JP3815392B2 - 不織布及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、光触媒機能、熱的触媒機能、触媒担持機能等の優れた機能性、又は耐酸化性、耐アルカリ性等の耐環境性を有すると共に、優れた力学的特性を併せ持つ傾斜組成表面層を有するセラミックス繊維から構成されてなり、メルトブロー法により製造された不織布及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、光触媒機能、熱的触媒機能、触媒担持機能等の機能性や耐酸化性、耐アルカリ性等の耐環境性を有するセラミックス繊維について種々提案されている。
例えば、特開平5−184923号公報には、チタンアルコキシドとバナジウム化合物をアルコールに溶解させ、加水分解させて調整したゾル状物を繊維形状に成形した後ゲル化し、200〜700℃の範囲で熱処理して、アナターゼ型チタニアと酸化バナジウムの結晶からなる繊維を合成する方法が開示されている。本公開特許公報の実施例では、チタニアとバナジア以外に多くのシリカ成分が含有された繊維が主として記載されており、この繊維を用いた織物としての触媒活性も、シリカからなるEガラスに同繊維を僅か20%だけ混紡されたものについてのみ示されているに過ぎない。
【0003】
従来からゾル−ゲル法により合成されるチタニア繊維は極めて脆弱であることが知られており、その強度を向上させる研究として、例えば、「窯業協会誌」第94巻(12)、第1243〜1245ページ(1986年)には、シリカ成分を共存させることが述べられている。上記、特開平5−184923号公報の実施例に記載されている方法は、正にこの手法を採用しているのに他ならない。また、特開平11−5036号公報には、ゾル−ゲル法による光触媒用シリカーチタニア繊維とその製造方法について開示されているが、この場合の繊維強度も0.1〜1.0GPaと極めて低いものであった。
【0004】
また、環境保全に対する関心の高まりとともに、自動車や工業プラント等から発生する窒素酸化物等の有害物質を浄化する触媒やフィルターが求められており、炭化ケイ素系繊維からなるフィルターが実用化されている。
しかし、炭化珪素系繊維は一般に耐アルカリ性に劣り、排ガス中に含まれる微量のアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属により腐食を起こす。さらに、触媒成分としてアルカリ金属あるいはアルカリ土類金属化合物を繊維に担持した場合、繊維の腐食による劣化は非常に著しくなる。
炭化珪素系繊維の代わりに耐アルカリ性に優れたジルコニア繊維を用いれば上記の腐食劣化は改善できると考えられる。しかしながら、現状のジルコニア繊維は、ゾルゲル法により合成されており、その引張強度は1GPa未満と非常に低強度であり、実用上の強度が不足している。
【0005】
本発明者等は、前記問題点を解決する方法として、例えば特願2001−171956において、有機ケイ素重合体と、低分子量の有機金属化合物或いは低分子量有機ケイ素重合体と低分子量の有機金属化合物との反応物との混合物を、紡糸後熱処理することにより、上記有機金属化合物成分を含む低分子量物が繊維表面に選択的に移行(ブリードアウト)し、熱処理後の焼成により、同低分子量物に由来する酸化物層(目的とする触媒機能を有する酸化物層)が繊維表面に効果的に生成し、かつ極めて緻密で高強度を有しているセラミックス繊維が得られることを提案した。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、前記セラミックス繊維からニードルパンチ法によって不織布を作製しようとする場合、繊維の寸断が起こるなどして必ずしも充分な強度を有する不織布が得られなかったり、目付けが不均一になるという問題があった。特に不織布をフィルター等に加工する際に、十分なプリーツ加工性が要求される。
一方、従来、前記セラミックス繊維は、溶融紡糸により製造されており、その繊維径は8〜15μm程度であり、それより細い繊維を従来の方法で製造することは困難であった。
これは、溶融紡糸法では紡糸用ポリマーをノズルから吐出し、それを高速で巻き取ることによって繊維の細化が行われるが、紡糸された繊維自体の強度が低く、さらに径が細くなるにつれて繊維一本当たりの強さは極めて小さなものとなる。一方、紡糸時の張力は繊維径が細くなるにつれて、即ち、巻き取り速度が速くなるにつれて増加するので、ついには張力が繊維の強度を上回って糸切れが発生し、このため安定した紡糸ができない。
【0007】
本発明は、上記問題点を解決し、光触媒機能、熱的触媒機能、触媒担持機能等の優れた機能性、又は耐酸化性、耐アルカリ性等の耐環境性を有すると共に、優れた力学的特性を併せ持つ繊維径8μm以下のセラミックス繊維から構成されてなり、メルトブロー法により製造された不織布及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、有機ケイ素重合体を有機金属化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、又は、有機ケイ素重合体あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機金属化合物との混合物から、メルトブロー法を用いて、直接不織布を形成させることにより、繊維径8μm以下で優れた力学的特性を有するセラミックス繊維から構成される不織布を得ることができることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、メルトブロー法により製造されてなる不織布であって、該不織布が、ケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相と第1相以外の組成からなるセラミックス成分を主体とする第2相との複合相からなり、第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶粒子の存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しているセラミックス繊維により構成されてなることを特徴とする不織布に関するものである。
【0010】
また、本発明は、メルトブロー法を用いて、有機ケイ素重合体を有機金属化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、又は、有機ケイ素重合体あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機金属化合物との混合物を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中、不活性雰囲気中、又は窒素を含む雰囲気中で焼成することを特徴とする上記不織布の製造方法に関するものである。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明における不織布は、ケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相と第1相以外の組成からなるセラミックス成分を主体とする第2相との複合相からなり、第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶粒子の存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しているセラミックス繊維により構成されてなる。
セラミックス繊維における、ケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相は、非晶質であっても結晶質であっても良い。ケイ素系セラミックス成分としては、SiO2、SiC、Si3N4の少なくとも1種が挙げられる。
【0012】
例えば、第1相のケイ素系セラミックス成分がSiO2(シリカ)である場合には、シリカと固溶体或いは共融点化合物を形成し得る金属元素或いは金属酸化物を含有していても良い。シリカと固溶体を形成し得る金属元素(A)あるいはその酸化物がシリカと特定組成の化合物を形成し得る金属元素(B)としては特に限定されるものではないが、例えば(A)としてチタン、また(B)としてアルミニウム、ジルコニウム、イットリウム、リチウム、ナトリウム、バリウム、カルシウム、ホウ素、亜鉛、ニッケル、マンガン、マグネシウム、鉄等があげられる。
【0013】
この第1相は、セラミックス繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。セラミックス繊維全体に対する第1相の存在割合は99〜40重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することが好ましい。
【0014】
一方、第2相を構成するセラミックス成分は、本発明では目的とする機能を発現させる上で重要な役割を演じるものであるが、その機能に応じて選択されるものである。第2相を構成するセラミックス成分としては、酸化物、窒化物及び炭化物の少なくとも1種が挙げられ、例えば、TiO2、ZrO2、Al2O3、V2O5等が挙げられる。例えば、光又は熱的触媒機能が要求される場合には、TiO2或いはその共融点化合物やある特定元素により置換型の固溶体を形成したもの等が選択され、耐アルカリ性、耐酸化性、触媒機能、触媒担持機能が要求される場合には、ZrO2が選択される。また、Al2O3は耐酸化性の付与が得られる。
【0015】
第2相を構成するセラミックス成分の微細結晶の粒子径は、通常50nm以下である。光又は熱的触媒機能が要求される場合には、粒子径は15nm以下、特に10nm以下が好ましい。
このように第2相を構成するセラミックス成分の結晶が微細であることから、セラミックス繊維の比表面積は、炭化珪素繊維等に比べて1m2/g以上、好ましくは、5m2/g超とはるかに大きいものとなる。
【0016】
この第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶粒子の存在割合は、表面に向って傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは5〜500nmの範囲に制御することが好ましい。
本発明のセラミックスの表層部を構成する第2相の存在割合は、セラミックス成分の種類により異なるが、1〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することが好ましい。
尚、本発明において、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成するケイ素系セラミックス成分と第2相を構成するセラミックス成分全体、即ちセラミックス全体に対する第1相のケイ素系セラミックス成分及び第2相のセラミックス成分の重量%を意味している。
【0017】
また、本発明におけるセラミックス繊維は、メルトブロー法により製造されることから、平均繊維径が1〜20μm、好ましくは、1〜8μm、より好ましくは、2〜6μmと、従来の溶融紡糸法で製造される繊維に比べてより細いものとすることができる。これにより、繊維の表面積も従来の繊維に比べて大きくなるため、光触媒繊維として用いた場合には、触媒活性が増大し、またフィルターとして用いた場合には、捕集効率が増加する。
【0018】
さらに、本発明の不織布は、メルトブロー法により製造されることから、従来の溶融紡糸法で製造された長さ40〜50μm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて、繊維が長いものとなる。その結果、不織布は強度が高く、フィルター等に加工する際に、十分なプリーツ加工性を有する。具体的には、ニードルパンチ法で得られる不織布がせいぜい1N程度の引張強度しかないのに対し、本発明の不織布は、引張強度が2N以上と高い。
なお、前記引張強度は、幅5cm、長さ20cmの試験片について、長さ方向に引張試験を行い、不織布が破断するまでの荷重を測定したものである。
【0019】
次に、本発明の不織布の製造方法について説明する。
本発明においては、メルトブロー法を用いて、有機ケイ素重合体を有機金属化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、又は、有機ケイ素重合体あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機金属化合物との混合物を溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中、不活性雰囲気中、又は窒素を含む雰囲気中で焼成することにより、不織布が得られる。
【0020】
有機ケイ素重合体としては、特に制限はなく、ポリカルボシラン、ポリシラザン、ポリシラスチレン、メチルクロロポリシラン等が用いられる。有機ケイ素重合体の数平均分子量は200〜10,000の範囲が好ましい。
有機金属化合物としては、一般式、M(OR')n或いはMR''m(Mは金属元素、R'は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R"はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする化合物が用いられる。
【0021】
また、変性有機ケイ素重合体は、前記有機ケイ素重合体を前記有機金属化合物で修飾することにより得られる。変性有機ケイ素重合体の数平均分子量は1,000〜50,000の範囲が好ましい。
本発明においては、前記変性有機ケイ素重合体における前記有機金属化合物の修飾状態を注意深く制御する必要がある。
以下に、変性ポリカルボシランの場合を説明する。
変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似している。
【0022】
変性ポリカルボシランは、主として一般式
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主査骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式、M(OR')n或いはMR''m(Mは金属元素、R'は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R"はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機金属化合物とから誘導されるものである。
【0023】
ここで、本発明における傾斜組成表面層を有するセラミックス繊維を製造するには、上記有機金属化合物がポリカルボシランと1官能性重合体を形成し、かつ有機金属化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、上記有機金属化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機金属化合物が一部に結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機金属化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
【0024】
尚、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、上記1官能性重合体であり、かつ未反応の有機金属化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0025】
本発明では、未反応の有機金属化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。本発明では、主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機金属化合物或いは2〜3量体程度の有機金属化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に本発明の出発原料として使用できる。また、ポリカルボシランと有機金属化合物の混合物を用いてもよい。
【0026】
本発明においては、前記有機ケイ素重合体を有機金属化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、又は、有機ケイ素重合体あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機金属化合物との混合物(以下前駆体ポリマーという)からメルトブロー法を用いて紡糸繊維を得る。
【0027】
すなわち、メルトブロー法により、前駆体ポリマーを溶融し、溶融物を紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させる。
【0028】
紡糸ノズルの直径は通常100〜500μm程度のものを用いる。窒素ガス噴出速度は30〜300m/sの程度であり、速度が速いほど細い繊維が得られる。また、窒素ガスの加熱温度は、所望の紡糸繊維が得られれば、特に制限はないが、通常500℃程度に加熱した窒素ガスを噴出させる。
従来、一般的なメルトブロー法では、噴出ガスとして空気が用いられているが、本発明の前駆体ポリマーを紡糸するには窒素を用いる必要がある。噴出ガスとして窒素を用いることにより、安定して紡糸を行うことができる。
【0029】
また、本発明においては、前記前駆体ポリマーを紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集する際、吸引可能な受器を用いて、受器の下側から吸引しながら行うことが好ましい。吸引することにより、繊維が効果的にからまり、高強度の不織布が得られる。吸引速度は2〜10m/s程度の範囲が好ましい。
【0030】
次に、得られた不織布に不融化処理を行う。不融化処理は後述の焼成雰囲気と同じ雰囲気で、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。この不融化処理の際に、前駆体ポリマー中の第2相成分の成形体表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成される。
【0031】
次いで、前記不融化処理後の不織布を、500〜1800℃の温度範囲で酸化雰囲気中、不活性雰囲気中、又は窒素を含む雰囲気中で焼成することにより、目的とするケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相と第1相以外の組成からなるセラミックス成分を主体とする第2相との複合相からなり、第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶粒子の存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しているセラミックス繊維により構成されてなる不織布を得る。
【0032】
焼成により生成するケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相は、前駆体ポリマーや前記焼成雰囲気の種類により変わってくる。例えば、酸化雰囲気では、SiO2、窒素、アルゴン、真空等の不活性雰囲気では、SiC、アンモニア雰囲気では、Si3N4が主として生成する。また、前駆体ポリマーがポリシラザンの場合には、不活性雰囲気でもSi3N4が主として生成する。
【0033】
本発明の不織布の目付けや厚みについては特に限定は無いが通常、目付けが50〜500g/m2、厚みが0.5〜20mmのものが用いられるが、必要に応じてこの不織布を必要な厚みになるように積層しても良い。
本発明の不織布は引張強度が2N以上と高く、フィルター等に加工する際に、十分なプリーツ加工性を有するので、所望の形状に成形することができる。本発明の不織布は、例えば、有害物質除去フィルターとして使用される。この不織布の目付けを調整することにより濾過性能を調整することができる。フィルター形状は、平面状でも良いし、また円筒状、封筒状、円錐状等の種々の形態でもよい。
【0034】
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。
参考例1
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。
ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0035】
実施例1
参考例1の方法により合成されたポリカルボシラン45gにキシレン400gとテトラブトキシチタン(TBT)50gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、190℃までゆっくり昇温してキシレンを留去させてそのまま5時間反応させ、変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランの分子量分布をゲルパーミエイションクロマトグラフィー(GPC)により測定した結果、仕込んだTBTの約8割以上が未反応のモノマー状態で残存していることが確認できた。
【0036】
この変性ポリカルボシランを紡糸装置に仕込み、155℃に溶融させた後、直径300μmの紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から500℃に加熱した窒素ガスを約50m/sの速度で噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に、受器の下側から約5m/sの吸引速度で吸引しながら紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させた。
得られた不織布を、空気中、段階的に135℃まで加熱して不融化させた後、1300℃の空気中で1時間焼成を行い、チタニア/シリカ繊維からなる不織布を得た。
【0037】
得られた不織布を構成する繊維(平均直径:5μm)は、X線回折の結果、非晶質シリカとアナターゼのチタニアからなっていた。この繊維の表面から内部に向っての組成の変化をオージェ電子分光スペクトルにより調べた結果、同繊維は、表面から約60nmの範囲において表面に向ってチタンが傾斜的に増大していることがわかった。この繊維の比表面積は8m2/gであった。
また、PHILIPS製の全自動蛍光X線分析装置(PW2400)を用いて測定した繊維全体における酸化チタンの存在割合は15重量%であった。繊維表面の酸化チタンの結晶粒径をTEMにより測定したところ、平均8nmであった。
また、得られた不織布の目付けは100g/m2、厚さ1mmであった。この不織布から幅5cm、長さ20cmの試験片を切り取り、長さ方向に引張試験を行ったところ、引張強度は5Nであった。
【0038】
次に、この不織布の光触媒活性について、以下のように大腸菌の死滅活性を調べることにより確認した。
1ミリリットル当たりに10万匹の大腸菌を含む水溶液20ミリリットル中に上記不織布を0.2g入れたものに、ブラックライトを用いて0.2mW/cm2の紫外光を照射し、液中に生存している大腸菌の数を経時的に測定した結果を図2に示す。この結果から、この不織布の殺菌効果が極めて優れていることがわかる。
【0039】
比較例1
実施例1で得られた変性ポリカルボシランをキシレンに溶解させたのちガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してキシレンを留去させて、155℃で溶融紡糸を行った。
紡糸繊維を、空気中、段階的に135℃まで加熱して不融化させた後、1300℃の空気中で1時間焼成を行いチタニア/シリカ繊維を得た。
【0040】
得られた繊維(平均直径:10μm)は、X線回折の結果、非晶質シリカとアナターゼのチタニアからなっていた。この繊維の表面から内部に向っての組成の変化をオージェ電子分光スペクトルにより調べた結果、同繊維は、表面から約60nmの範囲において表面に向ってチタンが傾斜的に増大していることがわかった。この繊維の比表面積は2m2/gであった。
また、PHILIPS製の全自動蛍光X線分析装置(PW2400)を用いて測定した繊維全体における酸化チタンの存在割合は15重量%であった。繊維表面の酸化チタンの結晶粒径をTEMにより測定したところ、平均8nmであった。
【0041】
得られたチタニア/シリカ繊維を長さ50mmの短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより目付け100g/m2、厚さ1mmのチタニア/シリカ繊維製不織布を得た。
この不織布から幅5cm、長さ20cmの試験片を切り取り、長さ方向に引張試験を行ったところ、引張強度は1Nであった。
【0042】
次に、この不織布の光触媒活性について、実施例1と同様にして調べた結果を図2に示す。実施例1の不織布に比べて表面積が小さいため、触媒活性も劣っていた。
【0043】
実施例2
参考例1の方法により合成されたポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシジルコニウム64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応して変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシジルコニウムを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0044】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を紡糸装置に仕込み、180℃に溶融させた後、直径300μmの紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から500℃に加熱した窒素ガスを約50m/sの速度で噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に、受器の下側から約5m/sの吸引速度で吸引しながら紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させた。
得られた不織布を、空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1300℃のアルゴンガス中で1時間焼成を行いジルコニア含有無機繊維からなる不織布を得た。
【0045】
得られた不織布を構成するジルコニア含有繊維(平均直径:5μm)は、X線回折の結果、非晶質の炭化珪素とジルコニアからなっており、繊維全体のZr/Si(モル比)は0.20であった。また、EPMAによる構成原子の分布状態を調べたところ、最外周部から1μmの領域でZr/Si(モル比)=0.75、最外周から3〜4μmの領域でZr/Si(モル比)=0.20、中心部でZr/Si=0.10と、表面に向かってジルコニウムが増大する傾斜組成になっていることを確認した。この繊維の引張強度は2.2GPaであった。また、この繊維の比表面積は40m2/gであった。また、PHILIPS製の全自動蛍光X線分析装置(PW2400)を用いて測定した繊維全体におけるジルコニアの存在割合は22重量%であった。
また、得られた不織布の目付けは100g/m2、厚さ1mmであった。この不織布から幅5cm、長さ20cmの試験片を切り取り、長さ方向に引張試験を行ったところ、引張強度は5Nであった。
【0046】
比較例2
実施例2で得られた変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させたのちガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。
紡糸繊維を、空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた後、1300℃のアルゴンガス中で1時間焼成を行いジルコニア含有無機繊維を得た。
【0047】
得られたジルコニア含有繊維(平均直径:10μm)は、X線回折の結果、非晶質の炭化珪素とジルコニアからなっており、繊維全体のZr/Si(モル比)は0.20であった。また、EPMAによる構成原子の分布状態を調べたところ、最外周部から1μmの領域でZr/Si(モル比)=0.75、最外周から3〜4μmの領域でZr/Si(モル比)=0.20、中心部でZr/Si=0.10と、表面に向かってジルコニウムが増大する傾斜組成になっていることを確認した。この繊維の引張強度は2.2GPaであった。また、この繊維の比表面積は10m2/gであった。また、PHILIPS製の全自動蛍光X線分析装置(PW2400)を用いて測定した繊維全体におけるジルコニアの存在割合は22重量%であった。
【0048】
得られたジルコニア含有繊維を長さ50mmの短繊維にした後、ニードルパンチを行うことにより目付け100g/m2、厚さ1mmのジルコニア含有繊維製不織布を得た。
この不織布から幅5cm、長さ20cmの試験片を切り取り、長さ方向に引張試験を行ったところ、引張強度は1Nであった。
【0049】
【発明の効果】
本発明によれば、光触媒機能、熱的触媒機能、触媒担持機能等の優れた機能性、又は耐酸化性、耐アルカリ性等の耐環境性を有すると共に、優れた力学的特性を併せ持つ傾斜組成表面層を有するセラミックス繊維から構成されてなる不織布が得られる。
本発明の不織布を構成するセラミックス繊維は、メルトブロー法により製造されることから、平均繊維径が1〜8μmと、従来の溶融紡糸法で製造される繊維に比べて細いものとなる。これにより、繊維の表面積も従来の繊維に比べて大きくなるため、光触媒繊維として用いた場合には、触媒活性が増大し、またフィルターとして用いた場合には、捕集効率が増加する。
また、本発明の不織布は、メルトブロー法により製造されることから、従来の溶融紡糸法で製造された長さ40〜50μm程度の短繊維をニードルパンチ法で不織布としたものに比べて、繊維が長いものとなる。その結果、不織布は引張強度が2N以上と高く、フィルター等に加工する際に、十分なプリーツ加工性を有するので、所望の形状に成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明におけるメルトブロー法による不織布の製造に用いられる紡糸装置の概略図である。
【図2】図2は、本発明の実施例1及び比較例1で得られた不織布についての大腸菌死滅実験の結果を示す図である。
Claims (8)
- 有機ケイ素重合体を有機金属化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、又は、有機ケイ素重合体あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機金属化合物との混合物を溶融し、メルトブロー法を用いて、溶融物を紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中、不活性雰囲気中、又は窒素を含む雰囲気中で焼成することにより得られた、セラッミック繊維からなる不織布であって、不織布の厚さ1mm、幅50mm、長さ200mmの試験片の長さ方向の引張強度が2N以上であり、前記セラミック繊維は、ケイ素系セラミックス成分を主体とする第1相と、第1相以外の組成からなるセラミックス成分を主体とする第2相との複合相からなり、該第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶粒子の存在割合が繊維の表層に向かって傾斜的に増大しており、前記セラミックス繊維の平均繊維径が1〜8μmであることを特徴とする不織布。
- セラミックス繊維における第1相の存在割合が99〜40重量%、第2相の存在割合が1〜60重量%である請求項1記載の不織布。
- セラミックス繊維における第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶粒子の存在割合の傾斜が、表面から5〜500nmの深さで存在する請求項1または2記載の不織布。
- セラミックス繊維における第2相を構成する少なくとも1種のセラミックス成分の微細結晶の粒子径が50nm以下である請求項1〜3いずれか記載の不織布。
- セラミックス繊維が、光及び/又は熱的触媒機能を有する請求項1〜4いずれか記載の不織布。
- セラミックス繊維における第2相を構成するセラミックス成分が、Ti、Zr、Al及びVから選ばれる少なくとも一種の金属の酸化物である請求項1〜5いずれか記載の不織布。
- セラミックス繊維における第2相を構成するセラミックス成分が、チタニアであり、その結晶粒径が15nm以下である請求項6記載の不織布。
- 有機ケイ素重合体を有機金属化合物で修飾した構造を有する変性有機ケイ素重合体、又は、有機ケイ素重合体あるいは前記変性有機ケイ素重合体と有機金属化合物との混合物を溶融し、メルトブロー法を用いて、溶融物を紡糸ノズルから吐出すると共に、前記紡糸ノズルの周囲から加熱窒素ガスを噴出させて紡糸し、紡糸ノズルの下部に配置した受器に、受器の下側から吸引しながら紡糸繊維を捕集することにより不織布を形成させ、次いで、該不織布を不融化処理後、酸化雰囲気中、不活性雰囲気中、又は窒素を含む雰囲気中で焼成することを特徴とする請求項1記載の不織布の製造方法。
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