JP3982771B2 - ガラスおよび歯科用陶材 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、新規なガラス及びオールセラミックス歯冠のシェルとして好適な歯科用陶材に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年歯冠用セラミックスの分野では、オールセラミックスと呼ばれる材料が需要を拡大しつつある。従来、審美的なインレーまたはクラウン修復には、メタルボンドポーセレンと呼ばれる金属コアにセラミックスを焼き付けた材料が用いられてきた。しかし、メタルボンドポーセレンでは内部の金属が光を透過しないため天然歯と同様の透明感を再現できず、また金属の影響により歯肉が変色するという問題点を有していた。これに対し、オールセラミックスとは金属コアを用いずに歯冠全体をセラミックスで形成する手法である。このセラミックスには通常半透明の材料が用いられるため、天然歯と同様の自然な透明感が実現し、且つ歯肉の変色に関する問題も解消される。このためオールセラミックスは、それ自身の材料強度向上とあいまって、応用範囲を拡大しつつある。
【0003】
一方、インレー、クラウン等修復物の審美性を追求すると、その構造は歯と同様の2層またはそれ以上の層状構造を有することが望ましい。これは歯の硬組織がデンチン、エナメルの2層構造であり、これらの層内または層界面で可視光が複雑に散乱し、その散乱光が審美性に顕著な影響を及ぼすためである。従って、近年のオールセラミックス修復物は、コアとシェルの2層構造を形成できるシステムであることが不可欠の条件となっている。
【0004】
コアには、従来マイカ系、アパタイト系、ディオプサイド系等の結晶化ガラスが主に用いられており、これらは 熔融状態からのキャストまたは高温プレスにより成形される。一方シェルの形成には、通常歯科用陶材と呼ばれるガラスまたは結晶化ガラスの粉砕物が用いられる。この歯科用陶材を練和液でスラリー状として、コアの表面に盛り付けた後に焼成することにより、シェルが形成される。この時、シェルとコアの熱膨張係数は互いに近似していることが必要であり、さもなくば焼成後の冷却時に生じる成形物中の内部応力により、クラックの発生を招いてしまう。コアの熱膨張係数は従来の歯冠用セラミックスの場合、7×10ー6〜13×10ー6/℃程度であった。しかし、最近では例えばディオプサイド系結晶化ガラス等で6×10ー6/℃程度の熱膨張係数を有するものが現れてきており、この様な低膨張のコアに対応するシェルは未だ開発されていない。
【0005】
更に上記ディオプサイド結晶化ガラスの場合にはガラス転移温度が730〜750℃程度であり、コアの変形を防ぐためにはシェルの焼成温度がこの温度領域より低くなければならない。ここで、ガラスの焼結は粘性流動によるものであり、一方ガラスの粘性特性についてはガラス転移点を始めとする各種特性値を用いて記述することが可能である。このため異なるガラス間の相対比較を行う場合には、焼成温度とガラス転移点その他の特性値とは、概ね相関関係にあると見なすことができる。よって本明細書ではこれ以降、最も一般的なガラスの特性値であるガラス転移点をして、各種ガラス間における焼成温度の相対比較の尺度とする。
【0006】
一般にガラスでは、二酸化珪素等の網目構造が種々の物性を支配するため、網目構造が強固なほど熱膨張係数は低くなる。しかし一方では、高温での流動性が上昇し、ガラス転移点も同時に高くなる。即ち、低膨張と低ガラス転位点を両立するガラスを得ることは、ガラスの特性に伴う二律背反の克服を意味していた。
【0007】
上記条件に加え、シェルは口腔内環境での耐久性が要求される。しかし、従来の低温焼成用シェルは、口腔環境下での長期に亘る浸漬により表面からイオンが溶出し、色調の微妙な変化や透明性の低下などが起きることが問題となっていた。
【0008】
更に、人の歯のエナメル質は、エナメル小柱と呼ばれるヒドロキシアパタイトの微結晶から構成されるため、オパール性を有する。オパール性とは、オパールに特徴的に示される特異な可視光の散乱状態を意味する。より具体的には、物質中に光の波長に近似の大きさを有する粒子が存在し、その粒子が可視光の短波長領域を散乱することにより、物体の透過光が黄色味を帯び、散乱光が青みを帯びる現象である。近年歯科界における審美意識の高揚に伴い、より自然感のある人工歯冠が求められており、オパール性はシェルの必須要件となりつつある。しかし、シェルとして要求される低ガラス転位点、低膨張および化学的耐久性を満足し、且つオパール性を有するガラスは、未だ得られていなかった。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ガラス転移点が低く低膨張であり化学的耐久性に優れ、且つオパール性を有するガラスを供給することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記技術課題を克服すべく鋭意研究を重ねた。その結果、特定の組成を有するボロシリケートガラスからなる結晶化ガラスを用いることにより、ガラス転移点並びに熱膨張係数が低く化学的耐久性に優れ、且つオパール性を有するシェルが得られることを見いだし、本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、SiO2:61〜75重量%、Al2O3:5〜15重量%、B2O3:12〜20重量%、アルカリ金属酸化物として、Li2OとNa2Oを合計量:5〜12重量%且つLi2O:3重量%以上(但し、アルカリ金属酸化物としてK2Oは含有しない)、TiO2:1〜5重量%を含むボロシリケートガラスからなる結晶化ガラスであって、熱膨張係数が4.0×10−6〜7.0×10−6/℃であり、ガラス転移点が420〜540℃であり、且つ酸溶解量が1.0wt%以下であることを特徴とする結晶化ガラスである。
【0012】
本発明のガラスの熱膨張係数は4.0×10-6〜7.0×10-6/℃である。熱膨張係数がこの範囲を外れると、本発明のガラスを歯科用陶材としてシェルの形成に用いた場合、コアとなるセラミックスとの熱膨張係数の差が大きくなりすぎ、シェルに亀裂が入る、或は経時的にコアとシェルの間に熱応力が集中して剥離する等の不都合を生じる。
【0013】
本発明のガラスのガラス転移点は420〜540℃であり、より好ましくは470℃〜530℃である。ガラス転移点が540℃より高いとコアが熱変形を起こし、また420℃より低いと技工操作中に陶材に付着した有機物が完全に分解することなくシェルの中に取り込まれ、シェルの色調が不良なものとなるためである。
【0014】
本発明で用いるガラスの酸溶解量とは、酸性水溶液中でのガラスの耐久性を表す。具体的定義については後述するが、希硝酸水溶液中におけるガラス粉末の重量減少として算出される。この値は可能な限り小さいことが望ましい。この値が例えば1.0%を越えると、ガラスを長期間酸性水溶液へ浸漬した場合その表面に白濁が生じる。このようなガラスを歯科用陶材として用いると、長期に亘って使用した場合、色調変化や透明性低下により審美性が損なわれるため好ましくない。
【0015】
本発明のガラスは、下記組成のボロシリケートガラスからなる結晶化ガラスであることに起因して、オパール性を有する効果が達成される。この特性は前述の様に、本発明のガラスを歯科用陶材として用いる場合、天然歯様の自然感を再現する上で大変重要なものとなる。
【0016】
上記説明した熱膨張係数が4.0×10ー 6〜7.0×10ー 6/℃、ガラス転移点が420℃〜540℃、酸溶解量が1.0wt%以下であり、且つオパール性を有するガラスは、SiO2:61〜75重量%、Al2O3:5〜15重量%、B2O3:12〜20重量%、アルカリ金属酸化物として、Li2OとNa2Oを合計量:5〜12重量%且つLi2O:3重量%以上(但し、アルカリ金属酸化物としてK2Oは含有しない)、TiO2:1〜5重量%を含むボロシリケートガラスからなる結晶化ガラスにより達成される。該ボロシリケートガラスの組成について以下説明する。
【0017】
二酸化珪素(SiO2換算)の含有量は61〜75重量%である。SiO2の含有量が75重量%を越えるとガラスを調製するための溶融温度が高くなりすぎ、また高温でガラスを調製できたとしてもそのガラスの焼成温度が高くなる。一方、61重量%未満では化学的耐久性が低下する。
【0018】
また、酸化アルミニウム(Al2O3換算)の含有量は5〜15重量%である。Al2O3の含有量が20重量%を越えるとガラスの高温粘性が高くなるため焼成温度が高くなり、3重量%未満では化学的耐久性が低下する。
【0019】
また、酸化ホウ素(B2O3換算)の含有量は12〜20重量%である。B2O3の含有量が25重量%を越えると化学的耐久性が低下し、9重量%以下ではガラスを調製するための溶融温度が高くなりすぎ、また高温でガラスを調製できたとしてもその焼成度が高くなる。
【0020】
更に、アルカリ金属酸化物としては、熱膨張係数の点から酸化リチウム(Li2O換算)および/又は酸化ナトリウム(Na2O換算)が使用される。これらの合計含有量は5〜12重量%である。Li2O+Na2Oの含有量が12重量%を越えると熱膨張係数が大きくなると同時に化学的耐久性が低下し、5重量%未満ではガラスを調製するための溶融温度が高くなりすぎ、また高温でガラスを調製できたとしてもその焼成温度が高くなる。更に、熱膨張係数を低く抑えるためには、Li2Oを3重量%以上含有させることが必要である。同族の元素であるカリウムの酸化物は、熱膨張係数を上げるため、本発明の結晶化ガラスには含有させない。
【0021】
上記成分に酸化チタンを含有させることにより、オパール性を有するボロシリケートガラスを得ることができる。酸化チタンの含有量は1〜5重量%である。
【0022】
酸化チタンの含有により、ボロシリケートガラス中に微結晶が析出する。この微結晶については、粒子径が0.1〜1.0μmであり、ガラス中に分散してオパール性を示すものであれば特に限定されない。また、良好なオパール性を示すためのガラス中での体積分率は、10%以下である。
【0023】
一般にガラスのオパール性は、ガラス中の分相または微結晶の析出により生じる。但し前者の分相が可視光線を散乱する程度、あるいはそれ以上の大きさで生成することは、時として化学的耐久性の低下を招くために好ましくない。このためオパール性の発現は微結晶の析出によることが好ましく、酸化チタンは微結晶析出のための核形成剤として用いられる。この酸化チタンに加えて酸化ジルコニウムを添加することは、微結晶の制御をより容易なものとするため、好ましい態様である。
【0024】
以上のように、本発明の結晶化ガラスとしては、前記特定組成のボロシリケートガラスが使用される。
【0025】
本発明のガラスには、上記必須成分に加えて酸化カルシウム、酸化マグネシウムおよび酸化亜鉛からなる群より選ばれた少なくとも一種の2価金属酸化物を含有させることにより、焼成温度の低下、焼成体中の気泡の減少等を図ることができる。上記2価金属酸化物の含有量は、本発明のガラスを構成する全成分を100重量%として20重量%以下であることが好ましい。含有量が20重量%を越えると熱膨張係数が高くなり、また化学的耐久性の低下する場合がある。
【0026】
更に上記ボロシリケートガラスには、本発明発明の効果に悪影響のない範囲、具体的にはガラスの全構成成分を基準にして10重量%以下の範囲に於て上記成分以外の各種金属酸化物を含有させることが可能である。それら金属酸化物を例示すれば、酸化ストロンチウム、酸化バリウム、酸化リン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅等の遷移金属酸化物、酸化ランタン等のランタノイド酸化物、酸化錫、酸化ジルコニウム、酸化イットリウム、酸化タンタル等を挙げることができる。
【0027】
本発明のガラスの製造方法は特に限定されず、公知の方法を採用することが可能である。具体的製造方法を例示すれば、次のような方法を挙げることができる。先ず上記各成分の供給源となるガラス原料をV型混合機、ボールミル等を用いて混合した後、るつぼに混合原料を充填し、電気炉を用いて1300℃〜1600℃で加熱溶融する。ついで溶融状態のガラスを、空気中で徐冷または水中で急冷してガラスを得る。このガラスを再度溶融、冷却することも均一なガラスを得るために好ましい方法である。
【0028】
微結晶の析出方法についても、一般的に公知な結晶化ガラスの製造方法を適用することが出来る。即ち、上記方法により得られたガラスを結晶化温度に保持することにより内部に微結晶を析出させることができる。あるガラスについての結晶化温度は、示差熱分析等により予め求めることが可能である。実際の製造においては、この温度の周辺において結晶の成長速度、作業の再現性等を考慮の上、決定することができる。また上記結晶化に先立ち、結晶核形成の処理を行うことも好ましく、用いるガラスをそのガラス転移点より50℃〜150℃程度高い温度にて処理することが一般的である。
【0029】
本発明のガラス組成物に用いる原料は特に限定されない。以下、前記各成分の供給源となるガラス原料を具体的に例示する。
【0030】
二酸化珪素の原料としては珪砂(SiO2)が一般に用いられる。
【0031】
酸化アルミニウムの原料としては、アルミナ(Al2O3)、水酸化アルミニウム(Al(OH)3)、ソーダ長石(Na2OAl2O36SiO2)、灰長石(CaOAl2O32SiO2)、カオリン(Al2O32SiO22H2O)、ペタライト(Li2OAl2O38SiO2)、スポジュメン(Li2OAl2O34SiO2)等が挙げられる。
【0032】
酸化ホウ素の原料としては、無水ホウ酸(B2O3)、無水ホウ砂(Na2B4O7)等が挙げられる。
【0033】
酸化ナトリウムの原料としてはソーダ灰(Na2CO3)、水酸化ナトリウム(NaOH),硫酸ナトリウム(Na2CO3)、硝酸ナトリウム(Na2NO3)等を用いることができる。
【0034】
酸化リチウムの原料としては炭酸リチウム(Li2CO3)、水酸化リチウム(LiOH),硫酸リチウム(Li2CO3)、硝酸リチウム(Li2NO3)等を用いることができる。
【0035】
酸化チタンの原料としては通常酸化チタンが用いられるが、ルチル型、アナターゼ型いずれの結晶形態を用いることも可能である。
【0036】
酸化カルシウムの原料としては炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酸化カルシウム等が挙げられる。
【0037】
酸化マグネシウムの原料としては炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム等が挙げられる。
【0038】
酸化亜鉛の原料としては酸化亜鉛、炭酸亜鉛が挙げられる。
【0039】
酸化ストロンチウムの原料としては炭酸ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化ストロンチウム等が挙げられる。
【0040】
酸化バリウムの原料としては炭酸バリウム、水酸化バリウム、酸化バリウム等が挙げられる。
【0041】
酸化リンの原料としてはリン酸、五酸化リン等が挙げられる。
【0042】
酸化バナジウム、酸化クロム、酸化マンガン等の遷移金属酸化物の原料としては、これら遷移金属の酸化物、水酸化物等が挙げられる。
【0043】
酸化ランタン等のランタノイド酸化物の原料としてはこれらランタノイド金属の酸化物が挙げられる。
【0044】
酸化錫の原料としては酸化錫が挙げられる。
【0045】
酸化ジルコニウムの原料としてはバッデライト(ZrO2)、酸化ジルコニウム等が挙げられる。
【0046】
酸化イットリウム、酸化タンタルの原料としては、これら金属の酸化物が挙げられる。
【0047】
尚、これらガラス原料の混合比は、最終的に得られるガラス組成を勘案し、あらかじめ計算により決定される。
【0048】
本発明のガラスは、歯科用陶材として好適に使用される。この場合、通常得られたガラスを粉砕、分級し、粒度の調整された粉末として使用する。
【0049】
上記歯科用陶材を得るためのガラスの粉砕方法は特に限定されず、公知の粉砕方法を採用することができる。一般的な粉砕装置を例示すれば、ジョークラッシャー、コーンクラッシャー等の圧縮粉砕機、振動ボールミル、遊星ミル等のボールミル類、塔式粉砕機、攪拌槽型粉砕機、アニュラー型粉砕機等の媒体攪拌型粉砕機、ピンミル、ディスクミル等の高速回転式衝撃粉砕機、その他ロールミル、ジェット粉砕機、自生粉砕機等が挙げられる。また分級方法も特に限定される事はなく、公知の分級方法が採用され得る。一般的な分級装置を例示すれば、振動ふるい、シフター等のふるい分級機、サイクロン等の遠心式分級機、沈降分級機等の湿式分級機等が挙げられる。
【0050】
また、本発明のガラスを歯科用陶材として用いる場合には、各種無機顔料を混合して色の付与、並びに透明性の制御を行うことが一般的である。そのような顔料として代表的なものを例示すれば、バナジウム黄、コバルト青、クロムピンク、鉄クロム茶、チタン白等が挙げられる。
【0051】
本発明のガラスの2種類またはそれ以上を混合して用いることも好ましい態様である。特に歯科用陶材として使用する場合には、焼成温度に20℃〜100℃程度の差を有する2種類以上のガラスを混合することにより、焼成体の気泡を減少せしめ、焼成体の強度並びに透明性の向上を図ることが可能となる。
【0052】
本発明のガラスをオールセラミックス歯冠のシェル用の陶材として使用する場合の使用方法は、特に限定されず公知の方法を採用することができる。一般的には、本発明のガラス粉末を水で練和してスラリー状の練和泥とし、該練和泥をコアとなるセラミックス上に築盛し、その後にガラス粉末の焼結する温度にて焼成することで、陶材を被覆した人工歯が形成される。
【0053】
この時、水の替わりに陶材に近似した屈折率の練和液を用いることは、練和泥が半透明となり、焼成後の色調予測が容易となる点で好ましい方法である。また本発明のガラスにデンチン、エナメル、切端、歯頸部など歯牙の各部に相当する色調並びに透明性を付与し、これらを複層に築盛する方法も、自然観の良好な色調を再現するために好ましい。
【0054】
【発明の効果】
本発明のガラスは、ガラス転移点が低く低膨張であり化学的耐久性に優れ、且つオパール性を有する。このガラスは、従来の歯科用陶材では不可能であった低膨張セラミックスコア上への被覆が可能であり、且つ焼成体は耐久性に優れる。更に、本発明のガラスはオパール性を有するため、天然歯様の極めて自然感に富む複層構造のオールセラミックス人工歯の作製を可能とする。
【0055】
【実施例】
以下本発明を具体的に説明するため実施例を挙げるが、本発明はこの実施例により何等制限されるものではない。尚、実施例中に示した焼成温度、熱膨張係数、溶解量の評価方法は以下の通りである。
【0056】
(1)ガラス転移点、熱膨張係数
溶融し結晶化させることにより得られた結晶化ガラスから3mm×3mm×10mmの直方体を切り出して測定試料とし、熱分析装置TMA120(セイコー電子社製)にて室温から500℃まで加熱し、ガラス転移点および熱膨張係数を測定した。
(2)酸溶解量
溶融し結晶化させることにより得られた結晶化ガラスをアルミナ乳鉢にて粗粉砕した後、28メッシュのふるいを通過し、36メッシュのふるいを通過しない成分を回収した。この成分3gを採取し、0.01規定の硝酸水溶液100mlに浸漬して1時間煮沸した。ガラス濾過により液から分離後、100℃にて15時間乾燥後秤量した。酸溶解量は下式により算出した。
【0057】
【数1】
【0058】
(3)結晶相
結晶化ガラスをアルミナ乳鉢にて粉砕した後、X線回折分析装置(理学電機社製)にて、ガラス中の結晶相を同定した。
【0059】
(4)オパール性
結晶化ガラスを目視にて評価した。即ち、黒い背景に置いたとき青白い散乱光が観察され、且つ透過光が黄色く観察された場合のオパール性を○とし、その他の場合を×とした。
【0060】
実施例1
二酸化珪素(試薬特級、和光純薬社製)31.00g、水酸化アルミニウム(試薬特級、関東化学社製)3.82g、酸化ホウ素(試薬特級、和光純薬社製)6.00g、炭酸リチウム(試薬特級、和光純薬社製)7.42g、炭酸ナトリウム(試薬特級、和光純薬社製)1.71g、酸化チタン(試薬特級、和光純薬)1.50g、酸化亜鉛(試薬特級、和光純薬社製)5.00gを秤量後、乾式で混合した後、混合物を1500℃にて15分間溶融後、ステンレス板上に流し出して冷却した。得られた粗ガラスをアルミナ乳鉢にて粉砕後、1500℃にて15分間再溶融し、ステンレス板上に流して冷却し、均一なガラスを得た。
【0061】
このガラスに600℃、1時間の結晶核形成処理を施した後680℃にて10分間結晶化を行った。得られたガラスはオパール性を示し、熱膨張係数は5.9×10ー6、ガラス転移点は514℃、溶解量は0.09wt%であった。また析出した結晶はクリストバライトであった。用いたガラスの組成および結果を表1に示す。
【0062】
更に、上記ガラスを乳鉢にて粉砕した後、200メッシュ以下の成分を回収し歯科用陶材とした。ディオプサイド結晶化ガラスを用いて前歯部クラウンのコアを作製し、その上に、この陶材と水とを練和した練和泥を築盛し690℃にて焼成した所、シェル表面でのひび、シェルとコアとの剥離等は観察されず、良好な焼き付きを示した。この焼成体を石膏模型に戻して適合性を調べた所適合性は良好であり、陶材の焼付けによる変形は観察されなかった。
【0063】
実施例2
酸化亜鉛に代えて酸化ジルコニウム(EP、第一希元素社製)を用い、表1記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを690℃にて5分間熱処理した所、オパール性を示した。諸物性の測定結果を表1に示す。
【0064】
実施例3、4
実施例2と同様の方法に従い組成の異なるガラスを調製した。このガラスを700℃にて10分間熱処理した所、オパール性を示した。用いたガラスの仕込組成および諸物性の測定結果を表1に示す。
【0065】
実施例5
実施例2と同様の方法に従い組成の異なるガラスを調製した。このガラスを670℃にて5分間熱処理した所、オパール性を示した。用いたガラスの仕込組成および諸物性の測定結果を表1に示す。
【0066】
実施例6
表1記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを670℃にて10分間熱処理した所、オパール性を示した。用いたガラスの仕込組成および諸物性の測定結果を表1に示す。
【0067】
実施例7
表1記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを650℃にて2時間、更に680℃にて10分間熱処理した所、オパール性を示した。諸物性の測定結果を表1に示す。
【0068】
実施例8
表1記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを600℃にて1時間、730℃にて10分間熱処理した所、オパール性を示した。用いたガラスの仕込組成および諸物性の測定結果を表1に示す。
【0069】
実施例9
実施例1の酸化亜鉛に代えて酸化マグネシウム(試薬特級、和光純薬社製)を用い、表1記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを600℃にて1時間、690℃にて5分間熱処理した所、オパール性を示した。用いたガラスの仕込組成および諸物性の測定結果を表1に示す。
【0070】
【表1】
【0071】
実施例1〜5では、酸化チタン並びに酸化亜鉛または酸化ジルコニウムを添加しオパール性を得た。熱膨張係数、ガラス転位点、溶解量の各結果について、いずれも歯冠用セラミックスに用いるシェルとしての要件を満足していた。結晶相はいずれもクリストバライトであった。
【0072】
実施例6、7では、酸化ジルコニウムを添加することなくオパール性を得た。熱膨張係数、ガラス転位点、溶解量の各結果について、いずれも歯冠用セラミックスに用いるシェルとしての要件を満足していた。結晶相はいずれもクリストバライトであった。
【0073】
実施例8は酸化亜鉛を添加した系であり、良好な結果を得た。結晶相はクリストバライトであった。
【0074】
実施例9は酸化マグネシウムを添加した系であり、良好な結果を得た。結晶相はマグネシウムアルミニウムチタネート固溶体であった。
【0075】
比較例1
表2記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを600℃にて1時間、690℃にて20分間熱処理したが、ガラスは処理前と同様透明であり、オパール性は観察されなかった。用いたガラスの組成および諸物性の測定結果を表2に示す。
【0076】
比較例2
表2記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスの熱膨張係数は8.2であった。このガラスを600℃にて1時間、670℃にて20分間熱処理した所、オパール性は観察されなかった。上記ガラスを乳鉢にて粉砕した後、200メッシュ以下の成分を回収し歯科用陶材とした。ディオプサイド結晶化ガラスを用いて前歯部クラウンのコアを作製し、その上に、この陶材と水とを練和した練和泥を築盛し620℃にて焼成した所、シェル表面でひびが発生し、且つ部分的にシェルとコアとの剥離が観察された。
【0077】
比較例3
表2記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを600℃にて1時間、690℃にて5分間熱処理した所、オパール性が観察された。この結晶相はクリストバライトであった。しかし溶解量は2.05wt%であり、歯科用陶材としては実用不可能なことが判った。用いたガラスの組成および諸物性の測定結果を表2に示す。
【0078】
比較例4
表2記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスの熱膨張係数は3.7×10ー6、ガラス転移点は568℃であった。用いたガラスの組成および諸物性の測定結果を表2に示す。このガラスを600℃にて1時間、690℃にて5分間熱処理したが、オパール性は観察されなかった。このガラスを乳鉢にて粉砕した後、200メッシュ以下の成分を回収し歯科用陶材とした。ディオプサイド結晶化ガラスを用いて前歯部クラウンのコアを作製し、その上に、この陶材と水とを練和した練和泥を築盛し820℃にて焼成した所、部分的にシェルとコアとの剥離が観察された。この焼成体を石膏模型に戻して適合性を調べた所、陶材焼付け時の熱変形によると思われるコアの歪みが観察され、適合性は不良であった。
【0079】
比較例5
表2記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを600℃にて1時間、670℃にて20分間熱処理したが、ガラスは処理前と同様透明であり、オパール性は観察されなかった。用いたガラスの組成および諸物性の測定結果を表2に示す。
【0080】
比較例6
表2記載の仕込組成となるように原料を秤量し乾式で混合後、実施例1の方法に準じガラスを調製した。このガラスを600℃にて1時間、700℃にて20分間熱処理したが、ガラスは処理前と同様透明であり、オパール性は観察されなかった。用いたガラスの組成および諸物性の測定結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
Claims (2)
- SiO2:61〜75重量%、Al2O3:5〜15重量%、B2O3:12〜20重量%、アルカリ金属酸化物として、Li2OとNa2Oを合計量:5〜12重量%且つLi2O:3重量%以上(但し、アルカリ金属酸化物としてK2Oは含有しない)、TiO2:1〜5重量%を含むボロシリケートガラスからなる結晶化ガラスであって、熱膨張係数が4.0×10−6〜7.0×10−6/℃であり、ガラス転移点が420〜540℃であり、且つ酸溶解量が1.0wt%以下であることを特徴とする結晶化ガラス。
- 請求項1記載の結晶化ガラスからなる歯科用陶材。
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