JP7277680B1 - ポリトリメチレンテレフタレート繊維およびその製造方法 - Google Patents

ポリトリメチレンテレフタレート繊維およびその製造方法 Download PDF

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Abstract

本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維は、温度40~100℃の範囲内に繊維の熱応力のピーク値が存在し、ピーク値が0.1~0.8cN/dtexであり、破断伸度が60~200%の繊維である。そして本発明の繊維の製造方法は、ポリトリメチレンテレフタレートを溶融固化した後、1000m/分以上の巻取り速度で巻き取り、ガラス転移点±20℃の加熱ローラーで加熱し、1.0~2.0倍延伸を行い、さらに50~150℃の加熱ローラーに巻き付けた後、2000~4800m/分の速度で巻き取る製造方法である。

Description

本発明は、加工性に優れたポリトリメチレンテレフタレート繊維およびそれらの製造方法に関するものである。より詳細には高伸度で高い収縮応力を有し、加工時の工程通過性に優れたポリトリメチレンテレフタレート繊維およびそれらの製造方法に関する。
テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルに代表されるテレフタル酸の低級アルコールエステルと、トリメチレングリコール(1,3-プロパンジオール)を重縮合させて得られるポリトリメチレンテレフタレート(以下「PTT」と略すことがある)は、それを用いた繊維が、低弾性率(ソフトな風合い)、優れた弾性回復性、易染性といったポリアミドに類似した性質と、耐光性、熱セット性、寸法安定性、低吸水率といったポリエチレンテレフタレート(以下「PET」と略すことがある)繊維に類似した性能を併せ持つポリマーであり、その特徴を生かしてBCFカーペット、ブラシ、テニスガット等に応用されている。
そして、このポリマーからなるポリトリメチレンテレフタレート繊維(以下「PTT繊維」と略すことがある)の上記の特性を生かすための繊維形態として、種々の加工糸が知られている。中でもPTT繊維の仮撚加工糸は、PTT繊維と類似の分子構造を有する繊維、例えばPET繊維等の他のポリエステル繊維に比較して、弾性回復性、ソフト性に富み、ストレッチ用原糸として極めて優れたものとなることが期待されている。
しかしながら、従来のPTT繊維は弾性回復性が高く、ソフト性に優れるという本質的な利点は有しているものの、加工、特に単繊維繊度の小さいPTT繊維を加工しようとする場合の工程通過性が低いという問題があった。
そのため加工方法が限定され、特に捲縮性能などの加工糸の特徴を、十分に高めることができないという問題があった。
例えば汎用繊維であるPET繊維では、生産速度の高い部分配向糸(以下「POY」と略すことがある)を用いた各種の加工糸の製造方法が広く実施されている。特に延伸仮撚加工(いわゆる「POY-DTY加工」)等の、部分配向糸を用いた製造方法では、生産性も高く、捲縮性能に優れた加工糸が得られる。
そのためPET繊維と類似の性質を有するPTT繊維に関しても、PTTの部分配向繊維(以下「PTT-POY」と略すことがある)を用いた加工方法が、種々試みられてきた。
例えば特許文献1では、その繊維の工程通過性を向上させるために、特定の仕上げ剤を付与し、3300m/分で巻き取った、複屈折率が0.059、伸度71%のPTT-POY繊維が提案されている。また特許文献2には、特定の仕上げ剤を付与し、3500m/分で巻き取った複屈折率が0.062、伸度74%のPTT-POYが開示されている。
しかしながら、上記の特許文献に開示されているPTT-POY繊維では、繊維を巻き取った糸管上で糸が大きく収縮して糸管を締め付けるために、糸管が変形し、チーズ状のパッケージを巻取機のスピンドルより取り外すことができなくなるという問題があった。そしてこのような変形を防止するために、たとえ強度の大きい糸管を使ってその変形を抑えたとしても、糸管のパッケージ側面が膨れる、バルジと呼ばれる現象が見られたり、チーズの内層で糸が堅く締まったりする現象が発生した。さらに糸管から糸を解舒する時の張力が高くなると共に、張力変動も大きくなり、PTT-POY繊維を用いた加工時には、毛羽、糸切れが多発したり、捲縮むらや染色むらが発生したりする問題があった。
このような課題を解決するため、特許文献3では、巻取り前に熱をかけ、歪を小さくする検討が行われている。また特許文献4では、生産性を落とした2500m/分より低い紡速での部分配向糸の検討がなされている。逆に特許文献5では、紡速4500~8000m/分の高速で引き取り、熱応力のピーク温度を下げた繊維が提案されている。
しかしながら、上記のPTT繊維はいずれも工程通過性に問題があった。さらにPTT繊維を用いた従来の部分配向糸(POY)では、最終的に高い捲縮性能を有する加工糸を作製することは困難であった。
特開平11-229276号公報 国際公開第1999-39041号パンフレット 特開2001-254226号公報 特開2015-7306号公報 特開2001-348729号公報
本発明は上記の背景に鑑みなされたものであり、その目的は、加工性に優れた柔軟なポリトリメチレンテレフタレート繊維およびその製造方法を提供することにある。
本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維は、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレート繊維であって、下記(A)~(C)の要件を同時に満足することを特徴とする。
(A)繊維の温度-熱応力曲線において、温度40~100℃の範囲内に熱応力のピーク値が存在する
(B)(A)の該熱応力のピーク値が0.1~0.8cN/dtexである
(C)繊維の破断伸度が60~200%である。
さらには、繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率が0.1~3cN/dtexであることや、繊維の複屈折率(Δn)が0.03以上、0.08以下であり、かつ比重が1.319以上1.340以下であることが好ましい。
またもう一つの本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法は、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートを溶融固化した後、1000m/分以上の巻取り速度で巻き取り、引き続いてポリトリメチレンテレフタレートのガラス転移点±20℃の加熱ローラーで加熱し、続いて1.0~2.0倍延伸を行い、さらに50~150℃の加熱ローラーに巻き付けた後、2000~4800m/分の速度で巻き取ることを特徴とする。
さらに本発明は上記のポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いてなる加工糸や、その加工糸が仮撚加工糸であること、およびその加工糸の製造方法を内包する。
本発明によれば、強度と加工性に優れたポリトリメチレンテレフタレート繊維およびその製造方法が提供される。
繊維の温度-熱応力曲線における、熱応力の極大値を説明するための模式図である。 最大捲縮応力及び捲縮最大伸度の測定方法を説明するための模式図である。 異型断面糸形状、異型度の例を示した模式図である。 扁平断面糸形状、異型度の例を示した模式図である。
以下、本発明について詳細を説明する。
(1)ポリマー原料
本発明に用いるポリマーについて説明する。本発明の繊維となるポリエステルポリマーは、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返し単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレート(PTT)である。ここでPTTとは、テレフタル酸を酸成分とし、トリメチレングリコール(1,3-プロパンジオールともいう)をジオール成分としたポリエステルである。該PTTには、10モル%以下で他の共重合成分を含有していてもよい。
そのような共重合成分としては、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、5-カリウムスルホイソフタル酸、3,5-ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩、3,5-ジカルボン酸ベンゼンスルホン酸トリブチルメチルホスホニウム塩、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6-ヘキサメチレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、アジピン酸、ドデカン二酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸等のエステル形成性モノマーが挙げられる。
また、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、艶消し剤、熱安定剤、消泡剤、整色剤、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、結晶核剤、蛍光増白剤などを共重合、または混合してもよい。
本発明に用いるポリマーの極限粘度[η]は0.5~1.5が好ましく、さらに好ましくは0.75~1.2である。この範囲で強度、紡糸性に優れた繊維を得ることができる。極限粘度が0.5未満の場合は、ポリマーの分子量が低すぎるため紡糸時や加工時の糸切れや毛羽が発生しやすくなるとともに、仮撚加工糸等に要求される強度の発現が困難となる。逆に極限粘度が1.5を越える場合は、溶融粘度が高すぎるために紡糸時にメルトフラクチャーや紡糸不良が生じるので好ましくない。なお、極限粘度[η]は、発明の実施の形態の項で後述する測定値である。
本発明に用いるポリマーの製法としては公知の方法をそのまま用いることができる。即ち、テレフタル酸またはテレフタル酸ジメチルとトリメチレングリコールとを原料とし、チタンテトラブトキシド、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、酢酸コバルト、酢酸マンガン、二酸化チタンと二酸化ケイ素の混合物といった金属塩の1種あるいは2種以上を加え、常圧下あるいは加圧下で反応させ、次にチタンテトラブトキシド、酢酸アンチモンといった触媒を添加し、250~270℃で減圧下反応させる。重合の任意の段階で、好ましくは重縮合反応の前に、安定剤を入れることが白度の向上、溶融安定性の向上、PTTオリゴマーやアクロレイン、アリルアルコールといった分子量が300以下の有機物の生成を制御できる観点で好ましい。この場合の安定剤としては、5価または/および3価のリン化合物やヒンダードフェノール系化合物が好ましい。

(2)ポリトリメチレンテレフタレート繊維
本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)は、上記の90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返し単位から構成されるポリマーからなるものである。なおこのようなPTT繊維は、例えば後述する方法により溶融紡糸、延伸、加熱することにより得ることができる。
そして、本発明のPTT繊維は、下記(A)~(C)の要件を同時に満足する必要がある。
(A)繊維の温度-熱応力曲線において、温度40~100℃の範囲内に熱応力のピーク値が存在すること。
(B)上記の(A)の該熱応力のピーク値が0.1~0.8cN/dtexであること。
(C)繊維の破断伸度が60~200%であること。
先ず、本発明のPTT繊維は、繊維の温度-熱応力曲線において、温度40~100℃の範囲内に熱応力(以下では「熱収縮応力」ということがある)の極大値(最大値)となるピーク値が存在することが必要である。ここで、熱応力のピーク値とは、図1に示す如く繊維の温度-熱応力曲線を描いた時、該温度-熱応力曲線の微分係数が正から負へ変化する点に対応する熱応力の最大(ピーク)となる値を言う。また、熱応力の極大値とは全温度範囲のおける各ピーク値の最大となる値を言う。
該熱応力のピーク値が40℃よりも低い範囲にしかない場合、繊維が巻き取った後に大きく収縮し、巻締まりが発生してしまう。また該熱応力のピーク値が100℃よりも高い範囲にしかない場合、結晶化度が高くなりすぎ、加工糸としても、PTT繊維に由来する柔らかな特性が得られない。特に仮撚加工糸とする場合には、高い捲縮性を付与することが困難となる。該熱応力のピーク値が存在する好ましい範囲は50℃を越え、100℃以下である。
尚、該熱応力のピーク値は、上述のように、温度40~100℃の範囲に存在していれば、例えば100℃以上の範囲等にもう1ヶ所以上ピークが存在していても構わない。この際、100℃以上の範囲に存在する熱応力のピーク値は、温度40~100℃の範囲に存在する熱応力のピーク値より大きくても小さくても良いが、好ましくは温度40~100℃の範囲のピーク値が各ピークの極大値の最大値であることが好ましい。
本発明のPTT繊維では、上記熱応力のピーク値は0.1~0.8cN/dtexの範囲内とする必要がある。さらには0.11~0.6cN/dtexであることが、さらには0.13~0.5cN/dtex、特には0.15~0.4cN/dtexの範囲内であることが好ましい。該熱応力のピーク値が小さすぎると加工時の張力が下がり、捲縮等が小さくなってしまう。一方、該熱応力のピーク値が大きすぎる場合は加工時の張力が高くなりすぎ、糸切れの原因となったり、柔らかさが失われる。
また、本発明のPTT繊維の破断伸度は60~200%であることが必要である。該破断伸度が60%未満では伸度が低すぎるために、紡糸時や加工時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる。一方、該破断伸度が200%を越える場合は、繊維の配向度が低すぎるために経時変化しやすく、また室温で保管していても繊維が非常に脆くなってしまう。その場合には工業的に品質の一定した加工糸を、安定して得ることができない。破断伸度の好ましい範囲は70~180%、より好ましい範囲は75~150%、特に好ましい範囲は80~130%の範囲内である。
そして本発明のPTT繊維では、40~100℃の温度範囲内に、0.1~0.8cN/dtexの熱応力のピークがあることが最大の特徴である。本発明のPTT繊維は、この範囲内に熱収縮応力のこのようなピークがあることにより、配向度に比較して、結晶化度が抑えられた繊維となっている。逆に、PTT繊維の結晶化度が高くなりすぎると、100℃以上の高温側の熱応力のピークが大きくなり、またその熱応力のピークの値も、0.8cN/dtexを超える傾向にある。また熱応力のピークの値が、0.1cN/dtex未満となる場合、配向度が少なく、その後の工程通過性が悪化し、十分な加工を行うことができない。特に仮撚加工による捲縮性能は実用には不十分なレベルとなる。
本発明のPTT繊維では、熱応力のピーク温度および応力の値が適切な範囲となることによって、巻き締りやその後の加工時における断糸が発生せず、加工性の優れた繊維となった。さらには特に延伸仮撚加工を行った場合に、加工性及び捲縮性能が両立した優れた繊維となった。
このような本発明のPTT繊維の単繊維繊度は0.3~6.0dtexであることが好ましく、さらに好ましくは0.5~3.2dtex、特に好ましくは0.6~3.0dtexである。単繊維繊度が大きすぎる場合、単糸が太いことによって布帛柔らかさが失われる。また単繊維繊度が0.3dtexよりも小さい場合、糸切れが頻発し繊維を製造することが困難となる。
さらに、本発明のPTT繊維を紡糸する際のフィラメント数としては3~500本であることが好ましく、さらに好ましくは5~300本、特に好ましくは10~200本である。そしてこれらのフィラメントからなる糸条の総繊度としては10~200dtexであることが好ましく、さらに好ましくは20~150dtexである。該総繊度が小さすぎる場合は総繊度が細すぎて、その後の加工が困難となる。一方、該総繊度が大きすぎる場合、加工後の加工糸を用いた布帛の柔らかさが失われるため好ましくない。
さらに、本発明のPTT繊維の65℃温水中での収縮率は1~50%であることが好ましい。この65℃温水収縮率が高すぎる場合は、構造が固定されず、室温で保存していても繊維が脆くなり毛羽、糸切れの発生なく安定して加工糸を生産することができなくなる場合がある。また65℃温水中での収縮率が低すぎる場合は、結晶化が進行しているために繊維が脆くなったり、変形しにくくなったりするため、毛羽、糸切れが多発し仮撚加工が困難となる。
さらに、本発明のPTT繊維の繊度変動値U%は0~2%であることが好ましい。ここでPTT繊維の繊度変動値U%は、ツェルベガーウスター株式会社製USTER TESTERUT-5より、ハーフInertモードで繊維試料の質量の変動より求めた値である。該装置では電極間に繊維試料を通した際の誘電率の変化により質量の変動を測定することができる。一定速度にて繊維を該装置に通すとむら曲線が得られるので、この結果より繊度変動値U%(hi%)を求めることができる。繊度変動値U%(hi%)が2%を越えると、仮撚加工時に毛羽や糸切れが多発したり、染めムラや倦縮ムラの大きい加工糸しか得られなくなる場合がある。繊度変動値U%(hi%)は1.5%以下であることが好ましく、更に好ましくは1.0%以下である。U%は低いことが好ましい。
さらに、本発明のPTT繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率は0.1~3cN/dtexの範囲であることが好ましい。さらには0.1~2cN/dtexの範囲にあることが好ましい。伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率が低すぎる場合、加工時の張力が下がり、捲縮が小さくなってしまったり、糸加工の際に張力が安定せず染色斑の原因となるため好ましくない。一方、該弾性率が大きすぎる場合、加工時の張力が大きくなり、糸切れの原因となったり、柔らかさが失われるため好ましくない。
さらに、本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維の複屈折率(Δn)は0.03以上、0.08以下であることが好ましい。複屈折率(Δn)が小さすぎると、例えば後の延伸を伴う加工において糸条の工程通過性が低下する傾向にある。さらには仮撚加工後の捲縮性能が、不十分となりやすい傾向にある。一方、複屈折率(Δn)が大きすぎると、巻き締りが起きやすく、紡糸や後加工時の工程通過性が低下する。
さらに、本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維の比重は1.319以上、1.340以下であることが好ましい。なおここで、繊維の比重は結晶化度に比例する。比重が小さい場合、巻き締りが起こりやすくなる。特に延伸を伴う加工において、加工が困難となる。一方、比重が大きい場合、毛羽が多発するので好ましくない。さらに後加工が仮撚加工の場合には、捲縮がかかりにくくなる傾向にある。
本発明のPTT繊維の断面形状は工程安定性の観点からは中実丸断面であることが好ましいが、異型断面繊維や中空繊維であってもよい。例えば、本発明のPTT繊維としては、十字型断面や三角断面、或いは星形断面などの異型断面繊維、または扁平断面繊維から構成することもでき、こうすれば独特の風合いを得ることができるので好ましい。ただし異型度や扁平度が大きすぎると、紡糸時、毛羽が発生しやすくなり安定性が不良となる傾向にはある。
このような本発明のPTT繊維は、熱応力のピーク値が存在する温度範囲やそのピーク値(極大値)、および破断伸度が適切な数値範囲にある繊維であって、適度な非晶部の配向性と結晶化度を兼ね備えた繊維となる。このような本発明のPTT繊維は、特に高速での延伸加工を含む後加工に好ましく用いられる。特には延伸仮撚加工において、加工前及び加工後の、繊維糸条の巻き締りを抑えることができる。さらにPTT繊維を用いたPOY-DTY加工を行うことにより、高い捲縮性能の加工糸を得ることができ、加工糸の捲縮が伸長される過程での弾性率(最大捲縮応力)が大きく、優れたストレッチバック性を有する仮撚加工糸が得られる。
さらに本発明のPTT繊維は、繊維の単糸繊度を低くしても安定した加工が可能であって、風合いのソフトな布帛の製造にも、最適に用いられる。また本発明のPTT繊維は、後加工前の部分配向糸の状態でも長期間にわたって安定した物性を保っており、工業的に特に有用である。

(3)ポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法
このようなポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)は、溶融後固化したポリトリメチレンテレフタレート(PTT)を、1000m/分以上の巻取り速度で巻き取ったのち、PTTのガラス転移点±20℃の加熱ローラーで加熱し、続いて1.0~2.0倍延伸を行い、50~150℃の加熱ローラーに巻き付けたのち2000~4800m/分の速度で巻き取ることによって得られる。
溶融後固化したPTTポリマーの紡糸口金からの紡出直後の巻取り速度としては1000m/分以上の速度が必要であるが、さらには1000~4000m/分、特には1300~3000m/分の速度であることが好ましい。この時1000m/分未満で巻き取った場合は、PTTの主に非晶部の配向が小さく、最終的に十分な部分配向を有するPTT糸を得ることができない。また原糸の巻き締りが大きくなり、熱収縮応力の極大値も小さな値となる。その場合、後の仮撚加工等において、高い捲縮性能を得ることができない。
また一旦巻き取った後のPTT繊維を延伸の直前に処理する温度は、PTTのガラス転移点±20℃の範囲の低温加熱であることが必要である。さらにはガラス転移点マイナス20℃、プラス10℃の範囲であることが、特にはガラス転移点マイナス15℃、プラス5℃の範囲であることが好ましい。繊維をガラス転移点-20℃未満の低温とした場合、延伸時に繊維がネッキングを起こして延伸点が安定せず、糸斑が大きくなる。さらにはネッキングによって繊維が発熱し、ネッキング部分がガラス転移点+20℃を超えた高温となる傾向にある。一方、ガラス転移点+20℃より高い温度の加熱ローラーで加熱処理した場合、延伸張力が低下し、走行糸の揺れが安定せず、糸同士が接触し、糸切れの原因となる。なお、ポリトリメチレンテレフタレート(PTT)のガラス転移点は、同じポリエステル繊維のポリエチレンテレフタレート(PET)と異なりジグザク状の分子構造をしているため、55℃以下の低温である。
また、この本発明の製造方法におけるガラス転移点±20℃の加熱ローラーでの加熱処理では、自己駆動している金属ロールに複数回巻き付け、繊維を安定的に適切な温度範囲とすることが好ましい。
さらに上記の低温加熱ローラ―処理の前には、ポリマーを溶融固化する際に風を当てて急冷することや油剤を付着処理することによって、一旦繊維の温度を下げておくことが好ましい。
またこの延伸処理直前の低温加熱するローラーの周速度としては、1000~4000m/分の速度であることが好ましく、さらには1300~3000m/分、特には1700~2500m/分の速度であることが好ましい。
そして本発明のPTT繊維の製造方法では、この低温加熱ローラーでの処理に続いて1.0倍~2.0倍に延伸する必要がある。延伸倍率が1.0倍よりも小さい場合、すなわち延伸しない場合には、ポリマーの非晶部の配向度が低くなり、繊維が弛んで紡糸できないなどの問題が発生する。一方、延伸倍率が2.0倍よりも大きい場合、結晶化度が大きくなりすぎ、有効な後加工を行うことが困難となる。例えば延伸仮撚加工では、高い捲縮性を付与できないこととなる。さらにはこの低温延伸での延伸倍率としては、1.03倍より大きく2.0倍未満であることが好ましく、さらには1.05倍~1.8倍、特には1.1倍~1.6倍の範囲にあることが好ましい。
本発明の製造方法では、このようにガラス転移点近傍の比較的低温にて延伸することが重要である。ちなみに通常の高温加熱延伸では、ポリマー分子の配向や結晶化度が高くなり、熱応力のピークの極大値が100℃以上の高温側に移動することとなる。このような繊維では破断伸度が低くなり、有効な後加工、特に延伸を伴う仮撚捲縮加工などの後加工が困難となる。
続いて本発明の製造方法では低温での延伸後、50~150℃の加熱ローラーで加熱する必要がある。ここでも加熱ローラーによる処理としては、自己駆動している金属ロールに繊維を複数回巻き付けることが好ましい。50℃より低い場合、結晶化度が不十分で、巻取後の糸が緩み、安定した巻取ができない。また150℃よりも高い温度で加熱ローラーに巻きつけた場合、結晶化度が高くなりすぎ、糸加工時張力が高くなり、後加工時に延伸倍率を高くできない。例えば延伸仮撚加工では、十分な捲縮が付与できないこととなる。
本発明のPTT繊維の製造方法においては、このようなガラス転移点近傍の比較的低温での延伸と熱固定を引き続き行うことによって、保存時の安定性や後加工性が向上する。また得られたPTT繊維は、従来公知のPET-POYと類似した性質を有し、工程通過性に優れたPTT部分配向繊維となる。
さらにこの加熱ローラーに巻き付けたのちの溶融後固化したPTT繊維の最終的な巻取り速度としては2000m/分から4800m/分の範囲であることが必要である。さらには2200m/分から4000m/分、特には2400m/分から3500m/分の範囲であることが好ましい。この最終的な巻取り速度が2000m/分よりも小さな場合、繊維の配向が低いために、特に繊維を高温高湿下で保存した場合、繊維が脆くなり、繊維の取扱や延伸仮撚加工が困難となる。一方、溶融後固化したPTT繊維の巻取り速度が4800m/分を越える場合、結晶化が進み、繊維の伸度が低くなりすぎるために、のちの各種の後加工に適さなくなる。また紡糸時や仮撚加工時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる。
また巻取る時の張力は、0.02~0.20cN/dtexであることが好ましい。従来行われてきたPETやナイロン等の溶融紡糸でこのように低い張力で巻き取ろうとすると、糸の走行が安定せず、糸が巻取機のトラバースから外れたりして糸切れが発生したり、オートワインダーなどで巻糸を次の糸管に自動で切り替える時に切替ミスが発生したりした。
しかしながら、PTT繊維では極低い張力で巻取ってもこのような問題が発生せず、しかも低い張力とすることで巻締まりなくより良好な巻姿のチーズ状パッケージを得ることができる。ただし、張力が低すぎると巻取機の綾振りガイドでの綾振りが困難となり、バルジが発生するなどのパッケージ不良となってしまったり、トラバースより糸が外れ、糸切れが起こったりする傾向にある。逆に張力が高すぎると、経時により巻締まりが強くなる傾向にある。巻取るときの張力はさらに好ましくは0.025~0.15cN/dtex、特に好ましくは0.03~0.10cN/dtexである。
本発明では、紡糸過程で必要に応じて、交絡処理(インターレース)を行ってもよい。交絡処理は、仕上げ剤付与前、熱処理前、巻取前のいずれか、あるいは複数の場所で行っても良い。
本発明に用いる巻取機としては、スピンドル駆動方式、タッチロール駆動方式、スピンドルとタッチロールの双方が駆動している方式のいずれの巻取機でもかまわないが、スピンドルとタッチロールの双方が駆動している方式の巻取機が糸を多量に巻き取るためには好ましい。タッチロールあるいはスピンドルどちらか一方のみが駆動する場合、他方は駆動軸からの摩擦により回転しているため、スピンドルに取り付けられている糸管とタッチロールでは滑りにより表面速度が異なってしまう。このためタッチロールからスピンドルに糸が巻き付けられる際、糸が伸ばされたり、ゆるんだりしてしまい張力が変わって巻姿が悪化してしまったり、糸がこすられてダメージを受けたりしやすい。スピンドルとタッチロールの双方が駆動することによりタッチロールと糸管の表面速度の差を制御することが可能となって滑りを減らすことができ、糸の品質や、巻姿を良好にすることができる。
繊維を巻取る際の綾角は3.5~11°であることが好ましい。3.5°未満では糸同士があまり交差していないために滑りやすく、綾落ちやバルジの発生が起こりやすい。また11°を越えると糸管の端部に巻かれる糸の量が多くなるために中央部に比べ端部の径が大きくなる。このため巻取っている際は端部のみがタッチロールに接触してしまい糸品質が悪化してしまったり、また巻き取った糸を解舒する際の張力変動が大きくなり、毛羽や糸切れが多発したりしてしまう。綾角は4~10°が更に好ましく、特に好ましいのは5~9°である。このようにして、本発明の特定のポリエステル繊維からなるチーズ状パッケージが得られる。
このような本発明の製造方法にて得られたPTT繊維は、繊維を構成するポリマー分子が適度に配向したいわゆる部分配向繊維(POY)と言われる繊維となる。通常のポリエステル繊維のPOYの製造方法では、溶融吐出後の引取り速度(紡糸速度)が2500m/分以上の高速紡糸のみだけで行われ、伸度が低下する延伸処理は通常行われない。しかし本発明ではPTTの保存安定性や加工性を向上させるために、ガラス転移点近傍の比較的低温での延伸とさらに高温での熱処理を必須要件としている。本発明の製造方法では、このように低温での延伸に引き続き熱処理をすぐに行っており、PTT繊維の保存安定性を高める効果を有する。

(4)ポリトリメチレンテレフタレート繊維からなる加工糸
本発明の加工糸は、上記のポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)を用いてなる加工糸である。さらにはこの本発明の加工糸が仮撚加工糸であることが好ましい。
そして好ましい本発明の一態様である仮撚加工糸としては、下記物性を満足するものであることが好ましい。
すなわち、ポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸(以下「PTT仮撚加工糸」ということがある)としては、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(1)~(6)の要件を同時に満足することが好ましい。
(1)単繊維繊度:3.2dtex以下
(2)破断強度≧2.5cN/dtex
(3)破断伸度:20~80%
(4)最大捲縮伸度≧150%
(5)最大捲縮応力≧0.020cN/dtex。
さらには本発明のPTT仮撚加工糸の単繊維繊度は3.2dtex以下であることが好ましい。さらには0.1dtex以上であることや、0.3~3.2dtexであることが、より好ましくは0.5~3.0dtex、さらに好ましくは0.6~2.4dtexである。該単繊維繊度が3.2dtexよりも大きい場合、単糸が太いことによって布帛柔らかさが失われる。また該単繊維繊度が小さすぎる場合、糸切れが頻発し繊維を製造することができない。
また、本発明のPTT仮撚加工糸の破断強度は2.5cN/dtex以上であることが好ましい。より好ましくは2.5~4.0cN/dtexの範囲、特には2.7~3.7cN/dtexの範囲であることが好ましい。該破断強度が2.5cN/dtexよりも小さい場合には、実用上の使用が困難になる。
また、本発明のPTT仮撚加工糸の破断伸度は20~80%であることが好ましい。さらには22~70%であることや、特には26~60%の範囲であることが好ましい。該破断伸度が20%未満では伸度が低すぎるために、紡糸時や仮撚加工時に毛羽や糸切れが発生しやすくなる傾向にある。一方、該破断伸度が80%を越える場合は繊維の塑性変形が大きくなりすぎてしまい、形態安定性が悪くなる傾向にある。
また、本発明のPTT仮撚加工糸の最大捲縮伸度は150%以上であることが好ましい。該最大捲縮伸150%未満では捲縮伸度が低く十分なストレッチ性がえられない傾向にある。
また、本発明のPTT仮撚加工糸の最大捲縮応力は0.020cN/dtex以上であることが好ましい。該最大捲縮応力が0.020cN/dtex未満の場合は捲縮応力が低くなりストレッチバック性が弱くなる傾向にある。
従来、このように細く、風合いや肌触りに優れたPTT繊維でありながら、捲縮特性に優れ破断伸度の大きな安定した品質のPTT繊維加工糸は、得られていなかった。本発明では、熱応力の極大値が存在する温度範囲やその極大値、および破断伸度が適切な数値範囲にあるPTT繊維を後加工に用いることによって、はじめてこのような物性の後加工糸を得ることが可能となった。PTT繊維の特徴である低荷重でも伸びやすい伸縮性に優れたポリエステル加工糸が得られたのである。
さらに、本発明のPTT仮撚加工糸の繊度変動値U%(ノーマル%)は2.0%以下であることが好ましい。該繊度変動値U%(ノーマル%)が2.0%を越える場合、特に仮撚加工時に毛羽や糸切れが多発し、染めムラや倦縮ムラの大きい仮撚加工糸となる傾向にある。U%(ノーマル%)は1.5%以下であることが好ましい。このU%は低いほど良い。
ここでの仮撚加工糸の繊度変動値U%(ノーマル%)は、ツェルベガーウスター株式会社製ウースターテスターUT-5により繊維試料の質量の変動より求めた値である。該装置では電極間に繊維試料を通した際の誘電率の変化により質量の変動を測定することができる。一定速度にて該装置を通すとむら曲線が得られる。この結果より繊度変動値U%(ノーマル%)を求めることができる。
さらに、本発明のPTT仮撚加工糸の総繊度は10~200dtexであることが好ましく、さらに好ましくは15~150dtex、特には20~60dtexの範囲である。該総繊度が10dtexよりも小さい場合は総繊度が細すぎて、加工糸とすることが難しい。一方、該総繊度が200dtexよりも大きい場合、布帛の柔らかさが失われるため好ましくない。
さらに、本発明のPTT仮撚加工糸は、十字型断面や三角断面、或いは星形断面などの異型断面繊維から構成することもでき、こうすれば独特の風合いを得ることができるので好ましい。ここで異型断面繊維の異型度とは、図3に示す如く、繊維断面の最大内接円径rと最小外接円径Rを測定して、異型度=R/rで算出した値であり、本発明においては、異型度=R/rの値は1.15~10.0が好ましく、1.2~10.0がさらに好ましい。該異型度が1.15未満では、丸断面との差が小さくなるため好ましくない。また、異型度が10.0を越えると、紡糸時に糸断面形状外側と内側で配向差などが大きくなり、得られた糸は毛羽・タルミが多く、加工に適さない場合があるため、好ましくない。
また、本発明のPTT仮撚加工糸は扁平断面繊維から構成することもでき、こうすれば独特の風合いを得ることができるので好ましい。ここで扁平断面繊維の扁平度とは、図4に示す如く、繊維断面に外接する長方形を描き、その長辺Lと短辺Hを測定して、扁平度=L/Hで算出した値であり、本発明においては、扁平度=L/Hの値は2.0~10.0であることが好ましい。該扁平度が2.0未満では、丸断面との差が小さくなるため好ましくない。また、該扁平度が10.0を越えると、紡糸時、毛羽が発生しやすくなり安定性が不良となることから好ましくない。

(5)ポリトリメチレンテレフタレート繊維からなる加工糸の製造方法
上記のような本発明のPTT加工糸は、上記の本発明のポリトリメチレンテレフタレート繊維(PTT繊維)を経て加工することによって製造することが可能となる。さらには本発明の加工糸としては、本発明のPTT繊維を経て仮撚加工することによって製造する、仮撚加工糸であることが好ましい。
すなわち本発明のPTT加工糸は、90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(A)~(C)の要件を同時に満足するPTT繊維を後加工することにより、得ることができる。
(A)繊維の温度-熱応力曲線において、温度40~100℃の範囲に熱応力の極大値が存在する
(B)(A)の該熱応力の極大値が 0.1~ 0.8cN/dtexである
(C)伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率が0.1~2cN/dtexである。
上記、(A)から(C)の各要件は、先に述べた本発明のPTT繊維の構成要件と同様である。
さらには本発明のPTT加工糸の製造方法では、先に述べたPTT加工糸の物性を有するものとすることが好ましい。
本発明においては、上記のPTT繊維を、例えば下記の条件で仮撚加工することにより、目的とするPTT仮撚加工糸を得ることができる。
・仮撚条件
仮撚機のタイプ:TMTマシナリー株式会社製HTS-15V(ディスク仮撚方式)
ディスク回転数:1000~20000rpm(ディスク直径3~10cm)
フィード速度:500~1000m/分
第1フィード率:-5.0~+5.0%
第1ヒーター温度(非接触式):200~300℃
第2ヒーター温度(非接触式):150~250℃
第2フィードニップローラー速度:600~1500m/分
第2フィード率:-5.0~+5.0%
巻取前フィード率:-5.0~+5.0%
上記のディスクタイプの延伸仮撚加工以外でも、ベルトニップタイプ等のフリクションタイプの仮撚加工機が、本発明のPTT繊維の特徴を生かした生産性の高い高速での延伸仮撚加工に適している。なお、従来型のピンタイプ、エアー加燃タイプ等の仮撚加工機であっても、用いることは可能である。
先に述べた本発明のPTT繊維は、熱応力のピーク値が存在する温度範囲やそのピーク値、および破断伸度が適切な数値範囲にある繊維であって、適度な配向性と結晶化度を兼ね備えた繊維となっている。そのためこのPTT繊維を用いた加工糸の製造方法は、PTT繊維であっても、その毛羽の発生等を十分に抑え、後の工程通過性に優れる製造方法となる。特に高速での延伸加工を含む、たとえば延伸仮撚加工の製造方法に適している。また、工程通過性が通常は困難な、単糸繊度の小さいPTT加工糸を得ることも可能となった。
この本発明のPTT加工糸の製造方法では、加工工程で十分な熱応力が生じ、安定した加工となる。そのためPTT加工糸の捲縮が伸長される過程での弾性率が大きくなり、その結果、最大捲縮応力が大きく、優れたストレッチバック性を有するPTT仮撚加工糸を得ることが可能となった。
このような本発明は、下記の発明を包含するものである。
1. 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレート繊維であって、下記(A)~(C)の要件を同時に満足することを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート繊維。
(A)繊維の温度-熱応力曲線において、温度40~100℃の範囲内に熱応力のピーク値が存在する
(B)(A)の該熱応力のピーク値が 0.1~ 0.8cN/dtexである
(C)繊維の破断伸度が60~200%である。
2. 繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率が0.1~3cN/dtexである上記1記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維。
3. 繊維の複屈折率(Δn)が0.03以上、0.08以下であり、かつ比重が1.319以上1.340以下である上記1または2のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維。
4. 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートを溶融固化した後、1000m/分以上の巻取り速度で巻き取り、引き続いてポリトリメチレンテレフタレートのガラス転移点±20℃の加熱ローラーで加熱し、続いて1.0~2.0倍延伸を行い、さらに50~150℃の加熱ローラーに巻き付けた後、2000~4800m/分の速度で巻き取ることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法。
5. 上記1~3のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いてなる加工糸。
6. 加工糸が仮撚加工糸である上記5記載の加工糸。
7. 上記5記載の加工糸の製造方法。
8. 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートからなり、下記(1)~(6)の要件を同時に満足することを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸。
(1)単繊維繊度:3.2dtex以下
(2)破断強度≧2.5cN/dtex
(3)破断伸度:20~80%
(4)最大捲縮伸度≧150%
(5)最大捲縮応力≧0.020cN/dtex。
9. 総繊度が10~200dtexである上記8記載のポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸。
10. ポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸が異型断面繊維から構成され、該異型断面繊維の異型度が1.15~10.0である、上記8または9に記載のポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸。
11. ポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸が扁平断面繊維から構成され、該扁平断面繊維の扁平度が2.0~10.0である、上記8から10のいずれかに記載のポリトリメチレンテレフタレート仮撚加工糸。
12. 上記1~3のいずれか1つに記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維を、加工することを特徴とする加工糸の製造方法。
13. 上記1~3のいずれか1つに記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維を、仮撚加工することを特徴とする仮撚加工糸の製造方法。
次に本発明の実施例及び比較例を詳述するが、本発明はこれらによって限定されるものではない。なお、実施例中の各測定項目は下記の方法で測定した。
(1)極限粘度[η]
極限粘度[η]は、オストワルド粘度計を用い、35℃、o-クロロフェノール中での比粘度ηspと濃度C(g/100ミリリットル)の比ηsp/Cを濃度ゼロに外挿し、以下の式(1)に従って求めた。
[η]=limC→0(ηsp/C) ・・・(1)
(2)比重
JIS-L-1013 8.17.1の浮沈法に基づいて試料の比重を測定した。
(3)複屈折率(Δn)
繊維便覧-原料編、p.969(第5刷、1978年丸善株式会社発行)に準じ、光学顕微鏡とコンペンセーターを用いて、繊維の表面に観察される偏光のリターデーションから求めた。
(4)熱応力の極大値が存在する温度及び熱応力の極大値
鐘紡エンジニアリング社製のKE-2を用いた。初過重0.044cN/dtex、昇温速度100℃/分で測定した。得られたデーターは横軸に温度、縦軸に熱応力(熱収縮応力)をプロットし温度-熱応力曲線を描く。該温度-熱応力曲線の微分係数が正から負へ変化する点の温度、熱応力(熱収縮応力)を求め、応力については繊度で除し、最大応力を求めた。
(5)65℃温水収縮率(HWS)
JIS-L-1013に基づき、熱水温度を65℃として、かせ寸法変化率を求め、65℃における温水での収縮率とした。
枠周1.125mの検尺機を用い、0.27cN/dtexの初荷重をかけ120回/分の速度で捲き返し、捲き数40回の小カセをつくり、初荷重の20倍の荷重をかけてカセ長L(mm)を測る。次に荷重をはずし、試料を65℃の温水中に3g0分間浸漬した後取り出し、自然乾燥し再び初荷重の20倍の荷重をかけてカセ長L(mm)を測り次の式により温水収縮率を算出した。
HWS(%)=(L-L)/L×100。
(6)繊度
JIS-L-1013に従ってマルチフィラメント糸の繊度を測定した。またその値をマルチフィラメント糸の単糸数で除することで単繊維繊度を求めた。
(7-1)繊度変動値U%(PTT繊維;hi%)
ツェルベガーウースター社製ウースターテスターUT-5を用い、ハーフInertモードで下記条件にて測定した。
給糸速度:400m/分
測定糸長:2000m。
(7―2)繊度変動値U%(加工糸;ノーマル%)
ツェルベガーウースター社製 ウースターテスターUT-5を用い、以下の方法で測定した。
測定条件
モード:ノーマルモード
糸速度:200m/分
撚数:10,000回/分 S撚
張力レンジ:10
測定繊維長:2,000m
給糸速度:400m/分
測定糸長:2000m。
(8)破断強度、破断伸度(繊維破断強度、繊維破断伸度)
JIS-L-1013に基づいて定速伸長形引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。
(9)伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率
JIS-L-1013に基づいて定速伸長形引張試験機であるオリエンテック(株)社製テンシロンを用いて、つかみ間隔20cm、引張速度20cm/分にて測定した。伸度10%から30%におけるSSカーブの接線において最も傾きが小さな接線の傾きを弾性率として求めた。
(10)ガラス転移点
ガラス転移点は、規定量のポリマーチップをアルミサンプルパンに封入し、示差走査熱量測定(DSC)にて窒素雰囲気下で室温~300℃まで昇温速度10℃/分で昇温した昇温曲線からガラス転移点を測定し
た。
(11)捲縮性能
ポリエステル仮撚加工糸のサンプルを、0.044cN/dtexの張力下に、カセ枠に巻き取り、太さ約3300dtexのカセ(綛)を作成した。このカセの一端に、 0.00177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの2個の荷重を負荷し、1分間経過後の長さS(cm)を測定した。
次に、カセから0.177cN/dtexの荷重を除去した状態で、100℃の沸水中にて20分間処理した。沸水処理後、このカセから0.00177cN/dtexの荷重を除去し、24時間無荷重下自由な状態で自然乾燥し、このカセに再び0.00177cN/dtexおよび0.177cN/dtexの荷重を負荷し、1分間経過後の長さS(cm)を測定した。
次にこのカセから 0.177cN/dtexの荷重を除去し、1分間経過後の長さSを測定し、次の算式で捲縮率を算出し、10回の測定値の平均値を算出した。
捲縮率(%)=[(S-S)/S]×100
この時の捲縮率が30%以上であれば高い捲縮性能を有するものとして、〇とし、捲縮率が30%未満であれば捲縮性能が高いとは言えず×とした。
(12)仮撚加工糸の最大捲縮応力及び捲縮最大伸度
仮撚加工糸の応力-伸長率曲線を、以下の方法・条件で測定する。
a.仮撚加工糸を沸騰水で30分間処理した後取り出し、常温空気中に4時間以上放置して乾燥する。次いで、JIS-L-1013(引張試験法)に準じて、Full応力が0.882cN/デシテックスまでの応力-伸長率曲線を描く。
b.上記の方法・条件で測定して得た応力-伸長率曲線上で、図1に示すように、捲縮が伸ばされる過程(初期)の曲線の接線と、繊維自体が伸ばされる過程の曲線の接線との交点を求める。この交点に対応する応力を加工糸の繊度で除した値を最大捲縮応力とする。また、この交点に対応する伸度を最大捲縮伸度とする。
[実施例1]
テレフタル酸ジメチルと1,3-プロパンジオールを1:2のモル比で仕込み、テレフタル酸ジメチルの0.1重量%に相当するチタンテトラブトキシドを加え、常圧下ヒーター温度240℃でエステル交換反応を完結させた。次にチタンテトラブトキシドを更に理論ポリマー量の0.1重量%、二酸化チタンを理論ポリマー量の0.5重量%添加し、270℃で3時間反応させた。得られたポリマーは、トリメチレンテレフタレート繰返単位100モル%から構成され、その極限粘度は1.0であった。
また、得られたポリマーのガラス転移点は51℃であった。
得られたポリマーを常法により乾燥し、水分を50ppmにした後、265℃で溶融させ、直径0.27mmの36個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して25.9g/分の吐出量で押出した。
押出された溶融マルチフィラメントを、風速4.0m/分の風を当てて急冷し固体マルチフィラメントに変えた後、ガイドノズルを用いてステアリル酸オクチル60重量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル15重量%、リン酸カリウム3重量%を含んだ油剤を濃度10重量%の水エマルジョン仕上げ剤として繊維に対して油剤付着量が0.6重量%となるように付着させた。
次いで、固体マルチフィラメントを55℃に加熱した周速度2100m/分のロールに巻き付けた後、1.3倍で延伸されるように80℃の加熱したロールに巻き付け、その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2600m/分で巻き取って100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。得られた繊維物性を表1に記す。得られた繊維の熱応力を測定したところ、熱応力の第1のピークは61℃、熱応力0.20cN/dtexとの大きなものであったが、第2のピークは191℃で、0.08cN/dtex以下の小さなものであった。
また上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように以下条件にて1.3倍に延伸する延伸仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の捲縮特性を表1に併せて示す。
・仮撚条件
仮撚機のタイプ:TMTマシナリー株式会社製HTS-15V(ディスク仮撚方式)
ディスク回転数:5900rpm(ディスク直径5.8cm)
フィード速度:462m/分
第1フィード率:±0%
第1ヒーター温度(非触式):280℃
第2ヒーター温度(非接触式):180℃
第2フィードニップローラー速度:600m/分
第2フィード率:1.0%
巻取前フィード率:3.0%。
[実施例2]
ポリマーの吐出量、油剤を付着させた後の熱処理及び延伸倍率を変更した以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち固体マルチフィラメントを55℃に加熱したロールに巻き付ける速度を周速度2100m/分から2300m/分に増速し、延伸倍率を1.3倍から1.2倍とし、その後80℃の加熱ローラ―に代えて100℃の加熱したロールに巻き付けた。その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2650m/分で巻き取った。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。
得られた繊維物性を表1に記す。得られた繊維の熱応力を測定したところ、熱応力の第1のピークは61℃、熱応力0.17cN/dtexとの大きなものであったが、第2ピークは191℃で、0.08cN/dtex以下の小さなものであった。
また上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、1.3倍に延伸する延伸仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の捲縮特性を表1に併せて示す。
[実施例3]
ポリマーの吐出量、油剤を付着させた後の熱処理及び延伸倍率を変更した以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち固体マルチフィラメントを55℃に加熱したロールに巻き付ける速度を周速度2100m/分から2500m/分に増速し、延伸倍率を1.3倍から1.1倍とし、その後80℃の加熱ローラ―に代えて100℃の加熱したロールに巻き付けた。その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2700m/分で巻き取った。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。
得られた繊維物性を表1に記す。得られた繊維の熱応力を測定したところ、熱応力の第1のピークは60℃、熱応力0.13cN/dtexとの大きなものであったが、第2ピークは191℃で、0.08cN/dtex以下の小さなものであった。
また上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、ただし1.35倍に延伸する延伸仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の捲縮特性を表1に併せて示す。
[実施例4]
ポリマーの吐出量、ポリトリメチレンテレフタレートポリマーの極限粘度を実施例1の1.0から1.3に変更した以外は実施例1と同様に実施して、油剤が付着された固体マルチフィラメントを得た。
その後、55℃に加熱した周速度2160m/分に増速してロールに巻き付け、さらに1.2倍で延伸されるように80℃の加熱したロールに巻き付け、その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2500m/分で巻き取って100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。得られたポリマーのガラス転移点温度は実施例1の51℃から52℃になっていた。
得られた繊維物性を表1に記す。得られた繊維の熱応力を測定したところ、熱応力の第1のピークは63℃、熱応力0.30cN/dtexとの大きなものであったが、第2ピークは191℃で、0.08cN/dtex以下の小さなものであった。
また上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、ただし1.2倍の延伸倍率となる延伸仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の捲縮特性を表1に併せて示す。
[実施例5]
ポリマーの吐出量、油剤を付着させた後の熱処理温度、すなわち延伸処理時の繊維温度を変更した以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち固体マルチフィラメントを巻き付ける加熱したロールの温度を55℃から40℃に変更し、速度を周速度2100m/分から2000m/分に減速し、延伸倍率を1.3倍のままとし、その後80℃の加熱ローラ―に代えて100℃の加熱したロールに巻き付けた。その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2550m/分で巻き取って100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。
得られた繊維物性を表1に記す。得られた繊維の熱応力を測定したところ、熱応力の第1のピークは61℃、熱応力0.22cN/dtexと、実施例1よりも大きなものとなった。また実施例1と同様に第2のピークは191℃で、0.08cN/dtex以下の小さなものであった。
さらに上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、ただし1.35倍の延伸倍率となる条件にて延伸仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の捲縮特性を表1に併せて示す。実施例1対比仮撚加工糸の強度は低下したが、捲縮性能は実施例1対比、さらに優れたものとなった。
[実施例6]
ポリマーの吐出量、油剤を付着させた後の熱処理温度、すなわち延伸処理時の繊維温度を変更した以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち固体マルチフィラメントを巻き付ける加熱したロールの温度を55℃から60℃に変更し、速度を周速度2100m/分から2000m/分に減速し、延伸倍率を1.3倍のままとし、その後80℃の加熱ローラ―に代えて100℃の加熱したロールに巻き付けた。その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2550m/分で巻き取って100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。
得られた繊維物性を表1に記す。得られた繊維の熱応力を測定したところ、熱応力の第1のピークは63℃、熱応力0.13cN/dtexと、他の実施例と同様の値であった。しかし第2のピーク温度は191℃と同じであったが、その熱応力は0.09cN/dtexの高い値であった。
さらに上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、ただし1.35倍の延伸倍率となる条件にて延伸仮撚加工を行った。得られた仮撚加工糸の捲縮特性を表1に示す。実施例1対比仮撚加工糸の捲縮性能は低下したものの、比較例より優れた捲縮性能を有するものであった。
[比較例1]
ポリマーの吐出量、油剤を付着させた後に、延伸を行わなかった以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。
すなわち実施例1と同様の方法で油剤が付着された固体マルチフィラメントを得た後、該固体マルチフィラメントを55℃に加熱した周速度2510m/分のロールに巻き付け、その後延伸せずに、巻取速度2500m/分で巻き取ってチーズ状パッケージを得た。
得られた繊維物性を表1に記す。複屈折率が0.047と小さく、熱応力の最大値も0.05cN/dtexと低いものであった。また温水収縮率が高く、保存時の安定性に劣る繊維であった。
上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で延伸倍率を1.3倍で延伸仮撚を行おうとしたが、延伸仮撚工程で断糸が多発し、サンプルを採取することができなかった。
[比較例2]
油剤を付着させた後に、延伸を行わず、ただし巻取り速度を速めて、繊維の配向度を高めた以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。なお、最終的な繊度を合わせるために、ポリマー吐出量を調整した。
すなわち実施例1と同様の方法で油剤が付着された固体マルチフィラメントを得た後、該固体マルチフィラメントを50℃に加熱した周速度3010m/分のロールに巻き付け、その後巻取速度3000m/分で巻き取ってチーズ状パッケージを得た。
得られた繊維物性を表1に記す。複屈折率が比較例1の0.047から0.052に向上していたが、熱応力の最大値は0.06cN/dtexと低いものであった。また温水収縮率が高く、保存時の安定性に劣る繊維であった。
上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で延伸倍率を1.3倍で延伸仮撚を行った。断糸等の発生こそなく、サンプルは採取できたものの、捲縮性能に劣るものであった。
[比較例3]
油剤を付着させた後に、高倍率延伸を行った以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち実施例1と同様の方法で油剤が付着された固体マルチフィラメントを得た後、該固体マルチフィラメントを55℃に加熱した周速度900m/分の比較的低速なロールに巻き付け、その後3.1倍の高倍率延伸を行い、巻取速度2800m/分で巻き取って、チーズ状パッケージを得た。
得られた繊維物性を表1に記す。複屈折率が0.065と高く、熱応力の最大ピーク温度も190℃、0.20cN/dtexと高いものであった。また、100℃以下の温度範囲の熱応力の値は、低いものであった。
また上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、ただし延伸倍率を1.05倍として延伸仮撚加工を行ったところ、断糸等の発生こそなく、サンプルは採取できたものの、捲縮性能に劣るものであった。
[比較例4]
油剤を付着させた後に、延伸及び熱処理を行わず、ただし巻取り速度を比較例2よりもさらに速めて、繊維の配向度を高めた以外は実施例1と同様に実施して100dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち実施例1と同様の方法で油剤が付着された固体マルチフィラメントを得た後、該固体マルチフィラメントを周速度5650m/分のロールに巻き付け、その後巻取速度5500m/分で巻き取ってチーズ状パッケージを得た。
得られた繊維物性を表1に記す。複屈折率が0.082と高く、繊維ポリマーの比重も1.332との高いものであった。また破断伸度が55%と低く、繊度変動値も高い繊維であった。
上記で得た繊維を用いて、仮撚加工を実施し、得られる加工糸の伸度が40%となるように実施例1と同様の条件で、ただし延伸倍率を1.1倍として延伸仮撚加工を行ったところ、断糸等の発生こそなく、サンプルは採取できたものの、捲縮性能に劣るものであった。
Figure 0007277680000001
[実施例7]
実施例1と同様に、テレフタル酸ジメチルと1,3-プロパンジオールを1:2のモル比で仕込み、トリメチレンテレフタレート繰返単位100モル%から構成され、その極限粘度は1.0のポリマーを得た。
得られたポリマーを常法により乾燥し、水分を50ppmにした後、265℃で溶融させ、直径0.27mmの48個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した。
押出された溶融マルチフィラメントを、風速2.0m/分の風を当てて急冷し固体マルチフィラメントに変えた後、ガイドノズルを用いてステアリル酸オクチル60重量%、ポリオキシエチレンアルキルエーテル15重量%、リン酸カリウム3重量%を含んだ油剤を濃度10重量%の水エマルジョン仕上げ剤と繊維に対して油剤付着量が0.6重量%となるように付着させた。
次いで、固体マルチフィラメントを50℃に加熱した周速度2300m/分のロールに巻き付けた後、1.2倍で延伸するように80℃の加熱したロールに巻き付け、その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2700m/分で巻き取って73dtex/48本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
次いで、得られた糸を用いて実施例1と同様の条件で、ディスク仮撚方式にて延伸倍率1.3で仮撚加工糸を製造した。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[実施例8]
紡糸口金を変更し、直径0.27mmの24個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、73dtex/24本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[実施例9]
紡糸口金を変更し、直径0.27mmの62個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、56dtex/62本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[実施例10]
紡糸口金を変更し、直径0.20mmの72個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、73dtex/72本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[実施例11]
紡糸口金を変更し、スリットの幅が0.6mm、長さが1.2mmとなる十字断面形状の口金で、24個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、73dtex/24本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。得られた異型断面糸の異型度は2.2であった。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[実施例12]
紡糸口金を変更し、スリットの幅が0.06mm、長さが0.5mmとなるスリットが120℃の角度で中心から3方向に伸びた三角断面形状の口金で、24個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、73dtex/24本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。得られた異型断面糸の異型度は1.6であった。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[実施例13]
紡糸口金を変更し、スリットの幅が0.14mm、長さが1.4mmとなる扁平断面形状の口金で、24個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、73dtex/24本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。得られた扁平断面糸の扁平度3.4であった。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[比較例5]
油剤を付着させた後に、延伸を行わなかった以外は実施例7と同様に実施して73dtex/48本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
すなわち実施例7と同様の条件にて溶融紡糸を行い、固体マルチフィラメントを50℃に加熱した周速度2510m/分のロールに巻き付けた後、そのまま延伸せずに巻取速度2500m/分で巻き取ってチーズ状パッケージを得た。
得られた繊維の熱応力ピークは55℃で、ピーク時の熱応力は0.08cN/dtexであった。また繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率は0cN/dtexであった。
次いで、得られた繊維を実施例7と同じ条件にて仮撚加工を行い、加工糸を得ようとしたが、糸切れにより加工糸を得ることができなかった。
[比較例6]
比較例5から紡糸口金を変更し、直径0.30mmの12個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した以外は実施例7と同様に実施して、108dtex/12本(f)(単糸繊度9.0dtex)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
得られた繊維の熱応力ピークは55℃でピーク時の熱応力は0.08cN/dtexであった。また繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率は0cN/dtexであった。
次いで、得られた繊維を実施例1と同じ条件にて仮撚加工を行い、仮撚加工糸を得た。捲縮の高い仮撚加工糸はできたが、単糸繊度が太く、風合いは硬いものになった。得られた加工糸の物性を表2に示す。
[比較例7]
実施例7から紡糸口金を変更し、直径0.30mmの36個の孔の開いた一重配列の紡糸口を通して押出した。次いで、50℃に加熱した周速度1500m/分のロールに巻き付けた後、2.0倍で延伸した後、130℃の加熱したロールに巻き付け、その後スピンドルとタッチロールの双方を駆動する方式の巻取機を用いて、巻取速度2900m/分の延伸倍率約2倍の条件にて巻き取って95dtex/36本(f)の繊維の巻かれたチーズ状パッケージを得た。
得られた繊維の熱応力ピークは190℃でピーク時の熱応力は0.20cN/dtexであった。また、100℃以下の温度範囲の熱応力の値は、低いものであった。
また繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率は3.3cN/dtexであった。
熱延伸によって結晶化度、配向度がともに進んでおり、実施例7のディスク仮撚方式では、仮撚を掛けることはできなかった。そこで、以下の仮撚条件にて仮撚加工行い、仮撚加工糸を得た。この時、加工速度は実施例7の600m/分に対し、100m/分の加工速度にしかならなかった。得られた加工糸の物性を表2に示す。
・仮撚条件
仮撚機のタイプ:三菱重工業社製LS-2(ピン仮撚方式)
スピンドル回転数:27500rpm
仮撚数:3840T/m
第1フィード率:±0%
第1ヒーター温度(接触式):160℃
第2ヒーター温度(非接触式):150℃
第2フィード率:+15%
Figure 0007277680000002
本発明によれば、加工時の工程張力に対する耐性があり、かつ高伸度のポリトリメチレンテレフタレート繊維、およびその製造方法が得られる。さらに、加工時に糸切れが起こりにくく、高い捲縮性能を有するポリトリメチレンテレフタレート加工糸が得られ、その工業的価値は極めて大きい。
R 最小外接円半径
r 最大内接円半径
L 外接する長方形の長辺
H 外接する長方形の短辺

Claims (7)

  1. 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレート繊維であって、下記(A)~(C)の要件を同時に満足することを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート繊維。
    (A)繊維の温度-熱応力曲線において、温度40~100℃の範囲内に熱応力のピーク値が存在する
    (B)(A)の該熱応力のピーク値が 0.1~ 0.8cN/dtexである
    (C)繊維の破断伸度が60~200%である
  2. 繊維の伸度10%から30%におけるもっとも低い弾性率が0.1~3cN/dtexである請求項1記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維。
  3. 繊維の複屈折率(Δn)が0.03以上、0.08以下であり、かつ比重が1.319以上1.340以下である請求項1記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維。
  4. 90モル%以上がトリメチレンテレフタレート繰返単位から構成されるポリトリメチレンテレフタレートを溶融固化した後、1000m/分以上の巻取り速度で巻き取り、引き続いてポリトリメチレンテレフタレートのガラス転移点±20℃の加熱ローラーで加熱し、続いて1.0~2.0倍延伸を行い、さらに50~150℃の加熱ローラーに巻き付けた後、2000~4800m/分の速度で巻き取ることを特徴とするポリトリメチレンテレフタレート繊維の製造方法。
  5. 請求項1~3のいずれか1項記載のポリトリメチレンテレフタレート繊維を用いてなる加工糸。
  6. 加工糸が仮撚加工糸である請求項5記載の加工糸。
  7. 請求項5記載の加工糸の製造方法。
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