JP3830654B2 - 耐溶融亜鉛合金浴用の耐食性合金鋼 - Google Patents
耐溶融亜鉛合金浴用の耐食性合金鋼 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、溶融亜鉛めっき設備の溶融亜鉛浴、特に、溶融亜鉛合金浴に曝されて使用される機器、部品あるいは部材等の材料であって、耐食性に優れた合金鋼に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、亜鉛めっき鋼板が防錆鋼板として広範囲の用途に供されてきた。ところが、例えば、大気環境が厳しくなり、より厳しい腐食環境に適用し得る防錆鋼板が望まれるに至った。これに対して、例えば、溶融亜鉛めっきよりも耐食性に優れた亜鉛系めっき鋼板として、Alを5〜55wt.%を含む溶融Zn−Al合金めっき鋼板が開発された。一方、亜鉛浴中のAl濃度が高くなるにつれて、溶融亜鉛系めっき設備用部品や部材に対する腐食環境がより厳しくなった。
【0003】
鋼材の溶融亜鉛系めっき設備においては、Gフレーム、ハンガー及びスナウト等のめっき浴中機器、サポートロール及びシンクロール等のロール類、インゴットリフター及びフック等のインゴット吊具、並びに、溶解鍋、ポット及び浴槽等の浴槽類は、めっき浴に浸漬されたり、曝されたりする過酷な腐食環境下で使用される。従って、溶融亜鉛系めっき鋼板の製造設備においては、設備部品や部材等に対して、一段と高度な耐食性材料の開発が望まれた。
【0004】
これに対して、例えば、特開昭62−47460号公報には、上述した溶融亜鉛めっき浴中へのAl添加量の増加によるめっき設備の腐食環境の厳しさの増加に適用する材料として、C:0.08wt.%以下、Si:2wt.%以下、Mn:2wt.%以下、Ni:8〜20wt.%、Cr:16〜25wt.%、Mo:1.5〜5wt.%、及びN:0.06〜0.2wt.%で残部Feからなる成分組成の材料、並びに、上記材料に、合金元素として更に、Cu、W、V、Nb、Ta、Zr、Ti及びBから1種又は2種以上を適切な量だけ添加した材料が開示されている(以下、「先行技術1」という)。
【0005】
また、特開平7−278754号公報には、Zn−Al系溶融亜鉛浴に対する耐食性材料として、C:0.17wt.%以下、Si:0.3〜2wt.%、Mn:0.3〜2wt.%、Ni:10〜20wt.%、Cr:20〜35wt.%、Mo:0.5〜5wt.%、及びN:0.3超え〜0.75wt.%で残部Feからなる成分組成の材料、並びに、上記材料に、合金元素として更に、W:5wt.%以下が添加された材料が開示されている(以下、「先行技術2」という)。
その他に、上記用途には、SUS316L(C:0.030wt.%以下、Si:1.0wt.%以下、Mn:2.0wt.%以下、Ni:12〜15wt.%、Cr:16〜18wt.%、及びMo:2〜3wt.%のステンレス鋼(以下、「先行技術3」という)が知られている。
【0006】
溶融亜鉛系めっき設備のめっき浴に曝される機器、部品、部材等は、上述した成分組成の合金鋼を、砂型鋳型に鋳造する砂型鋳造品として、またロール等は遠心鋳造品として、あるいは当該合金鋼インゴットに鋳造後、熱間鍛造して製作する鍛造品として製造されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
Zn−Al系溶融合金めっき鋼板の内、特に、耐食性に優れたAl:55wt.%を含む亜鉛合金のような、高Al濃度の溶融亜鉛合金めっき鋼板の製造時には、前記めっき浴中機器、ロール類、インゴット吊具及び浴槽類等の設備部材や部品等(以下、「めっき浴金物」という)は、亜鉛脆化による局部腐食がクラック状に発現する現象が頻繁になってきた。特に、めっき浴から出し入れの頻度の高いインゴット吊具等は、熱応力の発生と、鋳造材に特有な粗大結晶粒とに起因する局部腐食が目立ち問題となってきた。従って、このクラックは、主として粒界腐食及び応力腐食により発生するものであると考えられる。即ち、粒界における応力腐食割れの一種であると考えられる。
【0008】
一方、亜鉛系めっき鋼板の使用環境も厳しくなり、Zn−55%Alの溶融亜鉛合金めっき鋼板は、建材用などとして用途が拡大し、大量に使用されるようになった。これに伴い、めっきラインの安定化及び高能率化が重要となった。こうして、Zn−Al溶融めっき浴中で使用する金物としては、単なる耐食性の向上、即ち腐食減量を小さくするというだけでなく、局部腐食を抑制してクラックの発生を防止しなければならない。即ち、従来のめっき浴金物の高寿命化に加えて、吊具の割損やインゴットの落下を防止して操業の安全性を高めることが新たな課題として急務となった。
【0009】
以上より明らかなように、この発明が解決すべき課題は、Zn−Alの溶融めっき浴金物の腐食減量を小さくすると共に、局部腐食によるクラックの発生を抑制することができる材料を開発することにある。そして、この発明は、特にAl濃度の高い600℃程度の高温のZn−Al溶融めっき浴に対して、優れた耐食性及び耐クラック性を有する合金鋼を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した観点から、溶融亜鉛合金浴、特に、亜鉛浴中のAl濃度の高い溶融亜鉛合金浴に対して、耐食性及び耐クラック性に優れた合金鋼を開発すべく鋭意研究を重ねた。その結果、合金鋼の成分組成において、特に、C、Si及びMnのいずれをも低水準の含有率に制限し、N含有率を通常水準よりも著しく高め、更に、VをN含有率と所定の関係を持つ適切な量だけ添加することにより、V窒化物の大きさも適正になり、Zn−Al溶融めっき浴において、粒界腐食の進行と、粒界における応力腐食割れとを抑制することができ、その結果、上記耐食性及び耐クラック性を備えた新しい耐溶融亜鉛合金鋼を得ることができるとの知見を得た。
以下、その内容を詳細に説明する。
【0011】
新合金鋼の開発は、本出願人が先に提案した先行技術2に記載した耐溶融亜鉛合金鋼を改良することにより行なった。
〔改良試験の方法〕
改良試験の基本的目標は、Zn−Alの溶融めっき浴による一般的耐食性を、少なくとも現状水準としての先行技術2に記載された耐溶融亜鉛合金鋼(以下、「従来鋼」という)の水準に維持し、且つ、この発明の主要課題である当該溶融めっき浴下での局部腐食によるクラックの発生を抑制することができる合金鋼の成分組成を規定することにある。
【0012】
上記一般的耐食性の評価は、腐食減肉量で行なった。
これに対して、局部腐食による耐クラック性の評価は、特に熱応力が作用する条件下のクラックが問題であるから、粒界における応力腐食割れを試験すべきであると考え、熱応力サイクル負荷での粒界腐食によるクラック発生状況、及び結晶粒径で行なった。
【0013】
実験手順としては、第1ステップにおいて、粒界腐食によるクラック発生状況に関する試験(以下、粒界腐食試験という)、及び結晶粒径の測定により、耐応力腐食割れに優れた合金鋼の成分組成を、従来鋼の改良により予測し、第2ステップにおいてこの成分組成を更に詳細に試験して、より望ましい範囲を予測した。そして、第1及び第2ステップの試験結果を詳細に検討して、所望の特性を有する合金鋼の成分組成を見い出すことにした。
【0014】
〔第1ステップ〕
上記目的に対して、従来鋼のC、Si、Mn及びMoについて、成分組成の一層望ましい含有率を求めるため、並びに、この従来鋼の成分組成に含まれていない元素であるCu、Nb及びVについての上記目的に対する有効性を調査するための実験を行なった。
実験は、表1に示す成分組成の合金鋼について、所定の試験片を調製し、耐粒界腐食性及び結晶粒径を測定した。表1の従来鋼の成分組成としては、先行技術2に開示された範囲内の合金鋼の成分組成を採用し、試験鋼の成分組成はこれの改良試験用のものである。
【0015】
試験対象材は、高周波溶解炉で表1に示した成分組成の合金鋼を溶解し、所定温度に調整した後、内径30mmφ×300mm高さの砂型に鋳込んだインゴットである。凝固後のインゴットから、粒界腐食試験及び結晶粒径測定試験用の試験片を調製した。
【0016】
粒界腐食の試験方法は、上記インゴットから、切削加工で調製した直径23mmφ×200mm長さの試験片を、600℃に保持したZn−55 wt%Alの溶融亜鉛−アルミニウム合金浴に浸漬し、10分間保持した後、水冷する(第1サイクル処理)。水冷後直ちに、上記合金浴に同一試験片を浸漬して第2サイクル処理に入る。この処理を40サイクル繰り返して、腐食処理を完了する。こうして、熱応力を負荷しつつ溶融亜鉛−アルミニウム合金浴による腐食処理を施した。
耐粒界腐食性の評価方法は、次の通り行なった。処理後試験片を酸洗してその外周表面を清浄にした後、カラーチェック法でクラックを顕出させ、目視観察をして以下の通り行なった。クラックはすべて、結晶粒界に沿った割れ形態を呈していた。予め、多数のカラーチェック試験片のクラック観察結果を基に作成したクラックの限度見本と、その限度見本に付与した点数とを対応させて、粒界腐食状態の採点表を作った。こうして作成された採点表を、表2に示す。試験片のカラーチェックで検出されたクラックを、上記クラックの限度見本と比較して、表2に示した採点をした。
【0017】
結晶粒径の測定試験方法は、上記粒界腐食試験片に隣接する部分から切り出した、同じく直径23mmφ×30mm長さの試験片の横断面を検鏡用に研磨仕上げした後、オーステナイト結晶粒界を顕出させた。そして、粒界腐食の試験面に相当する位置における結晶粒径を測定した。
上記試験結果を、表1に併記する。
【0018】
【表1】
【0019】
【表2】
【0020】
表1に示した試験結果を、従来鋼No.1での結果をベースに比較すると次の通りである。
なお、以下の結果はすべて砂型鋳造品の試験結果である。
【0021】
試験鋼No.2は、従来鋼No.1のMnを0.47wt.%まで低くして、耐粒界腐食性の改善傾向の有無を試験したものである。Mnを従来鋼よりも低くすることにより、耐粒界腐食性の向上が認められる。耐粒界腐食性の改善のためには、Mnを低目にする方がよいことがわかった。
試験鋼No.3は、従来鋼No.1のMoを高くして3.17wt.%添加し、耐食性増加により耐粒界腐食性向上に対する有効性を試験したものである。結晶粒径は小さくなっているが、耐粒界腐食性が劣化して不可である。これは、Moの延性低下作用が大きく顕れたものと考えられる。
【0022】
試験鋼No.4は、従来鋼No.1に更に、強度増加をねらってCuを0.96wt.%添加したものである。しかしながら、耐粒界腐食性が劣化した。これは、Cuが粒界に偏析した弊害が、強度増加効果よりも強く顕れ、粒界に応力腐食割れを発生させたものと考えられる。
試験鋼No.5は、従来鋼No.1のCを0.19wt.%まで高めて、強度増加によるクラック発生抑制の有効性を試験した。結晶粒径は小さくなったが、耐粒界腐食性が劣化した。これは、粒界への炭化物析出量の増加の弊害が、地鉄の強度増加効果よりも強くなったためと考えられ、不可である。
【0023】
試験鋼No.6は、従来鋼No.1のSiを1.83wt.%まで高めて、耐粒界腐食性に及ぼす影響を試験した。粒径は小さくなったが、耐粒界腐食性は劣化した。これは、Siによる延性劣化作用が顕れたものと考えられる。
試験鋼No.7は、従来鋼No.1のSiを1.80wt.%まで高めると共に、Mnを試験鋼No.2と同じように0.47wt.%まで下げることにより、耐粒界腐食性に対するSiとMnの複合効果の有無を試験したが、改善効果は得られなかった。
【0024】
試験鋼No.8は、従来鋼No.1に更に、Nbを0.47wt.%添加して、粒界割れの改善による耐粒界腐食性の向上試験を行なったものである。結晶粒径は小さくなったが、耐粒界腐食性は劣化した。
試験鋼No.9は、従来鋼No.1に更に、MoとCuとを共に添加して、Moの耐食性向上作用とCuの強度向上作用との複合作用による、耐粒界腐食性の改善効果の有無を試験した。しかしながら、耐粒界腐食性は劣化した。
【0025】
試験鋼No.10は、Siを試験鋼No.6よりも更に高めて2.96wt.%にした場合の耐粒界腐食性に対する影響を試験した。耐粒界腐食性の劣化が更に大きくなった。これは、Siの粒界偏析の増加と窒化珪素の生成とによるものと考えられる。Siは耐粒界腐食性にとってはできるだけ低い方がよいことがわかった。
【0026】
試験鋼No.11は、従来鋼No.1に更に、Vを0.95wt.%添加して、結晶粒界の強度向上及び結晶細粒化効果を試験した。耐粒界腐食性が向上し、結晶粒径が小さくなった。
【0027】
〔第1ステップの結論〕
以上の実験結果より、従来鋼1の成分組成を基準とした場合に、耐粒界腐食性についての望ましい成分組成に関し、次の事項が判明した。
【0028】
▲1▼ Mn含有率は、試験鋼No.2からわかるように、粒界における応力腐食割れの発生抑制のためには、0.47wt.%程度まで低くした方がよい。
▲2▼ Si含有率は、試験鋼No.6、7及び10からわかるように、1.8wt.%程度よりも高くすると耐粒界腐食性の劣化が進行し、不可である。耐粒界腐食性を改善するためには、Siはできるだけ低くした方がよい。
【0029】
▲3▼ Mo含有率を3wt.%程度まで高めると、耐粒界腐食性が劣化するので、余り高くすべきでない(試験鋼No.3、9より)。
▲4▼ Cuは耐粒界腐食性向上のためには添加すべきでない(試験鋼No.4、9より)。
【0030】
▲5▼ Cを高めると耐粒界腐食性が劣化するので、強度確保の範囲内において低くすべきである(試験鋼No.5より)。
▲6▼ Vの適量添加により、結晶が細粒化されると共に、耐粒界腐食性が大幅に改善される。(試験鋼No.11より)。
【0031】
〔第2ステップ〕
第1ステップの試験結果に基づき、下記(a)〜(c)項の実験を行ない、耐粒界腐食性の改善、及び結晶粒細粒化試験を行なった。
(a) 従来鋼No.1の成分組成をベースとしつつ、耐粒界腐食性の改善効果の大きいV含有率の水準を変化させて、その含有率の望ましい範囲を試験した。但し、Mnを低めて0.45wt.%を目標として一定値をねらった。
【0032】
(b) 上記(a)よりも一層、耐粒界腐食性を向上させるために、Mn含有率を(a)と同様に低めて0.45wt.%を目標として一定値をねらい、更に、Si含有率も低めて0.4wt.%を目標として一定値に設定した上で、V含有率の水準を(a)と同水準で変化させて、その含有率の望ましい範囲を試験した。
【0033】
(c) 上記(b)で求められたVの適正含有率において、Nを低める代わりに、オーステナイト生成元素であり耐食性向上作用をするNiを高めた場合、及び、V添加無しで、Nを低める代わりに、Niを高めた場合について試験した。
【0034】
実験方法は、表3に示す成分組成の合金鋼について、所定の試験片を調製し、粒界腐食試験及び結晶粒径測定を行なった。なお、合金鋼の成分組成で、従来鋼No.1は、表1のものと同一成分組成である。
【0035】
粒界腐食試験及び結晶粒径測定用の試験材の溶解及び鋳造方法、並びにインゴット及び試験片の寸法や加工方法は、第1ステップと同じである。
また、粒界腐食の試験方法も第1ステップと同じく、試験片を600℃に保持したZn−55 wt%Alの溶融亜鉛−アルミニウム合金浴に浸漬し、10分間保持した後、水冷するというサイクル処理を40サイクル繰り返して、腐食処理を完了した。処理後試験片を酸洗してその外周表面を清浄にした後、カラーチェック法でクラックを顕出させ、目視観察をした。この場合も観察されたクラックはすべて、結晶粒界の局部腐食に沿った割れ形態を呈していた。次いで、第1ステップと同じく、クラックの限度見本と、表2に示された粒界腐食状態の採点表とにより、試験片の粒界腐食状態を採点した。結晶粒径の測定方法も、第1ステップと全く同じようにして行なった。
上記試験結果を、表3に併記する。
【0036】
【表3】
【0037】
表3に示した合金鋼の成分組成と試験結果との関係を、従来鋼No.1の試験結果と比較すると次の通りである。
試験鋼No.12〜14は、従来鋼No.1よりMnを低め、Vを添加し、Vの含有率を低、中及び高の3水準に変化させたものである。Vが中及び高水準(0.87wt.%、1.29wt.%)の場合には、結晶粒径が小さくなるが、耐粒界腐食性は改善されない。耐粒界腐食性の不改善原因は、第1ステップの結論の▲2▼項により、Siが1.5wt.%超えでは高過ぎるためであると考えられる。
【0038】
試験鋼No.15〜26、28〜30は、従来鋼No.1よりもMnとSi含有率を低め、その他の成分組成をほぼ同じ水準にそろえたベース成分に、NとVの添加量を種々に変化させたものである。即ち、Nを0.27〜0.73wt.%、Vを0.05〜1.45の範囲内において、N添加量の増加につれてV添加量も増加させた。このようにNとVの添加量を上記関係で変化させた理由は、Nとの親和力の強いVと結合して窒化物となったN以外の残部のNが、結晶粒界のフェライトに固溶Nとして分配されるので、この固溶N量と耐粒界腐食性との関係を定量的に明らかにするためである。図1に、表3の試験結果をプロットし、耐粒界腐食性に及ぼすV含有率とN含有率との組合せの影響を示す。同図中、◎印は耐粒界腐食性の評点が1のもの、○印は同評価点が2のものでいずれも合格と判断したものであり、□印は同評点が3のもの、●印は同標点が4のもの、そして×印は同評点が5のものでいずれも不合格と判断したものである。
【0039】
上記結果から、V含有率とN含有率との間には、
0.45≦V≦1.50 wt.%、且つ、
0.2≦N−0.275×V≦0.4wt.% -------------- (1)
を満たす領域において、耐粒界腐食性が良好であることがわかる。なお、N含有率が0.75wt.%超えの場合は、Nの添加性及び溶鋼の鋳造性に難点があり、実操業上不可である。V及びNが上記すべての条件を満たす領域を、同図中に領域Aで表示した。
【0040】
試験鋼No.30では、Wを添加しない状態で、他の成分は試験鋼No.23と同等にしたところ、結晶粒は小さくなり、耐粒界腐食性がよかった(評点:2)。
試験鋼No.31では、従来鋼No.1に対してVを中間量(0.89wt.%)添加し、Nを低める代わりに、Niを高めたものである。結晶粒径は小さくなったが、耐粒界腐食性が著しく悪化した(評点:5)。試験鋼No.32は、Vを添加しない状態で、Nを低める代わりに、Niを高めたところ、結晶粒径は若干小さくなったが、耐粒界腐食性が著しく悪化した(評点:5)。
【0041】
なお、試験鋼No.15〜26、28〜30に基づき、結晶粒径に及ぼすV含有率の影響をまとめると、図2の通りである。Vが0.5wt.%以上になると結晶粒径は2.6mm以下の細粒になり、Vが1.5wt.%で結晶粒径は1.6mm程度になりほぼ一定になる傾向がある。
【0042】
〔第2ステップの結論〕
以上の実験結果より、従来鋼1の成分組成を基準とした場合に、耐粒界腐食性についての望ましい成分組成に関し、次の事項が判明した。
【0043】
(1)試験鋼No.15〜26、28〜30からわかるように、応力腐食割れの発生抑制のためには、Si及びMn含有率をいずれも0.4〜0.5wt.%程度まで低めた方がよい。
【0044】
▲2▼ 耐応力腐食割れ性を改善してこれを良好にするためには、Vを0.45〜1.50wt.%程度の範囲内で添加し、しかも、Nを0.75wt.%以下として、下記(1)式:
0.2≦N−0.275×V≦0.4wt.% ---------------- (1)
を満たすように、N含有率とV含有率とを調整する必要がある。
【0045】
▲3▼ 試験鋼No.31及び32からわかるように、耐応力腐食割れ性を良好に維持するためには、上記▲1▼と▲2▼とを満たす成分組成であっても、たとえ、Niを従来鋼よりも著しく高含有率にしても、Nを従来鋼より著しく低めてはならない。
【0046】
本発明者等は、上記第1ステップ及び第2ステップでの判明事項に加えて、更に、この発明の課題であるZn−Alの溶融めっき浴金物の粒界腐食と粒界に沿って発生するクラックの発生の直接原因は、金物材料の亜鉛脆化と熱応力とにあることを考慮し、鋳造組織の結晶粒のコントロール及び金物材料成分組成の検討を行なった。
【0047】
その結果、C、Si及びMnを減らしてこれら元素の粒界偏析を抑制し、またVを添加してCを固定すると共にVの炭窒化物を適切に分布させて結晶粒の微細化及び結晶粒界の強化を図り、更に、Nを従来以上に高めることを付加することにより、熱間強度と延性の向上を図り、しかも、耐粒界腐食の向上を図ることができるとの知見を得た。
【0048】
この発明は、上述した知見に基づきなされたものであって、その構成は下記の通りである。
この発明の耐溶融亜鉛合金浴用の耐食性合金鋼は、C:0.08wt.%以下、Si:0.3〜1.5wt.%、Mn:0.3〜1.5wt.%、Ni:10〜20wt.%、Cr:20〜35wt.%、Mo:0.5〜2wt.%、W:2wt.%以上(0を含む)、N:0.35〜0.75wt.%、及び、V:0.45〜1.50wt.%を含有し、且つ、前記N及びVの含有率(wt.%)が下記(1)式:
0.2≦N−0.275×V≦0.4 wt.%-------------------- (1)
を満たし、残部Fe及び不可避不純物からなる成分組成をもつことに特徴を有するものである。
【0049】
【発明の実施の形態】
この発明において、合金鋼の成分組成及びVの炭窒化物の析出形態の長さを上述したように限定した理由について、以下に述べる。
【0050】
(1)C
Cは、合金の強度を高めるのに必要な元素である。しかしながら、その含有率が0.08wt.%を超えると、粒界に炭化物が析出してその耐食性を劣化させる。
【0051】
従って、C含有率は0.08wt.%以下にする。
(2)Si
Siは、当該合金鋼の溶製工程において脱酸剤として作用する。そのためには、0.3wt.%以上添加することが望ましい。また、Zn−Alの溶融めっき浴金物表面の保護皮膜形成に寄与して、耐食性を高める。しかしながら、その含有率が1.5wt.%を超えると、粒界偏析が著しくなり、粒界腐食性が大きくなり、また合金鋼の延性を劣化させる。
【0052】
従って、Si含有率は、0.3〜1.5wt.%の範囲内に限定する。なお、望ましくは、0.3〜1.0wt.%の範囲内にし、更に望ましくは、0.3〜0.5wt.%の範囲内にする。
【0053】
(3)Mn
Mnは、当該合金鋼の溶製工程において脱酸剤及び脱硫材として有効に作用する。そのためには、0.3wt.%以上添加することが望ましい。また、オーステナイトの形成に寄与する。しかしながら、その含有率が1.5wt.%を超えると、Si同様、粒界偏析が著しくなり、粒界腐食性が大きくなる。
従って、Mn含有率は、0.3〜1.5wt.%の範囲内に限定し、望ましくは、0.3〜1.0wt.%の範囲内にする。
【0054】
(4)Ni
Niは、オーステナイトを安定化させ、耐食性を向上させるのに有効な元素である。しかしながら、その含有率が10wt.%未満ではその効果が発揮されず、一方、20wt.%を超えて添加しても、コスト高を招くだけで、それ以上の耐食性改善の効果は得られない。
従って、Ni含有率は10〜20wt.%の範囲内に限定する。
【0055】
(5)Cr
Crは、Zn−Alの溶融めっき浴金物表面の保護皮膜形成に寄与して、耐食性を高める。しかしながら、その含有率が20wt.%未満ではその効果が少ない。Cr含有率は高い方が耐食性は優れるが、35wt.%を超えると靱性が低下する。従って、Cr含有率は20〜35wt.%の範囲内に限定する。
【0056】
この発明の合金鋼では、耐粒界腐食性を向上させるために、オーステナイト粒界のδフェライトの生成を完全に抑止する必要がある。そのために、N含有率の限定理由の項で後述するように、N含有率を0.35wt.%以上という高濃度に制御する。このような高濃度Nを高Cr溶鋼で確保するためには、溶製工程において窒化フェロクロムを用いてNを添加することが望ましい。
【0057】
(6)Mo
Moは、耐食性を向上させ、また結晶粒を微細化するのに有効な元素である。しかしながら、その含有率が0.5wt.%未満ではそれらの効果が発揮されない。一方、その含有率が2wt.%を超えると、耐粒界腐食性が劣化する。
従って、Mo含有率は、0.5〜2wt.%の範囲内に限定する。
【0058】
(7)W
Wは、固溶強化作用により合金鋼の強度を高めるのに効果的である。しかしながら、W含有率が2wt.%を超えても、固溶強化による熱間強度の向上効果を飽和する。また、コストも嵩む。従って、W含有率は、2wt.%以下(0を含む)に限定する。但し、例えば、インゴット吊具のような、用途により熱間強度を要求されるような部品や部材については、Wを1〜2wt.%添加するのが望ましい。
【0059】
(8)N
Nは、この発明において、Vと並んで耐粒界腐食性向上のためにもっとも重要な元素である。Nは、強力なオーステナイト形成元素であり、δフェライトの生成を抑止する。通常は、砂型鋳造品において、δフェライトはオーステナイト結晶粒界に生成する。そして、δフェライトは腐食環境下において優先的に腐食される。ところが、N含有率を十分に確保することにより、δフェライトの生成を完全に抑止することができる。こうしてこの合金鋼ではNは、溶融亜鉛−アルミニウム合金浴中における耐粒界腐食性を向上させる。
【0060】
Nの上記効果を十分に発揮させるためには、窒化物生成元素であるVの含有率に依存し、NとVとの含有率を前記図1の領域Aの内部に入るように調整すべきである。同図からわかるように、N含有率は、0.35wt.%以上必要であり、且つ、下記(1)式:
0.2≦N−0.275×V≦0.4wt.%---------------------- (1)
を満たすときに、耐粒界腐食性は良好である。
【0061】
一方、N含有率が0.75wt.%を超えると、窒化物の析出物が著しく多くなり、形態が大型化して、延性及び溶接性が劣化し、製品の健全性を阻害する。更に、溶鋼に高濃度のNを添加すると、ボイリングが発生してにより添加歩留りの悪化とN含有率の不安定性が問題となり、鋳造品においては気泡性欠陥が問題となる。
【0062】
従って、N含有率は、0.35〜0.75wt.%の範囲内であって、且つ、V含有率との間に上記(1)式を満足すべきである。
(9)V
Vは、合金鋼の凝固過程で生成するオーステナイト結晶粒を微細化する作用を有する。また、溶融亜鉛−アルミニウム合金浴において、耐粒界腐食性を改善する効果を発揮する。更に、Vは、マトリックス中のCを炭化物として固定して遊離Cの粒界への拡散を阻止してこれを無害化する。上記結晶粒の細粒化、耐粒界腐食性改善、及びCの固定化作用による複合効果により、溶融亜鉛−アルミニウム合金浴における粒界応力腐食割れの発生を抑制する。一方、Vは合金鋼の強度、特に熱間強度の向上に寄与する。
【0063】
上記総合効果を十分に発揮させるためには、前記図1を参照すると、Vを0.45wt.%以上添加することが必要である。一方、Vは強いフェライト生成元素であるから、過剰に添加すると、粒界にδフェライトを析出させる方向に作用し、耐粒界腐食性が低下する。従って、V含有率は、0.45〜1.50wt.%の範囲内にしなければならない。
【0064】
【実施例】
次に、この発明を、実施例によって更に詳細に説明する。
表4に、本発明の範囲内の合金鋼である実施例1〜5、7、8及び本発明の範囲外の合金鋼である比較例1〜2の成分組成を示す。但し、この実施例及び比較例で使用した試験鋼No.の合金鋼はすべて、前記改良試験で溶解した試験鋼No.と同じ試験鋼No.のヒートの溶鋼から鋳造された別のインゴット(長さ700mm)である。この別のインゴットから腐食減肉量の測定試験片及び熱間引張試験片を調製し、各試験を行なった。
【0065】
表5に、本発明の範囲外の合金鋼である比較例3〜15の成分組成を示す。同表の合金鋼を溶解・鋳造し、得られたインゴットから腐食減肉量の測定試験片及び熱間引張試験片を調製し、更に加えて、各試験鋼No.のヒートの溶鋼から鋳造された別のインゴットから、粒界腐食試験及び結晶粒径測定試験用の試験片を調製した。そして、各試験を行なった。なお、表5の各試験鋼No.においても、インゴットの溶解(高周波溶解炉)・鋳造方法(砂型)、及びインゴット寸法(30mmφ×300mm、及び300mmφ×700mm)は、前記改良試験及び表4におけるものと同じである。
【0066】
腐食減肉量の試験は、25mmφ×600mm長さの試験片をインゴットの切削加工により調製し、600℃のZn−55wt.%Alの溶融亜鉛−アルミニウム合金浴に、336hr(2週間)連続して浸漬した。そして、腐食減肉を測定した。熱間引張試験は、600℃で引張試験を行ない、引張強さ及び伸びを測定した。また、粒界腐食試験(600℃のZn−55wt.%Al浴に10min浸漬後、急冷のサイクルを40回繰り返す)、及び結晶粒径測定試験の試験片及び試験方法は、前記改良試験におけるものと同じである。
【0067】
【表4】
【0068】
【表5】
【0069】
試験結果を、表4及び表5に併記した。但し、表4の耐粒界腐食性及び結晶粒径は、前記改良試験結果の値を採用して記した。実施例はすべて腐食減肉量は2.0mm以下と少ない。また、図3には、実施例1〜5、7、8及び比較例4及び5の600℃での引張強さ及び伸びの値をV含有率で整理して示した。V含有率が0.45〜1.50の範囲内にある実施例1〜5、7、8においてはいずれも、600℃における機械的性質は、引張強さが350N/mm2 以上で、伸びが25%以上である。実施例8の引張強さは若干低いが従来鋼以上である。
【0070】
上記結果をまとめると、実施例1〜5、7、8はいずれも、耐粒界腐食性が良好であり、また結晶粒径が小さい。更に、腐食減肉量が少なく、そして600℃における引張強さは良好である。なお、伸びも実用上満足すべき値である。これに対して、比較例1〜15はいずれも、耐粒界腐食性、熱間強度又は延性、耐食性、及び結晶粒細粒化の内、少なくとも一つにおいて劣っている。
【0071】
以上の通り、本発明の範囲内の合金鋼は、600℃程度の高温のZn−55%Alの溶融亜鉛合金浴に対して、耐食性において従来の良好な水準を確保し、しかも、高温強度及び延性が良好であり、更に、熱応力負荷条件下における粒界応力腐食割れによるマクロ的なクラックの発生を抑制し得る。これに対して本発明の範囲外の合金鋼は、上記材料特性のすべてを備えることはできないことがわかる。
【0072】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、Zn−Al溶融めっき浴に曝されて使用されるめっき浴金物において、従来の400℃程度のZn−0.2wt.%Al溶融亜鉛合金浴においては特に問題とはならなかったが、温度及びAl濃度が従来よりもかなり高く厳しい条件である600℃の高温Zn−55%Al溶融亜鉛合金浴においては、重大な問題となった局部腐食と熱応力による粒界腐食応力割れによるマクロ的なクラックの発生を抑制することができる。
【0073】
従って、めっき浴金物の寿命延長を図ることができることに加えて、吊具の割損やそれによるインゴットの落下事故等を防止することができる。こうして、操業の安定性と共に作業の安全性を高めることができる。このような耐溶融亜鉛合金浴用の耐食性合金鋼を提供することができ、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】耐粒界腐食性に及ぼすV含有率とN含有率との組合せの影響を示すグラフである。
【図2】結晶粒径に及ぼすV含有率の影響を示すグラフである。
【図3】実施例及び比較例の600℃での引張強さ及び伸びの値をV含有率で整理したグラフである。
Claims (1)
- C :0.08wt.%以下、
Si:0.3〜1.5wt.%、
Mn:0.3〜1.5wt.%以下、
Ni:10〜20wt.%、
Cr:20〜35wt.%、
Mo:0.5〜2wt.%、
W :2wt.%以下(0を含む)、
N :0.35〜0.75wt.%、及び、
V :0.45〜1.50wt.%を含有し、且つ、前記N及びVの含有率が下記(1)式:
0.2≦N−0.275×V≦0.4wt.%---------------------- (1)
を満たし、残部Fe及び不可避不純物からなる成分組成を有することを特徴とする、耐溶融亜鉛合金浴用の耐食性合金鋼。
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-
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- 1998-03-31 JP JP08594198A patent/JP3830654B2/ja not_active Expired - Lifetime
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