JP3788837B2 - 印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、オフセット印刷等の支持体として使用される印刷版用アルミニウム合金板に関し、特に、短時間の電解粗面化処理によって、均一な電解粗面化面を形成することができる印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来より一般にオフセット印刷においては、アルミニウム又はアルミニウム合金(以下、総称してアルミニウムという)板が支持体として使用されている。この印刷版用アルミニウム板は、感光膜に対する密着性及び非画像部の保水性を付与するために、アルミニウム板の表面に粗面化処理を施して得られたものである。この粗面化処理方法として、従来から、ボール研磨法及びブラシ研磨法等の機械的処理法が使用されているが、最近は、塩酸若しくは塩酸を主体とする電解液、又は硝酸若しくは硝酸を主体とする電解液を使用してアルミニウム板表面を電気化学的に粗面化する電解粗面化処理法、更に、前述の機械的処理法とこの電解粗面化処理法とを組み合わせた処理方法が主に使用されるようになってきている。これは、電解粗面化処理法によって得られた粗面板が製版に適しており、また印刷性能も優れているからであり、更に電解粗面化処理法では、アルミニウム板をコイル状にして連続処理する場合に適しているからである。
【0003】
前述のようにして、粗面化されるアルミニウム板には、その粗面化処理によって均一な凹凸(ピット)が形成されることが要求される。均一な凹凸が形成された印刷版用アルミニウム板においては、感光膜との密着性及び保水性が向上すると共に、優れた画像鮮明性及び耐刷性を得ることができる。また、最近では粗面化処理コストを低減させるため、より短時間又は低通電量で均一な凹凸を形成することができる材料の開発が強く求められている。
【0004】
このような電気化学的粗面化処理に適するアルミニウム板は、Fe及びその他の微量元素を添加することにより得ることができ、例えば、Fe:0.2乃至1.0重量%及びSn、In、Ga及びZnから選択された1種以上の元素が0.01乃至0.1重量%添加されたアルミニウム合金板が提案されている(特公平1−47544号公報)。このアルミニウム合金板は、均一な電解粗面化面を得ることができるという特徴がある。
【0005】
また、均一な凹凸を有する粗面を形成すると共に、非画線部の汚れを防止して画線部の調子再現性及び色調(明度)を良好にするアルミニウム合金板として、Fe:0.1乃至1.0重量%、Si:0.02乃至0.15重量%及び不純物のCu:0.003重量%以下を含有し、更に残部がAl及びCu以外の不可避的不純物からなるアルミニウム合金板が提案されている(特公平1−47545号公報)。
【0006】
更に、Fe:0.1乃至0.5重量%、Si:0.03乃至0.30重量%、Cu:0.001乃至0.03重量%、Ni:0.001乃至0.03重量%、Ti:0.002乃至0.05重量%及びGa:0.005乃至0.020重量%を含有し、更にGa及びTiの合計含有量が0.010乃至0.050重量%であるアルミニウム合金板が提案されている(特開平3−177528号公報)。このアルミニウム合金板においては、筋状の粗面化ムラであるストリーク及び不規則な画質ムラを改善したものであると共に、粗面のピットが均一であるため、非画線部の汚れが防止されている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、近時、コスト低減のために、電解処理速度の向上が要求されており、短時間の電解粗面化処理で均一なピットが形成されるアルミニウム板が要望されている。即ち、電解粗面化処理時間が短く、通電量が少ない場合であっても、短時間で均一な独立ピットが形成され、アルミニウム板に未エッチング部(アルミニウム板表面のエッチングされていない部分)が発生しないことが要望されている。しかしながら、従来のアルミニウム板はこのような要望を満足するものではなかった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、電解粗面化処理時間が短時間であっても、電解処理面に均一に粗面化ピットが形成されると共に、ピットの大きさが略一定となる印刷版用アルミニウム合金板及びその製造方法を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板は、Fe:0.20乃至0.6重量%、Si:0.03乃至0.15重量%及びTi:0.005乃至0.05重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、表面から3μmの深さまでの表層部のSi濃度は全体のSi濃度よりも0.01乃至0.17重量%高く、前記表層部はSiを0.05乃至0.2重量%含有することを特徴とする。
【0010】
このTiの含有量は0.01乃至0.05重量%であることが好ましい。また、印刷版用アルミニウム合金板は、更に、Bを1乃至50重量ppm含有することが望ましい。
【0011】
本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、Fe:0.20乃至0.6重量%、Si:0.03乃至0.15重量%、Ti:0.005乃至0.05重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を500乃至630℃の温度で均質化処理する工程と、この均質化処理材を370乃至470℃の圧延開始温度で熱間圧延する工程と、を有し、表面から3μmの深さまでの表層部におけるSi濃度が全体のSi濃度よりも0.01乃至0.17重量%高く、前記表層部のSi含有量が0.05乃至0.2重量%であるアルミニウム合金板を得ることを特徴とする。
【0012】
このアルミニウム合金鋳塊中のTiの含有量は0.01乃至0.05重量%であることが好ましく、更に、Bを1乃至50重量ppm含有することが望ましい。
【0013】
また、この印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、前記熱間圧延する工程の後に、この熱間圧延材を冷間圧延する工程と、冷間圧延の途中で中間焼鈍する工程とを有することができる。また、冷間圧延する工程の後に、冷間圧延材をレベラー矯正する工程を有していてもよい。
【0014】
【発明の実施の形態】
本願発明者等は、電解粗面化処理時間が短時間であっても、均一な粗面化ピットを形成することができる印刷版用アルミニウム合金板を得るために、種々実験研究を行った。その結果、アルミニウム合金板が含有する合金元素のうち、従来より添加されているFe及びSiの含有量を適切に調整すると共に、印刷版用アルミニウム合金板の電解粗面化処理を受ける表層部、即ち、表面から板厚方向に3μmの深さまでの領域におけるSi含有量を、アルミニウム合金板全体のSi含有量よりも増加させることにより、より一層均一なピットを有する電解粗面を得ることができることを見い出した。また、必要に応じてBを添加すると、アルミニウム板を、更に一層均一にエッチングすることができる。
【0015】
このように、アルミニウム合金板に含有される特定成分の含有量及びアルミニウム合金板の表層部のSi含有量を適切に調整することによって、電解粗面化処理時間が短時間であっても、均一性が良好である粗面化ピットを得ることができる。
【0016】
以下、本発明における印刷版用アルミニウム合金板について、更に説明する。先ず、アルミニウム合金板に含有される化学成分及び組成限定理由について説明する。
【0017】
Fe:0.20乃至0.6重量%
Feはアルミニウム合金板の電解面に均一なピットを形成する作用を有する元素である。また、Feはアルミニウム中において他の元素と結合し、Al−Fe系の共晶化合物を形成する。この共晶化合物は、再結晶粒を微細化する効果を有すると共に、均一なピットを有する粗面化面を形成する効果も有している。Fe含有量が0.20重量%未満であると、電解粗面化ピットの反応起点数が不足し、未エッチング部が発生する。一方、Fe含有量が0.6重量%を超えると、粗大化合物が形成されることによって、電解粗面化面が不均一になってしまう。従って、Fe含有量は0.20乃至0.6重量%とする。
【0018】
Si:0.03乃至0.15重量%
SiはAl−Fe−Si系金属間化合物を形成し、熱間圧延時の各パス間において再結晶粒の核として作用するので、熱間圧延時に形成される再結晶粒を微細化する効果を有する。Si含有量が0.03重量%未満であると、この効果を十分に得ることができず、印刷版支持体を作製した場合にストリーク評価が劣化する。一方、Si含有量が0.15重量%を超えると、粗大化合物が形成されることによって、電解粗面化面が不均一になってしまう。従って、Si含有量は0.03乃至0.15重量%とする。なお、本発明においては、特に、アルミニウム合金板の表層部におけるSi含有量についても規定しているが、本項目においては、アルミニウム合金板全体のSi含有量を規定するものである。
【0019】
Ti:0.005乃至0.05重量%
Ti−Bの母合金は、鋳造組織を微細化して、これにより結晶粒を微細化する作用を有する。Ti含有量が0.005重量%未満であると、結晶粒微細化効果を十分に得ることができない。また、Tiには、微細化効果に加えて、上述の他の成分と同様に、電解粗面化面を均一にする効果を有する。この効果を十分に得るためには、Ti含有量が0.01重量%以上であることが好ましい。一方、Ti含有量が0.05重量%を超えると、粗大化合物が形成され、これによって筋状の深いピットが形成されるので、電解粗面化面が不均一になる。従って、Ti含有量は0.005乃至0.05重量%とする。なお、好ましくは、Ti含有量は0.01乃至0.05重量%である。
【0020】
表層部におけるSi:0.05乃至0.2重量%
Siは熱間圧延時の再結晶粒の粒径を微細化する効果を有する。この効果に加えて、アルミニウム合金板の表層部のSi濃度を増加させることによって、電解粗面化面を更に一層均一化させることができる。アルミニウム合金板の表層部、即ち、表面から3μmの深さまでの領域におけるSi含有量が0.05重量%未満であると、電解粗面化面の均一性が低下する。一方、アルミニウム合金板の表層部におけるSi含有量が0.2重量%を超えると、エッチングが過多となって、不均一なピットを有する粗面が形成される。従って、アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部におけるSi含有量は、0.05乃至0.2重量%とする。
【0021】
表層部のSi濃度とアルミニウム合金板全体のSi濃度との差:0.01乃至0.17重量%
前述の如く、アルミニウム合金板の表層部のSi濃度を増加させ、アルミニウム合金板全体のSi濃度よりも高くすることによって、アルミニウム合金板の深さ方向にエッチングが進行しやすくなり、電解粗面化面を更に一層均一化させることができる。アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部におけるSi濃度と全体のSi濃度との差が0.01重量%未満であると、表面の濃縮量が不足して、電解粗面仮面の均一性が低下する。一方、表層部と全体のSi濃度差が0.17重量%を超えると、エッチングが過多となって、不均一なピットを有する粗面が形成される。従って、本発明においては、アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部におけるSi濃度をアルミニウム合金板全体のSi濃度よりも0.01乃至0.17重量%高くする。
【0022】
B:1乃至50重量ppm
前述の如く、Ti−B母合金は結晶粒微細化剤として作用する。この結晶粒微細化作用は、固溶Tiの減少と共に、Ti−B粒子が増加することによって、微細な核が増加することによって得られる。本願発明者等は、更に、Ti−Bの粒子数が増加することによって、電解粗面化面を均一化する効果を得ることができることを見い出した。B含有量が1重量ppm未満であると、電解不足によってエッチングピットが不均一になりやすい。一方、B含有量が50重量ppmを超えると、粗大な化合物が形成され、これによって筋状の深いピットが形成されるので、電解粗面化面が不均一になることがある。従って、アルミニウム合金板中にBを含有させる場合は、その含有量を1乃至50重量ppmとすることが好ましい。
【0023】
なお、本発明における印刷版用アルミニウム合金板は、不可避的不純物として、Cu、Mn、Mg、Zn、Cr、V、Ni及びGa等が含有されることがあるが、各成分の含有量が、夫々、0.02重量%以下であれば、本発明の効果に悪影響を与えることはない。
【0024】
また、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板の製造方法においては、上述の如く化学組成を規定すると共に、均質化処理温度及び熱間圧延開始温度を制御する。これにより、得られたアルミニウム合金板は、その表層部でSiが濃縮されて、電解粗面化処理を施した場合に、未エッチング部が少なくなると共に、ピットの大きさにバラツキが発生せず、均一な粗面化面が形成される。
【0025】
以下、印刷版用アルミニウム合金板の製造方法における均質化処理温度及び熱間圧延開始温度の数値限定理由について説明する。
【0026】
均質化処理温度:500乃至630℃
アルミニウム合金鋳塊からアルミニウム合金板を圧延等により製造する場合に、この鋳塊を圧延する前に、所定温度で均質化処理することが必要である。均質化処理温度が500℃未満では、アルミニウム合金鋳塊の均質化が不十分となるため、得られたアルミニウム合金板に電解粗面化処理を施した場合に、電解粗面化面が不均一になる。一方、均質化処理温度が630℃を超えると、結晶粒の粒径が粗大になるので、マクロ組織が粗大となって、筋状のムラであるストリークが発生する。
【0027】
また、均質化処理温度を適切に規定することにより、アルミニウム合金板の表層部のSi濃度を適切な濃度に濃縮させ、電解粗面化面を均一化することができる。均質化処理温度が500℃未満であると、アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部において、Siの濃縮量が不足し、電解粗面化面の均一性が低下する。一方、均質化処理温度が630℃を超えると、アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部において、Siの濃縮量が増大し、エッチング過多となって不均一なピットを有する粗面化面が形成される。従って、均質化処理温度は500乃至630℃とする。
【0028】
熱間圧延開始温度:370乃至470℃
上述の均質化処理が施されたアルミニウム合金鋳塊を熱間圧延するときには、所定の温度で熱間圧延を開始する必要がある。熱間圧延開始温度が370℃未満であると、圧延板の結晶組織が不均一となって、得られたアルミニウム合金板の電解粗面化面が不均一となる。一方、熱間圧延開始温度が470℃を超えると、熱間圧延の各パス間において、結晶粒が成長して、ストリークが発生する。
【0029】
また、均質化処理温度が本発明において規定した500乃至630℃の範囲であっても、熱間圧延温度が370℃未満であると、アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部において、Siを濃縮させることができないことがあり、電解粗面化面の均一性が低下する。一方、熱間圧延温度が470℃を超えると、アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部において、Siの濃縮量が増大することがあり、エッチング過多となって不均一なピットを有する粗面化面が形成される。従って、熱間圧延開始温度は370乃至470℃とする。
【0030】
なお、熱間圧延処理は、上述の均質化処理を施したアルミニウム合金鋳塊を370乃至470℃の温度まで冷却した後に開始することができるが、均質化処理を施したアルミニウム合金鋳塊を一旦冷却した後に、再度、370乃至470℃の温度まで加熱して開始してもよい。
【0031】
また、熱間圧延の終了後に、得られたアルミニウム合金板に対して1又は複数回の冷間圧延を実施し、必要に応じて冷間圧延の途中で中間焼鈍すると、所定の板厚を有する印刷版用アルミニウム合金板を製造することができる。この場合に、冷間圧延の終了後に、レベラー矯正を実施すると、アルミニウム合金板の平面性を向上させることができる。
【0032】
【実施例】
以下、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
【0033】
先ず、下記表1に示す種々の化学組成を有する各アルミニウム合金鋳塊を面削して厚さを480mmとし、593℃の温度で4.5時間の均質化処理を施した。次に、圧延開始温度を445℃に設定して熱間圧延し、更に冷間圧延、中間焼鈍及び冷間圧延を順次施すことにより、板厚が0.3mmのアルミニウム合金板を製造した。このとき、得られた各アルミニウム合金板の表面から3μmの深さまでの表層部について、グロー放電質量分析法(GD−MS)によってSi含有量を分析した。
【0034】
その後、得られたアルミニウム合金板に対して、下記表2に示す処理条件により、脱脂及び中和洗浄を実施した後、交流電解粗面化処理を実施し、更に、電解により形成された酸化物等を除去するためにデスマット処理を施した。その後、デスマット処理を施した各サンプルを水洗及び乾燥し、これを一定の大きさに切り取って試験片を作製した。そして、各試験片について、未エッチング部及び粗面化面の均一性を評価した。なお、下記表2中の1dm2とは、0.01m2のことである。
【0035】
その後、各試験片の粗面化表面を、走査型電子顕微鏡(SEM)によって350倍の倍率で表面観察して、視野の面積が0.02mm2となるように顕微鏡写真を撮影し、得られた写真から、下記数式1より未エッチング率を算出することにより、未エッチング部を評価した。
【0036】
【数1】
未エッチング率(%)=(粗面化されていない部分の面積/全体の面積)×100
【0037】
未エッチング部の評価は、上記数式1により算出された未エッチング率が8.0%以下の場合を○(良好)とし、未エッチング率が8.0%を超える場合を×(不良)とした。
【0038】
また、各試験片の粗面化表面を、走査型電子顕微鏡によって倍率を500倍として顕微鏡写真を撮影し、得られた観察写真上に全長が100cmの線を引き、線の下に存在する全てのピットの大きさ(直径)を測定することにより、電解粗面化面の均一性を評価した。均一性の評価は、最小のピットと最大のピットとの大きさの差が3μm以下のものを◎(優良)、3μmを超え5μm以下のものを○(良好)、5μmを超えるものを×(不良)とした。
【0039】
更に、各アルミニウム合金板から、15cm(圧延方向)×10cm(圧延方向に直交する方向)の試験板を2枚採取し、この試験板の表面(合計3dm2)を王水によって化学エッチングした後、表面に形成されたストリークの長さを測定することにより、ストリーク評価を実施した。ストリーク評価は、圧延方向の筋模様の長さが0.5cm未満の場合を◎(優良)、0.5cm以上1cm未満の場合を○(良好)とし、1cm以上の場合を×(不良)とした。これらの評価結果を下記表3に示す。
【0040】
なお、各実施例及び比較例共に、処理条件1によって処理したアルミニウム合金板の評価結果と、処理条件2によって処理したアルミニウム合金板の評価結果は同一となった。
【0041】
【表1】
【0042】
【表2】
【0043】
【表3】
【0044】
上記表1及び3に示すように、実施例No.1乃至3は、各元素の含有量が本発明にて規定した範囲内であるので、未エッチング部評価及び均一性のいずれもが良好であった。特に、実施例No.2及び3は、Ti含有量が好ましい範囲内であるので、電解粗面化面が更に一層均一化されて、ストリーク評価が極めて良好なものとなった。
【0045】
一方、比較例No.4は、Si含有量が0.01重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、結晶粒の微細化が不十分となって、ストリークが長くなった。比較例No.5はSi含有量が0.18重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、粗大化合物が形成されてピットの大きさにばらつきが発生した。
【0046】
比較例No.6はFe含有量が0.15重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、電解粗面化ピットが不足して、電解粗面化面に未エッチング部が生じた。比較例No.7はFe含有量が0.69重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、粗大化合物が形成されて、ピットの大きさにばらつきが発生し、均一性が不良となった。
【0047】
比較例No.8はTi含有量が0.002重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、鋳造組織の微細化が不十分となってストリークが長くなった。比較例No.9はTi含有量が0.071重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、粗大化合物が形成されて、ピットが深くなると共に筋状に形成されて、ピットの均一性が不良となった。
【0048】
また、比較例No.10はアルミニウム板表層部のSi含有量が0.04重量%であり、本発明範囲の下限未満であるので、Si濃度の表面濃縮量が不足して、ピットの均一性が劣化した。比較例No.11はアルミニウム板表層部のSi含有量が0.25重量%であり、本発明範囲の上限を超えているので、エッチングが過多となって、ピットの大きさにばらつきが発生し、ピットの均一性評価が不良となった。
【0049】
次に、アルミニウム合金板中へのBの添加効果を評価するために、下記表4に示す種々の化学組成を有する各アルミニウム合金鋳塊を面削して厚さを480mmとし、上述した方法と同様にして均質化処理、熱間圧延、冷間圧延、中間焼鈍及び冷間圧延を順次施すことにより、板厚が0.3mmのアルミニウム合金板を製造すると共に、得られた各アルミニウム合金板の表層部のSi含有量を分析した。
【0050】
その後、得られたアルミニウム合金板に対して、上記表2に示す処理条件により、脱脂、中和洗浄、交流電解粗面化処理及びデスマット処理を施した。その後、デスマット処理を施した各サンプルを水洗及び乾燥し、これを一定の大きさに切り取って試験片を作製した。そして、各試験片について、上述した方法と同様に、ストリーク評価、未エッチング部評価及び均一性評価を実施した。各評価結果を下記表5に示す。
【0051】
【表4】
【0052】
【表5】
【0053】
上記表4及び5に示すように、実施例No.21及び22は、各元素の含有量が本発明にて規定した範囲内であると共に、所定量のBを含有しているので、電解粗面化面が均一となった。その結果、表3に示す実施例No.1乃至3と比較して、ストリーク評価が同等以上の良好な結果となった。また、ピットの均一性が極めて良好であった。
【0054】
一方、比較例No.23はB含有量が0.3重量ppmであり、本発明範囲の下限未満であるので、いずれの評価項目においても、特に優れた結果を得ることができなかった。また、比較例No.24はB含有量が62重量ppmであり、本発明範囲の上限を超えているので、粗大化合物が形成されて、ピットの均一性が不良となった。
【0055】
次いで、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板の製造方法の実施例について、その比較例と比較して具体的に説明する。
【0056】
先ず、上記表1に示す実施例No.1〜3及び上記表4に示す実施例No.21、22と同一の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊を面削して厚さを480mmとし、下記表6に示す種々の温度で均質化処理を施し、更に、種々の圧延開始温度で熱間圧延した。その後、冷間圧延、中間焼鈍及び冷間圧延を順次施すことにより、板厚が0.3mmのアルミニウム合金板を製造すると共に、得られた各アルミニウム合金板の表層部のSi含有量を分析した。なお、下記表6に示す化学組成欄の数値は、上記表1及び4に示す実施例No.と対応しており、上記表1及び4に示す組成を有するアルミニウム合金鋳塊を使用したことを示す。
【0057】
その後、得られたアルミニウム合金板に対して、上記表2に示す処理条件により、脱脂、中和洗浄、交流電解粗面化処理及びデスマット処理を施した後、各サンプルを水洗及び乾燥し、これを一定の大きさに切り取って試験片を作製した。そして、各試験片について、上述した方法と同様に、ストリーク評価、未エッチング部評価及び均一性評価を実施した。
【0058】
但し、本実施例においては、未エッチング部の評価基準として、未エッチング率が10.0%以下である場合を○(良好)とし、未エッチング率が10.0%を超える場合を×(不良)とした。また、ストリーク評価の評価基準として、圧延方向の筋模様の長さが1cm未満である場合を○(良好)とし、1cm以上である場合を×(不良)とした。各評価結果を下記表7に示す。
【0059】
【表6】
【0060】
【表7】
【0061】
上記表6及び7に示すように、実施例No.31乃至35は均質化処理温度及び熱間圧延処理温度が本発明に規定した範囲内であるので、各評価はいずれも良好な結果となった。
【0062】
一方、比較例No.36は均質化処理温度が474℃であり、本発明範囲の下限未満であるので、均質化が不十分になると共に、Siの濃縮量が不足して、電解粗面化面のピットの均一性評価が不良となった。比較例No.37は均質化処理温度が641℃であり、本発明範囲の上限を超えているので、結晶粒が粗大となることによりマクロ組織が粗大となり、ストリーク評価が不良となった。
【0063】
また、比較例No.38は熱間圧延開始温度が361℃であり、本発明範囲の下限未満であるので、組織が不均一となり、電解粗面化面のピットの均一性評価が不良となった。比較例No.39は熱間圧延開始温度が489℃であり、本発明範囲の上限を超えているので、熱間圧延の各パス間において結晶粒が成長し、ストリークが発生した。
【0064】
【発明の効果】
以上詳述したように、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板は、組成が適切に規定されていると共に、その表層部におけるSi濃度が他の領域のSi濃度よりも高いものであるので、電解粗面化処理時間が短時間であっても、粗面化ピットが電解面に均一に形成されると共に、各ピットの大きさが略一定となる。
【0065】
また、本発明に係る印刷版用アルミニウム合金板の製造方法は、所定の化学組成を有するアルミニウム合金鋳塊を所定の条件で均質化処理及び熱間圧延するので、表層部のSi濃度を他の領域よりも高くすることができ、短時間の電解粗面化処理であっても均一な粗面化ピットが形成されると共に、各ピットの大きさが略一定となる印刷版用アルミニウム合金板を得ることができる。
Claims (8)
- Fe:0.20乃至0.6重量%、Si:0.03乃至0.15重量%及びTi:0.005乃至0.05重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金板であって、表面から3μmの深さまでの表層部のSi濃度は全体のSi濃度よりも0.01乃至0.17重量%高く、前記表層部はSiを0.05乃至0.2重量%含有することを特徴とする印刷版用アルミニウム合金板。
- 前記Tiの含有量は0.01乃至0.05重量%であることを特徴とする請求項1に記載の印刷版用アルミニウム合金板。
- 更に、Bを1乃至50重量ppm含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の印刷版用アルミニウム合金板。
- Fe:0.20乃至0.6重量%、Si:0.03乃至0.15重量%、Ti:0.005乃至0.05重量%を含有し、残部がAl及び不可避的不純物からなるアルミニウム合金鋳塊を500乃至630℃の温度で均質化処理する工程と、この均質化処理材を370乃至470℃の圧延開始温度で熱間圧延する工程と、を有し、表面から3μmの深さまでの表層部におけるSi濃度が全体のSi濃度よりも0.01乃至0.17重量%高く、前記表層部のSi含有量が0.05乃至0.2重量%であるアルミニウム合金板を得ることを特徴とする印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
- 前記アルミニウム合金鋳塊中のTiの含有量は0.01乃至0.05重量%であることを特徴とする請求項4に記載の印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
- 前記アルミニウム合金板は、更に、Bを1乃至50重量ppm含有することを特徴とする請求項4又は5に記載の印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
- 前記熱間圧延する工程の後に、この熱間圧延材を冷間圧延する工程と、冷間圧延の途中で中間焼鈍する工程と、を有することを特徴とする請求項4乃至6のいずれか1項に記載の印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
- 前記冷間圧延する工程の後に、冷間圧延材をレベラー矯正する工程を有することを特徴とする請求項4乃至7のいずれか1項に記載の印刷版用アルミニウム合金板の製造方法。
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