JP3801784B2 - 吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、吸収式ヒートポンプに使用される作動媒体組成物に関し、より具体的には、水を冷媒とし、吸収剤の成分として臭化リチウムを含む吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物に関する。なお、本明細書中吸収式ヒートポンプの語は、特に断わらない限り、広義の意味すなわち得られる冷水を利用するための吸収式冷凍機と、得られる温水を利用するための狭義の吸収式ヒートポンプの両方を意味するものとする。
【0002】
【従来の技術】
吸収式ヒートポンプは、図1のとおり(例えば、単効用形の場合)、基本的には、再生器▲1▼、凝縮器▲2▼、蒸発器▲3▼及び吸収器▲4▼から成り、このうち蒸発器▲3▼及び吸収器▲4▼は、所定の真空に保持される容器内に収容されている。作動媒体として、水を冷媒とし、吸収剤(LiBr等)を含む水溶液を使用する場合の操作例について述べる。吸収器▲4▼において水蒸気を吸収して希釈された吸収液は、再生器▲1▼において外部熱源により加熱することにより吸収液中の水を蒸発する一方、吸収液自体は濃縮され、水蒸気の吸収能が回復される。
【0003】
凝縮器▲2▼では、再生器▲1▼で蒸発した水蒸気が外部からの冷却用流体(通常は水)との熱交換器によって凝縮される。次いで、この凝縮水は、より低圧の蒸発器▲3▼へ送られ、ここで外部からの低温熱源(通常は水)から熱を得て、再生器▲1▼よりは、はるかに低温低圧で蒸発、気化する。一方、再生器▲1▼で濃縮された吸収液は吸収器▲4▼へ送られ、ここで蒸発器▲3▼で蒸発、気化した冷媒蒸気(水蒸気)を吸収して希釈され、その希釈吸収液は再生器▲1▼へ循環される。
【0004】
ここでヒートポンプと外部との熱の授受についてみると、次の4種類が同時に行われ、全体としてバランスしている。(1)再生器▲1▼で外部から高温の熱を受けること。(2)凝縮器▲2▼で外部へやや高温の熱(凝縮潜熱)を与えること。(3)蒸発器▲3▼で外部から低温の熱(蒸発潜熱)を汲み上げること(=ヒートポンプの語の由来である)。(4)吸収器▲4▼で外部へ中程度の温度の熱(吸収熱)を与えること。
【0005】
これが冷凍機(冷水機ともいう)としての場合には、蒸発器▲3▼で得られる冷熱を冷房に利用する。同時に凝縮器▲2▼、吸収器▲4▼で発生する不要な温熱を冷却水で除去しなければならない。すなわち、図1のような吸収式ヒートポンプを冷水機として使う場合、冷やされた冷水を二次側へ送って利用する。温められた冷却水はクーリングタワーへ送られる。
【0006】
狭義のヒートポンプ(温水機ともいう)では、凝縮器▲2▼、吸収器▲4▼で得られる温熱を暖房に利用する。同時に蒸発器▲3▼では温排水などから蒸発熱を与えてやらなければならない。すなわち、図1のような吸収式ヒートポンプを温水機として使う場合、温められた温水を二次側へ送って利用する。低温熱源水から低温の熱を汲み上げる。以上は、吸収式ヒートポンプのうちでも、最も基本的な単効用形の一例であるが、二重効用形では、再生器で発生する冷媒蒸気の凝縮熱を利用して熱効率を改善し、再生器での加熱量を大幅に少なくすることができる。
【0007】
ところで、吸収式ヒートポンプに使用される作動媒体としては、これまで種々のものが提案されてきてはいるが、我が国においては、現実には専ら水と臭化リチウムとからなる系(「水ーLiBr」系)が使用されている。水ーLiBr系は、安定性、腐食性、価格などに関して優れているため、従来から広く採用されてきたが、結晶限界に基づく性能上の限界がある。通常使用される吸収液のLiBr濃度は60〜65wt%と高く、液温も60℃以下であるため、冷房負荷の高い夏場等の時期や緊急停止時に結晶化が起り、例えば再生器▲1▼や吸収器▲4▼内壁への付着、これらを結ぶ配管の閉塞等により運転不能になる危険がある。
【0008】
したがって、もし上記結晶限界が緩和され、すなわち吸収剤が高濃度でも結晶析出がないならば、次のような多くの性能改善が期待できる。
第1に、吸収液の濃度幅を広げられること。それによって溶液の循環量が減少し、溶液ポンプの小型化、省電力が図れる。また溶液熱交換器での濃溶液、稀溶液間の温度差が広がるため、溶液熱交換器の小型化もしくは熱回収率が向上し、延いては作業成績(cop)が向上する。
第2に、吸収器において吸収溶液の温度を高くできるので、機械の大きな部分を占める吸収器の小型化が図れる。緩和効果が大きければ空冷の可能性もでてくる。同じ理由から、温水機として使う場合、より高温の温水が得られる。
第3に、蒸発器の蒸発温度を低下できるため、冷水機としてはより低温の冷水が得られ、温水機としてはより低温の低温熱源を利用できる。
【0009】
それらのため、結晶限界(晶析ライン)を緩和する試み、提案が従来からいろいろと行われてきているが、十分実用に耐えるものは未だ開発されるに至っていない。例えば、この系の水溶液に臭化亜鉛や塩化亜鉛を添加することが提案されている。しかしこれら臭化亜鉛や塩化亜鉛を加えた系では、溶液自体が酸性となり、きわめて強い腐食性を示すだけではなく、10重量%程度以下の希薄溶液では水酸化亜鉛の生成に伴う沈澱物が生じてしまう。
【0010】
この点、特公昭61ー52738号公報においては、上述水と臭化リチウムとからなる系について、臭化リチウムにヨウ化リチウムを加え、その量的割合につき、臭化リチウムを70〜99モル%、ヨウ化リチウムを1〜30モル%とすることにより、臭化リチウム水溶液に比べて蒸気圧降下が大きく、また結晶化温度が低くなり、この吸収液の使用によって吸収冷暖房機の性能向上及び吸収液の固化などの不具合の発生を抑制することが可能となったというものである。
【0011】
また、特公平5ー28749号公報では、発生器、凝縮器、蒸発器及び吸収器よりなる吸収冷凍機に使用される吸収液において、臭化リチウム、ヨウ化リチウム及び塩化リチウムが、重量比で臭化リチウム1:ヨウ化リチウム0.1〜1.0:塩化リチウム0.05〜0.50で混合された混合物を含む吸収剤を、冷媒としての水に溶解させた水溶液からなる吸収冷凍機用吸収液が提案され、これにより高濃度で且つ晶析温度の低い吸収液が提供できたとしている。さらに特許第2750834号(特開平9ー14784号)ではハロゲン化セシウムを添加することで吸収液の結晶析出温度を低下させている。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者は、水ーLiBr系の吸収剤の組成についてさらに詳細に調査し、各種観点から実測、検討を重ねたところ、水ーLiBr系の吸収剤に硝酸カルシウムを混合することにより、水蒸気吸収性能を低下させることなく、晶析ラインを有効に緩和させ得ることを見い出し、本発明に到達するに至ったものである。
【0013】
すなわち本発明は、吸収式ヒートポンプ用の「水ーLiBr」系水溶液組成物に対し、硝酸カルシウムという特定の成分を含有させることにより、水蒸気吸収性能を低下させることなく、晶析ラインを緩和させてなる(すなわち吸収剤の溶解度を上げ、吸収液の結晶析出温度を低下させてなる)、実用上きわめて有効な吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物を提供することを目的とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明は、水を冷媒とし、吸収剤成分として臭化リチウムを含む吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物であって、該組成物に硝酸カルシウムを含有させてなることを特徴とする吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物を提供する。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明によれば、水を冷媒とし、吸収剤成分として臭化リチウム(LiBr)を含む水溶液組成物に硝酸カルシウム〔Ca(NO3)2〕を含有させることにより、水蒸気吸収性能を低下させることなく吸収液の結晶析出ラインを緩和させることができる。本発明における硝酸カルシウムの添加割合は、臭化リチウムに対して、モル比で好ましくは0.1〜0.5(臭化リチウムと硝酸カルシウムとの合計モル数を1としたとき、その中の硝酸カルシウムのモル数)の範囲で添加される。また、本発明の水溶液組成物は、臭化リチウムを主成分とするものであれば、LiBrーLiI系、LiBrーLiCl系、LiBrーLiIーLiCl系の吸収剤にも適用される。
【0016】
【実施例】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳しく説明するが、本発明が実施例に限定されないことはもちろんである。
【0017】
図2は、基本組成であるLiBr水溶液に対して、各種成分を含有させた溶液に関する溶解度線を比較した図である。横軸に濃度、縦軸に温度を示し、添加成分としてCa(NO3)2、1,3ープロパンジオール、LiCl+ZnCl2、エタノールアミンを含むLiBr水溶液を示している。図2中、(1)LiBr+Ca(NO3)2は、LiBrとCa(NO3)2をモル比で0.8:0.2としているが、他の各成分の比率は下記(2)〜(4)のとおりである。
【0018】
(2)LiBr+1,3ープロパンジオールは重量比でLiBr/1,3ープロパンジオール=3.5〔Int J. Refrig. Vol.20, No.5, pp.319ー325(1997)〕。(3)LiBr+LiCl+ZnCl2は、重量比率でLiBr:LiCl:ZnCl2 =3:1:4〔Refrigeration Vol.68, No.789〕。(4)LiBr+エタノールアミンは重量比でLiBr/エタノールアミン=3.5〔「Journal of Chemical and Engineering Data」Vol.41, No.2(1996)〕。
【0019】
図2において、溶解度線の左側の領域が結晶が析出せずに作動できる領域であるが、LiBr水溶液の場合、濃度61%(mass%:以下同じ)では275K、濃度65%では306Kで結晶析出が始まってしまい、作動温度領域に制限がある。これに対して、Ca(NO3)2、1,3ープロパンジオール、LiCl+ZnCl2、エタノールアミンの各添加成分を含有させた場合の溶解度線は何れも右方に大きくシフトし、作動温度領域が緩和される。
【0020】
しかし、1,3ープロパンジオールを含有する場合には、これが有機化合物であるため安定性が悪いし、ZnCl2 を含有する場合には、腐食性が大きく、酸性溶液になってしまうため、炭素鋼等の鉄製材料を腐食し、ステンレス鋼の場合でも相当の配慮が必要である。さらにエタノールアミンを含有する場合には、有機化合物であるため安定性が悪く、また粘性が大きくなる可能性がある。
【0021】
ところが、本発明に係るCa(NO3)2を含有させた場合には、これが安定な無機化合物であるため、上記有機化合物のような欠点がなく、ZnCl2 のような腐食性の問題もないため添加成分としてきわめて有効である。図2中、結晶析出温度275Kについて、基本組成であるLiBr水溶液は濃度61%で結晶を析出するが、Ca(NO3)2の場合には、濃度71%という高濃度まで結晶析出がない。この事実は、例えば結晶析出温度275Kの場合、Ca(NO3)2を含有させることで、吸収剤の濃度を濃度71%という高濃度とし得ることを意味している。
【0022】
図3は、LiBr+Ca(NO3)2混合塩水溶液の溶解度線、すなわち基本組成であるLiBr水溶液に対してCa(NO3)2の添加量を変えた場合の溶解度線を示した図である。横軸に濃度、縦軸に温度を示し、併せてLiBr水溶液及びCa(NO3)2水溶液についても示している。図3から、基本組成LiBr水溶液に対してCa(NO3)2を添加することで溶解度線が右方へシフトし、結晶析出限界が大きく緩和されていることが明らかである。
【0023】
例えば290Kでは、LiBr水溶液では濃度55%までで限度であるが、LiBr9モルに対してCa(NO3)2を1モル添加した場合、溶液濃度66%まで緩和することができる。LiBrに対するCa(NO3)2の添加量を増加させるに伴い作動濃度は更に緩和され、70%以上の濃度とすることができる。例えば同じく290Kで、LiBr8モルに対してCa(NO3)2を2モル添加した場合、溶液濃度72%強まで緩和することができる。
【0024】
図4は温度280Kにおける、LiBr+Ca(NO3)2混合塩水溶液の溶解度を示すグラフ図である。図3で云えば温度280Kの線Aに相当している。図4中、横軸はCa(NO3)2のモル混合比、縦軸は溶液濃度であり、混合比=0はLiBr水溶液の場合、混合比=1はCa(NO3)2水溶液の場合である。
【0025】
図4のとおり、LiBr水溶液に対してCa(NO3)2を含有させることにより、溶質〔LiBr+Ca(NO3)2〕の溶解度を上げることができる。Ca(NO3)2〕の含有割合を増加させるに伴い、溶液濃度が増加して晶析ラインが改善され、モル比0.1で65.4%、モル比0.5で75%の溶解度を示している。以降、Ca(NO3)2〕の含有割合を増加させるに伴い徐々に低下するが、Ca(NO3)2量、モル比0.5で69%、モル比0.7でモル比0.1の場合と同等の溶解度を示している。
【0026】
これを、吸収剤としてのLiBrを主体とする水溶液でる点、水蒸気吸収性能を低下させることなく〔すなわち、溶質全重量(kg)当りの水蒸気吸収性能を低下させることなく〕溶解度を改善する必要がある点等を合わせて考慮すると、図4の事実はLiBrに対してCa(NO3)2を好ましくは0.1〜0.5(モル比)程度の範囲で含有させることにより結晶晶析ラインを改善し緩和させ得ることを示している。このように、本発明におけるCa(NO3)2添加による結晶晶析ラインの緩和効果は、有効な優れた効果であることが明らかである。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、吸収式ヒートポンプにおいて使用する、LiBr系、LiBrーLiI系及びLiBrーLiIーLiCl系の吸収剤水溶液において、水蒸気吸収性能を低下させることなく、高濃度でも結晶析出を回避し、晶析ラインを有効に緩和させることができる。これにより前述のとおりの種々の利点を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】従来の吸収式ヒートポンプ(単効用形)の概略図。
【図2】基本組成であるLiBr水溶液に対して、各種成分を含有させた溶液に関する溶解度線を比較した図。
【図3】LiBr+Ca(NO3)2混合塩水溶液の溶解度線を示した図。
【図4】温度280Kにおける、LiBr+Ca(NO3)2混合塩水溶液の溶解度を示すグラフ図。
【符号の説明】
▲1▼ 再生器
▲2▼ 凝縮器
▲3▼ 蒸発器
▲4▼ 吸収器
Claims (1)
- 水を冷媒とし、吸収剤成分として臭化リチウムを含む吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物であって、該組成物に硝酸カルシウムを含有させてなり、且つ、臭化リチウムに対する硝酸カルシウムの割合がモル比で0.1〜0.5であることを特徴とする吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物。
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JP20587698A JP3801784B2 (ja) | 1998-07-06 | 1998-07-06 | 吸収式ヒートポンプ用水溶液組成物 |
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