JP3750315B2 - 有機電界発光素子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は有機電界発光素子に関するものであり、詳しくは、有機化合物から成る発光層に電界をかけて光を放出する薄膜型デバイスに関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、薄膜型の電界発光(EL)素子としては、無機材料のII−VI族化合物半導体であるZnS、CaS、SrS等に、発光中心であるMnや希土類元素(Eu、Ce、Tb、Sm等)をドープしたものが一般的であるが、上記の無機材料から作製したEL素子は、
1)交流駆動が必要とされる(一般に50〜1000Hz)、
2)駆動電圧が高い(一般に200V程度)、
3)フルカラー化が困難で特に青色に問題がある、
4)周辺駆動回路のコストが高い、
という問題点を有している。
【0003】
しかし、近年、上記問題点の改良のため、有機薄膜を用いたEL素子の開発が行われるようになった。特に、発光効率を高めるため、電極からのキャリアー注入の効率向上を目的として電極の種類の最適化を行い、芳香族ジアミンから成る正孔輸送層と8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体から成る発光層とを設けた有機電界発光素子の開発(Appl. Phys. Lett., 51巻, 913頁,1987年)により、従来のアントラセン等の単結晶を用いたEL素子と比較して発光効率の大幅な改善がなされ、実用特性に近づいている。
【0004】
上記の様な低分子材料を用いた電界発光素子の他にも、発光層の材料として、ポリ(p−フェニレンビニレン)(Nature, 347巻, 539頁, 1990年他)、ポリ[2-メトキシ-5-(2-エチルヘキシルオキシ)-1,4-フェニレンビニレン](Appl. Phys. Lett., 58巻, 1982頁, 1991年 他)、ポリ(3-アルキルチオフェン)(Jpn. J. Appl. Phys, 30巻, L1938頁, 1991年 他)等の高分子材料を用いた電界発光素子の開発や、ポリビニルカルバゾール等の高分子に低分子の発光材料と電子移動材料を混合した素子(応用物理, 61巻, 1044頁, 1992年)の開発も行われている。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
有機電界発光素子をフラットパネル、ディスプレイやバックライト等の光源に応用するためには、素子の信頼性を十分に確保する必要がある。しかしながら、従来の有機電界発光素子では耐熱性が不十分であり、素子の環境温度やプロセス温度の上昇により電流−電圧特性が高電圧側にシフトしたり、素子駆動時の局所的なジュール発熱により寿命が低下したり、非発光部分(ダークスポット)の発生及び増加等の劣化が避けられないという欠点があった。
【0006】
これらの劣化の主原因は、有機層の薄膜形状の劣化にある。この薄膜形状の劣化は、素子駆動時の発熱等による温度上昇で有機非晶質薄膜の結晶化(または凝集)等に起因すると考えられている。この耐熱性の低さは材料のガラス転移温度(以下Tgと略す)の低さに由来すると考えられる。即ち、低分子量(分子量が 400から 600程度)の化合物、特に正孔輸送材料については、融点が低く対称性が高いものが多い。例えば、芳香族ジアミン、N,N'-ジフェニル-N,N'-(3-メチルフェニル)-1,1'-ビフェニル-4,4'-ジアミン (通常TPDと呼ばれる)のTgは60℃、スターバースト型芳香族トリアミンのTgは75℃(J. Phys. Chem.,97巻,6240頁,1993年)、また、α−ナフチル基を導入した4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニルのTgは96℃(電子情報通信学会技術研究報告,OME95ー54,1995年)である。これらの芳香族アミン化合物から形成される有機非晶質薄膜では、温度上昇により結晶化したり、正孔輸送層と発光層の2層型素子構造において、相互拡散現象を起こしたりする。この結果、素子の発光特性、特に、輝度低下や駆動電圧の増加等の劣化現象が現われ、最終的には駆動寿命の低下につながる。また、素子の駆動時以外でも、素子作製時において、蒸着、ベーキング(アニール)、配線、封止等の工程で温度上昇が見込まれるので、この場合の耐熱性を確保する上からも、Tgはさらに高いことが望ましい。
【0007】
一方、低分子量化合物の代わりに高分子材料を有機電界発光素子の正孔輸送層として用いる試みも行われており、ポリビニルカルバゾール(電子情報通信学会技術研究報告,OME90-38,1990年)、ポリシラン(Appl. Phys. Lett.,59巻,2760頁,1991年)、ポリフォスファゼン(第42回高分子学会年次大会,I-8-07及びI-8-08,1993年)等が報告されているが、ポリビニルカルバゾールは200℃と高いTgを有するもののトラップ等の問題があり耐久性は低く、ポリシランは光劣化等により駆動寿命が数秒と短く、ポリフォスファゼンはイオン化ポテンシャルが高く従来の芳香族ジアミンを凌ぐ特性は示していない。この他に、芳香族ジアミン化合物をポリカーボネートやPMMA(ポリメタクリル酸メチル)に30から80重量%分散させた正孔輸送層も検討されているが(Jpn. J. Appl. Phys.,31巻,L960頁,1992年 )、低分子化合物が可塑剤として作用しTgを下げ、素子特性も芳香族ジアミン化合物を単独で使用した場合と比較して低下している。また、正孔輸送性ポリマーである芳香族ジアミン含有ポリエーテルについては 200℃を超えるTgが開示されているが、素子の発光特性および安定性は十分ではない(特開平9−188756号公報参照)。
【0008】
このように、有機電界発光素子はその実用化に向けて、素子の耐熱性及び駆動寿命に大きな問題を抱えているのが実状である。
【0009】
有機電界発光素子の耐熱性が改善されず発光特性が不安定なことは、ファクシミリ、複写機、液晶ディスプレイのバックライト等の光源としては大きな問題であり、フラットパネル、ディスプレイ等の表示素子としても望ましくない特性である。特に、車載用表示への応用を考える上では深刻である。
【0010】
本発明は上記従来の実状に鑑みてなされたものであって、高温において安定な発光特性を維持できる有機電界発光素子を提供することを目的とする。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明の有機電界発光素子は、基板上に、陽極及び陰極により挟持された正孔輸送層および発光層が形成された有機電界発光素子において、該正孔輸送層が、下記一般式(I)または(II)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ、重量平均分子量が1,000〜100,000である芳香族ジアミン含有ポリエーテルと、下記一般式( III )または下記一般式( IV )で表され、かつ分子量が1,000以下の低分子芳香族アミン化合物とを含有することを特徴とする。
【0012】
【化7】
【0013】
【化8】
【0014】
(式中、Ar1,Ar2,Ar3,Ar4,Ar5,Ar6,Ar7,Ar8,Ar9は、各々独立して置換基を有していてもよい2価の芳香族環残基を示し、R1,R2,R3は置換基を有していてもよい芳香族環基または芳香族複素環基を示し、X及びYは直接結合、または下記の連結基から選ばれる。)
【0015】
【化9】
【0016】
(式中、R'は置換基を有していてもよいアルキレン基を示し、R''はアルキル基または置換基を有していてもよい芳香族環基を示す。)
【化10】
【化11】
(式中、A r 10 は、置換基を有していてもよい2価の芳香族環残基または置換基を有していてもよい2価の芳香族複素環残基を示し、R 4 ,R 5 ,R 6 ,R 7 は置換基を有していてもよい芳香族環基または置換基を有していてもよい芳香族複素環基を示し、Zは下記の連結基から選ばれる。)
【化12】
即ち、本発明者らは、高温において安定な発光特性を維持できる有機電界発光素子を提供するべく鋭意検討を重ねた結果、正孔輸送層に高いTgを有する芳香族ジアミン含有ポリエーテルと特定の低分子芳香族アミン化合物を含有させることで、有機電界発光素子の耐熱安定性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0017】
本発明においては、100℃以上のTgを有する上記特定の芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族アミン化合物とを組み合わせて用いることで、素子の発光特性と耐熱性を同時に改善することを可能とした。本発明による発光特性の改善は、移動度に優れた低分子芳香族アミン化合物を正孔輸送層に含有させることで達成され、また、耐熱性の改善は高いTgを有する芳香族ジアミン含有ポリエーテルを正孔輸送層に含有することで達成される。
【0018】
本発明において、正孔輸送層は芳香族ジアミン含有ポリエーテルの層と低分子芳香族アミン化合物の層とで形成することができる。また、正孔輸送層は芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族アミン化合物の混合層で形成することができる。
【0024】
また、本発明の有機電界発光素子では、陽極と正孔輸送層との間にバッファ層が設けられていることが好ましく、この場合、バッファ層はポルフィリン誘導体を含有することが好ましい。
【0025】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の有機電界発光素子の実施の形態について説明する。
【0026】
まず、本発明に係る芳香族ジアミン含有ポリエーテル及び低分子芳香族アミン化合物について説明する。
【0027】
本発明に係る芳香族ジアミン含有ポリエーテルは、前記一般式(I)または(II)で表わされる繰り返し単位を有する重量平均分子量が1,000〜100,000のものである。
【0028】
前記一般式(I)および(II)において、Ar1〜Ar9は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビフェニルであり、前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基などが挙げられる。この置換基としては、好ましくは炭素数1〜3のアルキル基、特に好ましくはメチル基が挙げられる。
【0029】
また、R1〜R3は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、ビフェニル基を示し、前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基などが挙げられる。
【0030】
X及びYは直接結合または以下に示す連結基から選ばれる。
【0031】
【化13】
【0032】
上記式中、R' は、好ましくは、メチレン基、ジメチルメチレン基、エチレン基、プロピレン基であり、R" は、好ましくは、メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;フェニル基、ナフチル基、アントリル基、トリル基等の芳香族環基である。
【0033】
前記一般式(I)及び(II)で表される芳香族ジアミン含有ポリエーテルは、例えば、城戸らの方法(Polymers for Advanced Technologies, 7巻,31頁,1996年;特開平9−188756号公報)に開示されている経路で合成される。
【0034】
前記一般式(I)で表される芳香族ジアミン含有ポリエーテルの好ましい具体例を表1〜表3に示すが、これらに限定するものではない。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
また、前記一般式(II)で表される芳香族ジアミン含有ポリエーテルの好ましい具体例を表4〜表5に示すが、これらに限定するものではない。
【0039】
【表4】
【0040】
【表5】
【0041】
上述の芳香族ジアミン含有ポリエーテルと組み合わせて用いる低分子芳香族アミン化合物としては、芳香族環で置換された三級アミンを含有する分子量1,000以下のものであり、次のような正孔輸送層に対する要求条件を満たす必要がある。
【0042】
即ち、正孔輸送層の材料は陽極からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることが要求される。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。
【0043】
本発明者らは、鋭意検討の結果、前記一般式(III) または前記一般式(IV)で表される低分子芳香族アミン化合物が本発明の目的に極めて有効であることを見出した。
【0044】
前記一般式(III) および(IV)において、好ましくは、Ar10 は置換基を有していてもよい2価のベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、ビナフチル、フルオレン環、フェナントレン環、ピレン環、アクリジン環、フェナジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、ビピリジル環、ビフェニルであり、前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基などが挙げられる。この置換基としては、特に好ましくはメチル基、フェニル基が挙げられる。
【0045】
R4〜R7は、好ましくは、各々独立して置換基を有していてもよいフェニル基、ナフチル基、アントリル基、ピリジル基、トリアジル基、ピラジル基、キノキサリル基、チエニル基、ビフェニル基であり、前記置換基としてはハロゲン原子;メチル基、エチル基等の炭素数1〜6のアルキル基;ビニル基等のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜6のアルコキシカルボニル基;メトキシ基、エトキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;フェノキシ基、ベンジルオキシ基などのアリールオキシ基;ジエチルアミノ基、ジイソプロピルアミノ基等のジアルキルアミノ基が挙げられる。
【0046】
Zは以下に示す連結基から選ばれる。
【0047】
【化14】
【0048】
前記一般式(III) で表される低分子芳香族アミン化合物の好ましい具体例を表6〜表7に示すが、これらに限定するものではない。
【0049】
【表6】
【0050】
【表7】
【0051】
また、前記一般式(IV)で表される低分子芳香族アミン化合物の好ましい具体例を表8に示すが、これらに限定するものではない。
【0052】
【表8】
【0053】
本発明において、正孔輸送層をこのような芳香族ジアミン含有ポリエーテル及び低分子芳香族アミン化合物で形成する方法としては、それぞれを独立した層として積層する方法と、混合して単層とする方法があるが、いずれの方法であっても本発明の効果を達成することができる。
【0054】
即ち、本発明においては、このような芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族アミン化合物を積層または混合することにより、正孔輸送層のTgを実質的に 100℃以上とし、この耐熱性の向上により容易には結晶化しない非晶質薄膜を実現することを可能とし、特に発光層との界面での分子の相互拡散を 100℃以上の高温下でも十分に抑制すると共に、移動度に優れた低分子芳香族アミン化合物の併用で発光特性を改善する。
【0055】
以下に図面を参照して本発明の有機電界発光素子の構成を詳細に説明する。
【0056】
図1〜3は本発明の有機電界発光素子の実施の形態を示す模式的な断面図であり、1は基板、2は陽極、3は陽極バッファ層、4は正孔輸送層、5は発光層、6は電子輸送層、7は陰極を各々表わす。
【0057】
基板1は有機電界発光素子の支持体となるものであり、石英やガラスの板、金属板や金属箔、プラスチックフィルムやシートなどが用いられる。特にガラス板や、ポリエステル、ポリメタクリレート、ポリカーボネート、ポリスルホンなどの透明な合成樹脂の板が好ましい。これらの合成樹脂基板を使用する場合にはガスバリア性に留意する必要がある。即ち、基板のガスバリヤ性が低すぎると、基板を通過する外気により有機電界発光素子が劣化することがあるので好ましくない。このため、合成樹脂基板の一方の面もしくは両面に緻密なシリコン酸化膜等を設けてガスバリア性を確保する方法も好ましい方法の一つである。
【0058】
基板1上には陽極2が設けられるが、陽極2は正孔輸送層4への正孔注入の役割を果たすものである。この陽極2は、通常、アルミニウム、金、銀、ニッケル、パラジウム、白金等の金属、インジウムおよび/またはスズの酸化物などの金属酸化物、ヨウ化銅などのハロゲン化金属、カーボンブラック、あるいは、ポリ(3-メチルチオフェン)、ポリピロール、ポリアニリン等の導電性高分子などにより構成される。陽極2の形成は通常、スパッタリング法、真空蒸着法などにより行われることが多い。また、銀などの金属微粒子、ヨウ化銅などの微粒子、カーボンブラック、導電性の金属酸化物微粒子、導電性高分子微粉末などの場合には、適当なバインダー樹脂溶液に分散し、基板1上に塗布することにより陽極2を形成することもできる。さらに、導電性高分子の場合は電解重合により直接基板1上に薄膜を形成したり、基板1上に導電性高分子を塗布して陽極2を形成することもできる(Appl. Phys. Lett., 60巻, 2711頁, 1992年 )。陽極2は異なる物質よりなる積層構造とすることも可能である。陽極2の厚みは、必要とする透明性により異なる。透明性が必要とされる場合は、可視光の透過率を、通常、60%以上、好ましくは80%以上とすることが望ましく、この場合、厚みは、通常、5〜1000nm、好ましくは10〜500nm程度である。不透明でよい場合は陽極2は基板1と同一でもよい。また、さらには上記の陽極2の上に異なる導電材料を積層することも可能である。
【0059】
陽極2の上には正孔輸送層4が設けられる。正孔輸送層の材料に要求される条件は、前述の如く、陽極2からの正孔注入効率が高く、かつ、注入された正孔を効率よく輸送することができる材料であることである。そのためには、イオン化ポテンシャルが小さく、可視光の光に対して透明性が高く、しかも正孔移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくいことが要求される。上記の一般的要求以外に、車載表示用の応用を考えた場合、素子にはさらに 100℃以上の耐熱性が要求される。
【0060】
本発明においては、正孔輸送材料として、100℃以上のTgを有する、前記一般式(I)または(II)で表わされる繰り返し単位を有する分子量 1,000〜10,000の芳香族ジアミン含有ポリエーテルと、移動度に優れた、分子量1000以下の低分子芳香族アミン化合物とを併用することで、発光特性と耐熱性を改善する。
【0061】
前記芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族アミン化合物から成る正孔輸送層4は塗布法あるいは真空蒸着法により前記陽極2上に形成される。
【0062】
なお、芳香族ジアミン含有ポリエーテルよりなる層は塗布法により形成するのが好ましい。
【0063】
正孔輸送層4を芳香族ジアミン含有ポリエーテル層と低分子芳香族アミン化合物層との積層構造とする場合、まず、前記一般式(I)または(II)で表される芳香族ジアミン含有ポリエーテルと、必要により正孔のトラップにならないバインダー樹脂や塗布性改良剤などの添加剤とを添加、溶解して塗布溶液を調製し、スピンコート法やディップコート法などの方法により陽極2上に塗布し、乾燥して芳香族ジアミン含有ポリエーテル層を形成する。
【0064】
低分子芳香族アミン化合物層は、塗布法または真空蒸着法により形成される。塗布法の場合は、既に薄膜化された上記芳香族ジアミン含有ポリエーテル層を溶解しない溶媒を用いて塗布液を調製する他は、上記芳香族ジアミン含有ポリエーテル層と同様にして塗布して、積層化される。真空蒸着法の場合には、芳香族ジアミン含有ポリエーテル層が形成された基板を、真空蒸着装置のチェンバ内に設置し、チェンバ内を適当な真空ポンプで10-6Torrにまで排気した後、ルツボ内に予め設置された低分子芳香族アミン化合物を、ルツボを加熱することにより蒸発させ、ルツボと対面して置かれた基板上に積層成膜して、正孔輸送層を完成する。
【0065】
積層順が上記と逆の場合には、低分子芳香族アミン化合物層を塗布法または真空蒸着法で形成した後、この層を溶解しない溶媒を用いて芳香族ジアミン含有ポリエーテル層を塗布形成して積層化すればよい。
【0066】
このように、正孔輸送層4を芳香族ジアミン含有ポリエーテル層と低分子芳香族アミン化合物層との積層構造とする場合、芳香族ジアミン含有ポリエーテル層の膜厚は10〜100nmであり、低分子芳香族アミン化合物層の膜厚は20〜200nmであることが好ましく、正孔輸送層の合計の膜厚は通常10〜300nm、好ましくは20〜100nmである。
【0067】
正孔輸送層4を芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族ジアミン化合物の混合層で形成する場合は、予め両材料を所望の比率で混合した塗布液を調製する他は、上述の塗布法と同様にして薄膜化して正孔輸送層4を形成する。
【0068】
この場合、正孔輸送層4の膜厚は、通常、10〜300 nm、好ましくは30〜100 nmであり、芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族アミン化合物との混合物中の芳香族ジアミン含有ポリエーテルの含有量は50〜90重量%、低分子芳香族アミン化合物の含有量は50〜10重量%とするのが好ましい。
【0069】
本発明においては、陽極2と正孔輸送層4のコンタクトを向上させるために、図2に示す様に、陽極バッファ層3を設けることが考えられる。陽極バッファ層3に用いられる材料には、陽極2とのコンタクトがよく均一な薄膜が形成でき、熱的に安定であること、即ち、融点及びTgが高く、融点としては 300℃以上、Tgとしては 100℃以上が要求される。さらに、イオン化ポテンシャルが低く陽極2からの正孔注入が容易なこと、正孔移動度が大きいことが要求される。このような要求特性を満たすものとして、従来、ポルフィリン誘導体やフタロシアニン化合物(特開昭63−295695号公報)、スターバスト型芳香族トリアミン(特開平4−308688号公報)、ヒドラゾン化合物(特開平4−320483号公報)、アルコキシ置換の芳香族ジアミン誘導体(特開平4−220995号公報)、p-(9-アントリル)-N,N-ジ-p-トリルアニリン(特開平3−111485号公報)、ポリチエニレンビニレンやポリ−p−フェニレンビニレン(特開平4−145192号公報)、ポリアニリン(Appl. Phys. Lett., 64巻,1245頁, 1994年参照)等の有機化合物や、スパッタ・カーボン膜(特開平8− 31573号公報)や、バナジウム酸化物、ルテニウム酸化物、モリブデン酸化物等の金属酸化物(第43回応用物理学関係連合講演会,27a-SY-9,1996年)が報告されている。
【0070】
これらのうち、上記陽極バッファ層材料としてよく使用される化合物としては、ポルフィリン化合物またはフタロシアニン化合物が挙げられる。これらの化合物は中心金属を有していてもよいし、無金属のものでもよい。好ましいこれらの化合物の具体例として、以下の化合物が挙げられる:
ポルフィン
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンコバルト(II)
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン銅(II)
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィン亜鉛(II)
5,10,15,20-テトラフェニル-21H,23H-ポルフィンバナジウム(IV)オキシド
5,10,15,20-テトラ(4-ピリジル)-21H,23H-ポルフィン
29H,31H-フタロシアニン
銅(II)フタロシアニン
亜鉛(II)フタロシアニン
チタンフタロシアニンオキシド
マグネシウムフタロシアニン
鉛フタロシアニン
銅(II)4,4',4'',4'''-テトラアザ-29H,31H-フタロシアニン
陽極バッファ層3もまた、正孔輸送層4と同様にして薄膜形成可能であるが、無機物の場合には、さらに、スパッタ法や電子ビーム蒸着法、プラズマCVD法による成膜も可能である。
【0071】
このようにして形成される陽極バッファ層3の膜厚は、通常、3〜100nm、好ましくは10〜50nmである。
【0072】
正孔輸送層4の上には発光層5が設けられる。発光層5は、電界を与えられた電極間において陰極7からの電子を効率よく正孔輸送層4の方向に輸送することができる化合物より形成される。
【0073】
発光層5に用いられる電子輸送性化合物としては、陰極7からの電子注入効率が高く、かつ、注入された電子を効率よく輸送することができる化合物であることが必要である。そのためには、電子親和力が大きく、しかも電子移動度が大きく、さらに安定性に優れ、トラップとなる不純物が製造時や使用時に発生しにくい化合物であることが要求される。
【0074】
このような条件を満たす材料としては、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体(特開昭59−194393号公報)、10-ヒドロキシベンゾ[h]キノリンの金属錯体(特開平6−322362号公報)、ビススチリルベンゼン誘導体(特開平1−245087号公報、同2−222484号公報)、希土類錯体(特開平1−256584号公報)、ジスチリルピラジン誘導体(特開平2−252793号公報)、p−フェニレン化合物(特開平3− 33183号公報)、チアジアゾロピリジン誘導体(特開平3− 37292号公報)、ピロロピリジン誘導体(特開平3− 37293号公報)、ナフチリジン誘導体(特開平3−203982号公報)、シロール誘導体(日本化学会第70春季年会,2D1 02及び2D1 03,1996年)などが挙げられる。
【0075】
素子の発光効率を向上させるとともに発光色を変える目的で、例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体をホスト材料として、クマリン等のレーザ用蛍光色素をドープすること(J. Appl. Phys., 65巻, 3610頁, 1989年)等が行われている。この方法の利点は、
1)高効率の蛍光色素により発光効率が向上、
2)蛍光色素の選択により発光波長が可変、
3)濃度消光を起こす蛍光色素も使用可能、
4)薄膜性のわるい蛍光色素も使用可能、
等である。
【0076】
素子の駆動寿命を改善する目的においても、前記発光層材料をホスト材料として、蛍光色素をドープすることは有効である。例えば、8−ヒドロキシキノリンのアルミニウム錯体などの金属錯体をホスト材料として、ルブレンに代表されるナフタセン誘導体(特開平4−335087号公報)、キナクリドン誘導体(特開平5− 70773号公報)、ペリレン等の縮合多環芳香族環(特開平5−198377号公報)を、ホスト材料に対して 0.1〜10重量%ドープすることにより、素子の発光特性、特に駆動安定性を大きく向上させることができる。
【0077】
発光層5も正孔輸送層4と同様の方法で形成することができるが、通常は真空蒸着法が用いられる。なお、発光層のホスト材料に上記ナフタセン誘導体、キナクリドン誘導体、ペリレン等の蛍光色素をドープする方法としては、共蒸着による方法と蒸着源を予め所定の濃度で混合しておく方法がある。また、上記各ドーパントを発光層中にドープする場合、一般的には発光層の膜厚方向において均一にドープするが、膜厚方向において濃度分布があっても構わない。例えば、正孔輸送層との界面近傍にのみドープしたり、逆に、陰極界面近傍にのみドープしてもよい。
【0078】
このようにして形成される発光層5の膜厚は、通常、10〜200 nm、好ましくは30〜100 nmである。
【0079】
有機電界発光素子の発光効率をさらに向上させる方法として、図3に示す如く、発光層5の上にさらに電子輸送層6を積層することもできる。この電子輸送層6に用いられる化合物には、陰極7からの電子注入が容易で、電子の輸送能力がさらに大きいことが要求される。この様な電子輸送材料としては、既に発光層材料として挙げた8−ヒドロキシキノリンのアルミ錯体、オキサジアゾール誘導体(Appl. Phys. Lett., 55巻, 1489頁, 1989年他)やそれらをPMMA等の樹脂に分散した系(Appl. Phys. Lett.,61巻,2793頁, 1992年)、フェナントロリン誘導体(特開平5−331459号公報)、2-t-ブチル-9,10-N,N'-ジシアノアントラキノンジイミン(Phys. Stat. Sol. (a),142巻, 489頁, 1994年)、n型水素化非晶質炭化シリコン、n型硫化亜鉛、n型セレン化亜鉛等が挙げられる。
【0080】
電子輸送層6の膜厚は、通常、5〜200nm、好ましくは10〜100 nmである。
【0081】
陰極7は、発光層5に電子を注入する役割を果たす。陰極7として用いられる材料は、前記陽極2に使用される材料を用いることが可能であるが、効率よく電子注入を行なうには、仕事関数の低い金属が好ましく、スズ、マグネシウム、インジウム、カルシウム、アルミニウム、銀等の適当な金属またはそれらの合金が用いられる。具体例としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、アルミニウム−リチウム合金等の低仕事関数合金電極が挙げられる。
【0082】
陰極7の膜厚は通常、陽極2と同様である。低仕事関数金属から成る陰極を保護する目的で、この上にさらに、仕事関数が高く大気に対して安定な金属層を積層することは素子の安定性を増す上で有効である。この目的のために、アルミニウム、銀、ニッケル、クロム、金、白金等の金属が使われる。
【0083】
さらに、陰極7と発光層5または電子輸送層6の界面にLiF,Li2O等の極薄膜(0.1〜5nm)を挿入することも、素子の効率を向上させる有効な方法である(Appl.Phys. Lett., 70巻,152頁,1997年;IEEE Trans. Electron. Devices,44巻,1245頁,1997年)。
【0084】
図1〜3は、本発明で採用される素子構造の一例を示すものであって、本発明は何ら図示のものに限定されるものではない。例えば、図1とは逆の構造、即ち、基板上に陰極7、発光層5、正孔輸送層4、陽極2の順に積層することも可能であり、既述したように少なくとも一方が透明性の高い2枚の基板の間に本発明の有機電界発光素子を設けることも可能である。同様に、図2,3に示したものについても、前記各構成層を逆の構造に積層することも可能である。
【0085】
本発明は、有機電界発光素子が、単一の素子、アレイ状に配置された構造からなる素子、陽極と陰極がX−Yマトリックス状に配置された構造のいずれにおいても適用することができる。
【0086】
【実施例】
次に、本発明を実施例及び比較例によって更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0087】
実施例1
図1に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0088】
ガラス基板上にインジウム・スズ酸化物(ITO)透明導電膜を 120nm堆積したもの(ジオマテック社製;電子ビーム成膜品;シート抵抗15Ω)を通常のフォトリソグラフィ技術と塩酸エッチングを用いて 2mm幅のストライプにパターニングして陽極を形成した。パターン形成したITO基板を、アセトンによる超音波洗浄、純水による水洗、イソプロピルアルコールによる超音波洗浄の順で洗浄後、窒素ブローで乾燥させ、最後に紫外線オゾン洗浄を行った。
【0089】
既述の方法により合成した芳香族ジアミン含有ポリエーテル(前記表1の番号(I−5);重量平均分子量9300;ガラス転移温度 190℃)を下記の条件で、上記ガラス基板上にスピンコートした:
溶媒 1,2-ジクロロエタン
塗布液濃度 30[mg/ml]
スピナ回転数 2500[rpm]
スピナ回転時間 25[秒]
乾燥条件 90分間−自然乾燥
上記のスピンコートにより30nmの膜厚の均一な薄膜が形成された。
【0090】
次に、上記ポリエーテルを塗布成膜した基板を真空蒸着装置内に設置した。上記装置の粗排気を油回転ポンプにより行った後、装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで液体窒素トラップを備えた油拡散ポンプを用いて排気した。上記装置内に配置されたセラミックルツボに入れた下記構造式で表される芳香族アミン化合物:4,4'-ビス[N-(1-ナフチル)-N-フェニルアミノ]ビフェニル(A−1)を加熱して蒸着を行った。蒸着時の真空度は2.8×10-6Torr(約3.7×10-4Pa)で、膜厚60nmの膜をポリエーテル膜の上に積層して正孔輸送層4を完成させた。
【0091】
【化15】
【0092】
引続き、発光層5の材料として、以下の構造式に示すアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体Al(C9H6NO)3(E−1)を正孔輸送層の場合と同様にして蒸着をした。この時のアルミニウムの8−ヒドロキシキノリン錯体のルツボ温度は 275〜285℃の範囲で制御し、蒸着時の真空度は2.5×10-6Torr(約3.3×10-4Pa)、蒸着速度は0.3〜0.4nm/秒で、蒸着された発光層の膜厚は75nmであった。
【0093】
【化16】
【0094】
なお、上記の正孔輸送層4及び発光層5を真空蒸着する時の基板温度は室温に保持した。
【0095】
ここで、発光層5までの蒸着を行った素子を一度前記真空蒸着装置内より大気中に取り出して、陰極蒸着用のマスクとして 2mm幅のストライプ状シャドーマスクを、陽極2のITOストライプとは直交するように素子に密着させた後、別の真空蒸着装置内に設置して有機層と同様にして装置内の真空度が2×10-6Torr(約2.7×10-4Pa)以下になるまで排気した。続いて、陰極4として、マグネシウムと銀の合金電極を2元同時蒸着法によって膜厚44nmとなるように蒸着した。蒸着はモリブデンボートを用いて、真空度1×10-5Torr(約1.3×10-3Pa)、蒸着時間3分20秒で行った。また、マグネシウムと銀の原子比は10:1.5 とした。さらに続いて、装置の真空を破らないで、モリブデンボートを用いて40nmの膜厚でアルミニウムをマグネシウム・銀合金膜の上に積層して陰極4を完成させた。アルミニウム蒸着時の真空度は1.5×10-5Torr(約2.0×10-3Pa)、蒸着時間は1分20秒であった。以上のマグネシウム・銀合金とアルミニウムの2層型陰極の蒸着時の基板温度は室温に保持した。
【0096】
以上の様にして、2mm×2mmのサイズの発光面積部分を有する有機電界発光素子を得た。
【0097】
この素子の発光特性を表9に示す。表9において、発光輝度は250mA/cm2の電流密度での値、発光効率は 100cd/m2での値、輝度/電流は輝度−電流密度特性の傾きを、電圧は 100cd/m2での値を各々示す。
【0098】
表9より、高輝度、高発光効率の素子が得られたことが明らかである。
【0099】
比較例1
正孔輸送層4として60nmの膜厚の前記低分子芳香族アミン化合物(A−1)層のみを形成した他は実施例1と同様にして素子を作製した。
【0100】
この素子の発光特性を表9に示す。
【0101】
比較例2
正孔輸送層4として30nmの膜厚の前記芳香族ジアミン含有ポリエーテル(I−5)層のみを形成した他は実施例1と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を表9に示す。
【0102】
【表9】
【0103】
実施例2
図2に示す構造を有する有機電界発光素子を以下の方法で作製した。
【0104】
実施例1と同様にして陽極を作製したITOガラス基板上に、前記装置内に配置されたモリブデンボートに入れた以下に示す銅フタロシアニン(B−1)(結晶形はβ型)を加熱して蒸着を行った。真空度4×10-6Torr(約5.3×10-4Pa)、蒸着速度0.1〜0.2nm/秒で蒸着を行ない、膜厚20nmの陽極バッファ層3を得た。
【0105】
【化17】
【0106】
次に、実施例1と同様にして、陽極バッファ層3の上に、前記芳香族ジアミン含有ポリエーテル(I−5)30nmと前記低分子芳香族アミン化合物(A−1)60nmから成る正孔輸送層4、前記8−ヒドロキシキノリン錯体(E−1)75nmから成る発光層5を積層した後、陰極7を形成して素子を完成させた。この素子の発光特性を表10に示す。
【0107】
表10より、陽極バッファ層の導入により、駆動電圧の低下が達成され、高輝度、高効率の素子が得られたことが明らかである。
【0108】
比較例3
正孔輸送層4として60nmの膜厚の前記低分子芳香族アミン化合物(A−1)のみを用いた他は実施例2と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を10に示す。
【0109】
比較例4
正孔輸送層4として30nmの膜厚の前記芳香族ジアミン含有ポリエーテル(I−5)層のみを形成した他は実施例2と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を表10に示す。
【0110】
実施例3
正孔輸送層として、前記芳香族ジアミン含有ポリエーテル(I−5)と前記低分子芳香族アミン化合物(A−1)の混合物溶液(溶媒:クロロホルム、芳香族ジアミン含有ポリエーテル:低分子芳香族アミン化合物=56:44(重量比))を用いて塗布膜を形成した他は実施例2と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を表10に示す。
【0111】
実施例4
低分子芳香族アミン化合物として下記の化合物(A−2)を用いた他は、実施例3と同様にして素子を作製した。この素子の発光特性を表10に示す。
【0112】
【化18】
【0113】
【表10】
【0114】
実施例5
実施例2及び3で作製した素子を、光硬化樹脂を用いて封止して、外気からの遮断を行った後、乾燥空気中、120℃にて高温保存試験を行った。電流密度15mA/cm2での駆動時の輝度の時間変化を図4に、電圧の時間変化を図5にそれぞれ示す。
【0115】
図4,5より明らかなように、高温保存による輝度の低下は、ポリエーテル層の使用により大きく緩和され、駆動電圧の増加も抑制された。この耐熱性の向上は、発光層界面での相互拡散の抑制に帰せられる。
【0116】
比較例5
比較例3で作製した素子を、実施例5と同様にして封止した後、同様の条件で高温保存試験を行った。電流密度15mA/cm2での駆動時の輝度の時間変化を図4に、電圧の時間変化を図5にそれぞれ示す。
【0117】
図4,5より明らかなように輝度の低下が大きく、電圧上昇も大きい。これは正孔輸送層が発光層と相互拡散した結果と考えられる。
【0118】
【発明の効果】
以上詳述した通り、本発明の有機電界発光素子によれば、特定の芳香族ジアミン含有ポリエーテルと低分子芳香族アミン化合物とを併用した正孔輸送層を形成することで耐熱性及び発光特性の向上した素子を得ることができる。
【0119】
従って、本発明による有機電界発光素子はフラットパネル・ディスプレイ(例えばOAコンピュータ用や壁掛けテレビ)や面発光体としての特徴を生かした光源(例えば、複写機の光源、液晶ディスプレイや計器類のバックライト光源)、表示板、標識灯への応用が考えられ、特に、高耐熱性が要求される車載用表示素子としては、その技術的価値は大きいものである。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の一例を示す模式断面図である。
【図2】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の他の例を示す模式断面図である。
【図3】本発明の有機電界発光素子の実施の形態の別の例を示す模式断面図である。
【図4】実施例5及び比較例5における高温保存時の輝度の経時変化を示すグラフである。
【図5】実施例5及び比較例5における高温保存時の駆動電圧増加の経時変化を示すグラフである。
【符号の説明】
1 基板
2 陽極
3 陽極バッファ層
4 正孔輸送層
5 発光層
6 電子輸送層
7 陰極
Claims (5)
- 基板上に、陽極及び陰極により挟持された正孔輸送層および発光層が形成された有機電界発光素子において、該正孔輸送層が、下記一般式(I)または(II)で表わされる繰り返し単位を有し、かつ、重量平均分子量が1,000〜100,000である芳香族ジアミン含有ポリエーテルと、下記一般式( III )または下記一般式( IV )で表され、かつ分子量が1,000以下の低分子芳香族アミン化合物とを含有することを特徴とする有機電界発光素子。
- 前記正孔輸送層が芳香族ジアミン含有ポリエーテルを含む層と低分子芳香族アミン化合物を含む層とから形成されることを特徴とする請求項1に記載の有機電界発光素子。
- 前記正孔輸送層が芳香族ジアミン含有ポリエーテルと芳香族アミン化合物の混合物を含む層で形成されることを特徴とする請求項第1項記載の有機電界発光素子。
- 前記陽極と前記正孔輸送層との間にバッファ層が設けられていることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに1項に記載の有機電界発光素子。
- 前記バッファ層がポルフィリン誘導体を含有することを特徴とする請求項4に記載の有機電界発光素子。
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