JP4081752B2 - ヒドラジン分解触媒 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、担持体に金属イリジウム等を担持し、ヒドラジン(N)をNH、N、Hに分解するヒドラジン分解触媒に関する。更に詳しくは、担持体として炭化ケイ素系繊維で構成された不織布を用い、不要な反応を抑制し分解反応の効率化を図ると共に分解特性の安定性、分解特性の長寿命化を図りうるヒドラジン分解触媒に関する。ヒドラジン分解触媒は、例えば、宇宙ロケットの姿勢制御系や人工衛星の推進系などの推進装置として有用である。
【0002】
【従来の技術】
ヒドラジンの分解触媒を応用した技術の一つとして、ヒドラジンの分解による生成ガスを噴射して推力を得る推進装置が知られている。このヒドラジン分解触媒を用いた推進装置は、例えば、人工衛星の姿勢制御用推進装置などに用いられる。従来、これらの装置に用いられるヒドラジン分解触媒の担持体としては、特開平6−373号公報などで開示されるように、担持体表面に微細な細孔を有した比表面積が数百m/gの、ジブサイト(Al)やコージエライト(Al-SiO)などからなる、顆粒状セラミックス担持体にイリジウム等の白金族元素からなる触媒層、例えば金属イリジウムを担持したものが使用される。触媒層の材料としては、白金族元素の中でも、イリジウム、ルテニウム及びこれらの混合物が特に好ましい。この顆粒状セラミックス担持体に、イリジウム、ルテニウム等を担持させる方法としては、特公平1−13900号公報にも開示されているように、イリジウム等の触媒元素の可溶性塩の水溶液中に担体を浸漬し、担体に水溶液を含浸させた後乾燥させ、該担体を還元雰囲気中で加熱して、表面に付着した触媒金属を金属イリジウム、金属ルテニウム等として還元析出させる方法を複数回繰り返して担持させる方法が好ましい。触媒元素の可溶性塩の水溶液としては、塩化イリジウム三水和物(IrCl・3HO)水溶液、塩化ルテニウム水溶液(RuCl・3HO)が好ましいものとして例示される。還元雰囲気用ガスとしてはHやHOなどが例示される。
【0003】
この顆粒状ヒドラジン分解触媒を推進装置などに使用する場合は、特開平11−82171号公報に記載されるように、顆粒状ヒドラジン分解触媒を、ヒドラジンの分解反応を起こさせる為の金属製容器内に充填し、金属製網で上流側と下流側を挟み、更に顆粒の移動を防ぐために、下流側の金属製網をコイルスプリング等により上流側に変位できるような構成としたものが好ましく使用される。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
従来の顆粒状ヒドラジン分解触媒は、分解触媒である金属イリジウム等とヒドラジンを効率よく接触させるために、表面に微細な細孔を有することで比表面積を大きくした担持体を使用している。一般的に、イリジウム分解触媒によるヒドラジンの分解反応は、次の式で表される。
2N2H4(ガス) → 2NH3(ガス) + N2 + H2 発熱反応・・・(1)
2NH3(ガス) → N2 + 3H2 吸熱反応・・・(2)
式(1)に従ってヒドラジンの分解が進むと、発熱反応により分解触媒は発熱する。この発熱した分解触媒に、分解で生成したアンモニアが接触することで式(2)に従って更に分解が進む。しかしながら、式(2)は吸熱反応であり、副反応であるので、ヒドラジンの分解によって生成する生成熱を吸収し発熱を抑制してしまう為、結果的に期待した推力が得られなかったり、推力に変動が発生したりする(触媒、Vol.40 No.3 p194-198(1998))。
【0005】
特に、従来のアルミナの様な担持体では、担持体表面にある細孔内にヒドラジンが吸収され、細孔内で上記の式(2)の反応が起こりやすく、反応の制御が困難となる。更に、この細孔内での分解反応は、分解ガスの圧力により細孔を破壊し、担持体を損耗させる原因となる。
【0006】
また、触媒充填層中でヒドラジンが分解して発生する高温高圧の分解ガスによる熱衝撃と繰り返しの衝撃により、顆粒の摩滅や破砕が発生し、使用と共に消耗する。その結果、触媒顆粒の間に空隙が生じる。触媒充填層中に空隙が生じると触媒に接触せずに通過してしまうヒドラジンが発生したり、分解反応の不均一が発生することとなり、結果的に推進力が不安定になるという問題があった。
本発明は、この様な問題を解決すべく提案されたものであり、担持体の損耗、分解反応の不均一化を防止し、ヒドラジン分解の安定性を図りうるヒドラジン分解触媒の提供を目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために本発明では、担持体として炭化ケイ素系繊維からなる不織布を用い、該担持体表面に金属イリジウムを担持させていることを特徴とするヒドラジン分解触媒を提供する。
た、炭化ケイ素系繊維としては、存在割合が98〜40重量%の炭化珪素を主体とする第1相と存在割合が2〜60重量%のジルコニアからなる第2相との複合相からなる繊維であって、繊維の表層に向かってZrの存在割合が傾斜的に増大していることを特徴とするジルコニア含有無機繊維が好ましく使用される。
また、炭化ケイ素系繊維としては、2族、3族及び4族の金属原子からなる群から選択され、その酸化物の炭素還元反応における自由エネルギー変化が負の値になる温度が、酸化ケイ素の炭素還元反応における自由エネルギー変化が負になる温度に比較して高温である金属元素を含有し、かつ酸素含有量が1−13重量%の範囲内である炭化ケイ素系繊維が好ましく使用される。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、従来の顆粒状ヒドラジン分解触媒で発生している触媒の破砕や摩耗を防ぐことが出来る。しかも、従来の顆粒状ヒドラジン分解触媒表面に存在する細孔がないため、副反応であるアンモニアの分解反応を抑制できる。即ち、担持体として耐熱性が高く、且つ、可とう性に優れた炭化ケイ素系繊維の不織布が用いられる。
【0009】
本発明で使用されるのは炭化ケイ素系繊維であり、炭化ケイ素系繊維の中でも、炭化ケイ素系繊維が、存在割合が98〜40重量%の炭化珪素を主体とする第1相と存在割合が2〜60重量%のジルコニアとからなる第2相との複合相からなる繊維であって、繊維の表層に向かってZrの存在割合が傾斜的に増大しているジルコニア含有無機繊維(以下第1の炭化ケイ素系繊維ともいう)、あるいは、炭化ケイ素系繊維が、2族、3族及び4族の金属原子からなる群から選択され、その酸化物の炭素還元反応における自由エネルギー変化が負の値になる温度が、酸化ケイ素の炭素還元反応における自由エネルギー変化が負になる温度に比較して高温である金属元素を含有し、かつ酸素含有量が1〜13重量%の範囲内である炭化ケイ素系繊維(以下第2の炭化ケイ素系繊維ともいう)が好ましく使用される。
【0010】
以下第1の炭化ケイ素系繊維について説明する。
【0011】
第1の炭化ケイ素系繊維は、力学的特性を負担する中心部(炭化ケイ素質相)と各種機能を負担する表層並びにその近傍相のジルコニア相からなり、なお且つ表層に向かった傾斜組成を有する繊維構造とすることにより、耐アルカリ性、耐酸化性に優れ、高い繊維強度と触媒機能及び/又は触媒担持機能を有する繊維である。
【0012】
炭化珪素を主体とする第1相は、本発明で得られる繊維の内部相を形成しており、力学的特性を負担する重要な役割を演じている。繊維全体に対する第1相の存在割合は98〜40重量%であることが好ましく、目的とする第2相の機能を十分に発現させ、なお且つ高い力学的特性をも発現させるためには、第1相の存在割合を50〜95重量%の範囲内に制御することが好ましい。
【0013】
一方、第2相を構成するジルコニアは、本発明では目的とする機能を発現させる上で重要な役割を演じるものであるが、非晶質でも結晶質でも良く、さらにカルシウムやイットリウムなどを固溶させたものでも良い。この繊維の表層部を構成する第2相の存在割合は、2〜60重量%が好ましく、その機能を十分に発現させ、また高強度をも同時に発現させるには5〜50重量%の範囲内に制御することが好ましい。この第2相を構成するZrの存在割合は、繊維の表面に向かって傾斜的に増大しており、その組成の傾斜が明らかに認められる領域の厚さは5〜500nmの範囲に制御することが好ましいが、繊維直径の約1/3に及んでも良い。尚、本発明において、第1相及び第2相の「存在割合」とは、第1相を構成する成分と第2相を構成する成分全体、即ち繊維全体に対する第1相の成分及び第2相の成分の重量%を意味している。
【0014】
本発明のジルコニア含有無機繊維の比表面積は、1m/g以上、好ましくは、5m/g超である。比表面積が1m/g未満であると、十分な触媒性能が得られないし、また触媒担持性能も不十分であるので好ましくない。
【0015】
次に、本発明で使用される第1の炭化ケイ素系繊維の製法について説明する。
【0016】
本発明においては、主として一般式
【0017】
【化1】
Figure 0004081752
【0018】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランを、一般式、Zr(OR’)n或いはZrR”m(R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機ジルコニウム化合物で修飾した構造を有する変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランと有機ジルコニウム化合物との混合物を溶融紡糸し、不融化処理後、酸化雰囲気中又は不活性雰囲気中で焼成することによりジルコニア含有無機繊維が得られる。このとき、焼成の雰囲気を不活性雰囲気とすることにより第1相は炭化珪素質相となる。
【0019】
本発明で使用される炭化ケイ素系繊維を得るの方法の第1工程は、ジルコニア含有無機繊維を製造するための出発原料として使用する数平均分子量が1,000〜50,000の変性ポリカルボシランを製造する工程である。上記変性ポリカルボシランの基本的な製造方法は、特開昭56−74126号に極めて類似しているが、本発明では、その中に記載されている官能基の結合状態を注意深く制御する必要がある。これについて以下に概説する。
【0020】
出発原料である変性ポリカルボシランは、主として一般式
Figure 0004081752
【0021】
(但し、式中のRは水素原子、低級アルキル基又はフェニル基を示す。)で表される主鎖骨格を有する数平均分子量が200〜10,000のポリカルボシランと、一般式Zr(OR’)n或いはZrR”m(R’は炭素原子数1〜20個を有するアルキル基またはフェニル基、R”はアセチルアセトナート、mとnは1より大きい整数)を基本構造とする有機ジルコニウム化合物とから誘導されるものである。
【0022】
ここで、本発明の傾斜組成を有する繊維を製造するには、上記有機ジルコニウム化合物の一部のみがポリカルボシランと結合を形成する緩慢な反応条件を選択する必要がある。その為には280℃以下、好ましくは250℃以下の温度で不活性ガス中で反応させる必要がある。この反応条件では、上記有機ジルコニウム化合物はポリカルボシランと反応したとしても、1官能性重合体として結合(即ちペンダント状に結合)しており、大幅な分子量の増大は起こらない。この有機ジルコニウム化合物が一部結合した変性ポリカルボシランは、ポリカルボシランと有機ジルコニウム化合物の相溶性を向上させる上で重要な役割を演じる。
尚、2官能以上の多くの官能基が結合した場合は、ポリカルボシランの橋掛け構造が形成されると共に顕著な分子量の増大が認められる。この場合は、反応中に急激な発熱と溶融粘度の上昇が起こる。一方、上記1官能しか反応せず未反応の有機ジルコニウム化合物が残存している場合は、逆に溶融粘度の低下が観察される。
【0023】
本発明では、未反応の有機ジルコニウム化合物を意図的に残存させる条件を選択することが望ましい。本発明では、主として上記変性ポリカルボシランと未反応状態の有機ジルコニウム化合物或いは2〜3量体程度の有機ジルコニウム化合物が共存したものを出発原料として用いるが、変性ポリカルボシランのみでも、極めて低分子量の変性ポリカルボシラン成分が含まれる場合は、同様に本発明の出発原料として使用できる。
【0024】
第2工程においては、前記第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランと低分子量の有機ジルコニウム化合物の混合物を溶融させて紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してミクロゲル、不純物等の紡糸に際して有害となる物質を除去し、これを通常用いられる合成繊維紡糸用装置により紡糸する。紡糸する際の紡糸原液の温度は原料の変性ポリカルボシランの軟化温度によって異なるが、50〜200℃の温度範囲が有利である。上記紡糸装置において、必要に応じてノズル下部に加湿加熱筒を設けても良い。尚、繊維径は、ノズルからの吐出量と紡糸機下部に設置された高速巻き取り装置の巻き取り速度を変えることにより調整される。
【0025】
第2工程としては、前記溶融紡糸の他に、前記第1工程で得られた変性ポリカルボシラン、或いは変性ポリカルボシランと低分子量の有機ジルコニウム化合物の混合物を、例えばベンゼン、トルエン、キシレンあるいはその他該変性ポリカルボシランと低分子量有機ジルコニウム化合物を溶融することのできる溶媒に溶解させ、紡糸原液を造り、場合によってはこれをろ過してマクロゲル、不純物等紡糸に際して有害な物質を除去した後、前記紡糸原液を通常用いられる合成繊維紡糸装置により乾式紡糸法により紡糸し、巻き取り速度を制御して目的とする繊維を得ることができる。
【0026】
これらの紡糸工程において、必要ならば、紡糸装置に紡糸筒を取り付け、その筒内の雰囲気を前記溶媒のうち少なくとも1つの気体との混合雰囲気とするか、或いは空気、不活性ガス、熱空気、熱不活性ガス、スチーム、アンモニアガス、炭化水素ガス、有機ケイ素化合物ガスの雰囲気とすることにより、紡糸筒中の繊維の固化を制御することができる。
【0027】
次に第3工程においては、前記紡糸繊維を酸化雰囲気中で、張力または無張力の作用の下で予備加熱を行い、前記紡糸繊維の不融化を行う。この工程は、後工程の焼成の際に繊維が溶融せず、且つ隣接繊維と接着しないことを目的として行うものである。処理温度並びに処理時間は、組成により異なり、特に規定しないが、一般に50〜400℃の範囲内で、数時間〜30時間の処理上条件が選択される。また、上記酸化雰囲気中には、水分、窒素酸化物、オゾン等、紡糸繊維の酸化力を高めるものが含まれていても良く、酸素分圧を意図的に変えても良い。
【0028】
ところで、原料中に含まれる低分子量物の割合によっては、紡糸繊維の軟化温度が50℃を下回る場合もあり、その場合は、あらかじめ上記処理温度よりも低い温度で、繊維表面の酸化を促進する処理を施す場合もある。尚、同第3工程並びに第2工程の際に、原料中に含まれている低分子量化合物の繊維表面へのブリードアウトが進行し、目的とする傾斜組成の下地が形成されるものと考えている。
【0029】
次に第4工程においては、前記不融化した繊維を、張力または無張力下で、500〜2000℃の温度範囲で不活性雰囲気中において焼成し、目的とする、炭化珪素質相(第1相)とジルコニア相(第2相)との複合相からなり、表層に向かってZrの存在割合が傾斜的に増大するジルコニア含有無機繊維が得られる。
【0030】
次いで本発明で使用される第2の炭化ケイ素系繊維について説明する。第2の炭化ケイ素系繊維はSiC及びCを主体とし、1〜13重量%の範囲内の酸素を含有し、さらに、2族、3族及び4族の金属原子からなる群から選択され、その酸化物の炭素還元反応における自由エネルギ−変化が負の値になる温度が、酸化ケイ素の炭素還元反応における自由エネルギ−変化が負の値になる温度に比較して、高温である金属原子を含有している。
【0031】
ここで、化学反応の自由エネルギ−変化は、系全体のエンタルピ−(H)及びエントロピ−(S)から導かれるギブスの自由エネルギ−(G=H−TS、T:温度/K)の差から求められる。ところで、反応の始原系における自由エネルギ−(G)と生成系における自由エネルギ−(Gproduct)との差(△G=G−Gproduct)が負であれば、過程は自発的に進行し、逆に正であれば過程は逆の方向に自発的に進行する。
【0032】
ケイ素の酸化物が炭素と反応する場合の最も一般的な反応式は
SiO+3C=SiC+2CO (1)
で表され、この自由エネルギ−変化が0になる温度は1538℃であり、それ以上の温度では同エネルギ−変化が負の値を示し、反応は自発的に進行する。逆に言えば、基本的にはSiOの炭素による還元反応は1538℃以下の温度では自発的には起こらないことになる。しかし、実際には、SiO相からSiOの揮発が1400℃近辺から徐々に起こるため、SiOとCとの反応
SiO+2C=SiC+CO (2)
も考慮する必要がある。この場合の自由エネルギ−変化は、室温でも−73.55kJ/molと負の値を示すことから、SiOの揮発が起これば、上記(2)の反応は速やかに進行することになる。前述のように、これらの変化はいずれも繊維の強度を低下させる原因となり好ましくない。
【0033】
本発明では、酸素及び余剰炭素を含有する炭化ケイ素系無機繊維において、上記SiO及び/又はSiOの炭素還元反応を抑制する目的で、SiOに比較して熱力学的により安定な酸化物を生成し得る金属原子を繊維中に存在させ、結果として相対的に繊維中のSiO成分を減少させ、より高温まで繊維の分解によるCOガスの発生を起こさない状態を実現する。一般に2元系の反応は、それぞれの反応体が、ある一定頻度の衝突を繰り返した後に進行する。従って、反応速度を減少させるためには、反応体の濃度を減少させることがきわめて効果的である。そこで、本発明では、上述のようにSiOの濃度を減少させるわけであるが、繊維中に含まれる酸素の約5%程度を捕獲し得る金属原子を導入することにより、耐熱性について予想以上の優れた効果が発現される。
【0034】
従って、本発明において、金属原子は、無機繊維中に含有される酸素の少なくとも5%以上を捕獲できる割合で含有されていることが好ましい。金属原子の具体例としては、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Sc、Y、Th、U、Al、Zr及びHfが挙げられる。これら金属元素について、その代表的な酸化物の炭素還元反応例と各反応の自由エネルギ−変化が0になる温度を表1に示す。
【0035】
【表1】
Figure 0004081752
【0036】
これらから分かるように、いずれの反応においても、その自由エネルギ−変化が0になる温度はSiOが炭素還元反応を受ける温度よりも高くなっている。従って、これらの金属元素はケイ素に比較してより高温まで酸素を捕獲するものと考えられる。
【0037】
さらに、これらの金属酸化物の内、ZrO及びHfOは、SiOと容易に反応し、それぞれ、ジルコン及びハフノンを生成する。ジルコンの場合、4面体型のSiO群(この場合Siは4配位)の中にZrが存在しており、Zrの回りには3角12面体型8配位の状態で8個の酸素原子が位置している。即ち、Zr1原子で酸素原子8個を捕獲していることになる。Hfの場合も同様の構造の化合物を生成する。このように、Zr及びHfは、1原子当たりの酸素原子捕獲量が多いことから、無機繊維中の存在量の割には大きな効果を発現する。また、この他にも、Al もSiOと化合して高耐熱性酸化物を形成するので、Alも金属原子としてきわめて効果が高い。
【0038】
第2の炭化ケイ素系繊維における構成元素の重量割合は、酸素原子が1〜13%であり、ケイ素原子は通常35〜70%、炭素原子は通常20〜40%である。酸素原子の重量割合が13重量%を超えると、1400℃以上での酸素の脱離量が増大し、それに伴って繊維中のβ−SiC結晶の成長が顕著になり、1500℃での強度保持率が低下する。
【0039】
金属原子の含有割合は、金属の配位数により異なるが、無機繊維中に含有される酸素の少なくとも5%以上を捕獲できる量であることが好ましい。この割合の金属原子の量の計算方法をつぎに記載する。
【0040】
金属原子をM、その配位数をWとし、
Si:C:O:M=a:b:c:d(モル比)とした場合、無機繊維中の酸素全量の少なくとも5%以上を捕獲するに足る金属原子の量はつぎの式で算出することができる。
【0041】
d≧c×0.05/W(但し、d≦c/Wである。)
ここで、Mの原子量をmとすると、Mの重量割合は下式で表される。
【0042】
M(重量%)=(d×m)/(a×28.09+b×12.01+c×16.00+d×m)
第2の炭化ケイ素系繊維の直径については特別の制限はないが、通常5〜50μmである。第2の炭化ケイ素系繊維は、1500℃のアルゴン中で1時間加熱処理した場合に、処理前の強度の通常50%以上、好ましくは70%以上を保持している。
【0043】
つぎに、第2の炭化ケイ素系繊維の製造方法を各工程毎に説明する。
第1工程
第1工程においては、金属含有有機ケイ素重合体を調製する。有機ケイ素重合体は、不活性ガス中、ポリシラン100重量部にフェニル基含有ポリボロシロキサン15重量部以下を添加し、あるいはポリシランをそのまま通常2〜25時間加熱することにより、調製することができる。加熱温度は通常250〜500℃の範囲であり、有機ケイ素重合体は、カルボシラン(−Si−CH2 −)結合単位、及びポリシラン(−Si−Si−)結合単位から主としてなり、ケイ素の側鎖に水素原子、低級アルキル基、アリ−ル基、フェニル基及びシリル基からなる群から選択される基を有している。有機ケイ素重合体におけるカルボシラン単位とポリシラン単位との比は通常100:5〜2000である。有機ケイ素重合体の数平均分子量は通常200〜10000である。
【0044】
上記のポリシランは、例えば「有機ケイ素化合物の化学」化学同人(1972年)の記載の方法に従って、1種類以上のジクロロシランをナトリウムによって脱塩素反応させることによって得られる、鎖状又は環状の重合体である。ポリシランの数平均分子量は通常300〜1000である。本明細書において、ポリシランは、上記鎖状又は環状のポリシランを400〜700℃の範囲の温度に加熱して得られる、一部にカルボシラン結合を有するポリシランを包含する。
【0045】
フェニル基含有ポリボロシロキサンは、特公昭53−42330号公報及び同53−50299号公報に記載の方法に従い、例えば、ホウ酸と1種類以上のジオルガノクロロシランとの脱塩酸縮合反応によって調製することができる。フェニル基含有ポリボロシロキサンの数平均分子量は一般には500〜10000である。
【0046】
この有機ケイ素重合体に、前述した金属のアルコキシド、アセチルアセトキシ化合物、カルボニル化合物、シクロペンタジエニル化合物及びアミン化合物から選択される化合物の1種類以上を添加し、不活性ガス中で加熱反応させて前駆体ポリマ−を調製する。金属化合物の添加量は、前述した計算式に基づいて当業者が容易に決定することができる。加熱温度は通常250〜350℃、加熱時間は一般に1〜10時間である。
【0047】
第2工程
第2工程においては、金属含有有機ケイ素重合体の紡糸繊維を得る。
【0048】
前駆体ポリマ−である金属含有有機ケイ素重合体を溶融紡糸及び乾式紡糸のようなそれ自体公知の方法によって紡糸し、紡糸繊維を得ることができる。
【0049】
第3工程
第3工程においては、紡糸繊維を不融化処理して不融化繊維を調製する。
【0050】
不融化の目的は、紡糸繊維を構成するポリマ−間に酸素原子による橋かけ点を形成させて、後続の第4工程における予備加熱において不融化繊維が溶融せず、かつ隣接する繊維同士が融着しないようにすることである。
【0051】
酸素含有雰囲気を構成するガスとしては、空気、酸素、オゾンが例示される。不融化温度は50〜300℃であり、不融化時間は不融化温度に依存するが、通常、数分から30時間である。
【0052】
酸素含有雰囲気中での紡糸繊維の不融化処理によって、得られる不融化繊維に酸素が取り込まれるが、本発明の無機繊維における酸素含有量を1〜13重量%にするために、不融化繊維中の酸素含有量が0.5〜10重量%になるように、不融化条件を制御することが好ましい。従って、後続する第4工程で繊維の溶融及び融着が防止できるに必要最小限の酸素が繊維中に取り込まれる温度条件を採用することが重要である。なお、上記のように最終の無機繊維の酸素含有量が1〜13重量%の範囲内になる条件下では、電子線あるいはγ線を用いた不融化方法も採用することができる。
【0053】
第4工程
第4工程においては、不融化繊維を不活性雰囲気中で予備加熱して予備加熱繊維を調製する。不活性雰囲気を構成するガスとしては、窒素、アルゴンなどを例示することができる。加熱温度は通常150〜800℃であり、加熱時間は数分ないし20時間である。不融化繊維を不活性雰囲気中で予備加熱することによって、繊維への酸素の取り込みを防止しつつ、繊維を構成するポリマ−の橋かけ反応をより進行させ、前駆体金属重合体からの不融化繊維の優れた伸びを維持しつつ、強度をより向上させることができる、これにより、最終工程における焼成を作業性よく安定に行うことができる。
【0054】
第5工程
第5工程においては、予備加熱繊維を、連続式又は回分式で、アルゴンのような不活性ガス雰囲気中、あるいは水素のような還元性ガス雰囲気中、1000〜1900℃の範囲内の温度で加熱処理することによって、本発明の無機繊維を調製する。この加熱温度は金属元素の種類によって調整され、一般には、表1に示した炭素還元反応の自由エネルギ−変化が0になる温度以下の温度が選択される。
【0055】
上記のようにして得られた第1及び第2の炭化ケイ素系繊維に金属イリジウムを担持する。担持方法としては、イリジウムを含んだ化合物を、それを溶解できる溶液に溶かしたものを原料として用いる方法が考えられる。例えば、IrCl・3HOの水溶液を用いる。この溶液にSi-Zr-C-O繊維則ち第1の炭化ケイ素系繊維、あるいは第2の炭化ケイ素系繊維で出来た不織布を浸せきし、乾燥後、水素などの還元ガス雰囲気中で還元することで、不織布を構成する繊維表面に金属イリジウムを担持する方法が一般的である。
【0056】
【作用】
本発明に係るヒドラジン分解触媒は、炭化ケイ素系繊維の不織布上に金属イリジウムを担持させたものであり、可とう性が高く、高圧の分解ガスによる繰り返しの衝撃で触媒同士の接触による摩滅や破砕が発生せず消耗することがない。また、顆粒状ヒドラジン触媒に見られるような細孔がないので、分解反応が繊維表面で発生するため副反応によるアンモニアの分解が抑制される。更に、任意の形状を付与することが可能である。その結果として、ヒドラジンの分解特性が安定し、目的通りの推進力を長時間維持できる。以下本発明を実施例に基づいてより具体的に説明する。
【0057】
【実施例】
製造例1 第1の炭化ケイ素系繊維の製造例
5リットルの三口フラスコに無水トルエン2.5リットルと金属ナトリウム400gとを入れ窒素ガス気流下でトルエンの沸点まで加熱し、ジメチルジクロロシラン1リットルを1時間かけて滴下した。滴下終了後、10時間加熱還流し沈殿物を生成させた。この沈殿をろ過し、まずメタノールで洗浄した後、水で洗浄して、白色粉末のポリジメチルシラン420gを得た。
【0058】
ポリジメチルシラン250gを水冷還流器を備えた三口フラスコ中に仕込み、窒素気流下、420℃で30時間加熱反応させて数平均分子量が1200のポリカルボシランを得た。
【0059】
得られたポリカルボシラン16gにトルエン100gとテトラブトキシジルコニウム64gを加え、100℃で1時間予備加熱させた後、150℃までゆっくり昇温してトルエンを留去させてそのまま5時間反応させ、更に250℃まで昇温して5時間反応して変性ポリカルボシランを合成した。この変性ポリカルボシランに意図的に低分子量の有機金属化合物を共存させる目的で5gのテトラブトキシジルコニウムを加えて、変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物を得た。
【0060】
この変性ポリカルボシランと低分子量有機金属化合物の混合物をトルエンに溶解させたのちガラス製の紡糸装置に仕込み、内部を十分に窒素置換してから昇温してトルエンを留去させて、180℃で溶融紡糸を行った。紡糸繊維を、空気中、段階的に150℃まで加熱し不融化させた。
【0061】
上記の不融化繊維を1400℃のアルゴンガス中で1時間焼成し、ジルコニア含有無機繊維を得た。得られたジルコニア含有繊維(平均直径:10μm)は、X線回折の結果、非晶質の炭化珪素とジルコニアからなっており、繊維全体のZr/Si(モル比)は0.20であった。また、EPMAによる構成原子の分布状態を調べたところ、最外周部から1μmの領域でZr/Si(モル比)=0.75、最外周から3〜4μmの領域でZr/Si(モル比)=0.20、中心部でZr/Si=0.10と、表面に向かってジルコニウムが増大する傾斜組成になっていることを確認した。この繊維の引張強度は2.2GPa、比表面積は80m/gであった。また、PHILIPS製の全自動蛍光X線分析装置(PW2400)を用いて測定した繊維全体におけるジルコニアの存在割合は22重量%であった。
【0062】
製造例2 第2の炭化ケイ素系繊維の製造例
ナトリウム400部を含有する無水キシレンに、窒素ガス気流下にキシレンを加熱還流させながら、ジメチルジクロロシラン1034重量部を滴下し、引き続き10時間加熱還流し沈澱物を生成させた。この沈澱をろ過し、メタノ−ル、ついで水で洗浄して、白色のポリジメチルシラン420部を得た。
【0063】
ジフェニルジクロロシラン750部及びホウ酸124部を窒素ガス雰囲気下にn−ブチルエ−テル中、100〜120℃で加熱し、生成した白色樹脂状物をさらに真空中400℃で1時間加熱することによって、フェニル基含有ポリボロシロキサン530部を得た。
【0064】
ポリジメチルシラン100部にフェニル基含有ポリボロシロキサン10部を添加し、窒素ガス雰囲気中、350℃で熱縮合して、カルボシラン単位とシロキサン単位との比が100:0.93である有機ケイ素重合体を得た。この有機ケイ素重合体100部を溶解したキシレン溶液にジルコニウム(4価)アセチルアセトネ−ト3.5部を加え、窒素ガス気流下に320℃で架橋反応させることによって、ポリジルコノカルボシランを調製した。
【0065】
このポリジルコノカルボシランを240℃で溶融紡糸した後、空気中160℃で1時間加熱処理して不融化した。不融化繊維中の酸素含有量は7.5重量%であった。不融化繊維をさらに窒素中300℃で10時間加熱して、予備加熱繊維を得た。
【0066】
上記予備加熱繊維を窒素中1450℃で加熱処理して第2の炭化ケイ素系無機繊維を得た。得られた無機繊維の化学組成は、Si:55.5%、O:9.8%、C:34.1%、Zr:0.6%であった。この無機繊維の引張強度は310kg/mm2 であり、弾性率は18.0t/mm2 であり、1500℃のアルゴン中で1時間加熱処理した後の強度保持率は85%であった。
【0067】
実施例1
製造例1で得られた第1の炭化ケイ素無機繊維から不織布を作製した。
(引張強度が2.2GPaで非晶質の炭化珪素とジルコニアからなっており、繊維全体のZr/Si(モル比)は0.20であり、ジルコニウムが表面に向かって増大する傾斜組成(繊維の最外周部から1μmの領域でZr/Si(モル比)=0.75、最外周から3〜4μmの領域でZr/Si(モル比)=0.20、中心部でZr/Si(モル比)=0.10)になっているジルコニウム含有無機繊維の不織布を作製した。)この不織布を、塩化イリジウム三水和物(IrCl・3HO)の飽和水溶液に浸漬して、引き上げ、120℃で真空乾燥する工程を、2回繰り返して塩化イリジウム三水和物を不織布中の繊維表面に担持させた。この不織布を350℃、水素気流中で焼成することでヒドラジン分解触媒を作製した。重量増加率から算出した金属イリジウムの担持率は、5.4重量%であった。X線回折により、塩化イリジウム三水和物が金属イリジウムに還元されていることを確認した。図1に繊維表面の走査型電子顕微鏡(SEM)写真を示す。これにより、炭化ケイ素繊維表面に均一に金属イリジウムが担持されていることが確認された。
【0068】
実施例2
実施例1と同じ不織布を用い、実施例1で行った塩化イリジウム三水和物飽和水溶液への浸漬、乾燥工程を10回繰り返した他は実施例1と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、16重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0069】
実施例3
実施例1と同じ不織布を用い、実施例1で行った塩化イリジウム三水和物飽和水溶液への浸漬、乾燥工程を16回繰り返した他は実施例1と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、30重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0070】
実施例4
実施例1と同じ不織布を、六塩化イリジウム酸・六水和物(HIrCl・6HO)の0.2wt%水溶液に浸漬して、引き上げ、120℃で真空乾燥しする工程を、2回繰り返して六塩化イリジウム酸・六水和物を不織布中の繊維表面に担持させた。この不織布を350℃、水素気流中で焼成することでヒドラジン分解触媒を作製した。重量増加率から算出した金属イリジウムの担持率は、2.8重量%であった。X線回折により、六塩化イリジウム酸・六水和物が金属イリジウムに還元されていることを確認した。
【0071】
実施例5
実施例1と同じ不織布を用い、実施例4で行った六塩化イリジウム酸・六水和物(HIrCl・6HO)の0.2wt%水溶液への浸漬、乾燥工程を10回繰り返した他は実施例4と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、18重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0072】
実施例6
実施例1と同じ不織布を用い、実施例4で行った六塩化イリジウム酸・六水和物(HIrCl・6HO)の0.2wt%水溶液への浸漬乾燥工程を16回繰り返した他は実施例4と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、32重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0073】
実施例7
製造例2で得られた第2の炭化ケイ素系無機繊維の短繊維から不織布を作製した。この不織布を、塩化イリジウム三水和物(IrCl・3HO)の飽和水溶液に浸漬して、引き上げ、120℃で真空乾燥する工程を、2回繰り返して塩化イリジウム三水和物を不織布中の繊維表面に担持させた。この不織布を350℃、水素気流中で焼成することでヒドラジン分解触媒を作製した。重量増加率から算出した金属イリジウムの担持率は、2.6重量%であった。X線回折により、塩化イリジウムが金属イリジウムに還元されていることを確認した。
【0074】
実施例8
実施例7と同じ不織布を用い、実施例7で行った塩化イリジウム三水和物飽和水溶液への浸漬、乾燥工程を10回繰り返した他は実施例7と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、15重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0075】
実施例9
実施例7と同じ不織布を用い、実施例7で行った塩化イリジウム三水和物飽和水溶液への浸漬、乾燥工程を16回繰り返した他は実施例7と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、31重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0076】
実施例10
実施例7と同じ不織布を、六塩化イリジウム酸・六水和物(HIrCl・6HO)の0.2wt%水溶液に浸漬して、引き上げ、120℃で真空乾燥しする工程を、2回繰り返して六塩化イリジウム酸・六水和物を不織布中の繊維表面に担持させた。この不織布を350℃、水素気流中で焼成することでヒドラジン分解触媒を作製した。重量増加率から算出した金属イリジウムの担持率は、3.8重量%であった。X線回折により、六塩化イリジウム酸・六水和物が金属イリジウムに還元されていることを確認した。
【0077】
実施例11
実施例7と同じ不織布を用い、実施例10で行った六塩化イリジウム酸・六水和物(HIrCl・6HO)の0.2wt%水溶液への浸漬、乾燥工程を10回繰り返した他は実施例10と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、17重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0078】
実施12
実施例7と同じ不織布を用い、実施例10で行った六塩化イリジウム酸・六水和物(HIrCl・6HO)の0.2wt%水溶液への浸漬、乾燥工程を16回繰り返した他は実施例10と同様に操作して、金属イリジウムの担持率が、31重量%のヒドラジン分解触媒を作製した。
【0079】
比較例1
実施例1〜3および実施例7〜9で用いたと同様の塩化イリジウム三水和物飽和水溶液を用いて、多孔質アルミナ系顆粒状ヒドラジン分解触媒を調製した。金属イリジウムの担持量は、30重量%であった。
【0080】
比較例2
実施例4〜6および実施例10〜12で用いたと同様の六塩化イリジウム酸・六水和物の0.2wt%水溶液を用いて、多孔質アルミナ系顆粒状ヒドラジン分解触媒を調製した。金属イリジウムの担持量は、30重量%であった。
【0081】
このようにして得られた各触媒を用いて、ヒドラジンの分解をGC−MS(ガスクロマトグラフ・質量分析装置)を用いて測定した。得られた測定結果のガスクロマトグラフピークのうち、窒素とアンモニアのピーク面積比を比較した。ヒドラジンの金属イリジウムによる分解反応は、式(1)〜(2)で示される。ヒドラジンは、まず式(1)に従って分解する。生成したアンモニアは、式(1)で発生した反応熱で式(2)に従い更に分解する。しかしながら、式(2)の反応が増えると、式(1)の反応を阻害するので好ましくない。GC−MS法で窒素とアンモニアのピーク面積比を比較することで、式(1)と式(2)の進行割合を推定でき、各触媒の特性を比較できる。
【0082】
測定結果を表2及び表3に示す。表2及び表3は、実施例1〜12および比較例1〜2で製造したヒドラジン分解触媒の製造条件とGC-MSにより検出されたNH3とN2のピーク面積比を比較した結果を示す。比較例で示した分解触媒に比べ、本発明のヒドラジン分解触媒は、いずれも窒素の生成が少なく、式(2)の反応の発生が少ないことを示している。
【0083】
【表2】
Figure 0004081752
注:A:傾斜組成Si-Zr-C-O繊維不織布
【0084】
【表3】
Figure 0004081752
注:B:Si-Zr-C-O繊維不織布
C:アルミナ
【0085】
【発明の効果】
本発明に係るヒドラジン分解触媒は、無機系繊維の不織布上に金属イリジウムを担持させてなるものであるので、分解反応が繊維表面で発生するため副反応によるアンモニアの分解が抑制される。また、任意の形状を付与することが可能である。特に可とう性が高いので、高圧の分解ガスによる繰り返しの衝撃で触媒同士が接触することによる摩滅や破砕が発生せず消耗することがない。
【図面の簡単な説明】
【図1】実施例1により作製したヒドラジン分解触媒のSEM写真である。

Claims (4)

  1. 担持体として炭化ケイ素系繊維からなる不織布を用い、該担持体表面に金属イリジウムを担持させていることを特徴とするヒドラジン分解触媒。
  2. 炭化ケイ素系繊維が、存在割合が98〜40重量%の炭化珪素を主体とする第1相と存在割合が2〜60重量%のジルコニアとからなる第2相との複合相からなる繊維であって、繊維の表層に向かってZrの存在割合が傾斜的に増大しているジルコニア含有無機繊維であることを特徴とする請求項記載のヒドラジン分解触媒。
  3. ジルコニア含有無機繊維の比表面積が、1m2/g以上である請求項記載のヒドラジン分解触媒。
  4. 炭化ケイ素系繊維が、2族、3族及び4族の金属原子からなる群から選択され、その酸化物の炭素還元反応における自由エネルギー変化が負の値になる温度が、酸化ケイ素の炭素還元反応における自由エネルギー変化が負になる温度に比較して高温である金属元素を含有し、かつ酸素含有量が1から13重量%の範囲内である炭化ケイ素系繊維であることを特徴とする請求項1記載のヒドラジン分解触媒。
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