JP3830322B2 - 仮撚加工に適したポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維 - Google Patents
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Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、仮撚加工に適したポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維及びそのチーズ状パッケージに関する。
更に詳しくは、本発明は、工業的に製造可能で、優れた平滑性等を有し、安定した仮撚加工ができるポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維およびそのチーズ状パッケージに関する。
【0002】
【従来の技術】
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルコールエステルと、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)とを重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート(以下「PTT」と略す)を用いた繊維は、低弾性率(ソフトな風合い)、優れた弾性回復性、易染性といったポリアミドに類似した性質と、耐光性、熱セット性、寸法安定性、低吸水率といったポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略す)繊維に類似した性能を併せ持つ画期的なポリマーであり、その特徴を生かしてBCFカーペット、ブラシ、テニスガット等に応用されている(米国特許第3584108号明細書、米国特許第3681188号明細書、「J.Polymer Science」Polymer Physics 編、14巻、263−274頁、1976年発行、「Chemical Fibers International」45巻、1995年4月発行、110−111頁、特開平9−3724号公報、特開平8−173244号公報、特開平5−262862号公報)。
【0003】
PTT繊維の上記の特性を最大限に生かせる繊維形態の一つとして仮撚加工糸がある。PTT繊維の仮撚加工糸は、特開平9−78373号公報、特開平11−093026号公報に記載されているように、PTTと類似の構造を有する繊維、例えばPET繊維等のポリエステル繊維に比較して、弾性回復性、ソフト性に富むので、ストレッチ用原糸として極めて優れたものとなるからである。
しかしながら、上記公報で用いている仮撚加工に用いる供給原糸は、紡糸、延伸といった2段階の工程により製造する延伸繊維であるため、生産性を上げることが困難であり、繊維製造コストが高くなってしまう。また、供給原糸が延伸糸であるため、生産性の高い高速での延伸仮撚加工を行うことはできない。
PET繊維と同様に、1段階の工程で製造したPTTの部分配向繊維(以下「POY」と略す)を用いて仮撚加工を行うことも考えられる。
【0004】
仮撚加工に用いるPTT−POYに関する先行技術は、「Chemical Fibers International」47巻、1997年2月発行、72〜74頁に記載がある。ここではポリマーを押出して冷却固化した後、仕上げ剤を付与し、ゴデットロールを用いず、あるいは冷たいゴデットロールを介した後、3〜6000m/分で巻き取った繊維が記載されている。また、特開平11−229276号公報には特定の仕上げ剤を付与し、3300m/分で巻き取った複屈折率が0.059、伸度71%のPTT−POYが、大韓民国公開特許第98049300号公報には、固有粘度0.75〜1.1のポリマーを用いて2500〜5500m/分の紡糸速度で紡糸したPTT−POYが、WO99−39041号公開パンフレットには特定の仕上げ剤を付与し、3500m/分で巻き取った複屈折率が0.062、伸度74%のPTT−POYが記載されている。
【0005】
しかしながら発明者らの検討によると、これらに記載されているPTT−POYは、糸管上で糸が大きく収縮して糸管を締め付けるために、通常工業生産している糸量を巻取ると糸管が変形し、チーズ状パッケージを巻取機のスピンドルより取り外すことが困難となる。
このような状況では、たとえ強度の大きい糸管を使って糸管の変形を抑えたとしても、バルジと呼ばれるパッケージ側面が膨れる現象が見られたり、チーズの内層で糸が堅く締まったりする。このため糸を解舒する時の張力が高くなると共に、張力変動も大きくなり、仮撚加工時に毛羽、糸切れが多発したり、倦縮むらや染色むらが発生したりする。仕上げ剤により糸の摩擦係数を下げると、巻糸が滑りやすくなり、バルジは更に大きくなってしまう。
【0006】
上記のように繊維が収縮する理由としては次の2つが考えられる。
1)PETと異なり、PTTはジグザグ状の分子構造を有しているのでガラス転移点(以下「Tg」と略す)が30〜50℃と低いので室温でも分子が運動して収縮してしまうからである。
2)弾性回復率が高いために巻き取った際の応力が緩和されずに残るためである。
また本発明者らの検討によると、室温付近で保管した場合には、PET−POYの物性がほとんど変化しないのと異なり、上記文献や公報に開示されているPTT−POYでは沸水収縮率や熱応力のピーク値などの物性が経時変化してしまう。このため工業的に仮撚加工を行うこと、即ち長期間にわたって同じ品質の仮撚加工糸を毛羽、糸切れの発生なく安定して生産することができない。
【0007】
繊維の構造を固定する技術としては特公昭63−42007号公報には、PETとPTT及び/又はポリブチレンテレフタレートをブレンドしたポリマーを溶融吐出し、冷却固化した後、加熱ローラにより熱処理し、次いで3500m/分以上の速度で巻き取り、切断伸度(破断伸度)60%以下、沸水収縮率7%以下の繊維を製造する方法が開示されている。
この公報中には比較例として、PTTホモポリマー、およびPETが10重量%ブレンドされたPTT共重合ポリマーを上記と同様の方法にて180℃に加熱し、4000m/分で巻き取った破断伸度33%、沸水収縮率4%程度の繊維も開示されている。このように、該公報ではローラで加熱する方式の高速紡糸と、それによって得られるPTT繊維が記載されている。
【0008】
しかしながら、該公報記載の発明の目的は、得られる繊維をそのまま衣料用の繊維として使用し、この際にシボ立て性を改善するために結晶化を進めて収縮を抑制する技術である。
本発明者らの検討によると、180℃以上といった高温で熱処理するとバルジの発生や巻崩れが激しくなってしまう。
一方、PETに代表されるポリエステル繊維を紡糸、仮撚加工する際には、繊維表面に仕上げ剤を付与することが必須である。
【0009】
本発明者らの検討によるとPTTはジグザグ状の分子構造を有しているために弾性率が低く、張力が掛かった状態で繊維と繊維同士やガイド類が接触すると接触面積が大きくなる。このため、PETに比べると摩擦係数が大きくなり、PET用仕上げ剤をPTT繊維に適用しても摩擦係数が十分低くならず、紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れが発生してしまう。
PTT繊維の仮撚用仕上げ剤に関しては、わずかに特開平11−229276号公報にポリエーテル及びイオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を含んだ仕上げ剤が付与された特定の摩擦係数を有するPTT−POYが、またWO99−39041号公開パンフレットには(1)脂肪族エステル及び/又は鉱物油、(2)ポリエーテル、(3)非イオン性界面活性剤、(4)非イオン性界面活性剤を含んだ仕上げ剤が付与された、特定の摩擦係数を有するPTT−POYが報告されているのみである。
【0010】
しかしながら上記公報に開示されている仕上げ剤は、摩擦係数を低下させることができ、紡糸巻取工程や、仮撚等の後加工での毛羽や糸切れの発生が抑制されているものの、摩擦係数を下げて紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れの発生を抑えるために多量の高分子量ポリエーテルを含有させているために、繊維が滑りやすくなりすぎ、バルジや巻崩れを抑制できなくなったり、イオン性界面活性剤が多すぎるために仮撚加工時にヒーター上で仕上げ剤がタール化し毛羽や糸切れが発生したりする。このため通常工業生産している糸量を巻取ったり、工業的な連続した仮撚加工ができなくなったりする。
このように紡糸巻取時や、仮撚加工などの後加工時の毛羽が糸切れが抑制され、巻締まりやバルジが発生せず、長期間安定して仮撚加工のできるPTT繊維について記載している先行技術は全くない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らの検討の結果、1段工程にて製造する仮撚加工に適したPTT繊維及びその製造法において従来技術では以下の問題があることが分かった。
(1)巻糸が収縮して、糸管を締め付け、チーズ状パッケージを巻取り機のスピンドルより取り外すことができなくなったり、バルジが発生したりする。このため、工業的に製造されているPET並みの糸量のチーズ状パッケージを巻き取ることができない。
(2)摩擦、摩耗の改善された公知のPTT仮撚用の仕上げ剤を付与しても、繊維−繊維間の摩擦係数が低くなり過ぎるために、チーズ状パッケージに巻き取った際、巻糸が滑り、バルジが大きくなったり、仮撚時のヒーター上で仕上げ剤がタール化し、毛羽や糸切れが発生したりする。
【0012】
本発明の目的は、工業的に製造可能で、優れた平滑性等を有し、安定した仮撚加工ができるPTT繊維、チーズ状パッケージおよびその製造方法を提供することである。
本発明の目的を達成するために解決すべき課題は、上記(1)問題に対応して工業的な製造を可能とするために巻締まりおよびバルジの発生を抑制し、上記(2)問題に対応して工業的な繊維の製造と後加工を両立させるために、糸とガイド類との摩擦、摩耗を抑制しつつ、巻糸の滑りや仕上げ剤のタール化を抑制した、摩擦係数のバランスに優れたPTT繊維とすることである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定の条件にて繊維を熱処理して結晶化させ、特定の組成の仕上げ剤を付与し、極低張力にて巻き取る特殊な紡糸法を用いて製造した、特定の範囲内の配向性、結晶性および摩擦係数の繊維では、PTT−POYを1段階にて製造する際に大きな問題となる巻締まりやバルジの発生を回避でき、かつ仮撚加工などの後加工性を格段に向上できることを見出した。
また、本発明の繊維は、結晶化により繊維の構造が固定されているために、物性が経時変化しにくく、摩擦、摩耗が抑制でき、仮撚加工の際のタール化が抑制された仕上げ剤が付着しているので、長期間にわたって毛羽、糸切れの発生なく安定して仮撚加工ができることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち本発明は:
1.ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維
(I)、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着している繊維であって、さらに次式
G=F/Fμs−0.00383×d
で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25であり、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維を提供する。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
【0015】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0016】
(II)、(I)において非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とする(I)記載のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維を提供する。
【0018】
2.チーズ状パッケージ
(I)、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着していることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維が巻き付けられ、バジル率が15%以下である、チーズ状パッケージを提供する。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
【0019】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0020】
(II)、(I)において非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とするチーズ状パッケージを提供する。
【0022】
(IV)、(I)〜(III)のいずれかにおいて、巻き付けられている繊維の放縮率が0〜0.30%であることを特徴とするチーズ状パッケージを提供する。
【0023】
3.ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法
(I)、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートを溶融紡糸する方法において、紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えた後、該マルチフィラメントに対して0.2〜3重量%となるように下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤を付与し、その後50〜170℃で熱処理を行った後、0.02〜0.20cN/dtexの巻取張力にて2000〜4000m/分の速度で巻き取ることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
【0024】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0025】
(II)、(I)において非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する、
(1)ポリマー原料等
(i).本発明に用いるポリマーは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返し単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)である。ここでPTTとは、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコール(1,3−プロパンジオールともいう)をジオール成分としたポリエステルである。該PTTには、10モル%未満で他の共重合成分を含有してもよい。
そのような共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボン酸ナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボン酸ナフタレン−4−スルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等のエステル形成性モノマーが挙げられる。
【0027】
(ii).また、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤などを共重合、または混合してもよい。
【0028】
(iii).本発明に用いるポリマーの極限粘度[η]は0.5〜1.4が好ましく、更に好ましくは0.7〜1.2である。この範囲で強度、紡糸性に優れた繊維を得ることができる。極限粘度が0.5未満の場合は、ポリマーの分子量が低すぎるため紡糸時や加工時の糸切れや毛羽が発生しやすくなるとともに、仮撚加工糸に要求される強度の発現が困難となる。逆に極限粘度が1.4を越える場合は、溶融粘度が高すぎるために紡糸時にメルトフラクチャーや紡糸不良が生じるので好ましくない。
【0029】
(iv).本発明に用いるポリマーの製法として、公知の方法をそのまま用いることができる。
即ち、テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルとトリメチレングリコールを原料とし、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、酢酸マンガン、二酸化チタンと二酸化ケイ素の混合物といった金属塩の1種あるいは2種以上をポリマーに対して0.03〜0.1重量%となるように加え、常圧下あるいは加圧下でエステル交換率90〜98%でビスヒドロキシプロピルテレフタレートを得、次に、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンといった触媒の1種あるいは2種以上をポリマーに対して0.02〜0.15重量%、好ましくは0.03〜0.1重量%となるように添加し、250〜270℃で減圧下で重縮合反応させる。
【0030】
(v).重合の任意の段階で、好ましくは重縮合反応の前に安定剤を添加することが白度の向上、溶融安定性の向上、PTTオリゴマーやアクロレイン、アリルアルコールといった分子量が300以下の有機物の生成を制御できる観点で好ましい。
この場合の安定剤としては、5価及び/又は3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物が好ましい。添加量としては、ポリマー重量に対し0.001〜2重量%が好ましい。
5価及び/又は3価のリン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、リン酸、亜リン酸等が挙げられ、特に、トリメチルホスファイトが好ましい。
ヒンダードフェノール系化合物とは、フェノール系水酸基の隣接位置に立体障害を有する置換基を持つフェノール系誘導体であり、分子内に1個以上のエステル結合を有する化合物である。
【0031】
具体的には、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが例示しうる。中でもペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0032】
(2)ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維
(I).90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着している繊維であって、さらに次式
G=F/Fμs−0.00383×d
で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25であり、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
【0033】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
【0034】
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0035】
本発明の課題の1つである繊維の巻締まりを解消するためには、糸管上で糸が大きく収縮しないように、繊維が結晶化して分子が固定され、かつ分子が過度に配向して緊張した状態になっていないことが重要である。
また本発明の他の課題である、工業的な繊維の製造と後加工を両立させるために、糸とガイド類との摩擦、摩耗を抑制しつつ、巻糸の滑りを抑制した、摩擦係数のバランスに優れたPTT繊維とするためには、繊維の構造を適切にするとともに、適切な組成の仕上げ剤を適切な量付与することが重要である。従ってこれらの課題を全て達成するためには、ある特定の範囲内の結晶性、配向性をもつ特殊な構造の繊維に特定組成の仕上げ剤を特定量付与する必要がある。
【0036】
結晶性の指標としては、一般的に知られているように、繊維の密度測定が適している。非晶部に比べ結晶部の密度が大きいので、密度が大きいほど結晶化していると言える。また広角X線回折による結晶由来ピークの観察も結晶性の指標として用いることができる。
配向性の指標としては、繊維の複屈折率が適している。
また、巻締まりや繊維の経時変化に大きく関与する、分子の配向状態、緊張状態、固定状態を表すことのできる値としては、熱応力のピーク値、沸水収縮率及び破断伸度が適している。
従って、繊維の密度、複屈折率、熱応力のピーク値、沸水収縮率および破断伸度が前記の範囲を満足し、かつ特定の組成の仕上げ剤が、特定量付与されていることで、はじめて巻締まりやバルジの発生がなく工業的に製造可能で、毛羽や糸切れ無く安定した仮撚加工ができるPTT繊維となる。
【0037】
(i)密度(A)
密度は1.320〜1.340g/cm3 である必要がある。
密度が1.340g/cm3 を越えると巻崩れが発生してしまう。理由は明確ではないが、繊維の結晶性が上がることによって繊維自体や繊維の表面が硬くなるために、糸と糸を接触させたときの面積が小さくなり、糸−糸間の静摩擦係数が下がるからではないかと考えられる。また、仮撚加工の際に毛羽や糸切れが発生しやすくなり、工業的に安定して仮撚加工を行うことができなくなってしまう。
一方、密度が1.320g/cm3 未満では結晶化が十分進んでいないために繊維が固定されておらず、繊維が収縮して巻締まりが発生してしまったり、繊維の物性が経時変化してしまい長期間にわたって同一条件にて同じ品位の仮撚加工糸を得ることができなかったりする。
密度は好ましくは1.322〜1.336g/cm3 、更に好ましくは1.326〜1.334g/cm3 である。
【0038】
(ii)複屈折率(B)と熱応力のピーク値(C)との関係
繊維の複屈折率は0.030〜0.070、熱応力のピーク値は0.01〜0.12cN/dtexである必要がある。
繊維の複屈折率が0.070を越えるか、あるいは熱応力のピーク値が0.12cN/dtexを越えると繊維の収縮する力が強く、巻き取った後に大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。
繊維の複屈折率が0.030未満か、あるいは熱応力のピーク値が0.01未満では、配向性が低くかつ結晶化していないために室温で保存していても沸水収縮率などの物性が経時変化してしまう。また、経時変化を抑制するために熱処理して結晶化させると繊維が脆くなってしまう。従って、どちらの場合も延伸仮撚加工を工業的に行うことはできない。
繊維の複屈折率は好ましくは0.035〜0.065であり、更に好ましくは0.040〜0.060である。また、熱応力のピーク値は好ましくは0.015〜0.10cN/dtexであり、更に好ましくは0.02〜0.08cN/dtexである。
【0039】
(iii)沸水収縮率(D)
繊維の沸水収縮率は3〜40%である必要がある。
沸水収縮率が40%を越える場合は、結晶化が進んでいないため構造が固定されず、巻締まりが発生したり、室温で保存していても沸水収縮率や熱応力のピーク値などの物性が変化してしまい、長期間にわたって毛羽、糸切れの発生なく安定して仮撚加工糸を生産することができなくなる。また3%未満では、繊維がもろくなり毛羽、糸切れが多発するために仮撚加工が困難となる。沸水収縮率は好ましくは4〜20%であり、更に好ましくは、5〜15%である。
【0040】
(iv)破断伸度(E)
破断伸度は50〜120%であることが必要である。破断伸度が40%未満では伸度が低すぎるために、紡糸時や仮撚加工時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる。破断伸度が120%を越える場合は、繊維の配向度が低すぎかつ結晶化が進んでいないために、非常に経時変化しやすいか、あるいは配向度が低すぎかつ結晶化が進んでいるために、非常に脆くなってしまうために工業的に仮撚加工を行うことができない。
【0041】
(v)仕上げ剤
本発明において、仕上げ剤とは繊維表面に付着させる有機系の化合物を指す。もちろん仕上げ剤の一部は繊維内部に浸透していてもよい。
本発明の繊維の表面には下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が繊維重量に対して0.2〜3重量%付着している必要がある。
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
【0042】
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0043】
以下、各仕上げ剤成分の説明を行うが、ここで重量%は、繊維重量に対する比率である。
(a)要件(P)
仕上げ剤の第1の必須構成成分である要件(P)の化合物は、炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤である。
これらの非イオン性界面活性剤は、仕上げ剤各成分を適切に乳化させるための乳化剤、繊維の集束性、仕上げ剤の付着性を高めるとともに、PTT繊維の平滑性を損なうことなく繊維−繊維間の静摩擦係数を適度に高め、巻糸の滑りを抑えてバルジを抑制するために必要な成分である。
非イオン性界面活性剤は水素原子の一部または全部が水酸基、ハロゲン原子等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。
【0044】
アルコールの炭素数としては4〜30であり、乳化性、集束性の観点から6〜30が好ましく、更に好ましくは8〜18である。
エチレンオキシド、プロピレンオキシドの付加モル数としては1〜30であり、平滑性の高さから3〜15が好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルが好ましい。このような非イオン性界面活性剤を用いることにより、繊維の平滑性とバルジの抑制の両方をより好ましくすることができる。
飽和アルキルエーテルは、繊維の製造条件、後加工条件、用途に応じて、より平滑性が必要な場合は直鎖アルキルエーテルを、よりバルジが発生しやすい場合は側鎖アルキルエーテルを用いることが好ましい。もちろんこれらを混合して用いてもよく、この場合目的に応じて混合比を適宜調整することが好ましい。
【0045】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソテトラデシルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル等が挙げられる。平滑性と巻糸の滑り性の観点からは、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソテトラデシルエーテル等が好ましい。
本発明の仕上げ剤中の非イオン性界面活性剤の含有率は、5〜50重量%であることが必要である。5重量%未満では繊維−繊維間の静摩擦係数を十分高めることができず、バルジの大きな巻糸しか得ることができなくなる。50重量%を越えると、平滑性が悪化し、紡糸や仮撚の際に毛羽や糸切れが発生してしまう。好ましくは6〜30重量%である。
【0046】
(b)要件(Q)
仕上げ剤の第2の必須構成成分である(Q)の化合物はイオン性界面活性剤である。このイオン性界面活性剤は繊維に制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性を付与するとともに、繊維−繊維間の静摩擦係数を適度に高め、巻糸の滑りを抑えてバルジを抑制するために必要な成分である。
イオン性界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、特にアニオン性界面活性剤を用いることが耐熱性を維持しつつ、制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性を付与できる観点から好ましい。もちろん、これら2種以上の界面活性剤を組み合わせてもよい。
【0047】
イオン性界面活性剤の具体例としては、下記の化学式で示される化合物(k)〜(n)が挙げられ、これらは制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性に優れている。
(k)R5 −SO3 −X
(l)(R6 −O−)P(=O)(OX)2
(m)(R7 −O−)(R8 −O−)P(=O)(OX)
(n)R9 −COO−X
式中、R5 〜R9 は水素原子、炭素数4〜30までの有機基である。ここで有機基としては、炭化水素であっても、炭化水素基の一部または、全部がエステル基、水酸基、アミド基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホン酸基等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。好ましくは炭素数8〜18の炭化水素基である。Xはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。
【0048】
特に、(k)〜(n)の構造を有し、且つR5 〜R9 が−C(−R10)(−R11)や、−C(−R12)(−R13)(−R14)のような分岐を有した構造の化合物をイオン性界面活性剤として仕上げ剤中に含有する事が、繊維−繊維間の滑りを抑制し、チーズ状パッケージに巻かれた時に、優れたパッケージフォームを与えるために好ましい。これらの化合物の具体的な構造としては下記の例が挙げられる。
X−OOCCH(−R15)CH2 COO−X
R16−OOCCH(−SO3 −X)CHCOO−R17
R18−OOCCH(−R19)CH2 COO−X
【0049】
ここで、R10〜R19は水素原子、炭素数3〜30までの有機基である。ここで有機基としては、炭化水素であっても、炭化水素基の一部または、全部がエステル基、水酸基、アミド基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホン酸基等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。好ましくは炭素数8〜18の炭化水素基である。Xはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。
これらのイオン性界面活性剤の仕上げ剤中の含有率は1〜8重量%であることが、繊維の平滑性を損なわず、仮撚時のヒーター汚れを抑制して、上記の制電性や巻糸の滑り抑制効果を付与するために必要である。1重量%未満では、制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性が不足するとともに、繊維−繊維間の静摩擦係数が低くなりすぎて、巻糸の滑りを抑えることができなくなり、バルジの大きい巻糸しか得られなくなってしまう。また8重量%を越えると、摩擦が高くなりすぎたり、ヒーター汚れが増えたりして、紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる。好ましくは1.5〜5重量%である。
【0050】
(c)要件(R)
仕上げ剤の第3の必要構成成分である要件(R)の化合物は脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上である。
これらの化合物は、PTT繊維の平滑性を向上させ、その繊維−金属間動摩擦係数を低減させるとともに、繊維−繊維間の静摩擦、摩耗性を改善させるために必要な成分である。このうち、脂肪族ポリエステルは特に平滑性を向上させる効果が高く、またポリエーテル−1は油膜の強度を高める働きがあり、このため繊維−繊維間の静摩擦、摩耗性を向上させるために有効である。これらの成分は製造する繊維の用途に合わせて、適宜これらの割合を選択することができる。ここでいう脂肪族エステルとは分子量300〜700の脂肪族エステルである。
脂肪族エステルとしては各種合成品および天然油脂が挙げられる。特に平滑性の向上には直線構造を有する合成品の脂肪族エステルの使用が好ましい。
【0051】
合成品の脂肪族エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、ヘキサエステル等が挙げられる。平滑性の観点からモノエステル、ジエステル、トリエステルの使用が好ましい。脂肪族エステルの分子量が300未満の場合には、油膜の強度が低くなりすぎてガイドやロールで容易に繊維表面から脱離して、繊維の平滑性を低下させてしまったり、蒸気圧が低すぎて工程中に飛散し作業環境を劣化させるといった問題がある。脂肪族エステルの分子量が700を越えると、仕上げ剤の粘性が高くなりすぎるために、平滑性とサイジング性が低下するので好ましくない。350〜500の分子量の脂肪族ポリエステルが特に優れた平滑性を示すので最も好ましい。
【0052】
好ましい合成品の具体例としては、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸オクチル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソオクチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ラウリン酸オレイル、ステアリン酸イソトリデシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸ラウリル、アジピン酸ジオレイル、トリラウリン酸グリセリンエステル等が挙げられる。もちろん2種類以上の脂肪族エステルを組み合わせてもよい。これらの脂肪族エステルのうち、平滑性が優れているという観点から、ステアリン酸オクチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸ラウリル等の1価のカルボン酸と1価のアルコールからなる、脂肪族エステルが特に好ましい。
また、耐熱性を高めたい場合には、脂肪族エステルが分子量400〜600のものを用いることは好ましい。この場合、水素原子の一部が酸素原子や硫黄原子等のヘテロ原子を有する基、例えばエーテル基、エステル基、チオエステル基、スルフィド基等で置換されていても良い。
【0053】
また、ここで言うポリエーテル−1とは、下記の構造式で示されるポリエーテルである。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。有機基としては、炭化水素基であっても、炭化水素の一部または、全部が水酸基、ハロゲン原子等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。好ましくは、R1 、R2 は水素原子、炭素数として5〜18の脂肪族アルコールであることが良い。
ポリエーテル−1において、プロピレンオキシド単位とエチレンオキシド単位はランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30である必要がある。この結果、摩擦抑制効果が高くできる。好ましくはプロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比40/60〜60/40である。
【0054】
ポリエーテル−1の分子量は1300〜3000である必要がある。この場合n1、n2は分子量に合った値を採用する。特にこの分子量は重要であり、分子量が1300未満では摩耗抑制効果が小さく、分子量が3000を越えると繊維の静摩擦係数が下がりすぎ、巻フォームが悪くなってしまう傾向にある。
要件(R)では、ポリエーテル−1と脂肪族エステルの和が40〜70重量%である必要がある。40重量%未満では繊維の平滑性が低下したり、摩擦、摩耗性が悪化して、紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れが発生したりする。70重量%を越えると繊維が非常に滑りやすくなってしまうために、巻糸が滑り、フォームの悪いものしか得られなくなってしまう。
【0055】
(c)要件(S)
仕上げ剤の第3の必要構成成分である要件(S)の化合物はポリエーテル−2である。
ポリエーテル−2は油膜の強度を高める働きがある。このため繊維−繊維間の静摩擦、摩耗性を向上させるために有効であり、用いることが好ましい。
ここで言うポリエーテル−2とは、下記の構造式で示されるポリエーテルである。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。
【0056】
ポリエーテル−2において、プロピレンオキシド単位とエチレンオキシド単位はランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
またプロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20であり、分子量は5000〜50000である。この場合、n1、n2は分子量に合った値を採用する。分子量が50000を越えると固体となったり、摩擦係数が高くなったりしてしまう。
要件(S)では、ポリエーテル−2が0〜10重量%である必要がある。10重量%を越えると繊維が非常に滑りやすくなってしまうために、巻糸が滑り、フォームの悪いものしか得られなくなってしまう。
【0057】
以上述べてきた(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤においては、これらの要件の構成成分の含有量が仕上げ剤全量の50〜100重量%の範囲であることが好ましい。従って、本発明に用いる仕上げ剤には、本発明の目的を阻害しない範囲、すなわち50重量%未満で、本発明の必須構成成分以外の仕上げ剤成分を存在させてもよい。そのような仕上げ剤成分としては、特に制限はないが、平滑性、仕上げ剤の繊維上への広がり性を向上させるために、鉱物油、要件(R)に記載している以外の脂肪族エステルやポリエーテル、シリコン化合物、例えば、ジメチルシリコン、ジメチルシリコンのメチル基の一部をアルキル基を介してエチレンオキシド又は/及びプロピレンオキシドを3〜100モル程度付加させた化合物、炭素数5〜18の有機基を有するアミンオキシド等を含有してもよく、また本発明で規定した以外のエステル化合物例えば、エーテル基を有するエステル等を含有してもよい。また公知の防腐剤、防錆剤、酸化防止剤等を含有してもよい。必須構成成分の割合は好ましくは60〜100%である。
【0058】
以上のような構成成分からなる仕上げ剤はそのまま希釈することなく、あるいは水に分散させてエマルジョン仕上げ剤として繊維に付着させることができる。仕上げ剤の付着ムラを抑制したり、巻糸のフォームを良好にするためには、1〜20重量%の水エマルジョンとして繊維に仕上げ剤を付与することが好ましく、2〜10重量%がより好ましく、3〜7重量%であることが特に好ましい。仕上げ剤の割合が1重量%未満では、加熱された第1ロールで揮発する水の量が多すぎるので、揮発熱のために繊維を均一に所定の温度にすることが困難となる。この結果、熱処理むらが起こり、染め斑等が発生してしまう。仕上げ剤の割合が20重量%を越えると、仕上げ剤の粘度が高く、しかも一定量の仕上げ剤を繊維に付与しようとしたときに仕上げ剤の量が少なくなるため、繊維に均一に仕上げ剤を付与しにくくなる。
【0059】
仕上げ剤の繊維への付着量としては、0.2〜3重量%であることが必要である。0.2重量%未満では、仕上げ剤の効果が小さく、静電気により糸がばらけたり、摩擦により糸切れや毛羽が発生したりする。また3重量%を越えると、繊維の走行時の抵抗が大きくなりすぎたり、仕上げ剤がロール、熱板、ガイド等に付着してこれらを汚したりする。仮撚加工に用いるには、0.25〜1.0重量%が好ましく、特に好ましくは0.3〜0.7重量%である。もちろん仕上げ剤の一部が繊維内部に浸透していてもよい。
【0060】
(II)ポリエステル繊維の摩擦係数本発明では、下記式で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30 であることが必要である。
G=F/Fμs−0.00383×dF/Fμsは繊維同士のこすれによる毛羽の発生しやすさや、巻糸での糸の滑り易さを示すパラメーターである。この値は繊維同士の接触面積に比例するため繊度に依存して変化する。従ってGの値が特定の範囲であることが必要である。
【0061】
Gが0.06未満では繊維−繊維間の静摩擦係数が低すぎるために、糸管上に巻き取った繊維が滑り、バルジの発生や巻崩れが発生してしまうことがある。(バルジとは、図2−(ロ)に示すように巻締まりによってパッケージ糸の収縮による締め付け力が強く働いた時に起こるチーズ状パッケージ(100)の膨らみのある端面(102a)のことである。)
またGが0.25を越える場合は、繊維−繊維間の静摩擦係数が高すぎるため、糸を解舒する際や仮撚加工を行う際に毛羽や糸切れ多発してしまう。Gの好ましい範囲は0.1〜0.20であり、更に好ましくは0.12〜0.18である。
【0062】
一方F/Mμdは、繊維とロール、ホットプレートなどの金属部との滑りやすさだけでなく、繊維とガイド類や仮撚機のディスク、ベルトとの滑り易さを示すパラメーターである。0.15以下では仮撚機のディスクやベルトとの摩擦が低すぎ、十分な撚りをかけることができなくなってしまう。0.30を越えるとホットプレートやガイド類との滑りが悪くなり、毛羽、糸切れが発生しやすくなってしまう。好ましくは0.17〜0.27である。
また、繊維−繊維間の動摩擦係数は0.3〜0.65であることが好ましい。繊維−繊維間の動摩擦係数は繊維同士のこすれによる毛羽の発生しやすさを示すパラメーターである。0.3よりも小さいと滑りすぎて、かえって紡糸、延伸性が低下する。0.65を越えると摩擦が高くなりすぎて、毛羽や糸切れが発生しやすくなる。
摩擦係数を変化させる要因としては、繊維の結晶性、配向性、仕上げ剤の種類、付着量および水分の含有量があげられる。これらを本発明の範囲内で調整することで、上記の好ましい摩擦係数とすることができる。
【0063】
(III)ポリエステル繊維の物性等
(i)強度
本発明のポリエステル繊維の強度は、1.3cN/dtex以上であることが好ましい。
1.3cN/dtex未満では強度が低いために、糸を解舒する際や仮撚加工を行う際に毛羽や糸切れが多発してしまう。好ましくは、1.5cN/dtex以上、更に好ましくは1.7cN/dtex以上である。
(ii)広角X線回折による結晶由来の回折ピークの観察
本発明においては、繊維が結晶化していること、すなわち広角X線回折にて結晶由来の回折ピークが観察されることが好ましい。
【0064】
以下、広角X線回折について図面を用いて詳述する。
X線を繊維に対して垂直方向より照射した際の繊維軸に対して直行方向の回折パターンの代表的な例として、図1−(イ)に結晶に由来する回折ピークが観察される場合のパターンを、図1−(ロ)に結晶に由来する回折ピークが観察されない場合のパターンを示す。
ここでX線はCuKα線を用いている。
PTTが三斜晶形に属した結晶形をとることが知られており、(Polym.Prepr.Jpn.,Vol.26,p427(1997))このため繊維が結晶化している場合は、繊維軸に対して直行方向の2θ=15.5°付近に(010)面に由来する回折ピークが観察される。
【0065】
本発明においては、図1−(イ)に示したように、繊維軸に対して直行方向の広角X線回折強度が下記の式を満足するかどうかで、回折像が観察されたかどうかの判定を行った。
I1 /I2 ≧1.0
ただし、I1 :2θ=15.5〜16.5°の最大回折強度
I2 :2θ=18〜19°の平均回折強度
一方、図1−(ロ)では非晶に由来するブロードな回折が観察されるだけで、図1−(イ)のような結晶に由来するピークは観察されない。この場合上記式を満足しない。
【0066】
広角X線回折にて結晶に由来する回折ピークが観察されることで、繊維が明らかに結晶化し、構造が固定されていることが分かる。
結晶に由来する回折像が観察されない場合は繊維は結晶化していない。従って分子が固定されていないために、繊維が収縮して巻締まりが発生したり、繊維の物性が経時変化してしまい長期間にわたって安定して仮撚加工ができなかったりする。I1 /I2 の値は好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上である。
【0067】
(iii)繊維の形態
本発明のポリエステル繊維は、マルチフィラメントが好ましい。
総繊度は限定はされないが、通常5〜400dtex、好ましくは10〜300dtex、単糸繊度は限定はされないが0.1〜20dtex、好ましくは0.5〜10dtex、更に好ましくは1〜5dtexである。
繊維の断面形状は、丸、三角、その他の多角形、扁平、L型、W型、十字型、井型、ドッグボーン型等、制限はなく、中実繊維であっても中空繊維であってもよい。
【0068】
(3)チーズ状パッケージ
本発明の繊維はチーズ状パッケージに巻かれていることが好ましい。
近年の仮撚加工工程の近代化・合理化に追随するには、パッケージのラージ化、即ち大量巻きの可能なチーズ状パッケージで巻かれていることが好ましい。またチーズ状パッケージとすることで、仮撚加工時に糸を解舒する際、解舒張力の変動が小さくなり、安定した加工が可能となる。
【0069】
(i)バルジ率
本発明の繊維が巻かれたチーズ状パッケージはバルジ率が15%以下であることが好ましい。図2−(イ)は糸が望ましい形状に巻かれたチーズ状パッケージ(100)を示す。糸が糸管等の巻芯(103)上に平らな端面(102)を形成した円筒状糸層(104)に巻かれている。
バルジは、図2−(ロ)に示すように巻糸の収縮による締め付け力が強く働き、巻糸が滑った時に起こるチーズ状パッケージ(100)の膨らみのある端面(102a)である。
バルジ率とは、図2−(イ)または図2−(ロ)に示す最内層の巻幅Q及び、最も膨らんでいる部分の巻幅Rを測定して、下記式を用いて算出した値である。
バルジ率={(R−Q)/Q}×100%
チーズ状パッケージのバルジ率が15%を越えるものは運搬時に巻糸が崩れ解舒できなくなったり、解舒張力の斑による糸切れ、毛羽、染色斑等が起こりやすい。最悪の場合は端面が糸管よりも出っ張るために運搬することができなくなる。また巻締まりが大きく、巻取機のスピンドルからはずれなくなる場合も多い。
好ましくはバルジ率は13%以下であり、更に好ましくは10%以下である。もちろん0%が最も好ましい。
【0070】
(ii)糸管
工業的に製造する上では紡糸の際に糸管を交換する頻度を減らすことが作業効率の向上、コストダウンの観点より極めて重要である。
また、仮撚工程においては、チーズ状パッケージを使用した後、次のチーズ状パッケージにつなぎ込んで使用するが、このつなぎ込みの頻度を減らすことも作業効率の向上、コストダウンの観点から極めて重要である。
従って、該チーズ状パッケージには2kg以上の本発明の繊維が巻かれていることが好ましく、更に好ましくは3kg以上、一層好ましくは5kg以上である。2kg未満では糸管交換の頻度やつなぎ込みの頻度が高過ぎ、工業的に製造するのは困難となってしまう。
本発明に用いる糸管は、フェノール樹脂などの樹脂、金属、紙のいずれでできていても良い。紙の場合は5mm以上の厚みであることが好ましい。
糸管のサイズとしては、直径が50〜250mmであることが好ましく、より好ましくは80〜150mmである。
また、糸管上の繊維の巻幅は40〜300mmであることが好ましく、より好ましくは60〜200mmである。この範囲内の糸管、巻幅とすることで、巻姿が良好で、かつ解舒性の良好なチーズ状パッケージを得ることが容易になる。
【0071】
(ii)放縮率
チーズ状パッケージに巻き付けられている繊維の放縮率は0〜3.0%であることが好ましい。ここで放縮率とは下記式で表される値である。
放縮率={(L0 −L1 )/L0 }×100(%)
ここで、L0 :チーズ状パッケージ上での繊維の長さ(cm)
L1 :チーズ状パッケージより解舒して、7日間放置後の繊維の長さ(cm)
この放縮率の値は、糸管上で繊維がどれだけ縮もうとしているかを示す値なので巻締まりの指標となる。
放縮率が3.0%を越えると繊維が大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。また放縮率が負の値を示す時は、繊維がゆるんでしまうために、巻崩れが発生してしまう。放縮率の値は好ましくは0.1〜2.5%、より好ましくは0.2〜2.0%である。
【0072】
(4)ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法
次に本発明のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維およびチーズ状パッケージを得る方法を例示する。本発明のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維は、基本的には、紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えた後、該マルチフィラメントに対して0.2〜3重量%となるように前述した特定組成の仕上げ剤を付与し、その後50〜170℃で熱処理を行った後、0.02〜0.20cN/dtexの巻取張力にて2000〜4000m/分の速度で巻き取ることにより得られる。
【0073】
以下に本発明のPTT繊維の好ましい製造方法を図3及び図4を用いて詳述する。
1)まず、乾燥機1で100ppm以下の水分率まで乾燥されたPTTペレットを250〜290℃に設定された押出機2に供給し溶融する。溶融PTTは250〜290℃に設定されたスピンヘッド4に送液され、ギヤポンプで計量される。その後パック5に装着された複数の孔を有する紡糸口金6を経て溶融マルチフィラメントとして紡糸チャンバー14内に押出される。
押出機に供給するPTTペレットの水分率は、ポリマーの重合度低下を抑制するという観点から50ppm以下が好ましく、更に好ましくは30ppm以下である。
押出機およびスピンヘッドの温度は、PTTペレットの極限粘度や形状によって上記範囲内より最適なものを選ぶ必要があるが、好ましくは255〜280℃の範囲である。紡糸温度が250℃未満では、糸切れや毛羽が多発したり、糸径むらが発生したりしてしまう。また、紡糸温度が290℃を越えると熱分解が激しくなり、得られた糸は着色し、また満足し得る強度を示さなくなる。
【0074】
2)紡糸チャンバー14内に押し出された溶融マルチフィラメントは冷却風9によって室温まで冷却されて固体マルチフィラメント8に変えられる。
この際、紡口直下に設けた30〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜80cmの保温領域7を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えて続く熱処理工程に供することが好ましい。
この保温領域7を通過させることで固化むらを抑制し、高い巻取速度あるいは第1ロール速度まで固化むら(太さむらや配向度むら)無く、溶融マルチフィラメントを固体マルチフィラメントに変えることができる。
保温領域の温度が30℃未満では急冷となり固体マルチフィラメントの固化むらが大きくなる。また、200℃を越えると糸切れが起こりやすくなる。このような保温領域の温度は40〜180℃が好ましく、更に好ましくは50〜150℃である。また、この保温領域の長さは5〜30cmが更に好ましい。
【0075】
3)次に固体マルチフィラメントは熱処理を受けるが、熱処理を受ける前に、仕上げ剤付与装置10によって仕上げ剤を付与されることが必要である。
仕上げ剤付与装置10は、チャンバー14内、繊維を熱処理するゾーン15内で第1ロール11の前、およびこれらのゾーンの間のいずれの場所でもよい。
【0076】
4)仕上げ剤を付与する方法としては公知のオイリングロールを用いる方法や例えば特開昭59−116404号公報などに記載されるガイドノズルを用いる方法を用いることができるが、仕上げ剤付与装置自体の摩擦による糸切れ、毛羽の発生を抑制するためにはガイドノズルを用いる方法が好ましい。仕上げ剤を繊維に付与する位置は、溶融マルチフィラメントが冷却風9によって室温まで冷却されて固体マルチフィラメント8に変えられた直後で最も紡口口金に近い位置が好ましい。繊維は仕上げ剤を付与すると同時に集束されるので、この位置が紡口口金に近いほど空気抵抗を下げることができ、糸切れ、毛羽の発生を抑えることができるからである。
【0077】
5)また巻取後の繊維には0.5〜5重量%の水分が含まれていることが好ましい。
この水分は仕上げ剤に含まれる水より繊維に含ませるかあるいは、巻取以前に、仕上げ剤を付与するのと同様なガイドノズルを用いる方法などを用いて、仕上げ剤とは別に付与してもかまわない。
繊維に含まれる水の量は0.7〜4重量%が更に好ましく、1〜3重量%が特に好ましい。水分量がこの範囲にあることにより、巻取パッケージ端面の綾落ちの発生や、バルジの発生のない良好なフォームのパッケージを得ることが容易となる。
【0078】
6)次に固体マルチフィラメント8は繊維を熱処理するゾーン15にて、第1ロール11などで熱処理を受ける。ここで12は自己駆動しないフリーロールである。
本発明のポリエステル繊維はロール等を用いずに、ヒーターなどで熱処理を行った後に直接巻取機にて巻き取っても良いが、好ましくは回転しているロールに一度巻き付けた後に、巻取機で巻き取ることが好ましい。
ロールと巻取機の速度を調節することで巻き取り張力を制御することが容易になるからである。
【0079】
繊維の熱処理方法としては図3の第1ロール11のみを用いる方法の他に、図4−(イ)の第1ロール11又は/及び第2ロール16により加熱する方法、図4−(ロ)の第1ネルソンロール17から第2ネルソンロール18のうちいずれか一つあるいは複数のロールで加熱する方法、図4−(ハ)の第1ヒーター19又は/及び第2ヒーター20により加熱する方法、図4−(ニ)の第1ヒーター19により加熱する方法などが挙げられる。
図4−(ハ)、(ニ)の場合は、ヒーターでの熱処理に加えてロールで熱処理を行っても良い。
加熱に用いるヒーターとしては、接触式のヒーター、非接触式のヒーターいずれを用いてもかまわない。また、加熱気体を用いる方法でも良い。これらのうち、加熱ロールを用いる方法が、上記のロールと巻取機の速度調整と熱処理を同時に行うことができることより最も好ましい。
【0080】
本発明において、ロールで加熱するとは、自己駆動しているロールで加熱し、フリーロールでは加熱していないことを示しているが、もちろんフリーロールで加熱を行ってもかまわない。
熱処理の温度は50〜170℃であることが必要である。50℃未満では繊維を十分な結晶化度まで高めることができないために、巻締まりが起きたり、物性が経時変化するために工業的に仮撚加工ができなかったりする。
また、170℃を越えると紡糸時に糸切れや毛羽が発生したり、結晶化が進みすぎて繊維−繊維間の静摩擦係数が小さくなってバルジ率が大きくなったり、仮撚加工が困難になったりする。熱処理の温度は、好ましくは60〜150℃、更に好ましくは80〜130℃である。
【0081】
また、熱処理時間は0.001〜0.1秒であることが好ましい。ここで言う熱処理時間とは、複数のロールやヒーターで熱処理する場合は、これらの合計時間である。加熱時間が0.001秒未満では熱処理時間が短く十分な結晶化を進めることができないため、巻締まりやバルジが発生しやすく、また経時変化もしやすい。一方、加熱時間が0.1秒を越えると、結晶化が進みすぎ、繊維−繊維間の静摩擦係数が小さくなりすぎてしまい、得られるチーズ状パッケージはバルジの大きいものとなってしまう。
本発明においては、熱処理温度が高くなっても、熱処理時間が長くなっても、また巻取速度が大きくなっても結晶化度は高くなる。このため熱処理温度、巻取速度に応じた熱処理時間を選ぶことがより好ましい。
【0082】
7)巻取;チーズ状パッケージの形成
熱処理を受けたマルチフィラメントは、巻取機13を用いて巻き取られる。
巻取速度は2000〜4000m/分であることが必要である。巻取速度が2000m/分未満では、繊維の配向が低いために、物性が経時変化したり、熱処理を強化しても繊維が脆くなったりし、繊維の取扱や仮撚加工が困難となる。また、4000m/分を越えると、繊維の配向や結晶化が進みすぎ、また巻取時の張力が下げられないために、本発明の範囲の放縮率の繊維を得ることができず、糸管上で繊維が大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。好ましくは、2200〜3800m/分であり、更に好ましくは2500〜3600m/分である。
【0083】
本発明においては、巻き取る時の張力が0.02〜0.20cN/dtexであることが必要である。
従来行われてきたPETやナイロンの溶融紡糸でこのように低い張力で巻き取ろうとすると、糸の走行が安定せず、糸が巻取機のトラバースから外れたりして糸切れが発生したり、巻糸を次の糸管に自動で切り替える時に切替ミスが発生したりする。しかしながら、驚くべきことにPTT繊維では本発明のように極低い張力で巻き取ってもこのような問題が発生せず、しかも低い張力とすることで初めて巻締まりなく良好な巻姿のチーズ状パッケージを得ることができる。このように低い張力でも安定して巻取りができるのはPTT繊維の特徴である低弾性率と高弾性回復率に起因していると考えられる。
【0084】
張力が0.02cN/dtex未満では張力が弱すぎるために巻取機の綾振りガイドでの綾振りが良好にできず、巻フォームが悪くなってしまったり、トラバースより糸が外れ、糸切れが起こったりしてしまう。また、0.20cN/dtexを越えると、たとえ繊維を熱処理して巻き取ったとしても繊維の放縮率や熱応力のピーク値が高くなり、巻締まりが発生してしまう。
巻き取るときの張力は好ましくは0.025〜0.15cN/dtex、更に好ましくは0.03〜0.10cN/dtexである。
巻取機の前にロールを設置する際のロールの周速度は巻取張力が上記の範囲内になるように、調整することが好ましい。このロール速度は通常巻取速度に対して0.80〜1.1倍の速度であることが好ましい。このロールの前にロールを設置し、熱処理や変向、張力の制御、延伸を行ってもかまわない。
本発明では、紡糸過程で必要に応じて、交絡処理を行ってもよい。交絡処理は、仕上げ剤付与前、熱処理前、巻取前のいずれか、あるいは複数の場所で行っても良い。
【0085】
本発明に用いる巻取機としては、スピンドル駆動方式、タッチロール駆動方式、スピンドルとタッチロールの双方が駆動している方式のいずれの巻取機でもかまわないが、スピンドルとタッチロールの双方が駆動している方式の巻取機が糸を多量に巻き取るためには好ましい。
タッチロールあるいはスピンドルどちらか一方のみが駆動する場合、他方は駆動軸からの摩擦により回転しているため、スピンドルに取り付けられている糸管とタッチロールでは滑りにより表面速度が異なってしまう。
このためタッチロールからスピンドルに糸が巻き付けられる際、糸が伸ばされたり、ゆるんだりしてしまい張力が変わって巻姿が悪化してしまったり、糸がこすられてダメージを受けたりしやすい。
【0086】
スピンドルとタッチロールの双方が駆動することによりタッチロールと糸管の表面速度の差を制御することが可能となって滑りを減らすことができ、糸の品質や、巻姿を良好にすることができる。
繊維を巻き取る際の綾角は3.5〜8°であることが好ましい。
3.5°未満では糸同士があまり交差していないために滑りやすく、綾落ちやバルジの発生が起こりやすい。また8°を越えると、糸管の端部に巻かれる糸の量が多くなるために中央部に比べ端部の径が大きくなる。
このため巻き取っている際は端部のみがタッチロールに接触してしまい糸品質が悪化してしまったり、また巻き取った糸を解舒する際の張力変動が大きくなり、毛羽や糸切れが多発したりしてしまう。
綾角は4〜7°が更に好ましく、特に好ましいのは5〜6.5°である。
【0087】
本発明のPTT繊維は、仮撚加工を行うことにより非常にソフトで良好な弾性回復性、およびその持続性を有した仮撚加工糸とすることができる。仮撚加工の方法としては、一般に用いられているピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等いかなる方法でも良いが、本発明のPTT繊維の特徴を生かすためには、生産性の高い高速での仮撚加工ができるフリクションタイプやニップベルトタイプが好ましい。加工条件は特に限定されるものではなく、以下に例示する公知の条件範囲より適宜選択して行うことができる。
【0088】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下に実施例などを用いて具体的に説明する。言うまでもなく本発明は実施例などにより何ら限定されるものでない。
尚、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
極限粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o−クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ミリリットル)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式に従って求めた。
(2)密度
JIS−L−1013に基づいて四塩化炭素およびn−ヘプタンにより作成した密度勾配管を用いて密度勾配管法にて測定を行った。
(3)複屈折率
繊維便覧−原料編、p.969(第5刷、1978年丸善株式会社)に準じ、光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
【0089】
(4)熱応力のピーク値
鐘紡エンジニアリング社製のKE−2を用いた。初過重0.044cN/dtex、昇温速度100℃/分で測定した。得られたデーターは横軸に温度、縦軸に熱応力をプロットし温度−熱応力曲線を描く。熱応力の最大点の値を熱応力のピーク値とした。
(5)沸水収縮率沸
JIS−L−1013に基づき、かせ収縮率として求めた。
(6)強度(繊維破断強度)、破断伸度(繊維破断伸度)
JIS−L−1013に基づいて定速伸長形引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0090】
(7)広角X線回折(カウンター法)
理学電機株式会社(現株式会社リガク)製広角X線回折装置ロータフレックスRU−200を用いて下記の条件にて観察を行った。
回折強度は、サンプルを測定して得た回折強度と空気散乱強度より以下の式に従って求めた真の回折強度を用いた。
真の回折強度 = サンプルの回折強度 − 空気散乱強度
【0091】
(8)繊維の放縮率
繊維を10分間糸管に巻き取った繊維を用いて、下記の式に従って求めた。
放縮率={(L0 −L1 )/L0 }×100(%)
L0 :チーズ状パッケージ上での繊維の長さ(cm)
L1 :チーズ状パッケージより解舒して、7日間放置後の繊維の長さ(cm)
L0 はチーズ状パッケージ上の巻糸の径と綾角より計算で求めた。また、L1 は巻き取り後30分以内に繊維をチーズ状パッケージより解舒し、無荷重で7日間放置した後、1/34cN/dtexの荷重をかけた時の長さを測定して求めた。
(9)仕上げ剤付着量
JIS−L−1013に基づき、繊維をジエチルエーテルで洗浄し、ジエチルエーテルを留去して繊維表面に付着した純仕上げ剤量を繊維重量で割って求めた比率を仕上げ剤付着量とした。
【0092】
(10)繊維−繊維間静摩擦係数
約690mの繊維を円筒の周りに、綾角15°で約10gの張力を掛けて巻き付け、更に上述と同じ繊維30.5cmをこの円筒に掛けた。この時、この繊維は円筒の上にあり、円筒の巻き付け方向と平行にする。グラム数で表した荷重の値が円筒上に掛けた繊維の総デニールの0.04倍になる重りを円筒に掛けた繊維の片方の端に結び、他方の端にはストレインゲージを連結させた。次に円筒を0.017mm/秒の周速で回転させ、張力をストレインゲージで測定する。こうして測定した張力から繊維−繊維間静摩擦係数fを以下の式に従って求めた。
f=1/π×ln(T2 /T1 )
ここで、T1 は繊維に掛けた重りの重さ、T2 は少なくとも25回測定した時の張力、lnは自然対数、πは円周率を示す。
(11)繊維−繊維間動摩擦係数
上記(10)の測定法において、周速度を18m/分とした時のfを繊維−繊維間動摩擦係数とした。
【0093】
(12)繊維−金属間動摩擦係数
エイコー測器(株)製のμメーターを用いて下記の条件にて測定した。
摩擦体である、表面をクローム梨地(粗度3s)に仕上げた直径25mmの鉄製円筒に繊維を0.30cN/dtexの張力を掛けながら、繊維の摩擦体への入り方向と出方向を90°にして25℃、65%RHの雰囲気下、100m/分の速度で摩擦させた時の繊維の動摩擦係数μを以下の式に従って求めた。
μ=((360×2.303)/2πθ)×log10(T2 /T1 )
ここで、T1 :摩擦体への入り側の張力(デニール当たり0.4g相当の張力とする)
T2 :摩擦体より出側の張力
θ:90°
π:円周率
(13)バルジ率
図2−(イ)または図2−(ロ)に示す糸層(104)の最内層の巻幅Q及び、最も膨らんでいる部分の巻幅Rを測定して、以下の式に従って算出した。
バルジ率={(R−Q)/Q}×100%
【0094】
【実施例1〜5】
テレフタル酸ジメチルと1,3−プロパンジオールを1:2のモル比で仕込み、テレフタル酸ジメチルの0.1重量%に相当するチタンテトラブトキシドを加え、常圧下ヒーター温度240℃でエステル交換反応を完結させた。次にチタンテトラブトキシドを更に理論ポリマー量の0.1重量%、二酸化チタンを理論ポリマー量の0.5重量%添加し、270℃で3時間反応させた。得られたポリマーの極限粘度は0.9であった。
得られたポリマーを図3に示した装置を用いて、定法により乾燥し、水分を50ppmにした後、265℃で溶融させ、直径0.35mmの36個の孔の開いた一重配列の紡口を通して押し出した。
【0095】
押出された溶融マルチフィラメントは、長さ5cm、温度100℃の保温領域を通過後、風速0.4m/分の風を当てて急冷し固体マルチフィラメントに変えた。
固体マルチフィラメントにガイドノズルを用いて表1の仕上げ剤を濃度5重量%の水エマルジョン仕上げ剤として付与した後、固体マルチフィラメントを90℃に加熱した周速度3200m/分の第1ロールに6回巻き付けて熱処理を行った後、スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度3190m/分、巻取張力0.030cN/dtex、綾角5°にて直径124mm、厚み7mmの紙製の糸管に巻幅90mmにて6kg巻き取って100dtex/36fの繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
【0096】
得られた繊維物性を表2に記す。得られた繊維はいずれも本発明の範囲に相当するものであり、紡糸過程で糸切れ、毛羽の発生は認められなかった。また巻き取ったチーズ状パッケージは巻取機のスピンドルより容易に抜け、バルジ率も良好な範囲であった。
実施例1で得た繊維を用いて、帝人製機(株)SDS1200仮撚加工機にてセラミック製の加撚ディスクを4枚用いて、加工速度400m/分、ヒーター温度170℃、ディスク速度/糸速度の比(D/Y比)2.3、ドロー比(延伸倍率)1.3で延伸仮撚加工を行った。
仮撚加工の際に毛羽や糸切れは見られず、またPET並みの倦縮形態を有し、しかもPTT特有のソフトさ、弾性回復性を持った優れた仮撚加工糸を得ることができた。また3ヶ月後でも物性の経時変化はほとんど見られず、仮撚加工を行ったところ同じ条件で同品質の仮撚加工糸を得ることができた。
【0097】
【比較例1〜3】
表1に示したように仕上げ剤を変えて、実施例1と同様にして100dtex/36fの繊維を得た。得られた繊維物性を表1に記す。
比較例1は本発明の脂肪族エステルや非イオン性界面活性剤を用いずに、ポリエーテル−2を本発明の範囲より多く含んだ、PETの仮撚加工糸に用いられる仕上げ剤を使用した。また、比較例2では非イオン性界面活性剤として飽和アルキルエーテルの代わりにアルキルエーテルエステルを用い、ポリエーテル−2を本発明の範囲より多く含んだ仕上げ剤を使用した。いずれの場合も繊維−金属間の動摩擦係数が高く、繊維−繊維間の静摩擦係数が低い繊維となり、紡糸時に毛羽の発生や糸切れが見られた。またバルジ率も大きいものとなった。
比較例3は、平滑剤として脂肪族エステルを主として用い、非イオン性界面活性剤として飽和アルキルエーテルの代わりに多価アルコールエステルを用いた仕上げ剤を用いた。比較例3の仕上げ剤は脂肪族エステルとポリエーテル−1の合計量が本発明の範囲を越えるものである。この場合、繊維−金属間の動摩擦係数は低く、紡糸時に毛羽の発生や糸切れはみられなかったものの、繊維−繊維間の静摩擦係数が低い繊維となりバルジ率が大きいものとなった。
【0098】
【比較例4】
仕上げ剤の付着率を0.1重量%とした以外は実施例1と同様にして紡糸を行った。得られた繊維物性を表2に記す。仕上げ剤の付着量が少ないために、紡糸時に毛羽や糸切れが多発した。
【比較例5】
仕上げ剤の付着率を4重量%とした以外は実施例1と同様にして紡糸を行った。得られた繊維物性を表2に記す。仕上げ剤の付着量が多いために、ガイドやロールが汚れ紡糸時に毛羽や糸切れが発生した。またバルジ率の大きいチーズ状パッケージしか得られなかった。
【0099】
【実施例6、7】
表2の条件に従って、実施例1同様にして紡糸を行った。得られた繊維物性を表2に記す。得られた繊維はいずれも本発明の範囲に相当するものであり、紡糸過程で糸切れ、毛羽の発生は認められなかった。また巻き取ったチーズ状パッケージは巻取機のスピンドルより容易に抜け、バルジ率も良好な範囲であった。
【比較例6〜8】
表2の条件に従って、実施例1同様にして紡糸を行った。
【0100】
比較例6では熱処理を行わないため、密度が本発明の範囲より低く外れ、結晶性のピークも観察されない繊維となった。また比較例7では高速で巻き取ったために結晶性が高くなり密度が本発明の範囲より外れた。また巻取り張力が高くなったために繊維の放縮率も高くなった。比較例6、7の繊維ともに巻締まりが激しく、2kg巻き取ると巻取機のスピンドルよりチーズ状パッケージを抜き出すことができなかった。
また、比較例8では繊維を低速で巻取った。この繊維は密度が本発明の範囲より低く外れ、結晶性のピークも観察されない繊維であった。また複屈折率も本発明の範囲より外れていた。この繊維は配向性が低くかつ結晶化していないために室温で保存していても沸水収縮率などの物性が経時変化してしまうとともに、糸が脆くなってしまい、仮撚加工時に毛羽や糸切れが発生した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【発明の効果】
本発明のポリエステル繊維は、適度な配向性、結晶性および摩擦係数を兼ね備えた1段階にて製造できるPTT−POYである。このため巻締まりやバルジの発生を回避でき、巻姿の良好なチーズ状パッケージを工業的に製造することができる。また適度な摩擦係数を有し、かつ繊維が経時変化しにくいので、高速の仮撚加工においても長期間にわたって仮撚加工糸を安定して工業的に製造することができる。本発明のポリエステル繊維は1段階の紡糸工程のみで繊維を得ることができるために生産性が高く、低コストにて繊維を製造することができ、巻き量が多いために巻取時や加工時の切り替え工数が少なく製造作業を効率良く進めることができる。
本発明のPTT繊維を用いて製造した仮撚加工糸は、ソフトな風合いと高い伸縮伸長率、伸縮弾性率を持った極めて優れたストレッチ素材として好適な仮撚加工糸となる。このためいわゆるゾッキや交編タイプのパンティストッキング、タイツ、ソックス(裏糸、口ゴム)、ジャージー、弾性糸のカバリング糸、交編パンティストッキング等交編品の伴糸等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(イ)結晶性に由来するピークの観察される広角X線回折チャートである。
(ロ)結晶性に由来するピークの観察されない広角X線回折チャートである。
【図2】本発明のポリエステル繊維を糸管に巻き付けたチーズ状パッケージの状態を示す略図である。
(イ)望ましいチーズ状パッケージの概略図である。
(ロ)バルジのあるチーズ状パッケージの概略図である。
【図3】本発明を実施する紡糸機の概略を示す模式図である。
【図4】本発明を実施する紡糸機の加熱ゾーンの概略図を示す模式図である。
【符号の説明】
1 乾燥機
2 押出機
3 ベンド
4 スピンヘッド
5 紡口パック
6 紡糸口金
7 保温領域
8 マルチフィラメント
9 冷却風
10 仕上げ剤付与装置
11 第1ロール
1 フリーロール
13 巻取機、パッケージ
13a スピンドル、パッケージ
13b タッチロール
14 紡糸チャンバー
15 繊維を加熱するゾーン
16 第2ロール
17 第1ネルソンロール
18 第2ネルソンロール
19 第1ヒーター
20 第2ヒーター
【発明の属する技術分野】
本発明は、仮撚加工に適したポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維及びそのチーズ状パッケージに関する。
更に詳しくは、本発明は、工業的に製造可能で、優れた平滑性等を有し、安定した仮撚加工ができるポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維およびそのチーズ状パッケージに関する。
【0002】
【従来の技術】
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルコールエステルと、トリメチレングリコール(1,3−プロパンジオール)とを重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート(以下「PTT」と略す)を用いた繊維は、低弾性率(ソフトな風合い)、優れた弾性回復性、易染性といったポリアミドに類似した性質と、耐光性、熱セット性、寸法安定性、低吸水率といったポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略す)繊維に類似した性能を併せ持つ画期的なポリマーであり、その特徴を生かしてBCFカーペット、ブラシ、テニスガット等に応用されている(米国特許第3584108号明細書、米国特許第3681188号明細書、「J.Polymer Science」Polymer Physics 編、14巻、263−274頁、1976年発行、「Chemical Fibers International」45巻、1995年4月発行、110−111頁、特開平9−3724号公報、特開平8−173244号公報、特開平5−262862号公報)。
【0003】
PTT繊維の上記の特性を最大限に生かせる繊維形態の一つとして仮撚加工糸がある。PTT繊維の仮撚加工糸は、特開平9−78373号公報、特開平11−093026号公報に記載されているように、PTTと類似の構造を有する繊維、例えばPET繊維等のポリエステル繊維に比較して、弾性回復性、ソフト性に富むので、ストレッチ用原糸として極めて優れたものとなるからである。
しかしながら、上記公報で用いている仮撚加工に用いる供給原糸は、紡糸、延伸といった2段階の工程により製造する延伸繊維であるため、生産性を上げることが困難であり、繊維製造コストが高くなってしまう。また、供給原糸が延伸糸であるため、生産性の高い高速での延伸仮撚加工を行うことはできない。
PET繊維と同様に、1段階の工程で製造したPTTの部分配向繊維(以下「POY」と略す)を用いて仮撚加工を行うことも考えられる。
【0004】
仮撚加工に用いるPTT−POYに関する先行技術は、「Chemical Fibers International」47巻、1997年2月発行、72〜74頁に記載がある。ここではポリマーを押出して冷却固化した後、仕上げ剤を付与し、ゴデットロールを用いず、あるいは冷たいゴデットロールを介した後、3〜6000m/分で巻き取った繊維が記載されている。また、特開平11−229276号公報には特定の仕上げ剤を付与し、3300m/分で巻き取った複屈折率が0.059、伸度71%のPTT−POYが、大韓民国公開特許第98049300号公報には、固有粘度0.75〜1.1のポリマーを用いて2500〜5500m/分の紡糸速度で紡糸したPTT−POYが、WO99−39041号公開パンフレットには特定の仕上げ剤を付与し、3500m/分で巻き取った複屈折率が0.062、伸度74%のPTT−POYが記載されている。
【0005】
しかしながら発明者らの検討によると、これらに記載されているPTT−POYは、糸管上で糸が大きく収縮して糸管を締め付けるために、通常工業生産している糸量を巻取ると糸管が変形し、チーズ状パッケージを巻取機のスピンドルより取り外すことが困難となる。
このような状況では、たとえ強度の大きい糸管を使って糸管の変形を抑えたとしても、バルジと呼ばれるパッケージ側面が膨れる現象が見られたり、チーズの内層で糸が堅く締まったりする。このため糸を解舒する時の張力が高くなると共に、張力変動も大きくなり、仮撚加工時に毛羽、糸切れが多発したり、倦縮むらや染色むらが発生したりする。仕上げ剤により糸の摩擦係数を下げると、巻糸が滑りやすくなり、バルジは更に大きくなってしまう。
【0006】
上記のように繊維が収縮する理由としては次の2つが考えられる。
1)PETと異なり、PTTはジグザグ状の分子構造を有しているのでガラス転移点(以下「Tg」と略す)が30〜50℃と低いので室温でも分子が運動して収縮してしまうからである。
2)弾性回復率が高いために巻き取った際の応力が緩和されずに残るためである。
また本発明者らの検討によると、室温付近で保管した場合には、PET−POYの物性がほとんど変化しないのと異なり、上記文献や公報に開示されているPTT−POYでは沸水収縮率や熱応力のピーク値などの物性が経時変化してしまう。このため工業的に仮撚加工を行うこと、即ち長期間にわたって同じ品質の仮撚加工糸を毛羽、糸切れの発生なく安定して生産することができない。
【0007】
繊維の構造を固定する技術としては特公昭63−42007号公報には、PETとPTT及び/又はポリブチレンテレフタレートをブレンドしたポリマーを溶融吐出し、冷却固化した後、加熱ローラにより熱処理し、次いで3500m/分以上の速度で巻き取り、切断伸度(破断伸度)60%以下、沸水収縮率7%以下の繊維を製造する方法が開示されている。
この公報中には比較例として、PTTホモポリマー、およびPETが10重量%ブレンドされたPTT共重合ポリマーを上記と同様の方法にて180℃に加熱し、4000m/分で巻き取った破断伸度33%、沸水収縮率4%程度の繊維も開示されている。このように、該公報ではローラで加熱する方式の高速紡糸と、それによって得られるPTT繊維が記載されている。
【0008】
しかしながら、該公報記載の発明の目的は、得られる繊維をそのまま衣料用の繊維として使用し、この際にシボ立て性を改善するために結晶化を進めて収縮を抑制する技術である。
本発明者らの検討によると、180℃以上といった高温で熱処理するとバルジの発生や巻崩れが激しくなってしまう。
一方、PETに代表されるポリエステル繊維を紡糸、仮撚加工する際には、繊維表面に仕上げ剤を付与することが必須である。
【0009】
本発明者らの検討によるとPTTはジグザグ状の分子構造を有しているために弾性率が低く、張力が掛かった状態で繊維と繊維同士やガイド類が接触すると接触面積が大きくなる。このため、PETに比べると摩擦係数が大きくなり、PET用仕上げ剤をPTT繊維に適用しても摩擦係数が十分低くならず、紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れが発生してしまう。
PTT繊維の仮撚用仕上げ剤に関しては、わずかに特開平11−229276号公報にポリエーテル及びイオン性界面活性剤及び/又は非イオン性界面活性剤を含んだ仕上げ剤が付与された特定の摩擦係数を有するPTT−POYが、またWO99−39041号公開パンフレットには(1)脂肪族エステル及び/又は鉱物油、(2)ポリエーテル、(3)非イオン性界面活性剤、(4)非イオン性界面活性剤を含んだ仕上げ剤が付与された、特定の摩擦係数を有するPTT−POYが報告されているのみである。
【0010】
しかしながら上記公報に開示されている仕上げ剤は、摩擦係数を低下させることができ、紡糸巻取工程や、仮撚等の後加工での毛羽や糸切れの発生が抑制されているものの、摩擦係数を下げて紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れの発生を抑えるために多量の高分子量ポリエーテルを含有させているために、繊維が滑りやすくなりすぎ、バルジや巻崩れを抑制できなくなったり、イオン性界面活性剤が多すぎるために仮撚加工時にヒーター上で仕上げ剤がタール化し毛羽や糸切れが発生したりする。このため通常工業生産している糸量を巻取ったり、工業的な連続した仮撚加工ができなくなったりする。
このように紡糸巻取時や、仮撚加工などの後加工時の毛羽が糸切れが抑制され、巻締まりやバルジが発生せず、長期間安定して仮撚加工のできるPTT繊維について記載している先行技術は全くない。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らの検討の結果、1段工程にて製造する仮撚加工に適したPTT繊維及びその製造法において従来技術では以下の問題があることが分かった。
(1)巻糸が収縮して、糸管を締め付け、チーズ状パッケージを巻取り機のスピンドルより取り外すことができなくなったり、バルジが発生したりする。このため、工業的に製造されているPET並みの糸量のチーズ状パッケージを巻き取ることができない。
(2)摩擦、摩耗の改善された公知のPTT仮撚用の仕上げ剤を付与しても、繊維−繊維間の摩擦係数が低くなり過ぎるために、チーズ状パッケージに巻き取った際、巻糸が滑り、バルジが大きくなったり、仮撚時のヒーター上で仕上げ剤がタール化し、毛羽や糸切れが発生したりする。
【0012】
本発明の目的は、工業的に製造可能で、優れた平滑性等を有し、安定した仮撚加工ができるPTT繊維、チーズ状パッケージおよびその製造方法を提供することである。
本発明の目的を達成するために解決すべき課題は、上記(1)問題に対応して工業的な製造を可能とするために巻締まりおよびバルジの発生を抑制し、上記(2)問題に対応して工業的な繊維の製造と後加工を両立させるために、糸とガイド類との摩擦、摩耗を抑制しつつ、巻糸の滑りや仕上げ剤のタール化を抑制した、摩擦係数のバランスに優れたPTT繊維とすることである。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意研究した結果、驚くべきことに、特定の条件にて繊維を熱処理して結晶化させ、特定の組成の仕上げ剤を付与し、極低張力にて巻き取る特殊な紡糸法を用いて製造した、特定の範囲内の配向性、結晶性および摩擦係数の繊維では、PTT−POYを1段階にて製造する際に大きな問題となる巻締まりやバルジの発生を回避でき、かつ仮撚加工などの後加工性を格段に向上できることを見出した。
また、本発明の繊維は、結晶化により繊維の構造が固定されているために、物性が経時変化しにくく、摩擦、摩耗が抑制でき、仮撚加工の際のタール化が抑制された仕上げ剤が付着しているので、長期間にわたって毛羽、糸切れの発生なく安定して仮撚加工ができることを見出し、本発明を完成した。
【0014】
即ち本発明は:
1.ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維
(I)、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着している繊維であって、さらに次式
G=F/Fμs−0.00383×d
で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25であり、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維を提供する。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
【0015】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0016】
(II)、(I)において非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とする(I)記載のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維を提供する。
【0018】
2.チーズ状パッケージ
(I)、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着していることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維が巻き付けられ、バジル率が15%以下である、チーズ状パッケージを提供する。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
【0019】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0020】
(II)、(I)において非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とするチーズ状パッケージを提供する。
【0022】
(IV)、(I)〜(III)のいずれかにおいて、巻き付けられている繊維の放縮率が0〜0.30%であることを特徴とするチーズ状パッケージを提供する。
【0023】
3.ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法
(I)、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートを溶融紡糸する方法において、紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えた後、該マルチフィラメントに対して0.2〜3重量%となるように下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤を付与し、その後50〜170℃で熱処理を行った後、0.02〜0.20cN/dtexの巻取張力にて2000〜4000m/分の速度で巻き取ることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
【0024】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0025】
(II)、(I)において非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する、
(1)ポリマー原料等
(i).本発明に用いるポリマーは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返し単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)である。ここでPTTとは、テレフタル酸を酸成分としトリメチレングリコール(1,3−プロパンジオールともいう)をジオール成分としたポリエステルである。該PTTには、10モル%未満で他の共重合成分を含有してもよい。
そのような共重合成分としては、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−カリウムスルホイソフタル酸、4−ナトリウムスルホ−2,6−ナフタレンジカルボン酸、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボン酸ナフタレン−4−スルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、2,6−ジカルボン酸ナフタレン−4−スルホン酸テトラメチルホスホニウム塩、3,5−ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸アンモニウム塩、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタメチレングリコール、1,6−ヘキサメチレングリコール、ヘプタメチレングリコール、オクタメチレングリコール、デカメチレングリコール、ドデカメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,3−シクロヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ヘプタン二酸、オクタン二酸、セバシン酸、ドデカン二酸、2−メチルグルタル酸、2−メチルアジピン酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、1,3−シクロヘキサンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸等のエステル形成性モノマーが挙げられる。
【0027】
(ii).また、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤などを共重合、または混合してもよい。
【0028】
(iii).本発明に用いるポリマーの極限粘度[η]は0.5〜1.4が好ましく、更に好ましくは0.7〜1.2である。この範囲で強度、紡糸性に優れた繊維を得ることができる。極限粘度が0.5未満の場合は、ポリマーの分子量が低すぎるため紡糸時や加工時の糸切れや毛羽が発生しやすくなるとともに、仮撚加工糸に要求される強度の発現が困難となる。逆に極限粘度が1.4を越える場合は、溶融粘度が高すぎるために紡糸時にメルトフラクチャーや紡糸不良が生じるので好ましくない。
【0029】
(iv).本発明に用いるポリマーの製法として、公知の方法をそのまま用いることができる。
即ち、テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルとトリメチレングリコールを原料とし、チタンテトラブトキシド、チタンテトライソプロポキシド、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸亜鉛、酢酸コバルト、酢酸マンガン、二酸化チタンと二酸化ケイ素の混合物といった金属塩の1種あるいは2種以上をポリマーに対して0.03〜0.1重量%となるように加え、常圧下あるいは加圧下でエステル交換率90〜98%でビスヒドロキシプロピルテレフタレートを得、次に、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラブトキシド、三酸化アンチモン、酢酸アンチモンといった触媒の1種あるいは2種以上をポリマーに対して0.02〜0.15重量%、好ましくは0.03〜0.1重量%となるように添加し、250〜270℃で減圧下で重縮合反応させる。
【0030】
(v).重合の任意の段階で、好ましくは重縮合反応の前に安定剤を添加することが白度の向上、溶融安定性の向上、PTTオリゴマーやアクロレイン、アリルアルコールといった分子量が300以下の有機物の生成を制御できる観点で好ましい。
この場合の安定剤としては、5価及び/又は3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物が好ましい。添加量としては、ポリマー重量に対し0.001〜2重量%が好ましい。
5価及び/又は3価のリン化合物としては、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリブチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、リン酸、亜リン酸等が挙げられ、特に、トリメチルホスファイトが好ましい。
ヒンダードフェノール系化合物とは、フェノール系水酸基の隣接位置に立体障害を有する置換基を持つフェノール系誘導体であり、分子内に1個以上のエステル結合を有する化合物である。
【0031】
具体的には、ペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタン、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、3,9−ビス{2−[3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ]−1,1−ジメチルエチル}−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンゼン)イソフタル酸、トリエチルグリコール−ビス[3−(3−tert−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,2−チオ−ジエチレン−ビス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]などが例示しうる。中でもペンタエリスリトール−テトラキス[3−(3,5−ジ−tertブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]が好ましい。
【0032】
(2)ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維
(I).90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着している繊維であって、さらに次式
G=F/Fμs−0.00383×d
で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25であり、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
【0033】
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%。
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
【0034】
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0035】
本発明の課題の1つである繊維の巻締まりを解消するためには、糸管上で糸が大きく収縮しないように、繊維が結晶化して分子が固定され、かつ分子が過度に配向して緊張した状態になっていないことが重要である。
また本発明の他の課題である、工業的な繊維の製造と後加工を両立させるために、糸とガイド類との摩擦、摩耗を抑制しつつ、巻糸の滑りを抑制した、摩擦係数のバランスに優れたPTT繊維とするためには、繊維の構造を適切にするとともに、適切な組成の仕上げ剤を適切な量付与することが重要である。従ってこれらの課題を全て達成するためには、ある特定の範囲内の結晶性、配向性をもつ特殊な構造の繊維に特定組成の仕上げ剤を特定量付与する必要がある。
【0036】
結晶性の指標としては、一般的に知られているように、繊維の密度測定が適している。非晶部に比べ結晶部の密度が大きいので、密度が大きいほど結晶化していると言える。また広角X線回折による結晶由来ピークの観察も結晶性の指標として用いることができる。
配向性の指標としては、繊維の複屈折率が適している。
また、巻締まりや繊維の経時変化に大きく関与する、分子の配向状態、緊張状態、固定状態を表すことのできる値としては、熱応力のピーク値、沸水収縮率及び破断伸度が適している。
従って、繊維の密度、複屈折率、熱応力のピーク値、沸水収縮率および破断伸度が前記の範囲を満足し、かつ特定の組成の仕上げ剤が、特定量付与されていることで、はじめて巻締まりやバルジの発生がなく工業的に製造可能で、毛羽や糸切れ無く安定した仮撚加工ができるPTT繊維となる。
【0037】
(i)密度(A)
密度は1.320〜1.340g/cm3 である必要がある。
密度が1.340g/cm3 を越えると巻崩れが発生してしまう。理由は明確ではないが、繊維の結晶性が上がることによって繊維自体や繊維の表面が硬くなるために、糸と糸を接触させたときの面積が小さくなり、糸−糸間の静摩擦係数が下がるからではないかと考えられる。また、仮撚加工の際に毛羽や糸切れが発生しやすくなり、工業的に安定して仮撚加工を行うことができなくなってしまう。
一方、密度が1.320g/cm3 未満では結晶化が十分進んでいないために繊維が固定されておらず、繊維が収縮して巻締まりが発生してしまったり、繊維の物性が経時変化してしまい長期間にわたって同一条件にて同じ品位の仮撚加工糸を得ることができなかったりする。
密度は好ましくは1.322〜1.336g/cm3 、更に好ましくは1.326〜1.334g/cm3 である。
【0038】
(ii)複屈折率(B)と熱応力のピーク値(C)との関係
繊維の複屈折率は0.030〜0.070、熱応力のピーク値は0.01〜0.12cN/dtexである必要がある。
繊維の複屈折率が0.070を越えるか、あるいは熱応力のピーク値が0.12cN/dtexを越えると繊維の収縮する力が強く、巻き取った後に大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。
繊維の複屈折率が0.030未満か、あるいは熱応力のピーク値が0.01未満では、配向性が低くかつ結晶化していないために室温で保存していても沸水収縮率などの物性が経時変化してしまう。また、経時変化を抑制するために熱処理して結晶化させると繊維が脆くなってしまう。従って、どちらの場合も延伸仮撚加工を工業的に行うことはできない。
繊維の複屈折率は好ましくは0.035〜0.065であり、更に好ましくは0.040〜0.060である。また、熱応力のピーク値は好ましくは0.015〜0.10cN/dtexであり、更に好ましくは0.02〜0.08cN/dtexである。
【0039】
(iii)沸水収縮率(D)
繊維の沸水収縮率は3〜40%である必要がある。
沸水収縮率が40%を越える場合は、結晶化が進んでいないため構造が固定されず、巻締まりが発生したり、室温で保存していても沸水収縮率や熱応力のピーク値などの物性が変化してしまい、長期間にわたって毛羽、糸切れの発生なく安定して仮撚加工糸を生産することができなくなる。また3%未満では、繊維がもろくなり毛羽、糸切れが多発するために仮撚加工が困難となる。沸水収縮率は好ましくは4〜20%であり、更に好ましくは、5〜15%である。
【0040】
(iv)破断伸度(E)
破断伸度は50〜120%であることが必要である。破断伸度が40%未満では伸度が低すぎるために、紡糸時や仮撚加工時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる。破断伸度が120%を越える場合は、繊維の配向度が低すぎかつ結晶化が進んでいないために、非常に経時変化しやすいか、あるいは配向度が低すぎかつ結晶化が進んでいるために、非常に脆くなってしまうために工業的に仮撚加工を行うことができない。
【0041】
(v)仕上げ剤
本発明において、仕上げ剤とは繊維表面に付着させる有機系の化合物を指す。もちろん仕上げ剤の一部は繊維内部に浸透していてもよい。
本発明の繊維の表面には下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が繊維重量に対して0.2〜3重量%付着している必要がある。
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
【0042】
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。)
【0043】
以下、各仕上げ剤成分の説明を行うが、ここで重量%は、繊維重量に対する比率である。
(a)要件(P)
仕上げ剤の第1の必須構成成分である要件(P)の化合物は、炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤である。
これらの非イオン性界面活性剤は、仕上げ剤各成分を適切に乳化させるための乳化剤、繊維の集束性、仕上げ剤の付着性を高めるとともに、PTT繊維の平滑性を損なうことなく繊維−繊維間の静摩擦係数を適度に高め、巻糸の滑りを抑えてバルジを抑制するために必要な成分である。
非イオン性界面活性剤は水素原子の一部または全部が水酸基、ハロゲン原子等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。
【0044】
アルコールの炭素数としては4〜30であり、乳化性、集束性の観点から6〜30が好ましく、更に好ましくは8〜18である。
エチレンオキシド、プロピレンオキシドの付加モル数としては1〜30であり、平滑性の高さから3〜15が好ましい。
非イオン性界面活性剤としては、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルが好ましい。このような非イオン性界面活性剤を用いることにより、繊維の平滑性とバルジの抑制の両方をより好ましくすることができる。
飽和アルキルエーテルは、繊維の製造条件、後加工条件、用途に応じて、より平滑性が必要な場合は直鎖アルキルエーテルを、よりバルジが発生しやすい場合は側鎖アルキルエーテルを用いることが好ましい。もちろんこれらを混合して用いてもよく、この場合目的に応じて混合比を適宜調整することが好ましい。
【0045】
非イオン性界面活性剤の具体例としては、ポリオキシエチレンオクタデシルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオクチルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソテトラデシルエーテル、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、ポリオキシプロピレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル等が挙げられる。平滑性と巻糸の滑り性の観点からは、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンイソステアリルエーテル、ポリオキシエチレンイソテトラデシルエーテル等が好ましい。
本発明の仕上げ剤中の非イオン性界面活性剤の含有率は、5〜50重量%であることが必要である。5重量%未満では繊維−繊維間の静摩擦係数を十分高めることができず、バルジの大きな巻糸しか得ることができなくなる。50重量%を越えると、平滑性が悪化し、紡糸や仮撚の際に毛羽や糸切れが発生してしまう。好ましくは6〜30重量%である。
【0046】
(b)要件(Q)
仕上げ剤の第2の必須構成成分である(Q)の化合物はイオン性界面活性剤である。このイオン性界面活性剤は繊維に制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性を付与するとともに、繊維−繊維間の静摩擦係数を適度に高め、巻糸の滑りを抑えてバルジを抑制するために必要な成分である。
イオン性界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤のいずれを用いてもよいが、特にアニオン性界面活性剤を用いることが耐熱性を維持しつつ、制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性を付与できる観点から好ましい。もちろん、これら2種以上の界面活性剤を組み合わせてもよい。
【0047】
イオン性界面活性剤の具体例としては、下記の化学式で示される化合物(k)〜(n)が挙げられ、これらは制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性に優れている。
(k)R5 −SO3 −X
(l)(R6 −O−)P(=O)(OX)2
(m)(R7 −O−)(R8 −O−)P(=O)(OX)
(n)R9 −COO−X
式中、R5 〜R9 は水素原子、炭素数4〜30までの有機基である。ここで有機基としては、炭化水素であっても、炭化水素基の一部または、全部がエステル基、水酸基、アミド基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホン酸基等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。好ましくは炭素数8〜18の炭化水素基である。Xはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。
【0048】
特に、(k)〜(n)の構造を有し、且つR5 〜R9 が−C(−R10)(−R11)や、−C(−R12)(−R13)(−R14)のような分岐を有した構造の化合物をイオン性界面活性剤として仕上げ剤中に含有する事が、繊維−繊維間の滑りを抑制し、チーズ状パッケージに巻かれた時に、優れたパッケージフォームを与えるために好ましい。これらの化合物の具体的な構造としては下記の例が挙げられる。
X−OOCCH(−R15)CH2 COO−X
R16−OOCCH(−SO3 −X)CHCOO−R17
R18−OOCCH(−R19)CH2 COO−X
【0049】
ここで、R10〜R19は水素原子、炭素数3〜30までの有機基である。ここで有機基としては、炭化水素であっても、炭化水素基の一部または、全部がエステル基、水酸基、アミド基、カルボキシル基、ハロゲン基、スルホン酸基等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。好ましくは炭素数8〜18の炭化水素基である。Xはアルカリ金属又はアルカリ土類金属である。
これらのイオン性界面活性剤の仕上げ剤中の含有率は1〜8重量%であることが、繊維の平滑性を損なわず、仮撚時のヒーター汚れを抑制して、上記の制電性や巻糸の滑り抑制効果を付与するために必要である。1重量%未満では、制電性、耐摩耗性、乳化性、防錆性が不足するとともに、繊維−繊維間の静摩擦係数が低くなりすぎて、巻糸の滑りを抑えることができなくなり、バルジの大きい巻糸しか得られなくなってしまう。また8重量%を越えると、摩擦が高くなりすぎたり、ヒーター汚れが増えたりして、紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる。好ましくは1.5〜5重量%である。
【0050】
(c)要件(R)
仕上げ剤の第3の必要構成成分である要件(R)の化合物は脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上である。
これらの化合物は、PTT繊維の平滑性を向上させ、その繊維−金属間動摩擦係数を低減させるとともに、繊維−繊維間の静摩擦、摩耗性を改善させるために必要な成分である。このうち、脂肪族ポリエステルは特に平滑性を向上させる効果が高く、またポリエーテル−1は油膜の強度を高める働きがあり、このため繊維−繊維間の静摩擦、摩耗性を向上させるために有効である。これらの成分は製造する繊維の用途に合わせて、適宜これらの割合を選択することができる。ここでいう脂肪族エステルとは分子量300〜700の脂肪族エステルである。
脂肪族エステルとしては各種合成品および天然油脂が挙げられる。特に平滑性の向上には直線構造を有する合成品の脂肪族エステルの使用が好ましい。
【0051】
合成品の脂肪族エステルとしては、モノエステル、ジエステル、トリエステル、テトラエステル、ペンタエステル、ヘキサエステル等が挙げられる。平滑性の観点からモノエステル、ジエステル、トリエステルの使用が好ましい。脂肪族エステルの分子量が300未満の場合には、油膜の強度が低くなりすぎてガイドやロールで容易に繊維表面から脱離して、繊維の平滑性を低下させてしまったり、蒸気圧が低すぎて工程中に飛散し作業環境を劣化させるといった問題がある。脂肪族エステルの分子量が700を越えると、仕上げ剤の粘性が高くなりすぎるために、平滑性とサイジング性が低下するので好ましくない。350〜500の分子量の脂肪族ポリエステルが特に優れた平滑性を示すので最も好ましい。
【0052】
好ましい合成品の具体例としては、ステアリン酸イソオクチル、ステアリン酸オクチル、パルミチン酸オクチル、パルミチン酸イソオクチル、ステアリン酸2−エチルヘキシル、ラウリン酸オレイル、ステアリン酸イソトリデシル、オレイン酸オレイル、オレイン酸ラウリル、アジピン酸ジオレイル、トリラウリン酸グリセリンエステル等が挙げられる。もちろん2種類以上の脂肪族エステルを組み合わせてもよい。これらの脂肪族エステルのうち、平滑性が優れているという観点から、ステアリン酸オクチル、オレイン酸オレイル、オレイン酸ラウリル等の1価のカルボン酸と1価のアルコールからなる、脂肪族エステルが特に好ましい。
また、耐熱性を高めたい場合には、脂肪族エステルが分子量400〜600のものを用いることは好ましい。この場合、水素原子の一部が酸素原子や硫黄原子等のヘテロ原子を有する基、例えばエーテル基、エステル基、チオエステル基、スルフィド基等で置換されていても良い。
【0053】
また、ここで言うポリエーテル−1とは、下記の構造式で示されるポリエーテルである。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。有機基としては、炭化水素基であっても、炭化水素の一部または、全部が水酸基、ハロゲン原子等のヘテロ原子を持つ基または元素で置換されていてもよい。好ましくは、R1 、R2 は水素原子、炭素数として5〜18の脂肪族アルコールであることが良い。
ポリエーテル−1において、プロピレンオキシド単位とエチレンオキシド単位はランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30である必要がある。この結果、摩擦抑制効果が高くできる。好ましくはプロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比40/60〜60/40である。
【0054】
ポリエーテル−1の分子量は1300〜3000である必要がある。この場合n1、n2は分子量に合った値を採用する。特にこの分子量は重要であり、分子量が1300未満では摩耗抑制効果が小さく、分子量が3000を越えると繊維の静摩擦係数が下がりすぎ、巻フォームが悪くなってしまう傾向にある。
要件(R)では、ポリエーテル−1と脂肪族エステルの和が40〜70重量%である必要がある。40重量%未満では繊維の平滑性が低下したり、摩擦、摩耗性が悪化して、紡糸や仮撚時に毛羽や糸切れが発生したりする。70重量%を越えると繊維が非常に滑りやすくなってしまうために、巻糸が滑り、フォームの悪いものしか得られなくなってしまう。
【0055】
(c)要件(S)
仕上げ剤の第3の必要構成成分である要件(S)の化合物はポリエーテル−2である。
ポリエーテル−2は油膜の強度を高める働きがある。このため繊維−繊維間の静摩擦、摩耗性を向上させるために有効であり、用いることが好ましい。
ここで言うポリエーテル−2とは、下記の構造式で示されるポリエーテルである。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。
【0056】
ポリエーテル−2において、プロピレンオキシド単位とエチレンオキシド単位はランダム共重合であっても、ブロック共重合であってもよい。
またプロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20であり、分子量は5000〜50000である。この場合、n1、n2は分子量に合った値を採用する。分子量が50000を越えると固体となったり、摩擦係数が高くなったりしてしまう。
要件(S)では、ポリエーテル−2が0〜10重量%である必要がある。10重量%を越えると繊維が非常に滑りやすくなってしまうために、巻糸が滑り、フォームの悪いものしか得られなくなってしまう。
【0057】
以上述べてきた(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤においては、これらの要件の構成成分の含有量が仕上げ剤全量の50〜100重量%の範囲であることが好ましい。従って、本発明に用いる仕上げ剤には、本発明の目的を阻害しない範囲、すなわち50重量%未満で、本発明の必須構成成分以外の仕上げ剤成分を存在させてもよい。そのような仕上げ剤成分としては、特に制限はないが、平滑性、仕上げ剤の繊維上への広がり性を向上させるために、鉱物油、要件(R)に記載している以外の脂肪族エステルやポリエーテル、シリコン化合物、例えば、ジメチルシリコン、ジメチルシリコンのメチル基の一部をアルキル基を介してエチレンオキシド又は/及びプロピレンオキシドを3〜100モル程度付加させた化合物、炭素数5〜18の有機基を有するアミンオキシド等を含有してもよく、また本発明で規定した以外のエステル化合物例えば、エーテル基を有するエステル等を含有してもよい。また公知の防腐剤、防錆剤、酸化防止剤等を含有してもよい。必須構成成分の割合は好ましくは60〜100%である。
【0058】
以上のような構成成分からなる仕上げ剤はそのまま希釈することなく、あるいは水に分散させてエマルジョン仕上げ剤として繊維に付着させることができる。仕上げ剤の付着ムラを抑制したり、巻糸のフォームを良好にするためには、1〜20重量%の水エマルジョンとして繊維に仕上げ剤を付与することが好ましく、2〜10重量%がより好ましく、3〜7重量%であることが特に好ましい。仕上げ剤の割合が1重量%未満では、加熱された第1ロールで揮発する水の量が多すぎるので、揮発熱のために繊維を均一に所定の温度にすることが困難となる。この結果、熱処理むらが起こり、染め斑等が発生してしまう。仕上げ剤の割合が20重量%を越えると、仕上げ剤の粘度が高く、しかも一定量の仕上げ剤を繊維に付与しようとしたときに仕上げ剤の量が少なくなるため、繊維に均一に仕上げ剤を付与しにくくなる。
【0059】
仕上げ剤の繊維への付着量としては、0.2〜3重量%であることが必要である。0.2重量%未満では、仕上げ剤の効果が小さく、静電気により糸がばらけたり、摩擦により糸切れや毛羽が発生したりする。また3重量%を越えると、繊維の走行時の抵抗が大きくなりすぎたり、仕上げ剤がロール、熱板、ガイド等に付着してこれらを汚したりする。仮撚加工に用いるには、0.25〜1.0重量%が好ましく、特に好ましくは0.3〜0.7重量%である。もちろん仕上げ剤の一部が繊維内部に浸透していてもよい。
【0060】
(II)ポリエステル繊維の摩擦係数本発明では、下記式で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30 であることが必要である。
G=F/Fμs−0.00383×dF/Fμsは繊維同士のこすれによる毛羽の発生しやすさや、巻糸での糸の滑り易さを示すパラメーターである。この値は繊維同士の接触面積に比例するため繊度に依存して変化する。従ってGの値が特定の範囲であることが必要である。
【0061】
Gが0.06未満では繊維−繊維間の静摩擦係数が低すぎるために、糸管上に巻き取った繊維が滑り、バルジの発生や巻崩れが発生してしまうことがある。(バルジとは、図2−(ロ)に示すように巻締まりによってパッケージ糸の収縮による締め付け力が強く働いた時に起こるチーズ状パッケージ(100)の膨らみのある端面(102a)のことである。)
またGが0.25を越える場合は、繊維−繊維間の静摩擦係数が高すぎるため、糸を解舒する際や仮撚加工を行う際に毛羽や糸切れ多発してしまう。Gの好ましい範囲は0.1〜0.20であり、更に好ましくは0.12〜0.18である。
【0062】
一方F/Mμdは、繊維とロール、ホットプレートなどの金属部との滑りやすさだけでなく、繊維とガイド類や仮撚機のディスク、ベルトとの滑り易さを示すパラメーターである。0.15以下では仮撚機のディスクやベルトとの摩擦が低すぎ、十分な撚りをかけることができなくなってしまう。0.30を越えるとホットプレートやガイド類との滑りが悪くなり、毛羽、糸切れが発生しやすくなってしまう。好ましくは0.17〜0.27である。
また、繊維−繊維間の動摩擦係数は0.3〜0.65であることが好ましい。繊維−繊維間の動摩擦係数は繊維同士のこすれによる毛羽の発生しやすさを示すパラメーターである。0.3よりも小さいと滑りすぎて、かえって紡糸、延伸性が低下する。0.65を越えると摩擦が高くなりすぎて、毛羽や糸切れが発生しやすくなる。
摩擦係数を変化させる要因としては、繊維の結晶性、配向性、仕上げ剤の種類、付着量および水分の含有量があげられる。これらを本発明の範囲内で調整することで、上記の好ましい摩擦係数とすることができる。
【0063】
(III)ポリエステル繊維の物性等
(i)強度
本発明のポリエステル繊維の強度は、1.3cN/dtex以上であることが好ましい。
1.3cN/dtex未満では強度が低いために、糸を解舒する際や仮撚加工を行う際に毛羽や糸切れが多発してしまう。好ましくは、1.5cN/dtex以上、更に好ましくは1.7cN/dtex以上である。
(ii)広角X線回折による結晶由来の回折ピークの観察
本発明においては、繊維が結晶化していること、すなわち広角X線回折にて結晶由来の回折ピークが観察されることが好ましい。
【0064】
以下、広角X線回折について図面を用いて詳述する。
X線を繊維に対して垂直方向より照射した際の繊維軸に対して直行方向の回折パターンの代表的な例として、図1−(イ)に結晶に由来する回折ピークが観察される場合のパターンを、図1−(ロ)に結晶に由来する回折ピークが観察されない場合のパターンを示す。
ここでX線はCuKα線を用いている。
PTTが三斜晶形に属した結晶形をとることが知られており、(Polym.Prepr.Jpn.,Vol.26,p427(1997))このため繊維が結晶化している場合は、繊維軸に対して直行方向の2θ=15.5°付近に(010)面に由来する回折ピークが観察される。
【0065】
本発明においては、図1−(イ)に示したように、繊維軸に対して直行方向の広角X線回折強度が下記の式を満足するかどうかで、回折像が観察されたかどうかの判定を行った。
I1 /I2 ≧1.0
ただし、I1 :2θ=15.5〜16.5°の最大回折強度
I2 :2θ=18〜19°の平均回折強度
一方、図1−(ロ)では非晶に由来するブロードな回折が観察されるだけで、図1−(イ)のような結晶に由来するピークは観察されない。この場合上記式を満足しない。
【0066】
広角X線回折にて結晶に由来する回折ピークが観察されることで、繊維が明らかに結晶化し、構造が固定されていることが分かる。
結晶に由来する回折像が観察されない場合は繊維は結晶化していない。従って分子が固定されていないために、繊維が収縮して巻締まりが発生したり、繊維の物性が経時変化してしまい長期間にわたって安定して仮撚加工ができなかったりする。I1 /I2 の値は好ましくは1.1以上、更に好ましくは1.2以上である。
【0067】
(iii)繊維の形態
本発明のポリエステル繊維は、マルチフィラメントが好ましい。
総繊度は限定はされないが、通常5〜400dtex、好ましくは10〜300dtex、単糸繊度は限定はされないが0.1〜20dtex、好ましくは0.5〜10dtex、更に好ましくは1〜5dtexである。
繊維の断面形状は、丸、三角、その他の多角形、扁平、L型、W型、十字型、井型、ドッグボーン型等、制限はなく、中実繊維であっても中空繊維であってもよい。
【0068】
(3)チーズ状パッケージ
本発明の繊維はチーズ状パッケージに巻かれていることが好ましい。
近年の仮撚加工工程の近代化・合理化に追随するには、パッケージのラージ化、即ち大量巻きの可能なチーズ状パッケージで巻かれていることが好ましい。またチーズ状パッケージとすることで、仮撚加工時に糸を解舒する際、解舒張力の変動が小さくなり、安定した加工が可能となる。
【0069】
(i)バルジ率
本発明の繊維が巻かれたチーズ状パッケージはバルジ率が15%以下であることが好ましい。図2−(イ)は糸が望ましい形状に巻かれたチーズ状パッケージ(100)を示す。糸が糸管等の巻芯(103)上に平らな端面(102)を形成した円筒状糸層(104)に巻かれている。
バルジは、図2−(ロ)に示すように巻糸の収縮による締め付け力が強く働き、巻糸が滑った時に起こるチーズ状パッケージ(100)の膨らみのある端面(102a)である。
バルジ率とは、図2−(イ)または図2−(ロ)に示す最内層の巻幅Q及び、最も膨らんでいる部分の巻幅Rを測定して、下記式を用いて算出した値である。
バルジ率={(R−Q)/Q}×100%
チーズ状パッケージのバルジ率が15%を越えるものは運搬時に巻糸が崩れ解舒できなくなったり、解舒張力の斑による糸切れ、毛羽、染色斑等が起こりやすい。最悪の場合は端面が糸管よりも出っ張るために運搬することができなくなる。また巻締まりが大きく、巻取機のスピンドルからはずれなくなる場合も多い。
好ましくはバルジ率は13%以下であり、更に好ましくは10%以下である。もちろん0%が最も好ましい。
【0070】
(ii)糸管
工業的に製造する上では紡糸の際に糸管を交換する頻度を減らすことが作業効率の向上、コストダウンの観点より極めて重要である。
また、仮撚工程においては、チーズ状パッケージを使用した後、次のチーズ状パッケージにつなぎ込んで使用するが、このつなぎ込みの頻度を減らすことも作業効率の向上、コストダウンの観点から極めて重要である。
従って、該チーズ状パッケージには2kg以上の本発明の繊維が巻かれていることが好ましく、更に好ましくは3kg以上、一層好ましくは5kg以上である。2kg未満では糸管交換の頻度やつなぎ込みの頻度が高過ぎ、工業的に製造するのは困難となってしまう。
本発明に用いる糸管は、フェノール樹脂などの樹脂、金属、紙のいずれでできていても良い。紙の場合は5mm以上の厚みであることが好ましい。
糸管のサイズとしては、直径が50〜250mmであることが好ましく、より好ましくは80〜150mmである。
また、糸管上の繊維の巻幅は40〜300mmであることが好ましく、より好ましくは60〜200mmである。この範囲内の糸管、巻幅とすることで、巻姿が良好で、かつ解舒性の良好なチーズ状パッケージを得ることが容易になる。
【0071】
(ii)放縮率
チーズ状パッケージに巻き付けられている繊維の放縮率は0〜3.0%であることが好ましい。ここで放縮率とは下記式で表される値である。
放縮率={(L0 −L1 )/L0 }×100(%)
ここで、L0 :チーズ状パッケージ上での繊維の長さ(cm)
L1 :チーズ状パッケージより解舒して、7日間放置後の繊維の長さ(cm)
この放縮率の値は、糸管上で繊維がどれだけ縮もうとしているかを示す値なので巻締まりの指標となる。
放縮率が3.0%を越えると繊維が大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。また放縮率が負の値を示す時は、繊維がゆるんでしまうために、巻崩れが発生してしまう。放縮率の値は好ましくは0.1〜2.5%、より好ましくは0.2〜2.0%である。
【0072】
(4)ポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法
次に本発明のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維およびチーズ状パッケージを得る方法を例示する。本発明のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維は、基本的には、紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えた後、該マルチフィラメントに対して0.2〜3重量%となるように前述した特定組成の仕上げ剤を付与し、その後50〜170℃で熱処理を行った後、0.02〜0.20cN/dtexの巻取張力にて2000〜4000m/分の速度で巻き取ることにより得られる。
【0073】
以下に本発明のPTT繊維の好ましい製造方法を図3及び図4を用いて詳述する。
1)まず、乾燥機1で100ppm以下の水分率まで乾燥されたPTTペレットを250〜290℃に設定された押出機2に供給し溶融する。溶融PTTは250〜290℃に設定されたスピンヘッド4に送液され、ギヤポンプで計量される。その後パック5に装着された複数の孔を有する紡糸口金6を経て溶融マルチフィラメントとして紡糸チャンバー14内に押出される。
押出機に供給するPTTペレットの水分率は、ポリマーの重合度低下を抑制するという観点から50ppm以下が好ましく、更に好ましくは30ppm以下である。
押出機およびスピンヘッドの温度は、PTTペレットの極限粘度や形状によって上記範囲内より最適なものを選ぶ必要があるが、好ましくは255〜280℃の範囲である。紡糸温度が250℃未満では、糸切れや毛羽が多発したり、糸径むらが発生したりしてしまう。また、紡糸温度が290℃を越えると熱分解が激しくなり、得られた糸は着色し、また満足し得る強度を示さなくなる。
【0074】
2)紡糸チャンバー14内に押し出された溶融マルチフィラメントは冷却風9によって室温まで冷却されて固体マルチフィラメント8に変えられる。
この際、紡口直下に設けた30〜200℃の雰囲気温度に保持した長さ2〜80cmの保温領域7を通過させて急激な冷却を抑制した後、この溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えて続く熱処理工程に供することが好ましい。
この保温領域7を通過させることで固化むらを抑制し、高い巻取速度あるいは第1ロール速度まで固化むら(太さむらや配向度むら)無く、溶融マルチフィラメントを固体マルチフィラメントに変えることができる。
保温領域の温度が30℃未満では急冷となり固体マルチフィラメントの固化むらが大きくなる。また、200℃を越えると糸切れが起こりやすくなる。このような保温領域の温度は40〜180℃が好ましく、更に好ましくは50〜150℃である。また、この保温領域の長さは5〜30cmが更に好ましい。
【0075】
3)次に固体マルチフィラメントは熱処理を受けるが、熱処理を受ける前に、仕上げ剤付与装置10によって仕上げ剤を付与されることが必要である。
仕上げ剤付与装置10は、チャンバー14内、繊維を熱処理するゾーン15内で第1ロール11の前、およびこれらのゾーンの間のいずれの場所でもよい。
【0076】
4)仕上げ剤を付与する方法としては公知のオイリングロールを用いる方法や例えば特開昭59−116404号公報などに記載されるガイドノズルを用いる方法を用いることができるが、仕上げ剤付与装置自体の摩擦による糸切れ、毛羽の発生を抑制するためにはガイドノズルを用いる方法が好ましい。仕上げ剤を繊維に付与する位置は、溶融マルチフィラメントが冷却風9によって室温まで冷却されて固体マルチフィラメント8に変えられた直後で最も紡口口金に近い位置が好ましい。繊維は仕上げ剤を付与すると同時に集束されるので、この位置が紡口口金に近いほど空気抵抗を下げることができ、糸切れ、毛羽の発生を抑えることができるからである。
【0077】
5)また巻取後の繊維には0.5〜5重量%の水分が含まれていることが好ましい。
この水分は仕上げ剤に含まれる水より繊維に含ませるかあるいは、巻取以前に、仕上げ剤を付与するのと同様なガイドノズルを用いる方法などを用いて、仕上げ剤とは別に付与してもかまわない。
繊維に含まれる水の量は0.7〜4重量%が更に好ましく、1〜3重量%が特に好ましい。水分量がこの範囲にあることにより、巻取パッケージ端面の綾落ちの発生や、バルジの発生のない良好なフォームのパッケージを得ることが容易となる。
【0078】
6)次に固体マルチフィラメント8は繊維を熱処理するゾーン15にて、第1ロール11などで熱処理を受ける。ここで12は自己駆動しないフリーロールである。
本発明のポリエステル繊維はロール等を用いずに、ヒーターなどで熱処理を行った後に直接巻取機にて巻き取っても良いが、好ましくは回転しているロールに一度巻き付けた後に、巻取機で巻き取ることが好ましい。
ロールと巻取機の速度を調節することで巻き取り張力を制御することが容易になるからである。
【0079】
繊維の熱処理方法としては図3の第1ロール11のみを用いる方法の他に、図4−(イ)の第1ロール11又は/及び第2ロール16により加熱する方法、図4−(ロ)の第1ネルソンロール17から第2ネルソンロール18のうちいずれか一つあるいは複数のロールで加熱する方法、図4−(ハ)の第1ヒーター19又は/及び第2ヒーター20により加熱する方法、図4−(ニ)の第1ヒーター19により加熱する方法などが挙げられる。
図4−(ハ)、(ニ)の場合は、ヒーターでの熱処理に加えてロールで熱処理を行っても良い。
加熱に用いるヒーターとしては、接触式のヒーター、非接触式のヒーターいずれを用いてもかまわない。また、加熱気体を用いる方法でも良い。これらのうち、加熱ロールを用いる方法が、上記のロールと巻取機の速度調整と熱処理を同時に行うことができることより最も好ましい。
【0080】
本発明において、ロールで加熱するとは、自己駆動しているロールで加熱し、フリーロールでは加熱していないことを示しているが、もちろんフリーロールで加熱を行ってもかまわない。
熱処理の温度は50〜170℃であることが必要である。50℃未満では繊維を十分な結晶化度まで高めることができないために、巻締まりが起きたり、物性が経時変化するために工業的に仮撚加工ができなかったりする。
また、170℃を越えると紡糸時に糸切れや毛羽が発生したり、結晶化が進みすぎて繊維−繊維間の静摩擦係数が小さくなってバルジ率が大きくなったり、仮撚加工が困難になったりする。熱処理の温度は、好ましくは60〜150℃、更に好ましくは80〜130℃である。
【0081】
また、熱処理時間は0.001〜0.1秒であることが好ましい。ここで言う熱処理時間とは、複数のロールやヒーターで熱処理する場合は、これらの合計時間である。加熱時間が0.001秒未満では熱処理時間が短く十分な結晶化を進めることができないため、巻締まりやバルジが発生しやすく、また経時変化もしやすい。一方、加熱時間が0.1秒を越えると、結晶化が進みすぎ、繊維−繊維間の静摩擦係数が小さくなりすぎてしまい、得られるチーズ状パッケージはバルジの大きいものとなってしまう。
本発明においては、熱処理温度が高くなっても、熱処理時間が長くなっても、また巻取速度が大きくなっても結晶化度は高くなる。このため熱処理温度、巻取速度に応じた熱処理時間を選ぶことがより好ましい。
【0082】
7)巻取;チーズ状パッケージの形成
熱処理を受けたマルチフィラメントは、巻取機13を用いて巻き取られる。
巻取速度は2000〜4000m/分であることが必要である。巻取速度が2000m/分未満では、繊維の配向が低いために、物性が経時変化したり、熱処理を強化しても繊維が脆くなったりし、繊維の取扱や仮撚加工が困難となる。また、4000m/分を越えると、繊維の配向や結晶化が進みすぎ、また巻取時の張力が下げられないために、本発明の範囲の放縮率の繊維を得ることができず、糸管上で繊維が大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。好ましくは、2200〜3800m/分であり、更に好ましくは2500〜3600m/分である。
【0083】
本発明においては、巻き取る時の張力が0.02〜0.20cN/dtexであることが必要である。
従来行われてきたPETやナイロンの溶融紡糸でこのように低い張力で巻き取ろうとすると、糸の走行が安定せず、糸が巻取機のトラバースから外れたりして糸切れが発生したり、巻糸を次の糸管に自動で切り替える時に切替ミスが発生したりする。しかしながら、驚くべきことにPTT繊維では本発明のように極低い張力で巻き取ってもこのような問題が発生せず、しかも低い張力とすることで初めて巻締まりなく良好な巻姿のチーズ状パッケージを得ることができる。このように低い張力でも安定して巻取りができるのはPTT繊維の特徴である低弾性率と高弾性回復率に起因していると考えられる。
【0084】
張力が0.02cN/dtex未満では張力が弱すぎるために巻取機の綾振りガイドでの綾振りが良好にできず、巻フォームが悪くなってしまったり、トラバースより糸が外れ、糸切れが起こったりしてしまう。また、0.20cN/dtexを越えると、たとえ繊維を熱処理して巻き取ったとしても繊維の放縮率や熱応力のピーク値が高くなり、巻締まりが発生してしまう。
巻き取るときの張力は好ましくは0.025〜0.15cN/dtex、更に好ましくは0.03〜0.10cN/dtexである。
巻取機の前にロールを設置する際のロールの周速度は巻取張力が上記の範囲内になるように、調整することが好ましい。このロール速度は通常巻取速度に対して0.80〜1.1倍の速度であることが好ましい。このロールの前にロールを設置し、熱処理や変向、張力の制御、延伸を行ってもかまわない。
本発明では、紡糸過程で必要に応じて、交絡処理を行ってもよい。交絡処理は、仕上げ剤付与前、熱処理前、巻取前のいずれか、あるいは複数の場所で行っても良い。
【0085】
本発明に用いる巻取機としては、スピンドル駆動方式、タッチロール駆動方式、スピンドルとタッチロールの双方が駆動している方式のいずれの巻取機でもかまわないが、スピンドルとタッチロールの双方が駆動している方式の巻取機が糸を多量に巻き取るためには好ましい。
タッチロールあるいはスピンドルどちらか一方のみが駆動する場合、他方は駆動軸からの摩擦により回転しているため、スピンドルに取り付けられている糸管とタッチロールでは滑りにより表面速度が異なってしまう。
このためタッチロールからスピンドルに糸が巻き付けられる際、糸が伸ばされたり、ゆるんだりしてしまい張力が変わって巻姿が悪化してしまったり、糸がこすられてダメージを受けたりしやすい。
【0086】
スピンドルとタッチロールの双方が駆動することによりタッチロールと糸管の表面速度の差を制御することが可能となって滑りを減らすことができ、糸の品質や、巻姿を良好にすることができる。
繊維を巻き取る際の綾角は3.5〜8°であることが好ましい。
3.5°未満では糸同士があまり交差していないために滑りやすく、綾落ちやバルジの発生が起こりやすい。また8°を越えると、糸管の端部に巻かれる糸の量が多くなるために中央部に比べ端部の径が大きくなる。
このため巻き取っている際は端部のみがタッチロールに接触してしまい糸品質が悪化してしまったり、また巻き取った糸を解舒する際の張力変動が大きくなり、毛羽や糸切れが多発したりしてしまう。
綾角は4〜7°が更に好ましく、特に好ましいのは5〜6.5°である。
【0087】
本発明のPTT繊維は、仮撚加工を行うことにより非常にソフトで良好な弾性回復性、およびその持続性を有した仮撚加工糸とすることができる。仮撚加工の方法としては、一般に用いられているピンタイプ、フリクションタイプ、ニップベルトタイプ、エアー加撚タイプ等いかなる方法でも良いが、本発明のPTT繊維の特徴を生かすためには、生産性の高い高速での仮撚加工ができるフリクションタイプやニップベルトタイプが好ましい。加工条件は特に限定されるものではなく、以下に例示する公知の条件範囲より適宜選択して行うことができる。
【0088】
【発明の実施の形態】
本発明について、以下に実施例などを用いて具体的に説明する。言うまでもなく本発明は実施例などにより何ら限定されるものでない。
尚、実施例中の主な測定値は以下の方法で測定した。
(1)極限粘度
極限粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o−クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ミリリットル)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式に従って求めた。
(2)密度
JIS−L−1013に基づいて四塩化炭素およびn−ヘプタンにより作成した密度勾配管を用いて密度勾配管法にて測定を行った。
(3)複屈折率
繊維便覧−原料編、p.969(第5刷、1978年丸善株式会社)に準じ、光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
【0089】
(4)熱応力のピーク値
鐘紡エンジニアリング社製のKE−2を用いた。初過重0.044cN/dtex、昇温速度100℃/分で測定した。得られたデーターは横軸に温度、縦軸に熱応力をプロットし温度−熱応力曲線を描く。熱応力の最大点の値を熱応力のピーク値とした。
(5)沸水収縮率沸
JIS−L−1013に基づき、かせ収縮率として求めた。
(6)強度(繊維破断強度)、破断伸度(繊維破断伸度)
JIS−L−1013に基づいて定速伸長形引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
【0090】
(7)広角X線回折(カウンター法)
理学電機株式会社(現株式会社リガク)製広角X線回折装置ロータフレックスRU−200を用いて下記の条件にて観察を行った。
回折強度は、サンプルを測定して得た回折強度と空気散乱強度より以下の式に従って求めた真の回折強度を用いた。
真の回折強度 = サンプルの回折強度 − 空気散乱強度
【0091】
(8)繊維の放縮率
繊維を10分間糸管に巻き取った繊維を用いて、下記の式に従って求めた。
放縮率={(L0 −L1 )/L0 }×100(%)
L0 :チーズ状パッケージ上での繊維の長さ(cm)
L1 :チーズ状パッケージより解舒して、7日間放置後の繊維の長さ(cm)
L0 はチーズ状パッケージ上の巻糸の径と綾角より計算で求めた。また、L1 は巻き取り後30分以内に繊維をチーズ状パッケージより解舒し、無荷重で7日間放置した後、1/34cN/dtexの荷重をかけた時の長さを測定して求めた。
(9)仕上げ剤付着量
JIS−L−1013に基づき、繊維をジエチルエーテルで洗浄し、ジエチルエーテルを留去して繊維表面に付着した純仕上げ剤量を繊維重量で割って求めた比率を仕上げ剤付着量とした。
【0092】
(10)繊維−繊維間静摩擦係数
約690mの繊維を円筒の周りに、綾角15°で約10gの張力を掛けて巻き付け、更に上述と同じ繊維30.5cmをこの円筒に掛けた。この時、この繊維は円筒の上にあり、円筒の巻き付け方向と平行にする。グラム数で表した荷重の値が円筒上に掛けた繊維の総デニールの0.04倍になる重りを円筒に掛けた繊維の片方の端に結び、他方の端にはストレインゲージを連結させた。次に円筒を0.017mm/秒の周速で回転させ、張力をストレインゲージで測定する。こうして測定した張力から繊維−繊維間静摩擦係数fを以下の式に従って求めた。
f=1/π×ln(T2 /T1 )
ここで、T1 は繊維に掛けた重りの重さ、T2 は少なくとも25回測定した時の張力、lnは自然対数、πは円周率を示す。
(11)繊維−繊維間動摩擦係数
上記(10)の測定法において、周速度を18m/分とした時のfを繊維−繊維間動摩擦係数とした。
【0093】
(12)繊維−金属間動摩擦係数
エイコー測器(株)製のμメーターを用いて下記の条件にて測定した。
摩擦体である、表面をクローム梨地(粗度3s)に仕上げた直径25mmの鉄製円筒に繊維を0.30cN/dtexの張力を掛けながら、繊維の摩擦体への入り方向と出方向を90°にして25℃、65%RHの雰囲気下、100m/分の速度で摩擦させた時の繊維の動摩擦係数μを以下の式に従って求めた。
μ=((360×2.303)/2πθ)×log10(T2 /T1 )
ここで、T1 :摩擦体への入り側の張力(デニール当たり0.4g相当の張力とする)
T2 :摩擦体より出側の張力
θ:90°
π:円周率
(13)バルジ率
図2−(イ)または図2−(ロ)に示す糸層(104)の最内層の巻幅Q及び、最も膨らんでいる部分の巻幅Rを測定して、以下の式に従って算出した。
バルジ率={(R−Q)/Q}×100%
【0094】
【実施例1〜5】
テレフタル酸ジメチルと1,3−プロパンジオールを1:2のモル比で仕込み、テレフタル酸ジメチルの0.1重量%に相当するチタンテトラブトキシドを加え、常圧下ヒーター温度240℃でエステル交換反応を完結させた。次にチタンテトラブトキシドを更に理論ポリマー量の0.1重量%、二酸化チタンを理論ポリマー量の0.5重量%添加し、270℃で3時間反応させた。得られたポリマーの極限粘度は0.9であった。
得られたポリマーを図3に示した装置を用いて、定法により乾燥し、水分を50ppmにした後、265℃で溶融させ、直径0.35mmの36個の孔の開いた一重配列の紡口を通して押し出した。
【0095】
押出された溶融マルチフィラメントは、長さ5cm、温度100℃の保温領域を通過後、風速0.4m/分の風を当てて急冷し固体マルチフィラメントに変えた。
固体マルチフィラメントにガイドノズルを用いて表1の仕上げ剤を濃度5重量%の水エマルジョン仕上げ剤として付与した後、固体マルチフィラメントを90℃に加熱した周速度3200m/分の第1ロールに6回巻き付けて熱処理を行った後、スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度3190m/分、巻取張力0.030cN/dtex、綾角5°にて直径124mm、厚み7mmの紙製の糸管に巻幅90mmにて6kg巻き取って100dtex/36fの繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
【0096】
得られた繊維物性を表2に記す。得られた繊維はいずれも本発明の範囲に相当するものであり、紡糸過程で糸切れ、毛羽の発生は認められなかった。また巻き取ったチーズ状パッケージは巻取機のスピンドルより容易に抜け、バルジ率も良好な範囲であった。
実施例1で得た繊維を用いて、帝人製機(株)SDS1200仮撚加工機にてセラミック製の加撚ディスクを4枚用いて、加工速度400m/分、ヒーター温度170℃、ディスク速度/糸速度の比(D/Y比)2.3、ドロー比(延伸倍率)1.3で延伸仮撚加工を行った。
仮撚加工の際に毛羽や糸切れは見られず、またPET並みの倦縮形態を有し、しかもPTT特有のソフトさ、弾性回復性を持った優れた仮撚加工糸を得ることができた。また3ヶ月後でも物性の経時変化はほとんど見られず、仮撚加工を行ったところ同じ条件で同品質の仮撚加工糸を得ることができた。
【0097】
【比較例1〜3】
表1に示したように仕上げ剤を変えて、実施例1と同様にして100dtex/36fの繊維を得た。得られた繊維物性を表1に記す。
比較例1は本発明の脂肪族エステルや非イオン性界面活性剤を用いずに、ポリエーテル−2を本発明の範囲より多く含んだ、PETの仮撚加工糸に用いられる仕上げ剤を使用した。また、比較例2では非イオン性界面活性剤として飽和アルキルエーテルの代わりにアルキルエーテルエステルを用い、ポリエーテル−2を本発明の範囲より多く含んだ仕上げ剤を使用した。いずれの場合も繊維−金属間の動摩擦係数が高く、繊維−繊維間の静摩擦係数が低い繊維となり、紡糸時に毛羽の発生や糸切れが見られた。またバルジ率も大きいものとなった。
比較例3は、平滑剤として脂肪族エステルを主として用い、非イオン性界面活性剤として飽和アルキルエーテルの代わりに多価アルコールエステルを用いた仕上げ剤を用いた。比較例3の仕上げ剤は脂肪族エステルとポリエーテル−1の合計量が本発明の範囲を越えるものである。この場合、繊維−金属間の動摩擦係数は低く、紡糸時に毛羽の発生や糸切れはみられなかったものの、繊維−繊維間の静摩擦係数が低い繊維となりバルジ率が大きいものとなった。
【0098】
【比較例4】
仕上げ剤の付着率を0.1重量%とした以外は実施例1と同様にして紡糸を行った。得られた繊維物性を表2に記す。仕上げ剤の付着量が少ないために、紡糸時に毛羽や糸切れが多発した。
【比較例5】
仕上げ剤の付着率を4重量%とした以外は実施例1と同様にして紡糸を行った。得られた繊維物性を表2に記す。仕上げ剤の付着量が多いために、ガイドやロールが汚れ紡糸時に毛羽や糸切れが発生した。またバルジ率の大きいチーズ状パッケージしか得られなかった。
【0099】
【実施例6、7】
表2の条件に従って、実施例1同様にして紡糸を行った。得られた繊維物性を表2に記す。得られた繊維はいずれも本発明の範囲に相当するものであり、紡糸過程で糸切れ、毛羽の発生は認められなかった。また巻き取ったチーズ状パッケージは巻取機のスピンドルより容易に抜け、バルジ率も良好な範囲であった。
【比較例6〜8】
表2の条件に従って、実施例1同様にして紡糸を行った。
【0100】
比較例6では熱処理を行わないため、密度が本発明の範囲より低く外れ、結晶性のピークも観察されない繊維となった。また比較例7では高速で巻き取ったために結晶性が高くなり密度が本発明の範囲より外れた。また巻取り張力が高くなったために繊維の放縮率も高くなった。比較例6、7の繊維ともに巻締まりが激しく、2kg巻き取ると巻取機のスピンドルよりチーズ状パッケージを抜き出すことができなかった。
また、比較例8では繊維を低速で巻取った。この繊維は密度が本発明の範囲より低く外れ、結晶性のピークも観察されない繊維であった。また複屈折率も本発明の範囲より外れていた。この繊維は配向性が低くかつ結晶化していないために室温で保存していても沸水収縮率などの物性が経時変化してしまうとともに、糸が脆くなってしまい、仮撚加工時に毛羽や糸切れが発生した。
【0101】
【表1】
【0102】
【表2】
【0103】
【発明の効果】
本発明のポリエステル繊維は、適度な配向性、結晶性および摩擦係数を兼ね備えた1段階にて製造できるPTT−POYである。このため巻締まりやバルジの発生を回避でき、巻姿の良好なチーズ状パッケージを工業的に製造することができる。また適度な摩擦係数を有し、かつ繊維が経時変化しにくいので、高速の仮撚加工においても長期間にわたって仮撚加工糸を安定して工業的に製造することができる。本発明のポリエステル繊維は1段階の紡糸工程のみで繊維を得ることができるために生産性が高く、低コストにて繊維を製造することができ、巻き量が多いために巻取時や加工時の切り替え工数が少なく製造作業を効率良く進めることができる。
本発明のPTT繊維を用いて製造した仮撚加工糸は、ソフトな風合いと高い伸縮伸長率、伸縮弾性率を持った極めて優れたストレッチ素材として好適な仮撚加工糸となる。このためいわゆるゾッキや交編タイプのパンティストッキング、タイツ、ソックス(裏糸、口ゴム)、ジャージー、弾性糸のカバリング糸、交編パンティストッキング等交編品の伴糸等に有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】(イ)結晶性に由来するピークの観察される広角X線回折チャートである。
(ロ)結晶性に由来するピークの観察されない広角X線回折チャートである。
【図2】本発明のポリエステル繊維を糸管に巻き付けたチーズ状パッケージの状態を示す略図である。
(イ)望ましいチーズ状パッケージの概略図である。
(ロ)バルジのあるチーズ状パッケージの概略図である。
【図3】本発明を実施する紡糸機の概略を示す模式図である。
【図4】本発明を実施する紡糸機の加熱ゾーンの概略図を示す模式図である。
【符号の説明】
1 乾燥機
2 押出機
3 ベンド
4 スピンヘッド
5 紡口パック
6 紡糸口金
7 保温領域
8 マルチフィラメント
9 冷却風
10 仕上げ剤付与装置
11 第1ロール
1 フリーロール
13 巻取機、パッケージ
13a スピンドル、パッケージ
13b タッチロール
14 紡糸チャンバー
15 繊維を加熱するゾーン
16 第2ロール
17 第1ネルソンロール
18 第2ネルソンロール
19 第1ヒーター
20 第2ヒーター
Claims (7)
- 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)〜(E)の要件を満足することを特徴とする繊維であり、かつ、該繊維の表面に下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤が0.2〜3重量%付着している繊維であって、さらに次式
G=F/Fμs−0.00383×d
で示される繊維−繊維間の静摩擦係数F/Fμsと繊維の総繊度d(dtex)より計算した繊度補正静摩擦係数Gが0.06〜0.25であり、かつ、繊維−金属間の動摩擦係数F/Mμdが0.15〜0.30であることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維。
(A)密度 : 1.320〜1.340g/cm3
(B)複屈折率 : 0.030〜0.070
(C)熱応力のピーク値 : 0.01〜0.12cN/dtex
(D)沸水収縮率 : 3〜40%
(E)破断伸度 : 50〜120%
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加し た化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エ ステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。) - 非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とする請求項1記載のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維。
- 請求項1又は2のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維が巻き付けられ、バルジ率が15%以下であることを特徴とする、チーズ状パッケージ。
- 巻き付けられている繊維の放縮率が0〜0.30%であることを特徴とする請求項3記載のチーズ状パッケージ。
- 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートを溶融紡糸する方法において、紡口より押出した溶融マルチフィラメントを急冷して固体マルチフィラメントに変えた後、該マルチフィラメントに対して0.2〜3重量%となるように下記(P)〜(S)の要件を満足する仕上げ剤を付与し、その後50〜170℃で熱処理を行った後、0.02〜0.20cN/dtexの巻取張力にて2000〜4000m/分の速度で巻き取ることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
(P)炭素数4〜30のアルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加し た化合物から選ばれた一種以上の非イオン性界面活性剤が5〜50重量%。
(Q)イオン性界面活性剤が1〜8重量%
(R)下記に示される脂肪族エステル、ポリエーテル−1の1種類以上を含み、脂肪族エ ステルとポリエーテル−1との和が40〜70重量%。
(S)下記に示されるポリエーテル−2が0〜10重量%。
脂肪族エステル : 分子量300〜700の脂肪族エステル。
ポリエーテル−1 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜70/30、分子量が1300〜3000であるポリエーテル。
R1 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R2
(式中、R1 、R2 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は1〜50の整数である。)
ポリエーテル−2 : 下記の構造式で示される、エチレンオキシド単位とプロピレンオキシド単位が共重合され、プロピレンオキシド単位/エチレンオキシド単位が重量比20/80〜80/20、分子量が5000〜50000であるポリエーテル。
R3 −O−(CH2 CH2 O)n1−(CH(CH3 )CH2 O)n2−R4
(式中、R3 、R4 は水素原子、炭素数1〜50までの有機基であり、n1、n2は50〜1000の整数である。) - 非イオン性界面活性剤が、炭素数4〜30の脂肪族アルコールにエチレンオキシド又はプロピレンオキシドが付加した飽和アルキルエーテルから選ばれた一種以上であることを特徴とする請求項5記載のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
- 濃度2〜10重量%の水エマルジョンにて繊維に仕上げ剤を付与することを特徴とする請求項5または6記載のポリトリメチレンテレフタレート部分配向繊維の製造方法。
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