JP3832631B2 - 高強度ポリエチレン繊維 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、各種スポーツ衣料や防弾・防護衣料・防護手袋や各種安全用品などの高性能テキスタイル、タグロープ・係留ロープ、ヨットロープ、建築用ロープなどの各種ロープ製品、釣り糸、ブラインドケーブルなどの各種組み紐製品、漁網・防球ネットなどの網製品さらには化学フィルター・電池セパレーターや各種不織布の補強材あるいはテントなどの幕材、又はヘルメットやスキー板などのスポーツ用やスピーカーコーン用やプリプレグなどのコンポジット用の補強繊維など、産業上広範囲に応用可能な新規な高強度ポリエチレン繊維に関する。
【0002】
【従来の技術】
高強度ポリエチレン繊維に関しては例えば、特公昭60−47922号公報に開示されるごとく、超高分子量のポリエチレンを原料にし、いわゆる“ゲル紡糸法”により従来にない高強度・高弾性率繊維が得られることが知られており、既に産業上広く利用されている。これらの高強度ポリエチレン繊維は高強度・高弾性率である利点と反面して、高度に結晶化している為、必然的に結晶中から排除されて来た格子欠陥や分子末端などの欠陥構造が繊維中に凝集する欠点があった。このため繊維軸方向の引っ張りには非常に強いものの逆に圧縮応力がかかる用途に使用した場合、非常に低い圧縮応力で破壊が生じるなどの問題があった。圧縮強度低下の原因となる欠陥構造の個数低減並びにこれのサイズの最小化及び繊維構造全体への均一な微分散を実現せしめることが重要であるが、従来の方法でそのような繊維構造を有する高強度繊維を製造することは困難であった。このような問題を解決できる高強度かつ、応力の緩和出来る構造を持つポリエチレン繊維が産業界から強く望まれていた。
【0003】
特公昭64−8732公報に開示されるがごとく、重量平均分子量60万以上の超高分子量ポリエチレンを原料にし、いわゆる“ゲル紡糸法”により、従来にない、高強度・高弾性率のポリエチレン繊維が開示されている。しかしながらこのようにゲル紡糸法を用いて高強度・高弾性率ポリエチレン繊維を製造する場合、製造された繊維は高度に欠陥が排除された結晶(秩序度の高い結晶)から形成されているため、反面欠陥構造の凝集が依然構造中に残っている。このことは後述するようにラマン散乱法を応用することで証明できる。
【0004】
また、すでに市販されている溶融紡糸で作られたポリエチレン繊維に於いては、高性能な製品に於いても引っ張り強度が高々10cN/dtex程であり、本発明のような15cN/dtexを越える様な高強度ポリエチレン繊維は製造・販売されていないのが現状である。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
これら、広範な要求に対応するもっとも有効な手段は繊維中に存在する欠陥構造の個数、凝集を抑え且つ繊維構造全体にわたって微分散せしめることである。従来のゲル紡糸法や溶融紡糸法ではこの欠陥構造の凝集、低減、均一微分散が達成出来なかった。
【0006】
この原因について発明者らは、以下のように推定している。すなわち、溶融紡糸で高強度ポリエチレン繊維を製造する場合に於いては、ポリマー中の分子鎖のからみ合いが非常に多いためにノズルからポリマーを押し出し引き取った後充分延伸を行えないことが挙げられる。またそのことにより前述のゲル紡糸とは逆に、製造した繊維も内部構造は、繊維軸方向への配向度も悪く結晶としての秩序度の低い部分の割合が増大し且つ凝集が生じ、周期的な繰り返し長周期構造を形成することになり、結果として繊維の物性が低下する。さらに、分子量が100万を越える様な超高分子量ポリマーを溶融紡糸法を用いて紡糸することは成形加工機械の制約上実質的に不可能である。たとえ紡糸が出来たとしても充分高い倍率で延伸が行えず、強度が低いものとなる。
【0007】
分子量が100万を越える超高分子量のポリエチレンを用いた、分子鎖のからみあいを少なくするために前述のゲル紡糸という手法がある。この場合、超延伸操作を行うことは可能となるが、結果として得られた繊維の構造は小角X線線散乱測定に於いて長周期構造が観察されないほど高度に結晶化・秩序化してしまうが、反動として、後で詳しく説明するように、どうしても消去することが出来ない欠陥構造の凝集が生成するため、この凝集が繊維に歪みを与えたとき繊維内部に大きな応力分布が誘因される問題があった。この様な欠陥は、少なくとも圧縮特性の向上を阻害する要因の一つと考えられる。
【0008】
欠陥構造の凝集と外部歪みによって誘引される内部応力分布の関係について述べる。Termoniaらは格子模型を用いて高度に繊維軸方向に配向した物質の内部に発生する応力分布と構造の関係について研究した(Macromolecules 18, 2246 (1985)) 。彼らの研究結果によれば、分子末端や結晶中に取り残されたアモルファス部は繊維に歪みを与えたときにその部分が応力集中の原因になり、物性的には繊維強度や弾性率の低減をもたらす。同時に繊維内部には応力分布が誘引される。構造中で生じる応力分布は例えばYoungらが示したようにラマン散乱法を用いて測定することが出来る(Journal of Materials Science, 29, 510 (1994))。ラマンバンド即ち基準振動位置は繊維を構成する分子鎖の力の定数と分子の形(内部座標)から構成される方程式を解くことにより決定されるが(E. B. Wilson, J. C. Decius, P.C. Cross著Molecular Vibrations, Dover Publications (1980))、この現象の理論的な説明として例えばWoolらが説明を与えたように繊維が歪むにつれて該分子も歪み結果として基準振動位置が変化するのである(Macromolecules, 16, 1907 (1983))。欠陥凝集などの構造不均一が存在すると、外部歪みを与えたときに繊維中の部位により誘因される応力が異なることになる。この変化はバンドプロファイルの変化として検出できるため、逆に繊維に歪みをかけたとき、その強度とラマンバンドプロファイルの変化の関係を調べることから繊維内部に誘引された応力分布を定量出来るということになる。即ち、構造不均一が小さい繊維は後述するように、ラマンシフトファクター、ブロードニングファクター、ラマンバンドシフト量等がある領域の値をとるようになるのである。
【0009】
本発明は、このような従来の溶融紡糸やゲル紡糸のような手法では得ることが困難であった圧縮特性に優れ、且つ引っ張り強度が15cN/dtex以上、及び引っ張り弾性率が500cN/dtex以上であり、驚くべきことに繊維に歪みを与えたときに内部に誘因される応力分布が小さいという繊維構造上の特徴を有する高強度ポリエチレン繊維を得ることに成功したものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
即ち本発明は以下の構成からなる。
1.ラマンシフトファクターが−2.5cm-1/%以上で引っ張り強度が15cN/dtex以上、引っ張り弾性率が500cN/dtex以上であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
2.応力ラマンシフトファクターが−5.5cm-1/GPa以上であることを特徴とする1記載の高強度ポリエチレン繊維。
3.ラマンバンドブロードニングファクターが1.5cm-1/%以下であることを特徴とする1記載の高強度ポリエチレン繊維。
4.応力ラマンシフトファクターが−5.5cm-1/GPa以上であることを特徴とする1記載の高強度ポリエチレン繊維。
5.一定歪みを与えた後の応力緩和過程において、1200秒後のラマンバンドシフト量が1.5cm-1以下であることを特徴とする1記載の高強度ポリエチレン繊維。
6.一定歪みを与えた後の応力緩和過程において、1200秒後のラマンバンドブロードニングの変化が2.0cm-1以下であることを特徴とする1記載の高強度ポリエチレン繊維。
【0011】
本発明に係る繊維を得るためには、欠陥構造を無限小にまで減ずるかもしくは欠陥サイズを分子末端と同程度のサイズにまで微小ならしめ且つ繊維全体に均一に分散せしめる必要があることを鋭意検討の結果突き止めた。この様な状態の繊維を製造する方法は例えば以下のような方法が推奨されるが、それに限定されるものでは無い。本発明の最大の特徴は、ポリオレフィンの重量平均分子量が60,000〜600,000であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.5以下である重合体を溶融押し出しし、押し出された溶融物を冷却し、該繊維の結晶分散温度以下の温度で一段目の延伸を行うことである。
【0012】
即ち本発明に係る繊維の製造に当たっては、原料オレフィンポリマーの重量平均分子量が60,000〜600,000であることが重要であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.5以下となることが重要である。好ましくは、原料オレフィンポリマーの重量平均分子量が60,000〜300,000であることが重要であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.0以下となることが重要である。さらに好ましくは、原料オレフィンポリマーの重量平均分子量が60,000〜200,000であることが重要であり、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が3.0以下となることが極めて重要である。
【0013】
本発明におけるオレフィンポリマーとは、その繰り返し単位が実質的にエチレンであることを特徴とし、少量の他のモノマーとしてはα−オレフィンが共重合される。αオレフィンと共重合体を用いることによって長鎖の分岐をある程度含有させることは本繊維を製造する上で、特に紡糸に於いての製糸上の安定を与えることとなり、より好ましい。つまり、特許2963199に開示されるように、ポリエチレンに長鎖分岐を含有させることにより、紡糸時のメルトフラクチャーの発生を低減させることが可能となる。しかしながらエチレン以外の含有量が増えすぎるとかえって延伸の阻害要因となる為、高強度・高弾性率繊維を得るという観点からは、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0,01〜3個以下であることが好ましい、より好ましくは炭素1,000個あたり0.01〜1個であり、さらに好ましくは0.05〜1.0個である。このようなポリエチレンポリマーは例えば、特許2963199に開示されるように、メタロセン触媒を用いて重合することが可能であるが、それにより限定されるものでは無い。
【0014】
原料ポリエチレンの重量平均分子量が60,000未満となると溶融成形加工をし易いものの分子量が低い為に実際に得られる糸の強度は小さいものとなる。又、原料ポリエチレンの重量平均分子量が600,000を越えるような高分子量ポリエチレンでは溶融粘度が極めて高くなり、溶融成型加工が極めて困難となる。又、繊維状態の重量平均分子量と数平均分子量の比が4.5以上となると同じ重量平均分子量のポリマーを用いた場合と比較し最高延伸倍率が低く又、得られた糸の強度は低いものとなる。これは、緩和時間の長い分子鎖が延伸を行う際に延びきることが出来ずに破断が生じてしまうことと、分子量分布が広くなることによって低分子量成分が増加する為に分子末端が増加することにより強度低下が起こると推測している。
【0015】
本発明では、鋭意検討することにより上記の様な原料ポリエチレンから、高強度ポリエチレン繊維を得る手法を考案した。つまり、このような原料ポリエチレンを押し出し機で溶融しギアポンプにて定量的に紡糸口金を介して吐出させる。その後冷風にて該糸状を冷却し、所定の速度で引き取る。この時充分引き延ばして引き取ることが重要である。即ち、紡糸速度と吐出線速度との比が100以上で有ることが重要である、好ましくは150以上、さらに好ましくは200以上である。吐出線速度と巻き取り速度の比は、紡糸口金口径、単孔吐出量、オレフィンポリマー密度、巻き取り速度から計算することが出来る。
【0016】
引き続き該繊維を以下に示す様な方法で延伸することが最も重要である。即ち該繊維を、該繊維の結晶分散温度以下の温度で一段目の延伸を行い、該繊維の結晶分散温度以上の温度でさらに延伸を行うことが重要である。上記の様な手法を採用することにより驚く程、繊維の物性が向上することを見いだした。この時さらに多段に繊維を延伸しても良い。又。延伸工程は、一度巻き取った未延伸糸をオフラインにて延伸工程を行っても良いし、紡糸工程から一旦巻き取ることなしにそのまま延伸工程を行ってももちろん良い。延伸方法は特にこだわらない。これまでに公知な手法、例えばローラー延伸、スリット延伸などが推奨されるがこれに限定されるものでは無い。
【0017】
通常ポリエチレン配向物の最も高温側に観察される吸収は、結晶分散と呼ばれており、結晶相内の分子鎖熱運動に直接関与していると考えられている。この結晶分散温度は、動的粘弾性測定を行うことで測定することが出来る。即ち、測定で得られた貯蔵弾性率、損失弾性率から、損失正接を計算し、各温度で得られたこれらの三つの値を対数で縦軸に取り、横軸を温度でプロットし最も高温側に現れる吸収が結晶分散である。
【0018】
USP4228118、特表平8−504891号公報、特開平5−186908号公報、等多数の文献に開示されるように、ポリオレフィン繊維を延伸する場合、該繊維を加熱し少なくとも50℃以上で延伸することが、物性面・生産性面でも好ましいことが開示されている。しかしながら、本発明では驚くべきことに、これまでの技術と相反して該繊維の結晶分散温度以下の温度条件で該繊維を延伸すると飛躍的に繊維物性が向上することを見いだし、本発明に到達した。
【0019】
即ち、好ましくは該繊維の結晶分散温度より40℃以上70℃未満低い温度領域、さらに好ましくは50℃以上60摂氏未満低い温度領域で一段目の延伸を行うことが極めて重要である。又、2段目の延伸以降は、該繊維の結晶分散温度より好ましくは20℃以上高い温度、さらに好ましくは30℃以上高い温度で延伸を行うことが重要である。
【0020】
該繊維の結晶分散温度以下の温度で一段目の延伸を行うことによって、繊維物性が向上する理由は定かでは無いが、以下の様に推測している。つまり、該繊維の結晶分散温度以下の温度で延伸を行うこととにより、繊維により延伸張力がかかる。又、該繊維の結晶分散温度以下で延伸を行っているが為に、結晶自体は延伸によって動きにくく、主に非晶部分のみの延伸が行われる。つまり、超延伸の様に結晶からの分子鎖の引きずり出しが極めて起こりにくい。このことによって、2段目以降の延伸がスムーズに行われる様な構造が繊維に形成され、2段目以降の延伸がスムーズに行われ、延伸後の繊維の物性が向上するものと推測しているが、詳細は定かで無い。
【0021】
以下に本発明における特性値に関する測定法および測定条件を説明する。
【0022】
(強度・弾性率)
本発明における強度,弾性率は、オリエンティック社製「テンシロン」を用い、試料長200mm(チャック間長さ)、伸長速度100%/分の条件で歪ー応力曲線を雰囲気温度20℃、相対湿度65%条件下で測定し、破断点での応力を強度(cN/dtex)、曲線の原点付近の最大勾配を与える接線より弾性率(cN/dtex)を計算して求めた。なお、各値は10回の測定値の平均値を使用した。
【0023】
(重量平均分子量Mw、数平均分子量MnおよびMw/Mn)
重量平均分子量Mw、数平均分子量MnおよびMw/Mnは、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)によって測定した。GPC装置としては、Waters製GPC 150C ALC/GPCを持ち、カラムとしてはSHODEX製GPC UT802.5を一本UT806Mを2本用いて測定した。測定溶媒は、o−ジクロロベンゼンを使用しカラム温度を145℃した。試料濃度は1.0mg/mlとし、200マイクロリットル注入し測定した。分子量の検量線は、ユニバーサルキャリブレーション法により分子量既知のポリスチレン試料を用いて構成されている。
【0024】
(分岐の測定)
オレフィンポリマーの分岐の測定は、13C−NMR(125MHz)を用いて決定される。ランダル(Randall)の方法(Rev.Macromol.Chem.Phys.,C29(2&3),P.285−297)の記載されている方法を用いて測定を行った。
【0025】
(動的粘弾弾性測定)
本発明における動的粘度測定は、オリエンテック社製「レオバイブロンDDV−01FP型」を用いて行った。繊維は全体として100デニール±10デニールとなるように分繊あるいは合糸し、各単繊維ができる限り均一に配列するように配慮して、測定長(鋏金具間距離)が20mmとなるように繊維の両末端をアルミ箔で包みセルロース系接着剤で接着する。その際の糊しろ長さは、鋏金具との固定を考慮して5mm程度とする。各試験片は、20mmの初期幅に設定された鋏金具(チャック)に糸が弛んだり捩じれたりしないように慎重に設置され、予め60℃の温度、110Hzの周波数にて数秒、予備変形を与えてから本実験を実施した。本実験では−150℃から150℃の温度範囲で約1℃/分の昇温速度において110Hzの周波数での温度分散を低温側より求めた。測定においては静的な荷重を5gfに設定し、繊維が弛まない様に試料長を自動調整させた。動的な変形の振幅は15μmに設定した。
【0026】
(吐出線速度と紡糸速度の比(ドラフト比))
ドラフト比(Ψ)は、以下の式で与えられる
ドラフト比(Ψ)=紡糸速度(Vs)/吐出線速度(V)
【0027】
(ラマン散乱測定)
ラマン散乱スペクトルは、下記の方法で測定を行った。ラマン測定装置(分光器)はレニショー社のシステム1000を用いて測定した。光源はヘリウムーネオンレーザー(波長633nm)を用い、偏光方向に繊維軸が平行になるように繊維を設置して測定した。ヤーンから単繊維(モノフィラメント)を分繊し、矩形(縦50mm横10mm)の穴が空いたボール紙の穴の中心線上に、長軸が繊維軸と一致するように貼り、両端をエポキシ系接着剤(アラルダイト)で止めて2日間以上放置した。その後マイクロメーターで長さが調節できる治具に該繊維を取り付け、単繊維を保持するボール紙を注意深く切り取った後所定の歪みを繊維に与え、該ラマン散乱装置の顕微鏡ステージにのせ、ラマンスペクトルを測定した。このとき、繊維に働く応力をロードセルを用いて同時に測定した。
ラマンの測定はStatic Modeにて測定範囲850cm-1から1350cm-1について1ピクセルあたりの分解能を1cm-1以下にしてデータを収集した。解析に用いたピークはC−C骨格結合の対称伸縮モードに帰属される1128cm-1のバンドを採用した。バンド重心位置と線幅(バンド重心を中心としたプロファイルの標準偏差、2次モーメントの平方根)を正確に求めるために、該プロファイルを2つのガウス関数の合成として近似することで、うまくカーブフィットできることが分かった。歪みをかけると2つのガウス関数のピーク位置が一致せずそれらの距離が遠ざかることが判明した。この様なとき本発明に於いてはバンド位置をピークプロファイルの頂点とは考えず、2つのガウスピークの重心位置でもってバンドピーク位置と定義した。定義を式1(重心位置,<x>)にしめす。ピークのブロードニング(Broadening=線幅の拡がり)についても式2で説明する重心位置を該バンドの中心としたときの2次モーメントの平方根(標準偏差)で定義した。式2(標準偏差,SD)に定義を示した。
バンド重心位置<x>と与えた歪みをプロットしたグラフを作成した時の初期勾配(歪みを1%変化させたときの重心位置の変化)をラマンシフトファクター(SF)と定義した。図1に評価例を示す。同様に上で定義した標準偏差を与えた歪みに対してプロットしたグラフを作成したときの初期勾配(歪みを1%変化させたときのSDの変化)をラマンバンドブロードニングファクター(BF)と定義した。図2に評価例を示す。応力ラマンシフトファクター(RF)はバンド重心位置を歪みを与えたとき繊維に働く応力に対してプロットしたときの初期勾配(応力増加1GPaあたりの重心位置の変化)で定義した。緩和過程の測定については、繊維に3.5%の歪みをかけた直後から30秒後のスペクトルと1230秒後のスペクトルを評価し、それぞれ重心位置と標準偏差を評価して、ラマンバンドシフト量(SA)とブロードニングの変化(SC)を求めた。
【0028】
<x>=∫xf(x)dx/∫f(x)dx
f(x)=f1(x−a)+f2(x−b)
ここでfiはガウス関数を表す。
【0029】
SD=[∫(x−<x>)2f(x)dx/∫f(x)dx]0.5
ここでfは式1で定義したガウス関数の合成である。
【0030】
【実施例】
以下、実施例をもって本発明を説明する。
【0031】
(実施例1)
重量平均分子量115,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.3、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0.4個である高密度ポリエチレンをφ0.8mm、30Hからなる紡糸口金から290℃で単孔吐出量0.5g/minの速度で押し出した。押し出された繊維は、15cmの保温区間を通りその後20℃、0.5m/sのクエンチで冷却され、300m/minの速度で巻き取られる。該未延伸糸を、複数台の温度コントロールの可能なネルソンロールにて延伸した。1段延伸は、5℃で2.8倍の延伸を行った。さらに115℃まで加熱し5.0倍の延伸を行い、延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0032】
(実施例2)
表1に記載の条件で延伸糸を作成した。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0033】
(実施例3)
1段目の延伸温度を15℃とした以外は、実施例1と同様の条件で延伸糸を作成した。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0034】
(実施例4)
1段目の延伸温度を10℃とした以外は、実施例1と同様の条件で延伸糸を作成した。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0035】
(実施例5)
重量平均分子量152,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.4、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0.8個である高密度ポリエチレンを、φ0.9mm、30Hの紡糸口金から300℃で単孔吐出量0.3g/minの速度で押し出し、その他の条件は表1に記載の条件で延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表1に示した。
【0036】
(比較例1)
1段目の延伸温度を45℃とした以外は、実施例1と同様の条件で延伸糸を作成した。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0037】
(比較例2)
1段目の延伸温度を90℃、延伸倍率を1段目3.0倍、2段目7.0倍とし、その他の条件は表2に記載の条件で延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0038】
(比較例3)
重量平均分子量123,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.5、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり12個である高密度ポリエチレンを用いた以外は実施例1と同様の条件で延伸糸を作成したが、延伸時に糸切れが多発し、低い延伸倍率の延伸糸しか得られなかった。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0039】
(比較例4)
重量平均分子量121,500、重量平均分子量と数平均分子量の比が5.1、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0.4個である高密度ポリエチレンをφ0.8mm、30Hからなる紡糸口金から270℃で単孔吐出量0.5g/minの速度で押し出した以外は実施例1と同様に未延伸糸を作成した。該未延伸糸を、90℃で2.8倍の延伸を行った。さらにその後115℃まで加熱し3.8倍の延伸を行い、延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0040】
(比較例5)
比較例4で得られた未延伸糸を、40℃で2.8倍の延伸を行った。さらにその後115℃まで加熱し4.0倍の延伸を行い、延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0041】
(比較例6)
紡糸速度を80m/minとした以外は、比較例4と同様にして未延伸糸を作成した。該未延伸糸を80℃で2.8倍の延伸を行った。さらにその後115℃まで加熱し4.0倍の延伸を行い、延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0042】
(比較例7)
重量平均分子量123,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が6.1、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0個である高密度ポリエチレンをφ0.8mm、30Hからなる紡糸口金から295℃で、単孔吐出量0.5g/minの速度で押し出した以外は実施例1と同様に未延伸糸を作成した。該未延伸糸を、90℃で2.8倍の延伸を行った。さらにその後115℃まで加熱し3.7倍の延伸を行い、延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0043】
(比較例8)
重量平均分子量52,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.3、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0.6個である高密度ポリエチレンをφ0.8mm、30Hからなる紡糸口金から255℃で、単孔吐出量0.5g/minの速度で押し出した以外は実施例1と同様に未延伸糸を作成した。該未延伸糸を、40℃で2.8倍の延伸を行った。さらにその後100℃まで加熱し5.0倍の延伸を行い、延伸糸を得た。得られた繊維の物性を表2に示した。
【0044】
(比較例9)
重量平均分子量820,000、重量平均分子量と数平均分子量の比が2.5、5個以上の炭素を有する長さの分岐が炭素1,000個あたり1.3個である高密度ポリエチレンを用いて紡糸を行おうとしたが、溶融粘度が高く過ぎて均一に押し出すことが出来なかった。
【0045】
(比較例10)
ダイニーマSK60の測定例を表3に示す。
【0046】
(比較例11)
スペクトラ1000の測定例を表3に示す。
【0047】
【表1】
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
【発明の効果】
本発明によると新規で均質な構造を有する力学物性を改善した高強度ポリエチレン繊維の提供が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】バンド重心位置<x>と与えた歪みとの関係を示すグラフ。
【図2】バンド重心位置<x>の標準偏差と与えた歪みとの関係を示すグラフ。
Claims (5)
- 重量平均分子量が60,000〜600,000、重量平均分子量と数平均分子量の比(Mw/Mn)が4.5以下であり、5個以上の炭素を有する長さの分岐鎖が炭素1,000個あたり0,01〜3個の範囲にあるオレフィンポリマーからなり、繊維の結晶分散温度より40℃以上70℃未満低い温度領域で一段目の延伸がされ、該繊維の結晶分散温度以上の温度でさらに延伸され、ラマンシフトファクターが−2.5cm-1/%以上で引っ張り強度が15cN/dtex以上、引っ張り弾性率が500cN/dtex以上であることを特徴とする高強度ポリエチレン繊維。
- 応力ラマンシフトファクターが−5.5cm-1/GPa以上であることを特徴とする請求項1記載の高強度ポリエチレン繊維。
- ラマンバンドブロードニングファクターが1.5cm-1/%以下であることを特徴とする請求項1記載の高強度ポリエチレン繊維。
- 一定歪みを与えた後の応力緩和過程において、1200秒後のラマンバンドシフト量が1.5cm-1以下であることを特徴とする請求項1記載の高強度ポリエチレン繊維。
- 一定歪みを与えた後の応力緩和過程において、1200秒後のラマンバンドブロードニングの変化が2.0cm-1以下であることを特徴とする請求項1記載の高強度ポリエチレン繊維。
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