以下、本発明の実施の形態を図に基づいて詳説する。
図1は、本発明の全実施の形態に共通な、電気鉄道交流き電システムの全体的な構成を示すブロック図である。図中、SUP1は第1の3相交流電源(60Hz)、SUP0,SUP2は第2の3相交流電源(50Hz)、M/Gは回転形周波数変換器(50Hz/60Hz周波数変換器)、M−TR1,M−TR2は3相変圧器、SS1〜SS3は変電所、CB1〜CB11は3相交流開閉器、CBm1〜CBm6は単相交流開閉器、S−TR1〜S−TR3はスコット結線変圧器、PPC1〜PPC3は周波数変換器能を有する2相電力融通装置、Fa,Fbは単相引き通し交流き電線、KS1〜KS4はセクションスイッチ、Trainは列車負荷をそれぞれ示す。
本発明の交流き電システムは、既設の設備(M/G装置やスコット結線変圧器など)を有効活用しながら単相交流き電線を引き通すことにより、従来のセクション渡り区間(切替セクション)を無くすことを目的とする。
回転形周波数変換器M/Gは、第2の3相交流電源SUP0(50Hz)から第1の3相交流電源SUP1(60Hz)を作るもので、例えば、10極の同期電動機Mと12極の同期発電機Gを機械的に結合して構成する。50Hz電源で電動機Mを駆動すると、回転速度はN=600rpmとなり、発電機Gは周波数60Hzの3相電圧を発生する。ここでは、2台のM/G装置を並列運転し、必要な容量を確保している。当該M/G装置は周波数変換所に設置される。このM/G装置によって作られた3相−60Hzの電圧源は、交流送電線を介して電気鉄道の変電所SS1〜SS3に送られる。
例えば、変電所SS1では、交流開閉器CB3,CB4を介して3相−60Hzを受電し、変電所内の配電線に送る。さらに、スコット結線変圧器S−TR1により、3相交流電圧を2相交流電圧に変換し、M座およびT座の2相交流を作る。このスコット結線変圧器S−TR1の2相出力電圧のうち、1相(M座)のみを単相交流き電線Fa,Fbに接続する。CBm1,CBm2は単相交流開閉器で、Faは上り列車の交流き電線、Fbは下り列車の交流き電線である。このとき、上記変圧器S−TR1のT座巻線は無負荷となっている。
2相電力融通装置PPC1は、3相変圧器TRa1、整流器REC1、第1の電圧形自励式電力変換器CNV11、第2の電圧形自励式電力変換器CNV12、直流平滑コンデンサCd1および単相変圧器TRm1,TRt1で構成されており、前記スコット結線変圧器S−TR1,S−TR2のM座、T座間の電力融通を図るとともに、50Hz/60Hz周波数変換を行う。すなわち、整流器REC1は3相交流(50Hz)を直流に変換するもので、当該直流電力を直流平滑コンデンサCd1に供給し、さらに第1の電圧形自励式電力変換器CNV11を介して単相交流に変換し、交流き電線Fa,Fbに電力供給する。これにより、M/G装置の容量不足や故障に対するバックアップが可能となる。
他の変電所SS2,SS3でも同様に構成されており、M座のみ交流き電線に接続され、T座は無負荷となる。このとき、2相電力融通装置PPC2,PPC3は、スコット結線変圧器S−TR2,S−TR3のM座、T座間の電力融通を図る。
セクションスイッチKS1〜KS4は、単相引き通しの交流き電線を各変電所SS1〜SS3毎に分けるもので、スイッチKS1〜KS4を閉じることにより、変電所間の並列運転や延長給電を行うことができる。
以上のように、本発明の電気鉄道交流き電システムでは、既存設備の大部分を有効に活用しながら、単相引き通しの交流き電システムが実現でき、次のような効果が得られる。まず、この交流き電線を利用する電車から見た場合、従来のM座/T座間の切替が不要となり、切替セクション区間の停電が無くなる。この結果、車両側の制御(特に位相同期信号の切換えや車上コンバータ/インバータの制御停止と再起動など)が簡略化され、列車の加速/減速性能が向上するだけでなく、乗り心地の改善が図れる。他方、地上側では、既存設備の大部分を活用でき、M/G装置やスコット結線変圧器が老朽化した場合、順次入れ替えまたは静止化することができ、運用面からも経済的なシステムを提供することができる。さらに、2相平衡化が図られ、無効電力や高調波電流が補償できるので、スコット結線変圧器やM/G装置にとって理想的な負荷となり、電源系統にやさしい電気鉄道給電システムを提供できる。また、単相交流き電線の周波数(60Hz)と電源系統の周波数(50Hz)が異なる区間では、50Hzの3相交流を直流に変換する整流器(コンバータ)と2相電力融通装置を組み合わせることにより、既設のM/G装置の容量低減が図られ、当該M/G装置の老朽化に対し静止形周波数変換器としての置き換えが可能となる。
(第1の実施の形態)本発明の第1の実施の形態の電気鉄道交流き電システムを具体的に説明する。図2は、本発明の第1の実施の形態の電気鉄道交流き電システムの構成図である。図中、SUP1は第1の交流電源、SUP0,SUP2は第2の交流電源、M/Gは回転形周波数変換器(M/G装置)、TR1はスコット結線変圧器、Faは単相交流き電線、Loadは電車負荷、TRm,TRtは単相変圧器、CNV1,CNV2は電圧形自励式電力変換器、Cdは直流平滑コンデンサ、Lf,CfはLCフィルタを構成するリアクトルとコンデンサ、TR2は3相変圧器、RECはダイオード整流器、CONT1は電力変換器CNV1,CNV2から出力する補償電流IMc,ITcを制御する補償電流制御手段である。
補償電流制御手段CONT1は、直流電圧制御回路Vd−Cont、補償電流指令発生回路Ic−ref、補償電流制御回路IMc−Cont,ITc−Contおよびパルス幅変調制御回路PWM1,PWM2で構成されている。
M/G装置は、第2の交流電源SUP0(3相−50Hz)と第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)の間で周波数変換を行う。当該M/G装置は周波数変換所に置かれ、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)から変電所までは交流送電線で送電される。すなわち、一般に、周波数変換所と以下の設備が置かれている変電所とは距離的に離れた場所にある。
スコット結線変圧器TR1は、第1の交流電源SUP1の3相交流電圧Vu,Vv,Vwを2相交流電圧VM,VTに変換するもので、当該2相電圧VMとVTは90°の位相差がある。この他、3相電圧を2相電圧に変換する変圧器の結線法として、変形ウッドブリッジ結線変圧器等がある。
M座出力は単相交流き電線Faに接続し、T座はオープン(無負荷)とする。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の単相出力端子はM座端子に接続し、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の単相出力端子はT座端子に接続する。また、第2の交流電源SUP2(3相−50Hz)に、3相変圧器TR2を介してダイオード整流器RECの交流端子を接続し、当該ダイオード整流器RECの直流出力端子を前記直流平滑コンデンサCdに接続している。LCフィルタ(Lf,Cf)は、交流き電線の周波数(60Hz)の2倍の周波数に共振するようにリアクトルLfと、コンデンサCfの値を決める。
図3は、図2の装置の補償電流制御手段CONT1の具体的な構成例を示す図である。図中、Fd(x)は電圧指令発生器、C1〜C3は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路を表す。
電圧指令発生器Fd(x)は、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に応じて、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdの指令値Vd*を与えるもので、ダイオード整流器RECの直流出力電流Irecを調整するようにその特性パターンが設定される。
比較器C1により、直流電圧指令値Vd*と直流平滑コンデンサCdの印加電圧検出値Vdを比較し、その偏差εv=Vd*−Vdを次の電圧制御補償回路Gv(S)で比例または積分増幅し、入力電流の波高値指令Ism*を作る。
スコット結線変圧器TR1のM座電圧VMに同期した単位正弦波sinωtを求め、乗算器M1により、入力電流波高値指令Ism*を乗じ、M座入力電流指令IMs*=Ism*×sinωtを出力する。
また、スコット結線変圧器TR1のT座電圧VTに同期した単位正弦波cosωtを求め、乗算器M2により、入力電流波高値指令Ism*を乗じ、T座入力電流指令ITs*=Ism*×cosωtを出力する。
加減算器AD1により、M座負荷電流IMLの検出値からM座入力電流指令値IMs*を引き算し、M座補償電流指令値IMc*=IML−IMs*を求める。
同様に、加減算器AD3は、T座負荷電流ITLの検出値からT座入力電流指令値ITs*を引き算し、T座補償電流指令値ITc*=ITL−ITs*を求める。
比較器C2により、M座補償電流検出値IMcと補償電流指令値IMc*を比較し、その偏差εm=IMc*−IMcを次の電流制御補償回路Gi1(S)により増幅し、加減算器AD2に入力する。加減算器AD2では、M座電圧VMに比例した補償信号EM*を電流制御補償回路Gi1(S)の出力信号に加算し、その信号em*を変換器CNV1のパルス幅変調制御回路PWM1に入力する。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1は、入力信号em*に比例した電圧VMcを発生する。
出力電圧VMcとM座電源電圧VMの差(VMc−VM)が単相変圧器TRmのもれインダクタンスLsmに印加され、補償電流IMcが流れる。当然のことながら、単相変圧器TRmの漏れインダクタンスが小さい場合には、当該変圧器TRmの1次または2次巻線に直列に交流リアクトルLsmoを挿入する場合もある。
IMc*>IMcとなった場合には、偏差εmが正となり、信号em*を増加させ、補償電流IMcを増やして、IMc*=IMcとなるように制御する。逆に、IMc*<IMcとなった場合には、偏差εmが負となり、信号em*を減少させ、補償電流IMcを減らして、やはり、IMc*=IMcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるM座入力電流IMsは、IMs=IML−IMc=IML−IMc*=IML−(IML−IMs*)=IMs*となるように制御される。この入力電流IMsは、M座電圧VMと同相(力率=1)の正弦波電流となる。
同様に、比較器C3は、T座補償電流検出値ITcと、上記補償電流指令値ITc*を比較し、その偏差εt=ITc*−ITcを次の電流制御補償回路Gi2(S)により増幅し、加減算器AD4に入力する。加減算器AD4では、T座電圧VTに比例した補償信号ET*を上記電流制御補償回路Gi2(S)の出力信号に加算し、その信号et*を変換器CNV2のパルス幅変調制御回路PWM2に入力する。第2の電圧形自励式電力変換器CNV2は、当該入力信号et*に比例した電圧VTcを発生する。
出力電圧VTcとT座電源電圧VTの差(VTc−VT)が単相変圧器TRtのもれインダクタンスLstに印加され、補償電流ITcが流れる。
ITc*>ITcとなった場合には、偏差εtが正となり、信号et*を増加させ、補償電流ITcを増やして、ITc*=ITcとなるように制御する。逆に、ITc*<ITcとなった場合には、偏差εtが負となり、信号et*を減少させ、補償電流ITcを減らして、やはり、ITc*=ITcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるT座入力電流ITsは、ITs=ITL−ITc=ITL−ITc*=ITL−(ITL−ITs*)=ITs*となるように制御される。この入力電流ITsは、T座電圧VTと同相(力率=1)の正弦波電流となる。ただし、T座負荷電流ITL=0となっている。
上述のスコット結線変圧器TR1のM座、T座の電流IMsとITsは、同じ振幅値Ism*で、位相が90°ずれた2相平衡化電流となる。この結果、3相交流電源SUP1から供給される電流も3相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。
この結果、前記スコット結線変圧器TR1の容量を軽減できるだけでなく、第1の交流電源SUP1の設備やM/G装置の容量も軽減することができる。
直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdが指令値Vd*より低くなった場合、前記波高値指令Ism*が増加し、交流電源SUP1からの供給電力Ps1が増加し、負荷電力PL(av)より大きくなり、Ps1−PL(av)の分が前記直流平滑コンデンサCdにエネルギーとして蓄えられる。その結果、Vdが増加し、Vd=Vd*となるように制御される。逆に、Vd>Vd*となった場合、波高値指令Ism*が減少し、Ps1<PL(av)となって、直流平滑コンデンサCdの蓄積エネルギーを減らし、やはり、Vd=Vd*となるように制御される。
図4は、電圧指令発生器Fd(x)の特性例を示すもので、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に対する直流電圧指令値Vd*を表す図である。PL(av)>0の場合、すなわち力行負荷の場合、負荷電力PL(av)が増加するに従い、直流電圧指令値Vd*を下げていく。この結果、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vd=Vd*も下がっていき、ダイオード整流器RECからの出力電流Irecが負荷電力PL(av)に比例して増加していく。言い換えると、変圧器TR2を含めたダイオード整流器RECの電圧レギュレーションを考慮し、上記直流電圧指令値Vd*を与える。
ダイオード整流器RECから供給される電力をPrec=Irec×Vdとした場合、スコット結線変圧器TR1を介して供給される電力は、Ps1=PL(av)−Precとなり、当該スコット結線変圧器TR1や第1の交流電源SUP1の設備およびM/G装置の容量を、ダイオード整流器からの供給電力Precの分だけ軽減することが可能となる。当然のことながら、このときスコット結線変圧器TR1のM座巻線およびT座巻線の電流IMs,ITsは、2相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。
PL(av)<0の場合、すなわち電車が回生運転した場合、直流電圧指令値Vd*=Vdo*は一定とし、しかも、その設定電圧Vdo*は、ダイオード整流器RECの無負荷整流電圧Vrecoより高く設定する。
ダイオード整流器RECは、電力を第2の交流電源SUP2へ回生する機能はないので、電車から回生された電力は、全てスコット結線変圧器TR1を介して第1の交流電源SUP1に回生される。このとき、ダイオード整流器RECから無駄な電流Irecを供給しないように、Vdo*>Vrecoとしている。
図5は、電圧指令発生器Fd(x)の別の特性例を示すもので、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に対する直流電圧指令値Vd*を表す図である。この場合、負荷電力PL(av)が、回生運転を含めてPL(av)<PLoで、直流電圧指令値Vdo*=一定にする。ただし、Vdo*>Vrecoとし、電力設定値PLoは正の値で与える。
PL(av)>PLoとなった場合、負荷電力PL(av)が増加するに従い、直流電圧指令値Vd*を下げていく。この結果、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vd=Vd*も下がっていき、ダイオード整流器RECからの出力電流Irecが(PL(av)−PLo)に比例して増加していく。
すなわち、負荷電力PL(av)が設定電力PLoより小さい領域では、ダイオード整流器RECからの供給電力はPrec=Irec×Vd=0となり、回生電力も含めて全ての負荷電力PL(av)は、スコット結線変圧器TR1を介して授受される。PL(av)>PLoとなった場合にダイオード整流器RECからの供給電力Precが、(PL(av)−PLo)に比例して増加していく。その分、スコット結線変圧器TR1やM/G装置等の負荷分担を軽減することができる。
例えば、PL(av)>PLoで、Prec=(PL(av)−PLo)となるように電圧指令値Vd*を与えた場合、スコット結線変圧器TR1を介して供給される力行電力Ps1は、Ps1=PLoとなり、それに見合った容量のスコット結線変圧器TR1を用意すればよくなる。
図6は、図2の装置で交流き電線Faにつながれた電車負荷Loadが力行運転している場合のM座、T座の電圧・電流ベクトル図である。T座負荷電流ITL=0で、M座負荷電流IMLは、電圧VMに対し若干の遅れ位相θとなっている。
負荷電力PL=VM×IML×cosθで、損失が十分小さいと仮定すれば、当該負荷電力PLは、スコット結線変圧器TR1から供給される電力Ps1=VM×IMs+VT×ITsと、ダイオード整流器RECを介して供給される電力Prec=Irec×Vdの和に等しくなる。
スコット結線変圧器TR1のM座巻線電流IMsおよびT座巻線電流ITsは、それぞれM座電圧VMおよびT座電圧VTと同相となり、力率=1の正弦波電流となる。また、その振幅値Ismは同じで、2相平衡化電流となることは前に説明した。
第1の電圧形自励式電力変換器CNV1から供給される補償電流IMcは、負荷電流ベクトルIMLとM座巻線電流ベクトルIMsの差ベクトルとなる。当該M座補償電流IMcの有効電流をIMcpとした場合、前記ダイオード整流器RECから供給される電力は、Prec=Irec×Vd=(IMcp−IMs)×VMとなる。
一方、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2から供給される補償電流ITcは、ITL=0なので、ITc=−ITsとなる。T座巻線から供給される電力PTs=ITs×VTは、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2によって回生され、直流平滑コンデンサCdに供給される。その有効電力PTsは、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1を介して単相交流き電線Faに供給される。
図7は、交流き電線Faにつながれた電車Loadが回生運転している場合のM座、T座の電圧・電流ベクトル図である。ダイオード整流器RECは、電力を回生することができないので、回生電力はスコット結線変圧器TR1を介して、第1の交流電源SUP1にもどされる。回生電力PLの半分はスコット結線変圧器TR1のM座巻線に流れ、あとの半分は、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1→直流平滑コンデンサCd→第2の電圧形自励式電力変換器CNV2を介してT座巻線に流れる。このとき、負荷の無効電力QLは、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1によって補償される。
一般に、電気鉄道では力行運転時の電力の方が回生運転時の電力より大きくなる。特に、本発明の交流き電システムでは、力行電車と回生電車との間で、電力融通が自動的に行われるので、スコット結線変圧器TR1を介して回生される電力はあまり大きくならない。従って、力行負荷PLに対して、ダイオード整流器RECから負荷電力の一部を供給することにより、スコット結線変圧器TR1やM/G装置の容量を低減させる効果が大きくなる。
図8は、単相交流き電線Faにつながれた電車Loadが力行運転している場合のM座電圧VM、負荷電流IML、負荷電力PLおよび直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdの波形例を示す図である。M座電圧VMに対し、負荷電流IMLは位相角θだけ遅れている。単相負荷電力PLは交流き電線の周波数f1=60Hzに対し、その2倍の周波数(120Hz)で変動する。
すなわち、M座電圧VM=Vsm×sinωt、負荷電流IML=ILm×sin(ωt−θ)とした場合、電力PLは、
[数1]
PL=Vsm×sinωt×ILm×sin(ωt-θ)
=(Vsm×ILm/2){cosθ-cos(2・ωt-θ)}
となる。第1項は一定値で、前記交流電源SUP1からスコット結線変圧器TR1を介して供給される電力Ps1と、ダイオード整流器RECを介して供給される電力Precの和に一致する。第2項が電力変動分ΔPLで、電源周波数の2倍の周波数で変動する。
この単相負荷に伴う電力変動分ΔPLを直流平滑コンデンサCdで吸収する場合、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdの変動分ΔVdは、負荷電力PLに比例し、直流平滑コンデンサCdの容量に反比例する。
すなわち、直流平滑コンデンサCdに流れる電流Icapは、直流電圧の平均値をVdoとした場合、
[数2]
Icap≒ΔPL/Vdo
=-{Vsm×ILm/(2・Vdo)}・cos(2・ωt-θ)
となる。ゆえに、直流電圧Vdの変動分ΔVdは、
[数3]
ΔVd=(1/Cd)∫Icap・dt
≒-{Vsm×ILm/(4・Vdo・ω・Cd)}×sin(2・ωt-θ)
となる。例えば、電源周波数f1=60Hz、負荷電力PL=20MW(力率=0.95)、直流電圧Vdo=8kV、Cd=10mFとした場合、直流平滑コンデンサCdに流れる電流Icapのピーク値は、Icap(peak)=20MW/0.95/8kV≒2,632Aとなり、そのときの電圧変動ΔVdはピーク値で、ΔVd(peak)≒349Vとなる。
直流電圧の変動ΔVdは、第1および第2の自励式電力変換器CNV1,CNV2の補償電流制御に影響を与え、補償電流の歪みをもたらす。また、直流電圧変動分ΔVd分だけ、前記自励式電力変換器CNV1,CNV2の耐圧を高くして設計する必要があり、装置ののコストを上げる要因にもなる。直流電圧変動ΔVdを小さく抑えるには、コンデンサCdの容量を大きくする必要があり、不経済なシステムとなる。
図2では、前記単相交流き電線の周波数の2倍付近に共振周波数をあわせたLCフィルタを直流平滑コンデンサCdに並列接続している。例えば、単相交流き電線の周波数f1=60Hzとした場合、2・f1=120Hzに共振周波数を合わせたLCフィルタが用意される。すなわち、Cf=4mFとした場合、Lf=0.44mHとなる。このLCフィルタ回路に前記Icapが吸収され、前記直流電圧の変動ΔVdが抑制される。また、直流平滑コンデンサCdは、電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2のPWM制御に伴う高調波電流を吸収するために無くすことはできないが、当該コンデンサCdの容量を大幅に減らすことができ、装置の小型軽量化とコスト低減が図れる。
以上のように、交流き電線の周波数の2倍で変動する単相負荷に伴う電力変動分ΔPLをLCフィルタで吸収することにより、前記直流電圧の変動ΔVdを抑制する。この結果、直流平滑コンデンサCdの容量を小さくでき、かつ、直流電圧の変動ΔVdを大幅に低減できる。なお、負荷急変などで過渡時にLCフィルタによる電気振動現象が懸念されるが、前記第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2により直流電圧制御を行っているため、電気振動を減衰させるダンパー作用が働き、安定なシステムを提供できる。
直流電圧Vdが安定化されることにより、前記第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2による補償電流制御が安定化され、制御性能の向上が図れる。また、電圧変動ΔVdが小さくなった分、当該電力変換器CNV1,CNV2の耐圧マージンも下げることができ、より安価な装置を提供できる。
第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2は、M座/T座間で電力融通を行うが、その電力容量は同じになる。しかし、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Precは、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1を介して単相引き通し交流き電線の電車負荷に供給される。
第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の出力容量を、前記第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の出力容量より大きくすることにより、ダイオード整流器RECから供給する電力を大きくすることが可能となり、その分既設のM/G装置(周波数変換器)の負荷を軽減することが可能となる。
図9は、本発明の第1の実施の形態の交流き電システムの補償電流制御手段CONT1の図3とは別の具体例を示す構成図である。図中、Fs(x)は入力電力指令発生器、Ksは比例要素、ASWはスイッチ回路、SHはレベル検出器、C1〜C3は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路を表す。
単相負荷Loadの電力PLは、交流き電線の周波数f1の2倍の周波数で変動する。負荷電力PLの検出値を時間平均化し、負荷電力の平均値PL(av)を求める。
入力電力指令発生器Fs(x)により、負荷電力平均値PL(av)に応じた有効電力指令値Ps1*を作り、比例要素Ksを介して有効電流波高値指令Isma*に変換し、スイッチ回路ASWのa側端子に入力する。
一方、比較器C1により、直流電圧指令値Vd*と直流平滑コンデンサCdの印加電圧検出値Vdを比較し、その偏差εv=Vd*−Vdを次の電圧制御補償回路Gv(S)で、比例または積分増幅し、別の有効電流波高値指令Ismb*を作り、スイッチ回路ASWのb側端子に入力する。
レベル検出器SHは、負荷電力PL(av)を入力し、設定レベルPLoより大きいか小さいかを判断し、スイッチ回路ASWに切換え信号LBを送る。
PL(av)>PLoの場合、レベル検出器SHの出力信号LB=1となり、スイッチ回路ASWをa側に接続し、有効電流波高値指令Ism*=Isma*を乗算器M1,M2に入力する。すなわち、入力電力指令値Ps1*に基づいて、補償電流を制御する。
また、PL(av)<PLoの場合、レベル検出器SHの出力信号LB=0となり、スイッチ回路ASWをb側に接続し、有効電流波高値指令Ism*=Ismb*を乗算器M1,M2に入力する。すなわち、直流電圧制御回路Gv(S)からの出力信号Ismb*に基づいて、補償電流を制御する。
図10(a)は、前記入力電力指令発生器Fs(x)の特性を示す図であり、図10(b)は、レベル検出器SHの動作を表す図である。入力電力指令発生器Fs(x)は、負荷電力PL(av)に応じて前記第1の交流電源SUP1から供給する有効電力の指令値Ps1*を与えるもので、例えば、次のように指令値Ps1*を発生する。すなわち、ある設定電力値をPLo>0とした場合、
[数4]
PL(av)<PLoのとき、Ps1*=PL(av)
PL(av)>PLoのとき、Ps1*=Pso*=一定
としている。
図9において、比例要素Ksは、上記有効電力指令値Ps1*を2相有効電流の波高値Isma*に変換するもので、スコット結線変圧器TR1の2相電圧の波高値をVsmとした場合、比例定数Ks=1/Vsmとする。すなわち、Isma*=Ps1*/Vsmとなる。
スコット結線変圧器TR1のM座電圧VMに同期した単位正弦波sinωtを求め、乗算器M1により、入力電流波高値指令Ism*を乗じ、入力電流指令IMs*=Ism*×sinωtを出力する。また、スコット結線変圧器TR1のT座電圧VTに同期した単位正弦波cosωtを求め、乗算器M2により、前記入力電流波高値指令Ism*を乗じ、入力電流指令ITs*=Ism*×cosωtを出力する。
加減算器AD1により、M座負荷電流IMLの検出値から前記M座入力電流指令値IMs*を引き算し、M座補償電流指令値IMc*=IML−IMs*を求める。
同様に、加減算器AD3により、T座負荷電流ITLの検出値から前記T座入力電流指令値ITs*を引き算し、T座補償電流指令値ITc*=ITL−ITs*を求める。
比較器C2により、M座補償電流検出値IMcと、上記補償電流指令値IMc*を比較し、その偏差εm=IMc*−IMcを、次の電流制御補償回路Gi1(S)により増幅し、加減算器AD2に入力する。加減算器AD2では、M座電圧VMに比例した補償信号EM*を上記電流制御補償回路Gi1(S)の出力信号に加算し、その信号em*を変換器CNV1のパルス幅変調制御回路PWM1に入力する。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1は、当該入力信号em*に比例した電圧VMcを発生する。
出力電圧VMcとM座電源電圧VMの差(VMc−VM)が単相変圧器TRmのもれインダクタンスLsmに印加され、補償電流IMcが流れる。
IMc*>IMcとなった場合には、偏差εmが正となり、信号em*を増加させ、補償電流IMcを増やして、IMc*=IMcとなるように制御する。逆に、IMc*<IMcとなった場合には、偏差εmが負となり、信号em*を減少させ、補償電流IMcを減らして、やはり、IMc*=IMcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるM座入力電流IMsは、IMs=IML−IMc=IML−IMc*=IML−(IML−IMs*)=IMs*となるように制御される。この入力電流IMsは、M座電圧VMと同相(力率=1)の正弦波電流となる。
同様に、比較器C3により、T座補償電流検出値ITcと、上記補償電流指令値ITc*を比較し、その偏差εt=ITc*−ITcを、次の電流制御補償回路Gi2(S)により増幅し、加減算器AD4に入力する。加減算器AD4では、T座電圧VTに比例した補償信号ET*を上記電流制御補償回路Gi2(S)の出力信号に加算し、その信号et*を変換器CNV2のパルス幅変調制御回路PWM2に入力する。第2の電圧形自励式電力変換器CNV2は、当該入力信号et*に比例した電圧VTcを発生する。
出力電圧VTcとT座電源電圧VTの差(VTc−VT)が単相変圧器TRtのもれインダクタンスLstに印加され、補償電流ITcが流れる。
ITc*>ITcとなった場合には、偏差εtが正となり、信号et*を増加させ、補償電流ITcを増やして、ITc*=ITcとなるように制御する。逆に、ITc*<ITcとなった場合には、偏差εtが負となり、信号et*を減少させ、補償電流ITcを減らして、やはり、ITc*=ITcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるT座入力電流ITsは、ITs=ITL−ITc=ITL−ITc*=ITL−(ITL−ITs*)=ITs*となるように制御される。この入力電流ITsは、T座電圧VTと同相(力率=1)の正弦波電流となる。ただし、T座負荷電流ITL=0となっている。
スコット結線変圧器TR1のM座、T座の電流IMsとITsは、同じ振幅値Ism*で、位相が90°ずれた2相平衡化電流となる。この結果、3相交流電源SUP1から供給される電流も3相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。
図10において、負荷電力がPL(av)<PLoのとき、レベル検出器SHからLB=0が出力され、スイッチ回路ASWをb側に接続し、直流電圧Vd*=Vdo*=一定に制御する。このとき、当該電圧指令値Vdo*をダイオード整流器RECの無負荷整流電圧Vrecoより高く設定することにより、ダイオード整流器RECの直流出力電流Irecはゼロとなり、全ての負荷電力PL(av)を第1の交流電源SUP1から供給または回生することになる。
直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdが指令値Vd*より低くなった場合、有効電流波高値指令Ismb*が増加し、交流電源SUP1からの供給電力Ps1が増加し、負荷電力PL(av)より大きくなり、Ps1−PL(av)の分が直流平滑コンデンサCdにエネルギーとして蓄えられる。その結果、Vdが増加し、Vd=Vd*となるように制御される。逆に、Vd>Vd*となった場合、波高値指令Ismb*が減少し、Ps1<PL(av)となって、直流平滑コンデンサCdの蓄積エネルギーを減らし、やはり、Vd=Vd*となるように制御される。
一方、PL(av)>PLoのとき、レベル検出器SHからの出力信号はLB=1となり、スイッチ回路をa側に接続し、入力電力Ps1*=PLo=一定に制御する。第1の交流電源SUP1からの入力電力をPs1*=PLo=一定に制限することにより、負荷電力PL(av)が増加するに従い直流電圧Vdが低下し、ダイオード整流器RECの直流電流Irecが増加する。すなわち、Prec=PL(av)−PLoの電力がダイオード整流器RECから自動的に供給され、直流電圧Vdもその状態で落ち着く。
本発明の補償電流制御手段では、ダイオード整流器RECの電圧レギュレーションを把握する必要はなく、第1の交流電源SUP1からの入力電力Ps1*を決めることにより、自動的にダイオード整流器RECからの供給電力Precを調整できる利点がある。また、前記入力電力指令発生器Fs(x)の特性として、例えば、PL(av)>PLoで、Ps1*=PLo+k・PL(av)とすることにより、ダイオード整流器RECからの電力Precを調整することができ、負荷分担を最適化することができる。ただし、設定値PLo>0で、比例定数k=0〜1である。
(第2の実施の形態)図11は、本発明の第2の実施の形態の電気鉄道交流き電システムの構成図である。図中、SUP1は第1の交流電源、SUP0,SUP2は第2の交流電源、M/Gは回転形周波数変換器(M/G装置)、TR1はスコット結線変圧器、Faは単相交流き電線、Loadは電車負荷、TRm,TRtは単相変圧器、CNV1,CNV2は電圧形自励式電力変換器、Cdは直流平滑コンデンサ、Lf,CfはLCフィルタを構成するリアクトルとコンデンサ、TR2は3相変圧器、RECはダイオード整流器、ESSはエネルギー蓄積装置、CONT1は前記電力変換器CNV1,CNV2から出力する補償電流IMc,ITcの制御手段、CONT2は前記エネルギー蓄積装置の制御手段を示す。
補償電流制御手段CONT1は、直流電圧制御回路Vd−Cont、補償電流指令発生回路Ic−ref、補償電流制御回路IMc−Cont,ITc−Contおよびパルス幅変調制御回路PWM1,PWM2で構成されている。
M/G装置は、第2の交流電源SUP0(3相−50Hz)と第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)の間で周波数変換を行う。一般に、当該M/G装置は周波数変換所に置かれ、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)から変電所までは交流送電線で送電される。すなわち、周波数変換所と以下の設備が置かれている変電所とは距離的に離れた場所にある。
スコット結線変圧器TR1は、第1の交流電源SUP1の3相交流電圧Vu,Vv,Vwを2相交流電圧VM,VTに変換するもので、当該2相電圧VMとVTは90°の位相差がある。
M座出力は単相交流き電線Faに接続し、T座はオープン(無負荷)とする。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の単相出力端子はM座端子に接続し、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の単相出力端子はT座端子に接続する。
また、第2の交流電源SUP2(3相−50Hz)に、3相変圧器TR2を介してダイオード整流器RECの交流端子を接続し、当該ダイオード整流器RECの直流出力端子を直流平滑コンデンサCdに接続している。
エネルギー蓄積装置ESSは、前記直流平滑コンデンサCdとの間で電力を授受するもので、例えば、双方向チョッパCHOと二次電池としての電気二重層キャパシタEDLCなどで構成される。回生列車が多く、電力が余ってしまった場合、通常はその電力を第1の交流電源SUP1へ戻す(回生する)ことになるが、回生電力の一部または全部をエネルギー蓄積装置ESSに蓄える。その蓄積されたエネルギーは、力行列車負荷が多くなったときに放出し、エネルギーの有効利用を図る。これにより、電気料金の節約が図れ、交流電源から見た場合ピーク負荷電力の低減ができ、変電所設備容量の低減が可能となる。
LCフィルタ(Lf,Cf)は、交流き電線の周波数(60Hz)の2倍の周波数に共振するようにリアクトルLfと、コンデンサCfの値を決める。
交流き電線の周波数の2倍で変動する単相負荷に伴う電力変動分ΔPLをLCフィルタで吸収することにより、前記直流電圧の変動ΔVdを抑制する。この結果、直流平滑コンデンサCdの容量を小さくでき、かつ、直流電圧の変動ΔVdを大幅に低減できる。負荷急変などで過渡時にLCフィルタによる電気振動現象が懸念されるが、前記第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2により直流電圧制御を行っているため、電気振動を減衰させるダンパー作用が働き、安定なシステムを提供できる。
直流電圧Vdが安定化されることにより、前記第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2による補償電流制御やエネルギー蓄積装置ESSの制御が安定化され、制御性能の向上が図れる。また、電圧変動ΔVdが小さくなった分、当該電力変換器CNV1,CNV2やチョッパ装置CHOの耐圧マージンも下げることができ、より安価な装置を提供できる。
図12は、図11の装置の第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2を制御する補償電流制御回路CONT1のブロック構成図である。図中、Fd(x)は電圧指令発生器、C1〜C3は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路を表す。
電圧指令発生器Fd(x)は、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に応じて、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdの指令値Vd*を与えるもので、ダイオード整流器RECの直流出力電流Irecを調整するようにその特性パターンが設定される。
図13は、電圧指令発生器Fd(x)の特性パターンの一例を示す図であり、負荷電力が、PL(av)<0(回生運転)のときはVd*=Vdo*=一定とし、PL(av)>0(力行運転)のときはVd*=Vdoo*−kv×PL(av)として、電圧レギュレーションを持たせる。ただし、Vdoo*はダイオード整流器RECの無負荷整流電圧で、Vdo*>Vdoo*とする。
比例定数kvを大きくすれば、電圧レギュレーションが大きくなり、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Ps2=Precの割合が増加し、逆に、比例定数kvを小さくすると、電圧レギュレーションが小さくなり、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Ps2=Precの割合は減少する。
図12において、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2から出力される補償電流IMc,ITcは次のように制御される。比較器C1により、直流電圧指令値Vd*と直流平滑コンデンサCdの印加電圧検出値Vdを比較し、その偏差εv=Vd*−Vdを次の電圧制御補償回路Gv(S)で、比例または積分増幅し、入力電流の波高値指令Ism*を作る。
スコット結線変圧器TR1のM座電圧VMに同期した単位正弦波sinωtを求め、乗算器M1により、前記入力電流波高値指令Ism*を乗じ、M座入力電流指令IMs*=Ism*×sinωtを出力する。
スコット結線変圧器TR1のT座電圧VTに同期した単位正弦波cosωtを求め、乗算器M2により、前記入力電流波高値指令Ism*を乗じ、T座入力電流指令ITs*=Ism*×cosωtを出力する。
加減算器AD1により、M座負荷電流IMLの検出値から前記M座入力電流指令値IMs*を引き算し、M座補償電流指令値IMc*=IML−IMs*を求める。
同様に、加減算器AD3により、T座負荷電流ITLの検出値から前記T座入力電流指令値ITs*を引き算し、T座補償電流指令値ITc*=ITL−ITs*を求める。
比較器C2により、M座補償電流検出値IMcと、上記補償電流指令値IMc*を比較し、その偏差εm=IMc*−IMcを、次の電流制御補償回路Gi1(S)により増幅し、加減算器AD2に入力する。加減算器AD2では、M座電圧VMに比例した補償信号EM*を上記電流制御補償回路Gi1(S)の出力信号に加算し、その信号em*を変換器CNV1のパルス幅変調制御回路PWM1に入力する。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1は、当該入力信号em*に比例した電圧VMcを発生する。
出力電圧VMcとM座電源電圧VMの差(VMc−VM)が単相変圧器TRmのもれインダクタンスLsmに印加され、補償電流IMcが流れる。当然のことながら、単相変圧器TRmの漏れインダクタンスが小さい場合には、当該変圧器TRmの1次または2次巻線に直列にリアクトルLsmoを挿入する場合もある。
IMc*>IMcとなった場合には、偏差εmが正となり、信号em*を増加させ、補償電流IMcを増やして、IMc*=IMcとなるように制御する。逆に、IMc*<IMcとなった場合には、偏差εmが負となり、信号em*を減少させ、補償電流IMcを減らして、やはり、IMc*=IMcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるM座入力電流IMsは、
[数5]
IMs=IML-IMc=IML-IMc*
=IML-(IML-IMs*)=IMs*
となるように制御される。この入力電流IMsは、M座電圧VMと同相(力率=1)の正弦波電流となる。
同様に、比較器C3により、T座補償電流検出値ITcと、上記補償電流指令値ITc*を比較し、その偏差εt=ITc*−ITcを、次の電流制御補償回路Gi2(S)により増幅し、加減算器AD4に入力する。加減算器AD4では、T座電圧VTに比例した補償信号ET*を上記電流制御補償回路Gi2(S)の出力信号に加算し、その信号et*を変換器CNV2のパルス幅変調制御回路PWM2に入力する。第2の電圧形自励式電力変換器CNV2は、当該入力信号et*に比例した電圧VTcを発生する。出力電圧VTcとT座電源電圧VTの差(VTc−VT)が単相変圧器TRtのもれインダクタンスLstに印加され、補償電流ITcが流れる。
ITc*>ITcとなった場合には、偏差εtが正となり、信号et*を増加させ、補償電流ITcを増やして、ITc*=ITcとなるように制御する。逆に、ITc*<ITcとなった場合には、偏差εtが負となり、信号et*を減少させ、補償電流ITcを減らして、やはり、ITc*=ITcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるT座入力電流ITsは、
[数6]
ITs=ITL-ITc=ITL-ITc*
=ITL-(ITL-ITs*)=ITs*
となるように制御される。この入力電流ITsは、T座電圧VTと同相(力率=1)の正弦波電流となる。ただし、T座負荷電流ITL=0となっている。
上記スコット結線変圧器TR1のM座、T座の電流IMsとITsは、同じ振幅値Ism*で、位相が90°ずれた2相平衡化電流となる。この結果、3相交流電源SUP1から供給される電流も3相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。
図11の装置のエネルギー蓄積装置ESSは、直流平滑コンデンサCdとエネルギーの授受を行うもので、例えば、双方向チョッパCHOと、直流リアクトルLdおよび電気二重層キャパシタEDLCで構成される。
図14は、エネルギー蓄積装置ESSの主回路構成と制御回路の構成を示すブロック図である。図中、Cdは直流平滑コンデンサ、CHOは双方向チョッパ、Ldは直流リアクトル、EDLCは電気二重層キャパシタをそれぞれ示す。また、制御回路として、第2の電力指令発生器Fe(x)、加減算器AD6〜AD8、比較器C4,C5、電圧制御補償回路H(S)、割り算器DV、電流制御補償回路Gi3(S)およびパルス幅変調制御回路PWM3を用意している。
双方向チョッパは、自己消弧素子Sx,Syと、高速ダイオードDx,Dyで構成され、パルス幅変調制御(PWM制御)により出力電圧Vchoを制御する。すなわち、直流平滑コンデンサCdの印加電圧をVdとした場合、
[数7]
Sxがオン(Syはオフ)のとき、Vcho=+Vd
Syがオン(Sxはオフ)のとき、Vcho=0
となる。当該出力電圧Vchoの平均値Vcho(av)は、チョッパのスイッチング周期Tに対し、自己消弧素子Sxのオン期間をTon(Syのオン期間はT−Tonとなる)とした場合、
[数8]
Vcho(av)=(Ton/T)×Vd
となる。
電気二重層キャパシタEDLCは、大容量のコンデンサであり、急速充放電ができ、寿命が永いなどの特徴を持っている。当該電気二重層キャパシタEDLCに印加される電圧Vedは、前記直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdより低くなる。
直流リアクトルLdには、双方向チョッパCHOの出力電圧Vchoと電気二重層キャパシタEDLCの電圧Vedとの差電圧が印加され、当該差電圧(Vcho−Ved)を調整することにより、直流リアクトルLdの電流Iedを制御することができる。
エネルギー蓄積装置ESSの双方向チョッパCHOは、次のように制御される。まず、負荷電力PLを検出し、その時間平均値PL(av)を求め、第2の電力指令発生器Fe(x)に入力する。第2の電力指令発生器Fe(x)は、負荷電力PL(av)に応じて、第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給する有効電力指令の和Pso*(=Ps1*+Ps2*)を与える。
また、電気二重層キャパシタEDLCの印加電圧Vedを検出し、比較器C4により、指令値Ved*との偏差εed=Ved*−Vedを求める。当該偏差εedを積分することにより、補償電力指令ΔPs*を求め、加算器AD6に入力する。
加算器AD6では、電力指令発生器Fe(x)からの出力信号Pso*と補償電力指令ΔPs*を加算し、第2の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給される有効電力の和の指令Ps*=Pso*+ΔPs*を作る。
さらに、次の加減算器AD7により、負荷電力検出値PL(av)と有効電力指令値Ps*との差をとり、電気二重層キャパシタEDLCから出力する有効電力指令値Ped*=PL(av)−Ps*を作る。割り算器DVは、有効電力指令値Ped*をEDLCの印加電圧Vedで割り算し、直流リアクトルLdに流れる電流の指令値Ied*を求める。
比較器C5により、電流指令値Ied*と前記直流リアクトルLdに流れる電流Iedの検出値との偏差εied=Ied*−Iedを作り、次の電流制御補償回路Gi3(S)により偏差εiedを反転増幅し、その出力信号e3*を加算器AD8に入力する。加算器AD8では、電気二重層キャパシタEDLCの電圧Vedに相当する補償信号Eed*を出力信号e3*に加え、制御信号echo*をチョッパ装置CHOのパルス幅変調制御回路PWM3に入力する。パルス幅変調制御回路PWM3は、チョッパ装置の自己消弧素子Sx,Syにゲート信号を送り、入力信号echo*に比例した電圧Vchoをチョッパ装置CHOから発生させる。
Ied*>Iedとなった場合、偏差εiedは正の値となり、それを反転増幅した出力信号e3*は負の値となり、PWM制御回路PWM3への制御信号echo*を減少させる。その結果、チョッパ装置CHOの出力電圧Vchoは減少し、直流リアクトルLdの印加電圧Ved−Vchoが増加し、電流Iedを図11の矢印の方向に増加させる。
逆に、Ied*<Iedとなった場合、偏差εiedは負の値となり、それを反転増幅した出力信号e3*は正の値となり、PWM制御回路PWM3への制御信号echo*を増加させる。その結果、チョッパ装置CHOの出力電圧Vchoが増加し、直流リアクトルLdの印加電圧Ved−Vchoが減少し、電流Iedを減少させる。このようにして、直流リアクトルLdに流れる電流Iedは、その指令値Ied*に一致するように制御される。
例えば、第2の電力指令発生器Fe(x)からの出力信号Pso*を一定とし、補償信号ΔPs*=0とした場合、第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給する有効電力の和の電力指令値Ps*=Pso*+ΔPs*は一定となり、力行負荷電力PL(av)が増えると、エネルギー蓄積装置ESSから供給する電力指令値Ped*=PL(av)−Ps*が増加し、直流リアクトルLdの電流Ied=Ied*を図11の矢印方向(放電方向)に増やす。その結果、電気二重層キャパシタEDLCの蓄積エネルギーが減少し、その印加電圧Vedも下がってくる。
その結果、Ved*>Vedとなり、その偏差εedは正の値となって、電圧制御補償回路H(S)の出力信号ΔPs*を徐々に増加させ、第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給する有効電力の和の電力指令値Ps*を増やす。従って、エネルギー蓄積装置ESSから供給する電力指令値Ped*=PL(av)−Ps*は減少し、さらには負の値となる。Ped*<0ということは、Ied=Ied*も負となり、電流Iedの向きが図11の矢印と反対となる。すなわち、充電電流が電気二重層キャパシタEDLCに供給され、電圧Vedを徐々に高くしていく。そしてついには、Ved=Ved*となるように制御される。電気二重層キャパシタEDLCの容量が大きい場合、充放電に伴う印加電圧Vedの変化は小さく、大略、Ved≒Ved*となっている。
図15は、図14の第2の電力指令発生器Fe(x)の特性例を示す図であり、力行負荷電力PL(av)がPLaに達するまでは、電力指令値Pso*は、Pso*=k・PL(av)として与える。ただし、kは比例定数で、k=0〜1の範囲で選ばれる。k=1として与えると、Pso*=PL(av)となり、負荷電力PL(av)の全ての有効電力を第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から与えることになる。第1の交流電源SUP1から供給する電力Ps1と第2の交流電源SUP2から供給する電力Ps2の割合は、図13で説明した電圧指令発生器Fd(x)の特性、すなわち、直流電圧Vdのレギュレーション特性によって決まる。例えば、Pso=Ps1+Ps2が一定の場合、直流電圧レギュレーションを大きくすると、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Ps2=Precの割合が増加し、第1の交流電源SUP1から供給される電力Ps1は減少する。
PL(av)が設定値PLaを越えると、有効電力指令値Pso*=PLaで一定とする。このとき、負荷電力PL(av)と第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給される電力Psoとの差分の電力Ped=PL(av)−Pso=PL(av)−PLaは、エネルギー蓄積装置ESSから供給することになる。
また、回生運転で、負荷電力PL(av)が−PLbに達するまでは、電力指令値Pso*は、Pso*=k・PL(av)として与える。k=1とした場合、Pso*=PL(av)となり、ダイオード整流器RECは電力回生ができないので、回生電力PL(av)の全てを第1の交流電源SUP1に回生するように制御される。
回生電力PL(av)が設定値−PLbを越えると、有効電力指令値Pso*=−PLbで一定とする。このとき、Ped=PL(av)−Pso=PL(av)+PLbの電力は、エネルギー蓄積装置ESSへ回生されることになる。
一般的に、電気鉄道では、力行負荷の時間が長く、回生負荷の時間は短くなる。図15の電力指令発生器Fe(x)の特性では、力行側の上限値PLaを大きくし、回生側の下限値PLbを小さく設定している。これにより、エネルギー蓄積装置ESSへの充放電エネルギーW=Ped×tが平均的にゼロとなり、電気二重層キャパシタEDLCの印加電圧をVed≒Ved*とすることができる。EDLCの印加電圧Vedが指令値Ved*からずれた場合には、上述のように補正電力指令ΔPs*が働き、徐々にVed=Ved*となるように制御される。
また、比例定数k=1とすることにより、負荷電力が、−PLb<PL(av)<PLaの範囲で運転する時には、Pso=PL(av)となり、エネルギー蓄積装置ESSから電力Pedを供給する必要がなくなる。すなわち、上記設定値を超えた場合にのみ、電気二重層キャパシタEDLCへのエネルギーの授受が発生するが、時間的には短時間であるため、当該電気二重層キャパシタEDLCの容量を小さく抑えられる利点がある。
図16は、図11の装置の力行運転時のM座、T座の電圧・電流ベクトル図である。T座負荷電流ITL=0で、M座負荷電流IMLは、電圧VMに対し若干の遅れ位相θとなっている。
負荷電力PL=VM×IML×cosθで、第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2からの供給電力Pso=Ps1+Ps2と、エネルギー蓄積装置ESSからの供給電力Pedの和に等しくなる。
第1の交流電源SUP1からのスコット結線変圧器TR1を介して供給される電流IMsおよびITsは、それぞれM座電圧VMおよびT座電圧VTと同相の正弦波に制御され、入力電力Ps1は、
[数9]
Ps1=IMs×VM+ITs×VT
となる。また、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2から供給する補償電流IMcおよびITcは、それぞれ、
[数10]
IMc=IML-IMs
ITc=ITL-ITs=-ITs
となる。M座の補償電流IMcには、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Ps2=Precとエネルギー蓄積装置ESSから供給される有効電力Pedが含まれており、第1の交流電源SUP1からは、Ps1=PL−(Ped+Ps2)が供給されることになる。
M座の有効電力PMsとT座の有効電力PTsは等しくなり、Ps1=PL−(Ped+Ps2)の半分をスコット結線変圧器のM座巻線から供給し、あとの半分をT座巻線から供給するようになる。T座巻線から供給される電力PTs=Ps1/2は、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2によって回生され、直流平滑コンデンサCdに供給される。すなわち、ITc=−ITsとなる。
さらに、その電力Ps1/2は、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1を介して単相交流き電線Faに供給される。そのとき、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Ps2とエネルギー蓄積装置ESSから供給される有効電力Pedと負荷の無効電力QL=VM×ILM×sinθも含めて第1の電圧形自励式電力変換器CNV1から供給され、スコット結線変圧器TRのM座巻線からは有効電力PMs=Ps1/2だけが供給されることになる。
第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2は、M座/T座間で電力融通を行うが、その電力容量は同じになる。しかし、エネルギー蓄積装置ESSを設置した場合、当該エネルギー蓄積装置ESSと単相交流き電線との間で授受される電力は、単相交流き電線側(M座)に交流出力端子が接続された第1の電圧形自励式電力変換器CNV1を介して授受される。
第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の出力容量を、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の出力容量より大きくすることにより、ダイオード整流器RECから供給する電力を大きくすることが可能となり、その分既設のM/G装置(周波数変換器)の負荷を軽減することが可能となる。また、エネルギー蓄積装置ESSとの間で授受される電力を大きくすることが可能となり、ピーク負荷電力に対する補償量を増やすことができ、第1の3相交流電源SUP1の負荷分担を減らすことができる。言い換えると、変電所設備容量の低減が図れる。
以上のように、本実施の形態の交流き電システムでは、電車負荷の回生エネルギーを蓄積し、力行負荷のときにそのエネルギーを放出することにより、エネルギーの有効利用と、第1の3相交流電源SUP1からの供給電力Ps1のピークカットが可能となる。すなわち、単相引き通し交流き電システムの実現と、変電所設備容量の低減および節電を図ることができる。
図17は、図11の装置の補償電流制御回路CONT1の別の具体的な構成を示すブロック図である。図中、Fs(x)は第1の電力指令発生器、Ksは比例要素、ASWはスイッチ回路、SHはレベル検出器、C1〜C3は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路を表す。
単相負荷Loadの電力PLは、交流き電線の周波数f1の2倍の周波数で変動する。当該負荷電力PLの検出値を時間平均化し、負荷電力の平均値PL(av)を求める。第1の電力指令発生器Fs(x)により、負荷電力平均値PL(av)に応じた第1の有効電力指令値Ps1*を作り、比例要素Ksを介して有効電流波高値指令Isma*に変換し、スイッチ回路ASWのa側端子に入力する。
一方、比較器C1により、直流電圧指令値Vd*と直流平滑コンデンサCdの印加電圧検出値Vdを比較し、その偏差εv=Vd*−Vdを次の電圧制御補償回路Gv(S)で、比例または積分増幅し、別の有効電流波高値指令Ismb*を作り、スイッチ回路ASWのb側端子に入力する。
レベル検出器SHは、負荷電力PL(av)を入力し、設定レベルPLoより大きいか小さいかを判断し、スイッチ回路ASWに切換え信号LBを送る。
PL(av)>PLoの場合、レベル検出器SHの出力信号LB=1となり、スイッチ回路ASWをa側に接続し、有効電流波高値指令Ism*=Isma*を乗算器M1,M2に入力する。すなわち、第1の電力指令値Ps1*に基づいて、補償電流を制御する。
このとき、前にも述べたように、補償電流IMcおよびITcは、それぞれの指令値IMc*およびITc*に一致するように制御され、その結果、スコット結線変圧器TR1のM座巻線電流IMsおよびT座巻線電流ITsは、次のように制御される。
[数11]
IMs=IML-IMc=IML-IMc*=IMs*=Isma*×sinωt
ITs=ITL-ITc=-ITc=ITc*=Isma*×cosωt
すなわち、第1の交流電源SUP1から供給される電力Ps1は前記第1の電力指令値Ps1*に一致するように制御される。
また、PL(av)<PLoの場合、レベル検出器SHの出力信号LB=0となり、スイッチ回路ASWをb側に接続し、有効電流波高値指令Ism*=Ismb*を乗算器M1,M2に入力する。すなわち、直流電圧制御回路からの信号Ismb*に基づいて、補償電流を制御する。
電圧指令値Vd*をダイオード整流器RECの無負荷整流電圧Vrecoより高く設定することにより、PL(av)<PLoのときは、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力Ps2はゼロとなる。
一方、エネルギー蓄積装置ESSは、図14で説明したと同様に制御される。すなわち、負荷電力PLを検出し、その時間平均値PL(av)を求め、第2の電力指令発生器Fe(x)に入力する。第2の電力指令発生器Fe(x)は、負荷電力時間平均値PL(av)に応じて、第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給する有効電力指令の和Pso*(=Ps1*+Ps2*)を与える。
また、電気二重層キャパシタEDLCの印加電圧Vedを検出し、比較器C4により、指令値Ved*との偏差εed=Ved*−Vedを求める。当該偏差εedを積分することにより、補償電力指令ΔPs*を求め、加算器AD6に入力する。
加算器AD6では、前記電力指令発生器Fe(x)からの出力信号Pso*と補償電力指令ΔPs*を加算し、第2の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給される有効電力の和の指令Ps*=Pso*+ΔPs*を作る。
さらに、次の加減算器AD7により、負荷電力検出値PL(av)と有効電力指令値Ps*との差をとり、電気二重層キャパシタEDLCから出力する有効電力指令値Ped*=PL(av)−Ps*を作る。割り算器DVは、有効電力指令値Ped*をEDLCの印加電圧Vedで割り算し、直流リアクトルLdに流れる電流の指令値Ied*を求める。
比較器C5により、当該電流指令値Ied*と前記直流リアクトルLdに流れる電流Iedの検出値との偏差εied=Ied*−Iedを作り、次の電流制御補償回路Gi3(S)により、当該偏差εiedを反転増幅し、その出力信号e3*を加算器AD8に入力する。加算器AD8では、電気二重層キャパシタEDLCの電圧Vedに相当する信号Eed*を上記信号e3*に加え、制御信号echo*をチョッパ装置CHOのパルス幅変調制御回路PWM3に入力する。
前述のように、Ied=Ied*となるように制御され、エネルギー蓄積装置ESSから供給される電力Pedは、Ped=Ped*=PL(av)−Ps*に制御される。
Ved*>Vedの場合、ΔPs*が増加し、Ps*も増加するので、Ped=Ped*が減少または負の値になる。その結果、電気二重層キャパシタEDLCの印加電圧Vedが上昇し、Ved*=Vedとなるように制御される。逆に、Ved*<Vedの場合、ΔPs*が減少し、同様に、Ved*=Vedとなるように制御される。
以上のように、図14の制御回路CONT2の第2の電力指令発生器Fe(x)により、第1の交流電源SUP1および第2の交流電源SUP2から供給する有効電力指令の和Pso*(=Ps1*+Ps2*)が決定され、また、図17の制御回路CONT1により、第1の交流電源SUP1から供給される電力Ps1=Ps1*が決定されるので、第2の交流電源SUP2からダイオード整流器RECを介して供給される電力は、自動的に、Ps2=Pso*−Ps1*になる。すなわち、ダイオード整流器RECの電圧レギュレーションにかかわらず、第1の交流電源SUP1からの供給電力Ps1と第2の交流電源SUP2からの供給電力Ps2=Precの配分を設定でき、最適な負荷分担での運転が可能となる。
図18は、図11の装置の別の運転特性例を示すもので、負荷電力PL(av)に対して、図17の第1の電力指令発生器Fs(x)は、
[数12]
0≦PL(av)≦PLa1の範囲で、Ps1*=PL(av)
PL(av)>PLa1で、Ps1*=PLa1=一定
としている。また、PL(av)<0では、直流電圧指令をVd*=一定として制御する。
さらに、図14の第2の電力指令発生器Fe(x)は、
[数13]
PL(av)<-PLbで、Pso*=PL(av)+PLb
-PLb≦PL(av)<0の範囲で、Pso*=0
0≦PL(av)≦PLa2の範囲で、Pso*=PL(av)
PL(av)>PLa2で、Pso*=PLa2=一定
としている。
この結果、エネルギー蓄積装置ESSから供給またはESSへ回生される電力の指令値Ped*=PL(av)−Ps*は、ΔPs*=0と仮定すると、
[数14]
PL(av)<-PLbで、Ped*=-PLb=一定
-PLb≦PL(av)<0の範囲で、Ped*=PL(av)
0≦PL(av)≦PLa2の範囲で、Ped*=0
PL(av)>PLa2で、Ped*=PL(av)-PLa2
となる。また、第1の交流電源SUP1から供給またはSUP1へ回生される電力Ps1は、
[数15]
PL(av)<-PLbで、Ps1=Pso*=PL(av)+PLb
-PLb≦PL(av)<0の範囲で、Ps1=Pso*=0
0≦PL(av)≦PLa1の範囲で、Ps1=Ps1*=PL(av)
PL(av)>PLa1で、Ps1=Ps1*=PLa1=一定
となる。さらに、ダイオード整流器RECから供給される電力Prec=Ps2は、
[数16]
PL(av)<PLa1で、Prec=0
PLa1≦PL(av)≦PLa2の範囲で、Prec=PL(av)-PLa1
PL(av)>PLa2で、Prec=Pso*-Ps1*=PLa2-PLa1=一定
となる。
すなわち、回生運転では、−PLb<PL(av)<0の範囲で、全ての回生電力をエネルギー蓄積装置ESSに蓄え、それ以上の回生電力(PL(av)+PLb)は、第1の交流電源SUP1にもどすようにしている。これにより、エネルギー蓄積を優先させ、蓄えたエネルギーを次の力行負荷に供給し、電力料金の節約を図ることができる。なお、エネルギー蓄積装置ESSの蓄積エネルギーが増えすぎた場合には、前述の補償電力ΔPs*が働き、当該エネルギー蓄積量はほぼ一定に保たれる。
また、力行負荷では、まず、第1の交流電源SUP1から電力Ps1=PL(av)が供給され、次に、ダイオード整流器RECを介して電力Ps2=Prec=PL(av)−PLa1が供給され、さらに負荷が増えると、エネルギー蓄積装置ESSからPed=PL(av)−PLa2が供給される。
これにより、第1の交流電源SUP1からの供給電力Ps1、第2の交流電源SUP2からの供給電力Ps2=Precおよびエネルギー蓄積装置ESSからの供給電力の配分を自由に選定することが可能となり、既設設備(M/G装置やスコット結線変圧器等)の効率的な運用と、エネルギーの有効利用による電気料金の節約が可能となる。
本実施の形態の装置では、既設の回転形周波数変換器(M/G装置)およびスコット結線変圧器TR1を介して供給される電力Ps1を減らすことができ、従来設備の容量低減が図れ、設備更新が容易になる。また、従来の回転形周波数変換器(M/G装置)に比較し、ダイオード整流器RECは、安価で高効率な静止形50Hz/60Hz周波数変換器として利用できる。
また、回生電力の一部または全部をエネルギー蓄積装置ESSに蓄えることができ、その蓄積されたエネルギーは、力行列車負荷が多くなったときに放出し、エネルギーの有効利用を図ることができる。これにより、電気料金の節約が図れ、交流電源から見た場合ピーク負荷電力の低減ができ、変電所設備容量の低減が可能となる。
(第3の実施の形態)図19は、本発明の第3の実施の形態の電気鉄道交流き電システムの構成図である。図中、SUP1は第1の交流電源、SUP2は第2の交流電源、TR1はスコット結線変圧器、Faは単相交流き電線、Loadは電車負荷、TRm,TRtは単相変圧器、CNV1,CNV2は電圧形自励式電力変換器、Cdは直流平滑コンデンサ、Lf,CfはLCフィルタを構成するリアクトルとコンデンサ、TR2は3相変圧器、CNV3は第3の電圧形自励式電力変換器(固定パルス位相制御コンバータ)、CONT1は電力変換器CNV1,CNV2から出力する補償電流IMc,ITcを制御する補償電流制御手段、CONT3は第3の電圧形自励式電力変換器CNV3の制御回路を示す。
補償電流制御手段CONT1は、有効電力指令発生回路Ps1−ref、補償電流指令発生回路Ic−ref、補償電流制御回路IMc−Cont,ITc−Contおよびパルス幅変調制御回路PWM1,PWM2で構成されている。
また、制御回路CONT3は、直流電圧制御回路Vd−Cont、有効電流制御回路Iq−Contおよび位相制御回路PHCで構成されている。
スコット結線変圧器TR1は、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)の3相交流電圧Vu,Vv,Vwを2相交流電圧VM,VTに変換するもので、当該2相電圧VMとVTは90°の位相差がある。この他、3相電圧を2相電圧に変換する変圧器の結線法として、変形ウッドブリッジ結線変圧器等がある。M座出力は単相交流き電線Faに接続し、T座はオープン(無負荷)とする。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の単相出力端子はM座端子に接続し、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の単相出力端子はT座端子に接続する。また、第2の交流電源SUP2(3相−50Hz)に、3相変圧器TR2を介して固定パルス位相制御コンバータCNV3の交流端子を接続し、当該コンバータCNV3の直流出力端子を前記直流平滑コンデンサCdに接続している。
直流平滑コンデンサCdに並列接続されたLCフィルタ(Lf,Cf)は、交流き電線の周波数(60Hz)の2倍の周波数に共振するようにリアクトルLfと、コンデンサCfの値を決める。交流き電線の周波数(60Hz)の2倍で変動する単相負荷に伴う電力変動分ΔPLをLCフィルタで吸収することにより、直流電圧の変動ΔVdを抑制する。この結果、直流平滑コンデンサCdの容量を小さくでき、かつ、直流電圧の変動ΔVdを大幅に低減できる。負荷急変などで過渡時にLCフィルタによる電気振動現象が懸念されるが、固定パルス位相制御コンバータCNV3により直流電圧制御を行っているため、電気振動を減衰させるダンパー作用が働き、安定なシステムを提供できる。
直流電圧Vdが安定化されることにより、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2による補償電流制御や第3の電圧形自励式電力変換器CNV3による制御も安定化され、制御性能の向上が図れる。また、電圧変動ΔVdが小さくなった分、電力変換器CNV1,CNV2,CNV3の耐圧マージンも下げることができ、より安価な装置を提供できる。
第3の電圧形自励式電力変換器CNV3は、一定のパルスパターン(例えば、1パルス,3パルス,5パルス,…など)で動作する固定パルス位相制御コンバータで、直流電圧Vdを一定とした場合、交流側出力電圧Vcの振幅値は一定となる。すなわち、第2の交流電源SUP2の電圧Vs(Vr,Vs,Vt)に対するコンバータCNV3の交流側出力電圧Vc(Vcr,Vcs,Vct)の位相角φを調整することにより、入力電流Is(Ir,Is,It)を制御する。
本実施の形態の装置では、力行・回生運転を通じて、直流電圧Vd=Vd*は、第3の電圧形自励式電力変換器CNV3によってほぼ一定に制御することができ、電圧レギュレーションをとる必要がないので、その分第1および第2の自励式電力変換器CNV1,CNV2の電圧利用率を上げることができる。
図20は、図19の装置の第3の電圧形自励式電力変換器CNV3の具体的な主回路構成とその制御回路を示す図である。図中、SUP2は第2の交流電源、TR2は3相変圧器、Cdは直流平滑コンデンサで図19と重複する。また、CNV3は3相ブリッジ結線された電圧形自励式電力変換器で、自己消弧素子S1〜S6,高速ダイオードD1〜D6で構成されている。また、制御回路CONT3として、比較器C1,C5、電圧制御補償回路Gv(S)、電流制御補償回路Giq(S)、座標変換器Z、同期位相信号発生器PLL、位相制御回路PHCを用意している。以下、この制御回路の動作を説明する。
図21は、図20の電圧形自励式電力変換器(固定パルス位相制御コンバータ)CNV3の動作を説明するための交流側等価回路(1相分)を示す図であり、Vsは第2の交流電源SUP2の電源電圧、VcはコンバータCNV3の交流側出力電圧、Lsは変圧器TR2のもれインダクタンス(または交流リアクトル)、Isは入力電流を表す。
また、図22は、等価回路における電圧・電流ベクトル図であり、電源電圧Vsに対し、コンバータCNV3の交流電圧Vcの位相角をφだけずらした場合、差電圧Vs−Vc=jωLs・Isが交流リアクトルLsに印加され、入力電流Isが流れる。電源電圧Vsの振幅値とコンバータCNV3の交流電圧Vcの基本波振幅値が等しいと仮定した場合、電源電圧Vsに対する入力電流Isの位相はφ/2となる。ゆえに、入力力率は、cos(φ/2)となる。
コンバータCNV3の交流電圧Vcの基本波振幅値は、直流電圧Vdによって決まり、直流電圧Vdは負荷側(この場合、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2)からの要求によって決定されるので、変圧器TR2により、電源電圧(変圧器TR2の2次電圧)VsとコンバータCNV3の交流電圧Vcの振幅値を合わせる。
位相角φを大きくすると、リアクトルLsの印加電圧が増加し、入力電流Isも増加する。位相角φを負にすると、リアクトルLsの印加電圧jωLs・Isの向きが反転し、入力電流はIs’のようなベクトルになって電力を電源SUP2に回生することができる。当然のことながら、位相角φ=0とすれば、入力電流Is=0とすることができる。
図23は、力行運転時の固定パルス(1パルス)位相制御コンバータCNV3の動作波形例を示すもので、1相分について表している。コンバータCNV3は、通常の3相ブリッジ結線された電圧形自励式電力変換器とし、R相分として、上アームの自己消弧素子S1と下アームの自己消弧素子S4を考え、それぞれに逆並列接続された高速ダイオードD1,D4を考える。
電源電圧Vrに対し、コンバータCNV3の交流電圧Vcrは位相角φだけ遅れている。電圧VrとVcrの基本波振幅値を同じにした場合、入力電流Irは、電源電圧Vrより、φ/2だけ遅れた電流となる。ここでは、説明を簡単にするため、電流Irの高調波成分を省略し、正弦波電流としている。
電流Ir>0のとき、自己消弧素子S4をオン(素子S1はオフ)すると、交流出力電圧はVcr=−Vd/2となり、下アームS4に電流IS4が流れる。電流Ir>0のとき、ωt=0で、自己消弧素子S4をオフし、素子S1をオンすると、交流出力電圧はVcr=+Vd/2となり、IS4=0となる。電流Irは上アームの高速ダイオードD1を通って流れ、電流Irが反転するまで、ID1=Irが流れる。電流がIr<0になると、素子S1がオンなので、素子S1に電流IS1が流れる。位相角ωt=πで、自己消弧素子S1をオフし、素子S4をオンすると、電圧Vcrは再び、Vcr=−Vd/2となり、IS1=0となり、下アームの高速ダイオードD4に電流ID4が流れる。
自己消弧素子S1およびS4の遮断電流Imaxは、入力電流Irの波高値をImとすると、Imax=Im×sin(φ/2)となり、例えば、制御位相角φ=20°とすると、Imax=0.174×Imとなる。すなわち、自己消弧素子S1,S4のスイッチング(オン/オフ動作)は入力電流Irのゼロクロス付近で行われ、自己消弧素子S1,S4の最大遮断電流Imaxは、電流波高値Imに対し十分小さく抑えることができる。この結果、電流遮断容量の小さい素子を使うことができ、経済的な変換器を提供できる。また、スイッチング損失が低減され、冷却設備容量の低減が図れる。さらに、コンバータCNV3の交流電圧Vcrは矩形波電圧となり、その基本波成分の波高値Vcmは、
[数17]
Vcm=(4/π)×(Vd/2)=1.273×(Vd/2)
となって、直流電圧(Vd/2)以上の値を得ることができる。すなわち、通常のPWM制御コンバータに比べ電圧利用率が高く、同じ耐圧の自己消弧素子で構成した場合、より大きな出力を発生できる利点がある。
図24は、回生運転時の固定パルス(1パルス)位相制御コンバータCNV3の動作波形を示す図であり、1相分について表している。電源電圧Vrに対し、コンバータCNV3の交流電圧Vcrは位相角φだけ進んでいる。入力電流Irは反転し、電源電圧Vrに対し、π−φ/2だけ遅れた位相となる。入力電力Pr=Vr×Irは負となり、電力を電源SUP2に回生することができる。このときの入力力率は、cos(π−φ/2)=cos(φ/2)となって、やはり、高力率で運転される。
ωt=0で、素子S1をオン(S4はオフ)すると、Vcr=+Vd/2となり、Ir>0なので、高速ダイオードD1に電流ID1=Irが流れる。電流Irが反転すると、自己消弧素子S1に電流が流れ始め、IS1=Irとなって流れる。ωt=πで、素子S1をオフし、素子S4をオンすると、高速ダイオードD4に電流ID4が流れ、さらに、電流Irが反転することにより、素子S4にIS4=Irが流れ始める。
回生運転では、入力電流Irの大部分が自己消弧素子S1又はS4を介して流れるが、このときも自己消弧素子S1,S4のスイッチング(オン/オフ)は、電流Irのゼロクロス付近で行われるので、素子S1,S4の最大遮断電流Imaxは、電流Irの波高値Imに対し、
[数18]
Imax=Im×sin(φ/2)
となり、例えば、φ=20°とすると、Imax=0.174×Imとなる。
以上は、説明を簡単にするため、コンバータCNV3の制御パルス数を1パルスとして説明したが、制御パルス数を3パルス,5パルス,…等にしても同様に制御できる。入力電流Irの高調波を減らすのに制御パルス数を増やすことが効果的であるが、その場合でも、スイッチング(オン/オフ動作)は、入力電流Irのゼロクロス付近で行われ、自己消弧素子の最大遮断電流Imaxは、小さく抑えることができる。また、コンバータCNV3の電圧利用率は、パルス数を増やした場合でも、上述の1パルス運転時の電圧利用率に近い値を確保できる。
図20において、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdは、固定パルス位相制御コンバータCNV3により、次のように制御される。直流電圧指令値Vd*=一定として説明する。
比較器C1により直流電圧指令値Vd*と直流電圧検出値Vdとを比較し、その偏差εvを電圧制御補償回路Gv(S)に入力し、比例または積分増幅することにより、第2の交流電源SUP2から供給される有効電流指令値Iq*を求める。また、第2の交流電源SUP2からの3相入力電流Ir,Is,Itを検出し、それを座標変換器により、3相/dq変換し、有効電流Iqと無効電流Idに分ける。比較器C5により、有効電流指令値Iq*と有効電流検出値Iqとを比較し、その偏差εqを次の電流制御補償回路Giq(S)に入力し、比例または積分増幅することにより、制御位相信号φ*を求める。
位相制御回路PHCでは、第2の交流電源SUP2の3相電圧Vr,Vs,Vtに同期した位相基準信号θr,θs,θtを入力し、制御位相信号φ*と比較して、コンバータCNV3のゲート信号を作る。コンバータの交流電圧Vcr,Vcs,Vctは、電源電圧Vr,Vs,Vtに対し、位相角φ=φ*だけずれ、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqが制御できる。
Iq*>Iqの場合、制御位相信号φ*(遅れ)が増え、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを増やす。逆に、Iq*<Iqの場合、制御位相信号φ*(遅れ)が負の値となり、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを減らす。これにより、Iq*=Iqに制御される。
Vd*>Vdとなった場合、偏差εvは正の値となり、それを電圧制御補償回路Gv(S)で増幅し、有効電流指令値Iq*を増やす。これにより、第2の交流電源SUP2から電力Ps2が供給され、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを増加させ、Vd*=Vdとなるように制御される。逆に、Vd*<Vdとなった場合、偏差εvは負の値となり、有効電流指令値Iq*を負の値にする。これにより、第2の交流電源SUP2へ電力Ps2が回生され、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを減少させ、やはり、Vd*=Vdとなるように制御される。
図25は、図19の装置の第3の電圧自励式電力変換器CNV3の制御回路CONT3の別の構成図である。図中、C1は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、PHCは位相制御回路を示す。
直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを検出する。比較器C1により、電圧指令値Vd*と電圧検出値Vdを比較し、偏差εv=Vd*−Vdを求める。次の電圧制御補償回路Gv(S)により、当該偏差εvを比例または積分増幅し、位相制御指令φ*として、位相制御回路PHCに入力する。すなわち、直流電圧制御回路Gv(S)から直接、位相制御回路PHCへ位相制御信号φ*を送る。
Vd*>Vdとなった場合、偏差εvは正となり、制御位相角指令φ*を増加させる。この制御位相角指令φ*は、第2の交流電源SUP2の電圧Vsに対するコンバータCNV3の交流電圧Vcの遅れ位相角φを決めるもので、図22で説明したように、φ*=φを増加させることにより、入力電流Isが増加する。結果的に、電源SUP2から供給される有効電力Ps2が増加し、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを上昇させ、Vd*=Vdとなるように制御される。逆に、Vd*<Vdとなった場合、偏差εvは負となり、制御位相角指令φ*は減少または負の値(進み位相)になる。φ<0となると、図22のベクトル図で、コンバータCNV3の交流電圧はVc’のようになり、入力電流Isのベクトルの向きが反転し、有効電力Ps2が交流電源SUP2に回生される。この結果、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdは下がり、やはり、Vd*=Vdとなるように制御される。以上のように、入力電流制御回路(マイナーループ)を省略することができ、制御回路の簡略化を図ることができる。
図26は、図19の装置の前記第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2から出力する補償電流IMc,ITcを制御する補償電流制御手段CONT1の具体的な構成を示す図である。図中、Fs(x)は電力指令発生器、Ksは比例要素、C2,C3は比較器、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路を表す。
第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)から供給される電力Ps1は、次のように制御される。電力指令発生器Fs(x)は、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に応じて、第1の交流電源SUP1から供給する電力Ps1の指令値Ps1*を与えるもので、比例定数Ksを乗じることによりスコット結線変圧器TR1のM座、T座巻線電流IMs,ITsの波高値指令Ism*とする。
乗算器M1により、入力電流波高値指令Ism*とスコット結線変圧器TR1のM座電圧VMに同期した単位正弦波sinωtとを乗じ、M座入力電流指令IMs*=Ism*×sinωtを出力する。乗算器M2により、入力電流波高値指令Ism*とスコット結線変圧器TR1のT座電圧VTに同期した単位正弦波cosωtとを乗じ、T座入力電流指令ITs*=Ism*×cosωtを出力する。
加減算器AD1により、M座負荷電流IMLの検出値からM座入力電流指令値IMs*を引き算し、M座補償電流指令値IMc*=IML−IMs*を求める。同様に、加減算器AD3により、T座負荷電流ITLの検出値からT座入力電流指令値ITs*を引き算し、T座補償電流指令値ITc*=ITL−ITs*を求める。ただし、ITL=0となっている。
比較器C2により、M座補償電流検出値IMcと、補償電流指令値IMc*を比較し、その偏差εm=IMc*−IMcを、次の電流制御補償回路Gi1(S)により増幅し、加減算器AD2に入力する。加減算器AD2では、M座電圧VMに比例した補償信号EM*を電流制御補償回路Gi1(S)の出力信号に加算し、その信号em*を変換器CNV1のパルス幅変調制御回路PWM1に入力する。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1は、当該入力信号em*に比例した電圧VMcを発生する。当該出力電圧VMcとM座電源電圧VMの差(VMc−VM)が単相変圧器TRmのもれインダクタンスLsmに印加され、補償電流IMcが流れる。当然のことながら、単相変圧器TRmの漏れインダクタンスが小さい場合には、当該変圧器TRmの1次または2次巻線に直列にリアクトルLsmoを挿入する場合もある。
IMc*>IMcとなった場合には、偏差εmが正となり、信号em*を増加させ、補償電流IMcを増やして、IMc*=IMcとなるように制御する。逆に、IMc*<IMcとなった場合には、偏差εmが負となり、信号em*を減少させ、補償電流IMcを減らして、やはり、IMc*=IMcとなるように制御する。この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるM座入力電流IMsは、IMs=IML−IMc=IML−IMc*=IML−(IML−IMs*)=IMs*となるように制御される。この入力電流IMsは、M座電圧VMと同相(力率=1)の正弦波電流となる。
同様に、比較器C3により、T座補償電流検出値ITcと、補償電流指令値ITc*を比較し、その偏差εt=ITc*−ITcを、次の電流制御補償回路Gi2(S)により増幅し、加減算器AD4に入力する。加減算器AD4では、T座電圧VTに比例した補償信号ET*を上記電流制御補償回路Gi2(S)の出力信号に加算し、その信号et*を変換器CNV2のパルス幅変調制御回路PWM2に入力する。第2の電圧形自励式電力変換器CNV2は、当該入力信号et*に比例した電圧VTcを発生する。出力電圧VTcとT座電源電圧VTの差(VTc−VT)が単相変圧器TRtのもれインダクタンスLstに印加され、補償電流ITcが流れる。
ITc*>ITcとなった場合には、偏差εtが正となり、信号et*を増加させ、補償電流ITcを増やして、ITc*=ITcとなるように制御する。逆に、ITc*<ITcとなった場合には、偏差εtが負となり、信号et*を減少させ、補償電流ITcを減らして、やはり、ITc*=ITcとなるように制御する。この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるT座入力電流ITsは、ITs=ITL−ITc=ITL−ITc*=ITL−(ITL−ITs*)=ITs*となるように制御される。この入力電流ITsは、T座電圧VTと同相(力率=1)の正弦波電流となる。ただし、T座負荷電流ITL=0となっている。スコット結線変圧器TR1のM座、T座の電流IMsとITsは、同じ振幅値Ism*で、位相が90°ずれた2相平衡化電流となる。この結果、第1の3相交流電源SUP1から供給される電流も3相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。こうして、スコット結線変圧器TR1の容量を軽減できるだけでなく、第1の交流電源SUP1の設備やM/G装置の容量も軽減することができる。
図27は、図26の制御回路CONT1の電力指令発生器Fs(x)の特性の一例を示すもので、負荷電力PL(av)に対し、第1の交流電源SUP1からの電力指令値Ps1*を次のように与えている。すなわち、設定値PLoとした場合、−PLo<PL(av)<+PLoの範囲では、Ps1*=PL(av)とし、全ての負荷電力PLを第1の交流電源SUP1から供給または回生する。また、PL(av)<−PLoでは、Ps1*=−PLo=一定とし、また、PL(av)>+PLoではPs1*=+PLo=一定としている。すなわち、回生運転で、PL(av)<−PLoの場合、第1の交流電源SUP1に回生する電力はPs1=−PLo=一定とし、それ以上の回生電力(PL(av)−PLo)は、固定パルス位相制御コンバータCNV3を介して、第2の交流電源SUP2に回生する。
また力行運転で、PL(av)>+PLoの場合、第1の交流電源SUP1から供給する電力はPs1=+PLo=一定とし、それ以上の供給電力(PL(av)−PLo)は、固定パルス位相制御コンバータCNV3を介して、第2の交流電源SUP2から供給する。
これにより、本実施の形態では、既存設備(M/G装置やスコット結線変圧器など)の容量を増やすことなく、電車負荷への供給電力や回生電力の容量を増やすことが可能となり、経済的な電気鉄道交流き電システムを提供できる。
図28は、図19の装置の力行運転時のM座、T座の電圧・電流ベクトル図である。T座負荷電流ITL=0で、M座負荷電流IMLは、電圧VMに対し若干の遅れ位相θとなっている。負荷電力はPL=VM×IML×cosθで、第1の交流電源SUP1からの供給電力Ps1および第2の交流電源SUP2からの供給電力Ps2の和Pso=Ps1+Ps2に等しくなる。
第1の交流電源SUP1からのスコット結線変圧器TR1を介して供給される電流IMsおよびITsは、それぞれM座電圧VMおよびT座電圧VTと同相の正弦波に制御され、入力電力Ps1は、Ps1=IMs×VM+ITs×VTとなる。また、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2から供給する補償電流IMcおよびITcは、それぞれ、
[数19]
IMc=IML-IMs
ITc=ITL-ITs=-ITs
となる。M座の補償電流IMcには、第2の交流電源SUP2から固定パルス位相制御コンバータCNV3を介して供給される有効電力Ps2と負荷の無効電力QLが含まれており、第1の交流電源SUP1からは、有効電力Ps1=PL−Ps2が供給されることになる。
M座の有効電力PMs=IMs×VMとT座の有効電力PTs=ITs×VTは等しくなり、有効電力Ps1の半分をスコット結線変圧器TR1のM座巻線から供給し、あとの半分をT座巻線から供給するようになる。T座巻線から供給される電力PTs=Ps1/2は、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2によって回生され、直流平滑コンデンサCdに供給される。すなわち、Tc=−ITsとなる。さらに、その電力Ps1/2は、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1を介して単相交流き電線Faに供給される。そのとき、第2の交流電源SUP2から固定パルス位相制御コンバータCNV3を介して供給される電力Ps2と負荷の無効電力QL=VM×ILM×sinθも含めて第1の電圧形自励式電力変換器CNV1から供給され、スコット結線変圧器TR1のM座巻線からは有効電力PMs=IMs×VM=Ps1/2だけが供給されることになる。
第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の出力容量を、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の出力容量より大きくすることにより第2の交流電源SUP2から供給する電力Ps2を大きくすることができ、その分、第1の交流電源SUP1から供給する電力Ps1を小さくできる。言い換えると、既存のM/G装置(周波数変換器)やスコット結線変圧器などの設備容量の低減が図れる。
(第4の実施の形態)図29は、本発明の第4の実施の形態の電気鉄道交流き電システムの構成図である。図中、SUP1は第1の交流電源、SUP2は第2の交流電源、TR1はスコット結線変圧器、Faは単相交流き電線、Loadは電車負荷、TRm,TRtは単相変圧器、SWt,SWm,SW1,SW2は開閉器、CNV1,CNV2は電圧形自励式電力変換器、Cdは直流平滑コンデンサ、Lf,CfはLCフィルタを構成するリアクトルとコンデンサ、TR2は3相変圧器、CNV3は固定パルス位相制御コンバータ、CONT1は前記電力変換器CNV1,CNV2から出力する補償電流IMc,ITcを制御する補償電流制御手段、CONT3は前記固定パルス位相制御コンバータCNV3の制御回路を示す。
スコット結線変圧器TR1は、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)の3相交流電圧Vu,Vv,Vwを2相交流電圧VM,VTに変換するもので、当該2相電圧VMとVTは90°の位相差がある。スコット結線変圧器TR1のM座巻線は開閉器SWmを介して単相交流き電線Faに接続する。また、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の単相出力端子は単相変圧器TRmおよび開閉器SW1を介して単相交流き電線Faに接続する。さらに、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の単相出力端子は単相変圧器TRtおよび開閉器SWtを介してスコット結線変圧器TR1のT座端子に接続する。通常の運転では、開閉器SWt,SWmおよびSW1が投入され、開閉器SW2が開放された状態で運転される。
また、第2の交流電源SUP2(3相−50Hz)に、3相変圧器TR2を介して固定パルス位相制御コンバータCNV3の交流端子を接続し、当該コンバータCNV3の直流出力端子を前記直流平滑コンデンサCdに接続している。直流平滑コンデンサCdに並列接続されたLCフィルタ(Lf,Cf)は、交流き電線の周波数(60Hz)の2倍の周波数に共振するようにリアクトルLfと、コンデンサCfの値を決める。交流き電線の周波数(60Hz)の2倍で変動する単相負荷に伴う電力変動分ΔPLをLCフィルタで吸収することにより、直流電圧の変動ΔVdを抑制する。この結果、直流平滑コンデンサCdの容量を小さくでき、かつ、直流電圧の変動ΔVdを大幅に低減できる。負荷急変などで過渡時にLCフィルタによる電気振動現象が懸念されるが、固定パルス位相制御コンバータCNV3により直流電圧制御を行っているため、電気振動を減衰させるダンパー作用が働き、安定なシステムを提供できる。
コンバータCNV3は、一定のパルスパターン(例えば、1パルス,3パルス,5パルス,…など)で動作する電圧形自励式電力変換器で、直流電圧Vdを一定とした場合、交流側出力電圧Vcの振幅値は一定となる。そこで、第2の交流電源SUP2の電圧Vs(Vr,Vs,Vt)に対するコンバータCNV3の交流側出力電圧Vc(Vcr,Vcs,Vct)の位相角φを調整することにより、入力電流Is(Ir,Is,It)を制御する。その動作は、図20〜図24で既に説明したので省略する。
図30は、図29の装置の補償電流制御手段CONT1、図31はコンバータCNV3の制御回路CONT3の具体的な構成を示す図である。図中、ASW1〜ASW4は信号切換え器、Fs(x)は電力指令発生器、Ksは比例要素、C1〜C3,C6は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S),Giq(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路、PHCは位相制御回路を表す。
直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdは、固定パルス位相制御コンバータCNV3により、次のように制御される。直流電圧指令値Vd*=一定として説明する。比較器C1により直流電圧指令値Vd*と直流電圧検出値Vdとを比較し、その偏差εvを電圧制御補償回路Gv(S)に入力し、比例または積分増幅することにより、第2の交流電源SUP2から供給される有効電流指令値Iq*を求める。また、第2の交流電源SUP2からの3相入力電流Ir,Is,Itを検出し、それを座標変換(3相/dq変換)することにより、有効電流Iqと無効電流Idに分ける。
比較器C6により、有効電流指令値Iq*と有効電流検出値Iqとを比較し、その偏差εqを次の電流制御補償回路Giq(S)に入力し、比例または積分増幅することにより、制御位相信号φ*を求める。
位相制御回路PHCでは、第2の交流電源SUP2の3相電圧Vr,Vs,Vtに同期した位相基準信号θr,θs,θtを入力し、制御位相信号φ*と比較して、コンバータCNV3のゲート信号を作る。コンバータの交流電圧Vcr,Vcs,Vctは、電源電圧Vr,Vs,Vtに対し、制御位相角φ*だけずれ、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを制御する。Iq*>Iqの場合、制御位相信号φ*(遅れ)が増え、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを増やす。逆に、Iq*<Iqの場合、制御位相信号φ*(遅れ)が負の値となり、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを減らす。これにより、Iq*=Iqに制御される。また、Vd*>Vdとなった場合、偏差εvは正の値となり、それを電圧制御補償回路Gv(S)で増幅し、有効電流指令値Iq*を増やす。これにより、第2の交流電源SUP2から電力Ps2が供給され、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを増加させ、Vd*=Vdとなるように制御される。逆に、Vd*<Vdとなった場合、偏差εvは負の値となり、有効電流指令値Iq*を負の値にする。これにより、第2の交流電源SUP2へ電力Ps2が回生され、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを減少させ、やはり、Vd*=Vdとなるように制御される。
一方、信号切換え器ASW1〜ASW4が全てb側に接続されているとき、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)から供給される電力Ps1は、次のように制御される。
電力指令発生器Fs(x)は、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に応じて、第1の交流電源SUP1から供給する電力Ps1の指令値Ps1*を与えるもので、比例定数Ksを乗じることによりスコット結線変圧器TR1のM座、T座巻線電流IMs,ITsの波高値指令Ism*とする。
乗算器M1により、入力電流波高値指令Ism*とスコット結線変圧器TR1のM座電圧VMに同期した単位正弦波sinωtとを乗じ、M座入力電流指令IMs*=Ism*×sinωtを出力する。乗算器M2により、入力電流波高値指令Ism*とスコット結線変圧器TR1のT座電圧VTに同期した単位正弦波cosωtとを乗じ、T座入力電流指令ITs*=Ism*×cosωtを出力する。
加減算器AD1により、M座負荷電流IMLの検出値からM座入力電流指令値IMs*を引き算し、M座補償電流指令値IMc*=IML−IMs*を求める。同様に、加減算器AD3により、T座負荷電流ITLの検出値からT座入力電流指令値ITs*を引き算し、T座補償電流指令値ITc*=ITL−ITs*を求める。ただし、ITL=0となっている。比較器C2により、M座補償電流検出値IMcと、補償電流指令値IMc*を比較し、その偏差εm=IMc*−IMcを、次の電流制御補償回路Gi1(S)により増幅し、加減算器AD2に入力する。加減算器AD2では、M座電圧VMに比例した補償信号EM*を上記電流制御補償回路Gi1(S)の出力信号に加算し、その信号em*を変換器CNV1のパルス幅変調制御回路PWM1に入力する。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1は、入力信号em*に比例した電圧VMcを発生する。
出力電圧VMcとM座電源電圧VMの差(VMc−VM)が単相変圧器TRmのもれインダクタンスLsmに印加され、補償電流IMcが流れる。当然のことながら、前記単相変圧器TRmの漏れインダクタンスが小さい場合には、変圧器TRmの1次または2次巻線に直列に交流リアクトルLsmoを挿入する場合もある。IMc*>IMcとなった場合には、偏差εmが正となり、信号em*を増加させ、補償電流IMcを増やして、IMc*=IMcとなるように制御する。逆に、IMc*<IMcとなった場合には、偏差εmが負となり、信号em*を減少させ、補償電流IMcを減らして、やはり、IMc*=IMcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるM座入力電流IMsは、
[数20]
IMs=IML-IMc=IML-IMc*=IML-(IML-IMs*)=IMs*
となるように制御される。この入力電流IMsは、M座電圧VMと同相(力率=1)の正弦波電流となる。
同様に、比較器C3により、T座補償電流検出値ITcと、補償電流指令値ITc*を比較し、その偏差εt=ITc*−ITcを、次の電流制御補償回路Gi2(S)により増幅し、加減算器AD4に入力する。加減算器AD4では、T座電圧VTに比例した補償信号ET*を上記電流制御補償回路Gi2(S)の出力信号に加算し、その信号et*を変換器CNV2のパルス幅変調制御回路PWM2に入力する。第2の電圧形自励式電力変換器CNV2は、入力信号et*に比例した電圧VTcを発生する。
出力電圧VTcとT座電源電圧VTの差(VTc−VT)が単相変圧器TRtのもれインダクタンスLstに印加され、補償電流ITcが流れる。ITc*>ITcとなった場合には、偏差εtが正となり、信号et*を増加させ、補償電流ITcを増やして、ITc*=ITcとなるように制御する。逆に、ITc*<ITcとなった場合には、偏差εtが負となり、信号et*を減少させ、補償電流ITcを減らして、やはり、ITc*=ITcとなるように制御する。
この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるT座入力電流ITsは、
[数21]
ITs=ITL-ITc=ITL-ITc*=ITL-(ITL-ITs*)=ITs*
となるように制御される。この入力電流ITsは、T座電圧VTと同相(力率=1)の正弦波電流となる。ただし、T座負荷電流ITL=0となっている。
スコット結線変圧器TR1のM座、T座の電流IMsとITsは、同じ振幅値Ism*で、位相が90°ずれた2相平衡化電流となる。この結果、第1の3相交流電源SUP1から供給される電流も3相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。この結果、スコット結線変圧器TR1の容量を軽減できるだけでなく、第1の交流電源SUP1の設備やM/G装置の容量も軽減することができる。
図29の装置において、何らかの原因で、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)が故障し、給電できなくなった場合を考える。その場合、一旦、装置の運転を停止し、スコット結線変圧器TR1のM座巻線およびT座巻線に接続された開閉器SWm,SWtを開放する。次に、開閉器SW2を投入し、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の単相出力端子を単相交流き電線Faに接続する。すなわち、単相交流き電線Faに対し、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV2を並列接続する。
ここで、図30の制御回路で、信号切換え器ASW1〜ASW4を全てa側に切換えて、再び運転を開始する。信号切換え器ASW1をa側に接続することにより、第1の交流電源SUP1から給電される有効電力の指令値Ps1*=0とする。ゆえに、IMs*=0,ITs*=0となる。また、信号切換え器ASW2とASW3をa側に接続することにより、負荷電流IMLの1/2ずつを、それぞれ、加減算器AD1およびAD3に入力する。従って、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2から供給される補償電流指令値IMc*,ITc*は、それぞれ、IMc*=IML/2−IMs*=IML/2と、ITc*=IML/2−ITs*=IML/2で与えられる。さらに、信号切換え器ASW4をa側に接続することにより、M座電圧VM(単相交流き電線Faの電圧)に比例した補償信号EM*を加減算器AD4に入力する。これにより、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2は、補償信号EM*に比例した電圧VMを発生し、かつ、それぞれ、負荷電流IMLの1/2ずつを分担するように制御される。
このように、本実施の形態によれば、1つの変電所からの給電が停止されたとしても、隣接変電所からの給電により、単相交流き電線Faの電圧VMが確立している場合、その電圧VMを基準にした補償信号EM*を用いることにより、単相引き通しの交流き電システムが達成できる。また、第3の電圧形自励式電力変換器(固定パルス位相制御コンバータ)CNV3は、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdが指令値Vd*=一定に一致するように制御する。すなわち、負荷電力PLの全てを第2の交流電源SUP2から供給することになる。このとき、単相交流き電線Faには、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2を介して電力を供給するので、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2を有効に活用でき、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の負荷を軽減させることができる。
(第5の実施の形態)図32は、本発明の第5の実施の形態の電気鉄道交流き電システムの構成図である。図中、SUP1は第1の交流電源、SUP2は第2の交流電源、TR1はスコット結線変圧器、Faは単相交流き電線、Loadは新幹線電車負荷、TRm,TRtは単相変圧器、CNV1,CNV2は電圧形自励式電力変換器、Cdは直流平滑コンデンサ、Lf,CfはLCフィルタを構成するリアクトルとコンデンサ、TR2は3相変圧器、HB−CNVはハイブリッドコンバータ、CONT1は電力変換器CNV1,CNV2から出力する補償電流IMc,ITcを制御する補償電流制御手段、CONT3はハイブリッドコンバータHB−CNVの制御回路を示す。
補償電流制御手段CONT1は、有効電力指令発生回路Ps1−ref、補償電流指令発生回路Ic−ref、補償電流制御回路IMc−Cont,ITc−Contおよびパルス幅変調制御回路PWM1,PWM2で構成されている。また、制御回路CONT3は、電圧制御回路Vd−Cont、有効電流制御回路Iq−Contおよび位相制御回路PHCで構成されている。
スコット結線変圧器TR1は、第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)の3相交流電圧Vu,Vv,Vwを2相交流電圧VM,VTに変換するもので、当該2相電圧VMとVTは90°の位相差がある。
M座出力は単相交流き電線Faに接続し、T座はオープン(無負荷)とする。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の単相出力端子は単相変圧器TRmを介してスコット結線変圧器TR1のM座端子に接続し、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の単相出力端子は単相変圧器TRtを介してスコット結線変圧器TR1のT座端子に接続する。また、第2の交流電源SUP2(3相−50Hz)に、3相変圧器TR2を介してハイブリッドコンバータHB−CNVの交流端子を接続し、当該コンバータHB−CNVの直流出力端子を前記直流平滑コンデンサCdに接続している。
直流平滑コンデンサCdに並列接続されたLCフィルタ(Lf,Cf)は、交流き電線の周波数(60Hz)の2倍の周波数に共振するようにリアクトルLfと、コンデンサCfの値を決める。交流き電線の周波数(60Hz)の2倍で変動する単相負荷に伴う電力変動分ΔPLをLCフィルタで吸収することにより、直流電圧の変動ΔVdを抑制する。
この結果、本実施の形態では、直流平滑コンデンサCdの容量を小さくでき、かつ、直流電圧の変動ΔVdを大幅に低減できる。負荷急変などで過渡時にLCフィルタによる電気振動現象が懸念されるが、固定パルス位相制御コンバータCNV3により直流電圧制御を行っているため、電気振動を減衰させるダンパー作用が働き、安定なシステムを提供できる。また、直流電圧Vdが安定化されることにより、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2による補償電流制御やハイブリッドコンバータによる制御も安定化され、制御性能の向上が図れる。また、電圧変動ΔVdが小さくなった分、電力変換器CNV1,CNV2やハイブリッドコンバータHB−CNVの耐圧マージンも下げることができ、より安価な装置を提供できる。
ハイブリッドコンバータHB−CNVは、電力用ダイオード整流器RECと電圧形自励式電力変換器CNVを組み合わせたもので、一定のパルスパターン(例えば、1パルス,3パルス,5パルス,…など)で動作するコンバータHB−CNVの交流側出力電圧Vc(Vcr,Vcs,Vct)の第2の交流電源SUP2の電圧Vs(Vr,Vs,Vt)に対する位相角φを調整することにより、入力電流Is(Ir,Is,It)の有効分Iqを制御し、結果的に、直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを制御する。
本実施の形態の装置では、力行・回生運転を通じて、直流電圧Vd=Vd*は、ハイブリッドコンバータHB−CNVによってほぼ一定に制御することができ、電圧レギュレーションをとる必要がないので、その分第1および第2の自励式電力変換器CNV1,CNV2の電圧利用率を上げることができる。
図33は、図32の装置のハイブリッドコンバータHB−CNVの具体的な主回路構成とその制御回路CONT3を示す図である。第2の交流電源SUP2、3相変圧器TR2および直流平滑コンデンサCdは、図32と重複して描いている。図中、RECは電力用ダイオード整流器であり、電力用ダイオードPD1〜PD6で構成されている。また、CNVは電圧形自励式電力変換器で、自己消弧素子S1〜S6と高速ダイオードD1〜D6で構成されている。Laは交流リアクトルで、自己消弧素子S1〜S6のスイッチング動作に伴い、電力用ダイオードPD1〜PD6に流れるリカバリ電流を抑制する役目を果たす。また、制御回路CONT3として、比較器C1,C6、電圧制御補償回路Gv(S)、電流制御補償回路Giq(S)、座標変換器Z、同期位相信号発生器PLL、位相制御回路PHCを用意している。
直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdは、ハイブリッドコンバータHB−CNVにより、次のように制御される。直流電圧指令値Vd*=一定として説明する。比較器C1により、直流電圧指令値Vd*と直流電圧検出値Vdとを比較し、その偏差εvを電圧制御補償回路Gv(S)に入力し、比例または積分増幅することにより、第2の交流電源SUP2から供給される有効電流指令値Iq*を求める。また、第2の交流電源SUP2からの3相入力電流Ir,Is,Itを検出し、それを座標変換(3相/dq変換)することにより、有効電流Iqと無効電流Idに分ける。比較器C6により、有効電流指令値Iq*と有効電流検出値Iqとを比較し、その偏差εqを次の電流制御補償回路Giq(S)に入力し、比例または積分増幅することにより、制御位相信号φ*を求める。
位相制御回路PHCでは、第2の交流電源SUP2の3相電圧Vr,Vs,Vtに同期した位相基準信号θr,θs,θtを入力し、制御位相信号φ*と比較して、ハイブリッドコンバータHB−CNVのゲート信号を作る。ハイブリッドコンバータHB−CNVの交流電圧Vcr,Vcs,Vctは、上述のように、電源電圧Vr,Vs,Vtに対し、位相角φ=φ*だけずれ、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqが制御できる。Iq*>Iqの場合、制御位相信号φ*(遅れ)が増え、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを増やす。逆に、Iq*<Iqの場合、制御位相信号φ*(遅れ)が負の値となり、入力電流Ir,Is,Itの有効分Iqを減らす。これにより、Iq*=Iqに制御される。また、Vd*>Vdとなった場合、偏差εvは正の値となり、それを電圧制御補償回路Gv(S)で増幅し、有効電流指令値Iq*を増やす。これにより、第2の交流電源SUP2から電力Ps2が供給され、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを増加させ、Vd*=Vdとなるように制御される。逆に、Vd*<Vdとなった場合、偏差εvは負の値となり、有効電流指令値Iq*を負の値にする。これにより、第2の交流電源SUP2へ電力Ps2が回生され、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを減少させ、やはり、Vd*=Vdとなるように制御される。
以下、本実施の形態の装置におけるハイブリッドコンバータHB−CNVの動作を説明する。図34は、ハイブリッドコンバータHB−CNVの動作を説明するための1相分の主回路構成を示す図である。図中、PD1,PD4は電力用ダイオード、S1,S4は自己消弧素子、D1,D4は高速ダイオード、Laは交流リアクトル、Vdは直流平滑コンデンサCdの直流印加電圧を表している。入力電流Isは交流であるが、図の矢印の方向に流れている場合を仮定して説明する。
モード(i)の前に、電流Isは電力用ダイオードPD1を介して流れている。モード(i)で、自己消弧素子S4がオンすると、入力電流Isは交流リアクトルLaを介して自己消弧素子S4に流れる。そのとき、電力用ダイオードPD1には、直流電圧源VdからPD1→交流リアクトルLa→自己消弧素子S4の経路でリカバリ電流が流れる。このリカバリ電流の(di/dt)を抑えるのが、交流リアクトルLaである。この交流リアクトルLaがないと、過大なリカバリ電流が電力用ダイオードPD1や自己消弧素子S4に流れ、損失の増大や素子破壊を引き起こす。
次に、モード(ii)で、自己消弧素子S4をオフし、S1をオンすると、交流リアクトルLaの電流Iaはすぐにはゼロにならず、高速ダイオードD1を介して流れる。続くモード(iii)では、高速ダイオードD1の電流が徐々に減衰し、電力用ダイオードPD1に電流が移っていく。すなわち、一般に電力用ダイオードPD1の順方向電圧降下VFaに比較し、高速ダイオードD1の順方向電圧降下VFbの方が大きいので、その差電圧(Vb−Va)により、交流リアクトルLaの電流が減衰し、入力電流Isが高速ダイオードD1から電力用ダイオードPD1に移っていく。最終的に、モード(iv)のように、入力電流Isは電力用ダイオードPD1を介して流れるようになる。交流リアクトルLaは、下アームの電力用ダイオードPD4のリカバリ電流を抑制する役目も果たす。
図35は、力行運転時のハイブリッドコンバータHB−CNVの動作波形例を示すもので、1相分(R相)について表している。ハイブリッドコンバータHB−CNVは、3相ブリッジ結線された電力ダイオード整流器RECと電圧形自励式電力変換器CNVを組み合わせたもので、R相分として、電力用ダイオードPD1,PD4と、自己消弧素子S1,S4および、当該自己消弧素子S1,S4のそれぞれに逆並列接続された高速ダイオードD1,D4を考える。
電源電圧Vrに対し、コンバータHB−CNVの交流電圧Vcrは位相角φだけ遅れている。電圧VrとVcrの基本波振幅値を同じにした場合、入力電流Irは、電源電圧Vrより、φ/2だけ遅れた電流となる。ここでは、説明を簡単にするため、電流Irの高調波成分を省略し、正弦波電流としている。電流Ir>0のとき、自己消弧素子S4をオン(素子S1はオフ)すると、交流出力電圧はVcr=−Vd/2となり、下アーム自己消弧素子S4に電流IS4が流れる。電流Ir>0のとき、ωt=0で、自己消弧素子S4をオフし、素子S1をオンすると、交流出力電圧はVcr=+Vd/2となり、IS4=0となる。電流Irは、まず、上アームの高速ダイオードD1を通ってID1が流れ、上述のように、高速ダイオードD1の順方向電圧降下Vbが電力用ダイオードPD1の順方向電圧降下Vaより大きいので、徐々に、交流リアクトルLaの電流Iaが減衰して電力用ダイオードPD1に転流していく。すなわち、ID1が減衰し、IPD1が増加して、最終的にIPD1=Irとなる。電流Irが反転するまで、IPD1=Irが流れる。そして電流がIr<0になると、素子S1がオンなので、素子S1に電流IS1が流れる。
位相角ωt=πで、自己消弧素子S1をオフし、素子S4をオンすると、電圧Vcrは再び、Vcr=−Vd/2となり、IS1=0となり、まず、下アームの高速ダイオードD4に電流ID4が流れる。高速ダイオードD4の順方向電圧降下Vbが電力用ダイオードPD4の順方向電圧降下Vaより大きいので、徐々に、交流リアクトルLaの電流Iaが減衰して電力用ダイオードPD4に転流していく。すなわち、ID4が減衰し、IPD4が増加して、最終的にIPD4=Irとなる。電流Irが再び反転するまで、IPD4=Irが流れる。
自己消弧素子S1およびS4の遮断電流Imaxは、入力電流Irの波高値をImとすると、Imax=Im×sin(φ/2)となり、例えば、制御位相角φ=20°とすると、Imax=0.174×Imとなる。すなわち、自己消弧素子S1,S4のスイッチング(オン/オフ動作)は、入力電流Irのゼロクロス付近で行われ、自己消弧素子S1,S4の最大遮断電流Imaxは、電流波高値Imに対し十分小さく抑えることができる。この結果、本実施の形態では電流遮断容量の小さい素子を使うことができ、経済的な変換器を提供できる。また、スイッチング損失が低減され、冷却設備容量の低減が図れる。さらに、ハイブリッドコンバータHB−CNVの交流電圧Vcrは矩形波電圧となり、その基本波成分の波高値Vcmは、
[数22]
Vcm=(4/π)×(Vd/2)=1.273×(Vd/2)
となって、直流電圧(Vd/2)以上の値を得ることができる。すなわち、通常のPWM制御コンバータに比べ電圧利用率が高く、同じ耐圧の自己消弧素子で構成した場合、より大きな出力を発生できる利点がある。S相,T相も同様に制御される。
以上のように、本実施の形態の装置を構成するハイブリッドコンバータHB−CNVでは、力行運転時の入力電流Ir,Is,Itの大部分は電力用ダイオードPD1〜PD6を通って流れ、自己消弧素子S1〜S6や高速ダイオードD1〜D6に流れる電流は抑制される。このため、力行負荷電力が回生電力より大きくなる電気鉄道システムでは、交高率な運転が可能となり、また、従来のPWMコンバータに比較すると、より経済的なシステムを提案することができる利点がある。
図36は、図32の装置のハイブリッドコンバータHB−CNVの制御回路CONT3の別の回路例である。図中、C1は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、PHCは位相制御回路を示す。
直流平滑コンデンサCdに印加される電圧Vdを検出する。比較器C1により、電圧指令値Vd*と電圧検出値Vdを比較し、偏差εv=Vd*−Vdを求める。次の電圧制御補償回路Gv(S)により、当該偏差εvを比例または積分増幅し、位相制御指令φ*として、位相制御回路PHCに入力する。すなわち、直流電圧制御回路Gv(S)から直接、位相制御回路PHCへ位相制御信号φ*を送る。Vd*>Vdとなった場合、偏差εvは正となり、制御位相角指令φ*を増加させる。この制御位相角指令φ*は、第2の交流電源SUP2の電圧Vsに対するハイブリッドコンバータHB−CNVの交流電圧Vcの遅れ位相角φを決めるもので、制御位相角指令φ*=φを増加させることにより、入力電流Isが増加する。結果的に、電源SUP2から供給される有効電力Ps2が増加し、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdを上昇させ、Vd*=Vdとなるように制御される。
逆に、Vd*<Vdとなった場合、偏差εvは負となり、制御位相角指令φ*は減少または負の値(進み位相)になる。φ<0となると、入力電流Isのベクトルの向きが反転し、有効電力Ps2が交流電源SUP2に回生される。この結果、直流平滑コンデンサCdの印加電圧Vdは下がり、やはり、Vd*=Vdとなるように制御される。以上のように、入力電流制御回路(マイナーループ)を省略することができ、制御回路の簡略化を図ることができる。
図37は、図32の装置の第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2の補償電流制御手段CONT1の具体的な構成を示す図である。図中、Fs(x)は電力指令発生器、Ksは比例要素、C2,C3は比較器、Gv(S)は電圧制御補償回路、M1,M2は乗算器、AD1〜AD4は加減算器、Gi1(S),Gi2(S)は電流制御補償回路、PWM1,PWM2はパルス幅変調制御回路を表す。
第1の交流電源SUP1(3相−60Hz)から供給される電力Ps1は、次のように制御される。電力指令発生器Fs(x)は、負荷電力PLの時間平均値PL(av)に応じて、第1の交流電源SUP1から供給する電力Ps1の指令値Ps1*を与えるもので、比例定数Ksを乗じることによりスコット結線変圧器TR1のM座、T座巻線電流IMs,ITsの波高値指令Ism*とする。
乗算器M1により、入力電流波高値指令Ism*とスコット結線変圧器TR1のM座電圧VMに同期した単位正弦波sinωtとを乗じ、M座入力電流指令IMs*=Ism*×sinωtを出力する。乗算器M2により、入力電流波高値指令Ism*とスコット結線変圧器TR1のT座電圧VTに同期した単位正弦波cosωtとを乗じ、T座入力電流指令ITs*=Ism*×cosωtを出力する。加減算器AD1により、M座負荷電流IMLの検出値からM座入力電流指令値IMs*を引き算し、M座補償電流指令値IMc*=IML−IMs*を求める。同様に、加減算器AD3により、T座負荷電流ITLの検出値からT座入力電流指令値ITs*を引き算し、T座補償電流指令値ITc*=ITL−ITs*を求める。ただし、ITL=0となっている。
比較器C2により、M座補償電流検出値IMcと、補償電流指令値IMc*を比較し、その偏差εm=IMc*−IMcを、次の電流制御補償回路Gi1(S)により増幅し、加減算器AD2に入力する。加減算器AD2では、M座電圧VMに比例した補償信号EM*を電流制御補償回路Gi1(S)の出力信号に加算し、その信号em*を変換器CNV1のパルス幅変調制御回路PWM1に入力する。第1の電圧形自励式電力変換器CNV1は、当該入力信号em*に比例した電圧VMcを発生する。
出力電圧VMcとM座電源電圧VMの差(VMc−VM)が単相変圧器TRmのもれインダクタンスLsmに印加され、補償電流IMcが流れる。当然のことながら、単相変圧器TRmの漏れインダクタンスが小さい場合には、当該変圧器TRmの1次または2次巻線に直列に交流リアクトルLsmoを挿入する場合もある。
IMc*>IMcとなった場合には、偏差εmが正となり、信号em*を増加させ、補償電流IMcを増やして、IMc*=IMcとなるように制御する。逆に、IMc*<IMcとなった場合には、偏差εmが負となり、信号em*を減少させ、補償電流IMcを減らして、やはり、IMc*=IMcとなるように制御する。この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるM座入力電流IMsは、
[数23]
IMs=IML-IMc=IML-IMc*=IML-(IML-IMs*)=IMs*
となるように制御される。この入力電流IMsは、M座電圧VMと同相(力率=1)の正弦波電流となる。
同様に、比較器C3により、T座補償電流検出値ITcと、補償電流指令値ITc*を比較し、その偏差εt=ITc*−ITcを、次の電流制御補償回路Gi2(S)により増幅し、加減算器AD4に入力する。加減算器AD4では、T座電圧VTに比例した補償信号ET*を電流制御補償回路Gi2(S)の出力信号に加算し、その信号et*を変換器CNV2のパルス幅変調制御回路PWM2に入力する。第2の電圧形自励式電力変換器CNV2は、当該入力信号et*に比例した電圧VTcを発生する。
出力電圧VTcとT座電源電圧VTの差(VTc−VT)が単相変圧器TRtのもれインダクタンスLstに印加され、補償電流ITcが流れる。ITc*>ITcとなった場合には、偏差εtが正となり、信号et*を増加させ、補償電流ITcを増やして、ITc*=ITcとなるように制御する。逆に、ITc*<ITcとなった場合には、偏差εtが負となり、信号et*を減少させ、補償電流ITcを減らして、やはり、ITc*=ITcとなるように制御する。この結果、スコット結線変圧器TR1から供給されるT座入力電流ITsは、
[数24]
ITs=ITL-ITc=ITL-ITc*=ITL-(ITL-ITs*)=ITs*
となるように制御される。この入力電流ITsは、T座電圧VTと同相(力率=1)の正弦波電流となる。ただし、T座負荷電流ITL=0となっている。
スコット結線変圧器TR1のM座、T座の電流IMsとITsは、同じ振幅値Ism*で、位相が90°ずれた2相平衡化電流となる。この結果、第1の3相交流電源SUP1から供給される電流も3相平衡化された力率=1の正弦波電流となる。この結果、スコット結線変圧器TR1の容量を軽減できるだけでなく、第1の交流電源SUP1の設備やM/G装置の容量も軽減することができる。
図38は、図37の電力指令発生器Fs(x)の特性例を示す図であり、負荷電力PL(av)に対し、第1の交流電源SUP1からの電力指令値Ps1*を次のように与えている。
[数25]
Ps1*=k×PL(av) (ただし、k=0~1)
例えば、k=0.5とした場合、負荷電力PL(av)の半分が第1の交流電源SUP1から供給され、残りの半分が第2の交流電源SUP2から供給される。すなわち、第2の交流電源SUP2からハイブリッドコンバータHB−CNVを介して供給(又は回生)される電力Ps2は、
[数26]
Ps2=Phb=PL(av)-Ps1*=(1-k)・Ps1*
となる。係数kを変えることにより、第1の交流電源SUP1から供給(または回生)される電力Ps1と第2の交流電源SUP2から供給される(または回生)される電力Ps2の配分を調整することができる。
図39は、図37の電力指令発生器Fs(x)の別の特性例を示す図であり、負荷電力PL(av)に対し、第1の交流電源SUP1からの電力指令値Ps1*を次のように与えている。すなわち、設定値PLoとした場合、−PLo<PL(av)<+PLoの範囲では、Ps1*=PL(av)とし、全ての負荷電力PLを第1の交流電源SUP1から供給または回生する。PL(av)<−PLoでは、Ps1*=−PLo=一定とし、また、PL(av)>+PLoではPs*=+PLo=一定としている。
すなわち、回生運転で、PL(av)<−PLoの場合、第1の交流電源SUP1に回生する電力はPs1=−PLo=一定とし、それ以上の回生電力(PL(av)−PLo)は、ハイブリッドコンバータHB−CNVを介して、第2の交流電源SUP2に回生する。また力行運転で、PL(av)>+PLoの場合、第1の交流電源SUP1から供給する電力はPs1=+PLo=一定とし、それ以上の供給電力(PL(av)−PLo)は、ハイブリッドコンバータHB−CNVを介して、第2の交流電源SUP2から供給する。
これにより、本実施の形態によれば、既存設備(M/G装置やスコット結線変圧器など)の容量を増やすことなく、電車負荷への供給電力や回生電力の容量を増やすことが可能となり、経済的な電気鉄道交流き電システムを提供できる。
図40は、図32の装置の力行運転時のM座、T座の電圧・電流ベクトル図である。T座負荷電流ITL=0で、M座負荷電流IMLは、電圧VMに対し若干の遅れ位相θとなっている。負荷電力はPL=VM×IML×cosθで、第1の交流電源SUP1からの供給電力Ps1および第2の交流電源SUP2からの供給電力Ps2との和Pso=Ps1+Ps2に等しくなる。
第1の交流電源SUP1からのスコット結線変圧器TR1を介して供給される電流IMsおよびITsは、それぞれM座電圧VMおよびT座電圧VTと同相の正弦波に制御され、入力電力Ps1は、
[数27]
Ps1=IMs×VM+ITs×VT
となる。また、第1および第2の電圧形自励式電力変換器CNV1,CNV2から供給する補償電流IMcおよびITcは、それぞれ、
[数28]
IMc=IML-IMs
ITc=ITL-ITs=-ITs
となる。M座の補償電流IMcには、第2の交流電源SUP2からハイブリッドコンバータHB−CNVを介して供給される有効電力Ps2と負荷の無効電力QLが含まれており、第1の交流電源SUP1からは、有効電力Ps1=PL−Ps2が供給されることになる。
M座の有効電力PMs=IMs×VMとT座の有効電力PTs=ITs×VTは等しくなり、有効電力Ps1の半分をスコット結線変圧器TR1のM座巻線から供給し、あとの半分をT座巻線から供給するようになる。
T座巻線から供給される電力PTs=Ps1/2は、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2によって回生され、直流平滑コンデンサCdに供給される。すなわち、ITc=−ITsとなる。さらに、その電力Ps1/2は、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1を介して単相交流き電線Faに供給される。そのとき、第2の交流電源SUP2からハイブリッドコンバータHB−CNVを介して供給される電力Ps2と負荷の無効電力QL=VM×ILM×sinθも含めて第1の電圧形自励式電力変換器CNV1から供給され、スコット結線変圧器TR1のM座巻線からは有効電力PMs=IMs×VM=Ps1/2だけが供給されることになる。
本実施の形態では、第1の電圧形自励式電力変換器CNV1の出力容量を、第2の電圧形自励式電力変換器CNV2の出力容量より大きくすることにより第2の交流電源SUP2から供給する電力Ps2を大きくすることができ、その分、第1の交流電源SUP1から供給する電力Ps1を小さくできる。言い換えると、既存のM/G装置(周波数変換器)やスコット結線変圧器などの設備容量の低減が図れる。