JP3773556B2 - 抗アレルギー剤 - Google Patents

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Description

【0001】
【産業上の利用分野】
本発明は、インターロイキン4(以下、IL−4ということがある)のシグナル伝達系の阻害剤を含有する免疫抑制、抗アレルギー剤、より詳細には、インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤として、抗インターロイキン2受容体γ鎖抗体に認識されるエピトープを有し、インターロイキン4のシグナル伝達に関与するインターロイキン4受容体構成分子に対して作用する物質を含有する免疫抑制、抗アレルギー剤に関する。
【0002】
さらに本発明は、インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤として、抗インターロイキン2受容体γ鎖抗体に認識されるエピトープを有しかつインターロイキン4のシグナル伝達に関与するインターロイキン4受容体構成分子に結合する抗体、または抗体の一部のアミノ酸配列を含むポリペプチド、あるいは抗体の一部のアミノ酸配列を置換したポリペプチドを含有する免疫抑制、抗アレルギーに関する。
【0003】
本薬剤は、IL−4の産生に伴うIgE抗体の過剰産生が発症に関与していると考えられる疾患、例えばアナフィラキシーショック、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹を始めとする種々のアレルギー性疾患や、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患を代表とする種々の慢性炎症性疾患の治療薬として有用である。
【0004】
【従来の技術】
アレルギー性疾患、特にI型アレルギーに分類される疾患としては、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹、花粉症、アレルギー性鼻炎、アレルギー性胃腸炎、アナフィラキシーショック等が知られている。このI型アレルギーの発症機序は以下のように考えられている。
【0005】
まず、抗原となる物質が生体内に侵入すると、その抗原物質に反応して、生体内の免疫反応が惹起される。すなわち、マクロファージ(Mφ)等の食細胞や、抗原受容体を有するB細胞により、抗原が貪食されたり、結合することにより細胞内へと運ばれる。細胞内において抗原は分解され、その一部の構造がMφ細胞上の主要組織適合性抗原とともに、T細胞上の受容体を介して抗原特異的T細胞に認識される。抗原特異的T細胞は、種々のサイトカインを分泌して、抗原特異的なB細胞を刺激する。刺激を受けたB細胞は、IgE抗体産生細胞へと分化し、抗原特異的なIgE抗体が大量に産生されるようになる。産生されたIgE抗体は、局所、あるいは血流中に存在する抗原に結合して免疫複合体を形成する。形成された免疫複合体は肥満細胞の細胞表面上に発現しているFcε受容体に結合し、細胞を活性化する。活性化された肥満細胞は、ヒスタミン、セロトニン、ロイコトリエン類、プロスタグランジン類を始めとする種々のケミカルメディエーターを分泌し、これらのケミカルメディエーターの作用により、平滑筋収縮や血管透過性の亢進等が生じ、前述のアレルギー性疾患として現れる。
【0006】
現在、これらのアレルギー性疾患の治療には、その殆どが肥満細胞からのケミカルメディエーターの生成、遊離抑制剤、あるいは分泌されたケミカルメディエーターの結合する受容体拮抗剤が用いられている。しかし、それらの薬剤は、効果が見られるまでに通常長時間投与する必要があるため、副作用が懸念される。実際、抗ヒスタミン薬を代表とする胃腸障害作用は問題視されている。
【0007】
また、効果が高く、速効性の薬剤としてステロイド剤も使われている。ステロイド剤は、ケミカルメディエーターの産生抑制作用のほかに、免疫抑制作用を併せ持つため、上記のアレルギーの発症機序における様々な作用点において抗アレルギー作用を示す。このようにステロイド剤は著効性である反面、非選択的な免疫抑制作用が故の重篤な副作用が生じることが知られている。
【0008】
従って、副作用が少ない安全でかつ効果の高い抗アレルギー剤の開発が望まれている。
【0009】
さて、I型アレルギー反応は上述のごとく、抗原特異的な免疫反応、特にT細胞/B細胞相互作用に伴う抗原特異的なIgE抗体の産生に端を発する反応である。従って、抗原特異的なIgE抗体の産生を抑制することが可能となれば、効果の高い抗アレルギー剤となりうる可能性が高い。しかも、抑制の選択性を上げることにより、副作用の惹起も最低限に抑えることができる。
【0010】
T細胞より産生されて、B細胞に作用し、B細胞をIgE抗体産生細胞へと分化させる因子としてインターロイキン4(IL−4)が知られている(J. Immunol., 136, 4538 (1986))。IL−4は以前、BSF−1(B細胞刺激因子−1)、BCGF−1(B細胞増殖因子−1)、BCDFγ(B細胞分化因子−γ)、IgG1誘導因子、IgE誘導因子等と呼ばれて個々に研究されていたが、1986年にその遺伝子が単離され(Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 83, 5894 (1986))、これらの因子が同一分子であることが明らかとなるとともに、リコンビナント体を用いた研究により、更に種々の生理活性が見いだされた分子である。
【0011】
IL−4は、IL−4応答細胞上に発現しているIL−4受容体に結合して生物活性を発揮する。IL−4受容体は、B細胞、T細胞、肥満細胞、マクロファージ等種々の細胞に発現していることが知られており(J. Immunol., 140, 456 (1988))、同受容体を構成する蛋白質の遺伝子が単離されている。同蛋白質は分子量が約130〜150kdの糖蛋白であることが明らかとなっている(Cell, 59, 335 (1989)、Int. Immunol., 2, 669 (1990))。更に、単離されたIL−4受容体構成蛋白質遺伝子を導入した細胞を用いた実験から、IL−4の結合は、この分子量が約130〜150kdの蛋白のみで十分であり、その結合親和力は、およそ10-10 Mであることが明らかとなった(Cell, 59, 335 (1989)、Int.
Immunol., 2, 669 (1990))。
【0012】
IL−4の作用を抑制する方法として、IL−4とIL−4受容体との結合の阻害する方法、IL−4受容体から核へのシグナル伝達を阻害する方法等が考えられる。IL−4とIL−4受容体との結合の阻害する物質として抗IL−4抗体(Nature, 315, 333 (1985))、抗IL−4受容体抗体(J. Immunol., 144, 4212 (1990))が現在知られている。実際にこれらの抗体を用いた動物実験により、IL−4の作用を抑制すると、IgE抗体の産生が完全に抑制されること(J. Immunol., 141, 2335 (1988)、Int. Immunol., 3, 599 (1991))が報告されている。一方、IL−4受容体から核へのシグナル伝達を阻害する物質は現在まで知られていない。IL−4受容体から核へのシグナル伝達を阻害する物質を見いだすためには、IL−4受容体系を理解する必要があるが、IL−4の受容体系は受容体構成分子の遺伝子が単離された現在に至っても完全には明らかにされていない。
【0013】
ところで、IL−4受容体は、その細胞外領域が、他のサイトカイン、例えばIL−2、IL−3、IL−5、IL−6等の受容体と一次構造上の共通性があり、いわゆるサイトカイン受容体ファミリーを形成していることが知られている(Trends. Biochem. Sci., 15, 265 (1990)、Immunol. Today, 11, 350 (1990))。これらのサイトカイン受容体は、主にリガンドを結合する働きを持つ分子と、主にシグナル伝達やリガンドの結合親和力を変化させる働きを持つ分子の複数の構成分子から構成されているものが多い。特にIL−3受容体、IL−5受容体、及びGM−CSF受容体は、それぞれのリガンドの結合親和力を上昇させ、シグナル伝達に関与する第2の構成分子が共通の分子であること(Cell, 66, 1165 (1991)、Cell, 66, 1175 (1991))、また、同様にIL−6受容体、LIF受容体、オンコスタチンM受容体、CNTF受容体の第2の構成分子も共通の分子であることが明らかとなり(Science, 255, 1434 (1992)、Cell, 69, 1121 (1992))、その生理的意義が注目されるとともに、サイトカイン受容体が新しいカテゴリーにより分類されつつある。
【0014】
IL−4受容体の場合にも、細胞内領域に当たるアミノ酸配列中には、インスリン受容体やPDGF受容体にみられるようなチロシンキナーゼ配列を見いだすことができないことや、IL−4の変異体を用いた研究結果から(EMBO J., 12, 2663 (1993))、すでに知られている分子量約130〜150kdの蛋白質に加え、IL−4の結合親和力を変化させ、シグナル伝達に関与すると考えられる第2の受容体構成分子の存在が想定されているが、その実態については殆ど明らかにされていない。
【0015】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、ヒトIL−4受容体から核へのシグナル伝達の阻害剤を含有する免疫抑制、抗アレルギー剤を提供することである。
【0016】
本薬剤は、IL−4の産生に伴うIgE抗体の過剰産生が発症に関与していると考えられる疾患、すなわちアナフィラキシーショック、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹を始めとする種々のアレルギー性疾患や、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患を代表とする種々の慢性炎症性疾患の治療薬として有用である。
【0017】
【課題を解決するための手段】
本発明の目的である、ヒトIL−4受容体から核へのシグナル伝達の阻害剤を含有する免疫抑制、抗アレルギー剤を提供するためには、IL−4のシグナル伝達に関与すると考えられる第2の構成分子を取得することが必要である。
【0018】
ところが、上述のように、IL−4のシグナル伝達に関与すると考えられる第2の構成分子については現在まで殆ど情報がないため、直接該構成分子に結合してIL−4のシグナル伝達を阻害する活性を有するモノクローナル抗体を作製するのは非常に困難である。
【0019】
ところで本発明者らは、既にインターロイキン2(以下、IL−2ということがある)受容体の構成分子であるIL−2受容体γ鎖分子の遺伝子を単離するとともに、IL−2受容体系を完全に解明している(欧州特許出願公開 O 578 932A、Science, 257, 379 (1992))。すなわち、該IL−2受容体γ鎖分子は、分子量が64kdで、IL−2の結合親和力を上昇させ、シグナル伝達に直接関与する分子である。また、IL−2のシグナル伝達を抑制する活性を有するIL−2受容体γ鎖分子に対するモノクローナル抗体も作成している(特願平6-82836)。
【0020】
そこで本発明者らは、IL−4受容体とIL−2受容体β鎖分子の細胞内領域の一部のアミノ酸配列が似ていることに注目し、IL−2受容体β鎖分子に結合して、IL−2シグナル伝達に関与するIL−2受容体γ鎖分子が、130〜150kdのIL−4受容体構成分子にも結合して、IL−4のシグナル伝達に関与する構成分子としても機能しているのではないかという仮説をたてた。
【0021】
そして、既に本発明者らにより発明された、IL−2のシグナル伝達を抑制する活性を有するIL−2受容体γ鎖分子に対するモノクローナル抗体(特願平6-82836)を用いて実証を試みた。その結果、該モノクローナル抗体は、IL−4の作用をも抑制する活性を有することが明らかとなり本発明を完成するに至った。
【0022】
すなわち、IL−4受容体にはシグナル伝達に関与すると考えられる第2の構成分子が存在し、該構成分子は、IL−2受容体γ鎖分子と共通であることを世界に先駆けて明らかにするとともに、IL−2受容体γ鎖分子に結合して、IL−2のシグナル伝達を抑制する活性を有するモノクローナル抗体は、IL−4受容体の第2の構成分子にも結合して、IL−4のシグナル伝達を抑制する活性を有するモノクローナル抗体でもあることを明らかにした。
【0023】
本発明は、これらの知見に基づき完成された。すなわち、IL−4の受容体の第2の構成分子に結合して、IL−4のシグナル伝達を抑制する活性を有するモノクローナル抗体が提供されたことにより、IL−4の産生に伴うIgEの過剰産生が関与していると考えられる疾患、例えばアナフィラキシーショック、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹を始めとする種々のアレルギー性疾患や、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患を代表とする種々の慢性炎症性疾患の治療薬が提供されたのである。また、同治療薬においては、IL−4の受容体の第2の構成分子に結合して、IL−4のシグナル伝達を抑制する活性を有する物質であれば、モノクローナル抗体に限定されることなく用いられる。
【0024】
従って本発明を列挙すると、
1)インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤を含有する免疫抑制、抗アレルギー剤;
2)インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤が、抗インターロイキン2受容体γ鎖抗体に認識されるエピトープを有しかつインターロイキン4のシグナル伝達に関与するインターロイキン4受容体構成分子に対して作用する物質である1)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
3)インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤が、インターロイキン2受容体γ鎖分子に対して作用する物質である2)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
4)インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤が、抗インターロイキン2受容体γ鎖抗体に認識されるエピトープを有しかつインターロイキン4のシグナル伝達に関与するインターロイキン4受容体構成分子に結合する抗体、または抗体の一部のアミノ酸配列を含むポリペプチド、あるいは抗体の一部のアミノ酸配列を置換したポリペプチドである2)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
5)インターロイキン4のシグナル伝達系の阻害剤が、インターロイキン2受容体γ鎖分子に結合する抗体、または抗体の一部のアミノ酸配列を含むポリペプチド、あるいは抗体の一部のアミノ酸配列を置換したポリペプチドである3)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
6)抗体が、GP−2である5)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
7)抗体が、GP−4である5)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
8)抗体が、AG43である5)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤;
9)抗体が、AG184である5)記載の免疫抑制、抗アレルギー剤
となる。
【0025】
以下、本発明について詳細に説明する。
まず本発明者らは、IL−2受容体γ鎖分子がIL−4のシグナル伝達に関与するIL−4受容体の第2の構成分子としても機能しているのではないかという仮説を検証するために、IL−2受容体γ鎖分子に結合し、IL−2のシグナル伝達を阻害する活性を有するモノクローナル抗体産生ハイブリドーマの作製を行った。以下にその作製法を記す。
【0026】
ハイブリドーマは骨髄腫細胞と抗体産生細胞を融合することにより製造される。抗体産生細胞としては、リコンビナントヒトIL−2受容体γ鎖分子(欧州特許出願公開 O 578 932 A、 Science, 257, 379 (1992))で免疫されたマウスやラットなどの動物からの脾臓またはリンパ節細胞を用いればよい。なお、免疫する物質としては、リコンビナントヒトIL−2受容体分子の場合、単独、あるいは他の蛋白質との融合分子、分子の一部のポリペプチド等を用いても差し支えない。その場合、リコンビナントヒトIL−2受容体分子のうち、細胞外領域のみからなる分子を用いると特に効率的である。
【0027】
ヒトリコンビナントIL−2受容体γ鎖分子の細胞外領域のみからなるポリペプチドは、同分子をコードする遺伝子を含む発現プラスミドベクターを有する形質転換体を培養することにより得られる。形質転換体としては大腸菌等の原核細胞、CHO細胞等の真核細胞などいずれを用いても構わない。
【0028】
また、リコンビナントヒトIL−2受容体γ鎖分子の代わりに、ヒトIL−2受容体γ鎖分子を発現しているヒト細胞、ヒトIL−2受容体γ鎖分子をコードする遺伝子が導入され、該γ鎖分子を生合成するに至ったマウス細胞等を用いても構わない。また、それらの細胞より精製したγ鎖分子そのものを免疫原として用いてもさしつかえない。
【0029】
抗体産生細胞と骨髄腫細胞の由来する動物の種は、両細胞が融合可能な限り異なってもよいが、通常同一種の細胞を用いた方が良い結果が得られる。本発明実施のための一つの好ましいハイブリドーマは、ヒトリコンビナントIL−2受容体γ鎖分子の細胞外領域のみからなるポリペプチドで免疫したマウスの脾臓細胞またはリンパ節細胞と、マウス骨髄腫細胞との間のハイブリドーマである。
【0030】
例えば、生理食塩水に懸濁したヒトリコンビナントIL−2受容体γ鎖分子の細胞外領域のみからなるポリペプチドで免疫したBalb/cマウスの脾臓細胞とBalb/cマウスの骨髄腫細胞SP2/0-Ag14の間のハイブリドーマで後記の実施例でも示す様に優れた結果が得られた。
【0031】
骨髄腫細胞としては、SP2/0-Ag14のほかに、X63-Ag8-6.5.3, P3-X63-Ag8-U1, P3-X63-Ag8, P3-NSI/1-Ag4-1, MPC11-4.5.6.TG.1.7, (以上マウス細胞)、210.RCY.Ag1.2.3 (ラット細胞)、SK0-007,GH15006TG-A12 (以上ヒト細胞)等の8アザグアニン耐性の細胞株を用いてもよい。ハイブリドーマの作成と、更にその中からIL−2受容体のγ鎖分子に結合し、IL−2応答を遮断する活性を有するモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマクローンの選択は、例えば次の様にして行える。ポリエチレングリコール、あるいはセンダイウイルスなどを用いて抗体産生細胞と骨髄腫細胞とを融合させる。融合したハイブリドーマのみが、ヒポキサンチン、チミジン、アミノプテリンを含む培地(HAT培地)中で生育することができる。得られたハイブリドーマがすべて抗体を産生しているわけではないし、抗体を産生しているハイブリドーマがすべて目的とする抗体を産生しているわけではないので、それらのハイブリドーマクローンの中からIL−2受容体のγ鎖分子に結合し、IL−2応答を阻害する活性を有しているモノクローナル抗体を産生しているハイブリドーマクローンを選択しなければならない。
【0032】
その選択は例えば以下の様な方法を用いて行うことができる。すなわち、ハイブリドーマ培養上清中に産生されている抗体の、γ鎖発現ヒト細胞株であるMULT4細胞への結合と、γ鎖非発現ヒト細胞であるTHP−1細胞への結合を測定し、前者に対して結合量が高く、後者に対して結合量の低いものを選択する。そのような抗体を産生しているハイブリドーマがIL−2受容体のγ鎖分子に特異的に結合する抗体を産生しているハイブリドーマとなる。そのほかにも、ハイブリドーマ培養上清中に産生されている抗体の、ヒトIL−2受容体γ鎖分子をコードする遺伝子が導入され、該ペプチドを発現しているマウスL929細胞(以下Lγ細胞と称する)への結合と、ヒトIL−2受容体β鎖分子をコードする遺伝子が導入され、該ペプチドを発現しているマウスL929細胞(以下、Lβ細胞と称する)への結合を測定し、前者に対して結合量が高く、後者に対して結合量の低いものを選択することによってもハイブリドーマクローンの選択は可能である。そのような抗体を産生しているハイブリドーマがIL−2受容体のγ鎖分子に特異的に結合する抗体を産生しているハイブリドーマとなる。
【0033】
細胞への抗体の結合量の測定は、放射標識された抗マウスイムノグロブリン抗体を用いたラジオイムノアッセイ、蛍光色素標識された抗マウスイムノグロブリン抗体を用いた蛍光イムノアッセイなどいかなる方法を用いてもかまわない。また、スクリーニングに用いる細胞は、ヒトγ鎖を発現している細胞とヒトγ鎖を発現していない細胞との組み合わせである限りいかなる細胞を用いてもかまわない。
【0034】
IL−2受容体のγ鎖分子に特異的に結合する抗体が、すべてIL−2シグナルを阻害する活性を有する抗体とは限らないので、更に例えば以下のような方法により、IL−2受容体のγ鎖分子に対する抗体を産生しているハイブリドーマの中から、IL−2シグナルを阻害する活性を有する抗体を産生しているハイブリドーマを選択する。
【0035】
ハイブリドーマ培養上清を、ヒトIL−2依存的に増殖活性を示すヒト成人T細胞白血病ウイルス感染T細胞株ILT−Mat細胞に加え、ILT−Mat細胞の増殖阻害活性を測定する(Journal of Experimental Medicine、169巻、1323頁)。増殖阻害活性を有していれば、そのハイブリドーマが目的とするモノクローナル抗体産生細胞ということになる。なお、IL−2受容体のγ鎖分子に対する抗体を産生しているハイブリドーマの中から、IL−2シグナルを阻害する活性を有する抗体を産生しているハイブリドーマを選択する方法としては、ILT−Mat細胞を用いる方法以外にも、たとえば、PHA(フィトヘマグルチニン)刺激したヒト末梢血リンパ球のIL−2による増殖を阻害する抗体を産生するものを選択する方法などがあり、ヒト細胞を用いて行うヒトIL−2の生物活性測定法を利用する限りいかなる方法を用いても構わない。こうして得られたハイブリドーマクローンとして、例えばGP−2(FERM BP−4641)、GP−4(FERM BP−4640)、AG43(FERM P−14484)、及びAG184(FERM P−14485)と呼ばれる細胞がある。
また、モノクローナル抗体の大量調製を行うには、GP−2(FERM BP−4641)、GP−4(FERM BP−4640)、AG43(FERM P−14484)、あるいはAG184(FERM P−14485)細胞を、組織適合性動物、あるいは胸腺欠損ヌードマウスなどの腹腔内に接種して増殖させ、該動物の腹水中に産生された抗体を回収して、塩析、イオン交換クロマトグラフィーなどの操作により精製すればよい。
【0036】
次に、このようにして得られた、IL−2受容体γ鎖に結合してIL−2のシグナル伝達を抑制する活性を有するモノクローナル抗体による、IL−4のシグナル伝達阻害活性を測定する。測定法は、ヒト細胞を用いてIL−4の生物活性が測定できる系であれば如何なる系を用いてもよいが、本発明者らは、ヒトの末梢血リンパ球のIgE産生誘導阻害能を指標に、抗体のシグナル伝達阻害活性を測定した。その結果、GP−2抗体、GP−4抗体、AG43抗体、AG184抗体ともIL−4によるヒトの末梢血リンパ球のIgE産生誘導阻害活性を有していることが確認され、該モノクローナル抗体が認識するIL−2受容体γ鎖分子は、IL−4のシグナル伝達に関与する第2の構成分子と共通であることを示唆するとともに、該モノクローナル抗体は、IL−4のシグナル伝達を阻害する活性を有していることが示された。該モノクローナル抗体は、IL−4の産生に伴うIgE抗体の過剰産生が発症に関与していると考えられる疾患、例えばアナフィラキシーショック、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹を始めとする種々のアレルギー性疾患や、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患を代表とする種々の慢性炎症性疾患の治療薬として有用である。
【0037】
本発明の免疫抑制、抗アレルギー剤に用いることのできる物質は、ここで得られたハイブリドーマクローンの産生するモノクローナル抗体に限定されるものではなく、IL−4受容体の第2の構成分子に作用し、かつIL−4のシグナル伝達を阻害する活性を有する物質である限りいかなる物質でも本発明に含まれる。もちろん、IL−4受容体の第2の構成分子に結合する該モノクローナル抗体以外のモノクローナル抗体も含まれるし、モノクローナル抗体のC領域を公知の方法により、ヒトC領域へと変換したキメラ抗体、V領域のFRをヒト化した抗体や、H鎖、及びL鎖両V領域をペプチドリンカーでつないだ、いわゆるFv抗体、さらには、抗体のV領域の一部のアミノ酸配列からなるペプチド等もIL−4受容体の第2の構成分子に結合し、かつIL−4のシグナル伝達を阻害する活性を有する限り本発明に含まれる。
【0038】
本発明の抗アレルギー剤は上記モノクローナル抗体、あるいはペプチドを0.1重量%〜100重量%、好ましくは0.5重量%〜70重量%の割合で含有すればよい。したがって、本発明のモノクローナル抗体、あるいはペプチドをそのまま投与してもよいし、また通常製剤用担体と混合して調製した製剤の形で投与される。製剤用担体としては、製剤分野において常用され、かつ本発明のモノクローナル抗体、あるいはペプチドと反応しない物質が用いられる。注射剤の場合には、本発明のモノクローナル抗体、あるいはペプチドを水に溶解させて調製されるが、必要に応じて生理食塩水、ぶどう糖溶液に溶解させてもよく、また緩衝剤、保存剤、あるいは安定化剤を含有させてもよい。また、これらの製剤は治療上価値のある他の成分を含有していてもよい。
【0039】
本発明に係る抗アレルギー剤の投与方法としては、経口、注射、直腸内などいずれの方法を用いてもかまわないが、注射による投与が好ましい。投与量は、投与方法、患者の症状、年齢などにより異なるが、通常1回0.001〜1000mg、好ましくは0.01〜10mgを1日当り1〜3回投与すればよい。
【0040】
以下本発明を実施例に基づいて更に詳細に説明する。尚、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0041】
【実施例】
(実施例1、細胞外領域のみからなるリコンビナントヒトIL−2受容体γ鎖ポリペプチドの調製)
大腸菌発現の可溶性リコンビナントIL−2レセプターγ鎖分子を調製するため、5’側プライマーとして内部にNdeIサイトと開始コドンであるATGを有するオリゴマー5'-GGACATATGCTGAACACGACAATTCTG-3'(配列番号1)と、3’側プライマーとして内部にHindIIIサイトとストップコドンであるTAA有するオリゴマー5'-GAAAAGCTTCTATTATGAAGTATTGCTCC-3'(配列番号2)をDNA合成機380Aにより合成した。両オリゴマーをプライマーとし、IL−2受容体γ鎖分子の全cDNAを含むプラスミド(本プラスミドで形質転換された大腸菌は、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託番号FERM BP−4200として寄託されている)を鋳型としてサーマルサイクラーを用い、TaqポリメラーゼによるPCR(変性94℃、アニール55℃、合成72℃、20サイクル)を行った。その結果、配列番号3に示す塩基配列を有するIL−2受容体γ鎖の細胞外領域に相当するDNA断片がえられた。
【0042】
得られたIL−2受容体γ鎖の細胞外領域に相当するDNA断片約0、7kbを回収して、NdeIとHindIII(宝酒造社製)にて切断後、プラスミドpFv(TU27)−DE(本プラスミドで形質転換された大腸菌は、通産省工業技術院生命工学工業技術研究所に寄託番号FERM BP−3973として寄託されている)をNdeIとHindIIIで切断し回収した大きな断片とライゲーションし、pIL−2RGSを構築した(図1)。
【0043】
pIL−2RGSで形質転換された大腸菌HB101をM9−カザミノ酸培地にて培養し、大腸菌の菌体内に顆粒として発現させた。大腸菌を超音波破砕し、3,000xgで遠心分離する事により顆粒を分離した。更に、顆粒を6Mグアニジン塩酸にて溶解した後、最終濃度が3,5Mグアニジン塩酸、30μM還元型グルタチオン、3μM酸化型グルタチオン存在下、蛋白濃度が50μg/mlの条件で、室温で一晩攪拌することにより巻戻しを行い、150mMNaClを含む10mMリン酸緩衝液(pH7,5)(以下、PBSと略す)に対して透析する事により、可溶性の細胞外領域のみからなるリコンビナントヒトIL−2受容体γ鎖ポリペプチドを調製した。
【0044】
(実施例2、ハイブリドーマの調製)
6〜8週令の雌のBALB/cマウスに、細胞外領域のみからなるリコンビナントヒトIL−2受容体γ鎖ポリペプチドを1匹あたり100μgずつフロインドの完全アジュバント(バクト社製)とともに皮下投与することにより免疫した。3週間おきに同様の操作により2回追加免疫し、マウスの眼窩静脈より採血して、後に述べる方法に従って、細胞外領域のみからなるリコンビナントヒトIL−2受容体γ鎖ポリペプチドへの結合量を調べることにより抗体価を測定した。抗体価の高かったマウスを更に同様の操作にて最終免疫し、その3日後、脾臓を摘出して脾臓細胞とマウス骨髄腫細胞(SP2/0-Ag14)とを、50%ポリエチレングリコール#4000(ナカライテスク社製)存在下にて細胞数で10:1の割合で混合し、細胞融合させた。
【0045】
融合細胞を、10%牛胎児血清(ギブコ社製)を含むRPMI1640培地(ギブコ社製)にて5X106個/mlとなるように懸濁し、1穴あたり5X105個のマウス胸腺細胞を含有する96穴平底プレート(コーニング社製)に100μlずつ分注した。1日、2日、3日、6日後に培地の半量をヒポキサンチン、アミノプテリン、チミジンを含む培地(HAT培地)と交換し、以後3日ごとに同様の操作を繰り返した。融合より約2週間後、融合した細胞(ハイブリドーマ)の増殖してきた各穴の培養上清に含まれる抗体の、Lγ細胞とLβ細胞への結合量を測定し、更に限界希釈法にてクローン化することによりLγ細胞にのみ結合するハイブリドーマクローンを得た。
【0046】
更に、得られた抗IL−2受容体γ鎖抗体産生ハイブリドーマの培養上清について、以下の方法にてIL−2の生理活性の抑制能を調べた。10%牛胎児血清(FCS)を含むRPMI1640培地にて2X105個/mlの濃度となるように懸濁したILT-Mat細胞液を1穴当たり100μlずつ96穴平底マイクロプレートに分注して、サンプルの培養上清を50μl加え、更に10%FCSを含むRPMI1640培地にて200u/mlに調製したヒトリコンビナントIL−2溶液を50μlずつ加えて、5%CO2存在下37℃にて48時間培養した。最後の4時間は1μCiの3H−チミジン(デュポン社製)を加えて培養し、細胞内に取り込まれた放射活性量をシンチレーシンカウンター(パッカード社製)にて測定することにより、培養上清によるIL−2の生理活性の阻害能を調べた。このような方法にてIL−2受容体γ鎖分子に対する抗体を産生するハイブリドーマを調製した。こうして得られたハイブリドーマとしてGP−2(FERM BP−4641)、GP−4(FERM BP−4640)、AG43(FERM P−14484)、及びAG184(FERM P−14485)がある。
【0047】
(実施例3、モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、AG184のIL−2シグナル伝達阻害活性の検定)
10%FCSを含むRPMI1640培地にて2x105個/mlの濃度となるように懸濁したILT-Mat細胞液を1穴当たり100μlずつ96穴平底マイクロプレートに分注して、それぞれ40μg/mlの濃度に調製したサンプルを50μl加え、37℃、30分間インキュベートした。更に10%FCSを含むRPMI1640培地にて種々の濃度に調製したヒトリコンビナントIL−2溶液を50μlずつ加えて、5%CO2存在下37℃にて48時間培養した。最後の4時間は1μCiの3H−チミジン(デュポン社製)を加えて培養し、細胞内に取り込まれた放射活性量をシンチレーションカウンター(パッカード社製)にて測定することにより、モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、及びAG184のIL−2のシグナル伝達阻害能を調べた。
【0048】
サンプルは、モノクローナル抗体GP−2、モノクローナル抗体GP−4、モノクローナル抗体AG43、モノクローナル抗体AG184を10%FCSを含むRPMI1640で希釈し40μg/mlの濃度に調製した。コントロールは、マウスIgM(ザイメット社製)を10%FCSを含むRPMI1640で希釈し40μg/mlの濃度に調製したものを用いた。
【0049】
その結果図2に示す通り、モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、及びAG184は、それぞれILT-Mat細胞のIL−2応答を遮断する活性を有していることが明らかとなった。
【0050】
(実施例4、モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、AG184のIL−4シグナル伝達阻害活性の検定)
正常人よりヘパリン加採血した血液をPBSにて2倍希釈して、フィコールパック(ファルマシア社製)に重層したのち、1500rpmにて15分間遠心し、界面に分画された細胞を回収して末梢血リンパ球(以下、PBLと略する)を調製した。PBLを10%FCSを含むRPMI1640培地にて1X106個/mlの濃度に調製した細胞懸濁液0.5mlと、400ユニット/mlのヒトリコンビナントIL−4(ゲンザイム社製)を0.25ml、及びサンプルを0.25ml加えて、37℃にて10日間培養した。
【0051】
サンプルは、モノクローナル抗体GP−2、モノクローナル抗体GP−4を10%FCSを含むRPMI1640で希釈し図3横軸に見られる種々の濃度に調製した。コントロールは、マウスIgM(ザイメット社製)を10%FCSを含むRPMI1640で希釈し図3横軸に見られる種々の濃度に調製したものを用いた。
【0052】
上に記したIgEを誘導する培養終了後、培養上清中に含まれるIgE量をELISAにて定量した。ELISAは以下の方法で行った。まず、100mM炭酸緩衝液(pH9.6)にて10μg/mlの濃度に調製したヒツジ抗ヒトIgE抗体(カッペル社製)を100μlずつ96穴平底プレート(ヌンク社製)に入れ、4℃にて一晩コーティングした。200μlの0.5%BSA(Bovine Serum Albumine)を含むPBS溶液(BSA−PBS)に置換して室温2時間放置してブロッキングを行った後、適当な濃度にBSA−PBSにて希釈した培養上清を100μlずつ加えて、室温にて2時間反応させた。反応終了後、0.05%Tween20を含むPBS溶液(PBS−Tween)にて3回洗浄したのち、ビオチン標識されたヤギ抗ヒトIgE抗体(ベクタステイン社製)を100μl加えて室温にて2時間反応させた。反応終了後、PBS−Tweenにて3回洗浄し、アビジンとビオチン標識されたアルカリフォスファターゼ(ベクタステイン社製;ABCキット)を100μl加えて、室温にて1時間反応させた。最後にPBS−Tweenにて4回洗浄し、50mM炭酸緩衝液(pH9.8)にて1mg/mlの濃度に調製したp−ニトロフェノールフォスフェート(シグマ社製)を100μlずつ添加して室温に放置した後、405nmの吸光度を測定した。IgE誘導培養時ヒトリコンビナントIL−4非添加の値を0、ヒトリコンビナントIL−4のみ添加し抗体サンプルを添加しない条件での値を100として、抗体サンプルによるIgE産生阻害率を表した。その結果、図3に示す通り、モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、AG184は、コントロール抗体に比較して有意にIgEの産生を抑制した。すなわち、モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、AG184は、IL−4のシグナル伝達を阻害する活性を有していることが明らかとなった。
【0053】
【発明の効果】
本発明の、分子量が64kdのヒトIL−4受容体構成分子に作用する物質、該分子に対する抗体、もしくは該抗体の一部のアミノ酸配列を有するポリペプチドを含有する、ヒトIL−4のシグナル伝達系の阻害剤を含有する免疫抑制、抗アレルギー剤は、IL−4の産生に伴うIgE抗体の過剰産生が発症に関与していると考えられる疾患、例えばアナフィラキシーショック、気管支喘息、アトピー性皮膚炎、じんま疹を始めとする種々のアレルギー性疾患や、慢性関節リウマチ等の自己免疫疾患を代表とする種々の慢性炎症性疾患の治療薬として有用である。
【0054】
【配列表】
Figure 0003773556
【0055】
Figure 0003773556
【0056】
Figure 0003773556
Figure 0003773556

【図面の簡単な説明】
【図1】pIL−2RGSの構築図を示す。
【図2】モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、AG184のIL−2シグナル伝達阻害活性の検定結果を示す。放射ラベルしたチミジンの取り込み量が少ないほど、IL−2シグナル伝達阻害の度合が高いことを示す。
【図3】モノクローナル抗体GP−2、GP−4、AG43、AG184のIL−4シグナル伝達阻害活性の検定結果を示す。IgE抗体産生を阻害するということは、IL−4シグナルの伝達が阻害されていることを示す。

Claims (4)

  1. インターロイキン2受容体γ鎖に結合する活性を持つ物質であることを指標として選択することを特徴とする、インターロイキン4シグナル伝達系の阻害剤を選択する方法。
  2. インターロイキン2受容体γ鎖に結合する活性を持つ物質がモノクローナル抗体である、請求項1記載の方法。
  3. モノクローナル抗体がGP−2である、請求項2記載の方法によって選択されたインターロイキン4シグナル伝達系の阻害剤。
  4. モノクローナル抗体がGP−4である、請求項2記載の方法によって選択されたインターロイキン4シグナル伝達系の阻害剤。
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