JP3780815B2 - トランスミッションギヤの製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車のシンクロメッシュ型変速機(トランスミッション)に用いられるトランスミッションギヤの製造方法に関し、特にヘリカルギヤ(はすば歯車)等の変速ギヤ部とこれに隣接するスプライン歯形状のクラッチギヤ部とが一体となったトランスミッションギヤを鍛造にて製造する方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
この種のトランスミッションギヤの製造方法としては、予め別々に成形した変速ギヤ部とクラッチギヤ部とを電子ビーム溶接等にて溶接一体化する方法のほかに、双方のギヤ部を鍛造にて一体に成形する方法が例えば特公昭49−11543号公報、特公平6−73712号公報および特許第2542300号(特開平4−366028号公報)等にて提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】
上記各公報に代表されるような従来の技術では、いずれも変速ギヤ部とクラッチギヤ部とを熱間鍛造にて両者の概略形状をもって一体に成形した上でクラッチギヤ部について再度冷間サイジングを施し、最後に変速ギヤ部に切削加工を施すようにしているため、工程数が多くコストアップが余儀なくされる。特に熱間鍛造は冷間鍛造に比べ金型の摩耗が激しいためにその寿命が短いとされており、これがコストアップを一層助長する要因となっている。
【0004】
本発明は以上のような課題に着目してなされたもので、円環状の素材を用いることを前提とした上で、実質的に1アクションの冷間鍛造プレス加工のみをもって、変速ギヤ部とクラッチギヤ部とが一体となったトランスミッションギヤを容易に製造できるようにした方法を提供しようとするものである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
請求項1に記載の発明は、変速ギヤ部とこれに隣接して該変速ギヤ部よりも小径のスプライン歯形状のクラッチギヤ部とを備えたトランスミッションギヤを冷間鍛造法により一体に成形する方法であって、変速ギヤ成形部を有するダイス内に円環状の素材を入れ、このダイスに内挿される下パンチと複合筒構造の上パンチとにより閉塞鍛造法にてその素材を軸心方向に据え込んで変速ギヤ部を一次成形する工程と、前記下パンチもしくは上パンチと素材の内周面との間に所定の隙間を確保した上で下パンチにより素材をさらに軸心方向に据え込んで変速ギヤ部を二次成形する工程と、前記上パンチのうちクラッチギヤ成形部を有するパンチ構成要素同士を相対移動させながら下パンチにて素材をさらに軸心方向に据え込み、変速ギヤ部を仕上げ成形しながらクラッチギヤ部を成形する工程と、を含んでいる。
【0006】
上記変速ギヤ部は一般的にはヘリカルギヤ(はすば歯車)であるが、必ずしもヘリカルギヤである必要はない。また、上記クラッチギヤ部はストレート形状のもののほか逆テーパ形状のものであってもよい。
【0007】
さらに、上記複合軸構造の上パンチは、少なくともパンチ構成要素として内側から順に例えば段付軸形状のマンドレルとインナパンチおよびアウタパンチとを備えていれば足り、パンチ構成要素であるインナパンチとアウタパンチは上記のようにクラッチギヤ部の成形を司るものであるから、必然的にその両者の摺動部はクラッチギヤ形状のものとなっている。
【0008】
したがって、この請求項1に記載の発明では、円環状の素材をダイスと上パンチおよび下パンチの三者により拘束した上で例えば下パンチの上動動作によりその軸心方向に据え込むと、素材肉がダイス側の空間である変速ギヤ成形部へと流れ込んでその閉塞状態にて素材肉が充満することから、この状態をもって変速ギヤ部が一次成形される。
【0009】
そして、上記素材とマンドレルとの間に所定の隙間を持たせるべくマンドレルを所定量だけ上下方向に移動させた上、下パンチにてなおも素材を据え込むと、上記隙間を埋めるような素材肉の塑性流動が起こり、同時に上記変速ギヤ成形部への素材肉の流れ込みが促進される結果、変速ギヤ部が二次成形されてその完成度が高められる。
【0010】
さらに、上記アウタパンチを構成しているパンチ構成要素であるところの例えばアウタパンチとインナパンチとを相対移動させながら下パンチにてなおも素材を据え込むと、上記パンチ構成要素の相対移動によって生じる空間に素材肉を充満させるべく塑性流動が生じることから、これをもって初めてクラッチギヤ部が成形されるとともに、変速ギヤ部が仕上げ成形されてその完成度が一段と高められることになる。
【0011】
請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明における二工程目の変速ギヤ部を二次成形する工程と、三工程目のクラッチギヤ部を成形する工程とを実質的に入れ替えたものである。
【0012】
より詳しくは、変速ギヤ部とこれに隣接して該変速ギヤ部よりも小径のスプライン歯形状のクラッチギヤ部とを備えたトランスミッションギヤを冷間鍛造法により一体に成形する方法であって、変速ギヤ成形部を有するダイス内に円環状の素材を入れ、このダイスに内挿される下パンチと複合筒構造の上パンチとにより閉塞鍛造法にてその素材を軸心方向に据え込んで変速ギヤ部を一次成形する工程と、前記上パンチのうちクラッチギヤ成形部を有するパンチ構成要素同士を相対移動させながら下パンチにて素材をさらに軸心方向に据え込み、変速ギヤ部を二次成形しながらクラッチギヤ部を成形する工程と、前記下パンチもしくは上パンチと素材の内周面との間に所定の隙間を確保した上で下パンチにより素材をさらに軸心方向に据え込んで変速ギヤ部およびクラッチギヤ部をそれぞれ仕上げ成形する工程と、を含んでいる。
【0013】
したがって、この請求項2に記載の発明では、二工程目にて上パンチのパンチ構成要素同士を相対移動させながら下パンチにて素材を据え込むことから、変速ギヤ部が二次成形されるのと並行してクラッチギヤ部が成形される。
【0014】
そして、三工程目では、素材の内周面と上パンチのパンチ構成要素であるマンドレルとの間に所定の隙間を確保しながら、なおも下パンチにて素材を据え込むことで、変速ギヤ部およびクラッチギヤ部の双方が仕上げ成形されることになる。
【0015】
【発明の効果】
請求項1,2に記載の発明によれば、実質的に冷間鍛造プレスの1アクションをもって変速ギヤ部とクラッチギヤ部とを備えたトランスミッションギヤを円環状素材から一気に成形することができるため、加工工数の大幅な削減によりコストダウンを図ることができるでき、特に熱間鍛造法に比べて金型の摩耗の少ない冷間鍛造法を基本としていることから、金型そのものの寿命も長くなって耐久性が向上し、上記コストダウン効果が一段と顕著となる。
【0016】
また、請求項1に記載の発明のように、クラッチギヤ部の成形開始よりも先に、素材の内周面側に所定の隙間を積極的に確保した上で素材を据え込むいわゆる変速ギヤ部の二次成形を行うと、特に変速ギヤ部での欠肉等の成形欠陥の発生を防止してその歯形精度が向上し、逆に、請求項2に記載の発明のようにクラッチギヤ部の成形開始を先に行うと、そのクラッチギヤ部での欠肉等の成形欠陥の発生を防止してその歯形精度が向上する効果がある。
【0017】
【発明の実施の形態】
図1〜5は本発明に係るトランスミッションギヤの製造方法の好ましい実施の形態を示す説明図であり、特に図1は本実施の形態が製造対象としているトランスミッションギヤの一例を示している。
【0018】
図1に示すように、トランスミッションギヤ1は、主体となる変速ギヤ部2がヘリカルギヤ状のものであって且つその変速ギヤ部2と一体にテーパ状のボス部3を備えていて、そのボス部3の根元部には変速ギヤ部2に隣接するようにこれよりも小径のスプライン歯(外スプライン)形状をなすクラッチギヤ部4が一体に形成されているものである。なお、上記クラッチギヤ部4の各々の歯4aは図2の(A)に示すようにストレート形状に成形された後、必要に応じて後工程において同図(B)に示す逆テーパ状のものとなるように仕上げ加工が施される。
【0019】
本実施の形態に用いられる冷間鍛造プレスは、図3の(A)に示すように、大別して、ダイス5と、このダイス5をはさんで上下方向で互いに対向するように配置された下パンチとしてのカウンターパンチ6および上パンチ7とからなり、カウンターパンチ6と上パンチ7の一部はいずれもダイス5に内挿可能である。そして、上記ダイス5には素材収容空間として内歯車状の変速ギヤ成形部8を含むコンテナ部9が形成されている一方、カウンターパンチ6は後述する上パンチ7側のマンドレル10が内挿可能な中空軸状のものとして形成されている。
【0020】
また、上パンチ7は、段付軸形状のマンドレル10とインナパンチ11、中間パンチ12およびアウタパンチ13とにより実質的に四重の複合軸構造のもとして形成されていて、これらの各パンチ構成要素10〜13は互いに同心状であり、且つそれぞれに独立して上下方向にスライドすることができるようになっている。そして、上記パンチ構成要素10〜13のうちアウタパンチ13と中間パンチ12は後述するようにいずれもがクラッチギヤ部4の成形に関与することから、図4に示すようにアウタパンチ13はその内周面が内スプライン形状であり、同様に中間パンチ12はその内周面が外スプライン形状のものとなっていて、両者は摺動可能に嵌合している。
【0021】
本実施の形態で使用される素材Wは予め前加工された単純な円環状のものであって、図3の(A)に示すように予めダイス5に内挿されて静止しているカウンターパンチ6を底面とするコンテナ部9に上記素材Wを投入する。そして、パンチ構成要素であるアウタパンチ13と中間パンチ12およびインナパンチ11の三者の下端面が面一状態となるように揃えられた上パンチ7を下降させ、マンドレル10の小径軸部10aをカウンターパンチ6の内周に内挿しつつ、そのマンドレル10以外の上パンチ7の下端面をダイス5の上端面に着座させて上記コンテナ部9を閉塞する(図3の(B)参照)。この状態をもって上パンチ7の各パンチ構成要素10〜13とダイス5との相対位置関係は一時的に固定される。
【0022】
次いで、図3の(B)に示すように、それまで静止状態にあったカウンターパンチ6を上動させ、その素材Wをカウンターパンチ6によって上下方向に据え込む。これにより、素材Wは図5の(A),(B)に示すようにその高さ寸法が縮小化されながら塑性流動し、その結果として素材肉がマンドレル10の大径軸部10bに密着するようになるとともに積極的に変速ギヤ成形部8に流入することから、不完全ながらも変速ギヤ部2たるヘリカルギヤが一次成形され始める。
【0023】
続いて、図3(B)の状態からマンドレル10以外の上パンチ7の各パンチ構成要素11〜13を固定したままでマンドレル10のみを所定量だけ上昇させ、マンドレル10の小径軸部10aを素材Wの内周に位置させて、その素材Wの内周面とマンドレル10の小径軸部10aとの間に所定の隙間を確保する。その状態でカウンターパンチ6を上昇させて素材Wの据え込みを続けると、上記隙間を埋めるかの如く素材Wが塑性流動し、同時に素材肉がダイス5側の変速ギヤ成形部8にも流入するようになる。これにより、比較的低い圧力をもって変速ギヤ成形部8の隅々まで素材肉を流入させることができ、図5の(C)に示すようにこの変速ギヤ成形部8をもって成形されるところの上記変速ギヤ部2の完成度が一段と高められる。
【0024】
この後、図3の(D)に示すように、アウタパンチ13を固定したままで上パンチ7のパンチ構成要素である中間パンチ12とインナパンチ11およびマンドレル10を所定量ずつ上昇させる。すなわち、中間パンチ12の上昇量よりもマンドレル10およびインナパンチ11の上昇量の方が大きくなるようにそれら中間パンチ12とインナパンチ11およびマンドレル10を上昇させ、素材Wの上面と上パンチ7との間に断面階段状の空間をつくる。この階段状の空間は、図5に示すクラッチギヤ部4およびボス部3となるべき空間にほかならない。
【0025】
そして、上記空間ができた状態でカウンターパンチ6をなおも上昇させて素材Wの据え込みを続けると、その空間を埋めるかの如く素材Wが塑性流動し、上記アウタパンチ13側の内スプライン歯形状が転写されるようなかたちで、比較的低い圧力をもって図1および図5の(D)に示すようにクラッチギヤ部4が一体に成形されるとともにボス部3が同じく一体に成形され、さらには上記塑性流動の影響で変速ギヤ成形部8へも素材肉の一部が一段と押し込まれて、その変速ギヤ成形部8をもって成形される変速ギヤ2の完成度が一段と高められる。以上のような冷間鍛造をもって、図1に示すトランスミッションギヤ1が一体のものとして成形される。
【0026】
なお、上記クラッチギヤ部4は、図2の(A)に示すように先端が面取りされたストレートなスプライン歯形状のもとして形成されるが、必要に応じて後工程にて印圧成形を施すことにより同図(B)に示すような逆テーパ状のものに成形することも可能である。
【0027】
ここで、上記クラッチギヤ部4を成形するのに先立って上記のような階段状の空間を確保するに際し、中間パンチ12やインナパンチ11およびマンドレル10を必ずしも強制的に上昇させる必要はなく、例えば各パンチ構成要素である中間パンチ12やインナパンチ11およびマンドレル10にそれぞれ所定の背圧を付与しておき、カウンターパンチ6による据え込み動作と並行して、そのカウンターパンチ6の成形力で徐々に中間パンチ12やインナパンチ11およびマンドレル10を上昇させるようにしてもよい。
【0028】
また、図1に示すトランスミッションギヤ1のうちボス部3を有しないタイプのものも同様の製法により成形することが可能である。この場合には、上パンチ7を形成しているパンチ構成要素のうちインナパンチ11と中間パンチ12とが一体化されていればよい。
【0029】
このように本実施の形態によれば、実質的に冷間鍛造プレスによる1アクションをもって単純円環状の素材Wから図1に示すトランスミッションギヤ1を一気に成形することができ、従来の製法と比べて加工工数を大幅に削減できることになる。
【0030】
また、本発明に係るトランスミッションギヤの製造方法の好ましい第2の実施の形態として、図3,5の(C)と(D)とを入れ替えた手順としてもよい。
【0031】
すなわち、図3の(B)の工程を経たならば、マンドレル10を元の位置に残したまま図3の(D)と同様に先ず中間パンチ12とインナパンチ11を所定量だけ上昇させて、クラッチギヤ部4を成形すべき空間をつくり、カウンターパンチ6を上昇させて素材Wを据え込むことで先にクラッチギヤ部4を成形する。その後に、マンドレル10を図3の(C)と同様に所定量だけ上昇させて、その素材Wの内周面とマンドレル10との間に所定の隙間を確保し、その状態をもってカウンターパンチ6にてさらに素材Wを据え込むことにより、変速ギヤ部2およびクラッチギヤ部4の完成度を高めながらボス部3を成形する。こうすることにより、クラッチギヤ部4が一回の据え込みによって成形される第1の実施の形態に比べて、クラッチギヤ部4が2回の据え込み動作によって成形されることから、上記クラッチギヤ部4となるべき部分への素材流入がより確実となり、クラッチギヤ部4の歯形精度が向上する利点がある。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明での製造対象となるトランスミッションギヤの一例を示す斜視図。
【図2】図1に示すトランスミッションギヤにおけるクラッチギヤ部の歯形の拡大図。
【図3】本発明に係るトランスミッションギヤの製造方法の好ましい実施の形態を示す工程説明図。
【図4】図3に示す上パンチのパンチ構成要素のうちアウタパンチと中間パンチとの関係を示す要部拡大図。
【図5】図3に示す歯形成形過程での素材の形状変化を示す説明図。
【符号の説明】
1…トランスミッションギヤ
2…変速ギヤ部
3…ボス部
4…クラッチギヤ部
5…ダイス
6…カウンターパンチ(下パンチ)
7…上パンチ
8…変速ギヤ成形部
10…マンドレル
11…インナパンチ
12…中間パンチ
13…アウタパンチ
W…素材
Claims (2)
- 変速ギヤ部とこれに隣接して該変速ギヤ部よりも小径のスプライン歯形状のクラッチギヤ部とを備えたトランスミッションギヤを冷間鍛造法により一体に成形する方法であって、
変速ギヤ成形部を有するダイス内に円環状の素材を入れ、このダイスに内挿される下パンチと複合軸構造の上パンチとにより閉塞鍛造法にてその素材を軸心方向に据え込んで変速ギヤ部を一次成形する工程と、
前記下パンチもしくは上パンチと素材の内周面との間に所定の隙間を確保した上で下パンチにより素材をさらに軸心方向に据え込んで変速ギヤ部を二次成形する工程と、
前記上パンチのうちクラッチギヤ成形部を有するパンチ構成要素同士を相対移動させながら下パンチにて素材をさらに軸心方向に据え込み、変速ギヤ部を仕上げ成形しながらクラッチギヤ部を成形する工程と、
を含むことを特徴とするトランスミッションギヤの製造方法。 - 変速ギヤ部とこれに隣接して該変速ギヤ部よりも小径のスプライン歯形状のクラッチギヤ部とを備えたトランスミッションギヤを冷間鍛造法により一体に成形する方法であって、
変速ギヤ成形部を有するダイス内に円環状の素材を入れ、このダイスに内挿される下パンチと複合軸構造の上パンチとにより閉塞鍛造法にてその素材を軸心方向に据え込んで変速ギヤ部を一次成形する工程と、
前記上パンチのうちクラッチギヤ成形部を有するパンチ構成要素同士を相対移動させながら下パンチにて素材をさらに軸心方向に据え込み、変速ギヤ部を二次成形しながらクラッチギヤ部を成形する工程と、
前記下パンチもしくは上パンチと素材の内周面との間に所定の隙間を確保した上で下パンチにより素材をさらに軸心方向に据え込んで変速ギヤ部およびクラッチギヤ部をそれぞれ仕上げ成形する工程と、
を含むことを特徴とするトランスミッションギヤの製造方法。
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