JP3793116B2 - 成形型の作成方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、例えば、非球面レンズなどの複雑な面形状を有する光学素子を高精度にプレス成形するための成形型の作成方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光学機器の小型化、軽量化にともない、光学系に使用されるガラスレンズの枚数を減らすことが望まれている。これを実現する一つの手段として、レンズの枚数を少なくしても収差の補正が可能な非球面形状のレンズを使用することが挙げられる。また、非軸対象の非球面(自由曲面)を組み合わせた複雑な光学素子の需要も出てきた。このような非球面形状を有するレンズの製造方法としては、所定の表面精度を有する成形用型部材の間にガラス材料を挟み、プレス成形する方法が知られている。
【0003】
このようにプレス成形により光学素子を成形する方法の従来例としては、特公昭61−32263号公報に開示されているような方法が挙げられる。この方法は、光学素子の完成形状の理想形に正確に対応する面形状に仕上げられた成形面を有する一対の型部材の間に、ガラス素材を挟み込み、このガラス素材の粘度が108 〜5×1010ポアズとなるような温度範囲において、プレス成形を行うものである。その後、ガラス素材と型部材の温度差が少なくとも20℃以上にならないように冷却を行い、ガラス素材の粘度が1012ポアズよりも大きくなる温度域において、成形された光学素子を型部材から取り出す。このような方法により高精度な光学素子を加工しようとするものである。
【0004】
しかしながら、上記の従来例においては、例えば、表面の曲率半径の大きい凹レンズや、メニスカスレンズ、自由曲面レンズなどのように、面精度を出しにくい形状の光学素子を加工しようとした場合には、種々の成形条件を最適なものに設定したとしても、要求される面精度(例えばニュートンリング1本以下といった高精度な値)を満足することができない場合がある。
【0005】
また、完成した光学素子の面精度を少しでも向上させるためには、例えば、成形後の冷却時におけるプレス圧を厳密に管理する必要があり、また、このようにプレス圧を厳密に制御することは困難を極めるものである。また、その他の成形条件に関しても、奇妙な変化が面精度を低下させることに繋がる。更には、光学素子の面精度を向上させるために、補助的な装置を必要とする場合があり、加工装置のコストを上昇させ、それに伴って、光学素子自体の高コスト化を招くという問題点もある。
【0006】
上述した課題を解消するために、成形条件を制御したり、補助的な装置を用意したりしなくとも、型修正によって、高精度な面精度を有する光学素子、例えば、非球面形状のレンズを加工することができる光学素子の成形方法が、既に提案されている(特開平8−337426号公報、特開2001−62841号公報)。
【0007】
この光学素子の成形方法は、加熱されることにより軟化状態となっているガラス素材を、一対の成形用型部材を用いてプレスし、該型部材の成形面の表面形状が転写された光学機能面を前記ガラス素材の表面に形成するようにした光学素子の成形方法において、複数個の前記光学素子を成形するにあたり、各光学素子の光学機能面に一定のクセが安定して形成されるように成形条件を設定する第1の工程と、前記成形面の表面形状が前記一定のクセをキャンセルするような形状に加工された成形用型部材を用いて光学素子の成形を行う第2の工程とを具備することを特徴としている。
【0008】
特に、この光学素子の成形方法では、前記成形条件は、少なくとも、前記一対の成形用型部材の温度差と、冷却速度と、冷却時において前記ガラス素材に印加される圧力と、離型させる温度とにより規定される。
【0009】
また、この光学素子の成形方法は、加熱されることにより軟化状態となっているガラス素材を、一対の成形用型部材を用いてプレスし、該型部材の成形面の表面形状が転写された光学機能面を前記ガラス素材の表面に形成するようにした光学素子の成形方法において、所定の形状の光学素子の表面形状に対応した成形面形状を有する第1次の型部材を用いて、ガラス素材を、所定の加熱温度、型部材温度、加圧圧力、加圧時間、冷却速度等の成形条件に基づいて成形する第1の成形工程と、該第1の成形工程において成形した光学素子の表面形状を測定する測定工程と、該測定工程において得られた測定データと、光学素子の最終希望形状のデータとの誤差を算出する算出工程と、前記算出工程において得られた結果に基づいて前記第1次の型部材の成形面を補正加工して第2次の型部材を加工する補正加工工程と、前記第2次の型部材を用いて、ガラス素材を前記第1の成形工程と同じ成形条件でプレス成形する第2の成形工程とを具備することを特徴としている。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、上記の方法では、Z方向(成形方向)の収縮(及びアス・クセ)しか考慮していないので、特に光学素子が大きい場合や、複雑な面形状をしている場合、型を補正する際、Z方向と垂直な成分で生じる収縮量の位置ズレが生じるため、型と成形品の対応している部分の判断が難しく、型を補正する際に実際に成形される部分とは違う位置を補正してしまう場合がある。
【0011】
これを図を用いて説明する。図1において、1は型の一断面形状を示している。また2は成形品の断面形状を示している。今、1で示される型形状がそのまま収縮して、2で示される形状になったとき(アス・クセが発生しなかった場合)、P1,P2,P3はそれぞれ、P1',P2',P3'が成形品において型の点と対応した点である。従来例ではこの状態で、図2に示すように、1で示す設計形状を基準として、成形品のズレ量を反転させることにより、補正形状3としていた。よって、本来の対応している点とは違う形状に補正することになっていた。つまり、従来のような型補正方法では、素子が大きく、面形状が非球面形状(特に非軸対象形状)の場合、要求精度が厳しい場合(アス・クセ、ニュートン1本以下等)などでは、1回の型補正では設計値に近い高精度な面を得ることが出来ないため、何度か型補正を繰り返す必要があった。
【0012】
また何度か補正を繰り返すということは、そこに測定誤差、計算誤差が積み重なることなり、余計に精度を落とす可能性があった。
【0013】
従って、本発明は上述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、少ない型補正の回数で設計値に近い高精度な面形状を有する成形品を成形できるようにすることである。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明に係わる成形型の作成方法は、ガラス素材を加熱下でプレスして光学素子を成形する場合に用いられる型を作成する方法であって、前記光学素子の設計形状に近似した形状に加工された第1の型の複数の成形面の面形状、及び前記複数の成形面同士の位置関係を測定する第1の工程と、前記第1の型を用いて成形した成形品の成形面の面形状、及び成形面同士の位置関係を測定する第2の工程と、前記第1及び第2の工程で得られた測定データを用いて、前記第1の型と前記成形品の収縮率を算出する第3の工程と、前記収縮率に基づく収縮差による形状ズレを取り除いた後に残る、前記成形品形状の前記設計形状からの残差を算出する第4の工程と、前記残差をキャンセルするための成形面の形状を算出する第5の工程と、前記第5の工程で得られた形状と、前記第3の工程で得られた収縮率とに基づいて第2の型の成形面の形状を決定する第6の工程と、を有することを特徴としている。
【0015】
また、この発明に係わる成形型の作成方法において、前記第3の工程において、前記収縮率を算出する際に、測定面の形状データのみを用いて収縮率を算出することを特徴としている。
【0016】
また、この発明に係わる成形型の作成方法において、前記第3の工程において、前記収縮率を算出する際に、形状ズレを評価する点における前記第1の型と成形品の形状ズレの評価方向をプレス方向と平行にとり、その形状ズレが最小になるように収縮率を求めることを特徴としている。
【0017】
また、この発明に係わる成形型の作成方法において、前記第3の工程において、前記収縮率を算出する際に、形状ズレを評価する点における前記第1の型と成形品の形状ズレの評価方向を前記成形面の法線方向にとり、その形状ズレが最小になるように収縮率を求めることを特徴としている。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の好適な一実施形態について、添付図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
図3は本発明の一実施形態において成形される多面体自由曲面レンズの斜視図である。このような複雑な形状の型補正をする場合に、本発明は特に有効である。図4は、一実施形態の多面体自由曲面レンズを成形加工するために採用された成形用型12の構成を示す図である。なお、図4は、上型部材16と下型部材18とによる、ガラス素材40のプレス動作が終了し、ガラスレンズの成形が略完了した状態を示している。
【0020】
図4において、成形用型12の外殻部を構成する胴型14は、支持基板20を介して、光学素子の成形装置本体10上に載置されている。胴型14は、上面視で、略正方形の角柱状に形成されており、その中心軸上には、この胴型14を上下に貫通した状態で、貫通穴14a、14bが形成されている。これらの貫通穴のうち、上側の貫通穴14aには、矩形に形成された上型部材16が、嵌合した状態で、上下方向に摺動可能に挿入されている。上型部材16は、その上端部にフランジ部16aが形成されており、このフランジ部16aの下面が胴型14の上面14cに、上方から当接することにより、それ以上、下方に移動することを防止されており、これによって、上型部材16の、下方へのプレスストロークが規定されている。また、上型部材16の下面には、ガラス素材40を押圧して、その表面に所望の形状を転写して、光学機能面を形成するために、成形面16bが形成されている。
【0021】
なお、胴型14の側面には、ガラス素材搬入及びレンズ搬出用のオートハンドが出入りするための穴14dが形成されている。また、上型部材16の上方には、ガラス素材40に印加するプレス圧を発生させるための油圧シリンダ22が、支持部材(図示せず)により支持された状態で、配置されている。油圧シリンダ22の下方には、上下方向に沿ってピストンロッド22aが配置されており、このピストンロッド22aの下端部は、上型16の上端面に接続されている。したがって、油圧シリンダ22が動作されて、ピストンロッド22aが下方に向けて押し出し動作されることにより、ガラス素材40にプレス圧P1が印加される。
【0022】
一方、下側の貫通穴14bには、上型部材16と同様に、矩形状に形成された下型部材18が、嵌合した状態で、上下方向に摺動可能に挿入されている。下型部材18の下部には、フランジ部18aが形成されており、このフランジ部18aの下面18cは、胴型14が載置されている支持基板20の上面に当接している。そして、支持基板20により、上型部材16からガラス素材40を介して下型部材18に加えられる、下方へのプレス圧P1が受けられる。下型部材18の上端面には、ガラス素材40の下面に所望の形状を転写して、光学機能面を形成するための成形面18bが形成されている。
【0023】
したがって、ガラス素材40には、その上面に、上型部材16の成形面16bの表面形状が転写され、光学機能面40aが形成され、また、その下面に、下型部材18の成形面18bの表面形状が転写され、光学機能面40bが形成されることとなる。
【0024】
また、成形された多面体自由曲面レンズ(ガラス素材40)の厚みは、上述したように、上型部材16のフランジ部16aの下面が、胴型14の上面14cに当接することにより規定され、プレス成形加工の都度、多面体自由曲面レンズ(40)の厚みが変化しないようになされている。
【0025】
なお、成形装置本体10の下面には、油圧シリンダ24が固定されており、この油圧シリンダ24のピストンロッド24aは、成形装置本体10に形成された貫通穴10aと、支持基板20に形成された貫通穴20aとを順次、介して、下型部材18の下面18cに接続されている。この油圧シリンダ24は、多面体自由曲面レンズ(ガラス素材40)の成形動作が終了した後の冷却過程において、その多面体自由曲面レンズ(40)の形が崩れることを防止するために、下型部材18を上方に押し上げて、多面体自由曲面レンズ(40)に圧力P2を作用させるためのものである。
【0026】
一方、胴型14の側面には、開口穴14dが形成されており、ガラス素材40が、この開口穴14dを介して、成形用型12の内部に供給されると共に、成形の完了した多面体自由曲面レンズ(40)が、成形用型12の内部から取り出される。
【0027】
なお、胴型14内には、その四隅に位置した状態で、この胴型14、上型部材16、下型部材18を加熱すると共に、これら胴型14、上型部材16、下型部材18を介して、ガラス素材40を加熱するためのヒータ26が配置されている。
【0028】
次に、上記のように構成された成形用型12により、多面体自由曲面レンズ(36mm×16mm、中心厚9mm)を成形する手順について説明する。
【0029】
まず、図5に示したように、油圧シリンダ22のピストンロッド22aを引き込み動作させて、上型部材16を、胴型14に対して上方にスライドさせ、下型部材18から逃がしておく。この状態において、胴型14の開口穴14dを介して、オートハンドなどにより、所定の高温に加熱されたガラス素材40を下型部材18の成形面18b上に供給する。この時に供給されるガラス素材40は、多面体自由曲面レンズを成形する場合に、四角柱状に形成されているか、あるいは、多面体自由曲面レンズの完成形状に近い形状に予め形成されている。また、胴型14、上型部材16、下型部材18は、所定の成形条件に対応した温度に加熱されている。
【0030】
ガラス素材40が、下型部材18の成形面18b上に供給された後、油圧シリンダ22のピストンロッド22aを押し出し動作させて、ガラス素材40の上面に上型部材16の成形面16bを当接させ、ガラス素材40にプレス圧P1を印加させる。プレス圧P1が印加されて、上型部材16が徐々に下方に移動すると、ガラス素材40は、次第に水平方向に押しつぶされて、最終的には、図4に示したような状態となる。この状態においては、ガラス素材40の上下には、上型部材16の成形面16bと、下型部材18の成形面18bとの形状が転写された光学機能面40a,40bが形成されており、また、ガラス素材40の厚みは、所望の厚みにプレス成形されている。
【0031】
この後、成形された多面体自由曲面レンズ(ガラス素材40)は徐々に冷却される。この冷却過程においては、成形された多面体自由曲面レンズ(40)の形状が崩れないように、油圧シリンダ24が作動され、下型部材18が押し上げられ、多面体自由曲面レンズ(40)に圧力P2が印加される。そして、所定の温度まで温度が低下した時に、再び、油圧シリンダ22が引き込み動作されて、上型部材16が上方に移動し、その後、多面体自由曲面レンズは、オートハンドなどにより、胴型14の開口穴14dを介して、外部に取り出される。
【0032】
上記のような一連の動作により、多面体自由曲面レンズ(40)が成形加工されるわけであるが、この成形加工の途中において、多面体自由曲面レンズ(40)の光学機能面40aおよび40bの面精度に大きく影響を与えると考えられる成形条件は、以下の通りである。
【0033】
(1)冷却過程におけるプレス圧P2
(2)冷却中の上下の型部材16,18の温度差
(3)冷却速度
(4)型材料とガラス材料の熱膨張(収縮)の差(予測違い)による等方性の形状ズレの影響
すなわち、冷却過程におけるプレス圧P2が小さすぎると、冷却中のレンズが未だ変形可能な温度域で、型からレンズが剥がれてしまい、転写性が悪化する。しかも、剥がれる温度が一定となる保証がないので、発生するクセの形状が一定とならない。
【0034】
一方、プレス圧P2が高すぎる場合にも、実験的には、面精度が悪化することが解っている。例えば、本実施形態のレンズ形状では、プレス圧P2を適当に変えることにより、一定のクセの発生した面を得ることが可能であったが、クセの無い面を得ることはできなかった。
【0035】
また、冷却中の上下の型部材16,18の温度差があり過ぎる場合には、面精度が悪化するとともに、本実施形態のように、胴型側面に穴の開いた型では、レンズ内の温度分布にバラツキが発生し、アス、クセが生じる。この場合、本実施形態のレンズ形状では、型部材16,18の温度差を適当に変えることで、一定のクセ(アスを含む)の発生した面を得ることができたが、クセの無い面を得ることはできなかった。これは、特に、冷却速度が速い場合に顕著である。さらに、型材料とガラス材料の熱膨張(収縮)差によって、高温時にプレスされたガラス素材は、常温において型の形状と成形品の形状は大きく違うことになる。一般的には過去の経験から収縮率差を求め、仮型(初期型)は製作するのであるが、成形条件や成形形状が変わると、プレス温度、冷却速度の違いや、離型の状態の違いにより、収縮率も変わってくるため、収縮率は予想からわずかに外れる。よって、収縮率は成形条件を固定してからでないと決定できない。この収縮率の予想値とのズレは、素子が大きくなるほど影響も大きくなる。
【0036】
以上のことから、本実施形態においては、離型性の良さと面精度の良さのバランスをとるための最良点を捜すのではなく、仮に、若干面精度が低下しても、確実に離型不良を防止できるようなプレス圧P2を選択することにした。ただし、面精度は、或る程度低下してもよいが、複数個のレンズを成形した時に、レンズの光学機能面が再現性良く形成され、必ず、同じアス・クセ、収縮率を持った形状に仕上がることが重要である。このように、成形する毎に、同じアス・クセ、収縮率を持った形状にレンズが加工されるのであれば、まず収縮率のズレを補正し、そこで補正しきれなかった残りの形状(アス・クセ)をキャンセルするように、型部材16,18の成形面の形状を決めれば、理論的には、この型部材で、同じ条件の成形加工を行ったとき、全くクセのないレンズができ上がることになる。
【0037】
そのため、本実施形態においては、成形されるレンズのアス・クセ、収縮率が、成形を繰り返しても、一定となるように、P2値として300kgfを、冷却速度として20℃/分を選択した。即ち、この成形条件ならば、光学機能面の面精度は若干低下するものの、光学機能面のアス・クセ形状及び収縮率の再現性が良好となる。
【0038】
上記の成形条件によって、多面体自由曲面レンズを成形した際の、設計値形状と成形品形状を3次元則定機で測定した形状(X,Y,Zポイントデータ)を最小自乗法を用いて、Z方向の残差が最小となる位置に合わせた結果を図6に示す。
【0039】
また、同様に設計値形状と成形品形状を3次元則定機で測定した形状(X,Y,Zポイントデータ)を最小二乗法を用いて、位置を合わせるのと同時に、測定形状をX,Y,Z方向すべてにおいて等方的に拡大収縮させ、Z方向の残差が最小となるようにした結果が図7に示されている。
【0040】
つまり、図6では、位置合わせのパラメータのみ、図7では位置合わせと拡大収縮の2種類のパラメータを用いて最小二乗法により形状フィットし、残差を算出している。
【0041】
この図を見れば分かるように、拡大収縮フィットのパラメータを入れずに形状フィットした場合は、10μm以上のアス・クセが生じていることになるが、拡大収縮フィットを加えた方は1μm以下となった。よって、形状ズレの大部分は収縮の見積もり違いであることが分かる。このときに用いた仮型(初期型)は設計値に対して、1.004だけ等方倍した形状を用いたが、最小二乗法による結果では1.0051であった。全長が36mmの光学素子であったため、この違いは全長で39μmものズレとなる。
【0042】
そこで、図7におけるZ方向のズレ量を設計値を基準にして反転させた形状を算出し、アス・クセをキャンセルする形状を作成する(図8)。
【0043】
次に、その形状を、形状フィットにより新たに得られた収縮率(1.0051)だけ拡大した形状を算出し、本型の形状とする。これにより従来法による課題の項で挙げた収縮率の違いによる形状補正位置のズレ問題は最小限に食い止めることが出来るようになる。
【0044】
また、上記の方法による収縮率を出来る限り合わせて、アス・クセをキャンセルした形状の型部材を用いて、連続的に多面体自由曲面レンズを成形した結果、全てのレンズが、アス、クセ共にニュートンリング1本以下に納まっていた。
【0045】
なお、上記のように、レンズの光学機能面のクセをニュートンリングの本数から読み取り、このクセをキャンセルするような形状に、型部材16,18の成形面を加工することは、人手によって可能である。しかしながら、このような型の加工作業を、人手によって行うことは、非常に手間のかかることである。このため、実際には、NC工作機械と計算機を使用して、自動計算により、型の補正加工を行うのがよい。
【0046】
(他の実施形態1)
上記の一実施形態において、形状フィットする時、及びアス・クセ成分をキャンセルする形状を算出する際に、残差をZ方向(成形方向)にとるのではなく、観測点における形状の法線方向にとる方法で行ったところ、上記の一実施形態と同等の精度を得ることが出来た(図9参照)。
【0047】
(他の実施形態2)
上記の一実施形態におけるプレス方法において、素子の厚さはプレス駒の突き当て位置によって決定されるが、冷却時にプレスするために、数ミクロン(2〜4ミクロン)のバラツキが生じる。よってこのバラツキを含めて収縮率を算出したり補正形状を決定すると正確な値を得られないので、上下型の位置バラツキは別々のパラメータにし、上下型の位置で、それぞれ一つの位置パラメータをとり、それと収縮率のパラメータの3種類のパラメータを同時に使って最小二乗法を行うことで、素子の厚みバラツキは収縮率を算出する際に含まれなくなるので、計算結果を安定させることができた。
【0048】
以上説明したように、実施形態に示したような光学素子の成形方法によれば、従来と同様な、極めて基本的な装置によって、高精度な成形条件の制御も必要とせずに、しかも、従来では成形が困難であった形状の光学素子を高精度に成形することが可能となる。
【0049】
また、成形後の形状に対して非常に影響が大きい等方性の収縮の成分(比例形状ズレ)と、冷却時の温度分布や離型状態等の影響により生じるアス・クセ成分を含む面形状ズレ成分を分離し、別々に修正することにより型補正の回数を減らし、かつ高精度な成形品を得ることが出来るようになる。
【0050】
なお、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で、上記実施形態を修正または変形したものに適用できることは勿論である。
【0051】
例えば、上記実施形態では、多面体自由曲面レンズを成形する場合について説明したが、本発明は、その他の形状の光学素子、例えば、通常の軸対象の球面レンズや非球面レンズ等の光学素子の成形にも適用可能である。
【0052】
以上説明したように、上記の実施形態によれば、完成した光学素子に現れるアス・クセ及び収縮率が要求精度を満足する程度に一定になるように成形条件を設定する場合、実際の成形で、冷却速度や温度分布のバラツキで発生する収縮率分のズレを除いた、一定のアス・クセを、予め配慮して、これをキャンセルするように、型部材の成形面を加工しておき、得られた収縮率を元に型形状を算出することで、高精度な面精度を有する光学素子を加工することが可能となる。因みに、アス・クセの現れ方が常に一定になるような成形条件は、光学素子を、常に、高い面精度に仕上げるために必要とされる成形条件ほどには厳密に設定する必要がない。したがって、容易に高精度な光学素子を製造することができる。
【0053】
その結果、冷却速度を早くすることができるので、タクトを短かくできるから、低コストで、非球面レンズなどの光学素子を、効率よく量産することができる。また、アス・クセが小さい場合(PV値で数百nm程度)は補正の回数は基本的に1回で補正可能で、アス・クセニュートン1本以下程度の成形が可能であることが分かっている。なお、胴型に開孔部があり、急冷した場合に、型内やレンズ内部の温度分布にバラツキが生じ易い型構造や、レンズ径あるいはレンズ長(異形レンズの場合)が大きくて(20mm以上)、急冷により、レンズ内温度分布にバラツキが生じ易いレンズ形状、レンズのこば部と中心厚の差が大きいレンズ形状、多面体成形のものを成形する上で、特に効果的である。
【0054】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、少ない型補正の回数で設計値に近い高精度な面形状を有する成形品を成形できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【図1】光学素子の成形方法を説明するための型と成形品の形状の模式的断面図である。
【図2】従来における型補正方法の概念図である。
【図3】本発明の一実施形態におけいて製作される光学素子の斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態に係わる成形用型の構成図である。
【図5】図4において上型部材が上方に逃げた状態を示した図である。
【図6】成形型の断面形状とその型で成形された光学素子の断面形状を比較した図である。
【図7】成形型の断面形状とその型で成形された光学素子の断面形状を拡大収縮フィットを実施した後に比較した図である。
【図8】アス・クセをキャンセルする形状補正方法を模式的に示した図である。
【図9】アス・クセをキャンセルする形状補正方法の別の例を模式的に示した図である。
【符号の説明】
1 型の断面形状
2 成形品の断面形状
3 補正形状
10 成形装置本体
12 成形用型
14 胴型
16 上型部材
18 下型部材
20 支持基板
22,24 油圧シリンダ
26 ヒータ
40 ガラス素材
Claims (4)
- ガラス素材を加熱下でプレスして光学素子を成形する場合に用いられる型を作成する方法であって、
前記光学素子の設計形状に近似した形状に加工された第1の型の複数の成形面の面形状、及び前記複数の成形面同士の位置関係を測定する第1の工程と、
前記第1の型を用いて成形した成形品の成形面の面形状、及び成形面同士の位置関係を測定する第2の工程と、
前記第1及び第2の工程で得られた測定データを用いて、前記第1の型と前記成形品の収縮率を算出する第3の工程と、
前記収縮率に基づく収縮差による形状ズレを取り除いた後に残る、前記成形品形状の前記設計形状からの残差を算出する第4の工程と、
前記残差をキャンセルするための成形面の形状を算出する第5の工程と、
前記第5の工程で得られた形状と、前記第3の工程で得られた収縮率とに基づいて第2の型の成形面の形状を決定する第6の工程と、
を有することを特徴とする成形型の作成方法。 - 前記第3の工程において、前記収縮率を算出する際に、測定面の形状データのみを用いて収縮率を算出することを特徴とする請求項1に記載の成形型の作成方法。
- 前記第3の工程において、前記収縮率を算出する際に、形状ズレを評価する点における前記第1の型と成形品の形状ズレの評価方向をプレス方向と平行にとり、その形状ズレが最小になるように収縮率を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形型の作成方法。
- 前記第3の工程において、前記収縮率を算出する際に、形状ズレを評価する点における前記第1の型と成形品の形状ズレの評価方向を前記成形面の法線方向にとり、その形状ズレが最小になるように収縮率を求めることを特徴とする請求項1又は2に記載の成形型の作成方法。
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