JP3810470B2 - パラジクロロベンゼン組成物及びその製造方法並びにその組成物からなるパラジクロロベンゼン製剤 - Google Patents

パラジクロロベンゼン組成物及びその製造方法並びにその組成物からなるパラジクロロベンゼン製剤 Download PDF

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
この発明は、パラジクロロベンゼンを主成分とする組成物及びその製造方法並びにその組成物を主成分とする製剤に係り、特に、内部に揮散性添加剤と常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤とが略均一な分散状態で封じ込められたパラジクロロベンゼンの組成物及びその製造方法並びに製剤に関する。
【0002】
【従来の技術】
パラジクロロベンゼンは強力な防虫及び防臭作用を有し、その錠剤は衣料品等の防虫剤やトイレ等の防臭剤として用いられている。このパラジクロロベンゼン錠剤は、パラジクロロベンゼン結晶の一定量を打錠して所定の形状、例えばタブレット状、ボール状あるいは棒状等に成型したものであり、この錠剤を衣料品等と共にタンス等の収納具内に入れておくと、この錠剤からパラジクロロベンゼンが昇華してその気体成分が収納具内に揮散し、防虫効果を発揮し、また、トイレ等に設置すれば防臭効果を発揮する。
【0003】
しかるに、このパラジクロロベンゼンは独特の臭気を有し、通常の使用条件でも気体成分の揮散量が多くなると鼻を突く刺激臭となる。このため、この刺激臭を軽減させる方法として、フレーク状のパラジクロロベンゼン固形物の表面に液体状の香料成分を噴霧付着させ、粉砕し打錠し成型して錠剤として用いられている。これによって、パラジクロロベンゼンの気体成分と共に揮散する香料成分によりパラジクロロベンゼンの刺激臭を緩和するものである。
【0004】
しかし、この場合には、香料成分が専らフレーク状のパラジクロロベンゼンの表面に付着しているだけであるため、先にこの香料成分が揮散してしまい、長期に亘って芳香を発散させることが難しく、使用初期には香料成分の芳香が強く、使用に従ってこの芳香が弱くなり、ついにはパラジクロロベンゼン特有の刺激臭のみになってしまう、という問題がある。
【0005】
また、従来においては、固体状のパラジクロロベンゼン中に添加できる香料成分の添加量は、通常0.01〜0.3重量%、好ましくは0.1〜0.3重量%の範囲とされている。これは、添加量が0.01重量%より少ないと、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭を緩和する効果が少なく、反対に、0.3重量%より多くなると、添加された香料成分が液体状であって常温でパラジクロロベンゼンの表面に存在するため、打錠時にこの添加剤が錠剤表面に滲み出てしまう。また、パラジクロロベンゼン錠剤の使用時に添加剤が衣料品等に付着してシミ等の原因になるからである。
【0006】
更に、パラジクロロベンゼン錠剤には、最低限その形状を保てるだけの強度が要求されるが、液体状の添加剤の濃度が高くなるとそれだけ錠剤の強度が低下し、通常0.3重量%を越えて高くなると錠剤形状を維持するだけの強度を付与するのが困難になる。そこで、この点からも、錠剤製造のためにパラジクロロベンゼン固形物中に添加可能な香料成分等の液体状添加剤の添加量は0.3重量%程度が限界であるとされていた。
【0007】
そして、パラジクロロベンゼン錠剤については、メントン等の防虫作用と防かび作用とを有する芳香物質を添加し、防虫、防かび効果を高めると共にパラジクロロベンゼン特有の刺激臭を軽減することが知られており(特開昭62−283903号公報)、また、レモングラス油、タイムホワイト油、ピメント油等の防虫作用を有する天然植物精油をパラジクロロベンゼンに1〜30重量%の割合で混合し、防虫作用の向上とパラジクロロベンゼン特有の刺激臭の軽減とを図る方法も知られている(特開平5−286818号公報)。
【0008】
しかしながら、この方法においても、フレーク状のパラジクロロベンゼン固形物の表面に0.5重量%以上の添加剤を加えているので、打錠時に滲み出しや錠剤強度の低下等の問題が発生し、錠剤中に1〜10重量%の芳香物質や天然植物精油を混入させることは困難であった。
【0009】
更に、特開平6−199605号公報においては、パラジクロロベンゼンの溶融液中に天然植物精油又はその抽出成分を溶解するか、あるいは、パラジクロロベンゼンと天然植物精油又はその抽出成分との混合物を溶融し、得られた溶融液を自然放冷するか、あるいは、氷水中で急冷することにより、パラジクロロベンゼンの固形物中に天然植物精油又はその抽出成分が封じ込められたパラジクロロベンゼン固形物及びこれを用いた製剤が提案されている。
【0010】
しかしながら、天然植物精油又はその抽出成分からなる添加剤を溶解したパラジクロロベンゼン溶融液を自然放冷して凝固させると、パラジクロロベンゼンはゆっくりと凝固し、その過程で添加剤が滲出して分離してしまい、凝固したパラジクロロベンゼン固形物中に含まれる添加剤濃度が低く、大部分の添加剤が固形物表面に滲出して付着した状態で存在し、0.5重量%以上の添加剤を用いて得られたパラジクロロベンゼン固形物を打錠しても錠剤内部には0.3重量%程度しか残存しない。また、錠剤強度も手でにぎった時につぶれてしまうほどの強度であった。
【0011】
また、天然植物精油又はその抽出成分からなる添加剤を溶解したパラジクロロベンゼン溶融液を氷水中で急冷して凝固させる方法においては、得られたパラジクロロベンゼン固形物を脱水する必要が生じ、厄介な廃水処理をしなければならなくなるほか、パラジクロロベンゼン固形物中に300ppm程度の水分が不可避的に残留し、これが原因して本来白色であるべきパラジクロロベンゼン錠剤が使用時に褐変(褐色への変化)して外観や使用感を損ねるという問題が生じる。
【0012】
更にまた、パラジクロロベンゼンはその性質上保存中に固結し、塊状になって打錠時に取り扱いが困難になるので、これを防止するため、フレーク調製時又は調製されたフレークに固結防止剤を添加することが知られている。
例えば、特開昭62−148435号公報や特公昭42−1006号公報においては、添加剤として0.005〜1.0重量%の範囲で有機酸アミド等からなる固結防止剤を含むパラジクロロベンゼン溶融液をドラムフレーカーで凝固させ、表面を固結防止剤で被ったフレーク状のパラジクロロベンゼン固形物を製造する方法が開示されており、またこの際に、20℃に冷却されたバット中で0.005〜1.0重量%の固結防止剤を含んだパラジクロロベンゼン溶融液をフレーク状に凝固させることも開示されている。
【0013】
しかしながら、これらの公報には運転条件が明示されておらず、また、添加剤が固形物表面を覆うような形で残存させているので、添加剤が局在化し、初期の固結防止効果を発揮させることはできるが、保存中に添加剤が揮散してしまい、長時間に亘って十分な固結防止効果を発揮させることは困難であった。
【0014】
また、特開昭48−15836号公報には、パラジクロロベンゼンの固形物の表面に着色剤を吹き付けてパラジクロロベンゼン固形物を着色することが記載されており、更に、特公昭49−13966号公報においては、着色剤を高濃度に添加した固形状のパラジクロロベンゼンと着色剤添加のない白色のパラジクロロベンゼンフレークとを混ぜ合わせて適度に着色したパラジクロロベンゼンフレークを調製する方法が提案されている。
【0015】
しかしながら、前者の方法においては、着色剤が固形物の表面にしか存在しないためにその色彩を長時間維持することは難しく、また、後者の方法においても、着色剤とパラジクロロベンゼンとの間の親和性が悪いために、パラジクロロベンゼンフレークを適度に、かつ、均一に着色することが困難であるという問題がある。
【0016】
一方、特開平2−204402号公報には、パラジクロロベンゼン等の活性薬剤を最大で1.0重量%まで添加する技術として、その活性薬剤をゼオライト等の多孔性材に付着させ、それとナフタリン等の昇華性薬剤とを機械的に混合した後に打錠成形してなる防虫剤が提案されている。
しかしながら、このような防虫剤は、活性薬剤を多孔性材の空隙部表面に付着させることにより活性薬剤の単位時間における揮散量が増大する効果が得られる反面、その活性薬剤のみが先に揮散してしまう問題がある。
【0017】
また、特開平7−206605号公報においては、コンポスト向けの防虫剤として、殺虫成分を含有したパラジクロロベンゼンからなる防虫成分にエチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース等のセルロース系化合物を混合して賦型する防虫剤が提案されている。
しかし、この防虫剤は、少量のセルロース系化合物を配合して賦型することにより、その賦型の際の断熱圧縮でパラジクロロベンゼン粉末表面の一部が溶融してそこにセルロース粉末が溶着してコーティングされる結果、パラジルロロベンゼンの揮散が抑制(遅延)されるようになっているため、パラジルロロベンゼンによる防虫効果が損なわれて十分に発揮されない問題がある。
【0018】
さらに、特開平8−81324号公報においては、天然植物油又はその抽出成分を0.5重量%程度含有するパラジクロロベンゼンからなるフレーク状防虫剤組成物を製造する技術として、パラジクロロベンゼンと天然植物油等の混合溶液を攪拌しながら冷水の冷温を利用して急冷することによりフレーク状固化物を得る製造方法が提案されている。
しかし、この製造技術の場合、その実施例等に示されているように、一辺が1〜3mmの矩形状のフレーク状固化物を約30分間かけてゆっくりと固化させて得ているため、生産性が低いことに加え、天然植物油等がパラジクロロベンゼンの固体その厚さ方向に対して局在化し(濃度分布にばらつきが生じ)均一に分散しない問題がある。特に、その天然植物油等の不均一分散により、その揮散も不均一になってしまう問題もある。
【0019】
この他、従来においては、以下に例示するようなポリマー等を併用して構成される防虫剤等がいくつか提案されているが、そのいずれも種々の問題点を有している。
【0020】
例えば、特公昭47−27937号公報には、スチレン−ブタジエン共重合樹脂に揮散性殺虫成分を全樹脂に対して5〜30%の割合で配合して成形する殺虫剤が示されている。
しかし、この防虫剤は、樹脂が主成分であるため、揮散性の低い殺虫成分ではその揮散が少なくなって十分な殺虫効果が得られず、また、その製造に際しては射出成形、押出成形等を採用するためプラスッチック専用の高価な成形機を使用しなければならず、更に、その使用に際しては揮発成分の揮散が終了した段階における重量変化や外観的変化等がほとんどないため防虫剤の交換時期を判別しにくい、等の不具合があった。
【0021】
また、特開平6−207162号公報には、感熱性ポリマーを揮散抑制剤として含有させて揮散成分の揮散を抑制する揮散型製剤が示されているが、これは、感熱性ポリマーが高温時に凝集もしくはゲル化することにより水系組成物中の揮散成分の揮散を抑制するものであるため、液体状の製剤や、微孔もしくは毛細管を介して有効成分を揮散させる製剤に限定されてしまい、固形状等の製剤には適用することができない。
【0022】
さらに、特公昭59−27784号公報には、熱可塑性エラストマーに液状にした揮散性薬剤を多量吸収させた芳香剤等の製剤について示されている。
しかし、これは、パラジクロロベンゼンを樟脳と香料とともに液状にしてポリブタジエン系の熱可塑性エラストマーに吸収させる場合を例示しているものの、パラジクロロベンゼンを多量に吸収させることが難しいためパラジクロロベンゼンを主成分とする製剤を形成することができず、しかも、パラジクロロベンゼンを吸収した熱可塑性エラストマーを打錠成型することは困難であり製剤形態が制約される問題がある。また、熱可塑性エラストマーに液状の揮散性薬剤を十分に吸収させるにはその両者を約1日ちかく放置する必要があるため、生産性に劣るものである。
【0023】
【発明が解決しようとする課題】
従って、本発明の目的は、0.3重量部を越えるような比較的多量の揮散性添加剤が固形物内部に略均一な分散状態で、滲み出すこともなく封じ込められ、また、パラジクロロベンゼンの揮散性を変化させることなく、揮散性添加剤の使用初期(使用後4週間)の揮散性が十分に抑えられるとともにその後の揮散性が任意に制御されて、使用初期から使用後期に至るまで長期にわたってパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の成分が所望の比率で揮散されるパラジクロロベンゼン組成物を提供することにある。
【0024】
また、本発明の他の目的は、このように固形物内部に揮散性添加剤が略均一な分散状態で封じ込められ、パラジクロロベンゼンの揮散に合わせ揮散性添加剤の揮散性が適切に制御されたパラジクロロベンゼン組成物を工業的に有利に製造するための方法を提供することにある。
【0025】
さらに、本発明の他の目的は、製剤内部に添加剤が略均一な分散状態で封じ込められており、使用初期から使用後期に至るまで長期にわたってパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤を所望の割合で揮散させることのできるパラジクロロベンゼン製剤を提供することにある。
【0026】
【課題を解決するための手段】
すなわち、本発明は、パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%と、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とからなり、その揮散性添加剤と保留剤がパラジクロロベンゼンの固形物内部に略均一に分散されているパラジクロロベンゼン組成物である。
【0027】
また、本発明は、パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%を溶融した溶融液に、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とを溶解又は分散し、得られた混合液を間接冷却凝固装置の冷却面で急冷して凝固させることにより、揮散性添加剤と保留剤が略均一に分散されたパラジクロロベンゼンの固形物を得るパラジクロロベンゼン組成物の製造方法である。
【0028】
更に、本発明は、上記したようなパラジクロロベンゼン組成物を製剤化して得られたものであって、この製剤内部に揮散性添加剤及び保留剤が略均一な分散状態で封じ込められているパラジクロロベンゼン製剤である。
【0029】
本発明において、原材料として使用するパラジクロロベンゼンとしては、それが防虫剤や防臭剤として製剤化可能なものであればどのような製造方法で製造されたものであってもよく、特に制限はない。
また、このパラジクロロベンゼンに揮散性添加剤及び保留剤や着色剤等を添加して形成されるパラジクロロベンゼン固形物の形状についても特に制限はなく、間接冷却凝固装置の冷却面から薄片状固形物として剥し採ったそのままの形状であっても、これを粉砕し、あるいは、篩等で分級して製剤化し易い形状、例えば顆粒状に調製したものであってもよい。
【0030】
本発明においては、このようなパラジクロロベンゼン固形物中に添加される揮散性添加剤としては、植物精油、植物精油の抽出成分、動物抽出物、香料、ピレスロイド系殺虫剤、合成防虫殺虫剤及び揮散性固結防止剤から選ばれた1種又は2種以上の混合物であり、最終的に製造されるパラジクロロベンゼン製剤の用途等に応じて適宜選択して単独であるいは併用して使用される。
【0031】
例えば、パラジクロロベンゼン製剤が衣料用防虫剤として使用される場合、防虫作用のある植物精油、殺菌又は防かび作用のある植物精油及び香料の3種類の成分を併用して使用すると、香料のマスキング作用によりパラジクロロベンゼン特有の刺激臭が和らげられると共に、このパラジクロロベンゼンの防虫作用と植物精油が有する防虫作用や殺菌又は防かび作用とが相乗効果を発揮し、害虫や菌又はかびから衣料をより強力に保護することができる。
【0032】
これらの揮散性添加剤のうち、植物精油、植物精油の抽出成分、動物抽出物、香料及びピレスロイド系殺虫剤のほとんどは常温液体状である。一部の揮散性添加物は常温で固体状であるが、適当な溶剤(例えば植物精油、固結防止剤当)に溶解させて液状とした後、あるいは、直接パラジクロロベンゼン溶融液に溶解させて均一に溶解又は分散させることができる。
【0033】
この添加剤の植物精油としては、例えば、防虫作用のあるナツメグ油、チョウジ油、セージ油、タイム油、ラベンダー油、バジル油、ヒノキ油、レモングラス油、カッシャ油、ピメント油、月桃油等や、芳香消臭作用のあるビターアーモンド油、ヒノキ油、ナツメグ油、ゼラニウム油、ラベンダー油、ライム油、ペパーミント油、ベチパー油、スイートオレンジ油、タイム油等や、殺菌又は防かび作用のあるカラシ油、西洋ワサビ油、ヒバ油、タイム油、チョウジ油、ナツメグ油、ヒノキ油等が挙げられる。
【0034】
また、植物精油の抽出成分としては、例えば、防虫作用のあるαビネン、オイゲノール、ツヨン、チモール、ヒノキチオール、シンナミックアルデヒト、カルバクロール等や、芳香消臭作用のあるベンズアルデヒド、αビネン、ゲラニオール、シトロネラール、リナロール、リモネン、メントール、酢酸リナリル、アミルシンナミックアルデヒド、アンスラニン酸メチル、イソオイゲノール、カブロン酸アリル、酢酸イソブチル、酢酸ベンジル、サリチル酸イソアミル、シトラール、デシルアルデヒド、ヒドロキシシトロネラール、酢酸イソアミル等や、殺菌又は防かび作用のあるチモール、カルバクロール、ビオゾール等のイソプロピルメチルフェノール類や、同じく殺菌又は防かび作用のあるアリルイソチオシアネート、トランス−4−メチルチオ−3−ブテニルイソチオシアネート、フェニルエチルイソチオシアネート等のイソチオシアネート類が挙げられる。
【0035】
更に、動物抽出物としては、例えば、ムスク、アンバーグリス、シベット等が挙げられる。また、香料としては、合成香料や天然香料や調香香料が挙げられる。合成香料としては、ベンズアルデヒド、α−ピネン、ゲラニオール、シロトネラール、リナロール、リモネン、メントール、酢酸リナリル、アミルシンナミックアルデヒド、アンスラニン酸メチル、イソオイゲノール、カプロン酸アリル、ゲラニオール、酢酸イソブチル、酢酸ベンジル、サリチル酸イソアミル、シトラール、デシルアルデヒド、ヒドロキシシトロネラール、酢酸イソアミル、ツヨン、チモール、カルバクロール、ヒノキチオール、ビオゾール、アリルイソチオシアネート、ブテニルイソチオシアネート、フェニチルイソチオシアネート、トランス−4−メチルチオ−3−ベテニルイソチオシアネート、クロロブタノール等が挙げられる。天然香料としては、ローズ、ジャスミン、カーネーション等の花の香り、ピーチ、ストロベリー、アップルバナナ、メロン等のフルーティー香料、ベルガモット、マンダリン、ビターオレンジ等の柑橘系の香料、グローブ、シナモン、ナツメグ等のスパイシーな香料、サンダルウッド、シダーウッドのような木の香り、アブソリュートハニーのような甘い香り、アブソリュートバイオレットリーブス等の草の香り等の天然の単品香料が挙げられる。調香香料としては、天然単品香料や天然物を混ぜ合わせて調香したリラ、ヘリオトロープ、アカシア、リリー、梅、菊、シクラメン、チョウゲ等が挙げられる。
【0036】
そして、ピレスロイド系殺虫剤としては、例えば、エムペントリン、アレスリン、レスメトリン、フェノトリン等が挙げられる。これらの殺虫剤は、臭いが弱いことから単独又は混合して広く使用されているが、蒸気圧が低いことからパラジクロロベンゼンに比べて初期揮散性が低かった。しかしながら、本発明において、添加剤の1種としてこのピレスロイド系殺虫剤を用いれば両者の相乗効果が発揮される。
【0037】
また、固結防止剤としては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコールやそれらの誘導体、ベンジルアルコールやその誘導体、有機酸アミドやその誘導体、シリコンオイル、トリエチレングリコール誘導体、ジメチルフタレート、ジエチルフタレート、ジブチルフタレート、ジオクチルフタレート等のフタル酸エステル類、テトラアルコキシシラン等が挙げられる。このうち揮散性を有する固結防止剤は揮散性添加物としても使用される。
【0038】
パラジクロロベンゼン固形物中には、必要に応じて、揮散性添加剤に加えて着色剤等の他の添加剤を添加してもよい。その着色剤としては、例えば、アミノケトン系染料、アルザリン系染料、クマリン系染料、ベンゾピラン系染料、キサンテン系顔料、フラビン系顔料等が挙げられる。これらの着色剤は常温では固体であるが、パラジクロロベンゼン融解液中に容易に溶解又は分散する。
【0039】
本発明において使用される保留剤は、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温(20℃前後)で固体又はゴム状のポリマー(オリゴマーを含む)であって、しかも、揮散性添加剤と親和性のあるポリマーである。この保留剤を構成するポリマーとしては、次のようなものを使用することができる。
【0040】
例えば、酢酸ビニル樹脂、カーボネート樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリエチレングリコール、ポリ塩化ビニル、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、ポリプピオン酸ビニル、ポリアクリレート、ポリビニルフェノール、ポリパラメチルスチレン、ポリビニルアルコール、ポリビニエーテル、ポリフェニルエーテル、ポリブタジエン等の熱可塑性樹脂、及び、ABS、AS、AAS、ACS、MBS、PET、EVA等の共重合樹脂に代表される汎用又はエンジニアリングプラスチックから選ばれる1種又は2種以上のポリマーである。この種のポリマーは、入手容易で安価であることはもとより、揮散性添加剤の性状に応じて種々のものを選択使用することができ、また、パラジクロロベンゼンに溶解しやすく(しかも冷却すると再びもとの固さにもどる)、ペレット、粉末等のポリマー形態を任意に選択できる。
【0041】
また、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シリコン樹脂、フェニール樹脂等の熱硬化性樹脂から選ばれる1種又は2種以上のポリマーである。この種のポリマーは、入手容易で安価であることはもとより、パラジクロロベンゼンに膨潤して均一に分散させることができる(熱を加えても溶解しないため、パラジクロロベンゼンが揮散した後は添加した際のポリマー形状のままで残存する)。
【0042】
また、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリクロロプレン、ポリエステルポリオール、NBR、SBR、エチレン共重合樹脂、天然ゴム等の接着剤用樹脂、及び、EVA、ポリアミド、ポリエステル、アタクチックポリプロピレン等の感熱性接着剤用樹脂から選ばれる1種又は2種以上のポリマーである。この種のポリマーは、パラジクロロベンゼンに低温で溶解させることができ、パラジクロロベンゼンが固化する温度で固体となる。しかも、粒状やペレット状等のポリマー形態で入手でき、パラジクロロベンゼンと揮散性添加剤のいずれに対しても相溶性をもつものが多い。
【0043】
また、天然ゴム、エチルセルロース、メチルエチルセルロース、プロピルセルロース、エチルヒドロキシセルロース等の天然高分子から選ばれる1種又は2種以上のポリマーである。この種のポリマーは、毒性が低く低温下で柔軟性があることはもとより、強靱であり、パラジクロロベンゼンや揮散性添加剤に対して相溶性をもち、比較的多量の揮散性添加物を含有させることができる。
【0044】
さらに、ブタジエン・スチレンTPR、ポリエーテル・ポリエステルTPR、ポリエーテル・ポリウレタンTPR、エチレンプロピレンゴム・ポリプロピレンTPR、エチレンプロピレンゴム・ポリエチレンTPR、ポリブタジエン・ポリブタジエンTPR等の常温で弾性を示す熱可塑性エラストマーから選ばれる1種又は2種以上のポリマーである。この種のポリマーは、分子間結合が弱い部分と強い部分とが併存しており香料等を保留する効果が高く、パラジクロロベンゼンに対して溶解又は膨潤させやすい。
【0045】
これらの各ポリマー(熱可塑性樹脂、共重合樹脂に代表される汎用又はエンジニアリングプラスチック、熱硬化性樹脂、接着剤用樹脂、感熱接着剤用樹脂、天然高分子、常温で弾性を示す熱可塑性エラストマー等)は、互いに組み合わせて(2種以上)併用してもよい。また、この保留剤として使用するポリマーは、その平均分子量が1,000以上で、その重合度が20以上のものが好ましい。更に、その種類については揮散性添加物との親和性に関係するその添加物の種類、極性、相溶性、電子親和力、pKaや活性水素の有無等に応じて決定される。
【0046】
本発明のパラジクロロベンゼン組成物におけるパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤と保留剤の混合比率は、基本的には、80〜99.998重量%、0.001〜10重量%、0.001〜10重量%である。なお、パラジクロロベンゼンの混合比率については揮散性添加剤や保留剤等の添加総量の差分として決定される。また、パラジクロロベンゼン固形物の保管中における固結を防止するため固結防止剤を添加する場合、その添加量は0.001〜0.05重量%の範囲がよい。
【0047】
揮散性添加剤の添加量については、その種類や、単一種類の添加剤等を添加するのか、あるいは、複数種類の添加剤等を添加するのか、更には、このパラジクロロベンゼン固形物を用いて調製されるパラジクロロベンゼン製剤の剤型や用途等によって異なるが、基本的に0.001〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜2.0重量%の範囲がよい。また、この添加量は、従来のパラジクロロベンゼン製剤では添加することが難しかった0.3重量%以上の添加量がさらに望ましい。この添加総量が10重量%を超えると、たとえ保留剤を最大限添加しても、パラジクロロベンゼン等の混合溶解液の粘度が高くなって取り扱いにくくなったり、パラジクロロベンゼン固形物やこれを用いて製造された製剤の強度が弱くなったり、その製剤に粘りが発生してしまい、好ましくない。反対に0.001重量%より少なくなると、特に香料の場合にはパラジクロロベンゼン特有の芳香を緩和することができなくなる。
【0048】
また、保留剤の添加量については、その種類や、揮散性添加剤の種類、極性、常温での蒸気圧(揮散性)及び添加量や、その揮散性添加剤の揮散特性をどのように制御するか等によって異なるが、基本的に0.001〜10重量%の範囲であり、好ましくは0.05〜1.0重量%の範囲がよい。この添加量が10重量%を越えると、製剤として使用した場合にはパラジクロロベンゼンが昇華、揮散して消失するのに対し、保留剤は揮散せずに残渣として残るため、製剤の使用後期(揮散終了時点)が判別しにくくなり、また、パラジクロロベンゼン製造過程においてパラジクロロベンゼンの溶融液の粘度が高くなって取り扱いにくくなることがある。反対に0.001重量%より少ないと、保留剤による揮散性添加剤の揮散抑制効果(保留効果)が十分に発現できない。従って、保留剤が多いほど揮散性添加剤の揮発が遅くなる傾向があり、また、揮散性の低い揮散性添加剤を使用した場合には保留剤の残渣がより多く残るため、この保留剤の添加量は、これらを考慮して決定する必要がある。
【0049】
ここで、本発明のパラジクロロベンゼン組成物やその製剤におけるパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の揮散割合(特性)は、下記する均等揮散度や比均等揮散度によってあらわされる。
【0050】
まず、均等揮散度は、パラジクロロベンゼン組成物やその製剤を用いて揮発試験を行い、そのときに残存する組成物(又は製剤)中に残っている揮散性添加剤の濃度を測定することにより背反的に揮散性添加剤の揮散割合を示すものであり、次の計算式、
均等揮散度(%)=[残存する組成物(又は製剤)中の揮散性添加物の濃度÷初期の組成物(又は製剤)中の揮散性添加物の濃度]×100
で定義される。上記揮散試験は、組成物又は製剤を25℃の温度に設定された恒温送風乾燥機内に所定期間(1〜8週間)放置し、残存する組成物又は製剤中に含有されている揮散性添加剤の濃度をガスクロマトグラフによる定量分析により測定して行った。
【0051】
一方、比均等揮散度は、1週間、2週間、4週間(1カ月)及び8週間(2カ月)経過時における均等揮散度の平均値でもって揮散性添加剤の揮散割合を示すもので、次の計算式、
比均等揮散度(%)=(1週間目の均等揮散度+2週間目の均等揮散度+4週間目の均等揮散度+8週間目の均等揮散度)÷4
で定義される。
【0052】
そして、この均等揮散度は、100(%)の場合には揮散試験で揮散したパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の揮散割合が等しいことを示し、100%より小さい場合には揮散性添加剤の方が速く揮散する傾向にあることを、反対に100%より大きい場合にはパラジクロロベンゼンの方が速く揮散する傾向にあることを示している。従って、この均等揮散度が100%に近いほどパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤とがほぼ均等に揮散していることを示すことになる。また、この均等揮散度は、パラジクロロベンゼン製剤の使用初期(4週間経過時)において揮散性添加剤がパラジクロロベンゼンよりも過度に揮散することを防止する観点から、少なくとも30%以上であることが望ましい。
【0053】
また、比均等揮散度は、100%であれば2カ月の長期にわたってパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤とがほぼ均等に揮散していることを示している。また、100%より小さい場合には揮散性添加剤の方が速く揮散する傾向にあることを、反対に100%より大きい場合にはパラジクロロベンゼンの方が速く揮散する傾向にあることを示している。
【0054】
この比均等揮散度については、パラジクロロベンゼン製剤等の使用目的や形態等に応じて任意に設定してもよいが、パラジクロロベンゼンよりも揮散性が高い揮散性添加剤を使用する場合、従来のパラジクロロベンゼン製剤等では揮散性の方がパラジクロロベンゼンよりも先に揮散してしまい、その比均等揮散度も20%以下となる傾向にあったため、揮散性添加剤による効果を長期にわたって発揮させることを達成するには比均等揮散度が30%以上、好ましくは70%以上になるように設定することが望ましい。
【0055】
本発明においては、この均等揮散度や比均等揮散度が所定の値になるように保留剤の添加量や種類等を選定することも可能である。
【0056】
また、本発明においては、揮散性添加剤、保留剤、香料、着色剤及び揮散性固結防止剤の少なくとも1つをパラジクロロベンゼン固形物の内部に加え、更にその固形物表面に付着させてもよい。この固形物表面に付着させる添加剤等は、固形物内部に封じ込められた添加剤等と同じであっても、また、異なっていてもよい。そして、固形物表面に付着させる添加剤等の付着量については、打錠成型する都合上0.3重量%以下であるのがよい。このように、固形物表面にも添加剤等を付着させることにより、これを製剤化して、特に打錠成型して得られた製剤(特に錠剤)中により多くの添加剤等を含有せしめることができる。
【0057】
次に、本発明のパラジクロロベンゼン組成物を製造する方法は、基本的には、前記混合比率のパラジクロロベンゼンの溶融液に、前記混合比率を満たす揮散性添加剤と保留剤とを、あるいは、この揮散性添加物と保留剤に加えて必要に応じて添加する着色剤等を溶解又は分散し、得られた混合液を間接冷却凝固装置の冷却面で急冷して凝固させることにあり、それが回分式であっても、連続式であってもよい。
【0058】
パラジクロロベンゼン溶融液に添加剤や保留剤等を溶解する方法としては、パラジクロロベンゼンの融点が53℃であるので、パラジクロロベンゼンを53〜170℃、好ましくは60〜120℃に加熱して溶融させ、この溶融液中に所定の添加剤等を添加して溶解させてもよく、また、パラジクロロベンゼンと所定の添加剤等を予め混合し、この混合物を53〜170℃、好ましくは60〜120℃に加熱して溶融させてもよい。そして、この際に、放熱による凝固を防ぐため、スチームや温水等の熱源を用いて外部から装置全体又は一部を保温しておくのが好ましい。
【0059】
このようにして得られた溶解液を急冷して凝固させるための間接冷却凝固装置としては、それが冷却面を有して急冷可能なものであればよく、例えばディップフィードタイプ、サイドフィードタイプ、トップフィードタイプ等のドラムフレーカーや、ベルトフレーカー等を挙げることができ、経済性の点から好ましくはディップフィードタイプのドラムフレーカーがよい。
【0060】
そして、このような間接冷却凝固装置による冷却速度については、添加した添加剤や保留剤や着色剤の種類や量によっても若干異なるが、好ましくはその冷却面から成長する固体の厚さ方向平均固体成長速度が1〜15mm/分、より好ましくは2〜10mm/分、最適には2.5〜7mm/分であり、これによって固形物内部に添加剤や保留剤等が略均一な分散状態に封じ込められた固体状のパラジクロロベンゼン組成物を得ることができる。この平均固体成長速度が1mm/分より遅くなると、凝固(晶析)中に結晶の偏析が進み、また、固形物中に添加剤等を略均一な分散状態で含有させることが難しくなり、冷却凝固面当りの生産性が低くなり経済的でない。反対に、15mm/分より速くなると結晶の一次粒子は細かくなり、添加剤の結晶粒界の存在割合が高くなり、打錠時に滲み出し易くなる。また、冷却面の温度を低くせざるを得ないので経済的でない
【0061】
また、この冷却速度の制御は、例えばディップフィードタイプのフレーカーを用いた場合、ディップ内のパラジクロロベンゼン溶融液の温度、凝固装置の冷却面の温度、パラジクロロベンゼン溶融液と冷却面との接触時間や流れ等の接触条件、雰囲気温度等を制御することにより行うことができる。
【0062】
ところで、間接冷却凝固装置の冷却面での固形物の析出は、この冷却面から溶解液方向へ、つまり冷却面から垂直方向へと進む。そして、この垂直方向の単位時間当たりの固形物の成長速度を凝固速度とすると、パラジクロロベンゼンの熱伝導率が小さいために、この凝固速度はパラジクロロベンゼン固形物の成長につれて小さくなる。すなわち、間接冷却凝固装置の冷却面近傍付近で凝固した固形物の凝固速度は速く、冷却面から離れた位置で凝固した固形物の凝固速度は遅くなる。それ故、パラジクロロベンゼン固形物はその厚さ方向に添加剤等の濃度分布を持つことになり、結局、凝固装置の冷却面から凝固して形成された固形物の厚さ方向にパラジクロロベンゼンの純度が高くなり、逆に添加剤等の濃度が低くなる傾向がある。
【0063】
このため、溶解液を急冷して間接冷却凝固装置の冷却面に形成された固形物の層厚については、通常0.5〜2mm、好ましくは0.8〜1.5mmであるのがよい。形成された固形物の層厚がこの範囲であれば、溶解液の凝固速度の変化による添加剤等の濃度変化を問題にならない程度に抑えることができ、略均一に揮散性添加剤や保留剤等を含有したパラジクロロベンゼンの固形物を得る上で好ましい。
【0064】
ここで、特に揮散性添加剤に関して、略均一な分散状態とは、パラジクロロベンゼン組成物全体の揮散性添加剤含有量に対し、厚さ方向の濃度分布差がほとんどない、あるいは、小さいことを意味している。つまり、厚さ方向の表面を含む上層部の約30%の部分、厚さ方向の表面を含む下層部の約30%の部分、及び、これら上層部と下層部の間の中層部約30%の部分にそれぞれ含まれる揮散性添加剤濃度が、固形物全体の添加剤濃度の平均に対して比分散度15%以内、好ましくは10%以内となっている状態である。
【0065】
上記の比分散度(%)は、次の計算式
比分散度(%)={〔(上層部、中層部又は下層部の添加剤濃度)−(固形物全体の添加剤濃度)〕の絶対値÷(固形物全体の添加剤濃度)}×100
で定義され、略均一な分散状態とは、これら上層部、中層部及び下層部におけるそれぞれの比分散度(%)がいずれも15%以内、好ましくは10%以内であることを意味する。この比分散度が15%を超えると、その超えた部分において添加剤が局在化していることを示しており、具体的には打錠時に滲み等の問題が生じ易い。
【0066】
本発明方法で得られたパラジクロロベンゼン固形物の形状は、間接冷却凝固装置の冷却面から剥されて薄片状になっている。また、必要であれば、粉砕、分級等の操作によって必要な粒度に調整することができる。
【0067】
本発明のパラジクロロベンゼン組成物は、必要により、錠剤、顆粒、粉末等の剤型に製剤化され、製剤内部に揮散性添加剤及び保留剤あるいはこれらに加えて着色剤等が略均一な分散状態で封じ込められたパラジクロロベンゼン製剤として、防虫剤、防虫・防臭剤、防虫・防黴剤等の種々の用途に使用される。このような製剤のうち、パラジクロロベンゼン固形物を打錠成型して得られた錠剤は、その錠剤内部に比較的多量の揮散性添加剤等を略均一な分散状態で封じ込めることができ、取扱上便利なので、剤型として好ましい。
【0068】
この製剤における均等揮散度は、その使用初期(4週間経過時)において揮散性添加剤がパラジクロロベンゼンよりも過度に揮散することを防止する観点から、少なくとも30%以上であることが望ましい。また、この製剤における均等揮度は、長期にわたってパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤とがバランスよく揮散するようにする観点から、使用後8週間経過した時点で60%以上であることがより望ましい。さらに、この製剤における比均等揮散度は、その使用目的等によっては100%にちかいことが望ましい。
【0069】
なお、本発明においては、パラジクロロベンゼン組成物からなる製剤は、保留剤を添加せずに、前記した製造方法によりパラジクロロベンゼン組成物を製造し、このパラジクロロベンゼンの固形物表面に保留剤及び必要に応じて着色剤等を添加して粉砕、混合した後に打錠成形することにより得たものであってもよい。しかしながら、このようにして得られるパラジクロロベンゼン製剤は、そのパラジクロロベンゼン組成物(固形物)の内部に保留剤が封じ込められていないため、長期間保管する場合には揮散性添加剤が経時的に減少することがあり、可能であればパラジクロロベンゼン固形物内部に封じ込めることが望ましい。
【0070】
【作用】
本発明においては、パラジクロロベンゼンの組成物又はその製剤において、0.3重量%以上の揮散性添加剤を容易に含有させることができ、また、その内部に揮散性添加剤や保留剤や着色剤等が略均一に分散しており、これを防虫剤や防臭剤等として使用した際に、パラジクロロベンゼンの昇華につれて揮散性添加剤を含んだ保留剤が表面に露出し、その揮散性添加剤の大部分又はその一部が保留剤から開放されるようにして揮散するため、揮散性添加剤の揮散が保留剤によってコントロールされる。この際、パラジクロロベンゼンの揮散は保留剤によって抑制されることは特にない。この結果、その使用初期から使用後期に至るまで長期にわたってパラジクロロベンゼン及び揮散性添加剤の成分を所望の比率で揮散させることができる。
【0071】
また、本発明の製造方法によれば、揮散性添加剤や保留剤、必要に応じて着色剤等を含有したパラジクロロベンゼン溶融液を間接冷却凝固装置の冷却面を介して急冷するので、溶解液からパラジクロロベンゼンや揮散性添加剤、保留剤あるいは着色剤が偏析する前にこの溶解液が凝固し、得られた固形物内部に添加剤等が略均一な分散状態で封じ込められている。
更に、得られた組成物を製剤化した製剤中に0.3重量%以上の添加剤を容易に含有させることができ、また、揮散性添加剤や保留剤等が略均一な分散状態で封じ込められ、特に打錠して得られた錠剤中にも添加剤が略均一な分散状態で封じ込められる。
【0072】
【発明の実施の形態】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明を具体的に説明する。
【0073】
実施例1
外部加熱可能なステンレス容器にパラジクロロベンゼン[日本軽金属(株)製:液体パラジクロロベンゼン(純度99.9%以上)]98.9kgを仕込み、90℃まで加熱してパラジクロロベンゼンを溶融し、この溶融液中に防虫作用を有する揮散性添加剤としてタイム油(タイム油を精製したもの)0.6kg(0.60重量%)、保留剤としてポリウレタン樹脂(ドイツ・バイエル社製、商品名:デスモコール500#)0.5kg(0.50重量%)、青色染料〔日本化薬(株)製商品名:S−B−N〕1g(1ppm)及び黄色染料〔日本化薬(株)製、商品名:KS−Y−016〕3g(3ppm)を添加し、攪拌しながら溶解させて緑色の溶解液1を得た。
【0074】
一方、この溶解液1とは別に、上記と同じ種類の、タイム油0.85重量%、ポリウレタン樹脂0.71重量%、青色染料1.4g及び黄色染料4.2gをそれぞれ添加して溶解させたパラジクロロベンゼンの溶解液2を調製した。そして、この溶解液2をディップフィードタイプの0.3m3 ドラムフレーカーの底部(ディップ)に仕込んで、パラジクロロベンゼン組成物の製造準備を行った。
【0075】
次に、連続でパラジクロロベンゼン組成物を調製するため、上記溶解液1をディップの液面が変わらないように連続して補充しながら、冷却水温度10℃、ディップ溶解液温度68℃、冷却面(ドラム面)での固化時間17秒の条件で上記溶解液をドラムフレカーの表面で連続的に急冷し、厚さ方向平均固体成長速度が4.6mm/分で厚さ1.1mmの薄片状のパラジクロロベンゼン固形物を調製した。
【0076】
得られたパラジクロロベンゼン固形物の上層部、中層部、下層部における揮散性添加剤の各濃度(含有量)及びその平均値、さらに揮散性添加剤の比分散度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。上層部、中層部及び下層部における添加剤濃度は、それぞれ表面を含む上層部及び下層部並びにこれらの間の中層部から厚さ方向の約30%づつをサンプルとして切出し、これをジクロロメタンに溶解し、ガスクロマトグラフにより定量分析して測定した。
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して0.60重量%の割合で含有されている。また、得られたパラジクロロベンゼン組成物は、緑色半透明、色むらなしで、略均一な状態でタイム油を分散している固形物であった。
【0077】
次に、このようにして得られた固形状のパラジクロロベンゼン組成物を粉砕し、成形機(打錠機)を用いて直径21mm、厚み約7mm、重量約4gの円盤状に製剤化し、パラジクロロベンゼン錠剤を調製した。そして、このときの製剤2個ずつをビスコースでガス透過性を調整した不織布にポリエチレンフィルムをラミネートした通気性包装紙で包装し、この包装状態にしたものを製剤とした。
【0078】
得られた錠剤の1、2、4、8週目の均等分散度、パラジクロロベンゼン(PDCB)の残存率、比均等揮散度、その打錠時と25℃雰囲気下で8週間放置後とにおけるタイム油の滲みの程度、及び、残渣の程度を測定又は観察した。結果を表2に示す。均等分散度とPDCB揮散率については、製剤を25℃雰囲気下の恒温送風乾燥機内のシャーレー上に載置し、各週経過時における残存する製剤中のタイム油の濃度やパラジクロロベンゼンの重量変化率を測定して求めた。また、残渣については、包装していない製剤20個を25℃雰囲気下の恒温送風乾燥機内のシャーレー上に載置し、10日間放置してパラジクロロベンゼンを完全に昇華させた後の残渣の重量割合を測定して求めた。
【0079】
表2の結果から明らかなように、初期段階(4週間目)におけるタイム油の急激な揮散はなく各均等揮散度は略一定しており、比揮散均等揮散度が100.9であることから、パラジクロロベンゼンとタイム油がほぼ均等の割合で長期にわたって揮散している。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、その打錠時及び8週間目のいずれの場合においても錠剤の表面にタイム油の滲みだしがない。しかも、タイム油がパラジクロロベンゼン中に安定して保持され、パラジクロロベンゼンの昇華に合わせるようにタイム油が揮散していくのが確認された。そして、このとき同時に観察したパラジクロロベンゼン特有の刺激臭はその昇華終了までなかった。さらに、残渣について調べたところ、タイム油の高沸点成分とポリウレタン樹脂の混合物からなる小さな粒状のものであった。
【0080】
比較例1
保留剤であるポリウレタン樹脂を添加せず、下記の条件及び方法に基づいてパラジクロロベンゼンを製造した。
すなわち、パラジクロロベンゼン99.5kgとタイム油0.5g(0.5重量パーセント)をガラス瓶中で混合して90℃の加熱下で溶解し、この溶解液を、20℃に調整された恒温水槽の水上に浮かべた平らなステンレス製容器内に液面高さ(厚さ)が約9mmとなるように流し込んで放置し、30分間かけて凝固させた。このときの厚さ方向平均固体成長速度は0.23mm/分であった。
【0081】
このようにして得られた固形物を容器から取り出し、その一部を分析用に採取し、上記実施例1と同様に、その固形物の上層部、中層部、下層部における揮散性添加剤の各濃度(含有量)及びその平均値、さらに揮散性添加剤の比分散度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物の上層部付近に局在化している。また、得られた固形物の表面には若干の液状物があることが目視で観察された。
【0082】
次に、得られたパラジクロロベンゼン固形物を使用し、実施例1と同様に錠剤を製造した後、その2個ずつを包装して製剤とし、その錠剤について、実施例1と同様にして各均等分散度、PDCB残存率、比均等揮散度、各滲みの程度、及び、残渣の程度を測定又は観察した。結果を表2に示す。
【0083】
表2の結果から明らかなように、初期段階(4週間目)における均等揮散度が6.7%であることに加え比揮散均等揮散度も8.9であることから、使用初期からすでにタイム油のみが先に揮散してしまうことがわかる。また、この錠剤は、その打錠時に油状物の滲みだしが確認され、錠剤内部には0.3重量%のタイム油が含有されているのみであった。また、使用初日からも同じ滲みだしが確認され、しかもその包装材にタイム油と思われるシミが観察された。さらに、この錠剤は手で軽く握る程度でつぶれてしまうほどの硬さしかなく、錠剤強度がきわめて低いものであった。そして、1週間後にはパラジクロロベンゼン特有の刺激臭が観察された。
【0084】
比較例2
溶解液1について、保留剤であるポリウレタン樹脂を添加せず、パラジクロロベンゼンを99.5kg、タイム油の添加量を0.5kg(0.5重量%)に変更するとともに、溶解液2についてタイム油の添加量を0.7重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼンを製造した。
【0085】
得られた固形物について、実施例1と同様に、その固形物の上層部、中層部、下層部における揮散性添加剤の各濃度(含有量)及びその平均値、さらに揮散性添加剤の比分散度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
【0086】
また、得られたパラジクロロベンゼン固形物を使用し、実施例1と同様に錠剤を製造した後、その2個ずつを包装して製剤とし、その錠剤について、実施例1と同様にして各均等分散度、PDCB残存率、比均等揮散度、各滲みの程度、及び、残渣の程度を測定又は観察した。結果を表2に示す。
表2の結果から明らかなように、初期段階(4週間目)における均等揮散度が9.6%であることに加え比揮散均等揮散度も10.4であることから、使用初期からすでにタイム油のみが先に揮散してしまうことがわかる。また、この錠剤は、その表面への油状物の滲みだしは打錠時、8週間目ともに確認されなかったが、1週間目からパラジクロロベンゼン特有の刺激臭が観察された。さらに、この錠剤の強度を調べたところ、その強度は手でにぎったときつぶれてしまう程度のものであった。
【0087】
ここで、実施例1と比較例1〜2におけるパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度の経時変化について図1に示した。
この図1の結果から明らかなように、比較例1、2の場合にはそのいずれも1週間目とそれ以降の均等揮散度がともに20%よりも少ない値を示していることから、タイム油のみが先に揮散してしまうが、実施例1の場合には均等揮散度が常にほぼ100%前後の値を示していることから、パラジクロロベンゼンとタイム油が略均等に揮散していることがわかる。
【0088】
実施例2
溶解液1について染料を添加せず、パラジクロロベンゼンを97.1kg、タイム油の添加量を2.4kg(2.4重量%)に変更するとともに、溶解液2についてタイム油の添加量を3.0重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼンを製造した。
【0089】
得られた固形物について、実施例1と同様に、その固形物の上層部、中層部、下層部における揮散性添加剤の各濃度(含有量)及びその平均値、さらに揮散性添加剤の比分散度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して2.34重量%の割合で含有されている。
【0090】
また、得られたパラジクロロベンゼン固形物を使用し、実施例1と同様に錠剤を製造した後、その2個ずつを包装して製剤とし、その錠剤について、実施例1と同様にして各均等分散度、PDCB残存率、比均等揮散度、各滲みの程度、及び、残渣の程度を測定又は観察した。結果を表2に示す。
表2の結果から明らかなように、初期段階(4週間目)におけるタイム油の急激な揮散はなく、比揮散均等揮散度が113.3であることから、パラジクロロベンゼンとタイム油がほぼ均等の割合で長期にわたって揮散している。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、その打錠時及び8週間目のいずれの場合においても錠剤の表面にタイム油の滲みだしがなく、パラジクロロベンゼンの昇華終了までも滲みだしがなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭についてもその昇華終了までなかった。さらに、残渣の量は、添加した保留剤であるポリマーの添加割合にほぼ相当するものであった。さらにまた、この錠剤の強度を比較例2と同様に調べたところ、その強度は手でにぎっても形状を維持できるほどの強度であった。
【0091】
実施例3
溶解液1について染料を添加せず、パラジクロロベンゼンを94.0kg、タイム油の添加量を5.5kg(5.5重量%)に変更するとともに、溶解液2についてタイム油の添加量を6.5重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼンを製造した。
【0092】
得られた固形物について、実施例1と同様に、その固形物の上層部、中層部、下層部における揮散性添加剤の各濃度(含有量)及びその平均値、さらに揮散性添加剤の比分散度をそれぞれ測定した。結果を表1に示す。
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して5.92重量%の割合で含有されている。
【0093】
また、得られたパラジクロロベンゼン固形物を使用し、実施例1と同様に錠剤を製造した後、その2個ずつを包装して製剤とし、その錠剤について、実施例1と同様にして各均等分散度、PDCB揮散率、比均等揮散度、各滲みの程度、及び、残渣の程度を測定又は観察した。結果を表2に示す。
表2の結果から明らかなように、初期段階(4週間目)におけるタイム油の急激な揮散はなく、比揮散均等揮散度が141.7であることから、パラジクロロベンゼンとタイム油がほぼ均等の割合で長期にわたって揮散している。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、その打錠時及び8週間目のいずれの場合においても錠剤の表面にタイム油の滲みだしがなく、パラジクロロベンゼンの昇華終了までも滲みだしがなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭についてもその昇華終了までなかった。さらに、この錠剤の強度を実施例2と同様に調べたところ、その強度は手でにぎっても形状を維持できるほどの強度であった。
【0094】
ここで、実施例1〜3と比較例2における揮散性添加剤の添加量とパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度との関係について図2に示した。
この図2の結果から明らかなように、保留剤を添加しない比較例2の場合には揮散性添加剤をパラジクロロベンゼンの固形物内部に0.5重量%封じ込めてはいるが、その添加剤は封じ込めても初期の段階で揮散してしまうのに対し、実施例の場合には、保留剤をわずか0.5〜0.6重量%添加することによって揮散性添加剤を固形物内部に最大で5倍程度(実施例3)封じ込めることが可能となり、しかも、その添加剤の揮散を抑えることができる。また、表2の結果から、実施例におけるパラジクロロベンゼンの残存率は比較例2のそれと比べて大きな差異がないことから、保留剤を添加したことによりパラジクロロベンゼンの揮散が抑制されることはないことがわかる。
【0095】
実施例4
溶解液1について染料を添加せず、パラジクロロベンゼンを97.5kg、保留剤であるポリウレタン樹脂の添加量を2.0kg(2.0重量%)に変更するとともに、溶解液2について上記ポリウレタン樹脂の添加量を2.3重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼンを製造した。また、実施例1と同様に、固形物の所定の測定を行ってその結果を表1に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表2に示した。
【0096】
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して5.92重量%の割合で含有されている。
また、表2の結果から明らかなように、8週間目の均等揮散度が1409.0で比揮散均等揮散度が436.2であり、しかも8週間目のPDCB揮散率が19.2であることから、使用後期におけるタイム油の揮散が極端に制御され、その一方でパラジクロロベンゼンの揮散が増進している。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、タイム油の滲みだしがパラジクロロベンゼンの昇華終了までなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭についても、タイム油の揮散が使用後期において極端に制御されているにもかかわらず、その昇華終了までなかった。さらに、この錠剤の強度を実施例2と同様に調べたところ、その強度は手でにぎっても形状を維持できるほどの強度であった。なお、この錠剤強度については、後述する実施例5〜9の錠剤についても同じ程度の強度であることが確認された。
【0097】
実施例5
溶解液1について染料を添加せず、パラジクロロベンゼンを94.0kg、タイム油の添加量を5.5kg(5.5重量%)に変更するとともに、溶解液2についてホワイトタイム油の添加量を5.8重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼンを製造した。また、実施例1と同様に、固形物の所定の測定を行ってその結果を表1に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表2に示した。
【0098】
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して5.76重量%の割合で含有されている。
また、表2の結果から明らかなように、8週間目の均等揮散度が2950.6で比揮散均等揮散度が829.9であり、しかも8週間目のPDCB残存率が8.2であることから、使用後期におけるタイム油の揮散が極端に制御され、その一方でパラジクロロベンゼンの揮散が急激に増進している。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、その打錠時及び8週間目のいずれの場合においても錠剤の表面にわずかな滲みが観察されたが実用上問題になるほどではなかった。また、その滲みは昇華終了までそれ以上進行しなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭についても、タイム油の揮散が使用後期において極端に制御されているにもかかわらず、その昇華終了までなかった。
【0099】
実施例6
溶解液1について染料を添加せず、パラジクロロベンゼンを89.0kg、保留剤であるポリウレタン樹脂の添加量を5.0kg(5.0重量%)、タイム油の添加量を6.0kg(6.0重量%)に変更するとともに、溶解液2について上記ポリウレタン樹脂の添加量を6.0重量%、タイム油の添加量を7.2重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼンを製造した。また、実施例1と同様に、固形物の所定の測定を行ってその結果を表1に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表2に示した。
【0100】
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して6.34重量%の割合で含有されている。
また、表2の結果から明らかなように、8週間目の均等揮散度が629.9で比揮散均等揮散度が252.2であり、しかも8週間目のPDCB揮散率が14.4であることから、使用後期におけるタイム油の揮散が極端に制御され、その一方でパラジクロロベンゼンの揮散が急速に増進している。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、タイム油の滲みだしがパラジクロロベンゼンの昇華終了までなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭についても、タイム油の揮散が使用後期において制御されているにもかかわらず、その昇華終了までなかった。
【0101】
実施例7
溶解液1について染料を添加せず、パラジクロロベンゼンを99.45kg、保留剤であるポリウレタン樹脂の添加量を0.05kg(0.05重量%)に変更するとともに、溶解液2について上記ポリウレタン樹脂の添加量を0.07重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼン組成物とその製剤を製造した。また、実施例1と同様に、固形物の所定の測定を行ってその結果を表1に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表2に示した。
【0102】
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して0.58重量%の割合で含有されている。
また、表2の結果から明らかなように、均等揮散度は週を追うごとに徐々に低くなり、比均等揮散度は45.9であった。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、タイム油の滲みだしがパラジクロロベンゼンの昇華終了までなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭はその昇華終了までなかった。
【0103】
実施例8
溶解液1について、パラジクロロベンゼンを98.5kg、保留剤であるポリウレタン樹脂の添加量を1.0kg(1.0重量%)に変更するとともに、溶解液2について上記ポリウレタン樹脂の添加量を1.3重量%に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼン組成物とその製剤を製造した。また、実施例1と同様に、固形物の所定の測定を行ってその結果を表1に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表2に示した。
【0104】
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して0.58重量%の割合で含有されている。
また、表2の結果から明らかなように、比均等揮散度は65.8であった。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、タイム油の滲みだしがパラジクロロベンゼンの昇華終了までなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭はその昇華終了までなかった。
【0105】
実施例9
固結防止剤としてジブチルフタレート(DBP)0.034kg(0.034重量%)を溶解液1に添加するとともに溶解液2にも0.05kg添加した以外は実施例8と同様にしてパラジクロロベンゼン組成物とその製剤を製造した。また、実施例1と同様に、固形物の所定の測定を行ってその結果を表1に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表2に示した。
【0106】
表1の結果から明らかなように、タイム油は固形物内部に略均一に分散し、固形物全体に対して0.50重量%の割合で含有されている。
また、表2の結果から明らかなように、均等揮散度は週を追うごとに徐々に低くなり比均等揮散度は63.6であった。また、この錠剤は、十分な錠剤強度を有しており、タイム油の滲みだしがパラジクロロベンゼンの昇華終了までなかった。そして、パラジクロロベンゼン特有の刺激臭はその昇華終了までなかった。
【0107】
【表1】
Figure 0003810470
【0108】
【表2】
Figure 0003810470
【0109】
ここで、実施例1、7〜9と比較例2における保留剤の添加量とパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度との関係について図3に示した。
この図3の結果から明らかなように、保留剤の添加量が増加するにつれて均等揮散度も高い値になる傾向がある。また、揮散性添加剤のタイム油(0.55又は0.60重量%)をパラジクロロベンゼンと最も均等に揮散させるためには、0.5重量%程度のポリウレタンが必要であることがわかる。一方、そのタイム油を使用初期の段階で集中的に揮散させたい場合には、その度合いに応じてポリウレタンの添加量を徐々に減らすことでコントロールできることがわかる。
【0110】
実施例10〜18
保留剤の種類を下記のポリマー材料に変更した以外は実施例8と同様にしてパラジクロロベンゼン組成物とその製剤を製造した。
・実施例10…ポリカーボネートコンパウウンド[出光石油化学(株)製、A2200]
・実施例11…ABSコンパウンド[電気化学(株)製、CL]
・実施例12…SBS系熱可塑性エラストマー[旭化成(株)製、タフプレンA]
・実施例13…酢酸ビニル樹脂[電気化学(株)製、サクノール]
・実施例14…ポリスチレン樹脂[大日本インク(株)製、GX9365]
・実施例15…エチルセルロース[三晶(株)製、N−4]
・実施例16…エチルヒドロキシエチルセルロース[東京化成(株)製、試薬1級]
・実施例17…ポリエチレングリコール[和光純薬工業(株)製、CAFO154(平均分子量1500)]
・実施例18…アクリル樹脂[旭化成工業(株)製、テルパウダー80N]
【0111】
また、実施例8と同様に、得られた固形物の所定の測定を行ってその結果を表3に示すとともに、その製剤の所定の測定や観察を行ってその結果を表4に示した。パラジクロロベンゼン特有の刺激臭は、いずれの実施例においても、その昇華終了までなかった。さらに、この実施例10〜18において得られた錠剤の強度について実施例2と同様に調べたところ、その強度はいずれの錠剤の場合も手でにぎっても形状を維持できるほどの強度であった。
【0112】
比較例3
ポリウレタン樹脂をセルロースパウダー(旭化成アピセル(株)製、TR−101)に変更した以外は実施例1と同様にしてパラジクロロベンゼン組成物とその製剤を製造した。また、実施例1と同様に、得られた固形物の所定の測定を行ってその結果を表3に示すとともに、その製剤の所定の測定や観測を行ってその結果を表4に示した。表4の結果から明らかなように、比均等揮散度は10.8であり、パラジクロロベンゼンに比べタイム油が先に揮散してしまった。多孔質ポリマーは、パラジクロロベンゼンに溶解せず、タイム油の揮散を抑制する効果も得られないことがわかった。
【0113】
【表3】
Figure 0003810470
【0114】
【表4】
Figure 0003810470
【0115】
ここで、実施例10〜18と比較例3におけるパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度の経時変化について図1に示した。
この図1の結果から明らかなように、保留剤を同じ添加量0.5重量%で添加しても、そのポリマーの種類によってパラジクロロベンゼンに対する溶解性をはじめ、極性等の特性や、タイム油に対する親和性によって、均等揮散度(換言すれば揮散性添加剤の保留効果)がそれぞれ異なることがわかる。これにより、保留剤の種類を変更することで、パラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の揮散割合を調整できることがわかる。
【0116】
例えば、使用初期から使用後期に至るまで長期にわたってパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤とをほぼ均等に揮散させたい(比均等揮散度60%以上を確保する)場合には、実施例1をはじめとして実施例11、13、15、16、20で使用したような種類の保留剤を選択して使用するとよい。また、使用開始時点から揮散性添加剤をある程度積極的に揮散させたい(均等揮散度が1週、2週、4週、8週になるにつれて60%、50%、40%、30%程度の割合で低下するようにしたい)場合には、実施例10、12、14、17で使用したような種類の保留剤を選択して使用するとよい。
【0117】
比較例4
溶解液1として、パラジクロロベンゼン99.6kg、タイム油0.4kg(0.4重量%)、青色染料1g(1ppm)及び黄色染料3g(3ppm)からなる混合溶液を用意し、また、溶解液2として、タイム油0.85重量%、青色染料1.4ppm及び黄色染料4.2ppmからなる混合溶液を用意した。
次に、冷却水温度を20℃、ディップ溶解液温度を75℃、冷却面(ドラム面)での固化時間を4分にし、厚さ1.7mmのフレークを製造した以外は実施例1と同様にして薄片状のパラジクロロベンゼン固形物を調製した。このときの厚さ方向平均固体成長速度は0.42mm/分であった。
【0118】
得られたパラジクロロベンゼン固形物の上層部、中層部、下層部における揮散性添加剤の各濃度(含有量)及びその平均値、さらに揮散性添加剤の比分散度をそれぞれ測定したところ、上層部濃度0.15重量%、中層部濃度0.39重量%、下層部濃度0.47重量%、平均値0.35重量%、比分散度57%であった。このことから明らかなように、上記のごとき製造条件によりパラジクロロベンゼン固形物を調製した場合には、タイム油は固形物内部に局在化して均一に分散していないことがわかった。
【0119】
【発明の効果】
本発明のパラジクロロベンゼン固形物及びその製剤は、その固形物又は製剤内部に揮散性添加剤と常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤とが略均一な分散状態で封じ込められている。このため、その固形物内部に、0.3重量部を越えるような比較的多量の揮散性添加剤を含有させることができ、しかも、滲み出すこともなく封じ込めることができる。また、パラジクロロベンゼンの揮散性を変化させることなく、使用初期から使用後期に至るまで長期にわたってパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の成分を所望の比率で揮散させることができる。例えば、所望の揮散性添加剤をパラジクロロベンゼンと均等の割合で揮散させることが可能になる。
【0120】
また、本発明の製造方法によれば、固形物内部に揮散性添加剤と保留剤が略均一な分散状態で封じ込められたパラジクロロベンゼン組成物を工業的に有利に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 図1は、実施例1、10〜18と比較例1〜3におけるパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度の経時変化を示すグラフである。
【図2】 図2は、実施例1〜3と比較例2における揮散性添加剤の添加量とパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度との関係を示す相関図である。
【図3】 図3は、実施例1、7〜9と比較例2における保留剤の添加量とパラジクロロベンゼン製剤の均等揮散度との関係を示す相関図である。

Claims (11)

  1. パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%と、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とからなり、
    前記保留剤が、酢酸ビニル樹脂、カーボネート樹脂、ポリスチレン、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、カルボキシビニルポリマー、ケトン樹脂、ポリプロピオン酸ビニル、ポリアクリレート、ポリビニルフェノール、ポリパラメチルスチレン、ポリビニルエーテル、ポリフェニルエーテル及びポリブタジエンの熱可塑性樹脂と、ABS、AS、AAS、ACS、MBS、PET及びEVAの共重合樹脂に代表される汎用又はエンジニアリングプラスチックから選ばれる1種又は2種以上のポリマーであり、
    かつ、前記揮散性添加剤及び保留剤がパラジクロロベンゼンの固形物内部に略均一な分散状態で封じ込められていることを特徴とするパラジクロロベンゼン組成物。
  2. パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%と、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とからなり、
    前記保留剤が、ポリウレタン、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル、メラミン樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂及びフェニール樹脂の熱硬化性樹脂から選ばれる1種又は2種以上のポリマーであり、
    かつ、前記揮散性添加剤及び保留剤がパラジクロロベンゼンの固形物内部に略均一な分散状態で封じ込められていることを特徴とするパラジクロロベンゼン組成物。
  3. パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%と、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とからなり、
    前記保留剤が、ポリウレタン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、ポリクロロプレン、ポリエステルポリオール、NBR、SBR、エチレン共重合樹脂及び天然ゴムの接着剤用樹脂と、EVA、ポリアミド、ポリエステル及びアタクチックポリプロピレンの感熱性接着剤用樹脂から選ばれる1種又は2種以上のポリマーであり、
    かつ、前記揮散性添加剤及び保留剤がパラジクロロベンゼンの固形物内部に略均一な分散状態で封じ込められていることを特徴とするパラジクロロベンゼン組成物。
  4. パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%と、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とからなり、
    前記保留剤が、ブタジエン・スチレンTPR、ポリエーテル・ポリエステルTPR、ポリエーテル・ポリウレタンTPR、エチレンプロピレンゴム・ポリプロピレンTPR、エチレンプロピレンゴム・ポリエチレンTPR及びポリブタジエン・ポリブタジエンTPRの常温で弾性を示す熱可塑性エラストマーから選ばれる1種又は2種以上のポリマーであり、
    かつ、前記揮散性添加剤及び保留剤がパラジクロロベンゼンの固形物内部に略均一な分散状態で封じ込められていることを特徴とするパラジクロロベンゼン組成物。
  5. パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%と、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とからなり、
    前記保留剤が、請求項1〜4に記載の全ポリマーから選ばれる1種又は2種以上のポリマーであり、
    かつ、前記揮散性添加剤及び保留剤がパラジクロロベンゼンの固形物内部に略均一な分散状態で封じ込められていることを特徴とするパラジクロロベンゼン組成物。
  6. 前記パラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の揮散割合を示す4週間経過時における均等揮散度が30%以上である請求項1乃至5のいずれかに記載のパラジクロロベンゼン組成物。
  7. 前記パラジクロロベンゼンの固形物内部に着色剤及び固結防止剤の少 なくとも1つを封じ込めてなる請求項1乃至5のいずれかに記載のパラジクロロベンゼン組成物。
  8. 前記揮散性添加剤が、パラジクロロベンゼンの固形物内部に比分散度15%以内の略均一な分散状態で封じ込められている請求項1乃至5のいずれかに記載のパラジクロロベンゼン組成物。
  9. パラジクロロベンゼン80〜99.998重量%を溶融した溶融液に、揮散性添加剤0.001〜10重量%と、溶融したパラジクロロベンゼンに溶解又は分散し得る常温で固体又はゴム状のポリマーからなる保留剤0.001〜10重量%とを溶解又は分散し、得られた混合液を間接冷却凝固装置の冷却面で当該冷却面から成長する固体の厚さ方向平均固体成長速度が1〜15mm/分の範囲となるように急冷して凝固させることにより、揮散性添加剤と保留剤が略均一な分散状態で封じ込められたパラジクロロベンゼンの固形物を得ることを特徴とするパラジクロロベンゼン組成物の製造方法
  10. 請求項1乃至8のいずれかに記載されたパラジクロロベンゼン組成物を粉砕して錠剤、顆粒又は粉末の剤型に成形したものであって、この製剤内部に揮散性添加剤と保留剤が略均一な分散状態で封じ込められていることを特徴とするパラジクロロベンゼン製剤
  11. 前記製剤中のパラジクロロベンゼンと揮散性添加剤の揮散割合を示す4週間経過時における均等揮散度が30%以上である請求項10に記載のパラジクロロベンゼン製剤
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