JP3760556B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、有機正孔輸送層及び有機電子輸送層を有する有機発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料のII−VI族化合物半導体であるZnS、CaS、SrS等に、発光中心であるMnや希土類元素(Eu、Ce、Tb、Sm等)をドープしたものが一般的であるが、上記の無機材料から作製したEL素子は、
1)交流駆動が必要とされる(一般に50〜1000Hz)。
2)駆動電圧が高い(一般に200 V程度)。
3)フルカラー化が困難で、特に青色に問題がある。
4)周辺駆動回路のコストが高い。
という問題点を有している。
【0003】
しかし、近年、上記問題点の改良のため、有機薄膜を用いたEL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるため、電極からのキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンから成る正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る発光層とを設けた有機電界発光素子の開発(Appl. Phys. Lett., 51 巻, 913 頁,1987年)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いたEL素子と比較して発光効率の大幅な改善がなされ、実用特性に近づいてきている。
【0004】
上記の様な低分子材料を用いた電界発光素子の他にも、発光層の材料として、ポリ(p−フェニレンビニレン)(Nature, 347 巻, 539 頁, 1990年他)、ポリ[2-メトキシ-5- (2-エチルヘキシルオキシ)-1,4- フェニレンビニレン](Appl. Phys. Lett., 58 巻, 1982頁, 1991年他)、ポリ(3-アルキルチオフェン)(Jpn. J. Appl. Phys, 30巻, L1938 頁, 1991年他)等の高分子材料を用いた電界発光素子の開発や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に低分子の発光材料と電子移動材料を混合した素子(応用物理, 61巻, 1044頁, 1992年)の開発も行われている。
【0005】
また、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J. Appl. Phys.,65巻,3610頁,1989年)等も行われている。しかし、レーザー用蛍光色素をドープすることによる赤色電界発光素子の製造では、例えば、ローダミンやオキサジン誘導体はイオン性の塩であり真空蒸着時に分解する;DCM(後述の比較例3に示す。)をドープした電界発光素子は発光波長が短波長で赤色発光が十分に得られない;フェノキサゾン誘導体をドープした電界発光素子では赤色発光効率が低い;などの問題点があった。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
従来、提案されている上述のような有機電界発光素子では、可視長波長領域、特に、赤色領域での発光効率が未だ不十分であり、更なる改良検討が望まれている。
【0007】
有機電界発光素子において十分な赤色発光が得られないことは、有機電界発光素子を用いたフルカラー表示可能なフラットパネル・ディスプレイ等の表示素子の開発に大きな障害となり、有機電界発光素子の応用範囲が限定される。
【0008】
本発明は、上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、長波長領域において高発光効率で駆動させることが可能な有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極及び陰極と、該陽極及び陰極に挟持された正孔輸送層及び/又は電子輸送層とが形成された有機電界発光素子において、該正孔輸送層及び/又は電子輸送層が、下記一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体を含有することを特徴とする。
【0010】
【化2】
【0011】
(式中、R1 ,R2 ,R3 ,R4 ,R5 ,R6 ,R7 ,R8 及びR9 は、各々独立して、水素原子、ハロゲン原子、シアノ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していても良いシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアラルキル基、置換基を有していてもよいアルケニル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアミド基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していても良いシクロアルキルオキシ基、置換基を有していてもよいアルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環基又は置換基を有していてもよい複素環基を示す。)
上記アザベンゾチオキサンテン誘導体を正孔輸送層及び/又は電子輸送層にドープすることにより、可視長波長領域の発光特性を向上させることができ、良好な赤色発光が得られるようになる。
【0012】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の有機電界発光素子の実施の形態について説明する。
【0013】
まず、本発明に係るアザベンゾチオキサンテン誘導体について説明する。
【0014】
前記一般式(I)で示されるアザベンゾチオキサンテン誘導体において、R1 〜R9 としては好ましくは、水素原子;塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシル基;カルボキシル基;或いは、置換基を有していてもよい、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数3〜6のシクロアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;メトキシ基、エトキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等の炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;フェニル基、ナフチル基、アセナフチル基、アントリル基等の芳香族炭化水素基;チエニル基、カルバゾル基、インドリル基、フリル基等の複素環基等であり、これらに置換する置換基としてはメチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;メトキシ基等の低級アルコキシ基;フェノキシ基、トリオキシ基等のアリールオキシ基;ベンジルオキシ基等のアリールアルコキシ基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換アミノ基等が挙げられる。
【0015】
R1 〜R9 は、特に好ましくは、水素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子、ヒドロキシル基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数3〜6のシクロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数3〜6のシクロアルキルオキシ基、炭素数1〜12の置換アミノ基である。
【0016】
このようなアザベンゾチオキサンテン誘導体の合成法は、例えば、Dyes and Pigments,3 巻, 59頁, 1982年に示されている。このようにして得られる一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体の具体例を、以下の表1から表11に示すが、本発明に係るアザベンゾチオキサンテン誘導体は、何らこれらに限定されるものではない。(表中、phはフェニル基を示す。)
【0017】
【表1】
【0018】
【表2】
【0019】
【表3】
【0020】
【表4】
【0021】
【表5】
【0022】
【表6】
【0023】
【表7】
【0024】
【表8】
【0025】
【表9】
【0026】
【表10】
【0027】
【表11】
【0028】
このようなアザベンゾチオキサンテン誘導体は、分散状態で蛍光強度が強く、耐光性、耐熱性も良好であり、本発明に従って、このようなアザベンゾチオキサンテン誘導体を正孔輸送層及び/又は電子輸送層にドープすることにより、可視長波長領域の発光特性を向上させることができ、良好な赤色発光が得られるようになる。
【0029】
以下に図面を参照して本発明の有機電界発光素子の構成を詳細に説明する。
【0030】
図1〜4は本発明の有機電界発光素子の実施の形態を示す模式的な断面図であり、1は基板、2は陽極、3は有機バッファ層、4は正孔輸送層、5は電子輸送層、6は電子注入層、7は陰極を各々表わす。
【0031】
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましいが、これらの合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。即ち、基板のガスバリヤ性が低すぎると、基板を通過する外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の一方の面もしくは両面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0032】
基板1上には陽極2が設けられるが、陽極2は正孔輸送層4への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウム及び/又はスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、或いは、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。更に、導電性高分子の場合は電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl. Phys. Lett., 60 巻, 2711頁, 1992年)。陽極2は異なる物質よりなる積層構造とすることも可能である。陽極2の厚みは、必要とされる透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率が、通常、60%以上、好ましくは80%以上であることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5 〜1000nm、好ましくは10〜500nm 程度である。不透明でよい場合、陽極2は基板1と同一でもよい。また、更に上記陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0033】
陽極2の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層4の材料に要求される条件は、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることである。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、更に安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子には更に耐熱性が要求される。この場合には、ガラス転移温度Tgとして70℃以上の値を有する材料が望ましい。
【0034】
このような正孔輸送材料としては、例えば、1,1-ビス(4-ジ-p- トリルアミノフェニル)シクロヘキサン等の3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン化合物(特開昭59−194393号公報)、4,4'- ビス[N-(1-ナフチル)-N- フェニルアミノ]ビフェニルで代表される2個以上の3級アミンを含み2個以上の縮合芳香族環が窒素原子に置換した芳香族アミン(特開平5−234681号公報)、トリフェニルベンゼンの誘導体でスターバースト構造を有する芳香族トリアミン(米国特許第4,923,774 号)、N,N'- ジフェニル-N,N'-ビス(3-メチルフェニル)ビフェニル-4,4'-ジアミン等の芳香族ジアミン(米国特許第4,764,625 号)、α, α, α',α'-テトラメチル- α, α'-ビス(4-ジ-p- トリルアミノフェニル)-p- キシレン(特開平3−269084号公報)、分子全体として立体的に非対称なトリフェニルアミン誘導体(特開平4−129271号公報)、ピレニル基に芳香族ジアミノ基が複数個置換した化合物(特開平4−175395号公報)、エチレン基で3級芳香族アミンユニットを連結した芳香族ジアミン(特開平4−264189号公報)、スチリル構造を有する芳香族ジアミン(特開平4−290851号公報)、チオフェン基で芳香族3級アミンユニットを連結したもの(特開平4−304466号公報)、スターバースト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ベンジルフェニル化合物(特開平4−364153号公報)、フルオレン基で3級アミンを連結したもの(特開平5−25473 号公報)、トリアミン化合物(特開平5−239455号公報)、ビスジピリジルアミノビフェニル(特開平5−320634号公報)、N,N,N-トリフェニルアミン誘導体(特開平6−1972号公報)、フェノキサジン構造を有する芳香族ジアミン(特開平7−138562号公報)、ジアミノフェニルフェナントリジン誘導体(特開平7−252474号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平2−311591号公報)、シラザン化合物(米国特許第4,950,950 号公報)、シラナミン誘導体(特開平6−49079 号公報)、ホスファミン誘導体(特開平6−25659 号公報)、キナクリドン化合物等が挙げられる。これらの化合物は、単独で用いてもよいし、必要に応じて、2種以上を混合して用いてもよい。
【0035】
上記の化合物以外に、正孔輸送層4の材料として、ポリビニルカルバゾールやポリシラン(Appl. Phys. Lett. ,59巻,2760頁,1991年)、ポリフォスファゼン(特開平5−310949号公報)、ポリアミド(特開平5−310949号公報)、ポリビニルトリフェニルアミン(特開平7−53953 号公報)、トリフェニルアミン骨格を有する高分子(特開平4−133065号公報)、トリフェニルアミン単位をメチレン基等で連結した高分子(Synthetic Metals,55-57 巻,4163頁,1993年)、芳香族アミンを含有するポリメタクリレート(J. Polym. Sci., Polym. Chem.
Ed. ,21巻,969 頁,1983年)等の高分子材料も挙げられる。
【0036】
正孔輸送層4は、上記の正孔輸送材料を塗布法或は真空蒸着法により前記陽極2上に成膜することにより形成される。
【0037】
塗布法の場合は、正孔輸送材料の1種又は2種以上と、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加し、溶剤に溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により陽極2上に塗布、乾燥して正孔輸送層4を形成する。この場合、バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと正孔移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、通常、50重量%以下が好ましい。
【0038】
真空蒸着法の場合には、正孔輸送材料を真空容器内に設置されたルツボに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-4Pa程度にまで排気した後、ルツボを加熱して、正孔輸送材料を蒸発させ、ルツボに対向配置した基板1上の陽極2上に正孔輸送層4を形成する。
【0039】
正孔輸送層4の膜厚は、通常、10〜300nm 、好ましくは30〜100nm である。この様に薄い膜を一様に形成するためには、一般に真空蒸着法がよく用いられる。なお、正孔輸送層4に、前記一般式(I)で表わされるアザベンゾチオキサンテン誘導体をドープする場合には、後述の電子輸送層5の成膜方法の説明にあるように、正孔輸送層4の成膜時にこのアザベンゾチオキサンテン誘導体を併用する。
【0040】
本発明においては、陽極2と正孔輸送層4のコンタクトを向上させるために、図2に示すように、陽極バッファ層3を設けることが考えられる。この場合、陽極バッファ層3に用いられる材料に要求される条件としては、陽極とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定、即ち、融点及びガラス転移温度が高いことであり、融点としては 300℃以上、ガラス転移温度Tgとしては 100℃以上が要求される。更に、イオン化ポテンシャルが低く陽極からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが挙げられる。このような条件を満たすために、従来、陽極バッファ層3の材料としてポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63−295695号公報)、スターバスト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平4−320483号公報)、アルコキシ置換の芳香族ジアミン誘導体(特開平4−220995号公報)、p-(9-アントリル)- N,N-ジ-p- トリルアニリン(特開平3−111485号公報)、ポリチエニレンビニレンやポリ−p−フェニレンビニレン(特開平4−145192号公報)、ポリアニリン(Appl. Phys. Lett., 64 巻,1245 頁, 1994年参照)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(特開平8− 31573号公報)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(第43回応用物理学関係連合講演会,27a-SY-9,1996年)が報告されている。
【0041】
これらのうち、陽極バッファ層材料としてよく使用される化合物としては、ポルフィリン化合物又はフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は中心金属を有していてもよいし、無金属のものでもよい。好ましいこれらの化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0042】
ポルフィン
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィン
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィンコバルト(II)
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィン銅(II)
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィン亜鉛(II)
5,10,15,20- テトラフェニル-21H,23H- ポルフィンバナジウム(IV)オキシド
5,10,15,20- テトラ(4-ピリジル)-21H,23H- ポルフィン
29H,31H-フタロシアニン
銅(II)フタロシアニン
亜鉛(II)フタロシアニン
チタンフタロシアニンオキシド
マグネシウムフタロシアニン
鉛フタロシアニン
銅(II)4,4',4'',4'''-テトラアザ-29H,31H- フタロシアニン
陽極バッファ層3もまた、正孔輸送層4と同様にして薄膜形成可能であるが、陽極バッファ層材料が無機物の場合には、更に、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法による成膜も可能である。
【0043】
このようにして形成される陽極バッファ層3の膜厚は、通常、3 〜100nm 、好ましくは10〜50nmである。
【0044】
正孔輸送層4の上には電子輸送層5が設けられる。電子輸送層5は、電界が与えられた電極間において陰極7からの電子を効率よく正孔輸送層4の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0045】
電子輸送層5に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。そのためには、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れトラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。
【0046】
このような条件を満たす材料としては、テトラフェニルブタジエンなどの芳香族化合物(特開昭57− 51781号公報)、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10- ヒドロキシベンゾ[h] キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、混合配位子アルミニウムキレート錯体(特開平5−198377号公報、特開平5−198378号公報、特開平5−214332号公報、特開平6−172751号公報シクロペンタジエン誘導体(特開平2−289675号公報)、ペリノン誘導体(特開平2−289676号公報)、オキサジアゾール誘導体(特開平2−216791号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、ペリレン誘導体(特開平2−189890号公報、同3− 791号公報)、クマリン化合物(特開平2−191694号公報、同3− 792号公報)、希土類錯体(特開平1−256584号公報)、ジスチリルピラジン誘導体(特開平2−252793号公報)、p−フェニレン化合物(特開平3− 33183号公報)、チアジアゾロピリジン誘導体(特開平3− 37292号公報)、ピロロピリジン誘導体(特開平3− 37293号公報)、ナフチリジン誘導体(特開平3−203982号公報)、シロール誘導体(日本化学会第70春季年会,2D1 02及び2D1 03,1996年)などが挙げられる。
【0047】
電子輸送層5も正孔輸送層4と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられ、その膜厚は、通常、10〜200 nm、好ましくは30〜100 nmである。
【0048】
素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J. Appl. Phys., 65巻, 3610頁, 1989年)等が行われている。この方法の利点は、
1)高効率の蛍光色素により発光効率が向上、
2)蛍光色素の選択により発光波長が可変、
3)濃度消光を起こす蛍光色素も使用可能、
4)薄膜性のわるい蛍光色素も使用可能、
等が挙げられる。
【0049】
素子の駆動寿命を改善する目的においても、前記電子輸送材料をホスト材料として、蛍光色素をドープすることは有効である。例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体をホスト材料として、ルブレンに代表されるナフタセン誘導体(特開平4−335087号公報)、キナクリドン誘導体(特開平5− 70773号公報)、ペリレン等の縮合多環芳香族環(特開平5−198377号公
報)を、ホスト材料に対して 0.1〜10重量%ドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。
【0050】
ホスト材料としては、例えば、電子輸送層5がその役割を果たす場合、前述の電子輸送性化合物が挙げられ、正孔輸送層4がホスト材料としての役割を果たす場合、前述の芳香族アミン化合物やヒドラゾン化合物が挙げられる。
【0051】
前記一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体は、溶液状態で強い蛍光を示し、ホスト材料にドープされた場合、素子の発光効率が向上する。特に、このアザベンゾチオキサンテン誘導体はホスト材料にドープされた場合、600nm より長波長の可視光を効率よく得ることができる。
【0052】
前記一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体がドープされる領域は電子輸送層及び/又は正孔輸送層、或いはその一部分であってもよく、上記化合物がホスト材料に対してドープされる量は10-3〜10重量%が好ましい。
【0053】
前記一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体が電子輸送層5にドープされる場合は、塗布法或いは真空蒸着法により、電子輸送層5は、こののアザベンゾチオキサンテン誘導体を用いて前記正孔輸送層4の上に積層することにより形成される。
【0054】
塗布の場合は、電子輸送化合物と、前記一般式(I)で表されるのアザベンゾチオキサンテン誘導体、更に必要により、電子のトラップや発光の消光剤とならないバインダー樹脂や、レベリング剤等の塗布性改良剤などの添加剤を添加し溶解した塗布溶液を調製し、スピンコート法などの方法により正孔輸送層4上に塗布し、乾燥して電子輸送層5を形成する。この場合、バインダー樹脂としては、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル等が挙げられる。バインダー樹脂は添加量が多いと電子移動度を低下させるので、少ない方が望ましく、50重量%以下が好ましい。
【0055】
真空蒸着法の場合には、電子輸送材料を真空容器内に設置されたるつぼに入れ、前記一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体を別のるつぼに入れ、真空容器内を適当な真空ポンプで10-6Torr程度にまで排気した後、各々のるつぼを同時に加熱して材料を蒸発させ、るつぼと向き合って置かれた基板上に蒸着層を形成する。また、他の方法として、上記の材料を予め所定比で混合したものを同一のるつぼを用いて蒸発させてもよい。
【0056】
上記ドーパントが正孔輸送層及び/又は電子輸送層中にドープされる場合、一般には、各層の膜厚方向において均一にドープされるが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば、正孔輸送層との界面近傍にのみドープしたり、逆に、陰極界面近傍にドープしてもよい。
【0057】
本発明においては、以上のように、有機電界発光素子の正孔輸送層及び/又は電子輸送層のドープ材料として、前記一般式(I)で表されるアザベンゾチオキサンテン誘導体を用いることにより、安定した発光特性をもたらす。
【0058】
有機電界発光素子の発光効率を更に向上させる方法として、図3,4に示す如く、電子輸送層5の上に更に電子注入層6を積層することもできる。この電子注入層6に用いられる化合物には、陰極からの電子注入が容易で、電子の輸送能力がさらに大きいことが要求される。このような電子輸送材料としては、既に電子輸送層材料として挙げた8−ヒドロキシキノリンのアルミ錯体、オキサジアゾール誘導体(Appl. Phys. Lett., 55 巻, 1489頁, 1989年他)やそれらをポリメタクリル酸メチル(PMMA)等の樹脂に分散した系(Appl. Phys. Lett. ,61巻,2793頁, 1992年)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N'- ジシアノアントラキノンジイミン(Phys. Stat. Sol. (a),142 巻, 489 頁, 1994年)、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0059】
電子注入層6の膜厚は、通常、5 〜200nm 、好ましくは10〜100 nmである。
【0060】
陰極7は、電子輸送層5又は電子注入層6に電子を注入する役割を果たす。陰極7として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属又はそれらの合金が用いられる。陰極7の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上に更に、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム、金、白金等の金属層が積層形成される。
【0061】
陰極7と電子輸送層5又は電子注入層6のコンタクトを向上させるために、両者の間に界面層を設けてもよい。この界面層に用いられる化合物としては、芳香族ジアミン化合物(特開平6−267658号公報)、キナクリドン化合物(特開平6−330031号公報)、ナフタセン誘導体(特開平6−330032号公報)、有機シリコン化合物(特開平6−325871号公報)、有機リン化合物(特開平5−325872号公報)、N−フェニルカルバゾール骨格を有する化合物(特開平8− 60144号公報)、N−ビニルカルバゾール重合体(特開平8− 60145号公報)等が例示できる。
【0062】
界面層の膜厚は、通常、2 〜100nm 、好ましくは 5〜30nmである。
【0063】
界面層を設ける代わりに、電子輸送層及び電子注入層の陰極界面近傍に上記界面層の材料を50重量%以上含む領域を設けてもよい。
【0064】
図1〜4は、本発明で採用される素子構造の一例を示すものであって、本発明は何ら図示のものに限定されるものではない。例えば、図1とは逆の構造、即ち、基板上に陰極7、電子輸送層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2〜4に示したものについても、前記各構成層を逆の構造に積層することも可能である。
【0065】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0066】
【実施例】
次に、本発明を合成例、測定例、実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を越えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0067】
合成例1
[例示化合物(1)の合成例]
以下の構造式に示すアザベンゾチオキサンテン誘導体(表−1の番号(1))を合成した。
【0068】
【化3】
【0069】
下記に示す構造式のカリウムフタルイミド(アルドリッチ社製) 76.5 gを250ml のo−ジクロロベンゼンに溶解させた。次いで、フェニル酢酸塩化物(アルドリッチ社製)68.5g を50mlのo−ジクロロベンゼンに溶かした溶液を約15分で滴下し、120 〜125 ℃で8時間反応させた。反応終了後、室温まで冷却した後、析出結晶を濾過により分離した。得られた結晶に500ml のメタノールを加え、室温で1時間攪拌して洗浄を行い、不溶物を濾過により分離した。不溶物に500ml の脱イオン水を加え、室温で1時間攪拌して洗浄した。濾過により分離した結晶を60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示すN−フェニルアセチルフタルイミド 66.5g を得た。このN−フェニルアセチルフタルイミド 47.1g を650ml のo−ジクロロベンゼンに溶かした溶液を減圧下で攪拌しながら120 ℃まで加熱し、溶媒を約30ml留去した。
【0070】
【化4】
【0071】
【化5】
【0072】
【化6】
【0073】
次いで、溶液を70℃まで冷却し、無水塩化アルミニウム 50g を10分間かけて加え、150 〜155 ℃で6時間反応させた。溶液を80℃まで冷却し、脱イオン水200ml を攪拌しながら加え、塩化アルミニウムを分解した。水蒸気蒸留によりo−ジクロロベンゼンを留去した後、室温で析出物を濾過により分離した。得られた結晶を脱イオン水、メタノールそれぞれ100ml で順に洗浄し、下記に示すo−(3−ヒドロキシ−1−イソキノリニル)安息香酸 37g を得た。
【0074】
【化7】
【0075】
得られたo−(3−ヒドロキシ−1−イソキノリニル)安息香酸 36.5g を95% 硫酸120 mlに15分間かけて加えた後、130 〜135 ℃で攪拌しながら1時間反応させた。80℃まで冷却した反応液を、脱イオン水2000ml中に加えた。不溶物を脱イオン水500ml に分散し、80〜85℃で1時間攪拌した。室温まで冷却した後、濾過により結晶を分離し、濾液が中性になるまで脱イオン水で洗浄した。結晶を60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示す7−オキシ−7H−ジベンゾ[d,e,h]キノリン−2−オール 13.5g を得た。
【0076】
【化8】
【0077】
7−オキシ−7H−ジベンゾ[d,e,h]キノリン−2−オール 13g を95% 硫酸130gに溶かし、50℃に加熱した。臭素9.13g を加え、攪拌しながら50〜55℃で5時間反応させた。室温まで冷却した反応液を、脱イオン水500ml 中に加えた。濾過により分離した析出物に、脱イオン水300ml を加え、80〜85℃で1時間攪拌した。室温まで冷却した後、濾過により結晶を分離し、濾液が中性になるまで脱イオン水で洗浄した。結晶を60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示す1−アザ−2−ヒドロキシ−3−ブロモベンズアントロン 15.5g を得た。
【0078】
【化9】
【0079】
シクロヘキサノール 10.2g を脱水ピリジン 100ml に溶解させた。溶液を攪拌しながら室温でp−トルエンスルホニルクロリド 19.1g を溶液の温度が30℃を超えないように徐々に加えた。溶液を2時間攪拌した後、脱イオン水を、1ml 、1ml 、1ml 、2ml 、5ml の順に5 分間間隔を置いて、合計10ml加えた。さらに脱イオン水を100ml 加えた。含水ピリジン溶液をクロロホルム 100ml で抽出し、クロロホルム層を0 ℃に冷却した1mol/l硫酸、脱イオン水、重炭酸ナトリウム水溶液で順に洗浄した。クロロホルム溶液に無水硫酸ナトリウムを加え1時間静置した後濾過し、得られた濾液からロータリーエバポレータでクロロホルムを留去した。得られた結晶をジエチルエーテル−ペンタン混合溶媒(容積比1:2)で2回再結晶することにより、下記に示すシクロヘキシル−p−トルエンスルホネート20.3g を得た。
【0080】
【化10】
【0081】
1−アザ−2−ヒドロキシ−3−ブロモベンズアントロン 3.26g 、炭酸ナトリウム 2.12g 、およびシクロヘキシル−p−トルエンスルホネート 5.08g をDMF 20mlに溶解させた。溶液を130 〜135 ℃で2時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール 50mlを加え、析出結晶を濾過により分離した。結晶をメタノール 50ml、脱イオン水 50mlの順で洗浄し、60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示す1−アザ−2−シクロヘキシルオキシ−3−ブロモベンズアントロン 1.7gを得た。
【0082】
【化11】
【0083】
1−アザ−2−シクロヘキシルオキシ−3−ブロモベンズアントロン 1.63g 、炭酸ナトリウム 0.64g 、及び2−アミノチオフェノール 0.64g をDMF 25mlに溶解させた。溶液を100 〜105 ℃で3時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール 25mlを加え、析出結晶を濾過により分離した。結晶をメタノール 50ml、脱イオン水 50mlの順で洗浄し、60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示す1−アザ−2−シクロヘキシルオキシ−3−(2−アミノ)チオフェニルベンズアントロン 1.45g を得た。
【0084】
【化12】
【0085】
1−アザ−2−シクロへキシルオキシ−3−(2−アミノ)チオフェニルベンズアントロン 1.36g に酢酸 40mlを加え、溶液を沸点まで加熱し、還流下で2 時間攪拌した。溶液を80℃まで冷却し、35% 硫酸 0.75g を加えた。溶液を0 ℃まで冷却し、亜硝酸ナトリウム 0.23g を脱イオン水 5ml に溶かした溶液を滴下し、0 〜5 ℃で2時間攪拌することによりジアゾ化反応を行った。別の反応容器に硫酸銅(II) 3gと脱イオン水 60mlを混合したものを95℃まで加熱した後、上記のジアゾ液を10分間で滴下した。窒素ガスの発生が止まった後、溶液を還流下で1時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、析出物を濾過により分離した。析出物を脱イオン水で洗浄し、メタノール 50mlに分散させ、還流下で1時間攪拌した。懸濁液を室温まで冷却し、結晶を濾過により分離した。結晶をメタノール 50mlで洗浄し、60℃で8時間減圧乾燥することにより、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1) 0.9gを得た。
【0086】
この化合物の質量分析を行ったところ分子量が 435であり、さらにIRスペクトル、NMRスペクトルにより目的化合物であることを確認した。
【0087】
合成例2
[例示化合物(2)の合成例]
以下の構造式に示すアザベンゾチオキサンテン誘導体(表−1の番号(2))を合成例1と同様に合成した。ただし合成例1における、1−アザ−2−ヒドロキシ−3−ブロモベンズアントロンとシクロヘキシル−p−トルエンスルホネートの反応、及びそれ以降の反応については、それらに代え以下に示す反応を行った。
【0088】
【化13】
【0089】
1−アザ−2−ヒドロキシ−3−ブロモベンズアントロン 10g 、炭酸ナトリウム 4.9g、および硫酸ジエチル 7.1gをDMF 60mlに溶解させた。溶液を60〜70℃で1時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール 50mlを加え、析出結晶を濾過により分離した。結晶をメタノール 50ml、脱イオン水 50mlの順で洗浄し、60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示す1−アザ−2−エトキシ−3−ブロモベンズアントロン 5.2gを得た。
【0090】
【化14】
【0091】
1−アザ−2−エトキシ−3−ブロモベンズアントロン 1.43g 、炭酸ナトリウム 0.64g 、及び2−アミノチオフェノール 0.64g をDMF 25mlに溶解させた。溶液を100 〜105 ℃で3時間攪拌した。反応液を室温まで冷却した後、メタノール 25mlを加え、析出結晶を濾過により分離した。結晶をメタノール 50ml 、脱イオン水 50mlの順で洗浄し、60℃で8時間減圧乾燥することにより、下記に示す1−アザ−2−エトキシ−3−(2−アミノ)チオフェニルベンズアントロン 1.27g を得た。
【0092】
【化15】
【0093】
1−アザ−2−エトキシ−3−(2−アミノ)チオフェニルベンズアントロン 1.19g に酢酸 40mlを加え、溶液を沸点まで加熱し、還流下で2 時間攪拌した。溶液を80℃まで冷却し、35% 硫酸 0.75g を加えた。溶液を0 ℃まで冷却し、亜硝酸ナトリウム 0.23g を脱イオン水 5ml に溶かした溶液を滴下し、0 〜5 ℃で2時間攪拌することによりジアゾ化反応を行った。別の反応容器に硫酸銅(II) 3gと脱イオン水 60mlを混合したものを95℃まで加熱した後、上記のジアゾ液を10分間で滴下した。窒素ガスの発生が止まった後、溶液を還流下で1時間攪拌した。溶液を室温まで冷却し、析出物を濾過により分離した。析出物を脱イオン水で洗浄し、メタノール 50mlに分散させ、還流下で1時間攪拌した。懸濁液を室温まで冷却し、結晶を濾過により分離した。結晶をメタノール 50mlで洗浄し、60℃で8時間減圧乾燥することにより、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D2) 0.8gを得た。
【0094】
この化合物の質量分析を行ったところ分子量が 382であり、さらにIRスペクトル、NMRスペクトルにより目的化合物であることを確認した。
【0095】
測定例1
アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)及びアザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)をクロロホルム溶媒中に1.5ml/l の濃度で溶かした溶液を、水銀ランプ(波長350nm)で励起して測定した蛍光測定の結果を以下の表12に示す。
【0096】
【表12】
【0097】
実施例1
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0098】
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を 120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて 2mm幅のストライプにパターニングして陽極2を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行って、真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2x10-6Torr(約2,7x10-4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。
【0099】
上記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた、下記構造式(H1)で表される芳香族アミン化合物を、ルツボの周囲のTa線ヒーターで加熱して真空容器内で蒸発させた。ルツボの温度は220〜240℃の範囲で、蒸発時の真空度は2.8x10-6Torr(約3.7x10-4Pa)であった。このようにして、膜厚60nmの正孔輸送層4を蒸着した。蒸着時間は3分であった。
【0100】
【化16】
【0101】
引続き、電子輸送層5の材料として、以下の構造式に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体Al (C9 H6 NO)3 (E1)及びドープする化合物として前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)に対しては160 〜170 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.5x10-6Torr(約3.3x10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は3分であった。結果として、膜厚75.5nmでアザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)が錯体(E1)に対して2重量%ドープされた電子輸送層5が得られた。
【0102】
【化17】
【0103】
なお、上記の正孔輸送層4及び電子輸送層5を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0104】
ここで、電子輸送層5までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして 2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させて、別の真空蒸着装置内に設置して前記有機層の成膜の場合と同様にして装置内の真空度が2x10-6Torr(約2.7x10-4Pa)以下になるまで排気した。続いて、陰極4として、マグネシウムと銀の合金電極を2元同時蒸着法によって膜厚44nmとなるように蒸着した。蒸着はモリブデンボートを用いて、真空度1x10-5Torr(約1.3x10-3Pa)、蒸着時間3分20秒で行った。また、マグネシウムと銀の原子比は10:1.4 更に続いて、装置の真空を破らないで、アルミニウムをモリブデンボートを用いて40nmの膜厚でマグネシウム・銀合金膜の上に積層して陰極4を完成させた。アルミニウム蒸着時の真空度は1.5x10-5Torr(約2.0x10-3Pa)、蒸着時間は1分20秒であった。このマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0105】
以上の様にして、2mmx2mm のサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子が得られた。この素子の発光特性を表13に示す。
【0106】
なお、表13において、発光開始電圧は輝度が1cd/m2となる電圧、発光輝度は250mA /cm2 の電流密度での値、発光効率は 100cd/m2での値、輝度/電流は輝度−電流密度特性の傾きを、駆動電圧は 100cd/m2での値を各々示す。
【0107】
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は620nm 、CIE色度座標値はx=0.68、y=0.32であった。ホスト材料の発光のピーク波長は、530nm で緑色である(後述の比較例1参照)。従って、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)をドープすることにより発光波長を変えることができ、更に600nm より長波長の発光を効率よく得ることができることが確認された。
【0108】
実施例2
以下に記述する方法で、電子輸送層にアザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)をドープしたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0109】
電子輸送層5の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)及びドープする化合物として前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)に対しては150 〜160 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.5x10-6Torr(約3.3x10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は3分であった。結果として、膜厚75.5nmでアザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)が錯体(E1)に対して2重量%ドープされた電子輸送層5が得られた。
【0110】
この有機電界発光素子の発光特性を表13に示す。
【0111】
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は618nm 、CIE色度座標値はx=0.68、y=0.32であった。ホスト材料の発光のピーク波長は、530nm で緑色である(後述の比較例1参照)。従って、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)をドープすることにより発光波長を変えることができ、更に600nm より長波長の発光を効率よく得ることができることが確認された。
【0112】
実施例3
図2に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0113】
実施例1と同様にして作製したITOガラス基板上に、前記装置内に配置されたモリブデンボートに入れた以下に示す銅フタロシアニン(B1)(結晶形はβ型)を加熱して蒸着を行った。真空度4x10-6Torr(約5.3x10-4Pa)、蒸着速度0.1 〜0.2nm /秒で蒸着を行ない、膜厚20nmの陽極バッファ層3を得た。
【0114】
【化18】
【0115】
次に、実施例1と同様にして、陽極バッファ層3の上に、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D2)60nmから成る正孔輸送層4、化合物(E1)75nmから成る電子輸送層5を積層した後、陰極7を形成して素子を完成させた。この素子の発光特性を表13に示す。表13より明らかなように、陽極バッファ層の導入により、駆動電圧の低下が達成された。
【0116】
実施例4
図3に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0117】
実施例1と同様にして作製したITOガラス基板上に、前記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた前記芳香族アミン化合物(H1)を、ルツボの周囲のTa線ヒーターで加熱して真空容器内で蒸発させた。ルツボの温度は220 〜240 ℃の範囲で、蒸発時の真空度は2.8x10-6Torr(約3.7x10-4Pa)であった。このようにして、膜厚60nmの正孔輸送層4を蒸着した。蒸着時間は3分であった。
【0118】
次いで、電子輸送層5の材料として、以下の構造式に示すガリウムの8−ヒドロキシキノリン錯体Ga(C9 H6 NO)3 (E2)及びドープする化合物として前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、ガリウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては240 〜250 ℃の範囲、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)に対しては160 〜170 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.0x10-6Torr(約2.6x10-4Pa) 、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は1分45秒であった。結果として、膜厚30.6nmでアザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)が錯体(E2)に対して2重量%ドープされた電子輸送層5が得られた。
【0119】
【化19】
【0120】
引続き、電子注入層6の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)を蒸着した。このときのルツボの温度は275 〜285 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.5x10-6Torr(約3.3x10-4Pa) 、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は1分20秒であった。結果として、膜厚45nmの電子注入層6が得られた。
【0121】
上記の正孔輸送層4、電子輸送層5及び電子注入層6を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0122】
この後、実施例1と同様にして陰極7を蒸着した。
【0123】
得られた有機電界発光素子の発光特性を表13に示す。
【0124】
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は620nm 、C1E色度座標値はx=0.68,y=0.32であった。ホスト材料の発光のピーク波長は、545nm で緑色である(後述の比較例4参照)。従って、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)をドープすることにより発光波長を変えることができ、更に600nm より長波長の発光を効率よく得ることができることが確認された。
【0125】
実施例5
以下に記述する方法で、電子輸送層5の材料として、錯体(E2)に代え以下の構造式に示す亜鉛の8−ヒドロキシキノリン錯体Zn(C9 H6 NO)2 (E3)を用いたこと以外は実施例4と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0126】
【化20】
【0127】
電子輸送層5の材料として亜鉛の8−ヒドロキシキノリン錯体(E3)及びドープする化合物として前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、亜鉛の8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては220 〜230 ℃の範囲、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)に対しては160 〜170 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は1.8x10-6Torr(約2.4x10-4Pa) 、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は1分30秒であった。結果として、膜厚30.6nmでアザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)が錯体(E3)に対して2重量%ドープされた電子輸送層5が得られた。
【0128】
この有機電界発光素子の発光特性を表13に示す。
【0129】
この素子は、鮮明な赤色の一様な発光を示し、発光のピーク波長は620nm 、CIE色度座標値はx=0.68、y=0.32であった。ホスト材料の発光のピーク波長は、560nm で黄色味を帯びた緑色である(後述の比較例5参照)。従って、アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)をドープすることにより発光波長を変えることができ、更に600nm より長波長の発光を効率よく得ることができることが確認された。
【0130】
比較例1
電子輸送層に前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)をドープしなかったこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子は、530nm に発光のピーク波長を持ち、緑色の一様な発光を示した。
【0131】
比較例2
以下に記述する方法で、電子輸送層にフェノキサゾン9(D3)をドープしたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0132】
【化21】
【0133】
電子輸送層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)及びドープする化合物として前記化合物(D3)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、化合物(D3)に対しては160 〜170 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.0x10-6Torr(約2.6x10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は2分50秒であった。結果として、膜厚75.5nmで化合物(D3)が錯体(E1)に対して2重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
【0134】
この素子は、575nm に発光のピーク波長を持ち、黄色味を帯びたオレンジ色の発光を示した。
【0135】
比較例3
以下に記述する方法で、電子輸送層にDCM(D4)をドープしたこと以外は実施例1と同様にして有機電界発光素子を作製した。
【0136】
【化22】
【0137】
電子輸送層の材料として、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体(E1)及びドープする化合物として前記化合物(D4)を、各々、別々のルツボを用いて、同時に加熱して蒸着を行った。この時の各ルツボの温度は、アルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体に対しては 275〜285 ℃の範囲、化合物(D3)に対しては160 〜170 ℃の範囲で制御した。蒸着時の真空度は2.6x10-6Torr(約3.4x10-4Pa)、蒸着速度は0.3 〜0.4nm /秒で、蒸着時間は3分15秒であった。結果として、膜厚75.5nmで化合物(D4)が錯体(E1)に対して2重量%ドープされた電子輸送層が得られた。
【0138】
この有機電界発光素子の発光特性を表13に示す。
【0139】
この素子は、634nm に発光のピーク波長を持ち、赤色の発光を示したが、発光輝度及び発光効率は極めて低かった。
【0140】
【表13】
【0141】
比較例4
電子輸送層に前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)をドープしなかったこと以外は実施例4と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子は、545nm に発光のピーク波長を持ち、緑色の一様な発光を示した。
【0142】
比較例5
電子輸送層に前記アザベンゾチオキサンテン誘導体(D1)をドープしなかったこと以外は実施例5と同様にして有機電界発光素子を作製した。この素子は、560nm に発光のピーク波長を持ち、黄色味を帯びた緑色の一様な発光を示した。
【0143】
実施例6及び比較例6
実施例1、実施例2、実施例3、実施例4、実施例5,比較例2、比較例3、比較例4及び比較例5で作製した各素子を乾燥窒素中(25℃、湿度3%)で保存し、輝度が 100cd/m2となる駆動電圧の経時変化を測定した結果、実施例1〜5の素子は60日後も駆動電圧上昇は見られなかったのに対し、比較例2〜5の素子は60日後駆動電圧の増加が顕著になり、同時に輝度も大きく低下した。
【0144】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の有機電界発光素子によれば、特定のアザベンゾチオキサンテン誘導体がドープされた正孔輸送層及び/又は電子輸送層を有するために、可視長波長領域の発光特性が向上した素子を得ることができる。
【0145】
従って、本発明による有機電界発光素子はフルカラー表示可能なフラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)、発光スペクトルが可視長波長領域にわたる面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、鮮明な赤色発光体としての特徴を生かした光源(例えば計器類の警告表示光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、その技術的価値は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】有機電界発光素子の実施の形態の一例を示した模式的断面図である。
【図2】有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式的断面図である。
【図3】有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式的断面図である。
【図4】有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示した模式的断面図である。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 正孔輸送層
5 電子輸送層
6 電子注入層
7 陰極
Claims (1)
- 基板上に、陽極及び陰極と、該陽極及び陰極に挟持された正孔輸送層及び/又は電子輸送層とが形成された有機電界発光素子において、該正孔輸送層及び/又は電子輸送層が、下記一般式(I)で表わされるアザベンゾチオキサンテン誘導体を含有することを特徴とする有機電界発光素子。
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