JP3794048B2 - 溶銑の脱珪処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、銑鉄製造炉から出銑された溶銑の脱珪処理方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
高炉から出銑された溶銑は、その成分組成や生産鋼種に応じて、いろいろの予備処理が施されている。溶銑に含まれている元素の中には、次工程の製鋼工程における精錬効率や鋼の品質に大きな影響を及ぼすものがあり、溶銑段階で除去しておく必要があるものがある。特に、脱珪処理は、あとに続く脱燐処理の効率を高めるために、必須である。脱燐処理や脱硫処理では、溶銑に対し目的に応じたフラックスを吹込むので、処理により温度が低下する。処理開始前の溶銑温度が低いと、脱燐や脱硫処理が完了する前に温度の下限値に達してしまい、十分な処理ができない。したがって脱珪と同様に溶銑温度も重要である。脱珪処理は、通常、高炉鋳床で行われる。例えば、鉄と鋼,71(1985),S915.には、樋を流れる溶銑上に酸化鉄を投射する脱珪方法が示されている。また、鉄と鋼,68(1982),S949.には、樋を流れる溶銑上に酸化鉄を投入し、さらに、溶銑の自然落下エネルギーを利用して反応させる脱珪方法が示されている。
【0003】
しかしながら、これらの方法では、酸化鉄を用いているため、スラグフォーミングが激しく、必要量以上の酸化鉄を溶銑に供給できず、脱珪量が不十分になるという問題があった。また、酸化鉄の分解熱により溶銑温度の低下が大きくなるという問題も生じていた。
また、特公昭58−27322号公報には、高炉鋳床場を流下する溶銑に転炉滓を添加すると同時に気体酸素を吹き付け、脱珪する方法が示されている。さらに、特開昭55−154516号公報には、高炉鋳床に精錬槽を設置し、該精錬槽内で脱珪剤とともに空気または酸素を吹き込み脱珪する方法が開示されている。しかしながら、これらの方法では、出銑樋上あるいは鋳床上に設けた槽内で気体酸素を吹き付けるため、容器の底や樋へ酸素が到達することや、溶銑上で発生するCOガスと酸素が発熱反応を起こし、吹き付けた酸素量当たりの脱珪量が高くないという問題もあった。
【0004】
上記した問題に対し本発明者らは、先に特願平7−243297号として、溶銑の脱珪処理方法を提案した。この発明は、高炉から出銑された溶銑を受銑容器に受けるまでの間に、溶銑落下流に酸素を吹き付けることを特徴とするものである。
この方法によれば、溶銑の自由落下流に酸素ガスを吹き付けるので、溶銑表面に乱れを生じ、それが反応界面積の増大をもたらし脱珪酸素効率の飛躍的向上が達成されたが、さらに実験を重ねていくうちに、時として著しいスプラッシュが発生し、操業に支障をきたすという問題が新たに見い出された。
【0005】
たとえば、溶銑樋から傾注樋への落下流に酸素ガスを吹き付けた場合には、スプラッシュが傾注樋の傾動装置に付着し、傾動操作に支障をきたすことがあった。また、傾注樋から受銑容器への落下流に酸素ガスを吹き付けた場合には、スプラッシュが受銑容器外に飛散し、受銑容器の受銑口周辺に付着したり、溶銑歩留りが低下することがあった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した問題を有利に解決し、耐火物に大きな損耗を与えることなく、溶銑温度の低下の小さく、しかもスプラッシュの飛散が少なく安定した操業が可能である効率的な溶銑の脱珪処理方法を提供することを目的とする。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明は、銑鉄製造炉から出銑された溶銑を受銑容器に受けるまでの間に、溶銑落下流に酸化性ガスを吹き付ける溶銑の脱珪処理方法において、前記溶銑落下流と前記酸化性ガス流とのなす角度が60度以下であることを特徴とする溶銑の脱珪処理方法であり、前記酸化性ガスは酸素が好適である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明では、銑鉄製造炉から出銑された溶銑が落下するときの落下流へ、吹き付けノズルから酸化性ガスを吹き付ける。本発明を実施するときに用いる溶銑の脱珪処理装置の一例を図1に示す。溶銑1は出銑樋2を通って傾注樋3から受銑容器(トピードカー)4へ落下する。図1では、出銑樋2から傾注樋3への落下流5および傾注樋3から受銑容器(トピードカー)4への落下流5にガスを吹き付けている。しかし、酸化性ガスの吹き付け位置はこれに限定されるものではない。例えば、傾注樋を用いないで出銑樋から直接受銑容器へ落下する場合でも、その溶銑落下流へ酸化性ガスを吹き付けてもよい。
【0009】
銑鉄製造炉としては、一貫製鉄所においては現在高炉が主流であるが、本発明では特にこれに限定するものではなく、キュポラ等の各種の竪型炉、転炉型の鉄浴式炉、電気炉など、脱珪処理を必要とする溶銑を製造する冶金炉すべてが好適に適用できる。
酸化性ガスとしては、脱炭反応を極力抑制して脱珪反応を優先させる趣旨から、酸素ガスを用いるのが好ましい。
【0010】
吹き付けられた酸素ガスは、溶銑表面あるいは溶銑中でSi、Mn、C、Feと次のような反応を起こす。
Si + 1/2O2 → (SiO2 ) ………(1)
Mn + 1/2O2 → (MnO) ………(2)
C + 1/2O2 → CO ………(3)
Fe + 1/2O2 → (FeO) ………(4)
また、(4)式で発生したFeOは、トピードカー4内に落下したのち、攪拌流に巻き込まれ、さらに、つぎの(5)、(6)、(7)の反応が起こる。
Si + FeO → (SiO2 )+2Fe ………(5)
Mn + FeO → (MnO) + Fe ………(6)
C + FeO → CO + Fe ………(7)
これらの反応により、溶銑中のSiは低下する。
【0011】
溶銑表面で反応しない酸素ガスの一部は、発生したCOガスと反応してCO2 を生じる。残りの酸素ガスは反応に寄与しない。このようにして、発生した高温のガスは、直接耐火物に接触することがないので、耐火物に大きな損耗を引き起こさない。
従来から行われている固体酸素源のみを用いた脱珪処理では、(5)〜(7)の反応が起こるが、酸化鉄の分解反応((FeO)→Fe+O)の反応が吸熱反応であるために、溶銑温度の低下が大きくなる。さらに固体酸素源の顕熱分の溶銑温度の低下が起こる。
【0012】
一方、酸素ガスを用いた場合の(1)〜(4)は発熱反応であり、顕熱も小さいことから、溶銑温度の低下は起こらず、むしろ処理の前後で溶銑温度が上昇する。
本発明では、溶銑落下流に吹き付けるので、溶銑単位体積当たりの比表面積が大きくなり、酸素との反応界面積が増加し、脱珪量も増し、酸素の利用効率が高くなる。さらに、落下流への酸素ガスの吹き付けの強さを強くするにつれ、落下流が乱れて反応界面積が大きくなり、脱珪量が増す。
【0013】
脱珪量は、次の(8)式で定義する、脱珪酸素効率で評価する。
ηSi 0 (%)=〔脱珪量(%)×1000(kg/t・p)×22.4(kmol/Nm3)/28(kg/kmol)〕/酸素ガス原単位(Nm3 /t・p)………(8)
溶銑表面の乱れの程度は、酸素ガスが溶銑表面に当たる部分における『酸素ガスの慣性力』と『溶銑の慣性力』の比、すなわち、
P=(ρg ・vg 2 )/(ρM ・vM 2 ) ………(9)
で定義されるP値で表される。ここに、ρg :酸素ガスの密度(kg/m3 )、vg :酸素ガスの速度(m/s)、ρM :溶銑の密度(kg/m3 )、vM :溶銑の速度(m/s)である。溶銑流量が一定ならば、(9)式のP値、すなわち、酸素ガス吹き付けの程度による溶銑表面の乱れは、ρg ・vg 2 の変化に依存する。そこで、Fg =ρg ・vg 2 と定義した。
【0014】
なお、ρg は、ρg =1.43(kg/Nm3 )×〔ガス温度(K)/273〕で計算し、ガス温度は100℃を用いる。vg は、ノズル吐出後の広がりにより速度分布をもつが、ここでは、ノズルの中心軸上の速度で代表した。なお、ノズルの形状によるガス速度は、文献(石垣 博:日本機械学会論文集(B編),48,433,P1692)に記載された式、
vg =√(λ/a×d/x)×vg0、 λ=0.9 ………(10)
を用いて計算する。ここに、d:スリットノズルの幅(m)、または、ノズル直径(m)、x:ノズル先端〜溶銑表面間距離(m)、vg0:酸素ガスのノズル吐出速度(m/s)、a:ノズル形式による定数。
【0015】
脱珪酸素効率を高めるためには、酸素ガスの吹き付けを強くすれば良い。すなわち、Fg 値を増加すればよい。Fg 値は3000以上とすることが好ましく、ηSi 0 が飛躍的に向上する。
酸化性ガスとしては、酸素ガス以外にも酸素含有ガスあるいはCO2 などの酸化性を有するガス、あるいはこれらの混合ガスを、脱珪効率を損なわない範囲で使用してもよく、さらには各種フラックスを併用することも妨げるものではない。
【0016】
酸化性ガス吹き付け方法は、とくに限定しないが、単孔ノズル、多孔ノズル、スリットノズルや、落下流を囲むようなノズルで吹き付けてもよい。
また、落下流の高さ方向にノズルを複数個設置してもよい。
ノズルと溶銑落下流間の距離は、酸素の流量、ノズルの形状により変化させる必要があり、溶銑に有効に吹き付けるためには、0.3〜1.0mが好ましい。また、傾動樋から受銑容器の間で酸化性ガスを吹き付ける場合には、ガスの吹き付け位置は、受銑容器から上方に0.2〜1.0mの位置が望ましい。
【0017】
0.2mよりも下方にすると、トピード受銑口の周辺の耐火物が損耗する。また、1.0mを超えると、受銑口周辺に地金付着が見られた。
本発明では、溶銑の落下流と酸素ガス(酸化性ガス)流とのなす角度(θ)を60度以下とする。
溶銑に酸素ガスを吹き付けた場合、酸素ガスの慣性力およびC+1/2O2 (g)→CO(g)の反応によって生ずるCOガスにより、溶銑のスプラッシュが発生する。図3にスプラッシュ発生の模式図を示す。
【0018】
落下流5と酸素ガスの吹き付けガス流7のなす角度(θ)によって溶銑スプラッシュ11の飛散方向が変化する。溶銑流量8t/mim、酸素ガス原単位2Nm3 /t−pで落下流5に酸素ガスの吹き付けガス流7を、溶銑流と酸素ガス流とのなす角度θを変化して吹き付けたときの角度θと、スプラッシュ量の関係を図2に示す。ここに示すスプラッシュ量は、酸素ガス吹き付け位置から下方1m、右方1mの位置に一辺0.5mの正方形スプラッシュ採取板15を設置し、10分間に採取したスプラッシュ量である。
【0019】
スプラッシュ量は、溶銑流と酸素ガス流とのなす角度θが60°を超えると急激に増加する。図4に示すように、θが60°以下であれば、スプラッシュ飛散方向が下向きとなる。また、θが60°を超えると、スプラッシュが上向き方向にも飛散するようになり、傾注樋、受銑容器の外に飛散するため、周囲の装置に付着したり、溶銑歩留りの低下となる。このため、溶銑流と酸化性ガス流とのなす角度は60°以下とした。
【0020】
なお、溶銑流と酸化性ガス流とのなす角度は、自由落下の計算で求めた溶銑落下軌跡と酸化性/ガス吹き付け位置より求められる。
溶銑落下軌跡は、出銑速度と落下開始位置での溶銑流断面積より求められる。なお、酸化性ガス流は、ノズルから噴き出す際に、図3に示すようにある程度の広がりを持つことは避けがたいが、ガス流の中心軸と落下流のなす角度が60°以下、好ましくは20°以上であれば、本発明の目的は好適に達成される。
【0021】
【実施例】
内容積4500m3 の高炉で、溶銑樋と傾注樋の間に溶銑の脱珪処理設備を設置し、37mmφ(内径)の単孔ノズルにより、落下流と酸素ガス流とのなす角度θを変化し、落下流に酸素ガスを吹き付け、脱珪処理を実施した。その結果を表1に示す。
【0022】
【表1】
【0023】
本発明範囲の実施例1〜3は、脱珪量も多く、脱珪酸素効率も高く、さらにスプラッシュの飛散に起因する傾動装置の故障は発生しなかった。また、地金取作業頻度も1回/月で少ない。これに対し、本発明範囲外の比較例1では、脱珪量は、脱珪酸素効率も実施例とほぼ等しいが、傾動装置の故障が発生し、地金取作業頻度も増加した。
【0024】
また、同じ高炉で、傾注樋と受銑容器(トピード)の間の溶銑の落下流に、37mmφ単孔ノズルまたは20mmφ二孔ノズルで落下流と酸素ガス流とのなす角度θを変化し、酸素ガスを吹き付け、脱珪処理を実施した。酸素ガスの吹き付け位置は、受銑容器の上面から0.2mの位置とした。その結果を表2に示す。
【0025】
【表2】
【0026】
本発明範囲の実施例4〜7では、脱珪量、脱珪酸素効率は高く、さらに受銑1回当たりのトピードの受銑口周辺に付着した地金量は0〜0.05t/回と少なかったのに対し、本発明範囲外の比較例2では2t/回となった。本発明の範囲を外れると、スプラッシュの付着が激しく、操業の継続は困難であった。
なお、実施例では酸素のみを吹付けた場合を示したが、酸素と同時に固体酸素(酸化鉄など)を溶銑に供給してもかまわない。
【0027】
【発明の効果】
本発明によれば、耐火物を異常に損耗させることなく、溶銑温度低下量を小さく抑え、脱珪酸素効率が向上し、効率的に脱珪処理することができ、さらに、周辺への地金付着が少なくなり、傾注樋傾動装置の故障など、周辺機器のトラブルがなくなり、順調な操業ができ、また、溶銑歩留りも向上するという著しい効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明を実施するときに用いる溶銑の予備脱珪装置の一例を示す概略説明図である。
【図2】溶銑落下流に酸素ガスを吹き付けたときのスプラッシュ量におよぼす溶銑落下流と酸素ガス流とのなす角度θの影響を示すグラフである。
【図3】溶銑落下流に酸素ガスを吹き付けたときのスプラッシュ発生を示す説明図である。
【図4】スプラッシュ発生におよぼす溶銑落下流と吹き付けガス流とのなす角度θの影響を示す説明図である。(a)はθ≦60°、(b)はθ>60°の場合である。
【符号の説明】
1 溶銑
2 出銑樋
3 傾注樋
4 受銑容器(トピードカー)
5 落下流
6 吹き付けノズル
7 吹き付けガス流
8 スラグ
11 溶銑スプラッシュ
12 ガス吹き付け位置での垂線
13 ガス吹き付け位置
14 ガス吹き付け位置での接線
15 スプラッシュ採取板
Claims (2)
- 銑鉄製造炉から出銑された溶銑を受銑容器に受けるまでの間に、溶銑落下流に酸化性ガスを吹き付ける溶銑の脱珪処理方法において、前記溶銑落下流と前記酸化性ガス流とのなす角度が60度以下であることを特徴とする溶銑の脱珪処理方法。
- 前記酸化性ガスが酸素である請求項1記載の溶銑の脱珪処理方法。
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