JP3814887B2 - ディーゼル機関の吸気弁制御装置および制御方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、4サイクルディーゼル機関に関し、特に、可変動弁機構を具備したディーゼル機関の吸気弁制御装置および制御方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
実用されているディーゼル機関の多くは、固定的な特性の動弁機構と組合わされており、吸気弁の開閉時期は常に一定である。ここで、吸気弁の閉時期は、ディーゼル機関の実圧縮比を左右し、圧縮上死点における圧縮空気の温度に影響する。低温時の始動性の上では、吸気弁閉時期を下死点近傍に設定することが最も良いのであるが、仮に吸気弁閉時期が下死点近傍であると、高速時に充填効率が著しく低下してしまうので、通常、吸気弁閉時期は、下死点後(ABDC)40〜50゜程度に設定されている。
【0003】
一方、内燃機関の吸気弁の開閉時期を可変制御する可変動弁機構は従来から種々の形式のものが提案されており、一部で既に実用に供されている。例えば、カムシャフトと該カムシャフトを駆動するクランクシャフトとの間の位相関係を相対的にずらすことによって、吸気弁の開閉時期を同方向へ変化させるものや、異なるカムプロフィールを有する2つのカムに従動する2つのロッカアームを設け、吸気弁が実際に連動するロッカアームを選択的に切り換えることによって、バルブリフト特性を2種類に切り換えるようにした装置などが実用されている。また、特開平6−185321号公報には、不等速軸継手の原理を応用して、円筒状カムシャフトを不等速回転させることでバルブリフト特性を連続的に可変制御し得るようにした可変動弁機構が開示されている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ディーゼル機関、特に直噴型機関の場合、圧縮比は、一般に、低温始動性、エミッション、燃焼騒音などの要求により決定されるので、暖機後の通常走行時には、最適燃焼が得られる圧縮比に比べて、高すぎる場合が多い。過度に高い圧縮比は、圧縮による筒内圧力の上昇を招き、トルク変動が増大して、ディーゼル機関特有の振動の原因となる。そして、筒内圧力の増大によるピストン摺動面やクランク軸受の荷重増加は、摩擦損失増大の要因となる。また、過給機付ディーゼル機関の場合には、過給圧が圧縮比により制約され、結果的に出力が低下することになる。
【0005】
さらに、圧縮時の冷却損失(圧縮により温度上昇した空気からシリンダへの放熱による圧力低下によるもの)も無視できないため、高すぎる圧縮比は燃費の悪化も招く。
【0006】
本発明の目的は、吸気弁側に可変動弁機構を備えたディーゼル機関において、吸気弁の閉時期を最適に可変制御し、種々の運転条件に適した実圧縮比を確保することにある。
【0007】
【課題を解決するための手段】
上記の目的を達成するために、本発明の請求項1に係る吸気弁制御装置は、吸気弁の作動角を可変制御することにより該吸気弁の閉時期を制御可能な可変動弁機構を備えたディーゼル機関において、吸気弁開時期は略一定に保たれ、作動角の可変制御に伴って吸気弁閉時期のみが変化するように構成するとともに、機関始動時の吸気弁閉時期を、実圧縮比が高くなるように通常時よりも下死点に近づくように設定したことを特徴としている。
【0008】
また、請求項4に係る吸気弁制御方法は、吸気弁の作動角を可変制御することにより該吸気弁の閉時期を制御可能な可変動弁機構を備えたディーゼル機関において、吸気弁開時期を略一定に保ちつつ、作動角の可変制御に伴って吸気弁閉時期のみを変化させるとともに、機関始動時の吸気弁閉時期を、実圧縮比が高くなるように通常時よりも下死点に近づけるように制御することを特徴としている。
【0009】
すなわち、図1は、機関始動時における圧縮上死点での圧縮空気の温度(但し外気温が0℃の場合である)と吸気弁閉時期との関係を示しているが、同図に示すように、吸気弁閉時期を下死点から遅らせるにつれて、実圧縮比が低下するため、圧縮上死点における温度も低下する。例えば、閉時期が下死点後20゜の場合に比べて下死点後60゜では、約20℃の温度差が生じる。ディーゼル機関の場合、圧縮による温度上昇は、噴射された燃料を着火,燃焼させる条件として極めて重要である。外気温が−30℃となるような寒冷地における過酷な条件下では、バッテリ電圧の低下や摩擦抵抗増大により、クランキング速度も遅くなるため、圧縮行程で吸気弁が開弁していると、筒内の圧縮空気が吸気系に逆流する。つまり、吸気弁が閉じるまで実質的な圧縮が開始しないため、吸気弁の閉時期によって実圧縮比が左右される。従って、始動性の上では、吸気弁閉時期を下死点近傍にすることが最も良いが、吸気弁閉時期を下死点近傍に固定的に設定すると、高速時に充填効率が著しく低下する。そのため、バルブリフト特性が固定されている動弁装置と組み合わせる場合には、多くの機関では、吸気弁閉時期を下死点後40〜50゜の範囲に設定している。従って、この吸気弁閉時期の遅れに伴う実圧縮比の低下の分だけ、始動性確保のため、ベースの圧縮比を高く設定していることになる。
【0010】
ベース圧縮比が仮に20%高いとすると、同一の吸入空気量での圧縮時の筒内圧力は26%前後高くなる。この高い筒内圧力によって、前述したように、ディーゼル機関特有の振動や摩擦損失の増大、冷却損失の増大が生じる。また過給ディーゼル機関の場合には、その分、過給圧を低下させないと、ピストンやクランク軸受など、筒内圧力が直接作用する部位の耐久性を確保できない。従って、始動性を損なわずに圧縮比を下げられれば、その分出力が上げられることになる。本発明においては、可変動弁機構を利用して、始動時に吸気弁閉時期を下死点に近づくように制御するので、ベース圧縮比を過度に高く設定する必要がない。
【0011】
また本発明において重要な点は、可変動弁機構として、作動角を可変制御することにより吸気弁閉時期が変化するものが用いられていることである。特に、吸気弁開時期は略一定に保たれ、作動角の可変制御に伴って吸気弁閉時期のみが変化するものが用いられる。
【0012】
すなわち、カムシャフトのクランクシャフトに対する位相を相対変化させる形式に代表される作動角一定の可変動弁機構を用いた場合には、吸気弁閉時期を下死点近傍に進ませると、同時に開時期も排気行程側に進むことになり、ガソリン機関に比べて圧縮比が高いディーゼル機関では、吸気弁とピストンクラウン部とが干渉する。従って、比較的平坦なピストンクラウン部形状では、吸気弁閉時期を大きく変化させることは不可能である。
【0013】
また、燃焼の悪化を無視してバルブリセスを大きくしたり、ピストンキャビティを大径として、ピストンと吸気弁との干渉を避けることも一応は可能であるが、この場合でも、バルブオーバラップが過大となる問題がある。
【0014】
すなわち、ディーゼル機関においても、トルクを確保するためには、低速高負荷時には吸気弁の閉時期は下死点近傍がよく、高速時には慣性効果を得るために閉時期は遅らせた方がよい。例えば、高速時の出力を確保するためには、吸気弁の閉時期を下死点後60゜、開時期を上死点前20゜程度とすることが望ましいが、このような設定のまま、仮に作動角を一定として閉時期を下死点近傍とすると、開時期は上死点前40〜50゜となり、吸排気弁のバルブオーバラップが極めて大となる。なお、発火前の始動時には残留ガスがなく、始動時には悪影響はない。
【0015】
しかしながら、このようにバルブオーバラップが過大であると、特に過給機付ディーゼル機関の低速全開時に不具合が生じる。
【0016】
最近の自動車用ディーゼル機関は、出力向上の必要性から、過給機、特にターボチャージャ付のものが一般的になってきている。ディーゼル機関の場合、ノッキングの制約がないこともあり、圧縮比を低下させて燃費を悪化させるというデメリットが少ないこともある。しかしながら、ディーゼル機関の場合、図2に過給圧と回転数の関係を示すように、低速全開時の過給圧の立ち上がりが速く、かなり低速時から過給域に入る。ガソリン機関の場合は、2000rpm前後で過給圧の上昇が始まる。この理由としては、まず、ディーゼル機関の場合、部分負荷時の吸気量が多く(超リーンバーンであるため)、従って排気流速も高く、排気タービンが十分に高速回転している状態となっているため、全負荷時にすぐに過給性能を発揮できる。またガソリン機関と比べて、機関の回転数範囲が狭く、高過給であっても、低速時と高速時の流量比は、高性能ガソリン機関よりも小さい。そのため、ターボチャージャにおけるタービン入口のA/R(開口率)を小さくできるため、低速でも過給効率が高い。
【0017】
このようにターボチャージャ付ディーゼル機関は、低速時に過給圧が高く得られる利点があるが、過給圧が高くなるということは、一般的には、それを上回って排圧が上昇することになる(図2参照)。低速全負荷時に排圧が過給圧を上回って上昇し、かつバルブオーバラップが過大であると、次のような問題を生じる。まず、排気行程中に吸気弁が開いたときに、排気の一部が吸気弁側に吹き返し、吸気温度が上昇するとともに、排気が混入した割合だけ吸気の充填率が低下する。そして、排気の割合が大となると、スモークの発生が増大する。また、排気の逆流による排圧の低下は過給圧の低下を招き、この悪循環によって吸気の充填率がさらに低下する。
【0018】
本発明では、作動角の可変制御によって吸気弁開時期を略一定に保ちつつ吸気弁閉時期のみを変化させることができるので、このような不具合を回避できる。
【0019】
従って、請求項2のように、過給機付ディーゼル機関において、機関低速高負荷時に吸気弁閉時期を下死点に近い時期に制御すれば、過大なバルブオーバラップを回避しつつ、低速トルクを増大できる。
【0020】
上記のような吸気弁開閉時期の可変制御を実現するために、請求項3に係る吸気弁制御装置は、上記可変動弁機構として、機関の回転に同期して回転する駆動軸と、この駆動軸と同軸上に配設され、かつ吸気弁を駆動するカムを外周に有するカムシャフトと、このカムシャフトの端部に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成された一方のフランジ部と、この一方のフランジ部に対向するように上記駆動軸側に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成された他方のフランジ部と、上記両フランジ部の間に揺動自在に配設された環状ディスクと、この環状ディスクの両側部に互いに反対方向に突設されて、上記両フランジ部の各係合溝内に夫々係合するピンと、上記環状ディスクを機関運転状態に応じて揺動させる駆動機構とを備えている。
【0021】
この構成においては、環状ディスクの回転中心が駆動軸およびカムシャフトの中心と同心状態にある場合には、駆動軸とカムシャフトとが等速回転し、また環状ディスクが偏心位置にある場合には、両者が不等速回転する。従って、上記環状ディスクの位置に応じて、吸気弁のバルブリフト特性が連続的に変化し、吸気弁の開閉時期と作動角とが変化する。なお、駆動軸とカムシャフトとの位相が常に一致する同位相点をバルブリフト開始時期と一致させておけば、請求項4のように、吸気弁開時期が常に一定となる。
【0022】
また本発明の吸気弁制御装置ならびに吸気弁制御方法は、機関冷機状態を検出する手段を有しており、機関冷機時における吸気弁閉時期が暖機時よりも下死点に近い時期に制御される。
【0023】
ディーゼル機関の場合、冷機時には、圧縮時の空気温度が低いために、着火後の燃焼遅れに起因するディーゼルノックが生じる。これは燃焼遅れの間に噴射された燃料が、ある時期に一気に燃焼することによるもので、ディーゼル機関特有の燃焼騒音が発生する。これを改善するには、一般的には、圧縮比を高く設定するほかなく、従って、前述した始動性の要求とともに、このディーゼルノック回避の要求からも圧縮比の下限値は制約を受けることになる。そこで、本発明では、始動時のみではなく、機関の冷機時においても、吸気弁閉時期を下死点側に早めることで、実圧縮比を高く得るようにしているのである。
【0024】
一方、機関の暖機完了後は、燃焼室の壁面温度などが上昇するため、圧縮比を低めても冷機時と同一の燃焼を得ることができる。そのため、暖機完了後、特に部分負荷域においては、燃焼を悪化させない範囲で吸気弁閉時期を遅く設定し、実圧縮比を低下させて筒内の最高圧力レベルを低く抑制すれば、トルク変動に起因するディーゼル特有の振動騒音が抑制される。但し、高負荷時は、充填効率つまりトルク確保を優先させるため、実圧縮比を大きくすることが望ましい。
【0025】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、高い圧縮比が要求される始動時や機関冷機時に吸気弁閉時期を早めて下死点に近づけるようにしたので、機関のベース圧縮比をそれだけ低く設定することが可能となり、過大な筒内圧力によるディーゼル機関特有の振動や、ピストン摺動面等での摩擦損失、あるいは圧縮時の冷却損失、等を低減できる。
【0026】
また、請求項2によれば、過大なバルブオーバラップによる不具合を伴わずに過給機付ディーゼル機関の低速トルクを向上させることができる。
【0027】
【発明の実施の形態】
以下、この発明の好ましい実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0028】
図3は、この発明に係るディーゼル機関の一実施例を示すもので、シリンダブロック1に複数のシリンダ2が直列に配置されているともに、各シリンダ2内にピストン3が摺動可能に嵌合している。シリンダ2頂部を覆うシリンダヘッド4には、吸気弁5によって開閉される吸気ポート6と、排気弁7によって開閉される排気ポート8とが形成され、かつ図示せぬ燃料噴射弁がシリンダ2内へ向けて装着されている。上記吸気ポート6に接続される吸気通路の上流側には、過給機、具体的にはターボチャージャ9のコンプレッサ9aが介装されている。このコンプレッサ9aを駆動する排気タービン9bは、排気ポート8下流の排気通路に介装されている。なお、10は排気還流通路、11は排気還流制御弁である。
【0029】
排気弁7は、図示せぬ排気側カムシャフトによって固定的なバルブタイミングでもって開閉されるようになっている。これに対し、吸気弁5は、後述する可変動弁機構によって、その閉時期を作動角とともに可変制御できる構成となっている。
【0030】
上記可変動弁機構は、特開平6−185321号公報や米国特許第5,365,896号明細書等において開示されているように、不等速軸継手の原理を応用して各気筒の円筒状カムシャフト22を不等速回転させることでバルブリフト特性を連続的に可変制御し得るようにしたものである。
【0031】
この機構自体は公知であるので、図4および図5を参照して簡単に説明すると、図において、21は図外の機関クランク軸からタイミングチェーン14を介して回転力が伝達される駆動軸、22は該駆動軸21の外周に回転自在に嵌合した中空円筒状のカムシャフトである。このカムシャフト22は、各気筒毎に分割して構成されている。
【0032】
上記カムシャフト22は、シリンダヘッド4上端部のカム軸受に回転自在に支持されていると共に、外周に、各気筒一対の吸気弁5を開作動させる一対のカム26が形成されている。また、カムシャフト22は、上述したように複数個に分割形成されているが、その一方の分割端部に、第1フランジ部27が設けられている。また、この複数に分割されたカムシャフト22の端部間に、それぞれスリーブ28と環状ディスク29が配置されている。上記第1フランジ部27には、半径方向に沿った細長い係合溝が形成されている。
【0033】
上記スリーブ28は、駆動軸21に固定されているものであって、該スリーブ28に、上記第1フランジ部27に対向する第2フランジ部32が形成されている。この第2フランジ部32には、やはり半径方向に沿った細長い係合溝が形成されている。
【0034】
両フランジ部27,32の間に位置する上記環状ディスク29は、略ドーナツ板状を呈し、駆動軸21の外周面との間に環状の間隙を有するとともに、ディスクハウジング34の内周面に回転自在に保持されている。また、互いに180°異なる直径線上の対向位置にそれぞれ反対側へ突出する一対のピン36,37を有し、各ピン36,37が各係合溝に係合している。
【0035】
ディスクハウジング34は、略三角形をなし、その円形の開口部内に環状ディスク29が保持されているとともに、三角形の頂部となる2カ所に、それぞれ第1カム嵌合孔38および第2カム嵌合孔39が貫通形成されている。
【0036】
そして、上記第1カム嵌合孔38および第2カム嵌合孔39内には、それぞれ第1偏心カム41および第2偏心カム43の円形カム部41a,43aが回動自在に嵌合している。
【0037】
上記第2偏心カム43は、図5に示すように、互いに所定量偏心している円柱状の軸部43bと円形カム部43aとからなり、両者が回転可能に嵌合されて一体化されている。なお、円形カム部43aは、スナップリング30により抜け止めされている。上記軸部43bは、図4に示すように、フレーム33の隔壁部に圧入固定されている。
【0038】
また上記第1偏心カム41は、機関前後方向に沿って複数気筒に亙って連続した制御カム軸42と、該カム軸42に各気筒に対応して固設された複数個の円形カム部41aとからなり、両者が所定量偏心している。なお、各気筒の円形カム部41aは、それぞれカム軸42の所定の角度位置において偏心している。上記制御カム軸42は、上記フレーム33にカムブラケット35を介して回転自在に保持されている。機関の一端部に位置する上記制御カム軸42の一端には、駆動機構として回転型の油圧アクチュエータ46が取り付けられている。また、ディーゼル機関の前部に位置する制御カム軸42の他端には、該制御カム軸42の回転位置つまり円形カム部41aの位相を検出する回転型のポテンショメータ47が取り付けられている。
【0039】
上記の可変動弁機構においては、第1偏心カム41を介して環状ディスク29の偏心位置を可変制御することにより、カムシャフト22が不等速回転し、駆動軸21との間で、その偏心量に応じた位相差が生じる。例えば、図5の(A)に示すように、環状ディスク29の中心Yと駆動軸21の中心Xとが一致している状態では、カムシャフト22が駆動軸21と等速で同期回転するため、図6の実線(イ)に示すようなカムプロフィールに沿ったバルブリフト特性が得られる。これに対し、図5の(B)に示すように、環状ディスク29の中心Yが一方へ偏心した状態では、偏心量に応じた位相差が生じ、これに伴って図6に一点鎖線(ロ)で示すようなバルブリフト特性が得られる。
【0040】
なお、駆動軸21が1回転する間に、正方向の位相差と負方向の位相差とが生じ、その途中に、同位相点が存在する。そして、この実施例では、カムリフトの開始点が上記同位相点に一致している。従って、環状ディスク29の中心が偏心してバルブ作動角が増減変化しても、開時期は変化せずに、閉時期のみが変化するようになる。
【0041】
上記油圧アクチュエータ46に供給される油圧は、図示せぬコントロールユニットからの制御信号に基づき図示せぬ油圧制御弁を介して制御される。コントロールユニットには、機関運転条件を示す機関回転数信号、負荷に相当するスロットルレバー開度信号、機関の温度として例えば冷却水温を検出する水温センサからの水温信号等が入力され、これらに基づいて吸気弁5の閉時期を可変制御している。
【0042】
図7は、コントロールユニットにより実行される吸気弁5の閉時期の制御の流れを示すフローチャートであって、まずステップ1において、吸気弁閉時期(IVC)の制御マップを読み込む。この制御マップとしては、図8に特性の一例を示す冷間時用のマップと、図9に特性の一例を示す暖機後用のマップとが、予め設定されている。次にステップ2において、冷却水温twを所定の基準温度(暖機が完了したとみなせる温度)t0と比較し、このt0以下である場合には、ステップ3へ進む。ステップ3では、冷間時用の制御マップを用いて、そのときの負荷と機関回転数に対応する吸気弁閉時期の目標値を決定する。また、暖機が完了していて冷却水温twが基準温度t0より高い場合には、ステップ4へ進む。ステップ4では、暖機後用の制御マップを用いて、そのときの負荷と機関回転数に対応する吸気弁閉時期の目標値を決定する。
【0043】
このようにして閉時期目標値を決定した後、ステップ5へ進み、機関の潤滑系統における油圧が基準油圧p0以上であるか否かを、図示せぬ油圧センサの信号に基づいて判定する。この基準油圧p0は、上述した可変動弁機構を正常に制御し得るレベルに設定されており、始動直後のように、油圧がこの基準油圧p0以下である場合には、油圧が十分に上昇するまで待機する。そして、油圧が基準油圧p0より大きければ、ステップ6へ進み、油圧アクチュエータ46を閉時期目標値に沿って駆動する。また、ステップ7では、ポテンショメータ47によって実際の制御カム軸42の回転位置が検出され、油圧アクチュエータ46が閉ループ制御される。なお、吸気弁5の実際の閉時期を何らかのセンサでもって直接検出し、これに基づいて閉ループ制御するようにしてもよい。
【0044】
図8と図9との比較から明らかなように、冷機時においては、暖機後よりも吸気弁閉時期が早められ、下死点後(ABDC)20゜〜40゜程度となる。これにより実圧縮比が高くなり、圧縮時の空気温度が上昇して、ディーゼルノックが抑制される。
【0045】
また暖機後においては、特に部分負荷域において燃焼が悪化しない範囲で閉時期が遅く設定されており、筒内の最高圧力レベルがそれだけ低くなるので、トルク変動に起因するディーゼル特有の振動騒音が抑制される。そして、高負荷域では、充填効率を優先して、閉時期を早め、実圧縮比を高く確保している。
【0046】
また、冷機時および暖機後のいずれの特性においても、アイドル時には、閉時期が下死点後20゜前後に早められる。そして、ステップ5として示したように、油圧が低い状態では、その制御状態が保持される。従って、始動時には、常に、閉時期が下死点後20゜前後となっており、高い実圧縮比が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】ディーゼル機関における吸気弁閉時期と圧縮上死点での空気温度との関係を示す特性図。
【図2】ターボチャージャを備えた機関の排圧と過給圧との関係をディーゼル機関とガソリン機関とで対比して示す特性図。
【図3】この発明に係るディーゼル機関の一実施例を示す構成説明図。
【図4】その可変動弁機構の構成を示す要部の斜視図。
【図5】この可変動弁機構の作動を示す説明図であって、(A)は同心状態、(B)は偏心状態の様子を示す説明図。
【図6】この可変動弁機構により得られるバルブリフト特性を示す特性図。
【図7】吸気弁閉時期の制御の流れを示すフローチャート。
【図8】冷間時用の吸気弁閉時期制御マップの特性を示す特性図。
【図9】暖機後用の吸気弁閉時期制御マップの特性を示す特性図。
【符号の説明】
2…シリンダ
5…吸気弁
9…ターボチャージャ
Claims (4)
- 吸気弁の作動角を可変制御することにより該吸気弁の閉時期を制御可能な可変動弁機構を備えたディーゼル機関において、
吸気弁開時期は略一定に保たれ、作動角の可変制御に伴って吸気弁閉時期のみが変化するように構成するとともに、機関始動時の吸気弁閉時期を、実圧縮比が高くなるように通常時よりも下死点に近づくように設定し、
さらに、機関冷機状態を検出する手段を有し、機関冷機時における吸気弁閉時期が暖機時よりも下死点に近い時期に制御されることを特徴とするディーゼル機関の吸気弁制御装置。 - 吸気系に過給機を有し、機関低速高負荷時に吸気弁閉時期が下死点に近い時期に制御されることを特徴とする請求項1に記載のディーゼル機関の吸気弁制御装置。
- 上記可変動弁機構は、機関の回転に同期して回転する駆動軸と、この駆動軸と同軸上に配設され、かつ吸気弁を駆動するカムを外周に有するカムシャフトと、このカムシャフトの端部に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成された一方のフランジ部と、この一方のフランジ部に対向するように上記駆動軸側に設けられ、かつ半径方向に沿って係合溝が形成された他方のフランジ部と、上記両フランジ部の間に揺動自在に配設された環状ディスクと、この環状ディスクの両側部に互いに反対方向に突設されて、上記両フランジ部の各係合溝内に夫々係合するピンと、上記環状ディスクを機関運転状態に応じて揺動させる駆動機構とを備え、上記環状ディスクの位置に応じて吸気弁の作動角が変化するものであることを特徴とする請求項1または2に記載のディーゼル機関の吸気弁制御装置。
- 吸気弁の作動角を可変制御することにより該吸気弁の閉時期を制御可能な可変動弁機構を備えるとともに機関冷機状態を検出する手段を有するディーゼル機関において、吸気弁開時期を略一定に保ちつつ、作動角の可変制御に伴って吸気弁閉時期のみを変化させるとともに、機関始動時の吸気弁閉時期を、実圧縮比が高くなるように通常時よりも下死点に近づけるように制御し、かつ、機関冷機時における吸気弁閉時期を暖機時よりも下死点に近い時期に制御することを特徴とするディーゼル機関の吸気弁制御方法。
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