JP3822708B2 - 耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法 - Google Patents

耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術の分野】
本発明は、耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品を低コストで得ることができ、かつ成形品曲面部においてクラックを発生させない耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より、成形品表面に表面保護シートを形成する方法としては、基体シートの片面に少なくとも保護層が設けられ、反対面に少なくとも接着層が設けられた表面保護シートを成形金型内に挟み込み、キャビテイ内に樹脂を射出充満させ、冷却して樹脂成形品を得るのと同時にその面に表面保護シートを接着させるインサート成形法がある。
【0003】
表面保護シートの保護層を構成する樹脂としては、一般に、熱硬化性樹脂、活性エネルギー線硬化性樹脂が使用されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、保護層として熱硬化性樹脂を用い、表面保護シート作製時に加熱して熱硬化性樹脂を架橋硬化させた場合には、成形品表面の耐薬品性、耐磨耗性が一般的に劣る。
【0005】
一方、保護層として活性エネルギー線硬化性樹脂を用い、表面保護シート作製時に活性エネルギー線を照射して活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を架橋硬化させる場合には、樹脂の架橋密度を高めることにより耐薬品性、耐磨耗性を改良できるが、その反面、保護層が脆くなり、接着時に成形品曲面部に位置する保護層にクラックが発生する。
【0006】
そこで、保護層として活性エネルギー線硬化性樹脂を用いる他の方法として、表面保護シート作製時に活性エネルギー線を第一段照射して活性エネルギー線硬化性樹脂を半ば架橋硬化させ、成形品表面へ接着後に再度、活性エネルギー線を第二段照射して活性エネルギー線硬化性樹脂を完全に架橋硬化させる方法も提案されている。第一段照射において活性エネルギー線照射が足りないと、活性エネルギー線硬化性樹脂を含むインキに流動性や粘着性が残るため、保護層をタックフリーの状態にするには相当量の照射が必要となる。一方、照射量が過剰であると、接着時に成形品曲面部に位置する保護層にクラックが発生しやすくなる。上記問題点が発生しないようにするには、第一段照射の照射量を調節すればよいが、ラジカル重合は、一般に反応速度が大であり、活性エネルギー線照射後も暗反応が進むため、照射量の抑制が容易でない。また、活性エネルギー線の光源ランプの劣化により照射条件が不安定になり易いという不利もある。
【0007】
また、広幅の表面保護シート作製時に活性エネルギー線を照射する場合、大掛かりな照射装置を必要とし、コストがかかる。
【0008】
したがって、本発明は、以上のような問題点を取り除き、耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品を低コストで得ることができ、かつ成形品表面への接着時に成形品曲面部においてクラックを発生させない耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法を提供することを目的としている。
【0009】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法は、基体シートの片面に(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、加熱して半ば架橋硬化させた、熱架橋反応生成物からなる保護層が設けられ、その反対面に接着層が設けられた表面保護シートを用い、
該表面保護シートを成形品表面に配置し、基体シートを加熱して軟化させ、下方より真空吸引することにより成形品表面に表面保護シートを接着させた後、
活性エネルギー線を照射するように構成した。
【0010】
また、本発明の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法は、基体シートの片面に(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、加熱して半ば架橋硬化させた、熱架橋反応生成物からなる保護層が設けられ、その反対面に接着層が設けられた表面保護シートを用い、
該表面保護シートを成形金型内に挟み込み、キャビテイ内に樹脂を射出充満させ、樹脂成形品を得るのと同時にその表面に表面保護シートを接着させた後、
活性エネルギー線を照射するように構成した。
【0011】
また、上記構成において、ポリマーを、グリシジル(メタ)アクリレート系重合体にα,β−不飽和モノカルボン酸を付加反応させた反応生成物であるように構成した。
【0012】
また、上記構成において、グリシジル(メタ)アクリレート系重合体を、グリシジル(メタ)アクリレートの単独重合体、またはグリシジル(メタ)アクリレートとカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体からなる共重合体であるように構成した。
【0013】
さらに、上記構成において、基体シートと接着層との間に絵柄層が設けるように構成した。
【0014】
【発明の実施の形態】
以下、図面を参照しながら本発明の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法について詳細に説明する。図1は本発明に係る耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造工程の一実施例を示す模式図、図2は本発明に係る耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造工程の他の実施例を示す模式図である。図中、1は表面保護シート、2は成形品、3はヒーター、4は真空吸引、5は可動型、6は固定型、7は溶融樹脂をそれぞれ示す。
【0015】
まず、本発明で使用する表面保護シート1について説明する。
【0016】
表面保護シート1は、基体シートの片面に(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の熱架橋反応生成物からなる保護層が設けられ、反対面に接着層が設けられたものである。
【0017】
基体シートとしては、アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、塩化ビニル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエステル系樹脂などの樹脂シートを使用することができる。
【0018】
保護層は、薬品や摩擦から成形品2や絵柄層を保護するための層である。保護層のポリマーは、活性エネルギー線照射前後の保護層2の物理的・化学的要求性能を考慮して、特定の配合量とされる。すなわち、活性エネルギー線照射時の硬化性の点から、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、好ましくは150〜300g/eqとされる。(メタ)アクリル当量が300g/eqよりも大きい場合は、活性エネルギー線照射後の耐磨耗性が不十分であり、また100g/eq未満のものは得ることが難しい。また、併用する多官能イソシアネートとの反応性の点から、ポリマーの水酸基価は20〜500、好ましくは100〜300とされる。水酸基価が20未満の場合には、多官能イソシアネートとの反応が不十分であり、活性エネルギー線照射前の保護層の架橋度が低い。そのため粘着性が残存したり、耐溶剤性が不足したりすることにより、表面保護シート1を巻き取ることが難しくなり、鮮明な絵柄が得られないなどの不利がある。また、水酸基価が500を越えるのものは得ることが難しい。ポリマーの重量平均分子量は、5000〜50000、好ましくは8000〜40000である。ポリマーの重量平均分子量が5000未満では活性エネルギー線照射前の保護層の粘着性が残存したり、耐溶剤性が不足するため、やはり表面保護シート1を巻き取ることが難しくなる。また、50000を越える場合には樹脂粘度が高くなり過ぎ、インキの塗布作業性が低下する。
【0019】
ポリマーの製造方法としては、特に限定はなく、従来公知の方法を採用できる。例えば、[1]水酸基を含有する重合体の側鎖の一部に(メタ)アクリロイル基を導入する方法、[2]カルボキシル基を含有する共重合体に水酸基を含有するα,β−不飽和単量体を縮合反応させる方法、[3]カルボキシル基を含有する共重合体にエポキシ基を含有するα,β−不飽和単量体を付加反応させる方法、[4]エポキシ基含有重合体にα,β−不飽和カルボン酸を反応させる方法などがある。
【0020】
方法[4]を例にとり、本発明で用いるポリマーの製造方法をより具体的に説明する。例えば、グリシジル基を有するポリマーにアクリル酸などのα,β−不飽和カルボン酸を反応させる方法により本発明で用いるポリマーを容易に得ることができる。グリシジル基を有するポリマーとして好ましいのは、例えば、グリシジル(メタ)アクリレートの共重合体、およびグリシジル(メタ)アクリレートとカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体との共重合体等が挙げられる。このカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体としては、各種の(メタ)アクリル酸エステル、スチレン、酢酸ビニル、アクリロニトリルなどが例示できる。カルボキシル基を含有するα,β−不飽和単量体を用いると、グリシジル(メタ)アクリレートとの共重合反応時に架橋が生じ、高粘度化やゲル化するため、好ましくない。
【0021】
いずれにしろ、前記[1]〜[4]の各方法を採用する際、ポリマーに関わる前記数値限定範囲を満足するよう、適宜に使用単量体や重合体の種類、これらの使用量などの条件設定を適宜行う必要がある。かかる操作は当事者に周知である。
【0022】
本発明においてポリマーと併用する多官能イソシアネートとしては、格別の限定はなく、公知各種を使用できる。たとえば、イソホロンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、水添キシリレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ジフェニールメタンジイソシアネート、1,6-ヘキサンジイソシアネート、上記の3量体、多価アルコールと上記ジイソシアネートを反応させたプレポリマーなどを用いることができる。本発明で、多官能イソシアネートをポリマーと併用する理由は、活性エネルギー線照射前の保護層の粘着性を低く保つことにある。すなわち、ポリマーに含有される水酸基と、多官能イソシアネートのイソシアネート基とを反応させ、軽度の熱架橋物を形成させて、上記性能を付与せんとするものである。
【0023】
ポリマーと多官能イソシアネートの使用割合は、ポリマー中の水酸基数とイソシアネート基数との割合が1/0.01〜1/1、好ましくは1/0.05〜1/0.8となるように決定される。
【0024】
また、保護層に用いる熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、ポリマーおよび多官能イソシアネート以外に、必要に応じて以下のような成分を含有することができる。すなわち、反応性希釈モノマー、溶剤、着色剤などである。また、活性エネルギー線照射に際して電子線を用いる場合には、光重合開始剤を用いることなく充分架橋硬化を発揮することができるが、紫外線を用いる場合には、公知各種の光重合開始剤を添加する必要がある。また、保護層は、着色したものでも、未着色のものでもよい。
【0025】
保護層に用いる熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物には、必要に応じて滑剤を含有させてもよい。保護層の表面が粗面化されるので、シートとして巻きやすくなり、ブロッキングが生じ難くなるためである。また、擦れや引っ掻きに対する抵抗性を増すことができる。滑剤としては、例えば、ポリエチレンワックス、パラフィンワックス、合成ワックス、モンタンワックス等のワックス類、シリコーン系、フッ素系等の合成樹脂類を用いうる。滑剤は、0.5〜15重量%、好ましくは1〜6重量%の量で含有させる。滑剤の量が0.5重量%を下回るとブロッキングの防止や摩擦引っ掻き抵抗の効果が少なくなり、15重量%を上回ると保護層の透明性が極端に悪くなる。
【0026】
保護層に用いる熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、エチレン性不飽和基と水酸基とイソシアネート基とを含む。この熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を加熱すると水酸基とイソシアネート基とが反応し、樹脂が架橋される。また、この熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を活性エネルギー線に露出するとエチレン性不飽和基が重合し、樹脂が架橋される。つまり、保護層に用いる熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物は、熱および活性エネルギー線の両方により架橋される。
【0027】
保護層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。一般に、保護層は0.5〜30μm、好ましくは1〜6μmの厚さに形成する。保護層の厚さが0.5μmを下回ると耐摩耗性、耐薬品性が弱く、30μmを上回るとコスト高となる。
【0028】
以上のようにして形成された保護層を加熱することにより、保護層は熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の熱架橋反応生成物となる。この熱架橋反応生成物はタックフリーの状態にあるため、保護層上に他の層を刷り重ねたり表面保護シートを巻き取ったりすることが容易になる。この加熱しただけの段階では、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含まれるエチレン性不飽和基は架橋されていないので、樹脂は完全に架橋硬化していない。状態換言すれば半ば架橋硬化の状態となる。したがって、保護層は成形品の曲面に適応でき、クラックを生じない程度の可撓性を有する。加熱による架橋反応は、活性エネルギー線照射による架橋反応に比して制御が容易である。したがって、保護層を架橋させる程度は、用いる熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の種類、及び成形品の曲率等に応じて適宜定めうる。
【0029】
絵柄層は、基体シートの保護層が設けられる面と反対面に、通常は印刷層として形成する。印刷層の材質としては、ポリビニル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ポリビニルアセタール系樹脂、ポリエステルウレタン系樹脂、セルロースエステル系樹脂、アルキド樹脂などの樹脂をバインダーとし、適切な色の顔料または染料を着色剤として含有する着色インキを用いるとよい。絵柄層の形成方法としては、オフセット印刷法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの通常の印刷法などを用いるとよい。特に、多色刷りや階調表現を行うには、オフセット印刷法やグラビア印刷法が適している。また、単色の場合には、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法、リップコート法などのコート法を採用することもできる。絵柄層は、表現したい絵柄に応じて、全面的に設ける場合や部分的に設ける場合もある。また、絵柄層は、金属蒸着層からなるもの、あるいは印刷層と金属蒸着層との組み合わせからなるものでもよい。
【0030】
接着層は、成形品2表面に上記の各層を接着するものである。接着層は、接着させたい部分に形成する。すなわち、接着させたい部分が全面的なら、接着層を全面的に形成する。また、接着させたい部分が部分的なら、接着層を部分的に形成する。接着層としては、成形品2の素材に適した感熱性あるいは感圧性の樹脂を適宜使用する。たとえば、成形品2の材質がポリアクリル系樹脂の場合はポリアクリル系樹脂を用いるとよい。また、成形品2の材質がポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、スチレン共重合体系樹脂、ポリスチレン系ブレンド樹脂の場合は、これらの樹脂と親和性のあるポリアクリル系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ポリアミド系樹脂などを使用すればよい。さらに、成形品2の材質がポリプロピレン樹脂の場合は、塩素化ポリオレフィン樹脂、塩素化エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂、環化ゴム、クマロンインデン樹脂が使用可能である。接着層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法、スクリーン印刷法などの印刷法がある。なお、基体シートや絵柄層が成形品2に対して充分接着性を有する場合には、接着層を設けなくてもよい。
【0031】
なお、表面保護シート1の構成は、上記した態様に限定されるものではなく、たとえば、成形品2の地模様や透明性を生かし、表面保護処理だけを目的とした表面保護シート1を用いる場合には、絵柄層を省略することができる。
【0032】
また、各層間に、アンカー層を設けてもよい。アンカー層は、各層間の密着性を高めたり、薬品から成形品2や絵柄層を保護するための樹脂層であり、たとえば、二液硬化性ウレタン樹脂、メラミン系やエポキシ系などの熱硬化性樹脂、塩化ビニル共重合体樹脂などの熱可塑性樹脂を用いることができる。アンカー層の形成方法としては、グラビアコート法、ロールコート法、コンマコート法などのコート法、グラビア印刷法やスクリーン印刷法などの印刷法がある。
【0033】
次に、前記した表面保護シート1を用いて樹脂成形品2表面に耐磨耗性および耐薬品性を付与する方法について説明する(図1参照)。まず、表面保護シートを、接着層側を下にして成形品2表面に配置する。次に、ヒーター3などにより基体シートを加熱して軟化させた後、下方より真空吸引4する。こうすることにより、接着層が成形品2表面に接着される。最後に、活性エネルギー線を照射することにより保護層を完全に架橋硬化させる。なお、下方より真空吸引4するともに、上方より加圧してもよい。表面保護シート1への加圧は、流体などにより直接、あるいは可撓性シートを介して行なう。
【0034】
活性エネルギー線としては、電子線、紫外線、γ線などを挙げることができる。照射条件は、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に応じて定められる。
【0035】
成形品2としては、材質を限定されることはないが、特に樹脂成形品2、木工製品もしくはこれらの複合製品などを挙げることができる。これらは、透明、半透明、不透明のいずれでもよい。また、成形品2は、着色されていても、着色されていなくてもよい。樹脂としては、ポリスチレン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、AN樹脂などの汎用樹脂を挙げることができる。また、ポリフェニレンオキシド・ポリスチレン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアセタール系樹脂、アクリル系樹脂、ポリカーボネート変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、超高分子量ポリエチレン樹脂などの汎用エンジニアリング樹脂やポリスルホン樹脂、ポリフェニレンサルファイド系樹脂、ポリフェニレンオキシド系樹脂、ポリアクリレート樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、ポリアリル系耐熱樹脂などのスーパーエンジニアリング樹脂を使用することもできる。さらに、ガラス繊維や無機フィラーなどの補強材を添加した複合樹脂も使用できる。
【0036】
次に、前記した表面保護シート1を用い、射出成形によるインサート成形法を利用して樹脂成形品2表面に耐磨耗性および耐薬品性を付与する方法について説明する(図2参照)。まず、可動型5と固定型6とからなる成形用金型内に、保護層が固定型6に接するように、表面保護シート1を送り込む。この際、枚葉の表面保護シート1を1枚づつ送り込んでもよいし、長尺の表面保護シート1の必要部分を間欠的に送り込んでもよい。長尺の表面保護シート1を使用する場合、位置決め機構を有する送り装置を使用して、表面保護シート1の絵柄層と成形用金型との見当が一致するようにするとよい。また、表面保護シート1を間欠的に送り込む際に、表面保護シート1の位置をセンサーで検出した後に表面保護シート1を可動型5と固定型6とで固定するようにすれば、常に同じ位置で表面保護シート1を固定することができ、絵柄層の位置ずれが生じないので便利である。成形用金型を閉じた後、可動型5に設けたゲートより溶融樹脂7を金型内に射出充満させ、成形品2を形成するのと同時にその面に表面保護シート1を接着させる。樹脂成形品2を冷却した後、成形用金型を開いて樹脂成形品2を取り出す。最後に、活性エネルギー線を照射することにより保護層を完全に架橋硬化させる。
【0037】
【実施例】
以下の実施例および比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下、部および%は重量基準である。
【0038】
実施例1
基体シートとして厚さ125μmのアクリル樹脂フィルムを用い、基体シートの片面に、絵柄層としてアクリル系インキ、接着層としてアクリル樹脂をグラビア印刷法にて順次印刷形成し、反対面に下記ワニスA200部(固形分100部)、1,6-ヘキサンジイソシアネート3量体(商品名コロネートHX、日本ポリウレタン工業株式会社製)5部および光重合開始剤(商品名イルガキュアー184、チバガイギー社製)5部を配合した保護層をグラビア印刷法にて印刷形成した。保護層の厚さは5μmとした。80℃で30秒間加熱することにより保護層を半ば架橋硬化させて表面保護シートを得た。
【0039】
なお、ワニスAは、以下のようにして得た。まず、撹拌装置、冷却管、滴下ロートおよび窒素導入管を備えた反応装置に、グリシジルメタアクリレート(以下、GMAという)175部、メチルメタクリレート(以下、MMAという)75部、ラウリルメルカプタン1.3部、酢酸ブチル1000部および2,2'−アゾビスイソブチロニトリル(以下、AIBNという)7.5部を仕込んだ後、窒素気流下に約1時間かけて系内温度が約90℃になるまで昇温し、1時間保温した。次いで、あらかじめGMA525部、MMA225部、ラウリルメルカプタン3.7部およびAIBN22.5部からなる混合液を仕込んだ滴下ロートより、窒素気流下に混合液を約2時間を要して系内に滴下し、3時間同温度に保温後、AIBN10部を仕込み、1時間保温した。その後、120℃に昇温し、2時間保温した。60℃まで冷却後、窒素導入管を空気導入管につけ替え、アクリル酸(以下、AAという)355部、メトキノン2.0部およびトリフェニルフォスフィン5.4部を仕込み混合した後、空気バブリング下にて、110℃まで昇温した。同温度にて8時間保温後、メトキノン1.4部を仕込み、冷却して、不揮発分が50%となるよう酢酸エチルを加え、ワニスAを得た。ワニスAに含まれるポリマーは、アクリル当量270g/eq、水酸基価204、重量平均分子量18000(GPCによるスチレン換算による)であった。
【0040】
この表面保護シートを用いインサート成形法を利用して成形品の表面に接着した後、紫外線を照射した。なお、成形条件は、樹脂温度220℃、金型温度55℃、樹脂圧力約300kg/cm2とした。成形品は、材質をアクリル樹脂とし、縦95mm、横65mm、立ち上がり4.5mm、コーナー部のR2.5mmのトレー状に成形した。照射条件は、120w/cm、6灯、ランプ高さ10cm、ベルトスピード15m/minとした。
【0041】
実施例2
基体シートとして厚さ125μmのアクリル樹脂フィルムを用い、基体シートの片面に、絵柄層としてアクリル系インキ、接着層としてアクリル樹脂をグラビア印刷法にて順次印刷形成し、反対面に下記ワニスA200部(固形分100部)、1,6-ヘキサンジイソシアネート3量体(商品名コロネートHX、日本ポリウレタン工業株式会社製)10部および光重合開始剤(商品名イルガキュアー184、チバガイギー社製)5部を配合した保護層をリップコート法にて形成した。保護層の厚さは5μmとした。80℃で30秒間加熱することにより保護層を半ば架橋硬化させて表面保護シートを得た。
【0042】
この表面保護シートを用いインサート成形法を利用して実施例1と同様に成形品の表面に接着した後、紫外線を照射した。照射条件は、120w/cm、2灯、ランプ高さ10cm、ベルトスピード2.5m/minとした。
【0043】
実施例3
実施例1のワニスAに代えて、ワニスBを用いた外は実施例1と同様に実施した。ワニスBは、初期仕込みでの単量体使用量をGMA250部、後仕込みでの単量体使用量をGMA750部に変え、AAの使用量を507部に変化させた。ワニスBに含まれるポリマーは、アクリル当量214g/eq、水酸基価262、重量平均分子量20000であった。
【0044】
比較例A1
シリコン系樹脂(東芝シリコーン株式会社製「TPR6701」)を配合した保護層をグラビア印刷法にて形成した後、表面保護シート作製時に加熱により保護層を完全に架橋硬化させたこと、インサート成形後に紫外線を照射しないことの外は実施例1と同様に実施した。
【0045】
比較例A2
重合性二重結合を有するウレタンアクリレートと反応性希釈剤および光重合開始剤を配合した保護層をグラビア印刷法にて形成した後、表面保護シート作製時に紫外線照射により保護層を完全に架橋硬化させたこと、インサート成形後に紫外線を照射しないことの外は実施例1と同様に実施した。表面保護シート作製時の照射条件は、120w/cm、2灯、ランプ高さ5cm、ベルトスピード20m/minとした。
【0046】
比較例A3重合性二重結合を有するウレタンアクリレートと熱可塑性アクリル樹脂および光重合開始剤を配合した保護層をグラビア印刷法にて形成した後、表面保護シート作製時に紫外線を第一段照射して熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂を半ば架橋硬化させ、インサート成形後に再度、紫外線を第二段照射して熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂を完全に架橋硬化させる外は実施例1と同様に実施した。表面保護シート作製時の照射条件は、120w/cm、1灯、ランプ高さ10cm、ベルトスピード50m/minとした。
【0047】
比較例B
実施例のワニスAやワニスBに代えて、ワニスCを用いた外は実施例1と同様に実施した。ワニスCは、初期仕込みでの単量体使用量を、GMA125部、MMA125部、後仕込みでの単量体使用量をGMA375部、MMA375部に変え、AAの使用量を254部に変化させた。ワニスCに含まれるポリマーは、アクリル当量355g/eq、水酸基価158、重量平均分子量17000であった。
【0048】
上記の実施例1〜3および比較例A1〜3、比較例Bについて、それぞれクラックの有無、耐薬品性、耐磨耗性の性能評価を行なった(表1)。クラックの有無は、成形品曲面の状態を観察し、目視判定により、○発生なし、△やや発生、×かなり発生のいずれかで評価した。耐薬品性は、ガーゼにメタノールを含浸させ、50往復擦った後の表面の状態を観察し、目視判定により、◎全く発生なし、○ほとんど発生なし、△やや発生、×かなり発生のいずれかで評価した。耐磨耗性は、1cm角の#000スチールウールに荷重(100g、300g)をかけ、可動距離2cm、2往復/秒で、200往復後の表面の傷つき程度を観察し、目視判定により、◎極めて良好、○良好、△やや不良、×不良のいずれかで評価した。
【0049】
【表1】
Figure 0003822708
【0050】
表1の評価結果から、次のことが明らかである。最外層にアクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の熱架橋反応生成物からなる保護層を有する実施例1〜3は、耐磨耗性および耐薬品性に優れ、成形品曲面部においてクラックが発生していない。これに対して、比較例A1はクラック、耐磨耗性、耐薬品性のいずれも満足すべき結果が得られず、比較例A2は耐磨耗性、耐薬品性で優れていてもクラックが多く発生し、比較例A3はクラックが発生しないが耐磨耗性、耐薬品性で劣るものであった。また、実施例1〜3と同じく熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の熱架橋反応生成物からなる保護層を有する比較例Bも、熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物に含有されるポリマーのアクリル当量が特定範囲を超えているため、耐磨耗性が劣っている。
【0051】
【発明の効果】
本発明の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法は、使用する表面保護シートの保護層が、(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物の熱架橋反応生成物からなり、成形品の表面に形成されたこの保護層が活性エネルギー線照射により架橋硬化されるので、耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品を得ることができ、かつ成形品曲面部においてクラックを発生させない。また、表面保護シート作製時に加熱により保護層を半ば架橋硬化させるため、活性エネルギー線照射に際し巨大な活性エネルギー線照射装置が不要であり、低コストで済む。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造工程の一実施例を示す模式図である。
【図2】本発明に係る耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造工程の他の実施例を示す模式図である。
【符号の説明】
1 表面保護シート
2 成形品
3 ヒーター
4 真空吸引
5 可動型
6 固定型
7 溶融樹脂

Claims (5)

  1. 基体シートの片面に(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、加熱して半ば架橋硬化させた、熱架橋反応生成物からなる保護層が設けられ、その反対面に接着層が設けられた表面保護シートを用い、
    該表面保護シートを成形品表面に配置し、基体シートを加熱して軟化させ、下方より真空吸引することにより成形品表面に表面保護シートを接着させた後、
    活性エネルギー線を照射することを特徴とする耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法。
  2. 基体シートの片面に(メタ)アクリル当量100〜300g/eq、水酸基価20〜500、重量平均分子量5000〜50000のポリマーと多官能イソシアネートとを有効成分として含有する熱及び活性エネルギー線硬化性樹脂組成物を、加熱して半ば架橋硬化させた、熱架橋反応生成物からなる保護層が設けられ、その反対面に接着層が設けられた表面保護シートを用い、
    該表面保護シートを成形金型内に挟み込み、キャビテイ内に樹脂を射出充満させ、樹脂成形品を得るのと同時にその表面に表面保護シートを接着させた後、
    活性エネルギー線を照射することを特徴とする耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法。
  3. ポリマーが、グリシジル(メタ)アクリレート系重合体にα,β−不飽和モノカルボン酸を付加反応させた反応生成物である請求項1または請求項2のいずれかに記載の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法。
  4. グリシジル(メタ)アクリレート系重合体が、グリシジル(メタ)アクリレートの単独重合体、またはグリシジル(メタ)アクリレートとカルボキシル基を含有しないα,β−不飽和単量体からなる共重合体である請求項3記載の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法。
  5. 基体シートと接着層との間に絵柄層が設けられた請求項1〜4のいずれかに記載の耐磨耗性および耐薬品性に優れた成形品の製造方法。
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