JP3785666B2 - ベンジルアルコールの製造法 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明はベンジルアルコールの製造法に関するものである。さらに詳しくいえば、本発明は、陽イオン交換樹脂触媒を用いて、ベンジルアセテートを加水分解してベンジルアルコールを工業的に効率よく、経済的に有利に製造する方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ベンジルアルコールは、溶剤、医薬用添加剤、農薬、医薬等の中間体として重要な化合物であり、近年その需要はますます増加する傾向にある。ベンジルアルコールの製造法としては、次の方法が知られ、工業的には1)、3)の方法で製造されている。
【0003】
1)ベンジルクロライドを苛性ソーダを用いて加水分解する方法。
【0004】
2)ベンジルアセテートを触媒の存在下、加水分解する方法。
【0005】
3)ベンズアルデヒドを触媒の存在下、水素還元する方法。
【0006】
上記1)、2)の方法はいずれも加水分解によりベンジルアルコールを製造する方法である。そのうち1)の方法では苛性ソーダが量論反応するためベンジルクロライドと当量以上必要であり、さらに反応後には有機物を含んだ多量の食塩水が副生し、その処理が問題である。
【0007】
一方、2)のベンジルアセテートを加水分解してベンジルアルコールを製造する方法は、反応で副生する酢酸が再利用されるので排水のないプロセスとなり、経済的で環境にも低負荷である。
【0008】
J.Chem.Soc.No.5,1952,1607にはスルホン酸型陽イオン交換樹脂であるアンバーライトIR−100の存在下、20〜30℃、水/ベンジルアセテート(体積比)25で加水分解してベンジルアルコールを製造する方法が既に報告されている。しかしながらこの方法は触媒活性が低く、さらには著しく多量の水を用いているため原料濃度が低く、また、生成液からの未反応の水の除去エネルギーを考えると工業的な方法としては実用的でない。
【0009】
また、ロシア特許SU1077875号では2.2〜4.0m当量/gのニトロ基を含む多孔性のスルホン酸型陽イオン交換樹脂を用いて、90〜98℃、水/ベンジルアセテート(重量比)2でバッチ或いは流通式で加水分解反応を実施して、ベンジルアルコールの収率を向上させている。しかしながらこの方法はニトロ基を含む特殊な樹脂を用いているため、触媒コストの面から工業的な方法としては実用的ではない。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂触媒を用いて、限定された原料組成領域でベンジルアセテートを加水分解して、ベンジルアルコールを経済的に有利に製造する方法を提供することである。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するために鋭意研究を重ねた結果、特定の原料組成で反応させることにより、課題を解決しうることを見出し本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂の存在下に、ベンジルアセテートを加水分解してベンジルアルコールを製造する方法において、ベンジルアセテートx重量%、水y重量%、酢酸z重量%(ただしx+y+z=100)とした場合の原料組成が、1/9≦y/x≦3/2かつ0≦z≦30の範囲にあることを特徴とするベンジルアルコールの製造法である。
【0013】
【発明の実施の形態】
本発明において用いられる原料のベンジルアセテートは特に限定されるものではないが、例えばトルエン、酢酸、酸素からパラジウム系触媒を用いてオキシアセトキシル化反応によって得られるものを使用することができる。
【0014】
本発明においては、触媒として強酸性陽イオン交換樹脂であるスルホン化されたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体を用いる。このスルホン化されたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体におけるジビニルベンゼン単位の含有量は制限はなく、通常は20重量%以下のものが用いられる。しかし、触媒寿命や反応活性活性を考慮すればジビニルベンゼン単位の含有量は8重量%未満のものが好ましい。
【0015】
本発明において使用されるスルホン化されたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体は、ジビニルベンゼン単位の含有量が上記範囲であれば特に限定するものではなく、市販品を使用することができる。また構造から分類される種類については、ゲル型、MR(macroreticular)型のいずれも用いることができる。ゲル型には単純ゲル型共重合体及び拡大網目型(MP:macroporos)ゲル共重合体があり、どちらも用いることができる。MR型は多孔性共重合体であって、表面積、細孔率、平均細孔径等が任意のものを用いることができる。さらに、酸量としては特に制限はないが、乾燥樹脂当たりの総イオン交換容量は3.0〜6.5m当量/gが好ましい。
【0016】
本発明において使用される原料液の組成について、ベンジルアセテート−酢酸−水の三成分系における原料組成図(図1)を用いて説明する。なお、図1中の各点における原料組成を表1に示す。
【0017】
【表1】
Figure 0003785666
【0018】
本発明における原料液の組成は、図1におけるABCDの各点を順次結んでできる閉領域内、すなわちベンジルアセテートx重量%、水y重量%、酢酸z重量%(ただしx+y+z=100)とした場合の原料組成が、1/9≦y/x≦3/2かつ0≦z≦30の範囲である。
【0019】
原料液の組成が、図1の線A−Dよりも酢酸の含有率の大きい領域(z>30)では、ベンジルアセテートの加水分解反応が平衡反応であるため、生成物である酢酸が増えて平衡転化率が低くなると同時にベンジルアセテートの含有率が小さくなって反応速度が低下する。
【0020】
原料液の組成が、図1の線A−Bよりもベンジルアセテートの含有率が大きな領域(y/x<1/9)では、ジベンジルエーテル等の副反応生成物が多くなると共に、平衡反応転化率や反応速度が小さくなって好ましくない。
【0021】
原料液の組成が、図1の線C−Dよりも水の含有率が大きな領域(3/2<y/x)では、反応後に著しく多量の水が残り、反応液からベンジルアセテートを分離回収する際に多大なエネルギー(水の蒸発潜熱)が必要である。また、強酸性イオン交換樹脂は一般的に水との親和性が非常に強く、供給原料が不均一相を形成する上記の領域では触媒へのベンジルアセテートの吸着が阻害されるため、反応速度が低下して工業的に不利である。
【0022】
以上説明したように本発明における原料組成は、図1のABCDの各点を直線で順次結んでできる閉領域内であるが、更に純度の高いベンジルアルコールが要求される場合には、図1のEBFGの各点を直線で順次結んでできる閉領域内、すなわち1/9≦y/x≦2/3かつ0≦z≦20の範囲が好ましい。
【0023】
本発明における反応器の形式は、原料のベンジルアセテートと水、必要に応じてさらに酢酸を連続的に供給して反応させる固定床連続反応方式が用いられる。しかしながらこれに限定されるものではなく、連続、回分によらず通常の固液接触のあらゆる方法が利用可能である。
【0024】
ところで、ベンジルアセテートの加水分解反応は下記一般式(1)
【0025】
【化1】
Figure 0003785666
【0026】
のような平衡反応であるため、上記のような組成領域で反応を実施しても、単段の反応では熱力学的に転化率に制約がある。即ち、下記一般式(2)
【0027】
【化2】
Figure 0003785666
【0028】
(式中、[BzOH]はベンジルアルコール濃度、[BzOAc]はベンジルアセテート濃度を表す)
で示される反応の平衡定数Kは、本発明者らの検討によれば、80℃において0.40であり、ベンジルアセテートと水が等モルの原料供給組成(ベンジルアセテート/水/酢酸=89.3/10.7/0重量%)では平衡転化率は38.7%にしか達しない。よってベンジルアセテートの転化率をより高めるためには、生成した酢酸の少なくとも一部を途中で除去する多段反応形式又は反応蒸留形式等の反応形式を採用することも可能である。
【0029】
本発明において反応温度は、通常40〜150℃、好ましくは60〜120℃の範囲で選ばれる。反応温度が40℃未満では、反応速度が遅く、また、150℃を超えるとジベンジルエーテルの副生が増し選択率を低下させ、さらに触媒の陽イオン交換樹脂が分解又は劣化することがある。反応圧力は特に制限はないが、反応中に原料液が沸騰したり溶存ガス等による著しい気泡の発生が生じたりするのを阻止する程度の圧力を採用できる。通常は常圧〜10kg/cm2Gの範囲で選ばれる。また、液空間速度(LHSV)は。通常0.1〜30hr-1、好ましくは0.2〜6hr-1の範囲で選ばれる。
【0030】
このようにして反応器から出てきた反応混合物は、公知の方法により後処理が施され、ベンジルアルコールが取り出される。
【0031】
【発明の効果】
本発明によると、特定の範囲の原料組成でベンジルアセテートを加水分解反応させることにより、ベンジルアルコールを効率よく経済的に有利に製造することができる。
【0032】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例により、さらに詳しく説明する。
【0033】
実施例1
温度調節器を有する流通式反応器に、ジビニルベンゼン単位の含有量4%のスルホン酸型陽イオン交換樹脂アンバーリスト31wet(オルガノ社製:スチレンージビニルベンゼン共重合体)22.07gを充填した。この反応器に表2に示した組成の原料を、80℃、LHSV0.45hr-1で導入して反応させた。ガスクロマトグラフィーによって生成物を定量し、ベンジルアセテート(BzOAc)の転化率(BC)、ベンジルアルコールの選択率(BS)、及び1時間当たりの湿潤樹脂1リットル当たりのベンジルアルコールのgで表した反応生産性(STY)を計算した。これらの結果を表2に示す。また、副反応生成物であるジベンジルエーテルのベンジルアルコールに対するモル比(BzOBz)、ベンジルアルコール分離回収工程での負荷の指標となる生成液中のベンジルアルコールに対する水の重量比(W/B)、及び各組成での平衡転化率(推算値)を表2に示す。
【0034】
【表2】
Figure 0003785666
【0035】
実施例2〜実施例4及び比較例1〜比較例3
反応器に供給する原料組成を表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして加水分解反応を実施した。これらの結果を表2にあわせて示す。
【0036】
実施例5
ジビニルベンゼン単位の含有量7%のスルホン酸型陽イオン交換樹脂XT−2071(オルガノ製:スチレン−ジビニルベンゼン共重合体)を実施例1とスルホン酸基の量が同じになるようにして充填して、表2に示した原料組成、LHSV0.39h-1で実施例1と同様に加水分解反応を実施した。その結果を表2にあわせて示す。
【図面の簡単な説明】
【図1】ベンジルアセテート−酢酸−水の三成分系における原料組成を表した図である。

Claims (3)

  1. スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂の存在下に、ベンジルアセテートを加水分解してベンジルアルコールを製造する方法において、ベンジルアセテートx重量%、水y重量%、酢酸z重量%(ただしx+y+z=100)とした場合の原料組成が、1/9≦y/x≦3/2かつ0≦z≦30の範囲にあることを特徴とするベンジルアルコールの製造法。
  2. 原料組成が、1/9≦y/x≦2/3かつ0≦z≦20の範囲にあることを特徴とする請求項1に記載のベンジルアルコールの製造法。
  3. スルホン酸基を有する陽イオン交換樹脂が、ジビニルベンゼン単位の含有量が8重量%未満のスルホン化されたスチレン−ジビニルベンゼン共重合体であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のベンジルアルコールの製造法。
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