JP3802816B2 - モルタル吹付け機とこれを用いた補修工法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、コンクリート構造物の補修等のため粘性の高いモルタルを吹付けるモルタル吹付け機とこれを用いた補修工法に関する。
【0002】
【従来の技術】
トンネルや高架橋のコンクリート剥落事故を契機にコンクリート構造物の補修に対するニーズが高まっている。コンクリート構造物の補修は従来主に、(1)左官ごてにより塗り付ける「左官仕上げ」、または(2)「圧縮空気による吹付け」により施工されている。
左官仕上げは、作業員により表面を「こて」で数回ならすため、特に上向きの施工箇所においては、(1)作業能率が悪いばかりでなく、(2)補修面とモルタルとの付着性能が低い問題点がある。
【0003】
また、圧縮空気による吹付けは、図9に模式的に示すように、ミキサー、アジテ−タ付きホッパー、モルタルポンプ、コンプレッサ、吹付けガン1、等を備え、モルタルを大量の圧縮空気により吹付けガン1から吹き出し、トンネル内面等に吹き付けるようになっている。しかし、「圧縮空気による吹付け」は、大量の圧縮空気を使用するため、(3)コンプレッサの動力が大きくなるばかりでなく、(4)微細なモルタルを含む粉塵が大量の圧縮空気により周囲を汚染するため、作業環境が極めて悪い問題点があった。また、(5)ノズル先端での圧縮空気の調整に高度な技術が必要であることと、(6)ミキサー、アジテ−タ付きホッパー、モルタルポンプ、コンプレッサ、等の複数の機材を移動しながら施工するため、作業が繁雑であり作業能率が低い問題点もあった。
【0004】
上述した問題点を解決するため、例えば、実公平6−45519号の「投射施工装置」、特開平4−83096号及び特開平6−248887号の「混合物投射施工方法およびその装置」、等の圧縮空気を用いずにライニングができるコンクリート吹付機が提案されている
【0005】
図10は、かかるコンクリート吹付機の原理を示す図である。この図に示すように、これらのコンクリート吹付機のヘッド部は、高速で回転するインペラ2と、コンクリートと急結剤を攪拌しながらインペラ2に供給する攪拌スクリュー3とを備え、遠心力によりコンクリートをインペラの接線方向に投射して吹き付けるようになっていた。従って、このコンクリート吹付機では、空気を全く使用せずに機械的にコンクリートの吹き付けができ、これにより粉塵の発生をなくし、良好な作業環境を得ることができる。
【0006】
更に、本願発明と同一の発明者等は、図10の装置を改良し、図11に模式的に示す「コンクリート吹付機」を創案し出願した(特開平11−71997号)。
このコンクリート吹付機は、軸心を中心に高速回転するインペラ2と、該インペラを間隔を隔てて囲むケーシング4と、該ケーシングに設けられインペラの回転中心に向けて生コンクリートを供給するコンクリート供給管5と、該コンクリート供給管に隣接してケーシングに設けられたコンクリート吐出管6と、該コンクリート吐出管の開放端の外側に設けられコンクリート吐出管を通過したコンクリートに向けて液体急結剤を噴射する急結剤供給ノズル7とからなるヘッド部を備えたものである。なお、この図で、8はコンクリート用パイプ、8aは生コンクリート、9は急結剤、2aはブレードである。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
補修用モルタルは、ビニロン繊維とケイ砂を含むプレミックスモルタルに液体ポリマーを混合して練りまぜたものであり、粘性が高いばかりでなく粘着力が強い。そのため、上述したコンクリート吹付機を転用してコンクリートの代わりに補修用モルタルを吹付けた場合、以下の問題点があった。
【0008】
(1)モルタルに含まれるビニロン繊維により、配管内が詰まりやすい。
(2)モルタルの粘性と粘着力により、「モルタルだれ」(または「ペーストだれ」)が発生しやすく、長時間連続運転ができない。特に補修工事で主となる天端部(上向き)への吹付け(天端吹き)におけるモルタルだれや、ケーシングからのモルタルだれが発生しやすい。
(3)「モルタルだれ」を低減しようとすると、スポット性が低下する。補修吹付けにおいては、溶接金網等の格子状鉄筋の間を吹付けることとなり、そのためには吹付け範囲を極力狭めたスポット性が必要となるが、このスポット性とモルタルだれの対策が相反する関係にあり、両立が困難である。
(4)インペラを高速回転させると騒音を発しやすい。インペラを高速回転させるほど、スポット性を高めることができるが、サイレン音に近い騒音を発しやすく、作業環境が悪化する。
【0009】
さらに、従来のコンクリート吹付機は、コンクリートを吹付けるヘッド部分の重量が重く、ロボットハンドのような機械を用いて移動させる必要があるため、手持ちでの使用は不可能であり、作業性が悪い問題点があった。
【0010】
本発明は、上述した問題点を解決するために創案されたものである。すなわち、本発明の第1の目的は、(1)粉塵の発生が少なく、(2)モルタルの付着性能が高く、(3)複数の機材を移動しながら施工する必要がなく、(4)小型・軽量化が可能であり、(5)必要動力が小さく、(6)運転が容易であり、作業能率を高めることができるモルタル吹付け機とこれを用いた補修工法を提供することにある。
また、本発明の第2の目的は、(7)粘性が高く、粘着力が強い補修用モルタルに適用することができ、(8)配管内の詰りを防ぎ、(9)モルタルだれを防止できると共に、(10)スポット性を高めることができ、(11)騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができるモルタル吹付け機とこれを用いた補修工法を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明によれば、軸心を中心に高速回転するインペラ(12)と、該インペラを間隔を隔てて囲むケーシング(14)と、該ケーシングに設けられインペラの回転中心に向けてモルタルを供給するモルタル供給パイプ(16)とを備えたモルタル吹付け機において、前記インペラ(12)は、回転軸の軸線方向に間隔を隔てた2枚のインペラリング(12a)と、その間に周方向に間隔を隔てて取り付けられた複数のブレード(13)とからなり、前記ケーシング(14)は、前記インペラで投射されたモルタルと直接接触しないように前記モルタル供給パイプに隣接して設けられた投射口(14a)を有し、
更に、前記投射口(14a)のモルタル供給パイプに近接する位置に取付けられ、前記インペラ(12)の外縁部と接触してその隙間からのモルタルだれを防止する可撓性のリップシート(17)を備える、ことを特徴とするモルタル吹付け機が提供される。
【0012】
上記本発明の構成によれば、インペラ(12)の高速回転によるブレード(13)の打撃により、モルタル供給パイプ(16)から供給されるモルタルを圧縮空気を用いずに投射するので、粉塵の発生が少なくし、モルタルの付着性能を高め、複数の機材を移動しながら施工する必要がなく、小型・軽量化が可能であり、必要動力が小さく、運転が容易であり、作業能率を高めることができる。
また、インペラを間隔を隔ててケーシング(14)で囲み、このケーシングに、インペラで投射されたモルタルと直接接触しないようにモルタル供給パイプに隣接して設けられた投射口(14a)を有するので、粘性が高く、粘着力が強い補修用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防止できる。
さらに、2枚のインペラリング(12a)を有し、その間にモルタルが供給され高速回転するブレード(13)で打撃するので、幅方向のスポット性を高めることができ、かつ騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができる。
【0013】
また、前記投射口(14a)のモルタル供給パイプに近接する位置に取付けられ、前記インペラ(12)の外縁部と接触してその隙間からのモルタルだれを防止する可撓性のリップシート(17)を備える。
この構成により、分力により後方に押しやられるモルタルをリップシートにより強制的に押さえつけ、その隙間からのモルタルだれを防止する効果があることが確認された。
【0014】
本発明の好ましい実施形態によれば、前記モルタル供給パイプ(16)のモルタル吐出口(16a)は、2枚のインペラリング(12a)の外縁より内側に抱き込まれている。
この構成により、内側に抱き込まれないタイプではかなりのサイレン音を発するのに対して、騒音を効果的に低減できることが実験により確認された。
【0015】
また、前記投射口(14a)のモルタル供給パイプから離れた位置に取付けられ、前記インペラで投射されたモルタルを所望の方向に反射させる可撓性の反射シート(18)を備える。
この構成により、縦方向下方のスポット性を高めることができる。
【0016】
また、前記ブレード(13)は、断面がU字またはV字状の打撃面を有する。この構成により、平板またはL型の打撃面に比べて、スポット性を高めると共にモルタルだれを防止することができる。
【0017】
また、前記インペラリング(12a)の外面に取り付けられ、放射状に延びる複数のサイドフィン(15)を備える。
この構成により、ケーシング(14)とインペラリング(12a)の隙間に侵入したモルタルにサイドフィン(15)の回転により外向きの遠心力を付与し、ケーシングとの隙間への侵入を低減し、必要動力を小さくすることができる。
【0018】
また、前記2枚のインペラリング(12a)の間に取り付けられ、複数のブレード(13)の内側に設けられたリング状の底板(19)を備える。
この構成により、インペラリング間を通過してケーシング内に侵入するモルタルだれを低減することができる。
前記インペラリング(12a)と底板(19)は、ブレード(13)とともに一体化され、かつ駆動モータ(21)に脱着可能に取り付けられている。
この構成により、インペラリング(12a)及び底板(19)の駆動モータ(21)からの脱着が容易にできる。
【0019】
さらに本発明によれば、上述したモルタル吹付け機を用い、圧縮空気なしでコンクリート構造物の補修を行うことを特徴とする補修工法が提供される。
この工法により、従来の「左官仕上げ」、「圧縮空気による吹付け」、および「コンクリート吹付機」と比較して、粉塵の発生を低減し、モルタルの付着性能を高め、小型・軽量化したヘッド部を作業員が手持ちで移動しながら施工することができ、運転が容易であり、作業能率を高めることができ、粘性が高く、粘着力が強い補修用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防止できると共に、スポット性を高めることができ、騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができる。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好ましい実施形態を図面を参照して説明する。なお、各図において共通する部分には同一の符号を付し、重複した説明を省略する。
【0021】
図1は、本発明によるモルタル吹付け機を示す図である。この図において、(A)は一部を切断した側面図、(B)はその左側面図である。また、図2は、図1(A)の主要部の構成図である。さらに、図3は、図2のA-A矢視図(A)とB-B矢視図(B)である。
【0022】
図1〜図3に示すように、本発明のモルタル吹付け機10は、インペラ12、ケーシング14およびモルタル供給パイプ16を備える。インペラ12は、駆動モータ21に直結されその軸心を中心に高速回転するようになっている。この回転速度は、好ましくは約3000rpmから約7000rpmの範囲で、任意に調節できるようになっている。
【0023】
ケーシング14は、インペラ12の回転を阻害しないように、インペラ12を間隔を隔てて囲んでいる。モルタル供給パイプ16は、ケーシング12に連結して設けられインペラ12の回転中心に向けてこの図では上から下にモルタルを供給するようになっている。このモルタルは、従来の圧縮空気による吹付けの場合と同様に、ミキサー、アジテ−タ付きホッパー、およびモルタルポンプからフレキシブルパイプを介して供給される。なお、本発明のモルタル吹付け機10では、コンプレッサからの高圧空気ラインはなく、フレキシブルパイプと電源コードのみが接続される。
【0024】
インペラ12は、回転軸の軸線方向に間隔を隔てた2枚のインペラリング12aと、その間に周方向に間隔を隔てて取り付けられた複数(この例では2つ)のブレード13とからなる。ブレード13は、スポット性を高めると共にモルタルだれを防止するために、この例では断面がU字状の打撃面を有している。U字状の打撃面の開口角度θは、好ましくは約60°前後であるのがよい。またU字状の打撃面の代りにV字状の打撃面であって同様の効果が得られる。
【0025】
ケーシング14は、モルタル供給パイプ16に隣接して設けられた投射口14aを有する。投射口14aはこの例では、開口幅がケーシング14の側面カバーの間、開口高さがケーシング上端からほぼ中央付近までの矩形開口であり、インペラ12のブレード13で投射されたモルタルとほとんど直接接触しないように構成されている。
【0026】
またモルタル供給パイプ16のモルタル吐出口16aは、騒音を効果的に低減するように、2枚のインペラリング12aの外縁より内側に抱き込まれている。
【0027】
さらに本発明のモルタル吹付け機10は、ケーシング14とインペラリング12aの隙間に侵入したモルタルに外向きの遠心力を付与し、ケーシングとの隙間への侵入を低減し、必要動力を小さくするために、複数(この例では4枚)のサイドフィン15を備える。このサイドフィン15は、インペラリング12aの幅方向外面に取り付けられ、放射状に延び、その高速回転によりモルタルに外向きの遠心力を付与する。
【0028】
また本発明のモルタル吹付け機10は、投射口14aからのモルタルだれを防止するために、可撓性のリップシート17を備える。この可撓性のリップシート17は、投射口14aのモルタル供給パイプに近接する位置に取付けられ、インペラ12の外縁部と接触してその隙間からのモルタルだれを防止する。
【0029】
さらに本発明のモルタル吹付け機10は、縦方向下方のスポット性を高めるために、可撓性の反射シート18を備える。この反射シート18は、投射口14aのモルタル供給パイプから離れた位置に取付けられ、インペラで投射されたモルタルを所望の方向に反射させるようになっている。
【0030】
さらに本発明のモルタル吹付け機10は、インペラリング間を通過してケーシング内に侵入するモルタルだれを低減するために、リング状の底板19を備える。このリング状の底板19は、2枚のインペラリング12aの間に取り付けられ、複数のブレード13の内側に設けられる。
【0031】
上述した本発明の構成によれば、インペラ12の高速回転によるブレード13の打撃により、モルタル供給パイプ16から供給されるモルタルを圧縮空気を用いずに投射するので、粉塵の発生が少なくし、モルタルの付着性能を高め、複数の機材を移動しながら施工する必要がなく、小型・軽量化が可能であり、必要動力が小さく、運転が容易であり、作業能率を高めることができる。
また、インペラ12を間隔を隔ててケーシング14で囲み、このケーシングに、インペラで投射されたモルタルと直接接触しないようにモルタル供給パイプに隣接して設けられた投射口14aを有するので、粘性が高く、粘着力が強い補修用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防止できる。
【0032】
さらに、2枚のインペラリング12aを有し、その間にモルタルが供給され高速回転するブレード13で打撃するので、幅方向のスポット性を高めることができ、かつ騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができる。
【0033】
本発明の補修工法では、上述したモルタル吹付け機を用い、圧縮空気なしでコンクリート構造物の補修を行う。従って、この工法により、従来の「左官仕上げ」、「圧縮空気による吹付け」、および「コンクリート吹付機」と比較して、粉塵の発生を低減し、モルタルの付着性能を高め、小型・軽量化したヘッド部を作業員が手持ちで移動しながら施工することができ、運転が容易であり、作業能率を高めることができ、粘性が高く、粘着力が強い補修用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防止できると共に、スポット性を高めることができ、騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができる。
【0034】
【実施例】
以下、本発明の開発経過を実験結果と共に具体的に説明する。なお、実験に用いたモルタルは、電気化学工業(株)製のプレミックスタイプ補修用モルタルのデンカスプリードである。
【0035】
図4は、本発明における試作1号機を示す図であり、表1はその仕様である。
【0036】
【表1】
【0037】
試作1号機により約0.6m3/hの吐出量でモルタルの吹付け実験を実施した結果、以下の状況となった。
(1)モルタル圧送性
モルタルポンプから吹付け機へモルタルを圧送する際に、ノズル手前のテーパー管内で閉塞を起こし、閉塞部分は補修用モルタルに含まれるビニロン繊維が固まった状態となっていた。
そこでテーパー管部分のエルボソケットを外し、直管配管とした結果、モルタルの閉塞は無くなった。
【0038】
(2)吹付け状況
30cmの距離から側壁に約3.5cmの厚さで吹付け、モルタルの投射範囲を計測した結果、横に約30cm、縦に約50cmであり、縦方向のスポット性を高める必要があることがわかった。また、天端に吹付けた場合では、モルタル投射範囲が更に広くなり(スポット性が低下し)、溶接金網に吹付けられたモルタルが「つらら状」になってしまった。このことより、投射口がラッパ状であるとモルタル投射範囲が広くなりスポット性が悪化することがわかった。
【0039】
試作1号機の試験結果を基に投射口、インペラおよびインペラブレードの形状を改造した試作2号機を製作し、吹付け実験を実施した。図5は、本発明における試作2号機を示す図であり、表2はその仕様である。
【0040】
【表2】
【0041】
水を用いた予備投射試験結果からブレードは「前傾なし」より「前傾10°」としたものの方がスポット性が高かった。
試作2号機によりモルタル(デンカスプリード+ショットポリマー)を用いた吹付け実験を実施した。用いたモルタルの物性は表3の通りであった。
【0042】
【表3】
【0043】
モルタルの吹付けにおいては、水を用いた予備投射試験結果からブレードは前傾10°とし、回転数7000rpmとして約0.7m3/hのモルタル吐出量で行った。その結果、試作1号機と異なり投射口に角形のノズルを取付けての吹付けであったが、モルタルがこのノズル内面の周囲に付着し、それが瞬く間に成長してノズルの開口部を塞いでしまい、吹付けが不可能となり、モータが過熱して停止してしまった。0.4m3/hに吐出量を落としても同じ結果であった。
【0044】
これは、ポリマーを混入した粘性の高いモルタルでは、ノズル壁面に付着したモルタルが次ぎに投射されてくるモルタルをその粘着力で引き込み、それが連続的に行われるためと考えられる。
そこで、ノズルの一部を切断して吹付けを実施した結果、ノズル開口部の塞がりは無くなる状況であったが、ノズルからペーストだれが生じる状況が見られた。このことから、粘性の高いモルタルを吹付ける場合には、投射される周囲にモルタルが付着する箇所が無いことが望ましく、投射口のノズルはない方がよいことが分かった。
【0045】
表4に試作2号機による吹付け状況の評価結果を示す。
【表4】
【0046】
試作2号機の結果を基に、ノズルを全て除去した試作3号機を製作し、吹付け実験を実施した。図6は本発明における試作3号機を示す図であり、表5はその仕様である。なお試作3号機は、図1〜3に示した本発明のモルタル吹付け機10と反射シート18の有無とブレード13の形状と前傾角度のみが相違しており、その他の点では実質的に同一である。
【0047】
【表5】
【0048】
モルタル吐出口については、図7のようにインペラリングに抱き込まない場合(非抱込型)と、図8のように抱き込んだ場合(抱込型)とについて実験を行った。
【0049】
(1) 壁面への吹付け試験結果
回転数5000rpmにおいて非抱込型(図7)ではかなりのサイレン音を発する状況であり、吹付け範囲は30cm×30cmであり、投射口からの若干のペーストだれが発生した。一方、抱込型(図8)では、サイレン音の発生はなく騒音の面で良好であった。また、吹付け範囲(スポット性)は横方向が狭くなり約20cm×30cmと向上した。また、投射口からのペーストだれは、ほとんど認められなかった。
さらに抱込型(図8)で回転数5000rpmから7000rpmへ上げたところ、消音効果およびスポット性がさらに改善されることが認められた。
上述のように、側壁への吹付け試験では、非抱込型(図7)に比べ抱込型(図8)は吹付け時の騒音、吹付け範囲(スポット性)およびペーストだれのすべてにおいて優れていることが確認された。
【0050】
(2) 天端への吹付け試験結果
補修工事においては側壁部(横向き)より天端部(上向き)への吹付けが主である。抱込型(図8)を用いて天端への吹付け試験を実施した。
回転数7000rpmにおける天端吹付けにおいては、側壁吹付けのときとは異なり、投射口から沸き上がるようなモルタルだれが発生した。その量は吹付けモルタル量の約1/5程度であった。
これは、ブレードがモルタル吐出口から出るモルタルを叩く際に、一部は前方に叩き付けられるが、一部のモルタルはブレードと吐出口とのクリアランスの間で後ろ向きの分力が働き、その力でモルタルが投射口の後方へ押しやられて投射口壁面を伝わって流れ落ちるためと考えられる。
本実験の評価結果を表6に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
(モルタルだれの防止対策に関する実験結果)
天端吹きにおけるモルタルだれの解消にはモルタル吐出口とブレードの形状が影響するものと考えられる。そこで、(1)L平ブレード1:抱き込みあり、ブレード前傾10°、(2)L平ブレード2:ブレード角度なし、(3)U形ブレード:ブレード角度なし、の各形状のブレードを用意し、天端吹付け試験を実施した。
このとき、(2)(3)のブレードについては、ブレード高さより数ミリ高いウレタンゴムを張り付け、モルタル吐出口とブレードとのクリアランスがゼロになるようにした。
その結果、U形ブレードでクリアランスをゼロとした場合に、スポット性が他のブレードより良好でモルタルだれが発生しない状況となった。しかし、時間の経過とともにブレードに貼られたウレタンゴムが摩耗し、モルタルだれが再発する状況となった。
以上の結果より、ブレードにウレタンゴムを張り付けてクリアランスをゼロにすることは、モルタルだれの解消には有効であるが、モルタル吐出口との摩擦によりウレタンゴムが早期に摩耗してしまい、持続的な効果は得られないことが分かった。
【0053】
(リップシートによるモルタルだれの解消試験結果)
ウレタンゴム(高度90)で作製したリップシート17を投射口14aに取付けてその効果を確認した。
インペラ12はU形ブレード13を前傾10°とし、インペラリング12aでモルタル吐出口16aが抱き込まれるようにインペラリング周面より5mm程度下げて取付けたものを使用した。天端吹付けで最も吹付け状態の良い4000〜5000rpmに回転数を設定し、ブレード13は2枚とした。
0.4m3/hの吐出量において、内部を目視観察できるようにケーシング14の側面カバーを外して吹付けを行った。
【0054】
その結果、リップシート17によりモルタルだれが抑えられ、ほとんど発生しなかった。リップシート17は分力により後方に押しやられるモルタルを強制的に押さえつける効果があることが確認された。しかし、ケーシングを取付けて再確認した結果、ケーシングの周囲を伝わってモルタルだれが再発した。
【0055】
(ケーシングからのモルタルだれの対策)
ブレード13の下方(半径方向内方)は解放されているので、ブレード13で叩かれて四散したモルタルが解放された下方から飛び散り、それがケーシング内面に付着・成長してモルタルだれが発生したものと分かった。そこで、ブレード下方に底板19を張り付けたところ、ケーシング周囲からのモルタルだれは解消した。
【0056】
(スポット性の検討)
補修吹付けにおいては、溶接金網等の格子状鉄筋の間を吹付けることとなり、そのためには吹付け範囲を極力狭めたスポット性が必要となる。
ブレード前面に投射制御板を取付けた試験では、逆にスポット性は悪化し、50cmの吹付け距離で吹付け範囲は縦方向に約60cmとなった。一方、投射制御板の無い場合には、吹付け範囲は縦方向に約35cmと狭くなり、スポット性が向上する結果となった。
【0057】
試作3号機による実験結果は以下の通りである。
(1) 粘性の高い補修モルタルを吹付けるためには、投射ノズルは付けない方が良い。
(2) 「モルタルだれ」に対してはリップシートが有効であり、ブレード下方は解放しない機構とするのが良い。
(3) ブレードはU形で2枚とし、前傾10°で取り付ける。また、モルタル吐出口16aは抱き込み型が良い。
(4) 回転数はスポット性確保および吹付けモルタルの良好な状態確保から4000rpm程度が最適である。
【0058】
(吹付けモルタルの品質確認試験)
吹付けモルタルの品質を試験した結果を表7に示す。
【0059】
【表7】
【0060】
比重試験結果から、練混ぜ時にポリマーの粘性により巻き込まれた空気が、吹付けにより無くなっており、エア吹付けと同様の状態の補修モルタルが吹付けられていることがわかる。
また、曲げ強度はエア吹付けの実績を上回り、圧縮強度もエア吹付けとほぼ同程度であった。さらに付着強度については、エア吹付けの実績を大きく上回り、吹付けモルタルの品質が非常に優れていることが確認された。
【0061】
なお、本発明は上述した実施例に限定されず、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々変更できることは勿論である。
【0062】
【発明の効果】
本発明のモルタル吹付け機は、圧縮空気を一切用いず、補修モルタルを高速回転(4000rpm程度)したインペラに取り付けられたインペラブレードにより叩き付けコンクリート構造物の補修面に吹き付けるものであり、本発明により、補修面とモルタルの付着性能を高めることが可能となった。また高度な熟練を必要としないので、簡単に補修箇所に移動できる簡易な吹付け機である。
従って、総重量が10kg以下程度に軽量化して、ポータブルエアレス吹付け機とすることにより、吹付け機を支えるサポート等を使用して、1日5時間程度でも上向き吹付けが可能となる。
【0063】
また、上述したモルタル吹付け機を用い、圧縮空気なしでコンクリート構造物の補修を行う本発明の補修工法により、従来の「左官仕上げ」、「圧縮空気による吹付け」、および「コンクリート吹付機」と比較して、粉塵の発生を低減し、モルタルの付着性能を高め、小型・軽量化したヘッド部を作業員が手持ちで移動しながら施工することができ、運転が容易であり、作業能率を高めることができ、粘性が高く、粘着力が強い補修用モルタルに適用することができ、配管内の詰りを防ぎ、モルタルだれを防止できると共に、スポット性を高めることができ、騒音の発生が少なく、粉塵の低減と共に作業環境を改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明によるモルタル吹付け機を示す図である。
【図2】図1の主要部の構成図である。
【図3】図2の部分矢視図である。
【図4】本発明における試作1号機を示す図である。
【図5】本発明における試作2号機を示す図である。
【図6】本発明における試作3号機を示す図である。
【図7】モルタル吐出口がインペラリングの間に抱き込まれた位置関係を示す図である。
【図8】モルタル吐出口がインペラリングの間に抱き込まれない位置関係を示す図である。
【図9】従来の圧縮空気による吹付けの模式図である。
【図10】空気を用いない従来のコンクリート吹付機のヘッド部の構成図である。
【図11】従来のコンクリート吹付機のヘッド部の別の模式図である。
【符号の説明】
1 吹付けガン、2 インペラ、2a ブレード、3 攪拌スクリュー、
4 ケーシング、5 コンクリート供給管、6 コンクリート吐出管、
7 急結剤供給ノズル、8 コンクリート用パイプ、
8a 生コンクリート、9 急結剤、
10 モルタル吹付け機、12 インペラ、12a インペラリング、
13 ブレード、14 ケーシング、14a 投射口、15 サイドフィン、
16 モルタル供給パイプ、16a 吐出口、17 リップシート、
18 反射シート、19 底板
Claims (8)
- 軸心を中心に高速回転するインペラ(12)と、該インペラを間隔を隔てて囲むケーシング(14)と、該ケーシングに設けられインペラの回転中心に向けてモルタルを供給するモルタル供給パイプ(16)とを備えたモルタル吹付け機において、
前記インペラ(12)は、回転軸の軸線方向に間隔を隔てた2枚のインペラリング(12a)と、その間に周方向に間隔を隔てて取り付けられた複数のブレード(13)とからなり、
前記ケーシング(14)は、前記インペラで投射されたモルタルと直接接触しないように前記モルタル供給パイプに隣接して設けられた投射口(14a)を有し、
更に、前記投射口(14a)のモルタル供給パイプに近接する位置に取付けられ、前記インペラ(12)の外縁部と接触してその隙間からのモルタルだれを防止する可撓性のリップシート(17)を備える、ことを特徴とするモルタル吹付け機。 - 前記モルタル供給パイプ(16)のモルタル吐出口(16a)は、2枚のインペラリング(12a)の外縁より内側に抱き込まれている、ことを特徴とする請求項1に記載のモルタル吹付け機。
- 前記投射口(14a)のモルタル供給パイプから離れた位置に取付けられ、前記インペラで投射されたモルタルを所望の方向に反射させる可撓性の反射シート(18)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のモルタル吹付け機。
- 前記ブレード(13)は、断面がU字またはV字状の打撃面を有する、ことを特徴とする請求項1に記載のモルタル吹付け機。
- 前記インペラリング(12a)の外面に取り付けられ、放射状に延びる複数のサイドフィン(15)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のモルタル吹付け機。
- 前記2枚のインペラリング(12a)の間に取り付けられ、複数のブレード(13)の内側に設けられたリング状の底板(19)を備える、ことを特徴とする請求項1に記載のモルタル吹付け機。
- 前記インペラリング(12a)と底板(19)は、ブレード(13)とともに一体化され、かつ駆動モータ(21)に脱着可能に取り付けられている、ことを特徴とする請求項6に記載のモルタル吹付け機。
- 請求項1乃至請求項7に記載のモルタル吹付け機を用い、圧縮空気なしでコンクリート構造物の補修を行う、ことを特徴とする補修工法。
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