JP3827377B2 - 光学部材の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形型部材を得る光学部材の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形型部材といった光学部材の製造方法には、光学部品製作方法として特公平2−34721号公報所載の技術が開示されている。この技術を図8〜図11を用いて説明する。図8はダイヤモンド切削工具による被加工物の切削状況を示す斜視図、図9はダイヤモンド切削工具の要部拡大斜視図、図10はダイヤモンド切削工具の移動軌跡を示す図、図11はダイヤモンド切削工具の切刃先端における切削抵抗を示す図である。
【0003】
図8において、被加工物101は、CNC(Computer Numerical Control)旋盤のチャック(図示省略)に保持され、CNC旋盤の回転軸心111の周りを矢印104の方向に回転する。被加工物101の端面101aに正対する位置に、ダイヤモンド切削工具102が配置されている。ダイヤモンド切削工具102の切刃先端には、切削面品質向上のため、図9に示すように面取り103が設けてある。
【0004】
フレネルレンズまたはその成形型部材を製造する場合、まず、円柱状の被加工物101をCNC旋盤のチャック(図示省略)に、その端面101aとCNC旋盤の回転軸心111とが直交しかつ同軸となるように保持する。ついで、チャックが連結されている主軸(図示省略)を矢印104の方向に回転させ、図10に示すように、ダイヤモンド切削工具102を鋸歯状溝115の斜面の延長線112上から、鋸歯状溝115の谷部に向かう矢印113の方向に所定の溝幅Aかつ所定の溝深さBとなるように、被加工物101に切り込む。このように、ダイヤモンド切削工具102の切刃を送ると、図11に示すように、被加工物101の端面101aに対する前切刃102aの取付け角αは、所望の鋸歯形状の傾斜角Cよりも作用前切削角βだけ大きい鈍角となり、切刃先端のみを被加工物101に押し当てて切削していることとなる。この切り込みが終了すると、被加工物101の回転軸心111に平行な矢印114の方向にダイヤモンド切削工具102を移動し、被加工物101からダイヤモンド切削工具102を離脱させる。その結果、断面が直角三角形をなす円形の鋸歯状溝115が形成される。このような手順を繰り返すことにより、目的のフレネル形状を得ることができる。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
しかるに、上記従来技術には、つぎのような問題点があった。まず、図9に示すように、ダイヤモンド切削工具102の切刃先端に面取り103を有するため、垂直面精度が向上する反面、図11に示すように、鋸歯状溝115の谷部コーナーに面取り103による削り残し116が形成される。このため、光学素子として回折効率の低下を招き、DVD(Digital Video Disk)用ピックアップ等の高い回折効率が求められる回折型光学素子には、このフレネルレンズまたはその成形型部材を用いることはできなかった。
【0006】
また、図10および図11に示すように、ダイヤモンド切削工具102の切刃を矢印113の方向に送って鋸歯状溝115の斜面部分を切削するとき、切刃先端が被加工物101に食い込むことになるため、切り込みが深くなるに従って切削屑117が加工部分から排除されにくくなる。このため、切り込みが深くなるに従って切刃先端にかかる切削抵抗が大きくなり、切刃先端にチッピング(刃が欠けること)が生ずる。
【0007】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みてなされたもので、請求項1または2に係る発明の課題は、鋸歯状溝の垂直面精度を維持しつつ、谷部コーナーを理想形状に仕上げ、設計性能により近い光学性能を具現できる光学部材の製造方法を提供することである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、請求項1に係る発明は、回転するフレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板の正面に、ダイヤモンド切削工具の切刃を当て付け、所定の深さまで切り込み、鋸歯状溝を刻設して、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形型部材を得る光学部材の製造方法において、前記フレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板には、ダイヤモンド切削工具の前切刃の後端側から当接するように、予め略鋸歯状の捨て溝が刻設してあり、鋸歯状溝の斜面をダイヤモンド切削工具の前切刃で当て付け切削するとともに、鋸歯状溝の垂直面を切刃先端にて送り切削し、前記当て付け切削と前記送り切削とを少なくとも2回行うことを特徴とする。
【0009】
請求項1に係る発明の作用では、鋸歯状溝の斜面をダイヤモンド切削工具の前切刃で当て付け切削するとともに、鋸歯状溝の垂直面を切刃先端にて送り切削し、前記当て付け切削と前記送り切削とを少なくとも2回行うことにより、初回の粗切削においては、切刃先端にかかる切削抵抗は増大せず、2回目以降の仕上げ切削においては、切削抵抗が低く抑えられ、被加工物の弾性変形を防止する。さらに、フレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板には、ダイヤモンド切削工具の前切刃の後端側から当接するように、予め略鋸歯状の捨て溝が形成してあることにより、切刃先端にかかる切削抵抗が緩和される。
【0010】
【発明の実施の形態1】
図1〜図4は発明の実施の形態1を示し、図1はダイヤモンド切削工具による被加工物の切削状況を示す斜視図、図2はダイヤモンド切削工具の切刃と被加工物との接触状況を示す図、図3はダイヤモンド切削工具の移動軌跡を示す図、図4はダイヤモンド切削工具の移動順位を示す図である。
【0011】
図1において、例えば、フレネルレンズ基板たる透明なアクリル樹脂からなる円柱状の被加工物1は、CNC旋盤のチャック(図示省略)に保持され、CNC旋盤の回転軸心11の周りを矢印4の方向に回転する。被加工物1の端面1aに正対する位置に、ダイヤモンド切削工具2が配置されている。図2に示すように、ダイヤモンド切削工具2の切刃先端18は、エッジに形成され、その幅は200nm以下である。
【0012】
フレネルレンズを製造する場合、まず、被加工物1をCNC旋盤のチャック(図示省略)に、その端面1aとCNC旋盤の回転軸心11とが直交しかつ同軸となるように保持する。また、図2に示すように、ダイヤモンド切削工具2の前切刃30を、フレネルレンズの鋸歯状溝の斜面15aの傾斜角Cに合致させてセットする。ついで、チャックが連結されている主軸(図示省略)を矢印4の方向に回転させ(図1参照)、図3に示すようにダイヤモンド切削工具2を被加工物1の端面1aに対して垂直な矢印21の方向に所定の溝幅Aかつ所定の溝深さBとなるように送り込む。ダイヤモンド切削工具2を矢印21の方向に送ることで、前切刃30により斜面15aを当て付け切削し、同時に切刃先端18により垂直面15bを送り切削する。所定の溝深さBまで到達すると、ダイヤモンド切削工具2の切刃先端18がエッジになっているため、鋸歯状溝の谷部コーナー17は200nm以下に形成される。
【0013】
そして、ダイヤモンド切削工具2の切刃先端18が、所定深さBまで到達したならば、矢印22の方向にダイヤモンド切削工具2を移動させる。このダイヤモンド切削工具2の切刃先端18により、垂直面15bが再び切削加工される。つぎに、切り込み量は変化させずに、または0.1μm以下の極小の切り込み量を増加させて、上記工程をもう一度繰り返す。これにより、初回の切り込み時に切削抵抗が大きく、被加工物が弾性変形して切削が完全に行われず、切削が不十分であった部分を低切削抵抗にて仕上げ切削することにより、より完全な切削形状を形成することができる。つぎに、図3および図4に示すように、ダイヤモンド切削工具2を矢印23の半径方向に溝幅Aだけ送り、上記作業を繰り返す。同様にして所望の輪帯数だけ上記作業をさらに繰り返し、理想形状に近い鋸歯状溝を有するフレネルレンズを得る。
【0014】
本発明の実施の形態1によれば、鋸歯状溝の垂直面精度を維持しつつ、谷部コーナーを理想形状に仕上げ、設計性能により近い光学性能を具現できるフレネルレンズを得ることができる。また、切削時の切刃の送り方向は、所望の垂直面に沿った方向としているため、切刃先端が被加工物に食い込むことがなく、切刃先端にかかる切削抵抗が大きくならないので、切刃先端にチッピングが殆ど発生することはない。
【0015】
本発明の実施の形態1では、鋸歯状溝の加工を2回行っているが、必要に応じて3回以上にしてもよい。また、被加工物を透明なアクリル樹脂としたが、光学材料として用いられる他の合成樹脂であってもよい。さらに、本実施の形態の変形例として上記方法にて製造したフレネルレンズを母型とし、電鋳加工により母型のフレネル面を反転した成形型部材をキャビティとした成形型を用いて射出成形によりフレネルレンズを成形してもよい。さらに、他の変形例として被加工物に無酸化銅やステンレス等の金属からなるフレネルレンズ成形型基板を用い、金属製のフレネルレンズ成形型部材を直接製造してもよい。
【0016】
【発明の実施の形態2】
図5は発明の実施の形態2を示し、ダイヤモンド切削工具の切刃と被加工物との接触状況を示す図である。本発明の実施の形態2は発明の実施の形態1と被加工物の形状が異なるのみなので、異なる部分のみ示し、他の構成は同一のため、同一部分の図と説明を省略する。
【0017】
図5において、被加工物1Aの端面1Aaには、予め略鋸歯状の捨て溝19が形成されている。捨て溝19の斜面19aの傾斜角γは、所望の鋸歯状溝の傾斜角Cより鈍角に形成されており、ダイヤモンド切削工具2の前切刃30が矢印21の方向から被加工物1Aに当接したとき、前切刃30の後端側から接触するようになる。よって、切り込み始めの切削抵抗が切刃先端18以外の前切刃30に分散し、エッジである切刃先端18の切削抵抗が緩和され、切刃先端のチッピングを完全に防止する。
【0018】
本発明の実施の形態2によれば、発明の実施の形態1の効果に加え、ダイヤモンド切削工具の切刃先端の実施の形態1よりも切削抵抗が緩和されるので、発明の実施の形態1よりも刃先先端のチッピングの発生を防止でき、高価なダイヤモンド切削工具の寿命を延ばすことができる。
【0019】
本発明の実施の形態2においても、発明の実施の形態1にて説明した変形例はそのまま適用することができる。
【0020】
【発明の実施の形態3】
図6は発明の実施の形態3を示し、ダイヤモンド切削工具の移動順位を示す図である。本発明の実施の形態3は、発明の実施の形態1とダイヤモンド切削工具の移動順位のみが異なるので、異なる部分のみ示し、他の構成は同一のため、同一部分の図と説明を省略する。
【0021】
本発明の実施の形態3の鋸歯状溝を切削する工程は、発明の実施の形態1では、一つの輪帯をなす鋸歯状溝を粗加工と仕上げ加工との2回にわたり連続して加工したのに対し、本発明の実施の形態3では、図6の矢印で示すように、全部の輪帯をなす鋸歯状溝を一度連続して粗加工した後、さらにもう一度、全部の輪帯をなす鋸歯状溝を連続して仕上げ加工するものである。なお、被加工物1に一つの鋸歯状溝をダイヤモンド切削工具2で形成する方法自体は発明の実施の形態1と同一のため、説明を省略する。
【0022】
本発明の実施の形態3によれば、発明の実施の形態1の効果に加え、全輪帯数分の加工工程を繰り返して行うため、CNC旋盤に用いる加工プログラムを短縮することができる。
【0023】
本発明の実施の形態3においても、発明の実施の形態1にて説明した変形例はそのまま適用することができる。また、本発明の実施の形態3では、発明の実施の形態1と同様に、端面1aが平面の被加工物1を用いているが、これに替えて、発明の実施の形態2で示した端面1Aaに捨て溝19を形成した被加工物1Aを用いることもできる。
【0024】
【発明の実施の形態4】
図7は発明の実施の形態4を示し、ダイヤモンド切削工具の切刃と被加工物との接触状況および加工原点のずれを示す図である。本発明の実施の形態4は、発明の実施の形態3と同様に粗加工と仕上げ加工との2回にわたって同一の加工プログラムを用いるが、粗加工時には、加工原点をずらして行う点が異なるのみである。従って、異なる部分のみ示し、他の構成は同一のため、同一部分の図と説明を省略する。
【0025】
図7において、粗加工時では、ダイヤモンド切削工具2の切刃先端18は、加工原点をずらすので、X軸を半径方向で中心から遠ざかる方向にΔX、Z軸を切り込み方向で浅い方向にΔZずらせて加工を行う。この加工原点の移動により、被加工物1の鋸歯状溝の垂直面27に仕上げ代24を残している。仕上加工時では、加工原点を本来の位置に戻し、本来の加工原点で低切削抵抗加工を行い、理想形状に近い鋸歯状溝を有するフレネルレンズを得る。
【0026】
本発明の実施の形態4によれば、発明の実施の形態3の効果に加え、粗加工時に、加工原点をずらして鋸歯状溝の垂直面に仕上げ代を残すことにより、仕上げ加工による垂直面の精度を上げることができる。
【0027】
本発明の実施の形態4においても、発明の実施の形態3にて説明した変形例はそのまま適用することができる。
【0028】
なお、本発明は(1)、(2)に記載の発明を含むものである。
(1) 前記ダイヤモンド切削工具が所定の溝深さまで到達した後、前記ダイヤモンド切削工具を切り込み方向と逆方向に移動しつつ垂直面を切刃先端で再度仕上げ加工することを特徴とする請求項1または2記載の光学部材の製造方法。ダイヤモンド切削工具を切り込み方向と逆方向に移動しつつ垂直面を切刃先端で再度仕上げ加工することにより、請求項1または2の効果に加え、鋸歯状溝の垂直面精度をより向上させることができる。
【0029】
(2) 前記ダイヤモンド切削工具の切刃先端がエッジであることを特徴とする請求項1または2記載の光学部材の製造方法。
ダイヤモンド切削工具の切刃先端をエッジとすることにより、請求項1または2の効果に加え、理想形状に近い鋸歯状溝谷部を形成することができ、高い回折効率を要求される回折型光学素子を得ることができる。
【0030】
【発明の効果】
請求項1に係る発明によれば、初回の粗切削においては、切刃先端にかかる切削抵抗は増大せず、2回目以降の仕上げ切削においては、切削抵抗が低く抑えられ、被加工物の弾性変形を防止するので、切刃先端のチッピングが殆ど発生することはなく、鋸歯状溝の垂直面精度を維持しつつ、谷部コーナーを理想形状に仕上げ、設計性能により近い光学性能を具現できる光学部材を得ることができる。さらに、切刃先端にかかる切削抵抗が緩和されるので、切刃先端のチッピングを完全に防止し、高価なダイヤモンド切削工具の寿命を延ばすことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】発明の実施の形態1のダイヤモンド切削工具による被加工物の切削状況を示す斜視図である。
【図2】発明の実施の形態1のダイヤモンド切削工具の切刃と被加工物との接触状況を示す図である。
【図3】発明の実施の形態1のダイヤモンド切削工具の移動軌跡を示す図である。
【図4】発明の実施の形態1のダイヤモンド切削工具の移動順位を示す図である。
【図5】発明の実施の形態2のダイヤモンド切削工具の切刃と被加工物との接触状況を示す図である。
【図6】発明の実施の形態3のダイヤモンド切削工具の移動順位を示す図である。
【図7】発明の実施の形態4のダイヤモンド切削工具の切刃と被加工物との接触状況および加工原点のずれを示す図である。
【図8】従来技術のダイヤモンド切削工具による被加工物の切削状況を示す斜視図である。
【図9】従来技術のダイヤモンド切削工具の要部拡大斜視図である。
【図10】従来技術のダイヤモンド切削工具の移動軌跡を示す図である。
【図11】従来技術のダイヤモンド切削工具の切刃先端における切削抵抗を示す図である。
【符号の説明】
1 被加工物
2 ダイヤモンド切削工具
15a 鋸歯状溝の斜面
15b 鋸歯状溝の垂直面
18 切刃先端
30 前切刃
Claims (1)
- 回転するフレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板の正面に、ダイヤモンド切削工具の切刃を当て付け、所定の深さまで切り込み、鋸歯状溝を刻設して、フレネルレンズまたはフレネルレンズ成形型部材を得る光学部材の製造方法において、
前記フレネルレンズ基板またはフレネルレンズ成形型基板には、ダイヤモンド切削工具の前切刃の後端側から当接するように、予め略鋸歯状の捨て溝が刻設してあり、鋸歯状溝の斜面をダイヤモンド切削工具の前切刃で当て付け切削するとともに、鋸歯状溝の垂直面を切刃先端にて送り切削し、前記当て付け切削と前記送り切削とを少なくとも2回行うことを特徴とする光学部材の製造方法。
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