JP2004315947A - 無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法 - Google Patents
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Abstract
【課題】周長圧延前に行う固溶化処理にて硬さを十分に低くすることができる、加工性に優れた無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法を提供する。
【解決手段】厚さが0.7mm以下のマルエージング鋼帯を用いて引張応力を負荷した状態で連続型焼鈍炉を通過させ且つ600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上で昇温し、次いで800℃以上の温度域において次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却する歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行う無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法である。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃) tは保持時間t(分)
【選択図】 図2
【解決手段】厚さが0.7mm以下のマルエージング鋼帯を用いて引張応力を負荷した状態で連続型焼鈍炉を通過させ且つ600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上で昇温し、次いで800℃以上の温度域において次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却する歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行う無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法である。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃) tは保持時間t(分)
【選択図】 図2
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、歪取り焼鈍後に最終仕上げ冷間圧延を行う工程を含む無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルエージング鋼帯は、例えば、歪取り焼鈍と冷間圧延とを繰返し製造される。そして、固溶化処理と時効硬化処理を施すことで、2000MPa前後の非常に高い引張強さと優れた靭性が得られる鋼帯である。加えて、歪取り焼鈍もしくは固溶化処理後の状態では、時効硬化処理状態と比較し硬さが低く、加工性に優れていることから、最近では自動車用の無段変速機用の金属ベルトに用いられている。
マルエージング鋼帯から自動車用の無段変速機用の金属ベルトとする方法としては、例えば特開2002−38251号(特許文献1参照)や特開2001−140986号(特許文献2参照)があり、冷間圧延を施した鋼帯を素材として用いて、円筒状となるように湾曲加工され、溶接により円筒形状に形成され、800〜850℃程度の温度範囲で溶接歪除去のための固溶化処理を施し、適当な寸法に切断して金属リングとする。そして、この金属リングは、圧下率40〜50%で周長圧延を行い、定められた周長まで冷間での周長圧延が施され、その後、再度固溶化処理を行い、周長補正を行って時効処理、窒化処理が施されて自動車用の無段変速機用ベルトとなる。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−38251号公報
【特許文献2】
特開2001−140986号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、自動車用の無段変速機用マルエージング鋼帯を自動車用の無段変速機用ベルトに加工する際には、上述のように金属リングを定められた長さに周長圧延される。この時の金属リングには、金属リングの形状が反りやウネリ等といった変形が無いか、或いは少ないことが求められる。これは、変形が生じると周長圧延の際に金属リングの圧下率が部分的に変化してしまい金属リングの寸法変化が大きくなり、周長圧延後の周長補正が困難になるためである。そのため、周長圧延前の材料に形状の不良が無いことが求められる。
また、周長圧延時の加工性を向上することができれば、若干の形状不良は周長圧延で調整が容易に行え、周長圧延時の板厚精度も向上できる。
【0005】
上記の課題を解決するためには、周長圧延前に行う800〜850℃程度の温度範囲で溶接歪除去のための固溶化処理時に、素材の硬さを十分に低下させることが考えられる。
しかしながら、固溶化処理前のマルエージング鋼の製造条件については、特に検討がなされていないのが現状である。
本発明の目的は、周長圧延前に行う固溶化処理にて硬さを十分に低くすることができる、加工性に優れた無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は固溶化処理に供する前のマルエージング鋼帯の製造条件を検討したところ、最後に行う焼鈍の条件と最終仕上げ冷間圧延の圧下率を適正にすることで、周長圧延前の固溶化処理で硬さを十分に低下させ、しかも、従来から行われている固溶化処理温度の下限である800℃未満の温度で、且つ短時間の固溶化処理でも、硬さを低下させる条件を見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、歪取り焼鈍後に最終仕上げ冷間圧延を行う工程を含むマルエージング鋼帯の製造方法において、厚さが0.7mm以下のマルエージング鋼帯を用いて引張応力を負荷した状態で連続型焼鈍炉を通過させ、且つ600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上で昇温し、次いで次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却する歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行う無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃) tは保持時間t(分)
【0007】
好ましくは、上述のマルエージング鋼帯の化学組成は、質量%で、C:0.01%以下、Ni:15.0〜20.0%、Co:5.0〜10.0%、Mo:4.0〜6.0%、Ti:2.0%以下、Al:1.5%以下、残部は実質的にFeである無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法である。
また本発明のマルエージング鋼帯はその幅が400mm以上である無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、周長圧延前の固溶化処理により、十分に材料の硬度を低下させることが可能な無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法であって、最大の特徴は、適正な歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行うことにある。
以下に本発明を詳しく説明する。
自動車用の無段変速機用マルエージング鋼帯の周長圧延前までの厚みは、0.7mm以下となる。このような薄いマルエージング鋼帯を得る工程として代表的な工程を挙げると、溶解によりインゴットを作製した後、熱間加工により厚さ1.5〜3.0mm程度以上のマルエージング鋼帯を作製し、その後表面に生じた酸化膜を機械加工或いは酸洗い等の化学的な処理のいずれかもしくは両方を用いて除去しながら、適切な寸法及び寸法精度を付与したコイル状のマルエージング鋼帯にした後、冷間圧延にて0.7mm以下の無段変速機用マルエージング鋼帯とする。
なお、0.7mm以下とは言っても、その後の周長圧延で更に薄く加工され、自動車用無段変速用ベルトとして必要な厚みを確保しなければならない。従って、周長圧延前の無段変速機用マルエージング鋼帯の下限はおおよそ0.3〜0.5mmの範囲となる場合が多い。
【0009】
ところで、マルエージング鋼帯は冷間圧延を施すと加工硬化により非常に硬くなり、延性も低くなってしまうため、0.7mm以下まで薄く圧延するためには、途中で一回乃至は二回以上の歪取り焼鈍を施し、マルエージング鋼帯の軟化を行う必要がある。
そして、所望の厚さ近くまで薄くした後、最終の歪取り焼鈍を行い、更に所望の厚さに調整する最後の仕上げ冷間圧延を行い、厚み調整と共に歪取り焼鈍で生じた変形を矯正する。なお、この最終仕上げ冷間圧延の、厚さ調整と変形矯正との目的で行う最終仕上げ冷間圧延をスキンパスと呼ぶこともある。
【0010】
この最終仕上げ冷間圧延の目的は、最終の歪取り焼鈍で生じた熱処理変形を矯正し、反りやうねりのないマルエージング鋼帯を得ることである。
本発明者は、先ず、この最終仕上げ冷間圧延について検討した。
マルエージング鋼以外の鋼帯では、最終仕上げ冷間圧延による歪導入は、固溶化処理時に金属組織が再結晶を起し易くし、硬さが低くなるのを促進する作用がある。そのため、最終仕上げ冷間圧延による圧下率が高く、歪量が多い方が固溶化処理後の硬さは低くなる傾向がある。こういったことから、一般的な鋼では、固溶化処理後の硬さを下げるために、積極的に歪を導入することを目的に最終仕上げ冷間圧延の圧下率を大きくするが、マルエージング鋼帯では固溶化処理を施すと、むしろ硬さの低下が鈍くなった。そのため、最終仕上げ冷間圧延の圧下率を低くしてみたところ、固溶化処理時に硬さの低下が見られた。この最終仕上げ冷間圧延の圧下率を低くすることで、固溶化処理を低温かつ短時間とできるのは、マルエージング鋼帯特有の作用であると考えられる。
この硬さの低下は最終仕上げ冷間圧延時の圧下率が30%以上では効果がなかったことから、本発明では最終仕上げ冷間圧延の上限の圧下率を30%未満とした。
【0011】
また、マルエージング鋼帯における固溶化処理は、マルテンサイト組織がオーステナイト組織に変態する逆変態点以上で行う必要があるが、最終仕上げ冷間圧延を全く行わなかった場合は、最終仕上げ冷間圧延を行ったものと比較し、逆変態点が高くなり、結果として固溶化処理温度を高くする必要がある。
従って、最終仕上げ冷間圧延の圧下率は30%未満といっても0%は含まない。好ましい範囲は5〜25%であり、更に好ましくは5〜20%の範囲である。
【0012】
ところで、最終仕上げ冷間圧延前のマルエージング鋼帯に反りやうねり等の変形が大きくなり過ぎると、最終仕上げ冷間圧延時にマルエージング鋼帯の圧下が均等に行えない部分が生じ、結果として圧下率が大きくなる個所と、圧下率が小さい個所ができてしまい、周長圧延前の固溶化処理時に圧下率の不均一に起因した変形も起こり易くなる。
そこで、この最終仕上げ冷間圧延前のマルエージング鋼帯の変形を抑制するために、引張応力を負荷しながら、連続型焼鈍炉を通過させる方法を適用した。この方法では、引張応力を負荷するため、熱処理変形を小さくすることができるからである。より熱処理変形を小さくするには、垂直方向にマルエージング鋼帯を通過させることで、自重による引張応力が得られる縦型の連続型焼鈍炉がよい。
【0013】
更に、最終仕上げ冷間圧延前に行う歪取り焼鈍後に歪が残存すると、次に行う最終仕上げ冷間圧延の圧下率を軽減しても、実際にマルエージング鋼帯中に残留する歪量は多くなり、最終仕上げ冷間圧延の圧下率を軽減した効果が無くなる。よって、この歪取り焼鈍で歪を十分に除去する必要がある。
そのため、本発明では600℃を超える温度域の昇温速度を10℃/秒以上で昇温後、次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却することにした。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃)、tは保持時間t(分)である。
なお、上記の関係式は、金属材料のクリープ破断試験において、短時間側のデータから長時間側のデータを予測するのに使われるパラメータであるLarson‐Millerパラメータ:(T+273)×(a+log(t/60))を応用したものである(aは定数)。
【0014】
マルエージング鋼帯の歪取り焼鈍では、保持温度を高温にするほど、時間を短くしても十分な効果が得られることから、歪を十分に除去する保持温度と時間は様々な組合せが考えられる。そこで、本発明者が、最終仕上げ冷間圧延前の歪取り焼鈍を行う前のマルエージング鋼帯を用いて、保持温度780〜900℃、保持時間1〜120分の間で様々な組合せで歪取り焼鈍し、ビッカース硬さを測定した。
そして、Larson‐Millerパラメータのaを20とし、Larson‐Millerパラメータと硬さの関係を整理した結果を図1に示す。これより、21700≦(T+273)×(20+log(t/60))である場合、硬さは十分に低下し、それ以上P値を上げても効果がみられないことが分かった。即ち、P値が21700以上となる保持温度と時間の組合せの場合に、歪を十分に除去できることを知見した。
【0015】
そして、800℃以上に加熱する際の昇温速度を、600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上と規定した理由は、粗大析出物の析出を防ぐためである。
粗大析出物は600℃を超え750℃未満の温度域で析出するため、析出を防ぐにはこの温度域で保持される時間を短くする必要がある。10℃/秒未満の昇温速度では、粗大析出物の析出防止効果が低くなる。そのため、本発明では600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上と規定した。
なお、連続型焼鈍炉を通過させる方法では、この昇温速度を容易に達成することができるという利点もある。
【0016】
そして、本発明では上述した歪取り焼鈍終了後、冷却を行うが、冷却中に変形が起こり易いので均一に冷却することが重要である。連続型焼鈍炉を通過させる方法では、引張応力により変形が抑制されているだけでなく、冷却が均一に行え、変形が抑制されるという利点もある。
以上、説明する最終仕上げ冷間圧延と歪取り焼鈍との組合せにより、周長圧延前の800〜850℃程度の温度範囲での固溶化処理温度で十分に硬さを低くすることができる。この効果については、後述の実施例で詳しく説明する。
【0017】
次に、本発明の製造方法を適用するマルエージング鋼帯とは、その名が示す通り、マルテンサイト組織にエージング(時効硬化処理)を施すことで2000MPa前後の非常に高い強度と優れた延性が得られる合金であり、Niを質量%で8〜25%含む、時効硬化型の超強力鋼である。以下に、本発明に用いるマルエージング鋼帯の好ましい組成の限定理由について述べる。
Cは炭化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるため本発明ではCの上限を0.01%以下とした。
Niは靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠の元素であるが、15.0%未満では靱性が劣化する。一方、20.0%を越えるとオーステナイトが安定化し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは15.0〜20.0%とした。
【0018】
Coは、マトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与するが、その含有量が5.0%未満では必ずしも十分効果が得られず、また10.0%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は5.0〜10.0%にした。
Moは時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素であるが、その含有量が4.0%未満の場合その効果が少なく、また6.0%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させる粗大析出物(ラーベス相:Fe2Mo)を形成しやすくなるため、Moの含有量を4.0〜6.0%とした。
【0019】
Tiは、Moと同様に時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する元素であるが、2.0%を越えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を2.0%以下とした。
Alは脱酸作用を持つだけでなく、時効析出して強化に寄与するが、1.5%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.5%以下とした。
なお、本発明ではこれら規定する元素以外は実質的にFeとしているが、例えばNは窒化物系非金属介在物を形成するため、0.003%を超えて含有すると窒化物系非金属介在物が20μmを超える場合があり、非金属介在物を起点とする破壊の危険性が高くなる。よって、その含有量は0.003%以下が望ましい。
Oは酸化物系非金属介在物を形成するため、0.002%を超えて含有すると酸化物系非金属介在物を20μmを超える場合があり、非金属介在物を起点とする破壊の危険性が高くなる。よって、その含有量は0.002%以下が望ましい。
Bは、結晶粒を微細化するのに有効な元素であるため、靱性が劣化しない0.01%以下で含有させても良い。
【0020】
また、Si、Mnは、FeやMoを主要元素とする金属間化合物を粗大化させ靭性に悪影響をもたらすため、Si、Mn共に0.10%以下とすれば良い。更に、P、Sも粒界脆化させたり熱間加工性を低下させるので、0.01%以下に制限されたものを適用すると更に好ましい。Cr、Cuについては、0.2%程度までなら含有しても特性は劣化せず、不純物と扱うことができる。
【0021】
そして、本発明では、上述の化学組成の調整により非金属介在物を小さく、且つ非金属介在物量も少なくした素材に加えて、成分偏析も少ない材料を選ぶことも重要である。
特にマルエージング鋼では、偏析を起こし易いTiとMo板厚方向にEPMA(エックス線マイクロアナライザ)で線分析した時、TiとMoそれぞれの最大値と最小値とを測定し、その比(最大値/最小値)を算出して1.3以下、望ましくは1.2以下のものを圧延帯材として用いると良い。
【0022】
このような成分偏析の少ない素材を得るには、上述の真空溶解後に、エレクトロスラグ再溶解や、真空アーク再溶解を適用したものを選ぶと、成分偏析を抑制する効果がある。
更に、これに加えて鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、1000〜1300℃で少なくとも5時間以上の均質化熱処理を行ったものを選ぶか、例えば特許第3110733号や特許第3110726号に記載されるように、鋳型の形状に加えて、均質化熱処理を熱間鍛造後に行うことで成分偏析を抑制する方法を適用した材料であればTiとMoの偏析をそれぞれ1.3以下とすることができる。
【0023】
以上、説明する製造方法を適用したマルエージング鋼の圧延帯材は、例えば非金属介在物の大きさは好ましくは20μm以下であり、非金属介在物量は例えばJIS点算法でd(A+B+C)=0.008%以下程度以下、更にTiとMoの成分偏析がそれぞれ1.3以下とすることも可能であるため、本発明のマルエージング鋼帯に好適である。
そして、このような組成を有するマルエージング鋼帯を、より生産性を高めるためには鋼帯の幅を400mm以上の広幅材にするのが良い。
【0024】
【実施例】
溶解の後、熱間加工により厚さ2.0mm、幅440mmのマルエージング鋼を作製した。その後表面に生じた酸化膜を機械加工の後、酸洗いを施し除去した。
こうして得られたマルエージング鋼に冷間圧延と歪取り焼鈍を施し、厚さ0.7mmのマルエージング鋼帯を作製した。マルエージング鋼帯の化学成分を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
このマルエージング鋼帯を4分割し、それぞれを0.30,0.32,0.34,0.43mmまで冷間圧延した。そして、引張応力を負荷しながら、600℃から900℃までの昇温を20秒で行った後900℃で2分保持し冷却するといった温度パターンになるように連続型焼鈍炉を通過させた。
そして試料A以外は、厚さが0.30mmになるよう最終仕上げ冷間圧延を施した。こうして得られた試料をそれぞれ、試料A〜Dと呼び、最終仕上げ冷間圧延の圧下率及び形状を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2の結果から、最終仕上げ冷間圧延を施していない試料Aは、反りが生じ平坦ではなかったが、最終仕上げ冷間圧延を施した試料B〜Dは反り・うねり等の熱処理変形はみられなかった。なお、反り・うねりの有無は目視によるものである。
次に、固溶化処理による硬さ低下を調べるため、試料A〜Dに対して、760〜880℃の温度域で10分の固溶化処理を施し、断面のビッカース硬さを測定した。結果を図2に示す。
【0029】
図2の結果から、本発明の製造方法を適用した試料B、Cは780〜840℃といった低温の温度域での固溶化処理によって、硬さが315HV以下と十分低くなっており、周長圧延の精度向上に寄与できることが分かる。一方、最終仕上げ冷間圧延の圧下率が30%である試料Dは、840℃以下の温度域での固溶化処理では硬さが十分に低下していない。これは、最終仕上げ冷間圧延によって発生した歪が十分除去できていないためであると考えられる。
また、最終仕上げ冷間圧延を施さなかった試料Aでは、800℃以下の温度域での固溶化処理において逆に硬さが上昇している。これは、最終仕上げ冷間圧延なしでは、逆変態点が高くなり析出物が生じているためであると考えられる。
なお、全ての試料において、820℃以上の温度域での固溶化処理では熱処理変形による大きな反りが確認できたのに対し、800℃以下での固溶化処理では熱処理変形による反りは僅かであった。
【0030】
【発明の効果】
本発明のより製造されたマルエージング鋼帯は、加工前に行う固溶化処理が熱処理変形の少ない800℃以下で、かつ短時間のものであっても、硬さを十分に低くすることができ、マルエージング鋼帯を精度良く加工するためには欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Larson‐Millerパラメータと硬さの関係を整理した図である。
【図2】最終仕上げ圧延の圧下率を変化させた材料の固溶化処理温度と硬さとの関係を示す図である。
【発明の属する技術分野】
本発明は、歪取り焼鈍後に最終仕上げ冷間圧延を行う工程を含む無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
マルエージング鋼帯は、例えば、歪取り焼鈍と冷間圧延とを繰返し製造される。そして、固溶化処理と時効硬化処理を施すことで、2000MPa前後の非常に高い引張強さと優れた靭性が得られる鋼帯である。加えて、歪取り焼鈍もしくは固溶化処理後の状態では、時効硬化処理状態と比較し硬さが低く、加工性に優れていることから、最近では自動車用の無段変速機用の金属ベルトに用いられている。
マルエージング鋼帯から自動車用の無段変速機用の金属ベルトとする方法としては、例えば特開2002−38251号(特許文献1参照)や特開2001−140986号(特許文献2参照)があり、冷間圧延を施した鋼帯を素材として用いて、円筒状となるように湾曲加工され、溶接により円筒形状に形成され、800〜850℃程度の温度範囲で溶接歪除去のための固溶化処理を施し、適当な寸法に切断して金属リングとする。そして、この金属リングは、圧下率40〜50%で周長圧延を行い、定められた周長まで冷間での周長圧延が施され、その後、再度固溶化処理を行い、周長補正を行って時効処理、窒化処理が施されて自動車用の無段変速機用ベルトとなる。
【0003】
【特許文献1】
特開2002−38251号公報
【特許文献2】
特開2001−140986号公報
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、自動車用の無段変速機用マルエージング鋼帯を自動車用の無段変速機用ベルトに加工する際には、上述のように金属リングを定められた長さに周長圧延される。この時の金属リングには、金属リングの形状が反りやウネリ等といった変形が無いか、或いは少ないことが求められる。これは、変形が生じると周長圧延の際に金属リングの圧下率が部分的に変化してしまい金属リングの寸法変化が大きくなり、周長圧延後の周長補正が困難になるためである。そのため、周長圧延前の材料に形状の不良が無いことが求められる。
また、周長圧延時の加工性を向上することができれば、若干の形状不良は周長圧延で調整が容易に行え、周長圧延時の板厚精度も向上できる。
【0005】
上記の課題を解決するためには、周長圧延前に行う800〜850℃程度の温度範囲で溶接歪除去のための固溶化処理時に、素材の硬さを十分に低下させることが考えられる。
しかしながら、固溶化処理前のマルエージング鋼の製造条件については、特に検討がなされていないのが現状である。
本発明の目的は、周長圧延前に行う固溶化処理にて硬さを十分に低くすることができる、加工性に優れた無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者は固溶化処理に供する前のマルエージング鋼帯の製造条件を検討したところ、最後に行う焼鈍の条件と最終仕上げ冷間圧延の圧下率を適正にすることで、周長圧延前の固溶化処理で硬さを十分に低下させ、しかも、従来から行われている固溶化処理温度の下限である800℃未満の温度で、且つ短時間の固溶化処理でも、硬さを低下させる条件を見出し、本発明に到達した。
即ち本発明は、歪取り焼鈍後に最終仕上げ冷間圧延を行う工程を含むマルエージング鋼帯の製造方法において、厚さが0.7mm以下のマルエージング鋼帯を用いて引張応力を負荷した状態で連続型焼鈍炉を通過させ、且つ600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上で昇温し、次いで次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却する歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行う無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃) tは保持時間t(分)
【0007】
好ましくは、上述のマルエージング鋼帯の化学組成は、質量%で、C:0.01%以下、Ni:15.0〜20.0%、Co:5.0〜10.0%、Mo:4.0〜6.0%、Ti:2.0%以下、Al:1.5%以下、残部は実質的にFeである無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法である。
また本発明のマルエージング鋼帯はその幅が400mm以上である無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法である。
【0008】
【発明の実施の形態】
本発明は、周長圧延前の固溶化処理により、十分に材料の硬度を低下させることが可能な無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法であって、最大の特徴は、適正な歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行うことにある。
以下に本発明を詳しく説明する。
自動車用の無段変速機用マルエージング鋼帯の周長圧延前までの厚みは、0.7mm以下となる。このような薄いマルエージング鋼帯を得る工程として代表的な工程を挙げると、溶解によりインゴットを作製した後、熱間加工により厚さ1.5〜3.0mm程度以上のマルエージング鋼帯を作製し、その後表面に生じた酸化膜を機械加工或いは酸洗い等の化学的な処理のいずれかもしくは両方を用いて除去しながら、適切な寸法及び寸法精度を付与したコイル状のマルエージング鋼帯にした後、冷間圧延にて0.7mm以下の無段変速機用マルエージング鋼帯とする。
なお、0.7mm以下とは言っても、その後の周長圧延で更に薄く加工され、自動車用無段変速用ベルトとして必要な厚みを確保しなければならない。従って、周長圧延前の無段変速機用マルエージング鋼帯の下限はおおよそ0.3〜0.5mmの範囲となる場合が多い。
【0009】
ところで、マルエージング鋼帯は冷間圧延を施すと加工硬化により非常に硬くなり、延性も低くなってしまうため、0.7mm以下まで薄く圧延するためには、途中で一回乃至は二回以上の歪取り焼鈍を施し、マルエージング鋼帯の軟化を行う必要がある。
そして、所望の厚さ近くまで薄くした後、最終の歪取り焼鈍を行い、更に所望の厚さに調整する最後の仕上げ冷間圧延を行い、厚み調整と共に歪取り焼鈍で生じた変形を矯正する。なお、この最終仕上げ冷間圧延の、厚さ調整と変形矯正との目的で行う最終仕上げ冷間圧延をスキンパスと呼ぶこともある。
【0010】
この最終仕上げ冷間圧延の目的は、最終の歪取り焼鈍で生じた熱処理変形を矯正し、反りやうねりのないマルエージング鋼帯を得ることである。
本発明者は、先ず、この最終仕上げ冷間圧延について検討した。
マルエージング鋼以外の鋼帯では、最終仕上げ冷間圧延による歪導入は、固溶化処理時に金属組織が再結晶を起し易くし、硬さが低くなるのを促進する作用がある。そのため、最終仕上げ冷間圧延による圧下率が高く、歪量が多い方が固溶化処理後の硬さは低くなる傾向がある。こういったことから、一般的な鋼では、固溶化処理後の硬さを下げるために、積極的に歪を導入することを目的に最終仕上げ冷間圧延の圧下率を大きくするが、マルエージング鋼帯では固溶化処理を施すと、むしろ硬さの低下が鈍くなった。そのため、最終仕上げ冷間圧延の圧下率を低くしてみたところ、固溶化処理時に硬さの低下が見られた。この最終仕上げ冷間圧延の圧下率を低くすることで、固溶化処理を低温かつ短時間とできるのは、マルエージング鋼帯特有の作用であると考えられる。
この硬さの低下は最終仕上げ冷間圧延時の圧下率が30%以上では効果がなかったことから、本発明では最終仕上げ冷間圧延の上限の圧下率を30%未満とした。
【0011】
また、マルエージング鋼帯における固溶化処理は、マルテンサイト組織がオーステナイト組織に変態する逆変態点以上で行う必要があるが、最終仕上げ冷間圧延を全く行わなかった場合は、最終仕上げ冷間圧延を行ったものと比較し、逆変態点が高くなり、結果として固溶化処理温度を高くする必要がある。
従って、最終仕上げ冷間圧延の圧下率は30%未満といっても0%は含まない。好ましい範囲は5〜25%であり、更に好ましくは5〜20%の範囲である。
【0012】
ところで、最終仕上げ冷間圧延前のマルエージング鋼帯に反りやうねり等の変形が大きくなり過ぎると、最終仕上げ冷間圧延時にマルエージング鋼帯の圧下が均等に行えない部分が生じ、結果として圧下率が大きくなる個所と、圧下率が小さい個所ができてしまい、周長圧延前の固溶化処理時に圧下率の不均一に起因した変形も起こり易くなる。
そこで、この最終仕上げ冷間圧延前のマルエージング鋼帯の変形を抑制するために、引張応力を負荷しながら、連続型焼鈍炉を通過させる方法を適用した。この方法では、引張応力を負荷するため、熱処理変形を小さくすることができるからである。より熱処理変形を小さくするには、垂直方向にマルエージング鋼帯を通過させることで、自重による引張応力が得られる縦型の連続型焼鈍炉がよい。
【0013】
更に、最終仕上げ冷間圧延前に行う歪取り焼鈍後に歪が残存すると、次に行う最終仕上げ冷間圧延の圧下率を軽減しても、実際にマルエージング鋼帯中に残留する歪量は多くなり、最終仕上げ冷間圧延の圧下率を軽減した効果が無くなる。よって、この歪取り焼鈍で歪を十分に除去する必要がある。
そのため、本発明では600℃を超える温度域の昇温速度を10℃/秒以上で昇温後、次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却することにした。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃)、tは保持時間t(分)である。
なお、上記の関係式は、金属材料のクリープ破断試験において、短時間側のデータから長時間側のデータを予測するのに使われるパラメータであるLarson‐Millerパラメータ:(T+273)×(a+log(t/60))を応用したものである(aは定数)。
【0014】
マルエージング鋼帯の歪取り焼鈍では、保持温度を高温にするほど、時間を短くしても十分な効果が得られることから、歪を十分に除去する保持温度と時間は様々な組合せが考えられる。そこで、本発明者が、最終仕上げ冷間圧延前の歪取り焼鈍を行う前のマルエージング鋼帯を用いて、保持温度780〜900℃、保持時間1〜120分の間で様々な組合せで歪取り焼鈍し、ビッカース硬さを測定した。
そして、Larson‐Millerパラメータのaを20とし、Larson‐Millerパラメータと硬さの関係を整理した結果を図1に示す。これより、21700≦(T+273)×(20+log(t/60))である場合、硬さは十分に低下し、それ以上P値を上げても効果がみられないことが分かった。即ち、P値が21700以上となる保持温度と時間の組合せの場合に、歪を十分に除去できることを知見した。
【0015】
そして、800℃以上に加熱する際の昇温速度を、600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上と規定した理由は、粗大析出物の析出を防ぐためである。
粗大析出物は600℃を超え750℃未満の温度域で析出するため、析出を防ぐにはこの温度域で保持される時間を短くする必要がある。10℃/秒未満の昇温速度では、粗大析出物の析出防止効果が低くなる。そのため、本発明では600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上と規定した。
なお、連続型焼鈍炉を通過させる方法では、この昇温速度を容易に達成することができるという利点もある。
【0016】
そして、本発明では上述した歪取り焼鈍終了後、冷却を行うが、冷却中に変形が起こり易いので均一に冷却することが重要である。連続型焼鈍炉を通過させる方法では、引張応力により変形が抑制されているだけでなく、冷却が均一に行え、変形が抑制されるという利点もある。
以上、説明する最終仕上げ冷間圧延と歪取り焼鈍との組合せにより、周長圧延前の800〜850℃程度の温度範囲での固溶化処理温度で十分に硬さを低くすることができる。この効果については、後述の実施例で詳しく説明する。
【0017】
次に、本発明の製造方法を適用するマルエージング鋼帯とは、その名が示す通り、マルテンサイト組織にエージング(時効硬化処理)を施すことで2000MPa前後の非常に高い強度と優れた延性が得られる合金であり、Niを質量%で8〜25%含む、時効硬化型の超強力鋼である。以下に、本発明に用いるマルエージング鋼帯の好ましい組成の限定理由について述べる。
Cは炭化物を形成し、金属間化合物の析出量を減少させて疲労強度を低下させるため本発明ではCの上限を0.01%以下とした。
Niは靱性の高い母相組織を形成させるためには不可欠の元素であるが、15.0%未満では靱性が劣化する。一方、20.0%を越えるとオーステナイトが安定化し、マルテンサイト組織を形成し難くなることから、Niは15.0〜20.0%とした。
【0018】
Coは、マトリックスであるマルテンサイト組織を安定性に大きく影響することなく、Moの固溶度を低下させることによってMoが微細な金属間化合物を形成して析出するのを促進することによって析出強化に寄与するが、その含有量が5.0%未満では必ずしも十分効果が得られず、また10.0%を越えると脆化する傾向がみられることから、Coの含有量は5.0〜10.0%にした。
Moは時効処理により、微細な金属間化合物を形成し、マトリックスに析出することによって強化に寄与する元素であるが、その含有量が4.0%未満の場合その効果が少なく、また6.0%を越えて含有すると延性、靱性を劣化させる粗大析出物(ラーベス相:Fe2Mo)を形成しやすくなるため、Moの含有量を4.0〜6.0%とした。
【0019】
Tiは、Moと同様に時効処理により微細な金属間化合物を形成し、析出することによって強化に寄与する元素であるが、2.0%を越えて含有させると延性、靱性が劣化するため、Tiの含有量を2.0%以下とした。
Alは脱酸作用を持つだけでなく、時効析出して強化に寄与するが、1.5%を越えて含有させると靱性が劣化することから、その含有量を1.5%以下とした。
なお、本発明ではこれら規定する元素以外は実質的にFeとしているが、例えばNは窒化物系非金属介在物を形成するため、0.003%を超えて含有すると窒化物系非金属介在物が20μmを超える場合があり、非金属介在物を起点とする破壊の危険性が高くなる。よって、その含有量は0.003%以下が望ましい。
Oは酸化物系非金属介在物を形成するため、0.002%を超えて含有すると酸化物系非金属介在物を20μmを超える場合があり、非金属介在物を起点とする破壊の危険性が高くなる。よって、その含有量は0.002%以下が望ましい。
Bは、結晶粒を微細化するのに有効な元素であるため、靱性が劣化しない0.01%以下で含有させても良い。
【0020】
また、Si、Mnは、FeやMoを主要元素とする金属間化合物を粗大化させ靭性に悪影響をもたらすため、Si、Mn共に0.10%以下とすれば良い。更に、P、Sも粒界脆化させたり熱間加工性を低下させるので、0.01%以下に制限されたものを適用すると更に好ましい。Cr、Cuについては、0.2%程度までなら含有しても特性は劣化せず、不純物と扱うことができる。
【0021】
そして、本発明では、上述の化学組成の調整により非金属介在物を小さく、且つ非金属介在物量も少なくした素材に加えて、成分偏析も少ない材料を選ぶことも重要である。
特にマルエージング鋼では、偏析を起こし易いTiとMo板厚方向にEPMA(エックス線マイクロアナライザ)で線分析した時、TiとMoそれぞれの最大値と最小値とを測定し、その比(最大値/最小値)を算出して1.3以下、望ましくは1.2以下のものを圧延帯材として用いると良い。
【0022】
このような成分偏析の少ない素材を得るには、上述の真空溶解後に、エレクトロスラグ再溶解や、真空アーク再溶解を適用したものを選ぶと、成分偏析を抑制する効果がある。
更に、これに加えて鋼塊状態または熱間鍛造後の何れか若しくは両方で、1000〜1300℃で少なくとも5時間以上の均質化熱処理を行ったものを選ぶか、例えば特許第3110733号や特許第3110726号に記載されるように、鋳型の形状に加えて、均質化熱処理を熱間鍛造後に行うことで成分偏析を抑制する方法を適用した材料であればTiとMoの偏析をそれぞれ1.3以下とすることができる。
【0023】
以上、説明する製造方法を適用したマルエージング鋼の圧延帯材は、例えば非金属介在物の大きさは好ましくは20μm以下であり、非金属介在物量は例えばJIS点算法でd(A+B+C)=0.008%以下程度以下、更にTiとMoの成分偏析がそれぞれ1.3以下とすることも可能であるため、本発明のマルエージング鋼帯に好適である。
そして、このような組成を有するマルエージング鋼帯を、より生産性を高めるためには鋼帯の幅を400mm以上の広幅材にするのが良い。
【0024】
【実施例】
溶解の後、熱間加工により厚さ2.0mm、幅440mmのマルエージング鋼を作製した。その後表面に生じた酸化膜を機械加工の後、酸洗いを施し除去した。
こうして得られたマルエージング鋼に冷間圧延と歪取り焼鈍を施し、厚さ0.7mmのマルエージング鋼帯を作製した。マルエージング鋼帯の化学成分を表1に示す。
【0025】
【表1】
【0026】
このマルエージング鋼帯を4分割し、それぞれを0.30,0.32,0.34,0.43mmまで冷間圧延した。そして、引張応力を負荷しながら、600℃から900℃までの昇温を20秒で行った後900℃で2分保持し冷却するといった温度パターンになるように連続型焼鈍炉を通過させた。
そして試料A以外は、厚さが0.30mmになるよう最終仕上げ冷間圧延を施した。こうして得られた試料をそれぞれ、試料A〜Dと呼び、最終仕上げ冷間圧延の圧下率及び形状を表2に示す。
【0027】
【表2】
【0028】
表2の結果から、最終仕上げ冷間圧延を施していない試料Aは、反りが生じ平坦ではなかったが、最終仕上げ冷間圧延を施した試料B〜Dは反り・うねり等の熱処理変形はみられなかった。なお、反り・うねりの有無は目視によるものである。
次に、固溶化処理による硬さ低下を調べるため、試料A〜Dに対して、760〜880℃の温度域で10分の固溶化処理を施し、断面のビッカース硬さを測定した。結果を図2に示す。
【0029】
図2の結果から、本発明の製造方法を適用した試料B、Cは780〜840℃といった低温の温度域での固溶化処理によって、硬さが315HV以下と十分低くなっており、周長圧延の精度向上に寄与できることが分かる。一方、最終仕上げ冷間圧延の圧下率が30%である試料Dは、840℃以下の温度域での固溶化処理では硬さが十分に低下していない。これは、最終仕上げ冷間圧延によって発生した歪が十分除去できていないためであると考えられる。
また、最終仕上げ冷間圧延を施さなかった試料Aでは、800℃以下の温度域での固溶化処理において逆に硬さが上昇している。これは、最終仕上げ冷間圧延なしでは、逆変態点が高くなり析出物が生じているためであると考えられる。
なお、全ての試料において、820℃以上の温度域での固溶化処理では熱処理変形による大きな反りが確認できたのに対し、800℃以下での固溶化処理では熱処理変形による反りは僅かであった。
【0030】
【発明の効果】
本発明のより製造されたマルエージング鋼帯は、加工前に行う固溶化処理が熱処理変形の少ない800℃以下で、かつ短時間のものであっても、硬さを十分に低くすることができ、マルエージング鋼帯を精度良く加工するためには欠くことのできない技術となる。
【図面の簡単な説明】
【図1】Larson‐Millerパラメータと硬さの関係を整理した図である。
【図2】最終仕上げ圧延の圧下率を変化させた材料の固溶化処理温度と硬さとの関係を示す図である。
Claims (3)
- 厚さが0.7mm以下のマルエージング鋼帯を用いて引張応力を負荷した状態で連続型焼鈍炉を通過させ且つ600℃を超える温度域の昇温速度が10℃/秒以上で昇温し、次いで次式で示すP値が21700以上となるように保持した後、冷却する歪取り焼鈍を行った後、圧下率が30%未満(0%は含まない)の最終仕上げ冷間圧延を行うことを特徴とする無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法。
P=(T+273)×(20+log(t/60))
Tは保持温度T(℃) tは保持時間t(分) - マルエージング鋼帯の化学組成は、質量%で、C:0.01%以下、Ni:15.0〜20.0%、Co:5.0〜10.0%、Mo:4.0〜6.0%、Ti:2.0%以下、Al:1.5%以下、残部は実質的にFeであることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法。
- マルエージング鋼帯の幅が400mm以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の無段変速機用マルエージング鋼帯の製造方法。
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