図1は、本発明の一実施例であるブレーキ液圧制御装置のシステム構成図である。本実施例のシステムは図示しない電子制御ユニット(以下、ECUと称す)により制御される。図1に示す如く、本実施例のブレーキ液圧制御装置は、ポンプ20を備えている。ポンプ20はモータ22により駆動される。ポンプ20の吸入口にはリザーバタンク24が連通している。また、ポンプ20の吐出口はレギュレータ26へ至る高圧通路28が連通している。高圧通路28にはアキュームレータ30が連通している。アキュームレータ30は、ポンプ20から吐出されたブレーキフルードを貯留する。
レギュレータ26には主油圧通路32が連通している。レギュレータ26は、高圧通路28から供給されるアキュームレータ30の油圧を、所定のレギュレータ圧PREに減圧して主油圧通路32に出力する。
主油圧通路32には、レギュレータ圧PREを検出する油圧センサ34、及び、増圧制御バルブ36が配設されている。油圧センサ34の出力信号はECUに供給されている。ECUは、油圧センサ34の出力信号に基づいてレギュレータ圧PREを検出する。
増圧制御バルブ36は、主油圧通路32の導通状態を変化させるリニア制御バルブである。増圧制御バルブ36は、ECUから供給される駆動信号に応じてその開度を変化させる。主油圧通路32には、増圧制御バルブ36と並列に、増圧制御バルブ36の下流側からレギュレータ26側へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁38が配設されている。
主油圧通路32の、増圧制御バルブ36の下流側には、補助リザーバタンク40へ至る減圧通路42が連通している。減圧通路42には減圧制御バルブ44が配設されている。減圧制御バルブ44は、減圧通路42の導通状態を制御するリニア制御バルブである。減圧制御バルブ44は、ECUから供給される駆動信号に応じてその開度を変化させる。減圧通路42には、減圧制御バルブ44と並列に、補助リザーバタンク40側から主油圧通路32側へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁46が配設されている。
主油圧通路32は、増圧制御バルブ36の下流側において、後輪RL,RR側のホイルシリンダ48,50へ至る後輪側油圧通路52に連通している。後輪側油圧通路52には、後輪側油圧通路52内部の油圧、すなわち、後輪側ブレーキ油圧PRを検出する油圧センサ54が配設されている。油圧センサ54の出力信号はECUに供給されている。ECUは、油圧センサ54の出力信号に基づいて後輪側ブレーキ油圧PRを検出すると共に、上記増圧制御バルブ36及び減圧制御バルブ44へ供給する駆動信号を変化させることにより後輪側ブレーキ油圧PRを制御する。
後輪側油圧通路52には、上流側から順に、後輪側保持バルブ56及びプロポーショニングバルブ58が配設されている。後輪側保持バルブ56は常開の電磁開閉バルブであり、ECUからオン信号を付与されることにより閉弁状態となる。プロポーショニングバルブ58は、後輪側油圧通路52から供給された油圧が所定値以下である場合には、その油圧をそのままホイルシリンダ48,50へ供給する一方、後輪側油圧通路52から供給された油圧が所定値を越えた場合には、その油圧を所定の比率で減圧してホイルシリンダ48,50へ供給する。
後輪側油圧通路52の後輪側保持バルブ56とプロポーショニングバルブ58との間の部位には、リザーバタンク24へ至る後輪側減圧通路60が連通している。後輪側減圧通路60には後輪側減圧バルブ62が配設されている。後輪側減圧バルブ62は常閉の電磁開閉バルブであり、ECUからオン信号を付与されることにより開弁状態となる。
後輪側油圧通路52の、後輪側保持バルブ56の上流側には、前輪側油圧通路64が連通している。前輪側油圧通路64には切替バルブ66が配設されている。切替バルブ66は常閉の電磁開閉バルブであり、ECUからオン信号を付与されることにより開弁状態となる。
前輪側油圧通路64の、切替バルブ66の下流側には、前輪側油圧通路64の内部の油圧、すなわち、前輪側ブレーキ油圧PFを検出する油圧センサ67が配設されている。油圧センサ67の出力信号はECUに供給されている。ECUは油圧センサ67の出力信号に基づいて前輪側ブレーキ油圧PFを検出する。
前輪側油圧通路64は、切替バルブ66の下流側において、左前輪のホイルシリンダ68へ至る左前輪油圧通路70、及び、右前輪のホイルシリンダ72へ至る右前輪油圧通路74に連通している。左前輪油圧通路70及び右前輪油圧通路74には、それぞれ、左前輪保持バルブ76及び右前輪保持バルブ78が配設されている。左前輪保持バルブ76及び右前輪保持バルブ78は、共に、常開の電磁開閉バルブであり、ECUからオン信号を付与されることにより閉弁状態となる。
左前輪油圧通路70の左前輪保持バルブ76とホイルシリンダ68との間の部位、及び、右前輪油圧通路74の右前輪保持バルブ78とホイルシリンダ72との間の部位には、それぞれ、左前輪減圧通路80及び右前輪減圧通路82が連通している。左前輪減圧通路80及び右前輪減圧通路82は、共に、リザーバタンク24に連通している。左前輪減圧通路80及び右前輪減圧通路82には、それぞれ、左前輪減圧バルブ84及び右前輪減圧バルブ86が配設されている。左前輪減圧バルブ84及び右前輪減圧バルブ86は、共に、常閉の電磁開閉バルブであり、ECUからオン信号を付与されることにより開弁状態となる。
本実施例のブレーキ液圧制御装置は、また、マスタシリンダ88を備えている。マスタシリンダ88にはブレーキペダル89が連結されている。マスタシリンダ88は、ブレーキペダル89に付与された踏力に応じたマスタシリンダ圧PM/Cを発生する。
マスタシリンダ88には、マスタ圧通路90が連通している。マスタ圧通路90には、マスタシリンダ圧PM/Cを検出する油圧センサ91が配設されている。油圧センサ91の出力信号はECUに供給されている。ECUは、油圧センサ91の出力信号に基づいてマスタシリンダ圧PM/Cを検出する。また、マスタ圧通路90には、ストロークシミュレータ部92が連通している。
マスタ圧通路90には、左前輪のホイルシリンダ68へ至る左前輪マスタ圧通路94、及び、右前輪のホイルシリンダ72へ至る右前輪マスタ圧通路96が連通している。左前輪マスタ圧通路94及び右前輪マスタ圧通路96には、それぞれ、切替バルブ98及び100が配設されている。切替バルブ98及び100は、共に、常開の電磁開閉バルブであり、ECUからオン信号を付与されることにより閉弁状態となる。
次に、ブレーキ液圧制御装置の動作について説明する。本実施例のブレーキ液圧制御装置において、システムに異常が生じていない正常時には、ブレーキペダル89が踏み込まれると、切替バルブ66,98,100は何れもオン状態とされる。この場合、左前輪マスタ圧通路94及び右前輪マスタ圧通路96の導通が共に遮断されると共に、前輪側油圧通路64が導通される。かかる状態で、後輪側保持バルブ56、後輪側減圧バルブ62、左前輪保持バルブ76、右前輪保持バルブ78、左前輪減圧バルブ84、及び右前輪減圧バルブ86がオフ状態とされると、主油圧通路52内の油圧、すなわち、後輪側ブレーキ油圧PRは、前輪側のホイルシリンダ68、72に導かれると共に、プロポーショニングバルブ58を介して後輪側のホイルシリンダ48,50に導かれる。以下、この状態を、通常ブレーキ状態と称する。通常ブレーキ状態において、ECUは、後輪側ブレーキ油圧PRが、マスタシリンダ圧PM/Cに応じた値となるように、増圧制御バルブ36及び減圧制御バルブ44に付与する駆動信号を制御する。
何れかの車輪にロック傾向が生じたことが検出されると、その車輪についてABS制御が開始される。例えば、左前輪FLにロック傾向が生じたことが検出されると、左前輪FLについてABS制御が開始される。左前輪FLについてのABS制御は、通常ブレーキ状態において、左前輪保持バルブ76及び左前輪減圧バルブ84が開閉されることで実現される。
通常ブレーキ状態において、左前輪保持バルブ76が閉弁されると共に、左前輪減圧バルブ84が開弁されると、ホイルシリンダ68はリザーバタンク24と連通する。この場合、ブレーキフルードがホイルシリンダ68からリザーバタンク24へ流出することで、ホイルシリンダ68の油圧が速やかに減圧される。この状態を、以下、減圧モードと称する。
減圧モードによって、ホイルシリンダ68の油圧が減圧された状態で、左前輪保持バルブ76が開弁されると共に、左前輪減圧バルブ84が閉弁されると、ホイルシリンダ68は主油圧通路52と連通する。このため、ホイルシリンダ68の油圧は後輪側ブレーキ油圧PRに向けて昇圧される。以下、この状態を、増圧モードと称する。
また、左前輪保持バルブ76及び左前輪減圧バルブ84が共に閉弁されると、ホイルシリンダ68はマスタシリンダ88及びリザーバ24の双方から遮断される。このため、ホイルシリンダ68の油圧は保持される。この状態を、以下、保持モードと称する。
左前輪FLのABS制御は、車輪のスリップ率が所定のしきい値以下に保持されるように、上記減圧モード、増圧モード、及び保持モードが切り替えて形成されることにより実行される。また、右前輪FRのABS制御についても同様に、右前輪保持バルブ78及び右前輪減圧バルブ86の開閉状態に応じて、減圧モード、増圧モード、及び保持モードが適宜切り替えて形成されることにより実現される。後輪側のABS制御は、後輪側保持バルブ56及び後輪側減圧バルブ62が切り替えられることにより、左右後輪RL,RRについて共通に実行される。
本実施例のブレーキ液圧制御装置において、システムに異常が生じたことが検出されると、切替バルブ98及び100は共にオフ(開弁)状態とされる。この場合、前輪側のホイルシリンダ68、72とマスタシリンダ88とが連通することで、ホイルシリンダ68,72の油圧がマスタシリンダ圧PM/Cを上限として昇圧されることが保証される。
上述の如く、本実施例のブレーキ液圧制御装置において、正常時には、ブレーキペダル89が踏み込まれると同時に切替バルブ98及び100は共に閉弁状態とされる。切替バルブ98,100が閉弁状態とされると、マスタシリンダ圧PM/Cが上昇しても、ブレーキフルードがマスタシリンダ88からホイルシリンダ68,72へ流出することはない。この場合、マスタシリンダ88内のブレーキフルードがストロークシミュレータ部92へ流出することで、その流出量に応じたペダルストロークSが発生する。
本実施例のブレーキ液圧制御装置は、ストロークシミュレータ部92が、マスタシリンダ圧PM/Cに応じた適切なペダルストロークSを発生させることにより、運転者に対して違和感のないペダルフィーリングを与え得る点に特徴を有している。以下、図2を参照して、ストロークシミュレータ部92の構成を説明する。
図2は、ストロークシミュレータ部92の構成図である。図2に示す如く、ストロークシミュレータ部92はストロークシミュレータ102を備えている。ストロークシミュレータ102は、シリンダ103を備えている。シリンダ103の内部には、ピストン104が摺動可能に配設されている。ピストン104の周囲にはOリング106が装着されている。Oリング106によりピストン104とシリンダ103との間の液密性が確保されている。
シリンダ103の内部空間は、ピストン104によって、第1液室108と第2液室110とに区画されている。第1液室108には、マスタ側ポート112が連通している。マスタ側ポート112はマスタ圧通路90と連通している。従って、第1液室108には、マスタシリンダ圧PM/Cに等しい液圧のブレーキフルードが導かれる。
第2液室110には、コイルスプリング114が配設されている。コイルスプリング114はピストン104を第1液室側へ向けて付勢している。ブレーキペダル89が踏み込まれていない場合、マスタシリンダ圧PM/Cは大気圧に等しい。従って、この場合、第1液室108の液圧は大気圧に等しくなるため、ピストン104はコイルスプリング114の付勢力によって、第1液室108の容積が実質的にゼロとなる位置まで変位される。
第2液室110には、リザーバ側ポート116が連通している。リザーバ側ポート116には、リザーバタンク24へ至るリザーバ連通路118が連通している。リザーバ連通路118には、電磁弁120が配設されている。電磁弁120は常開の電磁開閉弁であり、ECUからオン信号を付与されると閉弁状態となる。リザーバ連通路118には、また、電磁弁120と並列に、リザーバタンク24側からストロークシミュレータ102側へ向かう流体の流れのみを許容する逆止弁122が配設されている。
電磁弁120が開弁された状態(以下、導通状態と称す)では、第2液室110がリザーバタンク24と連通するため、第2液室110の液圧は大気圧に等しくなる。この導通状態において、第1液室108に導かれる液圧、すなわち、マスタシリンダ圧PM/Cが上昇すると、ピストン104は第2液室110側へ変位する。この場合、ピストン104の変位に伴う第2液室110の容積の減少は、ブレーキフルードが第2液室110からリザーバタンク24へ流出することにより補償される。
コイルスプリング114のバネ定数をk、ピストン104の断面積をAとすると、ピストン104の変位量xは次式で表される。
x=PM/C・A/k (1)
なお、マスタシリンダ圧PM/C は大気圧からの昇圧量で示している。
ピストン104が第2液室110側へxだけ変位すると、その変位量xに比例した量のブレーキフルードがマスタシリンダ88から第1液室108へ流出する。マスタシリンダ88からブレーキフルードが流出すると、ブレーキペダル89には、その流出量に比例したペダルストロークSが発生する。従って、ブレーキペダル89のペダルストロークSは、ピストン104の変位量xに比例している。
このように、導通状態では、ピストン104の変位量xはマスタシリンダ圧PM/Cに比例し、また、ペダルストロークSは変位量xに比例する。従って、導通状態では、マスタシリンダ圧PM/Cに比例したペダルストロークSが生ずることになる。
上記(1)式からわかるように、導通状態における、ペダルストロークSとマスタシリンダ圧PM/Cとの関係、すなわち、ストローク−マスタ圧関係の勾配は、コイルスプリング114のバネ定数kに比例する。従って、コイルスプリング114のバネ定数kを適宜設定することで、所望の勾配のストローク−マスタ圧関係を生成することができる。
なお、ピストン104の変位量xの最大値xHは、コイルスプリング114の最大収縮量により規制される。従って、ペダルストロークSが、xHに対応する値SHに達すると、以後、マスタシリンダ圧PM/Cが増加してもペダルストロークSは増加しない。
図3に、導通状態におけるストロークペダル関係を実線で示す。図3に示す如く、ペダルストロークSは所定値SHに達するまでマスタシリンダ圧PM/Cに比例して変化している。なお、図3には、導通状態においてマスタシリンダ圧PM/Cが増加した状態で、電磁弁120が一定期間閉弁され、再び、開弁された場合の、ストローク−マスタ圧関係を破線で示している。
電磁弁120が閉弁された状態(以下、遮断状態と称する)では、第2液室110とリザーバタンク24との連通は遮断される。このため、遮断状態においては、マスタシリンダ圧PM/Cが昇圧されても、第2液室110内のブレーキフルードはリザーバタンク24へ流出することができない。この場合、マスタシリンダ圧PM/Cの昇圧に応じて、第2液室110の液圧が上昇し、ピストン104に変位は生じない。ピストン104に変位が生じないと、マスタシリンダ88内のブレーキフルードは第1液室108へ流出することはできない。このため、図3に矢印Aで示す如く、マスタシリンダ圧PM/Cが増加しても、ペダルストロークSに変化は生じない。
遮断状態において第2液室110の液圧が上昇した状態で、再び導通状態に切り替えられると、第2液室110の液圧が大気圧に達するまで、第2液室110からリザーバタンク24へブレーキフルードが流出する。第2液室110からブレーキフルードが流出すると、ピストン104が第2液室110側へ変位する。このため、図3に矢印Bで示す如く、マスタシリンダ圧PM/Cが一定に保たれていても、ペダルストロークSは、導通状態におけるストローク−マスタ圧関係に応じた値となるまで増加する。
なお、遮断状態において、ブレーキペダル89の踏み込みが解除されることによりマスタシリンダ圧PM/Cが減少した場合には、ブレーキフルードが逆止弁122を経由して第2液室110へ流入することで、ピストン104は第1液室108側へ変位する。従って、ブレーキペダル89の踏み込みが解除されると、第1液室108内のブレーキフルードはマスタシリンダ88へ速やかに回収される。
ところで、ストロークシミュレータ部92が生成するストローク−マスタ圧関係が、マスタシリンダ88のブレーキフルードがすべてホイルシリンダ48,50,68,72へ消費されるとした場合のストローク−マスタ圧関係に一致すると、運転者に対して違和感のない良好なペダルフィーリングを与えることができる。ホイルシリンダ48,50,68,72は、その液圧が上昇するのに応じて、消費流量の変化が減少する特性を有している。従って、良好なペダルフィーリングを実現するために、ストロークシミュレータ部92が生成するストローク−マスタ圧関係は、マスタシリンダ圧PM/Cが増加するのに応じて、その勾配が増加するような非線形なものとなることが望ましい。
図4は、運転者に違和感のないペダルフィーリングを与えることが可能なストローク−マスタ圧関係(以下、理想ストローク−マスタ圧関係と称する)を示す。図4に示す如く、理想ストローク−マスタ圧関係において、その勾配はマスタシリンダ圧PM/Cが増加するのにつれて大きくなる。マスタシリンダ圧PM/Cが所定値P0以下の領域(以下、第1の領域と称す)では、マスタシリンダ圧PM/Cの変化に対する勾配の変化率は比較的小さい。従って、この第1の領域では、図4に一点鎖線で示す如く、理想ストローク−マスタ圧関係を直線で近似することができる。一方、マスタシリンダ圧PM/Cが所定値P0を越えた領域(以下、第2の領域と称す)では、マスタシリンダ圧PM/Cの変化に対する勾配の変化率は大きくなる。
上述の如く、本実施例において、ストロークシミュレータ部92が導通状態にある場合、ストローク−マスタ圧関係は、コイルスプリング114のバネ定数kで定まる勾配の直線的な関係となる。従って、導通状態におけるストローク−マスタ圧関係の勾配が、理想ストローク−マスタ圧関係の第1の領域における勾配にほぼ一致するようにコイルスプリング114のバネ定数を設定することで、第1の領域において、理想ストローク−マスタ圧関係に近似したストローク−マスタ圧関係を生成することができる。
一方、ストロークシミュレータ部92が遮断状態にある場合、マスタシリンダ圧PM/C が増加してもペダルストロークSは増加しない。すなわち、ストローク−マスタ圧関係の勾配は無限大となる。また、遮断状態においてマスタシリンダ圧PM/Cが増加した状態から遮断状態に切り替えられると、マスタシリンダ圧PM/Cが一定に保持されてもペダルストロークSは増加する。すなわち、ストローク−マスタ圧関係の勾配はゼロとなる。このため、電磁弁120の開閉をデューティ制御することで導通状態と遮断状態とを交互に繰り返し実現すると、そのデューティ比に応じて、ストローク−マスタ圧関係の勾配が変化することになる。
そこで、本実施例においては、マスタシリンダ圧PM/CがP0よりも大きい場合には、PM/Cの増加に応じて、電磁弁120の閉弁状態の割合が大きくなるように、デューティ比を変化させることで、第2の領域においても理想ストローク−マスタ圧関係に近似したストローク−マスタ圧関係を実現することとしている。
図5は、本実施例において、電磁弁120のデューティ制御を実行する際にECUが参照するテーブルである。図5に示すテーブルは、マスタシリンダ圧PM/CのP0以上の領域を例えば4つの領域I〜IVに区分し、各領域において理想ストローク−マスタ圧関係に近似したストローク−マスタ圧関係が得られるように、各領域に対する導通状態のデューティ比を予め実験的に求めることにより得られたものである。図5に示す如く、マスタシリンダ圧PM/Cの増加に応じて、電磁弁120の閉弁状態の比率が増加している。なお、図5に示すテーブルにおいて、マスタシリンダ圧PM/Cを4 つの領域に区分することとしたが、これに限らず、任意の数の領域に区分することができる。
ECUは、マスタシリンダ圧PM/Cが所定値P0 を上回ったことを検出すると、図5に示すテーブルを参照して、デューティ比を決定し、そのデューティ比で電磁弁120をデューティ制御する。図6は、本実施例において得られたストローク−マスタ圧関係を示す。なお、図6には、理想ストローク−マスタ圧関係を破線で併示している。
図6に示す如く、マスタシリンダ圧PM/Cが所定値P0以下の領域では、コイルスプリング114のバネ定数に応じた勾配の直線的な関係となる。一方、マスタシリンダ圧PM/CがP0を上回った領域では、PM/Cの増加に応じて勾配が増加することで、全体として理想ストローク−マスタ圧関係に近似したストローク−マスタ圧関係が生成されている。
なお、上記デューティ制御の実行中に、マスタシリンダ圧PM/Cが一定に保持された場合、電磁弁120の開弁期間に、ブレーキフルードがマスタシリンダ88から第1液室108へ流出する。すなわち、マスタシリンダ圧PM/Cを一定に保ってもペダルストロークSが増加することで、運転者に違和感を与えてしまう。そこで、本実施例においては、デューティ制御の実行中にマスタシリンダ圧PM/Cの時間変化がゼロになった場合には電磁弁120を閉弁することとしている。
上述の如く、本実施例においては、電磁弁120が、マスタシリンダ圧PM/Cに応じたデューティ比でデューティ制御されることで、理想ストローク−マスタ圧関係に近似した非線型なストローク−マスタ圧関係が実現される。このため、例えば、コイルスプリング114のバネ定数のバラツキ等によりストロークシミュレータ100に固有のストローク−マスタ圧関係(すなわち、導通状態におけるストローク−マスタ圧関係)が変化した場合にも、理想ストローク−マスタ圧関係に近似したストローク−マスタ圧関係を生成することができる。従って、本実施例のブレーキ液圧制御装置によれば、ストロークシミュレータ100の個体差の影響を受けることなく、一定のペダルフィーリングを実現することができる。
なお、システムに異常が生じた場合には、切替バルブ66,98,100が何れもオフ状態とされることで、前輪側のホイルシリンダ68,72にマスタシリンダ88からブレーキフルードが直接供給される。このため、前輪側のホイルシリンダ圧については、マスタシリンダ圧PM/Cに等しい値まで確実に増圧させることができる。しかしながら、後輪側のホイルシリンダ48,50にはマスタシリンダ88からブレーキフルードが供給されることはないため、後輪側の油圧系統に異常が生ずると、後輪側のホイルシリンダ圧が適切に制御されない可能性がある。従って、システムに異常が生じた場合には、前輪側のホイルシリンダ圧をマスタシリンダ88を液圧源として速やかに増圧させることにより、所要の制動力を確保することが望ましい。この場合、マスタシリンダ88内のブレーキフルードがストロークシミュレータ102へ流出し得るものとすると、ホイルシリンダ68,72に供給されるブレーキフルード量が減少することで、前輪側のホイルシリンダ圧の増圧が効率的に行なわれなくなってしまう。
そこで、本実施例においては、システムに異常が生じ、前輪側のホイルシリンダ68,72にマスタシリンダ圧PM/Cが直接導かれる状況の下では、電磁弁120を閉弁状態とすることとしている。電磁弁120が閉弁状態とされると、マスタシリンダ88内のブレーキフルードがストロークシミュレータ102の第1液室108へ流入することが禁止される。従って、本実施例によれば、システムに異常が生じた場合に、前輪側のホイルシリンダを効率的に増圧することができる。
また、ストロークシミュレータ102のOリング106にシール不良が発生し、第1液室108側から第2液室110へブレーキフルードの漏れが生ずる場合がある。この場合、本実施例においては、ホイルシリンダ68,72にマスタシリンダ圧PM/Cが直接導かれる状況の下で、電磁弁120が閉弁状態とされることにより、第1液室108側から第2液室110へ漏れたブレーキフルードがリザーバタンク26へ流出することが防止される。従って、本実施例によれば、Oリング106にシール不良が発生した場合にも、マスタシリンダ88から第1液室108へのブレーキフルードの流出を阻止することができ、これにより、システムに異常が検出された場合に、前輪側のホイルシリンダ圧を所期の値まで確実に増圧することが可能となっている。
このように、本実施例においては、ストロークシミュレータ102とリザーバタンク24との間に電磁弁120を設けることで、フェールセーフ対策の点においても優れた性能を有するブレーキ液圧制御装置が実現されている。なお、電磁弁120として常閉の電磁弁を用いることとすれば、システム異常時にも電磁弁120を確実に閉弁させることができる。従って、電磁弁120を常閉の電磁弁とすることで、ブレーキ液圧制御装置のフェールセーフ対策をより万全なものとすることができる。
また、上記実施例において、電磁弁120と並列に逆止弁122を設けることで、ブレーキペダル89に対する踏み込みが解除された場合に、ストロークシミュレータ102からマスタシリンダ88へブレーキフルードを速やかに回収させることとしたが、これに限らず、マスタシリンダ圧PM/Cが減少した場合に、電磁弁120を開弁させることによっても同様の目的を達成することができる。この場合、逆止弁122が不要となるため、装置のコストを低減することができる。
次に、本発明の第2実施例について説明する。図7は、本実施例において用いられるストロークシミュレータ部192を示す。本実施例のブレーキ液圧制御装置は、上記図1に示す構成において、ストロークシミュレータ部92に代えてストロークシミュレータ部192を用いることにより実現される。本実施例において、ストロークシミュレータ部192は、マスタ圧通路90とリザーバタンク24とを連通する通路194と、連通路194に配設された常閉の電磁弁196とより構成されている。
本実施例において、電磁弁196が閉弁された状態では、マスタシリンダ圧PM/Cが上昇しても、マスタシリンダ88内のブレーキフルードはストロークシミュレータ部92へ流出することはできない。このため、ペダルストロークSに変化は生じず、ストローク−マスタ圧関係の勾配は無限大となる。一方、マスタシリンダ圧が上昇した状態で、電磁弁196が開弁されると、マスタシリンダ88内のブレーキフルードは、電磁弁196を経由してリザーバタンク24へ流出する。このため、マスタシリンダ圧PM/Cが一定に保持されても、ペダルストロークSは増加する。すなわち、電磁弁196が開弁された状態ではストローク−マスタ圧関係の勾配はゼロとなる。
従って、本実施例においては、上記ストロークシミュレータ部192の第2領域における場合と同様に、マスタシリンダ圧PM/Cに応じたデューティ比で電磁弁196の開閉をデューティ制御することで、理想ストローク−マスタ圧関係に近似したストローク−マスタ圧関係を実現することができる。
図8は、本実施例において電磁弁196のデューティ制御を実行する際に参照されるテーブルである。本実施例においては、上記第1実施例のストロークシミュレータ部92とは異なり、ストロークシミュレータ102による線型なストローク−マスタ圧関係が得られないため、マスタシリンダ圧PM/Cの全領域でデューティ制御が実行される。なお、図8に示すテーブルにおいて、マスタシリンダ圧PM/Cを5つの領域に区分することとしたが、これに限らず、任意の数の領域に区分することができる。
なお、本実施例において、電磁弁196が開弁されると、マスタシリンダ88とリザーバタンク24とが連通することで、マスタシリンダ圧PM/Cが増圧されなくなる。本実施例においては、電磁弁196として常閉の電磁弁を用いているため、システムに異常が生じた場合にも、電磁弁196を少なくとも閉弁状態に維持することが可能となっている。従って、本実施例によれば、システムに異常が生じた場合に、マスタシリンダ圧PM/Cが増圧されなくなることが防止されている。
また、本実施例においては、上記第1実施例と同様に、デューティ制御の実行中にマスタシリンダ圧PM/Cが一定に保持された場合には、電磁弁196を閉弁することで、ペダルストロークSが増加するのを防止することとしている。ただし、開閉のデューティ比が100:0の領域(図8における領域I)にある場合のマスタシリンダ圧PM/Cは十分に小さいため、電磁弁196が開弁されていても、ペダルストロークは大きくは増加しないと考えられる。そこで、この場合には、電磁弁196が開弁された状態を維持することで、マスタシリンダ圧PM/Cが再び上昇した場合にデューティ制御を速やかに再開することとしている。
更に、本実施例においては、上記第1実施例と同様に、システムに異常が生じて、ホイルシリンダ68,72にマスタシリンダ圧PM/Cが導かれる状況下で電磁開閉弁196を閉弁させることとしている。このため、本実施例においても、システムに異常が生じた場合に、前輪側のホイルシリンダ圧を効率的に増圧することができる。
本実施例のブレーキ液圧制御装置によれば、上記第1実施例のストロークシミュレータ102に相当する機構が不要とされている。従って、本実施例によれば、ブレーキ液圧制御装置の低コスト及び小型化を図りつつ、上記第1実施例のブレーキ液圧制御装置と同様の効果を得ることができる。
なお、上記第1及び第2実施例においては、それぞれ、電磁弁120,196の開閉をデューティ制御することが、請求項に記載した連通路の開度を変化させることに相当している。
なお、上記第1及び第2実施例においては、電磁弁120,196として電磁開閉弁を用い、その開閉をデューティ制御することによって所望のストローク−マスタ圧関係を実現することとしたが、本発明はこれに限定されるものではなく、電磁弁120,196としてリニア制御弁を設け、その開度をマスタシリンダ圧PM/Cに応じて変化させることとしてもよい。この場合、リニア制御弁の開度を連続的に変化させることで、ストローク−マスタ圧関係の勾配を滑らかに変化させることができる。