JP3800309B2 - 渦電流減速装置 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は車両などの摩擦ブレーキを補助する渦電流減速装置、特に磁石支持筒の正逆回動により非制動と制動との切換えを行う渦電流減速装置に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
案内筒の内空部に回動可能の磁石支持筒が収容される渦電流減速装置では、磁石支持筒の内周面(軸孔)に、銅などの焼結金属筒に弗素樹脂(P.T.F.E.)と鉛を含浸してなるドライブツシユ(軸受)を圧入したうえ、アルミニウムなどの非磁性体からなる案内筒に外挿して、磁石支持筒を回転しやすくしている。磁石支持筒は流体圧アクチユエータのロツドと連結され、制動位置と非制動位置とに正逆回動される。
【0003】
ドライブツシユはテフロン(登録商標)などの弗素樹脂を主成分とする材料を使用しているので、接触面圧が低かつたり高温になると摩擦係数が増大し、磁石支持筒が作動不良を起こすことがあつた。つまり、弗素樹脂系のドライブツシユは接触面圧が低いと摩擦係数が大きくなり、接触面の微小な範囲で摩擦係数が大きいと接触面の温度も上昇する。さらに、制動時の制動ドラムからの渦電流による熱の影響を受けて、雰囲気温度が一層高くなると、接触面の摩擦係数が大きくなり、磁石支持筒の円滑な作動を妨げる。
【0004】
磁石支持筒の固着についての実験結果によれば、制動中の高温下で非磁性体からなる内筒部が熱膨張すると、ドライブツシユとの隙間が狭くなり、局部的な摩耗部分はプラスチツクフロー(軟化溶融)になつて周方向へ押し出され、狭い隙間へ押し込まれる。やがて制動ドラムの回転速度が減じると、プラスチツクフローの凝固が始まり、摩擦係数が異常に大きくなり、プラスチツクフローが凝固したままになると、磁石支持筒が固着するに至る。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の課題は上述の問題に鑑み、ドライブツシユの摩擦特性を考慮し、案内筒の内筒部の外周面に対する、磁石支持筒の内周面の摩擦面圧を高くするとともに、摩擦面付近の熱負荷を軽減するようにした渦電流減速装置を提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決するために、本発明の構成は回転軸に結合した制動ドラムと、該制動ドラムの内部にあつて車体などの固定部分に取り付られ断面長方形の内空部を有する非磁性体からなる案内筒と、該案内筒の内筒部に弗素樹脂を主成分とするドライブツシユを介して支持した少くとも1つの可動の磁石支持筒と、該磁石支持筒の外周面に周方向等間隔に結合した多数の磁石と、前記案内筒の前記磁石と対向する位置に鋳込んだ強磁性部材とを有し、前記磁石からの磁界に基づく渦電流により制動力を前記制動ドラムに発生する渦電流減速装置において、前記可動の磁石支持筒の内周面と対向する前記案内筒の内筒部の外周面に軸方向の溝を設けたことを特徴とする。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では非磁性体からなる断面長方形の内空部を有する案内筒の内筒部に対し、樹脂系のドライブツシユを介して可動の磁石支持筒を回動可能に支持する。樹脂系のドライブツシユは摩擦面圧がある程度高くないと、摩擦係数が高い状態にあり、局部的な摩擦部分の熱により高温(250℃)になると、急激に摩擦係数が高くなり、磁石支持筒の正逆回動による制動と非制動との切換えが困難になる。特に、非磁性体としてアルミニウムを用いた案内筒の内筒部の外周面にアルマイト処理を施すと断熱効果が高められ、温度の上昇を抑えにくい。
【0009】
そこで、本発明では非磁性体からなる案内筒の内筒部の外周面に多数の軸方向の溝または多数の凹部を設け、磁石支持筒の内周面に圧入した樹脂系のドライブツシユとの摩擦面圧を高くする。
【0010】
【実施例】
図1は本発明による渦電流減速装置の正面断面図、図2は同側面断面図である。本発明による渦電流減速装置は例えば車両用変速機の出力回転軸1に結合される導体からなる制動ドラム7と、制動ドラム7の内部に配設される非磁性体からなる案内筒10と、案内筒10の断面長方形の内空部37に収容した可動の磁石支持筒14と回止めピン13により固定された不動の磁石支持筒14Aとを備えている。制動ドラム7はボス5のフランジ部5aを、駐車ブレーキの制動ドラム3の端壁と一緒に、回転軸1にスプライン嵌合した取付フランジ2に重ね合され、かつ複数のボルト4とナツトにより締結される。ボス5から放射状に延びる多数のスポーク6に、冷却フイン8を備えた制動ドラム7の基端が結合される。
【0011】
断面長方形の内空部を有する案内筒10は例えば断面C字形の筒体に、環状板からなる端壁11を結合して構成される。案内筒10は適当な手段により例えば車両用変速機の歯車箱に固定される。案内筒10の外筒部10aに周方向等間隔に設けた多数の開口25に、周縁に抜止め突条15cを備えた長方形の強磁性部材ないし強磁性板(ポールピース)15が結合される。好ましくは、強磁性板15は案内筒10の成形時鋳込まれる。
【0012】
磁性体からなる磁石支持筒14は、案内筒10の内空部37にあつてドライブツシユ26により正逆回動可能に内筒部10bに支持される。磁石支持筒14は外周面に各強磁性板15に対向する磁石24を、強磁性板15に対する極性が周方向に交互に異なるように結合される。磁性体からなる磁石支持筒14Aは案内筒10の内空部37にあつて内筒部10bに固定され、磁石支持筒14と同様に、磁石支持筒14は外周面に各強磁性板15に対向する磁石24を、強磁性板15に対する極性が周方向に交互に異なるように結合される。図示してないが、磁石支持筒14の左端壁から軸方向へ突出する腕(図示せず)が内空部37において、案内筒10の左端壁と一体のアクチユエータ20の、シリンダ18に嵌合するピストンから突出するロツドに連結される。
【0013】
図2に示すように、磁石24から制動ドラム7へ向う(この逆も同じ)磁束密度が、強磁性板15の中央部分(制動ドラム7の回転方向(矢印y)の中央部分)で最大になるように、制動ドラム7の内周面に対向する強磁性板15の外面の面積が、磁石24に対向する内面の面積よりも狭く構成される。このため、強磁性板15の前面15aは途中から外面に向つて制動ドラム7の回転方向(矢印y)後方へ傾斜される。同様に、強磁性板15の後面15bは途中から外面に向つて制動ドラム7の回転方向前方へ傾斜される。
【0014】
図2,3に示すように、本発明によれば案内筒10の内筒部10bの外周面に多数の軸方向の溝39を、好ましくは周方向等間隔に設け、磁石支持筒14に圧入した樹脂系のドライブツシユ26が内筒部10bの外周面に支持される。内筒部10bの軸方向の溝39は、案内筒10の鋳造時一体に成形するのが好ましく、鋳型を軸方向に抜き易いように、図4に示すように、軸方向の溝39の深さは内筒部10bの左端部から右端部へ次第に深くなるように構成される。図5〜7に示すように、案内筒10の内筒部10bの溝39は、制動ドラム7の回転軸線に対して傾斜させてもよい。また、案内筒10の内筒部10bの軸方向の溝39は、可動の磁石支持筒14が支持される部分だけに設けるようにしてもよい。図6,7に示すように、アクチユエータ20(図1参照)を案内筒10の一端部に配設すると、アクチユエータ20に近い方のドライブツシユ26の面圧が高く、アクチユエータ20から離れるに従つてドライブツシユ26の面圧が低くなるので、内筒部10bの溝39の溝幅(周方向の寸法)をアクチユエータ20から離れるに従つて広く(長く)することにより面圧の均一化を図る。
【0015】
図8,9に示す実施例では、案内筒10の内筒部10bの外周面の、可動の磁石支持筒14が支持される部分に、外形が方形、台形、3角形、円形などの多数の凹部39a,39bを設けたものである。
【0016】
上述のように、内筒部10bの外周面に多数の軸方向の溝39または凹部39aを設けたことにより、案内筒10の樹脂系のドライブツシユ26を支持する支持面積が狭くなるので接触面圧が高くなり、内筒部10bの外周面に対する樹脂系のドライブツシユ26の摩擦係数が小さくなり、磁石支持筒14の円滑な正逆回動による制動と非制動との切換動作が得られる。
【0017】
図10に示す実施例では、可動と不動の各磁石支持筒14,14A(磁石支持筒14Aは図1を参照)の外周面に、周方向の端部に磁極を有する多数の磁石24,24Aを周方向等間隔に、かつ各磁石24,24Aの磁極が互いに対向して同極となるように支持したものである。他の構成は図1に示す実施例と同様である。図10に示す制動位置では、各磁石支持筒14,14Aの周方向に隣接する1対の磁石24,24Aの相対向する磁極から磁界が磁石支持筒14,14A、強磁性板15を経て制動ドラム7に磁界を及ぼし、制動ドラム7と各磁石24,24Aとの間に磁気回路zが生じる。非制動時、可動の各磁石支持筒14を磁石24の配列ピツチだけ回動すると、各磁石24,24Aと強磁性板15との間に短絡的磁気回路wが生じ、制動ドラム7に磁界を及ぼさない(図1を参照)。
【0018】
図14に示すように、銅などの焼結金属に弗素樹脂(P.T.F.E.)と鉛を含浸してなるドライブツシユ26は、接触面圧が低い摩擦領域では、弗素樹脂が弾性体として働き、弾性的摩擦特性を示し、摩擦係数が大きいが、接触面圧が高い摩擦領域では、下地の焼結金属筒の塑性的摩擦特性に移行し、摩擦係数は小さく、ほぼ一定の値を示す。本発明では案内筒10の内筒部10bの外周面に、軸方向の溝39または凹部39a,39bを設けることにより、ドライブツシユ26との接触面積が狭くなるので、内筒部10bに対するドライブツシユ26の接触面圧が高くなり、摩擦係数が小さくなり、発熱が抑えられるとともに、軸方向の溝39または凹部39a,39bの存在により接触面付近の熱負荷が軽減され、磁石支持筒14の円滑な動作が保証される。
【0019】
上述の実施例では、可動の磁石支持筒と不動の磁石支持筒を備え、両者の回転差動により制動と非制動の切り換えを行う形式の渦電流減速装置について説明したが、本発明はこれに限定されるものでなく、単一の磁石支持筒の正逆回動により制動と非制動の切り換えを行う形式の渦電流減速装置にも適用できる。
【0020】
図11,12に示す実施例では、案内筒10の内空部に単一の磁石支持筒14を正逆回動可能に支持し、磁石支持筒14の周方向に並ぶ2つの磁石24が共通の強磁性板15に部分的に対向する非制動位置と、1つの磁石24が強磁性板15に全面的に対向する制動位置とに切り換えるものである。案内筒10の内筒部10bの外周面に、図3〜9に示すような、多数の軸方向の溝39または凹部39a,39bが設けられる。他の構成は図1,2に示すものと同様である。
【0021】
図13に示す実施例では、回転軸に結合した制動ドラム7の内部に、非磁性体からなりかつ断面長方形の内空部を有する案内筒10を配設し、案内筒10の外筒部10aに周方向等間隔に多数の強磁性板15を配設し、案内筒10の内空部に正逆回動可能に配設した磁性体からなる磁石支持筒14の外周面に、各強磁性板15に2つずつ対向しかつ強磁性板15に対する極性が周方向に2つごとに異なるように磁石24を結合し、異極性の2つの磁石24が各強磁性板15に全面的に対向する非制動位置と、同極性の2つの磁石24が各強磁性板15に全面的に対向する制動位置とに、磁石支持筒14をアクチユエータにより正逆回動して切り換えるものである。磁石支持筒14の内周面に樹脂系のドライブツシユが結合される。一方、磁石支持筒14を支持する内筒部10bの外周面には、図3〜6に示すような、多数の軸方向の溝39または凹部39a,39bが設けられる。他の構成は図1,2に示すものと同様である。
【0022】
【発明の効果】
本発明は上述のように、回転軸に結合した制動ドラムと、該制動ドラムの内部にあつて車体などの固定部分に取り付られ断面長方形の内空部を有する非磁性体からなる案内筒と、該案内筒の内筒部に弗素樹脂を主成分とするドライブツシユを介して支持した少くとも1つの可動の磁石支持筒と、該磁石支持筒の外周面に周方向等間隔に結合した多数の磁石と、前記案内筒の前記磁石と対向する位置に鋳込んだ強磁性部材とを有し、前記磁石からの磁界に基づく渦電流により制動力を前記制動ドラムに発生する渦電流減速装置において、前記可動の磁石支持筒の内周面と対向する前記案内筒の内筒部の外周面に軸方向の溝を設けたので、案内筒の外周面の樹脂系ドライブツシユと摩擦接触する面積が狭くなり、それだけ摩擦面の面圧が高くなり、摩擦面の摩擦係数を低くすることができる。その結果、摩擦面の発熱が抑えられ、磁石支持筒の正逆回動による制動と非制動の円滑な切換操作が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明が適用される渦電流減速装置の非制動時の正面断面図である。
【図2】同渦電流減速装置の制動時の側面断面図である。
【図3】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部を示す斜視図である。
【図4】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部を示す正面断面図である。
【図5】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部の他の実施例を示す平面図である。
【図6】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部の他の実施例を示す平面図である。
【図7】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部の他の実施例を示す平面図である。
【図8】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部の他の実施例を示す斜視図である。
【図9】同渦電流減速装置の案内筒の内筒部の他の実施例を示す斜視図である。
【図10】本発明が適用される他の渦電流減速装置の側面断面図である。
【図11】本発明が適用される他の渦電流減速装置の正面断面図である。
【図12】同渦電流減速装置の非制動時の側面断面図である。
【図13】本発明が適用される他の渦電流減速装置の側面断面図である。
【図14】渦電流減速装置の磁石支持筒の回転支持部の摩擦特性を表す線図である。
【符号の説明】
1:回転軸 6:スポーク 7:制動ドラム 10:案内筒 10a:外筒部 10b:内筒部 14:磁石支持筒 14A:磁石支持筒 15:強磁性板 20:アクチユエータ 24:磁石 24A:磁石 26:ドライブツシユ 39:軸方向の溝 39a,39b:凹部
Claims (2)
- 回転軸に結合した制動ドラムと、該制動ドラムの内部にあつて車体などの固定部分に取り付られ断面長方形の内空部を有する非磁性体からなる案内筒と、該案内筒の内筒部に弗素樹脂を主成分とするドライブツシユを介して支持した少くとも1つの可動の磁石支持筒と、該磁石支持筒の外周面に周方向等間隔に結合した多数の磁石と、前記案内筒の前記磁石と対向する位置に鋳込んだ強磁性部材とを有し、前記磁石からの磁界に基づく渦電流により制動力を前記制動ドラムに発生する渦電流減速装置において、前記可動の磁石支持筒の内周面と対向する前記案内筒の内筒部の外周面に軸方向の溝を設けたことを特徴とする渦電流減速装置。
- 前記案内筒の外周面に設けた軸方向の溝について、アクチユエータが配設される案内筒の端部側の前記溝の周方向の寸法よりも、反対端部側の前記溝の周方向の寸法を長くした、請求項1に記載の渦電流減速装置。
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