JP3821604B2 - 無機粒子含有ポリアミド繊維の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、無機粒子を含有するポリアミド繊維を直接紡糸延伸法にて製造する方法であって、繊維表面に無機粒子の突出がない品位の高い無機粒子含有ポリアミド繊維を操業性よく製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
近年、生産性を向上させるために、溶融紡糸工程の高速化が進められており、特公平1−22363 号公報には、直接紡糸延伸法でポリアミド繊維を製造する方法が提案されている。この方法は、第1ゴデーローラ(GR)で2000m/分を超える高速で引き取り、第1GRと第2GRとの間で低倍率で延伸し、交絡を付与した後、特定範囲の張力で巻き取るものである。
【0003】
この方法は、延伸の際の温度や倍率も規定したものであるが、第2GRの逆巻きを防止し、良好なパッケージに巻き上げることを目的とするものであるため、この方法で無機粒子を含有するポリアミド繊維を製造すると、無機粒子の多くが繊維表面に突出し、このような繊維を無糊の経糸に使用し、高速回転織機で製織すると、機器の摩耗が激しく、切れ糸が生じたり、毛羽が生じ、得られる布帛は品位の低いものとなるという問題がある。
【0004】
また、特開平7−216642号公報にもナイロン6繊維の直接紡糸延伸法が記載されており、この方法によれば、第1GRの速度を2000m/分以下、第2GRの表面温度を低温にすることにより、熱処理時の収縮の発現が大きい繊維をパッケージの巻き姿よく巻き取ることができる。
【0005】
この方法においては、第1GRの速度を2000m/分以下としているが、無機粒子を多く含む繊維の製造を考慮したものではないため、無機粒子を多く含む繊維の場合、ポリマーを吐出させる際の吐出線速度によっては、上記と同様に無機粒子の多くが繊維表面に突出した繊維になるという問題が生じる。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上述した問題点を解決し、高速での直接紡糸延伸法で無機粒子を含有するポリアミド繊維を製造する際に、無機粒子の繊維表面への突出を抑制し、高速回転織機の無糊経糸として使用しても、機器の摩耗がなく、切れ糸や毛羽が生じることなく品位の高い布帛を得ることができるポリアミド繊維を生産性よく製造する方法を提供することを技術的な課題とするものである。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは上記の課題を解決するために鋭意研究の結果、ドラフトが一定値以下となる速度の第1GRで引き取り、特定の温度環境下で延伸を施すことにより、紡糸、延伸時ともに無機粒子の繊維表面への突出を抑制でき、特定の温度で熱処理することにより、巻き姿よくパッケージに巻き取ることが可能になることを見出し、本発明に到達した。
【0008】
すなわち、本発明は、無機粒子を含有するポリアミド繊維を直接紡糸延伸法にて製造する方法であって、無機粒子を0.1〜5.0重量%含有するポリマーをノズル孔から吐出線速度Q(m/分)で溶融紡糸し、紡出糸条を冷却した後油剤を付与し、速度R(m/分)がR/Q≦100を満足する第1ゴデーローラで引き取り、第1ゴデーローラの表面温度を30〜100℃として、2.0〜3.5倍に延伸した後、110〜200℃の温度で熱処理し、3000m/分以上の速度で巻き取ることを特徴とする無機粒子含有ポリアミド繊維の製造方法を要旨とするものである。
【0009】
【発明の実施の形態】
次に、本発明について詳細に説明する。
本発明で製造するポリアミド繊維を構成するポリマーとしては、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等が挙げられるが、中でもナイロン6が好ましい。また、これらを組み合わせた共重合ポリマーやブレンドポリマーでもよい。さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、結節強度を上げるために長鎖アルキル基を有するビスアミド化合物等の第3成分を加えても、艶消剤、難燃剤、顔料等の種々の添加物を添加してもよい。
【0010】
これらのポリマーに添加する無機粒子は、特に限定されるものではないが、色調や比重等を調整するために添加するもので、酸化物、窒化物、硫化物、あるいは金属系の微粒子が挙げられ、具体的には酸化チタン、酸化珪素、酸化アルミナ、酸化亜鉛、窒化珪素、硫化亜鉛、タングステン等が挙げられる。そして、これらの粒径は1μm以下であることが好ましい。
【0011】
本発明は、無機粒子を0.1〜5.0重量%含有するポリアミド繊維を製造する方法であり、これらのポリマー中の無機粒子の含有量が5.0重量%を超えると、繊維形成自体が困難となる。また、ポリマー中の無機粒子の含有量が0.1重量%未満の場合は、無機粒子の繊維表面への突出は少ない。
特に、本発明が好適なのは、ポリマー中の無機粒子の含有量が0.2重量%以上の場合である。
【0012】
そして、本発明が好適な無機粒子含有繊維は、無機粒子を繊維表面に含む繊維であり、ポリマー中に無機粒子をブレンドして紡糸した繊維や芯鞘構造の鞘部に無機粒子を含有する繊維等が挙げられる。
【0013】
次に、図面を用いて本発明を説明する。図1は、本発明の一実施態様を示す工程図である。まず、無機粒子を0.1〜5.0重量%含有する溶融ポリマーを紡糸口金1に穿孔されたノズル孔から吐出線速度Q(m/分)で溶融紡糸し、紡出糸条を冷却装置2で冷却、固化させた後、油剤付与装置3で油剤を付与する。そして、糸条Yを速度R(m/分)の第1GR4で引き取り、第1GR4の表面温度を30〜100℃として2〜3.5倍に延伸する。さらに、延伸後の糸条を110〜200℃の温度で熱処理し、3000m/分以上の速度で巻き取り、パッケージ7を得る。
【0014】
無機粒子を含有する繊維の場合、ポリマー中で無機粒子が流動し、繊維表面に多くの無機粒子が集まる現象が生じるのは、溶融状態においてポリマー鎖の配向が変化する段階、具体的には溶融状態から細化・固化する段階と、延伸段階において、分子鎖がさらに配向する段階である。
【0015】
そこで、まず、紡糸時の条件として、第1GR4の速度R(m/分)をR/Q≦100を満足するものとし、より好ましくは、R/Q≦80とする。
R/Qはいわゆるドラフト値であり、ドラフト値が100を超えて、無機粒子を含有するポリマーを紡糸すると、溶融状態からノズル孔を出て、細化・固化する段階でポリマー中で無機粒子の多くが繊維表面付近に集まるように流動し、繊維表面に無機粒子の突出が生じるようになる。
【0016】
次に、冷却固化した糸条Yを延伸する際には、第1ゴデーローラの表面温度を30℃以上、好ましくは35℃以上として延伸する。
【0017】
第1ゴデーローラの表面温度が30℃未満であると、延伸倍率が範囲内であっても未延伸部が生じた糸条となり、強度、伸度等の物性に劣るものとなる。なお、第1ゴデーローラの表面温度があまり高くなりすぎると、延伸張力が低くなり、強伸度等の物性が不安定となりやすいので、第1ゴデーローラの表面温度の上限は100℃とする。
【0018】
延伸は1段でも多段で行ってもよく、全延伸倍率が2.0〜3.5倍となるようにする。なお、操業性を考慮すると、ローラ間で1段階で延伸を行うことが好ましく、図1に示すように、第1GR4と第2GR5との間で1段階で延伸を行うことが好ましい。
【0019】
延伸倍率が2.0未満であると、第1ゴデーローラの表面温度が範囲内であっても未延伸部が生じた糸条となり、一方、延伸倍率が3.5を超えると、無機粒子が繊維表面に流動し、無機粒子の突出が生じる。そして、目標とする物性に合わせて延伸倍率をこの範囲内で種々変更すればよいが、未延伸糸の自然延伸倍率以上の倍率とすることが好ましい。
【0020】
本発明においては、第1ゴデーローラの表面温度、延伸倍率をこのような範囲内とすることで、延伸時にポリマーの結晶化状態が変化しても、無機粒子が繊維表面に流動することを抑えることができる。
【0021】
次に、延伸後の糸条を110〜200℃の温度で熱処理する。この熱処理を行うことによって、繊維の収縮応力を抑え、良好な巻き姿のパッケージ7に巻き取ることができる。
【0022】
熱処理温度が110℃未満であると、繊維の収縮応力を抑えることができず、パッケージの巻き姿が悪化する。一方、200℃を超えると、糸揺れが大きくなり、断糸が多発する。
【0023】
この熱処理は、延伸を行った最終ローラを加熱ローラとして熱処理することが好ましく、中でも、上記のように、第1GR4と第2GR5との間で1段階で延伸を行い、第2GR5を加熱ローラとして熱処理することが好ましい。
【0024】
そして、熱処理後の糸条は、必要に応じて交絡ノズル6で交絡を施した後、3000m/分以上の高速でパッケージ7に巻き上げる。交絡数は10〜35程度とすることが好ましい。
【0025】
さらに、本発明においては、紡出糸条を冷却装置2で冷却、固化させた後、油剤付与装置3で付与する油剤を非含水油剤とし、さらに、延伸後、巻き取るまでの間、交絡を付与する場合は交絡を付与する前に、油剤付与装置8でエマルジョン油剤を付与することが好ましい。
【0026】
これにより、延伸や巻き取りがよりスムーズに行われ、無機粒子の突出をより防ぐことができ、製編織する際の機器の摩耗を低減し、繊維表面の毛羽立ちのない、より高品位の布帛を得ることが可能となる。
【0027】
特に、糸条を延伸する前に付与する油剤は、非含水油剤とすることが好ましい。延伸前にエマルジョン油剤を用いると、延伸時に糸条に水分が付着し、均一な熱延伸が困難となり、無機粒子が突出しやすくなったり、経糸として使用した場合にイラツキ等の織り品位の不良が発生する。
【0028】
非含水油剤に使用される平滑成分としては、鉱物油、一塩基酸エステル、多塩基酸エステル、グリコールエステル、多価アルコールエステル、グリセライド、プロピレンオキサイドとエチレンオキサイドとのブロック又はランダム付加物等を用いることができ、乳化成分としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールエステル、多価アルコールエステル、ポリオキシエチレン多価アルコールエステル等を用いることができる。さらに、帯電防止剤成分としては、スルホネート化合物、アルキルフォスフェート等のアニオン活性剤、あるいはカチオン活性剤、両性活性剤等を使用することができる。
【0029】
また、必要に応じて、集束剤、酸化防止剤、抗菌剤、染料等を添加することもできる。このように配合した非含水油剤は、溶融粘度20センチポイズ以下、好ましくは10センチポイズ以下で使用することが好ましく、溶融粘度の調整は、低粘度鉱物油等で希釈することにより行うことができる。
なお、含水率が10%以下であれば、水分を含んでいてもよい。
【0030】
さらに、延伸後、巻き取るまでの間、油剤付与装置8で付与する油剤は、織品位を向上させるためには、エマルジョン油剤とすることが好ましい。
【0031】
エマルジョン油剤として使用される平滑成分としては、鉱物油、高級脂肪酸エステル、エチレンオキサイド付加高級脂肪酸エステル、多価アルコールエステル、グリセライド、エチレンオキサイド付加物等を用いることができ、乳化成分としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリエチレングリコールエステル、多価アルコールエステル、ポリオキシエチレン多価アルコールエステル等を用いることができ、濃度は5〜15重量%程度のものを用いることが好ましい。
【0032】
そして、両油剤ともに、付着量が0.2〜0.7重量%となるように付与することが好ましい。
【0033】
【実施例】
次に、本発明を実施例により具体的に説明する。
なお、実施例中の各種の値の測定や評価は次のように行った。
〔強伸度〕
JIS L1090に準じて測定し、サンプル数10の平均値とした。
〔無機粒子の突出状態〕
得られた繊維の表面を電子顕微鏡で観察し、突出があるものを×、突出が無いものを○とし、2段階で評価した。
〔製織性〕
得られた繊維を無糊の経糸として使用し、700 回転の高速織機にて5時間製織したときの経糸が切れたことによる停止回数で示した。
〔織品位〕
上記の製織工程で得られた生機の品位(イラツキや毛羽の有無)を、目視にて10人のパネラーに5点を満点として評価してもらい、10人の平均値で示した。
〔巻き姿〕
パッケージの巻き姿を目視にて3段階で評価し、膨れがなく良好なものを○、多少膨れが生じているものを△、膨れの度合いが大きいものを×とした。
【0034】
実施例1
図1の工程図に示す装置を用いて行った。なお、油剤付与装置8で油剤の付与は行わなかった。まず、相対粘度(96重量%硫酸を溶媒として、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。)が2.50のナイロン6チップに、無機粒子として酸化チタンを0.4 重量%含有させ、252 ℃で溶融紡糸を行った。孔径0.3mm のノズル孔が17孔穿孔された紡糸口金より、吐出量24.0g/分で吐出させた(吐出線速度は20.4m/分)。そして、紡出糸条を冷却固化させた後、含水率1.0 %の非含水油剤を2重量%付与し、表面温度45℃、速度1200m/分の第1GR(セパレートローラ付)で引き取って3回巻回し、次いで、表面温度120 ℃の第2GR(セパレートローラ付)に5回巻回して2.9 倍に延伸し、熱処理した。続いて、交絡付与装置6で30個/mの交絡を付与し、巻取速度3400m/分で70d/17fの糸条を巻き取った。
【0035】
実施例2〜5、比較例1〜6
酸化チタンの含有量、吐出線速度、第1GRの速度、第1GRの表面温度、延伸倍率、熱処理温度(第2GRの表面温度)を表1に示すように種々変更した以外は、実施例1と同様に行った。
【0036】
実施例6
油剤付与装置8で濃度6重量%のエマルジョン油剤を付着量0.5 重量%となるように付与した以外は、実施例1と同様に行った。
【0037】
実施例1〜6、比較例1〜6で得られたポリアミド繊維の強度、伸度、無機粒子の突出状態、巻き姿、製織性、織品位の評価結果を表1に示す。
【0038】
【表1】
【0039】
表1から明らかなように、実施例1〜6で得られたポリアミド繊維は、強伸度に優れ、繊維表面に無機粒子の突出がなく、巻き姿よくパッケージに巻き取ることができた。また、この繊維を無糊の経糸に用いても糸切れや毛羽の発生がなく、製織性がよく、得られた織物は品位が優れていた。特に、実施例6では、巻き取り前にエマルジョン油剤を付与したため、製織性に優れ、得られた織物の品位が良好であった。一方、比較例1では、R/Q≦100を満足せず、延伸倍率も低すぎたため、比較例2では、R/Q≦100を満足しなかったため、ともに繊維表面に無機粒子の突出が多くなり、製織性が悪く、得られた織物には毛羽が多く、品位が低かった。比較例3では、延伸時の第1ゴデーローラの表面温度が低すぎたため、未延伸部が生じた糸条となり、強度、伸度に劣り、かつばらつきも大きく、得られた織物は染色すると色斑が多発し、品位が低かった。比較例4では、延伸倍率が高すぎたため、無機粒子が繊維表面に流動し、無機粒子の突出が生じ、製織性が悪く、また、巻き姿も悪かった。比較例5では、熱処理温度が高すぎたため、糸揺れが大きくなり、断糸が多発した。そして、得られた織物には毛羽が多く、品位が低かった。比較例6では、熱処理温度が低すぎたため、繊維の収縮応力を抑えることができず、パッケージの巻き姿が悪かった。
【0040】
【発明の効果】
本発明によれば、高速での直接紡糸延伸法で無機粒子を含有するポリアミド繊維を製造しても、紡糸、延伸時共に無機粒子の繊維表面への流動、突出を抑制し、高速回転織機の無糊経糸として使用しても、機器の摩耗、切れ糸や毛羽の発生がなく、品位の高い布帛を得ることができるポリアミド繊維を生産性よく製造することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の製造方法の一実施態様を示す工程図である。
【符号の説明】
1 紡糸口金
2 冷却装置
3 油剤付与装置
4 第1GR
5 第2GR
6 交絡付与装置
7 パッケージ
8 油剤付与装置
Y 糸条
Claims (3)
- 無機粒子を含有するポリアミド繊維を直接紡糸延伸法にて製造する方法であって、無機粒子を0.1〜5.0重量%含有するポリマーをノズル孔から吐出線速度Q(m/分)で溶融紡糸し、紡出糸条を冷却した後油剤を付与し、速度R(m/分)がR/Q≦100を満足する第1ゴデーローラで引き取り、第1ゴデーローラの表面温度を30〜100℃として、2.0〜3.5倍に延伸した後、110〜200℃の温度で熱処理し、3000m/分以上の速度で巻き取ることを特徴とする無機粒子含有ポリアミド繊維の製造方法。
- 加熱ローラである第1ゴデーローラと第2ゴデーローラを設け、第1ゴデーローラと第2ゴデーローラとの間で1段階で延伸を施す請求項1記載の無機粒子含有ポリアミド繊維の製造方法。
- 紡出糸条を冷却した後に付与する油剤を非含水油剤とし、さらに、熱処理後、巻き取るまでの間にエマルジョン油剤を付与する、請求項1又は請求項2記載の無機粒子含有ポリアミド繊維の製造方法。
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