JP4112880B2 - 粘着剤組成物および粘着製品 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、耐曲面貼り性に優れ、強粘着力を示し、しかも、被着体に貼付した状態で高温雰囲気下に長時間放置されていても、被着体を汚染せずにきれいに被着体から剥離することができ、粘着物性の経時変化の少ない粘着剤層を形成することのできる粘着剤組成物、およびこのような粘着製品に関する。
【0002】
【従来の技術】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルを主たる構成成分とするアクリル系粘着剤は、タック、粘着力、凝集力等の基本物性に加え、耐熱性、耐候性、耐水性、耐油性等に優れていることから、粘着ラベル、シート、テープ等の粘着製品に幅広く使用されている。
【0003】
一般的に、これらの粘着製品は、被着体に貼付した後は剥離されることがほとんどない永久接着型と、被着体に貼付した後に再び剥離することが想定される再剥離型に分類することができ、近年では、環境対応やリサイクルの必然性から、再剥離型粘着製品の使用量が増大している。
【0004】
再剥離型粘着製品に用いられる粘着剤は、被着体に貼付されてから長時間経過した後であっても、糊残り等の被着体汚染を起こさずに、きれいに剥離できることが要求される。このため、例えば、永久接着型の粘着剤の架橋密度を上げる、あるいは、粘着剤用ポリマーのガラス転移温度を高める、といった手段で、凝集力の向上を図れば、糊残りがなくなって再剥離性が向上すると考えられる。しかし、これらの手段では、再剥離性は向上するが、粘着力が低下してしまうという問題があった。粘着力の低下は、特に、粘着テープ・ラベルを曲面に貼り付けた時に、粘着テープ・ラベルの端部が浮いてしまうという耐曲面貼り性の低さにおいて顕著に認められる。ここで、耐曲面貼り性が良好であるとは、直径15mmのポリプロピレン製円柱(円筒でも構わない)の表面に、粘着テープを半周にわたって貼り付け、常態下で3日間放置したとき、テープの端部が浮いたり剥がれたりしないことをいう。
【0005】
このような諸問題に関して、本発明者等は種々の検討を行い、
▲1▼重合工程末期に生成する低分子量ポリマーへ架橋反応点を導入することによって、糊残りを低減する(特開2001-181347号)
▲2▼ゲル分率と膨潤率との間に一定の関係を有する粘着剤は糊残りを起こさない(特願2000-300838号)
▲3▼ブロードなTgを示す勾配組成ポリマーを合成することで、耐曲面貼り性の向上と糊残りの防止とを両立(特願2001-353516号、特願2001-353517号)
▲4▼ヒドロキシル基を利用した架橋システムを利用し、架橋反応の経時進行を防止して、耐曲面貼り性を確保する(特願2001-379030号)
等の発明を出願している。
【0006】
これらの出願に開示された発明によって、耐曲面貼り性が良好で、しかも、糊残りを起こさない粘着製品の提供に成功した。しかし、例えば、粘着テープ等の基材としてアルミニウム(Al)蒸着フィルムのようなあまり接着性の良好ではない基材を用いた場合、長期間、被着体に粘着テープを貼付した後、剥離すると、基材と粘着剤層との界面剥離が起こって、粘着剤層全体が被着体側に残存するという新たな糊残りの問題が発生した。特に、工業用マスキングテープを剥がすときのように非常に早い剥離速度で剥がされる場合に、このような糊残り現象が発生する。
【0007】
この糊残り現象、すなわち基材と粘着剤層との界面剥離現象は、粘着剤層中の凝集力確保成分として粘着剤用ポリマーに導入されているカルボキシル基が、被着体表面や表面に存在する吸着水との間に水素結合を形成して、経時的に被着体との間における粘着力を昂進させたことによる「接着昂進」が原因と考えられた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで本発明では、粘着剤用ポリマーへのカルボキシル基の導入を止めることとし、それでありながら強粘着力を示し、再剥離性に優れ、しかも耐曲面貼り性にも優れた粘着製品を得ることのできる粘着剤用ポリマーの提供を課題とするものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の第1のタイプの粘着剤組成物は、
粘着剤用ポリマーと架橋剤を必須的に含む粘着剤組成物であって、
粘着剤用ポリマーが、炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、窒素原子含有モノマーと、官能基含有モノマーとを必須成分とすると共にカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー混合物(I)から得られるものであり、
前記モノマー混合物(I)は、異なるモノマー組成のモノマー成分Aとモノマー成分Bとに分けられ、これらのモノマー成分AおよびBにはいずれも上記官能基含有モノマーが含まれており、
前記粘着剤用ポリマーは、まず、モノマー成分Aを反応器に仕込んで重合を行い、モノマー成分Aの重合開始後であって、かつ、モノマーA成分の重合率が50%を超えない時点で、前記反応器へモノマー成分Bの投入を開始して重合を行うことにより得られるものであり、
架橋剤が上記官能基含有モノマーの官能基と反応し得る官能基を分子中に2個以上有する化合物であるところに要旨を有する。
【0010】
また、第2のタイプの粘着剤組成物は、
粘着剤用ポリマーが、炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリレートと、窒素原子含有モノマーと、官能基含有モノマーとを必須成分とすると共にカルボキシル基含有モノマーを含まないモノマー混合物(I)から得られるものであり、
前記モノマー混合物(I)は、異なるモノマー組成のモノマー成分Aとモノマー成分Bとモノマー成分Cとに分けられ、これらのモノマー成分A、B、Cにはいずれも上記官能基含有モノマーが含まれており、
前記粘着剤用ポリマーは、まず、モノマー成分Aを反応器に仕込んで重合を行い、モノマー成分Aの重合開始後であって、かつ、モノマーA成分の重合率が50%を超えない時点で、前記反応器へモノマー成分Bの投入を開始し、モノマー成分Bの投入が終了して、反応器内部のモノマー成分AおよびBの重合率が80%以上になった段階で、さらに、モノマー成分Cを反応器に添加して重合を行うことにより得られるものであり、
架橋剤が上記官能基含有モノマーの官能基と反応し得る官能基を分子中に2個以上有する化合物であるところに要旨を有する。
【0011】
第1のタイプ、第2のタイプ、いずれの粘着剤組成物においても、カルボキシル基を有さない勾配組成ポリマーとしたこと、および凝集力を窒素原子含有モノマーで確保したこと、架橋反応点をポリマーにバランスよく配置させたことによって、各種粘着特性を良好なレベルに維持しつつ、経時的な糊残り(基材と粘着剤層との界面剥離)現象を抑制することに成功した。
【0012】
モノマー混合物(I)が、窒素原子含有モノマーとしてアクリロニトリルを含むことが、凝集力確保および粘着力増大のために好ましい。また、上記官能基含有モノマーがヒドロキシル基含有モノマーであり、架橋剤がイソシアネート基を有する化合物である、これらの間で架橋反応が速やかに起こるため、粘着力の経時低下を抑制することができる。
【0013】
本発明には、上記粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層が基材上に形成されてなる粘着製品も含まれる。
【0014】
【発明の実施の形態】
本発明の粘着剤組成物は、粘着剤用ポリマーの合成方法によって、第1のタイプと第2のタイプに分けられるが、粘着剤組成物の主成分である粘着剤用ポリマーの原料となるモノマー混合物(I)は共通するので、まず、モノマー混合物(I)として使用することのできる各種モノマーについて説明する。なお、「ホモポリマー」と特に断る場合以外の「ポリマー」という言葉は、コポリマーやターポリマー以上の多元共重合体を代表するものとする。
【0015】
モノマー混合物(I)には、粘着力を発現させるための(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、凝集力を付与するための窒素原子含有モノマーと、架橋点となる官能基含有モノマーとが必須成分として用いられる。
【0016】
(メタ)アクリル酸アルキルエステルとしては、アルキル基の炭素数が2〜18のものが好ましく、例えば、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル等が挙げられる。これらは1種または2種以上を用いることができる。中でも、Tgの低い、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル等が好ましい。後述する凝集力を付与するためのモノマー(高Tg)と組み合わせても、粘着剤用ポリマーとして適したTg範囲の上限を超えないからである。
【0017】
凝集力を付与するための窒素原子含有モノマーの具体例としては、N−ビニルピロリドン、N−ビニルカプロラクタム、アクリロイルモルホリン、(メタ)アクリロニトリル等や、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジブチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メトキシメチルアクリルアミド、N−エトキシエチルアクリルアミド、N−(n−ブトキシメチル)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピルメタクリルアミド、t−ブチルアクリルアミド等のアミド基含有モノマーが好ましいものとして挙げられ、これらのうち1種または2種以上を混合して用いることができる。入手しやすさ、重合性、得られるポリマーの特性等を考慮すると、アクリロニトリル、N−ビニルピロリドン、アクリルアミドが好ましい。
【0018】
官能基含有モノマーとしては、カルボキシル基を有さないモノマーを用いる。前記した接着昂進を抑制するためである。具体的には、架橋剤と反応し得る官能基を有するモノマーであれば特に限定されず、エポキシ基含有モノマー、アミノ基含有モノマー、イソシアネート基含有モノマー等も使用可能であるが、養生の時に架橋反応を完結させて、その後は粘着力の低下等の経時変化を起こさないようにするために、粘着剤用ポリマー中にヒドロキシル基を導入し、イソシアネート基を有する架橋剤と組み合わせて使用することが好ましいことから、ヒドロキシル基含有モノマーを用いることが推奨される。
【0019】
ヒドロキシル基含有モノマーの具体例としては、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸−3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸−4−ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸−2−ヒドロキシエチルのポリカプロラクトン変性物である「プラクセルF」シリーズ(ダイセル化学工業社製)等が挙げられる。中でも、アクリル酸−2−ヒドロキシエチルは安価で使用しやすい。また、アクリル酸−4−ヒドロキシブチルや「プラクセルF」を用いると、ヒドロキシル基が粘着剤用ポリマーの主鎖から離れたところ、すなわち長めの側鎖の先端に存在することとなるので、主鎖による立体障害が排除できる上に、ヒドロキシル基のモビリティが高まって、架橋剤との反応効率を向上させることができる。
【0020】
本発明の粘着剤用ポリマーを得るためのモノマー混合物(I)は、上記した(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、窒素原子含有モノマーと、官能基含有モノマーとからなるものが好ましい。(メタ)アクリル酸アルキルエステルは主成分なので、モノマー混合物(I)100質量%中、85質量%以上用いることが好ましく、窒素原子含有モノマーは1〜10質量%の範囲が好適である。窒素原子含有モノマーのより好ましい下限は2質量%で、より好ましい上限は7質量%である。官能基含有モノマーは0.05〜5質量%の範囲が好適である。官能基含有モノマーのより好ましい下限は0.1質量%である。また、窒素原子含有モノマーおよび官能基含有モノマーのいずれにおいても、上記好適範囲の下限を下回ると、凝集力不足となるおそれがある。また、上記好適範囲の上限を超えると、凝集力が高くなりすぎて、耐曲面貼り性や粘着力等の特性が低下するおそれがある。
【0021】
モノマー混合物(I)には、その他のモノマーが含まれていてもよい。その他のモノマーの具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族系モノマー;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル等が挙げられるが、特に限定されるものではない。これらのその他のモノマーは、モノマー混合物(I)100質量%中0〜20質量%とすることが好ましい。20質量%を超えると、粘着剤用ポリマーのTgが上がって硬くなるので好ましくない。
【0022】
本発明では、粘着剤用ポリマーを合成するに当たり、勾配組成のポリマーが形成されるように特殊な重合方法を採用する。本発明者等は、再剥離性を高めるためには、低速から高速までの幅広い剥離速度に対応できるように、低温から高温まで幅広い温度域で物性が変化しないか、若しくはその変化の度合いが小さい粘着剤用ポリマーが好ましいことを見出し、共重合比を少しずつ変えることによってTgが少しずつ異なるポリマーを作ることにより、ポリマーの集合体全体としてはブロードなTgやtanδを示す勾配組成ポリマーの合成に成功している(特願2000-353516号、特願2000-353517号)。本発明においても、このような考え方から、勾配組成ポリマー重合法を採用している。
【0023】
本発明の第1のタイプの粘着剤組成物に用いられる粘着剤用ポリマー(以下、第1のタイプの粘着剤用ポリマー)の重合法とは、モノマー混合物(I)を、組成の異なるモノマー成分Aとモノマー成分Bとに分け、モノマー成分Aの方は反応器へ仕込んで、少なくともモノマー成分Aの重合の開始後に、モノマー成分Bを滴下または分割投入するものである。
【0024】
モノマー成分Aの重合が開始した後に、モノマー成分Bの投入を開始することによって、モノマー成分Bの投入前は、モノマー成分Aのみからなるポリマーが形成され、投入直後はモノマー成分Aがリッチなポリマーが形成される。モノマー成分Bの添加が終了する頃にはモノマー成分Aは残り少なくなっているので、モノマー成分Bがリッチなポリマーかモノマー成分Bのみからなるポリマーが形成される。最終的に得られるポリマーは、共重合組成が少しずつ異なるポリマーの集合体となる。
【0025】
勾配組成ポリマーは、共重合組成が少しずつ異なるポリマーの集合体であるので、そのTg(tanδまたはDSC微分曲線のピーク)は、各組成のポリマーのTgが少しずつ異なるため、全体としては、均一組成のポリマーのTgに比べてブロードなものとなる。
【0026】
モノマー成分Aのみから形成されるポリマー(以下ポリマーA)とモノマー成分Bのみから形成されるポリマー(以下ポリマーB)とは非相溶となるように各モノマー成分を採用することが好ましい。均一に相溶する2種のポリマーを形成することのできる2種のモノマー成分を本発明の重合方法によって重合したところで、前記したブロードなTgを示すポリマー集合体を得ることができないからである。
【0027】
本発明の重合方法で得られるポリマーは、ポリマーAと、ポリマーBと、AとBの共重合組成が少しずつ異なる種々のポリマーとの混合物となるので、ポリマーAとポリマーBとが非相溶であっても、AとBの共重合組成が少しずつ異なる種々のポリマーの存在によって、全体として相溶した状態のポリマー(混合物)となる。具体的には、2種以上の異なる組成のポリマーに由来する複数のTgに応じたピークが重なり合って、ブロードな(シャープでない)ピークを示すポリマーとなる。つまり、本発明の重合方法によって得られる粘着剤用ポリマーは、ポリマーAとポリマーBとに、さらに、複数の勾配組成のポリマーが加わった種々の異なる組成のポリマーの集合体となり、勾配組成故に安定な相溶状態を示し、これによって本発明の目的とする再剥離性に優れた粘着剤用ポリマーとなる。なお、モノマー成分Bの滴下開始時期がモノマー成分Aの重合開始直後であればポリマーAおよび/またはポリマーBが生成しないこともあり得る。
【0028】
得られるポリマーは、完全に相溶している場合と、微視的な海島構造(ミクロドメイン構造)を採る場合とがあるが、乾燥ポリマー膜が透明であれば、いずれでも差し支えない。
【0029】
さらに、粘着剤層を形成した後に未架橋ポリマーがあると糊残りの原因となるので、モノマー成分Aとモノマー成分Bのいずれにも官能基含有モノマーを含有させておくことが好ましい。従って、モノマー成分Aとモノマー成分Bとの組成を異ならせるためには、主成分となる(メタ)アクリル酸アルキルエステルの種類と量をモノマー成分AとBとで異なるように適宜選択すればよい。
【0030】
重合に際しては、反応器にはまずモノマー成分Aを仕込んでおく必要がある。モノマー成分Aも滴下すると、勾配組成ポリマーができないためである。通常、モノマー成分Aの全てを一括して反応器へ仕込む方が簡便であるが、モノマー成分Aの重合開始前であれば、分割して仕込んでもよい。また、モノマー成分Bの投入が開始される前であれば、一旦モノマー成分Aの重合を途中で中断して、重合再開後にモノマー成分Bを添加することも可能である。
【0031】
仕込み段階でのモノマー成分Aの濃度(溶媒との混合物中のモノマー成分Aの濃度)としては、30〜80質量%が好ましい。30質量%より少ないとポリマーの分子量が上がりにくく、80質量%以上では、重合時の発熱量が大きくなって、除熱等の温度制御が難しいため好ましくない。より好ましいモノマー成分Aの濃度は40〜70質量%である。なお、モノマー成分Aの濃度は重合溶媒に応じて適宜設定変更可能である。例えば、連鎖移動が起こりやすいトルエン等を重合溶媒として用いる場合には、分子量を上げるためには、モノマー成分Aの濃度を上げることが好ましい。ただし、発熱量が上がって温度制御が難しいため、重合初期の溶剤としては連鎖移動の発生が少ない酢酸エチルを用いることが推奨される。
【0032】
モノマー成分Bの最初の投入は、反応器に仕込まれたモノマー成分Aの重合開始後であって、かつ、その重合率が50%(質量基準)を超えない時点で行う。モノマー成分Aの重合率が50%を超えてしまうと、ポリマーAが反応容器中に既にかなりの量生成しているため、モノマー成分Bの重合相手となるモノマー成分Aが相対的に少なくなって、勾配組成ポリマーを得ることができない。この意味で、モノマー成分Bの最初の投入は、モノマー成分Aの重合率が低い段階で行うことが推奨される。重合率が20%以下の段階で行うことがより好ましく、10%以下がさらに好ましく、モノマー成分Aの重合開始直後が最も好ましい。なお、重合の開始時点は、重合容器の内温を測定することにより、重合による発熱が開始した時点として計測することができる。また、還流温度で重合する場合は、重合溶媒の揮発が激しくなった時点として捉えることができる。
【0033】
一方、モノマー成分Bの投入は、3分割以上に分割投入することが好ましく、滴下が最も好ましい。Tgをブロードにするためには、反応容器内のモノマー成分Bがなくならないように、すなわちモノマー成分Bの濃度が所定量以上には減少しないように、所定の速度で添加することが好ましいからである。具体的には、反応器内のモノマー成分Bの残存量を経時的に測定してモノマー成分Bの消費速度を算出し、その消費速度から反応器内へ添加すべきモノマー成分Bの量を調整すれば、若干のタイムラグがあるが、反応器内のモノマー成分Bの存在量を一定にすることができる。
【0034】
モノマー組成の異なるモノマー成分Aとモノマー成分Bとは、お互いがそれぞれ存在していれば(いずれかが0でなければ)その比率は特に限定されないが、両者の合計量を100質量%として、モノマー成分Aを10〜90質量%、モノマー成分Bを90〜10質量%とすることが好ましい。モノマー成分Aを20〜80質量%、モノマー成分Bを80〜20質量%とすることがより好ましい。
【0035】
一方、本発明の第2のタイプの粘着剤組成物に用いられる粘着剤用ポリマー(以下、第2のタイプの粘着剤用ポリマー)の重合法とは、モノマー混合物(I)を、組成の異なるモノマー成分A、モノマー成分B、モノマー成分Cの3つに分け、モノマー成分Aの方は反応器へ仕込んで、少なくともモノマー成分Aの重合の開始後に、モノマー成分Bを滴下または分割投入し、モノマー成分Bの投入が終了して、反応器内部のモノマー成分AおよびBの重合率が80%以上になった段階で、さらにモノマー成分Cを反応器に添加して重合を行うというものである。
【0036】
重合後期に未反応モノマーを減らして重合率を高めるため、後添加重合開始剤(ブースター)を反応器内に添加する方法が知られている。ただし、後添加開始剤の添加量は残存モノマーを極力減らすために、通常、残存モノマー量に対して過剰量であるため、重合後期に生成するポリマーは低分子量となって、糊残りの原因となりやすい。この第2のタイプの重合法では、主に官能基含有モノマーからなるモノマー成分Cを後添加開始剤と共に反応器へ添加して、低分子量ポリマーへ官能基を導入することにより、粘着剤層の中の低分子量ポリマーを架橋剤で確実に架橋させ、糊残りを防ぐものである。この意味で、モノマー成分Cは、反応器内のモノマー成分AおよびBの重合率が80%以上になった段階で、反応器に投入する必要がある。モノマー成分Cの投入時期は、重合率85%以上の段階が好ましく、重合率90%以上の段階がさらに好ましい。
【0037】
第2のタイプの粘着剤用ポリマーを重合する際のモノマー成分Aとモノマー成分Bの組成、投入時期、量比等の各条件は、第1のタイプの粘着剤用ポリマーを重合する場合と変わりなく行うことができる。モノマー成分Cについては、一部、他のモノマーを含んでいてもよいが、低分子量ポリマーに官能基を導入する趣旨から言えば、官能基含有モノマーのみからなるものであることが好ましく、前記したようにヒドロキシル基含有モノマーが最も好ましい。
【0038】
モノマー成分Cの量は、重合後期に添加するのでなるべく少ないことが好ましく、モノマー成分A〜Cの合計量100質量%中、0.1〜4.0質量%が好ましい。0.1質量%より少ないと添加効果が発揮されず、低分子量ポリマーへの官能基導入量が不充分となるおそれがある。また例えばヒドロキシル基含有モノマーのみをもの成分Cとして用い、これを4.0質量%を超えて添加すると、ヒドロキシル基含有モノマーのホモポリマーが生成するため、勾配組成ポリマーとの相溶性が低下して得られるポリマーが白濁するおそれがある。より好ましい下限は0.2質量%、上限は2質量%である。
【0039】
第1のタイプ、第2のタイプ、いずれの粘着剤用ポリマーの場合も、重合は、有機溶剤中で、いわゆる溶液重合によって行う。溶液重合法は、重合時の重合熱の除去が容易であり、操業性が良いからである。溶媒の具体例としては、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;酢酸エチル、酢酸ブチル等の脂肪族エステル類;シクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;ヘキサン、ペンタン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられるが、上記重合反応を阻害しなければ、特に限定されない。これらの溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を便宜混合して用いてもよい。なお、溶媒の使用量は、適宜決定すればよい。
【0040】
重合開始剤としては、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルパーオキシオクトエート、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ラウロイルパーオキサイド、商品名「ナイパーBMT−K40」(日本油脂社製;m−トルオイルパーオキサイドとベンゾイルパーオキサイドの混合物)等の有機過酸化物や、アゾビスイソブチロニトリル、商品名「ABN−E」[日本ヒドラジン工業;2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)]等のアゾ系化合物等の公知のラジカル重合開始剤を利用することができる。
【0041】
重合開始剤は、モノマー成分A用とモノマー成分B用、さらに第2のタイプの場合はモノマー成分C用が必要であり、モノマー成分A用のものは反応器に仕込み、モノマー成分B用およびモノマー成分C用のものはそれぞれのモノマー成分B・Cを添加する際に一緒に添加するとよい。各モノマー成分A〜C用の重合開始剤は同種のものでも異種のものでもよく、いずれにおいても2種類以上の開始剤を混合して使用してもよい。また、第1のタイプの粘着剤用ポリマーを合成する場合には、モノマー成分Cを添加しないため、モノマー成分Bの添加が終了した後に単独で後添加開始剤を添加してもよい。開始剤量は合計で、モノマーの質量に対して、0.01〜1質量%となるように使用することが好ましい。あまり多いと、粘着特性の優れた高分子量のポリマーが得られないことがある。粘着特性の点からは、粘着剤用ポリマー全体としての重量平均分子量Mwは20万以上が好ましく、30万以上がより好ましい。上限は特に限定されないが、溶液重合では200万を超えるポリマー合成は難しいため、200万以下が好ましく、100万以下がより好ましい。
【0042】
重合温度や重合時間等の重合条件は、例えば、各モノマー成分の組成や、重合溶媒、重合開始剤の種類、あるいは、得られる粘着剤用ポリマーの要求特性、粘着剤の用途等に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。また、反応圧力も特に限定されるものではなく、常圧(大気圧)、減圧、加圧のいずれであってもよい。なお、重合反応は、窒素ガス等の不活性ガスの雰囲気下で行うことが望ましい。
【0043】
上記重合方法では、連鎖移動剤として働く多価メルカプタンの使用は好ましくない。多価メルカプタンを使用すると、メルカプト基部分から重合が始まっていわゆる星形ポリマーが形成されるため、本発明で目的とする分子鎖が長くて高分子量で、しかも勾配組成を有するポリマーが得られにくく、再剥離性や耐曲面貼り性を満足する粘着剤を得ることが難しいためである。特に、種々の剥離速度において良好な粘着特性を発揮する粘着剤用ポリマーを得るためには、多価メルカプタンの使用は好ましくない。もちろん、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、例えば重合速度を調節する目的でメルカプタン化合物を使用しても構わない。この場合のメルカプタン化合物の使用量の目安としては、モノマー混合物(I)の全量に対し、0〜0.004質量%にとどめておくことが好ましい。より好ましい上限は0.002質量%、さらに好ましくは0.001質量%である。
【0044】
ポリマーA(モノマー成分Aのみから形成されるポリマー)とポリマーB(モノマー成分Bのみから形成されるポリマー)は、いずれか一方のポリマーのTgが−70〜−30℃となるように、各モノマー成分のモノマー組成を選択することが好ましい。Tgがこの温度範囲であれば、常温(23℃)で良好な粘着力を示すためである。また、このとき、他方のポリマーは、前記ポリマーのTgと10℃以上差があることが好ましい。両者のTgの差が広ければ広いほど、勾配組成ポリマーとなったときのTgが幅広くブロードになって、広い温度範囲で良好な粘着特性を示すからである。ただし、他方のポリマーのTgが+30℃を超えるようになると、得られる勾配組成ポリマーの常温での粘着力が低下してしまうので、+30℃以下になるようにモノマー成分組成を選択することが好ましい。Tgの低い方のポリマーを構成するモノマー成分はAであってもBであってもよい。なお、モノマー成分Cは少量であり、前記したように低分子量ポリマーに官能基を導入するために用いられるため、Tgは系内に残存しているモノマーによって変わってくるため、特に限定されない。
【0045】
ポリマーのTgはDSC(示差走査熱量測定装置)、DTA(示差熱分析装置)、TMA(熱機械測定装置)によって求めることができるが、ホモポリマーのTg(K)とモノマーの質量分率から、下記計算式を用いて求めることもできるので、この計算値を目安にして、各モノマー成分のモノマー組成を決定することが好ましい。
(1/Tg)=(W1/Tg1)+(W2/Tg2)+…+(Wn/Tgn)
【0046】
式中、Tgはガラス転移温度(K)を示し、W1、W2、…Wnは、各モノマーのモノマー成分中での重量分率を示し、Tg1、Tg2、…Tgnは、対応するモノマーのホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す。なお、ホモポリマーのTgは、「POLYMER HANDBOOK」(第4版;John Wiley & Sons, Inc.発行)等の刊行物に記載されている数値を採用すればよい。
【0047】
次に、本発明の粘着剤組成物の具体例について説明する。本発明の粘着剤組成物は、第1のタイプまたは第2のタイプの粘着剤用ポリマー(以下、単に「粘着剤用ポリマー」とする)と架橋剤を含むものである。
【0048】
粘着剤用ポリマーを架橋するための架橋剤としては、前記官能基含有モノマーの有する官能基であって粘着剤用ポリマーに導入された官能基との反応性を有する官能基を1分子中に2個以上有する化合物を用いることができる。このような官能基としては、イソシアネート基、エポキシ基、アミノ基、メチロール基、アルコキシメチル基、イミノ基、金属キレート基、アジリジニル基等が挙げられるが、粘着剤用ポリマーがヒドロキシル基を有している場合は、分子中にイソシアネート基を2個以上有する多官能イソシアネート化合物を架橋剤として用いることが好ましい。
【0049】
イソシアネート基を2個以上有する多官能イソシアネート化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、メタキシリレンジイソシアネート、1,5−ナフタレンジイソシアネート、水素化ジフェニルメタンジイソシアネート、水素化トリレンジイソシアネート、水素化キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等のジイソシアネート化合物;「スミジュールN」(住友バイエルウレタン社製)等のビュレットポリイソシアネート化合物;「デスモジュールIL」、「デスモジュールHL」(いずれもバイエルA.G.社製)、「コロネートEH」(日本ポリウレタン工業社製)等として知られるイソシアヌレート環を有するポリイソシアネート化合物;「スミジュールL」(住友バイエルウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物;「コロネートL」および「コロネートL−55E」(いずれも日本ポリウレタン社製)等のアダクトポリイソシアネート化合物等を挙げることができる。これらは、単独で使用し得るほか、2種以上を併用することもできる。また、これらの化合物のイソシアネート基を活性水素を有するマスク剤と反応させて不活性化したいわゆるブロックイソシアネートも使用可能である。
【0050】
架橋剤の使用量としては、粘着剤用ポリマー(固形分)に対し、架橋剤を0.1〜1質量%とすることが好ましい。0.1質量%よりも少ないと、架橋が不充分となって架橋密度が低く、凝集力不足となることがある。1質量%を超えると、架橋密度が高くなり過ぎて、耐曲面貼り性、粘着力等の特性が低下するおそれがある。
【0051】
上記粘着剤用ポリマーと架橋剤を必須成分とする粘着剤組成物を各種用途に応じた形態にした後、架橋反応させることにより本発明の粘着製品が得られる。粘着剤組成物には、粘着剤用ポリマー以外に、必要により、粘着付与剤が配合されていてもよい。粘着付与剤としては、(重合)ロジン系、(重合)ロジンエステル系、テルペン系、テルペンフェノール系、クマロン系、クマロンインデン系、スチレン樹脂(オリゴマー)系、キシレン樹脂系、フェノール樹脂系、石油樹脂系等が挙げられる。これらは1種または2種以上組み合わせて使用できる。これらの中でも、カルボキシル基の少ない粘着付与剤が接着昂進を抑制するため好ましく、特に、スチレン系オリゴマーの「FTR6100」(三井化学社製;軟化点96〜97℃、酸価1未満)が好適である。
【0052】
粘着付与剤の量は、特に限定されないが、粘着剤用ポリマー100質量部に対して、通常、5〜100質量部とするのが好ましい。粘着付与剤の添加量が5質量部より少ないと、粘着付与剤による粘着力向上効果が発揮されないことがある。一方、上記粘着付与剤の添加量が100質量部より多いと、逆にタックが減少して粘着力が低下するおそれがある。10〜50質量部の範囲内がさらに好ましい。
【0053】
粘着剤組成物には、さらに、必要に応じて、通常配合される充填剤、顔料、希釈剤、老化防止剤、紫外線吸収剤、紫外線安定剤等の従来公知の添加剤を添加してもよい。これらの添加剤は、1種類または2種以上、使用可能である。これらの添加剤の添加量は、所望する物性が得られるように適宜設定すればよい。
【0054】
粘着剤用ポリマーと前記架橋剤、必要により、上記各種添加剤、溶剤等を混合して調製された粘着剤組成物は、例えば、粘着シート、粘着ラベル、粘着テープ、両面テープ等の各種粘着製品の製造に好適に用いることができる。このような粘着製品は、基材レスで、または基材に粘着剤組成物の層を形成し、架橋反応させることにより製造される。
【0055】
基材としては、上質紙、クラフト紙、クレープ紙、グラシン紙等の従来公知の紙類;ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリスチレン、ポリエチレンテレフテレート、ポリ塩化ビニル、セロファン等のプラスチックあるいはこれらのプラスチックにAl等の金属蒸着膜を形成したもの;織布、不織布等の繊維製品等を利用できる。基材の形状は、例えば、フィルム状、シート状、テープ状、板状、発泡体等が挙げられるが、特に限定されるものではない。基材の片面に粘着剤組成物を公知の方法で塗布することによって、粘着シート、粘着テープ、粘着ラベル等を得ることができる。また、紙、合成紙、プラスチックフィルム等のシート状物に離型剤が塗布されている離型紙等に粘着剤組成物を塗布することにより、基材レス(単層構造)の粘着剤層が得られ、基材レスの両面テープとして使用することができる。また、上記基材の両面に同種または異種の粘着剤組成物を塗布して、両面テープとしてもよい。
【0056】
粘着剤組成物を基材に塗布する方法は、特に限定されるものではなく、ロールコーティング法、スプレーコーティング法、ディッピング法等の公知の方法を採用することができる。この場合、粘着剤組成物を基材に直接塗布する方法、離型紙等に粘着剤組成物を塗布した後、この塗布物を基材上に転写する方法等いずれも採用可能である。
【0057】
粘着剤組成物を塗布した後、乾燥させることにより、基材上に粘着剤層が形成される。乾燥温度は、特に限定されるものではない。なお、用途によっては、粘着剤組成物を被着体に直接、塗布してもよい。粘着剤層が形成された粘着製品は、養生することが好ましい。実際の養生条件は、保持力試験の際の条件と同じである必要はなく、適宜、温度・湿度・時間を定めて行えばよい。養生後の特性の経時変化を抑制するためには、加湿下で養生させて架橋反応を促進することが望ましい。
【0058】
基材上に形成された粘着剤層の表面には、例えば、離型紙を貼着してもよい。粘着剤層表面を好適に保護・保存することができる。剥離紙は、粘着製品を使用する際に、粘着剤層表面から引き剥がされる。なお、シート状やテープ状等の基材の片面に粘着剤層が形成されている場合は、この基材の背面に公知の離型剤を塗布して離型剤層を形成しておけば、粘着剤層を内側にして、粘着シート(テープ)をロール状に巻くことにより、粘着剤層は、基材背面の離型剤層と当接することとなるので、粘着剤層表面が保護・保存される。
【0059】
【実施例】
以下実施例によって本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれら実施例のみに限定されるものではない。なお以下特にことわりのない場合、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」をそれぞれ示すものとする。
【0060】
合成例1(粘着剤用ポリマー溶液A1の合成)
温度計、撹拌機、不活性ガス導入管、還流冷却器および滴下ロートを備えた4つ口フラスコに、アクリル酸エチル(EA)116.04部、アクリル酸ブチル(BA)116.04部、アクリロニトリル(AN)7.2部およびアクリル酸2−ヒドロキシエチル(HEA)0.72部とからなるモノマー成分Aと、酢酸エチル196.4部を加えて昇温し、80℃になったところで過酸化物系開始剤(ナイパーBMT−K40:日本油脂社製)を0.48部を添加して重合を開始した。モノマー成分Aの重合開始(重合率10%未満)と同時に、BA348.12部、AN10.8部およびHEA1.08部からなるモノマー成分Bと、ナイパーBMT−K40を0.72部、および酢酸エチル60.7部を1時間半かけて滴下し、重合反応を続けた。モノマー成分Bの滴下が終了してから1時間後に、反応物の粘度が上昇してきたので、希釈溶剤として酢酸エチルを390部添加した。
【0061】
さらに2時間後に、後添加開始剤としてアゾ系重合開始剤(ABN−E:日本ヒドラジン工業社製)を1.8部と酢酸エチル40部を添加し、さらに4時間反応を続けた。重合終了時にトルエン212部を加えて希釈した。その結果、固形分38.3%、粘度35.3Pa・s(25℃、B型粘度計、以下同様)、重量平均分子量65.9×104(GPC測定:標準ポリスチレン換算)の粘着剤用ポリマー溶液(A1)を得た。
【0062】
なお、GPCによる分子量測定条件は以下の通りである。
GPC測定装置:Liquid Chromatography Model 510 (Waters社製)
検出器:M410示差屈折計
カラム:Ultra Styragel Linear(7.8mm×30cm)
Ultra Styragel 100A (7.8mm×30cm)
Ultra Styragel 500A (7.8mm×30cm)
溶媒:THF(テトラヒドロフラン)
試料濃度は0.2%、注入量は200マイクロリットル/回とした。
【0063】
合成例2〜3(粘着剤用ポリマー溶液A2〜A3の合成)
モノマー組成を表1に示したように変更し、後添加開始剤の添加と同時にモノマー成分CとしてHEAを一度に添加した以外は合成例1と同様に重合を行い、粘着剤用ポリマー溶液A2〜A3を得た。なお、いずれの合成例においても、モノマー成分Cと後添加開始剤を添加する直前の重合率は90%を超えていた。
【0064】
比較合成例1〜2(比較用粘着剤用ポリマー溶液B1〜B2の合成)
モノマー組成を表1に示したように変更した以外は合成例1と同様に重合を行い、比較用粘着剤用ポリマー溶液B1を得た。また合成例2と同様にして比較用粘着剤用ポリマー溶液B2を得た。
【0065】
【表1】
【0066】
実験No.1
粘着剤ポリマー溶液A1に、ポリマー固形分100部に対し、テルペンフェノール系粘着付与剤(「タマノル901」;荒川化学工業社製;軟化点120〜135℃;酸価60〜90)を20部添加してから、トルエンで固形分を35%に調整してから、この溶液100部に対し、コロネートL55E(日本ポリウレタン社製のポリイソシアネート化合物:固形分55%)を1.0部配合してよく混合し、粘着剤組成物を作製した。この組成物を用いて、後述する方法に従い粘着力試験を行った。結果を表2に示す。
【0067】
実験No.2〜9
粘着剤ポリマー溶液の種類、粘着付与剤の種類と量、架橋剤量を表3および表4に示すように変更した以外は実験No.1と同様にして粘着剤組成物を作製し、性能を評価した。結果を表2〜3に示す。なお、粘着付与剤であるFTR6100は、スチレン系オリゴマー(三井化学社製;軟化点96〜97℃;酸価1未満)である。
【0068】
実験No.10〜13
比較用粘着剤用ポリマー溶液の種類、粘着付与剤の種類と量、架橋剤量を表4に示すように変更した以外は実験No.1と同様にして粘着剤組成物を作製し、性能を評価した。結果を表4に示す。
【0069】
[試験片の作成方法]
基材としてAl蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(厚さ25μm;以下、Al蒸着PETフィルムと略す)を用い、粘着剤組成物を乾燥後の厚さが35μmとなるように塗布した後、100℃で3分間乾燥させた。その後、粘着剤表面に離型紙(サンエー化研株式会社製、商品名K−80HS)を貼着して保護した後、温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で7日間養生し、粘着フィルム(粘着製品)を得た。この粘着フィルムを所定の大きさに切断して、試験片を作製した。なお、離型紙は各種測定試験を実施する際に引き剥がした。
【0070】
[保持力の測定方法]
温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、JIS G 4305に規定されるステンレス鋼板(SUS304:以下「SUS板」と記す)に、2kgのゴムローラを3往復させて粘着フィルムを貼着する。貼付面積は25mm×25mmである。このサンプルを25分間放置した後、40℃の恒温機に入れて、鉛直に吊り下げる。20分間経過した後、粘着フィルムに9.8Nの重りを掛ける。従って、負荷は、1.568N/cm2となる。荷重を掛けて、SUS板から粘着フィルムが落下するまでの時間、または14時間後のズレ距離を測定した。NCとあるのは、全くズレなかったものである。
【0071】
[初期粘着力の測定方法]
幅25mm、適宜長さに切り取った粘着フィルムを用意し、23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、2kgのゴムローラを3往復させることで前記SUS板に粘着フィルムを圧着した。圧着してから25分後に、引張試験機で、速度300mm/分で、粘着フィルムを180゜方向に引っ張ってSUS板から剥離させた時の強度を測定し、この剥離強度を初期(20分後)粘着力(N/cm)とした。
【0072】
[常態24時間後粘着力の測定方法]
初期粘着力測定と同様にしてSUS板に粘着フィルムを貼着し、温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下に24時間放置し、その後、初期粘着力測定と同様にして引張試験を行って、剥離強度を測定した。この値を常態24時間後粘着力(N/cm)とした。
【0073】
[加熱促進後の粘着力の測定方法]
初期粘着力測定と同様にしてSUS板に粘着フィルムを貼着し、70℃で7日間放置した後、23℃、相対湿度65%の雰囲気下で1時間放置し、初期粘着力測定と同様にして引張試験を行って、剥離強度を測定した。この値を加熱促進後(7日後)の粘着力(N/cm)とした。
【0074】
[糊残り性評価]
上記の初期粘着力、常態粘着力および加熱促進後の粘着力の測定に際し、下記基準に従って粘着剤の糊残り性を評価した。
○:粘着剤の跡が全く残らない
△:部分的に被着体に転写
×:全面的に被着体に転写
【0075】
[再剥離性]
初期粘着力測定と同様にして、SUS板に粘着フィルムを貼着した。貼着してから80℃で24時間放置したものについて、粘着フィルムをSUS板に対し90°方向に手で素早く剥がした。このときの糊残り状態を上記基準に従って評価した。
【0076】
[耐エッジリフト性(耐曲面貼り性)]
温度23℃、相対湿度65%の雰囲気下で、ポリプロピレン製の円柱(直径15mm)の円周に沿って、半周分の長さに相当する幅10mmの試験片(ラベル)を貼り付け、3日後にラベルの浮き状態を観察した。浮き状態は、図1に示した基準で判断した。
【0077】
【表2】
【0078】
【表3】
【0079】
【表4】
【0080】
表2〜3から、本発明の粘着剤組成物から得られる粘着製品は、保持力、粘着力、再剥離性、耐エッジリフト性(曲面貼り性)の全てがバランス良く良好であることが分かる。しかし、カルボキシル基を有するポリマー溶液B1〜B2を用いた粘着剤では、特に、加熱7日後の粘着力や高速再剥離性をチェックしたときの破壊状態が、一部または全面における基材との間の界面破壊であり、被着体汚染が起こっていた(表4)。
【0081】
【発明の効果】
本発明の粘着剤組成物は、特定組成および特定の重合方法を利用した粘着剤用ポリマーを主成分とするので、被着体を汚染せずに再剥離が可能であり、しかも、耐曲面貼り性に優れ、強粘着力を示す粘着製品を得ることができた。
【図面の簡単な説明】
【図1】耐エッジリフト性の評価基準を示す図である。
Claims (5)
- 粘着剤用ポリマーと架橋剤を必須的に含む粘着剤組成物であって、
粘着剤用ポリマーが、異なるモノマー組成のモノマー成分Aとモノマー成分Bから得られるものであり、
モノマー成分Aとモノマー成分Bとを混合した場合に得られるモノマー混合物(I)は、炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、窒素原子含有モノマーと、ヒドロキシル基含有モノマーとを必須成分とすると共に、カルボキシル基含有モノマーを含まず、
前記モノマー成分AおよびBにはいずれも前記ヒドロキシル基含有モノマーが含まれており、
前記粘着剤用ポリマーは、まず、モノマー成分Aを反応器に仕込んで溶液重合を行い、モノマー成分Aの重合開始後であって、かつ、モノマーA成分の重合率が50%を超えない時点で、前記反応器へモノマー成分Bの投入を開始して溶液重合を行うことにより得られるものであり、
架橋剤がヒドロキシル基と反応し得る官能基を分子中に2個以上有する化合物であることを特徴とする粘着剤組成物。 - 粘着剤用ポリマーと架橋剤を必須的に含む粘着剤組成物であって、
粘着剤用ポリマーが、異なるモノマー組成のモノマー成分Aとモノマー成分Bとモノマー成分Cとから得られるものであり、
モノマー成分Aとモノマー成分Bとモノマー成分Cとを混合した場合に得られるモノマー混合物(I)は、炭素数2〜18のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステルと、窒素原子含有モノマーと、ヒドロキシル基含有モノマーとを必須成分とすると共に、カルボキシル基含有モノマーを含まず、
前記モノマー成分A、B、Cにはいずれも前記ヒドロキシル基含有モノマーが含まれており、
前記粘着剤用ポリマーは、まず、モノマー成分Aを反応器に仕込んで溶液重合を行い、モノマー成分Aの重合開始後であって、かつ、モノマーA成分の重合率が50%を超えない時点で、前記反応器へモノマー成分Bの投入を開始し、モノマー成分Bの投入が終了して、反応器内部のモノマー成分AおよびBの重合率が80%以上になった段階で、さらに、モノマー成分Cを反応器に添加して溶液重合を行うことにより得られるものであり、
架橋剤がヒドロキシル基と反応し得る官能基を分子中に2個以上有する化合物であることを特徴とする粘着剤組成物。 - モノマー混合物(I)が、窒素原子含有モノマーとしてアクリロニトリルを含む請求項1または2に記載の粘着剤組成物。
- 架橋剤がイソシアネート基を有する化合物である請求項1〜3のいずれかに記載の粘着剤組成物。
- 請求項1〜4のいずれかに記載の粘着剤組成物を架橋させた粘着剤層が基材上に形成されてなることを特徴とする粘着製品。
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