JP3834889B2 - グロープラグ - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は,燃料の着火・燃焼を促進するためのグロープラグに関する。
【0002】
【従来技術】
近年,ガソリンエンジン,ディーゼルエンジンにおいては,環境保護の面から,排気ガスや排気煙をより一層低減させることが要望されている。そして,こうした要望に応えるべく,各種のエンジン改良や後処理(触媒浄化等)により排出ガス低減,燃料・潤滑油性状の改善,各種のエンジン燃焼制御システムの改善などが検討されている。
【0003】
また,最近のエンジン燃焼制御システムにおいては,エンジンの燃焼状態を検出することが要請されており,筒内圧,燃焼光,イオン電流等を検出することによってエンジン燃焼状態を検出することが検討されている。特に,イオン電流によりエンジン燃焼状態を検出することは,燃焼に伴う化学反応を直接的に観察できることから極めて有用と考えられており,種々のイオン電流検出方法が提案されている。
【0004】
例えば,特開平7−259597号公報には,燃料噴射ノズルの取り付け座部において,当該噴射ノズル及びエンジンのシリンダヘッドから絶縁されたスリーブ状のイオン検出用電極を装着し,これを外部の検出回路に接続することにより燃料の燃焼に伴うイオン電流を検出する方法が開示されている。
また,米国特許第4,739,731号では,セラミックグロープラグを用いたイオン電流検出用センサが開示されている。
【0005】
これらの技術では,グロープラグのヒータ(通電発熱体)表面に白金製の導電層を取着すると共に,この導電層を燃焼室及びグロープラグ取付金具から絶縁している。そして,導電層に外部からイオン電流測定用電源(直流250V)を印加して燃料燃焼に伴うイオン電流を検出するようにしている。
【0006】
【解決しようとする課題】
ところが,上記従来技術においては,いずれも以下に示す問題がある。
即ち,前者の技術(特開平7−259597号公報)では,イオン電流検出のために,他の部位より絶縁されたスリーブ状のイオン検出用電極を設置しなくてはならず,その材料の選択及びその加工において煩雑な作業が強いられる。
そのため,イオン検出用電極が非常に,高価な構成となるという問題がある。さらに,燃料噴射ノズルとイオン検出用電極との間,及びイオン検出用電極とシリンダヘッドとの間が燃焼室内にて発生するカーボンにより短絡し,早期に使用不能となるという欠点があった。
【0007】
また,後者の技術(米国特許第4,739,731号)では,イオン検出用電極を通電発熱体とは別に設けると共に,両者を別々の電源に接続しているために構造が複雑になるという欠点があった。また,イオン検出用電極の耐熱性及び耐消耗性を確保するために,白金など高価な貴金属を多量に必要とすることから,グロープラグ自体が非常に高価なものとなる欠点があった。
【0008】
これに対し,上記種々の問題を解決すべく,特開平8−147132号公報において,イオン検出用電極が絶縁体により埋設されたグロープラグが提案されている。
このような構成とすることによって,イオン検出用電極と燃料噴射ノズル又はイオン検出用電極とシリンダヘッドとの間が燃焼室内にて発生するカーボンにより短絡することがなく常に安定した検出信号を得ることができた。
【0009】
しかしながら,イオン検出用電極が絶縁体により埋設されたグロープラグにおいては,イオン検出用電極の燃焼室に対する露出面積が非常に小さくなり,十分なイオン検出電流を得ることが困難であるという新規な課題が見いだされた。
【0010】
本発明は,かかる課題を解決すべくなされたもので,カーボンの付着の問題がなく,かつ,実質的にイオン検出用電極が火炎に曝される面積を大きくすることができ,イオン検出電流を精度よく得ることができる,イオン検出用電極付きグロープラグを提供しようとするものである。
【0011】
【課題の解決手段】
請求項1の発明は,ハウジングと該ハウジング内に支持された本体とよりなるグロープラグにおいて,
上記本体は,絶縁体と,
該絶縁体の内部に設けられた通電発熱体及び該通電発熱体の両端部に電気的に接続されて上記絶縁体の外部に導出された一対のリード線と,
上記絶縁体の内部に配設され,火炎中のイオン化の状態を検出するための,イオン検出用電極と,
該イオン検出用電極の上記絶縁体からの露出部分を覆うように上記絶縁体の表面に設けられ,かつ,上記イオン検出用電極に電気的に接続されている導電層を配設してあり,
該導電層は,部分的に上記絶縁体を露出させることによって形成されたエッジ部分を有することを特徴とするグロープラグにある。
【0012】
本発明において最も注目すべきことは,上記絶縁体の内部に通電発熱体とイオン検出用電極が配設されており,上記絶縁体の表面には,上記構成の導電層を配設してあることである。
【0013】
上記導電層は,イオン検出用電極の絶縁体からの露出部分を覆うように,その露出部分の面積よりも広い面積をもって配設されている。
また,導電層は,イオン検出用電極と電気的接続されていると共にそれ自体導電性を有している。したがって,導電層は,イオン検出用電極の露出部分の面積を実質的に拡大するという役割を果たしている。
【0014】
また,上記通電発熱体及びイオン検出用電極を絶縁体中に配設するに当たっては,例えば図3に示すごとく,予め両者の一体成形品を作製して同時にリード線を接合し,これを絶縁体の原料であるセラミック粉末中に埋め込んで一体成形する。
或いは,予め別途作製しておいた2つ割の絶縁体の間に上記通電発熱体とイオン検出用電極を挟持配設する。
【0015】
これらの絶縁体成形品,或いは通電発熱体とイオン検出用電極との一体成形品は,例えば,これらの材料粉末とパラフィンワックスを主成分とする樹脂とを混合し,それを射出成形することにより作製する。
次に,脱脂を含めた加圧焼結を行い焼成する。その後,円筒研削及び球面加工研削によって,イオン検出機能付きセラミックヒータを作製する。
【0016】
また,上記通電発熱体,イオン検出用電極は,上記絶縁体の内部に印刷形成により設けることもできる。
かかる印刷形成につき一例を示せば,例えば絶縁体を形成するためのセラミック材料の生成形体(グリーンシート)の表面に,スクリーン印刷,パッド印刷,ホットスタンプ等により,所望形状に導電性材料よりなる通電発熱体,そのリード線,及びイオン検出用電極を印刷することにより行なう。次いで,生成形体を巻回し,その後焼成する。
【0017】
これにより,印刷形成された通電発熱体,リード線,イオン検出用電極を内蔵した絶縁体が得られる。
また,上記いずれの製造方法においても絶縁体の表面にイオン検出用電極が露出するようにしておく。
【0018】
次に,上記絶縁体の表面に上記導電層を形成するに当たっては,例えば,まず絶縁体の形状,粗さ等を必要に応じて調整する。次いで,絶縁体表面に,パット印刷,円筒スクリーン印刷等によって,導電層を所望形状に印刷し,焼き付けすることにより行う。
また,プラズマコーティング,蒸着,その他の方法により導電層を形成することもできる。
【0019】
次に,本発明の作用効果につき説明する。
まず,本発明のグロープラグは,上記通電発熱体に電流を通すことにより発熱し,その加熱により燃焼室における着火及び燃焼を促進させる。
また,イオン検出用電極は,燃焼火炎中のイオン化の状態を検出する。即ち,イオン電流の検出時において,イオン検出用電極とそれに近接する燃焼室の内壁(シリンダヘッド)とは,両者間に存在する燃料燃焼時のプラスイオン及びマイナスイオンを捕獲するための2電極を形成する。
【0020】
これにより,精度良くイオン電流を検出することができ,その情報を燃焼制御に有用に活用することが可能となる。また,グロープラグに,本来の燃焼室の加熱機能(グロー機能)とイオン電流検出機能とを付与しているので,構造がコンパクトで,かつ安価に製造できる。
【0021】
また,本発明においては,絶縁体の表面に上記イオン検出用電極に電気的に接続された導電層を配設してある。そのため,導電層がイオン検出用電極の露出部分としての役割を果たし,その面積を増大させる。それ故,イオン電流の検出をより確実に行うことができる。
それ故,導電層を有さない場合に比べて,さらに精度良くイオン電流を検出することができ,より一層燃料制御の向上を図ることができる。
【0022】
また,本発明のグロープラグは,上記通電発熱体,リード線及びイオン検出用電極を上記絶縁体の内部に,一体的に設けているので,構造簡単である。
したがって,本発明によれば,カーボン付着の問題がなく,かつ,実質的にイオン検出用電極が火炎に曝される面積を大きくすることができ,精度良くイオン電流を検出することができる。
【0023】
次に,上記導電層は,部分的に上記絶縁体を露出させることにより形成したエッジ部分を有する。この場合には,上記エッジ部分が他の平滑な部分よりもイオンを吸着し易い性質(エッジ効果)を発揮する。そのため,イオン電流の検出の応答性が良好となり,例えば後述するイオン電流検出時の立ち上がり角度を急峻にし,またピーク値を増大させることができる。
【0024】
なお,上記導電層から部分的に絶縁体を露出させて形成したエッジ部分とは,例えば後述するように,導電層を網目構造等にしてその網目間に絶縁体を露出させて形成する場合だけでなく,ベタ層の導電層と絶縁体の露出部分との境界部分に形成するエッジ部分をも含む。
【0025】
また,請求項2の発明のように,上記エッジ部分は角状であることが好ましい。角状のエッジ部分は,例えば後述する実施形態例1に示すごとく,絶縁体との境界部分を滑らかにすることなく,段状に形成することにより得ることができる。この場合には,上記エッジ効果をさらに増大させることができる。
【0026】
また,請求項3の発明のように,上記導電層は,網目構造を有し,網目の間には上記絶縁体の表面が露出している構成をとることもできる(図10〜図15)。この場合には,各網目部分にそれぞれ角状のエッジ部分を多数形成することができ,さらに確実に上記のエッジ効果を発揮させることができる。
【0027】
また,請求項4の発明のように,上記導電層は,金属又は導電性セラミックにより構成することができる。
上記金属としては,特に高融点金属と活性金属とを混合したもの用いることが好ましい。この場合には,活性金属により上記絶縁体と導電層との密着性を高めることができ,一方,高融点金属により耐久性を高めることができる。
【0028】
上記高融点金属としては,例えば,白金,金等の貴金属,ニッケル,鉄,クロム等があり,これらを単独または混合して用いることができる。また,上記活性金属としては,チタン,ジルコニウム,ハフニウム,バナジウム等があり,これらも単独または混合して用いることができる。
好ましくは,金とニッケルの合計を90重量%以上とし,残りを活性なバナジウムとする組み合わせにするのがよい。この場合には,金とニッケルとが耐久性を保持しつつ導電性を発揮し,バナジウムが絶縁体との密着性を高める。
【0029】
また,上記導電性セラミックとしては,種々の金属の珪化物,炭化物,窒化物,ホウ化物を用いることができる。好ましくは,耐酸化性の理由により珪化物がよい。また,上記導電性セラミックには,絶縁体との密着性を向上させるために,例えば酸化アルミニウム,二酸化珪素等の酸化物系セラミックを混合することが好ましい。
【0030】
また,請求項5の発明のように,上記導電層の厚みは,1〜20μmであることが好ましい。1μm未満の場合には,燃焼波または燃焼残差物が激しく衝突するため,摩耗により導電層が薄くなり,耐久性がなくなるという問題があり,好ましくは5μm以上がよい。
一方,20μmを超える場合には,絶縁体との熱膨張係数が大きく異なるため,冷熱によりクラックが発生し,絶縁体から剥がれ落ちるという問題があり,好ましくは15μm以下がよい。
【0031】
【発明の実施の形態】
実施形態例1
本発明の実施形態例にかかるグロープラグにつき,図1〜図8を用いて説明する。
本例のグロープラグは,ディーゼルエンジンの始動補助装置として用いられる,セラミックグロープラグである。
本例のグロープラグ1は,図1に示すごとく,本体10と該本体10を装着するハウジング4とからなる。上記本体10は,絶縁体11と,該絶縁体11の内部に設けられた通電発熱体2と,該通電発熱体2の両端部に電気的に接続されて絶縁体の他端側に導出された一対のリード線21,22とを有する。
【0032】
また,上記絶縁体11の内部に配設された,火炎中のイオン化の状態を検出するためのイオン検出用電極3を有する。
また,絶縁体11の表面には,イオン検出用電極3に電気的に接続され,かつ角状のエッヂ部分61を有する導電層6を配設してある。
本例における導電層6は,図1に示すごとく,グロープラグ本体10の先端をキャップ状に覆う形状を有しており,上端部分のみにエッジ部分61を有するベタ層となっている。
【0033】
また,上記本体10は,図1,図2に示すごとく,金属製のハウジング4内に,金属製の環状支持体41を介して,固定されている。
そして,上記通電発熱体2の一方のリード線21は,絶縁体11の内部を上昇して,本体10の側面に設けた導電性の端子部23を介して内部リード線231に電気的に接続されている。また,他方のリード線22は,絶縁体11の上端部に設けた導電性の端子部31を介して内部リード線33に電気的に接続されている。なお,外部リード線231は,通電発熱体2とイオン検出用電極3用のリード線として共用されている。
【0034】
一方,ハウジング4は,上記環状支持体41を有し,図2に示すごとく,その上部に保護筒42を有している。また,ハウジング4は,エンジンのシリンダヘッド45へ装着するための,雄ねじ部43を有する。
上記保護筒42の上方開口部には,ゴムブッシュ421が嵌合されている。また,該ゴムブッシュ421には,外部リード線233,333が貫挿され,これらはそれぞれ接続端子232,332を介して,上記内部リード線231,33に接続されている。
【0035】
したがって,外部リード線233は通電発熱体2の一端に,外部リード線333は通電発熱体2の他端にそれぞれ電気的に導通されている。
また,本体10の先端部(下端部)は,図1に示すごとく,半球面形状に形成されている。
【0036】
次に,上記グロープラグ本体10を製造するに当たっては,まず図3に示すごとき,通電発熱体2とイオン検出用電極3との一体成形品29を準備する。
この一体成形品29は,通電発熱体2及びイオン検出用電極3用のセラミック粉末を用いて射出成形,或いはプレス成形により作製する。
そして,この一体成形品29は,絶縁体11の中に埋設し,これらをホットプレスにて一体的に加圧焼成する。なお,上記埋設に先立って,上記リード線21,22を接続しておく。これにより,通電発熱体2とイオン検出用電極3とを内蔵した絶縁体11が得られる。
【0037】
次に,絶縁体11の表面に導電層6を形成するに当たっては,絶縁体11の表面を粗くした後,導電層材料を印刷する。
まず,絶縁体11表面粗さは,リン酸等によるエッチングにより粗くする。また,絶縁体11を円筒研削する部分については,#300以下の粗い砥石を使用して表面粗さを大きくすることもできる。これにより,絶縁体11と導電層6との密着性を高める。
【0038】
次いで,グロープラグ本体10先端の球面部分はパット印刷法により,円筒部分は円筒スクリーン印刷法により,導電層材料を印刷する。このとき,導電層材料が上記イオン検出用電極の露出部分に接触するように印刷する。
次いで,真空雰囲気中又は窒素雰囲気中において,900℃以上の温度で導電層を焼き付ける。これにより,図1に示すごとく,絶縁体11表面に導電層6が形成される。
また,本例においては,上記導電層材料として,金属を主体とする材料を用いた。具体的には,Au93重量%,Ni5重量%,V2重量%の混合材を用いた。また,導電層の厚さは10μmとした。
【0039】
次に,上記のごとく本体10とハウジング4などとによって構成したグロープラグ1は,図4に示すごとく,エンジンのシリンダヘッド45に対して,ハウジンク4の雄ねじ部を螺合することにより装着する。これにより,グロープラグ本体10の先端部が,シリンダヘッド45の燃焼室の一部である渦流室451に突出した状態で装着される。なお,符号457は主燃焼室,458はピストン,459は燃料噴射ノズルである。
【0040】
また,上記グロープラグ1は,図4に示すごとく,グロープラグ作動回路に接続される。
即ち,通電発熱体2の一端のリード線21は,外部リード線233,グローリレー53,531,及び12ボルトのバッテリ54を介して,外部リード線333に接続されている。更に,該外部リード線333は,内部リード線33,及び本体10内のリード線22(図1)を介して,通電発熱体2の他端に接続されている。
これにより,通電発熱体2の加熱用回路が形成される。
【0041】
また,イオン検出用電極3は,上記外部リード線233,イオンリレー530,イオン電流検出用抵抗521,直流電源51を介してシリンダヘッド45に接続されている。また,上記イオン電流検出用抵抗521には,イオン電流を検出するための電位差計522が設けられ,これはECU(電子制御装置)52に接続されている。
また,ECU52には,上記グローリレー53,531,イオンリレー530,エンジン冷却水の水温センサ525,エンジンの回転数センサ526が接続されている。
【0042】
上記図4に示した,グロープラグ1の使用に当たっては,まずエンジンの始動時においては,ECU52により,グローリレー53,531がオンとされる。そのため,バッテリ54とグロープラグの通電発熱体2との間が閉路となり,グロープラグ本体10の通電発熱体2が通電され発熱する。そのためグロープラグ1は加熱状態となり,渦流室451が加熱され,着火温度に上昇する。
そこで,燃料噴射ノズル459から,燃料が噴射されると,その都度該燃料が着火され,ピストン458が作動し,エンジンが駆動される。
【0043】
一方,燃料が燃焼している際には,前記のごとく,イオンが発生するので,グローリレー53,531はオフとし,イオンリレー530をオンとして,イオン電流をイオン検出用電極3,イオン電流検出用抵抗521及び電位差計522により検出する。
即ち,グロープラグ本体10の上記イオン検出用電極3とシリンダヘッド45との間には12ボルトの直流電源51によって電圧が印加されている。
【0044】
そこで,渦流室451内における,燃焼火炎帯の活性イオンの発生に伴い,イオン電流検出用抵抗521を含む電流経路にイオン電流が流れる。
なお,イオン電流検出用抵抗521は,約500kΩで,これを流れるイオン電流は,その両端の電位差として電位差計522により検出される。
【0045】
ここで,イオン電流の検出原理を略述する。
燃料噴射ノズル459からの噴射燃料が渦流室451で燃焼されると,その燃焼火炎帯ではイオン化されたプラスイオンとマイナスイオンが大量に発生する。このとき,上記イオン検出用電極3とそれに対面するシリンダヘッド45との間にバッテリ電圧が印加されているので,イオン検出用電極3にはマイナスイオンが捕獲されると共に,シリンダヘッド45にはプラスイオンが捕獲される。
その結果,上記の電流経路が形成され,この電流経路を流れるイオン電流がイオン電流検出用抵抗521の両端の電位差として検出される。
【0046】
一方,ECU52は,CPU,ROM,RAM,入出力回路等からなる周知のマイクロコンピュータやA/D変換器(共に図示略)を中心に構成され,前記電位差計522により検出された検出信号を入力する。
また,ECU52には,エンジン冷却水の温度を検出するための水温センサ525の検出信号や,エンジンクランク角に応じてエンジン回転数を検出するための回転数センサ526の検出信号が入力され,ECU52は各検出信号に基づいて水温Tw,エンジン回転数Neを検知する。
【0047】
上記ECU52は,ディーゼルエンジンの低温始動時において,グロープラグ1の通電発熱体2を加熱させて燃料の着火及び燃焼を促進させる。また,ディーゼルエンジンの始動直後において,イオン電流を検出する。
なお,エンジン始動当初においては,グローリレー53,531がオンの状態にあり,通電発熱体2は加熱状態に保持されるようになっている。
【0048】
以下,図5のフローチャートを用いて,上記グローリレー53,531のオン,オフ切り替え処理を説明する。図5は,所定の時間の割り込み処理により実行される。
まず,図5の処理がスタートすると,ECU52は,先ずステップ11でエンジン暖機完了後であり,且つグローリレー53,531がオフであるか否かを判別する。エンジン始動当初においては,ステップ11が否定判別され,ECU52は続くステップ12で水温Tw及びエンジン回転数Neを読み込む。
【0049】
その後,ステップ13で水温Twが所定の暖機完了温度(本実施形態例では,60℃)以上であるか否かを判別すると共に,ステップ14でエンジン回転数Neが所定回転数(本実施形態例では,2000rpm)以上に達しているか否かを判別する。
このときステップ13,14が共に否定判別されれば,エンジンの暖機が完了しておらず,グロープラグの通電発熱体2による加熱が必要であるとみなし,ステップ15に進む。
【0050】
また,ステップ13,14のいずれかが肯定判別されれば,エンジンの暖機が完了,或いはグロープラグ1による加熱が不要であるとみなし,ステップ16に進む。
【0051】
ステップ15に進んだ場合は,グローリレー53,531はオンのまま維持される。この状態では,グロープラグ1の発熱作用によって燃料の着火及び燃焼が継続される。
また,ステップ16に進んだ場合,ECU52は,グローリレー53,531をオフとする。そして,イオンリレー530をオンとして,イオン電流を検出する。
【0052】
次に,図6(A)は,オシロスコープを用いて燃料燃焼時に発生するイオン電流を観察した際の電流波形図である。同図において,燃料噴射時期(圧縮TDC)直後に電圧が急上昇している波形が燃料の燃焼によるイオン電流波形であり,A点が燃焼の開始位置,即ち着火時期に相当する。
また,このイオン電流波形には,2つの山が観測される。つまり,燃焼初期には,拡散火炎帯の活性イオンにより第1の山B1が観測され,燃焼中後期には筒内圧上昇による再イオン化により第2の山B2が観測される。
【0053】
この場合,ECU52は,イオン電流波形の第1の山B1から実際の着火時期を検出すると共に,検出された実際の着火時期と目標着火時期との差をなくすべく着火時期のフィードバック制御を実施する。
また,ECU52は,イオン電流波形の第2の山B2から異常燃焼,失火等の燃焼状態を検出し,その検出結果を燃料噴射制御に反映させる。こうしてイオン電流をエンジンの燃料噴射制御に反映させることにより,きめ細かくエンジンの運転状態を制御することが可能となる。
【0054】
次に,グロープラグのイオン検出用電極3に,燃料燃焼により発生したカーボン(スス)が付着した状態,即ち燻りが発生したときには,図6(B)に示すごとく,イオン電流が燃料噴射時期の前には低く,その後には上昇していくという現象が発生する(図6の(A)と(B)を比較)。なお,図6(B)のIthは燻り状態を判別しグローリレー53,531をオンにするか否かを判断するための波高値の判定レベル(しきい値)を表している。
そこで,このような燻り現象が発生したときには,上記グローリレー53,531をオンとし,通電発熱体2を加熱し,上記の付着カーボンを焼き切る操作を行なう。
【0055】
図7は,このカーボン焼き切り操作を,上記図4の回路におけるECU52により行なうフローチャートである。
即ち,図7のステップ21において,グローリレー53,531がオフの状態にあるとき,ステップ22において,燃料噴射時期に上記のごとき異常イオン電流(図6B)が検出されたか否か判定する。否であれば,ステップ25に進み,グローリレー53,531はオフのままとする。
【0056】
一方,異常イオン電流が検出されたときには,ステップ23に進み,イオンリレー530をオフ,次にステップ24においてグローリレー53,531をオンとし,グロープラグの通電発熱体2を加熱してカーボンを焼失させる。
【0057】
上記のごとく,本例のグロープラグにおいては,絶縁体11の内部に通電発熱体2とリード線21,22とイオン検出用電極3とが設けてあり,これらは一体的に構成されている。そのため,通電発熱体2によるグロー動作(加熱動作)と,イオン検出用電極3によるイオン電流検出とを1つのグロープラグにより達成できる。また,そのためグロープラグがコンパクトになる。
【0058】
また,イオン検出用電極3,グロープラグ表面にカーボンが付着した場合にも,上記のごとく通電発熱体2を通電加熱することにより,上記カーボンを焼き切り,イオン検出用電極3をさらに正常状態にすることができる。そのため,イオン電流を精度良く検出することができる。
【0059】
また,通電発熱体2,リード線21,22,イオン検出用電極3は,絶縁体11の内部に設けてあるので,燃焼ガスによる酸化等の腐食もなく,耐久性に優れている。
また,絶縁体11の先端部は,半球形状としてあるので,燃焼室内における熱衝撃を吸収することができる。
【0060】
さらに本例においては,絶縁体11の表面に導電層6を配設してある。そして,導電層6は,その上端にエッジ部分61を有する。そのため,イオン検出用電極の露出面積が拡大されると共に,上記エッジ部分61のエッジ効果によって,イオン電流の検出精度,及び応答性を向上させることができる。
【0061】
即ち,図8に示すごとく,イオン電流の検出においては,最初の立ち上がり角度Dと,ピーク値Pが重要である。そして,本例においては,上記導電層6を設けているために,立ち上がり角度Dが大きく急峻な立ち上がりが得られ,またピーク値Pも非常に大きい。
それ故,イオン検出精度が一層向上し,さらに精度よく燃料の燃焼状態を制御することができる。
尚,本例においては,上記エッジ部分61を角状としたが,これを丸い状態にした場合においても,エッジ部を形成する限りほぼ同等の効果が得られる。
【0062】
実施形態例2
本例においては,実施形態例1に示したグロープラグにおける導電層の効果を明確にすべく,イオン電流の検出試験を実施した。
準備した試料は,実施形態例1に示したキャップ状の大きなベタ層の導電層6を有するグロープラグ(試料No.E1)と,図9に示すごとく皿状の小さなベタ層の導電層602を有するグロープラグ(試料No.E2)と,導電層を設けていないグロープラグ(試料No.C1)の3種類である。これらは,導電層以外の部分は実施形態例1のグロープラグと同様である。
【0063】
試験は,各グロープラグをそれぞれ同じディーゼルエンジンに装着して,同一条件においてイオン電流を測定した。そして,前述した図8に示すごとく,得られたイオン電流の波形を比較し,その立ち上がり角度Dとピーク値Pによりイオン電流検出精度及び応答性を評価した。
なお,上記立ち上がり角度Dが大きいほど,またピーク値Pが大きいほど,検出精度及び応答性が良い。
【0064】
評価結果を表1に示す。表1により知られるごとく,導電層6,602を有する場合(E1,E2)には,導電層を有さない場合(C1)に比べて,立ち上がり角度D,ピーク値P共に優れていた。この結果から,導電層6,602を配設することにより,イオン電流の検出精度及び応答性が格段に向上することがわかる。
また,E1とE2はそれ程大きな差は見られないが,若干導電層の面積が広く,エッジ部分61が大きいE1の方が優れていた。
【0065】
【表1】
【0066】
実施形態例3
本例においては,図10〜図12に示すごとく,実施形態例1に示したグロープラグにおける導電層6の模様(絶縁体11の露出部分の形状)を種々変更した試料を準備し(試料No.E3〜E5),その模様による影響を試験した。また,各導電層の全体形状は実施形態例1と同様のキャップ状とし,その大きさも全て統一した。
また,各試料(E3〜E5)は,導電層部分以外は実施形態例1と同様である。また試験方法は,実施形態例2と同様である。
【0067】
変更した導電層の模様を図10〜図12に示す。
図10は,試料No.E3の碁盤目状の網目模様を有する導電層603の模様を示している。この導電層603は,図13に示すごとく,各網目の間から絶縁体11が露出しており,各網目と絶縁体11との境界部分には,エッジ部分61が設けられている。
【0068】
図11は,試料No.E4の導電層604の模様を示している。導電層604は,上記E3の絶縁体11露出部分の形状を円形状に変更したものであり,その境界部分にはエッジ部分61を設けてある。
また,図12は,試料No.E5の導電層605の模様を示している。導電層605は,絶縁体11の露出部分をくさび模様状に有しており,その境界部分にエッジ部分61を有している。
また,上記導電層604,605を装着した本体10を正面から見た形状は,模様以外図13と同様である。
【0069】
このような種々の模様の導電層を有するグロープラグを用いて,実施形態例2と同様にイオン電流検出波形の立ち上がり角度Dとピーク値Pを求めた。
その結果を上記E1の結果と共に表2に示す。
表2より知られるごとく,導電層に模様を設けた本例の試料(E3〜E5)は,いずれも模様を有さないE1よりもさらに立ち上がり角度Dとピーク値Pが向上した。これは,導電層に図10〜図12に示すごとく,絶縁体11を露出させる模様を付することにより,エッジ部分61を増加させることができ,上記のエッジ効果を確実に発揮させることができるからであると考えられる。
【0070】
なお,本例においては,上記のごとく3種類の模様の導電層について評価したが,その他図14,図15に示すごとき模様を有する導電層606,607を設けた場合にも,上記E3〜E5と同様の効果が得られる。
【0071】
【表2】
【0072】
実施形態例4
本例は,図16に示すごとく,実施形態例1のグロープラグ作動回路(図4)を変更したもので,実施形態例1のバッテリ54と直流電源51とを,1個のバッテリ55のみに代えたものである。
なお,イオン電流検出用抵抗521とバッテリ55との間には,定電流,定電圧回路524を介在することもできる。この場合には,回路構成の簡素化とコスト低減の効果がある。
【0073】
その他は,実施形態例1と同様である。
本例においても,実施形態例1と同様の効果を得ることができる。また,特に,本例においては,定電流・定電圧回路524を介在する事で1つのバッテリーでも,グロープラグ発熱時に生じるイオン検出用電極への印加電圧の変動を防止し,安定した検出性能が維持できるという効果を得ることができる。
【0074】
実施形態例5
本例は,図17に示すごとく,実施形態例1における通電発熱体2とイオン検出用電極3を別体とし,これらを電気的に絶縁した状態でそれぞれ絶縁体11内に埋設した例である。また,本体10の先端には,実施形態例1と同様のキャップ状の導電層6を配設してある。その他は,実施形態例1と同様である。
本例の場合においても,実施形態例1と同様の作用効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施形態例1における,(A)グロープラグ本体の断面図,(B)上記(A)のA−A線矢視断面図。
【図2】実施形態例1における,グロープラグの全体説明図。
【図3】実施形態例1における,グロープラグ本体の製造方法の説明図。
【図4】実施形態例1における,グロープラグ作動回路図。
【図5】実施形態例1における,グロープラグ作動システムの,グロープラグ始動時のフローチャート。
【図6】実施形態例1における,(A)正常時のイオン電流,(B)燻り時のイオン電流を示す図。
【図7】実施形態例1における,燻り判定フローチャート。
【図8】実施形態例1における,イオン電流検出時の重要な点を示す説明図。関係を示す説明図。
【図9】実施形態例2における,導電層の配設状態を示す,(A)断面図,(B)底面図。
【図10】実施形態例3における,導電層の模様を示す説明図。
【図11】実施形態例3における,導電層の模様を示す説明図。
【図12】実施形態例3における,導電層の模様を示す説明図。
【図13】実施形態例3における,導電層の配設状態を示す説明図。
【図14】実施形態例3における,導電層の模様を示す説明図。
【図15】実施形態例3における,導電層の模様を示す説明図。
【図16】実施形態例4における,グロープラグ作動回路図。
【図17】実施形態例5における,(A)グロープラグ本体の断面図,(B)上記(A)のB−B線矢視断面図。
【符号の説明】
1...グロープラグ,
10...本体,
11...絶縁体,
2...通電発熱体,
21,22...リード線,
3...イオン検出用電極,
4...ハウジング,
45...シリンダヘッド,
451...渦流室,
6,602〜606...導電層,
61...エッジ部分,
Claims (5)
- ハウジングと該ハウジング内に支持された本体とよりなるグロープラグにおいて,
上記本体は,絶縁体と,
該絶縁体の内部に設けられた通電発熱体及び該通電発熱体の両端部に電気的に接続されて上記絶縁体の外部に導出された一対のリード線と,
上記絶縁体の内部に配設され,火炎中のイオン化の状態を検出するための,イオン検出用電極と,
該イオン検出用電極の上記絶縁体からの露出部分を覆うように上記絶縁体の表面に設けられ,かつ,上記イオン検出用電極に電気的に接続されている導電層を配設してあり,
該導電層は,部分的に上記絶縁体を露出させることによって形成されたエッジ部分を有することを特徴とするグロープラグ。 - 請求項2において,上記エッジ部分は角状であることを特徴とするグロープラグ。
- 請求項1又は2において,上記導電層は,網目構造を有し,網目の間には上記絶縁体の表面が露出していることを特徴とするグロープラグ。
- 請求項1〜3のいずれか1項において,上記導電層は,金属又は導電性セラミックであることを特徴とするグロープラグ。
- 請求項1〜4のいずれか1項において,上記導電層の厚みは,1〜20μmであることを特徴とするグロープラグ。
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