JP3776289B2 - リミテッドスリップディファレンシャルギア - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ディファレンシャルキャリア内にリミテッドスリップディファレンシャルケースを設けたリミテッドスリップディファレンシャルギアに係り、差動制限の利き初めからロックまでの利き方の特性である応答性の変更をプレッシャーリングを交換することなく迅速に行なえるリミテッドスリップディファレンシャルギアに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
リミテッドスリップディファレンシャルギア(以下LSDと略す)として、例えば特開昭62-062040 号公報がある。このLSDは、図8、図9に示すように、エンジン側から前進方向の回転駆動力が伝達されると、差動制限の利きが開始されるが、駆動輪側から回転駆動力が伝達された場合には差動制限が利かないタイプのもので、エンジンからの駆動力により回転するディファレンシャルケース1と、駆動輪の車軸10,11の軸方向に移動可能に前記ケース1内に互いに対向して収容された一対のプレッシャーリング2,3と、前記一対のプレッシャーリング2,3に挟持されたピニオンシャフト(十字形状に形成されている)4と、前記シャフト4の先端部に回転自在に取り付けられたピニオンギア5と、前記ピニオンギア5を両側から挟むように配置され、それぞれ前記ピニオンギア5に噛み合って前記車軸に駆動力を伝達する一対のサイドギア6,7と、前記ケース1と前記各サイドギア6,7の間に設けられ、前記プレッシャーリング2,3の前記車軸方向外方への移動により圧着されて両サイドギア6,7の差動を制限する多板摩擦クラッチ8,9とを有していて、前記プレッシャーリング2,3をそれぞれ車軸外方へ移動させて両者の隙間を広げ、前記多板摩擦クラッチ8,9をそれぞれ圧着させるるために、前記ピニオンシャフト4の軸横断面を略D字形状に形成するとともに、前記プレッシャーリング2,3には、前記ピニオンシャフト4の軸部と係合するカム面を形成する切欠き部2a,3aが対称に形成された(両切欠き部が合わさって略三角形の形状に形成される)カム分力機構が設けられている。
【0003】
このカム分力機構により、LSDは前進方向の回転駆動力が伝達されると、前記一対のプレッシャーリング2,3を押し広げて差動制限の利きが開始され、前進走行時にエンジンブレーキを動作させた際に駆動輪側から回転駆動力が伝達された場合には、前記一対のプレッシャーリング2,3が押し広げられず、差動制限が利かないことになる。もちろん、前記カム分力機構のカム面を上記の略三角形の形状ではなく菱形に形成すれば、前進・後進時にも差動制限が働くことになる。
【0004】
なお、ケース1にリングギア12が固定され、このリングギア12にエンジンの回転が伝達されるピニオンギア13が噛み合っている。
【0005】
このようなLSDにおいて、差動制限の利き具合、例えば前進走行時にアクセルを踏み込むと急激に差動制限の利きが開始されたり、あるいは緩やかに差動制限の利きが開始されるといったことは、前記カム分力機構の傾斜したカム面の傾斜角を変更することで可能である。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、LSDは高価な部品であり、一対のプレッシャーリングにそれぞれ形成するカム分力機構を構成する切欠き部は、一つのプレッシャーリングに同一形状のものを4つ形成すると共に、相手側のプレッシャーリングの切欠き部と位置ずれがないように形成する必要があり、非常に手間のかかる加工作業であり、また、加工費も高くなる。
【0007】
ところで、このような差動制限の利き具合については、ドライバーの好みや、走行する道路等の状況に応じて変更できるようにするには、カム分力機構におけるカム面の傾斜角度が異なる複数種類のプレッシャーリングを用意できればよいが、前述のようにプレッシャーリングは高価なものであり、また走行する道路等の状況に適合するカム面を備えたプレッシャーリングを用意することは非常に困難なことといえる。
【0008】
さらに、プレッシャーリングの交換作業はケース1の外部からは行なえず、ケース1内の分解作業を行なわなければならず、非常に手間のかかる以下の作業を要していた。
【0009】
1:車両からディファレンシャルキャリアの取り外し作業
2:ディファレンシャルキャリアの分解作業
3:プレッシャーリング取り出しのためのリミテッドスリップディファレンシャルの分解作業
4:別に用意にしたカム角仕様の異なるプレッシャーリングを装着するリミテッドスリップディファレンシャルの組み立て作業
5:ディファレンシャルキャリアの組み立て作業
6:車両へのディファレンシャルキャリアの組み付け作業
本出願に係る発明の目的は、プレッシャーリングの交換を行なうことなく差動制限の利き具合の変更を簡単に行なえるリミテッドスリップディファレンシャルギアを提供しようとするものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的を実現するリミテッドスリップディファレンシャルギアは、エンジンからの駆動力により回転するディファレンシャルケースと、前記ケースを内部に設けたディファレンシャルキャリアと、前記ケースと一体的に回転すると共に駆動輪の車軸方向に移動可能に前記ケース内に互いに対向して収容された一対のプレッシャーリングと、前記一対のプレッシャーリングに挟持された十字形状のピニオンシャフトに夫々回転自在に取り付けられたピニオンギアと、前記ピニオンギアを両側から挟むように配置され、それぞれ前記ピニオンギアに噛合して前記駆動輪の車軸に駆動力を伝達する一対のサイドギアと、前記ケースの側壁面と前記サイドギアの間に設けられ、前記プレッシャーリングの車軸方向外方への移動により圧着されて前記両サイドギアの差動を制限する多板クラッチと、前記プレッシャーリングおよび前記ピニオンシャフトに形成され、前記一対のプレッシャーリングを互いに離れる前記車軸方向外方に移動させるカム分力機構とを有するリミテッドスリップディファレンシャルギアにおいて、
前記カム分力機構は、前記一対のプレシャーリングの外周側の対向面間に周方向に複数装着され、個々の装着部に対して径方向外方から嵌め込むことにより交換可能なカム部材を有し、
前記ケースには前記各ピニオンシャフトの先端に対向してそれぞれ前記カム部材交換用の第1作業孔が形成され、
前記ディファレンシャルキャリアには前記第1作業孔と軸方向同位置で、前記ケースを回転させることにより各第1作業孔が一致する前記カム部材交換用の第2作業孔が形成されていて、前記カム部材を前記第1,第2作業孔を通して交換することを特徴とする。
【0011】
【発明の実施の形態】
(第1の実施の形態)
図1、図2、図3、図5および図6は本発明によるリミテッドスリップディファレンシャルギアの第1の実施の形態を示す。
【0012】
本実施の形態は、図8、図9に示す従来例のLSDにおいて、同じ部材には同じ符号を付してその説明を省略する。
本実施の形態のLSD は、車両側に取り付けられた不図示のディファレンシャルキャリア(以下単にキャリアと称す)内にケース1が設けられており、ケース1の外周面には各ピニオンシャフト4の軸心位置を略中心とする第1作業孔20が図6に示すように周方向に4箇所形成されている。また、前記キャリアにも、前記第1作業孔20と軸方向で一致する第2作業孔(不図示)が1箇所形成されており、この第2作業孔は外部からの作業が容易な位置に形成され、通常は不図示の栓部材により塞がれている。
従来の一対のプレッシャーリング2,3は、図4に示すようにカム分力機構を構成する切欠き部が一対のプレッシャーリング2,3に一体に機械加工により形成されているが、本実施の形態の一対のプレッシャーリング21,22には、図5に示すように、対向する内側に凹溝部23を90度間隔でピニオンシャフト4に対応して形成している。この凹溝部23内には、2分割構成のカム部材24aと24bとが取り外し可能に装着されており、このカム部材24aと24bとによりカム分力機構を構成している。2分割構成のカム部材24aと24bとは径方向外方から嵌め込むことにより凹溝部23に緩みなく固定され、一対のプレッシャーリング2,3間の隙間から例えばドライバー等を差し込んで引っ掛け上げることで緩みをつくれば、後は指で摘み上げることができる。
4箇所のカム分力機構を構成する左右一対の2分割構成のカム部材24aと24bは、ケース1に形成した第1作業孔20に臨んだ位置に存在しており、またケース1を回転させると前記キャリアの第2作業孔に対してこの第1作業孔20が順次移動する。
したがって、前記キャリアの第2作業孔から前記第1作業孔20を通して2分割構成のカム部材24aと24bとを一対のプレッシャーリング2,3から取り外し、カム角の異なる別の一対のカム部材に交換することができる。
カム角の差による差動制限力と駆動力との関係を図2、図3を用いて簡単に説明すると、カム角αの第1カム▲1▼と、カム角β(β>α)の第2カム▲2▼とは、同じ駆動力aの場合、第1カム▲1▼の差動制限力bは第2カム▲2▼の差動制限力cよりも小さい。
なお、図6の2分割構成のカム部材は両方のカム部材24aと24bにカム面が形成されたものを示しており、前進駆動時だけでなく、後進駆動およびエンジンブレーキの作動時においても差動制限が動作するタイプのものに適用できることは言うまでもないことである。その際、ピニオンシャフト4のカム部材との係合面は、図6の場合では円柱形状とし、図1の場合は断面D字形状としているが、この図1の断面D字形状のピニオンシャフト4に外周面が円形の筒部材を取り外し可能に装着すれば、図6に示すピニオンシャフト4をピニオンシャフトを交換することなく得ることができる。
【0013】
勿論、交換可能とするカム部材は、2分割式等の分割方式に限定されるものではなく、単品であっても、3分割であっても良い。
なお、本実施の形態では多板摩擦クラッチ8,9とケース1の側面との間にコーンスプリング15を配設し、作動制限の利き具合の調整を図っている。
【0014】
(第2の実施の形態)
図7は第2の実施の形態を示す。
【0015】
本実施の形態は、カム部材24aと24bにカム面をそれぞれ設けたもので、前進駆動時にピニオンシャフト4によりプレッシャーリング21,22を軸方向外方にそれぞれ移動させて差動制限力を発生させるためのカム面が形成されたカム部材24bと、後進時(エンジンブレーキ動作時)にピニオンシャフト4によりプレッシャーリング21,22を軸方向外方にそれぞれ移動させて差動制限力を発生させるためのカム面が形成されたカム部材24aとでカム部材を構成し、カム部材24aのカム角をカム部材24bのカム角よりも小さくし、後進時(エンジンブレーキ動作時)の差動制限力を小さくしている。このカム部材24a、24bは、第1の実施の形態と同様に、プレッシャーリングに対して径方向外方より凹溝部23内に嵌め込むことができるようになっている。
【0016】
【発明の効果】
本発明によれば、差動制限の利き具合の変更は、カム部材を交換するだけでよく、従来のようにプレッシャーリングの交換を不要とするので、高価なプレッシャーリングを複数種類用意する必要がなくなり、しかもカム部材の交換はリミテッドスリップディファレンシャルキャリアの第2作業孔、ケースの第1作業孔を通して行なえるので、従来のようにリミテッドスリップディファレンシャルキャリア、ケースの取り外し、分解、組み立てといった作業が不要となり、短時間に簡単に差動制限力の特性の変更を行なうことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施の形態を示すリミテッドスリップディファレンシャルギアの断面図。
【図2】(a)(b)はカム角の差による差動制限力と駆動力との関係を示す図。
【図3】図2のカム角の差による差動制限力と駆動力との関係を示す図表
【図4】従来のプレッシャーリングの断面図。
【図5】第1の実施の形態のプレッシャーリングとカム部材の断面図。
【図6】第1の実施の形態のケースの側面図。
【図7】本発明の第2の実施の形態のカム分力機構の正面図。
【図8】従来のリミテッドスリップディファレンシャルギアの断面図。
【図9】図8のリミテッドスリップディファレンシャルギアにサイドギアを記載した断面図。
【符号の説明】
1 ディファレンシャルケース
2,3、21,22 プレッシャーリング
4 ピニオンシャフト
5 ピニオンギア
6,7 サイドギア
8,9 多板摩擦クラッチ
10,11 車軸
12 リングギア
13 ピニオンギア
15 コーンスプリング
20 第1作業孔
23 凹溝部
24a、24b カム部材

Claims (3)

  1. エンジンからの駆動力により回転するディファレンシャルケースと、前記ケースを内部に設けたディファレンシャルキャリアと、前記ケースと一体的に回転すると共に駆動輪の車軸方向に移動可能に前記ケース内に互いに対向して収容された一対のプレッシャーリングと、前記一対のプレッシャーリングに挟持された十字形状のピニオンシャフトに夫々回転自在に取り付けられたピニオンギアと、前記ピニオンギアを両側から挟むように配置され、それぞれ前記ピニオンギアに噛合して前記駆動輪の車軸に駆動力を伝達する一対のサイドギアと、前記ケースの側壁面と前記サイドギアの間に設けられ、前記プレッシャーリングの車軸方向外方への移動により圧着されて前記両サイドギアの差動を制限する多板クラッチと、前記プレッシャーリングおよび前記ピニオンシャフトに形成され、前記一対のプレッシャーリングを互いに離れる前記車軸方向外方に移動させるカム分力機構とを有するリミテッドスリップディファレンシャルギアにおいて、
    前記カム分力機構は、前記一対のプレシャーリングの外周側の対向面間に周方向に複数装着され、個々の装着部に対して径方向外方から嵌め込むことにより交換可能なカム部材を有し、
    前記ケースには前記各ピニオンシャフトの先端に対向してそれぞれ前記カム部材交換用の第1作業孔が形成され、
    前記ディファレンシャルキャリアには前記第1作業孔と軸方向同位置で、前記ケースを回転させることにより各第1作業孔が一致する前記カム部材交換用の第2作業孔が形成されていて、前記カム部材を前記第1,第2作業孔を通して交換することを特徴とするリミテッドスリップディファレンシャルギア。
  2. 前記ディファレンシャルキャリアに設けた前記第2作業孔は栓部材により常時閉塞していることを特徴とする請求項1に記載のリミテッドスリップディファレンシャルギア。
  3. 前記カム部材は複数の部品を組み合わせて構成されたことを特徴とする請求項1または2に記載のリミテッドスリップディファレンシャルギア。
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