JP3784774B2 - 金属リングの熱処理方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、マルエージング鋼製金属リングに時効処理と窒化処理とを施すための熱処理方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
自動車等の無段変速機では、1対のプーリの間に張設されたベルトにより動力伝達が行われる。このようなベルトとして、複数の金属リングを積層して積層リングを形成し、該積層リングを所定形状のエレメントに組み付けて保持した無段変速機用ベルトが用いられている。
【0003】
前記積層リングは、前記プーリ間を走行するときには直線状態を呈する一方、前記プーリに沿って走行するときには湾曲状態を呈し、前記直線状態と湾曲状態との繰り返しによる過酷な曲げ変形が加えられる。そこで、前記積層リングは、前記過酷な曲げ変形に耐える強度を備えることが要求される。
【0004】
前記要求を満たす材料として、マルエージング鋼が知られている。前記マルエージング鋼は、17〜19%のNiの他、Mo,Al,Ti等を含む低炭素鋼であり所定温度に加熱することによりマルテンサイト状態において時効硬化を生じる。この結果、前記マルエージング鋼は、高強度、高靱性を兼ね備えることとなり、前記積層リングに賞用される。尚、前記マルエージング鋼において、Mo,Al,Tiは、前記所定温度に加熱することにより金属間化合物を形成して析出し、時効硬度を発現させる元素である。
【0005】
前記積層リングは、例えば次のような方法により製造される。まず、前記マルエージング鋼の薄板の端部同士を溶接して円筒状のドラムを形成し、該ドラムに対して前記溶接時の熱により部分的に硬くなった硬度を均質化するために第1の溶体化を行う。次に、前記溶体化後のドラムを所定幅に裁断して金属リングを形成し、該金属リングを所定長となるように圧延する。次に、圧延された金属リングに対し、圧延組織を再結晶させ、圧延により変形された金属結晶粒形状を復元するために、第2の溶体化を行う。そして、前記溶体化後の金属リングを所定の周長に補正し、時効処理と窒化処理との熱処理を施して硬度を向上させた後、少しずつ周長の異なる複数の金属リングを相互に嵌合して積層することにより前記積層リングを形成する。
【0006】
ここで、前記窒化処理は、前記マルエージング鋼をアンモニアを含む雰囲気中で所定温度に加熱することにより、アンモニアが鉄を触媒として分解して発生する原子状窒素を該マルエージング鋼の表面から内層に拡散させることにより行われる。前記窒化処理によれば、前記原子状窒素が前記マルエージング鋼の基体金属である鉄との間で窒化物を形成し、このときに生じる格子歪みにより該マルエージング鋼に表面硬度を付与することができる。
【0007】
ところが、前記窒化処理時に該マルエージング鋼にAl,Tiが固溶していると、前記原子状窒素が該マルエージング鋼の表面近傍でAl,Tiと結合して捕捉されてしまい、内層まで拡散することができない。この結果、前記マルエージング鋼は十分な深さの窒化層が得られ難く、十分な疲労強度を確保することができなくなる。従って、前記マルエージング鋼では、前記窒化処理に先立って前記時効処理を行うことにより、固溶状態のAl,TiからNi3AlTiを形成させて、AlとTiとを固定しておく必要がある。
【0008】
一方、前記時効処理では、前記Ni3AlTiと共にFeMoが形成されることにより前記マルエージング鋼に時効硬度を付与することができる。前記Ni3AlTi、FeMoは共に金属間化合物であるが、前記Mo,Al,Tiが酸化されてしまうと前記金属間化合物が形成されず、時効硬度を付与することができなくなる。従って、前記時効処理は、前記Mo,Al,Tiが酸化されない雰囲気下、例えば真空状態下に行う必要がある。
【0009】
そこで、従来、前記マルエージング鋼の熱処理は、最初に前記時効処理を行い、その後に前記窒化処理を行うようにされている。また、前述のように前記時効処理と前記窒化処理とでは必要とされる雰囲気が異なるため、それぞれ独立の炉を用いて処理されている。
【0010】
しかし、前記時効処理と前記窒化処理とを独立した炉で行うと、それぞれの炉で炉内の雰囲気と温度とが均一になるまでの時間と、処理後に冷却するための時間とを要し、熱処理に時間がかかるという問題がある。
【0011】
前記問題を解決するために、本出願人は、周長補正後の金属リングを窒素等の不活性気体雰囲気下に所定の時効処理温度に所定時間保持することにより亜時効処理した後、前記亜時効処理が施された金属リングを冷却することなく、少なくともアンモニアガスを含む雰囲気下で所定の窒化処理温度に所定時間保持することにより窒化処理する技術を既に提案している(特許文献1参照)。
【0012】
前記技術によれば、前記亜時効処理が施された金属リングを冷却することなく窒化処理するので、時効処理後の冷却時間と、窒化処理のための炉内雰囲気と温度とが均一になるまでの時間とを省くことができ、熱処理に要する時間を短縮することができる。また、前記技術によれば、前記時効処理を時効硬度が最大値未満になる範囲の亜時効にとどめ、該時効処理に続く窒化処理の加熱を利用して前記時効硬度を最大値に達せしめることにより過時効となることを避けることができる。従って、前記窒化処理と合わせて高い硬度が得られ、優れた耐摩耗性及び耐疲労強度を備える金属リングを得ることができる。尚、前記過時効とは、時効処理により一旦最大値に達した時効硬度が、処理時間が適切な時間を超えたために再び低減する現象をいう。
【0013】
しかしながら、前記金属リングを積層して形成された積層リングを前記無段変速機用ベルトに用いるには、該金属リングにさらに優れた硬度を付与することが望まれる。
【0014】
【特許文献1】
特開2001−49347号公報
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたものであり、金属リングに優れた硬度を付与することができる熱処理方法を提供することを目的とする。
【0016】
かかる目的を達成するために、本発明の金属リングの熱処理方法は、Moを含むマルエージング鋼の鋼板の端部同士を溶接して形成されたドラムを溶体化後、所定幅に裁断して金属リングを形成し、該金属リングを所定の長さに圧延して再溶体化し、周長補正した後、時効処理と窒化処理とを施す金属リングの熱処理方法において、該周長補正後の金属リングを非酸化雰囲気下に所定の時効処理温度に所定時間保持することにより時効硬度が最大値未満となる範囲の亜時効処理を施し、FeMoを時効析出させる工程と、前記亜時効処理が施された金属リングを非酸化雰囲気下に時効析出反応が停止する温度である200℃以下まで冷却処理する工程と、前記冷却処理が施された金属リングを少なくともアンモニアガスを含む雰囲気下で所定の窒化処理温度に所定時間保持することにより窒化処理して、時効析出した前記FeMoの一部からFe 2 MoとNi 3 Moとを析出させる工程とを含むことを特徴とする。
【0017】
本発明の方法では、前記金属リングに対し非酸化雰囲気下で前記亜時効処理を施すことにより、Mo,Al,Tiの酸化を避けることができ、金属間化合物であるNi3AlTiとFeMoとが形成されて析出する時効析出反応が起きる。前記時効析出反応のうち、FeMoに関する反応は加熱により継続し、FeMoはさらにFe2Moに変化する。そこで、前記亜時効処理を施した金属リングを冷却することなく、該亜時効処理に続いて窒化処理を施したときには、前記FeMoのうちある一定量がFe2Moとなることにより時効硬度が最大値に達するものと考えられる。
【0018】
本発明の方法では、前記金属リングに対し前記亜時効処理を施した後、該金属リングを非酸化雰囲気下で前記時効析出反応が停止する温度まで冷却することにより、析出したFeMoがFe2Moに変化することを実質的に阻止する。そして、前記のように冷却された金属リングに対して、少なくともアンモニアガスを含む雰囲気下で前記窒化処理を施す。
【0019】
前記窒化処理によれば、Al,Tiが既にNi3AlTiとして析出して固定されているので、生成した原子状窒素が前記金属リングの内層まで拡散することができ、十分な深さの窒化物層を形成することができる。また、前記窒化処理の加熱により、前記亜時効処理後の冷却によりFe2Moへ変化が停止されたFeMoの一部から、母結晶のFeMoに対して微細なFe2MoとNi3Moとが前記母結晶の間隙に析出する。ここで析出するFe2MoとNi3Moとの微結晶は、前記金属リングの結晶粒界で前記母結晶のFeMoと共存することにより、前記金属リングに優れた時効強度と切欠靱性とを付与することができる。
【0020】
この結果、本発明の熱処理方法によれば、前記亜時効処理を施した金属リングを冷却することなく該亜時効処理に続いて窒化処理を施したときに比較して、さらに優れた硬度を前記金属リングに付与することができる。
【0021】
本発明の熱処理方法において、前記亜時効処理は前記金属リングが酸化されないような非酸化雰囲気下であれば、真空状態下で行ってもよく、水素等を含む還元性ガス雰囲気下で行ってもよい。
【0022】
前記真空状態下で行う場合には、前記金属リングの酸化を避けるために、雰囲気の圧力が10−2Pa以下で、前記金属リングを400〜500℃、好ましくは420〜480℃の範囲の時効処理温度に2〜3時間の範囲の時間で保持することにより行うことが好ましい。時効処理温度が400℃未満では時効硬度を発現するFeMoが形成されないことがあり、500℃を超えるとFeMoがFe2Moに変化しやすくなる。また、前記範囲の時効処理温度に保持する時間が2時間未満では炉内温度が均一になりにくく、3時間を超えると前記金属リングが過時効になりやすい。
【0023】
一方、水素等を含む還元性ガス雰囲気下で行う場合には、雰囲気中の酸素を除去し、Mo,Al,Tiの酸化を避けるために、全体の1〜30容量%の水素を含み、残部が窒素であり、−40〜−70℃の範囲の雰囲気露点を備える還元雰囲気下で行うことが好ましい。前記還元雰囲気は、水素が酸素と化合することにより酸素が除去されるが、水素の含有量が全体の1容量%未満では、該雰囲気中の酸素を除去することが難しい。また、水素は窒素に比較して高価であるので、水素の含有量が全体の30容量%を超えると、製造コストが増大する。前記還元雰囲気は、雰囲気露点が−40〜−70℃の範囲であって適用可能な範囲が広いので、工程管理を容易に行うことができる。前記雰囲気露点が−40℃より高いと、Tiが選択的に酸化される。また、窒素は液体窒素を気化させた直後の温度が−70℃であるので、前記雰囲気露点を−70℃未満とすることは現実的ではない。
【0024】
また、前記還元雰囲気下の亜時効処理は、さらに好ましくは、前記金属リングを420〜480℃の範囲の時効処理温度に2〜3時間の範囲の時間で保持することにより行う。時効処理温度が420℃未満では時効硬度を発現するFeMoが形成されないことがあり、480℃を超えるとFeMoがFe2Moに変化しやすくなる。また、前記範囲の時効処理温度に保持する時間が2時間未満では炉内温度が均一になりにくく、3時間を超えると前記金属リングが過時効になりやすい。
【0025】
前記真空状態下または還元雰囲気下の亜時効処理によれば、前記金属リングは内部にヴィッカース硬度(Hv0.3)500〜630の時効硬度が確保される。従って、前記窒化処理は、時効の効果を顧慮することなく、窒化のみが最適に行われる条件を設定すればよい。前記窒化が最適に行われる条件は、少なくともアンモニアガスを含む特定の雰囲気下、次式(1)で示されるラーソン・ミラーパラメータPを用いることにより容易に設定することができる。
【0026】
P={T(20+logt)×10− 3} ・・・(1)
(ただし、式中Tは絶対温度(K)、tは時間(hr)である)
【0027】
そこで、本発明では、前記窒化処理は、全体の60〜80容量%のアンモニアを含み、残部が窒素である雰囲気下、式(1)で示されるラーソン・ミラーパラメータPが14.7〜15.3の範囲となる時間と温度とを設定して、前記金属リングを加熱することにより行うことを特徴とする。
【0028】
前記雰囲気下、ラーソン・ミラーパラメータPが15.3を超える条件で前記窒化処理を行うと、前記金属リングにおいて十分に高い表面硬度を得ることができず、該金属リングの耐摩耗性が低下する。また、ラーソン・ミラーパラメータPが14.7未満となる条件では、前記金属リングの表面硬度が過剰となり、該金属リングの最表層に化合物層が発生して脆化する。
【0029】
【発明の実施の形態】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態についてさらに詳しく説明する。図1は本実施形態の亜時効処理における時効処理温度と金属リング内部の時効硬度との関係を示すグラフ、図2は本実施形態の窒化処理におけるラーソン・ミラーパラメータと金属リングの表面硬さとの関係を示すグラフ、図3は本実施形態の窒化処理に用いる含アンモニア雰囲気のアンモニア濃度と金属リングの表面硬さとの関係を示すグラフ、図4は前記アンモニア濃度と金属リングの表面硬化層の厚さとの関係を示すグラフである。また、図5は本実施形態の熱処理により得られた金属リング内部の時効硬度と窒化後の圧縮残留応力との関係を示すグラフ、図6は本実施形態の熱処理により得られた金属リングの窒化処理後の引張強さと歪み量との関係を示すグラフ、図7は本実施形態の熱処理に要する時間と該熱処理後の前記金属リングの内部硬度との関係を示すグラフである。
【0030】
本実施形態の熱処理方法の対象となる金属リングは、次のようにして製造される。まず、マルエージング鋼の薄板をベンディングしてループ化した後、端部同士を溶接して円筒状のドラムを形成する。前記マルエージング鋼は、Cが0.03%以下、Siが0.10%以下、Mnが0.10%以下、Pが0.01%以下、Sが0.01%以下の組成を備える低炭素鋼であり、さらに18〜19%のNi、4.7〜5.2%のMo、0.05〜0.15%のAl、0.50〜0.70%のTi、8.5〜9.5%のCoを含む。
【0031】
次に、前記円筒状のドラムを真空炉中820〜830℃に20〜60分間保持して第1の溶体化処理を施す。前記溶体化処理により、結晶を再配列し、前記ドラムの溶接歪みを除去することができる。
【0032】
次に、前記円筒状のドラムを所定の幅に裁断し、リング状体を形成する。前記リング状体は前記裁断により端部にエッジが立っているので、バレル研磨により面取りした後、圧下率40〜50%で冷間圧延し、金属リングを得る。
【0033】
前記金属リングは、次いで前記ドラムの溶体化処理と同様の条件により第2の溶体化処理が施され、前記圧延により形成された圧延組織を再結晶させ、変形された金属結晶粒形状が復元された後、所定の周長に周長補正される。
【0034】
本実施形態の方法では、前記のようにして周長補正された金属リングに対して、亜時効処理と窒化処理とからなる熱処理を施す。
【0035】
前記熱処理は、前記金属リングに対して、まず亜時効処理を施す。前記亜時効処理は、前記金属リングを、例えば雰囲気の圧力が10-2Pa以下の真空状態とされた真空炉中、所定の時効処理温度に所定時間保持することにより行われる。前記時効処理温度と、該温度に保持する時間とは、例えば次式(1)で示されるラーソン・ミラーパラメータPがP=14.0〜15.3となる範囲で設定することができる。尚、式中Tは絶対温度(K)、tは時間(Hr)を示す。
【0036】
P={T(20+logt)×10− 3} ・・・(1)
【0037】
ラーソン・ミラーパラメータPが前記範囲となるようにすることにより、時効処理温度は例えば400〜500℃、好ましくは420〜480℃、該温度に保持する時間は例えば2〜3時間に設定される。
【0038】
前記真空状態下での亜時効処理によれば、前記マルエージング鋼に含まれる時効発現元素であるMo,Al,Tiから金属間化合物であるFeMo、Ni3AlTiが形成され、前記金属リングの内部に時効硬度が発現する(以下、金属リング内部に発現する時効硬度を「時効内部硬度」と略記する)。次に、前記金属リングを前記真空炉中で420〜500℃の時効処理温度に2時間保持したときの時効処理温度と時効内部硬度との関係を図1に示す。
【0039】
図1から、前記条件では、480℃に2時間保持したときに時効内部硬度が最大値となり、500℃に2時間保持すると時効内部硬度が前記最大値より低くなる過時効となることが明らかである。従って、前記金属リングを前記真空炉中に2時間保持する場合には、時効処理温度を420〜480℃の範囲とすることによりに亜時効処理が施され、ヴィッカース硬度(Hv0.3)500〜630の時効内部硬度が発現することが明らかである。
【0040】
尚、図1では時効処理温度を500℃としたときには過時効となっているが、時間設定等の条件を変えることにより、時効処理温度を500℃としても亜時効処理を行うことができる。また、時効処理温度を420°以下の温度、例えば400℃としても、前記のように条件を変えることにより亜時効処理を行うことができる。
【0041】
前記亜時効処理が施された前記金属リングは、該亜時効処理後も前記時効処理温度以上の温度に保持されていると、該亜時効処理で形成されたFeMoがFe2Moに変化する時効析出反応が起きる。そこで、次に前記金属リングを前記真空炉中で、前記時効析出反応が停止する温度、例えば200℃以下まで冷却する冷却処理を施す。前記冷却処理により、前記FeMoのFe2Moへの変化を阻止することができる。
【0042】
また、前記亜時効処理は、前記金属リングを、全体の1〜30容量%の水素を含み、残部が窒素であり、−40〜−70℃の範囲の雰囲気露点を備える還元雰囲気とした加熱炉中、所定の時効処理温度に所定時間保持することにより行ってもよい。前記時効処理温度と、該温度に保持する時間とは、前記真空状態下での亜時効処理の場合と同様に、式(1)で示されるラーソン・ミラーパラメータPが14.0〜15.3となる範囲で設定することができる。この結果、前記時効処理温度は例えば420〜480℃、該温度に保持する時間は例えば2〜3時間に設定される。この結果、前記還元雰囲気下での亜時効処理により、前記真空状態下での亜時効処理と同等の効果を得ることができる。
【0043】
前記還元雰囲気下で亜時効処理を行った場合には、次に、前記金属リングを前記加熱炉から置換室に移動させる。そして、前記置換室内で、液体窒素から気化させた窒素ガスにより該還元雰囲気中の水素を除去する一方、前記時効析出反応が停止する温度、例えば150〜200℃に冷却する冷却処理を施す。
【0044】
前記還元雰囲気下で亜時効処理を行うと、前記金属リングの表面に水素が付着し、この水素により遅れ破壊が生じることがある。そこで、前記冷却処理により、前記FeMoのFe2Moへの変化を阻止すると同時に、前記金属リングのベーキングを行い、該金属リング表面に付着した水素を完全に除去することが好ましい。
【0045】
前記熱処理では、次に、前記冷却処理が施された前記金属リングに対して、窒化処理を施す。前記窒化処理は、前記金属リングを、少なくともアンモニアガスを含む雰囲気とされた加熱炉中で、所定の窒化処理温度に所定時間保持することにより行われる。前記窒化処理は、少なくともアンモニアガスを含む雰囲気として、純アンモニア以外に窒素等の不活性ガスを含むアンモニアガス雰囲気を用いるガス窒化処理でもよく、アンモニアガスとRXガスとの混合ガス雰囲気を用いるガス軟窒化処理でもよい。
【0046】
前記金属リングは、前記亜時効処理により、ヴィッカース硬度(Hv0.3)500〜630の時効内部硬度(例えば、真空状態下、420〜480℃の時効処理温度に2時間保持した場合)が確保されている。従って、前記窒化処理では時効の効果を顧慮することなく窒化のみが最適に行われ、ヴィッカース硬度(Hv0.3)800〜950の表面硬さが得られ、表面硬化層の厚さが25〜30μmとなるような条件を設定すればよい。
【0047】
前記窒化のみが最適に行われる条件は、例えば、全体の60〜80容量%のアンモニアを含み、残部が窒素である含アンモニア雰囲気下では、式(1)で示されるラーソン・ミラーパラメータPが14.7〜15.3となる範囲で設定することができる。この結果、前記窒化のみが最適に行われる条件として、前記窒化処理温度は、例えば450〜500℃、該温度に保持する時間は例えば30〜120分に設定される。
【0048】
前記窒化処理温度によれば、前記アンモニアガスがFeを触媒として分解して生成した原子状窒素が前記金属リングの内層まで拡散し、十分な深さの窒化物層が形成される。同時に、前記窒化処理温度で加熱することにより、FeMoの一部が、Fe2Mo(高温相、Laves相)へ移行し、微細なFe2MoとNi3Mo、FeMoとが共存析出する。前記Fe2MoとNi3Moとは、前記FeMoと共存することにより、前記窒化処理後の金属リングに優れた硬度を発現させ、靱性の向上が期待できる。
【0049】
次に、前記亜時効処理が施された4種類の試料(試料1〜4)について、前記含アンモニア雰囲気下、時効処理温度と時間とを変えて、窒化処理を行った。結果を、表1、図2に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1,図2から、ラーソン・ミラーパラメータPが14.7〜15.3となる範囲で、窒化処理温度、時間を設定することにより、表面硬さがヴィッカース硬度(Hv0.3)800〜950の範囲となり、表面硬化層の厚さが25〜30μmの範囲となることが明らかである。
【0052】
次に、前記亜時効処理が施された3種類の試料(試料5〜7)について、前記時効処理温度を450℃、時間を120分としたとき(ラーソン・ミラーパラメータP=15.0)、前記含アンモニア雰囲気のアンモニア濃度を変えて、窒化処理を行った。結果を、表2、図3,4に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2、図3,4から、ラーソン・ミラーパラメータPが15.0のときには、前記含アンモニア雰囲気のアンモニア濃度を60〜80容量%の範囲とすることにより、表面硬さがヴィッカース硬度(Hv0.3)800〜950の範囲となり、表面硬化層の厚さが25〜30μmの範囲となることが明らかである。
【0055】
次に、本実施形態の熱処理において、前記金属リングを、雰囲気の圧力が10− 2Pa以下の真空状態下で420〜500℃の時効処理温度に2時間保持して時効処理を施し、前記真空状態下に200℃以下の温度まで冷却した後、純アンモニア以外に窒素等の不活性ガスを含むアンモニアガス雰囲気下で450℃の窒化処理温度に1時間保持して窒化処理したときの、時効内部硬度と、窒化後の圧縮残留応力との関係を図5に示す。図中、各プロットに付した温度は時効処理温度を示す。
【0056】
図5から、前記亜時効処理によりヴィッカース硬度(Hv0.3)500以上の時効内部硬度が得られれば、前記亜時効処理後に行われる前記窒化処理により−980MPaより大きな圧縮残留応力が得られ、前記金属リングに優れた表面硬度を付与することができることが明らかである。
【0057】
次に、本実施形態の熱処理において、前記金属リングを、前記真空状態下で450℃の時効処理温度に2時間保持して亜時効処理を施し、前記真空状態下に200℃以下の温度まで冷却した後、前記純アンモニア以外に窒素等の不活性ガスを含むアンモニアガス雰囲気下で450℃の窒化処理温度に1時間保持して窒化処理した(実施例1)。また、前記金属リングを、亜時効処理後、冷却することなく窒化処理した以外は、実施例1と全く同一にして処理した(比較例)。実施例1で得られた金属リングと、比較例で得られた金属リングとにおける、前記窒化処理後の引張強さと歪み量との関係を図6に示す。
【0058】
図6から、実施例1で得られた金属リングは、引張強さが2000MPa付近での歪み量が比較例で得られた金属リングに対して約20%大きくなっていることが明らかである。従って、実施例1で得られた金属リングは、比較例で得られた金属リングよりも伸び率が高く、耐疲労強度、切欠靱性に優れていることが明らかである。
【0059】
次に、本実施形態の熱処理に要する時間と、該熱処理後の前記金属リングの内部硬度との関係を図7に示す。図7において、時効処理温度を440℃とし、窒化処理温度を450℃とした以外は実施例1と全く同一にして処理したときの値(実施例2)を実線で示す。また、時効処理温度を460℃とし、窒化処理温度を460℃とした以外は実施例1と全く同一にして処理したときの値(実施例3)を破線で示す。尚、図7において熱処理時間とは、前記熱処理に要する時間を意味し、具体的には前記時効処理温度に保持する時間と、前記窒化処理温度に保持する時間との合計時間である。
【0060】
図7から、本実施形態の熱処理によれば、実施例2のように亜時効処理により発現する内部硬度が低い(亜時効の程度が大きい)ほど、窒化処理後の内部硬度の上昇率が大きいことが明らかである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の熱処理方法に係る亜時効処理における時効処理温度と、金属リングの内部の時効硬度との関係を示すグラフ。
【図2】本発明の熱処理方法に係る窒化処理におけるラーソン・ミラーパラメータ時効処理温度と、金属リングの表面硬さとの関係を示すグラフ。
【図3】本発明の熱処理方法に係る窒化処理に用いる含アンモニア雰囲気のアンモニア濃度と金属リングの表面硬さとの関係を示すグラフ。
【図4】本発明の熱処理方法に係る窒化処理に用いる含アンモニア雰囲気のアンモニア濃度と金属リングの表面硬化層の厚さとの関係を示すグラフ。
【図5】本発明の熱処理方法により得られた金属リングの時効内部硬度と窒化後の圧縮残留応力との関係を示すグラフ。
【図6】本発明の熱処理方法により得られた金属リングの窒化処理後の引張強さと歪み量との関係を示すグラフ。
【図7】本発明の熱処理方法に要する時間と熱処理後の金属リングの内部硬度との関係を示すグラフ。
【符号の説明】
符号なし。
Claims (6)
- Moを含むマルエージング鋼の鋼板の端部同士を溶接して形成されたドラムを溶体化後、所定幅に裁断して金属リングを形成し、該金属リングを所定の長さに圧延して再溶体化し、周長補正した後、時効処理と窒化処理とを施す金属リングの熱処理方法において、
該周長補正後の金属リングを非酸化雰囲気下に所定の時効処理温度に所定時間保持することにより時効硬度が最大値未満となる範囲の亜時効処理を施し、FeMoを時効析出させる工程と、
前記亜時効処理が施された金属リングを非酸化雰囲気下に時効析出反応が停止する温度である200℃以下まで冷却処理する工程と、
前記冷却処理が施された金属リングを少なくともアンモニアガスを含む雰囲気下で所定の窒化処理温度に所定時間保持することにより窒化処理して、時効析出した前記FeMoの一部からFe 2 MoとNi 3 Moとを析出させる工程とを含むことを特徴とする金属リングの熱処理方法。 - 前記亜時効処理は、10− 2Pa以下の真空状態下に行うことを特徴とする請求項1記載の金属リングの熱処理方法。
- 前記真空状態下の亜時効処理は、前記金属リングを400〜500℃の範囲の時効処理温度に2〜3時間の範囲の時間で保持することを特徴とする請求項1または請求項2記載の金属リングの熱処理方法。
- 前記亜時効処理は、全体の1〜30容量%の水素を含み、残部が窒素であり、−40〜−70℃の範囲の雰囲気露点を備える還元雰囲気下に行うことを特徴とする請求項1記載の金属リングの熱処理方法。
- 前記還元雰囲気下の亜時効処理は、前記金属リングを420〜480℃の範囲の時効処理温度に2〜3時間の範囲の時間で保持することを特徴とする請求項4記載の金属リングの熱処理方法。
- 前記窒化処理は、全体の60〜80容量%のアンモニアを含み、残部が窒素である雰囲気下、次式(1)で示されるラーソン・ミラーパラメータPが14.7〜15.3の範囲となる時間と温度とを設定して、前記金属リングを加熱することにより行うことを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の金属リングの熱処理方法。
P={T(20+logt)×10− 3} ・・・(1)
(ただし、式中Tは絶対温度(K)、tは時間(hr)である)
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