JP3796129B2 - 粘着剤用ポリマーの重合方法 - Google Patents

粘着剤用ポリマーの重合方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと酢酸ビニルを必須構成モノマーとする粘着剤用ポリマーを、残存酢酸ビニルが少なくなるように高重合率で重合する方法に関する。また、この粘着剤用ポリマーを含む粘着剤組成物、この粘着剤組成物から得られる粘着剤層を備える粘着製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たる構成成分とするアクリル系粘着剤は、タック、粘着力、凝集力等の基本物性に加え、耐熱性、耐候性、耐水性、耐油性等に優れていることから、粘着ラベル、シート、テープ等の粘着製品に幅広く使用されている。
【0003】
上記粘着剤の基本3物性のうち、粘着力と凝集力は相反する物性として知られている。すなわち、粘着力を向上させると凝集力が低下し、凝集力を上げようとすると粘着力が低下するため、両者のバランスを採りながら、両方の物性を向上させることは、なかなか困難である。
【0004】
高い粘着力を維持しながら凝集力を向上させるためには、粘着剤を構成するポリマーを安易に3次元架橋させるのではなく、ポリマー自体を高分子量化して高い粘着力を確保すると共に、ポリマー鎖の絡み合いを多くすることが有用であることがわかってきた。
【0005】
加納、秋山等は、アクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとアクリル酸からなるターポリマー(三元共重合体)において、酢酸ビニルユニットはアクリル酸の自己凝集力(水素結合)を緩和し、異種高分子との分子間相互作用(分子鎖の絡み合い)を促進させることを報告している(日本接着学会誌;Vol.29,P560,1993)。
【0006】
上記報告から、アクリル酸2−エチルヘキシルとアクリル酸からなるコポリマーとアクリル酸2−エチルヘキシルと酢酸ビニルとアクリル酸からなるターポリマーで、ガラス転移温度(Tg)が同温になるようにポリマー設計した場合、酢酸ビニルが含まれていないコポリマーはポリマー鎖同士の絡み合いが少ないのに対して、酢酸ビニルを構成モノマーとするターポリマーではポリマー鎖同士の絡み合いが大きいと考えられる。ポリマー鎖同士の絡み合いが大きくなって、分子鎖がほぐれ難いことで凝集力が高まれば、架橋密度を高くして凝集力を高める場合に比べて、粘着力の低下を避けることができ、凝集力と粘着力のバランスが優れた粘着剤用ポリマーが得られるものと考えられる。また、架橋密度を高くする必要がないため、応力緩和性に優れていると思われ、例えば曲面貼り付け性(対エッジリフト性)にも良好な特性を示すと考えられる。
【0007】
そこで、本発明者等は、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと酢酸ビニルを必須構成モノマーとする粘着剤用ポリマーの検討を行ったが、(メタ)アクリル酸アルキルエステルと酢酸ビニルは共重合しにくく、溶液重合で均一組成のモノマー混合物を滴下する重合方法を採用すると、重合率があまり高くならず、さらに、残存モノマーがほとんど酢酸ビニルであることが見出された。
【0008】
残存モノマーは、粘着製品の異臭の原因となり、特に酢酸ビニルのような臭気や刺激性のある化合物をポリマー中に混入させておくことは好ましくないが、実操業上、微量な残存モノマーをポリマーから分別することはエネルギー的にもコスト的にも見合わず、ほとんど無理である。
【0009】
こういった観点から、通常は、ブースターと呼ばれる後添加重合開始剤を重合終了間際に系内に添加して、この残存モノマーを強制的に重合することにより低減する手法が採用される。この場合、残存モノマーと開始剤が出会う確率と、残存モノマーを確実に重合させる必要性等を考慮して、残存モノマーに対するブースターの量は、重合反応初期におけるモノマーに対する開始剤量よりも、かなり多く添加しているのが現状である。しかし、重合終了間際に系内に残存している少量のモノマーに対して、多量の開始剤が存在することとなるので、結局、ブースター添加後に生成するポリマーは、ほとんどが非常に低い分子量のものとなる。そして、この低分子量物が粘着剤の凝集力を低下させる原因となる。
【0010】
さらに、酢酸ビニルを必須構成モノマーとする重合反応の場合、同じモノマー組成物を滴下する通常の方法で重合すると、残存モノマーのほとんどが酢酸ビニルとなるため、上記ブースターを添加する残存モノマー低減法を採用したとしても、ブースター添加後に生成する低分子量物が粘着性の低いポリ酢酸ビニルとなって、粘着特性に悪影響を及ぼすのである。
【0011】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明では、酢酸ビニルを用いて粘着剤用ポリマーを重合する際に、臭気や刺激性のある酢酸ビニルの残存モノマー量を低減し、また、粘着特性に悪影響を及ぼす低分子量物を低減することのできる重合方法を見出して、粘着力と凝集力とのバランスが優れた粘着製品を提供することを課題として掲げた。
【0012】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決した本発明の重合方法は、1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと酢酸ビニルを必須的に含むモノマー成分をラジカル重合して粘着剤用ポリマーを製造する方法であって、使用される酢酸ビニルのうちの70〜100質量%と、酢酸ビニル以外のモノマーの一部とを、反応器に先に仕込んで重合を開始させた後に、残りのモノマー成分を反応器へ投入して重合することを特徴としている。酢酸ビニル全量のうちの70〜100質量%を初期仕込みしておくことにより、重合率を高めることができ、残存する酢酸ビニル量や、低分子量物、特に粘着物性に悪影響を与える酢酸ビニルを主体とする低分子物量を低減させることができた。
【0013】
上記モノマー成分には、さらに、架橋剤の官能基と反応することのできる官能基を有する官能基含有モノマーが含まれていることが好ましい。粘着剤用ポリマーに官能基を導入することで、架橋剤で架橋することができるので、凝集力等の粘着特性を高めることができる。
【0014】
本発明には、上記重合方法で得られた粘着剤用ポリマーを含む粘着剤組成物ならびにこの粘着剤組成物から得られる粘着剤層を備える粘着製品も含まれる。
【0015】
【発明の実施の形態】
本発明は前記したように、酢酸ビニルを用いて粘着剤用ポリマーを重合する際に、酢酸ビニルが(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合性が小さいので、均一組成のモノマー混合物を滴下しながら行う通常の溶液重合法では、臭気や刺激性のある酢酸ビニルモノマーの残存量が多くなるという課題を解決するものである。以下本発明を詳細に説明する。なお、「ホモポリマー」と特に断る場合以外の「ポリマー」という言葉は、コポリマーやターポリマー以上の多元共重合体を代表するものとする。
【0016】
本発明の重合方法は、溶液重合によるラジカル重合であって、使用される酢酸ビニルのうちの70〜100質量%と、酢酸ビニル以外のモノマーの一部(初期仕込みモノマー成分という)とを、反応器に先に仕込んで重合を開始させた後に、残りのモノマー成分(投入用モノマー成分という)を反応器へ投入して重合するところに最大のポイントを有する。この方法によれば、酢酸ビニルが(メタ)アクリル酸アルキルエステルと共重合を行いやすく、重合率が向上する。
【0017】
初期仕込みモノマー成分は、使用される酢酸ビニルの70〜100質量%と、酢酸ビニル以外のモノマー少量とからなる。酢酸ビニルが70質量%以上、初期仕込みされれば、残存モノマー量の低減および重合率の向上に効果的なためである。好ましい酢酸ビニルの初期仕込量の下限は80質量%、より好ましくは90質量%、さらに好ましくは95質量%である。酢酸ビニルの全量、すなわち100質量%を初期仕込みすることが最も好ましい。なお、初期仕込みモノマーの全てが酢酸ビニルのみの場合ポリ酢酸ビニルのホモポリマーが生成してしまう可能性があるため、酢酸ビニル以外のモノマーを酢酸ビニルの初期仕込み量と同量〜3倍(質量比)程度、初期仕込みすることが好ましい。
【0018】
反応器内の初期仕込みモノマー成分の濃度(重合前における溶媒との初期仕込みモノマー成分との混合物中の初期仕込みモノマー成分の濃度)は、30〜80質量%が好ましい。30質量%より少ないとポリマーの分子量が上がりにくく、80質量%以上では、重合時の発熱量が大きくなって、除熱等の温度制御が難しいため好ましくない。より好ましい初期仕込みモノマー成分の濃度は40〜70質量%である。
【0019】
また、初期仕込みモノマー成分の濃度は重合溶媒に応じて適宜設定変更可能である。例えば、連鎖移動が起こりやすいトルエン等を重合溶媒として用いる場合には、分子量を上げるためには、初期仕込みモノマー成分の濃度を上げることが好ましい。ただし、発熱量が上がって温度制御が難しいため、重合初期の溶剤としては連鎖移動の発生が少ない酢酸エチルを用いることが推奨される。
【0020】
投入用モノマー成分は、初期仕込みされなかったモノマーの混合物である。投入用モノマー成分の最初の投入は、反応器に仕込まれた初期仕込みモノマー成分の重合開始後であって、かつ、重合率が50%を超えない時点で行うことが好ましい。初期仕込みモノマー成分の重合率が50%を超えてしまうと、酢酸ビニルリッチなポリマーが反応器の中に既にかなりの量生成して、バランスのとれた粘着剤用ポリマーが得られず、感温性を小さくできない恐れがある。この意味で、投入用モノマー成分の最初の投入は、初期仕込みモノマー成分の重合率が低い段階で行うことが推奨され、重合率が20%以下の段階で行うことがより好ましく、10%以下がさらに好ましく、初期仕込みモノマー成分の重合開始直後が最も好ましい。なお、重合の開始時点は、重合容器の内温を測定することにより、重合による発熱が開始した時点として計測することができる。また、還流温度で重合する場合は、重合溶媒の揮発が激しくなった時点として捉えることができる。
【0021】
投入用モノマー成分は、3分割以上に分割投入することが好ましく、滴下が最も好ましい。重合開始剤は、初期仕込みモノマー成分用と投入用モノマー成分用が必要であり、初期仕込みモノマー成分用のものは反応器に仕込み、投入用モノマー成分用のものは投入用モノマー成分を添加する際に一緒に添加する。重合後期に、ブースター(後添加用開始剤)を添加してもよい。本発明法では、重合後期の酢酸ビニル残存モノマーが少なく、ブースターを使用しても酢酸ビニルのホモポリマーの生成等の不都合が無いからである。
【0022】
重合時の重合熱の除去が容易であり、操業性が良いことから、本発明法では、溶液重合法を採用している。溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を便宜混合して用いてもよい。
【0023】
重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド、商品名「ナイパーBMT−K40」(日本油脂社製;m−トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドの混合物)等の有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、商品名「ABN−E」[日本ヒドラジン工業;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)]、商品名「ABN−V」[日本ヒドラジン工業社製;2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)]等のアゾ系化合物等の公知のラジカル重合開始剤を利用することができる。開始剤量はモノマー質量に対して、0.01〜1質量%となるように使用することが好ましい。重合温度や重合時間等の重合条件は、例えば、重合溶媒、重合開始剤の種類等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
【0024】
粘着特性の点からは、粘着剤用ポリマー全体としての重量平均分子量Mwは20万以上が好ましく、30万以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、溶液重合では200万を超えるポリマー合成は難しいため、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。
【0025】
次に、粘着剤用モノマーとして用いることのできるモノマーについて説明する。本発明では、前記した分子鎖の絡み合いによる凝集力向上効果を得るためと、粘着剤の感温性を小さくするために、酢酸ビニルを必須成分とする。感温性とは、低温雰囲気下で粘着剤が硬くなって、被着体に濡れることができず、充分な粘着力が発現しない性質、あるいは、粘着剤が硬くなって被着体から剥離してしまう性質、また、高温雰囲気下で粘着剤が柔らかくなって凝集破壊を起こしてしまう性質等、温度の高低によって粘着剤の特性が変化してしまう度合いをいう。酢酸ビニルは(メタ)アクリル酸アルキルエステルとの共重合性があまり高くないことから、得られる粘着剤ポリマーが、酢酸ビニルの共重合比が異なる種々の組成のポリマーの集合体となるため、感温性が小さくなるのではないかと考えられる。この感温性低減効果を得るには、酢酸ビニルを粘着剤用モノマー成分(全体)中2〜35質量%使用することが好ましい。2質量%より少ないと効果が充分発現せず、35質量%を超えて使用すると、粘着力や粘着特性が低下していくため好ましくない。より好ましい酢酸ビニル使用量の下限は4質量%、上限は30質量%である。
【0026】
第2の必須成分である(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、粘着力を発揮させるための主成分である。具体的には、アルキル基の炭素数が1〜12の(メタ)アクリレートが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。
【0027】
酢酸ビニルと(メタ)アクリル酸アルキルエステルのみで粘着剤用ポリマーを形成する場合は、酢酸ビニル2〜35質量%、1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを98〜65質量%使用することが好ましい。
【0028】
粘着特性を考慮すれば、粘着剤用モノマー成分には、さらに、官能基含有モノマーが含まれていることが好ましい。官能基含有モノマーとしては、粘着剤ポリマー用架橋剤の有する官能基と反応し得る官能基を有するモノマーであれば、特に限定されないが、カルボキシル基含有モノマー、ヒドロキシル基含有モノマー等の使用が好ましい。架橋反応が速やかに進行するからである。
【0029】
カルボキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、無水マレイン酸等が挙げられ、ヒドロキシル基含有モノマーとしては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチルのポリカプロラクトン変性物である「プラクセルF」シリーズ(ダイセル化学工業社製)等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。
【0030】
官能基含有モノマーは、0.1〜15質量%用いることが好ましい。0.1質量%より少ないと、架橋が不充分となって架橋密度が低く、凝集力不足となることがある。しかし、15質量%を超えて用いると粘着剤が硬くなりすぎるため好ましくない。より好ましい使用量の下限は0.2質量%、上限は10質量%である。官能基含有モノマーが粘着剤用モノマー成分に含まれているときには、粘着剤用モノマー成分100質量%中における(メタ)アクリル酸アルキルエステル類の含有量を50〜97.9質量%とすることが好ましい。この範囲をはずれると、粘着力が低下する傾向にある。
【0031】
粘着剤用モノマー成分には、その他のモノマーが含まれていてもよい。具体的には、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルアシッドホスフェート等の酸性リン酸エステル系モノマー;(メタ)アクリルアミド、N,N'−ジメチルアミノメチル(メタ)アクリレート、イミド(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の含窒素モノマー;(メタ)アクリロニトリル等のニトリル基含有モノマー;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の多官能モノマー;塩化ビニル等のハロゲン含有モノマー;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族系モノマー;ビニルエーテル;プロピオン酸ビニル等が挙げられ、これらの1種または2種以上を用いることができる。これらの「その他のモノマー」を用いるときは、粘着剤用モノマー成分中0〜20質量%とし、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量を50〜77.9質量%とすることが好ましい。その他のモノマーが20質量%を超えると、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの使用量が少なくなったり、粘着剤のTgが高くなって粘着力等の特性が低下するため好ましくない。
【0032】
以上の説明による粘着剤用モノマーを適宜組み合わせて粘着剤用ポリマーとするのであるが、目安として、ポリマーのTgが−60℃〜+30℃となるように組み合わせることが好ましい。ポリマーのTgは、DSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)によって求めることができる。また、ホモポリマーのTgは各種文献に記載されているので、共重合体のTgを、各種ホモポリマーのTgn(K)と、モノマーの質量分率(Wn)とから下記式によって求めることもできる。
【0033】
【数1】
Figure 0003796129
【0034】
なお、主要ホモポリマーのTgを示せば、ポリアクリル酸は106℃、ポリアクリル酸メチルは8℃、ポリアクリル酸エチルは22℃、ポリアクリル酸n−ブチルは−54℃、ポリアクリル酸2−エチルヘキシルは−70℃、ポリアクリル酸2−ヒドロキシエチルは−15℃、ポリメタクリル酸2−ヒドロキシエチルは55℃、ポリメタクリル酸メチルは105℃、ポリ酢酸ビニルは32℃、ポリアクリロニトリルは125℃、ポリスチレンは100℃、ポリマレイン酸は130℃である。
【0035】
本発明の重合方法で得られる粘着剤用ポリマーは、所定量の架橋剤で架橋した形で、粘着製品の粘着剤層を形成することが好ましい。架橋剤で架橋させると、凝集力等の諸物性が向上するためである。架橋剤としては、前記官能基含有モノマーの有する官能基であって粘着剤用ポリマーに導入された官能基との反応性を有する官能基を1分子中に2個以上有する化合物を用いることができる。このような官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、メチロール基、アルコキシメチル基、イミノ基、金属キレート基、アジリジニル基等が挙げられる。具体的な化合物としては、多官能イソシアネート化合物、多官能エポキシ化合物、多官能メラミン化合物、金属架橋剤、アジリジン化合物等が挙げられる。
【0036】
イソシアネート基を2個以上有する多官能イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「コロネートL」および「コロネートL−55E」(いずれも日本ポリウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。また、これらの化合物のイソシアネート基を活性水素を有するマスク剤と反応させて不活性化したいわゆるブロックイソシアネートも使用可能である。
【0037】
多官能エポキシ化合物としては、1分子当たりエポキシ基を2個以上有する化合物であれば特に限定されるものではない。具体例としては、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ビスフェノールA・エピクロルヒドリン型エポキシ樹脂、N,N,N',N'−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン、1,3−ビス(N,N−ジグリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N−ジグリシジルアニリン、N,N−ジグリシジルトルイジン等が挙げられる。
【0038】
多官能メラミン化合物としては、メチロール基またはアルコキシメチル基またはイミノ基を合計で1分子当たり2個以上有する化合物であれば、特に限定されるものではない。具体例としては、ヘキサメトキシメチルメラミン、ヘキサエトキシメチルメラミン、ヘキサプロポキシメチルメラミン、ヘキサブトキシメチルメラミン、ヘキサペンチルオキシメチルメラミン等が挙げられる。
【0039】
金属架橋剤としては、特に限定されるものではない。具体例としては、アルミニウム、亜鉛、カドミウム、ニッケル、コバルト、銅、カルシウム、バリウム、チタン、マンガン、鉄、鉛、ジルコニウム、クロム、錫等の金属に、アセチルアセトン、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、乳酸エチル、サリチル酸メチル等が配位した金属キレート化合物等が挙げられる。
【0040】
アジリジン化合物としては、N,N'−ヘキサメチレン−1,6−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)、トリメチロールプロパン−トリ−β−アジリジニルプロピオネート、ビスイソフタロイル−1−(2−メチルアジリジン)、トリ−1−アジリジニルホスフォンオキサイド、N,N'−ジフェニルエタン−4,4’−ビス(1−アジリジンカルボキシアミド)等が挙げられる。
【0041】
官能基含有モノマーをカルボキシル基含有モノマーとし、架橋剤として多官能エポキシ化合物を用いる架橋システムが、最も好ましい。架橋剤の使用量は特に限定されないが、粘着剤用ポリマー(不揮発分)に対し、架橋剤を0.05〜15質量%とすることが好ましい。0.05質量%よりも少ないと、架橋が不充分となって架橋密度が低く、凝集力不足となることがある。15質量%を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、粘着力が低くなることがある。より好ましい下限は0.1質量%、上限は10質量%である。
【0042】
上記粘着剤用ポリマーと架橋剤を含む粘着剤組成物には、必要により、粘着付与剤が配合されていてもよい。粘着付与剤としては、(重合)ロジン系、(重合)ロジンエステル系、テルペン系、テルペンフェノール系、クマロン系、クマロンインデン系、スチレン樹脂系、キシレン樹脂系、フェノール樹脂系、石油樹脂系等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用できる。
【0043】
粘着付与剤の量は、特に限定されないが、粘着剤用ポリマー100質量部に対して、通常、5〜100質量部とするのが好ましい。粘着付与剤の添加量が5質量部より少ないと、粘着付与剤による粘着力向上効果が発揮されないことがある。一方、上記粘着付与剤の添加量が100質量部より多いと、逆にタックが減少して粘着力が低下するおそれがある。10〜50質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0044】
粘着剤組成物には、さらに、必要に応じて、通常配合される充填剤、顔料、希釈剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等の従来公知の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、1種類または2種以上、使用可能である。これらの添加剤の添加量は、所望する物性が得られるように適宜設定すればよい。
【0045】
粘着剤用ポリマー、架橋剤、必要により、上記各種添加剤、溶剤等を混合して調製された粘着剤組成物は、例えば、粘着シート、粘着ラベル、粘着テープ、両面テープ等の各種粘着製品の製造に好適に用いることができる。このような粘着製品は、基材レスで、または基材に粘着剤組成物の層を形成し、架橋反応させることにより製造される。
【0046】
基材としては、上質紙、クラフト紙、クレープ紙、グラシン紙等の従来公知の紙類;ポリプロピレン等と無機充填剤から形成される合成紙;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリ塩化ビニル、セロファン等のプラスチック;織布、不織布等の繊維製品等を利用できる。基材の形状は、例えば、フィルム状、シート状、テープ状、板状、発泡体等が挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0047】
基材の片面に粘着剤組成物を公知の方法で塗布することによって、粘着シート、粘着テープ、粘着ラベル等を得ることができる。また、紙、合成紙、プラスチックフィルム等のシート状物に離型剤が塗布されている離型紙等に粘着剤組成物を塗布することにより、基材レス(単層構造)の粘着層が得られ、基材レスの両面テープとして使用することができる。また、上記基材の両面に同種または異種の粘着剤組成物を塗布して、両面テープとしてもよい。
【0048】
粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等の公知の方法を採用することができる。この場合、粘着剤組成物を基材に直接塗布する方法、離型紙等に粘着剤組成物を塗布した後、この塗布物を基材上に転写する方法等いずれも採用可能である。
【0049】
粘着剤組成物を塗布した後、乾燥させることにより、基材上に粘着剤層が形成される。乾燥温度は、特に限定されるものではないが、加熱乾燥時に架橋反応が進行するので、架橋剤の種類に応じて架橋反応が速やかに進行する温度で乾燥することが好ましい。なお、用途によっては、粘着剤組成物を被着体に直接、塗布してもよい。
【0050】
基材上に形成された粘着剤層の表面には、例えば、離型紙を貼着してもよい。粘着剤層表面を好適に保護・保存することができる。剥離紙は、粘着製品を使用する際に、粘着剤層表面から引き剥がされる。なお、シート状やテープ状等の基材の片面に粘着剤層が形成されている場合は、この基材の背面に公知の離型剤を塗布して離型剤層を形成しておけば、粘着剤層を内側にして、粘着シート(テープ)をロール状に巻くことにより、粘着剤層は、基材背面の離型剤層と当接することとなるので、粘着剤層表面が保護・保存される。
【0051】
【実施例】
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0052】
実施例1
粘着剤用ポリマー合成のために、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸ブチル219部、アクリル酸2−エチルヘキシル219部、アクリル酸30部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル12部からなる混合物480部のうちの180部と酢酸ビニル120部および酢酸エチル600部を仕込み、窒素ガス気流下で昇温して80℃になったところでアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.27部添加して初期仕込み分の重合を開始した。重合開始から30分経過後に、残りのモノマー420部と、AIBN0.63部と酢酸エチル20部とを1.5時間かけて添加し、添加終了時に酢酸エチルを100部を反応器へ添加した。さらに90分反応させたところで、ブースターとしてAIBN1.8部と酢酸エチル50部からなる混合物を30分ごとに5回に分割して添加し、さらに2時間反応を続けた。重合終了時に酢酸エチル230部を加えて冷却した。
【0053】
得られた粘着剤用ポリマー溶液No.1の不揮発分は39.1%、粘度4200mPa・s(25℃、B型粘度計、以下同様)であった。ポリマーの重量平均分子量(Mw)は50.9×104(GPC測定:標準ポリスチレン換算)であった。また、反応器から反応液をサンプリングして、重合率の時間変化をGC−MS(ガスクロマトグラフマススペクトロスコピー)で調べ、表1に示した。
【0054】
なお、GPCによる分子量測定条件は以下の通りである。試料濃度は0.2%、注入量は200マイクロリットル/回とした。
Figure 0003796129
比較例1
均一組成のモノマーを滴下する方法で、比較用粘着剤用ポリマーの合成を行った。温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸ブチル219部、アクリル酸2−エチルヘキシル219部、アクリル酸30部、アクリル酸2−ヒドロキシエチル12部と酢酸ビニル120部からなるモノマー混合物600部のうちの180部と、酢酸エチル420部を仕込み、窒素ガス気流下で昇温して80℃になったところでアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)を0.27部添加して初期仕込み分の重合を開始した。重合開始から30分経過後に、残りのモノマー420部と、AIBN0.63部と酢酸エチル180部とを1.5時間かけて添加し、添加終了時に酢酸エチルを100部を反応器へ添加した。さらに90分反応させたところで、ブースターとしてAIBN1.8部と酢酸エチル50部からなる混合物を30分ごとに5回に分割して添加し、さらに2時間反応を続けた。重合終了時に酢酸エチル150部を加えて冷却した。
【0055】
得られた比較用粘着剤用ポリマー溶液No.2の不揮発分は36.8%、粘度5200mPa・sであった。ポリマーの重量平均分子量(Mw)は56.1×104(GPC測定:標準ポリスチレン換算)であった。また、実施例と同様に重合率の時間変化をGC−MSで調べ、表1に示した。
【0056】
【表1】
Figure 0003796129
【0057】
表1における熟成90分後に残存しているモノマーは、実施例1・比較例1ともほとんどが酢酸ビニルであり、実施例1では、残存酢酸ビニルが1.8%(使用モノマーの全量を100%としたときの値)、比較例1では7.2%であった。実施例1では酢酸ビニルを初期仕込みしているためその量を低減させることができたと考えられ、最終重合率も97.8%にまで高めることができた。
【0058】
実施例2
粘着剤用ポリマー合成のために、温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸ブチル343.8部、メタクリル酸メチル136.2部、無水マレイン酸24部およびアクリル酸36部からなる混合物540部のうちの180部と、酢酸ビニル60部、酢酸エチル315部、トルエン45部を仕込み、窒素ガス気流下で昇温して80℃になったところで過酸化物系開始剤(商品名「ナイパーBMT−K40」:日本油脂社製)を0.48部添加して初期仕込み分の重合を開始した。重合開始から15分経過後に、残りのモノマー360部と0.72部のナイパーBMT−K40と酢酸エチル20部とからなる混合物を1.5時間かけて滴下し、滴下終了時に酢酸エチル85部を反応器へ添加した。さらに90分反応させたところで内容物の粘度が上昇してきたので、希釈溶剤としてトルエン248.2部と酢酸エチル45.4部を添加し、ブースターとしてアゾ系重合開始剤(商品名「ABN−E」:日本ヒドラジン工業社製)1.8部とトルエン41.7部からなる混合物を30分ごとに5回に分割して添加し、4時間反応を続けた。重合終了時にトルエン28部を加えてから冷却した。
【0059】
重合率は95.4%であった。得られた粘着剤用ポリマー溶液No.3の不揮発分は39.4%、粘度4050mPa・s(25℃、B型粘度計、以下同様)であった。ポリマーの重量平均分子量(Mw)は1.1×104(GPC測定:標準ポリスチレン換算)であった。
【0060】
この粘着剤用ポリマー溶液No.3の100部(有り姿)に対して、架橋剤として多官能エポキシ化合物(商品名「TETRAD−C」:三菱ガス化学社製:有効成分100%)の3%酢酸エチル溶液を2.75部混合し、粘着剤組成物No.1を調製した。
【0061】
基材としてポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(東レ株式会社製、厚さ25μm)を用い、粘着剤組成物No.1を乾燥後の厚さが25μmとなるように塗布した後、100℃で3分間乾燥させた。その後、粘着剤表面に離型紙(サンエー化研株式会社製、商品名K−80HS)を貼着して保護した後、温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で7日間養生し、粘着フィルム(粘着製品)を得た。この粘着製品を所定の大きさに切断して、試験片を作製した。なお、離型紙は各種測定試験を実施する際に引き剥がした。
【0062】
比較例2
粘着剤用ポリマーの組成を表2に示したように変えた以外は、実施例2と同様にして、粘着フィルムを製造した。
【0063】
比較例3
粘着剤用ポリマーの組成を表2に示したように変え、全てのモノマーの混合物を1.5時間かけて滴下した以外は、実施例2と同様にして、粘着フィルムを製造した。
【0064】
実施例2および比較例2〜3で得られた粘着フィルムをABS板(厚さ3mm)に、140℃の加熱ロールでラミネートした。冷却後、以下の特性評価を行った。
【0065】
[冷熱サイクル]
恒温恒湿器(PL−2F:タバイエスペック社製)を用い、ラミネート品を、−20℃で4時間放置した後、80℃で4時間放置するのを1サイクルとして、10サイクル繰り返した。ABS板と粘着フィルムの密着状態を観察した。フィルムに剥離等の異常がないものを○、一部剥離が生じたものを△、かなり剥離が生じたものを×とした。結果を表2に示した。
【0066】
【表2】
Figure 0003796129
【0067】
【発明の効果】
酢酸ビニルの70質量%以上を初期仕込みしておくことにより、重合率を高めて、酢酸ビニルの残存モノマー量や低分子量物の量を低減させることができた。その結果、粘着力と凝集力のバランスに優れ、感温性の小さい粘着製品を提供することができた。

Claims (2)

  1. 1種以上の(メタ)アクリル酸アルキルエステルと酢酸ビニルを必須的に含むモノマー成分をラジカル溶液重合して粘着剤用ポリマーを製造する方法であって、使用される酢酸ビニルのうちの70〜100質量%と、酢酸ビニル以外のモノマーの一部とを、反応器に先に一括的に仕込み、重合を開始させた後に、残りのモノマー成分を反応器へ投入して重合することを特徴とする粘着剤用ポリマーの重合方法。
  2. 上記モノマー成分には、さらに、架橋剤の官能基と反応することのできる官能基を有する官能基含有モノマーが含まれている請求項1に記載の重合方法。
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