JP3819154B2 - 毛髪セット剤 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、毛髪セット剤に関するものであり、さらに詳しくは、毛髪に対するセット力が優れ、しかも毛髪に艶、潤い、はりを付与し、かつ毛髪をなめらかにし、毛髪の櫛通り性を改善し、毛髪にしなやかなセット性を付与することができる毛髪セット剤に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、セットローションやヘアスタイリング剤などの毛髪セット剤には、毛髪に対するセット力を付与するために、キサンタンガムなどのガム類、天然蛋白質やその加水分解物などの天然高分子、ヒドロキシエチルセルロースなどの半合成高分子などが配合されてきたが、最近では、それらに代えて、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、ポリアクリル酸エステル、アクリル酸および/またはメタクリル酸とアクリル酸アルキルエステルおよび/またはメタクリル酸アルキルエステルとの共重合体などの合成高分子が配合されるようになってきた。
【0003】
しかしながら、天然高分子やセルロース系の半合成高分子は、高湿度下ではべとつきを生じやすく、かつセット力が失われやすいという欠点があり、一方、合成高分子は、乾燥時にフレーキング(形成されたフィルムにひび割れを生じて鱗片状に剥離する現象)が生じやすいという欠点があった。
【0004】
そのため、合成高分子と蛋白加水分解物またはその誘導体とを併用して、蛋白加水分解物またはその誘導体の有する保湿作用により合成高分子のフレーキングが生じやすいという欠点を解消しようとする試みもなされているが、セット保持力、毛髪のはり・こし、艶、光沢の付与作用という点で満足できる結果が得られていない。
【0005】
すなわち、蛋白加水分解物やその誘導体は毛髪への収着性がよく、毛髪に保湿感を付与するが、一般に合成高分子と蛋白質加水分解物やその誘導体を併用すると、毛髪セット剤の粘度が低下しやすいため、蛋白質加水分解物やその誘導体を保湿効果発現のために必要な量を配合しにくいという問題があり、また、ペプチド鎖が短い蛋白加水分解物やその誘導体ではセット保持力が弱く、ペプチド鎖が長い場合は蛋白加水分解物やその誘導体自体にセット力があるものの、高湿度下でべとつきやすくセット力が失われやすいという問題があった。
【0006】
また、合成高分子を用いた毛髪セット剤では、使用後、毛髪にはりを与えることができるものの、毛髪に硬いごわついた感触を与え、自然な柔らかい感触を与えるものが少ない。
【0007】
そのため、毛髪セット剤には、蛋白質加水分解物またはその誘導体とシリコーンオイル(有機シリコーン化合物)を併用して、毛髪をセットすると同時に艶、光沢を付与することが試みられているが、シリコーンオイルは、本来、疎水性(親油性)物質であり、親水性のポリペプチドとは相溶しにくく、保存安定性に欠け、化粧品としての商品価値が損なわれやすいという問題があり、さらに、化粧品に使用した場合、先にシリコーンオイルと接触した部分にはポリペプチドが付着しにくく、その逆に、先にポリペプチドと接触した部分にはシリコーンオイルが付着しにくいため、両者の特性を充分に発揮させることができないという問題があった。
【0008】
そこで、本発明者らは、ペプチドのアミノ基に、ケイ素原子をただ一つ含む官能基を共有結合させたシリル化ペプチドを配合した毛髪セット剤を開発し(特開平9−52821号公報)、それらの問題の解決を図ってきた。
【0009】
しかしながら、このシリル化ペプチドでは、毛髪や皮膚への収着性はよいが、一つのペプチド鎖に結合するシリル基が1個〜数個と少ないため、伸展性やなめらかさ、艶や光沢の付与作用という点ではシリコーンオイルより劣り、また、ペプチド部分のペプチド鎖が短いとセット力が弱く、ペプチド鎖が長いとセット力はあるものの高湿度下でべとつきやすいという蛋白加水分解物やその誘導体を配合した毛髪セット剤と同様の問題があった。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明は、毛髪に対するセット力が優れ、かつ、高湿度下でもべとつきを生じず、乾燥時にもフレーキングを起こさず、しかも、毛髪に艶や潤い、はりを付与し、毛髪をなめらかにし、毛髪の櫛通り性を改善し、毛髪にしなやかなセット性を付与することができる毛髪セット剤を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、〔1〕一般構造式(I)
【化2】
〔式中、R1、R2、R3のうち少なくとも2個は水酸基で、残りは炭素数1〜3のアルキル基を示し、R4は側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基を示し、R5はR4以外のアミノ酸側鎖を示し、Aは結合手で−CH2−、−(CH2)3−、−(CH2)3OCH2CH(OH)CH2−、−(CH2)3S−、−(CH2)3NH−および−(CH2)3OCOCH2CH2−よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基を表し、mは0〜500、nは0〜500、m+nは1〜500である(ただし、mおよびnはアミノ酸の数を示すのみで、アミノ酸配列の順序を示すものではない)〕
で表され、ケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有するシリル化ペプチドと、一般構造式(III)
R9pSiX(4−p) (III)
〔式中、pは0から2の整数で、R9は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、p個のR9は同じでもよく、異なっていてもよい。(4−p)個のXは水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基および水素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表され、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物とを水溶液中で縮重合させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物、および/または、〔2〕上記一般構造式(I)で表され、ケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有するシリル化ペプチドと上記一般構造式(III)で表され、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物とを水溶液中で縮重合させた後、さらに一般構造式(V)
R11 3 Si Z (V)
〔式中、3個のR11は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、3個のR11は同じでもよく、異なっていてもよい。Zは水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基およびアミノ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表され,加水分解によって水酸基が1個生じるシラン化合物を付加させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を含有させ、かつ、そのpHを3.5〜8.5に調整して、毛髪セット剤を調製するときは、上記シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物のゲル化作用により、毛髪に使用した際に、毛髪に対するセット力が優れ、かつ高湿度下でもべとつかず、乾燥時にもフレーキングを起こさず、しかも、毛髪に艶、潤い、はりを付与し、かつ毛髪をなめらかにして、毛髪の櫛通り性を改善し、毛髪にしなやかなセット性を付与することができることを見出し、本発明を完成するにいたった。なお、上記〔1〕、〔2〕は2種類のシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を識別しやすくするために付記した符号にすぎない。
【0012】
【発明の実施の形態】
ケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有するシリル化ペプチドは、上記一般構造式(I)で表されるものであるが、その合成にあたっては、その合成時からケイ素原子に直結する2個の水酸基を有し、上記一般構造式(I)
【0014】
で表される状態で得られるものと、下記の一般構造式(II)
【0015】
【化3】
【0016】
〔式中、R6〜R8はそれぞれ水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、水素原子または炭素数1〜3のアルキル基を表し、R6〜R8は同一でもよく、それぞれ異なっていてもよいが、R6〜R8のうち少なくとも2個はアルコキシ基またはハロゲン基であり、R4、R5、A、mおよびnは前記一般構造式(I)に同じである〕
で表されるシリル化ペプチドを合成し、それを加水分解して一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドにするものとがあり、上記一般構造式(I)および一般構造式(II)で表されるシリル化ペプチドは、特開平8−59424号公報、特開平8−67608号公報、特開平7−223921号公報および特開平7−228508号公報に開示の方法で水溶液中で容易に合成できる。
【0017】
上記一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドにおいて、R4 は側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸の末端アミノ基を除く側鎖の残基であるが、上記のような側鎖の末端にアミノ基を有する塩基性アミノ酸としては、例えば、リシン、アルギニン、ヒドロキシリシンなどが挙げられる。また、R5 はR4 以外のアミノ酸側鎖を示すが、そのようなアミノ酸としては、例えば、グルタミン酸、アスパラギン酸、アラニン、セリン、トレオニン、バリン、メチオニン、ロイシン、イソロイシン、チロシン、フェニルアラニン、プロリン、ヒドロキシプロリンなどが挙げられる。
【0018】
一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドにおいて、mは0〜500、好ましくは0より大きく200以下(0<m≦200)、より好ましくは0より大きく50以下(0<m≦50)、さらに好ましくは0より大きく10以下(0<m≦10)であり、nは0〜500、好ましくは0より大きく200以下(0<n≦200)、より好ましくは1〜100、さらに好ましくは2〜40であり、m+nは1〜500、好ましくは1〜200、より好ましくは2〜100、さらに好ましくは3〜50である。
【0019】
すなわち、mが上記範囲より大きくなると、側鎖のアミノ基に結合するシリル官能基が増え、ペプチド本来の毛髪への収着作用が減少し、nが上記範囲より大きくなると、ペプチド部分に対するシリル官能基部分の割合が少なくなって、シリル官能基部分が有する特性を充分に発揮することができなくなり、m+nが上記範囲より大きくなると、ペプチドとしての毛髪への収着性や浸透性が低分子量のペプチドに比べて減少する上に、保存中に凝集しやすくなり、保存安定性が低下する。なお、上記のm、nやm+nは、理論的には整数であるが、ペプチド部分が後述するような加水分解ペプチドである場合は、該加水分解ペプチドが分子量の異なるものの混合物として得られるため、測定値は平均値になる。
【0020】
上記一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドに使用されるペプチド類にはアミノ酸、ペプチド、アミノ酸またはペプチドのエステルなどが含まれる。上記のアミノ酸としては、例えば、アラニン、グリシン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、チロシン、セリン、トレオニン、メチオニン、アルギニン、ヒスチジン、リシン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、シスチン、システイン、システイン酸、トリプトファン、ヒドロキシプロリン、ヒドロキシリシン、O−ホスホセリン、シトルリンなどが挙げられる。
【0021】
上記ペプチドとしては、天然ペプチド、合成ペプチド、タンパク質(蛋白質)を酸、アルカリ、酵素またはそれらの併用で部分加水分解して得られる加水分解ペプチドなどが挙げられる。
【0022】
天然ペプチドとしては、例えば、グルタチオン、バシトラシンA、インシュリン、グルカゴン、オキシトシン、バソプレシンなどが挙げられ、合成ペプチドとしては、例えば、ポリグリシン、ポリリシン、ポリグルタミン酸、ポリセリンなどが挙げられる。
【0023】
加水分解ペプチドとしては、例えば、コラーゲン(その変成物であるゼラチンも含む)、ケラチン、絹フィブロイン(シルク)、セリシン、カゼイン、コンキオリン、エラスチン、鶏、あひるなどの卵の卵黄タンパク(蛋白)、卵白タンパク、大豆タンパク、小麦タンパク、トウモロコシタンパク、米(米糠)タンパク、ジャガイモタンパクなどの動植物由来のタンパク、あるいは、サッカロミセス属、カンディダ属、エンドミコプシス属の酵母菌や、いわゆるビール酵母、清酒酵母といわれる酵母菌より分離した酵母タンパク、キノコ類(担子菌)より抽出したタンパク、クロレラより分離したタンパクなどの微生物由来のタンパクを酸、アルカリ、酵素またはそれらの併用で部分的に加水分解して得られるペプチドが挙げられる。
【0024】
上記アミノ酸またはペプチドのエステルとしては、上記アミノ酸またはペプチドのカルボキシル基における炭素数1〜20の炭化水素アルコールとのエステル、例えば、メチルエステル、エチルエステル、プロピルエステル、イソプロピルエステル、ラウリルエステル、セチルエステル、2−エチルヘキシルエステル、2−ヘキシルデシルエステル、ステアリルエステルなどが挙げられる。
【0025】
本発明の毛髪セット剤に用いるシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物は、上記一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドに、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物を縮重合させるが、このように加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物としては、前記のように、下記の一般構造式(III)
R9pSiX(4−p) (III)
〔式中、pは0から2の整数で、R9は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、p個のR9は同じでもよく、異なっていてもよい。(4−p)個のXは水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基および水素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表され、このシラン化合物は加水分解によって下記の一般構造式(IV)
R10pSi(OH)qY(4−q−p) (IV)
〔式中、pは0から2の整数で、qは2から4の整数、p+q≦4で、R10は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、p個のR10は同じでもよく、異なっていてもよい。(4−q−p)個のYはアルコキシ基および水素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表されるシラン化合物になる。なお、上記一般構造式(III)および(IV)におけるp、(4−p)、q、(4−q−p)は下付け文字である。
【0026】
このような一般構造式(III)で表されるシラン化合物の具体例としては、例えば、テトラメトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルジメトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ヘキシルトリメトキシシラン、デシルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、3−メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクロキシプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリコシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリコシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、ジメチルオクタデシル〔3−(トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライド、3−(トリメトキシシリル)プロピルポリオキシエチレン(10)エーテル、テトラエトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルジエトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、3−メタクロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリコシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、メチルジクロロシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、フェニルトリクロロシラン、ジフェニルジクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、3−クロロプロピルメチルジクロロシランなど、および、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−グリコシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリコシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクロキシプロピルメチルジエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルトリエトキシシラン、3−クロロプロピルメチルジエトキシシラン、3−グリコシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシランなどのシランカップリング剤に、蛋白質、アルキル基、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシプロピレンエーテル、アクリル系ポリマー、ポリエステル、樹脂酸、染料、紫外線吸収剤、防腐剤、抗菌剤、アルキルアンモニウム、芳香環などを結合させたものなどが挙げられる。
【0027】
つぎに、一般構造式(I)で表され、ケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有するシリル化ペプチドと、一般構造式(III)で表され、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物との縮重合反応について説明する。
【0028】
上記一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドと一般構造式(III)で表されるシラン化合物との反応は、例えば、まず、上記一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドの水溶液を塩酸や硫酸で酸性側に調整するか、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液で塩基性側に調整し、その中に一般構造式(III)で表されるシラン化合物を滴下することにより、上記シラン化合物のアルコキシ基やハロゲン基などが加水分解してケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有する一般構造式(IV)で表されるシラン化合物になり、その後、中和することによって、一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドの水酸基と一般構造式(IV)で表されるシラン化合物の水酸基とが縮重合して共重合組成物が得られる。上記のように、一般構造式(III)で表されるシラン化合物から一般構造式(IV)で表されるシラン化合物への加水分解は、一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドとの縮重合時に行われるので、上記一般構造式(III)で表されるシラン化合物の加水分解を上記縮重合系とは別の系で行う必要はない。
【0029】
また、一般構造式(II)で表されるシリル化ペプチドは、前記のように、加水分解によって一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドになるものであるが、反応に際しては、この一般構造式(II)で表されるシリル化ペプチドを用いる場合は、一般構造式(II)で表されるシリル化ペプチドの水溶液を塩酸や硫酸で酸性側に調整するか、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液で塩基性側に調整すると、シリル基に結合するアルコキシ基やハロゲン基が加水分解を起こして水酸基になり、一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドになるので、その後は上記と同様にその中に上記一般構造式(III)で表されるシラン化合物を滴下することにより、上記一般構造式(III)で表されるシラン化合物のアルコキシ基やハロゲン基などが加水分解して一般構造式(IV)で表されるシラン化合物になり、その後、中和することによって、シリル化ペプチドの水酸基と一般構造式(IV)で表されるシラン化合物の水酸基とが縮重合して共重合組成物が得られる。上記のように、一般構造式(II)で表されるシリル化ペプチドを用いる場合も、その加水分解は酸性側に調整するか、または塩基性側に調整することによって行うことができるので、一般構造式(II)で表されるシリル化ペプチドから一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドへの加水分解も、上記のシリル化ペプチドと一般構造式(III)で表されるシラン化合物とを縮重合させるときの反応系と同じ系で行うことができ、別の系で行う必要はない。
【0030】
加水分解反応は、一般にpH2〜3で良好に進行するが、一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドによっては酸性側で不溶物が生じやすいものがあり、その際にはpH10〜11で行うのが好ましい。一般構造式(III)で表されるシラン化合物としてアルコキシシラン化合物を用いるときはpH調整は該シラン化合物の滴下前のみでよいが、一般構造式(III)で表されるシラン化合物としてハロゲン化シラン化合物やカルボキシシラン化合物を用いて塩基性側で反応する場合は反応中にpHが下がるので、水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などを添加してpHを10〜11に保つ必要がある。また、一般構造式(III)で表されるシラン化合物としてアミノシラン化合物を用いて酸性側で反応する場合は反応中にpHが上がるので、希塩酸や希硫酸などを添加してpHを2〜3に保つ必要がある。
【0031】
反応温度は低すぎると反応が進行しにくく、高すぎると上記一般構造式(III)で表されるシリル化合物のアルコキシ基やハロゲン基が急激に加水分解するので、30〜60℃が好ましい。また、反応時間は、反応量によっても異なるが、上記一般構造式(III)で表されるシラン化合物を30分〜2時間かけて滴下し、その後1〜6時間攪拌を続けるのが好ましい。
【0032】
加水分解反応の終了時点では、反応溶液が酸性または塩基性のため一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドや一般構造式(III)で表されるシラン化合物は解離しているので、反応溶液が酸性側の場合は水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液を添加し、反応溶液が塩基性側の場合は希塩酸や希硫酸などの酸水溶液を添加し攪拌して溶液を中和する。この中和によって縮重合が進み目的とするシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が得られるが、中和後の攪拌は2〜10時間程度が好ましい。
【0033】
本発明の毛髪セット剤には、上記のように製造したシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を用いるが、このシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物に、さらに加水分解によって水酸基が1個生じるシラン化合物を付加させたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物も用いることができる。
【0034】
加水分解によって水酸基が1個生じるシラン化合物としては、前記の一般構造式(V)で表されるシラン化合物が用いられ、このシラン化合物は加水分解によって下記の一般構造式(VI)
R11 3Si(OH) (VI)
〔式中、3個のR11は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、3個のR11は同じでもよく、異なっていてもよい〕
で表されるシラン化合物になる。
【0035】
このように加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が1個生じる一般構造式(V)で表されるシラン化合物としては、例えば、ジメチルビニルクロロシラン、n−ブチルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジメチルクロロシラン、tert−ブチルジフェニルクロロシラン、オクタデシルジメチルクロロシラン、メチルジフェニルクロロシラン、トリ−n−ブチルジメチルクロロシラン、トリエチルクロロシラン、トリメチルクロロシラン、トリ−n−プロピルクロロシラン、トリフェニルクロロシラン、トリメチルシリルアイオダイド、ジメチルエトキシシラン、ジメチルビニルエトキシシラン、ジメチルビニルメトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリフェニルエトキシシランなどが挙げられる。
【0036】
また、上記以外にも、ヘキサメチルジシラザンやヘキサメチルジシロキサンのようなケイ素原子を2個有するシリル化合物も、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が1個生じるので使用することができる。
【0037】
このようなシラン化合物は一般構造式(V)から明らかなように、ケイ素原子に直結する反応基が一つであるため、それを加水分解して得られる一般構造式(VI)で表されるシラン化合物は、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物中に存在する水酸基と反応して、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物中の水酸基を減少させ、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物がさらに縮重合するのを防止する。すなわち、この一般構造式(V)で表されるシラン化合物を加水分解して得られる一般構造式(VI)で表されるシラン化合物を反応させることによって、保存安定性のよいシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物にすることができる〔なお、この一般構造式(VI)で表されるシラン化合物がシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物に付加後は、理論上はシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物中の水酸基がなくなるので、この一般構造式(VI)で表されるシラン化合物を付加させた共重合組成物を、以下「非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物」と呼ぶ〕。
【0038】
また、上記一般構造式(I)で表されるシリル化ペプチドと上記一般構造式(III)で表されるシラン化合物との反応において、溶液を中和して縮重合反応させる工程中に上記一般構造式(V)で表されるシラン化合物を加水分解して得られた一般構造式(VI)で表されるシラン化合物を反応させると、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の分子量をコントロールすることができる。
【0039】
シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物と一般構造式(V)で表されるシラン化合物との反応は、例えば、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の水溶液中に一般構造式(V)で表されるシラン化合物を滴下することにより、下記の反応式に示すようにシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の水酸基に一般構造式(V)で表されるシリル化合物の水酸基が結合する。なお、下記の反応式においては、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を簡略化して、単に「共重合組成物」で示す。
【0040】
【化4】
【0041】
ただし、上記一般構造式(V)で表されるシラン化合物においてZがハロゲン基のシラン化合物は加水分解性がよいので、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の水溶液中に上記一般構造式(V)で表されるシラン化合物を直接滴下することによって反応は進行するが、上記一般構造式(V)で表されるシラン化合物でZがアルコキシ基のものや、ヘキサメチルジシロキサンなどのケイ素原子が2個のシラン化合物では、あらかじめpH2〜3の水溶液中で加水分解して一般構造式(VI)で表されるシラン化合物とし、その後、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の水溶液に滴下する必要がある。
【0042】
シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物と上記一般構造式(V)で表されるシラン化合物との反応温度は30〜60℃が好ましい。また、反応時間は、反応量によっても異なるが、一般構造式(V)で表されるシラン化合物の滴下に30分〜2時間、その後の攪拌に1〜6時間程度が好ましい。
【0043】
攪拌終了後、反応溶液を水酸化ナトリウム水溶液や水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液で中和し、さらに2〜10時間程度攪拌を続けて反応を完結させることによって、非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物が得られる。
【0044】
前記の中和反応終了後、反応液はpHを調整した後、液体のままあるいは粉末化して化粧品や繊維処理剤などへの配合剤として使用に供され、また、必要に応じて、イオン交換樹脂、透析膜、電気透析、ゲル濾過、限外濾過などによって精製した後、液体のままあるいは粉末化して使用に供される。
【0045】
本発明の毛髪セット剤は、上記のシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を含有させ、かつpHを3.5〜8.5に調整することによって調製されるが、その調製について詳しく説明すると、以下の通りである。
【0046】
本発明の毛髪セット剤は、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を水または水と水溶性アルコールなどを含有した溶液に溶解または分散し、pHを3.5〜8.5の範囲に調整することによって調製されるが、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の毛髪セット剤中での含有量(毛髪セット剤への配合量)は、0.1〜40重量%が好ましく、特に2〜20重量%が好ましい。これは、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の含有量が上記範囲より少ない場合は、毛髪をセットする際に毛髪に付着するシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の量が少ないため、充分なセット力が得られなくなるおそれがあり、また、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の含有量が上記範囲より多くなると、毛髪セット剤の粘度が高くなりすぎて毛髪に使用する際の取扱いが困難になるおそれがあるからである。そして、毛髪セット剤中への含有にあたって、上記シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物は単独で用いてもよいし、また、2種以上を併用してもよい。
【0047】
毛髪セット剤のpHは3.5〜8.5であることを必要とし、特にpH4.5〜7.5が好ましい。すなわち、pHが上記範囲より低くても、また上記範囲より高くても、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物のシリル官能基部分に基づくゲル化力が低下し、充分なセット力を発揮できなくなるからである。
【0048】
pHを3.5〜8.5の範囲に調整するためのpH調整剤としては、特に制限はなく、化粧品に配合できる無機酸、有機酸、無機アルカリ、有機アルカリのいずれを用いてもよい。ただ、毛髪セット剤への着臭の点を考慮すると、酸性側に調整する際には、無機酸では塩酸、有機酸ではシュウ酸、クエン酸、リンゴ酸などを用いるのが好ましく、塩基性側に調整する際には、アミノメチルプロパノール、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、塩基性アミノ酸などの有機アルカリを用いるのが好ましい。
【0049】
本発明の毛髪セット剤は、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を必須成分とし、これを水または水に水溶性アルコールなどの適宜な溶剤などを加えた液に溶解させ、pHを3.5〜8.5に調整することによって調製されるが、これらのpHを調整するためのpH調整剤やシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物以外にも本発明の効果を損なわない範囲で適宜他の成分を添加することができる。
【0050】
そのような成分としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキル(炭素数12〜14)エーテル(7EO)(なお、EOはエチレンオキサイドで、EOの前の数値はエチレンオキサイドの付加モル数を示す)、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル、ポリオキシエチレンオレイン酸グリセリル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンセチルステアリルジエーテル、ポリオキシエチレンソルビトールラノリン(40EO)、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンデシルテトラデシルエーテル、ポリオキシエチレンラノリン、ポリオキシエチレンラノリンアルコール、ポリオキシプロピレンステアリルエーテル、アルキルグリコシド、アルキルポリグリコシドなどのノニオン性界面活性剤、塩化ステアリルトリメチルアンモニウム、塩化セチルトリメチルアンモニウム、塩化セトステアリルトリメチルアンモニウム、塩化ステアリルビス(ジエチレングリコール)ヒドロキシエチルアンモニウム、塩化ベヘニルトリメチルアンモニウム、臭化ジステアリルジメチルアンモニウム、塩化トリ〔ポリオキシエチレン(5EO)〕ステアリルアンモニウム、塩化ステアリルジメチルベンジルアンモニウム、臭化ベヘニルトリメチルアンモニウム、ヨウ化セチルトリメチルアンモニウム、塩化オレイルベンジルジメチルアンモニウム、塩化オレイルビス〔ポリオキシエチレン(15EO)〕メチルアンモニウム、塩化ポリオキシプロピレンメチルジエチルアンモニウム、塩化ミンク油アルキルアミドプロピルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム、塩化γ−グルコンアミドプロピルジメチルヒドロキシアンモニウム、アルキルピリジニウム塩などの陽イオン性界面活性剤、イソステアリン酸ジエタノールアミド、ウンデシレン酸モノエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド、牛脂肪酸モノエタノールアミド、硬化牛脂肪酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエタノールアミド、ステアリン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸モノエタノールアミド、ミリスチン酸ジエタノールアミド、ヤシ油アルキルエタノールアミド、ヤシ油アルキルジエタノールアミド、ラウリン酸イソプロパノールアミド、ラウリン酸エタノールアミド、ラウリン酸ジエタノールアミド、ラノリン脂肪酸ジエタノールアミドなどの増粘剤、ワックス、パラフィン、脂肪酸エステル、グリセライド、動植物油などの油脂類、動植物抽出物、コラーゲン、ケラチン、フィブロイン、セリシン、カゼイン、大豆、小麦、トウモロコシ、イモ類、米(米糠)、酵母、キノコ類などの動植物および微生物由来のタンパク質の加水分解ペプチドやそのペプチドエステル誘導体、動植物および微生物由来のタンパク質の加水分解ペプチドのN−第4級アンモニウム誘導体類でトリメチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピル誘導体、トリエチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピル誘導体、ジエチルメチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピル誘導体、ラウリルジメチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピル誘導体、ヤシ油アルキルジメチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピル誘導体、ステアリルジメチルアンモニオ−2−ヒドロキシプロピル誘導体などのアルキル鎖が1〜22の第4級アンモニウム誘導体、ポリサッカライドまたはその誘導体、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン、ポリグリセリン、ポリエチレングリコールなどの湿潤剤、エタノール、メタノール、プロパノール、イソプロパノールなどの低級アルコール類、セタノール、ステアリルアルコール、イソステアリルアルコール、イソセチルアルコール、オレイルアルコール、ベヘニルアルコールなどの高級アルコール類、ラウリン酸ジメチルアミノエチルアミド、ミリスチン酸ジエチルアミノエチルアミド、ステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、イソステアリン酸ジメチルアミノプロピルアミド、ベヘニン酸ジメチルアミノプロピルアミドなどの第3級アミドアミン化合物、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン酸ナトリウム、DL−アラニン、L−アルギニン、グリシン、L−グルタミン酸、L−システイン、L−スレオニンなどのアミノ酸、などを挙げることができる。
【0051】
また、鎖状または環状のメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、ジメチルポリシロキサンポリエチレングリコール共重合体、ジメチルポリシロキサンポリプロピレン共重合体、アミノ変成シリコーンオイル、第4級アンモニウム変成シリコーンオイルなどのシリコーンオイルをシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物と併用した場合、上記シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物のシリル官能基部分がシリコーンオイルと相溶性があることから、シリコーンオイルの毛髪セット剤中での乳化安定性を増加させるので、シリコーンオイルの作用が発揮されやすくなる。
【0052】
さらに、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カチオン化セルロース、カチオン化グアーガムなどの半合成ポリマー類、ポリ塩化ジアリルジメチルアンモニウム、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドンなどの合成ポリマーを併用してもよい。
【0053】
本発明の毛髪セット剤は、毛髪のセットを主目的として使用されるものであり、そのような毛髪のセットを主目的として使用されるものであれば、例えば一般にセットローションやヘアスタイリング剤などと呼ばれているものをはじめ、各種のものが本発明の毛髪セット剤の範疇に含まれる。
【0054】
【発明の効果】
本発明の毛髪セット剤は、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物がpH3.5〜8.5の範囲で示すゲル化作用により、毛髪に対するセット力が優れ、かつ高湿度下でもべとつかず、乾燥後にもフレーキングを起こさない。しかも、本発明の毛髪セット剤は、上記シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および/または非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物により、毛髪に艶、潤い、はりを付与し、かつ毛髪をなめらかにし、毛髪の櫛通り性を改善し、毛髪にしなやかなセット性を付与することができる。
【0055】
【実施例】
つぎに、実施例を挙げて本発明をさらに具体的に説明する。ただし、本発明はそれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、以下の実施例などにおいて溶液や分散液の濃度を示す%は重量%である。また、実施例に先立ち、実施例で使用するシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物および非水酸基型シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の製造例、製造したシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の確認に用いるゲル濾過分析の条件、赤外線吸収スペクトル分析の測定条件、および、評価にあたって使用するウェーブ効率、ウェーブ保持率の測定方法についての説明を実施例に先立って行っておく。
【0056】
〔ゲル濾過分析〕
ゲル濾過分析は下記の条件で行った。
【0057】
【0058】
〔赤外線吸収スペクトル分析〕
赤外線吸収スペクトル測定には、(株)島津製作所製FT−IR8200PC(以下、FT−IRという)を用い、試料が液体の場合は液体用セルを用い、試料を凍結乾燥などにより粉末化した場合はKBr錠剤法によって測定した。
【0059】
製造例1
一般構造式(I)において、R1 =CH3 、R2 およびR3 =OHで、結合手Aが−(CH2 )3 −で、mの平均値=1、nの平均値=6、m+nの平均値=7のシリル化加水分解ケラチン(数平均分子量800)の25%水溶液100g(0.031モル)を500mlのビーカーに入れ、希塩酸を用いてpH3に調整した。この溶液を湯浴上で40℃で攪拌しながらメチルジエトキシシラン8.3g(0.062モル、シリル化加水分解ケラチンに対して2当量)を1時間かけて滴下し、滴下終了後、さらに40℃で5時間攪拌を続けた。つぎに、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、40℃で4時間攪拌を続けて縮重合させた。反応終了後、反応液を濾過により不溶物を除去し、濃度を調整してシリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物の20%水溶液を88g得た。
【0060】
上記のようにして得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解ケラチンの一部をゲル濾過分析したところ、原料として用いたシリル化加水分解ケラチンのゲル濾過分子量で約880のピークが減少し、ゲル濾過分子量約2500付近にピークが検出され、共重合組成物が生成していることが確認された。
【0061】
また、得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解ケラチンの一部をそれぞれFT−IRで分析して比較したところ、共重合組成物では1250cm-1付近のSi−CH3 に起因すると考えられるピークが増強され、またSi−Oに起因すると考えられる1100cm-1付近のピークが検出され、共重合組成物がSi−O−Si結合を有していることが確認された。
【0062】
製造例2
一般構造式(I)において、R1 =CH3 、R2 およびR3 =OHで、結合手Aが−(CH2 )3 OCH2 CH(OH)CH2 −で、mの平均値=1.1、nの平均値=14.9、m+nの平均値=16のシリル化加水分解コラーゲン(数平均分子量1750)の30%水溶液100g(0.017モル)を500mlのビーカーに入れ、希塩酸を用いてpH3に調整した。この溶液を湯浴上で40℃で攪拌しながらジメチルジエトキシシラン12.6g(0.085モル、シリル化加水分解コラーゲンに対して5当量)を1時間かけて滴下し、滴下終了後さらに40℃で5時間攪拌を続けた。つぎに、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、40℃で4時間攪拌を続けて縮重合させた。攪拌終了後、反応液を濾過により不溶物を除去し、濃度を調整してシリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物の25%水溶液を129g得た。
【0063】
得られた共重合組成物および原料のシリル化加水分解コラーゲンのゲル濾過分析の結果、原料のシリル化加水分解コラーゲンのゲル濾過分子量約3600のピークがほとんど消失し、ゲル濾過分子量約13000付近に大きなピークが認められ、シリル化加水分解コラーゲンとシラン化合物とが共重合して、共重合組成物が生成していることが確認された。
【0064】
また、得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解コラーゲンの一部をそれぞれFT−IRで分析して比較したところ、製造例1の場合と同様に、共重合組成物では1250cm-1付近のピークが増強され、また1100cm-1付近にピークが検出されることから、共重合組成物がSi−O−Si結合を有していることが確認された。
【0065】
製造例3
一般構造式(I)において、R1 =CH3 、R2 およびR3 =OHで、結合手Aが−(CH2 )3 −で、mの平均値=0.075、nの平均値=12.425、m+nの平均値=12.5のシリル化加水分解シルク(数平均分子量1000)の25%水溶液100g(0.025モル)を500mlのビーカーに入れ、希塩酸を用いてpH3に調整した。この溶液を湯浴上で50℃で攪拌しながらジメチルジエトキシシラン7.4g(0.05モル、シリル化加水分解シルクに対して2当量)およびジメチルオクタデシル−〔(3−トリメトキシシリル)プロピル〕アンモニウムクロライドの50%エタノール溶液を1.98g(0.002モル、シリル化加水分解シルクに対して0.08当量)との混合液を1.5時間かけて滴下し、滴下終了後、さらに50℃で5時間攪拌を続けた。つぎに、水酸化ナトリウム水溶液でpHを7に調整し、50℃で6時間攪拌を続けて縮重合させた。さらに、この溶液にトリメチルクロロシラン5.4g(0.05モル)を30分かけて滴下して混合攪拌した。この間、同時に20%水酸化ナトリウム水溶液を滴下して溶液のpHが7〜8になるように保った。滴下終了後、さらに3時間攪拌を続けて反応を完結した。反応終了後、反応液を濾過により不溶物を除去し、濃度を調整して非水酸基型シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物の20%水溶液を125g得た。
【0066】
得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解シルクの一部をゲル濾過分析したところ、原料として用いたシリル化加水分解シルクのゲル濾過分子量で約1600のピークがほとんど消失し、ゲル濾過分子量約16000付近にピークが検出され、共重合組成物が生成していることが確認された。
【0067】
また、得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解シルクの一部をそれぞれFT−IRで分析したところ、1250cm-1付近のSi−CH3 に起因すると考えられるピークが増強され、また1100cm-1付近のピークが検出されることから、共重合組成物がSi−O−Si結合を有し、トリメチルシリル基が付加されていることが確認された。
【0068】
製造例4
一般構造式(I)において、R1 、R2 およびR3 のすべてがOHで、結合手Aが−(CH2 )3 OCH2 CH(OH)CH2 −で、mの平均値=0.5、nの平均値=5.5、m+nの平均値=6のシリル化加水分解大豆タンパク(数平均分子量700)の25%水溶液100g(0.035モル)を500mlのビーカーに入れ、水酸化ナトリウム水溶液を加えてpH10.5に調整した。この溶液を55℃で攪拌しながら、メチルトリクロロシラン15.7g(0.105モル、シリル化加水分解大豆タンパクに対して3当量)を1.5時間かけて滴下した。この間、同時に水酸化ナトリウム水溶液を滴下して反応溶液のpHが10〜11になるように保った。滴下終了後、5時間攪拌を続けた後、この溶液を希塩酸を用いてpH6.5に調整し、55℃で5時間攪拌を続けて縮重合させた。さらに、この溶液にトリメチルクロロシラン22.6g(0.21モル)を1時間かけて滴下して混合攪拌した。この間、同時に20%水酸化ナトリウムを滴下して溶液のpHが7〜8になるように保った。滴下終了後、3時間攪拌を続けて反応を完結させた。反応終了後、反応液を濾過により不溶物を除去し、濾液を電気透析により脱塩精製し、濃度を調整して非水酸基型シリル化加水分解大豆タンパク−シラン化合物共重合組成物の20%水溶液を102g得た。
【0069】
上記のようにして得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解大豆タンパクの一部をゲル濾過分析したところ、原料として用いたシリル化加水分解大豆タンパクのゲル濾過分子量で約900のピークが減少し、ゲル濾過分子量約2500付近に主ピークが検出され、共重合組成物が生成していることが確認された。
【0070】
また、得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解大豆タンパクの一部をそれぞれFT−IRで分析したところ、製造例1の場合と同様に、1250cm-1付近のピークが増強され、また1100cm-1付近にピークが検出されることから、共重合組成物がSi−O−Si結合を有していることが確認された。
【0071】
製造例5
一般構造式(I)において、R1 、R2 およびR3 のすべてがOHで、結合手Aが−(CH2 )3 OCH2 CH(OH)CH2 −で、mの平均値=1、nの平均値=4、m+nの平均値=5のシリル化加水分解酵母タンパク(数平均分子量600)の25%水溶液100g(0.042モル)を500mlのビーカーに入れ、水酸化ナトリウム水溶液を用いてpH10.5に調整した。この溶液を湯浴上で50℃で攪拌しながら、メチルジエトキシシラン11.2g(0.084モル、シリル化加水分解酵母タンパクに対して2当量)および3−(トリメトキシシリル)プロピルポリオキシエチレン(10)エーテル2.6g(0.004モル、シリル化加水分解酵母タンパクに対して0.1当量)との混合液を1.5時間かけて滴下し、滴下終了後さらに50℃で5時間攪拌を続けた。つぎに、希塩酸でpHを6.5に調整し、50℃で6時間攪拌を続けて重合させた。攪拌終了後、濾過により不溶物を除去し、濃度を調整してシリル化加水分解酵母タンパク−シラン化合物共重合組成物の20%水溶液を105g得た。
【0072】
上記のようにして得られた共重合組成物およびその原料のシリル化加水分解酵母タンパクの一部をゲル濾過分析したところ、原料のシリル化加水分解酵母タンパクのゲル濾過分子量約800のピークが減少し、ゲル濾過分子量約3000付近に大きなピークが認められ、シリル化加水分解酵母タンパクとシラン化合物とが共重合していることが確認された。
【0073】
また、得られた共重合組成物およびその原料であるシリル化加水分解酵母タンパクの一部をそれぞれFT−IRで分析したところ、製造例1の場合と同様に、1250cm-1付近のピークが増強され、また1100cm-1付近にピークが検出されることから、共重合組成物がSi−O−Si結合を有していることが確認された。
【0074】
〔ウェーブ効率およびウェーブ保持率の測定方法〕
毛髪10本を一束とし、その毛根側を揃えてテープで固定し、長さを18cmに揃える。ロッドには直径10mmで長さ80mmのガラス管を使用し、あらかじめ10mmごとに印をつけておく(反対側にも5mmずらして印をつける)。そして、その印の上を通るように毛束をロッドに巻き付け、両端を輪ゴムで固定する。その毛束に一定量の毛髪セット剤を塗布し、ヘアドライヤーで乾燥する。その後、毛先側の輪ゴムをはずし、デシケータ内でロッドを水平に宙吊り状態にして12時間乾燥する。乾燥後、毛束をロッドからはずし、ウェーブの波長および波数を測定し、ついで、毛先側に3gの錘を付け、毛束を垂直状態にしてデシケータ中で12時間放置する。つぎに、錘を毛束からはずし、毛束を垂直にしてデシケータ中で24時間放置し、再度ウェーブの波長および波数を測定する。
【0075】
波長、波数の測定は、図1に示すように、両端のウェーブを除き、一方の端部から2番目のウエーブの頂点から他方の端部から2番目のウエーブの頂点までの距離を左右とも測定する。その頂点から頂点までの距離をそれぞれL1 、L2 とし、L1 とL2 との間にある波数(ウエーブ数)をそれぞれn1 、n2 とすると、平均波長(L)は下式によって求められる。
【0076】
【0077】
ロッドそのものの波長(直径)は10mmであるから、ウェーブ効率は次式により求められる。
【0078】
【0079】
また、セット処理後のウェーブ効率と、錘をはずして24時間放置してウェーブが回復した後のウェーブ効率との比から、次式に示すように、ウェーブ保持率が求められる。
【0080】
【0081】
なお、以下の実施例および比較例でのウェーブ試験では、各実施例および比較例ごとに、それぞれ毛髪10本ずつの3本のロッドでウェーブを作製し、ウェーブ効率、ウェーブ保持率の値は、3本のウェーブ試験の平均値で示す。
【0082】
実施例1および比較例1〜2
表1に示す組成の3種類の毛髪セット剤を調製し、それぞれの毛髪セット剤を洗浄した毛髪に使用して、処理後の毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさ、ウェーブ効率およびウェーブ保持率を調べた。
【0083】
以下の実施例や比較例中における各成分の配合量はいずれも重量部によるものであり、配合量が固形分量でないものについては、成分名のあとに括弧書きで固形分濃度を示している。これらは、以下の実施例および比較例でも同様である。なお、これらの実施例や比較例においては、毛髪セット剤の調製を行う関係などもあって、各成分に関して「含有」という表現をせず、「配合」という表現で説明する。
【0084】
実施例1においては、製造例1で製造したシリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物を用い、比較例1では、シリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物に代えて、加水分解ケラチン(m+n=7)とポリ(オキシエチレン・オキシプロピレン)メチルポリシロキサン共重合体〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、SH3749(商品名)〕を用い、比較例2では、加水分解ケラチンのみを用いている。
【0085】
【表1】
【0086】
上記毛髪セット剤による処理に先立ち、毛髪はあらかじめ2%ポリオキシエチレン(10EO)ノニルフェニルエーテル水溶液で洗浄し、水でゆすいで室温で風乾した。これらの毛髪10本からなる毛束をロッドに巻き付け、そのロッドに巻き付けた毛束をそれぞれ実施例1および比較例1〜2の毛髪セット剤に30秒間浸漬し、前記の方法でウェーブ効率およびウェーブ保持率を測定した。また、その乾燥後の波長、波数の測定時に、毛髪の艶、潤い、はりおよびしなやかさを10人の女性パネラーに評価させた。さらに、上記評価後の毛束を相対湿度66%の恒湿槽中に24時間保存し、毛髪のべとつきの少なさについて上記パネラーに評価させた。
【0087】
評価方法は、最も良いものを〔2点〕とし、2番目に良いものを〔1点〕とし、悪いものを〔0点〕として、表2にその結果を10人の平均値で示す。
【0088】
【表2】
【0089】
表2に示すように、シリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物を配合した実施例1は、シリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物を配合していない比較例1〜2に比べて、毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさのいずれにおいても評価値が高く、シリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物が毛髪に収着して、毛髪に艶、潤い、はり、しなやかさを付与することが明らかであった。また、実施例1は毛髪のべとつきも少なかった。さらに、実施例1は、比較例1〜2に比べてウェーブ効率が高く、かつウェーブ保持率が高く、そのことから、シリル化加水分解ケラチン−シラン化合物共重合組成物が毛髪を強力にセットし、かつ、そのセット力が持続性を有することが明らかであった。なお、恒温槽中に保存する前の状態では、いずれの毛束にも、毛髪セット剤によるフレーキングは認められなかった。
【0090】
実施例2および比較例3
表3に示す組成の3種類の毛髪セット剤を調製し、それぞれの毛髪セット剤を用いた場合の毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさ、ウェーブ効率およびウェーブ保持率を実施例1と同様に調べた。
【0091】
実施例2においては、製造例2で製造したシリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物を用い、比較例3では、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物に代えて、加水分解コラーゲン(m+n=20)とジメチルシロキサン・メチル(ポリオキシエチレン)シロキサン共重合体〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)社製、SH3771C(商品名)〕を用い、比較例4では、加水分解コラーゲンのみを用いている。
【0092】
【表3】
【0093】
毛髪のセット処理は、実施例1と同様に洗浄処理した毛束をロッドに巻き付け、そのロッドに巻き付けた毛束をそれぞれ上記実施例2および比較例3〜4の毛髪セット剤に30秒間浸漬することによって行った。そして、乾燥後の毛髪の艶、潤い、はりおよびしなやかさを10人の女性パネラーに実施例1と同じ評価方法で評価させ、またウェーブ効率、ウェーブ保持率も実施例1と同様に調べた。表4にそれらの結果(平均値)を示す。
【0094】
【表4】
【0095】
表4に示すように、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物を配合した実施例2は、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物を配合していない比較例3〜4に比べて、毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさのいずれにおいても評価値が高く、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物が毛髪に収着して、毛髪に艶、潤い、はり、しなやかさを付与することが明らかであった。また、実施例2は、比較例3〜4に比べて、ウェーブ効率、ウェーブ保持率とも高く、シリル化加水分解コラーゲン−シラン化合物共重合組成物が毛髪に収着し、毛髪に対するセット力が優れていることが明らかであった。
【0096】
実施例3および比較例5〜6
表5に示す組成の3種類の毛髪セット剤を調製し、それらの毛髪セット剤を用いた場合の毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさ、べとつきの少なさ、フレーキングの有無、ウェーブ効率およびウェーブ保持率について評価した。
【0097】
実施例3では、製造例3で製造した非水酸基型シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物を用い、比較例5では、非水酸基型シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物に代えて、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル系共重合体〔互応化学工業(株)製、プラスサイズL−53P(商品名)〕と加水分解シルク(m+n=12.5)を用い、比較例6では、アクリル酸エステル・メタクリル酸エステル共重合体のみを用いている。
【0098】
【表5】
【0099】
毛髪のセット処理は、実施例1と同様に洗浄処理した毛束をロッドに巻き付け、そのロッドに巻き付けた毛束に、それぞれ実施例3および比較例5〜6の毛髪セット剤をスプレーディスペンサーでロッドの前後に各1回ずつ噴霧し、2分間ラップで包み込むことによって行った。ヘアドライヤーで乾燥し、デシケータ中で乾燥後に前記の方法で波数、波長を測定してウェーブ効率を求め、ウェーブ保持率を算出した。また、その際、毛髪の艶、潤い、はりおよびしなやかさを10人の女性パネラーに実施例1と同様の評価基準で評価させた。さらに、上記評価後の毛束の毛髪上のフレーキングの有無を目視で観察した後、相対湿度66%の恒湿槽中に24時間保存し、毛髪のべとつきの少なさについて上記パネラーに評価させた。それらの結果を表6(平均値)に示す。
【0100】
【表6】
【0101】
表6に示す結果から明らかなように、非水酸基型シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物を配合した実施例3は、合成ポリマーを配合した比較例5〜6に比べて、毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさのいずれにおいても評価値が高く、非水酸基型シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物が毛髪に収着して、毛髪に艶、潤い、はり、しなやかさを付与する効果が明らかであった。特に、実施例3のしなやかさの評価値が高く、合成ポリマーでは毛髪が硬い感触になりがちであるが、シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物ではしなやかな感触に毛髪がセットされることが明らかにされていた。
【0102】
また、ウェーブ効率は、実施例3、比較例5〜6とも大差はなかったが、ウェーブ保持率は、実施例3の毛髪セット剤で処理した毛髪は、比較例5〜6の毛髪セット剤で処理した毛髪に比べて約2倍の保持率があり、非水酸基型シリル化加水分解シルク−シラン化合物共重合組成物は毛髪のセット保持力に優れていることが明らかであった。さらに実施例3は、比較例5〜6に比べて毛髪のべとつきが少なく、毛髪のべとつきの少なさを調べるための恒湿槽中での保存前の状態では、毛髪上にフレーキングが認められなかった。
【0103】
実施例4および比較例7
表7に示す組成の2種類のムース状毛髪セット剤用ベースを調製し、該ムース状毛髪セット剤用ベースと液化石油ガス(LPG)とを90:10(重量比)でスプレー容器に充填して、ムース状毛髪セット剤とし、パーマネントウェーブ処理後の毛髪に使用して、毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさ、ウェーブ効率およびウェーブ保持率について評価した。
【0104】
実施例4では、製造例4で製造した非水酸基型シリル化加水分解大豆タンパク−シラン化合物共重合組成物を用い、比較例7では、非水酸基型シリル化加水分解大豆タンパク−シラン化合物共重合組成物に代えて、製造例4で原料として用いたシリル化加水分解酵大豆タンパクを用いている。
【0105】
【表7】
【0106】
この実施例4および比較例7では、各毛束は毛髪30本で作成し、上記ムース状毛髪セット剤による処理に先立ち、2%ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル水溶液で洗浄した毛束をロッドに巻き付ける前に以下の手順でパーマネントウェーブ処理した。すなわち、各毛束に、28%アンモニア水でpHを9.2に調整した6%チオグリコール酸水溶液5mlを塗布し、ラップで覆い15分間放置した。流水中で10秒間洗浄後、6%臭素酸ナトリウム水溶液5mlを塗布し、ラップで覆い15分間放置後、流水中で30秒間洗浄した。洗浄後、各毛束を実施例1と同様にロッドに巻き付け、実施例4および比較例7のムース状毛髪セット剤をそれぞれ2gずつ各毛束にすり込むように塗布した後、ヘアドライヤーで乾燥した。乾燥後のウェーブの波長および波数を測定してウェーブ効率を求めた後、各毛束に3gの錘をつけてデシケータ中で毛束を垂直状態にして12時間放置し、錘をはずして24時間再びデシケータ中で毛束を垂直状態にして乾燥した後、再びウェーブ効率を求め、ウェーブ保持率を算出した。それらの結果(平均値)を表8に示す。
【0107】
【表8】
【0108】
一般にパーマネントウェーブ処理を施して損傷を受けた毛髪は、毛髪セット剤によるウェーブ効率が悪くなる(セットがかかりにくくなる)と言われているが、実施例4の毛髪セット剤ではウェーブ効率が70%近くあり、傷んだ毛髪にもよくウェーブを付与し、ウェーブ保持率も比較例7の約2倍で、非水酸基型シリル化加水分解大豆タンパク−シラン化合物共重合組成物が傷んだ毛髪にもよくウェーブを付与し、そのウェーブを保持させることが明らかにされていた。
【0109】
また、毛髪の艶、潤い、はりおよびしなやかさについて10人のパネラー(女性6人、男性4人)に、実施例4および比較例7の毛髪セット剤で処理した毛髪のどちらが優れているか、あるいは実施例4および比較例7の毛髪セット剤に差はないかを評価させた。それらの結果を表9に示す。
【0110】
【表9】
【0111】
表9に示すように、処理後の毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさの評価では、パネラーの7割以上が非水酸基型シリル化加水分解大豆タンパク−シラン化合物共重合組成物を配合した実施例4の毛髪セット剤で処理した毛髪が、シリル化加水分解大豆タンパクを配合した比較例7の毛髪セット剤で処理した毛髪より優れていると答えていて、非水酸基型シリル化加水分解大豆タンパク−シラン化合物共重合組成物は、シリル化加水分解大豆タンパクより毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさを与える効果に優れていることが明らかにされていた。
【0112】
実施例5および比較例8
表10に示す組成の2種類の毛髪セット剤を調製し、毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさ、櫛通り性、べとつきおよびセット力(カールの保持力)について評価した。
【0113】
実施例5では、製造例5で製造したシリル化加水分解酵母タンパク−シラン化合物を用い、比較例8では、シリル化加水分解酵母タンパクーシラン化合物共重合組成物に代えて、加水分解酵母タンパク(m+n=6)とオクタメチルトリシロキサン〔東レ・ダウコーニング・シリコーン(株)製、SH200−1cs(商品名)〕を用いている。
【0114】
【表10】
【0115】
上記の毛髪セット剤について、5人の女性パネラーに、毎日1回、最初の5日間は、比較例8の毛髪セット剤で処理させ、次の5日間は実施例5の毛髪セット剤で処理させた。
【0116】
処理の方法は、頭髪をヘアカーラーに巻き付け、ポンプ式スプレーに詰めた上記の毛髪セット剤を、使用前に充分振盪して均一にした後、噴霧し、ヘアドライヤーで乾燥した。
【0117】
10日間の使用期間後(すなわち、実施例5の毛髪セット剤の5日間使用後)、毛髪のまとまりやすさ、艶、潤い、はり、しなやかさ、櫛通り性、べとつきおよび毛髪のカールの保持力が、比較例8の毛髪セット剤を使用していた時より良くなったか、悪くなったか、あるいは変わらなかったかを回答させた。その結果を表11に示す。
【0118】
【表11】
【0119】
表11に示すように、シリル化加水分解酵母タンパク−シラン化合物共重合組成物を配合した実施例5の毛髪セット剤の使用後は、その使用前に比べて、毛髪の艶、潤い、はり、しなやかさ、櫛通り性、べとつきおよびカールの保持力が改善されたと回答したものが多く、シリル化加水分解酵母タンパク−シラン化合物共重合組成物が、毛髪に艶や潤い、はり、しなやかさを付与し、櫛通り性、べとつきを改善するとともに、毛髪のカールの保持力を有することが明らかであった。
【図面の簡単な説明】
【図1】毛髪セット剤処理後の毛髪の状態を模式的に示す図である。
Claims (2)
- 〔1〕一般構造式(I)
で表され、ケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有するシリル化ペプチドと、一般構造式(III)
R 9 pSiX(4−p) (III)
〔式中、pは0から2の整数で、R 9 は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、p個のR 9 は同じでもよく、異なっていてもよい。(4−p)個のXは水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基、アミノ基および水素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表され、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物とを水溶液中で縮重合させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物、および/または、〔2〕上記一般構造式(I)で表され、ケイ素原子に直結する水酸基を少なくとも2個有するシリル化ペプチドと、上記一般構造式(III)で表され、加水分解によってケイ素原子に直結する水酸基が2個以上生じるシラン化合物とを水溶液中で縮重合させた後、さらに一般構造式(V)
R 11 3 Si Z (V)
〔式中、3個のR 11 は炭素原子がケイ素原子に直接結合する有機基であり、3個のR 11 は同じでもよく、異なっていてもよい。Zは水酸基、アルコキシ基、ハロゲン基、カルボキシル基およびアミノ基よりなる群から選ばれる少なくとも1種の基である〕
で表され、加水分解によって水酸基が1個生じるシラン化合物を付加させて得られたシリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物を含有し、かつ、そのpHが3.5〜8.5の溶液であることを特徴とする毛髪セット剤。 - シリル化ペプチド−シラン化合物共重合組成物の含有量が0.1〜40重量%である請求項1記載の毛髪セット剤。
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