JP3813858B2 - 電力変換装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、電力用ダイオード整流器と多レベル出力自励式電力変換器を組み合わせた高効率で経済的な電力変換装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
電気鉄道直流き電システムでは、3相ブリッジ結線された電力用ダイオード整流器により3相交流電力を直流電力に変換する方式が多く採用されている。この方式は過負荷耐量に優れ、変換器コストを安くすることができる利点を有する。しかし、電車が回生ブレーキをかけたときにその電力を交流電源側に回生できず、しばしば回生失効を起こすという問題点があった。また、負荷電流依存性があり、直流き電電圧が負荷によって大きく変動する欠点があった。
【0003】
図23は、従来の電力回生可能なPWMコンバータ(パルス幅変調制御コンバータ)の回路構成を示すものである。PWMコンバータCNVは、交流端子が交流リアクトルLsを介して3相交流電源SUPの端子R,S,Tに接続され、直流端子が直流平滑コンデンサCd、および3相出力のVVVF(可変電圧可変周波数)インバータINVの直流端子に接続される。インバータINVの交流端子は交流電動機Mに接続される。PWMコンバータCNVは、3相ブリッジ結線された6アーム6個の整流器用高速ダイオードD1〜D6と、各ダイオードに逆並列接続された回生インバータ用スイッチング素子たる自己消弧素子S1〜S6とからなっている。ダイオードD1〜D3および自己消弧素子S1〜S3は正側に配置され、ダイオードD4〜D6および自己消弧素子S4〜S6は負側に配置されている。インバータINVもコンバータCNVと同様の回路構成を持っているが、ここでは詳細説明を省略する。
【0004】
PWMコンバータCNVは、比較器C1,C2、電圧制御補償器Gv(S)、乗算器ML、電流制御補償器Gi(S)、およびパルス幅変調制御回路PWMCからなる制御装置を備えている。比較器C1および電圧制御補償器Gv(S)は各相共通であるが、乗算器ML、比較器C2、電流制御補償器Gi(S)、およびパルス幅変調制御回路PWMCは各相毎に設けられる。ここにはR相の内部回路構成のみを詳しく示しているが、S相およびT相の制御回路も同様に構成されている。R相制御回路からR相の自己消弧素子S1,S4のためのゲート信号g1,g4が出力され、S相制御回路からS相の自己消弧素子S2,S5のためのゲート信号g2,g5が出力され、T相制御回路からT相の自己消弧素子S3,S6のためのゲート信号g3,g6が出力される。
【0005】
PWMコンバータCNVは、以上のように構成された制御装置により、直流平滑コンデンサCdに印加される直流電圧Vdが電圧指令値Vd*に一致するように入力電流Ir,Is,Itを制御する。さらに具体的には、電圧指令値Vd*と電圧検出値Vdの偏差を比較器C1で得て電圧制御補償器Gv(S)で増幅し、入力電流の振幅指令値Ismとする。乗算器MLにおいてR相の電圧に同期した単位正弦波sinωtと入力電流の振幅指令値Ismを掛け算し、その積をR相の電流指令値Ir*とする。このR相電流指令値Ir*とR相電流検出値Irを比較器C2で比較し、その偏差を電流制御補償器Gi(S)で反転増幅する。ここで通常は比例増幅が使われ、ゲインはGi(S)=−Kiとなる。Kiは比例定数である。電流制御補償器Gi(S)の出力である電圧指令値er*=−Ki×(Ir*−Ir)をPWM制御回路PWMCに入力し、コンバータCNVのR相の自己消弧素子S1とS4のゲート信号g1,g4を作る。PWM制御回路PWMCは、電圧指令値er*とキャリア信号X(例えば、1kHzの三角波)を比較し、er*>Xのときは、素子S1をオンさせ(S4はオフ)、er*<Xのときは、素子S4をオン(S1はオフ)させる。この結果、コンバータのR相電圧Vrは電圧指令値er*に比例した電圧を発生する。
【0006】
R相の入力電流Irに関して、Ir*>Irの場合、電圧指令値er*は負の値となり、Irを増加させる。逆に、Ir*<Irの場合、電圧指令値er*は正の値となり、Irを減少させる。このようにして、Ir*=Irとなるような制御が行われる。S相およびT相の電流Is,Itも同様に制御される。
【0007】
直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdは、次のように制御される。すなわち、Vd*>Vdとなった場合、入力電流の振幅指令値Ismが増加する。各相の電流指令値は電源電圧と同相となり、電流Ismに比例した有効電力Psが交流電源SUPから直流平滑コンデンサCdに供給されることになる。この結果、電圧Vdが上昇し、Vd*=Vdとなるように制御される。逆に、Vd*<Vdとなった場合、入力電流の振幅指令値Ismは負の値となり、交流電源側に電力Psを回生する。故に、直流平滑コンデンサCdの蓄積エネルギーが減少し、電圧Vdが低下して、やはり、Vd*=Vdとなるように制御される。
【0008】
VVVF(可変電圧・可変周波数)インバータINVおよび交流電動機Mは直流平滑コンデンサCdを電圧源とする負荷であり、力行運転時はコンデンサCdの蓄積エネルギーを消費し、電圧Vdを低下させる方向に作用する。また、回生運転時はその回生エネルギーを平滑コンデンサCdに戻すため、電圧Vdを上昇させる方向に働く。前述のようにPWMコンバータCNVによって直流電圧Vdが一定になるように制御するため、自動的に、力行運転では交流電源から見合った有効電力を供給し、回生運転時は回生エネルギーに見合った有効電力を交流電源側に回生することになる。
【0009】
このように、従来のPWMコンバータによれば、直流電圧Vdを安定化することができ、電力回生が可能であり、電気鉄道の直流き電システムでの回生失効の問題も解決される。
【0010】
しかし、PWMコンバータは、高周波でスイッチングを行うためスイッチング素子のスイッチング損失が大きくなる欠点がある。また、スイッチング素子は、遮断電流として交流入力電流の最大値を切る能力が必要となる。したがって、短時間の過負荷(例えば、定格電流の300%)でもその遮断電流に耐えるように設計しなければならず、電力変換器として大きなものが必要となり、不経済なシステムとなってしまう問題があった。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
以上のように、電力回生が可能な電力変換器として、パルス幅変調制御による自励式変換器(PWMコンバータと呼ぶ)があるが、ダイオード整流器に比べるとコストが高く、過負荷耐量もあまり大きくすることができないという難点がある。また、PWM制御に伴うスイッチング損失が大きくなり、変換器効率が悪い等の問題があった。
【0012】
そこで、本発明は、過負荷耐量に優れ、電力回生が可能で、変換器効率が高く、経済的な電力変換装置を提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
請求項1に係る発明の電力変換装置は、交流電源に交流リアクトルを介して交流端子が接続される電力用ダイオード整流器と、この電力用ダイオード整流器の交流端子に交流端子が直接に接続された多レベル出力自励式電力変換器と、この多レベル出力自励式電力変換器および電力用ダイオード整流器の直流共通端子間にリカバリ電流抑制用リアクトルを介して接続され、負荷装置を並列に接続する直流平滑コンデンサとを具備する。
【0014】
この構成によれば、力行運転時は、大部分の電流が電力用ダイオード整流器に流れるように制御することにより、多レベル出力自励式電力変換器の遮断電流を小さく抑える。多レベル出力自励式電力変換器は、電源電圧に同期した一定のパルスパターン(1パルス、3パルス、5パルス等)で電源電圧に対する位相角を制御することにより、入力電流を制御するもので、常に入力力率=1付近で運転される。故に、多レベル出力自励式電力変換器を構成する自己消弧素子のスイッチングを、入力電流のゼロ点付近で行うようにすることにより、素子の遮断電流を小さくすることができる。
【0015】
リカバリ電流抑制リアクトルは、多レベル出力自励式電力変換器の自己消弧素子がオンしたときに電力用ダイオード整流器の各ダイオードに過大なリカバリ電流が流れ込むのを抑える役目をする。通常、このリアクトルは数十μHのインダクタンス値で、交流リアクトルと比べると、2桁ぐらい小さいものでよい。
【0016】
一方、回生運転時は、大部分の電流が多レベル出力自励式電力変換器の自己消弧素子に流れる。本発明装置は、例えば、力行運転は300%の過負荷を許容し、回生運転は100%とするのが経済的な使い方となる。電気鉄道では、1列車が回生ブレーキをかけても他の列車は力行中の場合が多く、上記使い方は妥当なものとなる。回生電力100%で運転した場合、電流の大部分は自己消弧素子に流れることは同じである。しかし、回生運転時も電源力率はほぼ1に制御され、自己消弧素子のスイッチングを電流ゼロ点付近で行うようにすることにより、素子の遮断電流は小さく抑えることが可能となる。故に、スイッチング損失は大幅に軽減され、遮断電流の小さい自己消弧素子で自励式電力変換器CNVを構成することができるようになり、経済的な装置を提供することができる。
【0017】
請求項2に係る発明は、請求項1に記載の電力変換装置において、リカバリ電流抑制用リアクトルに、そのリアクトルに流れたリカバリ電流をリセットするリセット回路を付加する。
【0018】
リカバリ電流抑制用リアクトルは、多レベル出力自励式電力変換器の自己消弧素子がオンしたときに電力用ダイオード整流器の各ダイオードに過大なリカバリ電流が流れ込むのを抑制する役割を持っている。
【0019】
リアクトルにリカバリ電流が流れた場合、次のスイッチングのときまでにその電流を一旦リセットする必要がある。そのために、そのリアクトルにはリカバリ電流リセット回路を並列接続する。例えば、リアクトルに、ダイオードと抵抗の直列回路からなるリセット回路を並列接続する。リセット回路の時定数は、Tp=Lp/Rpで与えられ、スイッチング周期の1/3以下にするのが望ましい。自励式変換器を1パルスで動作させる場合、電源周波数fsを50Hzとして、スイッチング周期Tswは、Tsw=1/(6・fs)=1/300[s]=3.3[ms]となる。したがって、Tp=1[ms]以下にするのが望ましいことになる。Lp=50μHとして、Rp=0.1Ωとすれば、Tp=0.5[ms]となる。抵抗Rpを大きくすると、変換器に印加される電圧が高くなり、その分、素子の耐圧を上げる必要がある。リアクトルLnのリセット回路も同様である。
【0020】
従来のPWMコンバータでは、スイッチング周波数が高いことと、3相ブリッジ結線された各自己消弧素子のスイッチングがランダム動作するため、リセット時間は非常に短くなってしまう。したがって、PWMコンバータの直流ラインにリカバリ電流抑制用リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnを一括して挿入するのは得策ではない。
【0021】
リカバリ電流抑制用リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnに流れたリカバリ電流をリセットする回路として、上記のようにダイオードDp,Dnと抵抗Rp,Dnの直列回路があるが、抵抗Rp,Rnの代わりに直流電圧源Vp(またはVn)を用意してもよい。直流電圧源Vp,Vnとしては、バッテリーあるいは大容量の直流平滑コンデンサ等があり得る。その直流電圧源にはエネルギーが徐々に蓄積されるので、それを消費する回路または電源に回生する回路等が付加されることが多い。
【0022】
このように、例えばダイオードと抵抗からなるリセット回路をリカバリ電流抑制用リアクトルに並列接続することにより、直流側に挿入されたリカバリ電流抑制用リアクトルの機能を保持することができる。
【0023】
請求項3に係る発明は、請求項1または2に記載の電力変換装置において、多レベル出力自励式電力変換器は、一定のパルスパターンで動作し、交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより入力電流を制御することを特徴とする。
【0024】
多レベル出力自励式電力変換器は、一定のパルスパターンで、交流電源の電圧に同期したスイッチングを行う。直流電圧が一定ならば、電圧の振幅値は一定になる。この状態で、電源電圧に対する出力電圧の位相角φを変えることにより、交流リアクトルに印加される電圧が変化し、入力電流を調整することができる。
【0025】
電源電圧に対する出力電圧の位相角を遅れ方向に増加させることにより、交流電源から供給される有効電力が増加する。逆に位相角を進み方向に増やすと、有効電力が交流電源に回生される。ちなみに、位相角φ=0では、有効電力の授受はない。入力電流の位相角は、電源電圧に対し、φ/2または、π−φ/2となり、入力力率は、cos(φ/2)となる。また、入力電流と自励式変換器の交流出力電圧との位相差は、−φ/2または、π+φ/2となり、変換器力率は、cos(φ/2)となる。位相角φは、入力電流と交流リアクトルの値に依存する。位相角θは、過負荷運転時でも高々φ=30°程度で、力率はcos15°=0.966となる。
【0026】
多レベル出力自励式電力変換器を一定のパルスパターンで制御する場合、入力電流の高調波成分が小さくなるようにスイッチングパターンを決めるが、上記のように変換器力率が1に近いため、電流のゼロ点付近でスイッチングが行われ、自励式電力変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流は小さくて済む。これにより、電力回生が可能で、高力率・高効率、低コストの電力変換装置を提供することができる。
【0027】
請求項4に係る発明は、請求項1または2に記載の電力変換装置において、多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の周波数に同期した1パルスモードで動作し、交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより入力電流を制御することを特徴とする。
【0028】
請求項4に記載の発明によれば、請求項3に係る発明と同じく、多レベル出力自励式変換器を一定のパルスパターンで運転するが、そのパルス数を1パルスにするものである。当然、直流電圧が一定ならば、多レベル出力自励式変換器の交流側出力電圧の振幅値は一定となる。電源電圧に対する自励式変換器の交流側出力電圧の位相角φを調整することにより、入力電流を制御するが、φ=0のとき、入力電流が0となるようにするには、電源電圧の波高値と変換器出力電圧の基本波の波高値が同じになるようにする必要がある。直流電圧は負荷側の要求等により決まってしまうので、電源側に変圧器を入れて、出力電圧の基本波成分の波高値と電源電圧の波高値が同じになるように、変圧器の2次電圧を合わせる。
【0029】
多レベル出力自励式変換器を1パルスで運転することにより、スイッチング回数が最小になり、変換器効率はさらに向上する。また、交流側出力電圧の基本波成分が大きくなり、自励式変換器の電圧利用率が向上する。また、変換器力率がほぼ1で運転されるため、入力電流のゼロ点付近で1回しかスイッチングを行わないことになり、力行運転時も回生運転時も、自己消弧素子の遮断電流は極めて小さくなる。この結果、高効率で低コストな電力変換装置を提供することができる。また、大電流を遮断しないということは、ソフトスイッチングに近くなり、EMIノイズが小さくなり、環境にもやさしい電力変換装置を提供することができる。
【0030】
請求項5に係る発明は、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電力変換装置において、多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の電圧が変動した場合、電源の電圧の変化に合わせて直流平滑コンデンサに印加される電圧の指令値を変えて制御動作することを特徴とする。
【0031】
多レベル出力自励式電力変換器を1パルスまたは一定パルスパターンで運転した場合、電力変換器の交流側出力電圧の振幅値は一定となり、電源電圧が高くなると、変換器は遅れ力率運転となり、また、電源電圧が低くなると変換器は進み力率運転となってしまう。また、力率低下に伴い、電力変換器の交流側出力電圧と入力電流の位相差が大きくなり、電力変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流が大きくなってしまう。そこで、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを電源電圧Vsの振幅値に合わせて調整することにより、常に|Vs|=|Vc|となるように制御する。これにより、電源力率あるいは変換器力率の極端な低下を防ぐことが可能となり、自己消弧素子の遮断電流の増加を防止することができる。
【0032】
請求項6に係る発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電力変換装置において、多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする。
【0033】
多レベル出力自励式電力変換器により、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように調整することにより、入力電流の位相を電源電圧の位相に一致させることができ、電源力率=1の運転をすることができる。この効果は回生運転においても同じである。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高力率の電力変換装置を提供することができる。
【0034】
請求項7に係る発明は、請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電力変換装置において、多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする。
【0035】
多レベル出力自励式電力変換器により、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように調整することにより、入力電流の電源電圧に対する位相角を自励式電力変換器の交流側出力電圧の位相角にほぼ一致させることができる。すなわち、入力電流と変換器出力電圧の位相が一致し、変換器力率=1の運転をすることがができる。この結果、自励式変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができ、かつ、変換器容量を低減することができる。この効果は回生運転においても同じである。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高効率の電力変換装置を提供することができる。
【0036】
請求項8に係る発明の電力変換装置は、1次巻線が3相交流電源に接続され、所定の位相差を持たせたn組の2次巻線を有する3相変圧器と、この3相変圧器の各2次巻線に交流リアクトルを介して交流端子が接続されたn台の電力用ダイオード整流器と、これらn台の電力用ダイオード整流器の交流端子のそれぞれに交流側端子が直接に接続されたn台の多レベル出力自励式電力変換器と、これらn台の多レベル出力自励式電力変換器と前記n台の電力用ダイオード整流器の直流共通端子にリカバリ電流抑制用リアクトルを介して接続され、負荷装置を並列に接続する直流平滑コンデンサとを具備する。
【0037】
本装置は、電力用ダイオード整流器と多レベル出力自励式電力変換器を組み合わせた電力変換装置を複数台用意し、所定の位相差を持たせたn組の2次巻線を有する3相変圧器を用いて並列多重運転をするように構成したもので、変換装置の大容量化と、交流電源から供給される入力電流の高調波成分の低減化を達成することができる。これにより、過負荷耐量に優れ、電力回生が可能な、高効率・低コストの大容量電力変換装置を提供することができる。
【0038】
請求項9に係る発明は、請求項8に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は、一定のパルスパターンで動作し、交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより交流入力電流を制御して直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする。
【0039】
多レベル出力自励式変換器は一定のパルスパターンで動作し、交流電源の電圧に同期したスイッチングを行う。直流電圧が一定ならば、多レベル出力自励式変換器の交流出力電圧の振幅値は一定になる。この状態で電源電圧に対する出力電圧の位相角を変えることにより、交流リアクトルに印加される電圧が変化し、入力電流を調整することができる。
【0040】
電源電圧に対する各変換器の出力電圧の位相角を遅れ方向に増加させることにより、交流電源から供給される有効電力が増加する。逆に位相角を進み方向に増やすと、有効電力が交流電源に回生される。
【0041】
多レベル出力自励式変換器を一定のパルスパターンで制御する場合、入力電流の高調波成分が小さくなるようにスイッチングパターンを決めるが、変換器力率が1に近いため、電流のゼロ点付近でスイッチングを行うことができ、多レベル出力自励式変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流は小さくて済む。これにより、入力電流の高調波成分が小さく、電力回生が可能で、高力率・高効率で、低コストの電力変換装置を提供することができる。
【0042】
請求項10に係る発明は、請求項8に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の周波数に同期した1パルスモードで動作し、交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより交流入力電流を制御して直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする。
【0043】
各多レベル出力自励式電力変換器を1パルスモードで動作させることにより、スイッチング損失を減らし、自励式変換器の電圧利用率を向上させることができる。また、入力電流のゼロ点付近で自励式変換器をスイッチングさせるため、自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができる。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高効率・大容量の電力変換装置を提供することができる。
【0044】
請求項11に係る発明の電力変換装置は、各相毎に直列接続された1次巻線が3相交流電源に接続され、所定の位相差を有するn組の2次巻線を有する3相変圧器と、この3相変圧器の各2次巻線に交流リアクトルを介して交流端子が接続されたn台の電力用ダイオード整流器と、これらn台の電力用ダイオード整流器の交流端子に交流端子が直接に接続された3相ブリッジ結線のn台の多レベル出力自励式電力変換器と、前記n台の多レベル出力自励式電力変換器および前記電力用ダイオード整流器の直流共通端子のそれぞれにそれぞれリカバリ電流抑制用リアクトルを介して接続され、負荷装置を並列接続する直流平滑コンデンサとを備える。
【0045】
本装置は、電力用ダイオード整流器と多レベル出力自励式電力変換器を組み合わせた電力変換装置を複数台(n台)用意し、1次巻線を直列接続し、所定の位相差を持たせたn組の2次巻線を有する3相変圧器を用いて、交流側で直列多重運転するように構成したもので、変換装置の大容量化と、交流電源から供給される入力電流の高調波成分の低減化を達成することができる。特に、直列多重運転により、各変換器に流れる交流側入力電流の高調波成分を低減することができ、多レベル出力自励式電力変換器の制御パルス数を少なくすることができる利点がある。また、3相変圧器の漏れインダクタンス分を利用することにより、従来用いていた交流リアクトルを省略することができる。これにより、過負荷耐量に優れ、電力回生が可能な、高効率・低コストの大容量電力変換装置を提供することができる。
【0046】
請求項12に係る発明は、請求項11に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は一定のパルスパターンで動作し、交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより各多レベル出力自励式電力変換器の入力電流を制御して直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする。
【0047】
多レベル出力自励式電力変換器は、一定のパルスパターンで、交流電源の電圧に同期したスイッチングを行う。直流電圧が一定ならば、自励式変換器の交流出力電圧の振幅値は一定になる。この状態で、電源電圧に対する出力電圧の位相角を変えることより、交流リアクトルに印加される電圧が変化し、各多レベル出力自励式電力変換器の入力電流を調整することができる。多レベル出力自励式変換器を一定のパルスパターンで制御する場合、入力電流の高調波成分が小さくなるようにスイッチングパターンを決めるが、変換器力率が1に近いところで動作させることにより、電流のゼロ点付近でスイッチングが行われ、多レベル出力自励式変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができる。
【0048】
電源電圧に対する各変換器の出力電圧の位相角φを遅れ方向に増加させることにより、交流電源から供給される有効電力が増加する。逆に位相角φを進み方向に増やすと、有効電力が交流電源に回生される。
【0049】
本装置は、各直流平滑コンデンサに印加される電圧がほぼ一定になるように入力電流を制御する。これにより、入力電流の高調波成分が小さく、電力回生が可能で、高力率・高効率で、低コストの電力変換装置を提供することができる。
【0050】
請求項13に係る発明は、請求項11に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の周波数に同期した1パルスモードで動作し、交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより各多レベル出力自励式電力変換器の入力電流を制御して直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする。
【0051】
この発明によれば、多レベル出力自励式電力変換器を一定のパルスパターンで運転するが、そのパルス数を1パルスにする。当然、直流電圧が一定ならば、多レベル出力自励式電力変換器の交流側出力電圧の振幅値は一定となる。電源電圧に対する多レベル出力自励式電力変換器の交流側出力電圧の和電圧の位相角φを調整することにより、入力電流Isを制御するが、φ=0のとき、Is=0となるようにするには、電源電圧の波高値と変換器出力電圧の和電圧の基本波波高値が同じになるようにする必要がある。直流電圧は負荷側の要求等により決まってしまうので、3相変圧器の2次側電圧を多レベル出力自励式電力変換器の交流側出力電圧の基本波成分と同じになるように値を合わせる。
【0052】
多レベル出力自励式電力変換器を1パルスで運転することにより、スイッチング回数が最小になり、変換器効率はさらに向上する。また、交流側出力電圧の基本波成分が大きくなり、多レベル出力自励式電力変換器の電圧利用率が向上する。また、変換器力率がほぼ1で運転されるため、入力電流ゼロ点付近で1回だけスイッチングを行うことになり、力行運転時も回生運転時も、自己消弧素子の遮断電流は極めて小さくなる。この結果、高効率で低コストな電力変換装置を提供することができる。また、大電流を遮断しないということは、ソフトスイッチングに近いということであり、EMIノイズが小さくなり、環境にもやさしい電力変換装置を提供することができる。
【0053】
請求項14に係る発明の電力変換装置は、請求項8ないし13のいずれか1項に記載の電力変換装置において、リカバリ電流抑制用リアクトルに、それらのリアクトルに流れた電流をリセットするリセット回路を付加するものとする。
【0054】
従来のPWMコンバータでは、スイッチング周波数が高いことと、3相ブリッジ結線された各自己消弧素子のスイッチングがランダム動作するために、リセット時間は非常に短くなってしまう。したがって、PWMコンバータの直流ラインにリカバリ電流抑制用リアクトルを一括挿入するのは得策ではない。
【0055】
リカバリ電流抑制用リアクトルに流れたリカバリ電流をリセットするリセット回路としてダイオードと抵抗の直列回路を用いることができるが、抵抗の代わりに直流電圧源を用意してもよい。直流電圧源としては、バッテリーまたは大容量の直流平滑コンデンサ等があり得る。その直流電圧源にはエネルギーが徐々に蓄積されるので、それを消費する回路または電源に回生する回路等が付加されることが多い。
【0056】
請求項15に係る発明は、請求項8ないし14のいずれか1項に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の電圧が変動した場合、その電源電圧の変化に合わせて直流平滑コンデンサに印加される電圧の指令値を変えて制御することを特徴とする。
【0057】
n台の多レベル出力自励式電力変換器を1パルスまたは一定パルスパターンで運転した場合、当該電力変換器の交流側出力電圧の振幅値は一定となり、電源電圧が高くなると、変換器は遅れ力率運転となり、また、電源電圧が低くなると、変換器は進み力率運転となってしまう。また、力率低下に伴い、自励式電力変換器の交流側出力電圧と入力電流の位相差が大きくなり、自励式電力変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流が大きくなってしまう。そこで、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、電源電圧Vsの振幅値に合わせて調整することにより、常に|Vs|=|Vc|となるように制御する。これにより、電源力率あるいは変換器力率の極端な低下を防ぐことが可能となり、自己消弧素子の遮断電流の増加を防止することができる。
【0058】
請求項16に係る発明は、請求項8ないし15のいずれか1項に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする。
【0059】
n台の多レベル出力自励式電力変換器により、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように調整することにより、入力電流の位相を電源電圧の位相に一致させることができ、電源力率=1の運転をすることができる。この効果は回生運転においても同じである。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高力率の電力変換装置を提供することができる。
【0060】
請求項17に係る発明は、請求項8ないし15のいずれか1項に記載の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器は、交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする。
【0061】
n台の多レベル出力自励式電力変換器により、直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように調整することにより、入力電流の電源電圧に対する位相角を自励式電力変換器の交流側出力電圧の位相角にほぼ一致させることができる。すなわち、入力電流と変換器出力電圧の位相が一致し、変換器力率=1の運転をすることができる。この結果、多レベル出力自励式変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができ、かつ、変換器容量の低減を図ることができる。この効果は回生運転においても同じである。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高効率の電力変換装置を提供することができる。
【0062】
【発明の実施の形態】
<第1の実施の形態>
図1は、本発明の電力変換装置の主回路構成の一実施形態を示すブロック図である。図1に示す電力変換装置は、交流端子が交流リアクトルLsを介して3相交流電源SUPの受電端子R,S,Tに接続される電力用ダイオード整流器RECと、交流端子が整流器RECの交流端子に直接に接続され、直流端子が整流器RECの直流端子に接続される3レベル出力自励式電力変換器MLCと、直列接続の2つの直流平滑コンデンサCd1およびCd2からなり両端が自励式電力変換器MLCの直流端子にリカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnを介して接続された平滑コンデンサ回路とによって構成され、負荷装置LOADは平滑コンデンサ回路にこれを電圧源として接続される。負荷装置LOADは、例えばVVVFインバータおよび交流電動機からなっている。
【0063】
電力用ダイオード整流器RECは、3相ブリッジ結線された6個の電力用ダイオードPD1〜PD6からなり、電力用ダイオードPD1〜PD3は正側アームを構成し、電力用ダイオードPD4〜PD6は負側アームを構成している。3レベル出力自励式電力変換器MLCは中性点クランプ式コンバータ(NPCコンバータ)であって、各相とも同様構成を持っており、R相について説明すれば、正負各アームはそれぞれ2直列の高速ダイオードDu1,Du2およびDu3,Du4と、各高速ダイオードに逆並列接続された自己消弧素子Su1,Su2およびSu3,Su4とを備えている。高速ダイオードDu1およびDu2の接続点と高速ダイオードDu3,Du4の接続点との間に2直列のクランプ用高速ダイオードDu5,Du6が接続され、その直列接続点が直流平滑コンデンサCd1,Cd2の直列接続点すなわち直流の中性点に接続されている。なお、以下の説明では、直流平滑コンデンサCd1,Cd2の電圧をそれぞれVd1,Vd2とし、しかも、Vd1=Vd2=Vd/2、すなわち、Vd1+Vd2=Vdであるとして説明を進める。
【0064】
NPCコンバータでは1相分4個の自己消弧素子Su1〜Su4を2個ずつ組合わせて点弧させる。すなわち、自己消弧素子Su1,Su2をオンさせると、R相の出力端子には、Vcr=+Vd/2の電圧が発生し、自己消弧素子Su2,Su3をオンさせると、直流の中性点に電圧がクランプされて、Vcr=0となる。また、自己消弧素子Su3,Su4をオンさせると、Vcr=−Vd/2の電圧が出力される。このようにして、+Vd/2,0,−Vd/2の3レベルの電圧を出力することができる。
【0065】
自己消弧素子Su1とSu3は互いにオンオフ逆動作をし、素子Su1がオンのとき素子Su3はオフとなり、素子Su3がオンのとき素子Su1はオフとなる。同様に、自己消弧素子Su2とSu4は互いにオンオフ逆の動作をし、素子Su2がオンのとき素子Su4はオフとなり、素子Su4がオンのとき素子Su2はオフとなる。さらに、自己消弧素子Su1とSu4がオンで、素子Su2とSu3がオフのモードも考えられるが、この場合、素子Su2または素子Su3に直流全電圧Vdが印加されて素子を破壊してしまうので、このモードは禁止している。
【0066】
クランプ用ダイオードDu5,Du6は素子Su2とSu3がオンしているときに出力電圧Vcrを直流の中性点電位「0」にクランプするもので、入力電流Irが図の矢印の方向に、すなわち電源側から電力変換装置側へと流れているときは、図面上、R→Ls→Su3→Du6→中性点O、の経路で電流Irが流れ、矢印と反対の方向に電流Irが流れているときは、中性点O→Du5→Su2→Ls→R、の経路で流れる。
【0067】
本実施形態では、NPCコンバータMLCに対して、電力用ダイオード整流器RECが並列に接続されているのが特徴である。ただし、NPCコンバータMLCおよび電力用ダイオード整流器RECの交流端子は直接に接続される。
【0068】
リカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnは、3レベル出力自励式電力変換器MLCの自己消弧素子がオン動作したときに電力用ダイオード整流器RECの各ダイオードに過大なリカバリ電流が流れ込むのを抑える役割を持っており、通常、数十μHのインダクタンス値に設計され、交流リアクトルLsと比べると、2桁ぐらい小さいものでよい。
【0069】
例えば、R相電流Irが矢印の向きに流れている場合、自己消弧素子Su3,Su4がオフ(Su1,Su2はオン)のとき、電流Irは電力用ダイオードPD1を介して流れる。この状態で素子Su1をオフし、Su3をオンさせると、入力電流Irは、Ls→Su3→Du6と移っていくが、電力用ダイオードPD1に蓄積キャリアが残っているので、ダイオードPD1はすぐにはオフできず、直流平滑コンデンサCd1の電圧Vd1が、Cd1(+)→Lp→PD1→Su3→Du6→Cd1(−)の経路で短絡される。このとき流れる電流がリカバリ電流である。リカバリ電流抑制用リアクトルLpが無ければ過大な短絡電流が流れ、構成素子(自己消弧素子やダイオード)を壊してしまうこともある。
【0070】
次に、再び素子Su3をオフし、素子Su1をオンさせると、入力電流Irは、まず、高速ダイオードDu2,Du1を介して、Ls→Du2→Du1→(+)の経路に流れる。電力用ダイオードPD1の順方向電圧降下VFPDに比べて、高速ダイオードDu1,Du2の順方向電圧降下VFDの方が大きいため、この電流は徐々に電力用ダイオードPD1に移っていく。高速ダイオードDu1,Du2から電力用ダイオードPD1に転流する時間は、上記順方向電圧降下の差電圧(VFD−VFPD)と、配線インダクタンス値に依存する。電力用ダイオード整流器RECの交流側端子と3レベル出力自励式電力変換器の交流端子の間を結ぶ配線の長さを短くすることにより、上記転流時間を短くすることができる。
【0071】
一方、R相電流Irが矢印と反対の方向に流れている場合、自己消弧素子Su1,Su2がオフ(素子Su3,Su4はオン)のとき、電流Irは電力用ダイオードPD4を介して流れる。この状態で、素子Su4をオフし、素子Su2をオンさせると、入力電流Irは、Du5→Su2→Lsの経路に移っていくが、電力用ダイオードPD4には蓄積キャリアが残っているので、ダイオードPD4はすぐにはオフすることができず、直流平滑コンデンサCd2の電圧Vd2が、Cd2(+)→Du5→Su2→PD4→Ln→Cd2(−)の経路で短絡される。このとき流れる電流がリカバリ電流である。リカバリ電流抑制用リアクトルLnが無ければ、過大な短絡電流が流れ、自己消弧素子やダイオード等の構成素子を壊してしまうことにもなりかねない。
【0072】
パルスパターンを固定(1パルス、3パルス、5パルス等)して3レベル出力自励式電力変換器(NPCコンバータ)を動作させることにより、に流れる期間を長くし、高速ダイオードに流れる期間を短くすることができる。この結果、より順電圧降下の小さい回路に電流が流れ、変換装置の効率を上げることができる。他のモードでも同様である。
【0073】
図2は、図1の電力変換装置に属するNPCコンバータMLCの自己消弧素子を制御する制御装置を示すものである。この制御装置は、比較器C1,C3、加算器C2、電圧制御補償回路Gv(S)、電流制御補償回路Gi(S)、フィードフォワード補償器FF、座標変換回路A、電源同期位相検出回路PLL、および位相制御回路PHCを備えている。直流平滑コンデンサCd1,Cd2に印加される電圧Vd1,Vd2の和に相当する電圧Vd(=Vd1+Vd2)を比較器C1により電圧指令値Vd*と比較する。その偏差εv(=Vd*−Vd)を電圧制御補償回路Gv(S)により積分または比例増幅し、その出力値を未補償直流電流指令として加算器C2の第1入力端に入力する。一方、負荷LOADが消費する直流電流Idcを検知し、フィードフォワード補償器FFを介して加算器C2の第2入力端に入力する。加算器C2の出力Iq*が、電源SUPから供給される有効電流の指令値となる。座標変換器Aは、電源SUPから電力変換器に供給される3相入力電流Ir,Is,Itの検出値をdq座標軸(直流量)に変換する。座標変換によって得られたq軸電流Iqは有効電流検出値を表し、d軸電流Idは無効電流検出値を表わす。
【0074】
比較器C3により、有効電流指令値Iq*と有効電流検出値Iqを比較し、その偏差εi(=Iq*−Iq)を電流制御補償回路Gi(S)により増幅して、位相角指令値φ*とする。電源同期位相検出回路PLLは3相交流電源電圧Vr,Vs,Vtに同期した位相信号θr,θs,θtを作り、位相制御回路PHCに入力する。位相制御回路PHCは、位相角指令値φ*と各相別の位相信号θr,θs,θtとを用いて、NPCコンバータMLCのU相自己消弧素子Su1〜Su4用のゲート信号gu1〜gu4のほかに、S相自己消弧素子Sv1〜Sv4用のゲート信号gv1〜gv4、およびT相自己消弧素子Sw1〜Sw4用のゲート信号gw1〜gw4を発生する。NPCコンバータMLCは、ゲート信号gu1〜gu4,gv1〜gv4,gw1〜gw4により、電源電圧に同期した一定のパルスパターン(1パルス、3パルス、5パルス等)で電源電圧に対する位相角φを制御することにより、入力電流Ir,Is,Itを制御する。
【0075】
図3は、本発明の装置の制御動作を説明するための電圧・電流ベクトル図を示すものである。図中、Vsは電源電圧、VcはNPCコンバータの交流出力電圧、Isは入力電流、jωLs・Isは交流リアクトルLsによる電圧降下分(ただし、リアクトルLsの抵抗分は十分小さいものとして無視する)を表す。ベクトル的に、Vs=Vc+jωLs・Isの関係がある。
【0076】
電源電圧Vsの波高値とNPCコンバータMLCの交流出力電圧Vcの基本波波高値はほぼ一致するように合わせる。直流電圧Vdは負荷側からの要求で決まる場合が多く、パルスパターンを決めると、交流出力電圧Vcの基本波波高値は決まってしまう。そこで、電源側に変圧器を設置し、その2次電圧をVsとして波高値を合わせる。
【0077】
入力電流Isは、電源電圧Vsに対するNPCコンバータの交流出力電圧Vcの位相角φを調整することにより制御することができる。すなわち、位相角φ=0とすると、交流リアクトルLsに印加される電圧jωLs・Isはゼロとなり、入力電流Isもゼロとなる。位相角(遅れ)φを増やしていくと、jωLs・Isの電圧が増加し、入力電流Isもその値に比例して増加する。入力電流ベクトルIsは、電圧jωLs・Isに対し90°遅れており、電源電圧Vsに対しては、φ/2だけ遅れたベクトルとなる。したがって、電源側から見た入力力率は、cos(φ/2)となる。
【0078】
一方、NPCコンバータの交流出力電圧を図3においてVc’のように位相角φを進み方向に増やしていくと、交流リアクトルLsに印加される電圧jωLs・Isも負となり、入力電流はIs’のように、電源電圧Vsに対し(π−φ/2)の位相角となる。すなわち、電力Ps=Vs・Isは負となり、電力を電源に回生することができる。電源電圧Vsを基準にして、交流出力電圧Vcを図の破線に沿ってVc’の方向に移行させていくと、入力電流ベクトルIsは破線に沿ってIs’の方向に変化する。
【0079】
さて、図2において、有効電流Iqは次のように制御される。
【0080】
Iq*>Iqとなった場合、電流制御補償回路Gi(S)の出力φ*が増加し、入力電流Isを増加させる。入力力率≒1なので、有効電流Iqが増加し、やがてIq*=Iqとなって落ち着く。逆に、Iq*<Iqとなった場合、電流制御補償回路Gi(S)の出力φ*が減少し、または負の値になり、入力電流Isを減少させる。入力力率≒1なので、有効電流Iqが減少し、やはりIq*=Iqとなって落ち着く。
【0081】
また、直流平滑コンデンサCd1,Cd2の電圧Vd=Vd1+Vd2は次のように制御される。
【0082】
Vd*>Vdとなった場合、電圧制御補償回路Gv(S)の出力側の加算器C2の出力Iq*が増加し、上記のようにIq*=Iqに制御されるので、有効電力Psが交流電源SUPから直流平滑コンデンサCd1,Cd2に供給される。その結果、直流電圧Vdが増加し、Vd*=Vdとなるように制御される。
【0083】
逆に、Vd*<Vdとなった場合、加算器C2の出力Iq*が減少し、または負の値となり、有効電力Psが直流平滑コンデンサCd1,Cd2から交流電源SUP側に回生される。その結果、直流電圧Vdが減少し、やはりVd*=Vdとなるように制御される。
【0084】
図1,2の装置では、負荷LOADがとる直流電流Idcを検知し、その量に見合った有効電流を供給するようにフィードフォワード補償器FFで補償量IqFF=k1・Idcを演算し、加算器C2に入力している。これにより、負荷が急変した場合、それに見合った入力電流(有効電流)Iqが供給され、直流平滑コンデンサCd1,Cd2の印加電圧Vdの変動を抑えることができる。
【0085】
<第2の実施の形態>
本実施の形態は、図1の電力変換装置において、リカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnに対し、これらのリアクトルに流れたリカバリ電流をリセットするリセット回路を付加したものである。
【0086】
リカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnは、多レベル出力自励式電力変換器MLCの自己消弧素子がオンしたときに電力用ダイオード整流器RECの各ダイオードに過大なリカバリ電流が流れ込むのを抑制する役割を持っている。リアクトルLp,Lnにリカバリ電流が流れた場合、次のスイッチングのときまでにその電流を一旦リセットする必要がある。そのために、リアクトルLp,Lnにはリカバリ電流リセット回路を並列接続している。例えば、リアクトルLpに、ダイオードDpと抵抗Rpの直列回路からなるリセット回路を並列接続する。リセット回路の時定数は、Tp=Lp/Rpで与えられ、スイッチング周期の1/3以下にするのが望ましい。自励式変換器を1パルスで動作させる場合、電源周波数fsを50Hzとして、スイッチング周期Tswは、Tsw=1/(6・fs)=1/300[s]=3.3[ms]となる。したがって、Tp=1[ms]以下にするのが望ましいことになる。Lp=50μHとして、Rp=0.1Ωとすれば、Tp=0.5[ms]となる。抵抗Rpを大きくすると、変換器に印加される電圧が高くなり、その分、素子の耐圧を上げる必要がある。リアクトルLnのリセット回路も同様である。
【0087】
従来のPWMコンバータでは、スイッチング周波数が高いことと、および3相ブリッジ結線された各自己消弧素子のスイッチングがランダム動作することのため、リセット時間は非常に短くなってしまう。したがって、PWMコンバータの直流ラインにリカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnを一括して挿入するのは得策ではない。
【0088】
リカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnに流れたリカバリ電流をリセットする回路として、上記のようにダイオードDp,Dnと抵抗Rp,Dnの直列回路があるが、抵抗Rp,Rnの代わりに直流電圧源Vp(またはVn)を用意してもよい。直流電圧源Vp,Vnとしては、バッテリーあるいは大容量の直流平滑コンデンサ等があり得る。その直流電圧源にはエネルギーが徐々に蓄積されるので、それを消費する回路または電源に回生する回路等が付加されることが多い。
【0089】
このように、例えばダイオードと抵抗からなるリセット回路をリカバリ電流抑制用リアクトルに並列接続することにより、直流側に挿入されたリカバリ電流抑制用リアクトルの機能を保持することができる。
【0090】
<第3の実施の形態>
図4は、図2における位相制御回路PHCの実施形態を示すものである。図4において、AD1〜AD3は各相別に設けられた加減算器、PTN1〜PTN3は同様に各相別に設けられたパルスパターン発生器を示す。加減算器AD1〜AD3は、位相信号θr,θs,θtから位相角指令値φ*を引き算し、新たな位相信号θcr,θcs,θctを作る。この新たな位相信号θcr,θcs,θctは、0〜2πの周期関数で、電源周波数に同期して変化する。パルスパターン発生器PTN1,PTN2,PTN3は、新たな位相信号θcr,θcs,θctに対応させて、一定のパルスパターンとなるようにゲート信号gu1〜gu4,gv1〜gv4,gw1〜gw4を各相別に発生する。
【0091】
パルスパターン発生器PTN1〜PTN3は、R相を代表例として、パルスパターン発生器PTN1について述べるならば、位相信号θcrに対するR相素子Su1〜Su4のパルスパターンをテーブル関数として記憶したもので、図5に1パルス動作時の波形を示す。図5中、VrはR相電源電圧、θrは電源電圧Vrに同期した位相信号で、0〜2πの間で変化する周期関数となる。位相信号θcr=θr−φ*は、0〜2πの間で変化する周期関数であって、位相信号θrに対し位相角φ*だけ遅れた信号で与えられる。すなわち、入力位相角θcrに対して次のようなゲート信号gu1〜gu4を出力する。
【0092】
0≦θcr<θ1の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ1≦θcr<θ2の範囲で、gu1=1、gu2=1,gu3=0,gu4=0 (Su1,Su2:オン、Su3,Su4:オフ)となり、Vcr=+Vd/2
θ2≦θcr<θ3の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ3≦θcr<θ4の範囲で、gu1=0、gu2=0,gu3=1,gu4=1 (Su1,Su2:オフ、Su3,Su4:オン)となり、Vcr=−Vd/2
θ4≦θcr<2πの範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
となる。このようにして3レベル出力電圧が得られる。
【0093】
パターンを固定した場合、直流電圧Vdが一定ならば、交流出力電圧Vcrの振幅値は一定となる。電圧Vcrの基本波Vcr*の位相は、電源電圧Vrに対し位相角φだけ遅れている。以上はR相の信号であるが、S相およびT相に対しても同様に与えられる。
【0094】
図6は、図5のパルスパターンでNPCコンバータMLCを動作させた場合のR相各部動作波形を示す。なお、説明の便宜上、入力電流Irは正弦波としてリップル分を省略して描いている。図6は力行運転時の動作波形を示すもので、変換器の交流出力電圧Vcrの基本波は電源電圧Vrに対し、位相角φだけ遅れている。また、入力電流Irは電源電圧Vrに対し、位相角(φ/2)だけ遅れて流れる。このとき、Isu1〜Isu4はR相の自己消弧素子Su1〜Su4の電流を示し、IDu1〜IDu4は高速ダイオードDu1〜Du4の電流を、また、IPD1,IPD4は電力用ダイオードPD1,PD4の電流をそれぞれ表わしている。以下に、そのときの動作を図1を参照して説明する。
【0095】
入力電流Irが負から正に変るまでは電力用ダイオードPD4を介して電流が流れている。この状態から電流Irの向きが正に変ると素子Su3,Su4がオン状態にあるので、入力電流Irは素子Su3,Su4を介して流れるようになる。
【0096】
次に、素子Su4をオフにし、素子Su2をオンさせると、入力電流IrはLs→Su3→Du6→Oの経路に流れる。さらに、位相角θ1で素子Su3をオフし、素子Su1をオンさせると、配線インダクタンスの作用により、電流Irはまず高速ダイオードDu2,Du1を介して流れる。高速ダイオードDu1,Du2の順方向降下電圧VFDに対し、電力用ダイオードPD1の順方向降下電圧VFPDの方が低いため、その電圧差により、入力電流Irは、高速ダイオードDu2,Du1から電力用ダイオードPD1へと移行していく。その転流時間は配線のインダクタンス値に反比例する。
【0097】
入力電流Irの極性が再び反転するまでその電流は電力用ダイオードPD1に流れる。入力電流Irが反転した後は、素子Su1,Su2と高速ダイオードDu3,Du4,Du5、および電力用ダイオードPD4の間で、上記と同様の動作が行われる。
【0098】
かくして、この実施形態によれば、力行運転時の入力電流Irの大部分は電力用ダイオードPD1,PD4に流れるので、損失が小さく、過負荷耐量の大きな電力変換装置を提供することができる。
【0099】
NPCコンバータMLCの自己消弧素子Su1〜Su4が遮断する最大電流Imaxは、入力電流の波高値をIsmとした場合、
Imax=Ism×sin(φ/2+δ)
となる。例えば、φ=20°、δ=θ1=10°の場合、
Imax=0.342×Ism
となる。すなわち、自己消弧素子の遮断電流として容量の小さいものを使用することができ、コストの安い電力変換装置を提供することができる。
【0100】
図7は、回生運転時の動作波形を示すもので、Isu1〜Isu4はR相の自己消弧素子Su1〜Su4の電流を、IDu1〜IDu6は高速ダイオードDu1〜Du6の電流を、また、IPD1,IPD4は電力用ダイオードPD1,PD4の電流波形をそれぞれ表わしている.変換器の交流出力電圧Vcrの基本波は電源電圧Vrに対し、位相角φだけ進んでいる。また、入力電流Irは電源電圧の反転値−Vrに対し、位相角(φ/2)だけ進んで流れる。
【0101】
入力電流Irが負で、素子Su1,Su2がオン(素子Su3,Su4はオフ)のときは、入力電流Irは素子Su1,Su2を介して流れる。次に素子Su1をオフし、素子Su3をオンすると、電流Irは、Du5→Su2→Lsの経路に流れる。さらに、素子Su2をオフし、素子Su4をオンさせると、電流Irはまず高速ダイオードDu4,Du3を介して流れるが、高速ダイオードDu4,Du3の順方向降下電圧VFDに対し、電力用ダイオードPD4の順方向降下電圧VFPDの方が低いため、その電圧差により、入力電流Irは高速ダイオードDu4,Du3から電力用ダイオードPD4へと移っていく。回生運転時は、電力用ダイオードに流れる電流はごくわずかである。
【0102】
入力電流Irが正に反転すると、素子Su3,Su4に電流が流れ、上記と同様に素子Su4をオフすることにより、電流Irは、Ls→Su3→Du5→Oの経路に流れ、さらに、素子Su3をオフすると、まず高速ダイオードDu2,Du1に電流が移り、やがて電力ダイオードPD1に電流が移る。S相およびT相も同様である。
【0103】
回生運転時、自己消弧素子Su1〜Su4が遮断する最大電流Imaxは、入力電流の波高値をIsmとした場合、
Imax=Ism×sin(φ/2+δ)
となる。例えば、φ=20°、δ=10°の場合、
Imax=0.342×Ism
となる。
【0104】
以上のように、回生運転時の入力電流Irの大部分は自己消弧素子Su1〜Su4に流れるが、素子Su1〜Su4の遮断電流は小さくてすみ、コストの安い電力変換装置を提供することができる。
【0105】
電気鉄道では、1つの変電所から複数の車両に電力供給を行うため、一般に力行運転時の負荷が重く、回生電力は小さくなる。例えば、力行運転時の過負荷耐量として定格出力の300%が要求されるが、普通、回生電力は100%定格を持てばよい。本電力変換装置は、このような力行運転時の過負荷耐量として大きなものに適している。
【0106】
図8は、力行運転から回生運転に移行するときの過渡時の動作波形を示すもので、電源電圧Vrに対し、電力変換器の交流出力電圧Vcrの位相角φを遅れ位相からゼロに変化させたものである。この状態ではNPCコンバータの交流出力電圧Vcrの基本波は電流Irに対し、位相角(φ/2)だけ進んでいる。
【0107】
入力電流Irが正のとき、自己消弧素子Su1をオフし、素子Su3をオンすると、電力用ダイオードPD1に流れていた入力電流Irは、Ls→Su3→Du6→Oの経路に流れる。このとき、電力用ダイオードPD1の蓄積キャリアがすぐには消滅しないため、ダイオードPD1は導通状態になり、直流平滑コンデンサCd1の電圧Vd1が、Cd1(+)→Lp→PD1→Su3→Du6→Cd1(−)の経路で短絡される。このとき、ダイオードPD1に逆方向に流れる電流IPD1reがリカバリ電流である。リカバリ電流抑制用リアクトルLpは、電力用ダイオードPD1に流れるリカバリ電流IPD1reを抑制する。このリカバリ電流抑制用リアクトルLpが無いと、電力用ダイオードPD1に過大なリカバリ電流が流れ、損失を増加させるばかりでなく、そのダイオードや自己消弧素子を破壊させることにもなる。
【0108】
入力電流Irが負のとき、自己消弧素子Su4をオフし、素子Su2をオンさせて、電力用ダイオードPD4に流れていた入力電流Irが素子Su2、Du5に転流する場合も同様である。この場合、直流負側に設けられたリカバリ電流抑制用リアクトルLnが作用し、電力用ダイオードPD4のリカバリ電流を抑制する。
【0109】
NPCコンバータMLCを1パルスで運転することにより、スイッチング回数が最小になり、変換器効率はさらに向上する。また、交流側出力電圧Vcの基本波成分が大きくなり、NPCコンバータMLCの電圧利用率がさらに向上する。また、変換器力率がほぼ1で運転されるため、入力電流Isのゼロ点付近で1回だけスイッチングを行うことになり、力行運転時も回生運転時も、自己消弧素子の遮断電流は極めて小さくなる。この結果、高効率かつ低コストの電力変換装置を提供することができる。また、大電流を遮断しないということは、ソフトスイッチングに近いスイッチングということであり、そのためEMIノイズが小さくなり、環境にもやさしい電力変換装置を提供することができる。
【0110】
<第4の実施の形態>
図9は、パルスパターン発生器PTN1として、NPCコンバータで3パルス出力を行ったときの動作波形を示すもので、R相について示している。図中、VrはR相電源電圧、θrは電源電圧Vrに同期した位相信号で、0〜2πの間で変化する周期関数となる。新たな位相信号θcr=θr−φ*は、0〜2πの間で変化する周期関数で、位相信号θrの信号に対しφ*だけ遅れた信号で与えられる。また、位相信号θcrに対するR相素子Su1〜Su4のパルスパターンは次のように与えられる。
【0111】
0≦θcr<θ1の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ1≦θcr<θ2の範囲で、gu1=1、gu2=1,gu3=0,gu4=0 (Su1,Su2:オン、Su3,Su4:オフ)となり、Vcr=+Vd/2
θ2≦θcr<θ3の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ3≦θcr<θ4の範囲で、gu1=1、gu2=1,gu3=0,gu4=0 (Su1,Su2:オン、Su3,Su4:オフ)となり、Vcr=+Vd/2
θ4≦θcr<θ5の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ5≦θcr<θ6の範囲で、gu1=1、gu2=1,gu3=0,gu4=0 (Su1,Su2:オン、Su3,Su4:オフ)となり、Vcr=+Vd/2
θ6≦θcr<θ7の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ7≦θcr<θ8の範囲で、gu1=0、gu2=0,gu3=1,gu4=1 (Su3,Su4:オン、Su1,Su2:オフ)となり、Vcr=−Vd/2
θ8≦θcr<θ9の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ9≦θcr<θ10の範囲で、gu1=0、gu2=0,gu3=1,gu4=1 (Su3,Su4:オン、Su1,Su2:オフ)となり、Vcr=−Vd/2
θ10≦θcr<θ11の範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
θ11≦θcr<θ12の範囲で、gu1=0、gu2=0,gu3=1,gu4=1 (Su3,Su4:オン、Su1,Su2:オフ)となり、Vcr=−Vd/2
θ12≦θcr<2πの範囲で、gu1=0、gu2=1,gu3=1,gu4=0 (Su2,Su3:オン、Su1,Su4:オフ)となり、Vcr=0
となる。このようにして3レベル出力電圧が得られる。
【0112】
出力電圧Vcrの基本波Vcr*の位相は、電源電圧Vrに対し位相角φだけ遅れている。S相およびT相も同様に与えられる。この場合もパルスパターンを固定し、直流電圧Vdを一定とした場合、NPCコンバータMLCの交流出力電圧の基本波波高値は一定となる。
【0113】
図10は、図9のパルスパターンでNPCコンバータMLCを動作させた場合のR相の各部動作波形を示す。なお、説明を簡略化するため、入力電流Irは正弦波としてリップル分を省略して描いている。図10は力行運転時の動作波形を示すものであり、変換器の交流出力電圧Vcrの基本波は電源電圧Vsに対し位相角φだけ遅れる。また、入力電流Isは電源電圧Vsに対し、位相角(φ/2)だけ遅れて流れる。ここで、Isu1〜Isu4はR相の自己消弧素子Su1〜Su4の電流を、IDu1〜IDu6は高速ダイオードDu1〜Du6の電流を、また、IPD1,IPD4は電力用ダイオードPD1,PD4の電流をそれぞれ表わしている。そのときの動作を以下に説明する。
【0114】
入力電流Irが負から正に変るまでは電力用ダイオードPD4を介して電流が流れている。この状態から電流Irの向きが正に変ると素子Su3,Su4がオン状態にあるので、電流1su3,Isu4が流れる。次に、素子Su4がオフし、素子Su2がオンすると、入力電流Irは、Ls→Su3→Du6→Oの経路で流れるようになる。さらに、素子Su3をオフし、Su1をオンすると、配線インダクタンスの作用により、電流Irはまず高速ダイオードDu2,Du1を介して流れる。高速ダイオート゛Du2,Du1の順方向降下電圧VFDに対し、電力用ダイオードPD1の順方向降下電圧VFPDの方が低いため、その電圧差により、入力電流Irは、高速ダイオードDu2,Du1から電力用ダイオードPD1に移っていく。その転流時間は配線インダクタンス値に反比例する。
【0115】
素子Su1を再びオフし、素子Su3をオンすると、入力電流Irは、Ls→Su3→Du6→Oの経路で流れ、電力用ダイオードPD1および高速ダイオードDu2,Du1の電流はゼロとなる。このとき、直流正側のリカバリ電流抑制用リアクトルLpが作用し、電力用ダイオードPD1のリカバリ電流を抑制する。さらに、図9の位相θ3で、素子Su3をオフすると、上記と同じように、まず高速ダイオードDu2,Du1に電流が流れ、次に電力用ダイオードPD1に電流が移っていく。位相θ4で再び素子Su1をオフし素子Su3をオンすると、入力電流Irは、Ls→Su3→Du6→Oの経路で流れ、電力用ダイオードPD1および高速ダイオードDu2,Du1の電流はゼロとなる。このときも、直流正側のリカバリ電流抑制用リアクトルLpが作用し、電力用ダイオードPD1のリカバリ電流を抑制する。さらに、位相θ5で素子Su3をオフすると、上記と同じように、まず高速ダイオードDu2,Du1に電流が流れ、次に電力用ダイオードPD1に電流が移る。入力電流Irが再び反転するまでその電流は電力用ダイオードPD1に流れる。
【0116】
入力電流Irが反転した後は、素子Su1,Su2と高速ダイオードDu3,Du4,Du5および電力用ダイオードPD4の間で、上記と同様の動作が行われる。このとき、直流負側のリカバリ電流抑制用リアクトルLnが作用し、電力用ダイオードPD4のリカバリ電流を抑制する。
【0117】
図9ではパルスパターンとして3パルスの場合を示したが、自己消弧素子Su1〜Su4が遮断する最大電流Imaxは、入力電流の波高値をIsmとした場合、
Imax=Ism×sin(φ/2+δ)
となる。図9のパターンでは、δ=θ3で与えられる。例えば、φ=20°、θ3=20°とした場合、
Imax=0.5×Ism
となる。
【0118】
パルス数を増やしていくことにより入力電流Irの高調波成分を低減し、電流脈動を小さくすることができる。しかし、その反面、自己消弧素子の遮断電流の最大値Imaxが増大してくる欠点がある。後で説明するように、電力変換器の多重化等により、入力電流高調波を減らし、できるだけ少ないパルス数で運転することが望ましい。
【0119】
NPCコンバータMLCを一定のパルスパターンで制御する場合、入力電流Isの高調波成分が小さくなるようにスイッチングパターンを決めるが、上記のように変換器力率が1に近いところで運転されるため、電流Isのゼロ点付近でスイッチングが行われ、NPCコンバータMLCを構成する自己消弧素子の遮断電流は小さくて済む。
【0120】
このように、本発明装置によれば、力行運転時には大部分の電流がオン電圧の小さい電力用ダイオードPD1,PD4を通って流れ、高速ダイオードDu1〜Du6に流れる電流はわずかとなり、高効率の変換装置を構成することができる。また、自己消弧素子Su1〜Su4の遮断電流を小さくすることができ、装置全体のコストを大幅に低減することができる。
【0121】
<第5の実施の形態>
図11は、本発明装置の別の制御装置の実施形態を示すものである。この実施形態では、図2の制御装置における電圧指令値Vd*を、演算回路CALにより電源電圧の波高値Vsmあるいは入力電流の波高値Ismに応じて変化させる。一つの実施形態として、演算回路CALは、電源電圧波高値Vsmに比例させて直流電圧指令値Vd*を与える。
【0122】
図11の制御装置は、演算回路CAL、比較器C1,C3、加算器C2、電圧制御補償回路Gv(S)、電流制御補償回路Gi(S)、フィードフォワード補償器FF、座標変換回路A、電源同期位相検出回路PLL、および位相制御回路PHCを備えている。
【0123】
図12は、直流電圧Vdを一定に制御したとき、電源電圧Vsの振幅値が変動した場合の交流電源側の電圧・電流ベクトル図を示すものである。Vs=Vcでは、位相角φ=0で、入力電流Isはゼロとなる。これに対し、Vs<Vcでは、φ=0のときに進み電流が流れてしまう。逆に、Vs>Vcでは、φ=0のときに遅れ電流が流れてしまう。電源電圧Vsが変動した場合、それに合わせて直流電圧Vdを調整することにより、変換器出力電圧Vcの基本波波高値を常に電源電圧Vsの波高値に合わせることができる。これにより、位相角φ=0のとき無駄な無効電流を電源からとることを防止することができる。
【0124】
<第6の実施の形態>
図11の制御装置において、演算回路CALは、直流電圧指令値Vd*を、
Vd*=k・√{Vsm2+(ωLs・Ism)2}
として与えるものとする。ここで、Vsmは電源電圧波高値、ωは電源角周波数、Lsは交流リアクトルLsのインダクタンス値、Ismは入力電流Isの波高値を表わす。
【0125】
この制御方式では、電源電圧Vsの大きさによって直流電圧指令値Vd*を変化させるだけでなく、入力電流波高値Ismにも関係させてVd*を調整する。
【0126】
図13は、この時の交流側の電圧・電流ベクトル図を示したもので、変換器出力電圧は、
Vc=√{Vs2+(ωLs・Is)2}
の関係に保たれる。この結果、電源電圧ベクトルVsと交流リアクトルLsの印加電圧(=jωLs・Is)が常に直交関係を保つようになり、入力電流Isは電源電圧Vsと同相(または逆相)となって、入力力率=1となる。
【0127】
図14は、入力電流波高値Ismに対する直流電圧指令値Vd*の関係を示したもので、電流波高値Ismが大きくなるに従って直流電圧指令値Vd*を増加させていることが分かる。
【0128】
<第7の実施の形態>
図11の制御回路において、演算回路CALは、直流電圧指令値Vd*を、
Vd*=k・√{Vsm2−(ωLs・Ism)2}
として与えるものとする。ここで、Vsmは電源電圧波高値、ωは電源角周波数、Lsは交流リアクトルのインダクタンス値、Ismは入力電流波高値を表わす。
【0129】
この制御方式でも、電源電圧Vsの大きさによって直流電圧指令値Vd*を変化させるだけでなく、入力電流波高値Ismにも関係させてVd*を調整する。
【0130】
図15は、この時の交流側の電圧・電流ベクトル図を示したもので、変換器出力電圧Vcは、
Vc=√{Vs2−(ωLs・Is)2}
の関係を保つ。この結果、変換器出力電圧Vcと交流リアクトルLsの印加電圧(=jωLs・Is)が常に直交関係を保つようになり、入力電流Isは変換器出力電圧Vcと同相(または逆相)となって、変換器力率が1となる。
【0131】
図16は、入力電流波高値Ismに対する直流電圧指令値Vd*の関係を示したもので、電流Ismが大きくなるに従って直流電圧指令値Vd*は減少することを示している。
【0132】
図17は、1パルスモードで、変換器力率を1にして運転したときの動作波形を示すものである。ここではR相について表わしており、説明の便宜上、入力電流Irは正弦波としてリップル分を省略して描いている。図中、Isu1〜Isu4はR相の自己消弧素子Su1〜Su4の電流を、IDu1〜IDu6は高速ダイオードDu1〜Du6の電流を、また、IPD1,IPD4は電力用ダイオードPD1,PD4の電流波形をそれぞれ示している。
【0133】
図17は力行運転時の波形を示しており、変換器の交流出力電圧Vcrの基本波は電源電圧Vsに対し位相角φだけ遅れている。入力電流Irは変換器の交流出力電圧Vcrと同相になり、電源電圧Vrに対し位相角φだけ遅れて流れる。
【0134】
素子Su2,Su3がオンで入力電流Irが負の場合、入力電流Irは、O→Du5→Su2→Ls→Rの経路で流れる。電流Irが負から正に変わると、電流Irは、R→Ls→Su3→Du6→Oの経路で流れる。この状態で、素子Su3をオフし、素子Su1をオンさせると、電流Irは、まず高速ダイオードDu1,Du2を介して流れ、すぐに電力用ダイオードPD1に転流する。力行モードでは、大部分の電流が電力用ダイオードPD1に流れる。次に、素子Su1をオフし、素子Su3をオンさせると、電流Irは再び、R→Ls→Su3→Du6→Oの経路に流れる。このとき、直流正側のリカバリ電流抑制用リアクトルLpが作用し、電力用ダイオードPD1に流れるリカバリ電流を抑制する。
【0135】
電流Irが負に変わった場合は、自己消弧素子Su2〜Su4、高速ダイオードDu3,Du4,Du6および電力用ダイオードPD4により、同様に動作する。このとき、直流負側のリカバリ電流抑制用リアクトルLnが作用し、電力用ダイオードPD4に流れるリカバリ電流を抑制する。
【0136】
自己消弧素子Su1〜Su4の遮断電流の最大値Imaxは、入力電流Irの波高値をIsmとした場合、φ=0°であるから、
Imax=Ism×sin(δ)
となる。1パルスパターンでは、δ=θ1で与えられる。例えば、θ1=10°とした場合、
Imax=0.1736×Ism
となる。これは回生運転でも同様になる。すなわち、変換器力率=1で運転することにより、NPCコンバータを構成する自己消弧素子の遮断電流を極めて小さくすることができ、変換器コストを大幅に低減することができる。
【0137】
<第8の実施の形態>
図18は、本発明装置の別の実施形態を示すものである。この実施形態では、電力用ダイオード整流器RECと3レベル出力自励式電力変換器MLCを組み合わせた電力変換装置を2台用意し、30°の位相差を有する電圧を供給する2組の2次巻線を有する3相変圧器TRを用いて、電力変換装置の交流側で並列多重運転し、直流側で並列接続するように構成している。ここでは、図1で説明したダイオード整流器REC、3レベル出力自励式電力変換器MLV、交流リアクトルLs、およびリカバリ電流抑制用リアクトルLp,Lnの末尾にそれぞれ1または2を付して第1または第2のグループに属することを表している。交流電源端子R,S,Tと交流リアクトルLS1,LS2との間に介在されている変圧器TRは2組の2次巻線を有し、一方の2次巻線は三角結線(Δ結線)、他方の2次巻線は星形結線(Y結線)であって、両者の出力電圧には30°の位相差が存在する。変圧器TRの一方の2次巻線は第1のグループの電力変換装置に給電し、他方の2次巻線は第2のグループの電力変換装置に給電する。両電力変換器MLC1,MLC2は直流側でそれぞれ正負両直流ラインに接続されたリカバリ電流抑制用リアクトルLp1,Ln1ないしLp2,Ln2を介して並列接続され、その直流端子が共通の直流平滑コンデンサCd1,Cd2および負荷装置LOADに接続されている。負荷装置LOADはインバータINVおよび交流電動機Mからなっている。
【0138】
図19は、図18の電力変換装置を制御する制御装置の実施形態を示すものであり、有効電流指令値Iq*を作成するところまでは両グループに共通に使用され、ここから後が2グループに分かれる。各グループの構成要素は図2のものと同様であるが、ここでも第1のグループのものと第2のグループのものは末尾符号1または2で区別されている。最終的に第1のグループの制御装置は第1の電力変換器MLC1の自己消弧素子のためのゲート信号gu11〜gu14,gv11〜gv14,gw11〜gw14を出力し、第2のグループの制御装置は第2の電力変換器MLC2の自己消弧素子のためのゲート信号gu21〜gu24,gv21〜gv24,gw21〜gw24を出力を出力する。
【0139】
直流平滑コンデンサCd1,Cd2の電圧Vd1,Vd2を検知し、その和電圧Vd=Vd1+Vd2を比較器C1に入力する。比較器C1により、電圧指令値Vd*と電圧検出値Vdを比較し、その偏差εvを電圧制御補償回路Gv(S)により、積分または比例増幅して加算器C2の第1入力端に入力する。一方、負荷LOADが消費する直流電流Idcを検知し、フィードフォワード補償器FFを介して加算器C2の第2入力端に入力する。加算器C2の出力Iq*が電源SUPから供給される電流の共通の指令値となる。これ以降の各グループの信号処理は図2を参照して述べたところに準じて行われる。
【0140】
2組の電力変換装置の例えばR相の入力電流(変圧器TRの2次電流)Ir1,Ir2は独立に制御されるが、両者の指令値Iq*は同じなので、ほぼ同じ値に制御される。その結果、変圧器TRの1次電流の高調波が互いに打ち消し合い、電流リップルの少ない運転をすることができる。3組以上の電力変換装置を組み合わせて並列多重運転した場合には、変圧器TRの1次電流リップルをさらに低減することができる。
【0141】
本装置は、変換装置の大容量化、および交流電源から供給される入力電流Isの高調波成分の低減を図ることができ、これにより、過負荷耐量に優れ、電力回生が可能な、高効率・低コストの大容量電力変換装置を提供することが可能となる。
【0142】
以上は、多レベル出力変換器として、3レベル出力電力変換器(NPCコンバータ)を例にとって説明したが、4レベル出力以上の電力変換器と電力用ダイオードを組み合わせても上記と同様に実施できることは言うまでも無い。
【0143】
図20は、4レベル出力自励式電力変換器と電力用ダイオード整流器を組み合わせた電力変換装置の実施形態を1相分(R相)について示すものである。図中、Rは交流電源のR相受電端子、Lsは交流リアクトル、REC(R相)は電力用ダイオードPD1,PD4からなる電力用ダイオード整流器、MLC(R相)は4レベル出力自励式変換器である。さらに、Lp,Lnはリカバリ電流抑制用リアクトルである。
【0144】
4レベル出力自励式変換器MLC(R相)は、自己消弧素子Su1〜Su6、これらに逆並列接続された高速ダイオードDu1〜Du6、クランプ用高速ダイオードDu7〜Du10、および直列接続の3つの直流平滑コンデンサCd1〜Cd3からなっている。負荷LOADは直流平滑コンデンサCd1〜Cd3の両端に接続される。変換器の正負各アームはそれぞれ3個の素子からなり、素子Su1,Su2の接続点と素子Su4,Su5の接続点との間にクランプダイオードDu7,Du8が直列に接続され、素子Su2,Su3の接続点と素子Su5,Su6の接続点との間にクランプダイオードDu9,Du10が直列に接続されている。クランプダイオードDu7,Du8の接続点は直流平滑コンデンサCd1,Cd2の接続点に接続され、クランプダイオードDu9,Du10の接続点は直流平滑コンデンサCd2,Cd3の接続点に接続されている。
【0145】
4レベル出力自励式変換器MLC(R相分)の動作は、次のようになる。ただし、直流平滑コンデンサCd1〜Cd3に印加されるそれぞれの電圧をVd1〜Vd3とし、全電圧Vd=Vd1+Vd2+Vd3に対し、Vd1=Vd2=Vd3=Vd/3に保持されているものとして説明する。
【0146】
自己消弧素子Su1〜Su6は、3個ずつ導通される。すなわち、素子Su1〜Su3がオンのときは、変換器の交流側出力電圧は、仮想の中点電位に対し、Vcr=+(1/2)Vdとなり、素子Su2〜Su4がオンのときは、変換器の交流側出力電圧は、Vcr=+(1/6)Vdとなり、素子Su3〜Su5がオンのときは、変換器の交流側出力電圧は、Vcr=−(1/6)Vdとなり、素子Su4〜Su6オンのときは、変換器の交流側出力電圧は、Vcr=−(1/2)Vdとなる。これにより、4レベルの出力電圧Vcrが得られる。
【0147】
入力電流Irが図示の矢印の向きに流れている場合、例えば、素子Su2〜Su4がオンしているときは、R→Ls→Su4→Du8の経路に電流Irが流れる。このとき、素子Su4をオフし、Su1をオンさせると、リカバリ電流抑制用リアクトルLaの作用により、まず高速ダイオードDu3→Du2→Du1を介して電流が流れるが、その高速ダイオードの順方向電圧降下VFDに対し、電力用ダイオードPD1の順方向電圧降下VPDFの方が小さいため、その差電圧により、電流Irは電力ダイオードPD1に移っていく。この状態から、素子Su1をオフし、素子Su4をオンさせれば、電流Irは再び、R→Ls→Su4→Du8の経路に流れる。このとき、電力用ダイオードPD1の蓄積キャリアがあるため、リカバリ電流が、Vd1(+)→Lp→PD1→Su4→Du8→Vd1(−)の経路に流れる。すなわち、リアクトルLpがダイオードPD1のリカバリ電流を抑制する役割を果たす。次に、素子Su2をオフし、素子Su5をオンさせると、電流Irは、R→Ls→Su4→Su5→Du10の経路に流れる。このときは、電力用ダイオードには電流は流れない。この状態から素子Su3をオフし、素子Su6をオンさせると、電流Irは、R→Ls→Su4→Su5→Su6の経路に流れる。
【0148】
同様に、入力電流Irが図示の矢印と反対向きに流れている場合、例えば、素子Su3〜Su5がオンしているときは、Du9→Su3→Ls→Rの経路に電流Irが流れる。このとき、素子Su3をオフし、素子Su6をオンさせると、リカバリ電流抑制用リアクトルLpの作用により、電流Irはまず高速ダイオードDu6→Du5→Du4を介して流れるが、高速ダイオードDu6,Du5,Du4の順方向電圧降下VFDに対し、電力用ダイオードPD1の順方向電圧降下VPDFの方が小さいため、その差電圧により、電流Irは、電力ダイオードPD4に移っていく。この状態から、素子Su6をオフし、素子Su3をオンさせれば、電流Irは再びDu9→Su3→Ls→Rの経路に流れる。このとき、電力用ダイオードPD4の蓄積キャリアがあるため、リカバリ電流が、Vd3(+)→Du9→Su3→PD4→Ln→Vd3(−)の経路に流れる。すなわち、リアクトルLnがダイオードPD4のリカバリ電流を抑制する役割を果たす。次に、この状態から、素子Su5をオフし、素子Su2をオンさせると、電流Irは、Du7→Su2→Su3→Ls→Rの経路に流れる。このときは、電力用ダイオードには電流は流れない。この状態から素子Su4をオフし、素子Su1をオンさせると、電流Irは、Su1→Su2→Su3→Ls→Rの経路に流れる。
【0149】
4レベル出力自励式電力変換器でもリカバリ電流抑制用リアクトルは、直流正側にLpを1つ、直流負側にLnを1つ設置すれば十分である。すなわち、電力用ダイオードPD1,PD4が導通するのは、電力変換装置の交流出力電圧Vcが最大のときに限られ、そのモードから変化するときにリカバリ電流が流れるので、それを抑制するためには直流正側にLpを1つ、直流負側にLnを1つ設置すれば十分となるのである。5レベル以上の多レベル出力変換器を用いた場合も同様である。
【0150】
自励式電力変換器MLCの出力レベル数を増やすことにより、より少ないパルス数で、入力電流の高調波を減らすことができる。また、多レベル出力自励式電力変換器MLCを構成する自己消弧素子の遮断電流の容量を小さくすることができ、経済的な電力変換装置を提供することができる。また、力行運転時には、大部分の電流が電力用ダイオードを介して流れるため、過負荷耐量に優れ、高効率の電力変換装置を提供することができる。
【0151】
<第9の実施の形態>
本実施形態は、第8の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを一定のパルスパターンで動作させ、交流電源の電圧Vsに対する位相角φを調整することにより交流入力電流Isを制御し、直流平滑コンデンサCdの電圧Vdを制御する。
【0152】
多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnは一定のパルスパターンで動作し、交流電源の電圧Vsに同期したスイッチングを行う。直流電圧Vdが一定ならば、多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnの交流出力電圧Vc1〜Vcnの振幅値は一定になる。この状態で、電源電圧Vsに対する出力電圧Vc1〜Vcnの位相角φを変えることより、交流リアクトルLs1〜Lsnに印加される電圧が変化し、入力電流Isを調整することができる。電源電圧Vsに対する各変換器の出力電圧Vc1〜Vcnの位相角φを遅れ方向に増加させることにより、交流電源から供給される有効電力Psが増加する。逆に位相角φを進み方向に増やすと、有効電力Psが交流電源に回生される。
【0153】
多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを一定のパルスパターンで制御する場合、入力電流Isの高調波成分が小さくなるようにスイッチングパターンを決めるが、変換器力率が1に近いため、電流Isのゼロ点付近でスイッチングが行われ、多レベル出力自励式変換器MLC1〜MLCnを構成する自己消弧素子の遮断電流は小さくて済む。これにより、入力電流Isの高調波成分が小さく、電力回生が可能で、高力率・高効率で、低コストの電力変換装置を提供することができる。
【0154】
<第10の実施の形態>
本実施形態は、第8の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnは、交流電源SUPの周波数に同期した1パルスモードで動作させ、交流電源の電圧Vsに対する位相角φを調整することにより交流入力電流Isを制御し、直流平滑コンデンサCdの電圧Vdを制御する。
【0155】
各多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを1パルスモードで動作させることにより、スイッチング損失を減らし、自励式変換器の電圧利用率を向上させることができる。また、入力電流Isのゼロ点付近で自励式変換器をスイッチングさせるため、自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができる。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高効率・大容量の電力変換装置を提供することができる。
【0156】
<第11の実施の形態>
図21は、本発明装置のさらに別の実施形態を示すものである。この実施の形態の特徴は2台の変圧器TR1,TR2の1次巻線を直列に接続し、直列多重運転をするように構成した点にある。他の構成は、図18のものと同一である。ここでは、2台の変圧器の漏れインダクタンスを利用することにより、交流リアクトルLs1,Ls2を省略することもできるが、図示のごとく独立の交流リアクトルLs1,Ls2を設けても原理的には変わりがない。
【0157】
図22は、図21の装置の制御装置の実施形態を示すものである。この制御装置では、比較器C1から電流制御補償回路Gi(S)までは両変換器MLC1およびMLC2に共通に設けられているが、ここで位相角指令値φ*を生成した後で別々の位相制御回路PHC1,PHC2により、各変換器MLC1,MLC2用のゲート信号gu11〜gu14,gv11〜gv14,gw11〜gw14、およびゲート信号gu21〜gu24,gv21〜gv24,gw21〜gw24を別々に生成する。
【0158】
3レベル出力自励式電力変換器MLC1,MLC2は電源電圧に同期した一定のパルスパターン(1パルス、3パルス、5パルス等)で電源電圧に対する位相角φを制御することにより、入力電流Ir,Is,Itを制御する。この装置では、2台の変圧器TR1とTR2が1次側で直列接続されているので、2台の電力変換装置(REC1+MLC1とREC2+MLC2)の入力電流は同じになり、高調波の少ない電流となる。
【0159】
以上は、多レベル出力変換器として、3レベル出力電力変換器(NPCコンバータ)を例にとって説明したが、4レベル出力以上の電力変換器と電力用ダイオードを組み合わせても同様の作用・効果を奏することができる。また、2台の電力変換装置(電力用ダイオード整流器REC+多レベル出力電力変換器MLC)を用いた例を示したが、3台以上の電力変換装置を用いて1次側で直列多重運転とすることもできる。
【0160】
本実施の形態によれば、変換装置の大容量化と、交流電源から供給される入力電流Isの高調波成分の低減を図ることができる。特に、直列多重運転により、各変換器に流れる交流側入力電流の高調波成分を低減することができ、自励式電力変換器MLC1〜MLCnの制御パルスを少なくすることができる利点がある。また、3相変圧器の漏れインダクタンス分を利用することにより、従来必要とした交流リアクトルを省略することができる。これにより、過負荷耐量に優れ、電力回生が可能な、高効率・低コストの大容量電力変換装置を提供することができる。
【0161】
<第12の実施の形態>
本実施形態の特徴は、第11の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnは一定のパルスパターンで動作させ、交流電源電圧Vsに対する位相角φを調整することにより交流入力電流Isを制御し、直流平滑コンデンサCdに印加される全電圧Vdを制御することにある。
【0162】
多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnは、一定のパルスパターンで、交流電源電圧Vsに同期したスイッチングを行う。直流電圧Vdが一定ならば、多レベル出力自励式変換器MLC1〜MLCnの交流出力電圧Vc1〜Vcnの振幅値は一定になる。この状態で、電源電圧Vsに対する出力電圧Vc1〜Vcnの位相角φを変えることより、交流リアクトルLs1〜Lsnに印加される電圧が変化し、各多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnの入力電流Isを調整することができる。自励式変換器MLC1〜MLCnを一定のパルスパターンで制御する場合、入力電流Isの高調波成分が小さくなるようにスイッチングパターンを決めるが、変換器力率が1に近いところで動作させることにより電流Isのゼロ点付近でスイッチングが行われ、自励式変換器MLC1〜MLCnを構成する自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができる。
【0163】
電源電圧Vsに対する各変換器の出力電圧Vc1〜Vcnの位相角φを遅れ方向に増加させることにより、交流電源から供給される有効電力Psが増加する。逆に位相角φを進み方向に増やすと、有効電力Psが交流電源に回生される。自励式変換器MLC1〜MLCnは、直流平滑コンデンサCdの電圧Vdがほぼ一定になるように入力電流Isを制御する。これにより、入力電流Isの高調波成分が小さく、電力回生が可能で、高力率・高効率で、低コストの電力変換装置を提供することができる。
【0164】
<第13の実施の形態>
本実施形態の特徴は、第11の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを交流電源SUPの周波数に同期した1パルスモードで動作させ、交流電源電圧Vsに対する位相角φを調整することにより交流入力電流Isを制御し、直流平滑コンデンサCd1〜Cdnに印加される全電圧Vdを制御することにある。
【0165】
多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを一定のパルスパターンで運転するが、そのパルス数を1パルスにするものである。当然、直流電圧Vdが一定ならば、多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnの交流側出力電圧Vc1〜Vcnの振幅値は一定になる。電源電圧Vsに対する多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnの交流側出力電圧Vc1〜Vcnの和電圧の位相角φを調整することにより入力電流Isを制御するが、位相角φ=0のとき、入力電流Is=0となるようにするためには、電源電圧Vsの波高値と変換器出力電圧Vc1〜Vcnの和電圧の基本波波高値を等しくする必要がある。直流電圧Vdは負荷側の要求等によって決定されてしまうので、3相変圧器TR1〜TRnの2次側電圧を各多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnの交流側出力電圧Vc1〜Vcnの基本波成分と等しくなるように値を合わせる。
【0166】
多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを1パルスで運転することにより、スイッチング回数が最小になり、変換器効率はさらに向上する。また、交流側出力電圧Vc1〜Vcnの基本波成分が大きくなり、自励式変換器MLC1〜MLCnの電圧利用率が向上する。さらに、変換器力率がほぼ1で運転されるため、入力電流Isのゼロ点付近で1回だけスイッチングを行うことになり、力行運転時も回生運転時も、自己消弧素子の遮断電流は極めて小さくなる。この結果、高効率で低コストの電力変換装置を提供することができる。また、大電流を遮断しないということは、ソフトスイッチングに近いということであり、EMIノイズが小さくなり、環境にもやさしい電力変換装置を提供することができる。
【0167】
<第14の実施の形態)
本実施の形態では、第8〜13の実施形態の電力変換装置において、リカバリ電流抑制用リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnに対し、これらのリアクトルに流れたリカバリ電流をリセットするリセット回路を付加したものである。
【0168】
リカバリ電流抑制用リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnは、多レベル出力自励式電力変換器MLCの自己消弧素子がオンしたときに電力用ダイオード整流器RECの各ダイオードに過大なリカバリ電流が流れ込むのを抑制する役割を持っている。通常、リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnは数十μHのインダクタンス値のものであって、交流リアクトルLs1,Ls2に比べると、2桁ぐらい小さいものでよい。
【0169】
リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnにリカバリ電流が流れた場合、次のスイッチングのときまでにその電流を一旦リセットする必要がある。そのために、リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnにはリカバリ電流リセット回路を並列接続する。例えば、リアクトルLp1に、ダイオードDpと抵抗Rpの直列回路からなるリセット回路を並列接続する。リセット回路の時定数は、Tp=Lp/Rpで与えられ、スイッチング周期の1/3以下にするのが望ましい。自励式変換器を1パルスで動作させる場合、電源周波数fsを50Hzとして、スイッチング周期Tswは、Tsw=1/(6・fs)=1/300[s]=3.3[ms]となる。したがって、Tp=1[ms]以下にするのが望ましいことになる。Lp=50μHとして、Rp=0.1Ωとすれば、Tp=0.5[ms]となる。抵抗Rpを大きくすると、変換器に印加される電圧が高くなり、その分、素子の耐圧を上げる必要がある。リアクトルLp2〜Lpnのリセット回路も同様である。また、直流負側に設けられるリアクトルLn1〜Lnnのリセット回路も同様である。
【0170】
従来のPWMコンバータでは、スイッチング周波数が高いことと、3相ブリッジ結線された各自己消弧素子のスイッチングがランダム動作するため、リセット時間は非常に短くなってしまう。したがって、PWMコンバータの直流ラインにリカバリ電流抑制用リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnを一括して挿入するのは得策ではない。
【0171】
リカバリ電流抑制用リアクトルLp1〜Lpn,Ln1〜Lnnに流れたリカバリ電流をリセットする回路として、上記のようにダイオードDp,Dnと抵抗Rp,Dnの直列回路があるが、抵抗Rp,Rnの代わりに直流電圧源Vp(またはVn)を用意してもよい。直流電圧源Vp,Vnとしては、バッテリーあるいは大容量の直流平滑コンデンサ等があり得る。その直流電圧源にはエネルギーが徐々に蓄積されるので、それを消費する回路または電源に回生する回路等が付加されることが多い。
【0172】
このように、例えばダイオードと抵抗からなるリセット回路をリカバリ電流抑制用リアクトルに並列接続することにより、直流側に挿入されたリカバリ電流抑制用リアクトルの機能を保持することができる。
【0173】
<第15の実施の形態>
本実施形態は、第8〜14の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnは、交流電源の電圧Vsが変動した場合、その電源電圧Vsの変化に合わせて直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdの指令値を変えて制御するものである。
【0174】
n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnを1パルスまたは一定パルスパターンで運転した場合、自励式電力変換器MLC1〜MLCnの交流側出力電圧Vcの振幅値は一定となり、電源電圧Vsが高くなると、多レベル出力変換器MLC1〜MLCnは遅れ力率運転となり、また、電源電圧Vsが低くなると、進み力率運転となってしまう。また、力率低下に伴い、多レベル出力変換器MLC1〜MLCnの交流側出力電圧Vcと入力電流Isの位相差が大きくなり、自励式電力変換器を構成する自己消弧素子の遮断電流が大きくなってしまう。そこで、直流平滑コンデンサCdに印加される全電圧Vdを、電源電圧Vsの振幅値に合わせて調整制御することにより、常に、|Vs|=|Vc|となるように制御する。これにより、電源力率あるいは変換器力率の極端な低下を防ぐことが可能となり、自己消弧素子の遮断電流の増加を防止することができる。
【0175】
<第16の実施の形態>
本実施の形態は、第8〜15の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnが、交流電源SUPの角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように制御するものである。
【0176】
n台の多レベル自励式電力変換器MLC1〜MLCnにより、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように調整することにより入力電流Isの電源電圧Vsに対する位相角φに一致させることができ、電源力率=1の運転をすることができる。この効果は回生運転においても同じである。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高力率の電力変換装置を提供することができる。
【0177】
<第17の実施の形態>
本実施の形態は、第8〜15の実施形態の電力変換装置において、n台の多レベル出力自励式電力変換器MLC1〜MLCnが、交流電源SUPの角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように制御するものである。
【0178】
n台の自励式電力変換器MLC1〜MLCnにより、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように調整することにより、入力電流Isの電源電圧Vsに対する位相角φを自励式電力変換器CNV1〜CNVnの交流側出力電圧Vcの位相角φにほぼ一致させることができる。すなわち、入力電流Isと変換器出力電圧Vcの位相が一致し、変換器力率=1の運転をすることができる。この結果、多レベル出力自励式変換器MLC1〜MLCnを構成する自己消弧素子の遮断電流を小さくすることができ、かつ、変換器容量を低減化することができる。この効果は回生運転においても同様である。これにより、過負荷耐量に優れ、低コストで高効率の電力変換装置を提供することができる。
【0179】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明の電力変換装置によれば、電力回生が可能で、過負荷耐量に優れ、低コストで高効率の電力変換装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の電力変換装置の実施の形態を示す結線図。
【図2】図1の装置の制御回路の実施形態を示すブロック図。
【図3】図1の装置の制御動作を説明するための交流側電圧・電流ベクトル図。
【図4】図1の装置の位相制御動作を説明するためのブロック図。
【図5】図1の装置の位相制御動作を説明するためのタイムチャート図。
【図6】図1の装置の力行運転時の制御動作を説明するための各部動作波形図。
【図7】図1の装置の回生運転時の制御動作を説明するための各部動作波形図。
【図8】図1の装置の力行運転から回生運転に至る過程での制御動作を説明するための各部動作波形図。
【図9】図1の装置の位相制御動作を説明するための別のタイムチャート。
【図10】図1の装置の力行運転時の別の制御動作を説明するための各部動作波形図。
【図11】図1の装置の位相制御動作を説明するためのさらに別のタイムチャート。
【図12】(a)〜(c)は本発明装置の動作を説明するための交流側電圧・電流ベクトル図。
【図13】本発明装置の制御動作を説明するための交流側電圧・電流ベクトル図。
【図14】本発明装置の制御動作を説明するための特性図。
【図15】本発明装置の別の制御動作を説明するための交流側電圧・電流ベクトル図。
【図16】本発明装置の別の制御動作を説明するための特性図。
【図17】本発明装置の別の制御動作を説明するための動作波形図。
【図18】本発明装置の別の実施の形態を示す主回路構成図。
【図19】図18の装置の制御回路の実施の形態を示す構成図。
【図20】本発明装置のさらに別の実施の形態を示す主回路構成図。
【図21】本発明装置のさらに別の実施の形態を示す主回路構成図。
【図22】図21の装置の制御回路の実施の形態を示す構成図。
【図23】従来の電力回生可能なパルス幅変調制御コンバータの構成図。
【符号の説明】
SUP 交流電源
REC 電力用ダイオード整流器
MLC 多レベル出力自励式電力変換器
Ls 交流リアクトル
Lp,Ln リ力バリ電流抑制用リアクトル
Cd1,Cd2 直流平滑コンデンサ
LOAD 負荷
C1,C3 比較器
C2 加算器
Gv(S) 電圧制御補償回路
Gi(S) 電流制御補償回路
FF フィードフォワード補償器
A 3相/dq座標変換回路
PLL 電源同期位相検出回路
PHC 位相制御回路
Claims (17)
- 交流電源に交流リアクトルを介して交流端子が接続される電力用ダイオード整流器と、この電力用ダイオード整流器の交流端子に交流端子が直接に接続された多レベル出力自励式電力変換器と、この多レベル出力自励式電力変換器および電力用ダイオード整流器の直流共通端子間にリカバリ電流抑制用リアクトルを介して接続され、負荷装置を並列に接続する直流平滑コンデンサとを具備した電力変換装置。
- 前記リカバリ電流抑制用リアクトルに、そのリアクトルに流れたリカバリ電流をリセットするリセット回路を付加したことを特徴とする請求項1に記載の電力変換装置。
- 前記多レベル出力自励式電力変換器は、一定のパルスパターンで動作し、前記交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより入力電流を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
- 前記多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の周波数に同期した1パルスモードで動作し、前記交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより入力電流を制御することを特徴とする請求項1または2に記載の電力変換装置。
- 前記多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の電圧が変動した場合、電源の電圧の変化に合わせて前記直流平滑コンデンサに印加される電圧の指令値を変えて制御動作することを特徴とする請求項1ないし4のいずれか1項に記載の電力変換装置。
- 前記多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、前記交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、前記直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電力変換装置。 - 前記多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、前記交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、前記直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする請求項1ないし5のいずれか1項に記載の電力変換装置。 - 1次巻線が3相交流電源に接続され、所定の位相差を持たせたn組の2次巻線を有する3相変圧器と、この3相変圧器の各2次巻線に交流リアクトルを介して交流端子が接続されたn台の電力用ダイオード整流器と、これらn台の電力用ダイオード整流器の交流端子のそれぞれに交流側端子が直接に接続されたn台の多レベル出力自励式電力変換器と、これらn台の多レベル出力自励式電力変換器と前記n台の電力用ダイオード整流器の直流共通端子にリカバリ電流抑制用リアクトルを介して接続され、負荷装置を並列に接続する直流平滑コンデンサとを具備してなる電力変換装置。
- 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は、一定のパルスパターンで動作し、前記交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより交流入力電流を制御して前記直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする請求項8に記載の電力変換装置。
- 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の周波数に同期した1パルスモードで動作し、前記交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより交流入力電流を制御して前記直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする請求項8に記載の電力変換装置。
- 各相毎に直列接続された1次巻線が3相交流電源に接続され、所定の位相差を有するn組の2次巻線を有する3相変圧器と、この3相変圧器の各2次巻線に交流リアクトルを介して交流端子が接続されたn台の電力用ダイオード整流器と、これらn台の電力用ダイオード整流器の交流端子に交流端子が直接に接続された3相ブリッジ結線のn台の多レベル出力自励式電力変換器と、前記n台の多レベル出力自励式電力変換器および前記電力用ダイオード整流器の直流共通端子のそれぞれにそれぞれリカバリ電流抑制用リアクトルを介して接続され、負荷装置を並列接続する直流平滑コンデンサとを備えた電力変換装置。
- 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は一定のパルスパターンで動作し、前記交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより各電圧形自励式電力変換器の入力電流を制御して前記直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする請求項11に記載の電力変換装置。
- 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の周波数に同期した1パルスモードで動作し、前記交流電源の電圧に対する位相角を調整することにより各多レベル出力自励式電力変換器の入力電流を制御して前記直流平滑コンデンサに印加される電圧を制御することを特徴とする請求項11に記載の電力変換装置。
- 前記リカバリ電流抑制用リアクトルに、それらのリアクトルに流れた電流をリセットするリセット回路を付加したことを特徴とする請求項8ないし13のいずれか1項に記載の電力変換装置。
- 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の電圧が変動した場合、その電源電圧の変化に合わせて前記直流平滑コンデンサに印加される電圧の指令値を変えて制御することを特徴とする請求項8ないし14のいずれか1項に記載の電力変換装置。
- 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、前記交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、前記直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2+(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする請求項8ないし15のいずれか1項に記載の電力変換装置。 - 前記n台の多レベル出力自励式電力変換器は、前記交流電源の角周波数をω、電源電圧をVs、入力電流をIs、前記交流リアクトルのインダクタンス値をLs、比例定数をkとした場合、前記直流平滑コンデンサに印加される電圧Vdを、
Vd=k・√{Vs2−(ω・Ls・Is)2}
となるように制御することを特徴とする請求項8ないし15のいずれか1項に記載の電力変換装置。
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