JP3799531B2 - 高層建物用避難用具の使用方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、高層建物での災害時における被災者の迅速且つ簡易な避難用具構造及び避難方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
災害時、特に火災発生時等において建物の高層階からの脱出手段としては、避難梯子や救助袋を使用した避難方法が普及している。しかし、災害の状況によっては、避難用具設置場所に到達できない場合があり、また、あらかじめ複数箇所に設置するには設置費用が非常に掛かる。更に、救助袋については、避難場所に補助者がいなければ使用することは不可能である。
【0003】
また、ロープを使用した避難器具も多数、提案されている(例えば、特許文献1及び2参照。)。いずれの避難器具においても、ロープに避難器具を装着した上で、避難者が自らブレーキレバー等を操作して降下速度を調整できるような構造になっている。しかし、避難者が自らブレーキレバー等の操作が可能であるが故に、恐怖心からブレーキを解除できず、却って避難に時間が掛かる場合や、ロープへの避難器具の装着が困難な場合がある。
【0004】
【特許文献1】
特開昭49−22796号公報
【特許文献2】
特開昭63−124953号公報
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、これらに鑑み、構造が単純で、且つ避難者が容易に使用することができる高層建物用避難用具構造及び避難方法を提供しようとする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明の発明者は、これらの問題を解決するために鋭意検討し、ロープへの避難用具の装着が簡単で、且つ避難者が容易に使用することができ、更に避難用具の設置個所を複数設けても設置費用が安価な高層建物用避難用具構造及び避難方法を見出した。
【0007】
即ち、本発明の要旨とするところは、高層建物からの避難用具構造であって、避難する階の壁面又は付帯構造物から避難場所までの高さの少なくとも3倍の長さを有し、少なくとも一方の端部に被係着物と係着する係着部を設けたロープと、該ロープを挿通させる環状体を備え、人体に装着される人体保持具と、前記壁面又は付帯構造物に固定され、前記ロープの一端の前記係着部を係着する係着具と、前記壁面又は付帯構造物に固定され、前記ロープを挿通する挿通具とを備える高層建物用避難用具構造である。
【0008】
また、本発明の要旨とするところは、前記環状体が、フック部と、該フック部の先端部と該フック部の根元部と開環可能に架け渡されたベラを含み、該フック部の輪切り断面形状が、前記環状体の内部に向けて凸形状であり及び/又は前記環状体の内側に面する面が波型である高層建物用避難用具構造である。
【0009】
更に、本発明の要旨とするところは、前記挿通具がフック部と、該フック部の先端部と該フック部の根元部と開環可能に架け渡されたベラを含み、該フック部の輪切り断面形状が、前記挿通具の内部に向けて凸形状であり及び/又は前記挿通具の内側に面する面が波型である高層建物用避難用具構造である。
【0010】
また、本発明の要旨とするところは、前記挿通具が定滑車を備える高層建物用避難用具構造、更に前記定滑車が一方向にのみ回転可能である高層建物用避難用具構造である。
【0011】
更にまた、本発明の要旨とするところは、前記高層建物用避難用具構造を用いた避難方法であって、前記係着部と前記係着具とを係着し、前記人体保持具を人体に装着し、前記ロープを前記環状体に挿通し、前記ロープを前記挿通具に挿通し、前記ロープの他方の端部を避難場所に投下し、前記挿通具と避難場所との間に位置する前記ロープを掴みながら避難場所へ向けて降下する高層階からの避難方法である。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係る高層建物用避難用具構造及び避難方法について、避難場所が地上面の場合を図面に基づいて説明する。なお、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではない。
【0013】
図1に、本発明に係る高層建物用避難用具構造の構成を示す。ロープ2は、避難する階の壁面、例えば天井8から地上面1までの高さLの少なくとも3倍の長さを有する。また、ロープ2の少なくとも一方の端部には、係着部4が設けられている(図2(a))。係着部4はC型形状をしており、開口部にはベラ12が設けられている。なお、ロープ2の端部は、開口部のない環状としてもよい(図2(b))。
【0014】
また、天井8には、ロープ2に設けられた係着部4を係着するための係着具6と、ロープ2を挿通するための挿通具7が設けられている(図1)。なお、係着具6と挿通具7の用途は異なるが、同一形状のものを適用し得る。係着具6にはロープ2の端部に設けられた係着部4等が係着され、挿通具7にはロープ2が挿通される。また、係着具6及び挿通具7は、上底部に天井8への固定用取付座14を有する(図3(a))。係着具6及び挿通具7におけるフック部16の形状はC型形状が最も単純であり、ロープ2の端部に設けられた係着部4等を係着及びロープ2を挿通する際、容易に行うことができる。更に、フック部16の先端部15とフック部16の根元部17に開環可能としたベラ18を設けることによって、係着等したロープ2の脱落を防止することができる。なお、ロープ2の端部が係着部4のような構造であれば、係着具6には開口部を設けなくともよい。
【0015】
また、ロープ2との摩擦力を増大させるため、挿通具7のT−T’断面の形状は凸形状とすることが望ましく(図3(b))、更に凸形状とした部分の表面を波型とすることによって、より大きな摩擦力を得ることができる(図3(c))。
【0016】
一方、人体保持具として、その一例を図4に示す。人体保持具20は、腰部を固定する腰部ベルト22と、腰部ベルト22の前中央部及び後中央部で連結された避難者の股の部分を支持できる股部ベルト24と、腰部ベルト22の前中央部から枝分かれした係着ロープ26の先端に設けられたロープ2を挿通可能な環状体10とから構成されている。避難者は、腰部ベルト22と股部ベルト24との間に足を挿通することによって、人体保持具20を容易に装着することができる。また、腰部ベルト22の前部に調節機構28を設けることにより、避難者の体型に合わせることが可能となる。なお、人体保持具20には、図4において2点鎖線で示したような、腰部ベルト22の後部から避難者の左右両肩を通って腰部ベルト22の前部で着脱可能とする肩ストラット30を設けてもよい。避難者がロープ2に吊着された状態で逆様になった際、人体保持具20が避難者の体から滑り抜ける恐れがない。また、係着ロープ26の取付位置は、腰部ベルト22の前中央部に限定されるものではなく、例えば後中央部等であってもよい。
【0017】
更に、腰部ベルト22の前中央部から枝分かれした係着ロープ26の先端に設けられた環状体10は、ロープ2への着脱を容易ならしめるため、開口部を有するC型形状のフック部32と、開口部にロープ2からの脱落防止のためのベラ34が設けられている。更にまた、環状体10のS−S’断面の形状を凸形状及び/又は波型とすることによって、環状体10に挿通されたロープ2との摩擦力を増大することが可能となる(図4(b)及び(c))。
【0018】
以上の各構成要素からなる高層建物用避難用具構造は、非常に単純な構造であるため、避難者が煩雑な避難準備をする必要がなく、迅速に高層階から避難することができる。
【0019】
なお、上記の実施例においては、避難場所を地上面としたが、避難場所は地上面に限定されるものではなく、例えば避難階の階下であって、且つ避難可能な場所等に避難する場合、ロープ2の長さについては、避難階から当該避難可能な場所の床面までの高さの少なくとも3倍の長さで足りる。また、避難階の階下であれば、隣接する建物の屋根等に避難することも可能である。
【0020】
次に、上記の高層建物用避難用具構造を使用した避難方法について、避難場所が地上面の場合について詳述する。なお、避難方法において使用する高層建物用避難用具構造はその一例であり、各構成要素は説明中に記載のものに限定されるものではない。
【0021】
まず、ロープ2の一方の端部に設けられた係着部4を、係着具6に係着する。次いで、避難者が装着した人体保持具20に設けられた環状体10をロープ2に引掛け、環状体10とロープ2の他方の端部との間に位置するロープ2を挿通具7に挿通する。更に、ロープ2の他方の端部側のロープ2を地上面1まで投下することにより、避難を開始するための準備が整う(図1(a))。
【0022】
避難開始後は、避難者が挿通具7と地上面1との間に位置するロープ2を掴みながら、避難者の自重で地上面1へと降下する(図1(b))。避難者は、掴持したロープ2へ、自重の二分の一以下の力を下方向に加えることによって、降下速度を自ら調整することができる。この時、ロープ2を挿通した挿通具7のT−T’断面及び人体保持具20に設けられた環状体10のS−S’断面の形状を凸形状とすることにより(図3(b)、図4(b))、ロープ2との摩擦力が増大し、降下速度の調整に必要な力を軽減することができる。また、上記の凸形状とした部分の表面を波型とすることによって(図3(c)、図4(c))、より大きな摩擦力が得られ、避難者の負担を更に軽減することができる。
【0023】
なお、避難時には、避難階から垂下されたロープ2が地上面1に達しているため、地上面1にいる人に補助をしてもらうことによって、避難者の負担を軽減することも可能である(図1(b))。更に、環状体10と挿通具7の間に位置するロープ2と、挿通具7から地上面1との間に位置するロープ2を同時に掴持するか、又は別体の掴持手段、例えばロープ等によって2本のロープ2を挟持しつつ避難することによって、ロープ2同士の摩擦力も加わり、避難者の負担はより軽減される。
【0024】
一人目が避難を完了すると(図1(c))、避難を完了した人は、ロープ2から人体保持具20に設けられた環状体10を外す。次に、挿通具7に引掛けてあったロープ2を挿通具7から外し、外されたロープ2は地上面1に投下する。この時点で、避難開始前におけるロープ2の端部の係着部4を、係着具6に吊着した状態となる(図1(d))。人体保持具20を装着した二人目以降の避難者は、上記の手順を繰り返すことによって迅速、且つ容易に避難を行うことができる。
【0025】
ここで、挿通具7の代わりに、定滑車を用いることも可能であり、その一例として、図5に一方向にのみ回転可能な構造とした定滑車を示す。定滑車36は、ロープ2を引くA方向(下方向)にのみ回転可能な構造であることを特徴とする。具体的には、滑車部38のフランジ外周にA方向を先端とする矢印状の溝42が設けられ、滑車支持部44には溝42に噛み合うように逆転防止つめ46が設けられている。滑車部38がA方向に回転する際には逆転防止つめ46が溝42の形状に合わせて上下動を繰り返すが、A方向とは逆方向に力が加わると、溝42に逆転防止つめ46が噛み合うことによって滑車部38の回転が阻止される。
【0026】
つまり、上記の方法で避難する際、ロープ2は、A方向とは逆方向に送られていくこととなるが、滑車部38が回転しない為にロープ2と定滑車36の摩擦力が増大し、避難者が降下速度を調整するために必要な力の負担が軽減され、滑車部38の胴部表面を波状等にすることによって、避難者の負担の更なる軽減が図れる。なお、定滑車36は、係着具6等と同様に上底部に固定用取付座14を有し、滑車部38の上部には開閉部40が設けられ、ロープ2の着脱を容易に行うことができる構造となっている。
【0027】
以上、本発明の高層建物用避難用具構造を用いた避難方法について詳述したが、上記の避難方法によれば、人体保持具20をあらかじめ複数個準備しておくことによって、迅速且つ簡単に避難を行うことができる。また、人体保持具20を、複数人が搭乗可能なカゴ等に置き換えることによって、同時に複数人の避難を行うことも可能である。
【0028】
なお、本発明の高層建物用避難用具構造は、上記の方法による高層階からの避難のみならず、地上面等の避難場所から避難階まで上ることも可能である。つまり、ロープ2が避難を完了した時の状態において(図1(c))、救助員は人体保持具20を装着した上で、地上に垂下されたロープ2を下方向に引くことにより、避難階まで上昇することが可能である。救助員が避難階に到達可能となることによって、避難階における救助作業を補助することができ、より迅速な避難が可能となる。
【0029】
ここで、救助員の避難階への到達を容易にするためには、挿通具7の代わりに定滑車36を使用するとよい。定滑車36を使用することにより、ロープ2をA方向(下方向)へ引く際に滑車部38が回転することによって摩擦抵抗が少なくなり、救助員の上昇を円滑に行うことができる。
【0030】
以上、本発明に係る高層建物用避難用具構造及び避難方法の態様を説明したが、本発明はその主旨を逸脱しない範囲で、当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変形を加えた態様で実施し得るものであり、これらの態様はいずれも本発明の範囲に属するものである。
【0031】
例えば、挿通具7の代わりとして、避難者がロープ2を過って放した場合に急降下するのを防止するためのトルク制御装置等を備えた挿通具又は定滑車であってもよい。また、ロープ2は、チェーン状及びベルト状等であってもよい。
【0032】
更に、避難階の壁面に設置された係着具6等に予めロープ2を係着及び挿通した状態で、壁面の内部又は壁面に設けた箱体等に収納されてもよい。更にまた、係着具6等が、使用時のみ建物の外側に張り出すような構造としてもよい。
【0033】
また、人体保持具20に設けられた環状体10の代わりに、動滑車を使用してもよい。動滑車を使用することによって、避難を円滑に行うことができる。
【0034】
【発明の効果】
本発明の高層建物用避難用具構造は、ロープ、人体保持具、係着具及び挿通具から構成されており、各構成要素の構造が単純であるため、避難者は容易に使用することができ、且つ迅速に避難を行うことができる。特に、ロープへの人体保持具の装着は、ロープに人体保持具に設けられた環状体を引掛けるのみで、煩雑な避難準備を要しない。
【0035】
また、人体保持具に設けられた環状体及び挿通具のフック部の輪切り断面形状を凸形状及び/又は波型とすることによって、ロープとの摩擦力が増大し、避難者は、自重の二分の一以下の少ない力で降下速度を調整しつつ避難することができる。
【0036】
また、本発明に係る係着具及び挿通具は、設置費用が安価で、その設置場所も限られないため、あらかじめ数箇所に設置しておくことによって、災害時に使用可能な係着具等を使用して避難を行うことができる。特に、外部動力を一切必要としないため、停電時等においても避難が可能である。
【0037】
更に、本発明に係る定滑車は、一方向にのみ回転可能な構造であるため、避難時には多くの摩擦力を得ることができる一方、救助者が避難階まで上る際には円滑に上昇することができる。
【0038】
また、本発明の避難方法では、避難者が自ら降下速度を調整しつつ、迅速に避難を行うことが可能である。更に、避難者のみで避難を行うこともできるが、ロープが避難場所に達しているため、避難場所にいる人が避難を補助することも可能である。また、避難場所から避難階まで救助員が上ることも可能であり、救助員が避難階における避難作業を補助することができるため、より迅速な避難を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の高層建物用避難用具構造の全体構成の一例である。
【図2】本発明に係るロープの端部に設けられた環状体の態様の一例を説明する図である。
【図3】(a)本発明に係る係着具及び挿通具の態様を説明する側面図であり、(b)及び(c)はフック部の輪切り断面形状を示した断面図である。
【図4】(a)は本発明に係る人体保持具の一例を説明する斜視図であり、(b)及び(c)は環状体のフック部の輪切り断面形状を示した断面図である。
【図5】本発明の高層建物用避難用具構造に使用する定滑車の一例を示した斜視図である。
【符号の説明】
1:地上面(避難場所)
2:ロープ
4:係着部
6:係着具
7:挿通具
8:天井(壁面)
10:環状体
12、18、34:ベラ
14:固定用取付座
15:先端部
16、32:フック部
17:根元部
20:人体保持具
22:腰部ベルト
24:股部ベルト
26:係着ロープ
28:調節機構
30:肩ストラット
36:定滑車
38:滑車部
40:開閉部
42:溝
44:滑車支持部
46:逆転防止つめ
L:避難する階の壁面から地上面(避難場所)までの高さ
Claims (1)
- 避難する階の壁面又は付帯構造物に固定された係着具と、少なくとも一端に該係着具に係着される係着部を備え、前記避難する階から避難場所までの高さの少なくとも3倍の長さを有するロープと、該ロープを挿通させる環状体を備え、人体に装着される複数の人体保持具と、前記壁面又は付帯構造物に固定され、前記ロープを挿通させる挿通具と、を含んで成る高層建物用避難用具の使用方法であって、
前記係着具と前記係着部とを係着する第1ステップと、
一の前記人体保持具が備える前記環状体に前記ロープを挿通する第2ステップと、
前記環状体と前記ロープの他端との間に位置する前記ロープを前記挿通具に挿通する第3ステップと、
前記挿通具と前記他端との間に位置する前記ロープを前記避難場所に投下する第4ステップと、
前記挿通具と前記避難場所との間に位置する前記ロープを掴みながら避難場所へ降下する第5ステップと、
前記ロープから、前記一の人体保持具が備える前記環状体を外す第6ステップと、
前記挿通具から前記ロープを外す第7ステップと、
他の前記人体保持具が備える前記環状体に前記ロープを挿通する第8ステップと、
を含み、
前記第3ステップから前記第8ステップ(前記第4ステップを除く)を順次繰り返して避難するための高層建物用避難用具の使用方法。
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