JP3792335B2 - ステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法 - Google Patents

ステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、フェライト系等のステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗を行うに際し、環境上問題となる硝酸塩や六価クロムイオンを発生させず且つ廃液処理を容易に行うことができ、硝酸水溶液を電解液として仕上げ電解処理を行う従来方法と同等のスケール残の無い光沢に優れた表面品質に経済的に電解酸洗することができるステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
少なくともニッケル及び/又はクロムを含有する合金鉄鋼帯の代表的なものと言えるJIS G4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定される熱間圧延ステンレス鋼帯製品は、一般に熱間圧延されたステンレス鋼帯を焼鈍などを含む熱処理,酸洗又はこの酸洗に準じる処理を施すための一連のライン化された焼鈍酸洗工程に通板して製造されている。また、前記JIS G4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定される熱間圧延ステンレス鋼板製品は、前記熱間圧延ステンレス鋼帯を所望の寸法に剪断して製造されている。
【0003】
また、JIS G4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定されているNo.2D,No.2B,No.3,No.4,BA等の各種表面仕上げの冷間圧延ステンレス鋼帯製品は、前記した焼鈍酸洗工程を経て製造された熱間圧延ステンレス鋼帯を素材とし、これをそれぞれライン化された冷間圧延工程,焼鈍酸洗工程に必要に応じて繰り返し通板し、更にこれらの工程間にあって素材表面の残存スケールや地疵を除去するために必要に応じてライン化された研磨工程に通板し、更に調質圧延工程,剪断や裁断処理等がなされる精整工程を経て製造されている。また、前記JIS G4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定されている冷間圧延ステンレス鋼板製品は、前記冷間圧延ステンレス鋼帯を所望の寸法に剪断されて製造されている。
【0004】
ステンレス鋼帯製品等は、上述した如く熱間圧延処理,この熱間圧延後の焼鈍を含む熱処理,冷間圧延により加工硬化された素材の軟化焼鈍処理等が施されるので、各処理後の素材表面には程度の差こそあれ、主としてFeやCrなどの酸化物から成るスケールが生成される。そして、良好な表面品質を有する最終製品を得るためには、素材表面に生成されたスケールが各工程において悪影響を及ぼすので、その都度スケールを完全に除去してから各工程に送板することが必要である。このため、前記各処理後に脱スケール処理が施されている。
【0005】
この脱スケール処理としては、従来から種々の脱スケール方法が実施されたり提案されたりしており、古くから最も基本的ものとして硫酸,硝酸,塩酸,弗酸又はこれらを混合した混酸薬液に浸漬処理して脱スケールと同時に均一で適度の不動態化処理を施す浸漬酸洗処理が広く実施されていた。
【0006】
しかしながら、ステンレス鋼帯の素材表面に生成するスケールは一般に緻密で除去が困難なため、ステンレス鋼帯を前記した如き浸漬酸洗処理のみによる処理方法では高速処理して生産性を向上せしめ尚且つ完全な脱スケール処理を行うことが困難であるので、この浸漬酸洗処理の前に機械的前処理,化学的前処理又はこれらを組み合わせた前処理が行われるようになってきた。
前者の機械的前処理とは、浸漬酸洗処理に先立ってショットブラストやスケールブレーカーなどの装置を使用して、スケール層に亀裂を生じさせて酸洗処理における酸と素材との接触を促進させることで脱スケールを容易にする処理である。また後者の化学的前処理法とは、溶融アルカリ塩や硫酸ナトリウムを電解質とする水溶液中での陽極電解処理等の化学的処理によって、スケール層の一部の成分を変質させてスケールと素材との結合力を弱める処理である。
【0007】
このような前処理を施された後、完全な脱スケール,表面光沢の調整及び不動態化を目的に仕上げ酸洗処理としての前記した如き浸漬酸洗処理が行われていた。また、仕上げ酸洗処理を行う電解質が硝酸,塩酸又は弗酸を含む場合には、脱スケール能力を向上させるために電解酸洗処理が行われてるようになってきたが、電解質として硫酸を使用する場合には、その脱スケール能力が非常に高いことから専ら浸漬酸洗処理が行われていた。
【0008】
更に、仕上げの酸洗処理においては、完全な脱スケールを行うことができ均一且つ再現性のある表面に処理することができるように、しかも製造コストや環境問題を考慮して、適正な酸洗液の組成を管理されている。これは、前記した如きJIS G4304に規定されている熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯製品(以下、熱間圧延ステンレス鋼製品と言うことがある)やJIS G4305に規定されている冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯製品(以下、冷間圧延ステンレス鋼製品と言うことがある)を製造する上で、完全な脱スケールに加えてその表面光沢の均一性と再現性の確保が必要であり、特に冷間圧延ステンレス鋼製品におけるNo.2D,No.2B仕上げ製品では、酸洗処理時の表面仕上がりによってその表面光沢が大きく左右され、更に前記酸洗条件が適正でないと所望の表面仕上がりが得られないばかりでなく酸洗コストや環境汚染物質の増加を招くことになるので、酸洗液の組成や温度等の酸洗条件を適正に管理することが必要である。
【0009】
現在、フェライト系ステンレス鋼の場合、例えば前記JIS G4305に規定されているNo.2Bの表面仕上げの冷間圧延ステンレス鋼製品の酸洗液としては、不動態化処理の容易性も考慮して酸化性の酸である硝酸水溶液が汎用されており、一般にこの硝酸水溶液により電解処理されて得られた表面を有するものを指している。
この硝酸水溶液により電解処理して酸洗する酸洗工程において、適正な酸洗条件を維持するために、酸洗作業に伴い老化(酸洗液中に金属イオンが蓄積されて来て酸洗能力が低下した状態)した場合には、この老化した酸洗液を廃棄して、新酸で新たに調製された酸洗液に交換し、この新酸洗液により再び酸洗作業が行われ、またステンレス鋼帯の通板過程において鋼帯に付着して酸洗液の一部が持ち出されるので、この持ち出しにより酸洗液が減少した場合には酸洗液を追加する作業が行われている。
【0010】
しかしながら、公共水域中の富栄養化の抑制を目的に硝酸に起因した窒素(以下、単に硝酸態窒素と言うことがある)の排出基準が設定され、前記廃棄する酸洗液及び持ち出された酸洗液の廃液が環境上問題となるので、これらの酸洗液を無害化する処理を行わなければならないのである。すなわち、老化した酸洗液は酸濃度が高く、また持ち出された酸洗液は鋼帯を洗浄するための洗浄水によって希釈されているので酸濃度は低いものであるが、いずれの酸洗液も廃酸処理工程においてアルカリを添加して中和処理することで無害化されて公共水域に排水されることになるが、硝酸塩は水への溶解度が高いことからそのまま排出されている。
【0011】
従来技術として、硝酸イオンを含まない水溶液を電解液とした仕上げ酸洗方法に注目した場合、例えばステンレス鋼便覧第3版の第1133頁(ステンレス協会編集)には浸漬法に関する酸洗液組成については示されているが、脱スケール能力が高く処理速度の向上を期待できる電解法に関する酸洗液としては硝酸が示されているだけである。また、特開昭62−60900号公報にはステンレス鋼材の脱スケール方法として、アルカリイオン,水素イオン,硫酸イオン,硝酸イオンのそれぞれが適量に含まれる水溶液、あるいはアルカリイオン,水素イオン,硝酸イオン,ハロゲンイオンのそれぞれが適量に含まれる水溶液中でステンレス鋼材を陽極電解する方法が開示されているが、この方法は硝酸イオンを少なからず含んでいることから、硝酸態窒素の低減対策にはなり得ない。加えて、多くのイオン種を含むことから、その管理は煩雑なものとなる。また、特開昭59−59899号公報には中性塩電解処理や硝酸電解処理の電解作用を高めるため、中性塩水溶液又は硝酸水溶液の槽内に陰極板を配置した電解酸洗部と硫酸水溶液の槽内に陽極板を配置した給電部とを分離した電解方法が提案されている。すなわちこの方法は、中性塩水溶液又は硝酸水溶液の槽内に陰極板を配置してステンレス鋼帯をアノード電解のみを行うことで、脱スケール作用の向上とカソード電解を回避することでの電解液中での溶解金属の電解析出を抑えたものであるが、中性塩水溶液又は硝酸水溶液によって電解酸洗を行っているので、環境上問題となる硝酸イオンやクロム酸イオンが排出されるという問題があった。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来技術の欠点を解消し、フェライト系等のステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗を行うに際し、従来一般に行われていた硝酸水溶液を電解液として仕上げ電解処理を行う従来方法と同等の脱スケール能力及び光沢等の優れた表面品質を得ることができ、しかも環境上問題となる硝酸塩や六価クロムイオンを発生させることなく廃液処理を容易に行うことができ、また電解液の維持管理を容易に行うことができ、しかも経済的に仕上げ酸洗をすることができるステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法を提供することを課題とする。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者はかかる課題を解決すべく、公共水域中の富栄養化の元となる硝酸イオンが廃液中に含まれることを防止するために酸洗液として硝酸イオンを含まない溶液を使用すること,硝酸と同等の脱スケール能力があること,ステンレス鋼帯に対して有害でないこと,環境上問題が少ないこと,電解液の維持管理を容易に行うことができること,工業的規模で汎用性があること,更に安価であることを満足する溶液を検討した結果、硫酸に着目した。しかしながら、硫酸を単独で使用した硫酸水溶液を電解液とした場合、脱スケール能力が大き過ぎてステンレス鋼帯に肌荒れが生じるという問題が生じたので、充分な脱スケール能力を有し肌荒れを抑制するという相反する作用を両立させるための種々の実験を行った。
【0014】
先ず、電解質として従来から使用されている硫酸ナトリウム及び硝酸と、硫酸と、硫酸に種々の薬剤を添加した電解液についてその薬剤を添加したことによる脱スケール能力と肌荒れの抑制という相反する作用について調査した。
【0015】
図1は、市販の板厚1.0mmのSUS 430光輝焼鈍材を試験片として使用して、硫酸ナトリウム,硝酸,硫酸,硝酸/硫酸,硫酸ナトリウム/硫酸,硝酸第2鉄/硫酸,硫酸第1鉄/硫酸の各種電解液中で、液温50℃,電流密度6A/dm2でそれぞれ極性を切り替えながら順次アノード電解13秒間とカソード電解26秒間とアノード電解13秒間とを実施したときの酸洗減量と表面の光沢度とを示すものであり、横軸に酸洗減量を、縦軸に光沢度を表示して両者の関係を示したものである。
光沢度は光沢計(Gardner社製ミラートリグロス)で測定し、未処理材の光沢度を◎で示すと共に酸洗後の光沢度をそれぞれ示して表面の光沢度の変化を比較した。また図面中のプロットの添字は各電解質の水溶液中での濃度(mol/L)を示しており、単一電解質の場合にはそのままの濃度を示し、2成分の電解質の場合には電解質A/電解質Bの表示にそれぞれ対応させた濃度(mol/L)を示している。
【0016】
以下に、それぞれの電解液に対する評価を述べる。
硫酸ナトリウムについては、その濃度の酸洗減量及び光沢度に及ぼす影響は非常に小さい。すなわち、図1に示した硫酸ナトリウム水溶液の濃度は、それぞれ0.125,0.25,0.5,1.0mol/Lであるが、処理前の試験片の光沢度に対してその光沢度の低下及び酸洗減量は小さかった。
硝酸については、その濃度が高くなるにつれて酸洗減量が増加すると共に光沢度が低下するが、いずれもその変化の程度は小さいことから、濃度の影響は比較的小さい。
硫酸については、その濃度が高くなるにつれて酸洗減量の増加及び光沢度の低下は顕著となる。すなわち、硫酸を電解質として電解酸洗した場合には、硫酸濃度が0.25mol/Lと希薄な場合にはその酸洗減量の増加及び光沢度の低下は低いが、0.5mol/L以上になるとその酸洗減量の増加及び光沢度の低下は極端に大きくなる。このことは、硫酸を電解質とした電解法による脱スケール能力は高いが、同時に表面光沢を低下させるという事実を定量的に示していることになる。
【0017】
これに対し、硫酸ナトリウム濃度/硫酸濃度が0.12(mol/L)/0.25(mol/L)及び0.25(mol/L)/0.5(mol/L)の水溶液では、光沢度の低下は0.5mol/L濃度の硝酸を電解質として電解酸洗した場合と同等で、酸洗減量は硝酸を電解質として電解酸洗した場合より大きなものとなっており、更に硫酸ナトリウム濃度/硫酸濃度が0.35(mol/L)/0.7(mol/L)の水溶液でも光沢度の低下は2.0mol/L濃度の硝酸を電解質として電解酸洗した場合と同等で、酸洗減量は硝酸を電解質として電解酸洗した場合より大きなものとなっており、広い濃度範囲で光沢度を低下させることなく大きな脱スケール能力を有することを示している。
【0018】
また、鉄イオンが蓄積されて来て酸洗能力が低下して老化した硫酸水溶液に該当する硫酸第1鉄濃度/硫酸濃度が0.72(mol/L)/1.0(mol/L)の水溶液では、酸洗減量の増加及び光沢度の低下は少ないものであったが、硫酸第1鉄の濃度が減少して純粋な硫酸水溶液に近付くに従って酸洗減量の増加及び光沢度の低下は大きくなった。
また、硝酸第2鉄濃度/硫酸濃度が0.72(mol/L)/1.0(mol/L)の水溶液では、酸洗減量の増加及び光沢度の低下は少ないものであったが、硝酸第2鉄の濃度が減少して純粋な硫酸水溶液に近付くに従って酸洗減量の増加及び光沢度の低下は大きくなった。
更に、硝酸濃度/硫酸濃度が0.1〜0.8(mol/L)/1.0(mol/L)の水溶液では、酸洗減量が非常に大きくその結果光沢度の低下も大きく、硝酸濃度が増加すると酸洗減量の増加が顕著となった。
【0019】
また上記した実験において、電解処理後の電解液中の六価クロムイオン濃度を調査した結果、電解液が硫酸ナトリウム単独水溶液の場合には六価クロムイオンが検出されたが、これを除く他の電解液組成では六価クロムイオンは検出されなかった。
【0020】
次いで、脱スケールは、スケール直下の素材を溶解して上部のスケールを含めて離脱させることであるため、実際の電解液中にはステンレス鋼帯の主成分としての鉄,クロム,ニッケル等の金属イオンが多量に蓄積され、更にはステンレス鋼帯に付着して電解液が持ち出されたり硫酸の消耗により有効酸の濃度が変化したりするため、電解液の組成及び濃度の変化に伴う脱スケール能力と光沢度へ及ぼす影響を調査した。
【0021】
図2は、適正な材料特性が得られる条件で焼鈍してスケールが生成されたSUS 430鋼板を試験片として使用し、硝酸単独水溶液,鉄イオン/硝酸水溶液(老化した硝酸水溶液に相当する),硫酸単独水溶液,硫酸ナトリウム/硫酸水溶液,鉄イオン/硫酸水溶液(老化した硫酸水溶液に相当する),鉄イオン/硫酸ナトリウム/硫酸水溶液(老化した硫酸ナトリウム/硫酸水溶液に相当する)の各種の水溶液を調製し、図1に示した実験と同条件にて電解処理したときの酸洗減量,表面の光沢度及び脱スケール状態を示すものである。
【0022】
硝酸単独水溶液については、硝酸濃度が0.5〜4.0mol/Lの範囲で上昇するに伴い酸洗減量が緩やかに増加したが、低濃度では全体的にスケール残が認められ、濃度を極端に上げた場合であっても部分的にスケール残が認められた。
鉄イオン/硝酸水溶液、すなわち鉄イオンが蓄積して老化した硝酸水溶液については、酸洗減量,光沢度及びスケール残について新液時とほぼ同様な結果であった。
硫酸単独水溶液については、硫酸濃度が0.25〜2.0mol/Lの範囲で上昇するに伴って、酸洗減量は顕著に増加しスケール残は認められなかった反面、光沢度の低下が顕著となった。特に、硫酸濃度が0.25mol/Lと低い場合にはスケール残もなく高い光沢が得られたが、硫酸濃度が0.5mol/L以上となると光沢度の低下を来したことが注目される。
鉄イオン/硫酸水溶液、すなわち鉄イオンが蓄積して老化した硫酸水溶液については、硫酸濃度が1.0mol/L以上と高い場合において試験片に部分的な顕著な肌荒れが生じ、0.25mol/Lと低い場合では部分的にスケール残が認められた。そして、硫酸濃度が0.5mol/Lの場合はスケール残もなく高い光沢を示した。
【0023】
また、硫酸ナトリウム/硫酸水溶液においては、硫酸単独水溶液と比較して、硫酸濃度が0.5mol/Lで酸洗減量が多少抑制されているがスケール残はなく、更に硫酸濃度が0.25mol/Lの場合だけでなく0.5mol/Lであっても高い光沢を維持している。
そして、鉄イオン/硫酸ナトリウム/硫酸水溶液、すなわち鉄イオンが蓄積して老化した硫酸ナトリウム/硫酸水溶液については、酸洗減量は硫酸ナトリウム/硫酸水溶液(新液)と略同等で光沢度は硫酸ナトリウム/硫酸水溶液(新液)の場合より多少の低下が認められ、硫酸濃度が1.0mol/L以上の場合には部分的に肌荒れが認められた。そこで、肌荒れが認められない硫酸濃度を求めたところ、硫酸濃度が0.7mol/L以下であれば鉄イオン濃度がモル比で硫酸濃度の0.5までの範囲であれば良いことを究明した。
【0024】
以上の実験結果から、電解液としては硫酸に硫酸ナトリウムを添加した水溶液を使用することによって硫酸濃度が0.25mol/L以上0.7mol/L以下というかなり広い濃度範囲において充分な脱スケール能力を有し且つ光沢に優れた状態にステンレス鋼を電解酸洗することができることが究明できた。
【0025】
そこで、電解液として硫酸に硫酸ナトリウムを添加した水溶液を使用した電解処理時のステンレス鋼帯の極性に対する脱スケール能力及び表面光沢に及ぼす影響を調査した。
図3は、硫酸ナトリウム/硫酸水溶液,及び鉄イオン/硫酸ナトリウム/硫酸水溶液の水溶液を調製し、アノード電解処理のみ及びカソード電解処理のみをそれぞれについて、液温50℃,電流密度6A/dm2で且つ26秒間と52秒間との異なる電解時間で実施したときの、酸洗減量,表面光沢度及び試験片の脱スケール状態を示すものである。
【0026】
硫酸ナトリウム/硫酸水溶液(新液)では、試験片の極性を陽極にしたアノード電解のみの場合には26秒間の短い電解時間のときに多少のスケール残存が認められたものの高い脱スケールが行われ、試験片の極性を陰極にしたカソード電解のみの場合には僅かな酸洗減量が認められたもののスケールが残存していたが、電解処理前に青色であった色調が電解処理後には黄色に変色していたことからスケールの色調が干渉色に起因するものとすればスケール厚みが薄くなったと考えられる。すなわち、結晶粒界部の一部の酸化物も溶解除去されてスケールの穴の数が増加したと考えられる。従って、この硫酸ナトリウム/硫酸水溶液(新液)を電解液とした場合には、アノード電解とカソード電解との双方で脱スケールが行われると共に、電解槽内にアノード電極とカソード電極とを交互に配設して交番電解を行うことによって、アノード電解とカソード電解との相乗効果が加わり、高い脱スケール作用ができると考えられる。
【0027】
そして、硫酸ナトリウム/硫酸水溶液の老化した鉄イオン/硫酸ナトリウム/硫酸水溶液液では新液である硫酸ナトリウム/硫酸水溶液と略同等の脱スケール能力を有していることが判明した。
【0028】
以上の実験結果から、電解液としては硫酸水溶液中に硫酸ナトリウムが添加されている硫酸ナトリウム/硫酸水溶液が好ましいことが判明したが、この電解液を使用してステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗を行うには、硫酸濃度が0.25mol/L以上0.7mol/L以下の硫酸水溶液中に、この硫酸濃度に対するモル比が0.4〜0.6の硫酸ナトリウムを含有する電解液を、液温を40〜60℃の範囲に且つ脱スケール作用に伴い水溶液中に生成する金属イオンの濃度を鉄イオン濃度で前記硫酸濃度に対するモル比で0.5以下に維持しながら、電流密度が3〜8A/dm2の範囲で交番電解を行うことが必要であり、また電解液を補充するに際しては、補充すべき硫酸及び硫酸ナトリウムの濃度を得る割合で硫酸と水酸化ナトリウムとを混合調製した補充液を添加すると、電解液中の有効な硫酸濃度及び硫酸ナトリウム濃度の調整を容易に行うことができ電解液の維持管理を容易に行うことができることを本発明者は究明したのである。
【0029】
すなわち、硫酸濃度が0.25mol/Lより希釈であると、電解液が老化したり素材に付着して持ち出されることに対応してその濃度を維持管理していくことは非常に煩雑となるからであり、また0.7mol/Lを超えると上述した如く部分的に顕著な肌荒れを生じるからである。
【0030】
また、硫酸濃度が低く硫酸ナトリウム濃度が高い水溶液では、脱スケール作用が低下すると共に水溶液中に六価クロムイオンが検出され、硫酸濃度が高く硫酸ナトリウム濃度が低い水溶液では、光沢は低下したが脱スケール能力は向上し水溶液中に六価クロムイオンが検出されなかったことから、更に適正な硫酸ナトリウムの添加量を検討した結果、硫酸濃度に対するモル比で0.4〜0.6であることが究明できたのである。
【0031】
更に、ステンレス鋼帯を電解酸洗する際には、電解液との反応により電解液中に金属イオン(主として鉄イオン)が蓄積されるために脱スケール能力が低下することに対し、電流密度や電解時間の増加で対応できることが種々の実験で確認されているが、鉄イオン濃度が硫酸濃度に対するモル比で0.5mol/L以上である場合には電流密度や電解時間を増加させ脱スケール能力を向上させると部分的に肌荒れが生じ易くなるので上記した硫酸濃度に対するモル比でその上限は0.5mol/Lであることが必要である。
【0032】
また、液温を40〜60℃とした理由は、40℃より低いと充分な脱スケール能力を得ることができず、また60℃を超えると肌荒れが生じ易くなるからであり、また電流密度を3〜8A/dm2とした理由は、3A/dm2より低いと充分な脱スケール作用が得られず、また8A/dm2より高いと脱スケール作用が向上することよりも各電極におけるガス発生量が顕著に増加するだけで電気エネルギが効率よく脱スケール作用に寄与しないからである。また、電解時間は、電解酸洗槽の大きさ及び電解液の組成,仕上げ電解酸洗すべきステンレス鋼帯のスケールの状態等に応じて所望の脱スケール能力が得られるように適宜設定すれば良い。
【0033】
このように、硫酸濃度が0.25mol/L以上0.7mol/L以下の硫酸水溶液中に、この硫酸濃度に対するモル比が0.4〜0.6の硫酸ナトリウムを含有する電解液を、液温を40〜60℃の範囲に且つ脱スケール作用に伴い水溶液中に生成する金属イオンの濃度を鉄イオン濃度で前記硫酸濃度に対するモル比で0.5以下に維持しながら、電流密度が3〜8A/dm2の範囲で交番電解を行い、電解液を補充するに際しては、補充すべき硫酸及び硫酸ナトリウムの濃度を得る割合で硫酸と水酸化ナトリウムを混合調製した補充液を添加することにより、フェライト系ステンレス鋼帯を、従来の硝酸水溶液を電解液とする仕上げ電解酸洗法と比較して同等以上の脱スケール能力を有し、しかも光沢の低下を来さない仕上げ電解酸洗を行うことができることを究明して本発明を完成したのであるが、アノード電解時間とカソード電解時間とを(1〜4):1の割合にして交番電解を行うと、より確実にスケール残存がなく光沢に優れた状態に仕上げ電解酸洗を行うことができ、またこの仕上げ電解酸洗法は脱スケール能力が優れているために冷間圧延された後に焼鈍されたステンレス鋼帯を前処理を施すこと無く仕上げ電解酸洗処理を行うことができることも究明して本発明を完成したのである。
【0034】
【発明の実施の形態】
以下、本発明に係るステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法について図4により詳細に説明する。
図4は、焼鈍炉,電解酸洗装置及び送板装置を備えた一連のライン化された焼鈍電解酸洗装置における電解酸洗装置を示す説明図である。
【0035】
図面中、1〜3はそれぞれアノード電極1aとカソード電極1bとが交互に配設されていると共に所定の電解液が建浴されている電解酸洗槽であり、少なくとも仕上げ電解酸洗が行われる通常最も下流側に設置される電解酸洗槽と、更に必要に応じて硫酸を電解質とする電解液で前処理を行われる電解酸洗槽とはその材質が硫酸に耐えるものであることが必要であるから、鋼板製の槽内面に耐酸性のゴムライニングが施されているか、更に耐酸性レンガで槽内部を被覆されているものが好ましく使用される。
【0036】
各電解酸洗槽1,2,3内に配設されている電極1a,1bは、硫酸水溶液に耐えるものであればく、アノード電極1aの材質としては従来より一般に使用されている鉛系のものや主として白金やルビジウムやイリジウムなどの金属の酸化物を被覆したものが好ましく使用され、またカソード電極1bの材質としてはカソード防食が作用することから前記アノード電極1a程の高い耐酸性を有するものである必要はないが、チタンやSUS304等が好ましく使用される。
【0037】
また、図示しないが電解液の温度は通常常温より高い所定の温度(本発明方法の実施に使用される電解酸洗槽の電解液の液温は40〜60℃)に維持されるので、加温のための装置が設けられており、蒸気の生吹きや熱交換装置を使用した間接加熱等を適宜選択すればい。
【0038】
4は電解用直流電源、5はデフレクタロール、6は浸漬ロール、7はブラシロール、8はブラシロール7のバックアップロール、9は酸洗液循環用ポンプ、10は酸洗液循環用配管、11は酸洗液循環用リザーブタンクである。
【0039】
このような装置により本発明方法を実施するには、通常最も下流側に設けられており仕上げ電解酸洗を行うための電解酸洗槽3に、所定濃度の硫酸水溶液に所定濃度の硫酸ナト リウムを含有する電解液を建浴する。これらの濃度は、前述した如く硫酸濃度が0.25mol/L以上0.7mol/L以下であり、且つ硫酸ナトリウム濃度が前記硫酸濃度に対するモル比で0.4〜0.6である。これは、硫酸濃度が0.25mol/Lより希釈であると電解液の老化や鋼帯に付着して持ち出されたときに対応してその濃度を維持管理することが非常に煩雑となり、また0.7mol/L以上であると脱スケール能力が高く部分的に顕著な肌荒れが生じるからである。また硫酸ナトリウム濃度が対硫酸濃度のモル比で0.4より低いと電解酸洗に伴って電解液中の金属イオンが増加したときに部分的にスケール残存が生じ易くなり、また0.6より高いと環境上問題となる六価クロムイオンが電解液中に生じ易くなるからである。
【0040】
このとき、焼鈍されたステンレス鋼帯Sは、仕上げ電解酸洗を行うための前記電解酸洗槽3より上流側に設けられている電解酸洗槽1及び2に通板して所謂前処理が行われるのであるが、この電解酸洗槽1及び2には従来の前処理と同様に硫酸ナトリウム水溶液等を使用した中性塩電解液や硫酸水溶液を使用した酸性電解液や水酸化ナトリウム水溶液等を使用したアルカリ電解液を建浴してもよいが、本発明方法において使用する電解液での電解酸洗は非常に強力であるから、環境上問題となる六価クロムイオンの発生が仕上げ電解酸洗だけでなく前処理における電解酸洗においても生じないように、上記電解酸洗槽3と同様の所定濃度の硫酸水溶液中に所定濃度の硫酸ナトリウムを含有する電解液を建浴してもよい
【0041】
そして、電解酸洗槽3の前記所定濃度の硫酸水溶液中に所定濃度の硫酸ナトリウムを含有する電解液を、液温 40 60 ℃の範囲に維持しながらステンレス鋼帯Sを電流密度が3〜8A /dm 2 の範囲で交番電解を行うのである。ここで交番電解とは、電解処理されるステンレス鋼帯が通板方向にその極性を交互に順次変更しながらアノード電解とカソード電解とを繰返し行うものである。このときアノード電解時間とカソード電解時間とは、 ( 1〜4 ) :1の割合であることがより確実に充分な脱スケールを行うことができると共に電極の耐久性を確保できるので好ましい。
【0042】
これは、液温が 40 ℃より低いと充分な脱スケール能力を得られず、また 60 ℃より高いと脱スケール能力が高くなりステンレス鋼帯に肌荒れが生じ易くなるから液温は 40 60 ℃に維持し、また電流密度が3A /dm 2 未満であると充分な脱スケール能力を得られず、また8A /dm 2 より高いと各電極におけるガス発生量が著しく増加するだけで脱スケール作用以外に不要の電気エネルギを消費することになり不経済となるからである。
そして、電解酸洗を行うに従って電解液中に金属イオンが蓄積されてその量が増大するのであるが、この金属イオンは主として鉄イオンであるから、鉄イオン濃度を硫酸濃度に対するモル比で 0.5 以下に維持する。これは、電解液中に蓄積される金属イオンとして鉄イオン濃度で硫酸濃度に対するモル比で 0.5 を超えると、充分な脱スケール能力が得られないからである。
【0043】
また、電解液の老化や鋼帯に付着して持ち出されたときに対応してその濃度を維持管理するのであるが、電解液を補充するに際し、補充すべき硫酸及び硫酸ナトリウムの濃度を得る割合で硫酸と水酸化ナトリウムを混合調製した補充液を添加すると、電解液中の有効な硫酸濃度及び硫酸ナトリウム濃度の調整を容易に行うことができ電解液の維持管理を容易に行うことができて好ましい。
【0044】
図4に示す電解酸洗装置においては前述したように3つの電解酸洗槽1,2及び3が設けられていて、通常電解酸洗槽1及び2が前処理の行われる電解酸洗槽であり、また電解酸洗槽3が仕上げ電解酸洗の行われる電解酸洗槽であるが、電解酸洗槽1における前処理としてこの電解酸洗槽1に建浴される電解液の組成等の電解液条件や電流密度,電解時間等の電解条件によって充分な脱スケール能力で行うことができる場合には、電解酸洗槽2 を仕上げ電解酸洗の行われる電解酸洗槽とし、実質的に2つの電解酸洗槽によって前処理から仕上げ電解酸洗まで行われる。
【0045】
【実施例】
本発明方法は、フェライト系等のステンレス鋼帯の仕上げ電解酸洗方法であって、JIS G4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に規定されている表面仕上げを有するステンレス鋼製品及びJIS G4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」の No. 2B仕上げに規定されている表面仕上げのステンレス鋼製品を得るための方法であるから、従来より前記ステンレス鋼製品を得るために行われていた硝酸水溶液を使用した従来の仕上げ電解酸洗方法を先ず比較例として示し、次いで本発明方法による実施例を示し、従来方法である比較例によって得られたステンレス鋼帯の表面性状に対する本発明方法である実施例によって得られたステンレス鋼帯の表面性状を評価する。
【0046】
比較例1
図4に示す電解酸洗装置において、電解有効長さ15mの電解酸洗槽1には濃度 1.5mol /Lの硫酸ナトリウム水溶液を建浴して液温を 80 ℃に維持し、電解有効長さ15mの電解酸洗槽2には濃度 1.0mol /Lの硫酸水溶液を建浴して液温を 50 ℃に維持し、電解有効長さ30mの電解酸洗槽3には濃度 1.0mol /Lの硝酸水溶液を建浴して液温 50 ℃に維持し、この電解酸洗装置の上流側に設置されている焼鈍炉により焼鈍された冷間圧延ステンレス鋼帯S(鋼種 :SUS430 ,板厚 :1.0mm ,板幅 :1300mm )を、それぞれ 50 m/ min の速度で前記電解酸洗槽1,2に順次通板して前処理を行った後、前記電解酸洗槽3に通板して仕上げ電解酸洗を行った。このとき、各電解酸洗槽1,2,3において、アノード電極とカソード電極とを交互に配設し、ステンレス鋼帯のアノード電流密度を6A /dm 2 とし、且つアノード電解時間とカソード電解時間との比を3:1の比率として交番電解を行った。
このようにして電解酸洗されたステンレス鋼帯Sの表面を観察した結果、スケールの残存はなく光沢も高いものであった。そこで、ステンレス鋼帯の通板速度を 70 m/ min にして通板したところスケール残が認められた。
【0047】
比較例2
比較例1において、電解酸洗槽1には濃度 1.5mol /Lの硫酸ナトリウム水溶液を建浴して液温を 80 ℃に維持し、電解酸洗槽2には濃度 10.0mol /Lの水酸化ナトリウム水溶液を建浴して液温を 80 ℃に維持し、電解酸洗槽3には濃度 1.0mol /Lの硝酸水溶液を建浴して液温を 50 ℃に維持し、これら電解酸洗槽1,2,3に 30 m/ min の速度で順次通板した以外は比較例1と同様にして電解酸洗を行った。
その結果、通板速度が 30 m/ min と低く処理能力が低下したが、比較例1と同様にスケールの残存はなく光沢も高いものであった。そこで、比較例1と同様の通板速度である 50 m/ min にして通板したところスケール残が認められた。
【0048】
実施例1
図4に示す電解酸洗装置において、電解有効長さ15mの電解酸洗槽1に濃度 1.5mol /Lの硫酸ナトリウム水溶液を建浴して液温を 80 ℃に維持し、電解有効長さ15mの電解酸洗槽2に濃度 1.0mol /Lの硫酸水溶液を建浴して液温を 50 ℃に維持し、電解有効長さ30mの電解酸洗槽3に濃度 0.5mol /Lの硫酸と濃度 0.25mol /Lの硫酸ナトリウムとの混合水溶液を建浴して液温を 50 ℃に維持し、この電解酸洗装置の上流側に設置されている焼鈍炉により焼鈍された冷間圧延ステンレス鋼帯S(鋼種 :SUS430 ,板厚 :1.0mm ,板幅 :1300mm )を、それぞれ 70 m/ min の速度で前記電解酸洗槽1,2に順次通板して前処理を行った後、前記電解酸洗槽3に通板して仕上げ電解酸洗を行った。このとき、各電解酸洗槽1,2及び3において、アノード電極とカソード電極とを交互に配設し、ステンレス鋼帯のアノード電流密度を6A /dm 2 とし、且つアノード電解時間とカソード電解時間との比を3:1の比率として交番電解を行った。
このようにして電解酸洗されたステンレス鋼帯の表面を観察した結果、スケールの残存はなくしかも光沢は比較例1の場合と比較して同等以上のものであった。
【0049】
実施例2
実施例1において、電解酸洗槽1,2,3に濃度 0.5mol /Lの硫酸と濃度 0.25mol /Lの硫酸ナトリウムとの混合水溶液を建浴して液温を 50 ℃に維持し、これら電解酸洗槽1,2及び3に 120 m/ min の速度で順次通板した以外は、実施例1と同様にして電解酸洗を行った。
その結果、実施例1と同様にスケールの残存はなくしかも光沢は比較例1の場合と比較して同等以上のものであった。
【0050】
実施例3
実施例1において、電解酸洗槽1,2に濃度 0.5mol /Lの硫酸と濃度 0.25mol /Lの硫酸ナトリウムとの混合水溶液を建浴して液温 50 ℃に維持し、電解酸洗槽3に水のみを建浴し、電解酸洗槽1及び2のみについてステンレス鋼帯のアノード電流密度を6A /dm 2 とし、且つアノード電解時間とカソード電解時間との比を3:1の比率として交番電解を行い、電解酸洗槽3については電解電源は閉回路とした以外は、実施例1と同様にして電解酸洗を行った。
その結果、実施例1と同様にスケールの残存はなくしかも光沢は比較例1の場合と比較して同等以上のものであった。
【0051】
実施例4
実施例1において、各電解酸洗槽1,2及び3において、アノード電解時間とカソード電解時間との比を3:1から1:1の比率に変更した以外は、実施例1と同様にして電解酸洗を行った。
その結果、実施例1と同様にスケールの残存はなく光沢も比較例1の場合と同等以上のものであった。
【0052】
【発明の効果】
以上に詳述した如く、本発明に係るステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法は、以下に列挙するような優れた効果を奏するものであり、その工業的価値の非常に大きなものである。
【0053】
( ) 従来の硝酸電解法と同等若しくは同等以上の表面光沢が得られ、しかもその脱スケール能力は硝酸電解法より優れており、所望の表面性状を有するステンレス鋼帯を硝酸を含む水溶液を使用すること無く得ることができる。
従って、環境上問題となる硝酸の使用が不要となり、しかも、硝酸に比較して安価な硫酸及び硫酸ナトリウムを使用するため、JIS G4304「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」やJIS G4305「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」の No. 2B仕上げに規定されている表面仕上げを有するステンレス鋼製品の製造費の低減ができ、しかも廃液処理が容易となるだけでなく、環境上富栄養化の問題が改善され、また電解液を補充するに際し、補充すべき硫酸及び硫酸ナトリウムの濃度を得る割合で硫酸と水酸化ナトリウムとを混合調製した補充液を添加することによって、電解液中の有効な硫酸濃度及び硫酸ナトリウム濃度の調整を容易に行うことができ電解液の維持管理を容易に行うことができ、工業的及び社会的に貢献するところの非常に多大なものである。
【0054】
( ) 従来の硫酸ナトリウムを電解液とした中性塩電解法と比較して、同等以上の脱スケール作用及び光沢を得られるだけでなく、中性塩電解法においては不可避的に溶液中に発生していた六価クロムイオンが本発明方法においては発生しないので、無害化処理のための設備建設費やその運転に要する比例費や固定費が低減できる。従って、廃液処理を容易 且つ経済的に行うことができるだけでなく、環境上の問題が改善され、工業的及び社会的に貢献するところの非常に多大なものである。
【0055】
( ) 従来の脱スケールのための酸洗装置は、前処理から仕上げ酸洗までを中性塩電解法,硫酸電解法,アルカリ電解法,硝酸電解法等の各種方法を種々組み合わせて行っていたが、仕上げ電解酸洗すべきステンレス鋼帯が冷間圧延された後に焼鈍されたステンレス鋼帯である場合には特別の前処理を施すことなく本発明方法の電解液を使用してその電解槽の長さを長くすることで対処できるので、電解液条件及び電解条件の維持管理を容易に行うことができると共にその薬液管理に要する費用の低減を図ることができる。
【0056】
( ) SUS430に代表されるクロム系ステンレス鋼帯を製造するための、従来の焼鈍炉,電解酸洗装置及び送板装置を備えた一連のライン化された焼鈍電解酸洗装置においては、焼鈍炉の処理能力に比較して電解酸洗装置における処理能力が劣っていたのでこの電解酸洗装置における処理能力によってライン速度が決定されていたが、従来の硝酸電解法より脱スケール能力の高い本発明方法を実施することによってライン速度を向上させることができ、一連のライン化された焼鈍酸洗装置におけるクロム系ステンレス鋼帯の処理能力が向上し、生産性に非常に優れている。
【図面の簡単な説明】
【図1】 SUS430光揮焼鈍材を各種電解液により電解酸洗したときの電解液の脱スケール能力と表面光沢に及ぼす影響を光沢度と酸洗減量とで示す図である。
【図2】 SUS430鋼帯材を焼鈍しスケールが生成されている焼鈍材を各種電解液の濃度を変えて電解酸洗したときの電解液の組成及び濃度変化に伴う脱スケール能力と表面光沢に及ぼす影響を光沢度と酸洗減量とで示す図である。
【図3】 SUS430鋼帯材を焼鈍しスケールが生成されている焼鈍材を本発明方法で使用する電解液の濃度を変えて電解酸洗したときの電解液中における試験片の電解極性の脱スケール能力と表面光沢に及ぼす影響を光沢度と酸洗減量とで示す図である。
【図4】 焼鈍炉,電解酸洗装置及び送板装置を備えた一連のライン化された焼鈍電解酸洗装置における電解酸洗装置を示す図である。
【符号の説明】
1 電解酸洗槽
1a アノード電極
1b カソード電極
2 電解酸洗槽
3 電解酸洗槽
4 電解用直流電源
5 デフレクターロール
6 浸漬ロール
7 ブラシロール
8 バックアップロール
9 酸洗液循環用ポンプ
10 酸洗液循環用配管
11 酸洗液循環用リザーブタンク
S ステンレス鋼帯

Claims (3)

  1. 硫酸濃度が0.25mol/L以上0.7mol/L以下の硫酸水溶液中に、該硫酸濃度に対するモル比が0.4〜0.6の硫酸ナトリウムを含有する電解液を、液温を40〜60℃の範囲に且つ脱スケール作用に伴い水溶液中に生成する金属イオンの濃度を鉄イオン濃度で前記硫酸濃度に対するモル比で0.5以下に維持しながら、電流密度が3〜8A/dm2の範囲で交番電解を行い、電解液を補充するに際しては、補充すべき硫酸及び硫酸ナトリウムの濃度を得る割合で硫酸と水酸化ナトリウムを混合調製した補充液を添加することを特徴とするステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法。
  2. アノード電解時間とカソード電解時間とを、(1〜4):1の割合で交番電解を行う請求項1に記載のステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法。
  3. 冷間圧延された後に焼鈍されたステンレス鋼帯を前処理を施すこと無く仕上げ電解酸洗する請求項1又は2に記載のステンレス鋼帯の脱スケールにおける仕上げ電解酸洗方法。
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