における第2のn型クラッド層21についての説明が適用できる。
図12は、本発明による窒化物半導体発光素子の構造を示す概略断面図であって、LD素子として特に好ましい構造の一つを示している。図12の窒化物半導体発光素子は、以下述べる第1のp型クラッド層を除くと、図6に関して説明した本発明の好ましい形態にほぼ相当するということができる。
図12に示す窒化物半導体発光素子400は、活性層405を備え、その第1の主面上には、第1のn型クラッド層414、第2のn型クラッド層424およびn型コンタクト層403を含むn型半導体層が設けられている。加えて、活性層405の第2の主面には、第1のp型クラッド層416、第2のp型クラッド層426、第3のp型クラッド層436、および最外層としてのp型コンタクト層407を含むp型窒化物半導体層を有する。このような積層構造は、図12に示す構造では、バッファ層402を介して、基板401上に設けられている。
活性層405は、インジウムとガリウムとを含む窒化物半導体を包含するものであり、当該インジウムとガリウムとを含む窒化物半導体の量子準位間発光を生じさせる構造、言い換えると量子井戸構造を構成する。このような構造については、図1に示す発光素子10の活性層15に関して説明したことがすべてそのまま適用される。LD素子の場合は、活性層405は多重量子井戸構造をとることが最も好ましい。
活性層405の第1の主面に接して設けられている第1のn型クラッド層414は光ガイド層として作用するものであり、インジウムとガリウムを含むn型窒化物半導体またはn型GaNで形成されている。より具体的には、この第1のn型クラッド層54は、n型Iny Ga1-y N(ここで、0≦y<1)で形成される。すなわち、この第1のn型クラッド層414は、図1に示す発光素子10における第1のn型クラッド層14に関して説明したn型InGaNで形成することもできるし、n型GaNで形成することもできる。図1に示す発光素子10における第1のn型クラッド層14に関して説明した理由と同様の理由から、yの値は、0≦y≦0.5の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは0<y≦0.3、最も好ましくは0<y≦0.2の範囲内にある。第1のn型クラッド層414のキャリア濃度も、同様の理由から、1×1018/cm3〜1×1020/cm3の範囲内にあることが望ましい。第1のn型クラッド層414も、その厚さに特に制限はないが、同様の理由から、活性層15と第1のn型クラッド層414とは、合計で、300オングストローム以上の厚さを有することが望ましく、1μm以下の厚さを有し得る。
第1のn型クラッド層上に設けられている第2のn型クラッド層424は、光閉じ込め層として作用するものであり、第1のn型クラッド層414よりもバンドギャップが大きく、かつアルミニウムとガリウムとを含むn型窒化物半導体またはn型GaNで形成されている。このような第2のn型クラッド層424を設けることによって、第1のn型クラッド層414との間のバンドギャップ差を大きくすることができ、発光素子の発光効率を向上させることができる。
この第2のn型クラッド層424は、n型AlgGa1−gN(ここで、0<g<1)で形成する場合には、gの値は、0<g≦0.6の範囲内にあることが好ましい。AlGaNはその結晶が比較的硬く、0.6より大きいと、第1のn型クラッド層414の存在にもかかわらず、その層にクラックが比較的発生しやすくなり、発光出力を低下させる傾向にあるからである。g値は、0<g≦0.4の範囲内にあることが最も好ましい。
また、第2のn型クラッド層424のキャリア濃度は、5×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。そのキャリア濃度が5×1017/cm3よりも低いと、特にAlGaNの抵抗率が高くなるので、発光素子のVfが高くなり、発光効率が低下する傾向にあり、一方、そのキャリア濃度が1×1019/cm3よりも高いと特にAlGaNの結晶性が悪くなり発光効率が低下するからである。
第2のn型クラッド層424は、通常、50オングストローム〜0.5μmの厚さをもって形成することができる。
n型半導体層の最外層(活性層から最も離れて位置する層)として形成されている(図12では、第2のn型クラッド層424に接して形成されている)n型コンタクト層403は、n型GaNで形成されている。図1の発光素子10におけるn型コンタクト層13をn型GaNで形成することが好ましいとした理由と同様の理由から、n型コンタクト層403は、n型GaNで形成される。その他の例えばキャリア濃度は、図1に示す発光素子10におけるn型コンタクト層13の場合に好ましいとして記載した濃度であることが同様に好ましい。
活性層405の第2の主面に接して設けられている第1のp型クラッド層416は、キャップ層として作用するものであり、これまで説明してきた他の形態における第1のp型クラッド層と同様に活性層の分解を防止して発光素子の発光出力を向上させるものである。この第1のp型クラッド層416は、アルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体で形成されている。このような第1のp型クラッド層416を設けることによって、より一層優れたLD素子を提供できることがわかった。
この第1のp型クラッド層416は、好ましくは、p型AlhGa1−hN(ここで、0<h<1)で形成される。この場合において、hの値は、0<h≦0.6の範囲内にあることが好ましい。AlGaNはその結晶が比較的硬く、その層にクラックが比較的発生しやすくなり、発光出力を低下させる傾向にあるからである。h値は、0<h≦0.4の範囲内にあることが最も好ましい。
また、第1のp型クラッド層416のキャリア濃度は、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。そのキャリア濃度が1×1017/cm3よりも低いと、活性層405への正孔の注入効率が低下し、発光効率が低下する傾向にあり、一方、そのキャリア濃度が1×1019/cm3よりも高いとAlGaNの結晶性が悪くなり発光効率が低下するからである。
第1のp型クラッド層416は、通常、50オングストローム〜0.5μmの厚さをもって形成することができる。
第1のp型クラッド層416上に設けられている第2のp型クラッド層426は、光ガイド層として作用し、インジウムとガリウムとを含むp型窒化物半導体またはp型GaNで形成されている。より具体的には、第1のp型クラッド層416は、p型Inz Ga1-z N(ここで、0≦z<1)で形成することが望ましい。図3の発光素子30における第1のp型クラッド層36に関して説明した理由と同様の理由から、z値は、0≦z≦0.5の範囲内にあることが好ましく、さらに好ましくは0≦z≦0.3の範囲内、最も好ましくは0≦z≦0.2の範囲内にある。この第1のp型クラッド層416も同様にGaNにより形成してもいわばバッファ層として同様に作用する。また、この第1のp型クラッド層416のキャリア濃度も、同様の理由から、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。さらに、第1のクラッド層416の厚さに特に制限はないが、同様の理由から、活性層405との合計で、300オングストローム以上の厚さを有することが望ましく、1μm以下の厚さを有し得る。
第2のp型クラッド層426上に設けられている第3のp型クラッド層436は、光閉じ込め層として作用し、第2のp型クラッド層426よりもバンドギャップが大きく、かつアルミニウムとガリウムを含むp型の窒化物半導体で形成されている。このような第3のp型クラッド層436を設けることによって、第2のp型クラッド層426との間のバンドギャップ差を大きくすることができ、発光素子の発光効率を向上させることができる。
この第3のp型クラッド層436は、好ましくは、p型AliGa1−iN(ここで、0<i<1)で形成される。この場合において、iの値は、0<i≦0.6の範囲内にあることが好ましい。AlGaNはその結晶が比較的硬く、0.6より大きいと、第2のp型クラッド層426の存在にもかかわらず、その層にクラックが比較的発生しやすくなり、発光出力を低下させる傾向にあるからである。b値は、0<b≦0.4の範囲内にあることが最も好ましい。
また、第3のp型クラッド層436のキャリア濃度は、1×1017/cm3〜1×1019/cm3の範囲内にあることが望ましい。そのキャリア濃度が1×1017/cm3よりも低いと、活性層405への正孔の注入効率が低下し、発光効率が低下する傾向にあり、一方、そのキャリア濃度が1×1019/cm3よりも高いとAlGaNの結晶性が悪くなり発光効率が低下するからである。第3のp型クラッド層436は、通常、50オングストローム〜0.5μmの厚さをもって形成することができる。
p型半導体層の最外層(活性層405から最も離れて位置する層)として形成されている(図12では、第3のp型クラッド層436に接して設けられている)p型コンタクト層407は、p型GaNで形成されている。図1の発光素子10におけるp型コンタクト層17をp型GaNで形成することが好ましいとした理由と同様の理由から、p型コンタクト層407は、p型GaNで形成される。その他の例えばキャリア濃度は、図1に示す発光素子10におけるp型コンタクト層17の場合に好ましいとして記載した濃度であることが同様に好ましい。
基板401、バッファ層402、負電極408および正電極409は、それぞれ、図1に示す発光素子10における基板11、バッファ層12、負電極18および正電極19について説明した通りのものである。また、透孔440aを有する電流狭窄層440についても、図9に示す発光素子90における電流狭窄層100について説明した通りのものである。
本発明の1つの側面によれば、第1および第2の主面を有し、インジウムとガリウムとを含む窒化物半導体よりなる量子井戸構造の活性層、該活性層の第1の主面上に設けられたn型窒化物半導体層、および該活性層の第2の主面上に設けられたp型窒化物半導体層を有する半導体積層構造を備え、該p型窒化物半導体層は、該活性層の第2の主面に接して形成され、かつアルミニウムとガリウムを含むp型窒化物半導体よりなる第1のp型層、および該第1のp型層に接して設けられたp型GaNよりなる第2のp型層を含むことを特徴とする窒化物半導体発光素子が提供される。この側面による発光素子は、図9に示す発光素子90の構造から第2のp型クラッド層96bとn型クラッド層94を省略し、かつp型コンタクト層97をp型GaNで形成した特別の場合に該当する。この場合、n型コンタクト層93を最も好ましくはn型GaNで形成することができる。
図13は、量子井戸構造の活性層の井戸層の厚さを変えて本発明の種々の窒化物半導体発光素子を作製し、その発光出力(相対値)と井戸層の厚さとの関係を調べた結果をグラフで示したものである。図13からわかるように、本発明の窒化物半導体発光素子における量子井戸構造の活性層の井戸層の厚さを70オングストローム以下にすると、発光素子の発光出力が顕著に向上することがわかる。井戸層の厚さが50オングストローム以下となると、発光素子の発光出力は、さらに向上することもわかる。このような傾向は、本発明のすべての窒化物半導体発光素子について、単一量子井戸構造の活性層においても、多重量子井戸構造の活性層においても、確認されたばかりでなく、広く、活性層を挟持する2つのクラッド層の一方がp型窒化物半導体で形成され、他方がn型窒化物半導体で形成された場合にも確認された。
そこで、本発明の一側面によれば、n型窒化物半導体層とp型窒化物半導体層との間にインジウムとガリウムとを含む窒化物半導体を包含する少なくとも1層の井戸層を有する量子井戸構造の活性層を備え、井戸層は、70オングストローム以下の厚さを有することを特徴とする窒化物半導体発光素子が提供される。
図14は、多重量子井戸構造の活性層の井戸層の厚さを一定にし、障壁層の厚さを変えて本発明の種々の窒化物半導体発光素子を作製し、その発光出力(相対値)と障壁層の厚さとの関係を調べた結果をグラフとして示したものである。図14からわかるように、本発明の窒化物半導体発光素子における量子井戸構造の活性層の障壁層の厚さを150オングストローム以下にすると、発光素子の発光出力が顕著に向上することがわかる。障壁層の厚さが100オングストローム以下となると、発光素子の発光出力は、さらに向上することもわかる。このような傾向は、本発明のすべての窒化物半導体発光素子について確認されたばかりでなく、広く、活性層を挟持する2つのクラッド層の一方がp型窒化物半導体で形成され、他方がn型窒化物半導体で形成された場合にも確認された。
図15は、図9に示す構造に類似する構造の発光素子について、第1のp型クラッド層96aの厚さを変えた場合におけるその厚さと発光出力(相対値)との関係を示すグラフである。図15は、より具体的には、図9に示す構造において、サファイア基板91上にGaNバッファ層92を介してn型GaNコンタクト層93を4μmの厚さに、n型InGaNクラッド層94を500オングストロームの厚さに、単一量子井戸構造のInGaN活性層95を20オングストロームの厚さに形成し、その上に第1のp型AlGaNクラッド層96aを厚さを変えて形成し、さらにその上に第2のp型AlGaNクラッド層96bを0.1μmの厚さに形成し、p型GaNコンタクト層97を1μmの厚さに形成し、負電極98を形成し、電流狭窄層100を設けることなく正電極99を形成したLED素子についてのものである。
図15に示すように、第1のp型クラッド層96aの厚さが1μmよりも厚くなると発光出力は急激に低下する傾向にある。そのような厚さになると、第1のp型クラッド層96aにクラックが入り、素子の結晶性が悪くなることによるものである。図15から、LED素子の場合には、第1のp型クラッド層96aの膜さは10オングストローム(0.001μm)以上、1μm以下の厚さが好ましいことがわかる。このような傾向は、第1のp型クラッド層をAlGaNで形成する本発明の他の形態の窒化物半導体発光素子のすべてについて確認された。なお、LD素子の場合に第1のp型クラッド層の好ましい厚さが100オングストローム以上であるのは、上記の通り、別の理由による。
図16は、図10に示す構造に類似する構造の発光素子について、第1のn型クラッド層294aの厚さを変えた場合におけるその厚さと発光出力(相対値)との関係を示すグラフである。図16は、より具体的には、図10に示す構造において、サファイア基板91上にGaNバッファ層92を介してn型GaNコンタクト層93を4μmの厚さに、第2のn型AlGaNクラッド層294bを0.1μmの厚さに形成し、第1のn型InGaNクラッド層294aを厚さを変えて形成し、さらにその上に、単一量子井戸構造のInGaN活性層95を20オングストロームの厚さに、p型AlGaNクラッド層296を0.1μmの厚さに形成し、負電極98を形成し、電流狭窄層100を設けることなく正電極99を形成したLED素子についてのものである。
図16からわかるように、第1のn型クラッド層294aの厚さが1μmよりも厚くなると発光出力は急激に低下する傾向にある。これは第1のn型クラッド層294a自体の結晶性が悪くなり、例えば結晶が黒くなったり、ピットが発生するためである。また第1のn型クラッド層294aの厚さが30オングストロームよりも薄くなっても、発光出力が低下する傾向にある。これはInGaNよりなる第1のn型クラッド層294aがバッファ層として効果的に作用する好ましい膜厚が30オングストローム以上であることを示している。このような傾向は、第1のn型クラッド層をInGaNまたはGaNで形成する本発明の他の形態の窒化物半導体発光素子のすべてについて確認された。なお、既に説明したように、第1のn型クラッド層294aが10オングストロームよりも薄くなると、バッファ層として作用せず、その上に形成される活性層95およびクラッド層294b、296に多数のクラックが発生するため、素子作製も難しくなり、発光出力は大幅に低下する。
さて、本発明において、窒化物半導体は、いずれも、ドナー不純物をドープしないで成長させてもn型を示すが、最も好ましくは窒化物半導体の結晶成長中にSi、Ge、Te、S等のドナー不純物をドープする。ドナー不純物濃度を調整することにより、n型窒化物半導体層のキャリア濃度を調整できる。
また、本発明において、p型窒化物半導体層は、いずれも、窒化物半導体の結晶成長中にMg、Zn、Cd、Ca、Be、C等のアクセプター不純物を窒化物半導体の結晶成長中にドープすることによって得られる。このようにアクセプター不純物をドープして成長させた窒化物半導体層を400℃以上の温度でアニーリングを行うことによりより一層好ましいp型窒化物半導体層が得られる。アクセプター不純物の濃度を調整することにより、p型窒化物半導体層のキャリア濃度を調整することができる。
本発明の窒化物半導体発光素子は、例えばMOVPE(有機金属気相成長法)、MBE(分子線気相成長法)、HDVPE(ハイドライド気相成長法)等の気相成長法を用いて、基板上に各窒化物半導体層を形成することによって好ましく製造することができる。例えば、有機インジウム化合物、有機ガリウム化合物、有機アルミニウム化合物、アンモニア等の窒化物半導体源を用い、必要に応じて不純物源をも用いて有機MOVPE法により基板上に各窒化物半導体層を形成し、正電極および負電極を形成して本発明の窒化物半導体発光素子を製造することができる。
以上、図面を参照して本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、これらに限定されるものではない。例えば図9における電流狭窄層100は、LD素子とした場合における本発明の半導体発光素子にも適用できる。また、1つのn型もしくはp型InGaN層についてのインジウムの比率およびキャリア濃度に関する説明は、他のn型もしくはp型InGaN層についても同様にあてはまり、1つのn型もしくはp型AlGaN層についてのアルミニウムの比率およびキャリア濃度に関する説明は、他のn型もしくはp型AlGaN層についても同様にあてはまることが明らかであろう。なお、以上の説明からも明らかなように、主面とは、窒化物半導体層(具体的には、活性層)において他の層が形成される面を意味する。
以下本発明を実施例に基づいて説明する。以下の実施例では、全ての窒化物半導体層をMOVPE法により成長させている。