JP3775128B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、主として有機物から成る層(以下、単に「有機物層」と称す)、例えば、正孔輸送層と電子輸送層との組み合わせにより、電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料のII−VI族化合物半導体であるZnS、CaS、SrS等に、発光中心であるMnや希土類元素(Eu、Ce、Tb、Sm等)をドープしたものが一般的であるが、上記の無機材料から作製したEL素子は、
1)交流駆動が必要(50〜1000Hz)、
2)駆動電圧が高い(〜200 V)、
3)フルカラー化が困難(特に青色)、
4)周辺駆動回路のコストが高い、
という問題点を有している。
【0003】
しかし、近年、上記問題点の改良のため、有機薄膜を用いたEL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるため、電極からのキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンから成る正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る電子輸送層とを設けた有機電界発光素子の開発(Appl. Phys. Lett., 51 巻, 913 頁,1987年)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いたEL素子と比較して発光効率の大幅な改善がなされ、実用特性に近づいている。
【0004】
更に、素子の発光効率の向上や発光色を変えること等を目的として、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J. Appl. Phys.,65巻,3610頁,1989年)等も行われている。
赤色電界発光素子についても、種々のレーザー用蛍光色素をドープすることが検討されている。しかし例えば、ローダミンやオキサジン誘導体はイオン性の塩であるため真空蒸着時に分解するという問題点があった。またフェノキサゾン誘導体については、例えば特開平7−211457号公報には下記に示すフェノキサゾン誘導体
【0005】
【化2】
【0006】
などが例示されているが、これらをドープした電界発光素子は、赤色発光効率や発光輝度が低い点など改良すべき問題点があった。
このように、従来提案されている上述のような有機電界発光素子では、可視長波長領域、特に、赤色領域での発光効率がまだ不十分であった。十分な(深い)赤色発光が得られないことは、フルカラー表示可能なフラットパネル・ディスプレイ等の表示素子の開発に大きな障害となり、有機電界発光素子の応用範囲が限定されるため、更なる改良検討が望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明者らは、フェノキサゾン骨格を有する化合物の、平面性の高い構造部分、すなわち
【0008】
【化3】
【0009】
部分に置換基を導入しすることにより、該化合物を用いた有機電界発光素子の濃度消光が緩和され、また長波長(赤色)領域における高発光効率での駆動が可能となり、更に安定性も向上すること見いだし、本発明に至ったものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明は、対向する陽極と陰極との間に、主として有機物からなる層を有する有機電界発光素子であって、該有機物層のうち少なくとも1層が、下記一般式(I)
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、R 1 〜R 4 及びR 9 が、それぞれ独立して水素原子または−OR基(但し、Rはアルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基またはアルキルカルボニル基を表し、Rはその炭化水素部分に置換基を有していてもよい)である。
R 5 、R 6 およびR 8 は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、水酸基、−OR基(但し、Rはアルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基またはアルキルカルボニル基を表し、Rはその炭化水素部分に置換基を有していてもよい)、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。但し、R1 〜R4 及びR9 の全てが水素原子となることはない。
【0013】
また、R 5 、R 6 およびR 8 のいずれかがアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、
アルキニル基、2級若しくは3級アミノ基、アミド基、アシル基、アルキルスルホニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す場合には、各基の炭化水素部分に、更に置換基を有していてもよい。なお、R5 とR6 、R6 とR7 、及びR7 とR8 の少なくともいずれかが結合して、環を形成していてもよく、該環は、それぞれ置換基を有していてもよい。
R 7 は、−NR 15 R 16 基(但し、R 15 及びR 16 は、それぞれ独立して、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す)であり、R 6 とR 15 、R 8 とR 16 、及びR 15 とR 16 の少なくともいずれかが結合して、環を形成していてもよく、該環は、それぞれ置換基を有していてもよい。)で表される化合物を含有することを特徴とする、有機電界発光素子に存する。
【0014】
【発明の実施の形態】
まず、本発明に係るフェノキサゾン誘導体、すなわち一般式(I)で表される化合物について説明する。前記一般式(I)において、例えば、R 5 、R 6 およびR 8 はそれぞれ独立して、水素原子;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;メチル基、エチル基、ブチル基、ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ベンジル基、フェネチル基などのアラルキル基;ビニル基、プロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等の炭素数2〜7のアルケニル基;エチニル基、プロピニル基等の炭素数2〜7のアルキニル基;シアノ基;アミノ基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、プロピルアミノ基、ブチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジプロピルアミノ基、ジブチルアミノ基等の、炭素数1〜10のアルキルアミノ基;ベンジルアミノ基、ジベンジルアミノ基、ジフェネチルアミノ基などのアラルキルアミノ基;アミド基;メチルアミド、ジメチルアミド基、ジエチルアミド基等の炭素数2〜7のアルキルアミド基;ベンジルアミド基、ジベンジルアミド基等のアリールアミド;ニトロ基;アシル基;カルボキシル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、プロピルスルホニル基、ブチルスルホニル基、ヘキシルスルホニル基等の炭素数1〜6のアルキルスルホニル基;水酸基;−OR基(但し、Rは炭素数1〜10のアルキル基、炭素数5〜8のシクロアルキル基、炭素数6〜12の芳香族炭化水素基または炭素数2〜6のアルキルカルボニル基を表し、これらは更に置換されていてもよい。);シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のシクロアルキル基;テトラヒドロフリル基、テトラヒドロチオフェニル基、ピロリジル基等の飽和複素環基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基などの芳香族炭化水素基;ピリジル基、トリアジル基などの芳香族複素環基、などを表す。但し、R1 〜R4 及びR9 の全てが水素原子となることはない。
【0015】
また、R 5 、R 6 およびR 8 のいずれかがアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、2級若しくは3級アミノ基、アミド基、アシル基、アルキルスルホニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す場合には、各基の炭化水素部分に、更に置換基を有していてもよい。これらの「更なる置換基」としては、例えばフッ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;水酸基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;テトラヒドロフリル基、テトラヒドロチオフェニル基、ピロリジル基等の飽和複素環基等が挙げられる。なお、R5 とR6 、R6 とR7 、及びR7 とR8 の少なくともいずれかが結合して、環を形成していてもよい。この場合の環はそれぞれ、例えば炭素数1〜6のアルキル基などの置換基を有していてもよい。
【0016】
前記一般式(I)で表される化合物は、R1〜R4及びR9が、それぞれ独立して水素原子または−OR基(Rは前記一般式(I)におけると同義)である。また、前記一般式(I)で表される化合物は、R7が−NR15R16基(但し、R15及びR16は、それぞれ独立して、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。)である化合物(但し、R6とR15、R8とR16、及びR15とR16の少なくともいずれかが結合して、環を形成していてもよく、該環は、それぞれ置換基を有していてもよい)である。
【0017】
R15及びR16として挙げたアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基および芳香族複素環基としては、具体的には前記R 5 、R 6 およびR 8 の例として挙げた各基が挙げられる。前記一般式(I)で表される化合物のうち、特に好ましいのは下記一般式(II)
【0018】
【化5】
【0019】
(式中、R1 〜R4 及びR9 が、それぞれ独立して水素原子または−OR基(Rは前記一般式(I)におけると同義)である。
R5 、R6 およびR8 は、それぞれ前記一般式(I)におけると同義。
R15及びR16は、それぞれ独立して、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
なお、R6 とR15、R8 とR16及びR15とR16の少なくともいずれか結合して環を形成していてもよく、該環はそれぞれ置換基を有していてもよい。)
で表される化合物である。
R1 〜R4 及びR9 に関しては、−OR基が1〜2個で他が水素原子である場合が特に好ましく、−OR基が1個で他が水素原子である場合が最も好ましい。
なお、十分な(長波長領域での)発光が得られるという点では、前記一般式(I)において、R7 が−NR15R16基(但し、R15及びR16はいずれもアルキル基)であり、R6 とR15およびR8 とR16が結合してジュロリジン環を形成している化合物、特に該ジュロリジン環が1,1,7,7−テトラメチルジュロリジン環である化合物も好ましい。
一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体の具体例を、以下の表−1に示すが、本発明に係るフェノキサゾン誘導体は、何らこれらに限定するものではない。
【0020】
【表1】
【0021】
【表2】
【0022】
【表3】
【0023】
【表4】
【0024】
【表5】
【0025】
【表6】
【0026】
一般式(1)で表されるフェノキサゾン誘導体は、分散状態で蛍光強度が強く、耐光性、耐熱性も良好である。よって、このようなフェノキサゾン誘導体を、用いることにより、有機電界発光素子の可視長波長領域の発光特性を向上させることができ、良好な赤色発光が得られるようになる。
なお、「主として有機物からなる層」とは、実質的に有機物からなる層であって、本発明の性能を損わない範囲で無機物を含んでいても良い。
本発明に於いて、前記一般式(I)で表される化合物は、対向する陽極と陰極の間に存在する有機物層に含まれ、かかる有機物層としては特に限定されないが、後述する如く、正孔輸送層や電子輸送層等が挙げられる。
以下に、図面を参照して本発明の有機電界発光素子の構成を詳細に説明する。
【0027】
図1は本発明の有機電界発光素子の、基本的な実施形態を示す模式的な断面図であり、1は基板、2は陽極、4は正孔輸送層、5は電子輸送層、7は陰極を各々表わす。
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。基板のガスバリヤ性が低すぎると、基板を通過する外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板のどちらか片側もしくは両側に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0028】
基板1上には陽極2が設けられるが、陽極2は正孔輸送層4への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或は、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl. Phys. Lett., 60 巻, 2711頁, 1992年)。陽極2は異なる2種以上の物質を積層して形成することも可能である。陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5 〜1000nm、好ましくは10〜500nm 程度である。不透明でよい場合は陽極2は基板1の厚みと同程度でもよい。また更に、上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0029】
陽極2の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層4に用いられる正孔輸送性材料としては、陽極からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができることが必要である。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子にはさらに耐熱性が要求される。従って、Tgとして70℃以上の値を有する材料が望ましい。
【0030】
このような正孔輸送材料としては、例えば、1,1-ビス(4-ジ-p- トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報)、4,4'- ビス[N-(1-ナフチル)-N- フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774 号)、N,N'- ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)ビフェニル-4,4'-ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625 号)、α, α, α',α'-テトラメチル- α, α'-ビス(4-ジ-p- トリルアミノフェニル)-p- キシレン(特開平3−269084号公報)、分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報)、ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報)、エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報)、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報)、チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473 号公報)、トリアミン化合物(特開平5−239455号公報)、ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報)、N,N,N-トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報)、フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報)、シラザン化合物(米国特許第4,950,950 号公報)、シラナミン誘導体(特開平6−49079 号公報)、ホスファミン誘導体(特開平6−25659 号公報)、キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、各々、混合して用いてもよい。
【0031】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾールやポリシラン(Appl. Phys. Lett. ,59巻,2760頁,1991年)、ポリフォスファゼン(特開平5−310949号公報)、ポリアミド(特開平5−310949号公報)、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953 号公報)、トリフェニルアミン骨格を有する高分子(特開平4−133065号公報)、トリフェニルアミン単位をメチレン基等で連結した高分子(Synthetic Metals,55-57 巻,4163頁,1993年)、芳香族アミンを含有するポリメタクリレート(J. Polym. Sci., Polym. Chem.Ed. ,21巻,969 頁,1983年)等の高分子材料が挙げられる。
【0032】
上記の正孔輸送材料を塗布法或は真空蒸着法により前記陽極2上に積層することにより正孔輸送層4を形成する。
塗布法の場合は、正孔輸送材料を1種又は2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して正孔輸送層4を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
【0033】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板1上の陽極2上に正孔輸送層4を形成させる。
正孔輸送層4の膜厚は、通常、10〜300nm 、好ましくは30〜100nm である。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。電子輸送層5に用いられる電子輸送性材料としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、注入された電子を正孔輸送層4の方向に効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。そのためには、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れトラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくい材料であることが要求される。
【0034】
このような条件を満たす材料としては、テトラフェニルブタジエンなどの芳香族化合物(特開昭57− 51781号公報)、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10- ヒドロキシベンゾ[h] キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、混合配位子アルミニウムキレート錯体(特開平5−198377号公報、特開平5−198378号公報、特開平5−214332号公報、特開平6−172751号公報シクロペンタジエン誘導体(特開平2−289675号公報)、ペリノン誘導体(特開平2−289676号公報)、オキサジアゾール誘導体(特開平2−216791号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ペリレン誘導体(特開平2−189890号公報、同3− 791号公報)、クマリン化合物(特開平2−191694号公報、同3− 792号公報)、希土類錯体(特開平1−256584号公報)、ジスチリルピラジン誘導体(特開平2−252793号公報)、p−フェニレン化合物(特開平3− 33183号公報)、チアジアゾロピリジン誘導体(特開平3− 37292号公報)、ピロロピリジン誘導体(特開平3− 37293号公報)、ナフチリジン誘導体(特開平3−203982号公報)、シロール誘導体(日本化学会第70春季年会,2D1 02及び2D1 03,1996年)などが挙げられる。
【0035】
電子輸送層5の膜厚は、通常、10〜200 nm、好ましくは30〜100 nmである。
電子輸送層も正孔輸送層と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。
本発明の有機電界発光素子において、前記一般式(I)で表される化合物は、正孔輸送層4および/または電子輸送層5にドープされ発光する。例えば、電子輸送層5にドープされた場合、前述の電子輸送性材料がホスト材料の役割を果たし、正孔輸送層4にドープされた場合には、前述の芳香族アミン化合物やヒドラゾン化合物などの正孔輸送性材料がホスト材料として働く。
【0036】
前記一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体がドープされる領域は、正孔輸送層4及び/又は電子輸送層5の、層全体であってもその一部分であってもよく、各層の膜厚方向において均一にドープされても、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば電子輸送層5中の、正孔輸送層4との界面近傍にのみドープしたり、逆に陰極界面近傍にドープしてもよい。なお、前記一般式(I)で表される化合物のドープされる量は、ホスト材料に対して10-3〜10重量%が好ましい。
【0037】
前記一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体は、溶液状態で強い蛍光を示し、ホスト材料にドープされた場合素子の発光効率が向上する。特に、このフェノキサゾン誘導体はホスト材料にドープされた場合、600nm より長波長の可視光を効率よく得ることができるため好ましい。
前記一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体の、電子輸送層5および/または正孔輸送層4へのドープは、ホストとなる層の形成方法に準じ、塗布法或は真空蒸着法による該層形成時に行われる。
塗布法の場合は、例えば電子輸送材料と、前記一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体、さらに必要により、電子のトラップや発光の消光剤とならないバインダー樹脂や、レベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し溶解した塗布溶液を調整し、スピンコート法などの方法により正孔輸送層4上に塗布し、乾燥して電子輸送層5を形成する。バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと電子移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、50重量%以下が好ましい。
【0038】
真空蒸着法の場合には、例えば、電子輸送性材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、前記一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体を別のルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-6Torr程度にまで排気した後、各々のルツボを同時に加熱して蒸発させ、ルツボと向き合って置かれた基板上に層を形成する。また、他の方法として、上記の材料を予め所定比で混合したものを同一のルツボを用いて蒸発させてもよい。
正孔輸送層4にドープする場合も、同様に行う。
陰極7は、電子輸送層5に電子を注入する役割を果たす。陰極7として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。陰極7の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増すため好ましい。この目的のために、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0039】
図1の構成の素子では、正孔輸送層4は陽極2から正孔を受けとる(正孔注入)機能と、受けとった正孔を電子輸送層5の方へ運ぶ(正孔輸送)機能を果たしており、電子輸送層5は、陰極7から受け取った電子を正孔輸送層4へ運ぶ(電子輸送)機能をも果たしている。
しかし本発明の素子の、更なる発光特性や駆動安定性の向上のために、例えば図2および図3に示す様に、電子輸送層5と陰極7の間に電子注入層6を設けたり、図3に示す様に陽極2と正孔輸送層4の間に陽極バッファ層3を設けるなど、機能毎に層を分ける構造、すなわち機能分離型の素子にすることも可能である。
【0040】
図2および図3に示すように、電子輸送層5と陰極7の間に電子注入層6を設けることにより、素子の発光効率をさらに向上させることが可能である。この電子注入層6に用いられる材料には、陰極からの電子注入が容易で、電子の輸送能力がさらに大きいことが要求される。この様な材料としては、既に電子輸送層材料として挙げた8−ヒドロキシキノリンのアルミ錯体、オキサジアゾール誘導体(Appl. Phys. Lett., 55 巻, 1489頁, 1989年他)やそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系(Appl. Phys. Lett. ,61巻,2793頁, 1992年)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N'- ジシアノアントラキノンジイミン(Phys. Stat. Sol. (a),142 巻, 489 頁, 1994年)、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
電子注入層6の膜厚は、通常、5 〜200nm 、好ましくは10〜100 nmである。
【0041】
さらに、陽極2と正孔輸送層4のコンタクトを向上させるために、図3に示す様に、陽極バッファ層3を設けることが考えられる。陽極バッファ層に用いられる材料に要求される条件としては、陽極とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、すなわち、融点及びガラス転移温度が高く、融点としては 300℃以上、ガラス転移温度としては 100℃以上が要求される。さらに、イオン化ポテンシャルが低く陽極からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが挙げられる。この目的のために、これまでにポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63−295695号公報)、スターバスト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平4−320483号公報)、アルコキシ置換の芳香族ジアミン誘導体(特開平4−220995号公報)、p-(9-アントリル)- N,N-ジ-p- トリルアニリン(特開平3−111485号公報)、ポリチエニレンビニレンやポリ−p−フェニレンビニレン(特開平4−145192号公報)、ポリアニリン(Appl. Phys. Lett., 64 巻,1245 頁, 1994年参照)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(特開平8− 31573号公報)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(第43回応用物理学関係連合講演会,27a-SY-9,1996年)が報告されている。
【0042】
上記陽極バッファ層材料としてよく使用される化合物としては、ポルフィリン化合物又はフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は中心金属を有していてもよいし、無金属のものでもよい。
好ましいこれらの化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる:
ポルフィン
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィン
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィンコバルト(II)
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィン銅(II)
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィン亜鉛(II)
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィンバナジウム(IV)オキシド
5,10,15,20- テトラ(4-ピリジル)-21H,23H- ポルフィン
29H,31H-フタロシアニン
銅(II)フタロシアニン
亜鉛(II)フタロシアニン
チタンフタロシアニンオキシド
マグネシウムフタロシアニン
鉛フタロシアニン
銅(II)4,4',4'',4'''-テトラアザ-29H,31H- フタロシアニン
陽極バッファ層の場合も、正孔輸送層と同様にして薄膜形成可能であるが、無機物の場合には、さらに、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法が用いられる。
【0043】
以上の様にして形成される陽極バッファ層3の膜厚は、通常、3 〜100nm 、好ましくは10〜50nmである。
尚、上述の図1〜図3のいずれの構造の素子の場合も、陰極7と電子輸送層5又は電子注入層6とのコンタクトを向上させるために、両者の間に界面層を設けてもよい。この陰極界面層に用いられる化合物としては、芳香族ジアミン化合物(特開平6−267658号公報)、キナクリドン化合物(特開平6−330031号公報)、ナフタセン誘導体(特開平6−330032号公報)、有機シリコン化合物(特開平6−325871号公報)、有機リン化合物(特開平5−325872号公報)、N−フェニルカルバゾール骨格を有する化合物(特開平8− 60144号公報)、N−ビニルカルバゾール重合体(特開平8− 60145号公報)等で構成された層が例示できる。
【0044】
界面層の膜厚は、通常、2 〜100nm 、好ましくは 5〜30nmである。
界面層を設ける代わりに、電子輸送層及び電子注入層の陰極界面近傍に上記界面層の材料を50重量%以上含む領域を設けてもよい。
図1〜図3は、本発明で採用される素子構造の一例を示すものであって、本発明は何ら図示のものに限定されるものではない。例えば、図1とは逆の構造、すなわち、基板上に陰極7、電子輸送層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2および図3に示した前記各層構成とは逆の構造に積層することも可能である。
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0045】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
実施例1
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を 120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて 2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行って、真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。
上記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた、下記構造式(H1)で表される芳香族アミン化合物を、
【0046】
【化6】
【0047】
ルツボの周囲のTa線ヒーターで加熱して真空容器内で蒸発させた。ルツボの温度は235 〜245 ℃の範囲で、蒸発時の真空度は1.0×10-6Torr(約2.8×10-4Pa)、蒸着速度は0.1 〜0.5nm /秒であった。このようにして、膜厚60nmの正孔輸送層4を蒸着した。蒸着時間は3分であった。
引続き、電子輸送層の材料として、以下の構造式に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体、Al (C9 H6 NO)3 (E1)
【0048】
【化7】
【0049】
及びドープする化合物として下記化合物(D1)
【0050】
【化8】
【0051】
を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、化合物(1)に対しては173 〜175 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.0×10-6Torr(約2.8×10-4Pa)、蒸着速度は0.1 〜0.2nm /秒で、蒸着時間は3 分15秒であった。結果として、膜厚75.7nmで化合物(D1)が錯体(E1)に対して0.9 重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
上記の正孔輸送層及び電子輸送層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0052】
ここで、電子輸送層までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして 2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで排気した。続いて、陰極として、マグネシウムと銀の合金電極を2元同時蒸着法によって膜厚44nmとなるように蒸着した。蒸着はモリブデンボートを用いて、真空度1×10-5Torr(約1.3×10-3Pa)、蒸着時間3分20秒で行った。また、マグネシウムと銀の原子比は10:1.4 とした。さらに続いて、装置の真空を破らないで、アルミニウムをモリブデンボートを用いて40nmの膜厚でマグネシウム・銀合金膜の上に積層して陰極を完成させた。アルミニウム蒸着時の真空度は1.5×10-5Torr(約1.0×10-3Pa)、蒸着時間は1分20秒であった。以上のマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0053】
以上の様にして、2mm ×2mm のサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表−2に示す。
表−2において、発光開始電圧は輝度が1cd/m2となる電圧、発光輝度は250mA /cm2 の電流密度での値、発光効率は 100cd/m2での値、輝度/電流は輝度−電流密度特性の傾きを、駆動電圧は 100cd/m2での値を各々示す。
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は610nm 、CIE色度座標値はx=0.65、y=0.35であった。ホスト材料(E1)の発光のピーク波長は、530nm で緑色である。(後述参考例1参照)。したがって、化合物(D1)をドープすることにより発光波長を変えることができ、さらに600nm より長波長の発光を効率よく得ることができた。
【0054】
実施例2
以下に記述する方法で、電子輸送層に化合物(D1)をドープし、さらに電子注入層を設けたこと以外は実施例1と同様にして、図2に示す構造を有する有機電界発光素子を作製した。
電子輸送層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)及びドープする化合物として前記化合物(D1)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、化合物(D1)に対しては175 〜180 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.5×10-6Torr(約3.3×10-4Pa)、蒸着速度は0.1 〜0.2nm /秒で、蒸着時間は3分15秒であった。結果として、膜厚30.2nmで化合物(D1)が錯体(E1)に対して0.6 重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
【0055】
引続き、電子注入層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)を蒸着した。このときのルツボの温度は 275〜285 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.5×10-6Torr(約3.3×10-4Pa)、蒸着速度は0.1 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は3 分であった。結果として、膜厚45nmの電子注入層が得られた。
上記の電子輸送層及び電子注入層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
得られた有機電界発光素子の発光特性を表−2に示す。
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は610nm 、CIE色度座標値はx=0.65、y=0.35であった。ホスト材料(E1)の発光のピーク波長は、530nm で緑色である。(後述参考例1参照)。したがって、化合物(D2)をドープすることにより発光波長を変えることができ、さらに600nm より長波長の発光を効率よく得ることができた。
【0056】
実施例3
図2に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
実施例1と同様にして作製したITOガラス基板上に、前記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた芳香族アミン化合物(H1)を、ルツボの周囲のTa線ヒーターで加熱して真空容器内で蒸発させた。ルツボの温度は220 〜240 ℃の範囲で、蒸発時の真空度は2.1×10-6Torr(約2.8×10-4Pa)であった。このようにして、膜厚60nmの正孔輸送層を蒸着した。蒸着時間は4 分であった。
次いで、電子輸送層の材料として、以下の構造式に示すガリウムの8−ヒドロキシキノリン錯体、Ga(C9 H6 NO)3 (E2)
【0057】
【化9】
【0058】
及びドープする化合物として前記化合物(D1)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、ガリウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 210〜220 ℃の範囲、化合物(D1)に対しては170 〜175 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.5×10-6Torr(約2.0×10-4Pa)、蒸着速度は0.1 〜0.2nm /秒で、蒸着時間は3 分50秒であった。結果として、膜厚30.2nmで化合物(D1)が錯体(E2)に対して0.7 重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
引続き、電子注入層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)を蒸着した。このときのルツボの温度は 280〜300 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.0×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.5nm /秒で、蒸着時間は2 分15秒であった。結果として、膜厚45nmの電子注入層が得られた。
【0059】
上記の正孔輸送層、電子輸送層及び電子注入層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
この後、実施例1と同様にして陰極を蒸着した。
この有機電界発光素子の発光特性を表−2に示す。
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は614nm 、CIE色度座標値はx=0.65、y=0.35であった。ホスト材料(E2)の発光のピーク波長は、545nm で黄緑色である。(後述参考例2参照)。したがって、化合物(D1)をドープすることにより発光波長を変えることができ、さらに600nm より長波長の発光を効率よく得ることができた。
【0060】
実施例4
図1に示す構造を有し、正孔輸送層に下記化合物(D2)
【0061】
【化10】
【0062】
がドープされた有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
実施例1と同様にして作製したITOガラス基板上に、前記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた芳香族アミン化合物(H1)及びドープする化合物(D2)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、化合物(H1)に対しては220 〜240 ℃の範囲、化合物(D2)に対しては160 〜165 ℃の範囲で制御した。蒸発時の真空度は1.3×10-6Torr(約1.7×10-4Pa)、蒸着速度はであった。このようにして、膜厚60.6nmで化合物(D2)が芳香族アミン化合物(H1)に対して1重量%ドープされた正孔輸送層が得られた。
引続き、電子輸送層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)を蒸着した。このときのルツボの温度は 280〜300 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.0×10-6Torr(約1.3×10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.5nm /秒で、蒸着時間は2 分15秒であった。結果として、膜厚75nmの電子輸送層が得られた。
【0063】
上記の正孔輸送層及び電子輸送層を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
この後、実施例1と同様にして陰極を蒸着した。
得られた有機電界発光素子の発光特性を表−2に示す。
この素子は、赤橙色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は595nm 、CIE色度座標値はx=0.60、y=0.40であった。正孔輸送層に化合物(D2)をドープしない場合、錯体E1からの緑色発光が観測され、そのピーク波長は530nm である。(後述参考例1参照)したがって、化合物(D2)を正孔輸送層にドープすることにより発光波長を変えることができ、長波長の発光を効率よく得ることができた。
【0064】
実施例5
以下に記述する方法で、電子輸送層に下記化合物(D3)
【0065】
【化11】
【0066】
をドープしたこと以外は実施例2と同様にして、図2に示す有機電界発光素子を作製した。
電子輸送層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)及びドープする化合物として化合物(D3)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、化合物(D3)に対しては150 〜160 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.1×10-6Torr(約1.5×10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.5nm /秒で、蒸着時間は1 分10秒であった。結果として、膜厚30.3nmで化合物(D3)が錯体(E1)に対して0.8 重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
【0067】
得られた有機電界発光素子の発光特性を表−2に示す。
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は620nm 、CIE色度座標値はx=0.67、y=0.32であった。ホスト材料(E1)の発光のピーク波長は、530nm で緑色である。(後述参考例1参照)。したがって、化合物(D3)をドープすることにより発光波長を変えることができ、さらに600nm より長波長の発光を効率よく得ることができた。
【0068】
比較例1
以下に記述する方法で、電子輸送層にフェノキサゾン9(D4)をドープしたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0069】
【化12】
【0070】
電子輸送層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)及びドープする化合物として前記化合物(D4)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)に対しては 275〜285 ℃の範囲、化合物(D4)に対しては150 〜160 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.4×10-6Torr(約1.9×10-4Pa)、蒸着速度は0.2 〜0.3nm /秒で、蒸着時間は5 分15秒であった。結果として、膜厚75.5nmで化合物(D4)が錯体(E1)に対して1 重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
この素子は、575nm に発光のピーク波長を持ち、黄色味を帯びたオレンジ色の発光を示した。
この有機電界発光素子の発光特性を表−2に示す。
【0071】
表−2から明らかなように、本発明のフェノキサゾン系誘導体を用いた素子は、従来公知のフェノキサゾン系誘導体(即ち、平面性の高い構造部分に置換基を有さない化合物)を用いた素子と比較して、発光開始電圧、発光輝度、発光効率等、いずれの点においても優れており、また発光のピーク波長から、十分な(より深い)赤色発光を得られることが示された。
【0072】
参考例1
電子輸送層に前記化合物(D1)をドープしなかったこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子は、530nm に発光のピーク波長を持ち、緑色の一様な発光を示した。
参考例2
電子輸送層に前記化合物(D1)をドープしなかったこと以外は実施例3と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子は、545nm に発光のピーク波長を持ち、黄緑色の一様な発光を示した。
(安定性評価)
実施例1、比較例1及び参考例1に記述する方法で作製した各々の素子に、大気中25℃で電流密度が250mA/cm2 となる定電流を30秒間通電し、通電前後での素子の発光輝度を測定した。
測定結果を表−3に示す。表−3において、通電による輝度低下の割合は、通電終了時の発光輝度を通電開始時の発光輝度で除した値を百分率で示したものである。比較例1の素子は、参考例1の素子と同程度に発光輝度が低下したが、実施例1の素子は、連続通電による発光輝度の低下が抑制された。つまり、前記一般式(I)で表されるフェノキサゾン誘導体を有機電界発光素子の前述の正孔輸送層及び/又は電子輸送層のドープ材料として用いることにより、安定した発光特性をもたらすことが示された。
【0073】
【表7】
【0074】
【表8】
【0075】
【発明の効果】
以上記述した通り、本発明の有機電界発光素子によれば、特定のフェノキサゾン誘導体を含有する正孔輸送層及び/又は電子輸送層を有するために、可視長波長領域の発光特性及び安定性が向上した素子を得ることができる。
従って、本発明による有機電界発光素子はフルカラー表示可能なフラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、発光スペクトルが可視長波長領域にわたる面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、鮮明な赤色発光体としての特徴を生かした光源(例えば計器類の警告表示光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機電界発光素子の実施の形態の一例を示した模式断面図である。
【図2】有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式断面図である。
【図3】有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 正孔輸送層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 陰極
Claims (4)
- 対向する陽極と陰極との間に、主として有機物からなる層を有する有機電界発光素子であって、該有機物層のうち少なくとも1層が、下記一般式(I)で表わされる化合物を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
R 5 、R 6 およびR 8 は、それぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シアノ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、アシル基、カルボキシル基、アルキルスルホニル基、水酸基、−OR基(但し、Rはアルキル基、シクロアルキル基、芳香族炭化水素基またはアルキルカルボニル基を表し、Rはその炭化水素部分に置換基を有していてもよい)、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す。
但し、R1 〜R4 及びR9 の全てが水素原子となることはない。
また、R 5 、R 6 およびR 8 のいずれかがアルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、2級若しくは3級アミノ基、アミド基、アシル基、アルキルスルホニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す場合には、各基の炭化水素部分に、更に置換基を有していてもよい。なお、R5 とR6 、R6 とR7 、及びR7 とR8 の少なくともいずれかが結合して、環を形成していてもよく、該環は、それぞれ置換基を有していてもよい。
R 7 は、−NR 15 R 16 基(但し、R 15 及びR 16 は、それぞれ独立して、アルキル基、アラルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、飽和複素環基、芳香族炭化水素基または芳香族複素環基を表す)であり、R 6 とR 15 、R 8 とR 16 、及びR 15 とR 16 の少なくともいずれかが結合して、環を形成していてもよく、該環は、それぞれ置換基を有していてもよい。) - 上記一般式(I)において、R1 〜R4 及びR9のうちいずれか一つの基が−OR基であり、その他の基がすべて水素原子である請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 上記一般式(I)において、R6 とR15およびR8 とR16が結合して隣接するベンゼン環と共にジュロリジン環を形成している、請求項1または2に記載の有機電界発光素子。
- 該ジュロリジン環が、1,1,7,7−テトラメチルジュロリジン環である、請求項3に記載の有機電界発光素子。
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