JP3784227B2 - 溶銑脱硫法 - Google Patents

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  • Refinement Of Pig-Iron, Manufacture Of Cast Iron, And Steel Manufacture Other Than In Revolving Furnaces (AREA)

Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、高炉で製造された後、脱珪および/または脱りん(以下、本明細書では脱珪・脱りんと記すことがある)処理された溶銑を対象として、転炉装入前に効率よく脱硫処理することのできる溶銑脱硫法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
通常、高炉で製造された溶銑には[S]が0.02〜0.05%(質量%を表わす、以下同じ)程度含まれており、最終製品規格[S]より高い場合が多いため、溶銑または溶鋼段階で脱硫処理が行われる。この脱硫処理は、酸素レベルが低くて高い脱硫効率が得られ易い溶銑段階で行われるのが一般的である。
【0003】
溶銑脱硫に使用される脱硫剤としては、安価な生石灰を主成分とする石灰系脱硫剤を使用することが多く、これを粉体にしてキャリアガスと共に溶銑中に吹き込むか、あるいは塊状の脱硫剤を溶銑上に投入し、インペラーで機械的に攪拌する方法などが採用されている。しかし石灰系脱硫剤は、安価ではあるものの脱硫効率が低く、低硫鋼を目的として脱硫処理を行う場合、あるいは高炉出銑[S]が高い場合は、石灰系脱硫剤のみで満足の行くレベルの低[S]化を果たすことはできない。そのため脱硫負荷が大きい場合には、石灰系脱硫剤と共に金属Mg等のより強力な脱硫剤が併用されてきた。
【0004】
ところで最近では、溶銑段階で[Si]と[P]を除去する溶銑予備処理が普及してきている。溶銑中のP(りん)については、転炉で多量の生石灰を添加することによって脱りんを行なっていたが、転炉での精錬は約1650℃といった高温で行なわれるので、低温処理を好む脱りんにとっては有利な方法とは言えない。これに対し溶銑脱りんは、約1300℃といった低温で処理されるため比較的少ない脱りん剤の使用で効率よく脱りんを行なうことができる。この様なところから最近では、該脱りんの前処理として行なわれる脱珪処理と合わせて溶銑脱りんを行なうことが多く、これらを総合して溶銑予備処理と称されている。
【0005】
溶銑予備処理は、生石灰等の転炉副原料を大幅に削減するのに有効なプロセスであるが、反面、溶銑段階で脱硫処理を行なおうとすると、脱硫効率が低下して脱硫処理コストを高める原因になる。
【0006】
ちなみに図1は、高炉から出銑された溶銑をそのまま脱硫処理した場合と、脱珪・脱りん処理された溶銑を用いて脱硫処理した場合の脱硫効率を対比して示したグラフである。図1中の横軸は、石灰系脱硫剤原単位、縦軸は脱硫処理前の[S]量と脱硫処理後の[S]量の比を対数目盛りで示したものである。それぞれの溶銑の処理工程を図2に示す。
【0007】
すなわち同じ原単位(kg/溶銑トン、以下同様)の脱硫剤を使用した場合でも、予め脱珪・脱りん処理した溶銑を用いて脱硫処理する場合は、脱珪・脱りん処理した溶銑を使用する場合に比べて脱硫効率は約30%低下する。
【0008】
また図3は、石灰系脱硫剤とMg系脱硫剤を同時に吹き込んだ場合の脱硫効率を示している。石灰系脱硫剤の脱硫能は、ここで用いたMg系脱硫剤の約1/3であるから、「Mg系脱硫剤+1/3・石灰系脱硫剤」をMg系脱硫剤当量と定義し、図の横軸にはこのMg系脱硫剤当量で表わしている。この図からも明らかな様に、Mg系脱硫剤を併用した場合も、その傾向は石灰系脱硫剤のみを用いた場合と同様であり、脱珪・脱りん処理溶銑を使用することによって脱硫効率は約30%低下する。
【0009】
この様に、脱珪・脱りん処理をすることによって脱硫効率が低下する理由は次の様に考えられる。すなわち、石灰系脱硫剤を用いた場合の脱硫反応は、下記式(1)で示される様に溶銑中の溶存酸素[O]量に大きく依存しており、該[O]量が低いほど脱硫反応は進行し易い。
【0010】
しかし溶銑脱珪および溶銑脱りんは、共にミルスケールや酸素ガスにより溶銑中のPやSiを酸化除去する酸化精錬であり、脱珪・脱りん処理を行なうことによって溶銑中の溶存酸素濃度は約1ppmから5〜10ppmに上昇する。また溶銑中の酸素濃度が高いと、一旦スラグに移行したCaSの一部が下記式(2)の反応で酸化され、Sが溶銑に戻る復硫反応も生じてくる。これらのことが相俟って、脱珪・脱りん処理された溶銑の脱硫効率は低くなるものと考えられる。
(CaO)+[S]=(CaS)+[O]……(1)
(CaS)+[O]=(CaS)+[S]……(2)
【0011】
また、金属Mgを脱硫剤として使用した場合の脱硫反応は下記式(3)で表わされるが、酸素濃度が高いと下記式(4)で示す如く金属Mgの酸化ロスが生じ、また、一旦スラグに移行したMgSが下記式(5)の反応で酸化されてSが溶銑に戻る復硫反応を起こすので、石灰系脱硫剤を用いた場合と同様に脱珪・脱りん溶銑の脱硫効率は低くなる。
(Mg)+[S]=(MgS)……(3)
(Mg)+[O]=(MgO)……(4)
(MgS)+[O]=(MgO)+[S]……(5)
【0012】
上記の様に従来の溶銑脱硫では、その前の予備処理として行なわれる脱珪・脱りん処理に伴う溶存酸素量の増大がネックとなって、溶銑脱硫を効率よく実施することができない。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記の様な事情に着目してなされたものであって、その目的は、高炉からの出銑後、予備処理で脱珪および/または脱りん処理された溶銑を対象として、該溶銑中に含まれるSを効率よく除去することのできる溶銑脱硫法を提供することにある。
【0014】
【課題を解決するための手段】
上記課題を解決することのできた本発明に係る溶銑脱硫法の構成は、脱珪および/または脱りん処理によって炭素濃度が飽和炭素濃度以下に低下した溶銑を対象とし、脱硫剤としてカルシウムカーバイドを添加して脱硫処理する際に、溶銑の飽和C濃度と溶銑の実際のC濃度(質量%)を考慮し、添加するカルシウムカーバイド原単位が下記式の関係を満たす様に制御するところに要旨を有している。
カルシウムカーバイド原単位(kg/溶銑トン)≦△C%×10/0.375
式中、△C%=溶銑の飽和C濃度−溶銑の実際のC濃度(質量%)
【0015】
【発明の実施の形態】
先に説明した様な理由から、酸化精錬である脱珪・脱りん処理に引き続いて還元精錬である脱硫処理を行なった場合、脱硫効率は低下する。ところが本発明者らは、脱珪・脱りん処理された該溶銑では同時に[C]の一部も酸化されることから、予備処理溶銑中の[C]濃度も低下していることに着目した。
【0016】
つまり、高炉から出銑される溶銑は混銑車などの容器に受銑されるが、このとき混銑車内耐火物などへの熱ロスによって溶銑温度は70〜120℃程度低下する。出銑時における溶銑中の[C]濃度は4.8%前後であり、溶銑温度と[Si]などの溶銑成分で決まるC飽和状態にあるが、脱珪・脱りんは前述の如く酸化精錬に属するため、該処理によってCも酸化され、[C]濃度は通常3.5〜4.7%程度に低下する。従って、この様な[C]濃度の溶銑に炭化物系の脱硫剤を添加すれば、炭化物系脱硫剤の分解が促進されて脱硫反応が効率よく進行するのではないかと考えた。
【0017】
そこで、具体的な炭化物系脱硫剤としてカルシウムカーバイド(CaC2)を取り上げて研究を進めた。該CaC2自体は、溶銑脱硫剤として既に公知のものであるが、高価であることもあって最近では殆ど使用されておらず、汎用的な脱硫剤とはいえない。
【0018】
CaC2と石灰系脱硫剤を併用した場合の脱硫効率を図4に示す。ここで、石灰系脱硫剤の脱硫能はCaC2の約1/3であるので、「CaC2+1/3・石灰系脱硫剤」をCaC2当量と定義し、図4の横軸に該CaC2当量で表わした。この図からも明らかな様にCaC2を併用した場合、脱珪・脱りん処理された溶銑を使用したときでも脱硫効率の低下は殆ど見られない。
【0019】
CaC2による脱硫反応は下記式(6)で表わすことができ、
(CaC2)+[S]=(CaS)+2[C]……(6)
脱珪・脱りん処理されていない溶銑では、溶銑中のCは飽和状態にあるため上記式(6)の反応はC析出反応となり、C核の発生と成長を伴うため脱硫反応速度は遅くなる。これに対し脱珪・脱りん処理された溶銑では、前述の如く脱珪・脱りん工程でCの一部も酸化消費され溶銑中C量は飽和に達していないため、上記式(6)の反応はC溶解反応となり、脱硫反応速度は速くなる。
【0020】
一方、脱珪・脱りん処理された溶銑中の溶存酸素[O]濃度は前述の如く高いため、脱硫剤としてCaC2を用いた場合でも、下記式(7)で表されるCaC2の酸化ロスや下記式(8)で示される復硫反応の発生は避けられない。すなわち、脱珪・脱りん処理によって溶銑中の溶存酸素濃度は高くなるので、脱硫には不利な条件となる。
【0021】
ところが、上記の様に溶銑中のC量が飽和状態でないため上記式(6)で示される脱硫反応速度の向上により、結果的に脱硫効率の低下が小さく抑えられるものと考えられる。この様なことから、CaC2は脱珪・脱りん処理をした溶銑に適した脱硫剤と言える。
(CaC2)+3[O]=(CaO)+3CO……(7)
(CaS)+[O]=(CaO)+[S]……(8)
【0022】
ところで、CaC2を溶銑中に吹き込むと、前記式(6)に示した反応を始めとするCaC2の分解により溶銑中のC濃度は高くなり、いずれは飽和C濃度に達するので、それ以上にCaC2を吹き込むことは大きなコストアップを招く。CaC2の分解による最大Cピックアップ量は下記式(9)によって計算できる。下記式(9)における右辺の0.1は、(%)と(kg/トン)の換算係数である。
【0023】
従って、当該溶銑の飽和C濃度と当該溶銑の実際のC濃度との差をΔC%とすると、CaC2の分解によるCピックアップ量がΔC%を超えない範囲でCaC2を使用することが重要であり、下記式(9)より、CaC2原単位を下記式(10)で示される範囲で使用することが、低コストで高い脱硫効率を得る上で好ましい要件となる。
最大Cピックアップ量(%)
=0.1×CaC2原単位(kg/トン)×2×Cの原子量/CaC2の分子量
=0.1×CaC2原単位(kg/トン)×2×12/64
=0.1×CaC2原単位(kg/トン)×0.375……(9)
カルシウムカーバイド原単位(kg/トン)≦ΔC%×10/0.375……(10)
(ここで、ΔC%=当該溶銑の飽和C濃度−当該溶銑の実際のC濃度)
なお式(10)中の飽和C濃度は、溶銑温度とSi、Mnなどの溶銑成分から一義的に決まる量であって、例えば下記式(11)に示す様な近似式が提唱されており、これを用いても構わない。
飽和[C]=1.34+2.54×10-3t(℃)+Σmi%Xi……(11)
X: Si Mn P S
m: -0.31 0.03 -0.33 -0.40
【0024】
かくして本発明によれば、脱珪・脱りん処理で溶存酸素濃度が高まった溶銑であっても、酸化精錬に属する脱珪・脱りんによって溶銑中のCも消費されて炭素濃度が飽和溶解度以下に低下していることを有効に活用し、カルシウムカーバイドを脱硫剤として適量使用することにより溶銑脱硫を効率よく実施し得ることになった。
【0025】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に含まれる。
【0026】
実施例1
高炉鋳床上で脱珪処理を行い、脱珪された溶銑303トンを混銑車に受銑した。該溶銑上の脱珪スラグをスラグドラッガーで除去した後、生石灰粉19kg/トン、鉄鉱石粉32kg/トン、蛍石粉3kg/トンの混合物を、溶銑中に浸漬したランスから窒素ガスと共に吹き込んで脱りん処理を行った。また脱りん処理工程では、水冷式のランスから溶銑上に酸素ガスを2.5Nm3/トンの流速で吹き付けた。
【0027】
脱珪・脱りん処理された該溶銑に対し、表1に示す組成のCaO系脱硫剤5.0kg/トンとCaC24.2kg/トンを吹き込んだところ、溶銑[S]は脱硫前の0.018%から脱硫後は0.002%まで低下し、良好な脱硫効率を得ることができた。このときの溶銑成分および温度の推移を表2に示す。
【0028】
この実施例では、脱硫前の溶銑の飽和C溶解度は式(11)を用いると4.73%と計算されるため、脱硫前[C]の分析値4.31(表2)との差ΔC%は0.42%となる。従って、式(10)よりCaC2原単位は11.2kg/トン以下とすることが望ましく、この実験では該好適添加量の要件を満たしている。
【0029】
比較例1
高炉鋳床上で脱珪処理を行い、脱珪された溶銑295トンを混銑車に受銑した。該溶銑上の脱珪スラグをスラグドラッガーで除去した後、生石灰粉21kg/トン、鉄鉱石粉35kg/トン、蛍石粉3kg/トンの混合物を、溶銑中に浸漬したランスから窒素ガスと共に吹き込み、脱りん処理を行った。該脱りん処理工程では、水冷式のランスから溶銑上に酸素ガスを1.7Nm3/トンの流速で吹き付けた。
【0030】
脱珪・脱りん処理された該溶銑に対し、表1に示す組成のCaO系脱硫剤5.0kg/トンとMg系脱硫剤4.2kg/トン吹き込んだところ、溶銑[S]は脱硫前の0.020%から脱硫後は0.007%まで低下したのみであり、前記実施例1に比べて低い脱硫効率しか得られなかった。このときの溶銑成分および温度の推移を表2に示す。
【0031】
参考例1
高炉鋳床上で脱珪処理を行い、脱珪された溶銑312トンを混銑車に受銑した。該溶銑上の脱珪スラグをスラグドラッガーで除去した後、脱りん処理をすることなく表1に示す組成のCaO系脱硫剤5.0kg/トンとCaC24.2kg/トンを吹き込んだところ、溶銑[S]は脱硫前の0.020%から脱硫後は0.006%まで低下したが、前記実施例1に比べると脱硫効率はやや低かった。このときの溶銑成分および温度の推移を表2に示す。
【0032】
この参考例では、脱硫前の溶銑の飽和C溶解度は式(11)を用いると4.73%と計算されるため、脱硫前[C]の分析値4.65との差ΔC%は0.08%となる。従って、式(10)よりCaC2原単位は2.1kg/トン以下であることが望ましく、本例ではカルシウムカーバイドの使用量が過剰気味で経済的に不利である。また本例では、脱珪処理のみで脱りん処理を行なっておらず、ΔC%値が小さいので、これも脱硫不足に影響を及ぼしたものと考えられる。
【0033】
しかしながら、本発明では、この様な脱珪処理のみ、或いは脱りん処理のみが行われた予備処理溶銑に対しても、酸化精錬に属するこれらの予備処理で溶銑中の炭素濃度が飽和炭素濃度以下に低下しておれば、カルシウムカーバイドによる脱硫能を有効に発揮させることができる。
【0034】
【表1】
Figure 0003784227
【0035】
【表2】
Figure 0003784227
【0036】
【発明の効果】
本発明は以上の様に構成されており、脱珪および/または脱りん処理されて炭素濃度が飽和溶解度以下に低下した溶銑を対象として、これに脱硫剤として適量のカルシウムカーバイドを添加することにより、溶銑脱硫を極めて効率よく実施し得ることになった。
【図面の簡単な説明】
【図1】脱珪・脱りん処理の有無が石灰系脱硫剤原単位と脱硫効率に与える影響を示し
たグラフである。
【図2】脱珪・脱りん処理なし溶銑を用いた脱硫処理と、脱珪・脱りん処理した溶銑を
用いた脱硫処理の工程を示すフロー図である。
【図3】脱珪・脱りん処理の有無が、「Mg系脱硫剤+石灰系脱硫剤併用系」脱硫剤原
単位と脱硫効率に与える影響を示したグラフである。
【図4】脱珪・脱りん処理の有無が、CaC2系脱硫剤原単位と脱硫効率に与える影響
を示したグラフである。

Claims (1)

  1. 脱珪および/または脱りん処理によって炭素濃度が飽和炭素濃度以下に低下した溶銑を対象とし、脱硫剤としてカルシウムカーバイドを添加して脱硫処理する方法であって、溶銑の飽和C濃度と溶銑の実際のC濃度(質量%)を考慮し、添加するカルシウムカーバイド原単位が下記式の関係を満たす様に制御することを特徴とする溶銑脱硫法。
    カルシウムカーバイド原単位(kg/溶銑トン)≦△C%×10/0.375
    式中、△C%=溶銑の飽和C濃度−溶銑の実際のC濃度(質量%)
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