JP4006230B2 - セラミックス歯冠の製造方法及びそれに用いる製造キット - Google Patents
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Description
【技術分野】
本発明は、フルセラミックス歯冠の製造方法、及びそれに用いる製造キット関する。
【0002】
【背景技術】
従来、審美的なクラウンまたはインレー修復には、メタルボンドポーセレンと呼ばれる陶材を金属コアに焼き付けた材料が用いられてきた。しかし、このような補綴物では金属イオンの溶出により歯肉が変色するという問題があった。さらには内部(コア)の金属が光を遮断するため天然歯と同様の透明感を再現できないという問題があった。
【0003】
これに対し、コアもセラミックスで形成されているフルセラミックス歯冠(オールセラミックス歯冠ともいう)では、金属コアを用いていないため金属イオンの溶出による歯肉の変色がなく、セラミックスコア自体に天然歯に近い透明感を有する材料が用いられるため、自然な透明感が実現し、専用陶材の積層により、より天然歯に近い色感を得易いという特徴がある。従来、歯冠においては、強度の点でコアとしては金属が用いられることが多かったが、近年、結晶化することにより高い強度を発現する結晶化ガラスをコア材料として用いる技術が開発され(特開平10−36316号公報)、フルセラミックス歯冠に対する期待は高まっている。
一般に、フルセラミックス歯冠の作成に当たっては、天然歯に近い外観を得るために、歯冠の天然歯の各構成部分に相当する部分毎に色調の異なる各種陶材をセラミックスコアの上に焼き付けることが行われている。具体的には、支台歯Fに装着されたフルセラミック歯冠の断面図である図1に示されるように、象牙色を再現するためのボディー陶材A、切端色を再現するためのインサイザル陶材B、透明感を出すためのトランスルーセント陶材C、更には必要に応じて歯頸部色を再現するためのサービカル陶材Dを、セラミックスコアEの上にそれぞれ層状に焼き付けることが行われている。なお、これら各種陶材は、一般に平均粒子径が15〜100μm程度の粉末のセラミック成分に、必要に応じて各陶材の用途に応じた顔料が配合されている。
【0004】
また、上記各陶材を重ねて焼き付けるだけでは、天然歯の微妙な色調や個人に特有の模様等を再現するのは難しいため、顔料を比較的多く含むステインパウダーとよばれる陶材を用いて彩色(着色)を施したり、顔料をほとんど含まないグレージングパウダーとよばれる陶材を焼き付ける艶出し(グレーズ)を行って表面を滑らかにしたり透明性を付与したりすることが行われている。なお、微妙な色彩や表面質感を再現するために、上記ステインパウダーやグレージングパウダーにおけるセラミックス成分の平均粒子径は前記したボディー陶材等の平均粒子径より小さい1〜15μm程度であるのが一般的である。
【0005】
そして、これらステインパウダー、グレージングパウダー、および前記した各種陶材についても、フルセラミックス歯冠用陶材として、コア材として用いる結晶化ガラスと近似した線熱膨張係数を有し、焼成温度が低く、さらに化学的耐久性に優れたものが提案されている(特開2000−139959号公報)。
ところで、フルセラミックス歯冠の製造に用いられるセラミックスコアの製造方法としては、溶融させた結晶化ガラスを鋳型にキャストすることによりコア形態を形成した後に加熱処理することによって結晶化させコアを作製する鋳造法と、結晶化ガラスを溶融させることなく適度に軟化させた後に加圧し、鋳型に注入することにより成形体を作製する加熱・加圧成形法が知られている。
【0006】
上記加熱・加圧成形法では、成形時に結晶化ガラスの結晶化が起こるため、鋳造方法に比べて結晶化を含めた成形の全作業時間を短縮することが可能であるという利点を有している。また、該方法ではセラミックス体を融点付近まで加熱することなく102〜106ポイズ程度の高粘性状態でゆっくりと鋳型内に注入するため、注入時に気泡を巻き込むこともなく、又鋳型を形成する埋没材(鋳型材)との焼付き等の反応も避けることができ、安定した物性を有するセラミックス歯冠を得ることができる(特開平11−206782号公報)。
【0007】
このように、加熱・加圧法はセラミックスコアの製造方法として優れた特性を有するが、高粘度体をゆっくり注入するため、コアの成形時間が長くなる傾向にある。
成形時間を短くする方法として、加圧時の荷重を増加させること、及び成形時の温度を上昇させることなどにより結晶化ガラスの成形速度を向上させることが考えられる。
【0008】
しかしながら、荷重を増加させた場合、錘を使用する機構による加圧成形装置では錘の大きさが大きくなり、また他の加圧装置においても圧力に耐えられる構造が必要となり、装置が大型化してしまうという問題が生じる。また、高荷重により、注入される結晶化ガラスと埋没材面がこすれ、使用している埋没材によっては成形体の表面が荒れたり、鋳型が破壊するといった問題が起こる。さらに、加圧成形時の温度を上昇させた場合には、結晶化の進行が早くなるため結晶化の制御が困難となり、得られるコアの品質が低下することがある。
このように、加熱・加圧法においては、加圧時の荷重を増加させたり、成形温度を高くすることにより成形時間を短縮しようとした場合には、別の新たな問題を起こしてしまい、この様な問題の発生を伴わない成形時間の短縮方法が望まれている。
【0009】
また、セッラミックスコアに好適に用いられる歯科用陶材についても、確かに優れたものではあるが、内部で光の散乱が適度に起こらないためと思われるが、実際に使用してみると下地となるコアセラッミクスの色が透けて見える傾向があり、天然歯と同等の色調を得るためには、下地の色が透けて見えない程度の適度な透明性を持たせる必要がある。
【0010】
【発明の開示】
本発明は、短時間で高品質のフルセラミックス歯冠を効率よく製造する方法を開発することを目的とする。
本発明者らは、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の方法によりその表面に固体潤滑剤の皮膜を形成した鋳型を用いてコアの成形を行った場合には、加熱された結晶化ガラスの該鋳型への注入速度が速くなり、且つ前記のような表面荒れや鋳型の破壊といった問題が起こらないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、第一の本発明は、セラミックス体を加熱して軟化させた後に加圧して鋳型に注入して成形したセラミックスコアの表面に、ボディー陶材、インサイザル陶材、およびトランスルーセント陶材よりなる群より選ばれる少なくとも1種の歯科用陶材を築盛した後に焼成してセラミックス歯冠を製造する方法において、前記鋳型が、有底円筒体の中央部にその上面中央部に嵌合凹部を設けた柱状体が形成されているクルーシブルフォーマーと、前記嵌合凹部に取り付けられた表面に固体潤滑剤が施されたワックスパターンと、前記有底円筒体と係合する裏層材付きリングと、前記リングと歯形模型との間に充填され硬化された埋没材とからなる組立体から、クルーシブルフォーマーを取り外し、ワックスパターンを焼却することにより形成された鋳型であり、前記鋳型のフォーマー柱状体対応部分にセラミック体を充填し、これをプランジャーで押圧することによりセラミックスコアの成形を行うことを特徴とするセラミックス歯冠の製造方法である。
【0012】
上記本発明の製造方法によれば、鋳型形成時のワックスパターンの固定が容易であるばかりでなく、セラミックスコアの成形時において、結晶化ガラス等のセラミック体の流速を向上させても、鋳型の破損、成形体の表面の荒れや結晶化のバラツキといった問題を起こすことなく、従来の加熱・加圧法で得られるセラミックスコアと同等の品質のものを再現良く製造することができる。このような効果が得られるのは、上記のような特定の方法で鋳型を作製した場合には、セラミックス体と接触する鋳型の表面に、セラミック体注入時の抵抗を有効に低減させる適度な潤滑膜が形成されるためであると思われる。
【0013】
上記製造方法に於いては、陶材が焼付けられた焼成体の表面に表面着色材を塗布した後に焼成する表面着色工程、及び該工程によって得られた焼成体の表面にグレージングパウダーを塗布した後に焼成する艶出し工程を含む事により審美性の高いフルセラミックス歯冠を得ることが出来る。このとき、表面着色工程及び艶出し工程は、酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体を主焼結成分とするステインパウダー及びグレージングパウダーを、それぞれ沸点が100〜250℃のエステル化合物を5重量%以上含有する練和液で練和し、得られた練和物を、各工程の前の工程で得られた焼成体の表面上に塗布した後に焼成することによって好適に行うことができる。
【0013】
また、上記製造方法におけるワックスパターンへの固体潤滑剤の施用は、例えば0.1〜30重量%の固体潤滑剤、0.1乃至20重量%の有機バインダー及び残余の有機溶媒を含む懸濁液の塗布及び乾燥により好適に行う事が出来る。
【0014】
また、セラミック体として結晶化可能なMgO−CaO−SiO2系のガラス体を用い、これを102〜109ポイズの粘度を有するように軟化させて鋳型に注入した場合には、セラミックスコアの成型時に上記がラス体の結晶化が起こるため、高強度のセラミックスコアを効率よく得ることが出来る。
【0015】
さらに、鋳型を形成する際のクルーシブルフォーマーとして、該クルーシブルフォーマーの柱状体が下方に拡径された0.005〜0.120のテーパーを有するものを用いた場合には、前記組立体からのクルーシブルフォーマーの取り外しが容易となり、しかも鋳型のフォーマー柱状体対応部分に充填されたセラミック体をプランジャーで押圧する際に悪影響を与えることもない。
【0016】
なお、プランジャーとしては、その融点或いは分解温度の何れか低い方の温度がセラミックス歯冠の成形温度より高く且つその熱伝導率が0.1(cal・cm−1・sec−1・℃−1)以上であるか、或いはその線膨張係数が4.0×10−6(℃−1)以下であるセラミックス材料からならるものを用いた場合には、セラミックスコアの成形の際に該プランジャーを予熱する必要が無く、成型時間の短縮が可能となり、該プランジャーのセラミックス体に接触するプランジャーの表面に予め窒化ホウ素等の固体潤滑剤を付着させておいた場合には、成形後のプランジャーの再使用が容易となる。
【0017】
また、本発明者等は、陶材として特定の屈折率を有する無機結晶粉末を添加したものを使用した場合には、従来の陶材を使用した場合よりも審美性が向上する事を見出した。
【0018】
即ち、第二の本発明は、セラミックス歯冠の製造においてボディー陶材、インサイザル陶材、又はトランスルーセント陶材として用いられる歯科用陶材であって、酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体100重量部、並びに該ガラス体の屈折率との差が0.01〜0.1である屈折率を有し、且つ平均粒径が0.1〜10μmである無機結晶粉末を0.1〜10重量部含有してなることを特徴とする歯科用陶材である。
該歯科用陶材を用いて焼付けを行った場合には、適度な透明感を保ったまま下地のセラミックスコアの色がぼかされ、天然歯に近い色調を実現することが出来る。
【0019】
上記本発明の歯科用陶材を使用することを含めて、本発明の製造方法は、第三及び第四の発明である次のような専用キットを用いることにより好適に行うことが出来る。
【0020】
即ち、第三の本発明は、セラミックス歯冠の製造に用いるキットであって、有底円筒体の中央部にその上面中央部にワックスパターンの嵌合凹部を設けた柱状体が形成されているクルーシブルフォーマーと、前記クルーシブルフォーマーの有底円筒体と係合するリングと、リングの内面に施す裏層材と、クルーシブルフォーマーとリングとの間に充填される埋没材と、前記埋没材を硬化させ、クルーシブルフォーマーを取り外し、ワックスパターンを焼却することにより形成された鋳型のフォーマー柱状体対応部分に充填されたセラミック体を押圧するためのプランジャーと、前記プランジャーのセラミックス接触部分に固体潤滑剤を施すための懸濁液が収容された容器とからなることを特徴とするセラミックコアの成形を行うためのキットである。
【0021】
また第四の本発明は、セラミックス歯冠の製造に用いるキットであって、酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体をそれぞれ焼結成分として含有するステインパウダーおよびグレージングパウダーと、沸点が100〜250℃のエステル化合物を5重量%以上含有する練和液収容容器とからなることを特徴とするセラミック歯冠の着色及び艶出しを行うためのキットである。
【0022】
【発明を実施するための最良の形態】
本発明でセラミックスコアの原料として使用するセラミックス体とは、熱処理工程を経て得られる非金属無機材料であって、加熱及び加圧により軟化して付形可能なものであれば特に限定されず、セラミックス歯冠材料として一般に使用されている公知のセラミックス体が使用できる。
【0023】
このようなセラミックス体の例としては、ガラス体、結晶化ガラス(ガラスセラミックス)、バイオセラミックス、およびこれらの複合化物等が挙げられるが、これらセラミックス体の中でも、加熱及び加圧した状態で流動性を有するセラミックス体であって、成形時の加熱前にすでに結晶化が完了したセラミックス体、又は成形時の加熱によって結晶化可能なガラス体等は、歯冠を作製したときに、対磨耗性と審美性に優れるために好適である。
【0024】
上記セラミックス体の内、すでに成形時の加熱前に結晶化が完了したセラミックス体としては、例えば、ガラスマトリックス中に加強因子として熱膨張係数が高いリューサイト結晶を析出させた材料等が知られている。
【0025】
また、成形時の加熱によって結晶化が可能なガラス体としては、加熱によってガラス体内部に微細な分相が起こり体積結晶化が進行し結晶化ガラス(ガラスセラミックス)となるガラス体、及び内部に結晶核となる幼核と呼ばれる粒径が8〜30nm程度の微結晶を含み、その後の加熱処理により該幼核が成長し結晶化ガラス(ガラスセラミックス)となるガラス体等がある。
【0026】
上記の結晶核を含む結晶化ガラスとなるガラス体は、一般に、MgO−CaO−SiO2系のガラス、CaO−SiO2系、Li2O−SiO2系のガラス等を、ガラス転移温度付近または転移温度から100℃程度高い温度範囲で一定時間処理(核形成処理と呼ばれる)することによって得られる。そして、これらガラス体は、前記粘度に保たれると体積結晶化が適度に進行し歯冠用に好適な結晶化ガラス(ガラスセラミックス)となる。
【0027】
このようなガラス体の中でも、成形特性が良好なことから、特開平10−36316号公報に記載されている、MgOを12〜26重量%、CaO7〜l6重量%、Al2036〜19重量%、SiO240〜50重量%、及びTiO210〜l4重量%を含む組成の原料粉体を溶融して得られるMgO−CaO−SiO2系のガラス体(該ガラス体はディオプサイト系ガラスセラミックに属する)に核形成処理を施したものが特に好適に使用できる。
【0028】
本発明の製造方法では、上記のセラミックス体を加熱して溶融させること無く適度に軟化させた後に加圧して次のような特定の方法で製造した鋳型に注入することにより成形してセラミックスコアを製造する。
【0029】
すなわち、本発明では、有底円筒体の中央部にその上面中央部に嵌合凹部を設けた柱状体が形成されているクルーシブルフォーマーと、前記嵌合凹部に取り付けられた表面に固体潤滑剤が施されたワックスパターンと、前記有底円筒体と係合する裏層材付きリングと、前記リングと歯形模型との間に充填され硬化された埋没材とからなる組立体から、クルーシブルフォーマーを取り外し、ワックスパターンを焼却することにより形成された鋳型を使用し、該鋳型のフォーマー柱状体対応部分にセラミック体を充填し、これをプランジャーで押圧することによりセラミックスコアの成形を行う。
【0030】
本発明の製造方法においては、このような方法で作製された鋳型を使用しているので、セラミックスコア成形時に加える圧力が従来の加熱・加圧法における場合と同等であってもセラミックス体の鋳型内への注入速度が速くなり、セラミックスコアの成形時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0031】
以下に、図面を用いて本発明で使用する鋳型及びその作製方法について詳しく説明する。
本発明で使用される代表的な鋳型の断面図を図2に示す。該鋳型1は基本的に埋没材2、裏装材3、及び鋳造用のリング4で構成されており、その内部にセラミックス体保持部5、スプルー部6、および歯形部7からなる空洞が形成されている。ここで、セラミックス体保持部5は加圧する前にコアの原料となるセラミックス体を保持しておく部分であるとともにプランジャーを用いて加圧するときのシリンダーとなる部分であり、スプルー部6は軟化したセラミックス体が歯形部7に注入される際の湯道となる部分であり、歯形部7は該部にセラミックス体が注入され成形されることによって最終的なセラミックスコアの形態を与える部分である。また、リング4は、埋没材2を保持するための鋳鉄あるいはステンレス製のリングであり、裏装材3は、加熱時の埋没材の膨張を補償するために裏装される材料で例えば布状のセラミックスである。
【0032】
そして、該鋳型1においては、スプルー部6及び歯形部7の埋没材表面に固体潤滑剤皮膜8が形成されている。なお、固体潤滑剤皮膜8は、少なくとも歯形部7の埋没材表面に形成されていればよく、必ずしもスプルー部6の埋没材表面に形成する必要はないが、効果の高さの観点からスプルー部6の埋没材表面にも形成されていることが好ましい。
【0033】
次に鋳型1の作製方法を、図3に基づいて説明する。まず、目的物となるセラミックス歯冠がかぶせられる歯の石膏模型上にワックスを用いて歯冠のコア形態を有するワックスパターン9(該ワックスパターン9の形状が前記歯形部7の形状に対応する)を作製する。次に、該ワックスパターン9にスプルー線10(通常ワックス製であり、スプルー線10の形状がスプルー部6の形状に対応する)を植立しクルーシブルフォーマー11の柱状体112(この柱状体の形状がセラミックス体保持部5の形状に対応する)に設置する。クルーシブルフォーマー11は有底円筒体111の中央部に、上面中央部に嵌合凹部113を有する柱状体112が形成されたものであり、ワックスパターン9に接続したスプルー線10が嵌合凹部113に嵌装されることによりワックスパターン9が固定される。なお、クルーシブルフォーマー11は、取扱い易さ、成形の容易さの観点から、本発明者等が特願平11−73916号として既に提案しているような、柱状体112が下方に拡径された0.005〜0.120のテーパーを有するもの、特に取り外しの容易さから合成ゴム製のものを用いるのが好適である。ここで、テーパーとは、柱状体112の任意の2点について、その高さ(クルーシブルフォーマー11の底部上面からの高さ)をh1,h2、及びその外径をa1,a2とした時、下記式:
|(a1−a2)/(h1−h2)|
で定義される値である。
【0034】
このようにしてワックスパターン9を固定した後に、ワックスパターン9及び必要に応じてスプルー線10の表面に固体潤滑材を施す。こうすることによって、該固体潤滑材は、ワックスパターン焼却時に埋没材の表面に転写され、鋳型内に固体潤滑剤皮膜が形成されることによりセラミックス体を鋳型内へ注入する時の成形時間を短縮することが可能となる。
【0035】
固体潤滑材の施用方法は特に限定されないが、「固体潤滑剤粉末、有機溶媒、及び有機バインダーを含んだ懸濁液」(以下、単にコート液ともいう。)をワックスパターン9及び必要に応じてスプルー線10の表面に塗布し、乾燥させることにより好適に行なうことができる。
【0036】
上記コート液の成分である固体潤滑剤とは潤滑作用を有する固体であれば特に限定されない。本発明で好適に使用できる固体潤滑剤を具体的に例示すれば、二硫化タングステン、弗化炭素、黒鉛、β硫化タンタル、αセレン化タンタル、窒化硼素などが挙げられる。これら固体潤滑剤は単独で用いても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。上記固体潤滑剤の中でも、高温での安定性が非常に優れるために、窒化硼素を用いるのが特に好適である。
【0037】
なお、固体潤滑剤の粒径は特に限定されないが、潤滑効果の高さの観点から0.01〜100μmであるのが好適である。粒径が0.01μm以下の場合は潤滑剤としての機能が低下し、100μm以上では塗布が困難になる傾向がある。
【0038】
前記コート液に使用する有機バインダーは、ワックスパターン上に形成した有機バインダーを含む固体潤滑剤皮膜が、埋没材で埋没する際やその他の技巧操作により擦れた時に剥がれないようにするという働きをする。本発明で使用する有機バインダーはこのような機能を有し、ワックスパターン焼却時に同時に焼却されるものであれば特に限定されない。好適に使用できる有機バインダーを具体的に例示すれば、ポリビニルピロリドン、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール等の水溶性の有機物の他、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、ポリイソブチルメタクリレート、ポリノルマルブチルメタクリレートなどのアクリル系樹脂、ポリビニル酢酸などのビニル系樹脂、ニトロセルロース、エチルセルロース、セルロースアセテートブチレートなどのセルロース系ポリマー、アルキド樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル、ポリスチレン、ポリオキシエチレンセチルエーテル、モノステアリン酸プロピレングリコール、モノステアリン酸ジグルセリル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、トリステアリン酸テトラグリセリル、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリセリン、モノステアリン酸ポリエチレングリセリン等の非水溶性の有機物を挙げることが出来る。これら有機バインダーは単独で用いても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
【0039】
これら有機バインダーの中でも、埋没時の剥離防止効果が特に高いことから、非水溶性の有機バインダーを使用するのが好適であり、特に分子量が2000以上の非水溶性ポリマーからなる有機バインダーを使用するのが最も好適である。
【0040】
前記コート液中の有機溶媒は、固体潤滑剤の分散に寄与すると共に、塗布性を良好にし、膜厚を調整しやすくするという働きをする。該有機溶媒は、ワックス等のパターン材とのなじみが良く、使用する有機バインダーを溶解可能であれば特に限定されない。
【0041】
好適に使用できる有機溶媒を例示すれば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノ−ル、2−ブタノ−ル、2−メチル−1−プロパノール、2−メチル−2−プロパノール、1−ペンタノール、2−ペンタノール、3−ペンタノール、2−メチル−1−ブタノール、イソペンチルアルアルコール、2−メチル−2‐ブタノール、3−メチル−2−ブタノール、2,2−ジメチル−1−プロパノール、1−ヘキサノール、2−メチル−1−ペンタノール、4−メチル−2−ペンタノール、2−エチル−1−ブタノール、1−へプタノール、2−へプタノール、3−へプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、2−エチル−1−ヘキサノール、3,5,5−トリメチル−1−ヘキサノール、アリルアルコール、プロパルギルアルコール、シクロヘキサノール、1−メチルシクロヘキサノール、2−メチルシクロヘキサノール、3−メチルシクロヘキサノール、4−メチルシクロヘキサノール、アビエチノール、1,2−エタンジオール、1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、23−ブタンジオール、2‐メチル−2,4−ペンタンジオール、1,2,6−ヘキサントリオール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、エチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ジオキサン、トリオキサン、フラン、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,2−ジエトキシエタン、1,2−ジブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、アセタール等のエーテル化合物類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、ジエチルケトン、ブチルメチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルペンチルケトン、ジプロピルケトン、ジイソブチルケトン、アセトニルアセトン、メシチルオキシド、ホロン、イソホロン、メチルシクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン化合物類、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ペンチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸sec−へキシル、2−エチルブチルアセタート、2−エチルヘキシルアセタート、酢酸シクロへキシル、酢酸ベンジル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ブチル、エチレングリコールモノアセタート、二酢酸エチレン、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、炭酸ジエチル等のエステル化合物類、ペンタン、2−メチルブタン、ヘキサン、2‐メチルペンタン、2,2−ジメチルブタン、2,3ジメチルブタン、ヘプタン、オクタン、2,2,3−トリメチルペンタン、イソオクタン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、メチルシクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、シクロヘキセン等の炭化水素化合物、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,2−ジクロロエチレン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、1,2−ジクロロプロパン、塩化ブチル、1−クロロペンタン等のハロゲン化炭化水素等が挙げられる。これら有機溶媒は単独で用いても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
【0042】
上記有機溶媒の中でもその沸点が30〜200℃であるものを用いた場合には、乾燥時間が短縮されるので、この様な沸点の有機溶媒を使用するのが好適である。
【0043】
前記コート液において用いる有機溶媒は、用いる有機バインダーの種類に応じて適宜選択して使用すればよいが、有機バインダーと有機溶媒との好適な組み合わせを例示すれば次の如くである。
【0044】
すなわち、有機バインダーとしてエチルセルロースを用いた場合には、有機溶媒としてクロロホルム、1,4−ジオキサン、2−プロパノール、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、酢酸エチル等を用いることができる、また、ポリメチルメタクリレートの場合には、キシレン、メチレンクロライド、クロロホルム、ベンゼン、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、酢酸エチル等、ポリスチレンを用いた場合には、ベンゼン、エチルベンゼン、アセトン、テトラヒドロフラン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等、ポリビニル酢酸を用いた場合には、ベンゼン、クロロホルム、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、酢酸エチル等を用いることができる。
【0045】
前記コート液中の固体潤滑剤、有機バインダー、及び有機溶媒の含有量は特に限定されないが、潤滑効果及び塗布性の観点から、これら3者の合計重量を基準として、固体潤滑剤が0.1〜30重量%であり有機バインダーが0.1〜20重量%であり残部が有機溶媒であるのが好適である。
また、これらの組み合わせは単一の有機溶媒、単一の有機バインダーの組み合わせのみでなく、複数の有機溶媒、複数の有機バインダーを組み合わせることも可能である。例えば、有機バインダーとしてエチルセルロース、ポリメチルメタクリレートを用いた場合には、メチルエチルケトン、1,2−ジメトキシエタン、酢酸エチル、ヘプタン等の混合溶媒を組み合わせることが可能である。
【0046】
なお、前記コート液には、本発明の効果を阻害しない範囲内であれば、技巧操作を行う前に塗布する液に含まれる界面活性剤等の各種添加剤を添加することもできる。
前記コート液の調製方法及びワックスパターン9(及び必要に応じてスプルー線10)への塗布方法は、特に制限されない。例えば、所定量の各成分を予め混合して、プラスチックス製、ガラス製、または金属製の容器に収容されたコート液を、スプレー、刷毛を用いてワックスパターン等の表面に塗布する、或いは該コート液にワックスパターンをディッピングする(浸漬して取り出す)等の方法により好適に行うことが出来る。
この時、コート液の塗膜の厚さは、乾燥後の塗膜の厚さとして5〜100μmとするのが好適である。該塗膜の厚さがこの範囲の時には、埋没時に塗膜が剥がれることがなくセラミックス体の鋳型への導入速度改善効果も高いばかりでなく、得られる成形体の品質も良好となる。
【0047】
なお、コート液の塗布の前に、該コート液との馴染みを良くするために、該コート液が塗布されるワックスパターン等の表面に予め界面活性剤を塗布しておくのが好適である。界面活性剤としてはイオン系、ノニオン系の公知の界面活性剤が制限なく使用できる。このような固体潤滑材の施用はクルーシブルフォーマーへの固定前に行なってもよいが、操作性の観点から固定後に行なうのが好適である。
【0048】
次いで、ワックスパターン9等が設置されたクルーシブルフォーマー11に裏装材3及び鋳造用リング4を図3に示すように設置し、鋳造用リング4および裏装材3の内側に埋没材を流し込んでワックスパターン9、スプルー線10及びクルーシブルフォーマー11の柱状体を埋没する。その後、埋没材を硬化させ、硬化が完了してからクルーシブルフォーマー11を撤去し、該埋没材を加熱し、内部のワックスパターン9及びスプルー線10を焼却することによって鋳型1を作製することができる。
【0049】
上記の鋳型1の作製方法において使用される各種材料は、コート液を除いて通常の鋳造方法あるい加熱・加圧成形法で使用される材料が得に制限無く使用できる。例えば、埋没材としては、一般的に用いられる燐酸塩系、クリストバライト系、石膏系などの埋没材を使用することが出来る。中でも石膏系の埋没材は、成形体の取り出しが容易で、表面に光沢のある成形体が得られるため、特に好適に使用できる。また、ワックパターン用のワックス、スプルー線、裏装材についても歯科用材料として市販されているものが何ら制限なく使用できる。
【0050】
このようにして得た鋳型を用いてのセラミックスコアの成形は、従来の加熱・加圧法と特に変わるところはなく、前記鋳型のセラミックス体保持部5(すなわち、クルーシブルフォーマーの柱状体対応部)に原料となるセラミックス体を充填し、これを加熱して軟化された後にプランジャーで押圧することにより行なうことができる。
【0051】
このとき、原料となるセラミックス体は、鋳型のスプルー部6および歯形部7の合計容積よりも若干(10〜50%)大きい容積で且つ前記セラミックス体保持部5に0.3〜0.8mmのクリアランスをもって緩挿されるような柱状体に予備成形されているのが好適である。なお、セラミックス体として結晶化ガラスを用いる場合には、前記した核形成処理を兼ねてこのような予備成形を行なうのが好適である。
【0052】
セラミックス体を押圧するときの加熱温度は、セラミックス体の融点未満であれば特に限定されないが、成形性の観点から、セラミックス体の粘度が102〜109ポイズになるような温度、又は融点より100〜500℃低い温度であるのが好適である。例えば、セラミックス体として上記の結晶化ガラスを用いた場合の加熱温度は、通常800℃〜1200℃である。なお、セラミックス体の融点は、セラミックス体の粘度が102ポイズとなる温度と定義される。
【0053】
上記の様にして加熱され、軟化したセラミックス体は、プランジャーを介して加圧することにより鋳型内に導入されてセラミックスコアに成形される。この時に用いるプランジャーとしては、急激な加熱によるヒートショックで破損することがないために予熱処理を省略でき成形時間を短縮できるという観点から、特開平11−285505号公報に開示されているような、その融点或いは分解温度の何れか低い方の温度がセラミックス歯冠の成形温度より高く且つその熱伝導率が0.1(cal・cm−1・sec−1・℃−1)以上であるか、或いはその線膨張係数が4.0×10−6(℃−1)以下であるセラミックス材料からなるものを使用するのが好適である。
【0054】
また、セラミックスコアの成形後にプランジャーに付着したセラミックス体の除去を容易にすると共に、繰り返し使用の寿命を長くするという観点から、プランジャーのセラミックス体と接触する部分には、使用前に、窒化ホウ素等の固体潤滑材を鋳型作成時のワックスパターンへの施用と同様にして施用しておくのが好適である。
【0055】
成形時の加圧方法や加圧条件も特に限定されず、錘を載せて荷重をかけたり、歯車によりモーターの力を該ピストンに伝えたり、或いは該ピストンを圧縮空気により加圧する等の方法により2〜20kg/cm2程度の圧力を加えて行えばよいが、成形時に均一な結晶化が起こり高品質のセラミックスコアを得るためには、特開平11−206782号に開示されている様に、セラミックス体のスプルー部6へ充填を300〜500g/cm2でおこない、歯形部7への充填をその10倍以上の圧力で行なう二段階加圧を行なうのが好適である。このような二段階加圧は、EP−500(イホクラール社製)のような圧縮空気によるプレスが可能な電気炉、又は特開平11−226976号公報に開示されているような、特定の錘荷重方式を採用した加熱加圧成形用電気炉を用いることによって好適に行なうことができる。鋳型に注入されたセラミックス体は、従来の加熱・加圧法における場合と同様に、冷却後に鋳型を壊す等により鋳型から取り出され、その後必要に応じて研磨処理を施すことにより、セラミックコアとなる。
【0056】
以上の説明から明らかなように、本発明の製造方法におけるセラミックスコアの成形は、(i)有底円筒体の中央部にその上面中央部にワックスパターンの嵌合凹部を設けた柱状体が形成されているクルーシブルフォーマーと、(ii)前記クルーシブルフォーマーの有底円筒体と係合するリングと、(iii)リングの内面に施す裏層材と、クルーシブルフォーマーとリングとの間に充填される埋没材と、(iv)前記埋没材を硬化させ、クルーシブルフォーマーを取り外し、ワックスパターンを焼却することにより形成された鋳型のフォーマー柱状体対応部分に充填されたセラミック体を押圧するためのプランジャーと、(v)前記ワックスパターン又はプランジャーのセラミックス接触部分に固体潤滑剤を施すための懸濁液収容容器、とからなる専用のキットを用いることにより、好適に行なうことができる。
【0057】
本発明の製造方法では、このようにして得られたセラミックスコアの表面に、ボディー陶材、インサイザル陶材、又はトランスルーセント陶材等の各種陶材を焼き付け、更に必要に応じてステインパウダーやグレージングパウダーの焼付け等による彩色や艶出し処理を施してフルセラミックス歯冠を製造する。
【0058】
このとき、ボディー陶材、インサイザル陶材、又はトランスルーセント陶材としては、線熱膨張係数が4〜6×10-6(1/℃)と低いディオプサイド系ガラスセラミックを用いたコアに該コアの歪み点以下の温度で焼成可能であり、焼成・冷却時の収縮の差に起因する応力の発生が小さく、しかも酸性溶液に対する耐溶解性等の化学的耐久性が高く、さらに下地となるコアの色をぼかす適度な透明性を有するという観点から、酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体、特に線熱膨張係数が6×10-6(1/℃)以下のガラス体100重量部、並びに該ガラス体の屈折率との差が0.01〜0.1である屈折率を有し、且つ平均粒径が0.1〜10μmである無機結晶粉末を0.1〜10重量部含有してなる組成物からなる歯科用陶材(第二の本発明)を用いるのが好適である。
【0059】
ここで、本発明の歯科用陶材に用いられる上記ガラス体としては、特開2000−139959号公報に開示されている歯科用陶材に用いられるガラス体と同じものが使用できる。上記公報にも記載されているように、該ガラス体を主成分とする陶材はディオプサイド系ガラスセラミックを用いたコアに該コアの歪み点以下の温度で焼成可能であり、焼成・冷却時の収縮の差に起因する応力の発生が小さく、しかも酸性溶液に対する耐溶解性等の化学的耐久性が高いという特徴を有する。このような特徴がより顕著であるという理由から、上記ガラス体としては、酸化物基準で、SiO2を57〜62重量%、Al2O3を10〜15重量%、B2O3を15〜20重量%、ZnOを1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを3〜8重量%含有するガラス体、特に線熱膨張係数が6×10-6(1/℃)以下のガラス体を用いるのが好適である。
【0060】
本発明では、上記ガラス体100重量部に対して該ガラス体の屈折率との差が0.01〜0.1である屈折率を有し、且つ平均粒径が0.1〜10μmである無機結晶粉末を0.1〜10重量部添加することにより、焼付け後の透明性を適度に落として下地のコアの色を目立たないようにし、天然歯に近い色調を得ることができる。前記ガラス体に添加する無機粉体が、結晶ではなくアモルファスであったり、結晶であっても屈折率、粒子径、又は添加量の少なくとも一つが上記範囲外である場合には、このような効果は得られない。効果の観点から、屈折率差(Δ)は0.04〜0.1、粒子径は0.1〜5μm、および添加量(前記ガラス体100重量部に対する重量部)は0.1〜10重量部であることが、より好適である。
【0061】
本発明の歯科用陶材で用いる上記無機結晶粉末は、前記ガラス体の屈折率との差が0.01〜0.1である屈折率を有するものであればその材質は特に限定されない。ここで、屈折率とは、23℃における粉体の屈折率を意味し、所定の屈折率を有する液体有機媒体に粉体を浸漬したときに透明になる液の屈折率を粉体の屈折率とする方法(液浸法)によって測定することができる。尚、上記液体有機媒体の屈折率はアッベの屈折率計によって測定することができる。一般に、前記ガラス体の屈折率は1.45〜1.55であるので、上記無機結晶粉末としては、二酸化ケイ素の結晶である石英(屈折率・1.54)、クリストバライト(屈折率・1.48)、リンケイ石(屈折率・1.48)、リューサイト(屈折率・1.51)、ユークリプタイト(屈折率・1.58)、ネフェリン(屈折率・1.53)、コージェライト(屈折率・1.54)等が好適である。
本発明の歯科用陶材においては、用途に応じて、上記ガラス体の粒度を調節した後に上記無機結晶粉体を混合し、更に顔料、及び酸化剤等を添加して使用される。
【0062】
具体的には、ボディー陶材、又はインサイザル陶材では、上記ガラスを平均粒子径が15〜100μmとなるように粒度調節し、該ガラス100重量部に対して顔料を0.01〜3重量部配合するのが好ましい。
また、トランスルーセント陶材では、上記ガラスを平均粒子径が5〜100μmとなるように粒度調節し、該ガラス100重量部に対して白色系の顔料を3重量部以下配合するのが好ましい。
【0063】
なお、上記顔料は、焼き付け後の陶材に色を付与したり透明性を制御したりするために添加されるものであるが、陶材が高温で焼成されるため、該顔料としては一般に無機顔料が使用される。無機顔料として好適に使用できるもののうち代表的なものを例示すれば、バナジウム黄、コバルト青、クロムピンク、鉄クロム茶、チタン白、ジルコニア白等が挙げられる。
【0064】
また、本発明の歯科用陶材に必要に応じて添加される酸化剤とは、不純物として含まれる有機物が焼成中に完全に分解することなく陶材の中に取り込まれて陶材の色調不良を引き起こすのを防止するために添加されるものである。該酸化剤は、酸素供給源となるものであれば特に制限されないが、中でも穏和な酸化作用があり、それ自体は焼成温度以下で昇華し焼成体中に残留しない硫酸塩、特に硫酸アンモニウム{(NH4)2SO4}が好適に用いられる。酸化剤の添加量は特に限定されないが、一般的には前記ガラス100重量部に対して0.1〜5重量部程度である。
【0065】
本発明の歯科用陶材のセラミックスコアへの焼き付けは、各種陶材をセラミックスコア上に盛り付けた後、焼成することにより行なうことができる。このときの盛り付け方法及び焼成方法は、特に限定されず一般的な陶材に於いて使用されている公知の方法が制限無く採用され得る。例えば、陶材の粉末を水で練和し、コアとなるセラミックス上に築盛し、その後に焼成することにより行うことが出来る。築盛に際しては、図1に示したように、各種陶材を複層に築盛するのが好ましい。また、焼成温度としては、ボディー陶材、インサイザル陶材、およびトランスルーセント陶材とも680〜740℃で行なうのが好適である。
【0066】
本発明の製造方法においては、上記のようにしてセラミックスコアに各種陶材を焼き付けたものをそのまま歯冠とすることもできるが、より審美性の高い歯冠を得るためには、陶材が焼付けられた焼成体の表面に表面着色材を塗布した後に焼成する表面着色工程、及び該工程によって得られた焼成体の表面にグレージングパウダーを塗布した後に焼成する艶出し工程を行なうのが好適である。
【0067】
このとき、着色剤(ステインパウダー)としては、特開2000−139959号公報に開示されている、酸化物基準でSiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体、特に線熱膨張係数が6×10-6(1/℃)以下のガラス体を平均粒子径が1〜15μmとなるように粒度調節し、該ガラス100重量部に対して顔料を1〜15重量部配合したものを使用するのが好ましい。
【0068】
また、グレージングパウダーとして使用する場合には、同じく特開2000−139959号公報に開示されている上記ガラスを平均粒子径が1〜15μmとなるように粒度調節し、特に添加剤を添加しないで使用するのが好適である。
【0069】
これらステインパウダーやグレージングパウダーは、一般に練和液で練和して塗布されるが、練和泥が半透明となり、焼成後の色調予測が容易となることから、練和液としては、陶材に近似した屈折率を有する練和液を用いるのが好ましい。特に、焼成後に有機物が残留しないために黒味がかった着色が起こらず、粉との馴染みが良く、しかも連和中に粉が乾くことがないということから、沸点が100〜250℃のエステル化合物を5重量%以上含有してなる歯科用陶材練和液、特に沸点が100〜250℃のエステル化合物10〜90重量%および炭素数3〜8の多価アルコール90〜10重量%からなる歯科用陶材練和液を用いるのが好適である。
【0070】
沸点が100〜250℃のエステル化合物としては、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸sec−ブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、3−メトキシブチルアセタート、酢酸sec−ヘキシル、2−エチルブチルアセタート、2−エチルへキシルアセタート、酢酸シクロヘキシル、酢酸ベンジル、イソ酪酸イソブチル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル、プロピオン酸イソペンチル、酪酸ブチル、酪酸イソペンチル、イソ吉草酸エチル、イソ吉草酸イソペンチル、安息香酸メチル、安息香酸エチル、安息香酸プロピル、安息香酸ブチル、安息香酸イソペンチル、ケイ皮酸エチル、γ−ブチロラクトン、β−ブチロラクトン、シュウ酸ジエチル、シュウ酸ジブチル、シュウ酸ジペンチル、マロン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、クエン酸トリブチル、エチレングリコールモノアセテート、二酢酸エチレン、エチレングリコールモノギ酸エステル、エチレングリコールモノ酪酸エステル、エチレングリコールモノオレイン酸エステル、エチレングリコールジギ酸エステル、エチレングリコールジプロピオン酸エステル、エチレングリコールモノアセタート、モノアセチン、ジアセチン、トリアセチン、プロピレンカーボネート等が挙げられる。
【0071】
これらエステル化合物の中でも環状エステル化合物は臭いが少なく垂れ性が良好なため好ましく、中でもγ−ブチロラクトン(沸点204℃)又はβ−ブチロラクトン(沸点172℃)を用いるのが最も好適である。
また、炭素数3〜8の多価アルコールとしては、プロピレングリコール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、ジプロピレングリコール、2−メチルペンタンジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等が用いられる。
ステインパウダー及びグレージングパウダーの焼き付けは650〜710℃で行なうのが好適である。
【0072】
以上の説明から明らかなように、上記着色工程および艶出し工程は、(i)酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体をそれぞれ焼結成分として含有するステインパウダーおよびグレージングパウダーと、(ii)沸点が100〜250℃のエステル化合物を5重量%以上含有する練和液収容容器、とからなる専用キットを用いて好適に行なうことができる。
【0073】
【実施例】
本発明の製造方法を従来の製造方法と比較した場合の有意性は、主に、セラミックスコアの品質を落とすことなく成形時間を短縮できる点、及び歯科用陶材を焼き付けたときに下地の色が透過し難い点にあるので、これらの点について、以下に実施例を挙げ比較例と対比する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
I.セラミックスコアの成形性について
以下の本実施例及び比較例で用いたセラミックスコアの原料となるセラミックス体(原料セラミックス体ともいう。)及び鋳型は次のようにして作製した。
(1) 原料セラミックス体の作製方法
ガラス原料として、92.08gのSiO2、28.16gのMgO、36.85gのCaCO3、31.04gのAl(OH)3、22.63gのTiO2を使用し、これらをボールミルにより粉砕、混合した。白金るつぼにこれら混合物を充填し、電気炉を用いて1500℃で一時間加熱溶融した。ついで溶融状態のガラスを、型枠に鋳込み徐冷して、鋳型のスプルー部6および歯形部7の合計容積よりも約20%大きい容積で且つ前記セラミックス体保持部5に約0.5mmのクリアランスをもって緩挿されるような柱状体に予備成形した。得られた予備成形されたガラス体を電気炉に入れ、700℃で5時間加熱処理をして、ガラス中に微結晶を析出させた。この時の昇温速度は300℃/hで行い、次いで炉内で室温まで放冷することにより核形成処理を行なった。この核形成処理を行なったもの(原料ガラスインゴットともいう)を加熱・加圧成形に用いた。
なお、得られた原料ガラスインゴットの900℃における粘度は106ポイズであり、この状態で20分保持した後、冷却したものについてX線回折法により析出した結晶を同定したところ、ディオプサイド結晶が析出しており、加熱することにより結晶化することが確認された。また、該ガラス体の融点は1300℃であった。
(2) 鋳型の作製方法
下顎小臼歯のワックスパターン{商品名:ナチュラルワックスパターンC、ニッシン社製}に3.2mmφ、7mm長のラインワックス{商品名:レディーキャスティングワックス、株式会社ジーシー社製}からなるスプルー線を取り付け、クルーシブルフォーマーに設置した。
次いで、該クルーシブルフォーマーに固定したワックスパターンの表面に所定のコート液を塗布・乾燥後、前記クルーシブルフォーマーに鋳造用リング{商品名:JMキャスティングリング、(株)藤原歯科産業社製}、クリスタルリボン{商品名:ジーシーニューキャスティングライナー、株式会社ジーシー社製}を設置した。なお、コート液を塗布する場合には、乾燥後の塗膜の厚さが20μmとなるように塗布した。また塗布したコート液の乾燥は、大気中に放置することにより行った。
次いで、上記鋳造リング及びクリスタルリボン(裏装材である)の内側に埋没材泥{商品名:OKパウダー、株式会社ジーシー社製}を流し込み、クルーシブルフォーマーに固定されたワックスパターンを埋没し、埋没材を硬化させた後、クルーシブルフォーマーを撤去し、800℃に加熱してワックスパターンおよびスプルー線を800℃で焼却し鋳型を作製した。
【0074】
(実施例1)
平均粒径2μmの窒化硼素粉末4重量部、エチルセルロース2重量部、メチルエチルケトン94重量部からなるコート液を作製した。該コート液を用いて作製した鋳型を用い加熱・加圧成形を行った。
加熱・加圧成形は、次のようにして行った。即ち、まず、リングファーネス{商品名:VR7、KDF社製}中に鋳型を入れ、毎分50℃の速度で約15分かけて800℃まで昇温し、該温度で45分間保持し鋳型の予熱処理を行った。該予熱処理後、円柱状のプランジャーと原料ガラスインゴットを鋳型のセラミックス保持部に装着し、これを予め900℃に加熱された加熱・加圧炉中にそのままの状態で装着した。その後、プレス温度である900℃で10分間保持し、十分に軟化したガラス体を該温度でプランジャーを介してプレス荷重7.2kg/cm2で加圧し、ガラス体を鋳型内に注入した。ガラス体が鋳型内に完全に注入されてから、さらに10分間900℃に保持した後、冷却し、鋳型を壊して成形体を取り出すことによってセラミックスコアを作製した。
なお、上記加熱・加圧炉は、錘り荷重タイプの加圧装置が組み込まれた電気炉{商品名:FM−X、ヤマト科学社製}を使用し、ガラス体が鋳型へ完全に注入された時点は、デジタルゲージ{商品名:IDA−112M、Mitutoyo社製}でピストンの移動距離をモニターすることにより決定した。
この時の成形時間は16分であり、成形体の表面荒れはなかった。
【0075】
(比較例1)
コート液を用いずに作製した鋳型を用いる他は実施例1と同様にして加熱・加圧法により成形体を作製した。このときの成形時間は25分であり、成形体の表面荒れはなかった。
実施例1と比較例1との比較から、実施例1においては同じ圧力で加圧したときの成形時間が比較例1と比べて約30%短縮されている。しかも得られる成形体の外観は比較例1と同等以上であることが分かる。
【0076】
(実施例2〜25)
鋳型作製時に使用するコート液を表1に示す各組成のコート液に変える他は実施例1と同様に鋳型を作製し、得られた各鋳型を用いて実施例1と同様にして加熱・加圧成形を行い、プレス成形性(成形時間)及び成形体の表面状態の評価を行った。その結果を表2に示す。
成形時間及び成形体の表面状態の評価は、いずれもワックスパターンにコート液を塗布しないで作製した鋳型を用い、圧力7.2kg/cm2で加圧したとき(比較例1)を基準とし、成形時間については30%以上短縮された場合には「○」、15%以上短縮された場合には「△」、時間短縮が15%未満の場合には「▽」、比較例1と差がない場合には「―」として評価した。また、表面状態については、比較例1の成形体と比較して、差がない時に「○」と、粗くなったり色調が変化した時に「×」とした。
尚、表1には、実施例1で用いたコート液の組成を併せて示し、表2には、実施例1の評価結果も併せて示した。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
(比較例2)
加圧時の圧力(以下、プレス荷重ともいう)を10kg/cm2とする他は比較例1と同様にして加熱・加圧成形を行った。その結果、成形時間は30%短縮されたが、成形体の表面状態は悪化した。
【0080】
(比較例3)
成形時の加熱温度を920℃とする他は比較例1と同様にして加熱・加圧成形を行った。その結果、成形時間は30%短縮されたが、結晶化が進行しすぎたために、成形体が白化した。
比較例2及び3に示されるようにコート液を用いずに作製した鋳型を用いて加熱・加圧成形を行った場合には、プレス荷重を増やしたり加熱・加圧する温度を高くすることにより成形時間を短縮することは出来るが、成形体の表面が荒れたり、色調が変化してしまうことが分かる。
【0081】
(比較例4及び実施例26〜28)
鋳型作製時に用いるコート液の組成を表3に示す組成のものに変える他は実施例1と同様に鋳型を作製し、実施例1と同様にして加熱・加圧成形を行い、プレス成形性(成形時間)及び成形体の表面状態の評価を行った。その結果を表3に示す。成形時間、成形体の表面状態の評価基準は表2と同じである。
尚、表3には、比較例1〜3の結果も併せて示した。
【0082】
【表3】
【0083】
実施例1と比較例4の対比より、固体潤滑剤がない場合には、プレス速度を向上させる効果がないことが分かる。
実施例1と実施例26,27の対比より、有機バインダーがある場合には、埋没時に剥離し難いために、プレス速度を向上させる効果が高いことが分かる。
また、実施例27,28においては、有機溶媒がないために乾燥に時間を要した。
II. 陶材物性について
陶材について至適焼成温度、熱膨張係数、溶解度、色差及び透明性を評価した。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0084】
(1) 至適焼成温度の決定方法
陶材試料を水と練和し、厚さ2mm、直径10mmの孔を有するモールドにコンデンスを行いながら充填し、成形体を作製した。成形体は、各ガラス組成ごとに7つ作成され、各成形体について、その組成から予想される焼成温度の一桁めを切り捨てた温度を中心に上下30℃の範囲で10℃ごとに焼成温度を変えてそれぞれ異なる温度で焼成を行った。
なお、焼成は、昇温パターンを予め設定できる機能を有する自動電気炉であるポーセレンファーネスシグマ120(トクヤマ社製)を用い、前記成形体が入れられた坩堝を予め500℃に加熱された炉の下で5分間保持して乾燥を行った後に炉内に導入し、25℃/minの速度で昇温して所望の焼成温度で2分間保持する焼成条件で行った。
焼成体を観察し、全体が完全に焼結して半透明となり、且つ表面は完全に溶融すること無く陶材粒子によるわずかな凹凸が観察される焼結体を与える焼成温度を至適焼成温度とした。
(2) 熱膨張係数の評価方法
前記陶材試料の焼結体から2mm×2mm×10mmの直方体を切り出して測定試料とし、熱分析装置TMA120(セイコー電子社製)にて室温から500℃まで加熱し、熱膨張係数を測定した。
(3) 酸溶解量の評価方法
酸溶解量は国際規格(ISO 6872)に従い、4%酢酸による16時間のソクスレー抽出法において前記陶材試料の焼結体からなる試験片の質量減をμg/cm2で算出することによって得た。尚、試験片は直径16mm、厚み1.6mmのモールドを用い作製した。
(4)色差及び透明性の評価方法
陶材試料を水と練和し、厚さ1.6mm、直径16mmの孔を有するモールドにコンデンスを行いながら充填し、成形体を作製した。次いで得られた成形体を坩堝に入れ、昇温パターンを予め設定できる機能を有する自動電気炉(トクヤマ社製、ポーセレンファーネスシグマ120)を用いて、陶材試料の至適焼成温度で焼成を行った。
焼成終了後、冷却して焼成体を取り出し、回転研磨機を用い、厚さ1mmに加工して測定試料を作製した。
作製した測定試料について、分光測色計TC−1800MK−II(東京電色製)を用い、背景色白の場合におけるL* W、a* W及びb* W、並びに背景色黒の場合におけるL* B、a* B及びb* Bを測定し、下記式に従い背景色による色差ΔE*を算出した。
また、透明性は、背景色白、及び背景色黒のY値により、下記式に従い算出した。尚、Y値は、三刺激値であるX値、Y値、及びZ値におけるY値を意味する。
色差(ΔE*)
=((L* W−L* B)2+(a* W−a* B)2+(b* W−b* B)2)1/2
透明性(C)
=1−(背景色黒のY値/背景色白のY値)
ΔE*値が小さいほど色抜け(下地の色が透けて見えること)が抑制されていることを示す。また、C値が大きいほど透明性が高いことを示している。
【0085】
(実施例29)
特開2000−139959号公報の実施例1と同様にして、二酸化珪素(試薬特級、和光純薬社製)30.4g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)8.3g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)8.7g、炭酸リチウム(試薬特級、和光純薬社製)4.7g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬社製)4.0g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬社製)1.1gを秤量、混合した後、混合物を1300℃にて2時間溶融後、ステンレス板上に流し出して冷却し均一なガラスを得た。得られたガラスの組成を分析したところ、酸化物基準でSiO2:61重量%、Al2O3:11重量%、B2O3:18重量%、Li2O:4重量%、Na2O:5重量%、及びZnO:2重量%であった。また、該ガラスの屈折率を液浸法により測定したところ1.504であった。
次いで、得られたガラスを得られたガラスをめのう乳鉢にて粉砕して得た平均粒子径37μmの粉末とし、該ガラス粉末100重量部に対して平均粒子径1.5μmである石英(二酸化ケイ素結晶:屈折率1.544)3重量部を添加し、良く混ぜ合わせて陶材試料とした。
この陶材試料について至適焼成温度、熱膨張係数、酸溶解量、色差及び透明性を測定した。その結果を表4に示す。
また、上記陶材試料を水と練和した後に、実施例1で作成したセラミックスコアの上に、築盛し、700℃の焼成温度にて焼成した。その結果、陶材表面でのひび、陶材とコアとの剥離等は観察されず、良好な焼き付きを示した。また、陶材の焼き付けによるセラミックスコアの変形は観察されなかった。
【0086】
(比較例5)
石英粉末を混合しないガラス粉末を陶材試料とする他は実施例29と同様にして、各種物性を測定した。その結果を表4に示す。
【0087】
【表4】
【0088】
表4に示されるように、実施例29では、石英粉末を混合しない比較例5と比べて透明性が少し低くなり、色差ΔE*値が小さくなって色抜けが抑制されていることがわかる。
なお、実施例29と同様にしてセラミックスコアへの焼き付けを行なったところ、実施例29と同様に良好な結果が得られた。
【0089】
本発明のセラミックス歯冠の製造方法によれば、得られるセラミックスコアの品質を低下させることなく、成形時間を短縮できる。また、加熱・加圧成形法においては成形体中で流れの交わる部分にウェルドラインが生じることがあるが、これを防止するのにも有効である。
さらに、陶材焼き付け工程に本発明の歯科用陶材を用いた場合には、下地のセラミックスコアの色の影響を受けにくくなり、天然歯に近い優れた審美性を有するフルセラミックス歯冠を得ることができる。
【0090】
【図面の簡単な説明】
図1は、代表的なフルセラミックス歯冠の断面図である。
図2は、本発明で使用する代表的な鋳型の断面を模式的に表した図である。
図3は、本発明で使用する鋳型を作製する際において、ワックスパターン等が固定されたクルーシブルフォマーに鋳造リングおよび裏装材をセットしたときの断面を模式的に示す図である。
Claims (12)
- セラミックス体を加熱して軟化させた後に加圧して鋳型に注入して成形したセラミックスコアの表面に、ボディー陶材、インサイザル陶材、およびトランスルーセント陶材よりなる群より選ばれる少なくとも1種の歯科用陶材を築盛した後に焼成してセラミックス歯冠を製造する方法において、前記鋳型が、有底円筒体の中央部にその上面中央部に嵌合凹部を設けた柱状体が形成されているクルーシブルフォーマーと、前記嵌合凹部に取り付けられた表面に固体潤滑剤が施されたワックスパターンと、前記有底円筒体と係合する裏層材付きリングと、前記リングと歯形模型との間に充填され硬化された埋没材とからなる組立体から、クルーシブルフォーマーを取り外し、ワックスパターンを焼却することにより形成された鋳型であり、前記鋳型のフォーマー柱状体対応部分にセラミック体を充填し、これをプランジャーで押圧することによりセラミックスコアの成形を行うことを特徴とするセラミックス歯冠の製造方法。
- 陶材が焼付けられた焼成体の表面に表面着色材を塗布した後に焼成する表面着色工程、及び該工程によって得られた焼成体の表面にグレージングパウダーを塗布した後に焼成する艶出し工程を含む請求項1に記載の製造方法。
- ワックスパターンへの固体潤滑剤の施用が、固体潤滑剤、有機バインダー及び有機溶媒を含む懸濁液の塗布及び乾燥により行われていることを特徴とする請求項1又は2に記載の製造方法。
- 前記懸濁液が0.1〜30重量%の固体潤滑剤、0.1乃至20重量%の有機バインダー及び残余の有機溶媒からなることを特徴とする請求項3に記載の製造方法。
- 鋳型に注入されるセラミックス体が102〜109ポイズの粘度を有することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の製造方法。
- セラミックス体が結晶化可能なMgO−CaO−SiO2系のガラス体であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載の製造方法。
- クルーシブルフォーマーの柱状体が下方に拡径された0.005〜0.120のテーパーを有するものであることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載の製造方法。
- 前記プランジャーが、その融点或いは分解温度の何れか低い方の温度がセラミックス歯冠の成形温度より高く且つその熱伝導率が0.1(cal・cm−1・sec−1・℃−1)以上であるか、或いはその線膨張係数が4.0×10−6(℃−1)以下であるセラミックス材料からならることを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の製造方法。
- セラミックス体に接触するプランジャーの表面に予め固体潤滑剤が付着されていることを特徴とする請求項1乃至8の何れかに記載の製造方法。
- 陶材の焼付けが、酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体100重量部、並びに該ガラス体の屈折率との差が0.01〜0.1である屈折率を有し、且つ平均粒径が0.1〜10μmである無機結晶粉末を0.1〜10重量部を含有してなるボディー陶材、インサイザル陶材、又はトランスルーセント陶材を水で練和して得た練和物をセラミックスコア表面上に築盛した後に焼成することによって行われることを特徴とする請求項1乃至9の何れかに記載の製造方法。
- 前記表面着色工程及び艶出し工程が、酸化物基準で、SiO2を57〜65重量%、Al2O3を8〜18重量%、B2O3を15〜25重量%、ZnOを0.1〜2重量%、Na2Oを3〜7重量%、及びLi2Oを2〜8重量%含有するガラス体を主焼結成分とするステインパウダー及びグレージングパウダーを、それぞれ沸点が100〜250℃のエステル化合物を5重量%以上含有する練和液で練和して得た練和物を、各工程の前の工程で得られた焼成体の表面上に塗布した後に焼成することによって行われることを特徴とする請求項2乃至10の何れかに記載の製造方法。
- セラミックス歯冠の製造に用いるキットであって、有底円筒体の中央部にその上面中央部にワックスパターンの嵌合凹部を設けた柱状体が形成されているクルーシブルフォーマーと、前記クルーシブルフォーマーの有底円筒体と係合するリングと、リングの内面に施す裏層材と、クルーシブルフォーマーとリングとの間に充填される埋没材と、前記埋没材を硬化させ、クルーシブルフォーマーを取り外し、ワックスパターンを焼却することにより形成された鋳型のフォーマー柱状体対応部分に充填されたセラミック体を押圧するためのプランジャーと、前記プランジャーのセラミックス接触部分に固体潤滑剤を施すための懸濁液が収容された容器とからなることを特徴とするセラミックコアの成形を行うためのキット。
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