JP3799375B2 - 歯科用陶材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は歯科用陶材に関する。より詳細には、歯冠、特に熱膨張係数の低いセラミックスコアを用いた歯冠の製造において好適に使用できる歯科用陶材に関する。
【0002】
【従来の技術】
歯科で使用される陶材には、人工歯として市販されている陶歯及びポーセレンインレーやジャケットクラウン、フルセラミックス(オールセラミックス)等の製作に使用する陶材がある。これらの陶材として最も汎用されているものはメタルボンドポーセレン(金属焼き付け陶材とも言う)と呼ばれ正長石(KAlSi3O8)と曹長石(NaAlSi3O8)等を結晶成分として含むガラスセラミックス材である。
【0003】
従来、審美的なクラウンまたはインレー修復には、上記メタルボンドポーセレンと呼ばれる陶材を金属コアに焼き付けた材料が用いられてきた。しかし、このような補綴物では金属イオンの溶出により歯肉が変色するという問題があった。さらには内部(コア)の金属が光を遮断するため天然歯と同様の透明感を再現できないという問題があった。
【0004】
これに対し、コアもセラミックスで形成されているフルセラミックス歯冠(オールセラミックス歯冠ともいう。)では、金属コアを用いていないため金属イオンの溶出による歯肉の変色がなく、セラミックスコア自体に天然歯に近い透明感を有する材料が用いられるため、自然な透明感が実現し、専用陶材の積層により、より天然歯に近い色感を得易いという特徴がある。
【0005】
一般に、歯冠の作製に当たっては、天然歯に近い外観を得るために、歯冠の天然歯の各構成部分に相当する部分毎に色調の異なる陶材が使われている。具体的には、象牙色を再現するためのボディー陶材、歯頸部色を再現するためのサービカル陶材、切端色を再現するためのインサイザル陶材、透明感を出すためのトランスルーセント陶材を、コアの上にそれぞれ図1に示すようにして層状に焼き付けることが行われている。
【0006】
これら各種陶材は、一般に平均粒子径が15〜100μm程度の粉末のセラミック成分に、必要に応じて各陶材の用途に応じた顔料が配合されている。
【0007】
また、上記各陶材を重ねて焼き付けるだけでは、天然歯の微妙な色調や個人に特有の模様等を再現するのは難しいため、顔料を比較的多く含むステインパウダーとよばれる陶材を用いて彩色を施したり、顔料をほとんど含まないグレーズパウダーとよばれる陶材を焼き付けて表面を滑らかにしたり透明性を付与したりすることが行われている。なお、微妙な色彩や表面質感を再現するために、上記ステイン陶材やグレーズパウダーにおけるセラミックス成分の平均粒子径は前記したボディー陶材等の平均粒子径より小さい1〜15μm程度であるのが一般的である。
【0008】
前記フルセラミックス歯冠に於いては、その製造時に於いて、焼成後の冷却の際に生じるコア材と陶材との収縮の差に起因する応力により陶材の剥離やクラックの発生を防止するために、陶材とコアセラミックスとの熱膨張係数は互いに近似していることが重要である。従来、コアセラミックスとしてはマイカ系、アパタイト系、リン酸カルシウム系等の一般にその熱膨張係数が7×10−6〜13×10−6/℃程度であるガラスセラミックスが使用されている。また、近年は、プレス成形性が良好なコアセラミックス材料としてディオプサイド系のコア材料が新しく開発されているが、該コア材料の熱膨張係数は、4〜6×10−6 /℃と低く、この様な低熱膨張係数を有するセラミックスコアに焼き付け可能な陶材は未だ開発されていない。
【0009】
更にガラスセラミックス系のセラミックスコアに陶材を焼き付ける場合、形成時のコアの変形および熱歪みの発生を防ぐためセラミックスコアの歪み点以下の温度で焼成する必要がある。また、陶材は口腔内の過酷な条件下で長期間使用されるため、例えば酸性溶液に対する耐溶解性等の化学的耐久性が要求される。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、上記のような低膨張係数を有するセラミックスコアに焼き付け可能な、焼成温度が低く且つ低い膨張係数を有し、さらに化学的耐久性に優れる歯科用陶材を供給することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定組成のガラスを用いた陶材は、焼成温度が低く、かつ低い膨張係数を有し、化学的耐久性に優れることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明は、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ナトリウム、及び酸化リチウムを主成分として含有するガラスを含んでなる歯科用陶材であって、該ガラス中のこれら各成分の含有割合が、各成分をそれぞれSiO2、Al2O3、B2O3、ZnO、Na2O、及びLi2Oに換算したときのこれら各成分の合計に対する重量%で表して、それぞれSiO2:57〜65重量%、Al2O3:8〜18重量%、B2O3:15〜25重量%、ZnO:0.1〜2重量%、Na2O:3〜7重量%、及びLi2O:2〜8重量%であることを特徴とする歯科用陶材である。
【0013】
上記歯科用陶材は、セラミックス製コアを用いた歯冠の製造に特に好適に用いられる。その中でも熱膨張係数が6.0×10−6 /℃以下であるものは、ディオプサイド系セラミックスコアのように熱膨張係数の低いセラミックスコアを用いた歯冠の作製に特に好適に適用できる。
【0016】
【発明の実施の形態】
本発明の歯科用陶材は、特定の成分を特定の割合で含有する(すなわち、特定の組成の)ガラスから主になる。
【0017】
ここで、歯科用陶材とは前記した、ボディー陶材、サービカル陶材、インサイザル陶材、トランスルーセント陶材、ステインパウダー、及びグレーズパウダー等を含むものであり、主に歯冠の作製に使用される焼き付け可能なセラミックス、ガラス、又はガラスセラミックス(結晶化ガラス)を主成分とする粉末材料を意味する。
【0018】
本発明の歯科用陶材の主成分となる前記特定組成のガラスとは、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ナトリウム、及び酸化リチウムを主成分として含み、且つこれら各成分の含有割合が、各成分をそれぞれSiO2、Al2O3、B2O3、ZnO、Na2O、及びLi2Oに換算したときのこれら各成分の合計重量(以下、基準重量ともいう。)に対する重量%で表して、それぞれ次のような範囲となるものである。なお、以下、本明細書に於いては上記の重量%をもって、上記ガラスに於ける各成分の含有量という。
【0019】
即ち、上記ガラスにおける酸化ケイ珪素の含有量は57〜65重量%、好ましくは57〜62重量%である。酸化ケイ素の含有量が65重量%を越えるとガラスを調製するための溶融温度が高くなりすぎ、また高温でガラスを調製できたとしてもそのガラスの焼成温度が高くなる。一方、含有量が57重量%未満では歯科用陶材として用いたときの化学的耐久性が低下する。
【0020】
また、上記ガラスにおける酸化アルミニウムの含有量は8〜18重量%であり、好ましくは10〜15重量%である。酸化アルミニウムの含有量が18重量%を越えるとガラスの高温での粘性が高くなるため焼成温度が高くなり、8重量%未満では歯科用陶材として用いたときの化学的耐久性が低下する。
【0021】
また、上記ガラスにおける酸化ホウ素の含有量は15〜25重量%であり、より好ましくは15〜20重量%である。酸化ホウ素の含有量が25重量%を越えると歯冠用陶材として用いたときの化学的耐久性が低下し、15重量%未満ではその焼成温度が高くなる。
【0022】
また、上記ガラスにおける酸化亜鉛の含有量は0.1〜2重量%であり、より好ましくは1〜2%重量%である。酸化亜鉛は上記ガラスにおいて融剤の働きをする。その含有量が2重量%をこえると化学耐久性が低くなり、0.1重量%未満だと融剤としての効果を示さない。
【0023】
また、上記ガラスにおける酸化ナトリウムの含有量は3〜7重量%である。該酸化ナトリウムは上記ガラスにおいて融剤の働きをするが、その添加量が7重量%以上になると膨張係数が増大し、セラミックスコアに焼き付けた場合に剥離等を引き起こすと同時に化学的耐久性が低下する。一方、酸化ナトリウムの含有量が3重量%未満ではガラスを調製するための溶融温度が高くなりすぎ、また高温でガラスを調製できたとしてもその焼成温度が高くなる。
【0024】
更に、上記ガラスにおける酸化リチウムの含有量は2〜8重量%である。酸化リチウムの含有量については、ガラスの熱膨張係数を低く抑え、至適焼成温度を例えば750℃以下にするるためには3〜8重量%であることが好ましい。
【0025】
上記ガラスは、前記各必須成分のみからなる場合でも、例えばフルセラミックス歯冠用陶材として用いたときに十分な効果を示すが、更に前記必須成分に加えて酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化バリウムからなる群より選ばれた少なくとも一種の酸化物を加えることにより、焼成温度の低下、焼成体中の気泡の減少等を図ることができる。これら酸化物の配合量は、これら酸化物をそれぞれCaO、MgO及びBaOに換算したときに、前記基準重量にこれら酸化物の重量を加えた重量を基準として5重量%以下であるときには上記効果が高く特に好ましい。
【0026】
即ち、本発明の歯科用陶材に好適に使用できるガラスとしては、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ナトリウム、酸化リチウムを主成分として含有するガラスであって、これら各成分の含有割合が、各成分をそれぞれSiO2、Al2O3、B2O3、ZnO、Na2O、Li2Oに換算したときのこれら各成分の合計重量(基準重量)に対する重量%で表して、それぞれSiO2:57〜65重量%、Al2O3:8〜18重量%、B2O3:15〜25重量%、ZnO:0.1〜2重量%、Na2O:3〜7重量%、及びLi2O:2〜8重量%であり、さらに酸化カルシウム、酸化マグネシウム及び酸化バリウムから選ばれる少なくとも一種の酸化物を、これら酸化物をそれぞれCaO、MgO及びBaOに換算したときに、前記基準重量にこれら酸化物の重量を加えた重量を基準として0.1〜5重量%含むガラス、特にその熱膨張係数が6.0×10−6 /℃以下であるガラスが挙げられる。
【0027】
更に上記ガラスには、発明の効果に悪影響のない範囲に於て前記必須成分以外に各種金属酸化物を配合することが可能である。これれらの金属酸化物を例示すれば、酸化ストロンチウム;酸化リン;酸化錫;酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化チタン、酸化ジルコニウム等の遷移金属酸化物;及び酸化ランタン、酸化イットリウム、酸化タンタル等のランタノイド酸化物等を挙げることができる。
【0028】
上記のガラスは、どのような方法で製造しても良いが、例えば次のような方法により好適に製造することが出来る。
【0029】
即ち、先ず前記の各必須成分及び必要に応じて前記任意成分の供給源となるガラス原料をそれぞれ所定量混合し、得られた混合物を溶融した後、冷却することにより製造することが出来る。
【0030】
上記各成分の原料となる物質は特に限定されず、各成分そのものおよび/又は酸素共存下で加熱したときに各成分に変化するものであれば得に限定されない。以下に、本発明のガラスの原料に好適に使用できる物質を具体的に例示する。
【0031】
先ず、必須成分の原料として、二酸化珪素の原料としては珪砂(SiO2)が一般に用いられる。
【0032】
酸化アルミニウムの原料としては、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)等が挙げられる。
酸化ホウ素の原料としては、無水ホウ酸(B2O3)、無水ホウ砂(Na2B4O7)等が挙げられる。
【0033】
酸化亜鉛の原料としては、主に酸化亜鉛(ZnO)が用いられる。
【0034】
酸化ナトリウムの原料としてはソーダ灰(Na2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH)、硫酸ナトリウム(Na2SO4)、硝酸ナトリウム(Na2NO3)等を用いることができる。
【0035】
酸化リチウムの原料としては炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH)、硫酸リチウム(Li2SO4)、硝酸リチウム(Li2NO3)等を用いることができる。
【0036】
次に任意成分の原料として、酸化カルシウムの原料としては、炭酸カルシウム(CaCO3)、水酸化カルシウム{Ca(OH)2}、硫酸カルシウム(CaSO4)、硝酸カルシウム(CaNO3)等を用いることができる。
【0037】
酸化マグネシウムの原料としては、炭酸マグネシウム(MgCO3)、水酸化マグネシウム{Mg(OH)2}が一般に用いられるが、硫酸マグネシウム(CaSO4)、硝酸マグネシウム(MgNO3)等を清澄作用を目的として添加しても構わない。
【0038】
上記の原料は、各成分毎に1種類のみを用いても複数種類混合して用いても良い。
【0039】
上記各原料は、最終的に得られるガラス組成を勘案して予め計算によりその使用量を決定して混合される。混合方法は、各原料が均一に分散する方法であれば特に限定されず、V型混合機、ボールミル等の公知の混合機を用いて行うことが出来る。また、上記混合物の溶融方法は特に限定されないが、混合物をるつぼに充填し、電気炉を用いて加熱溶融すればよい。溶融条件は、原料混合物の全てが溶融し、成分の昇華等が起こらない条件であれば特に限定されないが、一般的には約1300℃に加熱すればよい。溶融後の冷却条件も特に限定されず、空気中で徐冷または水中で急冷することにより行うことが出来る。
【0040】
このようにして得られたガラスの熱膨張係数は、一般に6.0×10−6 /℃以下と低く(即ち、コアセラミックスと同程度の熱膨張係数を有し)、また、一般的なセラミックスコアの歪点以下の温度で焼成出来るため、陶材として使用したときにコアを変形させずにしかも亀裂や剥離を起こさずに焼き付けることができる。このため、上記ガラスは、フルセラミックス歯冠用陶材として好適に使用できる。
【0041】
なお、フルセラミックス歯冠用陶材とは、セラミックス製のコアを用いてそのほとんど全てがセラミックス材料で構成される歯冠の製造に用いられる陶材を意味し、前出のメタルボンドポーセレンとはその使用形態が異なるものである。
【0042】
前記ガラスの中でもその熱膨張係数が6.0×10−6 /℃以下のガラスは、プレス成形が良好なコア材として前記したディオプサイド系セラミックスからなるコアに対して使用しても剥離やクラックが発生し難いという特徴を有する。
【0043】
ガラスの熱膨張係数は、任意成分を含めてその組成によって変化するため、熱膨張係数6.0×10−6 /℃となるようなガラス組成を一義的に特定することは難しいが、前記組成範囲内の種々のガラスについてその組成と熱膨張係数との関係を調べておくことにより、熱膨張係数6.0×10−6 /℃となるようなガラス組成を知ることが出来る。
【0044】
上記方法により得られたガラスは、一般に粉砕、分級し、粒度の調整された粉末とされ、必要に応じて顔料、及び酸化剤等を添加して本発明の歯科用陶材とされる。
【0045】
当該目的における粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法が採用され得る。一般的な粉砕装置を例示すれば、ジョークラッシャー、コーンクラッシャー等の圧縮粉砕機、振動ボールミル、遊星ミル等のボールミル類、塔式粉砕機、撹拌槽型粉砕機、アニュラー型粉砕機等の媒体撹拌型粉砕機、ピンミル、ディスクミル等の高速回転式衝撃粉砕機、その他ロールミル、ジェット粉砕機、自生粉砕機等が挙げられる。また分級方法も特に限定される事はなく、公知の分級方法が採用され得る。一般的な分級装置を例示すれば、振動ふるい、シフター等のふるい分級機、サイクロン等の遠心式分級機、沈降分級機等の湿式分級機等が挙げられる。なお、これら粉砕機や分級機に於いては、金属不純物の混入を避けるため、セラミックス製のものや樹脂やガラスでコーティングされたものを用いるのが好適である。
【0046】
本発明の歯科用陶材においては、その使用形態により上記ガラスの好適な平均粒子径、顔料の配合量等は異なる。
【0047】
具体的には、ボディー陶材、インサイザル陶材、サービカル陶材として使用する場合は、上記ガラスを平均粒子径が15〜100μmとなるように粒度調節し、該ガラス100重量部に対して顔料を0.01〜3重量部配合するのが好ましい。
【0048】
また、トランスルーセント陶材として使用する場合には、上記ガラスを平均粒子径が5〜100μmとなるように粒度調節し、該ガラス100重量部に対して白色系の顔料を0.01〜3重量部配合するのが好ましい。
【0049】
また、ステイン陶材として使用する場合には、上記ガラスを平均粒子径が1〜15μmとなるように粒度調節し、該ガラス100重量部に対して顔料を1〜15重量部配合するのが好ましい。
【0050】
さらに、グレーズパウダーとして使用する場合には、上記ガラスを平均粒子径が1〜15μmとなるように粒度調節し、特に添加剤を添加しないのが好ましい。
【0051】
また、本発明の歯科用陶材に必要に応じて添加される顔料は、焼き付け後の陶材に色を付与したり透明性を制御したりするために添加されるものであるが、陶材が高温で焼成されるため、該顔料としては一般に無機顔料が使用される。無機顔料として好適に使用できるもののうち代表的なものを例示すれば、バナジウム黄、コバルト青、クロムピンク、鉄クロム茶、チタン白、ジルコニア白等が挙げられる。
【0052】
また、本発明の歯科用陶材に必要に応じて添加される酸化剤とは、不純物として含まれる有機物が焼成中に完全に分解することなく陶材の中に取り込まれて陶材の色調不良を引き起こすのを防止するために添加されるものである。該酸化剤は、酸素供給源となるものであれば特に制限されないが、中でも穏和な酸化作用があり、それ自体は焼成温度以下で昇華し焼成体中に残留しない硫酸塩、特に硫酸アンモニウム{(NH4)2SO4}が好適に用いられる。酸化剤の添加量は特に限定されないが、一般的には前記ガラス100重量部に対して1〜10重量部程度である。
【0053】
本発明の歯科用陶材は、例えば、セラミックスコア上に盛り付けた後、焼成することにより、コアと陶材から構成されるフルセラミックス歯冠が得られる。この時使用されるコアはセラミックス材料であれば特に限定されず、前出のマイカ系、アパタイト系、リン酸カルシウム系、ディオプサイド系等のガラスセラミックスが制限無く使用できるが、コア材のプレス成形性の観点から熱膨張係数が4〜6×10−6 /℃のディオプサイド系ガラスセラミックスを使用するのが好適である。
【0054】
上記の盛り付け方法及び焼成方法は、特に限定されず一般的な陶材に於いて使用されている公知の方法が制限無く採用され得る。例えば、陶材の粉末を水で練和し、コアとなるセラミックス上に築盛し、その後に焼成することにより行うことが出来る。
【0055】
この時、水の替わりに陶材に近似した屈折率を有する練和液を用いることは、練和泥が半透明となり、焼成後の色調予測が容易となる点で好ましい方法である。また、築盛に際しては、図1に示したように、各種陶材を複層に築盛するのが好ましい。さらに、自然観の良好な色調を再現するために、有機溶剤で練和したステイン陶材を用いて彩色を施したり、同じく有機溶剤で練和したグレージング陶材を塗布したりするのが好適である。また、焼成温度としては、ボディー陶材、インサイザル陶材、サービカル陶材、およびトランスルーセント陶材については680〜740℃、ステイン陶材及びグレージングパウダーについては650〜710℃で焼成するのが好適である。
【0056】
尚、本発明のフルセラミックス歯冠用陶材を焼成して得られる陶材の熱膨張係数、及び上記酸溶解量等の物性は、焼成前の陶材の主成分であるガラスの物性とほぼ等しい。
【0057】
【実施例】
以下、本発明を具体的に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこれら実施例により何等制限されるものではない。尚、実施例における焼成温度の決定方法、並びに熱膨張係数、及び溶解度の評価方法は以下の通りである。
【0058】
(1) 焼成温度の決定方法
溶融により得られたガラスをアルミナ乳鉢により粉砕した後、200メッシュのふるいにて分級し、ふるい通過分を回収し、陶材試料とした。この陶材試料を水と練和し、厚さ2mm、直径10mmの孔を有するモールドにコンデンスを行いながら充填し、成形体を作製した。成形体は、各ガラス組成ごとに7つ作製され、各成形体について、その組成から予想される焼成温度の一桁めを切り捨てた温度を中心に上下30℃の範囲で10℃ごとに焼成温度を変えてそれぞれ異なる温度で焼成を行った。
【0059】
なお、焼成は、昇温パターンを予め設定できる機能を有する自動電気炉であるポーセレンファーネスシグマ120(トクヤマ社製)を用い、前記成形体が入れられた坩堝を予め500℃に加熱された炉の下で5分間保持して乾燥を行った後に炉内に導入し、25℃/min.の速度で昇温して所望の焼成温度で2分間保持する焼成条件で行った。
【0060】
(2) 熱膨張係数の評価方法
溶融により得られたガラスから2mm×2mm×10mmの直方体を切り出して測定試料とし、熱分析装置TMA120(セイコー電子社製)にて室温から500℃まで加熱し、熱膨張係数を測定した。
(3) 酸溶解量の評価方法
酸溶解量は国際規格(ISO 6872)に従い、4%酢酸による16時間のソクスレー抽出法において試料の質量減をμg/cm2で算出することによって得た。尚、試験片は直径16mm、厚み1.6mmのモールドを用い作製した。
【0061】
実施例1
二酸化珪素(試薬特級、和光純薬社製)30.4g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)8.3g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)8.7g、炭酸リチウム(試薬特級、和光純薬社製)4.7g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬社製)4.0g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬社製)1.1gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後、ステンレス板上に流し出して冷却し均一なガラスを得た。
【0062】
【表1】
【0063】
【表1】
【0064】
実施例2及び3
表1に示す原料組成にて、実施例1と同様の方法に従いガラスを調製し、焼成温度、熱膨張係数、酸溶解量を測定した。結果を表1に示す。
【0065】
上記実施例2及び3により得られた本発明のガラスは、いずれの場合も焼成温度、熱膨張係数、酸溶解量ともに良好な結果を示した。
【0066】
実施例4
ディオプサイドガラスセラミックス{歪点724℃、熱膨張係数6.0×10−6 /℃}を鋳型内で焼結させて前歯部クラウンのコアを作製した。なお、この時用いた鋳型は、石膏で作製した支台歯模型を用いてワックスアップを行った後にスプルー線を植立してワックスパターンを作製し、得られたワックスパターンを埋没材中に埋没させ、次いで埋没材を硬化させた後にワックスを焼却することによって作製した。したがって、上記のようにして作製されたコアは、上記支台歯模型に適合するものであり、この適合性は、各種陶材を焼き付けた後でも維持されている必要がある。
【0067】
次に、実施例1で得られたガラスをめのう乳鉢にて粉砕して得た平均粒子径37μmの粉末を水と練和した後に、上記のようにして作製したコアの上に、築盛し、700℃の焼成温度にて焼成した。その結果、陶材表面でのひび、陶材とコアとの剥離等は観察されず、良好な焼き付きを示した。また、この焼成体を前記鋳型を作成するときに用いた石膏製の支台歯模型にはめ込んで適合性を調べたところ、適合性は良好であり、陶材の焼き付けによる変形は観察されなかった。
【0068】
実施例2および3で得られたガラスについても同様の試験を行ったが、陶材表面でのひび、陶材とコアとの剥離等は観察されず、良好な焼き付きを示した。また焼成後のコアの適合性も良好であった。
【0069】
なお、前記実施例2及び3に示すガラスは、上記実施例4で使用した実施例1のガラスと同様に、いずれもコアセラミックスとして使用されるディオプサイドガラスセラミックスの歪点よりも低い焼成温度と該セラミックスの熱膨張係数と同様の低い熱膨張係数を示すと共に、良好な化学的耐久性(低い酸溶解量)を示していることからフルセラミックス歯冠用陶材として好適に使用できる。
【0070】
比較例1
市販のメタルボンドポーセレンである陶材{ノリタケスーパータイタンボディ、ノリタケ社製、熱膨張係数7.8×10−6 /℃}を用い、実施例17と同様にコア上での焼成試験を行った。同陶材はボロシリケートガラスの粉末である。焼成温度はメーカー指定の760℃とした。焼成後の陶材を観察したところ、表面には亀裂が発生していた。また石膏模型上での適合性試験では、わずかなコアの歪みが観察された
【0071】
比較例2〜6
表2に示す原料組成にて、実施例1と同様の方法に従いガラスを調製し、焼成温度、熱膨張係数、酸溶解量を測定した。結果を表2に示す。
【0072】
【表2】
【0073】
比較例2は、酸化ケイ素が少ない例であるが、酸溶解量が多くなっている。また、比較例3は酸化ケイ素量が多い例であるが、溶融せずガラスが作製できなかった。また、比較例4は酸化アルミニウムが多く酸化ナトリウムが少ない例であるが、焼成温度が高くなっている。また、比較例5は酸化アルミニウムが少なく酸化亜鉛が多い例であるが、酸溶解量が多くなっている。また、比較例6は酸化ホウ素が多い例であるが、酸溶解量が多くなっている。
【0074】
【発明の効果】
本発明の歯科用陶材は、その熱膨張係数が低く、化学的耐久性が良好であるばかりでなく至適焼成温度が低いという特徴を有する。このため、本発明の歯科用陶材は、セラミックスコアに対して使用したときに焼成後にコアの変形、クラックの発生を招くことがなく、かつ口腔環境下にて長期に渡りその審美性を維持することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本図は、代表的な歯冠の断面図である。
【符号の説明】
1・・・コア
2・・・トランスルーセント陶材
3・・・インサイザル陶材
4・・・ボディー陶材
5・・・サービカル陶材
6・・・支台歯
Claims (4)
- 酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化ホウ素、酸化亜鉛、酸化ナトリウム、及び酸化リチウムを主成分として含有するガラスを含んでなる歯科用陶材であって、該ガラス中のこれら各成分の含有割合が、各成分をそれぞれSiO2、Al2O3、B2O3、ZnO、Na2O、及びLi2Oに換算したときのこれら各成分の合計に対する重量%で表して、それぞれSiO2:57〜65重量%、Al2O3:8〜18重量%、B2O3:15〜25重量%、ZnO:0.1〜2重量%、Na2O:3〜7重量%、及びLi2O:2〜8重量%であることを特徴とする歯科用陶材。
- セラミックス製コアを用いた歯冠の製造に使用する歯科用陶材であることを特徴とする請求項1記載の歯冠用陶材。
- 熱膨張係数が6.0×10−6 /℃以下であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の歯科用陶材。
- セラミックス製コアが、ディオプサイド系セラミックス製コアである請求項2又は3記載の歯科用陶材。
Priority Applications (1)
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